特許拒絶査定不服審判
2022-017354
再構成可能な量子ルーティング
- 審判番号
- 2022-017354
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-560746
- 請求日
- 2022年10月28日
- 審決日
- 2023年08月08日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
- 【請求人代理人】恩田 誠
- 【請求人代理人】恩田 博宣
- 【請求人代理人】本田 淳
- 審判長/審判官
- 審判長 須田 勝巳
- 審判官 林 毅
- 審判官 山崎 慎一
- 分類
- P18 .121-WZ (G06N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-560746「再構成可能な量子ルーティング」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月26日国際公開、WO2019/245740、令和 3年 8月26日国内公表、特表2021-521550〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成元年)6月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2018年6月19日 米国)を国際出願日とする特願2020-560746号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和2年10月29日 :国内書面、出願審査請求書、手続補正書、
上申書の提出
令和3年12月23日付け:拒絶理由通知書
令和4年 3月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 6月28日付け:拒絶査定
令和4年10月28日 :審判請求書の提出
令和5年 4月 6日付け:拒絶理由(当審拒絶理由)通知書
令和5年 6月28日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
令和5年6月28日に提出された手続補正書に係る手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 再構成可能な量子ルーティングの方法であって、
RF-SQUIDのそれぞれの可変インダクタンス結合要素間で分割される電流を誘導するために少なくとも1つの共通インダクタを介して少なくとも2つのRF-SQUIDに誘導結合された第1の磁束ライン、または他のインダクタを介して前記少なくとも2つのRF-SQUIDまたは別の2つのRF-SQUIDに誘導結合された第2の磁束ラインのうちの一方に静的制御信号を提供すること、
前記第1の磁束ラインまたは前記第2の磁束ラインのうちの他方に動的制御信号を提供して、誘導された共通磁束電流と誘導された動的磁束電流との差が、前記可変インダクタンス結合要素のうちの少なくとも1つを、高インダクタンス状態または低インダクタンス状態のうちの一方に置き、前記可変インダクタンス結合要素のうちの少なくとも他方を前記高インダクタンス状態または前記低インダクタンス状態のうちの他方に置くようにすること、
少なくとも第1の量子オブジェクトを、前記動的制御信号の方向に基づいて、第2の量子オブジェクトまたは第3の量子オブジェクトのうちの1つだけに結合するように前記動的制御信号の方向を作動させること
を含む方法。」
第3 当審拒絶理由
令和6年4月6日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由3(進歩性)は、次の理由を含むものである。
本願の請求項10に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特表2018-514094号公報
引用文献2:国際公開第2017/127205号
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は、強調のため当審が付与した。(以降においても同様。)
「【0008】
一例では、第1および第2の可変インダクタンス結合器は、隣接する高周波(RF)超伝導量子干渉デバイス(以下、RF SQUIDまたはSQUIDと称する)の各要素である。第1の超伝導量子干渉デバイス(SQUID:Superconducting Quantum Interference Device)は、第1の可変インダクタンス結合器と、第1の可変インダクタンス結合器の反対側に結合された第2のインダクタを含む。第2のSQUIDは、第2のインダクタと、第2の可変インダクタンス結合器の反対側に結合された第3のインダクタとを含む。第2のインダクタは、第1および第2のSQUIDの両方を互いに結合して、二重SQUID回路構成を形成する共通インダクタとすることができる。可変インダクタンス結合器は、例えば、ジョセフソン接合とすることができ、ジョセフソン接合は、ジョセフソン接合を流れる電流に基づいて変化する誘導を有する。所与のジョセフソン接合を流れる電流は、個々のSQUIDに印加される磁束に基づいて誘導することができる。
【0009】
一例では、第1および第2のジョセフソン接合は、個々のSQUIDにおいて電流または低電流が誘導されていないときは第1のインダクタンスを有し、例えば、約0.1Φ0を超え、約0.45Φ0未満の磁束(Φ0は磁束量子と等しい)を生成または誘導する所定の閾値における電流またはより高電流が個々のSQUIDに誘導されるときは第2のインダクタンスを有する。第1のインダクタンス(例えば、h/2e*1/IC、hはプランク定数を2πで割ったもの、eは電子電荷、ICはジョセフソン接合の臨界電流)は、フィルタネットワークの所望のセクション間の結合を提供して、所望のセクションの対向する端部間で入力信号の所望の帯域幅の部分を通過させることができる。第2のインダクタンス(例えば、大きなインダクタンス値)は、フィルタネットワークのセクション間の分離を提供して、不所望のセクションの対向する端部間で入力信号の所望の帯域幅の部分の通過を遮断することができる。
【0010】
図1は、一例の超伝導単極双投スイッチシステム10を示す。超伝導単極双投スイッチシステム10は、第1の端子(TMA)からの信号を第2の端子(TMB)または第3の端子(TMC)のうちの1つに転送する。代替的に、第2の端子TMBまたは第3の端子TMCのうちの1つから第1の端子TMAに信号を転送することができる。超伝導単極双投スイッチシステム10は、様々な超伝導回路システムのいずれかに実装して、2つの代替経路間で信号のスイッチ制御を提供することができる。一例として、信号は、キュービット(qubit)に対してゲート動作または読み出し動作を実行するなど、量子回路用の制御方式で実施されるマイクロ波信号であってもよい。別の例として、信号は、信号パルス、通信信号、または制御コマンド信号であってもよい。超伝導スイッチシステム10は、第1の経路および第2の経路のうちの1つを通過する信号の所望の部分(例えば、特定の周波数帯域幅)に対応する帯域通過フィルタリングされた出力信号を提供することができる。付加的に、信号の所望の部分は、第1の経路および第2の経路の他方を通過することができないように遮断することができる。
