特許拒絶査定不服審判
2022-019308
古紙パルプの製造方法
- 審判番号
- 2022-019308
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-057876
- 請求日
- 2022年11月30日
- 審決日
- 2024年09月25日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社片山化学工業研究所
- 【請求人代理人】弁理士法人池内アンドパートナーズ
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P18 .121-Z (D21C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-57876「古紙パルプの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和3年7月8日出願公開、特開2021-101058〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月8日に出願した特願2015-176906号の一部を令和元年8月5日に新たな特許出願とした特願2019-143689号の一部を令和3年3月30日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 4月 5日 :手続補正書の提出
令和4年 2月 4日付け:拒絶理由の通知
令和4年 5月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 8月23日付け:拒絶査定(謄本送達日:同月30日)
令和4年11月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年11月30日提出の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)について
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~5は、以下のとおりである。
「【請求項1】
脱墨工程のパルプスラリーに、アルカリ剤、脱墨剤、ならびにモノクロラミンおよび/またはモノブロラミンを共存させることを含む、脱墨工程におけるインク除去効率の改善方法(但し、脱墨工程のパルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させる場合を除く。)。
【請求項2】
モノクロラミンおよび/またはモノブロラミンを生成する薬剤、モノクロラミンおよび/またはモノブロラミンを含む薬剤を、前記パルプスラリーまたはその希釈水に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノクロラミンおよび/またはモノブロラミンは、次亜塩素酸塩とアンモニウム塩とを混合することにより生成したものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムまたは臭化アンモニウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記脱墨工程における処理温度は、40~60℃である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~4は、以下のとおりである。(下線は、補正箇所である。)
「【請求項1】
脱墨工程のパルプスラリーに、アルカリ剤、脱墨剤、ならびにモノクロラミンおよび/またはモノブロラミンを共存させることを含む、脱墨工程におけるインク除去効率の改善方法(但し、脱墨工程のパルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させる場合を除く。)であって、
前記脱墨工程における処理温度が、40~60℃である、脱墨工程におけるインク除去効率の改善方法。
【請求項2】
モノクロラミンおよび/またはモノブロラミンを生成する薬剤、モノクロラミンおよび/またはモノブロラミンを含む薬剤を、前記パルプスラリーまたはその希釈水に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノクロラミンおよび/またはモノブロラミンは、次亜塩素酸塩とアンモニウム塩とを混合することにより生成したものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムまたは臭化アンモニウムである、請求項3に記載の方法。」
2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項5は、請求項1から4のいずれかの記載を引用して記載されたものである。したがって、本件補正前の請求項5に係る発明において請求項1の記載を引用するものと、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明として相違するところがないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項5を、独立形式に書き改めて記載したものである。
そうしてみると、本件補正は、本件補正前の請求項1を削除して、本件補正前の請求項5を本件補正後の請求項1にしたものであるから、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる「請求項の削除」を目的とする補正である。
したがって、本件補正は適法になされたものである。
第3 本願発明
本願の請求項1~4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2における1(2)【請求項1】に記載のとおりのものである。
第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2015-30921号公報
第5 当審の判断
当審は、以下に示すとおり、本件補正及び審判請求書の請求の理由を考慮しても、前記第4に記載した理由は解消していないと判断する。
1 引用例の記載事項
(1)引用例1
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の原出願前に頒布された刊行物である、特開2015-30921号公報(平成27年2月16日出願公開。以下「引用例1」という。)には、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
