特許異議申立
2021-700476
人形の製造方法
- 審判番号
- 2021-700476
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-137802
- 登録番号
- 特許第6796900号(P6796900)
- 請求日
- 2021年05月19日
- 審決日
- 2021年08月17日
- 公報発行日
- 2021年10月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社成島
- 【権利者代理人】特許業務法人 日峯国際特許事務所
- 【異議申立人】株式会社 松永
- 【異議申立人代理人】浜田 治雄
- 【異議申立人】有限会社 人形の秀隆
- 【異議申立人代理人】浜田 治雄
- 【異議申立人】佳正工房
- 【異議申立人代理人】浜田 治雄
- 【異議申立人】株式会社 山▲崎▼
- 【異議申立人代理人】浜田 治雄
- 【異議申立人】有限会社 正栄 曽根人形店
- 【異議申立人代理人】浜田 治雄
- 【異議申立人】株式会社 工房天祥
- 【異議申立人代理人】浜田 治雄
- 【異議申立人】有限会社 大生人形
- 【異議申立人代理人】浜田 治雄
- 【異議申立人】株式会社 雛の廣榮
- 【異議申立人代理人】浜田 治雄
- 審判長/審判官
- 審判長 吉村 尚
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 藤田 年彦
- 分類
- P1651.112-Y (A63H) / P1651.121-Y (A63H) / P1651.536-Y (A63H) / P1651.537-Y (A63H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第2号、特許法第36条、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6796900号発明「人形の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6796900号の請求項に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6796900号(以下「本件特許」という。)の請求項1乃至請求項5に係る特許についての出願は、令和2年8月18日に出願され、令和2年11月19日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年5月19日に特許異議申立人 株式会社松永、特許異議申立人 有限会社人形の秀隆、特許異議申立人 佳正工房、特許異議申立人 株式会社山▲崎▼、特許異議申立人 有限会社正栄 曽根人形店、特許異議申立人 株式会社工房天祥、特許異議申立人 有限会社大生人形及び特許異議申立人 株式会社雛の廣榮(以上、まとめて「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許発明
特許第6796900号の請求項1乃至5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」乃至「本件特許発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
別々に作製された人形の各パーツ及び柄の入った織物を取り寄せる準備工程と、
前記各パーツの立体形状及び前記織物の柄をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積する取込み工程と、
取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程と、
加工後の前記立体形状から立体物を成形するとともに、抽出された前記模様を無地又は地紋入りの生地に印刷する成形工程と、
印刷後の前記生地から前記模様を含む裂地を切り出して、成形された前記立体物に貼り付けた上で組み立てる仕上げ工程と、を有する、
ことを特徴とする人形の製造方法。
【請求項2】
別々に作製された人形の各パーツ及び柄の入った織物を取り寄せる準備工程と、
前記各パーツの立体形状及び前記織物の柄をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積する取込み工程と、
取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程と、
加工後の前記立体形状から立体物を成形するとともに、抽出された前記模様を無地又は地紋入りの生地に印刷する成形工程と、
印刷後の前記生地から前記模様を含む衣裳を切り出して、成形された前記立体物を組み立てた上で着せ付ける仕上げ工程と、を有する、
ことを特徴とする人形の製造方法。
【請求項3】
前記取込み工程は、前記各パーツの立体形状を3Dスキャナで取り込み、
前記編集工程は、取り込まれた前記立体形状の三次元データを3D触力覚インタフェースデバイスで加工し、
前記成形工程は、加工後の前記立体形状から立体物を3Dプリンタ又は3D切削加工機で成形する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の人形の製造方法。
【請求項4】
