特許拒絶査定不服審判
2022-000122
Mg合金、Mg合金の製造方法、及び、Mg合金を用いた土木材料及び生体材料
- 審判番号
- 2022-000122
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-517499
- 請求日
- 2022年01月05日
- 審決日
- 2023年06月26日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】三協立山株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人英知国際特許商標事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 山本 佳
- 分類
- P18 .113-WY (C22C) / P18 .121-WY (C22C) / P18 .536-WY (C22C) / P18 .537-WY (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-517499「Mg合金、Mg合金の製造方法、及び、Mg合金を用いた土木材料及び生体材料」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 6月 2日国際公開、WO2022/113323、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)11月30日を国際出願日とする出願であって、令和 3年 6月24日付けで拒絶理由通知がされ、令和 3年 8月30日に意見書の提出及び手続補正がされ、令和 3年 9月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和 4年 1月 5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和 4年 9月30日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月26日に意見書の提出がされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(令和 3年 9月28日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
・理由1(新規性)本願の請求項1~13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1~5のいずれかに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・理由2(進歩性)本願の請求項1~13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1~5のいずれかに記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・理由3(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
引用文献等一覧
1.特表2017-525843号公報
2.中国特許出願公開第110923531号明細書
3.国際公開第2017/111159号
4.国際公開第2018/109947号
5.国際公開第2017/168696号
第3 当審拒絶理由の概要
当審が令和 4年 9月30日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
・理由1(明確性要件)
請求項1、10には、「Al一Mn一Ni系金属間化合物」との記載があるが、「~系」との記載は、金属間化合物の化学組成を単純化した記載と認められるところ、金属間化合物の構成元素がAl、Mn及びNiに限定されるのか否か、限定されないのであれば、Al、Mn及びNiのほかに、如何なる元素をさらに含み得るのかが不明である。
請求項10には、「完全溶解物」との記載があるが、「完全溶解物」がどのような状態の溶解物であるのか不明である。
よって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
・理由2(実施可能要件)
請求項1に係るMg合金は、「Mg、Al、Mn、Ni」を含有するものである限り、各種の成分及び組成範囲を有するMg合金を包含するものと解されるが、発明の詳細な説明には、当業者がそのようなMg合金を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
よって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
・理由3(サポート要件)
請求項1に係る発明は、Mg合金に関する物の発明であって、「Mg、Al、Mn、Ni」を含有するものである限り、各種の成分及び組成範囲を有するMg合金を包含するものと解されるが、そのようなMg合金が、請求項1~13に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
よって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
・理由4(新規性)本願の請求項1~9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・理由5(進歩性)本願の請求項1~13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
2.中国特許出願公開第110923531号明細書
第4 本願の特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の記載は、令和 4年 1月 5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】
Mg、Al、Mn、Niを含有し、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する、Mg合金。
【請求項2】
Znをさらに含有する、請求項1に記載のMg合金。
【請求項3】
Caをさらに含有する、請求項1又は2に記載のMg合金。
【請求項4】
Al2Ca、(Mg、Al)2Ca、又は、Mg2Caからなる群から選択される1以上の化合物を含む、請求項3に記載のMg合金。
【請求項5】
Mg合金全量に対し、前記Alは0.1質量%以上16質量%以下であり、前記Mnは0.05質量%以上である、請求項1~4いずれか一項に記載のMg合金。
【請求項6】
Mg合金全量に対し、前記Znは0.05質量%以上1.5質量%以下である、請求項2に記載のMg合金。
【請求項7】
Mg合金全量に対し、前記Caは0.1質量%以上2.0質量%以下である、請求項3に記載のMg合金。
【請求項8】
前記Al-Mn-Ni系金属間化合物に対し、Niが0.1質量%以上である、請求項1~6いずれか一項に記載のMg合金。
【請求項9】
前記Al-Mn-Ni系金属間化合物は、単位断面積あたり1個/cm2以上である、及び、1nm以上25μm以下の大きさを有する、請求項1~8いずれか一項に記載のMg合金。
【請求項10】
Mg合金の製造方法であって、
該Mg合金の製造方法は鋳造工程を含み、
前記鋳造工程は、
Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、
前記作製された混合物を720℃以上に加熱し溶湯を作製する工程と、
前記作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程と、
前記攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程と、
を含む、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金の製造方法。
【請求項11】
前記混合物を作製する工程において、さらにZn及び/又はCaを配合する、請求項10に記載のMg合金の製造方法。
【請求項12】
請求項1~9いずれか一項に記載のMg合金を用いた土木材料又は生体材料であって、前記Mg合金の分解性により使用後の回収が不要である、土木材料及び生体材料。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のMg合金の製造方法で製造された土木材料又は生体材料であって、前記Mg合金の分解性により使用後の回収が不要である、土木材料及び生体材料。
第5 本願の願書に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載事項
本願明細書には、以下の事項が記載されている。下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。
「発明が解決しようとする課題
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、マグネシウム合金中に含まれる金属とともにNiをマグネシウム合金中に分散させた、Mg合金を提供することを課題とする。」
「【0025】
(Mg合金)
Mg合金は、その言葉のとおりMgを主成分とする合金である。主たる成分のMg、添加されるAl、Mn、Niは、加熱、又は、加熱及び攪拌により溶解(分散)させられれば、各地金を配合してもよいし、Mg-Al-Mn合金、Mg-Al-Zn-Mn合金、Mg-Al-Mn-Ca合金、Mg-Al-Zn-Mn合金にNiを添加してもよい。
【0026】
Mg合金には、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物が含まれる。上述したようにNiはその融点や密度が高いため、単独ではMg合金中に分散しにくいが、Mg合金中に添加されるAl、MnとともにAl-Mn-Ni系金属間化合物を形成し晶出することにより、Mg合金に分散しMg合金の分解を促進することができる。
Mg合金に晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物が含まれることにより、Mg合金の分解速度が高まる効果や、晶出する場所によりMg合金を均質に分解できる効果、あるいは局所的に分解できる効果を有する。分解速度が高まる点においては、「易分解性」である。Al-Mn-Ni系金属間化合物について、詳細は後述する。
【0027】
Mg合金に添加されるAlは、Mg合金全量に対し0.1質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上16質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上11質量%以下、0.3質量%以上11質量%以下であることがさらに好ましい。Alが0.1質量%より少ないと、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成がされにくくなる。一方、Alが増加すると、鋳造時の内部応力が増加し、連続鋳造が難しくなる傾向はあるものの、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成と晶出が行われる濃度の範囲であればよい。
