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特許拒絶査定不服審判

2022-018550

乗用車の曲げ成形された耐荷重構造体

審判番号
2022-018550
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-538840
請求日
2022年11月18日
審決日
2024年07月11日
公報発行日
2024年12月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】オウトクンプ オサケイティオ ユルキネン
  • 【請求人代理人】あいわ弁理士法人
審判長/審判官
  • 審判長 鈴木 貴雄
  • 審判官 田々井 正吾
  • 審判官 本庄 亮太郎
分類
P18 .121-WZ (B21D) / P18 .537-WZ (B21D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-538840「乗用車の曲げ成形された耐荷重構造体」拒絶査定不服審判事件〔2019年(令和元年)7月25日国際公開、WO2019/141734、令和3年4月30日国内公表、特表2021-510633〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2019年(平成31年)1月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2018年1月16日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする国際特許出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 ・令和3年9月10日付け 拒絶理由の通知 ・令和4年2月24日 意見書、及び手続補正書の提出 ・令和4年7月7日付け 拒絶をすべき旨の査定 ・令和4年11月18日 審判請求書、及び手続補正書の提出 ・令和4年12月28日 上記審判請求書の請求の理由を補充する手続補正書(方式)の提出 手続補足書(甲第1~2号証添付)の提出 ・令和5年9月6日付け 拒絶理由の通知(以下、この通知を「当審拒絶理由通知」という。) ・令和6年2月9日 意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1~12に係る発明(このうち請求項1に係る発明を、以下「本願発明1」という。)は、令和6年2月9日提出の手続補正書により補正をした特許請求の範囲の請求項1~12に記載した事項により特定されるとおりのものであって、このうち、本願発明1を特定する請求項1に記載した事項は以下のとおりである。(下線は、上記補正の補正箇所に付したものである。) 「【請求項1】 乗用車の耐荷重構造体の製造方法であって、該方法は、 DIN 8586による曲げ成形が、厚さが6.0mm以下の金属製の平板材から製造された前記耐荷重構造体の成形手順全体の50%以上に用いられ、 前記耐荷重構造体は、陸上の自動車両車体又は該自動車両車体に一体付設されるか若しくは該自動車両により牽引される構造体と定義され、 前記曲げ成形は、前記金属製の平板材に対する成形手順全体の50%以上で、1シートあたり少なくとも2つ以上の縁をつけるマルチエッジ成形プロセスとして実施され、 前記金属製の平板材は、降伏強度がRp0.2≧400MPaの高強度ステンレス鋼であり、 前記金属製の平板材に対する前記縁の曲げ角度は90°以上であることを特徴とする、製造方法。」 第3 当審拒絶理由通知 1 理由の概要 当審拒絶理由通知において、本願発明1に対して通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 A.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 B.(進歩性)本願発明1は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて、本願優先日の前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 引用文献 (1)引用文献1:特公昭62-10873号公報 (2)引用文献2:ドイツ工業規格DIN 8586、2003年9月[請求人が令和4年12月28日に手続補足書に添付して提出した甲第2号証。] 3 本審決において周知技術を例示するために新たに引用する文献 (1)引用文献3:特開2010-236560号公報 (2)引用文献4:特開2014-1422号公報 (3)引用文献5:特開2009-30128号公報 (4)引用文献6:特開2017-88945号公報 第4 引用文献の記載事項 1 引用文献1 (1)引用文献1の記載事項(下線は当審で付与したもの。以下同じ。) ア 発明の詳細な説明 (ア)「〔発明が解決しようとする問題点〕 本発明の目的は従来の製造方法の欠点を克服するために、車体のプレス成形と溶接加工を複合化することにより、部品の一体化、工程の短縮化など生産能率の向上を可能にする車体の製造方法を提供することにある。」(第2欄第4~9行) (イ)〔問題を解決するための手段〕 上記目的を達成するために、本発明の構成は車体の床の縁部に車体の側壁を連続して単一の金属板から型取りし、前記金属板を移動することなく、展開された前記金属板の内側面に所定の部品を溶接により結合した後、前記縁部の所で折り曲げて箱形に成形し、相隣接する側壁の縁部と互いに溶接により結合するものである。