特許拒絶査定不服審判
2022-011126
透明エネルギー取り込み装置
- 審判番号
- 2022-011126
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-003658
- 請求日
- 2022年07月15日
- 審決日
- 2024年08月08日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ボード オブ トラスティーズ オブ ミシガン ステート ユニバーシティ
- 【請求人代理人】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 吉野 三寛
- 審判官 芝沼 隆太
- 分類
- P18 .121-WZ (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 3658「透明エネルギー取り込み装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 5月14日出願公開、特開2020- 74429〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)3月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年3月20日(以下「優先日」という。)、米国)を国際出願日とする特願2017-501095号の一部を令和2年1月14日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和3年 1月 6日付け:拒絶理由通知書
同年 4月 7日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 6月18日付け:拒絶理由通知書
同年 9月29日 :意見書及び手続補正書の提出
同年10月22日付け:拒絶理由通知書
令和4年 2月 1日 :意見書及び手続補正書の提出
同月 7日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 3月15日 :原査定の謄本の送達)
同年 7月15日 :審判請求書の提出
令和5年 6月23日付け:拒絶理由通知書
同年12月22日 :意見書及び手続補正書の提出
2 本願発明
本願の請求項1~23に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、令和5年12月22日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の請求項1~23に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
<本願発明>
「a.基板と、
b.前記基板の表面上に配置された、もしくは、前記基板に埋め込まれた、分割太陽光電池アレイ、または、前記基板の端部に配置された光電池素子と、
c.約650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収および放射し、20%よりも高い量子収量において光を放射する導波路リダイレクト物質を含み、前記基板に配置されたフィルムとを備え、
前記導波路リダイレクト物質が、シアニン又はシアニン塩、有機分子、小ギャップ重合体、スクアリリウム、カーボンナノチューブ、チア炭素シアニン又はチア炭素シアニン塩、ナフサロシアニン又はその誘導体、フタロシアニン又はその誘導体、ポルフィリン、若しくは、これらの組み合わせであり、
前記基板と前記フィルムとは、人間の視覚に対して透明であり、
前記基板の表面に対して、該表面の平面方向に対し90度を成す角度において、光が接触した場合において、平均可視光透過率が50%よりも高く、演色評価数が80よりも高いエネルギー収集システム。」
3 当審拒絶理由の概要
本件補正前の請求項1に係る発明について、令和5年6月23日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、次の理由を含むものである。
本件補正前の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明及び技術常識(引用文献2及び3)に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.国際公開第2011/158568号
2.特開2008-181688号公報(技術常識を示す文献)
3.特表2012-526212号公報(技術常識を示す文献)
4 当審の判断
(1) 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1に記載された事項及び引用発明
(ア) 当審拒絶理由で引用された国際公開第2011/158568号(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当合議体が付した、以下同じ。)。