【0028】
Mg合金に添加されるMnは、Mg合金全量に対し0.05質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。Mnが0.1質量%より少ないと、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成がされにくくなる。一方、Mnが増加するとMg合金、特にAlを含むMg合金にMnが含有されにくくなる傾向はあるものの、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成と晶出が行われる濃度の範囲であればよい。
【0029】
Mg合金に添加されるNiは、晶出されたAl-Mn-Ni系金属間化合物に対し、0.1質量%以上であることが好ましい。Niが0.1質量%より少ないと、Al-Mn-Ni系金属間化合物とα-Mgの間で分解を促進させるような電位差が生じにくくなる。一方、Niが増加するとAl-Mn-Ni系金属間化合物の晶出温度が高くなるため、Mg溶湯中で結晶化が始まると沈殿して分離しやすくなる傾向があるものの、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成と晶出が適切に行われる濃度の範囲であればよい。
なお、Mg合金に含有するNiは、Mg合金全量に対しては0.01質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上0.6質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。Niを0.6質量%以上添加しても、Mg合金内に十分に分散・拡散することなく炉底に沈降分離されものが多くなってくると考えられるからである(後述する評価試験5の結果参照)。
また、金属間化合物とは、2種類以上の金属によって構成される化合物であり、構成する元素とは異なる特有の物理的、化学的性質を示すものもある。
【0030】
Mg合金には、さらにZnを含有させてもよい。Mg合金に添加されるZnは、Mg合金全量に対し0.05質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。ZnをMg合金に添加すると、固溶強化により、0.2%耐力、伸びを向上させるとともに時効析出を促進することができる。一方、Znを1.5質量%を超えて添加すると、分解速度が低下する傾向にある。
【0031】
Mg合金には、さらにCaを含有させてもよい。Mg合金に添加されるCaは、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。Alが添加されたMg合金にCaを添加すると、Al2Ca、(Mg、Al)2Ca、又は、Mg2Caからなる群から選択される1以上の化合物が晶出され、これらの化合物が分解の駆動力として寄与するため分解速度が増加する。また、これらの化合物が晶出することで、難燃特性や耐熱強度が向上したMg合金を得ることができる。ここで、これらのCaを含む化合物の比率は、AlとCaの添加比率によって概ね決まり、添加比率がAl>Caの場合はAl2Caが主となり、添加比率がAl≒Caの場合は(Mg、Al)2Caが主となり、添加比率がAl<Caの場合はMg2Caが主となる。
一方、Ca添加量が2.0質量%を超えると、0.2%耐力や伸びといった引張特性が低下する場合がある。
・・・
【0035】
Mg合金において、必須のMg、Al、Mn、Ni、任意のZn、Caの他、他の元素を含んでいてもよいし、他の元素は不可避不純物のみであってもよい。ここで不可避不純物とは、Si、Fe、Cu等が例示されるが、これに限定されない。言い換えると、Mg合金において、必須のAl、Mn、Ni、任意のZn、Caの残部は、Mg及び不可避不純物であってもよい。
なお、各元素の効果は概ね以下のとおりである。Alは固溶強化や析出強化を促進し、鋳造性と耐食性を改善する。Mnは塑性加工における再結晶粒の粗大化を抑制する。Znは鋳造性と強度を改善する。Caはクリープ強度、耐熱強度を改善し、難燃性を付与する。」
「【0036】
(Mg合金の製造方法)
本発明のMg合金の製造方法には、鋳造工程、均質化処理工程、押出工程又は鍛造工程が含まれる。
図1に、Mg合金の製造方法の簡略フローを示す。鋳造工程でビレットが作製され、該ビレットは均質化処理工程で均質化処理済みビレットが作製される。該均質化処理済みビレットは、押出工程で押出材が作製される、又は、鍛造工程で鍛造材が作製される。なお、押出材と鍛造材は塑性加工材とも呼ばれる。
【0037】
(鋳造工程)
鋳造工程は、混合物を作製する工程、加熱して溶湯を作製する工程、攪拌して完全溶解物を作製する工程、完全溶解物を鋳造する工程を含む。
【0038】
鋳造工程における、Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程は、合金組成に応じて地金や金属塊を準備し、混合し、混合物を作製する工程である。
必須のMg、Al、Mn、Niの他、任意のZn、Caを配合することもできる。
【0039】
引き続く、作製された混合物を加熱し溶湯を作製する工程の一例においては、混合物を720℃以上、好ましくは730℃、740℃、より好ましくは750℃以下に加熱する工程である。なお、750℃を超える高い温度の場合、溶湯が活性状態となり、多くの空孔欠陥が発生しやすくなる場合がある。
【0040】
作製された溶湯を撹拌して完全溶解物を作製する工程は、加熱した混合物を撹拌し、さらにむらなく略完全に溶解させ完全溶解物を作製する工程である。完全溶解物とは、配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態をいう。また、攪拌には、機械撹拌、手動撹拌、超音波溶湯撹拌、電磁撹拌等が例示される。
撹拌時間は、加熱された溶湯の量や温度と、攪拌方法や撹拌装置の大きさやパワー等にもよるが、10分以上60分以下が例示される。Mg合金に対し、高温での撹拌を長時間行うと、溶湯表面の被膜や酸化物を大量に巻き込み、鋳塊品質を維持することができない場合がある。このような場合、撹拌時間を調整するか、撹拌後に溶湯処理を実施し、上記溶湯表面の被膜や酸化物が少なくともビレット中に含まれないよう調整することで、ビレット、均質化処理済みビレット、押出材や鍛造材(塑性加工材)の品質を維持することができる。
【0041】
作製された完全溶解物は、一例としてφ70(内径70mm)の金型に注湯され、ビレットが作製される。
【0042】
なお、鋳造工程における鋳造とは、金属の温度を融点以上まで上げて、型に流し込んで冷やし固めることをいう。本発明の鋳造工程の鋳造方法は、かかる鋳造を行うものであれば限定されず、砂型鋳造法(生(砂)型鋳造法、乾燥型鋳造法、自硬性鋳型鋳造法、熱硬化型鋳型鋳造法、ガス硬化型鋳造法、消失模型鋳造法、Vプロセス鋳造法、凍結鋳型製造法等)石膏鋳造法、精密鋳造法、金型鋳造法(重力鋳造法、ダイカスト鋳造法、低圧鋳造法、高圧鋳造法)、連続鋳造法等が例示される。
【0043】
(均質化処理工程)
均質化処理工程は、鋳造工程で晶出する金属間化合物等をα-Mg中に固溶させ、成分の偏析を抑制し、成分濃度の揺らぎの少ない鋳塊を形成する工程である。たとえば、Mg-Al-Zn-Ni系合金においては、鋳造工程で晶出する低融点のMg-Al-Zn系金属間化合物をα-Mg中に固溶させ、均質化処理を行う。なお、低融点の化合物が残っている状態で押出工程に供すると、割れが生じやすく、また、Mg-Al-Zn系金属間化合物が残っていると発火の危険がある。よって、均質化処理工程は、成分濃度の揺らぎの少ない合金を形成するのみならず、割れ等が生じにくいように機械的な強度を維持したり、発火等の安全面からも実施される工程の1つである。
一例としてφ70のビレットをφ60(外径60mm)まで切削加工を行い、400℃~420℃、好ましくは約410℃で均質化処理を行い、均質化処理済みビレットを作製する。
【0044】
(押出工程)
押出工程における押出とは、耐圧性のコンテナ内に素材(均質化処理済みビレット等)を入れ、素材に圧力を加えることで、所定の断面形状に穴あけ加工した金型(ダイス)から押出し、所望の断面形状に成形する方法である。
本発明の押出工程では、一例として均質化処理済みビレットを300℃~410℃、好ましくは約400℃の雰囲気中でφ10(外径10mm)となるように押出加工を行い、押出材(塑性加工材)を形成する。押出材はMg合金を用いた部品や部材にさらに加工される。
【0045】
(鍛造工程)
鍛造工程における鍛造とは、上下一組の金型の間に材料を入れ、プレスで押しつぶして所望の形状に加工する方法である。
本発明の鍛造工程では、一例として均質化処理済みビレットを300℃~410℃、好ましくは約400℃の雰囲気中で上型と下型でプレスして鍛造材(塑性加工材)を形成する。あるいは、φ10(外径10mm)、200mm~300mmの長さ等、適宜のサイズの丸鋳となるように鍛造を行い、鍛造材(塑性加工材)を形成する。鍛造材はMg合金を用いた部品や部材にさらに切削加工される。」
「【0046】
(Mg合金の応用)
Mg合金は、構造物等の部材、制振部材、犠牲電極材、掘削部材、地中構造物、水中構造物等の土木材料、生体材料、医療材料等に応用される。特に、地中や水中で使用される土木材料や、体内で使用される生体材料は、Mg合金の分解性により使用後の回収が不要となり得る。」
「実施例
【0047】
以下に本発明の実施例を含めた評価試験の結果を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
-評価試験1(評価用試料の作製と分解速度の測定)-
表1A、表1B、表1Cに記載の含有量となるように金属を添加(配合)し、上述した鋳造工程、均質化処理工程、押出工程で押出材を形成し、評価用の試料1~試料51とした。表1A、表1B、表1Cの金属の質量%は、評価用の試料に含有する金属の割合である。合金種はASTMで定められた呼称、又は、ASTMの呼称のルールを参考にした名前を記載したものである。たとえば、Aはアルミニウム、Zは亜鉛、Mはマンガン、Nはニッケル、Xはカルシウムであり、その後ろの数字は、質量%を1桁に四捨五入して順に並べたものである。
さらに、試料1~試料51について分解速度を測定した。分解速度の測定は、重量(mg)を測定した試料片を93℃の2%-KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、重量変化を確認することにより行った。減少した質量を1日あたり表面積(1cm2)あたりに換算したのが分解速度(mg/cm2/day)である。