【0011】
一例として、超伝導スイッチシステム10は、1つまたは複数の入力共振器としてのフィルタネットワーク12の入力部分と、1つまたは複数の出力共振器をそれぞれ有するフィルタネットワーク12の一対の出力部分とを構成するための1つまたは複数のインピーダンス構成要素(すなわち、キャパシタ、抵抗器、インダクタ)を含むマイクロ波バンドパスフィルタネットワーク12を含む。フィルタネットワーク12は、第1の経路に関連する第1の可変インダクタンス結合器を有する第1のSQUIDと、第2の経路に関連する第2の可変インダクタンス結合器を有する第2のSQUIDとを含む二重SQUID回路14を含む。第1および第2のSQUIDはそれぞれ、個々のSQUIDの超伝導ループの構成要素と、1つまたは複数の入力共振器および/または1つまたは複数の出力共振器のインピーダンス構成要素との両方として動作する1つまたは複数の構成要素を含む。付加的に、第1および第2のSQUIDは、第1および第2のSQUID間で共有される1つまたは複数の構成要素を含むこともできる。第1および第2のSQUIDは、超伝導スイッチの能動素子として動作して、SQUIDの磁束調整可能なインダクタンスがフィルタ回路のセクションを選択的に結合して、2つの経路のうちの1つの経路間の信号の通過を提供し、2つの経路のうちの他の経路間の信号を遮断する。SQUIDは、50オームのインピーダンス環境へのマッチングを提供するようにマイクロ波バンドパスフィルタネットワーク12に組み込まれる。
【0012】
一組のバイアス要素16は、第1および第2のSQUIDのうちの一方における正味の電流が所定の閾値(例えば、磁束量子の半分の実質的な部分の正味磁束)を超える結果として正味の磁束と、第1および第2のSQUIDのうちの他方における正味電流が所定の閾値(例えば、約0の正味磁束)を実質的に下回る結果としての正味の磁束との誘導をもたらす構成で第1および第2のSQUIDに誘導的に結合されている。所定の閾値を超えるSQUIDのうちの1つにおいて誘導される正味の磁束または電流は、SQUIDに関連する可変インダクタンス結合器に対して高いインダクタンスをもたらし、個々のSQUIDを介する信号を遮断する。SQUIDの1つにおいて誘導される正味の磁束または電流が、所定の閾値を実質的に下回ると、SQUIDに関連する可変インダクタンス結合器のインダクタンスが低くなり、その個々のSQUIDを介して信号が通過する。バイアス要素16は、バイアス要素16へのバイアス電流の量および極性を制御するスイッチコントローラ18によって制御することができ、スイッチコントローラ18は、次に、各個々のSQUIDにおいて誘導され、かつ各個々のSQUIDの可変インダクタンス結合器を流れる電流および磁束の量を制御する。」
「【0013】
図2は、単極双投スイッチ回路30の概略図を示す。図2に示すように、ジョセフソン接合J1は、第1のインダクタL1および共通インダクタLCOMに接続され、外部から印加される磁束Φ1を囲む第1のRF-SQUID32(SQUID#1)を形成する。同様に、ジョセフソン接合J2は、第2のインダクタL2および共通インダクタLCOMに接続され、外部から印加される磁束Φ2を囲む第2のRF-SQUID34(SQUID#2)を形成する。第1のインダクタL1、共通インダクタLCOMおよび第2のインダクタL2の反対側の端部は共通の基準点(接地)に結合されて、第1のRF SQUID32に関連する第1の超伝導ループを形成し、かつ第2のRF SQUIDに関連する第2の超伝導ループを形成する。ジョセフソン接合の臨界電流は、Ic1,2(L1,2+Lcom)<Φ0である。J1およびJ2の実効インダクタンスは、それぞれ印加磁束Φ1とΦ2の関数である。印加された磁束がほぼゼロのとき、個々の接合のインダクタンスはL=h/2eIcで与えられる。ここで、Icは接合臨界電流である。接合インダクタンスは、磁束がΦ0/2の付近の値(正確な値は接合臨界電流とRF-SQUIDループの自己インダクタンスとの積に依存する)に達すると、発散するまで印加磁束とともに増加する。
【0014】
入力端子(TMA)またはポートは、入力結合キャパシタCCAを介して第1および第2のRF SQUID32、34の共通ノード36に結合される。第1の出力端子(TMB)またはポートは、第1の出力結合キャパシタCCBを介して第1のRF SQUID32に接続され、第2の出力端子(TMB)またはポートは、第2の出力結合キャパシタ(TMC)を介して第2のRF SQUID34に接続される。スイッチ回路30が適切に機能するフィルタ回路として動作するためには、図3および図6に示すフィルタ構成と同様にL1、L2およびLCOMに並列にキャパシタを配置する必要があることを理解されたい。第1のインダクタL1に誘導的に結合された第1の差動モードバイアスインダクタ(LBD1)と第2のインダクタL2に誘導的に結合された第2の差動モードバイアスインダクタ(LBD2)とを含む差動モード磁束バイアスライン(DML)が設けられている。付加的に、共通インダクタ(LCOM)に誘導的に結合されるコモンモードバイアスインダクタ(LBC)を含むコモンモード磁束バイアスライン(CML)が設けられている。スイッチコントローラ(図示せず)は、差動モード磁束バイアスライン(DML)およびコモンモード磁束バイアスライン(CML)に印加される電流の大きさおよび方向を制御して、各SQUIDに印加される磁束の量および極性、したがって、第1のジョセフソン接合J1および第2のジョセフソン接合J2のインダクタンスを制御することができる。
【0015】
磁束Φ1および磁束Φ2は、磁束Φ1または磁束Φ2の一方が本質的にゼロであることに応答して接合J1またはJ2の一方が低インダクタンスを有し、他方の接合がΦ0/2の実質的な部分である他方の磁束Φ1またはΦ2に応答して大きなインダクタンスを有するように印加される。この例では、入力信号SIGIN(例えば、マイクロ波信号)が、選択された低インダクタンス接合(J1またはJ2)を介して入力ポート(TMA)から選択された出力ポート(TMAまたはTMB)に出力信号(SIGOUT1またはSIGOUT2)として流れ、選択されていない高インダクタンス接合(J1またはJ2の他方)に接続された非選択ポート(TMAまたはTMBの他方)は分離状態に維持される。印加される磁束Φ1およびΦ2を制御することによって、入力信号SIGINは、入力ポートから一方の出力ポートに転送され、他方の出力ポートは入力信号を通過しないように分離することができる。
【0016】
