特許拒絶査定不服審判
2022-002932
車両用空調装置
- 審判番号
- 2022-002932
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-096637外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年02月28日
- 審決日
- 2022年09月16日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (B60H) / P18 .575-Z (B60H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-96637号「車両用空調装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月6日出願公開、特開2018-192859号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年5月15日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 3月31日 :手続補正書の提出
令和 2年12月25日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 3月 8日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 8月11日付け:拒絶理由通知書
令和 3年10月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年11月25日付け:拒絶査定
令和 4年 2月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年2月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年2月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおり補正された(下線部は補正箇所である。)。
「【請求項1】
断面が矩形に形成された空気が流れる流路を区画しており、複数の吹き出し口を介することで車室内に前記空気を導く筐体と、
前記流路に設けられ、外部から供給された空気を冷却する蒸発器と、
前記流路のうち、前記蒸発器の下流側に設けられており、複数のヒータ回路を有するとともに、前記蒸発器により冷却された空気を加熱するヒータコアを構成する電気ヒータと、
前記複数のヒータ回路を個別に制御する制御装置と、
を備え、
前記複数のヒータ回路は、前記ヒータコアの上下方向に配置されたヒータ回路を含み、
前記蒸発器は、前記外部から供給された空気が流通する矩形に形成された
一対の第1の面を含み、
前記ヒータコアは、前記蒸発器により冷却された空気が通過する矩形に形成された一対の第2の面を含み、
前記一対の第2の面の高さが、前記一対の第1の面の高さと等しく、前記一対の第2の面の幅が、前記一対の第1の面の幅と等しいことで、前記ヒータコアの高さ及び前記蒸発器の高さ、並びに、前記ヒータコアの幅及び前記蒸発器の幅が等しく、
前記一対の第1の面の全体、及び前記一対の第2の面の全体は、前記流路により露出されており、
前記流路を流れる前記空気の移動方向において、前記一対の第1の面のうち、前記ヒータコア側に配置された一方の第1の面と、前記一対の第2の面のうち、前記蒸発器側に配置された一方の第2の面と、が対向している車両用空調装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和3年10月18日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
空気が流れる流路を区画しており、複数の吹き出し口を介することで車室内に前記空気を導く筐体と、
前記流路に設けられ、外部から供給された空気を冷却する蒸発器と、
前記流路のうち、前記蒸発器の下流側に設けられており、複数のヒータ回路を有するとともに、前記蒸発器により冷却された空気を加熱するヒータコアを構成する電気ヒータと、
前記複数のヒータ回路を個別に制御する制御装置と、
を備え、
前記複数のヒータ回路は、前記ヒータコアの上下方向に配置されたヒータ回路を含み、
前記蒸発器は、前記外部から供給された空気が流通する一対の第1の面を含み、
前記ヒータコアは、前記蒸発器により冷却された空気が通過する一対の第2の面を含み、
前記一対の第2の面の高さが、前記一対の第1の面の高さと等しく、前記一対の第2の面の幅が、前記一対の第1の面の幅と等しいことで、前記ヒータコアの高さ及び前記蒸発器の高さ、並びに、前記ヒータコアの幅及び前記蒸発器の幅が等しく、
前記一対の第1の面の全体、及び前記一対の第2の面の全体は、前記流路により露出されており、