【0049】
【表1A】
[図:0001398774000001.jpg]
【0050】
【表1B】
[図:0001398774000002.jpg]
【0051】
【表1C】
[図:0001398774000003.jpg]
【0052】
-評価試験2(Niの添加量に対するNiの含有量の割合について)-
本発明は、添加されたNiがMg合金中でAl-Mn-Ni系金属間化合物を形成し晶出することが重要である。しかしながら、添加したNiがMg合金中でAl-Mn-Ni系金属間化合物を十分に形成することができない場合や、Niの高い融点や高い密度に起因してMg合金に分散できずに沈殿し取り除かれた場合、添加量に対してビレットや塑性加工材(押出材、鍛造材)のNi含有量が低くなる。
そこで、鋳造工程のおける加熱温度(溶湯温度)と、撹拌の有無により、Ni添加量に対するビレット中のNi含有量の割合について測定した。
結果は、図2、表2に示す。
【0053】
【表2】
[図:0001398774000004.jpg]
【0054】
図2及び表2に示されるように、加熱温度が720℃以上になると、撹拌なしの場合に比べ、撹拌ありの場合のNi含有量の割合が高くなり、740℃以上になると、撹拌ありの場合、Niの添加量の90%以上がビレットや塑性加工材(押出材、鍛造材)に配合されることが分かった。
よって、本評価試験2の条件では、加熱温度を720℃以上で撹拌を行えば、NiはMg合金に溶解(分散)されることが分かった。
【0055】
-評価試験3(Ni含有量によるSEM-EDS分析)-
表2の鋳造工程における溶湯温度が750℃であって、撹拌なしの押出材と撹拌ありの押出材について、SEM-EDS分析を行った。
SEM(走査型電子顕微鏡)は、対象試料に電子ビームを照射し、対象試料から放出される二次電子等を検出することで、対象試料の表面の構造を解析するものである。EDS(エネルギー分散型X線分析)は、対象試料に電子線やX線を照射した際に発生する蛍光X線を検出することで、対象試料を構成する元素と濃度を解析するものである。
【0056】
鋳造工程における攪拌の有無による、押出材の表面の構造をSEMで確認し、結晶部分の元素と濃度をEDSで解析した。
図3(a)に加熱温度(溶湯温度)750℃、撹拌なしの押出材の視野を示し、表3に点分析結果を示した。また、図3(b)に加熱温度(溶湯温度)750℃、撹拌ありの押出材の視野を示し、表4に点分析結果を示した。
【0057】
【表3】
[図:0001398774000005.jpg]
【0058】
【表4】
[図:0001398774000006.jpg]
【0059】
図3(a)及び表3の位置001、002の分析結果より、750℃撹拌なしの押出材では、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成が確認されなかった。
一方、図3(b)及び表4の位置001、002の分析結果より、750℃撹拌ありの押出材では、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成が確認された。
よって、撹拌を行うことにより、Niをより確実に溶解分散させることで、Al-Mn-Ni系金属間化合物が形成し晶出することが分かった。
【0060】
-評価試験4(ビレットの作製と評価)-
鋳造工程におけるビレットの作製について、図4(a)に、鋳造工程の経過時間と温度及び実施工程の一例を示し、図4(b)に図4(a)で鋳造したビレットの金属顕微鏡写真を示し、図4(c)に図4(b)を拡大した金属顕微鏡写真を示す。
【0061】
鋳造工程において、図4(a)中の加熱及び撹拌を行う工程は、NiをMg合金中にむらなく完全に又はほぼ完全に溶解させ完全溶解物を作製するための工程である。この撹拌を行う工程の前後に溶湯処理工程を実施することもできる。溶湯処理工程は、加熱及び撹拌を行うことにより低下しやすい鋳塊品質を維持するための工程である。
図4(a)のような加熱及び撹拌を行う工程、及び、溶湯処理工程を経たビレットは、図4(b)、図4(c)のような金属顕微鏡画像が得られ、EDS分析によりAl-Mn-Ni系金属間化合物の形成及び晶出が確認された。
よって、評価試験4の結果からも、評価試験3と同様に、加熱及び撹拌を行うことにより、Niをより確実に完全に溶解分散させることで、Al-Mn-Ni系金属間化合物が形成し晶出することが分かった。
【0062】
-評価試験5(Niの添加量について)-
評価試験2において、鋳造工程におけるNiの添加量に対するビレット中のNi含有量の割合は、鋳造工程における撹拌により大きくすることができることを示した。一方でNiの添加量の増加に伴い、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出温度が高くなる傾向があるため、撹拌を行ってもAl-Mn-Ni系金属間化合物を十分に形成させることができない場合がある。そこで、Niの添加量の違いよるビレットの評価を行った。
【0063】
Ni添加量が0.4質量%の場合、ビレットのNi含有量は0.4質量%であった。図5(a)に該ビレットのSEM-EDS分析結果を示した。
このビレットには、添加したNiの量が100%(含有量/添加量=0.4/0.4=100%)含有されており、かつ、Al-Mn-Ni系金属間化合物が形成し、結晶粒界に針状や粒状の形状で存在していることが確認できた。結晶粒界に針状や粒状の形状の金属間化合物が形成されるのは、塑性加工の際にAl-Mn-Ni系金属化合物が再結晶粒の粗大化に対してピン止め効果を発揮することで再結晶粒の粗大化を抑制しているためと考えられる。
【0064】
一方、Ni添加量が5質量%の場合、ビレットのNi含有量は0.4質量%であった。図5(b)に該ビレットのSEM-EDS分析結果を示した。
このビレットには、添加したNiの量が8%(含有量/添加量=0.4/5=8%)しか含有されておらず、このビレット中にはAl-Mn-Ni系金属間化合物がデンドライト状(樹枝状)に晶出していることが確認できた。デンドライト状の金属間化合物が形成されるのは、α-Mgより晶出温度が高いためであり、初晶化合物として形成されることが考えられる。また、本評価試験結果からも、Mg-Al-Zn-Mn系合金中にNiを0.6質量%以上添加しても、Mg合金内に十分に分散・拡散することなく炉底に沈降分離されると考えられる。
【0065】
よって、Niの添加量に対するNi含有量の割合が低くなりすぎると、Mg合金中にAl-Mn-Ni系金属間化合物が充分に分散できず、粒径25μm以上の粗大なAl-Mn-Ni系金属間化合物が晶出することが分かった。なお、Al-Mn-Ni系金属間化合物が粒径25μm以上の粒径で晶出すると、疲労をはじめとした破壊の起点になり得る。
【0066】
-評価試験6(均質化処理済みビレットにおけるAl-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置)-
均質化処理工程後、押出工程前の均質化処理済みビレットにおける、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置について評価した。
AZ80(Alが8質量%、Znが四捨五入して0%の含有を予定した、Mg合金)に、Niが0.4質量%の含有を予定した均質化処理済みビレットを作製し、金属顕微鏡観察を行った。
【0067】
図6(a)に視野1、図6(b)に視野2、図6(c)に視野3の金属顕微鏡写真を示す。Al-Mn-Ni系金属間化合物について、結晶粒内に存在する個数と、結晶粒界に存在する個数を数えた結果を、表5に示す。
【0068】
【表5】
[図:0001398774000007.jpg]
【0069】
図6(a)、図6(b)、図6(c)、表5より、本評価試験における押出工程前の均質化処理済みビレットのAl-Mn-Ni系金属間化合物は、約65%~約90%が結晶粒内に存在していることが分かった。
【0070】
-評価試験7(押出材におけるAl-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置)-
押出工程後の押出材における、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置について評価した。
AZ80(Alが8質量%、Znが四捨五入して0%の含有を予定した、Mg合金)に、Niが0.4質量%の含有を予定した均質化処理済みビレットを作製し、金属顕微鏡観察を行った。
【0071】
図7(a)に視野1、図7(b)に視野2の金属顕微鏡写真を示す。Al-Mn-Ni系金属間化合物について、結晶粒内に存在する個数と、結晶粒界に存在する個数を数えた結果も図7(a)、図7(b)に沿えて示す。
【0072】
図7(a)、図7(b)より、本評価試験における押出工程後の押出材のAl-Mn-Ni系金属間化合物は、約80%~約85%が結晶粒界に存在していることが分かった。
【0073】
押出工程の前後で、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置の比率が変わるのは、概ね以下のとおりである。
押出工程(塑性加工)を施すと、Mg合金内に歪ができ、微細な結晶粒が形成される。歪の回復のため、該結晶粒は粗大化するが、高温領域で安定なAl-Mn-Ni系金属間化合物のような化合物があると、結晶の粗大化(成長)を抑えるピン止め効果が働く。このピン止めは結晶粒の粒界で起こるため、Al-Mn-Ni系金属間化合物は結晶粒界に存在するようになる。また、結晶の粗大化をピン止めすることにより、押出材内部の結晶は微細均一になって安定する。
よって、微細均一な結晶の粒界に存在するAl-Mn-Ni系金属間化合物は、Mg合金内に微細に分散し、Mg合金の分解を促進させることができるとともに、分解速度を全体的にむらなく制御しやすいことが分かる。」
「【0086】
-評価試験11(分解メカニズムの考察)- AZ80+0.1Ni合金(表1Cの試料44)の押出材を樹脂に埋め込み、組織観察を行った。次に、93℃の2%KCl溶液に浸漬し、8分後同一位置で組織観察を行った。
図11(a)にサンプルの押出方向と観察方向を示し、図11(b)に押出材の浸漬試験前の金属顕微鏡写真を示し、図11(c)に押出材の浸漬試験後の金属顕微鏡写真を示す。
【0087】
図11(b)の白い部分はα-Mgであり、合金を構成するAlやCaの濃度が比較的低くなっていた。また、図11(b)の黒い帯状部分はβ相やAl2Ca化合物で、AlやCaの濃度が高くなっていた。さらに図11(b)の粒状に見えるのがAl-Mn-Ni系金属間化合物であった。これらの電位の順は、Al-Mn-Ni系金属間化合物>Al2Ca>β相>α-Mgであり、α-Mgがもっとも卑な部分である。
一方、図11(c)に示すように、白い部分すなわちα-Mgが分解していることが分かった。つまり、電位的に貴な部分であるAl-Mn-Ni系金属間化合物の周辺ではなく、電位的に卑な部分であるα-Mgが分解をしていたことになる。
