特許拒絶査定不服審判
2022-011949
樹脂フィルムの繰出し方法
- 審判番号
- 2022-011949
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-033582外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年08月02日
- 審決日
- 2023年07月11日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友化学株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (B65H) / P18 .575-Z (B65H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 33582「樹脂フィルムの繰出し方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月 5日出願公開、特開2019-147657〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年2月27日の出願であって、令和3年8月17日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年10月22日に意見書及び手続補正書が提出され、これに対して、同年12月16日付けで拒絶理由(最後)が通知され、これに対して、令和4年2月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月23日付けで同年4年2月1日付けで提出された手続補正書が却下されると共に拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、同年8月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和4年8月2日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和4年8月2日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を全文にわたって補正をするものであるところ、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和3年10月22日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至11を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至11へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
ロール状に巻回された樹脂フィルムからなる樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出す方法であって、
前記樹脂フィルムロールを設置する設置工程、および
前記樹脂フィルムを、樹脂フィルムロール内側の巻始め側から引出す引出工程を含み、
前記樹脂フィルムロールは、前記樹脂フィルムをロール状に巻取る際の前記樹脂フィルムに掛かる張力が10~800N/mである、繰出し方法。
【請求項2】
前記設置工程において、樹脂フィルムロールを、ロール中心軸と水平方向とがなす角度のうち小さい方の角度が0~90度となるように設置する、請求項1に記載の繰出し方法。
【請求項3】
前記引出工程において、引出し角度が0~30度となるように樹脂フィルムを引出す、請求項2に記載の繰出し方法。
【請求項4】
前記引出工程において、樹脂フィルムの繰出速度は1m/分以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルムロールの直径は、100~1000mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項6】
前記樹脂フィルムの厚みは、1~500μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項7】
前記樹脂フィルムの幅は、10~2000mmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項8】
前記設置工程において、樹脂フィルムロールを2以上設置する、請求項1~7のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項9】
引出した樹脂フィルムを支持する支持工程を更に含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項10】
前記支持工程において、1周以上ねじられた樹脂フィルムを通過させる、請求項9に記載の繰出し方法。
【請求項11】
ロール状に巻回された樹脂フィルムからなる樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出すための繰出し装置であって、
前記樹脂フィルムロールを設置するための設置手段、および
前記樹脂フィルムを、樹脂フィルムロールの巻始め側から引出すための引出手段を備え、
