特許無効審判
2021-800101
凹凸状シボパターン補修用マスキングシート、及び、凹凸状シボパターン補修方法
- 審判番号
- 2021-800101
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2013-137803
- 登録番号
- 6172509
- 請求日
- 2021年12月16日
- 審決日
- 2023年01月04日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】株式会社 アミークス
- 【請求人代理人】齋藤 晴男
- 【請求人代理人】齋藤 貴広
- 【被請求人】桑原 徹
- 【被請求人代理人】栗山 貴行
- 【被請求人代理人】安藤 豪
- 審判長/審判官
- 審判長 蔵野 雅昭
- 審判官 関根 裕
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 分類
- P1113.113-Z (B05B) / P1113.121-Z (B05B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法169条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6172509号発明「凹凸状シボパターン補修用マスキングシート、及び、凹凸状シボパターン補修方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6172509号の請求項1~2に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6172509号(以下、「本件特許」ともいう。)についての手続の経緯は、概略以下のとおりである。
平成25年 7月 1日 本件特許出願(特願2013-137803号)
平成29年 7月14日 特許権の設定登録
令和 3年12月16日 無効審判請求(無効2021-800101号)
令和 4年 3月22日 答弁書
同年 6月 7日付け 審理事項通知書(起案日)
同年 7月14日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 同月 同日 上申書(請求人)
同年 同月 同日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 同月28日 口頭審理
同年 8月10日付け 審決の予告
なお、審決の予告で指定した期間内に、被請求人からの応答はなかった。
第2 請求人の主張
1 請求の趣旨
本件審判請求の請求の趣旨は、「特許第6172509号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」というものである。
2 無効理由の概要
請求人の主張する無効理由の概要は下記(1)及び(2)の無効理由であって、下記の甲第1号証及び甲第2号証が提出されている(以下、甲第1号証は、「甲1」等ともいう。また、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、「本件発明1」及び「本件発明2」といい、本件発明1及び2をまとめて「本件発明」ということもある。)。
(1)無効理由1(甲1に基づく新規性)
本件発明1及び2は、本件特許の出願日前に公開された甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)無効理由2(甲1に基づく進歩性)
本件発明1及び2は、本件特許の出願日前に公開された甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、令和4年7月28日に行われた口頭審理において、審判請求書に記載された無効理由2のうち、甲1と甲2から容易という理由の部分は撤回された。(第1回口頭審理調書の「請求人」の項を参照。)
<証拠方法>
甲1:特開2010-155434号公報
甲2:特開2006-152396号公報
第3 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求はいずれも成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、上記第2(1)及び(2)に対して、次の1及び2を主張している。
1 無効理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許は、甲1に記載された発明と同一ではない。
2 無効理由2(甲1に基づく進歩性)
本件特許は、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第4 本件発明
本件発明1及び2は、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
開口部を形成したシート材からなるマスキングシートであって、
開口部は、該開口部に張られた多数の線状構造で多数の透孔に区画されており、