図2は、デバイスのコモンモードバイアスライン(CML)と差動モードバイアスラインDML)を介して2つのバイアス電流を印加することによって、磁束Φ1およびΦ2を個別に制御する方法を示す。バイアス電流の印加は、第1のインダクタL1に誘導的に結合された第1の差動モードバイアスインダクタLBD1と、第2のインダクタL2に誘導的に結合された第2のバイアスインダクタLBD2と、共通インダクタLcに誘導的に結合されたコモンモードバイアスインダクタLBCとから形成される超伝導変圧器を介して第1及び第2のSQUIDに電流を誘導する。コントロールラインは、コモンモード磁束バイアスライン(CML)によって誘導された磁束が、一方のSQUIDにおける差動モード磁束バイアスライン(DML)によって誘導された磁束に加算され、その磁束が他方のSQUIDにおける磁束から減算されるように構成されている。
【0017】
例えば、第1および第2のSQUID32、34の両方に0.2Φ0の磁束をそれぞれ誘導するためにコモンモード磁束ライン(CML)と表示されたラインを介してDC電流ICOMが印加され、これにより、第1のSQUID32において電流-ICINDが誘導され、第2のSQUID34において電流+ICINDが誘導される。第1のSQUID32において0.2Φ0の磁束を誘導し、第2のSQUID34において-0.2Φ0の磁束を誘導するために差動モード磁束ライン(DML)と表示けられたラインを介してDC電流+IDINDが印加され、これにより、第1のSQUID32において+IDINDの電流が生じ、第2のSQUID34において+IDINDの電流が生じる。この結果、第2のSQUID34は、0.4Φ0の合計印加磁束を囲み(ジョセフソン接合J2のインダクタンスが高くなる)、第1のSQUIDはゼロの合計印加磁束を囲む(ジョセフソン接合J1のインダクタンスが低くなる)。差動モード磁束バイアスライン(DML)またはコモンモード磁束バイアスライン(CML)のうちの一方に流れる電流の極性は、第1および第2のRF SQUID32および34の正味の磁束および正味の電流をそれぞれ変更するように変化させることができ、この結果、1つの出力ポート(例えば、TMA)または他の出力ポート(TMB)の間の入力信号SIGINの転送が制御される。」
([当審注]
・【0014】に記載の「第2の出力結合キャパシタ(TMC)」は、以下の【図2】の記載を参酌すれば、「第2の出力結合キャパシタ(CCC)」の誤記と認められる。
・【0017】に記載の「差動モード磁束ライン(DML)と表示けられたラインを介してDC電流+IDINDが印加され」は、以下の【図2】の記載を参酌すれば、「差動モード磁束ライン(DML)と表示されたラインを介してDC電流+IDIFFが印加され」の誤記と認められる。)
「【0023】
可能な用途の一例では、単極双投スイッチをRQL磁束ポンプと一体化して、スイッチを2つの出力設定の間で切替える差動モード磁束を提供することができる。磁束ポンプおよびスイッチアセンブリは、さらに、超伝導キュービット回路と一体化することができる。このようなシステムは、例えば第3のキュービットの測定結果に基づいて調整された2つのキュービットのうちの1つに選択的にマイクロ波パルスを供給し、条件付き量子ゲートを実現することができる。別の可能な応用例では、スイッチは、RQLプロセッサの制御下で、一連のキュービットの異なるグループにマイクロ波読み出しパルスを印加するように構成することができる。さらに別の応用例は、2つの入力経路のうちの1つの出力を選択するためにスイッチを逆に接続することを含む。この構成は、例えば、(フィルタの通過帯域内の)異なる周波数の2つの信号をスイッチ入力に供給し、これらの2つの周波数のうちの1つを選択して出力に伝搬することを可能にする。本明細書で開示される2つの単極双投スイッチは、例えば、異なる時間遅延または狭帯域周波数応答を有する、集積マイクロ波回路内の2つの信号経路のうちの1つを選択するために協働して動作するようにしてもよい。」
「【図1】
[図:0001405473000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001405473000002.jpg]
」
(2)引用発明
引用文献1の【0010】の記載より、引用文献1には、「超伝導単極双投スイッチシステム10」により「第1の端子(TMA)からの信号を第2の端子(TMB)または第3の端子(TMC)のうちの1つに転送する」“方法”が記載されているといえる。
また、引用文献1の【0008】の記載によれば、【0012】に記載の「可変インダクタンス結合器」は、「ジョセフソン接合とすることができ」るものである。
また、引用文献1の記載において、「第1のRF-SQUID32」、「第1のRF SQUID32」、「第1のSQUID」、「SQUID#1」はいずれも同じものであると認められるので、「第1のRF-SQUID32」に統一して記載することとする。同様に、引用文献1の記載において、同じものと認められる「第2のRF-SQUID34」、「第2のRF SQUID34」、「第2のSQUID」、「SQUID#2」については、「第2のRF-SQUID34」に統一して記載することとする。
よって、前記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 超伝導単極双投スイッチシステム10により、第1の端子(TMA)からの信号を第2の端子(TMB)または第3の端子(TMC)のうちの1つに転送する方法であって、
超伝導単極双投スイッチシステム10は、様々な超伝導回路システムのいずれかに実装して、2つの代替経路間で信号のスイッチ制御を提供することができ、一例として、信号は、キュービット(qubit)に対してゲート動作または読み出し動作を実行するなど、量子回路用の制御方式で実施されるマイクロ波信号であってもよく、
一組のバイアス要素16は、第1および第2のRF-SQUIDに誘導的に結合され、バイアス要素16は、バイアス要素16へのバイアス電流の量および極性を制御するスイッチコントローラ18によって制御することができ、スイッチコントローラ18は、次に、各個々のRF-SQUIDにおいて誘導され、かつ各個々のRF-SQUIDの可変インダクタンス結合器を流れる電流および磁束の量を制御し、
可変インダクタンス結合器は、ジョセフソン接合とすることができ、
単極双投スイッチ回路30において、
ジョセフソン接合J1は、第1のインダクタL1および共通インダクタLCOMに接続され、外部から印加される磁束Φ1を囲む第1のRF-SQUID32を形成し、
ジョセフソン接合J2は、第2のインダクタL2および共通インダクタLCOMに接続され、外部から印加される磁束Φ2を囲む第2のRF-SQUID34を形成し、
第1のインダクタL1、共通インダクタLCOMおよび第2のインダクタL2の反対側の端部は共通の基準点(接地)に結合されて、第1のRF-SQUID32に関連する第1の超伝導ループを形成し、かつ第2のRF-SQUID34に関連する第2の超伝導ループを形成し、
