特許無効審判
2021-800053
ページング方法および装置
- 審判番号
- 2021-800053
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願1996-503238
- 登録番号
- 3287413
- 請求日
- 2021年07月02日
- 審決日
- 2024年06月04日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 NTTドコモ
- 【請求人代理人】大野 聖二
- 【請求人代理人】小林 英了
- 【請求人代理人】井深 大
- 【請求人代理人】野本 裕史
- 【被請求人】ジーピーエヌイー コーポレイション
- 【被請求人代理人】長谷部 真久
- 【被請求人代理人】橋本 卓行
- 【被請求人代理人】飯田 貴敏
- 【被請求人代理人】田中 宏樹
- 【被請求人代理人】宮原 正志
- 【被請求人代理人】山本 健策
- 【被請求人代理人】上米良 大輔
- 【被請求人代理人】福永 聡
- 【被請求人代理人】本田 輝人
- 審判長/審判官
- 審判長 廣川 浩
- 審判官 本郷 彰
- 審判官 中木 努
- 分類
- P1123.113-YB (H04B) / P1123.841-YB (H04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第134条の2第9項、特許法第131条の2第2項第1号、特許法第134条の2第6項、特許法第134条の2第3項、特許法第184条の5第1項、特許法第131条の2、特許法第29条第2項、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3287413号発明「ページング方法および装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)特許3287413号の請求項2に係る発明について特許を無効とする。
(2)審判費用は被請求人の負担とする。
2 答弁の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)訂正を認める。
(2)本件無効審判の請求は成り立たない。
(3)審判費用は請求人の負担とする。
第2 手続の経緯
本件特許無効審判の請求に係る特許第3287413号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願平8-503238号)は、1995年(平成7年)6月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 1994年6月24日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成14年3月15日にその発明について特許権の設定登録がなされたものであり、平成27年6月15日に存続期間が満了し、平成27年8月26日に閉鎖特許原簿に移されたものである。
そして、本件特許無効審判に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
令和3年 7月 2日 審判請求書及び証拠説明書の提出
令和3年12月29日 審判事件答弁書、証拠説明書及び訂正請求書 の提出
令和4年 2月10日 手続補正書の提出[被請求人]
令和4年 3月24日 審判事件弁駁書及び証拠説明書(2)の提出
令和4年 3月29日 上申書の提出[請求人]
令和4年 4月28日 上申書の提出[請求人]
令和4年 5月18日付け 補正許否の決定
令和4年 8月12日 審判事件答弁書、証拠説明書及び
訂正請求書の提出
令和4年 9月27日付け 訂正拒絶理由通知
令和4年11月21日 意見書の提出[被請求人]
令和5年 3月 1日付け 審理事項通知
令和5年 4月27日 口頭審理陳述要領書及び証拠説明書(3)の 提出[請求人]
令和5年 4月27日 口頭審理陳述要領書及び上申書の提出
[被請求人]
令和5年 6月29日付け 審理事項通知
令和5年 8月23日 口頭審理陳述要領書の提出[被請求人]
令和5年 9月20日 口頭審理
令和5年10月 4日 上申書の提出[被請求人]
令和6年 1月24日付け 審決の予告
なお、令和6年 1月24日付けで審決の予告をしたが、被請求人及び請求人からは応答がなかった。
第3 訂正請求について
1 本件訂正について
令和3年12月29日に提出された訂正請求書により訂正(以下、「第1訂正」という。)の請求がされた後、令和4年8月12日に提出された訂正請求書により新たな訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がなされたため、先の第1訂正の請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。
そこで、以下、本件訂正について、検討する。
2 訂正請求の趣旨
特許第3287413号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2~5について訂正することを求める。
3 訂正の内容
(1)本件訂正前後の特許請求の範囲の記載
ア 本件訂正前の特許請求の範囲
「【請求項1】中央制御局と、ページングユニットとを含むページングシステムを動作させる方法であって、該方法は、第1の周波数で、クロック合わせ信号を該中央制御局から該ページングユニットに送信することと、第2の周波数で、ページャコマンドおよび英数字データを該中央制御局から該ページングユニットに送信することと、第3の周波数で、該ページャコマンドに応答して、英数字データを該ページングユニットから該中央制御局に送信することと、第4の周波数で、ページャ送信リクエスト信号を該ページングユニットから該中央制御局に送信することとを含んでおり、該ページャ送信リクエスト信号は該ページングユニットに割り当てられた所定のタイムスロットで送信され、該所定のタイムスロットは該クロック合わせ信号に関連して割り当てられており、それによって該第4の周波数が複数の他のページングユニットによって利用可能とされ、該第1の周波数、該第2の周波数、該第3の周波数および該第4の周波数が互いに異なる、方法。【請求項2】双方向ページングシステムを動作させる方法であって、リクエストエネーブル信号を中央局からページャに送信することと、該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信することと、該ページャからの該リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信することと、該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを該ページャから該中央局に送信することとを含む方法。【請求項3】前記リクエストエネーブル信号は、所定の周波数で搬送されるタイムスロット化信号であり、該タイムスロット化信号のタイムスロットは前記ページャに関連づけられている、請求項2に記載の方法。【請求項4】前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージとは、それぞれ異なる周波数で送信される、請求項2に記載の方法。【請求項5】前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージと前記リクエストエネーブル信号とは、それぞれ異なる周波数で送信される、請求項4に記載の方法。【請求項6】中央制御局と、ページングユニットとを含むページングシステムを動作させる方法であって、該方法は、第1のチャネルで、クロック合わせ信号を該中央制御局から該ページングユニットに送信することと、第2のチャネルで、ページャコマンドおよび英数字データを該中央制御局から該ページングユニットに送信することと、第3のチャネルで、該ページャコマンドに応答して、英数字データを該ページングユニットから該中央制御局に送信することと、第4のチャネルで、ページャ送信リクエスト信号を該ページングユニットから該中央制御局に送信することとを含んでおり、該ページャ送信リクエスト信号は該ページングユニットに割り当てられた所定のタイムスロットで送信され、該所定のタイムスロットは該クロック合わせ信号に関連して割り当てられており、それによって該第4のチャネルが複数の他のページングユニットによって利用可能とされ、該第1のチャネル、該第2のチャネル、該第3のチャネルおよび該第4のチャネルが互いに異なる、方法。」
イ 本件訂正後の特許請求の範囲(下線部は訂正箇所を示す。)
「【請求項1】中央制御局と、ページングユニットとを含むページングシステムを動作させる方法であって、該方法は、
第1の周波数で、クロック合わせ信号を該中央制御局から該ページングユニットに送信することと、
第2の周波数で、ページャコマンドおよび英数字データを該中央制御局から該ページングユニットに送信することと、
第3の周波数で、該ページャコマンドに応答して、英数字データを該ページングユニットから該中央制御局に送信することと、
第4の周波数で、ページャ送信リクエスト信号を該ページングユニットから該中央制御局に送信することと
を含んでおり、
該ページャ送信リクエスト信号は該ページングユニットに割り当てられた所定のタイムスロットで送信され、該所定のタイムスロットは該クロック合わせ信号に関連して割り当てられており、それによって該第4の周波数が複数の他のページングユニットによって利用可能とされ、
該第1の周波数、該第2の周波数、該第3の周波数および該第4の周波数が互いに異なる、方法。
【請求項2】メッセージを通信パケットで送受信する双方向ページングシステムを動作させる方法であって、
リクエスト信号を送信するためのスロットをページャに指定するリクエストエネーブル信号を中央局から該ページャに送信することと、
該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信することと、
該ページャからの該リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信することと、
該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを通信パケットで該ページャから該中央局に送信することとを含む方法。
【請求項3】メッセージを通信パケットで送受信する双方向ページングシステムを動作させる方法であって、
リクエスト信号を送信するためのスロットをページャに指定するリクエストエネーブル信号を中央局から該ページャに送信することと、
該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページ主から該中央局に送信することと、
該ページャからの咳リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信することと、
該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを通信パケットで該ページャから該中央局に送信することとを含み、前記リクエストエネーブル信号は、所定の周波数で搬送されるタイムスロット化信号であり、該タイムスロット化信号のタイムスロットは前記ページャに関連づけられている、方法。
【請求項4】メッセージを通信パケットで送受信する双方向ページングシステムを動作させる方法であって、
リクエスト信号を送信するためのスロットをページャに指定するリクエストエネーブル信号を中央局から該ページャに送信することと、
該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信することと、
該ページャからの該リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信することと、
該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを通信パケットで該ページャから該中央局に送信することとを含み、前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージとは、それぞれ異なる周波数で送信される、方法。
【請求項5】メッセージを通信パケットで送受信する双方向ページングシステムを動作させる方法であって、
リクエスト信号を送信するためのスロットをページャに指定するリクエストエネーブル信号を中央局から該ページャに送信することと、
