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特許拒絶査定不服審判

2022-017202

土木構造物監視システム、土木構造物監視装置、土木構造物監視方法、及びプログラム

審判番号
2022-017202
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-556724外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年10月27日
審決日
2024年01月24日
公報発行日
2024年04月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (G01D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-556724号「土木構造物監視システム、土木構造物監視装置、土木構造物監視方法、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和2年5月22日国際公開、WO2020/100509〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 16項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、2019年(令和元年)10月16日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 2018年(平成30年)11月12日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。

令和4年 3月31日付け:拒絶理由通知

同年 6月 1日 :意見書、手続補正書の提出

同年 7月26日付け:拒絶査定

(同年 8月 2日 :拒絶査定の謄本の送達)

同年10月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和5年 8月30日付け:拒絶理由通知書

同年11月 2日 :意見書、手続補正書の提出

なお、令和5年8月30日付けで当審において通知した拒絶理由通知を、以下「当審拒絶理由通知」といい、これに対して、同年11月2日に請求人から提出された意見書を、以下、単に「意見書」という。

また、2018年11月12日を「優先日」という。

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年11月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
複数の土木構造物に敷設された通信用光ファイバを含むケーブルと、
前記ケーブルに含まれる少なくとも1つの通信用光ファイバから、前記土木構造物の劣化状態に応じた振動パターン又は音響パターンを含む後方散乱光を受信する受信部と、
前記後方散乱光の受信時刻に基づいて、当該後方散乱光を発生させた土木構造物を特定する特定部と、
前記振動パターン又は前記音響パターンと前記特定された土木構造物に対応する学習モデルとのパターンマッチングに基づいて、前記特定された土木構造物の劣化状態を検出する検出部と、
を備える土木構造物監視システム。」

第3 当審拒絶理由通知で指摘した拒絶の理由の概要

当審拒絶理由通知で指摘した拒絶の理由のうち、理由1(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。

理由1(進歩性の欠如)

本願の請求項1~10に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

記

引用文献3:門万寿男、佐藤拓哉「光ファイバセンサによる構造物の長期連続モニタリング」応用力学論文集Vol.6、1105~1112頁(2003年8月)土木学会
引用文献4:特開2014-502345号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特表2018-504603号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:中村充「建築構造物のヘルスモニタリング」計測と制御41巻、11号、819~824頁、2002年11月号(周知技術を示す文献)
引用文献7:全邦釘「AIの進化が拓くインフラメンテナンスの未来」2018年9月28日、設立10周年記念CAESAR講演会資料(技術常識を示す文献)
引用文献8:久保陽太郎「ディープラーニングによるパターン認識」情報処理、54巻、5号、500~508頁、2013年5月(技術常識を示す文献)

第4 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等

1 引用文献3に記載された事項及び引用発明の認定

(1) 引用文献3に記載された事項

当審拒絶理由通知において引用した引用文献3(門ほか「光ファイバセンサによる構造物の長期連続モニタリング」)には、以下の事項が記載されている。下線は合議体が付したものである。以下同様である。

なお、○印の中に算用数字を含む符号は、「○1」等として表記した。

また、脚注番号の摘記は省略した。

ア 1105頁の左欄1行~同頁右欄12行

「1.はじめに
わが国の社会基盤は、昭和30年代後半から40年代の高度成長期に建設されたものが多く、長期間の供用による損傷や環境の影響による劣化が顕在化しており、多額の維持管理・更新費用を必要とする状況になってきた。従来のように老朽化が進んだものは順次更新するということを今後も継続していくことは困難であり、既存構造物の長寿命化が強く要求されるようになってきた。これは、近年特にクローズアップされてきた地球環境の保護(省資源、省エネルギー)にも貢献することになる。
構造物の維持管理は、これまでは主に目視観察による材料の変質やひび割れ状況のなどの外観調査を行い、必要に応じて非破壊検査や採取した試料について材料試験を行うものであった。これらの方法は主に材料面の性能劣化を評価し、それに基づいて構造物の健全度をランク付けするものであり、構造面からの評価が十分行われているとは言い難い。これは構造物の健全度を評価するために適当なパラメータを定量的に計測する手段が欠けていたことによるものと考えられる。
老朽化が進んだ構造物が多くなった現在、その構造物が本来持っている耐力を定量的に評価し、有効に使い切るための技術、老朽化した構造物をどうにかしてそのまま使い続けるための技術が必要になってきたと言える。そのためには、安全性をどのようにして保証するかが技術的な課題となる。それに対して有効な回答を与えるのが長期連続モニタリングである。これまでも長期モニタリングが行われてきた例もあるがその多くは、例えば1日1データのようなスポット的な計測であったり、モニタリング結果の評価基準が絶対値であり、必ずしも長期モニタリングの有効性が発揮されているとは言い難い。
光ファイバセンサは従来のセンサにはない優れた特性を有しており、構造物の維持管理や長寿命化に大きく貢献するものと期待されている。本論文では、光ファイバセンサを適用した長期連続モニタリングの概念を明確にするとともに、構造物の維持管理への新しい適用を提案するとともに、これまでに実施された実構造物についての長期連続モニタリングデータを紹介してその有効性を示す。」