前記樹脂フィルムロールは、前記樹脂フィルムをロール状に巻取る際の前記樹脂フィルムに掛かる張力が10~800N/mである、繰出し装置。
」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
ロール状に巻回された樹脂フィルムからなる樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出す方法であって、
前記樹脂フィルムロールを設置する設置工程、および
前記樹脂フィルムを、樹脂フィルムロール内側の巻始め側から引出す引出工程を含み、
前記樹脂フィルムロールは、前記樹脂フィルムをロール状に巻取る際の前記樹脂フィルムに掛かる張力が10~800N/mであり、
前記樹脂フィルムロールの中心にシャフトを通さず、および前記樹脂フィルムロールの押さえ手段を用いない、繰出し方法。
【請求項2】
前記設置工程において、樹脂フィルムロールを、ロール中心軸と水平方向とがなす角度のうち小さい方の角度が0~90度となるように設置する、請求項1に記載の繰出し方法。
【請求項3】
前記引出工程において、引出し角度が0~30度となるように樹脂フィルムを引出す、請求項2に記載の繰出し方法。
【請求項4】
前記引出工程において、樹脂フィルムの繰出速度は1m/分以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルムロールの直径は、100~1000mmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項6】
前記樹脂フィルムの厚みは、1~500μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項7】
前記樹脂フィルムの幅は、10~2000mmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項8】
前記設置工程において、樹脂フィルムロールを2以上設置する、請求項1~7のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項9】
引出した樹脂フィルムを支持する支持工程を更に含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の繰出し方法。
【請求項10】
前記支持工程において、1周以上ねじられた樹脂フィルムを通過させる、請求項9に記載の繰出し方法。
【請求項11】
ロール状に巻回された樹脂フィルムからなる樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出すための繰出し装置であって、
前記樹脂フィルムロールを設置するための設置手段、および
前記樹脂フィルムを、樹脂フィルムロールの巻始め側から引出すための引出手段を備え、
前記樹脂フィルムロールは、前記樹脂フィルムをロール状に巻取る際の前記樹脂フィルムに掛かる張力が10~800N/mであり、
前記樹脂フィルムロールの中心を通るシャフトを有さず、および前記樹脂フィルムロールの押さえ手段を有しない、前記繰出し装置。」
2 補正の適否(請求項1に係る補正)について
(1)本件補正後の請求項1についての補正事項は、本件補正前の請求項1の「繰り出し方法」の発明について、「前記樹脂フィルムロールの中心を通るシャフトを有さず、および前記樹脂フィルムロールの押さえ手段を有しない」との特定を追加するものである(以下「補正事項」という。)。
(2)そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
(3)そうすると、請求項1に係る補正である補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(4)また、補正事項のうち「前記樹脂フィルムロールの中心を通るシャフトを有さず」については、当初明細書の段落【0016】、【0017】及び【0040】等の記載に基づいており、「前記樹脂フィルムロールの押さえ手段を有しない」については、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に「押さえ手段」についての記載がなく、そのため「押さえ手段」を有しないことも明示的に記載されていないものの、当該補正事項を本願請求項1に記載することが、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものとはいえない。よって、当該補正事項は新規事項を追加するものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
3 独立特許要件について
上記「2(3)」のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の請求項1に係る発明(令和4年8月2日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1(2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項11】(以下、それぞれ「本件補正発明1」乃至「本件補正発明11」という。))における本件補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正発明1は、上記「1(2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載された事項により特定されるものと認められる。