前記仕上げ工程は、印刷後の前記生地から裂地又は衣裳をレーザーで切り出すことにより前記裂地又は前記衣裳の端が解れないように焼く、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の人形の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程は、抽出された前記模様を地紋入りの生地に印刷する際に、前記地紋に前記模様のインクの色が載らないように予め金糸を織り込んでおく、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の人形の製造方法。」
第3 申立理由の概要
1 申立理由1(公然実施)
本件特許の請求項1乃至2に係る特許は、その出願前に日本国内又は外国において、公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないものである。
2 申立理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1乃至5に係る特許は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第5乃至8、11及び12-1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲第9及び10号証)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 申立理由3(実施可能要件)
請求項1乃至5に係る特許は、本件明細書の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
4 申立理由4(明確性要件)
本件特許の請求項1乃至5に係る特許は、本件特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
第4 各甲号証の記載
1 公然実施に係る証拠
1-1 甲第2-1号証乃至甲第2-4号証
(1)甲第2-1号証
異議申立人が提出した甲第2-1号証である「宣誓書」(有限会社大生人形 大豆生田博、2021年5月13日付け)には、以下の記載がある。
「
」
(2)甲第2-2号証
異議申立人が提出した甲第2-2号証である「依頼書」(依頼者 団体名 有限会社大生人形、平成30年5月16日受付)には、以下の記載がある。
「
」
(3)甲第2-3号証
異議申立人が提出した甲第2-3号証である「使用消耗品明細書」(埼玉県産業技術総合センター長、平成30年5月16日付け)には、以下の記載がある。
「
」
(4)甲第2-4号証
異議申立人が提出した甲第2-4号証である「試験研究機器利用許可書」(埼玉県産業技術総合センター長、平成30年5月16日付け)には、以下の記載がある。
「
」
(5)甲第2-1号証乃至甲第2-4号証から認定できる事項
有限会社大生人形 大豆生田博は、2018年(平成30年)6月16日に、埼玉県産業技術総合センターで、非接触形状測定機(3Dスキャナ)スタインベクラー社comets1Mを用いて、雛人形の頭部をスキャンして、STLデータを抽出し、インクジェット式積層造形装置(3Dプリンタ)Stratasys社製Object260 Connex3を用いて、前記STLデータから3分の1に縮小した雛人形頭部を製造し、同日に、株式会社雛の廣榮に雛人形頭部(柳-No.31 13人揃1組、芥子YT-1組)を納品した。
1-2 甲第3-1号証乃至甲第3-4号証
(1)甲第3-1号証
異議申立人が提出した甲第3-1号証である「宣誓書」(株式会社雛の廣榮 矢作悦士、3年5月14日付け)には、以下の記載がある。
「
」
(2)甲第3-2号証
異議申立人が提出した甲第3-2号証である「受領書」(株式会社雛の廣榮、平成30年6月25日)には、以下の記載がある。
「
」
(3)甲第3-3号証
異議申立人が提出した甲第3-3号証からは、雛人形の展示空間であることが看取できる。
「
」
(4)甲第3-1号証乃至甲第3-3号証から認定できる事項
甲第3-1号証乃至甲第3-3号証のいずれにも、有限会社大生人形と株式会社雛の廣榮との間で、雛人形頭部が売買された事実は、何ら示されていない。
そうすると、甲第3-1号証で記載されているところの「株式会社雛の廣榮は、2018年(平成30年)6月16日に、有限会社大生人形が、埼玉県産業技術総合センターで、非接触形状測定機(3Dスキャナ)スタインベクラー社comets-1 1Mを用いて、雛人形の頭部をスキャンして、STLデータを抽出し、インクジェット式積層造形装置(3Dプリンタ)Stratasys社製Object260 Connex3を用いて、前記STLデータから3分の1に縮小して製造した雛人形頭部(柳-No.31 13人揃1組、芥子YT-1組)を、同日に購入し」た事実は確認できない。
また、上記1-1のとおり、甲第2-1号証乃至甲第2-4号証から、雛人形頭部から雛人形を製造した事実も確認できないことから、上記甲第3-1号証で記載されているところの「頭部の一体」から「雛人形」を製造した事実も確認できない。
さらに、甲第3-2号証には、受領印が押印されていないから、上記甲第3-1号証で記載されているところの「頭部の一体を雛人形として、同年6月25日に株式会社堀川商店(石川県金沢市問屋町1-34)に販売」した事実は確認できない。
さらに、甲第3-3号証からは、何時撮影した画像で、撮影対象が何であるのかは不明で有り、また、写っている雛人形の製造。販売過程も不明であるから、上記甲第3-1号証で記載されているところの「同年6月に雛人形五段飾りとして展示販売した」事実は確認できない。