J1およびJ2の実効インダクタンスは、それぞれ印加磁束Φ1とΦ2の関数であり、
入力端子(TMA)またはポートは、入力結合キャパシタCCAを介して第1および第2のRF-SQUID32、34の共通ノード36に結合され、第1の出力端子(TMB)またはポートは、第1の出力結合キャパシタCCBを介して第1のRF-SQUID32に接続され、第2の出力端子(TMB)またはポートは、第2の出力結合キャパシタ(CCC)を介して第2のRF-SQUID34に接続され、
第1のインダクタL1に誘導的に結合された第1の差動モードバイアスインダクタ(LBD1)と第2のインダクタL2に誘導的に結合された第2の差動モードバイアスインダクタ(LBD2)とを含む差動モード磁束バイアスライン(DML)が設けられ、
共通インダクタ(LCOM)に誘導的に結合されるコモンモードバイアスインダクタ(LBC)を含むコモンモード磁束バイアスライン(CML)が設けられ、
スイッチコントローラは、差動モード磁束バイアスライン(DML)およびコモンモード磁束バイアスライン(CML)に印加される電流の大きさおよび方向を制御して、各RF-SQUIDに印加される磁束の量および極性、したがって、第1のジョセフソン接合J1および第2のジョセフソン接合J2のインダクタンスを制御することができ、
磁束Φ1および磁束Φ2は、磁束Φ1または磁束Φ2の一方が本質的にゼロであることに応答して接合J1またはJ2の一方が低インダクタンスを有し、他方の接合がΦ0/2の実質的な部分である他方の磁束Φ1またはΦ2に応答して大きなインダクタンスを有するように印加され、印加される磁束Φ1およびΦ2を制御することによって、入力信号SIGINは、入力ポートから一方の出力ポートに転送され、他方の出力ポートは入力信号を通過しないように分離することができ、
バイアス電流の印加は、第1のインダクタL1に誘導的に結合された第1の差動モードバイアスインダクタLBD1と、第2のインダクタL2に誘導的に結合された第2のバイアスインダクタLBD2と、共通インダクタLcに誘導的に結合されたコモンモードバイアスインダクタLBCとから形成される超伝導変圧器を介して第1及び第2のRF-SQUIDに電流を誘導し、コモンモード磁束バイアスライン(CML)によって誘導された磁束が、一方のRF-SQUIDにおける差動モード磁束バイアスライン(DML)によって誘導された磁束に加算され、その磁束が他方のRF-SQUIDにおける磁束から減算され、
例えば、第1および第2のRF-SQUID32、34の両方に0.2Φ0の磁束をそれぞれ誘導するためにコモンモード磁束ライン(CML)と表示されたラインを介してDC電流ICOMが印加され、これにより、第1のRF-SQUID32において電流-ICINDが誘導され、第2のRF-SQUID34において電流+ICINDが誘導され、第1のRF-SQUID32において0.2Φ0の磁束を誘導し、第2のRF-SQUID34において-0.2Φ0の磁束を誘導するために差動モード磁束ライン(DML)と表示されたラインを介してDC電流+IDIFFが印加され、これにより、第1のRF-SQUID32において+IDINDの電流が生じ、第2のRF-SQUID34において+IDINDの電流が生じ、この結果、第2のRF-SQUID34は、0.4Φ0の合計印加磁束を囲み(ジョセフソン接合J2のインダクタンスが高くなる)、第1のRF-SQUIDはゼロの合計印加磁束を囲み(ジョセフソン接合J1のインダクタンスが低くなる)、差動モード磁束バイアスライン(DML)またはコモンモード磁束バイアスライン(CML)のうちの一方に流れる電流の極性は、第1および第2のRF-SQUID32および34の正味の磁束および正味の電流をそれぞれ変更するように変化させることができ、この結果、1つの出力ポート(例えば、TMA)または他の出力ポート(TMB)の間の入力信号SIGINの転送が制御される、
方法。」
2 引用文献2について
引用文献2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。(なお、当審訳は、引用文献2の日本語のファミリー文献である特表2019-506734号公報の記載を参酌した。)
(第5ページ12行~第6ページ8行)
「[0004] Each qubit in the first qubit system 12 is coupled to a respective qubit in the second qubit system 16 by a respective tunable coupler of the tunable coupler system 14 having N tunable couplers, labeled tunable coupler 1 through tunable coupler N. Each tunable coupler includes a variable inductance coupling element that can be adjusted to allow for control of the coupling strength between two independent qubits of the opposing qubit systems 12 and 16, respectively. The variable inductance coupling element can be disposed between two resonators to allow for remote coupling of the two independent qubits via a tunable bus-mediated coupler. In one example, the variable inductance coupling element is a Josephson junction that resides in a RF SQUID disposed between two resonators. The superconducting switching system 10 also includes a switch controller 18 and bias elements 16. The variable inductance coupling elements are controlled by magnetic flux via the bias elements 16 and the switch controller 18 to couple, decouple and to control the coupling strength of the coupling between respective independent qubits in opposing qubit systems 12 and 16.