多数の線状構造は、多数の独立した凸部と個々の凸部の周囲に形成される凹部とを所定のパターンで備えて構成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンにおける凹部の形成パターンに対応するようにパターン形成され、
多数の透孔は、前記凹凸状シボパターンの凸部の形成パターンに対応するようにパターン形成されている、ことを特徴とする凹凸状シボパターン補修用マスキングシート。
【請求項2】
補修対象における凹凸状シボパターン地に形成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンの減殺エリアを補修する補修方法であって、
請求項1に記載のマスキングシートを介して前記減殺エリアに塗料を吹き付けて固化して前記減殺エリアに凹凸状シボパターンを形成する、ことを特徴とする凹凸状シボパターン補修方法。」
第5 当審の判断
1 無効理由1(新規性)について
(1)甲1に記載された事項
本件特許の出願日前に公開された甲1には次の事項が記載されている。
「【0002】
インストルメントパネル等の樹脂成形品の表面には美感を向上させるために、表面の一部または全面に細かな凹凸状の模様である所謂「シボ」の加工が施されたものがある。この樹脂成形品のシボは、金型のキャビティを形成する面の一部または全面に細かな凹凸状のシボを形成しておき、この金型を用いて射出成形することにより、金型の凹凸状のシボ模様が樹脂成形品の表面に転写されて形成される。
このように形成されたインストルメントパネルなどの樹脂成形品に対し、部品組み付けラインにおいて速度計などの計器類、エアダクト、ハーネス類の組み付けが行われる。そして、計器類などが組み付けられたインストルメントパネルは、車体組立ラインにおいて車体に組み付けられ、完成車として出荷されユーザーの手に渡る。
・・・
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る樹脂成形品の補修方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、表面(例えば、後述する実施例における表面2)に凹凸模様が形成された樹脂成形品(例えば、後述する実施例におけるインストルメントパネル1)の前記表面の傷(例えば、後述する実施例における傷5)を補修する方法であって、
(イ)傷およびその周縁の凸部(例えば、後述する実施例における凸部4)の表面(例えば、後述する実施例における表面4a)を研磨してなだらかな補修凹部(例えば、後述する実施例における補修凹部6)を形成する工程と、
(ロ)前記補修凹部に接着剤(例えば、後述する実施例における接着剤7)を充填し、該接着剤の表面(例えば、後述する実施例における表面7a)を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させる工程と、
(ハ)前記硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ面一に研磨する工程と、
(ニ)ほぼ面一に研磨された部分に、前記凹凸模様の凸部に対応する部分に開口(例えば、後述する実施例における開口11)を設けたことにより前記凹凸模様と同様の模様が形成された転写プレート(例えば、後述する実施例における転写プレート10)を載置する工程と、
(ホ)前記転写プレートの上方から前記開口を介して前記ほぼ面一に研磨された部分に前記樹脂成形品と同色の塗料(例えば、後述する実施例における塗料9)を塗布する工程と、
(ヘ)前記転写プレートを樹脂成形品から取り外し、前記塗料によって形成された新たな凸部(例えば、後述する実施例における凸部4’)の表面(例えば、後述する実施例における表面4a’)をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の補修方法である。
このように構成することにより、転写プレートの上方から塗布された塗料によって新たな凸部を形成することができ、塗料が塗布されない部位によって新たな凹部を形成することができるので、傷のあった部位の上に新たな凹凸模様を形成することができる。
・・・
【0015】
接着剤7が硬化した後、接着剤の表面7aおよびその周縁をサンドペーパーにより研磨し平滑にして、図6に示すように無傷の部位の凸部4の表面4aとほぼ面一する(硬化後研磨工程)。
次に、図7に示すように、転写プレート10を、研磨された接着剤7の表面7aおよび無傷の部位の凸部4の上に載置する(転写プレート載置工程)。転写プレート10は厚さ0.1mm程度の銅板からなり、図10に示すように、インストルメントパネル1の表面2に成形された凹凸模様の凸部4と同じ形状の開口11が設けられている。
【0016】
次に、転写プレート10の上から開口11を介して、前記研磨により平滑にした部分およびその周囲の無傷の部分のインストルメントパネル1の表面2に、インストルメントパネル1と同色の塗料9をスプレーガン20により50μ~100μ程度の膜厚となるように、接着剤7の表面7aの中心から半径15mm程度の範囲に塗布する。ここで、塗料9の塗布範囲の半径は補修凹部6の直径の倍以上とするのが好ましい。
