2021-880014
ポータブル充電器
- 審判番号
- 2021-880014
- 法域
- 意匠
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 意願2020-025989外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 1694947
- 請求日
- 2021年11月18日
- 審決日
- 2023年08月22日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】深▲せん▼市馳普科達科技有限公司
- 【請求人代理人】岡村 太一
- 【被請求人】李望城
- 【被請求人代理人】村上 友一
- 【被請求人代理人】関 博
- 分類
- D1113.113-Z (H2-2) / D1113.15 -Z (H2-2)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 意匠法第48条第1項第3号、意匠法第3条第1項第3号、意匠法第48条第1項第1号、意匠法第52条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 事案の概要
本件は、請求人の深▲せん▼市馳普科達科技有限公司が、被請求人の李望城が意匠権者である意匠登録第1694947号の意匠(以下「本件登録意匠」という。別紙第1参照)についての登録を無効とすることを求める事案である。
本件登録意匠は、令和2年(2020年)12月2日に意匠登録出願(意願2020-025989)されたものであって、審査を経て令和3年(2021年)8月27日に意匠権の設定の登録がなされ、同年9月13日に意匠公報が発行されたものであって、その後、当審において、以下の手続を経たものである。
同 年 5月18日付け:被請求人から書面審理を希望する旨の上申書
の提出
同 年 5月19日付け:請求人から書面審理を希望する旨の上申書の
提出
同 年 6月30日付け:書面審理通知書の送付
第2 請求人の主張
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本件無効審判請求人は、令和3年11月18日に審判請求書を提出し、「登録第1694947号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との審決を求め、その理由として以下のように主張するとともに、その主張事実を立証するため、証拠方法として甲第1号証から甲第4号証までの書証を提出した。
1 請求の理由
(1)手続の経緯
出 願 令和2年12月2日(2020.12.2)
登 録 令和3年8月27日(2021.8.27)
(2)意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は、引用意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、本件意匠登録(登録第1694947号意匠の登録。以下同じ)は同法第48条第1項第1号により無効とすべきである(理由1)。また、本件意匠登録は、冒認出願によるものであるから、意匠法第48条第1項第3号により、無効とすべきである(理由2)。
(3)本件意匠登録を無効とすべき理由
(理由1)
本件登録意匠は、引用意匠(甲第1号証に掲載の意匠
)と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号の無効理由を有する。
イ 本件登録意匠の説明(要旨等)
本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日は令和2年(2020年)12月2日である。本件意匠登録に係る物品は「ポータブル充電器」である。形態において、基本的構成態様は、全体が横長の箱状であり、中央上部に操作部を有する凸部があり、その左右に隙間を介して持ち手部が形成されたものである。
ロ 引用意匠の説明(要旨等)
引用意匠は令和2年(2020年)8月21日に公開された意匠である(甲第1号証)。引用意匠に係る物品は「ポータブルエネルギー貯蔵電源」である。形態において、基本的構成態様は、全体が横長の箱状であり、中央上部に操作部を有する凸部があり、その左右に隙間を介して持ち手部が形成されたものである。
ハ 本件登録意匠と引用意匠との対比
本件登録意匠および引用意匠に係る物品は、表現が異なるものの用途および機能が同一であるため、物品が同一であり、形態において基本的構成態様が同一である。次に具体的構成態様について、以下に比較する。
(a)共通点
両意匠は主に以下の点で共通する。
(a-1)凸部について、正面視で中央上部において左右方向の大部分を占め、側面および同方向から見た断面形状が蒲鉾状である点
(a-2)持ち手部について、正面視で左右端上部において左右方向の小さい部分を占め、左右側面および同方向から見た断面形状が空洞のある蒲鉾状である点
(a-3)持ち手部の方が凸部よりも少し高い位置まで伸びている点
(a-4)操作部において、隅丸長方形部が正面視左右方向に3つ並び、そのうち中央部のものは横長の程度が大きく、それ以外の左右の2つは横長の程度が互いに同程度である点
(a-5)上記(a-4)の左右の隅丸長方形部には、上部にトラック状部があり、左側の隅丸長方形部には内側から外側(下部)にかけて二重の円柱状部とこれに接続する部材が形成されており、右側の隅丸長方形部には内部に3つの隅丸長方形部および1つのトラック状部がある点
(a-6)上記(a-4)の3つの隅丸長方形部の上部に極細隅丸横長長方形部があり、その中央に電球模様がある点
(a-7)底面の左右端付近に正面側および背面側に亘ってスタンド部を有する点
(a-8)正面、背面および左右側面に亘って帯状部(引用意匠でいう黒色の箇所。以下、同様)を有する点
(a-9)持ち手の両側面に円形の凹部が複数ある点