「[0010] 本発明に係る太陽電池ユニットは、上記の課題を解決するために、内部の光を端面に導光する導光板、および当該導光板内に入射する光または入射した光のうち、不可視光を吸収して、異なる波長の不可視光を放出する蛍光体を含んで構成された蛍光集光板と、上記蛍光集光板の端面に受光面を向けて配置された太陽電池とを、備えることを特徴としている。
…(中略)…
[0013] 上記構成によれば、蛍光集光板に照射された光のうち、可視光は、蛍光体に吸収されることなく蛍光集光板を透過する。また、蛍光体から放出された不可視光の一部が、蛍光集光板内で反射されず、蛍光集光板の外側に出射されたとしても、視認されることはない。このため、光が照射された主面の反対側の主面から蛍光集光板が観察された場合、当該蛍光集光板は透明に近い色彩として観察される。
[0014] したがって、太陽電池ユニットの大部分を占める蛍光集光板がほぼ透明であるため、太陽電池としての機能を好適に発揮しつつ、外部からはその存在を認識し難くすることが可能となる。これによって、これまで設置が好まれなかった場所への設置も可能になり、設置の自由度を向上させることができる。
[0015] 本発明に係る太陽電池ユニットは、内部の光を端面に導光する導光板、および当該導光板内に入射する光または入射した光のうち、不可視光を吸収して、異なる波長の不可視光を放出する蛍光体を含んで構成された蛍光集光板と、上記蛍光集光板の端面に受光面を向けて配置された太陽電池とを備えるため、発電を好適に行いつつ、外部からはその存在を認識し難い太陽電池ユニットを実現することができる。」(当合議体注:引用文献1には「認識し難くい」と記載されているが、これは「認識し難い」の誤記であることは明らかであるから、誤記を正して摘記した。)
「[0017] 〔実施形態1〕
本発明の第1の実施形態について図1および図2に基づいて説明すると以下の通りである。
[0018] まず、図1に基づいて、本実施形態における太陽電池ユニット100の概略構成について説明する。太陽電池ユニット100は、蛍光集光板2および太陽電池4を備えている。
[0019] 蛍光集光板2は、内部に蛍光体6が分散して存在する導光板であり、例えば樹脂やガラスなどの透明材料中に蛍光体6を分散させて形成することができる。
…(中略)…
[0023] 例えば、蛍光体6の発光波長のピークが470nm以下または650nm以上であれば、その光は視感度が10%以下になるため、人の目には視認され難い。また、蛍光体6の発光波長のピークが400nm以下または700nm以上であれば、その光は視感度が0近傍になるため、人の目には殆ど視認されない。なお、視感度とは、人間の目が最も強く感じる波長555nmの光を1として、他の波長の明るさを感じる度合いについて比を用いて表現したものである(図2参照)。」
「[0050] 〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態について図5から図7に基づいて説明すると以下の通りである。図5は、第2の実施形態に係る太陽電池ユニット120を示す断面図である。また、図6は、上記太陽電池ユニット120の分解斜視図である。
[0051] なお、実施形態1における構成要素と対応する機能を有する構成要素には、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
[0052] まず、本実施形態における太陽電池ユニット120の概略構成について説明する。図5に示すように、太陽電池ユニット120は、導光板16、蛍光フィルム(蛍光層)18、および太陽電池4を備えている。
[0053] 本実施形態では、導光板16と蛍光フィルム18との積層構造が、蛍光集光板20を構成している。
[0054] 導光板16は、その内部に蛍光体を含まない透明な板であり、樹脂やガラス等の透明材料から形成することができる。
[0055] 蛍光フィルム18は、その内側に蛍光体(図示しない)が分散して存在するフィルムである。蛍光フィルム18は、導光板16の少なくとも一方の主面に光学接着して設けられればよく、本実施形態では、導光板16の上面に貼り付けられている。
[0056] 太陽電池4は、蛍光集光板20の端面20aに設けられており、その受光面が端面20aに対向するように配置されている。
[0057] 本実施形態に係る太陽電池ユニット120は、例えば以下のように作製することができる。まず、実施形態1に記載したような、蛍光物質を分散させた厚み10mmのアクリル板を、厚み0.1mm程度に薄く広げて蛍光フィルム18を作製する。また、蛍光フィルム18を、250mm×250mm×10mmのガラスと同サイズに切り取って、当該ガラス上にαGEL(登録商標、タイカ社)を用いて光学接着する。さらに、上記ガラスの4つの端面にαGEL(登録商標、タイカ社)を用いて、アモルファスシリコン太陽電池を光学接着し、全ての太陽電池を直列に接続する。なお、これら具体的数字は一例であり、種々の変更が可能である。
[0058] 本実施形態に係る太陽電池ユニット120における蛍光集光板20について、さらに図5を参照して以下に説明する。