(第2欄第10~17行) (ウ)「〔作用〕 本発明によれば組立てられる主要構成部材が分離されないで一体的にプレス加工によつて成形されると同時に、溶接によつて所定の関連部品が互いに結合され、車体が自動的に組立てられる。 車体の主要構成部材は相互に関連する部分で連続する展開された形で一体にプレス成形し、主要構成部材相互の関係を分離しないで折曲げ加工を施して結合部分を重ね合せ、この重合せ部分を同時に溶接する。 本発明ではまた、主要構成部材が展開された状態でこれに所定の車体部品を溶接し、その後にさらにプレス成形を施し、この成形部分を溶接することによつて主要構成部材を立体的に互いに結合する。このように主要構成部材を予め一体に成形し、これに溶接加工とプレス成形加工とを同時または交互に繰返し行うことによつて、従来の製造方法における主要構成部材の運搬、管理、部材相互の組合せ工程などを廃止し、生産能率の向上が図られる。」(第2欄第18行~第3欄第9行) (エ)「実施例 1 本発明による車体の製造方法を実施例に基づいて説明すると、第1図は一般的な乗用車の車体の製造方法を示すものであり、車体を構成する床1、側壁2、前壁4、後壁3は床1の縁部26,25,27と連続して一枚の鋼板からプレス成形によつて加工される。すなわち、床1の前方部分にはこの下に変速機が収まるように上方へ隆起した隆起部10およびこの隆起部10から床1の中央部を後方に延びかつ上方へ隆起された補強を兼ねる突条9が成形される。また前記隆起部10には変速操作レバーが貫通する開口23が設けられる。床1の後方部分には予備の車輪を収容する円形の凹部8が設けられる。そして床1の後方両側部分には車輪が臨む開口7が設けられ、この開口7は両側壁2側に半円弧状に開口される。側壁2には前方扉を取付けるための開口6と、後方扉を取付けるための開口5が設けられる。後壁3には尾燈を取付けるための長方形の開口11が両側部に設けられる。このようにして1枚の鋼板にプレス加工を施して車体の床1、側壁2、前壁4、後壁3が一体に形取られ、必要な開口部および押出し部が設けられる。 次いで、第2図に示すように、前後壁および側壁が展開された状態で、各壁に所要の部品および補強部材などが溶接により結合される。すなわち、床1の前方部分には左右の座席を支持するための取付片13が溶接される。また、突条9からさらに後方に延びる断面逆U字状に折曲げられた補強部材18が溶接により固定され、また床1の中央部分を横切つて床1の剛性を高めるための横部材12が溶接により固定される。床1の中央部分、すなわち後部座席に相当する部分には座席を支持する部品22が溶接により結合される。また、車輪収納用凹部8の周囲に取付片16が溶接により結合される。車輪開口7には車室内部を閉鎖するためのホイールハウス17が溶接される。後壁3の中央部には上方に延びる断面が箱型をなす補強部材19が溶接により固定される。床1の前縁には前壁4の下側に延びるエンジンを搭載支持するフレーム14が溶接により固定される。 このようにして1枚の鋼板からなる車体の床1および前後左右の壁4,3,2が一体に展開された状態で、所定の開口、押出し部、凹部あるいは突部が形成され、所要の取付け部品あるいは補強部材などが溶接によつて固定されると、展開状態にある車体が第3図に示すように床1の前後左右の縁部25,27,26の所から前壁4、後壁3および側壁2をそれぞれ床1に対してほぼ直角に折曲げて、前壁4の左右の縁部を側壁2の前方縁部と重合せて符号20で示すように溶接によつて固定し、同時に後壁3の左右縁部を側壁2の後方縁部と重合せて符号21で示すように溶接により結合するのである。このようにして車体の主要部が1枚の鋼板にブレス成形(当審注:「プレス成形」の誤記)を施し、所要の部品を溶接固定した後、再びプレスによる折曲げ加工を施して組立てられていく。そして、フレーム14にはエンジンを搭載され、該エンジンを覆うボンネツト部がフレーム14の上と前壁4とに結合され、さらに懸架装置、動力伝導装置などが装着され、また側壁2の上縁部には屋根および荷物室を覆う蓋板が取付けられる。」(第3欄第11行~第4欄第28行) (オ)「実施例 2 上述した実施例では、屋根は後から取付けることになつているが、勿論屋根もまた側壁と一体に予め構成することができる。第4図に示すように床1の一方の側縁部に側壁2が一体に構成され、この側壁の上縁に屋根29および他方の側壁2が一体に構成される。この場合にもプレス成形後各部に所要の部品を溶接により結合し、さらにプレスによる折曲げ加工を施して、床に対して側壁2、屋根29および前後壁4,3を折曲げて立体構造とし、床1の側縁26と側壁2の下縁部とを第5図に符号28で示すように溶接によつて結合し、また前壁4および後壁3の両側縁部を側壁2と符号20,21で示すように溶接によつて結合する。」(第4欄第29~43行) (カ)「実施例 3 第6,7図はキヤブオーバ型のトラツクの運転室について本発明を適用したものである。第6図に示すように、床36の一方の縁部39と連続して前壁33が、前壁33の上縁部40と連続して屋根38が、屋根38の後縁部41と連続して後壁31がそれぞれ一体に鋼板から形取りされる。そして同時に前壁33の下方部左右には長方形の凹部34が設けられ、かつ前照燈を装着するための開口35が設けられ、前壁33の上方部分には前窓のための開口37が形成される。