[0005] FIG. 2 illustrates a schematic of an example of a tunable bus-mediated coupler 30 that could be employed in FIG. 1. The tunable bus-mediated coupler 30 is composed of a first quarter-wave transmission line resonator TL1 and a second quarter-wave transmission line resonator TL2. A first coupling capacitor C1 couples a first port (Port 1) to a first end of the first quarter-wave transmission line resonator TL1, and a second coupling capacitor C2 couples a second port (Port 2) to a first end of the second quarter-wave transmission line resonator TL2. The first port (Port 1) can be coupled to a first qubit and the second port (Port 2) can be coupled to a second qubit. A second end of the first quarter-wave transmission line resonator TL1 is shorted to ground via a first terminating inductor (L1) and a second end of the second quarter-wave transmission line resonator TL2 is shorted to ground via a second terminating inductor L2. A Josephson junction (J1) is further connected between the termination inductors L1 and L2, so that the Josephson junction J1 together with termination inductors L1 and L2, form an RF-SQUID 32.」
(当審訳)
「[0004] 第1のキュービットシステム12内の各キュービットは、調整可能なカプラー1から調整可能なカプラーNとラベル付けされたN個の調整可能なカプラーを有する調整可能なカプラーシステム14の個々の調整可能なカプラーによって第2のキュービットシステム16内の個々のキュービットに結合されている。各調整可能なカプラーは、対向するキュービットシステム12および16の2つの独立したキュービットの間の結合強度の制御を可能にするように調整することができる可変インダクタンス結合要素をそれぞれ含む。可変インダクタンス結合要素は、2つの共振器の間に配置されて、調整可能なバス媒介カプラーを介して2つの独立したキュービットの遠隔結合を可能にする。一例では、可変インダクタンス結合要素は、2つの共振器の間に配置されたRF SQUID内に存在するジョセフソン接合である。超電導スイッチングシステム10はまた、スイッチコントローラ18およびバイアス要素16を含む。可変インダクタンス結合要素は、バイアス要素16およびスイッチコントローラ18を介して磁束によって結合および非結合するとともに、対向するキュービットシステム12および16における個々の独立したキュービット間の結合強度を制御するように制御される。
[0005] 図2は、図1において使用可能な調整可能なバス媒介カプラー30の一例の概略図である。調整可能なバス媒介カプラー30は、第1の1/4波長伝送線路共振器TL1と第2の1/4波長伝送線路共振器TL2とからなる。第1の結合コンデンサC1は第1のポート(ポート1)を第1の1/4波長伝送線路共振器TL1の第1の端部に結合し、第2の結合コンデンサC2は第2のポート(ポート2)を第2の1/4波長伝送線路共振器TL2の第1の端部に結合する。第1のポート(ポート1)は第1のキュービットに結合され、第2のポート(ポート2)は第2のキュービットに結合される。第1の1/4波長伝送線路共振器TL1の第2の端部は、第1の終端インダクタL1を介してグランドに短絡され、第2の1/4波長伝送線路共振器TL2の第2の端部は、第2の終端インダクタL2を介してグランドに短絡される。終端インダクタL1とL2との間にさらにジョセフソン接合J1が接続されており、ジョセフソン接合J1は終端インダクタL1およびL2と共にRF-SQUID32を形成する。」
「Fig.1
[図:0001405473000003.jpg]
」
(当審訳)
「図1
[図:0001405473000004.jpg]
」
「Fig.2
[図:0001405473000005.jpg]
」
(当審訳)省略
以上、特に下線部に着目すると、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「 可変インダクタンス結合要素は、2つの共振器の間に配置されて、調整可能なバス媒介カプラーを介して2つの独立したキュービットの遠隔結合を可能にし、
調整可能なバス媒介カプラー30は、第1の1/4波長伝送線路共振器TL1と第2の1/4波長伝送線路共振器TL2とからなり、
第1の結合コンデンサC1は第1のポート(ポート1)を第1の1/4波長伝送線路共振器TL1の第1の端部に結合し、第2の結合コンデンサC2は第2のポート(ポート2)を第2の1/4波長伝送線路共振器TL2の第1の端部に結合し、
第1のポート(ポート1)は第1のキュービットに結合され、第2のポート(ポート2)は第2のキュービットに結合され、
第1の1/4波長伝送線路共振器TL1の第2の端部は、第1の終端インダクタL1を介してグランドに短絡され、第2の1/4波長伝送線路共振器TL2の第2の端部は、第2の終端インダクタL2を介してグランドに短絡され、
終端インダクタL1とL2との間にさらにジョセフソン接合J1が接続されており、ジョセフソン接合J1は終端インダクタL1およびL2と共にRF-SQUID32を形成すること。」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 本願発明の「再構成可能な量子ルーティングの方法」において、「量子ルーティング」の何が「再構成可能な」ものであるのか必ずしも明確ではない。