(a-10)帯状部の両側面に棒状の孔が複数ある点
(b)差異点
(b-1)凸部の背面にプラグ差込口を有するか否か
(b-2)持ち手部の空洞について、本件登録意匠では上部が波状であるのに対して、引用意匠では上部が直線状である点
(b-3)本件登録意匠では色が特定されていないのに対して、引用意匠では帯状部および操作部の一部が黒色でそれ以外が全体的に黄緑色である点
ニ 共通点と差異点の評価
本件登録意匠と引用意匠の共通点(a-1)~(a-10)に表れる形態の組み合わせは、全体に占める割合のほとんどを占め、需要者の注意を引くものである。したがって、これらの共通点が両意匠の美感に及ぼす影響は大きい。
一方、差異点(b-1)および(b-2)は全体に占める部分が僅かであるため、この部分が美感に与える影響は小さい。また、(b-3)について、意匠審査基準上「一般的に色彩は、形状及び模様よりも類否判断に与える影響が小さい。」とされており、その理由として、色彩は、「創作というよりも選択と形容するのが適当であって、色彩のみを変更した多数の製品バリエーションが通常用意されていることから、色彩は形状及び模様よりも注意を引きにくいといえる。」とされている。
したがって、これらの差異点が美感に及ぼす影響は極めて小さい。
ホ 類否判断
本件登録意匠と引用意匠とは、物品が同一であり基本的構成態様が共通する。また、具体的構成態様についても細部に至るまで多数の共通点(a-1)~(a-10)を有しており、かつ、上記ニのとおり、これらが両意匠の美感に及ぼす影響は大きい。一方、差異点(b-1)~(b-3)は美感に及ぼす影響が極めて小さい。このため、共通点を差異点が凌駕することはなく、両意匠は酷似するといえる程に類似する。なお、このような認定および判断は引用意匠と同一の意匠に係る出願(意願2021-007221)の審査においてもなされている事実がある点(甲第2号証)からも、両意匠は類似というべきである。
したがって、本件登録意匠と引用意匠は類似し、本件意匠登録は意匠法第3条第1項第3号違反の無効理由を有する。よって、本件意匠登録は意匠法第48条第1項第1号により無効とすべきである。
(理由2)
本件意匠登録は、冒認出願によるものであるから、意匠法第48条第1項第3号により、無効とすべきである。
2020年5月から2021年3月まで、李望城氏(以下「意匠権者」という。)は、請求人に経営に関わる職として雇用されていた(甲第3号証)。このため、意匠権者は、本件登録意匠と酷似する引用意匠の創作を知る機会があった。2021年3月末、請求人は退職したが、2020年12月2日本件登録意匠の出願をした。しかし、本件登録意匠に酷似する引用意匠は、請求人の代表者である「▲とう▼勇明」および請求人の技術責任者「▲ちん▼雄▲い▼」(当審注:甲第4号証では「陳雄偉」と記載されている。)が創作したものである。甲第1号証および甲第4号証には「特許権者」および「意匠権者」として請求人が、「創作者」として両名(漢字や出願ソフトの都合で表記が異なるが同一人物)が記載されている。したがって、本件登録意匠にかかる意匠登録を受ける権利は、意匠権者ではなく請求人に所属する「▲とう▼勇明」および「▲ちん▼雄▲い▼」に属しており、その後請求人に移転されたものであるが、これが意匠権者に移転された事実はない。
以上の経緯からすると、意匠権者は、本件登録意匠にかかる意匠登録を受ける権利を有する者から本件登録意匠を知得して、その意匠登録を受ける権利を請求人から譲り受けることなく本件登録意匠出願を行ったといえる。
したがって、本件意匠登録は、その意匠について意匠登録を受ける権利を有していない意匠権者の意匠登録出願に対してされたものであるから、本件意匠登録は意匠法第48条第1項第3号により、無効とするべきである。
(4)むすび
したがって、本件意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号(理由1)及び同法第48条第1項第3号(理由2)により無効とすべきである。
2 証拠方法
(1)甲第1号証:中国意匠(外観設計特許)公報及びその訳文の写し
(2)甲第2号証:拒絶理由通知書
(3)甲第3号証:社会保険支払明細及びその訳文の写し
(4)甲第4号証:意匠登録願の写し
第3 被請求人の主張
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本件被請求人は、令和5年1月11日付けで審判事件答弁書を提出し、「(1)請求人の請求を棄却する。(2)審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と答弁し、その理由として以下のように主張するとともに、その主張事実を立証するため、証拠方法として乙第1号証の書証を提出した。
1 答弁の理由
(1)請求人は、本件意匠が引用意匠と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり同法第48条第1項第1号により無効とすべきであり(理由1)、また、本件意匠は冒認出願であるから意匠法第48条第1項第3号により無効にすべきである(理由2)、と主張する。しかしながら、上記主張は正しい判断に基づいて行われているとは認められず、以下のように答弁する。
(2)理由1について
ア 本件意匠登録第1694947号意匠(出願日令和2(2020)年12月2日)に対し、令和2(2020)年8月21日に公告された中華人民共和国の意匠特許公報に記載された意匠(甲第1号証)が、類似するというものである。
イ 請求人は、本件意匠と引用意匠とは、基本的構成態様が同一であり、かつ、共通点(a-1)~(a-10)で共通し、差異点(b-1)~(b-3)で相違はあるものの、差異点は美観に与える影響は小さいと主張し、したがって両意匠は類似するとしている。また、引用意匠と同一の意匠に係る出願(意願2021-007221)においても類似するという判断がなされているから(甲第2号証)、両意匠は類似するというものである。