前記流路を流れる前記空気の移動方向において、前記一対の第1の面のうち、前記ヒータコア側に配置された一方の第1の面と、前記一対の第2の面のうち、前記蒸発器側に配置された一方の第2の面と、が対向している車両用空調装置。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1における「空気が流れる流路」に対して「断面が矩形に形成された」ものであること、「一対の第1の面」に対して「矩形に形成された」ものであること、及び「一対の第2の面」に対して「矩形に形成された」ものであることを、それぞれ限定する補正であって、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載等
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された引用文献である特開2000-272332号公報には、図面とともに以下の記載がある(下線は理解の一助のために当審が付与した。また、「・・・」は省略を表す。以下同様。)。
(ア)引用文献1の記載事項
1a)「【0012】また、ヒータコア230は加熱エリアや加熱量を調整することができないため、各モードにおいて良好な温度調節は難しい。
【0013】この発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その課題は小型かつ温度調節に優れた自動車用空調装置を提供することである。」
1b)「【0027】図1はこの発明の第1実施形態に係る自動車用空調装置を示す概念図である。
【0028】自動車用空調装置のケーシング(ユニットケース)10内には、上流側から下流側へ、エバポレータ(冷却用熱交換器)20、電気式ヒータ(加熱手段)30が配置されている。
【0029】エバポレータ20はケーシング10に取り付けられた送風ユニット(図示せず)から送られた空気を冷却する熱交換器である。エバポレータ20はケーシング10内の通路(空気通路)11の全面を遮るように配置される。ケーシング10内に導入された空気の全部がエバポレータ20を通過する。
【0030】電気式ヒータ30はケーシング10内の通路11の全面を遮るように配置され、ケーシング10内に導入された空気の全部が電気式ヒータ30を通過する。
【0031】電気式ヒータ30は面積の異なる2つの独立した加熱エリア31,32を有する。各加熱エリア31,32は電力供給を制御するスイッチ装置を介してバッテリに接続されている(いずれも図示せず)。・・・」
1c)「【0033】デフ吹出口40、ベント吹出口50及びフット吹出口60はケーシング10の下流側に設けられている。
【0034】デフ吹出口40、ベント吹出口50及びフット吹出口60はそれぞれダクト(図示せず)を介して車室内に空気を送る。
【0035】各吹出口40,50,60は3つの開閉ドア41,51,61によって開閉される。
【0036】開閉ドア41,51,61はモードに応じて開閉される。開閉ドア41,51,61の開閉は、例えば1チップマイクロコンピュータ(図示せず)を用い、加熱エリア31,32に電力を供給するためのスイッチ装置の制御等とともにストアードプログラム制御される。」
1d)「【0038】図2は自動車用空調装置の各モードにおける動作を説明する図である。
【0039】図2に示された電気式ヒータ30において、黒塗りは電力供給状態を、白抜きは非電力供給状態をそれぞれ示している。
【0040】ベントモードが選択されたときには、加熱エリア31と加熱エリア32とが共に非電力供給状態とされる。
【0041】同時に、開閉ドア41,51,61が図示の位置へ駆動され、開閉ドア41と開閉ドア61とが閉じられ、開閉ドア51が開かれる(図2(a)参照)。
【0042】通路11に導入された空気はエバポレータ20を通過する際に冷やされ、電気式ヒータ30を通る。・・・
【0043】バイレベルモードが選択されたときには、加熱エリア31が非電力供給状態とされ、加熱エリア32が電力供給状態とされ、加熱エリア32だけが加熱される。
【0044】同時に、開閉ドア41,51,61が駆動され、開閉ドア41が閉じられ、開閉ドア61が開かれ、開閉ドア51が中間位置とされる(図2(b)参照)。
【0045】通路11に導入された空気はエバポレータ20を通過する際に冷やされ、電気式ヒータ30を通る。
・・・
【0047】フットモードが選択されたときには、加熱エリア31と加熱エリア32とが共に電力供給状態とされ、加熱エリア31と加熱エリア32とが加熱される。同時に、開閉ドア41,51,61が駆動され、開閉ドア41と開閉ドア51とが閉じられ、開閉ドア61が開かれる(図2(c)参照)。
【0048】通路11に導入された空気はエバポレータ20を通過する際に冷やされ、電気式ヒータ30を通る。・・・