イ 1105頁右欄13行~1106頁左欄10行

「2.構造物の維持管理における長期連続モニタリングの役割
これまでの構造物の維持管理は、定期的な目視検査や非破壊検査の情報、各種計測の結果などを基に補修あるいは補強方法を決め、それで対応できないものは更新するという対応が採られてきた。目視検査や非破壊検査は構造物の損傷や劣化を調べる上で基本となるものであるが、その結果は必ずしも定量的なものではない。いくつかの項目を評価して健全度のグレード分けが行われるため、評価項目が多くなるほど健全性が損なわれているという結論になりがちな傾向は否めない。
定量的な情報を得るために、変位やたわみなどを定期的に計測するケースがある。一般に、構造物は機械的な外力の他に気温や日照などの変動に伴って日単位に、あるいは年単位で周期的に熱変形する。橋梁などの交通荷重に対する動的変形を計測する場合は温度の変化を特に問題にする必要がないが、長期的な変状を問題にする場合はこの熱変形はオーダー的に無視できない場合が多い。通常、構造物は非均一温度場となるので、定期的な計測の場合は熱変形を補正することが困難であり、計測値の信頼性を損なうことがある。橋梁など、日照の影響を直接受ける構造物においてはこの傾向は特に顕著である。」

ウ 1108頁左欄5行~同頁右欄最終行、図-4

「4.長期連続モニタリングのためのシステム
構造物の長期連続モニタリングを行うためのシステムに求められる要件を以下に示す。
○1 センサが長期間安定していること
システムが長期間(10~50年)安定していることが重要である。特にセンサ部の安定性は不可欠であり、光ファイバセンサはこの要求を満足している。
続きを表示(全22行)
○2 対象構造物の全体的な挙動を把握できること
長期連続モニタリングの目的は、材料的な劣化やひび割れなどの損傷のある構造物の健全度や安定性を評価することである。ひずみゲージのようにゲージ長さの短いものは、弾性領域では正確な計測が可能であるが、ひび割れが発生した後は歪及び応力の再分布が生じるためデータのバラつきが激しくなり、構造モニタリングとしての有効性が失われる。ひび割れなどの局部的な影響を受けずに構造物の全体的な挙動を把握するためには、測定長さの大きいセンサが必要である。
○3 静的及び動的挙動を把握できること
長期連続モニタリングは、主にゆっくり進行する変状を評価するものであるが、地震のような突発的な事象に対しても自動的に動的測定ができることが重要である。
○4 測定感度が高いこと
構造物のわずかな変形から変状の初期段階を把握するためには、センサが高感度である必要がある。
○5 温度の影響がないこと
実際の構造物は温度によっても変形する。一般的には不均一温度場となるので温度による変形とそれ以外のものに起因する変形を分離することは容易ではない。少なくともセンサ自体は温度の影響を受けないものである必要がある。
○6 ノイズの影響を受けないこと
センサは電気ノイズや雷の影響を受けないものであることが必要である。一般に、光ファイバセンサはこの要求を満足している。
○7 センサの取付けが容易であること
センサの取付けが容易であれば、取付け場所の制約がなく、どのような場所、どのような表面状態でも設置できることを意味する。また、道路施設や鉄道施設の場合、設置作業時間の制約が大きいので、センサ取付けが容易であることは実用上非常に重要となる。
○8 電源喪失に対して問題がないこと
長期モニタリングの間には必ず電源喪失(停電)がある。データの連続性の確保、遠隔モニタリングの観点から、仮に一時的に電源喪失があっても自動復帰するシステムであり、再調整が不要なシステムでなければならない。
○9 自動で連続測定ができ、遠隔地からモニタリングできること
長期にわたってモニタリングするためには、データ収集の自動化と遠隔モニタリングシステムが構築されていることは必須である。遠隔モニタリングシステムの概念を図-4に示す。(現在提案されている光ファイバーセンサーの種類と比較については文献(1)を参照されたい)
[図:0001408507000001.jpg]
」