ウ 本件意匠の形態
(ア)本件意匠の物品
本件意匠に係る物品は、持ち運び可能なポータブル充電器である。
(イ)全体の基本的構成態様
本体が横長箱状であり、本体中央上部に操作部を有する凸部が設けられ、凸部左右に隙間を介して前記凸部より若干背高の持ち手部が形成されている。全体として色の特定はない。
(ウ)具体的構成態様の1
正面図において、凸部正面の操作部は、やや大きめの矩形の中央枠と、左右のやや小さめの矩形枠が見られる。中央枠の中には矩形の中心枠とその両サイドに円形部が設けられている。中央枠の一方(左方)の小矩形枠には上辺部に小矩形枠線を割り込むように小楕円形線が見られ、対向する下辺部には円形と下方の舌片部が設けられている。中央枠の他方(右方)の小矩形枠には上辺部に小矩形枠線を割り込むように小楕円形線が見られ、そのやや下方には上辺USB差し込み穴のような矩形枠が四つ見られる(うち一つは小さい)。そして凸部の上辺部には、中央枠と左右の小矩形枠とに亘る薄型矩形枠が形成されている。正面形態は凸部を除き、無模様の形態とされ本体下部に横線と下辺部左右に脚部が見られる。
(エ)具体的構成態様の2
背面図において、本体の上部から凸部にかけて、矩形の枠部が形成され、この内部に電源ソケット部模様が上下2ヵ所、左右2ヵ所の計4か所設けられ、中心部には楕円形状の模様形態が見られる。
(オ)具体的構成態様の3
左右側面図に見られるように、本体の中央部には横長楕円形の穴形状部が3列×17行分だけ形成されている。そして、上部の持ち手部は単純な穴ではなく、持ち手側の手を差し込む穴の上辺が波打ち形状とされ、手に引っかかりやすくなっている。そして、左右両辺と波打ち形状部の外周部には小円形の丸穴模様が5個設けられている。
エ 引用意匠の形態
(ア)引例意匠の概要
引例意匠に係る物品名は、「ポータブルエネルギー貯蔵電源」であり、その意匠は令和2年(2020)年8月21日に登録公告されたもので、本件意匠の出願日である令和2(2020)年12月2日には公知となっていた。また、引例意匠も本件意匠も分類上Loc(12)Cl.13-02に属し、したがって、物品名において「ポータブルエネルギー貯蔵電源」と「ポータブル充電器」と異なるものの、物品において共通する。
(イ)全体の基本的構成態様
本体が横長箱状であり、本体中央上部に操作部を有する凸部が設けられ、凸部左右に隙間を介して前記凸部より若干背高の持ち手部が形成されている。特に、引例意匠は全体を2色に色分けし、上下に黄色と中央にやや広めのグレーに分けたいわゆる2トーン模様としている。
(ウ)具体的構成態様の1
正面図において、凸部正面の操作部は、やや大きめの矩形の黒色中央枠と、左右のやや小さめの矩形枠が見られる。中央枠の中には扁平のラジオダイヤル状の扁平矩形の白抜き中心枠ならびに白色文字らしき模様と、その両サイドに円形部が設けられている。中央枠の一方(左方)の小矩形枠には上辺部に小矩形枠線を割り込むようにグレーの小楕円形線が見られ、対向する下辺部には円形と下方の舌片部が設けられている。中央枠の他方(右方)の小矩形枠には上辺部に小矩形枠線を割り込むようにグレーの小楕円形線が見られ、そのやや下方には上辺USB差し込み穴のような矩形枠が四つ見られる(うち一つは小さい)。そして凸部の上辺部には、中央枠と左右の小矩形枠とに亘る薄型矩形枠が形成されている。正面形態は凸部を除き、無模様の形態とされ本体下部に横線と下辺部左右に脚部が見られる。
(エ)具体的構成態様の2
背面図において、本体の上部から凸部にかけて、矩形の枠部が形成されている。
(オ)具体的構成態様の3
左右側面図に見られるように、本体の中央部のグレー着色部分には1/3程度の中に縦長矩形の穴形状部が9列×2行分だけ形成されている。そして、持ち手部は単純な穴が手を差し込む穴として形成されており、左右両辺と上辺部の外側に2個ずつの丸穴形状が付されている。
オ 本件意匠と引例意匠の対比
(ア)本件意匠と引例意匠との物品の類否
本件意匠に係る物品名は「ポータブル充電器」であり、引例意匠は「ポータブルエネルギー貯蔵電源」であって、それぞれ用途・機能が共通しており、しかも両者はロカルノ分類でも共通しているのであるから同一物品と見て差し支えない。
(イ)本件意匠と引例意匠との形状等の共通点と差異点
(イ-1)基本的構成態様は、本件意匠および引例意匠と共通点が多いものの、
(イ-2)本件意匠は1色のモノトーン形態であるのに対し、引用意匠は黄色とグレーの2トーン形態とされ、他との識別性を明確にしている。
(イ-3)具体的構成態様の1において、正面図凸部中央に付された中央枠は本件意匠の場合、無地の枠体であるのに対し、引例意匠の中央枠は黒地とし、その黒字の中にラジオダイヤル状の白抜き中心枠が設けられ、白抜きダイヤル形状を浮き出たせている。更に、左右の小矩形枠の上辺部に形成された小楕円形線部分には、本件意匠と異なって、グレーの色が付されている。これによって引例意匠は、他の同様な意匠に比べて顕著な形態であることを印象付けている。本件意匠にはこれらの色分け部は存在しない。
(イ-4)具体的構成態様の2において、背面図における矩形枠部には4か所の電源ソケット部の模様が設けられ、中心部には小楕円形の模様が設けられているのに対し、引例意匠はこれが無い。
(イ-5)具体的構成態様の3において、左右側面図では持ち手の形状が、特に上辺部が波打ち形状であるのに対し、引例意匠では平坦な形状である。
(イ-6)また、側面図で顕著な相違があるのは、本件意匠が3列×17行の小楕円形穴模様が付されているのに対し、引例意匠では9列×2行の長方形穴模様が、同様の面積中に配列されていることである。
(イ-7)更に、引例意匠では長方形穴模様は上下に分けられたグレーゾーンの中に形成され、黄色ゾーンには触れられていない。本件意匠では一様な色とされるゾーンの中に多数の小円形穴模様が付されているのである。
(イ-8)なお、底面図は本品が据え置きタイプであるから美観の相違に与える影響は微差である。