以上のことから、甲第3-1号証に記載された事項は、何ら認めることができない。
1-3 甲第4-1号証乃至甲第4-4号証
(1)甲第4-1号証
異議申立人が提出した甲第4-1号証である「宣誓書」(株式会社松永 飯島直也、2021年5月14日付け)には、以下の記載がある。
「
」
(2)甲第4-2号証
異議申立人が提出した甲第4-2号証である「納品書」(CGiN graphicsoftwareshop、注文日:2018/03/01)には、以下の記載がある。
「
」
(3)甲第4-3号証
異議申立人が提出した甲第4-3号証である「請求書」(日本3Dプリンター株式会社、2018年03月06日)には、以下の記載がある。
「
」
(4)甲第4-4号証
異議申立人が提出した甲第4-4号証は「株式会社松永 雛人形ふわりカタログ」である。
(5)甲第4-5号証
異議申立人が提出した甲第4-5号証である「請求書」(株式会社ポイントライン、2019年10月28日)には、以下の記載がある。
「
」
(6)甲第4-1号証乃至甲第4-5号証から認定できる事項
甲第4-3号証からは、3DスキャナEinScan-SEを購入した事実は確認できるが、上記甲第4-1号証で記載されているところの「同年に3DプリンターQholia(株式会社久宝金属製作所製)を購入」した事実は確認できない。
また、甲第4-4号証からは、上記甲第4-1号証で記載されているところの「同年(2018年)に3DプリンターQholia(株式会社久宝金属製作所製)を購入し、過去に設計製造販売した雛人形を3Dスキャナでスキャンして得られたSTLデータをソフトウェアで変換して形やサイズを変えて新たな原型を製作し、そのSTLデータを用いて3Dプリンタで印刷し、新たな雛人形を製造販売した。販売している雛人形は同年発行のパンフレットに記載されている。」事実は確認できない。
以上のことから、甲第4-1号証乃至甲第4-5号証から認定できる事項は、「松永隆志は、2018年(平成30年)3月1日に、株式会社ボーンデジタルから、Pixologic ZBrush 4RBソフトウェアを購入し、株式会社松永は、2018年3月6日に、日本3Dプリンター株式会社から3DスキャナEinScan-SEを購入したこと、及び、「ひととえシリーズ」カタログが2019年10月28日に製本されたものであること。」と認める。
1-4 公然実施発明
上記1-1乃至1-3より、次の発明(以下「公然実施発明」という。)が、本件特許に係る出願前に公然実施されていたものと認める。
「非接触形状測定機を用いて、雛人形の頭部をスキャンして、インクジェット式積層造形装置を用いて、雛人形頭部を製造する製造方法。」
2 進歩性欠如に係る証拠
(1)甲第5号証
本件特許に係る出願の出願前に頒布された甲第5号証(国際公開第2019/049298号)には、次の事項が記載されている。(下線は、当決定において付した。以下、同様。)
ア 「【0023】
1.構成
図1は、一実施形態に係る3Dデータシステム1の概略を示す図である。3Dデータシステム1は、被写体の表面を撮影した画像(以下「撮影画像」という)を用いて3Dモデリングデータを生成し、これを記憶し、さらに要求に応じて3Dモデリングデータをアプリケーションに提供するシステムである。「被写体」は3Dモデリングデータを生成する対象となる物体をいい、人間や動物などの生物、及び人形や家具などの無生物を含む。3Dモデリングデータは、3Dモデルを表示するためのデータをいう。3Dモデルとは、3次元仮想空間における立体のデータをいう。3Dモデルは、少なくとも、被写体の表面形状及び表面の色彩に関する情報を含む。
【0024】
3Dデータシステム1は、3Dデータ入力システム10、3Dデータ処理システム20、及びアプリケーション30を有する。3Dデータ入力システム10は、撮影画像から3Dモデリングデータを生成する。3Dデータ入力システム10は、例えばいわゆる3Dスキャナを含む。3Dデータ処理システム20は、3Dデータ入力システム10により生成された3Dモデリングデータを処理及び記憶する。アプリケーション30は、3Dモデリングデータを利用した製品又はサービスをユーザに提供する。なお図では3Dデータ入力システム10及びアプリケーション30はそれぞれ1つずつ示されているが、3Dデータシステム1は、3Dデータ入力システム10及びアプリケーション30の少なくともいずれか一方を複数、有してもよい。一例として、3Dデータ入力システム10はローカルなシステムであり、3Dデータ処理システム20はネットワーク上のシステム、いわゆるクラウドシステムである。」
イ 「【0031】
図3は、3Dデータ入力システム10の構成を例示する図である。この例において、3Dデータ入力システム10は、いわゆる3Dスキャナである。3Dデータ入力システム10は、センサー群SD、ステージT、フレームF、及び画像処理装置100を有する。センサー群SDは、カメラC及び距離センサーDのセットを複数、含む。センサー群SDが固定された状態において、各カメラCは、被写体Sの表面のうちある限られた一部の領域のみを撮影する。距離センサーDは、その距離センサーDが設置された位置(基準位置の一例)から被写体Sの表面までの距離を検知する。距離センサーDは、赤外光等の可視光外の波長で所定のパターン図形(例えば格子)の像を投写する投写部、及び投写された像を読み取る撮像部を有する。セットになっているカメラC及び距離センサーDは、共通のマウント台Mに固定され、両者の光軸はほぼ同じ位置を向いている。フレームF(センサー群SD)は、ステージTに対し相対的に回転する。設置面に対しフレームFが固定された状態でステージTが回転してもよいし、設置面に対しステージTが固定された状態でフレームFがステージTの回りを回転してもよい。フレームFとステージTとが相対的に回転している間に、カメラCは被写体Sを撮影する。フレームFとステージTと相対的に静止している状態では、センサー群SDは被写体Sの表面のうちある限られた一部の領域のみしかカバーしていない。しかし、フレームFとステージTとを相対的に360°回転させ、その間に連続的に撮影することによって、センサー群SDは被写体Sの表面の全領域を撮影する。」