エ 1109頁左欄1行~1110頁左欄11行、図-5

「5.長期連続モニタリングの実施例
現在実際に長期間連続モニタリングを実施している土木構造物の代表的な実施例として、非常に古い鉄道高架橋と道路トンネルおよび法面についてのモニタリング結果を以下に示す。
5.1 鉄道高架橋
(1)モニタリングの概要
この高架橋は古いレンガ造の連続アーチ高架橋である。モニタリング目的は、通常はアクセスが難しく検査が困難な部位について、遠隔で長期的な変状を監視することである。高架橋の端部に近い一つのスパンを抽出し、図-5に示すように、長さ2mの光ファイバセンサ4本をアーチに沿って設置した。
モニタリングは30分に1回の頻度でデータを保存する静的計測と、必要に応じて列車の通過に対する挙動の動的計測や、地震などの突発的な事象に対する動的計測を行っている。」
「
[図:0001408507000002.jpg]
」
「(2)モニタリング結果
モニタリング開始から900日間(約2.5年)の連続モニタリング結果を図-6に示す。図中の変形量は、長さ2mのセンサーを固定した両端の間の相対変位を表す。」
「
[図:0001408507000003.jpg]
」
「センサ○1,○2とセンサ○3,○4の測定値は1年周期で逆モードの変形となっている。これは、以下のような理由による。上部構造が季節的な温度変動によって膨張、収縮しようとするのに対し、基礎部が固定されているため連続高架橋には中央部を中心に左右対称にゆがみが生じる。このゆがみは連続高架橋の端部に近くなるほど大きくなる。本モニタリングは連続高架橋の端部に近いスパンを抽出して行ったので、アーチ部には図-6に示すような逆対象の変形が生じた。長期的な傾向としては、センサ○1,○2の変形は圧縮側に、センサ○3,○4の変形は引張り側にわずかにシフトする傾向がみられる。しかし、このシフト傾向は2.5年後の現在は停止する傾向を示している。
1年周期の変形が上部構造の温度変化に起因するものであることに対し、シフト傾向は経年的な変化と解釈することができる。経年変化の原因としては、例えば基礎の不均一な沈下や構造材の劣化などが考えられる。しかし、シフト量は非常に小さい値であり、構造全体としては安定した状態を維持しているものと判断される。
一般に、構造物の剛性が低下すると、固有振動数や振幅などの動的特性が変化する。この変化に着目することによって構造物の損傷状態を評価することもできる。
現状においては、動的特性の変化量と部材の劣化の定量的関係は不明である。しかし、モニタリングにおいては異常の兆候を把握することが重要であり、兆候が見られた場合は他の方法によって劣化部や程度を調べることになる。」

オ 1110頁左欄17行~同頁右欄9行、図-8、図-9

「5.2 道路トンネル
(1)モニタリングの概要
このトンネルは山岳工法で建設された総延長約6Kmの道路トンネルである。モニタリング目的は、地山の動きに伴う覆エコンクリートの変状を長期にわたって監視することである。
センサは坑口から約3Km地点の数カ所の計測断面に対し、図-8に示すように、長さ2mの光ファイバーセンサをトンネルの天端中心振り分けで4本設置した。
モニタリングは30分に1回の頻度でデータを保存する静的計測と、地震などの突発的な事象に対する動的計測を行っている。
[図:0001408507000004.jpg]
(2)モニタリング結果
モニタリング領域の代表的な計測断面について、モニタリング開始から約540日(約1.5年間)におけるモニタリング結果を図-9に示す。センサによって多少の差はあるものの、いずれのセンサの結果も、日々の温度変動に伴って変動しながら、全体的には1年周期の季節変動に伴って圧縮,膨張を繰り返している。長期的に見れば、いずれも基軸がわずかに圧縮側にシフトしている。このシフトの原因は現段階では特定できないが、背面土圧の変動のような何らかの進行性成分の存在を示唆している。
このモニタリング結果は、覆工コンクリートの構造健全性の観点からは、特に問題となるような大きな変形は認められず、構造的には安定な状態が維持されているものと判断される。」
「
[図:0001408507000005.jpg]
」

カ 1111頁左欄最終行~1112頁左欄6行、図-12、図-13

「5.3 法面
(1)モニタリングの概要
この法面は鉄道軌道用として建設された盛土の法面であり、一部に集中豪雨により小規模な地滑りが発生した。
地滑り個所を復旧するとともに、長期的な法面の遠隔監視を目的としてモニタリングが実施された。
センサは、地滑りが発生し復旧した個所に1本、復旧個所の周辺の法面に3本、合計4本設置した。センサの設置方法としては、センサを取付けた杭を垂直に埋め込み、杭の曲げ変形によって地滑りの発生を検知できるようにした。法面形状及びセンサー設置位置を図-12に示す。
モニタリングは30分に1回の頻度でデータを保存する静的計測と、地震などの突発的な事象に対する動的計測を行っている。さらに、計測値が管理値を越えた場合、管理事務所に自動的に警報を送信するシステムとした。
[図:0001408507000006.jpg]
(2)モニタリング結果
モニタリング開始開始から1年間のモニタリング結果を図-13に示す。縦軸は杭の変形量であり、法面の動きはこの測定値の約20倍である。図より、復旧個所以外では大きな動きが見られず、安定した状態が続いていることが分かる。これに対して、復旧個所では最初の半年間わずかずつ変形が進行している。これは降雨のたびに復旧個所の地盤が徐々に締め固まってきたことを表している。モニタリング開始半年後に急激な動きが見られるが、これは台風による集中豪雨に伴い、まだ完全に安定化していない復旧個所に地滑りが再発したことを表している。ただし、計測値の急激な変化量が約4mmであり、法面の動きに換算すると約80mmと小規模なものであることが分かる。このことは、実際の地滑りが表層土のわずかな崩れだけであったこととよく一致する。」
「
[図:0001408507000007.jpg]
」

(2) 引用文献3の記載から認定した事項

引用文献3の図-4(再掲)から、次のア~ウに示す事項を読み取ることができる。

ア 光信号伝送用光ファイバケーブルに含まれる光ファイバセンサをモニタリング対象構造物に設置すること。

イ モニタリング対象構造物の付近に現場計測装置を設置し、電話回線、携帯電話等を介して遠隔地から監視すること。

ウ 現場計測装置は、計測値が管理値を超えた時、監視所、携帯電話等に警報を発報するものであること。

[図:0001408507000008.jpg]