【0049】デフフットモードが選択されたときには、加熱エリア31と加熱エリア32とが共に電力供給状態とされ、加熱エリア31と加熱エリア32とが加熱される。
【0050】同時に、開閉ドア41,51,61が駆動され、開閉ドア41と開閉ドア61とが開かれ、開閉ドア51が閉じられる(図2(d)参照)。
【0051】通路11に導入された空気はエバポレータ20を通過する際に冷やされ、電気式ヒータ30を通る。
・・・
【0053】デフモードが選択されたときには、加熱エリア31と加熱エリア32とに電力が供給され、加熱エリア31と加熱エリア32とが加熱される。
【0054】同時に、開閉ドア41,51,61が駆動され、開閉ドア41が開かれ、開閉ドア51と開閉ドア61とが閉じられる(図2(e)参照)。
【0055】通路11に導入された空気はエバポレータ20を通過する際に冷やされ、電気式ヒータ30を通る。・・・
【0056】この実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0057】エバポレータ20の下流に、任意の加熱エリア31,32に任意の熱量を発生させることができる電気式ヒータ30を設けたので、所望の暖房能力を確保できるとともに、各モードにおいて温度調節性が向上する。」
1e)
[図:0001391839000001.jpg]
[図:0001391839000002.jpg]
(イ)上記(ア)から把握される技術事項
1f)上記(ア)1b)段落【0031】には、電気式ヒータ30は面積の異なる2つの独立した加熱エリア31,32を有することについての記載があり、(ア)1c)段落【0036】には、加熱エリア31,32がストアードプログラム制御されることについての記載があり、(ア)1d)段落【0057】における、電気式ヒータ30において、任意の加熱エリア31,32に任意の熱量を発生させることができるとの記載があることから、上記(ア)1b)段落【0031】、(ア)1c)段落【0036】、及び(ア)1d)段落【0057】の記載を総合すると、電気式ヒータ30の2つの独立した加熱エリア31,32は、個別にストアードプログラム制御されるものといえる。
1g)上記(ア)1e)図1の記載からみて、加熱エリア31,32は、電気式ヒータ30の上下方向に配置されている。
1h)上記(ア)1e)図1の記載からみて、エバポレータ20は、送風ユニットから供給された空気が流通する一対の面を有し、電気式ヒータ30は、エバポレータ20により冷却された空気が通過する一対の面を有する。
1i)上記(ア)1b)段落【0029】、【0030】及び図1の記載からみて、エバポレータ20の一対の面、及び電気式ヒータ30の一対の面は、通路11の全面を遮るものであり、通路11を流れる空気の移動方向において、それぞれの一対の面の一方は相互に対向している。
(ウ)引用発明
上記(ア)、(イ)の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「デフ吹出口40、ベント吹出口50及びフット吹出口60からダクトを介して車室内に空気を送るケーシング10と、
ケーシング10内に設けられ、送風ユニットから送られた空気を冷却するエバポレータ20、
2つの独立した加熱エリア31,32を有し、エバポレータ20を通過する際に冷やされた空気を加熱する電気式ヒータ30、
2つの独立した加熱エリア31,32は、個別にストアードプログラム制御され、
電気式ヒータ30は上下方向に配置された加熱エリア31,32を有し、
エバポレータ20は、送風ユニットから供給された空気が流通する一対の面を有し、電気式ヒータ30は、エバポレータ20により冷却された空気が通過する一対の面を有するとともに、
エバポレータ20の一対の面、及び電気式ヒータ30の一対の面は、通路11の全面を遮るものであり、通路11を流れる空気の移動方向において、それぞれの一対の面の一方は相互に対向している、自動車用空調装置。」
イ 周知の技術について
本願の出願前に頒布された当審で新たに提示する特開2015-143090号公報及び特開平6-143984号公報(以下、それぞれ「周知例1」及び「周知例2」という。)には、それぞれ、車両用空調装置の技術水準を示す以下の事項が記載されている。
(ア)周知例1(特開2015-143090号公報)の記載事項
2a)「【0018】エバポレータ14は、その内部を流通する冷媒とエバポレータ14を通り抜ける空気とを熱交換させてその空気を冷却する冷却用熱交換器であって、第1通風路121と第2通風路122とのそれぞれへ流入する空気を冷却する冷却部を構成している。エバポレータの形状は、直方体形状である。・・・
【0019】エバポレータ14は、通風路120へ流入して通風路120を流れる空気を冷却する。また、図2に示すように、エバポレータ14は、上流端120aの空気流れ上流側で通風路120の全体を覆うように設けられ