該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信することと、
該ページャからの該リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信することと、
該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを通信パケットで該ページャから該中央局に送信することとを含み、前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージとは、それぞれ異なる周波数で送信され、前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージと前記リクエストエネーブル信号とは、それぞれ異なる周波数で送信される、方法。
【請求項6】中央制御局と、ページングユニットとを含むページングシステムを動作させる方法であって、該方法は、 第1のチャネルで、クロック合わせ信号を該中央制御局から該ページングユニットに送信することと、 第2のチャネルで、ページャコマンドおよび英数字データを該中央制御局から該ページングユニットに送信することと、 第3のチャネルで、該ページャコマンドに応答して、英数字データを該ページングユニットから該中央制御局に送信することと、 第4のチャネルで、ページャ送信リクエスト信号を該ページングユニットから該中央制御局に送信することと を含んでおり、 該ページャ送信リクエスト信号は該ページングユニットに割り当てられた所定のタイムスロットで送信され、該所定のタイムスロットは該クロック合わせ信号に関連して割り当てられており、それによって該第4のチャネルが複数の他のページングユニットによって利用可能とされ、 該第1のチャネル、該第2のチャネル、該第3のチャネルおよび該第4のチャネルが互いに異なる、方法。」
(2)訂正事項
訂正事項は以下のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2において、「双方向ページングシステムを動作させる方法」と記載されているのを「メッセージ通信パケットで送受信する双方向ページングシステムを動作させる方法」に訂正し、「リクエストエネーブル信号を中央局からページャに送信すること」と記載されているのを「リクエスト信号を送信するためのスロットをページャに指定するリクエストエネーブル信号を中央局から該ページャに送信すること」に訂正し、「該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」と記載されているのを「該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」に訂正し、「該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを該ページャから該中央局に送信すること」と記載されているのを「該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを通信パケットで該ページャから該中央局に送信すること」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3において、「前記リクエストエネーブル信号は、所定の周波数で搬送されるタイムスロット化信号であり、該タイムスロット化信号のタイムスロットは前記ページャに関連づけられている、請求項2に記載の方法。」と記載されているのを、
「メッセージを通信パケットで送受信する双方向ページングシステムを動作させる方法であって、
リクエスト信号を送信するためのスロットをページャに指定するリクエストエネーブル信号を中央局から該ページャに送信することと、
該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信することと、
該ページャからの該リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信することと、
該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを通信パケットで該ページャから該中央局に送信することとを含み、前記リクエストエネーブル信号は、所定の周波数で搬送されるタイムスロット化信号であり、該タイムスロット化信号のタイムスロットは前記ページャに関連づけられている、方法。」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4において、「前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージとは、それぞれ異なる周波数で送信される、請求項2に記載の方法。」と記載されているのを、
「メッセージを通信パケットで送受信する双方向ページングシステムを動作させる方法であって、
リクエスト信号を送信するためのスロットをページャに指定するリクエストエネーブル信号を中央局から該ページャに送信することと、
該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信することと、
該ページャからの該リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信することと、
該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを通信パケットで該ページャから該中央局に送信することとを含み、前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージとは、それぞれ異なる周波数で送信される、方法。」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5において、「前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージと前記リクエストエネーブル信号とは、それぞれ異なる周波数で送信される、請求項4に記載の方法。」と記載されているのを、
「メッセージを通信パケットで送受信する双方向ページングシステムを動作させる方法であって、
リクエスト信号を送信するためのスロットをページャに指定するリクエストエネーブル信号を中央局から該ページャに送信することと、
該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信することと、
該ページャからの該リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信することと、
該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを通信パケットで該ページャから該中央局に送信することとを含み、前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージとは、それぞれ異なる周波数で送信され、前記リクエスト信号と前記許可信号と前記ページングメッセージと前記リクエストエネーブル信号とは、それぞれ異なる周波数で送信される、方法。」に訂正する。
4 訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし5において、請求項3ないし5は、訂正事項1によって訂正される請求項2を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2ないし5は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正事項1について
訂正要件を検討するに当たり、事案を鑑みて、まず、訂正事項1が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて検討する。以下、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「明細書等」、願書に添付した明細書を「明細書」、願書に添付した図面を「図面」といい、その記載を、特許公報の記載箇所で示す。
訂正事項1のうち、訂正前の請求項2の「該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」と記載されているのを「該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」に訂正することは、「リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」について「複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで」との限定を付加するものであるところ、該限定は、複数のフレームのそれぞれに存在する「一つのスロットに複数のタイムが対応するもの」を特定しようとしているのか、複数のフレームのそれぞれのフレームに存在する「一つのスロットに1つのタイムが対応するもの」を特定しようとしているのか不明であるため、複数のフレームのそれぞれに存在する「一つのスロットに複数のタイムが対応するもの」を含むものとなっている。
一方、特許公報の11欄24行ないし30行には、「ページャユニット22は常に周波数f1によるローカルクロック合わせ信号を受信しており、それによりマイクロプロセッサ80が、特定の送信側ページャユニット22に割り当てられた特定のタイムスロットに対応するタイムで周波数f4によりリクエスト信号を送信することが可能になるということに留意されたい。/(改行を示す。以下、同様。) 上記に関して、時分割技術に応じて、各ページャユニット221~22Nが(例えば、図13のページャP1~Pn)には周波数f4のN個のタイムスロットから選択された1つが指定される。」と記載されている。このことから、リクエスト信号は周波数f4により送信されること、各ページャに割り当てられた特定のタイムスロットが一つのタイムスロットであり、当該一つのタイムスロットに対応するタイムもまた1つであることが理解される。そして、図13から、1つのフレーム内にn個のタイムスロットが存在することが読み取れる。これらのことから、1つのフレームに存在する「一つのスロットに1つのタイムが対応するもの」が記載されていると理解できる。
また、特許公報の8欄19行ないし23行には、「例えば図13に示すように、周波数f4における1番目のタイムスロットはページャP1に指定され、2番目のタイムスロットはページャP2に指定され、同様にn番目のタイムスロットはページャPnに指定される。」と記載され、図13に「リサイクル」と記載されていることから、図13に記載された1つのフレームにおいて、n個のページャに、n個のタイムスロットの1つがそれぞれ指定されるものであり、図13に記載されたフレーム以外のフレームにおいても、1番目のタイムスロットはページャP1に指定され、2番目のタイムスロットはページャP2に指定され、同様にn番目のタイムスロットはページャPnに指定されることは自明である。このことから、ページャP1に着目してみると、ページャP1には、1つのフレームに存在する1つのスロット(1番目のタイムスロット)が指定され、他のフレームについても同様に指定されることが理解される。
以上のことから、訂正事項1に関する「複数のタイム」が、複数のフレームのそれぞれのフレームに存在する「一つのスロットに1つのタイムが対応するもの」を表していることは読み取ることができる。一方で、「複数のタイム」が、複数のフレームのそれぞれに存在する「一つのスロットに複数のタイムが対応するもの」であることを読み取ることはできない。
また、訂正事項1に関する「リクエスト信号」は、「該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に」送信されるものであり、令和3年12月29日に提出した審判事件答弁書の9頁下から5ないし4行、10頁4行ないし6行において、被請求人が「本発明の「リクエスト信号」は、中央局に対しページングメッセージを送信するための許可を求める信号を意味する」と説明している。そうすると、訂正事項1に関する「リクエスト信号」は、中央局にページングメッセージを送信するための許可を求める信号と解される。