(3) 引用発明の認定

前記(1)において摘記した事項及び前記(2)において認定した事項から、引用文献3には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。なお、括弧内に引用文献3の記載の該当箇所の見出し符号を示した。

<引用発明>

「鉄道高架橋、道路トンネル、法面等の構造物の長期連続モニタリングのためのシステムであって、(4.、5.1~5.3)
長期連続モニタリングの目的は、材料的な劣化やひび割れなどの損傷のある構造物の健全度や安定性を評価することであり、(4.)
構造物は機械的な外力の他に気温や日照などの変動に伴って日単位に、あるいは年単位で周期的に熱変形するものであり、(2.)
光信号伝送用光ファイバケーブルに含まれる光ファイバセンサをモニタリング対象構造物に設置し、(前記(2)アの認定事項)
モニタリング対象構造物の付近に現場計測装置を設置し、電話回線、携帯電話等を介して遠隔地から監視し、(前記(2)イの認定事項)
現場計測装置は、計測値が管理値を超えた時、監視所、携帯電話等に警報を発報するものであり、(前記(2)ウの認定事項)
構造物の剛性が低下すると、固有振動数や振幅などの動的特性が変化し、この変化に着目することによって構造物の損傷状態を評価することができる、(5.1(2))
構造物の長期連続モニタリングのためのシステム。」

2 引用文献9~11に記載された事項及び技術常識Aの認定

(1) 引用文献9に記載された事項

この審決において新たに引用する次の文献には、以下のア~エに示す事項が記載されている。

呉智深ほか2名「都市インフラに関する構造ヘルスモニタリングの現状と展望-展望論文-」応用力学論文集、6巻、1043~1054頁、2003年8月、土木学会(以下「引用文献9」という。)

ア 1048頁左欄1行~8行

「 光ファイバによる検知原理には,このファイバを伝播する光の偏光,干渉,後方散乱などの現象,あるいはファイバの破損などによる伝播する光が変化する現象が利用されている.これらの現象により構造物の損傷やひずみを検出・計測する光ファイバセンサは分光型,位相型(偏光型,干渉計型など),および光損失計測型の3種類のセンシング方法が考えられる.」

イ 1048頁左欄下から11行目~同頁右欄22行

「光損失計測型は光ファイバ経路の任意箇所の曲げやたわみによる光強度損失量の計測から構造物の変形部分を検出する手法である.代表的なものとしてOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)やCoherent OTDRがあり,敷設が容易で,一本の光ファイバケーブルで連続的に計測可能なことから分布計測に向いているが,位相法や分光法と比較すると感度が低く,距離分解能もかなり長くなっている.OTDRは一応分布型と考えられるが,変状箇所において光損失が増大し,光ファイバ中を伝播する光量が減衰するので,変状箇所以遠の測定が困難,あるいは不能になってしまう可能性がある.これに対して,より先進的なセンシング手法として,OTDRと後方散乱光の分光技術を併用した技術が日本や欧州,カナダにおいて開発されている.まず,ラマン散乱を利用したOTDR(ROTDR)は温度分布計測手法として開発されている.ブリルアン散乱分光技術とOTDR技術を用いたBOTDRでは,光ファイバの長さ方向に発生したひずみ分布計測が可能になっている.これらはいわゆる空間的に連続計測となっており,本格的な分布センサと考えられるが,現行のBOTDR技術では,その最短の距離分解能は1mになっている.即ち,あるサンプル点のひずみ計測結果は,この点から1m以遠の範囲内におけるひずみ分布の総合的な結果になる.
構造物のSHMの実現については光ファイバセンシングに期待するところが大きい.そのため,土木工学における光センシングの研究開発もかなり盛んに行われるようになっている.適用に関する初期段階の研究開発は参考文献において詳細に紹介されているので,ここでは,最近の研究動向を中心に紹介する.」

ウ 1049頁右欄下から2行目~1050頁左欄22行

「呉らと石井らはBOTDRセンシングの引張・圧縮ひずみに対する検出性状,ゲージ長の変化による影響などの基礎的な検討を踏まえて,コンクリートのひずみ分布,ひび割れ幅などの局所変位,補強材の剥離や損傷などのモニタリング手法を提案してきた.図-6(a)に示されるように,計測精度の向上を図りながらゲージ長の変化可能なセンシング設置方法を提案した.このことから,適切なセンシング手法の検討により,懸念している精度と不安定さの問題はかなり改善できるように思われ,そうでないとBOTDR技術の応用に様々な問題が生じる可能性がある.なお,日本において,FRP緊張接着工法により補強された高速道路橋梁桁の補強効果(緊張力の維持,FRP接着状況およびコンクリートひび割れなど)などのヘルスモニタリングを行うために,実橋におけるBOTDRの設置も実施されている.また,NATM(New Austrian Tunnelling Method)により建設されたコンクリートトンネルの支持効果を監視するために,清水建設とNTTの共同開発によりBOTDRによるヘルスモニタリングシステムが構築されている.今後,BOTDRに関する基本的な計測原理と設置手法を更に究明するとともに,図-6(b)のように複数の構造物を一括集中管理できるシステムの構築が可能になろう.」