以上の結果から、分解反応はAl-Mn-Ni系金属間化合物を中心として局所的にガルバニック反応が起こっているのではなく、面内でマクロ的にガルバニック反応が起こり、電位的に最も卑な部分であるα-Mgから優先的に分解が進む、という分解メカニズムであることが考察された。」
「【図2】
[図:0001398774000008.jpg]
【図3】
[図:0001398774000009.jpg]
【図4】
[図:0001398774000010.jpg]
【図5】
[図:0001398774000011.jpg]
【図6】
[図:0001398774000012.jpg]
【図7】
[図:0001398774000013.jpg]
」
「【図11】
[図:0001398774000014.jpg]
」
第6 引用文献2の記載事項
引用文献2(中国特許出願公開第110923531号明細書)には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001398774000015.jpg]
」
(当審仮訳:請求項1 本発明は低コスト高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法を開示し、前記マグネシウム合金の組成はMgaAlbZncMndCaeNifSigSnhであり、ここでa、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ各素の質量分率を表し、bの範囲は0.5-15%であり、cの範囲は0.1-6%であり、dの範囲は0.05-2%であり、eの範囲は0.01-3%であり、fの範囲は0.01-6%であり、gの範囲は0-2%であり、hの範囲は0-5%、a+b+c+d+e+f+g+h=100%である。)
「
[図:0001398774000016.jpg]
」
(当審仮訳:請求項2 請求項1に記載の低コスト高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法であって、その特徴は以下のとおりである:前記合金の製造方法は以下のステップを含む:
(1)溶融:合金成分に基づき、必要な原料を割合で秤量し、まず純マグネシウムを坩堝に入れ、溶融した後に、中間合金等の材料を加え、完全に溶融した後に撹拌して均質に混合する;
(2)鋳造:マグネシウム合金溶融物を晶析装置に導入し、合金の半連続鋳造を行う;
(3)均質化処理:出来上がったインゴットを一定温度で一定時間保持する;
(4)熱間押出し:得られたインゴットを所定の温度で熱間押出しして、合金棒を得る;
(5)時効処理:得られた合金押出棒は、一定の温度で時効処理される。)
「
[図:0001398774000017.jpg]
」
(当審仮訳:技術分野
[0001] 本発明は金属材料分野のマグネシウム合金材料の製造に関し、具体的には低コストの高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法に関するものである。
「
[図:0001398774000018.jpg]
」
(当審仮訳:[0007] 低コスト高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法であって、前記マグネシウム合金組成はMgaAlbZncMndCaeNifSigSnhであり,そのうちa,b,c,d,e,f,g,hはそれぞれ各元素の質量分率を表し、bの範囲は0.5-15%であり、cの範囲は0.1-6%であり、dの範囲は0.05-2%であり、eの範囲は0.01-3%であり、fの範囲は0.01-6%であり、gの範囲は0-2%であり、hの範囲は0-5%、a+b+c+d+e+f+g+h=100%である。)
「
[図:0001398774000019.jpg]
」
(当審仮訳:[0019] 従来技術と比較して、本発明に記載の技術を用いて製造されたマグネシウム合金材料は、機械的強度が高く、可塑性が良好で、塩溶液への迅速な溶解を達成でき、低コストで大量生産しやすく、油・ガス田の破砕工程で使用する閉塞工具に適しており、工具が整備された後に自己溶解し、その後の再加工、研削工程が不要で、施工効率が改善されます。)
「
[図:0001398774000020.jpg]
」
(当審仮訳:具体的な実施方法
[0022] 以下の実施形態は、本発明をさらに説明するものである。
[0023] 実施例1:Mg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金
[0024] 必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造(引抜)速度は20cm/minである。その後、インゴットを保温温度350℃、保持時間48hで均質化処理する。均質化されたインゴットを円柱体に加工して押出加工を行う。押出温度は320℃であり、押出速度は5mm/sであり、押出比は5である。押出し後に棒材を、170℃、48hで時効処理する。
[0025] 上記ステップで得られたMg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金の室温での引張強度は300MPaであり、降伏強度は218MPaであり、伸び率は15.78%であり、93℃で3%のKCl溶液における腐食速度は65mg/cm2/hである。)
「
[図:0001398774000021.jpg]
[図:0001398774000022.jpg]
」
(当審仮訳:[0026] 実施例2:Mg-9Al-0.7Zn-0.3Mn-0.3Ca-0.2Ni-0.2Si合金
[0027] 必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて780℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造(引抜)速度は20cm/minである。その後、インゴットを保温温度400℃、保持時間40hで均質化処理する。均質化されたインゴットを円柱体に加工して押出加工を行う。押出温度は340℃であり、押出速度は2mm/sであり、押出比は5である。押出し後に棒材を、150℃、36hで時効処理する。
[0028] 上記ステップで得られたMg-9Al-0.7Zn-0.3Mn-0.3Ca-0.2Ni-0.2Si合金の室温での引張強度は306MPaであり、降伏強度は217MPaであり、伸び率は7.3%であり、93℃で3%のKCl溶液における腐食速度は120mg/cm2/hである。)
第7 当審拒絶理由についての当審の判断
以下に述べるように、本願については、当審拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
1 理由1(明確性要件)について
(1)請求項1~13に係る発明について
ア 請求項1、10には、「Al-Mn-Ni系金属間化合物」との記載があるが、技術常識に照らして、「~系」との記載は、金属間化合物の構成元素がAl、Mn及びNiに限定されず、Al、Mn及びNiのほかに、如何なる元素もさらに含み得るのものと解される。
イ したがって、請求項1、10に上記「~系」との記載があるとしても、請求項1、10に係る発明及び請求項1、10の記載を直接または間接的に引用する請求項2~9、11~13に係る発明は明確でないとはいえない。
ウ 上記アの事項は、審判請求人が、令和 4年12月26日付け意見書のIII.4(1)で主張するとおりである。
(2)請求項10、11、13に係る発明について
ア 請求項10には、「前記鋳造工程は、
Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、
前記作製された混合物を720℃以上に加熱し溶湯を作製する工程と、
前記作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程と、
前記攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程と、
を含む、」との記載があるが、「完全溶解物」とは、本願明細書の段落【0040】の、「完全溶解物とは、配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態をいう。」との記載を踏まえれば、上記段落【0040】の定義のとおりに理解できるので、「完全溶解物」との記載は明確である。
イ したがって、請求項10に上記「完全溶解物」との記載があるとしても、請求項10に係る発明及び請求項10の記載を引用する請求項11、13に係る発明は明確でないとはいえない。
ウ 上記アの事項は、審判請求人が、令和 4年12月26日付け意見書のIII.4(2)で主張するとおりである。
(3)小括
以上のとおり、請求項1~13に係る発明は明確であるから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
2 理由2(実施可能要件)について
(1)請求項1に係る発明について
ア 請求項1に係る発明は、Mg合金に関する物の発明であって、「Mg、Al、Mn、Ni」を含有し、「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」というものである。
すなわち、請求項1に係る発明においては、Mg、Al、Mn、Niを含有すること以外、何ら特定されていないから、Al、Mn、Niの含有量は、ごく微量である場合や、Mg合金と認識できる限り、相当程度多い場合を包含するものといえる。
また、請求項1に係る発明においては、Mg、Al、Mn、Niを含有することのみが特定されているから、Al、Mn、Ni以外の様々な成分を、様々な組合せ、様々な含有量で含有するMg合金を包含するものといえる。
したがって、請求項1に係るMg合金は、「Mg、Al、Mn、Ni」を含有するものである限り、各種の成分及び組成範囲を有するMg合金を包含するものと解される。
イ 物の発明における発明の実施には、その物の生産をする行為が含まれるから、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある。以下、検討する。
ウ 本願明細書には、上記第5に摘記したように、請求項1に係るMg合金に含まれる成分及びその製造方法に関し、(ア)Mgに添加されるAl、Mn、Niは、加熱、又は、加熱及び攪拌により溶解(分散)させられれば、各地金を配合してもよいし、Mg-Al-Mn合金、Mg-Al-Zn-Mn合金、Mg-Al-Mn-Ca合金にNiを添加してもよいこと(段落【0025】)、(イ)Al及びMnの添加量が少ないと、Al-Mn-Ni系金属間化合物が形成されにくくなり、Niの添加量が少ないと、晶出されたAl-Mn-Ni系金属間化合物におけるNiの量も少なくなり、Al-Mn-Ni系金属間化合物とα-Mgの間で分解を促進させるような電位差が生じにくくなること(段落【0027】~【0029】)、(ウ)Alの添加量が多いと、連続鋳造が難しくなる傾向があり、Mn及びNiの添加量が多いと、Mgに溶解しにくくなること(段落【0027】~【0029】)、(エ)Mg合金において、必須のMg、Al、Mn、Ni、任意のZn、Caの他、他の元素を含んでいてもよいし、他の元素はSi、Fe、Cu等の不可避不純物のみであってもよいこと(段落【0035】)、(オ)本発明のMg合金の製造方法には、鋳造工程、均質化処理工程、押出工程又は鍛造工程が含まれること(段落【0036】)、前記鋳造工程には、混合物を作製する工程、加熱して溶湯を作製する工程、攪拌して完全溶解物を作製する工程、完全溶解物を鋳造する工程が含まれること(段落【0037】)が記載されている。