ウ 「【0074】
2-1-4.3Dモデリングデータの利用
図13は、3Dモデリングデータを利用する処理の詳細を例示する図である。図13の処理は、例えば、アプリケーション30のユーザが、3Dモデリングデータの取得を指示したことを契機として開始される。
【0075】
ステップS31において、アプリケーション30は、3Dデータ処理システム20に3Dモデリングデータを要求する。この要求は、3Dモデリングデータを特定する情報、例えば被写体のIDを含む。あるいは、この要求は、3Dデータシステム1が記憶している3Dモデリングデータから所望のデータを検索するための検索キーを含んでいてもよい。この場合、3Dデータ処理システム20は、検索キーに適合する3Dモデリングデータの一覧をアプリケーション30に送信する。アプリケーション30は、この一覧の中から一の3Dモデリングデータを選択する。選択された3Dモデリングデータを特定する情報は、3Dデータ処理システム20に出力される。
【0076】
この要求は、3Dモデリングデータを特定する情報に加え、個性データを特定する情報を含んでもよい。1つの3Dモデリングデータに複数種類の個性データが付加されている場合において、特定のアプリケーション30がこれら複数種類の個性データを全て必要としているとは限らない。そこで、アプリケーション30は自身が必要とする個性データをのみを3Dデータ処理システム20に要求する。
【0077】
ステップS32において、3Dデータ処理システム20は、要求された3Dモデリングデータ及び個性データを、要求元のアプリケーション30に出力する。アプリケーション30が特定の個性データのみを要求している場合、3Dデータ処理システム20は、3Dモデリングデータに加え、要求された個性データのみを出力する。
【0078】
ステップS33において、アプリケーション30は、3Dデータ処理システム20から取得した3Dモデリングデータ及び個性データを用いて製品又はサービスを提供する。3Dデータシステム1において、異なる種類のアプリケーションが、共通の3Dモデリングデータ及び個性データを用いることができる。アプリケーション30は、例えば、IDカード、名刺、ヴァーチャルコミュニケーション、ビデオゲーム、着せ替え(試着)、採寸、ヴァーチャルシアター、フィットネス、医療、及び映画製作のうち少なくとも1つを含む。アプリケーション30は、スマートフォン等の携帯端末で動作してもよいし、据え置きのパーソナルコンピュータで動作してもよい。
…
【0083】
着せ替えは、仮想空間において人体モデルに服を着せるアプリケーションである。この人体モデルとして、本実施形態に係る3Dモデルが用いられる。人体モデルは服を着た状態で仮想空間内を移動する(いわゆるランウェイウォーク)。このとき、この人体モデルは、そのユーザに対応する動きの特徴(例えば、歩き方)を有している。」
エ 上記アの「3Dデータ入力システム10は、撮影画像から3Dモデリングデータを生成する。3Dデータ入力システム10は、例えばいわゆる3Dスキャナを含む。」より、3Dモデリングデータの生成は、3Dスキャナによるものといえる。
上記ア乃至エの事項から、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。
「被写体の表面を撮影した撮影画像を用いて、3Dスキャナにより、3Dモデルを表示するための3Dモデリングデータを生成し、これを記憶し、3Dモデリングデータをアプリケーションに提供する3Dデータシステム1であって、
「被写体」は人形であり、
アプリケーションは、3Dモデリングデータを用いて、仮想空間において3Dモデルを用いた人体モデルに服を着せる着せ替え(試着)である、
3Dデータシステム1。」
(2)甲第6号証
本件特許に係る出願の出願前に頒布された甲第6号証(特開2018-44270号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0023】
図1に示す製造システム10は、液体に対する浸透性を有する織物などの浸透性媒体を使用した製品(以下「浸透性媒体製品」と言う。)を製造するシステムである。製造システム10は、PC(PersonalComputer)などのコンピューター20と、立体物から3Dデータを読み取るための3Dスキャナー30と、浸透性媒体に印刷を実行するためのインクジェットプリンター40と、浸透性媒体を裁断するためのレーザーカッター60と、接着剤による接着を実行するための接着装置70とを備えている。」
イ 「【0073】
図8は、製造システム10を利用した製造方法のフローチャートである。」
ウ 「【0082】
図9は、S101の加工用データ生成工程のフローチャートである。
【0083】