「【0012】
本開示の漂白方法において、モノクロラミン等との接触は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンを生成する薬剤、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンを含む薬剤を使用することにより行うことができる。このような薬剤としては、一又は複数の実施形態として、次亜塩素酸ナトリウムと、硫酸アンモニウム及び/又は臭化アンモニウムとを含む薬剤等が挙げられる。モノクロラミンは、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウムと、アンモニウム化合物とを混合することにより生成できる。モノブロラミンは、一又は複数の実施形態において、次亜臭素酸ナトリウムと、アンモニウム化合物とを混合することにより生成できる。アンモニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、及びこれらの少なくとも2種以上の混合物等が挙げられる。次亜塩素酸ナトリウムとアンモニウム化合物とのモル比は、一又は複数の実施形態において、残留塩素量と窒素とのモル比として1:1~1:2、1:1.1~1:2、1:1.2~1:2、又は1:1.2~1:1.6である。」
「【0027】
(実施形態3)
本実施形態3における漂白方法は、モノクロラミン等の存在下で古紙パルプスラリーの脱墨を行う工程と、脱墨した古紙パルプスラリーを洗浄し、脱水する工程と、脱水した古紙パルプ原料と過酸化水素とをアルカリ条件下で混合して漂白を行う工程とを含む。本実施形態3の漂白方法は、モノクロラミン等の存在下で脱墨を行った古紙パルプスラリーを用いて過酸化水素による漂白を行うため、過酸化水素の使用量を大幅に削減でき、また、得られる古紙パルプの白色度を向上させることができる。
【0028】
脱墨工程は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン等を、古紙パルプスラリーに対し、残留塩素量として0.5~30mg/Lとなるように添加することを含み、漂白性向上の点から、1~30mg/Lとなるように添加することを含むことが好ましく、経済性の点から、1~25mg/L又は1~20mg/Lとなるように添加することを含むことが好ましい。」
「【実施例】
【0032】
(調製例A)次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの混合液の調製
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が5g/Lになるように希釈した後、30%硫酸アンモニウム水溶液(硫酸アンモニウム(キシダ化学株式会社製))30gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)と残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるように調製した。
(調製例B)次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの混合液の調製
残留塩素量と窒素とのモル比を1:1.6とした以外は、調製例Aと同様に調製した。
(調製例C)次亜塩素酸ナトリウムと臭化アンモニウムとの混合液の調製
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が5g/Lになるように希釈した後、1%水酸化ナトリウム水溶液を30ml/L加え、30%臭化アンモニウム水溶液(臭化アンモニウム(キシダ化学株式会社製))30gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)と残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるように調製した。
(調製例D)次亜塩素酸ナトリウムと塩化アンモニウムとの混合液の調製
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が5g/Lになるように希釈した後、20%塩化アンモニウム水溶液(塩化アンモニウム(キシダ化学株式会社製))20gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)と残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるように調製した。」
「【0043】
(実施例5)
市販新聞紙を3×3cmに切断し、その60gを卓上離解機に入れた。希釈用水として準備した大阪市水に調製例Aを下記表2の残留塩素量になるよう添加した後、この水をパルプ濃度が4%になるよう離解機に加えた。脱墨剤(高級アルコール系)を対パルプあたり0.8重量%と水酸化ナトリウムを対パルプあたり0.5重量%加えて、35℃で15分間離解した。
全量を取り出して、水道水で十分洗浄した後、脱水機を用いてパルプ濃度20%に脱水した。得られた20%パルプ原料に、水酸化ナトリウムを対パルプあたり1.0重量%加えた後、過酸化水素を1.0重量%になるよう添加し、5分間よく混ぜ合わせた。70℃で1時間静置した後、水道水で十分洗浄して、試験用手抄き紙を作製した。」
「【0049】
【表2】
[図:0001416985000001.jpg]
」
イ 上記アの記載を参照し、特に【0043】の第一段落の工程について着目すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「モノクロラミン等の存在下で古紙パルプスラリーの脱墨を行う工程であって、
切断された市販新聞紙を入れた離解機に、脱イオン水で希釈した次亜塩素酸ナトリウム溶液、水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸アンモニウム水溶液を含む調整剤を加え、さらに、脱墨剤(高級アルコール系)と水酸化ナトリウムを加えて、35℃で離解する方法。」
(2)引用例2
本願の原出願前に頒布された刊行物である、特開平4-241183号公報(平成4年8月28日出願公開。以下「引用例2」という。)には、次の記載がある。
「【0020】なお、離解工程やニーディング工程での機械的攪拌や熟成工程での漂白処理は加温下で行うことが望ましい。加温するとインキの繊維からの離脱が促進され、漂白の反応速度も速くなる。処理温度は、特に限定するものではないが40~80℃が好ましい。80℃を越えると過酸化水素の分解反応を促進し、白色度が低下する場合がある。」