後壁31の上方部分には後窓のための開口32が設けられる。このように展開された状態で床、屋根、前後壁が一体となつている板材に、所要の部品を溶接によつて固定した後、縁部39,40,41の所からそれぞれほぼ直角に折曲げ、後壁31の下縁部42aを床36の前縁部42と溶接により結合して、第7図に示すような立体構造を得る。そして、さらにプレス成形によつて床36、屋根38および前後壁33,31の側縁部を内方へ縁曲げして扉の縁部と衝合する壁部43を成形する。」(第4欄第44行~第5欄第20行) イ 図面 (ア)第1図 [図:0001416973000001.jpg] (イ)第2図 [図:0001416973000002.jpg] (ウ)第2A図 [図:0001416973000003.jpg] (エ)第3図 [図:0001416973000004.jpg] (オ)第3A図 [図:0001416973000005.jpg] (カ)第4図 [図:0001416973000006.jpg] (キ)第5図 [図:0001416973000007.jpg] (ク)第6図 [図:0001416973000008.jpg] (ケ)第7図 [図:0001416973000009.jpg] (2)引用文献1の記載の整理 ア 上記(1)ア(ア)の記載より、引用文献1記載の製造方法は車体に関するものである。 イ 上記(1)ア(エ)の記載からみて、引用文献1記載の車体は一般的な乗用車の車体であり、上記(1)ア(イ)~(カ)の記載及び(1)イ(ア)~(ケ)の図示内容からみて、折曲げ加工が、金属板から製造された車体の成形の工程の中で施されるものである。 ウ 上記(1)ア(エ)の記載及び上記(1)イ(ア)~(ケ)の図示内容からみて、引用文献1記載の金属板は鋼材であり、そして、折曲げ加工は、金属板に対する成形であって、床1の前後左右の縁部から前後左右の壁4,3,2を折曲げるプレスによる折曲げ加工として施されるものであり、これら前後左右の壁4,3,2を折曲げる角度はほぼ直角である。 (3)引用文献1記載の発明 上記(1)~(2)より、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が、記載されている。 「車体の製造方法であって、該方法は、 折曲げ加工が、金属板から製造された車体の成形の工程の中で施され、 前記車体は、一般的な乗用車の車体であり、 前記折曲げ加工は、前記金属板に対する成形の工程の中で、床1の前後左右の縁部から前後左右の壁4,3,2を折曲げるプレスによる折曲げ加工として施され、 前記金属板は、鋼材であり、 前記金属板に対する前記床1の前後左右の縁部から前記前後左右の壁4,3,2を折曲げる角度はほぼ直角である、製造方法。」 2 引用文献3~6に例示される周知技術 (1)引用文献3 ア 引用文献3の記載事項 「【0001】 本発明は、クラッシュボックスやフロントフレーム等の衝撃吸収特性に優れた自動車構造部材の製造方法に関する。 ・・・ 【0008】 本発明の衝撃吸収特性に優れた構造部材の製造方法は、その目的を達成するため、C:0.08質量%以下、Si:1.0質量%以下、Mn:2.0質量%以下、Ni:8.0~10.5質量%、Cr:18.0~20.0質量%を含む成分を有し、圧延率が15~25%の冷間調質圧延を実施したオーステナイト系ステンレス調質圧延鋼板を素材としたハット型閉断面構造を有する構造部材の各壁面鋼板に、前記構造部材の長手方向に直角な帯状の低強度部を、前記構造部材の長手方向に所定の間隔を空けて形成することを特徴する。 ・・・ 【実施例】 【0020】 表1の化学成分を有する鋼板を真空溶解炉で100kg溶解し、鍛造、熱間圧延を経て板厚:2.5~4.0mmの熱延鋼板を製造した。表中のAが本発明で規定した化学成分の条件を満足するオーステナイト系ステンレス鋼であり、Bは比較に用いたフェライト系の普通鋼である。 なお、鋼Aおよび鋼Bともに、残部はFeと不可避的不純物からなる。 次に、1100℃×均熱60秒→炉冷の焼鈍を施し、酸洗後に冷間圧延し、1080℃×均熱60秒→空冷の仕上げ焼鈍と冷間圧延率:20%の調質圧延を施して板厚:1.2mmの冷間調質圧延材を得た。比較に用いた素材としては、板厚:1.2mmの冷間圧延焼鈍材を準備した。 プレス成形前の素材による引張試験で得られた機械的性質の調査結果を表2に示す。 ・・・ 【0022】 【表2】 [図:0001416973000010.jpg] 【0023】 ハット型閉断面構造部材の閉断面形状を図1に示す。ハット型閉断面構造部材は、表2に示した3種類の鋼板を用いてプレス成形したフランジ付きのU字加工品(すなわち、ハット型断面板)11と平板状の背面板12をスポット溶接によって接合したものである。 ハット型閉断面構造部材の寸法は、板厚1.2mm、高さ300mm、正四角形閉断面の一辺の長さ70mm、フランジ長さ20mm、コーナR半径5mmである。スポット溶接は30mm間隔で実施した。 長手方向の所定間隔ごとに部分加熱して固溶化熱処理を施す手段としては、レーザー照射を用いた。レーザー照射条件は炭素ガスレーザー装置を用い、出力3kW、走行速度3m/分とした。この実施例では、図2に示すように、ハット型閉断面構造部材の長手方向と直角をなす70mm間隔の帯状の部分加熱部(軟化部)21を複数個設けた。」 