しかしながら、本願明細書の【0007】の記載「量子情報のルーティングの1つの課題は、量子オブジェクトの「信号パス」(すなわち、接続性)が、リアルタイムで再構成可能でなくてはならないことである。」によれば、「量子ルーティング」によってルーティングされる信号のパス(接続性)が「再構成可能」なものであるとの意味と理解することができる。
そして、引用発明は、「超伝導単極双投スイッチシステム10により、第1の端子(TMA)からの信号を第2の端子(TMB)または第3の端子(TMC)のうちの1つに転送する方法」であって、「超伝導単極双投スイッチシステム10は、様々な超伝導回路システムのいずれかに実装して、2つの代替経路間で信号のスイッチ制御を提供することができ」るものであるところ、「信号」を、「第1の端子(TMA)」から「第2の端子(TMB)」へ転送する経路と、「第1の端子(TMA)」から「第3の端子(TMC)」へ転送する経路とのいずれか一方を選択して転送(ルーティング)するものであるから、ルーティングされる「信号」のパス(接続性)を「再構成可能」なものとする方法といえる。
また、引用発明の「方法」は、「第1のRF-SQUID32」及び「第2のRF-SQUID34」を含む「単極双投スイッチ回路30」(「超伝導単極双投スイッチシステム10」と同一視できる。)により実現され、「RF-SQUID」は、高周波の超伝導量子干渉素子であることは本願優先日前における技術常識であるところ、引用発明は、「量子ルーティング」の方法といい得るものである。(なお、本願明細書の【0026】の記載「これにより、再構成可能な量子ルーティング(「バー」状態または「クロス」状態のいずれか)が量子オブジェクト間で実現される。」との記載によれば、本願発明の「量子ルーティング」は、「量子オブジェクト」間の「ルーティング」に限定して解釈されない。)
したがって、引用発明の「方法」は、後述する相違点を除いて、本願発明の「再構成可能な量子ルーティングの方法」に相当する。
2 引用発明における「第1のRF-SQUID32」及び「第2のRFSQUID34」は、本願発明の「少なくとも2つのRF-SQUID」に含まれる。
また、引用発明における「可変インダクタンス結合器」としての「ジョセフソン接合」(「ジョセフソン接合J1」及び「ジョセフソン接合J2」)は、本願発明の「可変インダクタンス結合要素」に相当する。
また、引用発明における「共通インダクタLCOM」は、本願発明の「少なくとも1つの共通インダクタ」に相当し、引用発明における「第1のインダクタL1」及び「第2のインダクタL2」は、本願発明の「他のインダクタ」に相当する。
また、引用発明の「共通インダクタ(LCOM)に誘導的に結合されるコモンモードバイアスインダクタ(LBC)を含むコモンモード磁束バイアスライン(CML)」は、「共通インダクタ(LCOM)」を介して「第1のRF-SQUID32」及び「第2のRF-SQUID34」と誘導結合され、「共通ノード36」を介して「第1のRF-SQUID32」の「ジョセフソン接合J1」と「第2のRF-SQUID34」の「ジョセフソン接合J2」との間で分割される電流を誘導するものといえるから、本願発明の「RF-SQUIDのそれぞれの可変インダクタンス結合要素間で分割される電流を誘導するために少なくとも1つの共通インダクタを介して2つのRF-SQUIDに誘導結合された第1の磁束ライン」に相当する。
また、引用発明の「第1のインダクタL1に誘導的に結合された第1の差動モードバイアスインダクタ(LBD1)と第2のインダクタL2に誘導的に結合された第2の差動モードバイアスインダクタ(LBD2)とを含む差動モード磁束バイアスライン(DML)」は、「第1のインダクタL1」及び「第2のインダクタL2」を介して「第1のRF-SQUID32」及び「第2のRF-SQUID34」と誘導結合されているといえるから、本願発明の「他のインダクタを介して前記少なくとも2つのRF-SQUIDまたは別の2つのRF-SQUIDに誘導結合された第2の磁束ライン」とは、「他のインダクタを介して前記少なくとも2つのRF-SQUIDに誘導結合された第2の磁束ライン」の限りにおいて一致する。
そして、引用発明は、「スイッチコントローラは、差動モード磁束バイアスライン(DML)およびコモンモード磁束バイアスライン(CML)に印加される電流の大きさおよび方向を制御して、各RF-SQUIDに印加される磁束の量および極性、したがって、第1のジョセフソン接合J1および第2のジョセフソン接合J2のインダクタンスを制御することができ」るように、かつ、「差動モード磁束バイアスライン(DML)またはコモンモード磁束バイアスライン(CML)のうちの一方に流れる電流の極性は、第1および第2のRF SQUID32および34の正味の磁束および正味の電流をそれぞれ変更するように変化させることができ」るように構成されているため、「スイッチコントローラ」は、「差動モード磁束バイアスライン(DML)」と「コモンモード磁束バイアスライン(CML)」のうちの一方には、流れる電流の極性を変更しない“静的”な制御信号を提供し、「スイッチコントローラ」は、「差動モード磁束バイアスライン(DML)」と「コモンモード磁束バイアスライン(CML)」のうちの他方には、流れる電流の極性を変更する“動的”な制御信号を提供するものといえる。
以上より、引用発明は、本願発明の「RF-SQUIDのそれぞれの可変インダクタンス結合要素間で分割される電流を誘導するために少なくとも1つの共通インダクタを介して少なくとも2つのRF-SQUIDに誘導結合された第1の磁束ライン、または他のインダクタを介して前記少なくとも2つのRF-SQUIDまたは別の2つのRF-SQUIDに誘導結合された第2の磁束ラインのうちの一方に静的制御信号を提供すること」に相当する構成を備えているといえる。
3 前記2の検討より、引用発明は、本願発明の「前記第1の磁束ラインまたは前記第2の磁束ラインのうちの他方に動的制御信号を提供し」ているといえる。
そして、引用発明において、「コモンモード磁束ライン(CML)」により「共通インダクタ(LCOM)」を介して「第1のRF-SQUID32」及び「第2のRF-SQUID34」に誘導される電流「ICIND」(「+ICIND」又は「-ICIND」)は、本願発明の「共通磁束電流」に相当し、「差動モード磁束バイアスライン(DML)」により「第1のインダクタL1」及び「第2のインダクタL2」を介して「第1のRF-SQUID32」及び「第2のRF-SQUID34」に誘導される電流「IDIND」(「+IDIND」)は、本願発明の「動的磁束電流」に相当する。