なお、本発明の補修方法が適用できる傷の大きさは、巾が3mm以下、長さが40mm以下、深さが200μ以下である。
【0017】
次に、転写プレート10を取り去り、塗料9を乾燥することにより、図8に示すように、接着剤7の表面7aおよびその周囲の無傷の部位の凸部4の上に新たな凹部3’および凸部4’が形成される。
【0018】
次に、新たに形成された凸部4’の表面4a’を目の細かいサンドペーパーで研磨して、図9に示すように周囲の無傷の部位の凸部4との段差を低減して目立たないようにし、さらにその後、研磨した箇所にぼかし剤を塗布して周囲の無傷の部位の凹凸模様との調和を図り、馴染ませる。なお、ぼかし液としては、例えば硬化剤2%、前記塗料8%、シンナー10%~45%、リターダ45~80%の配合比のものを用いる。リターダを塗料に混入させることにより塗膜の乾燥を遅延させる。
これにより、インストルメントパネル1の表面2の傷5の補修は完了する。
・・・
【0020】
次に、転写プレート10の製造方法を図11に従って説明する。
転写プレート10は薄膜フォトエッチングの手法により製作される。まず、図11(a)に示すように、転写プレートの素材となる0.1mm程度の厚みの約10cm四方の方形の銅板12の表面12aを酸で溶かして平滑にし、表面の面粗皮を上げる。
次に、図11(b)に示すように銅板12の表面12aに感光性の樹脂を塗布して乾燥させ、フォトレジスト13を形成する。
次に、図11(c)に示すように、銅板12の裏面12bに耐酸化剤の溶液を塗布して乾燥させ、耐酸化剤皮膜14を形成する。
【0021】
次に、図11(d)に示すように、フォトレジスト13の上に原版であるフィルム(フォトマスク)15を貼り付ける。このフィルム15には、インストルメントパネル1の射出成形に用いられる金型の内面の凹凸模様を成形する際に用いられたCADデータを使用して、前記CADデータにより前記凹凸模様をフィルム15に正確に描画しておく。例えばインストルメントパネル1における凹凸模様の凸部4に対応する部分を光の透過面とし、凹部3に対応する部分を非透過面とするように描画する。
【0022】
次に、フィルム15の上方から紫外線光を照射し露光する。これにより、図11(e)に示すように、銅板12上に塗布されたフォトレジスト13のうち、フィルム15の透過面に対応した部分は溶け出し、非透過面に対応した部分のみが銅板12上に残留する。
次に、図11(f)に示すように、フィルム15を剥がし、銅板12を酸性溶液に浸漬することにより、フォトレジスト13が溶け出した部分に対応する銅板12の部分が腐食されて開口11が形成される。
次に、銅板12をアルカリ溶液に浸漬して中和し、残留するフォトレジスト13と耐酸化剤皮膜14を除去することにより、図11(g)に示すように転写プレート10が完成する。
・・・
【図10】
[図:0001404006000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
ア 甲1の【0002】には、「インストルメントパネル等の樹脂成形品の表面には美感を向上させるために、表面の一部または全面に細かな凹凸状の模様である所謂シボの加工が施されたものがある」ことが記載されている。
イ 甲1の【0015】には、「転写プレート10は厚さ0.1mm程度の銅板からなり、図10に示すように、インストルメントパネル1の表面2に成形された凹凸模様の凸部4と同じ形状の開口11が設けられている」ことが記載されている。
ウ 甲1の【図10】には、「転写プレート10」において、多数の「開口11」が、隣接する「開口11」の間の領域(以下、「開口間部分」という。)によって区画されることにより、全体として、「開口11」及び「開口間部分」からなる領域(以下、「開口部分」という。)を構成すること、すなわち、「開口部分」が多数の「開口間部分」で多数の「開口」に区画されていること、が示されている。
エ 上記アより、上記イの「凹凸模様」は、「インストルメントパネル等の樹脂成形品の表面」の「美感を向上させるために、表面の一部または全面に細かな凹凸状の模様である所謂シボの加工」であることがわかるから、上記イの「凹凸模様」は、「所謂シボの加工」の「凹凸模様」といえる。
オ 上記イの「インストルメントパネル1の表面2に成形された凹凸模様の凸部4と同じ形状の開口11」との記載から見て、多数の「開口11」は、「所謂シボの加工」の「凹凸模様」の「凸部と同じ形状」に形成されているものである。
カ 上記オを裏返して考えれば、多数の「開口間部分」は、「所謂シボの加工」の「凹凸模様」の凹部と同じ形状に形成されているものといえる。
キ 以上のことから、甲1に記載の「転写プレート10」に着目すると、甲1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1>
「厚さ0.1mm程度の銅板からなり、開口が設けられている転写プレートであって、