図9に示すように、作業者は、顧客である人物の3D寸法を計測する(S131)。ここで、作業者は、例えば、3Dスキャナー30を使用して人物の3D寸法を計測しても良いし、メジャーを使用して手作業で人物の3D寸法を計測しても良い。」
エ 「【0099】
作業者は、S132の処理で決定した内容を、S132の処理の後の任意のタイミングで変更可能である。同様に、作業者は、S133~S135の処理で決定した内容を、それぞれの処理の後の任意のタイミングで変更可能である。作業者は、S132~S135の処理で決定した内容を最終決定する指示を操作部21を介して入力することによって、顧客の3D寸法に適したオリジナルデザインのチョッキの加工用データ24b(図2参照。)をコンピューター20に生成させる(S136)ことができる。すなわち、加工用データ24bには、画像印刷用データ24c、接着剤付着用データ24dおよび裁断用データ24eが含まれる。」
オ 「【0103】
インクジェットプリンター40の制御部55は、画像印刷用データ24cが通信部54などを介して入力されると、入力された画像印刷用データ24cに基づいて、画像印刷用ヘッド43、画像印刷用照射装置44および画像印刷用キャリッジ移動装置52を制御する。具体的には、制御部55は、画像印刷用キャリッジ移動装置52によって台41に対する副走査方向における画像印刷用キャリッジ45の位置を変更する度に、画像印刷用キャリッジ移動装置52によって主走査方向に画像印刷用キャリッジ45を移動させながら、画像印刷用ヘッド43および画像印刷用照射装置44によって画像印刷用インク43aによる画像を浸透性媒体12に印刷する。すなわち、インクジェットプリンター40は、画像印刷用ヘッド43によって画像印刷用インク43aを浸透性媒体12に付着させた直後に、この画像印刷用インク43aに所定の強度の紫外線を画像印刷用照射装置44によって照射することによって、この画像印刷用インク43aを瞬間的に乾燥させながら硬化させて、画像印刷用データ24cに基づいた画像を浸透性媒体12に印刷する。」
カ 「【0120】
レーザーカッター60の制御部66は、裁断用データ24eが通信部65などを介して入力されると、入力された裁断用データ24eに基づいて、レーザー照射装置62およびキャリッジ移動装置64を制御する。具体的には、制御部66は、キャリッジ移動装置64によって台61に対する副走査方向におけるキャリッジ63の位置を変更する度に、キャリッジ移動装置64によって主走査方向にキャリッジ63を移動させながら、レーザー照射装置62によって浸透性媒体12を、裁断用データ24eによって示された通りに裁断する。」
上記ア乃至カの記載事項から、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。
「コンピューター20と、立体物から3Dデータを読み取るための3Dスキャナー30と、浸透性媒体に印刷を実行するためのインクジェットプリンター40と、浸透性媒体を裁断するためのレーザーカッター60と、接着剤による接着を実行するための接着装置70とを備えている製造システム10を利用した浸透性媒体製品の製造方法であって、
3Dスキャナー30を使用して人物の3D寸法を計測し、
3D寸法に適したオリジナルデザインのチョッキの加工用データ24bをコンピューター20に生成させ、
加工用データ24bには、画像印刷用データ24c、接着剤付着用データ24dおよび裁断用データ24eが含まれ、
画像印刷用データ24cに基づいた画像を浸透性媒体12に印刷し、
レーザー照射装置62によって浸透性媒体12を、裁断用データ24eによって示された通りに裁断する、
製造システム10を利用した浸透性媒体製品の製造方法。」
(3)甲第7号証
本件特許に係る出願の出願前に頒布された甲第7号証(特開平8-30661号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0011】次に、本実施例によるイメージデータ編集装置における単位パターン抽出機能の処理の流れを図4のフローチャートにより説明する。
【0012】CRT3に生地柄のイメージデータが表示されているものとする。先ず、イメージデータの表示範囲を縦線によって分割する位置の入力を要求する(S401、Sはステップを示す。以下同様)。使用者は、分割位置として、縦方向のパターンの繰り返しが判定しやすい位置を縦線によって指定する。一般的には、特徴的な図柄を切断するような位置が望ましい。位置が指定されると、表示分割プログラム25は指定された位置で表示範囲を縦線によって分割する(S402)。このS401、S402の処理工程は表示分割手段として機能する。【0013】次には、移動量指定状態になり、使用者によるマウスの操作に従って、表示移動プログラム26は、分割された表示範囲の一方を縦線に平行に移動する(S403)。そして、所要量離間した縦周期位置まで移動して確定が指示されると、そのときの移動量を縦サイズ23に記憶する(S404)。【0014】同様にして、S405からS408の処理によって、先ず、横線によって表示範囲を分割し、分割された表示範囲の一方を横線に平行に所要量離間した横周期位置まで移動し、その移動量を横サイズ24に記憶する。【0015】そして、縦サイズ23及び横サイズ24に記憶されたサイズの矩形を、使用者のマウスの移動に従って、イメージデータに重ねて表示する(S409)。図5はイメージデータ上で単位パターンの位置を選択した状態を説明する図である。単位パターンとしては図柄の区切れを考慮して位置を選択するのが望ましい。位置の確定が指示されると、パターン抽出プログラム27は指定された範囲内の単位パターンを抽出させ、その単位パターンを単位パターンデータ22に記憶する(S410)。なお、このS410の処理工程は、パターン抽出手段として機能する。以上が単位パターン抽出機能の説明である。」
