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特許拒絶査定不服審判

2024-015526

エンコーダ用反射型光学式スケールおよび反射型光学式エンコーダ

審判番号
2024-015526
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2024-527202
請求日
2024年09月27日
審決日
2026年06月11日
公報発行日
2026年08月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】大日本印刷株式会社
  • 【請求人代理人】芝崎 和昌
  • 【請求人代理人】山下 昭彦
審判長/審判官
  • 審判長 濱野 隆
  • 審判官 井海田 隆
  • 審判官 関口 英樹
分類
P18 .121-Z (G01D) / P18 .537-Z (G01D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2024-527202「エンコーダ用反射型光学式スケールおよび反射型光学式エンコーダ」拒絶査定不服審判事件〔令和 6年 9月26日国際公開、WO2024/195754〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 1 手続の経緯 本願は、2024年(令和6年)3月18日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和5年3月20日及び令和6年1月17日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和6年 5月20日付け:拒絶理由通知書 同年 6月27日 :意見書、手続補正書の提出 同月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同年 7月 2日 :原査定の謄本の送達) 同年 9月27日 :審判請求書の提出 以下、2023年(令和5年)3月20日を「優先日」という。 2 本願発明について (1) 本願発明の認定 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和6年6月27日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された次に示す事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 第1面、および前記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材と、 前記金属基材の前記第1面側に、前記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層と、 を有する、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、 前記金属基材の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、 前記金属基材は、ステンレスで構成されたものであり、 前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、エンコーダ用反射型光学式スケール。」 (2) 本願発明の分説 検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Eまでに分説する。また、参考図として、本願の【図1】及び【図2】を元に部材名を記入したものを掲載する。 <本願発明の分説> A 第1面、および前記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材と、 B 前記金属基材の前記第1面側に、前記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層と、 X を有する、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、 C 前記金属基材の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、 D 前記金属基材は、ステンレスで構成されたものであり、 E 前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、 X エンコーダ用反射型光学式スケール。 <参考図> 【図1】 [図:0001437837000001.jpg] 【図2】 [図:0001437837000002.jpg] (3) 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載 ア 本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本開示は、エンコーダ用反射型光学式スケールおよび反射型光学式エンコーダに関する。 【背景技術】 【0002】 従来、制御機構を備えるサーボモータ等に光学式エンコーダが使用されている。光学式エンコーダには、透過型エンコーダと反射型エンコーダがあるが、反射型エンコーダは透過型エンコーダに比べて光路が短く、小型化、薄型化が容易であり、また、発光素子や受光素子の位置決めが不要であり組み立てが容易であるという利点を有する。 【0003】 反射型光学式エンコーダは、反射型光学式スケール、スケールに光を照射するLED等の光源、およびスケールからの反射光を検出する光検出器を備える。反射型光学式スケールは、反射領域(高反射領域)と非反射領域(低反射領域)が交互に配置され、反射領域における光の反射率は、非反射領域における光の反射率よりも高い(例えば、特許文献1)。これにより、スケールから反射し光検出器に入射する光の強さは、スケールの位置の変化により強弱を生じる。光検出器は、スケールの位置が測長方向に移動することによって生じる光の強弱を検出する。反射型光学式エンコーダは、検出された光の強弱にしたがって、このスケールの位置の変位情報を処理し、位置情報を取得しうる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2005-241248号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 従来、反射型光学式スケールは、複数の反射型光学式スケールが並んで配置されている多面付け体を個片化することによって製造される。多面付け体を構成する基材が金属基材である場合、個片化工程においては、加工精度が良好であることから、金属基材のエッチング加工によって個片化する場合が多い。しかし、金属基材のエッチング加工による個片化は、コスト面で不利である。 【0006】 そこで、金属基材の厚さを薄くすることで、エッチングコストを削減することが検討されている。また、金属基材の厚さが薄いほうが、精度良くエッチング加工できる。しかし、金属基材が薄いと、反射型光学式スケールの取り扱いが困難になる。また、金属基材が薄いと、金属基材自体にうねりや反りが生じやすいため、反射型光学式スケールにうねりや反りが生じる場合がある。また、金属基材のエッチング加工の場合、通常、反射型光学式スケールの外周には、反射型光学式スケールとフレームとを繋ぐブリッジが設けられる。エッチング加工後にブリッジを切断することで、個々の反射型光学式スケールに分離する。この場合、反射型光学式スケールにブリッジ痕が生じる。ブリッジ痕はバリや突起となり、反射型光学式スケールに部分的に歪みが発生する。 【0007】 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、うねりを抑制することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供することを主目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本開示の一実施形態は、第1面、および上記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材と、上記金属基材の上記第1面側に、上記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層と、を有する、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、 上記金属基材の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、上記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。 【0009】 本開示の他の実施形態は、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記低反射層が配置された側の表面に、測定光を照射する光源と、上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備える、反射型光学式エンコーダを提供する。 