、これにより、上流端120aへ流入する空気はエバポレータ14を迂回することなく、エバポレータ14で冷却されてから上流端120aへ流入する。」
2b)図1
[図:0001391839000003.jpg]
2c)図2
[図:0001391839000004.jpg]
(イ)周知例2(特開平6-143984号公報)の記載事項
3a)「【0006】
【実施例】本発明の第1実施例を、図1乃至図3及び図7に基づいて説明する。図1に示すように、主空気通路10内に送風機11が配設され、送風機11の下流に冷房装置のエバポレータ12が配設され、エバポレータ12の下流に、主空気通路10の全断面を覆って、電気ヒータ13が配設されている。」
3b)図1
[図:0001391839000005.jpg]
3c)図2
[図:0001391839000006.jpg]
3d)図3
[図:0001391839000007.jpg]
(ウ)上記(ア)及び(イ)から把握される車両用空調装置に関する事項
周知例1のエバポレータ14の形状は直方体形状であり、通風路120の全体を覆うように設けられているから、その空気が流れる流路は断面が矩形に形成されたものと解される。
周知例2の電気ヒータ13は主空気通路10の全断面を覆って配設され、その形状は図2及び図3からみて矩形であることは明らかであるから、その空気が流れる流路は断面が矩形に形成されたものと解される。
したがって、上記周知例1、2から、蒸発器やヒータの断面形状を矩形とすること、及び蒸発器及びヒータの断面形状に合わせて車両用空調装置の流路の断面を矩形とすることは、本願の出願時において周知の技術(以下、「周知技術」という。)である。
(3)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「デフ吹出口40、ベント吹出口50、フット吹出口60」、及び「エバポレータ20」は、それぞれ本件補正発明における「吹き出し口」、及び「蒸発器」に相当する。
引用発明における「電気式ヒータ30」は、本件補正発明における「電気ヒータ」あるいは「ヒータコア」に相当する。
そうすると、引用発明における「デフ吹出口40、ベント吹出口50及びフット吹出口60からダクトを介して車室内に空気を送るケーシング10」は、デフ吹出口40、ベント吹出口50及びフット吹出口60が複数の吹き出し口といえるものであり、ケーシング10は、空気が流れる流路を区画していることが明らかであるから、本件補正発明における「空気が流れる流路を区画しており、複数の吹き出し口を介することで車室内に前記空気を導く筐体」に相当する。
引用発明における「送風ユニットから送られた空気」は、上記(2)ア 1b)【0029】の記載から、ケーシング10に取り付けられた送風ユニットから送られた空気であって、ケーシング10の外部から送風ユニットによってケーシング10内に供給される空気であることが明らかであるから、本件補正発明における「外部から供給される空気」に相当し、
引用発明における「ケーシング10内に設けられ、送風ユニットから送られた空気を冷却するエバポレータ20」は、本件補正発明における「前記流路に設けられ、外部から供給された空気を冷却する蒸発器」に相当する。
引用発明における「2つの独立した加熱エリア31,32を有し、エバポレータ20を通過する際に冷やされた空気を加熱する電気式ヒータ30」は、エバポレータ20を通過する際に冷やされた空気を加熱することからみて、エバポレータ20の下流側に設けられていることが明らかであり、2つの独立した加熱エリア31,32を有することは、複数のヒータ回路を有することによるものであることが明らかであることから、本件補正発明における「前記流路のうち、前記蒸発器の下流側に設けられており、複数のヒータ回路を有するとともに、前記蒸発器により冷却された空気を加熱するヒータコアを構成する電気ヒータ」に相当する。
引用発明における「2つの独立した加熱エリア31,32は、個別にストアードプログラム制御され」は、加熱エリア31,32が個別にストアードプログラム制御する制御装置によって制御されているものといえるから、本件補正発明における「前記複数のヒータ回路を個別に制御する制御装置」に相当する。
引用発明における「電気式ヒータ30は上下方向に配置された加熱エリア31,32を有する」は、本件補正発明における「前記複数のヒータ回路は、前記ヒータコアの上下方向に配置されたヒータ回路を含み」に相当する。
引用発明における「エバポレータ20は、送風ユニットから供給された空気が流通する」「一対の面を有し」、「電気式ヒータ30は、エバポレータ20により冷却された空気が通過する」「一対の面を有する」ことは、本件補正発明における「前記蒸発器は、前記外部から供給された空気が流通する」「一対の第1の面を含み」、「前記ヒータコアは、前記蒸発器により冷却された空気が通過する」「一対の第2の面を含み」に相当するものである。