(3)引用例3
本願の原出願前に頒布された刊行物である、特開平4-126886号公報(平成4年4月27日出願公開。以下「引用例3」という。)には、次の記載がある。
「近年、資源の有効利用、環境保護等の面から古紙特に、新聞、雑誌等の再生利用が盛んに行なわれ用途も広がっている。古紙の再生は通常、カ性ソーダ、ケイ酸ソーダ等のアルカリ剤、過酸化水素、次亜塩素酸ソーダ等の漂白剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、高級アルコールのエチレンオキシド付加物、脂肪酸のエチレンオキシド付加物、脂肪酸等の脱墨剤を、パルプ濃度4~25%、温度25~60℃の離解工程に添加して処理を行なった後、必要に応じてパルプ濃度10~30%、温度30~60℃にて熟成処理、機械的処理を行ない、フローテーション法により剥離されたインキをパルプから分離・除去する方法が行なわれている。」(第1ページ右下欄第9行~第2ページ左上欄第3行)
(4)周知技術
ア 周知技術1
上記(2)の記載からみて、次の事項は本願原出願日以前に周知の技術的事項である。
「加温すると、インキの繊維からの離脱が促進されること。」(以下「周知技術1」という。)
イ 周知技術2
上記(2)~(3)の記載からみて、次の事項は本願原出願日以前に周知の技術的事項である。
「脱墨時の温度として、40~60℃を含む温度帯で温度を調整すること。」(以下「周知技術2」という。)
2 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「切断された市販新聞紙」は「離解機」に「調整剤」等の液体とともに入れられて「離解」されるのであるから、離解機内の市販新聞紙及び液体で形成される「古紙パルプスラリー」は、本願発明の「パルプスラリー」に相当する。
引用発明の「水酸化ナトリウム水溶液」は、本願発明の「アルカリ剤」に相当する。
引用例1の「次亜塩素酸ナトリウムと、アンモニウム化合物とを混合することにより」「モノクロラミン」が「生成できる」(【0012】)との記載を踏まえると、引用発明の「脱イオン水で希釈した次亜塩素酸ナトリウム溶液、水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸アンモニウム水溶液を含む調整剤を加え」る事項は本願発明の「モノクロラミンおよび/またはモノブロラミンを共存させる」事項に相当する。
引用発明は「脱墨剤」を加える事項を含んでいるから、引用発明の方法は「脱墨工程」であるし、「脱墨」とはインク除去を行うものである。そして、本願発明におけるインク除去効率の改善方法」は、「効率」及び「改善方法」と表現されてはいるものの、実質的に脱墨工程で使用する好適な薬剤及び処理温度を規定した、脱墨工程におけるインク除去方法にほかならないものであるから、引用発明の方法は、本願発明における「脱墨工程におけるインク除去効率の改善方法」に相当する。
さらに、引用発明に係る方法(工程)は、過酸化水素はまだ添加されていないから、引用発明は、「脱墨工程のパルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させる場合」を含まない。
そうすると、本願発明と引用発明は、以下の点において一致し、相違する。
[一致点]
「脱墨工程のパルプスラリーに、アルカリ剤、脱墨剤、ならびにモノクロラミンおよび/またはモノブロラミンを共存させることを含む、脱墨工程におけるインク除去効率の改善方法(但し、脱墨工程のパルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させる場合を除く。)。」
[相違点]
「前記脱墨工程における処理温度」について、本願発明は「40~60℃である」のに対して、引用発明は「35℃」である点。
3 判断
(1)相違点について
引用発明において脱墨処理を効果的なものとすることは、内在する技術課題といえる。そして、上記1(4)アの周知技術1で示すように、加温によってインキの繊維からの離脱が促進されることは、当業者にとって従来から周知の技術的事項であるから、引用発明においても、脱墨時の温度を上昇させることは当業者が容易になし得た事項である。そして、一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化は、当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎないから、引用発明において脱墨時の温度を40~60℃の範囲内のものとし、上記相違点に係る本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、40~60℃とすることに臨界的意義又は特異な効果はみられず、また、当該温度範囲については、上記1(4)イの周知技術2からみて、特別な数値範囲でもない。
(2)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「5.(2)」及び令和5年5月25日提出の上申書の「3.(2)」において、処理温度と脱墨効果に関する追加実験データを提示し、当該数値範囲に顕著な効果があると主張する。
しかしながら、そもそも当初明細書における当該数値範囲についての記載は「脱墨工程における処理温度は、一又は複数の実施形態において、40~60℃または40~50℃である。」(【0030】)との一文にとどまり、その数値範囲の技術的意義さえも開示されていない。すなわち、当該開示内容から請求人の主張する顕著な効果(有利な効果の顕著性)を認めることはできない。そして、特許出願後に新たに提出する書類において、その技術的意義が当業者にとって初めて把握できるのであれば、それは当初明細書等の記載の範囲を超えることになるから、当該事項は採用できない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
さらに、仮に上記追加実験データを参酌するとしても、上記追加実験データは、40~60℃の数値範囲のすべての範囲において、それ以外の温度範囲と比較して効果を有することを示すものでもないから、当該数値範囲の臨界的意義も確認できず、効果の顕著性は認めることはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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