(ウ)類否判断
(ウ-1)本件意匠の物品を検索してみると、基本形状は箱型に持ち手を加えた形態のものが多数あり(乙第1号証)、持ち手も天端面中央に設けたものや左右両端に設けたものがあり、したがって全体形状としての横長箱状の形態に持ち手を加えた形状には特に美的創作が加えられたものと見ることができない。したがって、基本的構成態様において、意匠の類否判断に与える影響は少ない。しかし、本件意匠が形態のみのものであるのに対し、引例意匠は上下黄色と中央にグレーを配置した2トーン模様の全体的な色模様において異なる。この2トーン模様は乙第1号証を見渡しても見当たらず、この色模様に美的な意匠であることが理解できる。
(ウ-2)また、具体的構成態様の1において、正面図凸部中央に付された中央枠は本件意匠の場合、無地の枠体であるのに対し、引例意匠の中央枠の中にはラジオダイヤル状の扁平なメモリ模様が施され、更にその下部には文字らしき模様が施されている。したがって斯かる点においても両意匠は審美的にも異なる印象を与える。更に中央枠は引用意匠の場合、黒地とし、その黒字の中にラジオダイヤル状の白抜き中心枠が設けられ、白抜きダイヤル形状を浮き出たせている。また、左右の小矩形枠の上辺部に形成された小楕円形線部分には、本件意匠と異なって、グレーの色が付されている。これによって引例意匠は、他の同様な意匠に比べて顕著な形態であることを印象付けている。本件意匠にはこれらの色分け部は存在せず、両意匠は異なる審美性を持つ意匠であると認識される。
(ウ-3)具体的構成態様の2において、背面図における矩形枠部には4か所の電源ソケット部の模様が設けられ、中心部には小楕円形の模様が設けられているのに対し、引例意匠はこれが無い。このような形態の違いは基本的構成態様が共通している中で大きな違いをもたらし、見る者をして意匠的な相違があると感じるものである。したがって、意匠的に全体的に見て同じ形態であれば、より詳細な差を観察し、具体的機能と用途の違いを見てどちらかを選択するという行動にでる。この形態上の相違は極めて大きいと言える。
(ウ-4)具体的構成態様の3において、左右側面図では持ち手の形状が、特に上辺部が波打ち形状であるのに対し、引例意匠では平坦な形状であるが、実際に作業する人が触れる箇所ではその機能性が特徴として認識されるので、意匠的差異を見出しやすい。
(ウ-5)側面図で顕著な相違があるのは、本件意匠が3列×17行の小楕円形穴模様が付されているのに対し、引例意匠では9列×2行の長方形穴模様が、同様の面積中に配列されていることである。これらの違いは側面において3列17行と9列2行の穴模様の違いであり、本件意匠は横配列の小楕円形の配列で、引用意匠では縦配列の矩形穴模様の配列となって、両者は需要者の意匠的な相違を把握しやすい。
(ウ-6)更に、引例意匠では長方形穴模様は上下に分けられたグレーゾーンの中に形成され、黄色ゾーンには触れられていない。本件意匠では一様な色とされるゾーンの中に多数の横向き小円形穴模様が付されている。本件意匠と引例意匠との類否判断において形態上で比較すべきといっても、2トーンカラーのグレーゾーンに付加された長方形穴模様と、色彩が1色の表面に付加された横向き穴模様とは明らかに相違し、色彩と形状に特定された地肌に縦長の穴模様に係る引例意匠と、無色彩の地肌に横向きの多数並べられた穴模様に係る本件意匠とは明らかに区別できる意匠態様と言わざるを得ない。
(ウ-7)底面図における形態の相違は意匠的な顕著な相違はないものと捉えることができる。
(エ)小括
以上のことから本件意匠と引例意匠とは、物品が同一なるも、正面図、背面図、側面図に表れる形態上の相違が明確に異なり、意匠的な美感における相違は明らかである。また、特に本件意匠のモノトーンによって表せられる形態認識と、引例意匠の2トーンカラーによって表せられる形態の認識とには、大きな意匠的な美感の相違を認識され、本件意匠は引例意匠と類似することはないと言える。請求人は、引用意匠と同一の意匠に係る出願(意願2021-007221)においても類似するという判断がなされているから(甲第2号証)、両意匠は類似すると述べているが、公知でない証拠は無駄である。
(3)理由2について
ア この理由2は、本件意匠は冒認出願であるから意匠法第48条第1項第3号により無効にすべきであるとするものである。
イ 本件意匠の権利者は、「請求人に経営に関わる職として雇用されていた」と甲第3号証を挙げているが、甲第3号証は権利者の社会保険費用納付明細書であり、これから経営に関わる職として雇用されていたとは言えない。このため、「意匠権者は、本件登録意匠と酷似する引用意匠の創作を知る機会があった、」とされるが、仮に経営に関わっていたとしても、どのような機会で知り得るのか明らかになっていない。
ウ 引例意匠の権利者・創作者が何者であっても本件意匠の創作には何ら関係なく、「本件意匠に酷似する意匠」とされる引例意匠の創作に関わる者に過ぎない。ましてや本件意匠の意匠登録を受ける権利は請求人に所属するという論理は、暴論である。
エ 意匠法第48条第1項第3号は、引例意匠を請求人が出願した時に適用される法律で、仮に引例意匠が本件意匠に酷似しているとしても、本件意匠の創作者・権利者が引例意匠の創作者・権利者となっていないのであるから、意匠法第48条第1項第3号は適用外である。意匠法第48条第1項第3号は「本件意匠と同一の意匠」を請求人が盗用して出願した場合に適用され、「本件意匠と酷似する意匠」を出願した場合には適用されず、まして「本件意匠と非類似の意匠」の出願人であるから盗用とは言えないのである。
(4)結び
以上の通り、本件意匠が引用意匠と意匠に係る物品が同一なるも形態について非類似であり、また、本件意匠は冒認出願とは言えないものであるから、請求の趣旨の通りの審決を求める次第である。
2 証拠方法
(1)乙第1号証:検索結果一覧(国内公報)の写し
第4 書面審理
審判長は、令和5年6月30日付けで、請求人及び被請求人に対し、本件無効審判についての審理は、請求人及び被請求人の申立てにより、書面審理によるものとする通知を行った。