【発明の効果】 【0010】 本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールにおいては、うねりを抑制することが可能であるという効果を奏する。 …中略… 【0036】 また、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径は、3点座標から求める。具体的には、エンコーダ用反射型光学式スケールの内周上の任意の3点を選択し、3点座標から近似円を求め、近似円の直径を内径とする。 【0037】 エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cpは、1.33以上が好ましく、1.6以上がより好ましい。上記工程能力指数Cpが上記範囲であれば、内径寸法精度に優れる。そのため、回転軸にエンコーダ用反射型光学式スケールを取り付ける際に、回転軸の中心と、エンコーダ用反射型光学式スケールの中心とがずれてしまうこと、すなわち偏心を抑制できる。これにより、偏心誤差を低減し、反射型光学式エンコーダの精度を高めることができる。 【0038】 ここで、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cpは、標準偏差から、下記式により求められる。 Cp=(U-L)/6σ =[(A+α)-(A-α)]/6σ =α/3σ 上記式において、σは標準偏差、Uは上限規格値、Lは下限規格値、Aは基準値、αは上限規格値または下限規格値と基準値との差、すなわち許容値を示す。標準偏差σは、5つのサンプルの内径の測定値から求める。また、許容値αは、0.015とする。これは、許容値αが0.015mmより大きくなると、偏心誤差が多くなり、反射型光学式エンコーダの精度が悪化するためである。」 イ また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、実施例に関連する以下の記載もある。 「 【0118】 以下、実施例および比較例を示し、本開示をさらに説明する。 【0119】 [実施例1] まず、鏡面加工が施された厚さ0.37mmのSUS基板を準備した。次いで、SUS基板の鏡面加工が施された面に、カルドエポキシ樹脂を含む保護層用樹脂組成物を塗布し、硬化させることによって、保護層を形成した。次に、金属クロム層、窒化クロム層および酸化クロム層を保護層側からこの順に有する低反射層をパターン状に形成した。これにより、多面付け体を得た。 【0120】 次に、上記多面付け体を、外径が100mmから250mm程度になるように粗切りした。次に、光学アライメントマークを用いて位置合わせを行い、外周打ち抜き予定線および内周打ち抜き予定線で、粗切り後のワークに打ち抜き加工を施した。これにより、エンコーダ用反射型光学式スケールを得た。外径の設計値は24mm、内径の設計値は15mmとした。 【0121】 [実施例2] 内径の設計値を6mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。 【0122】 [実施例3] SUS基板の厚さを0.30mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。 【0123】 [実施例4] SUS基板の厚さを1.10mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。 【0124】 [比較例1] 多面付け体に打ち抜き加工に替えてエッチング加工を施したこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。 【0125】 [比較例2] SUS基板の厚さを0.20mmとしたこと、および、多面付け体に打ち抜き加工に替えてエッチング加工を施したこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。 【0126】 [比較例3] SUS基板の厚さを1.20mmとしたこと、および、多面付け体に打ち抜き加工に替えてエッチング加工を施したこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。 【0127】 [評価] (1)エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり 上記の「A.エンコーダ用反射型光学式スケール 1.エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり」に記載の方法により、エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりを測定した。 【0128】 (2)エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cp 上記の「A.エンコーダ用反射型光学式スケール 2.エンコーダ用反射型光学式スケールの形状」に記載の方法により、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cpを求めた。 【0129】 (3)ブリッジ痕 エンコーダ用反射型光学式スケールのブリッジ痕の有無を目視で観察した。 【0130】 (4)エンコーダ精度 エンコーダ用反射型光学式スケールを用いて、反射型光学式エンコーダを作製した。反射型光学式エンコーダについて、エンコーダ出力波形の周期、パルス幅、パルス間位相差を測定し、設計値と比較して、誤差およびバラつきの程度を確認した。下記に評価基準を示す。 A:精度は十分であった。 B:精度がやや不足していた。 C:精度が不足していた。 【0131】 【表1】 [図:0001437837000003.jpg] 【0132】 表1より、金属基材の厚さが所定の範囲内であり、エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが所定の範囲である場合は、エンコーダ精度が良いことが確認された。」 3 原査定における拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由1(サポート要件違反)及び理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。 理由1(サポート要件違反) 本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1は「うねりが、30μm以下である」という達成すべき結果と、そのための条件である、「円盤状の金属基材」の「厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、「前記金属基材は、ステンレスで構成されたもので」あることのみが記載されているが、一般的に板材のうねりは板材の材質・寸法・加工方法に依存するから、明細書に記載された条件を請求項1の範囲まで拡張ないし一般化することはできない。 理由2(進歩性の欠如) 本願発明は、その優先日前に発行された下記の引用文献1~5に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.特許第5925365号公報(主たる引用文献) 引用文献2.中国実用新案第2767958号明細書 引用文献3.特開2006-145286号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4.特開昭62-5126号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5.特開昭61-96410号公報(周知技術を示す文献) 4 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定 (1) 引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である引用文献1(特許第5925365号公報)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(3)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。 ア 特許請求の範囲 「【請求項1】 可視光または近赤外光を照射光として用い、 反射面で反射した反射光を受光することで物体の変位量または変位方向を検出する光学式エンコーダに用いられ、 一方の表面を前記反射面とする基材と、 前記表面に所定の格子幅で配列される格子とを有し、 前記基材として金属を用い、 前記格子を黒色めっき層によって形成した 光学式エンコーダ用格子板であって、 平均粗さRaが0.008μmから0.035μmの範囲である前記金属の前記表面に、厚さが0.3μmから2.346μmの範囲とした前記黒色めっき層を形成した ことを特徴とする光学式エンコーダ用格子板。 【請求項2】 前記格子幅を10μmから100μmの範囲としたことを特徴とする請求項1に記載の光学式エンコーダ用格子板。 【請求項3】 前記金属として、ステンレス鋼を用いたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学式エンコーダ用格子板。」 