特許拒絶査定不服審判
2025-012374
車両用空調システム、及び調湿デバイスの使用方法
- 審判番号
- 2025-012374
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2025-007109
- 請求日
- 2025年08月06日
- 審決日
- 2025年10月27日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本碍子株式会社
- 【請求人代理人】アクシス国際弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 大山 健
- 審判官 柳幸 憲子
- 審判官 槙原 進
- 分類
- P18 .121-Z (B60H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2025- 7109「車両用空調システム、及び調湿デバイスの使用方法」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和7年1月17日(先の出願に基づく優先権主張 令和6年4月19日)を出願日とする特許出願であって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。
令和7年3月7日付け :拒絶理由通知
令和7年4月8日 :意見書・手続補正書の提出
令和7年5月14日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和7年8月6日 :審判請求書の提出
第2 本願発明について
本願の請求項1ないし14に係る発明は、令和7年4月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「空気が流通可能な空調ダクトと、
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる前記空気の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体、及び前記隔壁の表面上に設けられた吸湿層を備え、前記空調ダクト内に配置される調湿デバイスと、
前記調湿デバイスの前記セルを流通する前記空気の流速を制御可能な制御部と
を備え、
前記制御部は、前記調湿デバイスの吸湿処理において前記調湿デバイスに流入する前記空気の流速を0.24~1.30m/秒に制御することを含む、車両用空調システム。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶理由は、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-3に示された周知技術に基いて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。
1.特開2023-47123号公報
2.特開2003-33621号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2009-106893号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献の記載事項、引用発明等
1 引用文献1の記載事項、引用発明等
(1)引用文献1の記載事項等
原査定で引用された引用文献1には、関連する図面とともに以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。以下同様。)。
ア 「【0017】
図1及び図2に示されるように、ヒーターエレメント100は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第一端面12aから第二端面12bまで延びる流路を形成する複数のセル13を区画形成する隔壁14とを有するハニカム構造体10と、隔壁14の表面に設けられた機能材含有層20とを備える。また、ヒーターエレメント100は、ハニカム構造体10の第一端面12a及び第二端面12bに設けられた一対の電極30a、30bを更に備えることができる。なお、本明細書においては、ヒーターエレメント100から機能材含有層を除いたハニカム構造体10及び一対の電極30a、30bで構成される部材を「ハニカムヒーターデバイス」と称する。
以下、ヒーターエレメント100の各構成部材について詳細に説明する。」
イ 「【0037】
(1-2.機能材含有層)
機能材含有層20は、ハニカム構造体10の隔壁14の表面に設けられる。具体的には、機能材含有層20は、ハニカム構造体10のセル13に面する隔壁14の表面、すなわちセル13の内壁に設けられる。機能材含有層20は、セル13に面する外周壁11に設けることもできる。
【0038】