そして、特許公報の14欄24行ないし38行には「図6は、特に、宛先であるページャユニットP2にメッセージを送信するための送信側ページャユニットP1によるリクエストに関して、周波数f1~f4と、図3~図5に示すステップの統合とを示すタイミング図である。図6において、用語「コンピュータ」は、中央制御局20を示す。送信側ページャユニットP1と宛先であるページャユニットP2とは、図4に示す送信モードおよび図5に示す受信モードの両方で動作することを理解されたい。図6は概して、ページャユニットP1からの(中央制御局20を介した)ページャユニットP2へのメッセージの送信と、ページャユニットP2からの(中央制御局20を介した)ページャユニットP1への確認メッセージの送信と、ページャユニットP1がページャユニットP2からの確認メッセージを受信したことを示すメッセージの、ページャユニットP1から中央制御局20への送信とを示す。」と記載されている。そして、図6からは、ページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番左側の信号のタイムでページャユニットP1が送信をリクエストし、次にコンピュータ(中央局)がページャユニットP1に送信許可を与え、その後にページャユニットP1がコンピュータ(中央局)にメッセージを送信することが読み取られる。そうすると、ページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番左側の信号のタイムでページャユニットP1が送信をリクエストすることは、その後にコンピュータ(中央局)にメッセージを送信することの許可を求めるものといえる。一方で、ページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番右側の信号のタイムでもページャユニットP1が送信をリクエストしている。しかしながら、当該送信をリクエストした後、コンピュータ(中央局)からページャユニットP1が許可信号を得て、その後、ページャユニットP1がコンピュータ(中央局)に応答を得たことを通知することが読み取られる。そうすると、ページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番右側の信号のタイムでページャユニットP1が送信をリクエストすることは、その後にコンピュータ(中央局)に応答を得たことを通知するためのものであるから、中央局にページングメッセージを送信するための許可を求める、訂正事項1の「リクエスト信号」には該当しない。したがって、図6からは、訂正事項1に関する「リクエスト信号」を送信するタイムとして、ページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番左側の信号のタイムがあることは読み取ることができるが、これ以外の「リクエスト信号」を送信するタイムがあることは読み取ることができない。よって、特許公報の14欄24行ないしから38行、及び図6からは、「リクエスト信号」を送信するタイムとして、ページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番左側の信号のタイムの1つしか読み取ることはできないし、「一つのスロットに複数のタイムが対応するもの」であることを読み取ることはできない。
そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)等全体を見ても、複数のフレームのそれぞれに存在する「一つのスロットに複数のタイムが対応する」ものについての記載はなく、またこれを示唆する記載も見当たらない。
以上のことから、複数のフレームのそれぞれのフレームに存在する「一つのスロットに1つのタイムが対応するもの」については、明細書等に記載した事項の範囲内といえるものの、複数のフレームのそれぞれに存在する「一つのスロットに複数のタイムが対応する」ものについては、明細書等に記載した事項の範囲内とはいえず、結果、両者を含み得る「リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」について「複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで」との記載は、明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。
したがって、訂正事項1のうち、訂正前の請求項2の「該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」と記載されているのを「該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」に訂正することは、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、訂正事項1は特許法第134条の2第9項で準用する同第126条第5項の規定に適合しない。
(3)訂正事項2ないし4について
上記「3」の(2)の「ア」ないし「エ」のとおり、訂正事項1と訂正事項2ないし4とは同様の訂正事項を含むものである。
そして、訂正事項1については、上記「(2)」のとおりであるから、訂正事項2ないし4についても、特許法第134条の2第9項で準用する同第126条第5項の規定に適合しない。
(4)小括
上記のとおり、本件訂正前の請求項2に係る訂正事項1、本件訂正前の請求項3に係る訂正事項2、本件訂正前の請求項4に係る訂正事項3、及び本件訂正前の請求項5に係る訂正事項4についての訂正は、いずれも訂正要件を満たしていないから、訂正事項1ないし4からなる本件訂正は、認めることができないものである。
(5)被請求人の主張について
被請求人は、令和5年4月27日に提出の口頭審理陳述要領書の4頁18行から19行において、令和5年3月1日付けの審理事項通知で合議体が示した「複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで該リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」とは、あるフレームにおける1番目のタイムスロットに対応するタイム、及びその他のフレームにおける1番目のタイムスロットに対応するタイムのうちのいずれかのタイムで、リクエスト信号をページャから中央局に送信することを表す、すなわち、「リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」について「複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで」との限定が、複数のフレームのそれぞれのフレームに存在する「一つのスロットに1つのタイムが対応するものであって、複数のフレームのいずれかのフレームに存在する当該1つのタイムで」ということを表すという合議体の解釈に対して、「合議体の当該訂正事項に関する解釈は、必ずしも誤りではないが、当該訂正事項は合議体の解釈に限定されるものではない。」と主張している。
そうすると、「リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」について「複数のフレームのそれぞれの該スロットに対応する複数のタイムのうちのいずれかのタイムで」との限定は、上記合議体の解釈以外の解釈、すなわち令和4年9月27日付け訂正拒絶理由通知で指摘したような、複数のフレームのそれぞれに存在する「一つのスロットに複数のタイムが対応するものであって、当該タイムのいずれかで」との事項を含み得ると被請求人自身も認めていることになる。そして、上記「(2)」で説示したように、複数のフレームのそれぞれに存在する「一つのスロットに複数のタイムが対応する」ことは、明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。したがって、被請求人の主張も鑑みれば、上記限定を行う訂正が、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないことは疑いようもない。
また、令和5年8月23日付け口頭審理陳述要領書の4ページ下から5行から5ページ6行において、「合議体も認めるとおり、本件明細書の図6のページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番右側のタイムで送信される信号は、ページャユニットP1が送信をリクエストする信号であるから、本件明細書に接した当業者は、一番右側のタイムもページャユニットP1が中央局に送信をリクエストするためのタイムであると理解する。/ したがって、本件明細書に接した当業者は、本件明細書の図6のページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番右のタイムで送信される信号がリクエスト信号ではないとしても、同タイムはページャユニットP1が中央局に送信をリクエストするためのタイムであると理解するので、同タイムで中央局にページングメッセージを送信するための許可を求める「リクエスト信号」を送信することも可能であると理解する。」と主張している。
しかしながら、上記「(2)」で説示したように、図6のページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番右側のタイムで送信される信号は、ページャユニットP1が送信をリクエストする信号であるが、中央局にページングメッセージを送信するために許可を求める、訂正事項1の「リクエスト信号」には該当しない。そして、明細書等の全体を見ても、図6のページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番右側のタイムで、中央局にページングメッセージを送信するための許可を求める「リクエスト信号」を送信することの直接的な記載はなく、また示唆する記載もないから、上記請求人の主張を採用することはできない。
さらに、令和5年8月23日付け口頭審理陳述要領書の5ページの7行から6ページの5行において、「本件明細書の開示によるとスロット変更サブルーチン、SLOT ASSIGNMENT COMMAND CODEにあるように、スロットの割り当て/指定は適宜変更されるものである。(本件明細書20欄32行~49行、同13欄45行~14欄7行)。/ この点、合議体は本件特許発明が本件明細書の8欄19行ないし23行の態様に限定されると理解しているようであるが(審理事項通知3頁1行~4行)、本件明細書のスロット変更サブルーチン、SLOT ASSIGNMENT COMMAND CODEの機能によると、本件特許発明が本件明細書の8欄19行ないし23行の態様に限定されないことは明らかである。加えて、本件明細書14欄2行から7行は、未使用のタイムスロットを排除し、それにより走査速度を上げること開示していることからも、本件特許発明が本件明細書の8欄19行ないし23行の態様に限定されないことがわかる。/ 実際、本件明細書の8欄19行ないし23行の態様について、本件明細書は「例えば」と記載しており(本件明細書8欄19行)、あくまで例示の態様であることがわかる。さらに、本件明細書8欄13行~15行には「周波数f4におけるページャリクエスト信号がページングユニット22に指定された所定のタイムスロット内に送信される。」との記載があり、その指定が1つのタイムスロットなのか複数のタイムスロットなのかは限定されていない。この点は、訂正事項1等も同じである。/ また、本件明細書の開示によると、スロットの指定について、中央局が、リクエストがどのスロットで送信されたかを見ることで、どの端末からのリクエストであるかを認識し、中央局が、その端末にメッセージ送信を許可するという動作を行うものであることが記載されている(本件明細書10欄3行~29行)。/ そうすると、本件明細書に接した当業者は、1つのタイムスロットを複数の端末に指定するとどの端末からのリクエストであるかを認識できず、上記の一連の動作ができないところ、そのような指定はしてないはずであることは明らかであるが、複数のタイムスロットを1つ端末に指定しても上記の一連の動作ができるのは明らかであるところ、上記のとおり適宜変更できるものとして記載されているので、複数のタイムスロットを1つの端末に指定することも当然に記載されていると理解する。」と主張している。そして、上記主張について令和5年10月4日に提出された上申書の4ページ4行から10行において「被請求人の令和5年8月23日付け「口頭審理陳述要領書」・・・5頁7行~18行のとおり、本件明細書は、スロット変更サブルーチン、SLOT ASSIGNMENT COMMAND CODEの機能を前提として、未使用のタイムスロットを排除し、それにより走査速度を上げる技術思想を開示している。このような本件明細書が開示する技術思想に接した当業者は、一つのスロットに対応する複数のタイムが存在することで、システムの走査速度を上げることができると理解する。」、同4ページ13行から23行において「本件明細書8欄19行~25行によると、本件明細書の第13図にあるフレーム内の1番目のタイムスロットはページャP1に指定され、2番目のタイムスロットはページャP2に指定され、同様にn番目のタイムスロットはページャPnに指定されている。/ そして、本件明細書の第6図は、宛先であるページャユニットP2にメッセージを送信するための送信側ページャユニットP1によるリクエストに関してのタイミング図である。しかるところ、意見書4頁下11行~下2行のとおり、同図によると、指定されたタイムスロットでP1が送信をリクエストするタイミングとして、ページャリクエストフラグ送信機周波数f4の一番左側の信号と一番右側の信号の2つのタイムが示されており、ページャユニットP1に指定された一つのタイムスロットに2つのタイムが対応している。」と補足の説明を行っている。