イ 段落【0004】~【0020】、【図1】~【図4】 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 特許文献1では、凹部をエッチングによって形成している(例えば段落番号(0017))。このように凹部をエッチングで形成する場合には、一般的に凹部の幅は50μmより大きく、凹部の深さは10μm以下の寸法とすることは困難である。 また、エッチングによって凹部を形成する場合には、凹部壁面(鏡面との境の壁面)は壁面にサイドエッジ(加工テーパー)が形成されてしまうために垂直面を形成できない。 従って、特許文献1のようにエッチングで凹部を形成する方法では、鏡面と凹部底面との高低差が10μm以上となってしまう。そのため、反射面に対して30度~75度の角度で照射光が照射される場合には、10μm以上の凹部壁面の影響を受けて、更には、凹部壁面のサイドエッジ(加工テーパー)の影響によって乱反射を生じるために、SN比が低下してしまう。 特許文献2では、黒色めっきを10μm以下の薄膜として形成されることが記載されているが、電気めっき法として一般的な薄膜厚さを記載しているに過ぎない。 可視光または近赤外光を照射光として用い、反射面に対して30度~75度の角度で照射光を照射し、反射面で反射した照射光を受光することで物体の変位量または変位方向を検出する光学式エンコーダに用いられる光学式エンコーダ用格子板にあっては、高反射面と低反射面との高低差を小さくする必要があり、特許文献1のようにエッチングで凹部を形成する方法では限界がある。 また、ピーリングに強く、めっきの付き回りが良い、薄い黒色めっき層を形成し、更に高いSN比を実現するには、基材の表面の粗さの影響を考慮する必要がある。 【0005】 本発明は、ピーリングに強く、めっきの付き回りが良く、高いSN比を実現することができる光学式エンコーダ用格子板、および光学式エンコーダ用格子板の製造方法を提供することを目的とする。…(中略)… 【0013】 以下本発明の実施例について図面とともに説明する。 図1は、本実施例による光学式エンコーダ用格子板の基本構成図である。 本実施例による光学式エンコーダ用格子板10は、一方の表面を反射面とする基材20と、基材20の表面に所定の格子幅で配列される格子30とを有している。基材20としては金属を用い、格子30を黒色めっき層によって形成する。基材20としては、例えばステンレス鋼が適しており、Ni合金を用いることもできる。ステンレス鋼としては、SUS304、SUS430、SUS316、またはSUS301が特に適しており、SUS304の場合には汎用性が高く、SUS430の場合にはガラス材に近い線膨張係数であり、温度変化による影響が小さい格子板とすることができる。 本実施例による光学式エンコーダ用格子板10を用いた光学式エンコーダは、発光源1には可視光または近赤外光を照射光として用い、反射面に対して30度~75度の角度で照射光を照射し、反射面で反射した反射光を受光素子2で受光することで物体の変位量または変位方向を検出する。」 「【図1】 [図:0001437837000004.jpg] 」 「【0014】 図2(a)はロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板の平面図、図2(b)はリニアエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板の平面図である。 図2(a)に示すように、本実施例による光学式エンコーダ用格子板10aは、基準円の中心から格子30aの外周までの半径が12~13mm、格子30aの半径方向長さが0.4~0.8mm、格子30aの幅(円周方向長さ)が10μmから100μm、格子30aの間の反射面の幅(円周方向長さ)が10μmから100μmの範囲で形成される。格子30aの幅(円周方向長さ)、および格子30aの間の反射面の幅(円周方向長さ)は50μm以下においても高いSN比を維持することができる。 図2(b)に示すように、本実施例による光学式エンコーダ用格子板10bは、格子30bの長さが0.4~0.8mm、格子30bの幅(計測方向長さ)が10μmから100μm、格子30bの間の反射面の幅(計測方向長さ)が10μmから100μmの範囲で形成される。格子30bの幅(計測方向長さ)、および格子30bの間の反射面の幅(計測方向長さ)は50μm以下においても高いSN比を維持することができる。 光学式エンコーダには、反射面の幅がランダムなパターンであるアブソリュート形と、反射面の幅が一定なパターンであるインクルメンタル形とがあり、本実施例による光学式エンコーダ用格子板10はいずれの形にも適用できる。」 「【図2】 [図:0001437837000005.jpg] 」 「【0015】 図3は、本実施例による光学式エンコーダ用格子板の製造方法を示す工程図である。 本実施例に用いる基材20は、反射面となる表面21を平均粗さRaが0.008μmから0.05μmの範囲、好ましくは0.008μmから0.03μmの範囲となるように鏡面仕上げをしている。 図3(b)に示すように、反射面となる表面21に、10μmから100μmの範囲の格子幅となるようにレジスト22を形成する。レジスト22の厚さは、形成する黒色めっき層の厚さより厚ければよい。 そして、図3(c)に示すように、レジスト22の間に、格子30となる黒色めっき層を、0.3μmより厚く3μmより薄い範囲の厚さで形成する。 その後、図3(d)に示すように、レジスト22を除去することで反射面(表面21)を露出させる。 なお、黒色めっきとしては、黒クロムめっきが適しているが、銅を酸化させて黒化処理したものを用いることもできる。」 「【図3】 [図:0001437837000006.jpg] 」 「【0016】 本実施例による製造方法によれば、基材20や格子30をエッチング処理することなく反射面と格子30とを形成するため、反射面と格子30との高低差を小さくでき、格子30の側面でのサイドエッジ(加工テーパー)を無くすことができる。 また、本実施例による製造方法によれば、平均粗さRaを0.008μmから0.05μmの範囲の表面21である基材20に、3μmより薄い黒色めっき層を格子30として形成することで、ピーリングに強く、反射面では60%以上の反射率、黒色めっき層では5%以内の反射率となり、高いSN比を得ることができる。 また、本実施例による製造方法によれば、平均粗さRaを0.008μmから0.05μmの範囲の表面21である基材20に、0.3μmより厚い黒色めっき層を格子30として形成することで、めっきの付き回りが良く、黒色めっき層での反射率が3%以内となる。 また、本実施例による製造方法によれば、平均粗さRaを0.008μmから0.05μmの範囲の表面21である基材20に、1.0μmから2.5μmの範囲の厚さで黒色めっき層を格子30として形成することで、クラックの発生がなく良好なめっき状態となり、黒色めっき層での反射率が3%以内となる。 【0017】 図4はめっき層の膜厚試験結果を示す図である。 実施例1から実施例6および比較例1から比較例3は、基材20として、板厚t=0.1mm、平均粗さRa=0.01μm、十点平均粗さRz=0.062μm、最大高さRy=0.074μmの鏡面仕上げ処理されたSUS304を用いた。なお、表面粗さは接触式測定器を用いて測定した。」 「【図4】 [図:0001437837000007.jpg] 」 「【0018】 …(中略)… 【0020】 実施例7は、基材20として、板厚t=0.1mm、平均粗さRa=0.035μm、十点平均粗さRz=0.105μm、最大高さRy=0.235μmのSUS430を用いた。なお、表面粗さは接触式測定器を用いて測定した。 実施例7は、160A、4.6V、35A/dm2、15分の条件でめっき処理を行った。平均膜厚は0.75μmであった。」 (2) 引用文献1の記載及び図面から読み取れる事項の認定 ア 引用文献1の記載から読み取れる事項の認定 (ア) 図1関連記載の援用 a 段落【0013】の、「本実施例による光学式エンコーダ用格子板10」との記載から、引用文献1には、「光学式エンコーダ用格子板10」の実施例が開示されていると認められる。 b そして、段落【0014】の、「図2(a)はロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板の平面図、図2(b)はリニアエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板の平面図である。図2(a)に示すように、本実施例による光学式エンコーダ用格子板10aは、…(中略)…図2(b)に示すように、本実施例による光学式エンコーダ用格子板10bは、…(後略)…」との記載から、「光学式エンコーダ用格子板10」としては、「ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板としての光学式エンコーダ用格子板10a」と、「リニアエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板としての光学式エンコーダ用格子板10b」の二つの実施形態が想定されているといえる。 c そうすると、【図1】に基づいて説明した段落【0013】の記載を援用して、「ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板としての光学式エンコーダ用格子板10a」の構成を認定することは差し支えないといえる。 (イ) 図3関連記載の援用 a また、【図3】については、段落【0015】において、「図3は、本実施例による光学式エンコーダ用格子板の製造方法を示す工程図である。」としているのみであって、この製造方法が「ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板としての光学式エンコーダ用格子板10a」についてのものであるとも、「リニアエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板としての光学式エンコーダ用格子板10b」についてのものであるとも、特段限定していないことから、【図3】に係る製造方法は、「ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板としての光学式エンコーダ用格子板10a」についてのものとしても開示されていると解するのが自然である。 b したがって、引用文献1において、「ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板10a」の製造方法を認定する際に、【図3】に基づいて説明した段落【0015】及び【0016】の記載を援用することは差し支えないといえる。 (ウ) 図4関連記載の援用 同様に、引用文献1において、「ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板10a」のめっき層の膜厚試験結果を認定する際に、【図4】に基づいて説明した段落【0017】の記載を援用することは差し支えないといえる。 イ 図面から読み取れる事項の認定 【図2】からは、「ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板10aが円盤状の形状である」ことが看て取れる。(以下、「【図2】認定事項」という。) (3) 引用発明の認定 前記(2)において認定した事項及び前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、「ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板10a」の実施例に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。 <引用発明> 「一方の表面を反射面とする基材20と、基材20の表面に所定の格子幅で配列される格子30aとを有している、ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板10aであって、(【0013】) 基材20としては金属を用い、格子30aは黒色めっき層によって形成されており、(【0013】) 基材20としては、例えばステンレス鋼が適しており、(【0013】) 光学式エンコーダ用格子板10aを用いた光学式エンコーダは、発光源1には可視光または近赤外光を照射光として用い、反射面に対して30度~75度の角度で照射光を照射し、反射面で反射した反射光を受光素子2で受光することで物体の変位量または変位方向を検出するものであり、(【0013】) ロータリエンコーダに用いる光学式エンコーダ用格子板10aは、円盤状の形状であり、(【図2】認定事項) 基材20の、反射面となる表面21は鏡面仕上げであり、(【0015】) 反射面では60%以上の反射率、黒色めっき層では5%以内の反射率であり、(【0016】) 光学式エンコーダ用格子板10aにおいて、基準円の中心から格子30aの外周までの半径が12~13mm、格子30aの半径方向長さが0.4~0.8mm、格子30aの幅(円周方向長さ)が10μmから100μm、格子30aの間の反射面の幅(円周方向長さ)が10μmから100μmの範囲で形成され、格子30aの幅(円周方向長さ)、および格子30aの間の反射面の幅(円周方向長さ)は50μm以下においても高いSN比を維持することができるものであり、(【0014】) 反射面となる表面21に、10μmから100μmの範囲の格子幅となるようにレジスト22を形成し、(【0015】) レジスト22の間に、格子30aとなる黒色めっき層を、0.3μmより厚く3μmより薄い範囲の厚さで形成するものであり、(【0015】) 反射面となる表面21は、レジスト22を除去することで反射面(表面21)を露出させることによって形成され、(【0015】) 基材20の板厚tは0.1mmである、(【0017】) 光学式エンコーダ用格子板10a(【0013】)」 5 引用文献2~5の記載事項及び技術常識の認定 (1) 引用文献2に記載された事項及び技術常識1の認定 ア 引用文献2に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である中国実用新案第2767958号明細書(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、摘記の後の括弧内に合議体が作成した日本語訳を示し、下線は当合議体が付したものである。 第2/4頁第14行~第3/4頁第8行、図2 「 [図:0001437837000008.jpg] [図:0001437837000009.jpg] 」 (本実用新案の軸角エンコーダは図2に示すように、光源1、受光器2、軸盤3、反射式金属コードディスク4、軸座5、主軸6などから構成される。光源1と受光器2は主軸6の一端に設置され、光源1と受光器2は一体構造となっている。主軸の一側端には金属コードディスク4が固定され、コードディスクの両面は主軸6と平行である。光源1と受光器2は主軸6の一端側でコード盤4の両面の反射・吸収領域を感知する。軸座5には主軸6が設置され、光源1と受光器2は反射式金属コードディスク4の両側にそれぞれ 90°±5° の角度で配置されている。 本実用新案の反射式金属コードディスクを用いることで、主軸が回転すると、光源が発した光はコードディスク表面の反射部分と吸収部分によって強弱の光信号が生じ、それを受光器が検出する。 本実用新案が採用する反射式金属コードディスクの厚さは1mm~5mmの範囲にあり得るので、反射式金属コードディスクは堅固で信頼でき、本実用新案は、背景技術中におけるガラスディスクが壊れやすい(という問題)を解決し、透過式金属グレーティングディスクが強い振動や衝撃の下で曲がり変形しやすく、信頼性が低いという欠点を解決した。それはもはやガラスコードディスクのように壊れやすくなく、また、薄い金属片のように変形しやすくもない。) 「図2 [図:0001437837000010.jpg] 」 イ 技術常識1の認定 前記アに摘記した引用文献2の記載事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識1」という。) <技術常識1> 「エンコーダに用いる反射式金属コードディスクについて、薄い金属であると変形しやすいため、ディスクが堅固で信頼できるものとなるように、その厚さをある程度大きくすることが好ましいこと。」 (2) 引用文献3~5に記載された事項及び技術常識2の認定 ア 引用文献3に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開2006-145286号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。 「【0001】 本発明は、回転体の位置、速度および回転角度などを計測するロータリエンコーダに関する。 【背景技術】 【0002】 光学式のロータリエンコーダは、回転運動を行なう物体の位置、速度および回転角度を検出するために広範に使用されている。このようなロータリエンコーダは工作機器、FA機器およびOA機器等を制御するのに用いられる。 …(中略)… 【0005】 しかしながら、通常は回転スリット板120は透明の樹脂材料から形成されているので、回転スリット板120の表面121を平坦にするのには限界があり、樹脂材料からなる回転スリット板120の表面121には或る程度のうねりが当初より存在している。このため、回転スリット板120の回転時に回転スリット板120と固定スリット板160との間の距離が周期的に変化し、それにより、受光素子163が受ける光量も変化して計測精度が低下するようになる。 【0006】 さらに、図2に示されるように接着剤190によって回転スリット板120と回転シャフト140とを結合する場合には、接着剤190の硬化過程において接着剤190が幾分収縮する。このような接着剤190の収縮作用によっても、回転スリット板120が変形して、回転スリット板120の表面121にうねりが新たに形成されるので、計測精度はさらに低下する。」 「【図2】 [図:0001437837000011.jpg] 」 「【0007】 本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、回転スリット板の表面におけるうねりを低減して、計測精度を高めることのできるロータリエンコーダを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 …(中略)… 【0018】 図1(a)に示されるように、回転スリット板20の表面21には、円板状の押圧部材30が配置されている。