エ 1049頁右欄の図-6

「
[図:0001408507000009.jpg]
」

(2) 技術常識Aの認定

ア 前記引用文献9には、明示の記載は無いが、次の引用文献10にも記載されているように、BOTDR方式の場合、使用される光ファイバセンサは、一般に通信用に使用されるシングルモードタイプのものである。

「13_BOTDR方式での設計・施工の留意事項は何ですか」(URL:https://www.phosc.jp/cms/article/000076.html)(2018年01月08日掲載)(以下「引用文献10」という。)には、次のとおり記載されている。

「BOTDR方式の特長は、光ファイバセンサの全長に亘って歪の発生が把握出来ることです。使用される光ファイバセンサは、一般に通信用に使用されるシングルモードタイプのものであり入手が容易です。」

イ 前記引用文献9には、明示の記載は無いが、次の引用文献11に記載されているように、BOTDR方式は、光ファイバの後方散乱光の遅延時間に基づいて、後方散乱光の発生地点を特定するものである。

引用文献11:成瀬央「光ファイバによる構造物のモニタリング」日本機械学会誌、2006年3月、Vol.109、No.1048、22~23頁
「2.BOTDRシステムとひずみ計測原理
BOTDRシステムは図1に示すように,センサとして計測対象に設置する光ファイバと,そのひずみを計測するための装置(BOTD Reflectometer)から構成される.光ファイバに光を入射すると,いくつかの散乱光が発生する.その一つがブリルアン散乱光であり,発生した場所に生じているひずみに比例して,そのスペクトルが周波数シフトする.BOTDRはこの物理現象に基づいてひずみを計測している.散乱光の発生位置は,パルス光を入射してから散乱光を観測するまでの経過時間から求めている.短い時間間隔で散乱光を観測することによって,たとえば10cm間隔というように,実効的に,光ファイバ上の連続した位置でのひずみ計測を実現している.」
「
[図:0001408507000010.jpg]
」

ウ 前記ア及びイの点も留意すると、前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識A」という。)。

<技術常識A>

「通信用光ファイバを監視対象の複数の構造物に渡って設置し、BOTDR方式(ブリルアン散乱分光技術とOTDR技術を用いたもの)により、光ファイバの後方散乱光の遅延時間に基づいて、後方散乱光の発生地点を特定すること。」

3 引用文献4、5に記載された事項及び技術常識Bの認定

(1) 引用文献4に記載された事項

当審拒絶理由通知において引用した引用文献4(特表2014-502345号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 【0001】、【0012】、【0017】~【0018】

「【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプまたは送電ケーブルなどの、海洋または陸上の定置構造物の少なくとも一部の完全性を監視するための完全性監視システムに関する。本発明はまた、定置構造物の少なくとも一部の完全性を監視する方法に関する。」
「【0012】
本明細書で用いる「定置構造物」という用語は、損傷を受けていない状況において、一般的に固定位置に保持され、任意には自然環境の影響のために、たとえば、風および/または水による限定された動作を受ける任意の固体(solid)構造物を意味する。たとえば定置構造物は、海底構造物であり、例えば海水流によって振動が生じる等したときに砂丘等の堆積物の移動によって海底の定置構造物の越流が生じることもある。他の定置構造物の例は後述する。」
「【0017】
「完全性監視」は、監視によって、監視対象の海中構造物の一部が激しく損傷し、通常の可動の障害となるかを、少なくとも検知可能であることを意味する。好ましくは、完全性監視は海中構造物の小さい損傷でも監視し、または海中構造物の損傷の危険性が高まったことを示すパラメータを監視することによって、損傷を回避することさえできるように、十分に感度が良い。
【0018】
本明細書の「振動」は、任意の波長の振動を意味するものと解釈されるべきであるが、一具体例では音響振動を意味する。本明細書の音響振動は、液体、および任意には固体における機械波を意味するものと解釈されるべきである。」

イ 【0053】~【0054】

「【0053】
一実施形態において、振動センサは分散型振動センサである。
ファイバセンサなどの分散型センサは、たとえば1km以上、たとえば5-100kmまたは10-50kmなどの数百キロメートルまでにさえなる長い範囲も1つのセンサで監視することができるという有利点を提供する。したがって、監視対象の定置構造物が相対的に長い状況において、分散型振動センサを完全性監視システムで用いることは非常に有利である。ただし、分散型振動センサによって取得したデータの処理には、コンピュータの複雑なプログラミングが必要となることもある。しかし、このようなデータ処理用ソフトウェアは入手可能であり、不当な負担なしに当業者が選択することができる。任意の分散型振動センサに対して必要なソフトウェアは、分散型振動センサと一緒に販売されることが多い。
【0054】
一実施形態において、振動センサは光ファイバセンサを備える。光ファイバセンサは、好ましくは、ブリルアン後方散乱、ラーメン後方散乱またはレイリー後方散乱などの後方散乱効果によって動作されるように構成される。」

(2) 引用文献5に記載された事項

当審拒絶理由通知において引用した引用文献5(特表2018-504603号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 【0001】~【0004】