イ 引用文献3記載の技術的事項 上記アの記載事項からみて、引用文献3には次の技術的事項(以下「引用文献3記載の技術的事項」という。)が記載されている。 「自動車構造部材としてオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形で曲げ加工したものを用いること。」 また、引用文献3の実施例において用いられているオーステナイト系ステンレス鋼板の板厚は1.2mmであり、0.2%耐力は500MPa以上(666MPa)である。 (2)引用文献4 ア 引用文献4の記載事項 「【0001】 本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関し、具体的には、例えば自動車や電車等の構造部材として用いるのに適した、衝突相当の高歪み速度域での強度とプレス成形相当の低歪み速度域での延性とを両立したオーステナイト系ステンレス鋼板とその製造方法に関する。 ・・・ 【0003】 例えば、自動車のフロントサイドメンバーなどは、大きく変形せずに衝撃エネルギーを吸収する必要がある。このような小さい歪み域での衝撃吸収能の指標としては、衝突相当の歪み速度1000/sでの10%流動応力が適すると考えられる。また、プレス性の指標としては、プレス相当の歪み速度0.1/sでの一様伸びが適すると考えられる。すなわち、歪み速度1000/sでの10%流動応力と歪み速度0.1/sでの一様伸びとに優れる材料が構造部材として適するといえる。具体的には、歪み速度1000/sでの10%流動応力と、歪み速度0.1/sでの一様伸びとの積が450MPa以上となる衝撃吸収能とプレス成形性のいずれか、あるいは両方が極めて優れた材料が望ましい。 ・・・ 【0005】 特許文献2には、低Ni型の自動車構造部材用オーステナイト系ステンレス鋼に係る発明が開示される。しかし、この発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、結晶粒径が数10μmと粗大であるため、自動車構造部材として成形する際に曲げ加工部の表面で亀裂が発生することが多く、構造部材の特性として不十分である。 ・・・ 【0016】 本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板は、歪み速度1000/sでの10%流動応力と歪み速度0.1/sでの一様伸びとの積が450MPa以上であり、衝撃吸収能とプレス成形性のいずれかあるいは両方を、従来鋼よりも大きく向上でき、高歪み速度での高強度化と、低歪み速度での延性の向上とが図られる。 ・・・ 【実施例】 ・・・ 【0042】 その後、冷間圧延と焼鈍を2~3回ずつ繰り返して、厚さ1.0mmの冷延板を得た。最後に900~1000℃で180秒間焼鈍を施した。」 イ 引用文献4記載の技術的事項 上記アの記載事項からみて、引用文献4には次の技術的事項(以下「引用文献4記載の技術的事項」という。)が記載されている。 「自動車の構造部材としてオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形したものを用いること。」 また、引用文献4の実施例において用いられているオーステナイト系ステンレス鋼板の厚さは1.0mmである。 (3)引用文献5 ア 引用文献5の記載事項 「【0001】 本発明は、主として強度や衝撃吸収性能が必要な構造用部材として使用されるステンレス鋼板に関するもので、特に自動車、バスのフロントサイドメンバー、ピラー、バンパーなどの衝撃吸収部材並びに足回り部材、鉄道車両の車体、自転車のリムなどの構造部材用構造部材用オーステナイト系ステンレス鋼板に関わるものである。 ・・・ 【0021】 車両衝突時の衝撃は、構造部材に加えられるため、部材を形成する材料の衝撃吸収能が重要である。これまで、高歪み速度での衝撃吸収エネルギーを考慮したステンレス鋼の提供は、加工誘起マルテンサイト変態を活用したSUS301L等での検討しか無い。車両用の構造部材は、ハット型成形品に代表される角形断面が大半である。・・・ ・・・ 【0023】 本発明のステンレス鋼は、構造部材として加工されるため、その成形性も重要となる。先述した様に、部材形状としてはハット型成形品に代表される角形断面が大半であり、曲げや絞り成型されるため、材料の延性が必要である。衝撃吸収部材の加工様式について種々検討した結果、材料を静的引張試験した際の引張破断伸びが30%以上あれば十分成型可能であることが判明したため、静的引張試験における破断伸びを30%以上とした。望ましくは、40%が良い。 【実施例】 【0024】 表2の化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延により板厚5mmの熱延板を製造した。熱延板を1120℃で焼鈍し、酸洗を行い、5.0mm厚の熱延焼鈍板とした。さらに、これら熱延焼鈍板を板厚1.5mmまで冷間圧延し、1080℃で焼鈍を施し、酸洗を行い、1.5mm厚の冷延焼鈍板を作製した。・・・」 イ 引用文献5記載の技術的事項 上記アの記載事項からみて、引用文献5には次の技術的事項(以下「引用文献5記載の技術的事項」という。)が記載されている。 「自動車の構造部材としてオーステナイト系ステンレス鋼板を曲げや絞り成形したものを用いること。」 また、引用文献5の実施例において用いられているオーステナイト系ステンレス鋼板の板厚は1.5mmである。 (4)引用文献6 ア 引用文献6の記載事項 「【0001】 本発明は、自動車部品として適正な強度-延性バランスと穴拡げ性を有し、主として強度や衝撃吸収性能が必要な構造用部材として使用されるステンレス鋼板及びその製造方法に関するもので、特に自動車、バスのフロントサイドメンバー、ピラー、バンパーなどの衝撃吸収部材並びに足回り部材、鉄道車両の車体、自転車のリムなどの構造部材用鋼板に関わるものである。 ・・・ 【0012】 上記課題を解決する本発明の要旨は、 (1)質量%で、C:0.01~0.1%、Si:0.1~3%、Mn:0.1~6%、P:0.01~0.05%、S:0.0001~0.01%、Ni:0.01~6%、Cr:10~25%、N:0.01~0.3%、Al:0.01~1%、Cu:0.05~5%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、母相がフェライト相であり、オーステナイト相とマルテンサイト相の総和が面積率で10~60%存在し、母相のフェライト粒径が10μm以下、0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上、穴拡げ率が30%以上であることを特徴とする加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板。 ・・・ 【0048】 また、高速変形特性のみならず常温でのプレス加工性を満足するためには高い強度-延性バランスが必要であり、本発明では0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上とする。これもフェライト相の結晶粒径微細化が極めて有効であり、結晶粒径が10μm以下と細粒にすることで結晶粒界による強化が図られ、常温変形時の加工硬化能が向上する。 ・・・ 【実施例】 【0052】 以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。表1に示す化学組成の鋼を溶製してスラブに鋳造し、スラブを熱間圧延した後、焼鈍・酸洗を施し、1.5mm厚まで冷間圧延し、焼鈍・酸洗を施して製品板とした。この際、熱延板焼鈍温度を1150℃とし、400℃までの冷却速度を15℃/secとした。また、冷延板焼鈍については、加熱温度を1100℃とし、通常の通板条件にて製造した。 ・・・ 【0054】 【表1-1】 [図:0001416973000011.jpg] イ 引用文献6記載の技術的事項 上記アの記載事項からみて、引用文献6には次の技術的事項(以下「引用文献6記載の技術的事項」という。)が記載されている。 「自動車の構造部材が母相がフェライト相でありオーステナイト相とマルテンサイト相を含むプレス加工性を満足するステンレス鋼板を加工したものであること。」 また、引用文献6の実施例において用いられているステンレス鋼板の板厚は1.5mmであり、0.2%耐力(降伏強度Rp0.2)は500MPa以上(500~735MPa)である。 (5)周知技術 上記(1)~(3)の引用文献3~引用文献5記載のオーステナイト系ステンレス鋼は、本願優先日の前においてニッケルを含有する高強度ステンレス鋼としてよく知られており、また、上記(4)の引用文献6記載の母相がフェライト相でありオーステナイト相とマルテンサイト相を含むステンレス鋼も0.2%耐力は500MPa(500~735MPa)以上であって高強度ステンレス鋼に該当する。よって、上記(1)~(4)からみて、次の技術は本願優先日の前において当業者にとっての周知技術であったと認められる。 「自動車の構造部材として高強度ステンレス鋼板をプレス成形など曲げ加工したものを用いること。」(以下、単に「周知技術」という。) 第5 当審の判断 1 理由A(明確性)について (1)理由Aの概要 当審拒絶理由通知では、令和6年2月9日提出の手続補正書により補正をする前の(すなわち、令和4年11月18日の本件審判の請求と同時に提出の手続補正書により補正をした)請求項1の記載は、概略以下の点で明確でなく、特許法第36条第6項第2号に適合していない旨を通知した。 ア 「耐荷重構造体の主な成形手順(≧50%)」の発明特定事項が明確でない。 イ 「陸上の自動車両又は該自動車両に取り付けられたか若しくは該自動車両から延伸された構造体」の発明特定事項が明確でない。 ウ 「前記曲げ成形は、前記金属製の平板材の大部分(50%以上)に対する1シートあたり少なくとも2つ以上の縁を伴うマルチエッジ成形プロセスとして実施されること」の発明特定事項が明確でない。 (2)理由Aの検討 以下、理由Aに対して令和6年2月9日提出の手続補正書により補正をした請求項1(上記第2の請求項1、以下、この(2)と次の(3)において「補正後請求項1」という。)について検討する。 ア 上記(1)アについて 補正後請求項1は、曲げ成形に関し、「DIN 8586による曲げ成形が、厚さが6.0mm以下の金属製の平板材から製造された前記耐荷重構造体の成形手順全体の50%以上に用いられ」、及び「前記金属製の平板材に対する成形手順全体の50%以上で、1シートあたり少なくとも2つ以上の縁をつけるマルチエッジ成形プロセスとして実施され」と記載したことにより、曲げ成形における「50%以上」の意味が明確になったから、上記(1)アの記載の不備は解消した。 