[0059] まず、太陽光が蛍光集光板20の上面に照射されると(矢印8)、蛍光フィルム18の蛍光体が、太陽光のうち紫外光または赤外光を吸収し、蛍光(紫外光または赤外光)を等方向に放出する。
[0060] 蛍光フィルム18内において蛍光体から放出された蛍光のうち、蛍光集光板20側に放出された蛍光の一部は、蛍光集光板20に入射する。この入射光の一部は、導光板16内を導光して端面20aに集光される。また、当該入射光の他の一部は、導光板16内だけでなく、蛍光集光板20全体の内部を導光して、端面20aに集光される。すなわち、蛍光集光板20は、蛍光をその端面20aに集光する。太陽電池4は、蛍光集光板20の端面20aに集光された蛍光を利用して発電を行うことができる。
[0061] 一方、蛍光集光板20に入射した蛍光のうち、蛍光集光板20の内で反射する条件を満たさない一部の蛍光は、蛍光集光板20の下面または下面から出射される。この出射光は紫外光または赤外光であるため、その視感度は低い。
[0062] また、蛍光集光板20の上面に照射された太陽光のうち、蛍光フィルム18内の蛍光体が吸収する波長以外の光、すなわち紫外光または赤外光以外の可視光は、蛍光集光板20を透過する(矢印10)。このため、蛍光集光板20は下面から観察された場合、透明に近い色彩として観察される。
[0063] 以上により、本実施形態に係る太陽電池ユニット120は、実施形態1と同様、太陽電池としての機能を好適に発揮しつつ、外観上の問題を解決することができる。これによって、これまで設置が好まれなかった場所への設置も可能になり、設置の自由度を向上させることができる。」
「図5
[図:0001418409000001.jpg]
図6
[図:0001418409000002.jpg]
」
(イ) 引用文献1の記載より把握できる技術事項
前記(ア)の記載より、以下の技術事項が認められる。
a 実施形態2の蛍光フィルム18に分散される蛍光体は、その発光波長のピークが700nm以上といえること。
すなわち、実施形態2に係る「なお、実施形態1における構成要素と対応する機能を有する構成要素には、同じ符号を付記し、その説明を省略する。」([0051])及び「まず、実施形態1に記載したような、蛍光物質を分散させた厚み10mmのアクリル板を、厚み0.1mm程度に薄く広げて蛍光フィルム18を作製する。」([0057])との記載によれば、実施形態2の蛍光体は、実施形態1の蛍光体6と同じものと理解できるから、[0023]に記載された実施形態1に用いられる蛍光体6は、実施形態2でも用いられるものと理解することができる。
b 実施形態2に係る太陽電池ユニットは、太陽電池としての機能を好適に発揮しつつ、外部からはその存在を認識し難くすることが可能となること。
すなわち、実施形態2に係る太陽電池ユニットについて、「実施形態1と同様、太陽電池としての機能を好適に発揮しつつ、外観上の問題を解決することができる。これによって、これまで設置が好まれなかった場所への設置も可能になり、設置の自由度を向上させることができる。」([0063])と記載されているところ、実施形態1及び実施形態2に共通する「したがって、太陽電池ユニットの大部分を占める蛍光集光板がほぼ透明であるため、太陽電池としての機能を好適に発揮しつつ、外部からはその存在を認識し難くすることが可能となる。これによって、これまで設置が好まれなかった場所への設置も可能になり、設置の自由度を向上させることができる。」([0014])との記載に照らしてみれば、前記「外観上の問題を解決することができる」とは、「外部からはその存在を認識し難くすることが可能となること」と理解することができる。
(ウ) 以上より、引用文献1には、図5~7に示される実施形態2に係る太陽電池ユニットに関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。
<引用発明>
「導光板16、蛍光フィルム(蛍光層)18、および太陽電池4を備えている、太陽電池ユニット120であって、([0052])
導光板16と蛍光フィルム18との積層構造が、蛍光集光板20を構成しており、([0053])
導光板16は、その内部に蛍光体を含まない透明な板であり、樹脂やガラス等の透明材料から形成することができ、([0054])
蛍光フィルム18は、その内側に蛍光体が分散して存在するフィルムであり、導光板16の上面に貼り付けられており、([0055])
太陽電池4は、蛍光集光板20の端面20aに設けられており、その受光面が端面20aに対向するように配置されており、([0056])
太陽光が蛍光集光板20の上面に照射されると、蛍光フィルム18の蛍光体が、太陽光のうち紫外光または赤外光を吸収し、蛍光(紫外光または赤外光)を等方向に放出し、([0059])
蛍光フィルム18内において蛍光体から放出された蛍光のうち、蛍光集光板20側に放出された蛍光の一部は、蛍光集光板20に入射し、この入射光の一部は、導光板16内を導光して端面20aに集光され、([0060])