そして、引用発明においては、「第1のRF-SQUID32」及び「第2のRF-SQUID34」のそれぞれに誘導される電流「ICIND」と「IDIND」との差に基づいて、「第1のRF-SQUID32」の「ジョセフソン接合J1」と「第2のRF-SQUID34」の「ジョセフソン接合J2」の一方(例えば、「ジョセフソン接合J1」)のインダクタンスが低くなり、他方(例えば「ジョセフソン接合J2」)のインダクタンスが高くなるように制御されている。
ここで、インタクタンスが低い状態は、「低インダクタンス状態」といえ、インダクタンスが高い状態は「高インダクタンス状態」といえ、また、そのような状態に制御することを“置く”と称することは任意である。
よって、引用発明は、本願発明の「前記第1の磁束ラインまたは前記第2の磁束ラインのうちの他方に動的制御信号を提供して、誘導された共通磁束電流と誘導された動的磁束電流との差が、前記可変インダクタンス結合要素のうちの少なくとも1つを、高インダクタンス状態または低インダクタンス状態のうちの一方に置き、前記可変インダクタンス結合要素のうちの少なくとも他方を前記高インダクタンス状態または前記低インダクタンス状態のうちの他方に置くようにすること」に相当する構成を備えているといえる。
4 引用発明は、「超伝導単極双投スイッチシステム10により、第1の端子(TMA)からの信号を第2の端子(TMB)または第3の端子(TMC)のうちの1つに転送する方法」であるところ、「第1の端子(TMA)」、「第2の端子(TMB)」及び「第3の端子(TMC)」には、「信号」を送受信する何らかの「オブジェクト」が接続されていることは明らかであり、「第1の端子(TMA)」、「第2の端子(TMB)」及び「第3の端子(TMC)」の各々に接続されている「オブジェクト」を、「第1オブジェクト」、「第2オブジェクト」及び「第3オブジェクト」と称することは任意である。
そして、前記2で検討したことからすると、引用発明においては、流れる電流の極性を変更する“動的”な制御信号を提供することにより、「第1オブジェクト」からの「信号」を、「第2オブジェクト」又は「第3オブジェクト」の一方に転送して、「第1オブジェクト」を「第2オブジェクト」又は「第3オブジェクト」のうちの1つだけに“結合”しているといえる。
よって、引用発明と本願発明の「少なくとも第1の量子オブジェクトを、前記動的制御信号の方向に基づいて、第2の量子オブジェクトまたは第3の量子オブジェクトのうちの1つだけに結合するように前記動的制御信号の方向を作動させること」とは、「少なくとも第1のオブジェクトを、前記動的制御信号の方向に基づいて、第2のオブジェクトまたは第3のオブジェクトのうちの1つだけに結合するように前記動的制御信号の方向を作動させること」との共通の構成を備えているといえる。
第6 一致点、相違点
以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点において一致ないし相違する。
1 一致点
「 再構成可能な量子ルーティングの方法であって、
RF-SQUIDのそれぞれの可変インダクタンス結合要素間で分割される電流を誘導するために少なくとも1つの共通インダクタを介して少なくとも2つのRF-SQUIDに誘導結合された第1の磁束ライン、または他のインダクタを介して前記少なくとも2つのRF-SQUIDまたは別の2つのRF-SQUIDに誘導結合された第2の磁束ラインのうちの一方に静的制御信号を提供すること、
前記第1の磁束ラインまたは前記第2の磁束ラインのうちの他方に動的制御信号を提供して、誘導された共通磁束電流と誘導された動的磁束電流との差が、前記可変インダクタンス結合要素のうちの少なくとも1つを、高インダクタンス状態または低インダクタンス状態のうちの一方に置き、前記可変インダクタンス結合要素のうちの少なくとも他方を前記高インダクタンス状態または前記低インダクタンス状態のうちの他方に置くようにすること、
少なくとも第1のオブジェクトを、前記動的制御信号の方向に基づいて、第2のオブジェクトまたは第3のオブジェクトのうちの1つだけに結合するように前記動的制御信号の方向を作動させること
を含む方法。」
2 相違点
共通点である「オブジェクト」が、本願発明においては「量子オブジェクト」であるのに対し、引用発明においては、「量子オブジェクト」であるとの具体的な特定がなされていない点。
第7 判断
1 相違点についての判断
上記相違点について、判断する。
本願明細書の【0004】には、「動的制御信号の方向は、少なくとも第1の量子オブジェクト(例えば、キュービット)を、動的制御信号の方向に基づいて、少なくとも2つの他の量子オブジェクトのうちの1つだけに結合するように作動させられる。」と記載されているように、本願発明の「量子オブジェクト」は、「キュービット」である場合を含む。
そして、引用文献1の【0010】の記載「超伝導単極双投スイッチシステム10は、様々な超伝導回路システムのいずれかに実装して、2つの代替経路間で信号のスイッチ制御を提供することができる。一例として、信号は、キュービット(qubit)に対してゲート動作または読み出し動作を実行するなど、量子回路用の制御方式で実施されるマイクロ波信号であってもよい。」及び、同【0023】の記載「可能な用途の一例では、単極双投スイッチをRQL磁束ポンプと一体化して、スイッチを2つの出力設定の間で切替える差動モード磁束を提供することができる。磁束ポンプおよびスイッチアセンブリは、さらに、超伝導キュービット回路と一体化することができる。このようなシステムは、例えば第3のキュービットの測定結果に基づいて調整された2つのキュービットのうちの1つに選択的にマイクロ波パルスを供給し、条件付き量子ゲートを実現することができる。別の可能な応用例では、スイッチは、RQLプロセッサの制御下で、一連のキュービットの異なるグループにマイクロ波読み出しパルスを印加するように構成することができる。」と記載されているように、引用文献1には、引用発明に係る「超伝導単極双投スイッチシステム10」を、「キュービット」を対象として使用する応用例が十分に示唆されているといえる。
加えて、引用文献2記載事項にあるように、RF-SQUIDを含むカプラ(スイッチ)に、「キュービット」を接続することにより「キュービット」間の結合を制御することは、本願優先日前における公知技術である。
よって、引用発明において、「第1の端子(TMA)」、「第2の端子(TMB)」及び「第3の端子(TMC)」に「キュービット」である「量子オブジェクト」を各端子に接続する構成を採用し、「量子オブジェクト」間の結合を制御するものとすることは、引用文献1に記載の示唆と、引用文献2記載事項を参酌することにより、当業者が容易に想到し得たことである。
2 作用効果について
上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
3 請求人の主張について
請求人は、令和5年6月28日に提出した意見書において、以下の主張をしている。