上記アの記載事項から、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されているものと認められる。
「単位パターン抽出機能の処理であって、
CRT3に生地柄のイメージデータを表示し、
縦サイズ23及び横サイズ24に記憶されたサイズの矩形を、使用者のマウスの移動に従って、イメージデータに重ねて表示し、位置の確定が指示されると、パターン抽出プログラム27は指定された範囲内の単位パターンを抽出する、単位パターン抽出機能の処理。」
(4)甲第8号証
本件特許に係る出願の出願前に頒布された甲第8号証(実用新案登録第308738号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0023】
図1及び図2を参照すると、本考案に係る臍帯保管人形1は、臍帯入れた容器を、人形の内部に保管して、臍帯を安全に保管することができ、赤ちゃんの誕生記念品として大事にすることができ、頭部10と、胴部20と、下半身部30及び保管容器40とを含んで形成される。
【0024】
前記頭部10は、臍帯保管人形1の頭を形成し、実際の赤ちゃんの顔の様子と同一または類似するように、3Dプリンタで製作し、下部に連結突起11を備えて、前記胴部20の連結溝23に着脱可能に連結される。
【0025】
このため、両親から提供された赤ちゃんの写真などの画像をもとに、3Dモデリング処理した後、3Dプリンタで印刷し、印刷物に対する処理、及び後加工の作業をしてから、塗装作業をして、電気窯で焼いて作る。」
上記アの記載事項から、甲第8号証には、次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているものと認められる。
「頭部10と、胴部20と、下半身部30及び保管容器40とを含む臍帯保管人形1の形成方法であって、
頭部10は、実際の赤ちゃんの顔の様子と同一または類似するように、両親から提供された赤ちゃんの写真などの画像をもとに、3Dモデリング処理した後、3Dプリンタで印刷して製作した、臍帯保管人形1の形成方法。」
(5)甲第9号証
本件特許に係る出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第9号証(文:羽根田真智 写真:松嶋愛,“3Dプリンター製ひな人形がママに大うけ”,[online],2019年4月18日,生活発展|テクノロジーで変革する中小企業の未来,[2021年5月18日出力],インターネット<URL:https://change.asahi.com/articles/0002/>)には、次の事項が記載されている。
ア 「三つ目の“常識破り”は、これまたすごい。なんと、3Dプリンターで人形を作っているのだ。
本来、人形の顔は、造形をする職人が粘土を削って原型を仕上げ、それを別の職人に渡して型を取る。この型抜きの段階で、原型は壊れてしまう。お客さまから「もう少し目が大きい方がかわいい」といった声を聞いても、これまでの方法だと粘土をこねて一から原型を作らなければならず、当然、まったく同じ原型はできない。だから、お客様の声をうまく反映しづらい。
「3D機器を取り入れることで、パソコンの中で3次元の造形物を作り、プリンターで出力して原型を作れるようになりました。これなら、お客様のニーズに応じて修正したいと思ったときは、データを立ち上げれば済む。発売後も、お客様の声を聞きながら微調整し、より良いものに改良することが容易にできます。毎年いろんな種類の新商品を開発できるようにもなりました」」(出力頁9/17~10/17)
イ 上記ア「人形の顔は、造形をする職人が粘土を削って原型を仕上げ、それを別の職人に渡して型を取る」との記載より、人形作り方法における、人形の顔の工程には、原型から型を取る工程を含むものと認める。 上記アの記載事項から、甲第9号証には、次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されているものと認められる。「人形作り方法における、人形の顔の工程に、パソコンの中で3次元の造形物を作り、プリンターで出力した原型から型を取る工程を含む、人形作り方法。」
(6)甲第10号証
本件特許に係る出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第10号証(さくら,“[Dollybird vol.23掲載]布プリント+ボンドでオビツ11サイズのつなぎを作ってみた”,[online],2017年9月15日,腐女子のオタク感想文,[2021年5月18日出力],インターネット<URL:https://otaku.sakuras.biz/doll/obitsuroid/dollybird23-tunagi.html>)には、次の事項が記載されている。
ア 「ペーパークラフト感覚で作る「オビツ11」サイズの布プリントのお洋服です。
布に配布されているデータを印刷して、あとはボンドで接着するだけのお洋服です。」(出力頁2/21)
イ 「一応試し刷りをしてから、実際に布に印刷してみました。
おお…!