(2)引用例
ア 引用例3
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-185659号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審が付与。以下同様とする。)。
(ア)「2.特許請求の範囲
(1)長尺シートを巻回した多数のロールを多段に積重して段積みロール群にするとともに上下に隣り合うロール間において上段に位置するロールの最外周に位置するシート巻き終り端部を下段に位置するロールの内周に位置するシール巻き始め端部に連結して段積みロール群の各上下ロールの長尺シートを連続させるとともに、最上段に位置するロールの内周に位置する長尺シート巻き始め端部から引出して加工装置に供給することを特徴とする長尺シートの供給方法。」(第1頁左欄5行-15行)
(イ)「 [産業上の利用分野]
この発明は繊維質の紙,合成繊維からなる不織布,合成樹脂のフィルム,熱収縮性チューブなどの長尺シート状物を巻回したロールを多数段積みしておき最上段のロールから下段のロールまで連続して長尺のシートを送り出しながら供給する方法およびその装置に関するものである。」(第2頁左上欄4行-10行)
(ウ)「 [発明が解決しようとする問題点]
上記従来の方法および装置においては、多数段積みしたロールからシートを連続的に供給することか可能になり、長時間加工装置を停止することおよびロールの供給作業が必要なく、加工装置の停止時間が無くなり作業能率が向上する優れた利点はある。しかし最上段のロールの外周巻き終り端部から送り出すためロールの外側からほぼ横方向にシートの送り出しに限定されるため送り出し方向に制限があること、およびロール1巻が終るたび順次下方向へ移動するため均一なテンションを保持しにくく、またロールがオーバーランするとシートはロールホルダーから落ちてからまるのを防ぐためブレーキを付けるとロールかしまり、シートの切れか考えられるため制御装置が必要とする問題点か考えられる。
そこで本発明は前記従来の問題点を除くため、段積みロールの最上段ロールのシートの巻き始め端部から送り出して供給して、しかも最上段ロールの外周の巻き終り端部を下段ロールの巻き始め端部に連結しておき順次供給することによってロールの供給作業を長時間とるように作業能率の向上をはかることを目的とするものである。」(第2頁右上欄19行-右下欄1行)
(エ)「 各ロールの巻締めの強弱によって、ロールの軸心がずれていた場合には、回転時の段積みロールの安定性を損なわないように軸心を合致しておけばシートの供給上の問題は生じない。」(第3頁左上欄7行-10行)
(オ)「 第2図は本発明の段積みされたロール間にあけるシートの余白部7が各ロール間に出ている状態を示しており、最下段に位置するロール8の最外周に位置するシートの巻き終りの端部9はシートの表面に粘着テープで回転時のずれを防止するため固定することが好ましい。そして段積みされたロールの最上段に位置するロールの巻き始め端部10は上方向(矢印A)に引き出される。最上段ロールから加工装置に順次供給すると最下段ロールまで連続的に供給できる。なおこの実施例ではロールは単に段積みされている固定状態からシートの送り出しを示しているが段積みロールは第4図に示す回転駆動源と連結した回転板に載置された状態で第4図中B方向の矢印で示す回転方向を与えてもよい。」(第4頁右上欄19行-左下欄13行)
(カ)「 第5図は第4図における段積みされたロールが回転板の回転速度が著しく速い場合は、遠心力によって位置ずれが起こるので段積みロールか崩れてシートが切断されるため、段積みロールの高さ寸法に合わせた寸法で、かつロールの外形寸法に適合するか、または若干大きめのゆとりがある肉径寸法の円筒状の枠または網などでできたロール押え16を設けても良い。」(第4頁右下欄11行-18行)
(キ)「 第7図は、また本発明の他の実施例の供給装置の要部断面図を示している。すなわちフレーム11に支承された回転軸12を駆動させるための駆動源13,14と、回転軸12に取付けた水平状態に保つ回転板15とを有し、この回転板15上には段積みされた多数のロール群を第2図の通り各ロール間を連結して載置してある。水平状態に保たれた回転板15に近接してロッド36を取付け上端にアーム37を固定するとともに、このアーム37にシート4が摺動する固定ローラ38が設けてある。またこのロッド36とは対象する位置にアーム39を設け、シートの加工装置への供給速度を検知するレーザー光線の平行ビーム照射部とイメージセンサー受光カメラによるイメージセンサーあるいは光電スイッチとカウンターなどを設置してシートの供給速度の速度検知部40を設け、この速度検知部40と対象位置に相対して前記の供給速度の速度検知部41を設けてある。また前記のロッド36に平行して駆動源42,43により回転する回転軸44に前記同様に水平状態に取付けられた回転板45が設けてあり、これによって段積みロール群からの供給中に次の段積みロールの段取り作業をおこなえるようにしてもよい。この場合には前記ロッド36に平行して別のロッド46を直立に設け、ロッド36と46とにそれぞれに検知部47,48を取付けるとともにロット46にはアーム49に固定ローラ50を取付けシート4を張架して加工装置への方向(矢印A)に送り出す。また前記の各イメージセンサーあるいは光電スイッチとカウンタなどの検知部によって、段積みロールの回転駆動速度(図中矢印B方向)をほぼ同期させるものである。」(第5頁左下欄6行-右下欄16行)