蛍光集光板20の上面に照射された太陽光のうち、蛍光フィルム18内の蛍光体が吸収する波長以外の光、すなわち紫外光または赤外光以外の可視光は、蛍光集光板20を透過し、このため、蛍光集光板20は下面から観察された場合、透明に近い色彩として観察され、([0062])
蛍光体の発光波長のピークが700nm以上であり、(前記(イ)a)
太陽電池としての機能を好適に発揮しつつ、外部からはその存在を認識し難くすることが可能となる、(前記(イ)b)
太陽電池ユニット120。」
イ 引用文献2、3に記載された事項及び周知技術の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
令和3年10月22日付け拒絶理由通知書に引用された、RURACK, Knut et al., “Fluorescence Quantum Yields of a Series of Red and Near-Infrared Dyes Emitting at 600-1000 nm”, analytical chemistry, 2011年1月20日, Vol.83, pp.1232-1242(以下「引用文献2」という。)には、次の技術事項が記載されている。
「蛍光色素であるHITCIの量子収量、推奨励起波長範囲、推奨発光波長範囲及び発光ピーク波長は、それぞれ0.283(±0.017)、650~745nm、770~870nm及び772.7nmであること。」(図3、表4、表5)
(イ) 引用文献3に記載された事項
令和3年10月22日付け拒絶理由通知書に引用された、WURTH, Christian et al., “Integrating Sphere Setup for the Traceable Measurement of Absolute Photoluminescence Quantum Yields in the Near Infrared”, analytical chemistry, 2011年12月22日, Vol.84, pp.1345-1352(以下「引用文献3」という。)には、次の技術事項が記載されている。
「蛍光色素であるHITCIの量子収量、励起波長範囲、発光波長範囲及び発光ピーク波長は、それぞれ0.297、約550~825nm、約710~950nm及び約775nmであること。」(図4、表1)
(ウ) 周知技術の認定
前記(ア)及び(イ)から、「蛍光色素であるHITCIは、発光ピーク波長は700nm以上であり、励起波長は650nmより長波長の光を選択的に吸収するものであり、量子収量は20%よりも高い蛍光色素であること」は周知技術と認められる。
(2) 対比(一致点及び相違点の認定)
本願発明と引用発明を対比すると、次のとおりである。
ア 本願発明の「a.基板と、b.前記基板の表面上に配置された、もしくは、前記基板に埋め込まれた、分割太陽光電池アレイ、または、前記基板の端部に配置された光電池素子と、」との特定事項について
(ア) 引用発明の「導光板16」及び「太陽電池4」は、それぞれ本願発明の「基板」及び「光電池素子」に相当する。
(イ) 引用発明の「太陽電池4」は、「蛍光集光板20の端面20aに設けられており、その受光面が端面20aに対向するように配置されて」いるところ、当該「蛍光集光板20」が「導光板16と蛍光フィルム18との積層構造」であることを勘案すれば、太陽電池4は導光板16の端部に受光面を向けて配置されていることが理解できるから、本願発明でいう「前記基板の端部に配置された」ものといえる。
(ウ) したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしている。
イ 本願発明の「c.約650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収および放射し、20%よりも高い量子収量において光を放射する導波路リダイレクト物質を含み、前記基板に配置されたフィルムとを備え、」との特定事項について
(ア) 引用発明の「蛍光体」は、「太陽光のうち紫外光または赤外光を吸収し、蛍光(紫外光または赤外光)を等方向に放出」し、「蛍光体から放出された蛍光のうち」「の一部」は、「導光板16内を導光して端面20aに集光され」ており、当該「蛍光体」は、太陽光のうちの一部を波長変換した後に導光板16内を導光する方向へ蛍光を放出しているものと理解できるから、本願発明の「導波路リダイレクト物質」に相当するといえる。そして、当該「蛍光体」は、「太陽光のうち紫外光または赤外光を吸収し、蛍光(紫外光または赤外光)を等方向に放出」するものであり、「発光波長のピークが700nm以上」である。そうすると、引用発明の「蛍光体」と本願発明の「導波路リダイレクト物質」は、「光を選択的に吸収し」、「約650nmよりも長い波長の光を選択的に放射し」との点で共通する。
(イ) 引用発明の「蛍光フィルム18」は、本願発明の「フィルム」に相当する。そして、当該「蛍光フィルム18」は、「その内側に蛍光体が分散して存在するフィルムであり、導光板16の上面に貼り付けられて」いるから、本願発明の「導波路リダイレクト物質を含み、前記基板に配置された」との前記特定事項を満たしている。