引用発明の「エバポレータ20の一対の面、及び電気式ヒータ30の一対の面は、通路11の全面を遮るものであり、通路11を流れる空気の移動方向において、それぞれの一対の面の一方は相互に対向している」は、それぞれの面の全体が流路に露出していることが明らかであるから、本件補正発明の「前記一対の第1の面の全体、及び前記一対の第2の面の全体は、前記流路により露出されており、前記流路を流れる前記空気の移動方向において、前記一対の第1の面のうち、前記ヒータコア側に配置された一方の第1の面と、前記一対の第2の面のうち、前記蒸発器側に配置された一方の第2の面と、が対向している」に相当する。
そして、引用発明における「自動車用空調装置」は、本件補正発明における「車両用空調装置」に相当するものである。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「空気が流れる流路を区画しており、複数の吹き出し口を介することで車室内に前記空気を導く筐体と、
前記流路に設けられ、外部から供給された空気を冷却する蒸発器と、
前記流路のうち、前記蒸発器の下流側に設けられており、複数のヒータ回路を有するとともに、前記蒸発器により冷却された空気を加熱するヒータコアを構成する電気ヒータと、
前記複数のヒータ回路を個別に制御する制御装置と、
を備え、
前記複数のヒータ回路は、前記ヒータコアの上下方向に配置されたヒータ回路を含み、
前記蒸発器は、前記外部から供給された空気が流通する一対の第1の面を含み、
前記ヒータコアは、前記蒸発器により冷却された空気が通過する一対の第2の面を含み、
前記一対の第1の面の全体、及び前記一対の第2の面の全体は、前記流路により露出されており、
前記流路を流れる前記空気の移動方向において、前記一対の第1の面のうち、前記ヒータコア側に配置された一方の第1の面と、前記一対の第2の面のうち、前記蒸発器側に配置された一方の第2の面と、が対向している車両用空調装置。」
[相違点1]
本件補正発明においては、空気が流れる流路が「断面が矩形に形成された」ものであり、蒸発器の一対の第1の面及びヒータコアの一対の第2の面が「矩形に形成された」ものであるのに対して、引用発明においては、通路11が「断面が矩形に形成された」ものであるか明らかでなく、エバポレータ20の一対の面及び電気式ヒータ30の一対の面が「矩形に形成された」ものであるか明らかでない点。
[相違点2]
本件補正発明においては、「前記一対の第2の面の高さが、前記一対の第1の面の高さと等しく、前記一対の第2の面の幅が、前記一対の第1の面の幅と等しいことで、前記ヒータコアの高さ及び前記蒸発器の高さ、並びに、前記ヒータコアの幅及び前記蒸発器の幅が等しく」なっているものであるのに対し、引用発明においては、エバポレータ20及び電気式ヒータ30がケーシング10内の通路11の全面を遮るものであるものの、エバポレータ20と電気式ヒータ30の高さと幅が互いに等しいものであるか否かは明らかではない点。
以下、相違点について検討する。
[相違点1について]
相違点1について検討するに、車両用空調装置における蒸発器及びヒータの断面形状を矩形とすることは一般的であって、蒸発器及びヒータが、矩形の断面形状を有することに合わせて車両用空調装置の流路の断面を矩形とすることは、上記2(2)イに挙げたとおり周知技術であるから、引用発明に周知技術を適用して、エバポレータ20の一対の第1の面及び電気式ヒータ30の一対の第2の面を矩形に形成し、合わせて空気が流れる流路の断面を矩形に形成することにより上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
[相違点2について]
相違点2について検討するに、引用発明のエバポレータ20及び電気式ヒータ30は、いずれもケーシング10内の通路11の全面を遮るものであり、エバポレータ20と電気式ヒータ30の両者は、引用文献1の図1及び3からみて近接して配置されるものであるから、通路11の形状に関して特段の変更を加えたものでない限り、その幅と高さは通路11の断面形状の幅と高さに従って相互に等しく形成されることになるから、相違点2は実質的な相違点ではない。
また、仮に相違点であったとしても、通路11に近接して配置されたエバポレータ20と電気式ヒータ30の幅及び高さを等しく形成することは当業者が容易に想到できたことである。
そして、本件補正発明は、全体としてみても引用発明及び周知技術から予想される以上の格別の効果を奏するものではない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
なお、審判請求人は、審判請求書において、
「一般に、角ダクト内を流れる流体は、四隅の部分が流体にとって抵抗となるため、四隅の部分の流速が低下する。これによって、本願明細書中に具体的な記載はないが、筐体本体の中央近傍を流れる空気と比較して筐体本体の四隅を流れる空気がヒータコアを通過するのに時間を要するといえる。そのため、例えばヒータコアの下側のヒータ回路49のみがオン状態の時には右下隅部と左下隅部の空気がより温められることになる。