しかしながら、上記主張は、1つの端末(ペ―ジャユニット)に複数のタイムスロットを指定することが明細書等に記載されているというものであって、スロットとタイムの関係については何ら説明されていない。したがって、上記主張は、訂正事項1に含まれる、複数のフレームのそれぞれに存在する「一つのスロットに複数のタイムが対応する」、つまり1つのフレームの一つのスロット内に複数のタイムが存在することが、明細書等に記載されていることの説明になっていない。例えば、訂正事項1に含まれる「スロット」が上記主張における「タイムスロット」に対応したとすると、訂正事項1に含まれる、一つのスロット内に「複数のタイム」が存在することが、明細書等に記載されていることを説明していない。また、訂正事項1に含まれる「複数のタイム」が上記主張における「複数のタイムスロット」に対応したとすると、1つのスロット内に「複数のタイムスロット」が存在することが、明細書等に記載されていることを説明していない。(そもそも、スロットとタイムスロットが異なるものであることは、明細書等に記載されていない。)。なお、上記主張が、訂正事項1に含まれる「スロット」がタイムスロットではなく、「端末」に対応し、端末に複数のタイムスロットを指定することが、「一つのスロット(端末)に複数のタイム(タイムスロット)が対応する」という説明を行っているとも考えられる。しかしながら、「スロット」が「端末」を表すことは技術常識に反するから、そのような説明は成り立たない。したがって、上記のような、1つの端末(ペ―ジャユニット)に複数のタイムスロットを指定することが明細書等に記載されているという説明は、一つのスロット内に複数のタイムが存在することが、明細書に記載されていることの説明にはなっていないから、当該請求人の説明を採用することはできない。
また、上記請求人の複数のタイムスロットを1つの端末に指定することが明細書に記載されているとの主張についても検討しておく。特許公報の5欄37行及び38行には、「図13は、本発明による時分割されたスロット割り当て技術を説明する模式図である。」との記載がある。一方、図13には、「スロット」との記載はなく、「スロット」に関する記載として「タイムスロット」との記載のみがあり、また、特許公報の8欄19行から23行には、「例えば図13に示すように、周波数f4における1番目のタイムスロットはページャP1に指定され、2番目のタイムスロットはページャP2に指定され、同様にn番目のタイムスロットはページャPnに指定される。」といった記載がある。そうすると、明細書において「スロット」と「タイムスロット」は同じものを表しているといえる。
そして、特許公報の8欄23行から25行には「本実施形態において、タイムスロットの数(従ってページャの数)は、10,000以上もの大きな数であり得る。」との記載、及び11欄31行から34行には、「各ページャユニット221~22N(例えば、図13のページャP1~Pn)には周波数f4のN個のタイムスロットのうちから選択された1つが指定される。」との記載があるから、タイムスロットの数とページャの数が等しいこと、N個のページャユニットにはN個のタイムスロットのうちから選択された1つのタイムスロットが指定されることが示されている。つまり、一つのページャユニットには1つのタイムスロットが指定されることは記載されている。そうすると、請求人の「ページングユニットに指定されたタイムスロットが1つのタイムスロットなのか複数のタイムスロットなのか限定されていない」との主張は当を得ていない。一方で、特許公報の14欄2行から5行には「タイムスロット変更サブルーチンは、所望であれば、(例えば)未使用のタイムスロットを排除する(それにより走査速度を上げる)こと」が記載されているが、当該未使用のタイムスロットを排除する場合に、どのようなタイムスロットの指定を行うのか何ら記載がなく、その他の明細書等全体の記載を参酌しても、請求人が主張するような、複数のタイムスロットを1つの端末(ページャユニット)に指定することが記載されているとはいえない。したがって、上記請求人の、複数のタイムスロットを1つの端末に指定することが明細書等に記載されているとの主張を採用することはできない。
5 訂正請求についてのむすび
以上のとおり、訂正事項1ないし4からなる本件訂正は、その訂正の要件を満たさないものであるから、これを認めない。
第4 本件特許発明
前記「第3」の「1」のとおり第1訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたことにより取り下げられたものとみなされ、前記「第3」の「4」及び「5」のとおり本件訂正の請求による請求項2ないし請求項5の訂正は認められないから、本件特許の請求項2ないし5(以下、それぞれ、「本件発明2」ないし「本件発明5」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ設定登録時の特許請求の範囲に記載された請求項2ないし請求項5の記載事項(前記「第3」の「3」の「(1)」の「ア」)により特定されるとおりのものである。
第5 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書において、請求の理由として以下の無効理由1を主張した。次に、第1訂正の請求がなされたことを受け、令和4年3月24日に提出した弁駁書において、請求の理由として以下の無効理由2及び3を追加する補正を行った。これに対し、合議体は当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであり、かつ、特許法第131条の2第2項第1号に該当する事由があると認め、令和4年5月18日付けで上記補正を許可する補正許否の決定を行った。その後、本件訂正の請求がなされ、請求人は、令和5年4月27日に提出した口頭審理陳述要領書において、前記無効理由1ないし3を改めて主張している。
したがって、請求人が主張する無効理由は、以下のとおりであり、証拠方法として下記「2」に記載する書証を提出している。
(1)無効理由1
本件訂正後の本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件訂正発明2」という。)は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2
本件訂正発明2は、甲第30号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3
本件訂正発明2は、甲第31号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
2 請求人が提出した証拠方法
甲第1号証 :特開平4-252526号公報
甲第2号証 :訴状(東京地方裁判所令和2年(ワ)第32736号)
甲第3号証 :改訂 電子情報通信用語辞典(中表紙、926~927
頁、奥付)
甲第4号証 :特開平5-284103号公報
甲第5号証 :特開平6-104828号公報
甲第6号証 :特開平6-97853号公報
甲第7号証 :米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)被請求人(GPN
E CORP.,)対 APPLE INC.,事件判
決及び抄訳
甲第8号証 :広辞苑 第4版(1533,1559~1560頁、奥
付)
甲第9号証 :カタカナ語・略語辞典[改訂新版](中表紙、16頁、
奥付)
甲第10号証 :最新ディジタル電話通信(250頁~258頁)
甲第11号証 :「高速パケット交換への潮流」(NTT施設 昭和62
年6月号58頁~62頁)
甲第12号証 :「音声パケットの有効性とその実用化動向」(ビジネス
・コミュニケーション 第26巻第11号58頁~65
頁)
甲第13号証 :特開平6-38267号公報
甲第14号証 :特開平6-30466号公報
甲第15号証 :特開平5-308303号公報
甲第16号証 :特表平5-503194号公報
甲第17号証 :特開平4-264829号公報
甲第18号証 :特開平5-336165号公報
甲第19号証 :特開平6-62043号公報
甲第20号証 :特開平6-104925号公報
甲第21号証 :特開平6-112975号公報
甲第22-1号証:米国特許5195091号公報
甲第22-2号証:特開平6-252909号公報
甲第23号証 :被告第2準備書面(非侵害論)(東京地方裁判所令和2
年(ワ)第32726号)
甲第24号証 :第4準備書面(東京地方裁判所令和2年(ワ)第327
26号)
甲第25号証 :被告補助参加人(富士通)第1準備書面(東京地方裁判
所令和2年(ワ)第32726号)
甲第26号証 :大辞林(新装版)(1777頁)
甲第27号証 :特開平3-140024号公報
甲第28号証 :意見書(特願平8-503238)
甲第29号証 :広辞苑(第五版)(332頁)
甲第30号証 :デジタル方式自動車電話システム 標準規格 RCR
STD-27B(抄)
甲第31号証 :特表平4-501497号公報
甲第32号証 :特開昭55-133149号公報
甲第33号証 :特開平6-90204号公報
甲第34号証 :特公昭58-31132号公報
甲第35号証 :特開平6-77963号公報
甲第36号証 :特開平5-191327号公報
甲第37号証 :特表平2-501020号公報
甲第38号証 :特開平5-136823号公報
甲第39号証 :特開平1-275935号公報
甲第40号証 :特開平5-327688号公報
甲第41号証 :特開平4-111642号公報
甲第42号証 :特開平3-143124号公報
甲第43号証 :特開平2-84832号公報
甲第44号証 :特開昭58-212237号公報
甲第45号証 :特開昭55-158750号公報
甲第46号証 :実全昭54-166215
甲第47号証 :被告第4準備書面(非侵害論)(東京地方裁判所令和2
年(ワ)第32726号)
甲第48号証 :デジタル方式自動車電話システム 標準規格 RCR
STD-27B(抄)
甲第49号証 :東京地方裁判所令和5年2月24日判決(令和2年(ワ
)第32726号)
甲第50号証 :情報通信技術ハンドブック(588~591頁)
甲第51号証 :移動通信ハンドブック(目次、263~265頁)
甲第52号証 :FUJITSU 1997-11月号 Vol.48,
No.6,通巻283号(目次)
甲第53号証 :NEC技報 第51巻第7号通巻353号(目次)
甲第54号証 :エンサイクロペディア電子情報通信ハンドブック(94
8~950頁)
甲第55号証 :研究社新英和大辞典(1778頁)
甲第56号証 :ウィズダム英和辞典第2版(1319頁)
甲第57号証 :ビジネス技術実用英和大辞典(814頁)
甲第58号証 :広辞苑(第7版)
甲第59号証 :NTT技術ジャーナル 1995.10(27頁)
甲第60号証 :「2019年9月30日、最後のポケベル『ページャー
(マジックメール)』サービスが終了しました:今日は
何の日?」と題する記事
甲第61号証 :「第162回『さよならポケベル』の話」と題する記事
甲第62号証 :情報・通信用語辞典2005~2006年版(287~
288頁)
甲第63号証 :NTT技術ジャーナル平成元年4月号(目次、6~35
頁)
甲第64号証 :公表特許公報(平2-501023)
甲第65号証 :特許公報(平4-73813)
甲第66号証 :通信の最新常識(170頁)
甲第67号証 :「無線呼出特集 1 お買い上げ制時代を向かえた無線