(ク)「
[図:0001401273000001.jpg]
」
(ケ)「
[図:0001401273000002.jpg]
」
(コ)上記「オ」には、「ロールは単に段積みされている固定状態からシートの送り出しを示しているが段積みロールは第4図に示す回転駆動源と連結した回転板に載置された状態で第4図中B方向の矢印で示す回転方向を与えてもよい。」と記載されていることから、ロールを単に段積みする構成と回転板に載置する構成とを含んでいるといえる。
(サ)上記「イ」及び「エ」から、ロールは、合成樹脂のフィルムをロール状に巻締めたものであるといえる。
(シ)上記「ア」より「ロールの内周に位置する長尺シート巻き始め端部から引出して」おり、ロールの中心にシャフトが通っている場合には、ロールの内周から引き出すことはできないので、ロールの中心にシャフトを通していないといえ、上記「キ」より回転板15での段積みロール群からの供給中には回転板45で次の段積みロールの段取り作業を行っていると認められ、「ケ」より回転軸44は回転板45の上側にないことが看取できることから、ロールを載置した際に、ロールの中心を回転軸44は通っていないと認められる。また回転軸12についても同様である。
(ス)上記「カ」には「段積みされたロールが回転板の回転速度が著しく速い場合は、遠心力によって位置ずれが起こるので段積みロールか崩れてシートが切断されるため」、「ロール押え16を設けても良い」と記載されていることから、回転板の回転速度が著しく速いものでない場合など、段積みロールの位置ずれなどが起こらない場合には、ロール押え16を用いずに送り出しを行うと解されるし、上記「ク」及び「ケ」の図面からも「ロール押え16」を用いないことも看取できる。
そうすると、引用例3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「合成樹脂のフィルムを巻回した最上段のロールから合成樹脂のフィルムを送り出す方法であって(記載事項(イ))、
ロールを設置する工程(認定事項(コ))、およびロールの内周に位置する長尺シート巻き始め端部から引出す工程(記載事項(ア))を含み、
前記ロールは、合成樹脂のフィルムをロール状に巻締めており(認定事項(サ))、
前記ロールの中心にシャフトを通さず(認定事項(シ))、前記ロールのロール押え16を用いない(認定事項(ス))、送り出す方法。」
イ 引用例4
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2013-256391号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムをコア(巻芯)に巻き取り、円筒状の樹脂フィルムロールを製造する方法、および当該方法により得られる樹脂フィルムロールに関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような端部盛り上がりを抑制できる樹脂フィルムロールの製造方法、および該方法により得られる樹脂フィルムロールを提供することを目的とする。」
(ウ)「【0023】
本発明の製造方法における樹脂フィルムをコアに巻き取る際にかかる巻き取り張力は、低すぎると樹脂フィルムにたるみが生じ、逆に高すぎると樹脂フィルムが伸ばされるため、かえってシワが生じ易くなる。したがって、本発明における製造方法においては、巻き取り張力は適当な張力を適宜選定するのが好ましい。例えば、弾性率が1.5~10.0GPa、厚みが5~250μmの樹脂フィルムの場合は、巻き取り張力は10~200N/m幅であることが好ましい。」
(エ)「【0031】
(実施例1)
幅525mm、厚み35μmで、1mmのフィルムカール量を有するポリイミドフィルムを使用して、フィルムカール面が内側になるように、巻き取り張力を35N/m幅、タッチロールの押し当て圧を70N/m幅、巻き取り速度15m/分、の条件で巻き取った。その結果、樹脂フィルムロール端部の盛り上がり高さは0.5mmであり、またシワのないフィルムロールを得ることができた。」
そうすると、上記記載事項(ア)乃至(エ)から、引用例4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。
「樹脂フィルムをロール状に巻き取る際の巻き取り張力を35N/mとする巻き取り方法。」
(3)対比
本願補正発明1と引用発明3とを対比する。
ア 後者の「合成樹脂のフィルム」は、前者の「樹脂フィルム」に相当し、後者の「ロール」は「合成樹脂のフィルムを巻回し」ていることから、前者の「樹脂フィルムロール」に相当し、後者の「合成樹脂のフィルムを巻回した最上段のロール」は、前者の「ロール状に巻回された樹脂フィルムからなる樹脂フィルムロール」に相当する。