ところで、上側のヒータ回路48及び下側のヒータ回路49を通過した後の空気は、ヒータコアの後流で多少の混合が生じて、熱交換をして温度が均された後に各ダクト(デフ用、フェイス用、フット用)に流入する。本願発明1では、筐体本体に四隅がある矩形形状を採用しているため、温度が高い空気と低い空気との間で多少の混合及び熱交換が生じてしまっても、これらは四隅を流れる空気とも熱交換することができる。したがって、四隅が無い流路と比較して流路内の空気の温度差をより維持することができると考える。つまり、例えばヒータコアの下側のヒータ回路49のみがオン状態の時には、ヒータ回路49を経た後の空気のうち右下隅部及び左下隅部を流れる空気がそれ以外のヒータ回路49を経た後の空気を温めるため、その結果、上側のヒータ回路48を経た後の温度が低い空気と多少混合、熱交換しても、流路内に空気における上下方向の温度差を維持することができると考える。」(審判請求書第7ページ第11ないし28行)と主張している。
上記主張は、断面が矩形に形成された流路の全面をヒータコアが遮るものであることを前提としたものであるが、本件補正発明は流路とヒータコアの形状の整合関係について特定されていない以上、これを前提とした上記主張は採用できない。仮に、上記整合関係があるとしても、審判請求人の主張は、筐体本体に四隅がある矩形形状を採用したことによる空気の流れの特徴を説明しているものであり、審判請求人も「本願明細書中に具体的な記載はない」と述べているように、当業者であれば明細書に記載がなくとも、流体力学の基本的事項から矩形形状の流路において空気がどのように流れるかということは、当業者にとって当然に理解できる事項に過ぎず、流路の形状として矩形形状を採用したことによって予測できない効果が生じたものと解することはできない。
さらに、審判請求人は、「これに対して引用文献1及び引用文献2には、空気流路の形状に関する開示や示唆は一切ない。ダクトの流路形状としては、円形や多角形等、種々の形状が世の中に存在するため、引用文献の流路を本願のように「矩形」とする必然性は考慮されない。したがって、各引用文献の単体又は組み合わせにより実現する構成が本願の構成とは異なる上に本願の上記作用・効果を奏することがない以上、本願の上記技術思想はいずれの引用文献にも開示されていない。」(審判請求書第7ページ第29行ないし第8ページ第5行)と主張している。
確かに、引用文献1には、空気流路の形状に関する直接の記載はないが、車両用空調装置の蒸発器やヒータは矩形であることが一般的であり、蒸発器やヒータが、矩形の断面形状を有することに合わせて空気流路を矩形とすることは周知技術であり、設計上の特段の意図がない限り、空気流路を円形や多角形等にすることが一般的であると解することもできず、矩形を採用することが当業者に容易であることは、上記に説示したとおりである。
したがって、審判請求人の上記主張は、いずれも採用できない。
(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明
1 本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年10月18日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された事項により特定される上記第2 1(2)に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
請求項1について、原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
・請求項1に対して引用文献1
<引用文献一覧>
1.特開2000-272332号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2 2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2 2で検討した本件補正発明における「空気が流れる流路」に対する「断面が矩形に形成された」ものであることの限定、本件補正発明における「一対の第1の面」に対する「矩形に形成された」ことの限定、及び本件補正発明における「一対の第2の面」に対する「矩形に形成された」ことの限定をそれぞれ省いたものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項のすべてを含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2 2(3)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-002932