機能材含有層20が含有する機能材としては、所望の機能を発揮することのできる材料であれば特に限定されないが、吸着材、触媒などを用いることができる。吸着材は、空気中の除去対象成分、例えば水蒸気、二酸化炭素、及びにおい成分から選択される一種又は二種以上を吸着する機能を有することが好ましい。その他、有害な揮発成分を吸着する機能を有することも好ましい。また、触媒を用いることにより、除去対象成分を浄化することができる。更に、吸着材による除去対象成分の捕捉機能を高めるなどの目的で、吸着材と触媒とを併用してもよい。
【0039】
吸着材は、除去対象成分、例えば、水蒸気、二酸化炭素及び有害な揮発成分(例えば、アルデヒド、におい成分など)等を-20~40℃で吸着し、60℃以上の高温で離脱することが可能な機能を有することが好ましい。このような機能を有する吸着材としては、ゼオライト、シリカゲル、活性炭、アルミナ、シリカ、低結晶性粘土、非晶質アルミニウムケイ酸塩複合体などが挙げられる。吸着材の種類は、除去対象成分の種類に応じて適宜選択すればよい。吸着材は一種類を単独使用してもよく、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。」
ウ 「【0061】
図4は、本発明の一実施形態に係る車室浄化システムの構成を示す模式図である。
車室浄化システム1000は、
ヒーターエレメント100に電圧を印加するためのバッテリー等の電源200;
車室からの空気をヒーターエレメント100の複数のセル13に送るための流入配管400;
ヒーターエレメント100の複数のセル13から流出する空気を車室に戻すための第一経路500a、及び、ヒーターエレメント100の複数のセル13から流出する空気を車外に排出するための第二経路500bを有する流出配管500;
流出配管500内に設けられ、流出配管500を流通する空気の流れを第一経路500aと第二経路500bの間で切替え可能な切替バルブ300;
車室からの空気を流入配管400を介してヒーターエレメント100に送るための通風機610;並びに、
浄化モード及び再生モードを実行可能な制御部900;
を備える。
【0062】
図6には、浄化モードを制御部900が実行する際のフローチャートの一例が示されている。例えば、車室に設置された濃度センサー(図示せず)からの除去対象成分の濃度センサー信号(水蒸気に関しては湿度センサー信号等)をトリガーとして制御部900が浄化モードの開始指令を受けると、制御部900は、電源200からヒーターエレメント100への印加電圧をオフとし、流出配管500を流通する空気が第一経路500aを通るように切替バルブ300を切替え、通風機610をオンとする(S101)。これにより浄化モードが開始され、車室からの空気に含まれる除去対象成分はヒーターエレメント100に担持されている機能材含有層20に捕捉され、車室空気の浄化が行われる。
【0063】
具体的には、車室からの空気は、流入配管400を通ってヒーターエレメント100の第一端面12a(又は第二端面12b)から流入し、ヒーターエレメント100内を通過した後、ヒーターエレメント100の第二端面12b(又は第一端面12a)から流出する。車室からの空気の除去対象成分はヒーターエレメント100を通過する間に機能材に吸着等されることにより除去される。ヒーターエレメント100の第二端面12b(又は第一端面12a)から流出した清浄な空気は、流出配管500の第一経路500aを通って車室へと返送される。」
エ 「【0077】
再生モードの途中で制御部900によってセル13内を流れる空気の流速を変化させる方法は、特に制限はないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)制御部900によって通風機610の通風量を変化させる方法。
(2)制御部900によって流入配管400又は流出配管500内にダンパ620を設置し、ダンパ620を制御する方法。
(3)制御部900によって空気がヒーターエレメント100のセル13内を通過する際の向きを反転させる方法。」
オ 「【0089】
本実施形態に係るバルブ切替システムは、
流入配管400の出口と流出配管500の入口の間に設置され、ヒーターエレメント100を収容するチャンバー700と、
チャンバー700の入口側に設置され、流入配管400を介して車室から送られる空気の第一端面12aへの流入を許容し、第二端面12bへの流入を抑制するモードと、第二端面12bへの流入を許容し、第一端面12aへの流入を抑制するモードの間で切り替え可能なチャンバー入口バルブ710と、
チャンバー700の出口側に設置され、第二端面12bから流出する空気の流出配管500への流入を許容し、第一端面12aへの流入を抑制するモードと、第一端面12aから流出する空気の流出配管500への流入を許容し、第二端面12bへの流入を抑制するモードの間で切り替え可能なチャンバー出口バルブ720と、
を更に備える。」
カ 「
[図:0001431068000001.jpg]
」
キ 「
[図:0001431068000002.jpg]
」
ク 「
[図:0001431068000003.jpg]
」
ケ 「
[図:0001431068000004.jpg]
」
コ 「
[図:0001431068000005.jpg]
」
(2)引用発明