呼出サービス」NTT Docomo テクニカル・ジ
ャーナル Vol.3 No.2
甲第68号証 :平成23年版 情報通信白書(抜粋)
甲第69号証 :Hoshiine.comのウェブページ
(https://www/hoshiine.com/internet/4g-lte.html)
甲第70号証 :TDKのウェブページ
(https://www.tdk.com/ja/tech-mag/knowledge/195)
甲第71号証 :NTT Docomo テクニカル・ジャーナル Vo
l.17 No.3(抜粋)
甲第72号証 :トラムシステム株式会社のウェブページ
(https://www.tramsystem.jp/voice/voice-1807/)
甲第73号証 :KDDI株式会社のウェブページ
(https://www.kddi.com/yogo/モバイル/LTE)
甲第74号証 :株式会社ビースリーのウェブページ
(https://be-3.co.jp/mobile-wifi/fdd-lte%E3%83%BBtd
-lte/)
甲第75号証 :無線データ通信入門解説(106~109頁)
甲第76号証 :令和2年情報通信白書「移動通信システムの進化とその
影響」の項の抜粋
甲第77号証 :日経NETWORK 2019年4月号 モバイル通信
進化論
甲第78号証 :東京地方裁判所令和4年12月21日判決(令和元年(
ワ)第28127号)
甲第79号証 :US5,542,115明細書及び抄訳
第6 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、上記請求人が主張する無効理由はいずれも理由がないと主張し、証拠方法として下記「2」に記載する書証を提出している。
2 被請求人が提出した証拠方法
乙第1号証 :準備書面(2)(東京地方裁判所令和2年(ワ)第32
726号)
乙第2号証 :月刊テレコミュニケーション 平成9年6月号(抜粋)
乙第3号証 :広辞苑(抜粋)(第4版)
乙第4号証 :書籍「情報通信システムのプロトコル」(抜粋)
乙第5号証 :IT用語辞典e-Words(https://e-words.jp/w/%E
5%9B%9E%E7%B7%9A%E4%BA%A4%E6%8F%9B.html)
乙第6号証 :IT用語辞典e-Words(https://e-words.jp/w/%E
3%83%91%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E9%80%9A%E4%BF%
A1.html)
乙第7号証 :書籍「4G LTE/LTE-Advancedのすべ
て[下巻]」(抜粋)
乙第8号証 :Plaintiff’s Closing Argum
ents(抜粋)
乙第9の1号証 :Mr.Rysavyの証言録取書(抜粋)
乙第9の2号証 :Dr.Wilsonの証言録取書(抜粋)
乙第10号証 :米国訴訟における資料(抜粋)
乙第11号証 :東京地方裁判所令和4年2月2日判決(東京地方裁判所
令和元年(ワ)第28126号)
乙第12号証 :控訴理由書(知的財産高等裁判所令和4年(ネ)第10
034号)
乙第13号証 :準備書面(16)(知的財産高等裁判所令和4年(ネ)
第10034号)
乙第14号証 :Hoshiine.comのウェブページ
(https://www.hoshiine.com/internet/4g-lte.html)
乙第15号証 :TDKのウェブページ
(https://www.tdk.com/ja/tech-mag/knowledge/195)
乙第16号証 :NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vo
l.17 No.3(抜粋)
乙第17号証 :トラムシステム株式会社のウェブページ
(https://www.tramsystem.jp/voice/voice-1807/)
乙第18号証 :米国訴訟における資料(抜粋)
乙第18号証の1:TRANSCRIPT OF PROCEEDINGS
BEFORE THE HONORABLE LUC
Y H.KOH UNITED STATES DIS
TRICT JUDGE
乙第19号証 :平成23年版 情報通信白書(抜粋)
乙第20号証 :株式会社ビースリーのウェブページ
(https://be-3.co.jp/mobile-wifi/fdd-lte%E3%83%BBtd
-lte/)
乙第21号証 :「How LTE Stuff Works?」と題す
るウェブページ(http://howltestuffworks.blogspot.c
om/2014/06/scheduling-request-procedure.html)
乙第22号証 :「LTE Quick Reference」と題する
ウェブページ(https://www.sharetechnote.com/html/H
andbook_LTE_SR.html)
乙第23号証 :令和2年情報通信白書「移動通信システムの進化とその
影響」(抜粋)
乙第24号証 :特許法第184条の5第1項の規定による書面
乙第25号証 :3GPP TS36.213 V8.8.0(抜粋)
乙第26号証 :CERTIFICATE
乙第27号証 :Declaration
乙第28号証 :特許公報(平4-73813)
乙第29号証 :公表特許公報(平2-501023)
乙第30号証 :準備書面(4)(東京地方裁判所令和2年(ワ)第32
726号)
乙第31号証 :NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol
.19 No.1(抜粋)
第7 当審の判断
1 審判請求書の補正について
審判請求書における請求の理由に、前記無効理由2及び3を追加する補正は、第1訂正の請求により請求の理由を補正する必要が生じたことにより、許可したものである。その後、本件訂正の請求がなされ、これに対して、請求人より提出された口頭審理陳述要領書において、前記無効理由2及び3を主張しているが、第1訂正の請求は前記「第3」の「1」のとおり、取り下げられたものとみなされ、本件訂正は前記「第3」の「4」及び「5」のとおり認められない。そうすると、特許法第131条の2第2項第1号の事由が存在しないこととなる。したがって、審判請求書における請求の理由に、新たに前記無効理由2及び3を追加する補正は、その要旨を変更するものであるから、特許法第131条の2の規定により認められない。
よって、審判請求書における請求の理由は、以下に記載する無効理由1のみとなり、当該無効理由1についてのみ、判断を行う。
無効理由1
設定登録時の本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
なお、令和5年9月20日第1回口頭審理において、請求人、被請求人とも、本件訂正を認めない場合、無効理由は、当該無効理由1のみであることを認めている。
2 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開平4-252526号公報)には、次の記載がある。(下線は当審が付与した。以下、同様。)
ア 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、移動通信におけるランダムアクセス制御方式に関するものである。【0002】【従来の技術】現行の大容量自動車電話におけるランダムアクセス制御には、ICMA-DR(Idle-signal casting multiple accesswith data slot reservation)方式が採用されている。(中略)
【0004】一方、移動通信の無線伝送方式がTDMAの場合、メッセージ信号が短いスロットで区切られるため、従来のICMA-DR方式をTDMA通信に適用する方法として、文献〔梅田ほか,“移動通信ランダムアクセスにおける間欠スロット空線制御方式”,1990年春信学全大,B351.〕において間欠スロット空線制御方式が提案されている。
(後略)」
イ 「【0011】【発明が解決しようとする課題】伝送速度が高速であるTDMAの移動通信システムでは信号の実時間長が短くなるため、発呼等の制御信号は1スロットで十分伝送可能な場合が多い。この場合、従来の間欠スロット空線制御方式を用いたのでは、この方式の空線制御の性能を決めるパラメータである全信号長に対する予約信号長の比a(=予約信号長/全信号長)が0.5と大きくなり、制御が効果的となるようなaをとることができず、スループットの改善効果は期待できない。
(中略)
【0014】【課題を解決するための手段】本発明では前記問題点を解決するために、基地局と移動機の間に、移動機から基地局への上り制御チャネルおよび基地局から移動機への下り制御チャネルを有する移動通信システムで、上り制御チャネルが予め定められた時間幅のスロットで区切られており、さらに該スロットは、スロット内部が小さな時間幅のミニスロットに区切られた予約用スロットと、区切られていないメッセージ転送用スロットとの2種類のスロットからなり、移動機から基地局へアクセスを行なう際の信号が予約信号とメッセージ信号に分割されていて、移動機が前記予約用スロット内の複数のミニスロットのうちの1つのミニスロットをランダムに選択し、前記予約信号をランダムアクセスで送信することによって、前記メッセージ転送用スロットを使用するための予約を行ない、さらに移動機が前記予約信号によって予約されたメッセージ転送用スロットを介してメッセージ信号を基地局に送信するランダム予約型アクセス方式において、基地局が各移動機に対し、前記下り制御チャネルを介して、前記上り制御チャネルの該スロットの種類が予約用スロットであるかメッセージ転送用スロットであるかを指定する信号を報知し、該スロットの種類がメッセージ転送用スロットである場合にはさらに、該スロットによってメッセージを送信すべき移動機を指定する信号を報知し、移動機は基地局からの前記スロット種類指定用の信号と移動機指定用の信号に従って基地局へのアクセス動作を行なうことに特徴がある。
【0015】【作用】本発明によれば、上述の如く構成された制御によって、メッセージ信号のデータスロット数が少ない高速TDMA移動通信においても、周波数利用効率、移動機の消費電力および接続遅延時間等を犠牲にすることなく、従来の移動通信におけるランダムアクセスと同等のスループット特性を得ることが可能となる。さらにメッセージ信号のデータスロット数が多い場合には、従来以上のスループット特性を得ることができる。【0016】【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施例を説明する図であって、基地局制御型ミニスロット予約ランダムアクセス制御方式を、4chTDMA-TDDに適用した場合の制御チャネルの構成の例を示したものである。ここでは1フレーム内の4スロットの内、1スロットを制御チャネル(CCH)とし、他のスロットを通話チャネル(TCH)としており、移動機から基地局への上り期間と、基地局から移動機への下り期間が1フレーム毎に交互に割り当てられている。【0017】上り制御チャネルには予約用1-1とメッセージ転送用1-2の2種類があり、予約用のスロットの場合はスロット内がさらに複数(図1では5個)のミニスロット1-3に分けられている。ここで予約用ミニスロットにおいて移動機から送信される予約信号1-4としては、ミニスロットの数を多くするために信号長をできるだけ短くし、かつ基地局での衝突判定を容易にするため各移動機で同一の予約信号パターンを用いるのが好適である。【0018】また、メッセージ信号には、例えば、位置登録、発信、ダイアル情報等が考えられる。下り制御チャネルには、次の上り期間のフレームの制御チャネルが予約用か、メッセージ転送用かを指定するR(Reservation)/M(Message)信号1-5と、メッセージ転送用である場合には予約済の移動機を指定するための予約受付番号1-6が含まれている。その他の信号1-7には、例えば着信情報や通話チャネル指定情報などが含まれる。【0019】前記予約受付番号1-6に対する移動機の指定は、該移動機のIDではなく、直前の予約用フレームで予約を受付けたミニスロットの番号で指定する。すなわち、移動機は予約が受付けられたときに該予約の際に用いたミニスロットの番号を記憶しておき、基地局はその番号で指定するのである。これは移動機のIDは桁数が多く伝送効率が良くないからである。【0020】図1ではミニスロットの1番と5番に予約信号が受け付けられているので、この場合の下り制御チャネルの予約受付番号は1または5となる。