また、Mg合金の具体的な成分として、(カ)必須のMg、Al:0.6~10.8質量%(試料15、47)、Mn:0.19~0.76質量%(試料14、15)、Ni:0.007~0.532質量%(試料1、49)、任意のZn:2.07質量%以下(試料49)、Ca:2.32質量%以下(試料47)の他、Si、Fe、Cuの不可避不純物を含む押出材が、高い分解速度を有すること(段落【0049】~【0051】の表1A~表1C等)、(キ)AZ80(Alが8質量%、Znが四捨五入して0%の含有を予定した、Mg合金)に、Niを添加したものからインゴット等を製造すると、Al-Mn-Ni系金属間化合物が晶出すること(段落【0066】、【0070】、【0086】)が記載されている。
エ(ア)上記ウのとおり、本願明細書には、上記ウ(カ)、(キ)の特定の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いて、上記ウ(オ)の特定の製造方法により製造することによって、実際に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」Mg合金を製造できることが記載されているといえる(なお、表1A~表1Cには、Mg合金が晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有することは記載されていないが、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有すると推認する。)。
(イ)一方、上記ウ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いる場合であっても、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態」である「完全溶解物」を鋳造することができないとはいえないから、鋳造されたMg合金が、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有しないとまではいえない。
また、Al-Mn-Ni系金属間化合物は、溶湯の冷却過程で晶出するものであって、鋳造後の均質化処理工程、押出工程、鍛造工程によって消失するものとはいえないから、Mg合金の成分及び組成範囲等が上記ウ(カ)、(キ)の特定の成分及び組成範囲と異なっていたとしても、製造されたMg合金において、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するという点において、組織が異なるとはいえない。
(ウ)さらに、上記ウ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いる場合には、Mg合金に含まれる他の成分との相互作用によって、他の金属間化合物や化合物等を形成し、「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が形成されないことも想定され、必ず「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が形成されるとはいえないものの、Mg合金は、他の合金と比較して、その種類が特に多いものではないから、上記ウ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有する各種のMg合金を用いる場合であっても、当業者は、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することなく、「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が形成される場合があることが理解できる。
オ 以上のとおり、請求項1に係る発明のうち、上記ウ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いる場合についても、本願明細書の記載及び出願時の技術常識を参酌すれば、当業者は、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することなく、「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」Mg合金を製造することができる場合があると理解できる。
また、本願明細書には、上記Mg合金が土木材料や生体材料等に使用できることも記載されている(段落【0020】、【0046】)。
カ 以上によれば、請求項1に係る発明が上記ウ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いる場合を包含するものであるとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
(2)請求項2~9に係る発明について
請求項2~9に係る発明は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(1)で請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
(3)請求項10、11に係る発明について
請求項10、11に係る発明は、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金の製造方法に関するものであるが、「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」点において、請求項1に係る発明と同様である。
そうすると、請求項10、11についても、上記(1)で請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
(4)請求項12、13に係る発明について
請求項12に係る発明は、請求項1~9のいずれか一項の記載を引用するものであるから、上記(1)、(2)で請求項1~9に係る発明について述べたのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
また、請求項13に係る発明は、請求項10又は11に記載のMg合金の製造方法により製造された土木材料又は生体材料であるから、上記(3)で請求項10、11に係る発明について述べたのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
(5)小括
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1~13に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものあるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
6 理由3(サポート要件)について
(1)請求項1に係る発明について
ア 請求項1に係る発明は、Mg合金に関する物の発明であって、上記5(1)アのとおり、請求項1に係るMg合金は、「Mg、Al、Mn、Ni」を含有するものである限り、各種の成分及び組成範囲を有するMg合金を包含するものと解される。
イ 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、検討する。
ウ 本願明細書の記載(段落【0007】)によれば、請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、マグネシウム合金中に含まれる金属とともにNiをマグネシウム合金中に分散させた、Mg合金を提供することであると認められる。
本願明細書の記載によれば、上記課題は、Mg、Al、Mn、Niを含有し、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金によって解決できるとされている。
エ この点、上記第5に摘記したように、本願明細書には、Al-Mn-Ni系金属間化合物に晶出について、(ア)Mgに添加されるAl、Mn、Niは、加熱、又は、加熱及び攪拌により溶解(分散)させられれば、各地金を配合してもよいし、Mg-Al-Mn合金、Mg-Al-Zn-Mn合金、Mg-Al-Mn-Ca合金にNiを添加してもよいこと(段落【0025】)、(イ)Al及びMnの添加量が少ないと、Al-Mn-Ni系金属間化合物が形成されにくくなり、Niの添加量が少ないと、晶出されたAl-Mn-Ni系金属間化合物におけるNiの量も少なくなり、Al-Mn-Ni系金属間化合物とα-Mgの間で分解を促進させるような電位差が生じにくくなること(段落【0027】~【0029】)、(ウ)Alの添加量が多いと、連続鋳造が難しくなる傾向があり、Mn及びNiの添加量が多いと、Mgに溶解しにくくなること(段落【0027】~【0029】)、(エ)Mg合金において、必須のMg、Al、Mn、Ni、任意のZn、Caの他、他の元素を含んでいてもよいし、他の元素はSi、Fe、Cu等の不可避不純物のみであってもよいこと(段落【0035】)、(オ)本発明のMg合金の製造方法には、鋳造工程、均質化処理工程、押出工程又は鍛造工程が含まれること(段落【0036】)、前記鋳造工程には、混合物を作製する工程、加熱して溶湯を作製する工程、攪拌して完全溶解物を作製する工程、完全溶解物を鋳造する工程が含まれること(段落【0037】)が記載されている。
また、Mg合金の具体的な成分として、(カ)必須のMg、Al:0.6~10.8質量%(試料15、47)、Mn:0.19~0.76質量%(試料14、15)、Ni:0.007~0.532質量%(試料1、49)、任意のZn:2.07質量%以下(試料49)、Ca:2.32質量%以下(試料47)の他、Si、Fe、Cuの不可避不純物を含む押出材が、高い分解速度を有すること(段落【0049】~【0051】の表1A~表1C等)、(キ)AZ80(Alが8質量%、Znが四捨五入して0%の含有を予定した、Mg合金)に、Niを添加したものからインゴット等を製造すると、Al-Mn-Ni系金属間化合物が晶出すること(段落【0066】、【0070】、【0086】)が記載されている。