ちゃんと布に印刷できてる……!」(出力頁6/21)
ウ 「布が完全に乾いたら、パーツごとに切り出して数字の順番でボンドで貼ります。」(出力頁11/21)
上記ア乃至ウの記載事項から、甲第10号証には、次の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されているものと認められる。「ペーパークラフト感覚で作る「オビツ11」サイズの布プリントのお洋服であって、 布に配布されているデータを印刷して、ボンドで接着する洋服。」
(7)甲第11号証
本件特許に係る出願の出願前に頒布された甲第11号証(特開2012-80533号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
周辺機器を操作するユーザに対して双方向性コンテンツを提示するように構成されたシステムであって、
前記ユーザに対して双方向性コンテンツを出力するように構成されたコンテンツ出力装置と、コンピュータプログラムモジュールを実行するように構成されたプロセッサと、を備え、
前記コンピュータプログラムモジュールが、
前記周辺機器の状態に関連する一又は複数の状態パラメータを決定するように構成された状態モジュールと、
複数の周辺機器の候補の中から前記周辺機器を識別するように構成された周辺機器識別モジュールと、
前記コンテンツ出力装置によって出力された双方向性コンテンツを前記一又は複数の状態パラメータに基づいて調整するように構成されたコンテンツモジュールと、
前記ユーザに提供されるハプティックフィードバックを前記周辺機器の識別情報及び前記一又は複数の状態パラメータに基づいて決定するように構成されたハプティクスモジュールと、
を備えるシステム。」
イ 「【0048】
上述のように、周辺機器102は、玩具を含むことができる。周辺機器202及び/又は周辺機器302に関連して説明された一又は複数のコンポーネントは、かかる玩具に備えられていても良い。このような玩具の例には、アクションフィギュア、人形、乗り物、武器等の玩具が含まれる。この玩具の表示は、コンテンツ出力装置112等の装置により出力される双方向性コンテンツに含まれていても良い。ユーザは、玩具の表示によって実行されたアクションに応答するハプティックフィードバックをその玩具を介して体験することができる。玩具の表示は双方向性コンテンツに含まれていても良い。例えば、その玩具がアクションフィギュアであり、その玩具が双方向性コンテンツにおいて歩行しているように表示された場合には、その玩具は歩行に対応するハプティックフィードバックを提供することができる。ハプティックフィードバックは、ユーザによる玩具の操作に少なくとも部分的に基づいて開始されてもよい。例えば、玩具が武器である場合には、ユーザがその武器を模擬的に使用することによって、その玩具によって提供されるハプティックフィードバックが開始される。」
上記ア及びイの記載事項から、甲第11号証には、次の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されているものと認められる。
「周辺機器を操作するユーザに対して双方向性コンテンツを提示するように構成されたシステムであって、
前記ユーザに対して双方向性コンテンツを出力するように構成されたコンテンツ出力装置と、コンピュータプログラムモジュールを実行するように構成されたプロセッサと、を備え、
前記コンピュータプログラムモジュールが、
前記周辺機器の状態に関連する一又は複数の状態パラメータを決定するように構成された状態モジュールと、
複数の周辺機器の候補の中から前記周辺機器を識別するように構成された周辺機器識別モジュールと、
前記コンテンツ出力装置によって出力された双方向性コンテンツを前記一又は複数の状態パラメータに基づいて調整するように構成されたコンテンツモジュールと、
前記ユーザに提供されるハプティックフィードバックを前記周辺機器の識別情報及び前記一又は複数の状態パラメータに基づいて決定するように構成されたハプティクスモジュールと、
を備えるシステム。」
(8)甲第12-1号証及び甲第12-2号証
甲第12-2号証より、甲第12-1号証が本件特許に係る出願の出願前に頒布されたものであることが認められるところ、甲第12-1号証(星明「西陣関連産業としての金銀糸業の実態」、1982年3月15日発行、仏教大学社会学研究所紀要 第3号、25~34頁)には、次の事項が記載されている。
ア 「図1を挿入」
イ 上記図1より、金銀糸箔工程の後にジャカード工程を備える西陣織工程が示されている。
上記ア及びイの記載事項から、甲第12号証には、次の発明(以下、「甲12発明」という。)が記載されているものと認められる。
「金銀糸箔工程の後にジャカード工程を備える西陣織工程。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(公然実施)について
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と公然実施発明とを対比すると、公然実施発明の「雛人形」、「頭部」、「雛人形頭部」及び「製造方法」は、それぞれ、本件特許発明1の「人形」、「パーツ」、「立体物」及び「製造方法」に相当する。
公然実施発明は「非接触形状測定機を用いて、雛人形の頭部をスキャン」していることからすると、公然実施発明の「製造方法」は、雛人形の頭部を「取り寄せる準備工程」、及び頭部の「立体形状をコンピュータに取り込む取込工程」を有するといえる。