複数の予約が受け付けられた場合、基地局は上り制御チャネルを連続してメッセージ転送用にし、前記予約受付番号を順次報知することによって、予約用スロットで受け付けられたすべての予約に対してメッセージ信号を受け付ける。また逆に、予約が受け付けられていない場合は予約が受け付けられるまで、上り制御チャネルを連続して予約用とする。【0021】図2は基地局制御型ミニスロット予約ランダムアクセス制御方式における、基地局の動作アルゴリズムをフローチャートで示したものである。下り制御チャネルにおいてR信号を報知(このときの制御信号を2-1で示す)した後、次の予約用スロットで移動機からの予約信号がなければ引き続きR信号を報知し、予約信号があれば基地局は各ミニスロットの予約信号について誤り検出を行ない、信号の衝突判定を行なう。誤りが設定値以下の場合は、他の移動機による予約信号と衝突していないものとみなして予約を受け付け、次の下り制御チャネルにおいてM信号と、予約信号を受け付けたミニスロットの番号nを予約受付番号とする下り制御信号(このときの制御信号を2-2で示す)を報知する。【0022】次の上り制御チャネル(メッセージ転送用)で指定した予約受付番号に対応する移動機からのメッセージ信号を受信した後、前述の予約用スロットで複数の予約信号を受け付けた場合は、引き続き次の予約受付番号とM信号を報知し、前述の予約用スロットで予約されたすべての移動機が送信を完了するまで繰り返される。予約された移動機の送信がすべて終了すると再びR信号を報知し、移動機からの予約信号を待ち受ける。【0023】図3は本方式における移動機の動作アルゴリズムをフローチャートで示したものである。基地局に発呼や位置登録等でアクセスを行なおうとする移動機は、まず下り制御チャネル(CCH)のR/M信号をモニターし、次の上り制御チャネルが予約用なのかメッセージ転送用なのかを判断する。M信号、つまりメッセージ転送用の場合は引き続き下り制御チャネルのモニターを行ない、R信号になると次の上り制御チャネルにおいて、ランダムに選択されたミニスロットのタイミングで予約信号の送信を行なう。【0024】次に再び下り制御チャネルのR/M信号のモニターを行ない、M信号でなければ予約信号の送信が失敗したものとして再送スケジュールに入る。M信号であれば次に予約受付番号の解読を行ない、自局が送信時に選択したミニスロット番号と一致していれば、続く上り制御用チャネルにおいてメッセージ信号の送信を行なう。前記予約受付番号が自局の選択したミニスロット番号に一致しなければ引き続き下り制御チャネルのR/M信号と予約受付番号をモニターし、予約受付番号が一致せずにR信号になった場合は予約信号の送信が失敗したものとし、再送スケジュールに入る。」
(2)甲第66号証の記載事項
甲第66号証(通信の最新常識、井上信雄著、株式会社日本実業出版社、1994年3月25日発行、ISBN4-534-02068-6)には、次の記載がある。
「無線呼出し(ページャ)
移動通信の中で、外出者に対する連絡手段として最も手軽で安いシステムは無線呼出し(ページャ)である。わが国では、NTTがポケットベルという名称で一九六八年にサービス開始、ついで一九八七年からはNCC(新規参入事業者)がテレメッセージという名でサービスを提供している。/ 機能は簡単で、外出中の人に対して電話から携帯受信機を呼び出し、その呼出し音を受信した人が折り返し電話をかけて用件の内容を確認するものである。/ 最初は「ピーピー」という呼出し音のみのトーンオンリー型だったが、その後、液晶ディスプレイに数字・アルファベット・カナ文字などの表示ができる高機能型ができた。数字や定型文の入力はプッシュホンからできるが、文字はパソコンから入力する。トーンオンリー型でも、音による呼び出しの他、光の点滅や携帯受信機の振動で受信を知らせるタイプもある。さらに、付加サービスとして、二つの呼出番号を持ち呼出音のパターンを変えて発信者の要件や相手を識別できるデュアルコール、これを三から四の呼出番号に拡張したマルチコール、基本の呼出番号の他にグループ共通の番号を持ってグループ全員を呼び出せるグループコール、などがある。/ 周波数は最初は一五〇MHz帯を使ったが、容量が不足してきたので二八〇MHz帯を使うようになった。」
3 甲号証に記載された発明及び技術事項
(1)甲第1号証に記載された発明
上記「2」の「(1)」の記載、及び移動体通信分野における技術常識を考慮すると、次のことがいえる。
ア 上記「2」の「(1)」の「ア」の段落【0001】には「本発明は、移動通信におけるランダムアクセス制御方式に関するものである。」とあり、続く段落【0002】には「大容量自動車電話におけるランダムアクセス制御には、ICMA-DR(Idle-signal casting multiple accesswith data slot reservation)方式が採用されている。」との記載があるから、甲第1号証における「移動通信」とは「大容量自動車電話」を意図したものといえる。そうすると、上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0014】の「【課題を解決するための手段】」に記載された「基地局と移動機の間に、移動機から基地局への上り制御チャネルおよび基地局から移動機への下り制御チャネルを有する移動通信システム」とは、大容量自動車電話システムを意図しているものといえる。そして、段落【0014】には、当該システムにおいて「移動機から基地局へアクセスを行なう際の信号が予約信号とメッセージ信号に分割されていて、移動機が前記予約用スロット内の複数のミニスロットのうちの1つのミニスロットをランダムに選択し、前記予約信号をランダムアクセスで送信することによって、前記メッセージ転送用スロットを使用するための予約を行ない、さらに移動機が前記予約信号によって予約されたメッセージ転送用スロットを介してメッセージ信号を基地局に送信するランダム予約型アクセス方式において、基地局が各移動機に対し、前記下り制御チャネルを介して、前記上り制御チャネルの該スロットの種類が予約用スロットであるかメッセージ転送用スロットであるかを指定する信号を報知し、該スロットの種類がメッセージ転送用スロットである場合にはさらに、該スロットによってメッセージを送信すべき移動機を指定する信号を報知し、移動機は基地局からの前記スロット種類指定用の信号と移動機指定用の信号に従って基地局へのアクセス動作を行なう」といった動作をさせることが記載されているから、甲第1号証には「大容量自動車電話システムを動作させる方法」が記載されているといえる。
イ 上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0014】には、「基地局と移動機の間に、・・・基地局から移動機への下り制御チャネルを有する移動通信システム」との記載があり、上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0021】には、「基地局の動作アルゴリズム」として「下り制御チャネルにおいてR信号を報知」することが記載されており、下り制御チャネルにおいてR信号を報知するとは、R信号を送信することに他ならない。また、上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0018】には、「下り制御チャネルには、次の上り期間のフレームの制御チャネルが予約用か、メッセージ転送用かを指定するR(Reservation)/M(Message)信号1-5と、メッセージ転送用である場合には予約済の移動機を指定するための予約受付番号1-6が含まれている。」と記載されている。つまり、R(Reservation)信号とは、次の制御チャネルが予約用であることを指定するものであるから、甲第1号証には、「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号を基地局から移動機に送信すること」が記載されているといえる。
ウ 上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0018】には、「メッセージ信号には、例えば、位置登録、発信、ダイアル情報等が考えられる。」との記載があり、上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0023】には、「移動機の動作アルゴリズム」が示されており「基地局に発呼や位置登録等でアクセスを行なおうとする移動機は、まず下り制御チャネル(CCH)のR/M信号をモニターし、・・・R信号になると次の上り制御チャネルにおいて、ランダムに選択されたミニスロットのタイミングで予約信号の送信を行なう。」と記載されている。すなわち基地局に発呼や位置登録等でアクセスを行なおうとしている移動機は、モニターした制御チャネルのR/M信号がR信号になると、予約信号を移動機から基地局に送信するといえるから、甲第1号証には、「基地局に発呼や位置登録等でアクセスを行なおうとする移動機は、モニターした制御チャネルのR/M信号がR信号になると、予約信号を移動機から基地局に送信すること」が記載されているといえる。
エ 上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0021】には、「基地局の動作アルゴリズム」として「下り制御チャネルにおいてR信号を報知・・・した後、次の予約用スロットで移動機からの・・・予約信号があれば基地局は各ミニスロットの予約信号について誤り検出を行ない、信号の衝突判定を行なう。誤りが設定値以下の場合は、他の移動機による予約信号と衝突していないものとみなして予約を受け付け、次の下り制御チャネルにおいてM信号と、予約信号を受け付けたミニスロットの番号nを予約受付番号とする下り制御信号(このときの制御信号を2-2で示す)を報知する。」と記載されている。つまり、予約信号は移動機から基地局に送信されるものであり、基地局は、移動機からの予約信号があれば、誤り検出を行い、誤りが設定値以下の場合は、他の移動機による予約信号と衝突していないとみなして予約を受け付けるものである。そして、予約信号を受け付けると、下り制御チャネルにおいてM信号と予約受付番号を下り制御信号で報知するものであるから、基地局は、移動機からの予約信号に応答して、M信号と予約受付番号を含む下り制御信号を基地局から移動機に報知、すなわち送信するものである。また、上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0018】には、「下り制御チャネルには、次の上り期間のフレームの制御チャネルが予約用か、メッセージ転送用かを指定するR(Reservation)/M(Message)信号1-5と、メッセージ転送用である場合には予約済の移動機を指定するための予約受付番号1-6が含まれている。」と記載されている。つまり、R/M信号とは、次の制御チャネルが予約用か、メッセージ転送用かを指定するものであって、メッセージ転送用である場合、次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と、予約受付番号が下り制御信号に含まれるといえる。そうすると、甲第1号証には「移動機からの予約信号に応答して、次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号を基地局から移動機に送信すること」が記載されているといえる。
オ 上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0024】には、段落【0023】の動作に続く「移動機の動作アルゴリズム」として、「下り制御チャネルのR/M信号のモニターを行ない、・・・M信号であれば次に予約受付番号の解読を行ない、自局が送信時に選択したミニスロット番号と一致していれば、続く上り制御用チャネルにおいてメッセージ信号の送信を行なう。」と記載されている。つまり、移動機は、下り制御チャネルのモニターを行い、M信号であれば、予約受付番号の解読を行うものである。そして、上記「エ」で説示したように、「下り制御信号」は、「M(Message)信号と予約受付番号を含む」ものであることを考慮すれば、移動機が、「M信号及び予付受付番号を含む下り制御信号」を基地局から受け取ることは明らかである。また、その後、続く上り制御用チャネルにおいてメッセージ信号を移動機から基地局に送信するものであり、上記「2」の「(1)」の「イ」の段落【0018】には「メッセージ信号には、例えば、位置登録、発信、ダイアル情報等が考えられる」と記載されている。そうすると、甲第1号証には、「M信号及び予約受付番号を含む下り制御信号を受け取ると、メッセージ信号を移動機から基地局に送信するものであって、メッセージ信号は位置登録、発信、ダイヤル情報等であること」が記載されているといえる。