オ(ア)上記エのとおり、本願明細書には、上記エ(カ)、(キ)の特定の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いて、上記エ(オ)の特定の製造方法により製造することによって、実際に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」Mg合金が得られ、上記課題が解決できることが理解できるといえる(なお、表1A~表1Cには、Mg合金が晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有することは記載されていないが、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有すると推認する。)。
(イ)一方、上記エ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いる場合であっても、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態」である「完全溶解物」を鋳造することができないとはいえないから、鋳造されたMg合金が、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有しないとまではいえない。
また、Al-Mn-Ni系金属間化合物は、溶湯の冷却過程で晶出するものであって、鋳造後の均質化処理工程、押出工程、鍛造工程によって消失するものとはいえない。
そして、Mg合金が、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有していれば、上記課題が解決できることは、上記ウで述べたとおりである。
(ウ)さらに、上記エ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いる場合には、Mg合金に含まれる他の成分との相互作用によって、他の金属間化合物や化合物等を形成し、「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が形成されないことも想定され、必ず「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が形成されるとはいえないものの、Mg合金は、他の合金と比較して、その種類が特に多いものではないから、上記エ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有する各種のMg合金を用いる場合であっても、当業者は、特段の困難なく、「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が形成される場合があることが理解できる。
カ 以上のとおりであるから、上記エ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いる場合を包含する請求項1に係る発明は、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により請求項1に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえない。
キ 以上によれば、請求項1に係る発明が上記エ(カ)、(キ)以外の成分及び組成範囲を有するMg合金を用いる場合を包含するものであるとしても、請求項1に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
(2)請求項2~9に係る発明について
請求項2~9に係る発明は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(1)で請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
(3)請求項10、11に係る発明について
請求項10、11に係る発明は、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金の製造方法に関するものであるが、「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」点において、請求項1に係る発明と同様である。
そうすると、請求項10、11についても、上記(1)で請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
(4)請求項12、13に係る発明について
請求項12に係る発明は、請求項1~9のいずれか一項の記載を引用するものであるから、上記(1)、(2)で請求項1~9に係る発明について述べたのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
また、請求項13に係る発明は、請求項10又は11に記載のMg合金の製造方法により製造された土木材料又は生体材料であるから、上記(3)で請求項10、11に係る発明について述べたのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
(5)小括
以上のとおり、請求項1~13に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
7 理由4(新規性)、理由5(進歩性)について
(1)引用文献2に記載された発明
ア 引用文献2には、「低コスト高塑性可溶マグネシウム合金材料及びその製造方法」に関する発明が記載されている。
イ 上記アの発明に関し、引用文献2の実施例1には、Mg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金の製造方法として、「必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造(引抜)速度は20cm/minである。その後、インゴットを保温温度350℃、保持時間48hで均質化処理する。均質化されたインゴットを円柱体に加工して押出加工を行う。押出温度は320℃であり、押出速度は5mm/sであり、押出比は5である。押出し後に棒材を、170℃、48hで時効処理する。」との事項が記載されている(段落[0024])。
ウ また、実施例2には、Mg-9Al-0.7Zn-0.3Mn-0.3Ca-0.2Ni-0.2Si合金の製造方法として、「必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて780℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造(引抜)速度は20cm/minである。その後、インゴットを保温温度400℃、保持時間40hで均質化処理する。均質化されたインゴットを円柱体に加工して押出加工を行う。押出温度は340℃であり、押出速度は2mm/sであり、押出比は5である。押出し後に棒材を、150℃、36hで時効処理する。」との事項が記載されている(段落[0027])。
エ ここで、段落[0007]の記載によれば、上記マグネシウム合金の他の成分の含有率は質量%である。
オ そうすると、引用文献2には以下の4つの発明(以下、「引用発明1A」、「引用発明1B」、「引用発明2A」、「引用発明2B」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1A>
Mg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金(質量%)であって、必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、20cm/minの鋳造(引抜)速度で鋳造し、鋳造したインゴットを保温温度350℃、保持時間48hで均質化処理し、均質化されたインゴットを円柱体に加工して、押出温度320℃、押出速度5mm/s、押出比5で押出加工を行い、押出し後に棒材を、170℃、48hで時効処理したMg合金。
<引用発明1B>
Mg-3Al-1Zn-0.5Mn-0.1Ca-0.3Ni-0.1Si-0.15Sn合金(質量%)の製造方法であって、必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、20cm/minの鋳造(引抜)速度で鋳造し、その後、鋳造したインゴットを保温温度350℃、保持時間48hで均質化処理し、均質化されたインゴットを円柱体に加工して、押出温度320℃、押出速度5mm/s、押出比5で押出加工を行い、押出し後に棒材を、170℃、48hで時効処理する、Mg合金の製造方法。
<引用発明2A>
Mg-9Al-0.7Zn-0.3Mn-0.3Ca-0.2Ni-0.2Si合金(質量%)であって、必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて780℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、20cm/minの鋳造(引抜)速度で鋳造し、鋳造したインゴットを保温温度400℃、保持時間40hで均質化処理し、均質化されたインゴットを円柱体に加工して、押出温度340℃、押出速度2mm/s、押出比5で押出加工を行い、押出し後に棒材を、150℃、36hで時効処理したMg合金。
<引用発明2B>
Mg-9Al-0.7Zn-0.3Mn-0.3Ca-0.2Ni-0.2Si合金(質量%)の製造方法であって、必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて780℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、20cm/minの鋳造(引抜)速度で鋳造し、その後、鋳造したインゴットを保温温度400℃、保持時間40hで均質化処理し、均質化されたインゴットを円柱体に加工して、押出温度340℃、押出速度2mm/s、押出比5で押出加工を行い、押出し後に棒材を、150℃、36hで時効処理する、Mg合金の製造方法。
(2)請求項1に係る発明について
ア 請求項1に係る発明と引用発明1Aとの対比
(ア)引用発明1AのMg合金が、Mg、Al、Zn、Mn、Ca、Ni、Si及びSnを含有する点は、請求項1に係る発明が、Mg、Al、Mn、Niを含有する点で一致する。
(イ)以上から、請求項1に係る発明と引用発明1Aとは、以下の一致点1において一致するとともに、以下の相違点1において相違する。
<一致点1>
「Mg、Al、Mn、Niを含有するMg合金」である点。
<相違点1>
請求項1に係る発明では、Mg合金中に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」のに対し、引用発明1Aでは、Mg合金中に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」か不明である点
イ 判断
(ア)相違点1について
a 製造方法の観点からの検討
(a)請求項1に係るMg合金の製造方法について
請求項1に係るMg合金の製造方法には、鋳造工程、均質化処理工程、押出工程又は鍛造工程が含まれており(段落【0036】)、それぞれの工程は、以下のとおりである。