上記(1)から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
[引用発明]
「車室からの空気をヒーターエレメント100の複数のセル13に送るための流入配管400、ヒーターエレメント100の複数のセル13から流出する空気を車室に戻す又は車外に排出する流出配管500及び流入配管400の出口と流出配管500の入口の間に設置され、ヒーターエレメント100を収容するチャンバー700と、
外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第一端面12aから第二端面12bまで延びる流路を形成する複数のセル13を区画形成する隔壁14とを有するハニカム構造体10、及び隔壁14の表面に設けられた水蒸気を吸着する機能を有する機能材含有層20を備え、チャンバー700内に配置されるヒーターエレメント100と、
セル13内を流れる空気の流速を変化させる制御部900とを備える
車室浄化システム1000。」
2 引用文献2の記載事項等
(1)引用文献2の記載事項
原査定で引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
ア 「【0015】
【発明の実施の形態】本発明のガス交換装置は、軸方向に延びる多数の通孔を有する円盤状のハニカム基体とハニカム基体の各通孔を区画する壁面に担持された吸湿剤とを有する吸湿体と、吸湿体を回転させる駆動手段と、吸湿体の一端側の回転中心より周縁にまで拡がる所定の端面より一端側の乾燥ガスを送り、吸湿体の他端側の所定の端面以外の他端面より他端側の湿ガスを送るガス交換手段とを備えるガス交換装置において、乾燥ガスが導入される一端側の通孔を区画する壁面に担持された吸湿剤はシリカであり、湿ガスが導入される他端側の通孔を区画する壁面に担持された吸湿剤はゼオライトであることを特徴としている。以下本発明の実施の形態について説明する。
【0016】本発明のガス交換装置の吸湿体は、軸方向に延びる多数の通孔を有する円盤状のハニカム基体とハニカム基体の各通孔を区画する壁面に担持された吸湿剤とを有している。軸方向に延びるこれらの多数の通孔は円盤状のハニカム基体の両端面を連通している。ここで「円盤状」とは、ハニカム基体の軸方向の長さが長くなって「円柱状」というような形状となっているものも含む。
【0017】通孔の径は、通孔を区画する壁面の担持された吸湿剤にガスを接触させてガスに含まれている水分を壁面に担持された吸湿剤に吸着させたり、また吸湿剤に吸着している水分を吸収したりするのに適した径とすることができる。通孔の径は概ね0.5~10mmとすることができる。」
イ 「【0037】なお吸湿体の通孔に導入される乾燥ガス及び湿ガスの風速は適切な風速とすることができる。概ね0.5~10m/sとすることができ、1~3m/sとすることが好ましい。10m/sを超えるとガスが吹き抜けてしまう。また0.5m/s未満ではガスの伝達速度が遅いために空気中の水分の除湿或いは吸湿性能の再生という効果が出にくい状況となってしまう。」
(2)引用文献2記載事項
上記(1)から、引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
[引用文献2記載事項]
「軸方向に延びる多数の通孔を有するハニカム基体とハニカム基体の各通孔を区画する壁面に担持された吸湿剤とを有する吸湿体において、
吸湿体の通孔に導入される湿ガスの風速は、1~3m/sとすることが好ましいこと。」
3 引用文献3の記載事項等
(1)引用文献3の記載事項
原査定で引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
ア 「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明に係るローター10を中心とした除湿装置の構成図である。まず、図1に基づいて、各実施の形態における本発明のローター10の構成、機能などについて説明する。除湿装置において、実際に水蒸気を吸脱着する吸着素子となるローター10は、円盤(円柱)状をしている。ローター10は、吸着構造体である構造体11と、ローター10の回転中心となるボア穴13および構造体11の外周部分に設けられた枠体(フレーム)12を有している。
【0013】
構造体11は、ローター10において吸脱着に係る空気が通過し、水蒸気の吸脱着を行う部分である。ここで、構造体11の構造(形状)については、特に限定するものではない。例えばハニカム構造でもよいし、コルゲート(波)構造でもよい。図1に示すように、構造体11が露出している面(ローター10の円形面)に対して2つの風路がそれぞれ直交する方向に形成されるように設計する。例えば境界板(図示せず)などにより仕切ることで、一方の風路には湿潤空気21を導き、他方の風路には再生用空気31を導く。この仕切りに合わせた形で、構造体11は、吸着ゾーン11Aと脱着ゾーン11Bとに分割される。本実施の形態においては、構造体11において、60:40(3:2)の面積比で吸着ゾーン11Aと脱着ゾーン11Bとに分割されるようにする。」