第5 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、令和2年(2020年)12月2日に意匠登録出願(出願番号:意願2020-025989)として出願され、令和3年(2021年)8月27日に登録の設定(意匠登録第1694947号)がなされ、同年9月13日に意匠登録公報が発行されたものであり、願書及び願書添付図面の記載によれば、意匠に係る物品を「ポータブル充電器」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」という。)を、願書及び願書添付図面に表されたとおりとしたものであって、具体的には以下のとおりである(別紙第1参照)。
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、願書及び願書添付図面の記載内容によれば、持ち運び可能な「ポータブル充電器」である。
(2)本件登録意匠の形状等
当審では、形状及び模様からなる本件登録意匠の具体的な形状等について、本件登録意匠の【参考斜視図】やこの種物品に係る知識を参酌して、以下のように認定した。
ア 全体の態様を、上面部中央部分が突出した略ボックス状の本体部分(以下「本体部」という。)の上面部左右端部分から、左右の持ち手部分(以下「持ち手部」という。)を上方に突設させた構成としたものである。
イ 本体部の形状を、側面視略隅丸長方形状の略直方体の上面部左右角部付近を段差状に切り欠くことで、正面視略横長凸状の突出部分(以下「凸状部」という。)を設け、凸状部が、持ち手部よりやや低い形状としたものである。
ウ 持ち手部の形状を、角柱を湾曲させて側面視略倒Dの字状とし、垂直な支柱部分、水平なハンドル部分及び中央の側面視略隅丸長方形状の開口部からなる構成としたものである。
エ 本件登録意匠は形状及び模様のみで表されたものであり、その色彩は、特定していないものである。
【具体的構成態様】
オ 本体部の凸状部正面部分には、凸状部の上方部分に、中央部に略長方形状の枠内に照明の点灯した模様が施された略細長長方形状の部分を水平に配置し、凸状部の正面左側部分に、略中央部に正面視円形状のキャップ部を設けた接続部を配し、これを上辺中央部分に略長円形状の凸部を配した略隅丸長方形枠状の線模様若しくは形状線からなる線状部分(以下「線状部」という。)で囲み、凸状部の正面中央部分に、左から周囲に二重円を施した正面視略小円形状の接続部、略長方形状の表示部、及び表面にON/OFFスイッチを表す模様が施された略短円筒形状のスイッチ部を配し、これらを略隅丸長方形枠状の線状部で囲まれた領域内に配し、凸状部の正面右側部分に、上段に略長方形状の接続部を2つ並置し、下段に略長方形状の接続部と略長円形状の接続部を並置し、これらを上辺中央部分に略長円形状の凸部を配した略隅丸長方形枠状の線状部で囲んだ形状からなる表示部、操作部及び接続部等(以下「操作部等」という。)が配設されている。
カ 本体部の凸状部背面部分には、その中央部分に、前面右側に小円が施された略長円形状の部分が配設され、その両隣に、上下に配したコンセントが配設されている。
キ 本体部の左右側面部中央部分には、略横長長円形状のスリットを17行×3列の配置で並設した形状からなる放熱部が1対形成されている。
ク 本体部の底面部左右端部付近には、底面視略縦長長方形状の薄い板状体からなる脚部が1対配設されている。
ケ 持ち手部外側の側面部には、側面視二重円状の円孔部分が、左右の支柱部分付け根付近に1つずつ形成され、ハンドル部分に等間隔に3つ形成されている。
コ 持ち手部の開口部には、水平なハンドル部分の底面側を円弧が5つ連続するような形状に形成した窪み部が形成されている。
サ 本体部の凸状部背面部分の4つのコンセントを囲むようにして略長方形枠状の線状部が形成され、本体部の上方寄り及び下方寄りの周側面の部分、凸状部正面部分の操作部等より上方の部分、凸状部背面部分の略長方形枠状の線状部の左右側やや上方寄りの部分、持ち手部上面の水平面及び垂直面と湾曲面の境目部分、及び本体部底面部の水平面と湾曲面の境目部分には、横方向の線状部が1条ずつ形成され、凸状部正面部分の操作部等の両隣の部分、及び左右放熱部の両隣の部分には、縦方向の線状部が1条ずつ形成されている。
シ 本体部の上面部及び左右側面部、凸状部の左右側面部、並びに左右の持ち手部の左右側面部の縁部分には、大きな面取りが施されている。
2 請求人が主張する無効の理由
請求人が、審判請求書で主張する意匠登録無効事由は、以下のとおりである。
(1)無効理由1
本件登録意匠は、甲第1号証に係る意匠(以下「甲1意匠」という。)と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件登録意匠は、いわゆる冒認出願によるものであるから、意匠法第48条第1項第3号により、無効とすべきである。
3 甲1意匠
本件無効審判の無効理由1で示した甲1意匠は、審判請求書の甲第1号証により示された、中華人民共和国国家知的財産権局が、令和2年(2020年)8月21日に登録公告した中国外観設計特許公報(登録公告号:CN306003665S)に記載されたものであり、甲第1号証の記載によれば、外観設計に係る物品を「ポータブルエネルギー貯蔵電源(CT-1000WH)」とし、その形状等を、当該中国外観設計特許公報に表されたとおりとしたものであって、具体的には以下のとおりである(別紙第2参照)。
(1)甲1意匠の意匠に係る物品
甲1意匠の意匠に係る物品は、甲第1号証の記載によれば、本物品は、電気エネルギーを貯蔵し、出力することができる蓄電池として用いられ、各種の電気設備及び負荷設備を充電することができる「ポータブルエネルギー貯蔵電源(CT-1000WH)」である。
(2)甲1意匠の形状等
当審では、甲1意匠の具体的な形状等について、この種物品に係る知識を参酌して、以下のように認定した。