(ウ) 以上より、本願発明の前記特定事項と引用発明は、「光を選択的に吸収し、および」「約650nmよりも長い波長の光を選択的に放射」「する導波路リダイレクト物質を含み、前記基板に配置されたフィルムとを備え」との点で共通する。
ウ 本願発明の「前記導波路リダイレクト物質が、シアニン又はシアニン塩、有機分子、小ギャップ重合体、スクアリリウム、カーボンナノチューブ、チア炭素シアニン又はチア炭素シアニン塩、ナフサロシアニン又はその誘導体、フタロシアニン又はその誘導体、ポルフィリン、若しくは、これらの組み合わせであり、」との特定事項について
引用発明の「蛍光体16」の材料は、特定されていない。
エ 本願発明の「前記基板と前記フィルムとは、人間の視覚に対して透明であり、」との特定事項について
引用発明の「蛍光集光板20」は、「導光板16と蛍光フィルム18との積層構造」であるところ、「下面から観察された場合、透明に近い色彩として観察され」るものであり、当該「蛍光集光板20」を備える引用発明は、「外部からはその存在を認識し難くすることが可能となる」ものであるところ、「観察され」及び「存在を認識」とは、人間の視覚に係るものと理解できるから、引用発明の「蛍光集光板20」、すなわち「導光板16」及び「蛍光フィルム18」は、人間の視覚に対して透明であると解することが自然といえる。
したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしている。
オ 本願発明の「前記基板の表面に対して、該表面の平面方向に対し90度を成す角度において、光が接触した場合において、平均可視光透過率が50%よりも高く、演色評価数が85よりも高い」との特定事項について
引用発明の「平均可視光透過率」及び「演色評価数」は不明である。
カ 引用発明の「太陽電池ユニット120」は、太陽光をエネルギーとして収集するものであるから、本願発明の「エネルギー収集システム」に相当するといえる。
キ 以上より、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「a.基板と、
b.前記基板の端部に配置された光電池素子と、
c.光を選択的に吸収し、および約650nmよりも長い波長の光を選択的に放射し、光を放射する導波路リダイレクト物質を含み、前記基板に配置されたフィルムと、を備え、
前記基板と前記フィルムとは、人間の視覚に対して透明である、
エネルギー収集システム。」
<相違点>
・相違点1
「導波路リダイレクト物質」について、本願発明は、「約650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収し、20%よりも高い量子収量において光を放射する」ものであるのに対し、引用発明の「蛍光体」は、「紫外光または赤外光を吸収」するものであるものの、650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収するものであるかどうかは不明であり、また、その量子収量も不明である点。
・相違点2
「導波路リダイレクト物質」について、本願発明は、「シアニン又はシアニン塩、有機分子、小ギャップ重合体、スクアリリウム、カーボンナノチューブ、チア炭素シアニン又はチア炭素シアニン塩、ナフサロシアニン又はその誘導体、フタロシアニン又はその誘導体、ポルフィリン、若しくは、これらの組み合わせ」であるのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
・相違点3
本願発明は、「前記基板の表面に対して、該表面の平面方向に対し90度を成す角度において、光が接触した場合において、平均可視光透過率が50%よりも高く、演色評価数が80よりも高い」と特定されているのに対し、引用発明は、「平均可視光透過率」及び「演色評価数」が、不明である点。
(3) 判断
ア 相違点1について
(ア)a まず、相違点1に係る本願発明の「約650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収し」との発明特定事項の技術的意義について検討すると、当該発明特定事項は、本願発明の「前記基板と前記フィルムとは、人間の視覚に対して透明であり」との発明特定事項、すなわち、基板とフィルムが可視光を透過することを実現するために、導波路リダイレクト物質による可視光の吸収を少なくすることであると解される。一方、本願発明の導波路リダイレクト物質として挙げられているシアニン塩であるHITCIの吸収スペクトルは650nm以下の可視光領域にも至っていることからみて(【0075】・【図8A】)、「約650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収」とは、650nm以下の波長の光を全く吸収しないことまでは要せず、約650nmより長い波長の光を約650nm以下の波長の光よりも多く吸収すれば足りると解するのが相当である。