イ 「【0016】
このとき、空気調和をはかる目的の空間(以下、空調空間という)の湿潤空気21を例えば約1m/sの風速で導き、一定の速度で回転するローター10の構造体11の吸着ゾーン11Aを通過させ、湿潤空気21に含まれる水蒸気を吸着させるようにする。このようにして、吸着ゾーン11Aを通過した空気が乾燥空気22となって排出し、空調空間に戻される。これにより空調空間の除湿を実現する。」
(2)引用文献3記載事項
上記(1)から、引用文献3には、以下の技術事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
[引用文献3記載事項]
「ローター10は、吸着構造体である構造体11と、構造体11の外周部分に設けられた枠体(フレーム)12を有し、
構造体11はハニカム構造であり、
湿潤空気21を約1m/sの風速で導き、ローター10の構造体11の吸着ゾーン11Aを通過させ、湿潤空気21に含まれる水蒸気を吸着させ空調空間に戻すことにより空調空間の除湿を実現すること。」
第5 当審の判断
1 対比
(1)引用発明の「車室からの空気をヒーターエレメント100の複数のセル13に送るための流入配管400、ヒーターエレメント100の複数のセル13から流出する空気を車室に戻す又は車外に排出する流出配管500及び流入配管400の出口と流出配管500の入口の間に設置され、ヒーターエレメント100を収容するチャンバー700」は、本願発明の「空気が流通可能な空調ダクト」に相当する。
(2)引用発明の「外周壁11」は、本願発明の「外周壁」に相当する。
(3)引用発明の「外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第一端面12aから第二端面12bまで延びる流路を形成する複数のセル13を区画形成する隔壁14とを有するハニカム構造体10」は、本願発明の「外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる前記空気の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体」に相当する。
(4)引用発明の「隔壁14の表面に設けられた水蒸気を吸着する機能を有する機能材含有層20」は、本願発明の「前記隔壁の表面上に設けられた吸湿層」に相当する。
(5)引用発明のヒーターエレメント100は、空気中の水蒸気を吸着する機能を有していることから、引用発明の「ヒーターエレメント100」は、本願発明の「調湿デバイス」に相当する。
そして、引用発明の「ヒーターエレメント100」が「チャンバー700内に配置される」ことは、本願発明の「調湿デバイス」が「前記空調ダクト内に配置される」ことに相当する。
(6)引用発明の「セル13内を流れる空気の流速を変化させる制御部900」は、本願発明の「前記調湿デバイスの前記セルを流通する前記空気の流速を制御可能な制御部」に相当する。
(7)引用発明の「車室浄化システム1000」は、空気中の水蒸気を吸着する機能を有する「ヒーターエレメント100」を備え、「車室空気の浄化」(段落【0062】)を行うものであるので、本願発明の「車両用空調システム」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
[一致点]
「空気が流通可能な空調ダクトと、
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる前記空気の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体、及び前記隔壁の表面上に設けられた吸湿層を備え、前記空調ダクト内に配置される調湿デバイスと、
前記調湿デバイスの前記セルを流通する前記空気の流速を制御可能な制御部と
を備える車両用空調システム。」
[相違点]
本願発明は「前記制御部は、前記調湿デバイスの吸湿処理において前記調湿デバイスに流入する前記空気の流速を0.24~1.30m/秒に制御することを含む」と特定されているのに対して、引用発明は、水蒸気を吸着する際の空気の流速について特定されていない点。
2 相違点についての検討
吸湿材を有するハニカム構造体に湿った空気を導入し、湿った空気を除湿するにあたり、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に見られるように、空気の適切な風速として1m/s程度を選択することは、従来周知の技術である。
また、引用文献2にも、「10m/sを超えるとガスが吹き抜けてしまう。また0.5m/s未満ではガスの伝達速度が遅いために空気中の水分の除湿或いは吸湿性能の再生という効果が出にくい状況となってしまう。」(段落【0037】)と記載されるように、風速が適切な範囲にないと、効果的に除湿がされないことは、本願の優先日前の技術常識である。
そうすると、引用発明においても、風速が適切な範囲にないと、効果的に除湿がされないことは内在する課題と認められ、当該課題の点で共通する、引用発明に上記周知の技術を適用して、水蒸気を吸着する際の適切な風速として、「0.24~1.30m/秒」の範ちゅうに含まれる「1m/s程度」を選択する程度のことは、当業者の通常の能力の発揮の範囲にすぎない。
そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び周知の技術(引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項)から、当業者が予測できた範囲のものであり、格別顕著な効果ではない。
3 請求人の主張
請求人は、審判請求書において、以下の主張をしている。
(1)「しかしながら、本願発明は、明細書の段落[0035]に記載されているように、調湿デバイスの吸湿層において水分を効率的に吸着しつつ、窓が曇り難い乾燥空気を長く供給できるようにするために、調湿デバイスの吸湿処理において調湿デバイスに流入する空気の流速を0.24~1.30m/秒に制御しており、審査官殿がご指摘された空気の流速Bは、適用される調湿デバイスの処理の種類や空気の流速を規定する理由が全く異なります。すなわち、審査官殿がご指摘された空気の流速Bは、調湿デバイスの再生処理における空気の流速であり、機能剤に捕捉された除去対象成分の流出効率、圧損抑制及び通風機の電力抑制の観点から設定されています。そして、調湿デバイスの吸湿処理と調湿デバイスの再生処理とでは、処理の目的が異なり、その目的に適する空気の流速も異なりますので、当業者であれば、審査官殿がご指摘された調湿デバイスの再生処理時の空気の流速Bに基づいて、調湿デバイスの吸湿処理において調湿デバイスに流入する空気の流速を0.24~1.30m/秒に制御することは考えられず、ましてや当該制御によって調湿デバイスの吸湿層において水分を効率的に吸着しつつ、窓が曇り難い乾燥空気を長く供給できることも予想外の効果であるといわざるを得ません。」(【請求の理由】の(3)(b)(b-2))
上記主張について検討する。
原査定で指摘した引用文献1の段落【0084】には、再生ステップでの複数のセル13を通過する空気の流速Bについての記載ではあるものの、「0.24~1.30m/秒」の範ちゅうに含まれる「1m/s以下であることがより好ましい。」との記載がある。そうすると、引用発明に上記周知の技術を適用して、水蒸気を吸着する際の適切な風速として、「1m/s程度」を選択することに、阻害事由があるとは認められない。
また、「窓が曇り難い乾燥空気を長く供給できることも予想外の効果である」旨の主張についても検討すると、引用発明に上記周知の技術を適用して、水蒸気を吸着する際の適切な風速として、「1m/s程度」を選択した際にも同様の効果が奏されると認められるから、格別顕著な効果とはいえない。
(2)「また、令和7年4月8日付で提出の意見書でも述べたように、引用文献2及び3は、本願発明と重複する範囲の空気の流量を記載しているものの、車両用空調システムに調湿デバイスを搭載するときの特有の課題(特に、車両用空調システムにおいて、調湿デバイスの吸湿層で水分を効率的に吸着するだけでなく、窓が曇り難い乾燥空気を長く供給できるようにすること)については全く認識していません。実際、引用文献2のガス交換装置の用途(どのような環境で用いられるものか)は不明であり、また、引用文献3の吸着素子は主に冷蔵庫に適用する空気調和機に用いられるものであることから、車両用空調システムに要求される特有の課題を認識しているとはいえません。したがって、引用文献2及び3を考慮したとしても、車両用空調システムに要求される特有の課題を解決するために、車両用空調システムに搭載する調湿デバイスの吸湿処理において調湿デバイスに流入する空気の流速を0.24~1.30m/秒に制御する動機付けはありません。」(【請求の理由】の(3)(b)(b-2))
上記主張について検討する。
上記2で説示したとおり、引用発明においても、風速が適切な範囲にないと、効果的に除湿がされないことは内在する課題と認められるから、当該課題の点で共通する、引用発明に上記周知の技術(引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項)を適用する動機付けは認められる。
したがって、請求人の主張は採用できない。
なお、参考のため、再公表特許WO2014/024332号公報には、車両用空調システムにおいて、フロントウインドウ等の結露(曇り)を防止するために、デシカント空調を採用した場合に、除湿材を通過する空気の流速を、「0.24~1.30m/秒」の範ちゅうに含まれる0.4m/sec程度とすることが開示されている(段落【0001】-【0004】、【0043】-【0046】)ので、車両用空調システムの調湿デバイスにおいても、吸湿処理の際に流入する空気の流速を0.24~1.30m/秒の範囲に含まれる流速に制御することが知られていることを付言する。
4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術(引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-012374