ア 全体の態様を、上面部中央部分が突出した略ボックス状の本体部の上面部左右端部分から、左右の持ち手部を上方に突設させた構成としたものである。
イ 本体部の形状を、側面視略隅丸長方形状の略直方体の上面部左右角部付近を段差状に切り欠くことで、正面視略横長凸状の凸状部を設け、凸状部が、持ち手部よりやや低い形状としたものである。
ウ 持ち手部の形状を、角柱を湾曲させて側面視略倒Dの字状とし、垂直な支柱部分、水平なハンドル部分及び中央の側面視略隅丸長方形状の開口部からなる構成としたものである。
エ 本体部の幅広な周側面中央部分の色彩を、濃い灰色とし、その他の部分の色彩を、黄色としたものである。
【具体的構成態様】
オ 本体部の凸状部正面部分には、凸状部の上方部分に、中央部に略長方形状の枠内に照明の点灯した模様が施された略細長長方形状の灰色の部分を水平に配置し、凸状部の正面左側部分に、略中央部に正面視円形状の黄色のキャップ部を設けた接続部を配し、これを上辺中央部分に略長円形状の黒色の凸部を配した略隅丸長方形枠状の白色の線模様若しくは形状線からなる線状部で囲み、凸状部の正面中央部分に、左から周囲に赤色と白色の二重円を施した正面視略小円形状の接続部、略長方形状の黒色の表示部、及び表面にON/OFFスイッチを表す黒色の模様が施された略短円筒形状の灰色のスイッチ部を配し、これらを略隅丸長方形状の黒色の領域内に配し、凸状部の正面右側部分に、上段に略長方形状の灰色の接続部を2つ並置し、下段に略長方形状の灰色の接続部と略長円形状の灰色の接続部を並置し、これらを上辺中央部分に略長円形状の黒色の凸部を配した略隅丸長方形枠状の白色の線状部で囲んだ形状からなる操作部等が配設されている。
カ 本体部の凸状部背面部分には、その中央部分に、略長方形状の蓋部が形成され、その右側には略長円形状の部分が1つ配設されている。
キ 本体部の濃い灰色を施した左右側面部中央部分には、略縦長長円形状のスリットを2行×9列の配置で並設した形状からなる放熱部が1対形成されている。
ク 本体部の底面部左右端部付近には、底面視略縦長長方形状の薄い板状体からなる脚部が1対配設されている。
ケ 持ち手部外側の側面部には、側面視二重円状の円孔部分が、左右支柱部分の下方付近に1つずつ形成され、ハンドル部分に間隔をあけて2つ形成されている。
コ 左右の持ち手部の左右側面部の縁部分には、大きな面取りが施されている。
4 無効理由1の検討
請求人が主張している本件無効審判請求の無効理由1は、本件登録意匠は、甲1意匠と類似する意匠であるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないというものである。
そこで、請求人及び被請求人の主張を踏まえつつ、本件登録意匠と甲1意匠(以下「両意匠」という。)が類似するか否かを判断する。
(1)両意匠の対比
ア 意匠に係る物品の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は「ポータブル充電器」であり、甲1意匠に係る物品は、「ポータブルエネルギー貯蔵電源(CT-1000WH)」であって、その表記は異なるが、いずれも持ち運び可能な充電器であるから、両意匠の意匠に係る物品は、その用途及び機能が共通するものである。
イ 形状等の対比
両意匠の形状等を対比する(以下、対比のため、甲1意匠を本件登録意匠の図面の向きに合わせることとする。)と、主に以下の共通点及び相違点が認められる。
なお、本件登録意匠は、物品の形状に係る意匠であり、画像に係る意匠ではないから、表示部に表示される画像については、対比の対象とはしない。
(ア)形状等の共通点
(共通点1)両意匠は、全体の態様を、上面部中央部分が突出した略ボックス状の本体部の上面部左右端部分から、左右の持ち手部を上方に突設させた構成とした点が共通する。
(共通点2)両意匠は、本体部の形状を、側面視略隅丸長方形状の略直方体の上面部左右角部付近を段差状に切り欠くことで、持ち手部よりやや低い正面視略横長凸状の凸状部を設けた点が共通する。
(共通点3)両意匠は、操作部等を、本体部の凸状部正面部分に配設した点が共通する。
(共通点4)両意匠は、操作部等の色彩を除く形状及び模様を、凸状部の上方部分に、中央部に略長方形状の枠内に照明の点灯した模様が施された略細長長方形状の部分を水平に配置し、凸状部の正面左側部分に、略中央部に正面視円形状のキャップを設けた接続部を配し、これを上辺中央部分に略長円形状の凸部を配した略隅丸長方形枠状の線状部で囲み、凸状部の正面中央部分に、左から周囲に二重円を施した正面視略小円形状の接続部、略長方形状の表示部、及び表面にON/OFFスイッチを表す模様が施された略短円筒形状のスイッチ部を配し、これらを略隅丸長方形枠状の領域内に配し、凸状部の正面右側部分に、上段に略長方形状の接続部を2つ並置し、下段に略長方形状の接続部と略長円形状の接続部を並置し、これらを上辺中央部分に略長円形状の凸部を配した略隅丸長方形枠状の線状部で囲んだ形状及び模様とした点が共通する。
(共通点5)両意匠は、持ち手部の形状を、角柱を湾曲させて側面視略倒Dの字状とし、垂直な支柱部分、水平なハンドル部分及び中央の側面視略隅丸長方形状の開口部からなる構成とした点が共通する。
(共通点6)両意匠は、放熱部を、本体部の左右側面部中央部分に1対形成した点が共通する。
(共通点7)両意匠は、底面視略縦長長方形状の薄い板状体からなる脚部を、本体部の底面部左右端部付近に1対配設した点が共通する。
(共通点8)両意匠は、左右の持ち手部の左右側面部の縁部分に、大きな面取りを施している点が共通する。
(イ)形状等の相違点