イ 上記(1)イについて 補正後請求項1は、耐荷重構造体に関し、「陸上の自動車両車体又は該自動車両車体に一体付設されるか若しくは該自動車両により牽引される構造体と定義され」と記載したことにより、耐荷重構造体の定義の内容について、陸上の自動車両との関係が明確になったから、上記(1)イの記載の不備は解消した。 ウ 上記(1)ウについて 補正後請求項1は、マルチエッジ成形プロセスに関し、「1シートあたり少なくとも2つ以上の縁をつけるマルチエッジ成形プロセスとして実施され」と記載したことにより、マルチエッジ成形プロセスの内容が明らかになったから、上記(1)ウの記載の不備は解消した。 (3)小括 補正後請求項1の記載は、理由Aを解消したから明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合する。 2 理由B(進歩性)について 以下、本願発明1の進歩性について検討する。 (1)本願発明1と引用発明1の対比 ア 引用発明1の「車体」は本願発明1の「乗用車の耐荷重構造体」又は「耐荷重構造体」に相当し、以下同様に、「折曲げ加工」は「曲げ成形」に、「金属板」は「金属製の平板材」に、それぞれ相当する。 イ 引用発明1の「折曲げ加工が、金属板から製造された車体の成形の工程の中で施され」と本願発明1の「DIN 8586による曲げ成形が、厚さが6.0mm以下の金属製の平板材から製造された前記耐荷重構造体の成形手順全体の50%以上に用いられ」を対比すると、両者は「曲げ成形が、金属製の平板材から製造された前記耐荷重構造体の成形手順の中で用いられ」という点に限り一致する。 ウ 引用発明1の「一般的な乗用車の車体」は本願発明1の「陸上の自動車両車体」に相当する。そのため、引用発明1の「一般的な乗用車の車体であり」は本願発明1に列挙された選択肢の一つに該当するから、本願発明1の「陸上の自動車両車体又は該自動車両車体に一体付設されるか若しくは該自動車両により牽引される構造体と定義され」に相当する。 エ 引用発明1の「前記折曲げ加工は、前記金属板に対する成形の工程の中で、床1の前後左右の縁部から前後左右の壁4,3,2を折曲げるプレスによる折曲げ加工として施され」と本願発明1の「前記曲げ成形は、前記金属製の平板材に対する成形手順全体の50%以上で、1シートあたり少なくとも2つ以上の縁をつけるマルチエッジ成形プロセスとして実施され」を対比すると、引用発明1の折曲げ加工は1シートの金属板に複数の縁を付けていることから、両者は「前記曲げ成形は、前記金属製の平板材に対する成形手順の中で、1シートあたり少なくとも2つ以上の縁をつけるマルチエッジ成形プロセスとして実施され」という点に限り一致する。 オ 引用発明1の「前記金属板は、鋼材であり」と本願発明1の「前記金属製の平板材は、降伏強度がRp0.2≧400MPaの高強度ステンレス鋼であり」を対比すると、両者は「金属製の平板材」が「鋼材」であるという点では共通する。 カ 引用発明1の「前記金属板に対する前記床1の前後左右の縁部から前記前後左右の壁4,3,2を折曲げる角度はほぼ直角である」は、ここで記載された「直角」は90°を意味し、本願発明1の「90°以上」の範囲に含まれることから、「前記金属製の平板材に対する前記縁の曲げ角度は90°以上である」に相当する。 (2)本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点 上記(1)より、本願発明1と引用発明1は、以下のアの点で一致し、イの点で相違する。 ア 一致点 「乗用車の耐荷重構造体の製造方法であって、該方法は、 曲げ成形が、金属製の平板材から製造された前記耐荷重構造体の成形手順の中で用いられ、 前記耐荷重構造体は、陸上の自動車両車体又は該自動車両車体に一体付設されるか若しくは該自動車両により牽引される構造体と定義され、 前記曲げ成形は、前記金属製の平板材に対する成形手順の中で、1シートあたり少なくとも2つ以上の縁をつけるマルチエッジ成形プロセスとして実施され、 前記金属製の平板材は、鋼材であり、 前記金属製の平板材に対する前記縁の曲げ角度は90°以上である、製造方法。」 イ 相違点 (ア)相違点1 本願発明1の曲げ成形が「DIN 8586による」のに対して、引用発明1の曲げ成形(折曲げ加工)がどのような規格によるか不明である点。 (イ)相違点2 曲げ成形が「成形手順全体」に占める割合について、本願発明1は50%以上であるのに対して、引用発明1は割合の数値が不明である点。 (ウ)相違点3 本願発明1における金属製の平板材が、「厚さが6.0mm以下」、「降伏強度がRp0.2≧400MPaの高強度ステンレス鋼」であるのに対して、引用発明1の金属製の平板材は「鋼材」ではあるものの、その具体的な特性が明らかでない点。 (3)相違点の検討 ア 相違点1について 規格とは、生産物の生産、使用、分配、組合せなどにおいて、便宜のために技術的条件を統一限定して定めた標準であるところ、本願発明1のDIN 8586は、ドイツ工業品標準規格の一つであって国家(ドイツ連邦共和国)により統一して定められたものであり、本願優先日の前に公知となっている引用文献2(請求人が提出した甲第2号証)に記載された内容(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)を、誰でも参照してこれに従った生産物の生産、使用等を行い得るものである。すると、引用発明1の曲げ成形(折曲げ加工)を、このDIN 8586に依拠して行うことが、当業者にとって特段の創意を要したことであるとはいえない。 