転写プレートの開口部分は、多数の開口間部分で多数の開口に区画されており、
多数の開口間部分は、所謂シボの加工の凹凸模様の凹部と同じ形状に形成され、
多数の開口は、所謂シボの加工の凹凸模様の凸部と同じ形状に形成された転写プレート。」
ク また、甲1の【0008】には、「表面」「に凹凸模様が形成された樹脂成形品」「の前記表面の傷」「を補修する方法であって、
(イ)傷およびその周縁の凸部」「の表面」「を研磨してなだらかな補修凹部」「を形成する工程と、
(ロ)前記補修凹部に接着剤」「を充填し、該接着剤の表面」「を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させる工程と、
(ハ)前記硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における前記凹凸模様の凸部の表面とほぼ面一に研磨する工程と、
(ニ)ほぼ面一に研磨された部分に、前記凹凸模様の凸部に対応する部分に開口」「を設けたことにより前記凹凸模様と同様の模様が形成された転写プレート」「を載置する工程と、
(ホ)前記転写プレートの上方から前記開口を介して前記ほぼ面一に研磨された部分に前記樹脂成形品と同色の塗料」「を塗布する工程と、
(ヘ)前記転写プレートを樹脂成形品から取り外し、前記塗料によって形成された新たな凸部」「の表面」「をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨する工程と、を備える」「樹脂成形品の補修方法」が記載されており、この補修方法は、「傷のあった部位の上に新たな凹凸模様を形成する」ものである。
ケ さらに、上記エと同様に、上記アより、上記クの「凹凸模様」は、「所謂シボの加工」の「凹凸模様」といえる。
コ そして、上記クの補修方法において用いられる転写プレートは、引用発明1の転写プレートであるといえるから、上記クの補修方法に着目すると、甲1には次の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されていると認められる。
<引用発明2>
「引用発明1の転写プレートを用いて、表面に所謂シボの加工の凹凸模様が形成された樹脂成形品の表面の傷を補修する方法であって、
傷およびその周縁の凸部の表面を研磨してなだらかな補修凹部を形成し、
補修凹部に接着剤を充填し、該接着剤の表面を無傷の部位における凹凸模様の凸部の表面とほぼ同じ高さとし、該接着剤を硬化させ、
硬化した接着剤およびその周縁を無傷の部位における凹凸模様の凸部の表面とほぼ面一に研磨し、
ほぼ面一に研磨された部分に、引用発明1の転写プレートを載置し、
引用発明1の転写プレートの上方から引用発明1の転写プレートの開口を介してほぼ面一に研磨された部分に樹脂成形品と同色の塗料を塗布し、
引用発明1の転写プレートを樹脂成形品から取り外し、塗料によって形成された新たな凸部の表面をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨することにより、傷のあった部位の上に新たな凹凸模様を形成する補修方法。」
(3)本件発明1について
本件発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「厚さ0.1mm程度の銅板」はシート材であり、「転写プレート」は上記(1)の【0015】~【0017】のとおり、補修対象に載置した上から塗料を塗布して凹凸模様を形成した後に取り去られるものであって、いわゆるマスキングとして用いられるものである。そうすると、引用発明1の「厚さ0.1mm程度の銅板からなる転写プレート」は、本件発明1の「シート材からなるマスキングシート」に相当する。
引用発明1の「開口間部分」は、本件発明1の「線状構造」と、開口と開口の間を区画する部材(以下、「区画部材」という。)である点で共通する。
引用発明1の「開口」は、「所謂シボの加工の凹凸模様の凸部と同じ形状」であることから、「凹凸状シボパターンにおける凸部の形成パターンに対応する」ものである本件発明1の「透孔」に相当する。
また、引用発明の「開口部分」は、「多数の開口」及び「多数の開口間部分」からなり、全体として「所謂シボの加工の凹凸模様」に対応するものであるから、本件発明1の「開口部」に相当する。そして、引用発明の「開口が設けられている転写プレート」は、実質的に「開口部分」が設けられていることと同義だから、引用発明の「開口が設けられている転写プレート」は、本件発明1の「開口部を形成したシート材からなるマスキングシート」に相当する。
引用発明1の「所謂シボの加工の凹凸模様の凹部」は本件発明1の「シボのパターンである凹凸状シボパターンにおける凹部」に相当するから、引用発明1の「多数の開口間部分は、所謂シボの加工の凹凸模様の凹部と同じ形状に形成され」は、本件発明1の「多数の線状構造は、多数の独立した凸部と個々の凸部の周囲に形成される凹部とを所定のパターンで備えて構成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンにおける凹部の形成パターンに対応するようにパターン形成され」と「多数の区画部材は、多数の独立した凸部と個々の凸部の周囲に形成される凹部とを所定のパターンで備えて構成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンにおける凹部の形成パターンに対応するようにパターン形成され」である点で共通する。