(相違点1)本件登録意匠は、形状及び模様のみで表されたものであり、その色彩が特定されていないものであるのに対し、甲1意匠は、形状模様及び色彩で表されたものであり、その全体の色彩は、本体部の幅広な周側面中央部分を濃い灰色とし、その他の部分を黄色としたものであり、操作部等の部分の色彩を、上方部分に配した水平な略細長長方形状の部分を灰色とし、正面部左側に配したキャップ部を黄色とし、これを囲む略隅丸長方形枠状の線状部を白色とし、その上辺中央部分に配した略長円形状の凸部を黒色とし、正面部中央に配した略隅丸長方形状の領域全体を黒色とし、その内部に配した、正面視略小円形状の接続部を囲む二重線を赤色と白色とし、表示部を黒色とし、スイッチ部を灰色とし、正面部右側に配した長方形状及び長円形状の接続部を灰色とし、これらを囲む略隅丸長方形枠状の線状部を白色とし、その上辺中央部分に配した略長円形状の凸部を黒色としたものである点で、両意匠は相違する。
(相違点2)本件登録意匠の凸状部背面部分には、その中央部分に、前面右側に小円が施された略長円形状の部分を配設し、その両隣に上下に配したコンセントを配設しているのに対し、甲1意匠の凸状部背面部分には、その中央部分に、略長方形状の蓋部を形成し、その右側に略長円形状の部分を1つ配設している点で、両意匠は相違する。
(相違点3)本件登録意匠の放熱部の形状が、略横長長円形状のスリットを17行×3列の配置で並設したものであるのに対し、甲1意匠の放熱部の形状は、略縦長長円形状のスリットを2行×9列の配置で並設したものである点で、両意匠は相違する。
(相違点4)本件登録意匠の持ち手部外側の側面部には、側面視二重円状の円孔部分を、左右支柱部分の付け根付近に1つずつ形成し、ハンドル部分に等間隔に3つ形成しているのに対し、甲1意匠の持ち手部外側の側面部には、側面視二重円状の円孔部分を、左右支柱部分の下方付近に1つずつ形成し、ハンドル部分に間隔をあけて2つ形成している点で、両意匠は相違する。
(相違点5)本件登録意匠のハンドル部分の底面側を、円弧が5つ連続するような形状に形成しているのに対し、甲1意匠のハンドル部分の底面側は、凹凸のない水平面である点で、両意匠は相違する。
(相違点6)本件登録意匠の凸状部背面部分に、4つのコンセントを囲むようにして略長方形枠状の線状部を形成し、本体部の上方寄り及び下方寄りの周側面の部分、凸状部正面部分の操作部等より上方の部分、凸状部背面部分の略長方形枠状の線状部の左右側やや上方寄りの部分、持ち手部上面の水平面及び垂直面と湾曲面の境目部分、及び本体部底面部の水平面と湾曲面の境目部分に、横方向の線状部を1条ずつ形成し、凸状部正面部分の操作部等の両隣の部分、及び左右放熱部の両隣の部分に、縦方向の線状部を1条ずつ形成しているのに対し、甲1意匠には、そのような線状部を形成していない点で、両意匠は相違する。
(相違点7)本件登録意匠の本体部の上面部及び左右側面部、凸状部の左右側面部の縁部分に、大きな面取りを施しているのに対し、甲1意匠の該部位には、そのような大きな面取りを施していない点で、両意匠は相違する。
(2)両意匠の類否判断
ア 意匠に係る物品の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は、その用途及び機能が共通するものであるから類似する。
イ 形状等の類否判断
本件登録意匠の意匠に係る物品の需要者である「ポータブル充電器」の購入者は、これを使用する際には、情報が表示される表示部、本物品を操作するための操作部、及び操作時に充電対象を接続する接続部を注視するものであり、また、これを持ち運ぶ際には、持ち手部も注視するものであるから、本件登録意匠と甲1意匠の類否判断に際しては、需要者は、操作部等及び持ち手部の具体的な形状等についても強い関心を持って観察するとの前提に基づいて、両意匠の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価することとする。
(ア)共通点の評価
(共通点1)の全体の態様及び(共通点2)の本体部の形状については、本体部の上面部左右端部分から左右の持ち手部を突設させた構成のものは、この種物品において既に見られるものであるが、本体側面部と持ち手部の外側側面部を面一になるようにし、本体上面中央部分に持ち手部よりやや低い正面視略横長凸状の凸状部を設けた、四角いロボットが両手を挙げたような形状とした点には、大きな特徴が認められるから、この(共通点1)及び(共通点2)が意匠全体の美感に与える影響は大きい。
(共通点3)の操作部等の配置態様及び(共通点4)の操作部等の色彩を除く形状及び模様については、これらは需要者が使用時に強い関心を持って観察する部分であるところ、これらが著しく共通する両意匠は、需要者に対し強い共通性を惹起させるものであるから、この(共通点3)及び(共通点4)が意匠全体の美感に与える影響は大きい。
(共通点5)の持ち手部の形状及び(共通点6)の放熱部の配置態様については、この種物品において特段特徴のある形状や配置態様とはいえないから(乙第1号証参照)、この(共通点5)及び(共通点6)が意匠全体の美感に与える影響は小さい。
(共通点7)の脚部の形状については、使用時にその全体形状を見ることができない需要者が注視しない部分である上に、その形状自体も薄い長方形状の板状体であって、特段特徴のあるものとはいえないから、この(共通点7)が意匠全体の美感に与える影響は微々たるものである。
(共通点8)の面取りについては、この種物品のみならずあらゆる物品分野において、持ち手部に面取りを施すことは、ごく普通に見られるものであるから、この(共通点8)が意匠全体の美感に与える影響は微々たるものである。
(イ)相違点の評価
(相違点1)の全体及び操作部等の部分の色彩に係る相違については、この種物品分野において本体部を複数の色で塗り分けることも、操作部等の部分を塗り分けることも既に見られるものであり(乙第1号証参照)、その施された色彩自体にも特段の特徴は認められないものである上に、本件登録意匠と甲1意匠の色彩を除くモノトーンのもの(当審作成の下記参考図参照)との比較において、両意匠にはその相違はほとんど認められないところであるから、これら色彩に係る(相違1)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