「【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバセンシング装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバセンサは、例えば地球物理学的用途(ジオフォン又はハイドロフォンの代わりに、又はこれらと共に)、(周辺セキュリティなどの)セキュリティ用途及び監視用途などの様々な用途で使用することができる。監視機能の一例に、鉄道などの複雑なシステムの監視を含む、インフラストラクチャの監視がある。光ファイバセンサは、例えば線路上の列車又はその他の移動資産の存在及び位置を検出するために使用することができる。また、このようなセンサは、資産状態の監視を行うこともでき、例えば資産によって生じる痕跡の頻度が「通常の」頻度に一致するかどうかを判断することができる。これらのセンサは、例えば落石、土砂崩れ、トンネル及び橋の崩壊シナリオの監視、並びに許可された動き及び許可されていない動きの監視(すなわち、線路上の関係者又は侵入者を「リスン」すること)などの、より一般的なインフラストラクチャ監視を行うこともできる。
【0003】
分散型音響センシング(DAS)は、光学的に問い合わせを受けてその長さに沿った音響/振動活動の検知を行う一定長の縦走ファイバを使用する。ファイバの長さは、一般にシングルモードファイバであり、通常はミラー、反射器、回折格子を含まず、又はその長さに沿った光学特性の変化がない。ファイバの長さは、受信信号を解釈するために処理目的で複数のチャネルに分割される。
【0004】
分散型音響センシングでは、レイリー後方散乱現象を利用することができる。標準的な光ファイバのランダムな不均質性により、ファイバに注入されたパルスからの少量の光がファイバの長さに沿った数多くの位置から後方に反射される結果、単一の入力パルスに応答する連続的な帰還信号が生じる。ファイバに沿って外乱が発生した場合、この外乱がその地点の後方散乱光を変化させる。この変化を受信機において検出し、ここからソース外乱信号を特徴付けることができる。」

イ 【0032】~【0034】、【図1】

「【0032】
図1を参照すると、細長い標準的なシングルモード光ファイバ102を含むセンシング装置100が、分散型音響センシング(DAS)問い合わせユニット104に接続されている。光ファイバ102は、例えば(埋められた又は地表の)境界線及び囲い線などの境界、或いはパイプライン、電路、道路又は線路などの線形資産などの、監視することが望ましいいずれかの経路に沿って配置することができる。経路は、真っ直ぐである必要はない。
【0033】
問い合わせユニット104は、ファイバ102の全長に沿った分散型センシングを提供するように、ファイバ102内に光を発し、ファイバ102から戻された光を検出するように適合される。この例のユニット104は、実質的に英国特許第2442745号に記載されている通りのものであり、光時間領域後方散乱測定法(OTDR)を用いて、長さが10mの約4000個の隣接するセンシング「ビン」の同時独立センシング能力を提供する。英国特許第2442745号に記載されるように、レイリー後方散乱現象によって、ファイバに入力された光の一部が後方に反射して問い合わせユニット104に戻され、問い合わせユニット104がこの光を検出して、ファイバ102の近くの音響外乱を表す出力光信号を提供する。従って、問い合わせユニット104は、既知の光周波数差によって分離された複数の光パルスを生成する、少なくとも1つのレーザ108と、少なくとも1つの光変調器110とを含むことが好都合である。問い合わせユニット104は、ファイバ102内の内在する散乱箇所からレイリー後方散乱された放射を検出するように構成された少なくとも1つの光検出器112も含む。
【0034】
他のレイリー後方散乱DASセンサの問い合わせスキームも知られており、本発明の実施形態の実施において使用することもできる。また、ブリルアン散乱又はラマン散乱に基づくスキームも知られており、ヘテロダイン干渉法に基づくスキームと同様に本発明の実施形態において使用することができる。」
「【図1】
[図:0001408507000011.jpg]
」