同様に、引用発明1の「所謂シボの加工の凹凸模様の凸部」は本件発明1の「凹凸状シボパターンの凸部」に相当するから、引用発明1の「多数の開口は、所謂シボの加工の凹凸模様の凸部と同じ形状に形成された」は、本件発明1の「多数の透孔は、前記凹凸状シボパターンの凸部の形成パターンに対応するようにパターン形成されている」に相当する。
引用発明1の「転写プレート」は、上記(1)の【0008】のとおり、樹脂成形品の表面の傷を補修するために用いられるものであって、補修対象は、上記したとおり、所謂シボの加工の凹凸模様であるから、本件発明1の「凹凸状シボパターン補修用マスキングシート」に相当する。
してみると、引用発明1と本件発明1の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。
<一致点>
「開口部を形成したシート材からなるマスキングシートであって、
開口部は、多数の区画部材で多数の透孔に区画されており、
多数の区画部材は、多数の独立した凸部と個々の凸部の周囲に形成される凹部とを所定のパターンで備えて構成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンにおける凹部の形成パターンに対応するようにパターン形成され、
多数の透孔は、前記凹凸状シボパターンの凸部の形成パターンに対応するようにパターン形成されている、凹凸状シボパターン補修用マスキングシート。」
<一応の相違点>
区画部材が、本件発明1は「開口部に張られた」「線状構造」であるのに対し、引用発明1は「開口間部分」である点。
上記一応の相違点について検討する。引用発明1の「開口間部分」は、「所謂シボの加工の凹凸模様の凹部と同じ形状に形成され」たものであって、シボ加工の凹凸模様の凹部の形状に対応して様々な幅や形状となり得るものである。そして、その製作方法について、甲1には、上記(1)の【0020】に「転写プレート10は薄膜フォトエッチングの手法により製作される」と記載され、同【0021】に「インストルメントパネル1の射出成形に用いられる金型の内面の凹凸模様を成形する際に用いられたCADデータを使用して、前記CADデータにより前記凹凸模様をフィルム15に正確に描画しておく。例えばインストルメントパネル1における凹凸模様の凸部4に対応する部分を光の透過面とし、凹部3に対応する部分を非透過面とするように描画する。」と記載されることからわかるように、引用発明1の「開口間部分」は、所謂シボの加工の凹凸模様の凹部に正確に対応するように製作されるものであって、微細な線状の構造から、太いパターンまで、さまざまな形状に対応可能なものである。
してみると、引用発明1の「開口間部分」は、シボ加工の凹凸模様の凹部の形状に対応して、開口部分に設けられた多数の線状の形状を含むものであるから、引用発明1の「開口間部分」は、本件発明1の「開口部に張られた」「線状構造」と実質的に相違するものでない。
以上によれば、引用発明1と本件発明1とは、相違するところがない。
また、仮に、本件発明1の「線状構造」の幅や形状が、引用発明1の「開口間部分」の幅や形状と異なるとしても、引用発明1の「開口間部分」が「所謂シボの加工の凹凸模様の凹部と同じ形状に形成され」るものであることを考慮すれば、シボ加工の凹凸模様の凹部の形状に対応して、「開口部分」に張られた多数の線状の構造とすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、引用発明1の「転写プレート」は、型押しで凹凸模様を形成するものではなく、本件発明1と同様に「補修用マスキングシート」として用いられるものであるから、本件発明の「減殺エリアの外端縁でも凹凸状シボパターンを良好に形成して補修箇所をより目立たせないようにすることを可能とする凹凸状シボパターン補修用マスキングシート・・・を提供することができるようになる。」との効果は、引用発明1の構成から当業者が予測し得る事項である。
この点について、被請求人は令和4年3月22日付けの答弁書第4頁27行~第5頁8行において「すなわち、本件特許発明1のマスキングシートは、シボパターンの凹部を忠実に再現するため、シボ模様の凹部に該当する部分について、線を張り巡らせることによってシボパターンの凸部を再現する開口部を形成する方法により製作されたものであり、多数の線状構造で多数の透孔に区画することにより、細い凹部から太い凹部まできめ細かなパターンを作成することができ、凹凸状シボパターン地に形成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンの減殺エリアの補修においてより目立たせないようにすることが可能となるのである。