イ 相違点2について 引用文献1においては、曲げ成形が「成形手順全体」に占める割合の数値は明記されていない。しかしながら、曲げ成形である折曲げ加工は、床1の前後左右の縁部から前後左右の壁4,3,2を折曲げるプレスによる折曲げ加工として施され、前記金属板に対する前記床1の前後左右の縁部から前記前後左右の壁4,3,2を折曲げる角度はほぼ直角であることから、この折曲げ加工は、実施例1の第1~2図から第3図の状態に至る成形手順の主要部を構成しており、実施例2の第4図から第5図の状態に至る成形手順においては、さらに側壁2と屋根29についても同様の折曲げ加工が施されるから、やはり成形手順の主要部を構成しているといえる。また、曲げ成形が「成形手順全体」に占める割合の数値自体についても、本願発明1の成形手順は図1~3の実施例からみて、引用発明1と同様に1シートに数個の90°の縁をつけることが成形手順の主要部を構成していることが看取されるから、曲げ成形が「成形手順全体」に占める割合について本願発明1と引用発明1の間に顕著な差異が存在するという根拠は見出せない。 よって、引用文献1には、曲げ成形が成形手順の50%以上であることが示唆されているものといえるから、相違点2については、引用文献1に具体的な数値は記載されていないものの実質的な相違点であるとは認められない。 また仮に、引用発明1における折曲げ加工が車体の成形の全工程の中で50%未満であって、相違点2が実質的な相違点であったとしても、引用文献1に記載された「部品の一体化、工程の短縮化など生産能率の向上」という目的のもと、引用発明1において曲げ成形の割合を成形手順の50%以上とすることは、当業者にとって容易になし得たことといえる。 ウ 相違点3について 引用発明1は、上記第4の1(1)ア(エ)記載のとおり、1枚の鋼板に補強を兼ねる突条9が成形された床1と、床1の前後左右の縁部25,27,26に、所定の開口等が形成された前後左右の壁4,3,2が形成され、床1の前後左右の縁部25,27,26において、床1に対して前後左右の壁4,3,2をほぼ直角に折曲げて、溶接により結合して、車体を組み立てるものである。そうすると、この車体は本願発明1の特に本願の図1に示された実施例と同様の乗用車の耐荷重構造体である。そして、床1に成形される突条9は車体の補強の機能を兼ね備えるものであり、前後左右の壁4,3,2も当然に、車体の荷重を支える構造部材の機能を有するものである。 そして、上記第4の2で認定したとおり、「自動車の乗用車の構造部材として、曲げ加工やプレス加工を行った高強度ステンレス鋼板を用いること」は周知技術であり、当業者であれば、引用発明1の車体の床1と、この床1の前後左右の縁部25,27,26においてほぼ直角に曲げ加工される前後左右の壁4,3,2が形成される金属製の平板材の鋼材として、上記周知技術である高強度ステンレス鋼板を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、オーステナイト系高強度ステンレス鋼について、耐荷重構造体の部位や要求される性能に応じて、その厚さや強度を設定することは、設計的事項であるところ、上記周知技術として例示した引用文献3~6には、実施例として板厚が6mm以下(1.2mm、1.0mm、1.5mm、1.5mm)のものが記載され、引用文献3、6には、実施例として降伏強度Rp0.2(0.2%耐力)が500MPa以上(引用文献3の666MPa、引用文献6の500~735MPa)のものが記載されていることからも、本願発明1の金属製の平板材の、厚さが6mm以下、降伏強度がRp0.2≧400MPaという数値範囲は、当該周知技術を適用した際に、当業者が適宜選択可能であったものに過ぎない。 (4)請求人の主張について 請求人は、令和6年2月9日提出の意見書の「【意見の内容】(3)本件発明の進歩性」において、本願発明1が請求項1に記載した事項により、「一面では剛性および衝突性能を向上させ、他の一面では費用効率の高い製造方法または製品を提供するという特有の効果」(明細書段落【0007】参照)を奏するとする、以下のア~エの主張について検討する。 ア 本願発明1における金属材の選択、および当該金属材の加工方式についての主張 請求人は、本願発明1が、耐荷重構造体の材料として使用する金属材の選択、および当該金属材の加工方式の2つの側面において、特徴的な構成を有しているのに対して、引用文献1では、車体の形状に成形する金属板の材料種別および降伏強度などの材料特性については、特に言及がないとし、車体製造の従来技術、そして一般的にステンレス鋼のプレス加工は困難であることに鑑みると、同文献の製法で車体用金属板としてステンレス鋼を使用するとは考え難い旨を主張する。 しかしながら、上記(3)ウにおいて相違点3について検討したとおり、自動車の構造部材として高強度ステンレス鋼板をプレス成形など曲げ加工したものを用いることが本願優先日の前における当業者にとっての周知技術であって、高強度ステンレス鋼のプレス加工は、他の加工性の高い鋼材に比べれば難易度が高いとしても、その材料強度の優位性に鑑みて自動車の構造部材として成形するために用いられているといえるから、引用発明1への適用についても同様に、当業者が容易に想到し得たことに過ぎない。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 イ 引用発明1のプレス成形により設けられる縁の曲げ角度は概ね90°を下回っているとの主張 請求人は、「引用文献1では、規格はどうであれプレス成形により設けられる縁の曲げ角度は概ね90°を下回っている」との主張をする。 