(3) 技術常識Bの認定

前記(1)及び(2)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識B」という。)。

<技術常識B>

「ブリルアン後方散乱を検出する光ファイバの振動センサや音響センサにより構造物を監視すること。」

4 引用文献7に記載された事項及び技術常識1の認定

(1) 引用文献7に記載された事項

当審拒絶理由通知において引用した引用文献7(全邦釘「AIの進化が拓くインフラメンテナンスの未来」)には、次の記載がある。

ア スライド16~20

(ア) スライド16

「
[図:0001408507000012.jpg]
」

(イ) スライド17

「
[図:0001408507000013.jpg]
」

(ウ) スライド18

「
[図:0001408507000014.jpg]
」

(エ) スライド19

「
[図:0001408507000015.jpg]
」

(オ) スライド20

「
[図:0001408507000016.jpg]
」

イ スライド21~29

(ア) スライド21

「
[図:0001408507000017.jpg]
」

(イ) スライド22

「
[図:0001408507000018.jpg]
」

(ウ) スライド23

「
[図:0001408507000019.jpg]
」

(エ) スライド24

「
[図:0001408507000020.jpg]
」

(オ) スライド25

「
[図:0001408507000021.jpg]
」

(カ) スライド26

「
[図:0001408507000022.jpg]
」

(キ) スライド27

「
[図:0001408507000023.jpg]
」

(ク) スライド28

「
[図:0001408507000024.jpg]
」

(ケ) スライド29

「
[図:0001408507000025.jpg]
」

ウ スライド52

「
[図:0001408507000026.jpg]
」

エ スライド55

「
[図:0001408507000027.jpg]
」

(2) 技術常識1の認定

前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という。)。

<技術常識1>

「土木構造物の監視において、学習モデルを生成して、ディープラーニングを活用すること。」

5 引用文献8に記載された事項及び技術常識2の認定

(1) 引用文献8に記載された事項

当審拒絶理由通知において引用した引用文献8(久保陽太郎「ディープラーニングによるパターン認識」)の500頁左欄1行~同頁右欄下から7行目には、次の記載がある。

「ディープラーニングとは何か
パターン認識は音声や画像などの入力信号から,それに対応するタグを推定する処理である.具体的には,音声認識の場合は音声信号から単語タグの列を,文字認識の場合は文字画像から対応する文字タグを推定するといった処理を表し,応用先に応じた入力信号/タグの定義を用いる.近年このようなパターン認識の分野において,ディープラーニング(Deep Learning:深層学習)と呼ばれる技術がブレクスルーを起こし,大きな注目を集めている.たとえば音声認識の分野では,ディープラーニングを利用することによって,これまでの最先端技術を結集して作られた音声認識器の精度をさらに超えることが可能であるといった報告があり,現在では高精度な音声認識器を構築するための重要技術であると考えられている.また,コンピュータビジョンの分野においても,IMAGENET Large Scale Visual Recognition Challenge(ILSVRC)という国際コンペティションで,ディープラーニングに基づく認識器は2位の研究グループが利用した認識器の性能を大きく引き離してトップの性能を示した.
ディープラーニングという言葉は,非常に広い意味を持つ言葉であり,今日までさまざまな意味でのディープラーニングが提案されている.本稿では以降,ディープニューラルネットワーク(Deep Neural Network:DNN)によるパターン認識という意味でディープラーニングという語を用いるが,ほかにも潜在変数が階層的に深い生成モデルの学習や,再帰的にカーネル法により処理を適用するものなどもディープラーニングと呼ばれることがある.
ディープラーニングは,機械学習の技術の1つである.特に本稿ではDNNによるパターン認識を取り上げるため,入力ベクトルxがあったとき,それに対応する出力クラスk^を推定する,いわゆる「教師有り学習」と呼ばれているものを対象とする.教師有り学習の問題は一般的に,入力の一例xと出力の一例kの対応スコアを計算する関数q(x,k)をどのようにして設計するかという点に帰着される.q(x,k)の設計の指針は大別して3通りあり,1つ目は生成モデルアプローチと呼ばれる.生成モデルアプローチではq(x,k)をxとkの同時分布P(x,k)であるとして,q(x,k)の設計を行う.2つ目は識別モデルアプローチと呼ばれ,q(x,k)をxを観測した上でのkの条件付き分布P(k|x)であるとして,q(x,k)の設計を行う.3つ目は識別関数法と呼ばれるもので,q(x,k)に確率分布としての制約をいっさい置かずに直接設計する方法である.どのアプローチであっても,q(x,k)があれば,入力に対する出力の推定値k^は,すべての出力候補kについてq(x,k)を評価することによって,k^=argmaxkq(x,k)のように求めることができる.」

(2) 技術常識2の認定

前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という。)。

<技術常識2>

「ディープラーニングによって、パターン認識を行うこと。」

第5 対比

1 対比分析

本願発明と引用発明を対比する。

(1) 引用発明の「鉄道高架橋、道路トンネル、法面等の構造物」は、本願発明の「土木構造物」に相当し、引用発明の「鉄道高架橋、道路トンネル、法面等の構造物の長期連続モニタリングのためのシステム」は、本願発明の「土木構造物監視システム」に相当する。

よって、本願発明と引用発明は、「土木構造物監視システム」の発明である点において一致する。

(2) 引用発明の「光信号伝送用光ファイバケーブル」は、本願発明の「通信用光ファイバを含むケーブル」に相当する。

引用発明において、「光信号伝送用光ファイバケーブルに含まれる光ファイバセンサをモニタリング対象構造物に設置」することは、本願発明において、「通信用光ファイバを含むケーブル」が「土木構造物に敷設された」ことに相当する。

よって、本願発明と引用発明は、「土木構造物に敷設された通信用光ファイバを含むケーブル」を備える点において共通する。

(3) 引用発明の「材料的な劣化やひび割れなどの損傷のある構造物の健全度や安定性を評価すること」は、本願発明の「前記土木構造物の劣化状態を検出する」ことに相当する。

引用発明の「現場計測装置」は、「光信号伝送用光ファイバケーブルに含まれる光ファイバセンサ」からの光信号を受信していることは明らかであるから、引用発明の「現場計測装置」は、本願発明の「前記ケーブルに含まれる少なくとも1つの通信用光ファイバから、前記土木構造物の劣化状態に応じた」「光信号を受信する受信部」に相当する構成を備えているといえる。

さらに、引用発明の「現場計測装置」は、「構造物の剛性が低下すると、固有振動数や振幅などの動的特性が変化し、この変化に着目することによって構造物の損傷状態を評価することができる」のであるから、「振動パターン又は音響パターンを含む」光信号を受信するものであるといえる。

よって、本願発明と引用発明は、「前記ケーブルに含まれる少なくとも1つの通信用光ファイバから、前記土木構造物の劣化状態に応じた振動パターン又は音響パターンを含む光信号を受信する受信部」を備えるという点で共通する。