これに対し、引用転写プレートは、「開口部に、残留部を残す」とあるとおり、シートに穴をあけることによって開口部が形成されており、多数の開口の間の構造が様々に変化するバラバラな間隔のパターンとなっており、線状構造についての言及はなく、またその示唆も存在しない。
以上のとおり、本件特許発明1のマスキングシートは、開口部の多数の透孔に区画する構造として線状構造を用いているが、引用転写プレートには、このような構造は示されていない点で全く異なる。」と主張する。
しかしながら、引用発明には「開口間部分」が「線状」であるとの直接的な記載や示唆はないものの、上記したとおり、引用発明1の「開口間部分」が「所謂シボの加工の凹凸模様の凹部と同じ形状に形成され」るものであって、シボ加工の凹凸模様の凹部について、線状のものが存在し得ることを考慮すれば、上記主張は採用できない。
さらに、令和4年7月14日付けの口頭審理陳述要領書(被請求人)の2頁2~7行において、「本件特許発明1のマスキングシートは、多数の線状構造で多数の透孔に区画するものでありますが、線の幅や長さについては特段の限定をしておりません。したがって、線状の幅を均一にせず幅の異なる線を多数組み合わせ、また、1本1本の線の長さも均一にせず長さの異なる線を多数組み合わせることにより、甲1号証の図10のようなシボパターンに近似したものを作ることが可能となります。」と被請求人(特許権者)が述べているように、本件発明1が特定する「線状」とされる構造に格別の意義は認められず、線の幅を異ならせたり組み合わせたりすれば、引用発明1の開口間部分となるとしていることから、引用発明1の「開口間部分」は、シボパターンの凹部を形成できれば良いものであるといえ、本件発明1の「線状構造」に相当するし、「線状」とされる構造に格別の意義がない以上、「線状」という用語に応じた「開口部に張られた」という特定についても、開口部の間に存在することを意味するだけで、格別の意義は認められない。
したがって、本件発明1は、引用発明1であるか、そうでなかったともしても、引用発明1から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(4)本件発明2について
引用発明2の「樹脂成形品の表面」、「所謂シボの加工の凹凸模様」及び「表面の傷」は、本件発明1の「補修対象」、「凹凸状シボパターン地に形成されたシボのパターンである凹凸状シボパターン」及び「減殺エリア」に相当するから、引用発明2の「表面に所謂シボの加工の凹凸模様が形成された樹脂成形品の表面の傷を補修する方法」は、本件発明2の「補修対象における凹凸状シボパターン地に形成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンの減殺エリアを補修する補修方法」に相当する。
引用発明2の「引用発明1の転写シート」は、本件発明2の「請求項1に記載のマスキングシート」に相当する。
引用発明2の「転写プレートの上方から開口を介してほぼ面一に研磨された部分に樹脂成形品と同色の塗料を塗布し」は、本件発明2の「マスキングシートを介して前記減殺エリアに塗料を吹き付けて」に相当する。
引用発明2の「塗料によって形成された新たな凸部の表面をその周囲の凹凸模様と馴染むように研磨することにより、傷のあった部位の上に新たな凹凸模様を形成する」は、「塗料によって形成された新たな凸部」が固化して研磨可能な状態になっていることが明らかであるから、本件発明2の「固化して前記減殺エリアに凹凸状シボパターンを形成する」に相当する。
引用発明2の「補修方法」は、「表面に所謂シボの加工の凹凸模様が形成された樹脂成形品の表面の傷を補修する方法」であるから、本件発明2の「凹凸状シボパターン補修方法」に相当する。
してみると、引用発明2と本件発明2とは、
「補修対象における凹凸状シボパターン地に形成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンの減殺エリアを補修する補修方法であって、
請求項1に記載のマスキングシートを介して前記減殺エリアに塗料を吹き付けて固化して前記減殺エリアに凹凸状シボパターンを形成する、ことを特徴とする凹凸状シボパターン補修方法。」
である点で一致するが、この補修方法に用いる「請求項1に記載のマスキングシート」が、上記(3)の<一応の相違点>の点で一応相違することになる。
しかしながら、上記(3)の<一応の相違点>は、上記(3)のとおり、引用発明1であるか、そうでなかったとしても引用発明1から当業者が容易に発明をすることができたものであることを考慮すれば、本件発明2は、引用発明2であるか、そうでなかったとしても引用発明2から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
第6 むすび
以上のとおり、無効理由1及び無効理由2は理由があるから、本件発明1及び本件発明2についての特許は、いずれも無効とすべきものである。
本件審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-800101