b 他方、引用発明は、「蛍光集光板20の上面に照射された太陽光のうち、蛍光フィルム18内の蛍光体が吸収する波長以外の光、すなわち紫外光または赤外光以外の可視光は、蛍光集光板20を透過し、このため、蛍光集光板20は下面から観察された場合、透明に近い色彩として観察され」、「外部からはその存在を認識し難くすることが可能となる」太陽電池ユニットであるから、引用発明においてできる限り可視光を透過させる、すなわち、蛍光体が可視光を吸収しないよう構成する動機はあるといえる。そして、引用発明は、「蛍光体の発光波長のピークが700nm以上であ[る]」から、できるだけ可視光を吸収しないように、蛍光体が選択的に吸収する光を赤外光とし、引用文献1の[0023]の、650nm以上の光は視感度が10%以下になるとの記載に基づき、その具体的な波長を650nmよりも長い波長とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
(イ) 引用発明は、「太陽電池ユニット」であるから、少しでも高い発電効率を求めることは自然な要求であるところ、引用発明が備える「蛍光体」の「量子収量」が、発電効率の向上に寄与する一因であることは、引用発明の「太陽電池」が、専ら「蛍光体」の発光を受光して発電するものであることより明らかといえる。そうすると、引用発明の「蛍光体」において、その「量子収量」を高くすることは、当業者にとって自然な事項ということができ、その程度として「20%よりも高い」との値自体も、例えば引用文献2及び3に例示される周知技術(前記(1)イ(ウ)参照。)に見られるように、ごく普通の値にすぎないから、引用発明の「蛍光体」を、太陽電池ユニットの発電効率向上の観点から、「20%よりも高い量子収量において光を放射する」蛍光体とすることは、当業者であれば容易になし得たことといえる。なお、引用発明において蛍光体の添加量(濃度)は不明であるが、蛍光体の濃度が所定の濃度より高くなると量子収量が低下する、いわゆる濃度消光と呼称される現象が生じることは、当業者には技術常識であるから、前記のとおり、引用発明の「蛍光体」を「20%よりも高い量子収量において光を放射する」蛍光体とするに際し、蛍光体の材料のみならずその濃度も考慮して20%よりも高い量子収量において光を放射するように構成することは、当業者にとって当然のことといえる。
(ウ) 以上より、引用発明の「蛍光体」を、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
イ 相違点2について
引用発明の「蛍光体」は、「太陽光のうち紫外光または赤外光を吸収し、蛍光(紫外光または赤外光)を等方向に放出」するものであって、その「発光波長のピーク」は、「700nm以上」のものであるところ、当業者は、「発光波長のピーク」が「700nm以上」であり、相違点1について前記アで検討したように650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収し、量子収率が20%よりも高い蛍光体として、そのような吸収及び発光波長並びに量子収量の条件を満たす蛍光体を適宜採用し得るといえる。そして、前記(1)イ(ウ)のとおり、前記の条件を満たす蛍光色素として、HITCIは周知であり、このHITCIが相違点2に係る物質に含まれている(シアニン塩であり、有機分子である)ことは明らかである。そうすると、引用発明において、「発光波長のピーク」が「700nm以上」であるとともに、前記アの事項も踏まえ、650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収し、量子収率が20%よりも高い「蛍光体」として、周知のHITCIを採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
ウ 相違点3について
(ア) 引用発明は、「蛍光集光板20の上面に照射された太陽光のうち、蛍光フィルム18内の蛍光体が吸収する波長以外の光、すなわち紫外光または赤外光以外の可視光は、蛍光集光板20を透過し、このため、蛍光集光板20は下面から観察された場合、透明に近い色彩として観察され」、「外部からはその存在を認識し難くすることが可能となる」、いわゆるシースルー型太陽電池と理解できるところ、このようなシースルー型太陽電池は、光(太陽光)を透過させる(採光する)ことを目的とするものであるから、光を十分に透過させる、すなわち、光透過性を高くする動機はあるといえる。したがって、光透過性の評価指標として周知な「平均可視光透過率」に着目し、引用発明の「平均可視光透過率」を「50%」よりも高くすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