以上を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「大容量自動車電話システムを動作させる方法であって、
次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号を基地局から移動機に送信することと、
前記基地局に発呼や位置登録等でアクセスを行なおうとする前記移動機は、モニターした制御チャネルのR/M信号が前記R信号になると、予約信号を前記移動機から前記基地局に送信することと、
前記移動機からの前記予約信号に応答して、次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号を前記基地局から前記移動機に送信することと、
前記M信号及び前記予約受付番号を含む前記下り制御信号を受け取ると、メッセージ信号を前記移動機から前記基地局に送信するものであって、前記メッセージ信号は位置登録、発信、ダイヤル情報等であることと、
を含む方法。」
(2)甲第66号証に記載された技術事項
上記「2」の「(2)甲第66号証の記載事項」によれば、甲第66号証には「無線呼出し(ページャ)とは、わが国では、NTTがポケットベルという名称でサービス開始したものであって、機能は簡単で、外出中の人に対して電話から携帯受信機を呼び出し、その呼出し音を受信した人が折り返し電話をかけて用件の内容を確認するものであり、液晶ディスプレイに数字・アルファベット・カナ文字などが表示できる高機能型もある。」いう技術事項が記載されていると認められる。
4 対比
本件発明2と甲1発明を対比する。
(1)本件発明2の「双方向ページングシステム」は、本件発明2の第2段落ないし第5段落で特定される「中央局」と「ページャ」からなるシステムであることは明らかである。ここで、「ページャ」とは、甲第66号証に記載された技術事項によれば、NTTがポケットベルという名称でサービス開始したものであって、機能は簡単で、外出中の人に対して電話から携帯受信機を呼び出し、その呼出し音を受信した人が折り返し電話をかけて用件の内容を確認するものであり、液晶ディスプレイに数字・アルファベット・カナ文字などが表示できるものであり、ポケットベルのサービスを提供するシステムにおけるページャとは、特にその携帯受信機、すなわち端末を指すものといえる。また、特許公報の4欄7行及び8行に「ページャを電話(例えば、移動無線電話)に接続しようと努力が含まれていた。」との記載や、21欄39行ないし41行の「本発明は、ユーザ間の無線データ通信のための、電話システムから独立して動作する双方向ページングシステムを提供する。」との記載、並びに13欄9行ないし12行の「ステップ324において、マイクロプロセッサ80は、受信したメッセージをユーザが見ることができるように英数字メッセージデータをLCDディスプレイ96に送信することをI/Oインタフェース86に指示する」との記載からも、本件発明2の「ページャ」とは、受信したメッセージや英数字メッセージデータをユーザがみることができるようにする端末であり、電話システムにおける電話(端末)とは異なるものであることは明らかである。
これに対して、甲1発明の「移動機」は、「大容量自動車電話システム」、すなわち電話システムを構成する「移動機」であって、自動車に搭載される電話システムの「移動機」であるから、電話端末であることは明らかである。
そうすると、本件発明2の「ページャ」と甲1発明の「移動機」は「端末」である点で共通する一方、甲1発明の「移動機」は「ページャ」ではない点で相違する。また、本件発明2の「双方向ページングシステム」と甲1発明の「大容量自動車電話システム」は「システム」である点で共通する一方、甲1発明の「大容量自動車電話システム」は「双方向ページングシステム」ではない点で相違する。
したがって、本件発明2の「双方向ページングシステムを動作させる方法」と、甲1発明の「大容量自動車電話システムを動作させる方法」は、システムを動作させる方法、である点で共通する。
(2)甲1発明の「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号」は、これを受け取り、基地局に発呼や位置登録等でアクセスを行なおうとする移動機が、予約信号を基地局に送信し、その後基地局から、次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号を受け取ると、メッセージ信号、つまり位置登録、発信、ダイヤル情報を基地局に送信するという動作を行うことに利用される信号である。そうすると、「R(Reservation)信号」は、位置登録、発信、ダイヤル情報等といったメッセージの送信に関係する信号といえる。
これに対し、本件発明2の「リクエストエネーブル信号」は、これを受け取ったページャが、送信すべきページングメッセージを有する場合に、リクエスト信号を中央局に送信し、その後基地局から、許可信号を受け取ると前記ページングメッセージを中央局に送信するという動作を行うことに利用される信号であるから、ページングメッセージの送信に関係する信号といえる。
ここで、甲1発明の「メッセージ信号」に含まれる「メッセージ」は「大容量自動車電話システム」における「移動機」が送信する「位置登録、発信、ダイヤル情報等」であるから、制御に関するメッセージといえる。一方、本件発明2の「ページングメッセージ」は、「双方向ページングシステム」における「ページャ」が送信するものであって、具体的には、本件特許の明細書の13欄第9行ないし12行に「受信したメッセージをユーザが見ることができるように、英数字メッセージデータをLCDディスプレイ96に送信する」と記載されているように、ユーザに見せるための「英数字メッセージ」である。そうすると、本件発明2の「ページングメッセージ」と甲1発明の「メッセージ信号」に含まれる「メッセージ」は、「メッセージ」である点で共通するものの、異なる内容のメッセージであるといえる。
つまり、本件発明2の「リクエストエネーブル信号」と甲1発明の「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号」は、ともに、メッセージの送信に関係する信号である点では共通するものの、送信するメッセージが異なるため、同じ信号とはいえない。ここで、メッセージの送信に関する当該「信号」を、他の信号と区別するために、便宜上、「第1の信号」という。
したがって、本件発明2の「リクエストエネーブル信号」と甲1発明の「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号」は、メッセージの送信に関係する第1の信号である点で共通し、甲1発明の「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号」が本件発明2の「リクエストエネーブル信号」ではない点で相違する。
また、甲1発明の「基地局」は、大容量自動車電話システムにおいて、移動機との間で信号の送受を行う、いわゆる局側装置であることは明らかである。そして、本件発明2の「中央局」も「双方向ページングシステム」において、ページャとの間でリクエストエネーブル信号やリクエスト信号などの信号の送受を行う局側装置であることが明らかである。そうすると、本件発明2の「中央局」と甲1発明の「基地局」は、局側装置である点で共通し、甲1発明の「大容量自動車電話システム」における「基地局」は、「双方向ページングシステム」における「中央局」でない点で相違する。
よって、本件発明2の「リクエストエネーブル信号を中央局からページャに送信すること」と、甲1発明の「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号を基地局から移動機に送信すること」は、メッセージの送信に関係する第1の信号を局側装置から端末に送信すること、である点で共通する。
(3)甲1発明の「予約信号」は、これを基地局に送信した移動機が、基地局から、次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号を受け取り、メッセージ信号を基地局に送信するという動作に利用される信号であるから、メッセージの送信に関係する信号といえる。
これに対し、本件発明2の「リクエスト信号」は、これを中央局に送信したページャが、基地局から、許可信号を受け取り、ページングメッセージを中央局に送信するという動作に利用される信号であるから、ページングメッセージの送信に関係する信号といえる。
そうすると、本件発明2の「リクエスト信号」と甲1発明の「予約信号」は、ともに、メッセージの送信に関係する信号である点では共通するものの、送信するメッセージが異なるため、両者は同じ信号とはいえない。ここで、メッセージの送信に関係する当該「信号」を、他の信号と区別するために、便宜上、「第2の信号」という。
したがって、本件発明2の「リクエスト信号」と甲1発明の「予約信号」は、メッセージの送信に関係する第2の信号である点で共通し、甲1発明の「予約信号」が本件発明2の「リクエスト信号」ではない点で相違する。
また、甲1発明の「メッセージ信号は位置登録」を含むものであって、甲1発明において「移動局」が「基地局に・・・位置登録等でアクセスを行なおう」とする際、上記「メッセージ信号」の送信を行なおうとすることは明らかである。そうすると、「基地局に・・・位置登録等でアクセスを行なおうとする移動機」は、送信する位置登録のメッセージ信号、そして当該メッセージ信号に含まれる位置登録に関するメッセージを有する場合の移動機といえる。
よって、本件発明2の「該ページャが送信すべきページングメッセージを有する場合に、該リクエストエネーブル信号を受け取ると、リクエスト信号を該ページャから該中央局に送信すること」と、甲1発明の「基地局に発呼や位置登録等でアクセスを行なおうとする前記移動機は、モニターした制御チャネルのR/M信号がR信号になると、予約信号を前記移動機から前記基地局に送信すること」は、端末が送信すべきメッセージを有する場合に、第1の信号を受け取ると、メッセージの送信に関係する第2の信号を端末から局側装置に送信すること、である点で共通する。
(4)甲1発明の「次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号」は、基地局が移動機に送信し、受け取った移動機が、メッセージ信号を基地局に送信するという動作に利用される信号であるから、メッセージ信号に含まれるメッセージの送信に関係する信号といえる。
これに対し、本件発明2の「許可信号」は、中央局がページャに送信し、受け取ったページャが、ページングメッセージを中央局に送信するという動作に利用される信号であるから、ページングメッセージの送信に関係する信号といえる。
そうすると、本件発明2の「許可信号」と甲1発明の「次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号」は、ともに、メッセージの送信に関係する信号である点では共通するものの、送信されるメッセージが異なるため、両者は同じ信号とはいえない。ここで、メッセージの送信に関係する当該「信号」を、他の信号と区別するために、便宜上、「第3の信号」という。
したがって、本件発明2の「許可信号」と甲1発明の「次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号」は、メッセージの送信に関係する第3の信号である点で共通し、甲1発明の「次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号」が本件発明2の「許可信号」ではない点で相違する。
よって、本件発明2の「該ページャからの該リクエスト信号に応答して、許可信号を該中央局から該ページャに送信すること」と、甲1発明の「前記移動局からの前記予約信号に応答して、M信号と予約受付番号を含む下り制御信号を前記基地局から前記移動機に送信すること」は、端末からの第2の信号に応答して、メッセージの送信に関係する第3の信号を局側装置から端末に送信すること、である点で共通する。