(参考図)
[図:0001406760000001.jpg]
(相違点2)の凸状部背面部分の形状の相違については、本件登録意匠には、需要者が注視する接続部が配設されているが、当該接続部は、特段特徴のないコンセントの形状からなるものを、単に四隅に配置した程度のものであり、また、それらは本体部の背面側に配設されている点も踏まえれば、この(相違点2)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度のものである。
(相違点3)の放熱部の形状の相違、及び(相違点4)の持ち手部外側の側面部の円孔に係る相違については、両意匠いずれにも放熱部や円孔部分が形成されている上での、スリットや円孔の数や配置の微細な相違にすぎないから、この(相違点3)及び(相違点4)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(相違点5)のハンドル部分の底面側形状の相違については、ハンドル部を握り易いようにこれに連続した円弧状に形成することは、この種物品分野を含め把持して使用する物品(例えば、掃除用具や電動工具等)においてごく普通に見られるものであるから、この相違は需要者に別異の美感を起こさせる顕著なものとまではいえないから、この(相違点5)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい
(相違点6)の線状部の有無の相違、(相違点7)の面取りの有無の相違は、いわれて気付く程度の微細なものであるから、この(相違点6)及び(相違点7)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(ウ)両意匠の形状等の類否判断
両意匠の形状等における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠全体として総合的に観察した場合、両意匠は、全体の態様及び本体部の形状の共通性や、需要者の注意を強く惹く操作部等の形状及び模様の共通性が、意匠全体の美感に与える影響は大きいのに対して、(相違点2)の凸状部の背面部分の形状の相違は、両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度のものであり、これに他の相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮しても、これら相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものであるから、上記共通点が意匠全体の美感に与える影響を覆すには至らず、需要者に対し、両意匠は類似するとの印象を与えるものである。
したがって、本件登録意匠と甲1意匠の形状等は類似する。
(3)小括1
上記のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が類似し、両意匠の形状等についても類似するものであるから、本件登録意匠と甲1意匠は類似するものである。
したがって、甲1意匠と類似する本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当し、同条同項柱書の規定に違反して意匠登録を受けたものである。
5 無効理由2について
請求人が主張している本件無効審判請求の無効理由2は、本件登録意匠は、その意匠登録がその意匠について意匠登録を受ける権利を有しない者(李望城氏)の意匠登録出願に対してされたものであるから、意匠法第48条第1項第3号により、無効とすべきというものである。
そこで、請求人及び被請求人の主張を踏まえつつ、上記の事実関係を調査・検討し、いわゆる冒認出願によるものであるか否かを決定する。
(1)事実関係
ア 2020年8月21日に、甲1意匠は、中華人民共和国国家知的財産権局が登録公告した中国外観設計特許公報(登録公告号:CN306003665S)によって公然知られたものになった。
イ 2020年12月2日に、李望城氏は、日本国特許庁に対し、本件登録意匠の意匠登録出願を行った。
(2)冒認の検討
請求人は、李望城氏が、甲第1号証に係る中国外観設計特許公報が公開されるより前に、甲1意匠の創作を知る機会があったなどと説明するが、李望城氏が、甲第1号証に係る公報が公開される前に甲1意匠の創作を知ったという事実を認めるに足る証拠はない。
むしろ、本件登録意匠に係る出願は、李望城氏が、2020年8月21日以降に公然知られた甲1意匠を見た上で、これに変更を加えたものを2020年12月2日に日本国特許庁に出願したと解釈することが可能であり、仮に、李望城氏が、公然知られた甲1意匠を見た上で、これに変更を加えたものを本件登録意匠に係る出願として出願したとしても、これにより、李望城氏が、本件登録意匠に係る意匠登録を受ける権利を有する者から本件登録意匠を知得して、その意匠登録を受ける権利を譲り受けることなく本件登録意匠に係る出願を行ったことにはならない。
したがって、本件登録意匠は、その意匠について意匠登録を受ける権利を有しない者が意匠登録出願をし、意匠登録を受けたものであるということはできない。
(3)小括2
上記のとおり、無効審判請求人の提出した証拠からでは、本件登録意匠に係る出願を冒認出願とすることはできず、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項第3号により無効とすることはできない。
第6 むすび
以上のとおりであって、本件登録意匠は、甲第1号証の意匠と類似する意匠であって、意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当し、同条同項柱書の規定に違反して意匠登録を受けたものと認められるから、登録第1694947号の意匠登録は、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-880014