図1(a)から分かるように、押圧部材30の外径はフランジ50の外径に等しく、押圧部材30は回転スリット板20よりも剛性の小さい材料、例えばポリカーボネート、モノマーキャスティングナイロン(MCナイロン)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンなどから形成されている。」 「【図1】(a) [図:0001437837000012.jpg] 」 「【0019】 また、押圧部材30の中心孔39周りには、複数、例えば四つの凹部32が形成されている。図1(b)から分かるように、これら凹部32は回転シャフト40周りにほぼ等間隔に形成されている。また、これら凹部32は押圧部材30の上面から押圧部材30の厚さ部分の途中まで形成されている。さらに、凹部32に連通する同心の複数のネジ孔33が押圧部材30の下面まで形成されている。図示されるように、ネジ孔33は凹部32よりも小さい。また、回転スリット板20にはネジ孔33に対応するネジ孔23が形成され、フランジ50のフランジ面58にもネジ孔23に対応するネジ孔53が形成されている。これらネジ孔33、23、53にはネジ山部が形成されている。」 「 [図:0001437837000013.jpg] 」 「【0020】 図示されるように、押圧部材30は回転スリット板20をフランジ面58に押圧する。次いで、押圧状態において四つのネジ35のネジ山付き軸部37をネジ孔33、23、53に通して螺合する。これにより、押圧部材30によって回転スリット板20がフランジ50のフランジ面58に堅固に固定されるようになる。本発明においては、回転スリット板20は押圧された状態でフランジ面58に固定されるので、回転スリット板20の表面21および裏面22に存在するうねりを低減することができる。 【0021】 また、ネジ35のネジ山付き軸部37がネジ孔33、23、53に完全に螺合すると、ネジ35のヘッド36が凹部32内に埋没するようになる。このため、回転スリット板20の回転時にネジ35のヘッド36によって空気抵抗が生じることはなく、回転スリット板20を安定して回転させられる。なお、ネジ35のヘッド36の頂面が押圧部材30の上面と同一平面になるように回転スリット板20を固定するのが好ましく、この場合には回転スリット板20の回転時の空気抵抗を最小限にすることができる。 【0022】 回転スリット板20のうねりが低減されると、回転スリット板20の回転時に回転スリット板20と固定スリット板60との間の距離が概ね一定に維持される。このため、受光素子63が発光素子62からの光を受けるときの光量も回転スリット板20の回転時にほとんど変化しない。従って、本発明においては、回転スリット板20をフランジ面58に押圧することなしに回転スリット板20を固定した場合よりも計測精度を高めることが可能となる。 【0023】 特に、本発明においては、押圧部材30の外径はフランジ50の外径に等しいので、押圧部材30からの押圧力が回転スリット板20を介してフランジ50のフランジ面58全体に均等に作用する。このような構成であるために、回転スリット板20の表面21および裏面22のうねりを均等に抑えることができる。従って、回転スリット板20の回転時に回転スリット板20と固定スリット板60との間の距離が変化するのを抑制でき、その結果、計測精度をさらに高めることが可能となる。 【0024】 また、従来技術においては接着剤190によって回転スリット板20を固定していたが(図2を参照されたい)、本発明においては接着剤190を使用していないので、硬化過程における接着剤190の収縮によって回転スリット板20の表面21または裏面22に追加のうねりが生じるのを防止することもできる。 【0025】 前述したように本発明に基づく押圧部材30の剛性は回転スリット板20の剛性よりも小さいので、押圧部材30を回転スリット板20に押圧したときに、回転スリット板20自体が変形することはない。回転スリット板20の表面21および裏面22には回転スリット板20の材料、すなわち樹脂材料に基づくうねりが当初より存在しているが、本発明においては、押圧部材30により押圧した場合であっても、追加のうねりが回転スリット板20の表面21および裏面22に生じることはない。このため、回転スリット板20の回転時に回転スリット板20と固定スリット板60との間の距離がさらに変化するのを抑制できる。 【0026】 透明な樹脂材料から形成される回転スリット板20の平面度は数マイクロメートル程度である。一方、回転スリット板20が設置されるフランジ面58の平面度は回転スリット板20の平面度以下であり、好ましくはフランジ面58の平面度は1マイクロメートルよりも小さい。また、回転スリット板20は樹脂材料から形成されているので、回転スリット板20の剛性はフランジ面58の剛性よりも小さい。従って、回転スリット板20の平面度とフランジ面58の平面度とがこのような関係にある場合には、押圧部材30によって回転スリット板20を押圧すると、回転スリット板20の裏面22がフランジ50のフランジ面58に追従するようになる。一方、回転スリット板20の表面21は押圧部材30により直接的に押圧されている。それゆえ、回転スリット板20の表面21および裏面22に存在しているうねりがさらに低減されるようになる。」 イ 引用文献4に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開昭62-5126号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。 「3.【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、ロータリーエンコーダー用ディスクおよびその製造方法に関する。 …(中略)… メッキ作業中に内部応力が生じた場合、ディスクに反りが生ずるが、この反りはディスクのスリット部と固定スリット板または受光素子との間隔を変えることになり、信号の強さやコントラストを変動させ、誤動作の原因ともなる。そこで、この反りを可及的小さくすることもスリットパターンを均一にする上では必要である。 …(中略)… 本発明の他の目的は、パターンメッキの手法によってロータリーエンコーダー用ディスクを製造するにあたり、上述した欠点を解決し、ほぼ直線状のスリットパターンを形成すると共に、上述した反りをなくすことのできるロータリーエンコーダー用ディスクの製造方法を提供することにある。 …(中略)… 実施例1 …(中略)… その結果、各ディスクの反りはいずれも3~20μmの範囲の値まで低下した。以上により、平面性に優れた光学式ロータリエンコーダー用の金属製ディスクが100枚得られた。」 ウ 引用文献5に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開昭61-96410号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。 「〔発明が解決しようとする問題点〕 前記方法によって得られた金属製ディスクは、材料である金属板の反り、機械加工時の反りの発生、メッキ時の内部応力による反りの発生、取り扱い時の反りの発生等の理由により、平面性に劣るものとなる。これら平面性に劣るディスクをエンコーダーに組込んだ場合、エンコーダー中の受光素子とディスクとの距離が、回転角によって変化する為、信号の強さ及びコントラストが不安定となり、誤動作の原因となる。受光素子とディスクとの距離は、ディスクのスリットのピッチより小さい事が好ましく、ディスクの反りは、受光素子とディスクとの距離より小さい必要がある。よって、スリット密度の高いディスクでは、反りは小さなものでなければならない。 …(中略)… 〔問題を解決する為の手段〕 この発明は、金属製の光学式ロータリーエンコーダー用ディスクを平面性の優れた治具に挾み加熱加圧する事により、コンスタントに反りの小ささく平面性に優れたディスクを得る方法である。 …(中略)… 「実施例1」 奥野製薬工業株式会社の「ニッケリン」を使用し、メッキ法により、リンを70パーセント含んだニッケル製エンコーダー用ディスクを作製した。 直径20cmφ、厚さ50μm、反り100μm~2mmの前記ディスクを10cm四方、厚さ5mmの市販の板ガラスに挾み、38g重/cm2の圧力をかけ、200℃、45分間の加熱を行ない、その後、自然空冷させた結果、反りが3~20μmの平面性の良い光学式ロータリーエンコーダー用ディスクを得た。」 エ 技術常識2の認定 前記ア~ウに摘記した引用文献3~5の記載事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識2」という。) <技術常識2> 「光学式ロータリエンコーダー用のディスクは、反りやうねりが小さければ小さいほど良いとされ、その程度としては数μm程度が達成されていること。」 なお、本願の明細書の【0021】にも、「うねりは少ないほど好ましく、下限は特に限定されない。」とその余の説明も無く記載されている。 6 本願発明と引用発明の対比 (1) 対比分析 本願発明と引用発明を対比する。 ア 構成Xの観点 (ア) 構成Xは、「エンコーダ用反射型光学式スケール」の発明であることを特定するものである。 (イ) 引用発明の「光学式エンコーダ用格子板10a」は、「一方の表面を反射面とする基材20と、基材20の表面に所定の格子幅で配列される格子30aとを有している」ところ、「光学式エンコーダ用格子板10aを用いた光学式エンコーダは、発光源1には可視光または近赤外光を照射光として用い、反射面に対して30度~75度の角度で照射光を照射し、反射面で反射した反射光を受光素子2で受光することで物体の変位量または変位方向を検出するもの」であるから、反射型のエンコーダ用格子板であるといえる。 (ウ) そうすると、引用発明の「光学式エンコーダ用格子板10a」は、本願発明の「エンコーダ用反射型光学式スケール」に相当する。 (エ) したがって、構成Xの観点に関し、「エンコーダ用反射型光学式スケール」の発明である本願発明と「光学式エンコーダ用格子板10a」の発明である引用発明は、「エンコーダ用反射型光学式スケール」の発明である点において一致する。 イ 構成Aの観点(円盤状の金属基材について) (ア) 構成Aは、「エンコーダ用反射型光学式スケール」が「第1面、および前記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材」を有することである。 (イ) 引用発明における「光学式エンコーダ用格子板10a」が有する「基材20」は、本願発明の「基材」に相当するところ、「光学式エンコーダ用格子板10a」は「円盤状の形状であ[る]」ことを踏まえると、引用発明の「基材20」は、本願発明の「円盤状」の「基材」に相当する。 (ウ)引用発明において、「基材20としては金属を用い」ているから、前記(イ)を踏まえると、引用発明の「基材20」は、本願発明にいうところの「円盤状の金属基材」であるといえる。 (エ) 引用発明の「基材20」の「一方の表面」は、本願発明の「円盤状の金属基材」が有する「第1面」に相当するところ、「光学式エンコーダ用格子板10a」の「形状」が「円盤状」である以上、「基材20」の「一方の表面」に対向する面を備えていることはいうまでもなく、かかる対向面は、本願発明の「前記第1面に対向する第2面」に相当する。 (オ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Aの観点に関し、次の点において一致する。 「エンコーダ用反射型光学式スケール」が「第1面、および前記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材」を有する点。 ウ 構成Bの観点(パターン状に配置された低反射層について) (ア) 構成Bは、「エンコーダ用反射型光学式スケール」が「前記金属基材の前記第1面側に、前記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層」を有することである。 (イ) 引用発明における「格子30a」は、「基材20の表面に所定の格子幅で配列される」ものであり、「基準円の中心から格子30aの外周までの半径が12~13mm、格子30aの半径方向長さが0.4~0.8mm、格子30aの幅(円周方向長さ)が10μmから100μm、格子30aの間の反射面の幅(円周方向長さ)が10μmから100μmの範囲で形成され、格子30aの幅(円周方向長さ)、および格子30aの間の反射面の幅(円周方向長さ)は50μm以下においても高いSN比を維持することができる」ものであることを踏まえると、引用発明の「基材20の表面に所定の格子幅で配列される格子30a」は、円周方向に沿ってパターン状に配列されているといえるから、本願発明の「前記金属基材の前記第1面側に、前記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された」ものに相当する。 (ウ) また、引用発明の「格子30a」は、「黒色めっき層により形成され」ているところ、「反射面となる表面21に、10μmから100μmの範囲の格子幅となるようにレジスト22を形成し、レジスト22の間に、格子30aとなる黒色めっき層を、0.3μmより厚く3μmより薄い範囲の厚さで形成することによって形成」されたものである。 そして、引用発明においては、「反射面となる表面21は、レジスト22を除去することで反射面(表面21)を露出させることによって形成され」、「鏡面仕上げであり」、「反射面では60%以上の反射率」であるのに対して、「黒色めっき層では5%以内の反射率で」であるから、「黒色めっき層」の反射率は相対的に低いものとなっている。 そうすると、引用発明における「黒色めっき層によって形成され[た]」「格子30a」は、本願発明における「前記金属基材の前記第1面側」に設けられた「低反射層」に相当する。 (エ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Bの観点に関し、次の点において一致する。 「エンコーダ用反射型光学式スケール」が「前記金属基材の前記第1面側に、前記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層」を有する点。 エ 構成Cの観点(金属基材の厚さについて) (ア) 構成Cは、「金属基材の厚さ」が「0.3mm以上、1.1mm以下であ[る]」ことである。 (イ) 引用発明は、「基材20の板厚tは0.1mmであ[る]」から、本願発明と引用発明は、構成Cの観点に関し、次の点において相違する。 「金属基材の厚さ」が 本願発明においては、「0.3mm以上、1.1mm以下であ[る]」のに対して、 引用発明においては、「基材20の板厚tは0.1mmであ[る]」点。 オ 構成Dの観点(金属基材の材料について) (ア) 構成Dは、「金属基材」が「ステンレスで構成されたものであ[る]」ことである。 (イ) 引用発明は、「基材20としては、例えばステンレス鋼が適して」いるとしているから、本願発明と引用発明は、構成Dの観点に関し、次の点において一致する。 「前記金属基材は、ステンレスで構成されたものであ[る]」点。 カ 構成Eの観点(金属基材のうねりについて) (ア) 構成Eは、「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である」ことである。 (イ) 引用発明は、本願発明の構成Eに相当する構成を備えていないから、本願発明と引用発明は、構成Eの観点に関し、次の点において相違する。 「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である」点。 (2) 一致点及び相違点 前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のア及びイに示すとおりである。 ア 一致点 「第1面、および前記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材と、 前記金属基材の前記第1面側に、前記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層と、 を有する、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、 前記金属基材は、ステンレスで構成されたものである、 エンコーダ用反射型光学式スケール。」である点。 イ 相違点 (ア) 相違点1 「エンコーダ用反射型光学式スケール」が有する「円盤状の金属基材」の「厚さ」について、 本願発明においては、「0.3mm以上、1.1mm以下」であるのに対して、 引用発明においては、「板厚tは0.1mmであ[る]」点。 (イ) 相違点2 本願発明においては、「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である」のに対し、 引用発明においては、これに相当する構成を備えていない点。 7 進歩性についての当審の判断 (1) 相違点1について ア 引用発明における「光学式エンコーダ用格子板10a」は、「ピーリングに強く、めっきの付き回りが良く、高いSN比を実現すること」(引用文献1の段落【0005】)を目的としたものであるため、ディスクの強度などについては特段の考慮をしていない。 イ しかしながら、「エンコーダに用いる反射式金属コードディスクについて、薄い金属であると変形しやすいため、ディスクが堅固で信頼できるものとなるように、その厚さをある程度大きくすることが好ましいこと」は、当業者にとって技術常識であるところ(前記技術常識1を参照)、引用発明において、「基材20の板厚t」を「0.1mm」よりも大きくすることにより、「0.3mm以上」という要件を満たすように構成することは、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。 ウ 他方で、厚みを大きくして強度を増すようにすると、部材が必要以上に重く大きくなってしまい、コストやトルク、エネルギー等の面で不利であるため、一方的にただ部材を強固に、厚いものとすれば良いというわけでもないから、厚みを大きくすることには自ずと限界があると考えるのが普通であって、引用発明の「基材20の板厚t」を「1.1mm以下」とすることも、当業者にとって自明な設計事項である。 エ したがって、引用発明において、「基材20の板厚t」を「0.3mm以上、1.1mm以下」とすることにより、前記相違点1に係る本願発明の構成Cを備えるようにすることは、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。 (2) 相違点2について ア 技術常識に基づく検討 (ア) 「光学式ロータリエンコーダー用のディスクは、反りやうねりが小さければ小さいほど良いとされ、その程度としては数μm程度が達成されていること」が、当業者にとって技術常識であることを踏まえると(前記技術常識2を参照)、引用発明において、前記技術常識2を考慮して、「光学式エンコーダ用格子板10a」の「うねり」が「30μm以下である」ように構成することは、当業者にとって格別困難なことではなく、好ましいものという域を出ない。 (イ) したがって、引用発明において、前記相違点2に係る本願発明の構成Eを備えるようにすることも、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。 イ 願望クレームとしての検討 (ア) 前記2(3)アにおいて摘記した事項を踏まえると、本願発明の課題は「うねりを抑制することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供すること」にあると認められるところ(【0007】を参照)、本願発明の構成Eの「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である」ということは、「うねり」の上限値のみを規定するにとどまり、その下限値については何ら限定がされていないから、要するに「うねり」をできるだけ小さくしたいことを宣言するのみであって、本願発明の課題それ自体を構成Eとして記述したものにすぎない。 (イ) そして、構成Cの「厚さ」と構成Dの「ステンレス」という特定事項を規定するだけで、構成Eの「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり」の特定事項が常に実現されるものではないから、本願発明は、構成Eを満たすための具体的技術手段の特定が十分ではない。 (ウ) そうすると、本願発明は、単なる願望を表明したものにすぎないというべきであって、いわゆる「願望クレーム」の発明(物やシステムを構成するときの技術的困難性を克服するための具体的技術手段が不明なものであり、こんな風になればいいな、こんなことができたらいいなといった願望そのものを発明として特許請求の範囲に記載したものという意味)と称される域を越えるものではない。 (エ) このような願望自体を主題とする本願発明に係る進歩性の判断においては、引用発明からみて、かかる願望自体に想到することが当業者にとって容易か、という観点から検討すべきである。 (オ) この点を踏まえて検討すると、引用発明においても、前記(2)アにおいて述べたとおり、一般的に小さければ小さいほどよい「うねり」について、その目標を掲げることは単なる願望を記載したにすぎず、しかも請求項に記載された上限はすでに達成された程度のものであるから、かかる願望自体に想到することは当業者にとって容易である。 ウ 上限値を「30μm」に設定することの意義について (ア) 前記イの検討に対しては、当該構成Eについて、「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり」の上限として「30μm」であれば、エンコーダ精度を向上できるという、臨界的な意義があるという指摘も考えられる。 (イ) しかしながら、本願発明においては、光学式スケールの全体的な大きさや、移動速度(回転速度)、スケール上のパターンのサイズ、反射型光学式スケールに対する照射光の波長、照射方向やスポット径などの光学的性質、反射光の検出を行うための光検出器の性質や配置などの特定もないことを踏まえると、構成Eは、単にうねりに何らかの上限があることを定めたものにすぎず、その上限値自体に何らかの技術上の意義を認めることはできない。 (ウ) この点に関し、本願の発明の詳細な説明の段落【0131】には、実施例1~4、比較例1~3について以下の【表1】が示されており、段落【0132】には、「表1より、金属基材の厚さが所定の範囲内であり、エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが所定の範囲である場合は、エンコーダ精度が良いことが確認された。」と記載されている。 【表1】 [図:0001437837000014.jpg] (エ) 上記(ウ)を踏まえると、構成C(金属基材の厚さが所定の範囲内であること)と、構成E(エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが所定の範囲であること)は、「エンコーダ精度」の向上に関係しており、構成Eは「エンコーダ精度を向上できる」という効果に関連付けられる点において技術上の意義を有すると一応考えられる。 (オ) しかしながら、これらの実施例と比較例について検討すると、うねりの大きさは主に、加工の方法(打ち抜き加工であるか、エッチング加工であるか)と、SUS基板の厚さや内径によって影響を受けると認められる。さらに、本願の発明の詳細な説明には、「エンコーダの精度」の具体的な測定手法が開示されておらず、「エンコーダの精度」の評価基準についても、「A:精度は十分であった。」、「B:精度がやや不足していた。」、「C:精度が不足していた。」などという大雑把な分類をした程度であって、「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり」の上限値として「30μm」に設定すれば、そのことをもって「エンコーダ精度」を向上できるという、臨界的な意義があると認めることもできない。 (3) 総合評価 前記(1)及び(2)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び技術常識1及び2に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。 そして、相違点1、2を総合的に勘案しても、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。 したがって、本願発明は、引用発明、技術常識1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4) 進歩性に係る請求人の主張について ア 請求人の主張の概要 (ア) 引用文献1にはうねりを30μm以下とすることに関し、開示も示唆もされていない。うねり低減が一般に知られた課題であっても、本願の特定厚みにおける最適上限値を30μmと見出した点は引用文献から容易には導けない。 (イ) また、極めて小さなうねりを得るには製造コスト増を招くため、本発明は性能と製造性のバランスを見出した技術的意義を有する。 イ 請求人の主張の検討 (ア) 板材の、厚さ0.3~1.1mmのステンレス基材を用いること、及びスケールのうねりを30μm以下とすること自体は、前記7(1)及び7(2)で述べたように、いずれも当業者が容易に想到し得る事項である。 (イ) また、特定厚みにおける最適上限値を30μmと見出したという主張についても、前記(2)ウで述べたように、それが最適上限値だという根拠がない上、一般により良いとされる、例えばコストを無視して作成した極めて小さなうねりのものが、特許請求の範囲に含まれているのであるから、採用することはできない。そして、製造コスト増との兼ね合いで、性能と製造性のバランスを見出すことは、当業者の通常のふるまいそのものである。 したがって、請求人の主張については、採用することはできない。 8 サポート要件について (1) サポート要件の判断基準と当審の判断の概要 ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決参照)。 イ サポート要件違反についての当審の判断の概要 上記アのサポート要件の判断基準に基づいて検討したところ、以下に説明するように、本願発明の「金属基材」について、構成Cでは「前記金属基材の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であ[る]」ことが特定され、構成Dでは「ステンレスで構成されたもの」であることが特定されているものの、一言で「ステンレス」といってもその硬度は様々であるし、その大きさも厚さ以外には特定されておらず、さらにはその製法の特定もないから、「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である」ことについて、どのようにすればそのような条件が達成されるのか、当業者は認識できないというべきである。 つまり、請求項1は、課題の解決を検討する以前の問題として、エンコーダ用反射型光学式スケールを具体的に特定するための構成が不足しており、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された範囲にまで拡張ないし一般化できない。 したがって本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (2) 本願発明が解決しようとする課題について まず、本願発明の課題をどのように認定すべきかについて検討する。 