イ 後者の「合成樹脂のフィルムを送り出す方法」は、前者の「樹脂フィルムを繰出す方法」に相当する。
ウ 後者の「ロールを設置する工程」は、上記「(2)ア(コ)」よりロールを単に段積みする構成と回転板に載置する構成とを含むものであり、後者が「ロールを単に段積みする構成」の場合には、前者の「樹脂フィルムロールを設置する設置工程」に相当し、後者が「ロールを回転板に載置する構成」の場合にも、前者の「樹脂フィルムロールを設置する工程」に相当する。
エ 後者の「ロールの内周に位置する」は、前者の「樹脂フィルムロール内側の」に相当し、後者の「長尺シート巻き始め端部」は、前者の「巻始め側」に相当することから、後者の「ロールの内周に位置する長尺シート巻き始め端部から引き出す工程」は、前者の「樹脂フィルムロール内側の巻始め側から引出す引出工程」に相当する。
オ 後者の「ロール状に巻締め」とはロール状に巻き取る行為とロールが緩まないように力を作用させて締める行為を含むものであるといえるから、「ロールは、合成樹脂のフィルムをロール状に巻締めて」は、前者の「樹脂フィルムロールは、前記樹脂フィルムをロール状に巻取り」に含まれる。
カ 後者の「ロール押え16」は、前者の「押さえ手段」に相当する。
そうすると、本願補正発明1と引用発明3とは、
【一致点】
「ロール状に巻回された樹脂フィルムからなる樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出す方法であって、
前記樹脂フィルムロールを設置する設置工程、および
前記樹脂フィルムを、樹脂フィルムロール内側の巻始め側から引出す引出工程を含み、
前記樹脂フィルムロールは、前記樹脂フィルムをロール状に巻取り、
前記樹脂フィルムロールの中心にシャフトを通さず、および前記樹脂フィルムロールの押さえ手段を用いない、繰出し方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】
本願補正発明1が、「前記樹脂フィルムをロール状に巻取る際の前記樹脂フィルムに掛かる張力が10~800N/m」であるのに対して、引用発明3は、巻き取る際の樹脂フィルムに掛かる張力が特定されていない点。
(4)判断
ここで、引用例3についてみると、上記「(2)ア(エ)」には、「各ロールの巻締めの強弱によって、ロールの軸心がずれていた場合」について記載されており、ロールの巻き取り時における巻締めの強弱、つまり巻き取り張力の強弱によってロールの軸心がずれることが指摘されているといえる。
一方、引用例4について、上記「(2)イ(ウ)」及び「(エ)」には、樹脂フィルムのロール巻き取りの際の空気の巻き込みやシワの発生を防止するための適切な巻き取り張力として35N/mとすることが記載されており、引用発明4の「樹脂フィルム」、「ロール状に巻取る」こと、「巻き取り張力」は、本願補正発明1の「樹脂フィルム」、「ロール状に巻取る」こと、「樹脂フィルムに掛かる張力」に相当する。
そして、本願補正発明1と引用発明4とは、「樹脂フィルムに掛かる張力」が「35N/m」の点で一致する。
そうすると、上記相違点に係る構成は、引用発明4に示されている。
そして、上述した引用例3に記載の「ロールの巻締めの強弱によって、ロールの軸心がずれる」という記載に触れた当業者であれば、巻き取り張力を調整してロールの軸心を揃えようとする動機付けがあるといえ、同一の技術分野である樹脂フィルムの巻き取り方法に関する引用例4を適用し、ロール巻き取りの際の空気の巻き込みやシワの発生を防止することで、ロールの軸心を揃えるために、引用発明3に記載のロールの巻き取り張力として、引用発明4に記載の巻き取り張力を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、本願補正発明1の樹脂フィルムをロール状に巻取る際の前記樹脂フィルムに掛かる張力を特定する効果について、当初明細書等の段落【0019】には、「樹脂フィルムの破断が抑制され易くなり、および樹脂フィルムが適度な力で巻取られるため樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出し易くなると共に樹脂フィルムロールがロール状を維持し易くなる傾向にある。」と記載されている。当該記載における一つ目の効果については、樹脂フィルムを適切な張力で巻き取ることで、当業者であれば当然に予測し得る程度のものであって、格別顕著な効果を奏するものとも認められない。二つ目の効果については、樹脂フィルムが適度な力で巻き取られることと、樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出し易くなることの技術的な関係性が明らかでなく、例えば、樹脂フィルムの繰り出すには、樹脂フィルムの性質、樹脂フィルムを繰出す際の樹脂フィルムの張力や繰出す角度などの様々な要素に依存するため、当該技術分野における出願時の技術常識を参酌しても、適切な巻き取り張力によって得られる効果と認めることができるほど、明細書において十分に記載されているとも認められない。三つ目の効果については上述のとおり引用発明3のロールの巻き取る際に、引用発明4の張力を採用することで得られる効果であるといえる。