i 鋳造工程
鋳造工程は、混合物を作製する工程、加熱して溶湯を作製する工程、攪拌して完全溶解物を作製する工程、完全溶解物を鋳造する工程を含んでいる(段落【0037】)。
(i)混合物を作製する工程は、合金組成に応じて地金や金属塊を準備し、混合し、混合物を作製する工程である(段落【0038】)。
(ii)加熱して溶湯を作製する工程は、その一例においては、混合物を720℃以上、より好ましくは750℃以下に加熱する工程である(段落【0039】)。
(iii)撹拌して完全溶解物を作製する工程は、加熱した混合物を撹拌し、さらにむらなく略完全に溶解させ完全溶解物を作製する工程である。完全溶解物とは、配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態をいう。また、攪拌には、機械撹拌、手動撹拌、超音波溶湯撹拌、電磁撹拌等が例示される(段落【0040】)。
(iv)完全溶解物を鋳造する工程は、金属の温度を融点以上まで上げて、型に流し込んで冷やし固めることをいう(段落【0042】)。
ii 均質化処理工程
均質化処理工程は、鋳造工程で晶出する金属間化合物等をα-Mg中に固溶させ、成分の偏析を抑制し、成分濃度の揺らぎの少ない鋳塊を形成する工程である。その一例においては、400℃~420℃、好ましくは約410℃で均質化処理を行い、均質化処理済みビレットを作製する(段落【0043】)。
iii 押出工程
押出工程における押出とは、耐圧性のコンテナ内に素材(均質化処理済みビレット等)を入れ、素材に圧力を加えることで、所定の断面形状に穴あけ加工した金型(ダイス)から押出し、所望の断面形状に成形する方法である。その一例においては、均質化処理済みビレットを300℃~410℃、好ましくは約400℃の雰囲気中でφ10(外径10mm)となるように押出加工を行い、押出材(塑性加工材)を形成する(段落【0044】)。
(b)実施例の記載について
上記Mg合金の製造方法に係る実施例の記載をみると、評価試験2には、「添加したNiがMg合金中でAl-Mn-Ni系金属間化合物を十分に形成することができない場合や、Niの高い融点や高い密度に起因してMg合金に分散できずに沈殿し取り除かれた場合、添加量に対してビレットや塑性加工材(押出材、鍛造材)のNi含有量が低くなる」ため、加熱温度(溶湯温度)720℃以上で撹拌を行い、NiをMg合金に溶解(分散)させることが記載されている(段落【0052】~【0054】)。
また、評価試験3には、鋳造工程における溶湯温度が750℃であって、撹拌ありの押出材で、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成が確認されたことが記載されている(段落【0055】~【0059】)。
さらに、評価試験4には、溶湯温度が750℃で、機械撹拌と溶湯処理工程を経たビレットに、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成し晶出することが記載されている(段落【0060】~【0061】)。
また、評価試験6には、均質化処理済みのビレットにおいて、Al-Mn-Ni系金属間化合物の約65%~約90%が結晶粒内に存在することが、評価試験7には、押出材において、Al-Mn-Ni系金属間化合物の約80%~約85%が結晶粒界に存在することが、それぞれ記載されている。
一方、評価試験1~12においては、均質化処理温度及び押出温度を評価指標としていないため、それぞれの具体的な温度は記載されていない。
(c)Al-Mn-Ni系金属間化合物が晶出する工程
以上から、請求項1に係るAl-Mn-Ni系金属間化合物は、少なくとも以下の工程を経れば晶出するものといえる。
・合金組成に応じて地金や金属塊を準備し、混合し、混合物を作製する工程
・混合物を720℃以上に加熱する工程
・加熱した混合物を撹拌、溶湯処理して完全溶解物を作製する工程
・完全溶解物を鋳造する工程
(d)請求項1に係るMg合金の製造方法と引用発明1Aとの対比・判断
引用発明1Aは上記のとおり、純マグネシウムを坩堝に加えて750℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に、Al、Mn、Ni等の他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造したインゴットを保温温度350℃で均質化処理し、均質化されたインゴットを押出温度320℃で押出加工を行う工程を含むものである。
ここで、引用文献2の請求項2における「純マグネシウムを坩堝に入れ、溶融した後に、中間合金等の材料を加え、完全に溶融した後に撹拌して均質に混合する」との記載を踏まえると、引用発明1Aにおいて、溶湯は鋳造前に完全に溶融しているものと認められる。
一方、請求項1に係るMg合金の製造方法において、鋳造前の溶湯は、「完全溶解物」であり、「完全溶解物」とは、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態」、すなわち、未溶解の地金や金属塊、晶出してきた化合物が存在している状態であると認められる。
そうすると、請求項1に係るMg合金の製造方法と引用発明1Aとは、鋳造前の溶湯の状態が異なるため、両者は、鋳造後のビレット(インゴット)の状態も異なると認められるから、引用発明1Aにおいて、鋳造したインゴットの状態で、Al-Mn-Ni系金属間化合物が晶出しているかどうかは不明である。
また、引用発明1AのMg合金は、Mg、Al、Mn、Niのほかに、Zn、Ca、Si、Snを含有するものであるところ、Mg合金に含まれる複数の成分どうしの相互作用によって、他の金属間化合物や化合物等が晶出し、「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が晶出しないことも想定されることから、Mg、Al、Mn、Niのほかに、Zn、Ca、Si、Snを含む引用発明1AのMg合金において、実際に「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が晶出するかどうかは不明である。
したがって、相違点1は、実質的な相違点である。
よって、請求項1に係る発明は引用発明1Aと同一であるとはいえない。
そして、上記のとおり、引用発明1Aは、鋳造前に、溶湯を完全に溶融させること前提とするものであるから、引用発明1Aにおいて、鋳造前の溶湯を「完全溶解物」とすること、すなわち、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態」とすること(それにより「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」ようにすること)が、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
b 物の観点からの検討
引用文献2には、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物に係る事項が何ら記載されていない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点である。
よって、請求項1に係る発明は引用発明1Aと同一であるとはいえない。
そして、引用文献2には、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物に係る事項が何ら記載されていないから、引用発明1Aにおいて、Mg合金中に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」ようにすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
ウ 請求項1に係る発明と引用発明2Aとの対比・判断
(ア)対比
a 引用発明2AのMg合金が、Mg、Al、Zn、Mn、Ca、Ni及びSiを含有する点は、請求項1に係る発明が、Mg、Al、Mn、Niを含有する点で一致する。
b 以上から、請求項1に係る発明と引用発明2Aとは、以下の一致点2において一致するとともに、以下の相違点2において相違する。
<一致点2>
「Mg、Al、Mn、Niを含有するMg合金」である点。
<相違点2>
請求項1に係る発明では、Mg合金中に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」のに対し、引用発明2Aでは、Mg合金中に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」か不明である点
(イ)判断
a 相違点2について
相違点2は、上記イ(ア)で検討した相違点1と同様ものであるから、上記イ(ア)の「相違点1について」で述べたのと同様の理由により、相違点2は、実質的な相違点である。
よって、請求項1に係る発明は引用発明2Aと同一であるとはいえない。
また、上記イ(ア)の「相違点1について」で述べたのと同様の理由により、引用発明2Aにおいて、上記相違点2に係る発明特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
エ 小括
以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明であるとはいえない。
また、請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)請求項2~9に係る発明について
ア 請求項2~9に係る発明と引用発明1Aとの対比・判断
請求項2~9に係る発明は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(2)で請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、請求項2~9に係る発明は引用発明1Aと同一であるとはいえない。
また、請求項2~9に係る発明は、引用発明1Aに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 請求項2~9に係る発明と引用発明2Aとの対比・判断
請求項2~9に係る発明は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(2)で請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、請求項2~9に係る発明は引用発明2Aと同一であるとはいえない。
また、請求項2~9に係る発明は、引用発明2Aに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、請求項2~9に係る発明は、引用文献2に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
また、請求項2~9に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