(4) 引用発明の「現場計測装置」は、「計測値が管理値を超えた時、監視所、携帯電話等に警報を発報するもの」であるから、土木構造物の劣化状態を検出する検出部を備えていることは明らかである。

よって、本願発明と引用発明は、「前記土木構造物の劣化状態を検出する検出部」を備える点で共通する。

2 一致点及び相違点の認定

前記1の対比分析の検討結果を総合すると、本願発明と引用発明は、次の(1)の一致点において一致し、後記(2)の相違点において相違する。

(1) 一致点

「土木構造物に敷設された通信用光ファイバを含むケーブルと、
前記ケーブルに含まれる少なくとも1つの通信用光ファイバから、前記土木構造物の劣化状態に応じた振動パターン又は音響パターンを含む光信号を受信する受信部と、
前記土木構造物の劣化状態を検出する検出部と、
を備える土木構造物監視システム」である点。

(2) 相違点

本願発明においては、

<構成A>

通信用光ファイバを含むケーブルが敷設された土木構造物が、「複数」であり、

「受信部」が受信する「前記土木構造物の劣化状態に応じた振動パターン又は音響パターンを含む光信号」が、「後方散乱光」であり、「前記後方散乱光の受信時刻に基づいて、当該後方散乱光を発生させた土木構造物を特定する特定部」を備え、

<構成B>

前記土木構造物の劣化状態を検出する方法が、

「検出部」が、「前記振動パターン又は前記音響パターンと土木構造物に対応する学習モデルとのパターンマッチングに基づいて」行うのに対して、

引用発明においては、構造物は単数であり、

光信号が後方散乱光であるのか不明であり、後方散乱光の受信時刻に基づいて、当該後方散乱光を発生させた土木構造物を特定することはしておらず、

土木構造物の劣化状態を検出する方法が、振動パターン又は音響パターンと土木構造物に対応する学習モデルとのパターンマッチングに基づいて行うものではない点。

第6 判断

1 相違点の判断

前記相違点について検討する。

(1) 構成Aについて

ア 「通信用光ファイバを監視対象の複数の構造物に渡って設置し、BOTDR方式(ブリルアン散乱分光技術とOTDR技術を用いたもの)により、光ファイバの後方散乱光の遅延時間に基づいて、後方散乱光の発生地点を特定すること」は、当業者にとってよく知られたアイデアである(前記技術常識Aを参照)。

イ また、「ブリルアン後方散乱を検出する光ファイバの振動センサや音響センサにより構造物を監視すること」も、技術常識である(前記技術常識Bを参照)。

ウ してみれば、引用発明の「構造物の剛性が低下すると、固有振動数や振幅などの動的特性が変化し、この変化に着目することによって構造物の損傷状態を評価することができる」「光信号伝送用光ファイバケーブルに含まれる光ファイバセンサ」、すなわち、「振動パターン又は音響パターンを含む光信号」を発する通信用光ファイバセンサを、技術常識Aに従って、監視対象の複数の構造物に渡って設置し、BOTDR方式(ブリルアン散乱分光技術とOTDR技術を用いたもの)により、光ファイバの後方散乱光の遅延時間に基づいて、後方散乱光の発生地点を特定するようにし、前記相違点に係る本願発明の構成Aに相当する構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2) 構成Bについて

ア 「土木構造物の監視において、学習モデルを生成して、ディープラーニングを活用すること」は、技術常識であり(前記技術常識1を参照)、また、「ディープラーニングによって、パターン認識を行うこと」も、技術常識である(前記技術常識2を参照)。

イ そうすると、引用発明において、前記技術常識1及び2を踏まえて、土木構造物の劣化状態を検出するに際して、「前記振動パターン又は前記音響パターンと土木構造物に対応する学習モデルとのパターンマッチングに基づいて」行うことは、当業者にとっては、自明な設計変更にすぎない。

(3) 総合評価

前記(1)及び(2)において検討したとおり、前記相違点に係る構成A及び構成Bは、格別のものではなく、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、構成A及び構成Bに係る相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。

よって、本願発明は、引用発明並びに技術常識A、技術常識B、技術常識1及び技術常識2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求人の主張について

(1) 請求人の主張の概要

折りたたみ中(クリックで表示)

引用文献4には、「複数の定置構造物を1つの完全性監視システムによって監視する場合」という記載があるにすぎず、本願発明のように、通信用光ファイバからの後方散乱光の受信時刻に基づいて土木構造物を特定することについては、何らの開示も示唆もされていない。

したがって、引用文献4には、複数の土木構造物に、通信用光ファイバを含むケーブルを敷設し、通信用光ファイバからの後方散乱光の受信時刻に基づいて土木構造物を特定し、特定された土木構造物に対応する学習モデルとのパターンマッチングに基づいて、特定された土木構造物の劣化状態を検出する、という本願発明の構成について、何らの開示も示唆もされていない。

また、引用文献3,5-8にも、本願発明の上記構成について、何らの開示も示唆もされていない。

(2) 請求人の主張に対する当審の判断

請求人の主張は、要するに前記相違点に対する主張であると認められるところ、前記相違点については、前記1において検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る構成A及び構成Bとすることは、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求人の主張は、前記1(3)の結論を左右するものではない。

第7 むすび

以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-017202

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