ア 【発明が解決しようとする課題】の欄の記載について 本願発明が解決しようとする課題について、明細書の【発明が解決しようとする課題】の欄には次の記載(再掲する)がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 従来、反射型光学式スケールは、複数の反射型光学式スケールが並んで配置されている多面付け体を個片化することによって製造される。多面付け体を構成する基材が金属基材である場合、個片化工程においては、加工精度が良好であることから、金属基材のエッチング加工によって個片化する場合が多い。しかし、金属基材のエッチング加工による個片化は、コスト面で不利である。 【0006】 そこで、金属基材の厚さを薄くすることで、エッチングコストを削減することが検討されている。また、金属基材の厚さが薄いほうが、精度良くエッチング加工できる。しかし、金属基材が薄いと、反射型光学式スケールの取り扱いが困難になる。また、金属基材が薄いと、金属基材自体にうねりや反りが生じやすいため、反射型光学式スケールにうねりや反りが生じる場合がある。また、金属基材のエッチング加工の場合、通常、反射型光学式スケールの外周には、反射型光学式スケールとフレームとを繋ぐブリッジが設けられる。エッチング加工後にブリッジを切断することで、個々の反射型光学式スケールに分離する。この場合、反射型光学式スケールにブリッジ痕が生じる。ブリッジ痕はバリや突起となり、反射型光学式スケールに部分的に歪みが発生する。 【0007】 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、うねりを抑制することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供することを主目的とする。」 イ 本願発明の課題の認定 前記アにおいて摘記した記載によれば、【発明が解決しようとする課題】の欄に記載された課題は、次のとおりであると認められる。以下、当該課題を「課題1」という。 <課題1> 「薄い金属基材をエッチング加工して個片化する場合に生じるうねりを抑制することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供すること。」 (3) サポート要件の適合性についての当審の判断 ア 本願発明の構成と課題1との対応関係について 本願発明においては、構成Cにおいて、金属基材の厚さが所定範囲の薄いものであることを特定し、構成Dにおいて、金属基材がステンレスで構成されたものであることを特定し、構成Eにおいて、うねりが所定値以下であることを特定しているから、前記課題1との対応関係としては、「薄い金属基材」であり、「うねりを抑制することが可能な」ものであることは構成として特定されているが、「エッチング加工して個片化する場合に生じる」ことに対応する解決方法については、構成として特定されていない。 この点に関し、本願の発明の詳細な説明の段落【0131】の【表1】において、実施例1~4と比較例1~3を比べると、製造方法がエッチング加工であるか打ち抜き加工であるかによってうねりの大きさが変わるのであるから、製造方法に係る事項を構成としていない本願発明は、前記課題1を解決できないようなものを含むことになる。 イ 構成Eを達成するための条件の不足について また、段落【0131】の【表1】によれば、実施例1と実施例2を比べれば、うねりの大きさは、エンコーダの内径にも影響を受けるようであるし、実施例と比較例との対比からは読み取れないが、構造上、全体の大きさにも依存することも当然である。さらに、板材のうねりは、板材の材質(ステンレスにも種類があって、硬度は様々である)やその寸法、加工方法に左右される。 そうすると、前記課題1を解決するために必要となる、「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、」という条件を達成するための、「エンコーダ用反射型光学式スケール」に対する具体的な条件は、請求項1において記載されていない。 ウ 構成C、Dと構成Eの関係について 構成C、Dと構成Eの関係について段落【0130】~段落【0132】及び【表1】における、実施例と比較例について確認すると、構成Eを達成するために、構成C及び構成Dが必要であるとしていると考えられるが、その条件を満たす比較例1は、うねりの大きさが30μm以下となっていない。 このため、構成C及び構成Dは、うねりが30μm以下であることの、必要条件となっている可能性はあるが、十分条件となっていない。 エ 請求項1の範囲にまで拡張一般化できないことについて 上記ウで示したように、構成Eを満たすためには構成C及び構成Dでは足りず、上記ア、イに示したように、その他の、材質に関する条件や、寸法、加工方法などによって特定される必要がある。 このため、請求項1に係る特許請求の範囲の記載は、実質的に「出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合」に該当し、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、いうことができない。 (4) サポート要件に係る請求人の主張について ア 請求人の主張の概要 (ア) 本願発明は、厚さ0.3~1.1mmのステンレス基材を用いた場合に、スケールのうねりを30μm以下とすることでエンコーダ精度を向上できる点に特徴がある。実施例では、うねりを30μm以下とすることで性能向上をもたらすことが確認されており、これは明細書で裏付けられる。 (イ) エッチング加工の例は、ブリッジ痕による歪みという製造方法固有の要因によるものであり、発明全体の一般化を妨げるものではないから、請求項の記載は明細書の開示を超えて一般化しておらず、サポート要件違反には当たらない。 イ 請求人の主張の検討 請求人は、本願発明は、要するに「エンコーダ精度の向上」(以下「課題2」という。)が根本的な課題であって、うねりの抑制について、構成Eと構成Cを含む本願発明の構成によって、課題2を解決した旨主張しているので、これについて検討する。 (ア) 課題2に関連する明細書の記載に基づく検討 課題2の観点で、段落【0130】~段落【0132】及び【表1】における、実施例と比較例について確認すると、以下のa~dのとおりであるから、請求項1に係る特許請求の範囲の記載は、どのようにエンコーダ精度を十分なものとしているのか、つまり、課題2を解決しているのか、当業者が理解できるように記載されているとはいえない。 a 段落【0130】において、反射型光学式エンコーダの評価についての記載があるが、測定の項目(エンコーダ出力波形の周期、パルス幅、パルス間位相差)は挙げられてはいるものの、評価の内容については、何を基準として、どのような時に良くてどのような時に良くないとするかなどの具体的な手法は一切記載されていない。 b 段落【0037】には、Cpが1.33以上となっていないものは、エンコーダ精度が好ましくないとされている。 c エンコーダ精度については、「確認」して、A、B、Cの3段階の評価基準により「評価」をしたところ、うねりが30μm以下であるにもかかわらず、エンコーダ精度がやや不足するもの(比較例3)があった。 d 比較例3については、金属基材の厚さが1.2mmであり、Cpが0.62である。 (イ) エンコーダ精度を上げる条件が不足していること 仮にエンコーダ精度の評価が適切なものであったと仮定しても、「エンコーダ精度」が十分であるか否かは、内径寸法精度を示す工程能力指数Cpのみならず、エンコーダの検出側(照明光源や検出器の種類、測定回路など)の性能や、低反射層のパターンや、エンコーダ用反射型光学式スケール自体の大きさ等のそのほかの条件に影響されることは、例示するまでもない技術常識であって、そのような条件についての特定が全くされていない請求項1の記載では、エンコーダ精度を十分なものとすることができるか否かは明らかでない。 また、確実にエンコーダ精度の向上につながると思われる「エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり」についても、そもそも平坦な円盤として設計されているエンコーダの「エンコーダ精度」は、うねりが少なければ少ないほど良いのは当然なのであるから、「前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、」という構成は、すなわち「エンコーダ精度が所定の精度以上である」と言い換えているようなものであり、課題を解決できる手段として認識できるものではない。 (ウ) したがって、請求人の主張に沿って、課題2を解決すべき課題として検討しても、出願時の技術常識を最大限加味しても、請求項1に係る特許請求の範囲の記載は、実質的に「出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる」とはいえない。 したがって、請求人の主張を採用することはできない。 9 むすび 以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。また、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-015526

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