8 理由5(進歩性)について
(1)請求項10に係る発明について
ア 請求項10に係る発明と引用発明1Bとの対比・判断
(ア)対比
a 引用発明1Bの「Mg合金の製造方法」は、請求項10に係る発明の「Mg合金の製造方法」に相当する。
b 引用発明1Bが鋳造工程を有することは、請求項10に係る発明が「Mg合金の製造方法は鋳造工程を含」む点で共通する。
c 引用発明1BのMg合金が、Mg、Al、Zn、Mn、Ca、Ni、Si及びSnを含有する点は、請求項10に係る発明において、混合物にMg、Al、Mn及びNiを含む点で共通する。
d 引用発明1Bにおいて、鋳造前のMg合金が溶解していることは明らかである。
e 以上から、請求項10に係る発明と引用発明1Bとは、以下の一致点3において一致するとともに、以下の相違点3、4において相違する。
<一致点3>
「Mg合金の製造方法であって、
該Mg合金の製造方法は鋳造工程を含み、
前記鋳造工程は、Mg、Al、Mn及びNiを含有する溶解物を鋳造する工程と、
を含む、Mg合金の製造方法。」である点。
<相違点3>
請求項10に係る発明では、
「Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、
前記作製された混合物を720℃以上に加熱し溶湯を作製する工程と、
前記作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程と、
前記攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程と、を含む、」のに対し、引用発明1Bでは、「必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて750℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し」た後に、鋳造する点。
<相違点4>
請求項10に係る発明では、「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」のに対し、引用発明1Bでは、Mg合金中に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」か不明である点
(イ)判断
a 相違点3、4について
引用発明1Bは上記のとおり、純マグネシウムを坩堝に加えて750℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に、Al、Mn、Ni等の他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し、鋳造し、鋳造したインゴットを保温温度350℃で均質化処理し、均質化されたインゴットを押出温度320℃で押出加工を行う工程を含むものである。
ここで、引用文献2の請求項2における「純マグネシウムを坩堝に入れ、溶融した後に、中間合金等の材料を加え、完全に溶融した後に撹拌して均質に混合する」との記載を踏まえると、引用発明1Bにおいて、溶湯は鋳造前に完全に溶融しているものと認められる。
一方、請求項10に係る発明において、鋳造前の溶湯は、「完全溶解物」であり、「完全溶解物」とは、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態」、すなわち、未溶解の地金や金属塊、晶出してきた化合物が存在している状態であると認められる。
そうすると、請求項10に係る発明と引用発明1Bとは、鋳造前の溶湯の状態が異なるため、両者は、鋳造後のビレット(インゴット)の状態も異なると認められるから、引用発明1Bにおいて、鋳造したインゴットの状態で、Al-Mn-Ni系金属間化合物が晶出しているかどうかは不明である。
また、引用発明1BのMg合金は、Mg、Al、Mn、Niのほかに、Zn、Ca、Si、Snを含有するものであるところ、Mg合金に含まれる複数の成分どうしの相互作用によって、他の金属間化合物や化合物等が晶出し、「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が晶出しないことも想定されることから、Mg、Al、Mn、Niのほかに、Zn、Ca、Si、Snを含む引用発明1BのMg合金において、実際に「Al-Mn-Ni系金属間化合物」が晶出するかどうかは不明である。
そして、上記のとおり、引用発明1Bは、鋳造前に、溶湯を完全に溶融させること前提とするものであるから、引用発明1Bにおいて、鋳造前の溶湯を「完全溶解物」とすること、すなわち、「配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態」とすること、また、それにより「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」ようにすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
b したがって、請求項10に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 請求項10に係る発明と引用発明2Bとの対比・判断
(ア)対比
a 引用発明2Bの「Mg合金の製造方法」は、請求項10に係る発明の「Mg合金の製造方法」に相当する。
b 引用発明2Bが鋳造工程を有することは、請求項10に係る発明が「Mg合金の製造方法は鋳造工程を含」む点で共通する。
c 引用発明2BのMg合金が、Mg、Al、Zn、Mn、Ca、Ni及びSiを含有する点は、請求項10に係る発明において、混合物にMg、Al、Mn及びNiを含む点で共通する。
d 引用発明2Bにおいて、鋳造前のMg合金が溶解していることは明らかである。
e 以上から、請求項10に係る発明と引用発明2Bとは、上記の一致点3において一致するとともに、以下の相違点5、6において相違する。
<相違点5>
請求項10に係る発明では、
「Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、
前記作製された混合物を720℃以上に加熱し溶湯を作製する工程と、
前記作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程と、
前記攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程と、を含む、」のに対し、引用発明2Bでは、「必要な合金原料を割合で秤量し、純マグネシウムを坩堝に加えて780℃で溶融し、ガスで保護しながら、精錬剤を投入し、純マグネシウムがすべて溶融した後に他の金属原料を加え、撹拌してスラグを除去し」た後に、鋳造する点。
<相違点6>
請求項10に係る発明では、「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」のに対し、引用発明2Bでは、Mg合金中に「晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する」か不明である点
(イ)判断
a 相違点5、6について
相違点5、6は、上記ア(イ)aで検討した相違点3、4と同様のものであるから、相違点5、6についての判断は、上記ア(イ)aの相違点3、4に対する判断と同様である。
b したがって、請求項10に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、請求項10に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
(2)請求項11に係る発明について
ア 請求項11に係る発明と引用発明1Bとの対比・判断
請求項11に係る発明は、請求項10の記載を引用するものであるから、上記(1)で請求項10に係る発明について述べたのと同様の理由により、請求項11に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 請求項11に係る発明と引用発明2Bとの対比・判断
請求項11に係る発明は、請求項10の記載を引用するものであるから、上記(1)で請求項10に係る発明について述べたのと同様の理由により、請求項11に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、請求項11に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
(3)請求項12、13に係る発明について
請求項12に係る発明は、請求項1~9のいずれか一項の記載を引用するものであるから、上記7(2)、(3)で請求項1~9に係る発明について述べたのと同様の理由により、請求項12に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、請求項13に係る発明は、請求項10又は11に記載のMg合金の製造方法により製造された土木材料又は生体材料であるから、上記(1)、(2)で請求項10、11に係る発明について述べたのと同様の理由により、請求項13に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
9 審判請求人の主張について
審判請求人は、意見書に第2回実験成績証明書を添付し、「中間合金が何の元素を含むのか不明で、また、純金属として添加した元素が何であるか不明であるため、引用文献2の実施例1を再現することができないことが判明しました。」として、「引用文献2の特許請求の範囲」の「要件を満たす範囲で近い合金を探しAZ80合金(Ni含有せず)にNiを添加することで実験を行いました。」と主張している。
しかしながら、引用文献2の実施例1には、Mg合金の化学組成が記載されているから、「中間合金が何の元素を含むのか不明で、また、純金属として添加した元素が何であるか不明である」としても、少なくとも引用文献2の実施例1と同一の化学組成のMg合金を製造すること自体は可能である。またその際、Mg以外の元素を純金属で添加するか中間合金で添加するかは、技術常識や原料の入手のしやすさなどを考慮して適宜選択できると考えられる。
そのような事情を考慮せず、引用文献2の実施例1とは異なる化学組成のMg合金を製造することで実験を行ったとする第2回実験成績証明書の内容は、引用文献2の実施例1の再現実験と同視してもよいと合理的に考えられる実験であるとはいえないから、第2回実験成績証明書に基づく審判請求人の主張は採用できない。
第8 原査定についての当審の判断
本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
第9 むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由及び当審における拒絶理由を検討してもそれらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-000122