(イ) 前記(ア)のとおり、引用発明は、「蛍光集光板20は下面から観察された場合、透明に近い色彩として観察され」るものであるシースルー型太陽電池と理解できるところ、このような太陽電池において透過光による自然な演色が求められることは技術常識(例えば、当審拒絶理由で引用された特開2008-181688号公報の「しかしながら、色素増感型太陽電池を用いた場合のように、入射した可視光の一部の波長領域が透過されるような太陽電池では、その太陽電池を透過した可視光は自然光と異なる。このため、透過光が照射された対象物は不自然な色味を帯びてしまうという問題がある。特に、住宅等の建物で利用しようとする場合には、建物内の対象物が不自然な色味を帯びることになり、利用者に違和感を与えてしまう。」(【0004】)との記載、同じく当審拒絶理由で引用された特表2012-526212号公報の「更に、光学素子は、その素子の穿孔を充填する積層材を備えないガラスに取り付けられるので、透過光の変色が完全に防止される。従って、説明される素子の固定方法は、建物内部の物体の自然な演色を保証する。」(【0028】)との記載参照。)といえ、このことは引用発明の「透明に近い色彩」や「外部からはその存在を認識し難くすることが可能となる」が示唆していることでもあるから、引用発明においても、より自然な演色が得られるように光を透過させる動機はあるといえる。したがって、自然な演色の光の評価指標として周知な「演色評価数」に着目し、引用発明による透過光の「演色評価数」を「80」よりも高くすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
(ウ) また、相違点3に係る「前記基板の表面に対して、該表面の平面方向に対し90度を成す角度において、光が接触した場合において」との事項は、「平均可視光透過率」及び「演色評価数」を測定するための通常の条件を定めたにすぎず、格別の事項とはいえない。
(エ) 以上のとおりであるから、引用発明において、相違点3に係る本願発明の如く、導光板の表面に対して、該表面の平面方向に対し90度を成す角度において、光が接触した場合において、平均可視光透過率を50%以上とし、演色評価数を80以上とすることは、当業者が容易になし得たことである。
エ 総合検討
これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の作用効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び周知技術の奏する作用効果並びに技術常識から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
オ 審判請求人の主張について
(ア) 審判請求人(以下「請求人」という。)は、平均可視光透過率と演色評価数は互いに厳密に相関するものではなく、異なる特性を評価するものであるから、高い平均可視光透過率は必ずしも高い演色評価数に対応せず、引用文献のいずれも、本願発明で特定された演色評価数を開示していない旨を主張している。
しかしながら、引用発明のようないわゆるシースルー型太陽電池透過光による自然な演色が求められることは、技術常識といえ、このことは引用発明の「透明に近い色彩」や「外部からはその存在を認識し難くすることが可能となる」が示唆していることでもあることは前記ウ(イ)で説示したとおりである。
よって、請求人の前記主張は、採用し得ないものである。
(イ) 請求人は、導波路リダイレクト物質について、その濃度や(フィルムの)厚みが、演色評価数、平均可視光透過率及び量子収量に影響を及ぼすから、導波路リダイレクト物質(HITCI及びIR140)の濃度を変化させた結果、濃度が低いと演色評価数が80より高くなり、濃度が高いと演色評価数が80より低くなることを示し、引用発明の蛍光体として引用文献2、3に開示されたHITCI又はIR140を単に適用するだけでは、必ずしも80よりも大きい演色評価数を得ることはできない旨を主張している。
しかしながら、まず、引用発明による透過光の「演色評価数」を「80」よりも高くすることは、当業者であれば容易になし得たことであることは前記ウ(イ)に説示のとおりであるところ、導波路リダイレクト物質(蛍光体)が光を吸収して発光する機序によれば、導波路リダイレクト物質の濃度が高くなると、導波路リダイレクト物質により吸収される可視光が増え(前記ア(ア)aで検討したとおり、本願発明の導波路リダイレクト物質が「約650nmよりも長い波長の光を選択的に吸収」することは、可視光の吸収を伴うものを含んでいる。)、結果として、透過光における可視光のスペクトルが太陽光のスペクトルから乖離して、演色評価数が低くなるおそれがあることが理解でき、このことは、当業者には明らかな技術事項といえる(導波路リダイレクト物質の濃度が高くなるとその値が低下することは、平均可視光透過率及び量子収量についても同様である。)。
したがって、当業者であれば、前記ウ(イ)に説示のとおり演色評価数(並びに平均可視光透過率及び量子収量)を高くする際には、前記明らかな技術事項を踏まえて、導波路リダイレクト物質に相当する蛍光体の濃度を、所望の演色評価数(並びに平均可視光透過率及び量子収量)が得られる程度に設計するといえる。
よって、請求人の前記主張は、前記判断を左右するものではない。
カ 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-011126