(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、“引用文献3に記載の発明は、長尺シートの供給法及びシートの供給装置に関するものであり、引用文献3には、本願発明におけるシャフトに相当する回転軸12にロールを載置する回転板15を取付けることが記載されています(第4頁右下欄4~10行、第4~7図)。引用文献3の[作用]の欄には、軸心を中心としすべてのロールを回転するのでねじれがとれることが記載されています(第2頁右下欄下から4行~第3頁左上欄1行)。したがって、引用文献3に記載の発明では、回転軸12を備えない構成は想定されていないと考えます。”と主張している。
しかし、上記「(2)ア(コ)」で述べたように、引用発明3はロールを単に段積みする構成と回転板に載置する構成とを含み得ることから、ロールを単に設置する構成とすることが記載されているといえるし、仮に回転軸12上の回転板に設置する構成を採用したとしても、本願発明のシャフトとは樹脂フィルムロールの中心を通るものであるのに対して、上記「(2)ア(シ)」で述べたように、引用例3における回転軸12はその軸の延長線上がロールの中心を通るとしても、回転軸12が物理的にロールの中心を通っていないことから、引用例3の「回転軸12」は、本願発明の「シャフト」には相当しない。
また、同審判請求書において、“本願発明によれば、樹脂フィルムロールの中心にシャフトを通さないこと、及び樹脂フィルムロールの押さえ手段を用いないことにより、樹脂フィルムとシャフトとの擦れによる発塵が抑制され、及び樹脂フィルムに対する張力が低くなり、樹脂フィルムの破断が抑制されるという効果が奏されます(段落[0040] )。このような効果は、引用文献1-3のいずれにも開示されておらず、引用文献1-3からは予期し得ない有利な効果です。”と主張している。
しかし、上記「(2)ア(ス)」のとおり引用発明3は、ロールの中心にシャフトを通さず、前記ロールのロール押え16を用いないものであることから、請求人の主張する効果を奏するものと認められる。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。
(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下された。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和3年10月22日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ロール状に巻回された樹脂フィルムからなる樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出す方法であって、
前記樹脂フィルムロールを設置する設置工程、および
前記樹脂フィルムを、樹脂フィルムロール内側の巻始め側から引出す引出工程を含み、
前記樹脂フィルムロールは、前記樹脂フィルムをロール状に巻取る際の前記樹脂フィルムに掛かる張力が10~800N/mである、繰出し方法。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の理由とされた、令和3年12月16日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のものを含むものである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献3及び下記引用文献4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.特開昭62-185659号公報
4.特開2013-256391号公報
3 引用例
令和3年12月16日付けの拒絶理由通知書で引用された引用例、及び、その記載内容と引用発明3及び4は上記「第2 3(2)」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明1において実質的に「前記樹脂フィルムロールの中心にシャフトを通さず、および前記樹脂フィルムロールの押さえ手段を用いない」の限定を省くものである。
そうすると、本願発明と引用発明3とを対比すると、上記「第2 3(3)対比」での検討を勘案し、両者は、
【一致点】
「ロール状に巻回された樹脂フィルムからなる樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを繰出す方法であって、
前記樹脂フィルムロールを設置する設置工程、および
前記樹脂フィルムを、樹脂フィルムロール内側の巻始め側から引出す引出工程を含み、
前記樹脂フィルムロールは、前記樹脂フィルムをロール状に巻取る、繰出し方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】
本願発明が、「前記樹脂フィルムをロール状に巻取る際の前記樹脂フィルムに掛かる張力が10~800N/m」であるのに対して、引用発明3は、巻き取る際の樹脂フィルムに掛かる張力が特定されていない点。
そうすると、上記「第2 3(3)」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明3及び引用発明4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-011949