「 引用文献1の背景技術の欄(段落[0002])には、「従来のマイクロ波の機械的、電気機械的および電子的スイッチは、互換性のない製造プロセスおよび高い電力損失のために、超伝導電子回路のオンチップ集積化および超伝導電子回路の低温動作に適合しないことがある」と記載されている。この記載および他の箇所の記載から、引用文献1に記載の発明の課題は、従来のマイクロ波の機械的、電気機械的および電子的スイッチの代わりに、超伝導電子回路のオンチップ集積化および超伝導電子回路の低温動作に適合する超伝導単極双投スイッチを提供することであることが理解できるものと思料する。「従来のマイクロ波の機械的、電気機械的および電子的スイッチ」の代わりとして提供されるスイッチに、量子オブジェクトを接続することは当業者には通常想定されないことであるので、引用文献1に記載の発明から出発して、本願発明の上記相違点に対応する特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測は成り立たないものと思料する。
拒絶理由通知書において、引用文献1の段落[0010]および[0023]には、「超伝導単極双投スイッチシステム10」を「キュービット」を対象として使用する応用例が示唆されているから、「2つの独立したキュービットの遠隔結合を可能」にする引用文献2記載事項を参酌することにより、引用発明に係る「超伝導単極双投スイッチシステム10」の各端子に共振器を介して「量子オブジェクト」を接続するよう構成することは当業者が容易に想到し得たことであるとの指摘を受けている。しかしながら、引用文献1の段落[0010]および[0023]の記載は、段落[0002]の記載も併せて考えれば、単に、引用文献1に記載の超伝導単極双投スイッチの超伝導電子回路とのオンチップ集積化の具体例を挙げているに過ぎないことが理解できるものと思料する。
例えば、引用文献1の段落[0023]には、「可能な用途の一例では、単極双投スイッチをRQL磁束ポンプと一体化して、スイッチを2つの出力設定の間で切替える差動モード磁束を提供することができる。磁束ポンプおよびスイッチアセンブリは、さらに、超伝導キュービット回路と一体化することができる」と記載されているが、そのような一体化(集積化)における技術的課題の存在は一切示唆されていない。したがって、当業者は引用文献1に記載の発明に、引用文献2に記載の技術を適用する必要性をそもそも認識しないものと思料する。このように、引用文献1の発明に引用文献2に記載の発明の適用を試みる動機付けは存在しないものと思料する。
本願発明が、当業者にとって容易に想到し得るものであると判断されるためには、本願発明の特徴的な構成に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく、本願発明の特徴的な構成に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である(参考:知財高裁平成20年(行ケ)第10096号判決)。上述したように、引用文献1に記載の発明から出発して、本願発明の特徴的な構成に到達できる試みをしたであろうという推測は成り立たず、また、引用文献1には、本願発明の特徴的な構成に到達するための試みをしたはずであるという示唆等は存在しない。したがって、本願の独立請求項1および10に係る発明は、引用文献1および2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないと思料する。」
上記主張は、概略、引用発明(引用文献1)において「超伝導単極双投スイッチシステム10」に結合されるオブジェクトを「量子オブジェクト」とする十分な動機付けがない、との趣旨と認められる。
まず、請求人が主張するように、引用文献1の【0002】の記載によれば、引用発明は、従来のマイクロ波の機械的、電気機械的および電子的スイッチの代わりに、超伝導電子回路のオンチップ集積化および超伝導電子回路の低温動作に適合する超伝導単極双投スイッチを提供することを目的とするものであるから、一緒に集積化される他の超伝導電子回路と共に使用されることが企図されているといえる。よって、仮に従来技術におけるスイッチが「量子オブジェクト」と結合するものではなかったとしても、引用発明の「超伝導単極双投スイッチングシステム10」は、従来技術とは使用目的又は使用形態が異なり、かつ、その原理も「超伝導」に基づくものに変更されるため、従来技術におけるスイッチと結合されるオブジェクトが同じである必然性はない。
また、引用文献1の【0023】には、請求人が摘記した記載の直後に、「このようなシステムは、例えば第3のキュービットの測定結果に基づいて調整された2つのキュービットのうちの1つに選択的にマイクロ波パルスを供給し、条件付き量子ゲートを実現することができる。」と記載されているところ、当該【0023】には、「単極双投スイッチ」を「RQL磁束ポンプ」と一体化(集積)することのみではなく、そのことにより、2つの「キュービット」のうちの1つの信号を選択的に通過させる「量子ゲート」を実現することも記載されている。
また、引用文献1の【0010】には、「超伝導単極双投スイッチシステム10は、様々な超伝導回路システムのいずれかに実装して、2つの代替経路間で信号のスイッチ制御を提供することができる。一例として、信号は、キュービット(qubit)に対してゲート動作または読み出し動作を実行するなど、量子回路用の制御方式で実施されるマイクロ波信号であってもよい。」と記載されている。
これらの記載によると、引用文献1には、「超伝導単極双投スイッチシステム10」が「キュービット」に対して「ゲート動作」を実行することにより「量子ゲート」を実現することが記載されているといえる。
よって、引用文献1には、当業者が、引用文献1に記載の「超伝導単極双投スイッチシステム10」が「キュービット」すなわち「量子オブジェクト」を制御対象とするための試みをしたはずであるといえるだけの示唆が十分に存在するといえる。
加えて、引用文献2に記載されているように、RF-SQUIDを含むカプラ(スイッチ)に、「キュービット」を接続することにより「キュービット」間の結合を制御することは、本願優先日前における公知技術である。
よって、引用文献1の示唆及び引用文献2記載事項を参酌すれば、当業者が、引用発明(引用文献1)において「超伝導単極双投スイッチシステム10」に接続されるオブジェクトを「量子オブジェクト」とする十分な動機付けがあるといえる。
したがって、請求人の主張は採用しない。
第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項10に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-017354