(5)本件発明2の「該許可信号を受け取ると、該ページングメッセージを該ページャから該中央局に送信すること」と、甲1発明の「前記M信号及び前記予約受付番号を含む下り制御信号を受け取ると、前記メッセージ信号を前記移動機から前記基地局に送信する」ことは、甲1発明のメッセージ信号にメッセージが含まれることは明らかであるから、第3の信号を受け取ると、メッセージを端末から局側装置に送信すること、である点で共通する。
したがって、上記(1)ないし(5)を総合すれば、本件発明2と甲1発明は、以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
「システムを動作させる方法であって、
メッセージの送信に関係する第1の信号を局側装置から端末に送信することと、
前記端末が送信すべきメッセージを有する場合に、前記第1の信号を受け取ると、前記メッセージの送信に関係する第2の信号を前記端末から前記局側装置に送信することと、
前記端末からの前記第2の信号に応答して、前記メッセージの送信に関係する第3の信号を前記局側装置から前記端末に送信することと、
前記第3の信号を受け取ると、前記メッセージを前記端末から前記局側装置に送信することと、
を含む方法。」
<相違点1>
「端末」、「局側装置」及び「システム」が、本件発明2ではそれぞれ「ページャ」、「中央局」及び「双方向ページングシステム」であるのに対し、甲1発明ではそれぞれ「大容量自動車電話システム」における「移動機」、「基地局」及び「大容量自動車電話システム」であって、本件発明2で特定されている「ページャ」、「中央局」及び「双方向ページングシステム」ではない点。
<相違点2>
「第1の信号」が、本件発明2では「リクエストエネーブル信号」であるのに対し、甲1発明では「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号」であって、本件発明2で特定されている「リクエストエネーブル信号」ではない点。
<相違点3>
「メッセージ」が、本件発明2では「ページングメッセージ」であるのに対し、甲1発明では「位置登録、発信、ダイヤル情報等」であって、本件発明2で特定されている「ページングメッセージ」ではない点。
<相違点4>
「第2の信号」が、本件発明2では「リクエスト信号」であるのに対し、甲1発明では「予約信号」であって、本件発明2で特定されている「リクエスト信号」ではない点。
<相違点5>
「第3の信号」が、本件発明2では「許可信号」であるのに対し、甲1発明の「次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号」であって、本件発明2で特定されている「許可信号」ではない点。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、上記相違点1ないし相違点5で相違するから、本件発明2は甲1発明であるとはいえない。
5 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「7」の「(4)」の「ウ」の「(ア)」において、「「ページングシステム」は、「ポケットベル」とも呼ばれており、「移動体通信システムの一つである無線呼出し」「端末を携帯する相手に信号や非常に短いメッセージ、データを一方通行で送るシステム」と定義されている(甲3)。すなわち、受信者の端末に対して一方通行でメッセージを送信することで、受信者の呼び出しを行うシステムを意味するものである。/ そして、「ページャ」とは、かかるページングシステムで用いられる端末であり、一方通行で呼び出しがあったことを知らせる無線呼出受信機器を意味するものであり、無線電話とは全く異なるものである。/ この点、本件特許の明細書(以下、「本件明細書」という。)では、「ページャを電話(例えば、移動無線電話)に接続しようとする」「無線ページャの全体と、無線電話とを自動ダイアラを通してリンクする」「ページングとセルラ無線電話機能とを単一のユニット内に結合した」と記載されており(4欄7行~13行)、「無線電話」と「ページャ」「ページング」とが明確に区別されている。」と主張している。すなわち、請求人は、上記「4」の「(1)」や「<相違点1>」で説示したように、本件発明2の「ページングシステム」、「ページャ」と、甲1発明の「大容量自動車電話システム」、「移動機」とが相違するとした判断を認めていることは明らかである。また、この点は、令和5年4月27日に提出された口頭審理陳述要領書の「第3」においても、「本件発明2の「ページャ」は「ポケベル」として知られている端末を表していると解するものであり、本件発明2の「ページャ」と、甲1発明の「移動機」・・・は相違し、本件発明2の「双方向ページングシステム」と、甲1発明の「無線電話システム」・・・は相違するという合議体の考えに、反論はない。」とも主張していることからも明らかである。
そうすると、本件発明2と甲1発明の間に相違点があることを請求人も認めており、本件発明2は甲1発明ではないという上記「4」の結論に対して、請求人は異を唱えるものではない。
そして、請求人は、上記のように、本件特許の「ページングシステム」、「ページャ」と、甲1発明の「大容量自動車電話システム」、「移動機」とはそれぞれ相違するものと認めた上で、審判請求書の「7」の「(4)」の「ウ」の「(ア)」において、「本件特許に基づく特許侵害訴訟(東京地方裁判所令和2年(ワ)第32736号。以下「別件訴訟」という。)において、被請求人は、「構成要件Aの『双方向ページングシステム』とは、遠隔地に所在する人々に連絡をとるために通信パケットを送信するといった包括的な双方向無線データ送受信システムを意味する」と主張している」から、このような「被請求人の解釈を前提とすれば、甲1発明の「無線電話システム」は本件発明の「双方向ページングシステム」に相当する。」と主張している。しかしながら、上記「4」の「ア」や「<相違点1>」で判断したように、本件特許の「ページングシステム」、「ページャ」と、甲1発明の「大容量自動車電話システム」、「移動機」とはそれぞれ相違するものであり、また、被請求人の「甲1発明の「無線電話システム」は本件発明の「双方向ページングシステム」に相当する。」との主張は、本件発明2の記載及び明細書等の記載に基づいたものではないから、被請求人の主張を前提とした、甲1発明の「大容量自動車電話システム」は本件発明の「双方向ページングシステム」に相当するという主張を採用することはできない。
その他、請求人は「甲1発明の「R信号」は本件発明の「リクエストエネーブル信号」に相当する。」(審判請求書の「7.」の「(4)」の「ウ」の「(イ)」)、「甲1発明の「メッセージ」「予約信号」はそれぞれ、本件発明の「ページングメッセージ」「リクエスト信号」に相当する」(審判請求書の「7.」の「(4)」の「ウ」の「(ウ)」)、「甲1発明の「予約信号」「M信号及び予約受付番号」はそれぞれ、本件発明の「リクエスト信号」「許可信号」に相当する」(審判請求書の「7.」の「(4)」の「ウ」の「(エ)」)、「甲1発明の「M信号及び予約受付信号」「メッセージ」はそれぞれ、本件発明の「許可信号」「ページングメッセージ」に相当する」(審判請求書の「7.」の「(4)」の「ウ」の「(オ)」)と主張している。しかしながら、その主張のいずれも、上記被請求人の別件訴訟における解釈を前提としたものであり、上記「4」で判断したように、本件特許の「ページングシステム」、「ページャ」と、甲1発明の「大容量自動車電話システム」、「移動機」とはそれぞれ相違するものであって、それぞれで用いられている本件特許の「リクエストエネーブル信号」、「リクエスト信号」、「許可信号」、「ページングメッセージ」と、甲1発明の「R(Reservation)信号」、「予約信号」、「M(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号」、「メッセージ信号」に含まれる「位置登録、発信、ダイヤル情報等」のメッセージも、それぞれ相違するものであるから、上記主張はいずれも採用することはできない。
同様の主張を令和4年3月24日に提出された審判事件弁駁書においても主張しているが、上記と同様の理由により、いずれも採用することはできない。
6 小括
よって、本件発明2は甲1発明でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、無効とすることはできない。
7 予備的見解(進歩性について)
ここで、上記「4」で検討した相違点について、以下、予備的に検討しておく。
まず、上記相違点1について検討する。上記「4」の「(1)」で検討したように、甲1発明の「移動機」は電話端末であって、受信したメッセージや英数字メッセージデータをユーザがみることができるようにする端末である「ページャ」ではなく、甲1発明の「移動機」を「ページャ」とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとの証拠もないから、甲1発明における「移動機」を「ページャ」とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
同様に、甲1発明の「基地局」及び「大容量自動車電話システム」を、それぞれ「中央局」、及び「双方向ページングシステム」とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとの証拠もないから、甲1発明の「基地局」及び「大容量自動車電話システム」を、それぞれ「中央局」、及び「双方向ページングシステム」とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
次に、事案に鑑みて、上記相違点3について検討する。上記「4」の「(2)」で検討したように、甲1発明の「メッセージ信号」に含まれる「メッセージ」は、「位置登録、発信、ダイヤル情報等」といった制御に関するメッセージといえるものであり、「ページングメッセージ」、すなわちユーザに見せるための「英数字メッセージ」ではない。また、甲1発明の「位置登録、発信、ダイヤル情報等」といった制御に関するメッセージを、「ページングメッセージ」とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとの証拠もないから、甲1発明の「位置登録、発信、ダイヤル情報等」といった制御に関するメッセージを、「ページングメッセージ」とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
さらに、上記相違点2について検討する。上記相違点3において検討したように、甲1発明の「位置登録、発信、ダイヤル情報等」といった制御に関するメッセージは、「ページングメッセージ」、すなわちユーザに見せるための「英数字メッセージ」ではなく、甲1発明の上記メッセージの送信に関係する「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号」を、「ページングメッセージ」の送信に関係する「リクエストエネーブル信号」とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとの証拠もないから、甲1発明における「次の制御チャネルが予約用であることを指定するR(Reservation)信号」を、「ページングメッセージ」の送信に関係する「リクエストエネーブル信号」とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
そして、上記相違点4及び5について検討するに、上記相違点2において検討したのと同様に、甲1発明の「位置登録、発信、ダイヤル情報等」といった制御に関するメッセージの送信に関係する「予約信号」を、「ページングメッセージ」の送信に関係する「リクエスト信号」とすること(上記相違点4)、及び甲1発明の「位置登録、発信、ダイヤル情報等」といった制御に関するメッセージの送信に関係する「次の制御チャネルがメッセージ転送用であることを指定するM(Message)信号と予約受付番号を含む下り制御信号」を、「ページングメッセージ」の送信に関係する「許可信号」とすること(上記相違点5)は、当業者が容易になし得たとはいえない。
したがって、本件発明2は甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定によっても無効とすることはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明2についての特許を、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-800053