しかしながら、上記(1)カにおいて検討したとおり、引用発明1は、金属板に対する床1の前後左右の縁部から前記前後左右の壁4,3,2を折曲げる角度はほぼ直角であり、本願発明1の「前記金属製の平板材に対する前記縁の曲げ角度は90°以上である」との発明特定事項の「90°」に該当し、この点で本願発明1の曲げ加工が依拠するDIN 8596の規格が影響を及ぼすともいえない。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 ウ 甲第1号証の説明図で示す乗用車の耐荷重構造体と引用文献1の車体との比較に関する主張 請求人は、審判請求時に手続補足書により甲第1号証(以下「甲1」という。)として添付提出した説明図で示す乗用車の耐荷重構造体を引用文献1の車体と比較すると、完成品の構造的な相違点が明確に理解できる旨を主張する。 また、この主張について、本願発明に係る耐荷重構造体の場合、本件の各独立請求項で定義している曲げ成形を繰り返して折り畳み箱のような耐荷重構造体を製造しているため、剛性が向上し、衝突による衝撃吸収性能も向上することを説明する。 請求人のいう甲1の説明図は次の(ア)~(イ)のものである。 (ア)甲1第1ページ [図:0001416973000012.jpg] (イ)甲1第2ページ [図:0001416973000013.jpg] 上記(ア)~(イ)において、甲1は、第2ページの右側に「車体下部構造体」が図示され、第2ページの左側には、右側の「車体下部構造体」と、この車体下部構造体の上部に設置される「乗員区画部、ピラーおよび屋根構造体、及び「床部衝突フレーム」からなる構造体(以下「車体上部構造体」という。)が組み合わされたものが図示されている。遡って、第1ページには「車体上部構造体」が単独で図示されている。 これら2つの構造体のうち、引用発明1と比較する対象となり得る「車体上部構造体」についてみると、特に甲1第1ページの「折り畳み箱の基本作動原理」を利用したことの内容からみて、引用発明1の車体と構造的な差異は認められず、請求人が主張するような「完成品の構造的な相違点」が存在するとは理解できない。そして、甲1の「車体上部構造」が曲げ成形を繰り返して折り畳み箱のよう耐荷重構造体とされている点について、この折り畳み箱の構造に関し、やはり曲げ成形を繰り返してこれを形成する引用発明1との間に差異はないから、甲1の「車体上部構造」の剛性や衝突による衝撃吸収性能が、引用発明1のものと比較して向上したという根拠があるともいえない。 なお、甲1の「車体下部構造」に関する主張については、本願発明1の「自動車両車体に一体付設される構造体」に該当するものであるから、引用発明1に対する進歩性を検討するための比較の対象とはいえず、当を得たものとはいえない。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 エ 本願発明1における特定の材料を、特定の成形方法で実行する組合せに関する主張 請求人は、「本件発明は、特定の材料(厚さ6.0mm以下で降伏強度がRp0.2≧400MPaの高強度ステンレス鋼)を、特定の成形方法(所定の曲げ角度の縁をつけるDIN 8586による曲げ成形)で実行するという、引用文献1など既存の技術では見られなかった組合せを実現したという面でも、従来技術に対する進歩性が見出せる」ものであって、「引用文献1には、材料選択、製造した構造物の構造のいずれについても本件発明に通じる技術情報は欠落して」おり、「車体製造技術に精通した当業者といえども、引用文献1の開示内容に基づいて本件発明に想到することは極めて困難であった」旨を主張する。 しかしながら、上記の「特定の成型方法」については、上記(3)ア~イにおいて相違点1~2について検討したとおり、曲げ成形がDIN 8586の規格に依拠することについては、当業者にとって特段の創意を要したことであるとはいえないし、所定の曲げ角度の縁に関し、引用発明1との間に相違するところはない。そして、「特定の材料」についても、引用発明1の金属製の平板材(金属板)として高強度ステンレス鋼を用いるのは当業者が容易に想到し得た周知技術の適用であって、高強度ステンレス鋼を厚さ6.0mm以下で降伏強度がRp0.2≧400MPaとすることは当該周知技術を適用した際に、適宜選択可能なものであって、本願発明1は「特定の成型方法」と「特定の材料」の点において、いずれも引用発明1と顕著な差異があるものではなく、両者を組み合わせることを妨げる要因も見出せない。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 (5)小括 したがって、本願発明1は、引用発明1、引用文献2記載の技術的事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、理由B(進歩性)により、特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明、及び周知技術に基づいて、本願優先日の前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-018550

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