公然実施発明は、「インクジェット式積層造形装置を用いて、雛人形頭部を製造」していることからすると、公然実施発明の「製造方法」は、「立体形状から立体物を成形する成形工程」を有するといえる。
よって、本件特許発明1と公然実施発明とは、以下の点で一致し、次の相違点で相違する。
[一致点]
「人形のパーツを取り寄せる準備工程と、
前記パーツの立体形状をコンピュータに取り込む取込み工程と、
加工後の前記立体形状から立体物を成形する成形工程と、
を有する、製造方法。」
[相違点1]
本件特許発明1の準備工程が、「別々に作製された」人形の「各」パーツ「及び柄の入った織物を取り寄せる」工程であるのに対し、公然実施発明は、そのような準備工程を有していない点。
[相違点2]
本件特許発明1の取込み工程が、「各」パーツの立体形状「及び前記織物の柄」をコンピュータに取り込んで「データベースに蓄積する」ものであるのに対し、公然実施発明は、そのような取込み工程を有していない点。
[相違点3]
本件特許発明1が、「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」を有するのに対し、公然実施発明は、そのような編集工程を有していない点。
[相違点4]
本件特許発明1の成形工程が、「加工後の」前記立体形状から立体物を成形する「とともに、抽出された前記模様を無地又は地紋入りの生地に印刷する」工程であるのに対し、公然実施発明は、そのような成形工程を有していない点。
[相違点5]
本件特許発明1が、「印刷後の前記生地から前記模様を含む裂地を切り出して、成形された前記立体物に貼り付けた上で組み立てる仕上げ工程」を有するのに対し、公然実施発明は、そのような仕上げ工程を有していない点。
[相違点6]
本件特許発明1が、「人形」の製造方法であるのに対し、公然実施発明は、雛人形頭部の製造方法である点。
そうすると、本件特許発明1と公然実施発明との間に、上記各相違点がある以上、本件特許発明1は、公然実施された発明とはいえない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、上記第2のとおり、本件特許発明1の「印刷後の前記生地から前記模様を含む裂地を切り出して、成形された前記立体物に貼り付けた上で組み立てる仕上げ工程」に替えて、「印刷後の前記生地から前記模様を含む衣裳を切り出して、成形された前記立体物を組み立てた上で着せ付ける仕上げ工程」を有するものである。
してみると、上記(1)の検討を参酌すれば、本件特許発明2と公然実施発明とは、以下の点で一致し、次の相違点で相違する。
[一致点]
「人形のパーツを取り寄せる準備工程と、
前記パーツの立体形状をコンピュータに取り込む取込み工程と、
加工後の前記立体形状から立体物を成形する成形工程と、
を有する、人形の製造方法。」
[相違点1]
本件特許発明2の準備工程が、「別々に作製された」人形の「各」パーツ「及び柄の入った織物を取り寄せる」工程であるのに対し、公然実施発明は、そのような準備工程を有していない点。
[相違点2]
本件特許発明2の取込み工程が、「各」パーツの立体形状「及び前記織物の柄」をコンピュータに取り込んで「データベースに蓄積する」ものであるのに対し、公然実施発明は、そのような取込み工程を有していない点。
[相違点3]
本件特許発明2が、「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」を有するのに対し、公然実施発明は、そのような編集工程を有していない点。
[相違点4]
本件特許発明2の成形工程が、「加工後の」前記立体形状から立体物を成形する「とともに、抽出された前記模様を無地又は地紋入りの生地に印刷する」工程であるのに対し、公然実施発明は、そのような成形工程を有していない点。
[相違点6]
本件特許発明1が、「人形」の製造方法であるのに対し、公然実施発明は、雛人形頭部の製造方法である点。
[相違点7]
本件特許発明2が、「印刷後の前記生地から前記模様を含む衣裳を切り出して、成形された前記立体物を組み立てた上で着せ付ける仕上げ工程」を有するのに対し、公然実施発明は、そのような仕上げ工程を有していない点。
そうすると、本件特許発明2と公然実施発明との間に、上記各相違点がある以上、本件特許発明2は、公然実施された発明とはいえない。
(3)申立理由1のまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1及び請求項2に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(進歩性欠如)について
本件特許の請求項1乃至5に係る特許は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第5乃至9号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「人形」及び「3Dモデリングデータ」は、それぞれ、本件特許発明1の「人形」及び「立体形状の三次元データ」に相当する。
甲5発明の「3Dデータシステム1」は、「被写体の表面を撮影した撮影画像を用いて3Dモデリングデータを生成」しているのであるから、「被写体」である「人形」の各パーツを取り寄せ、各パーツの立体形状をコンピュータに取り込んでデータベースに立体形状の三次元データを蓄積しているといえる。してみると、甲5発明の「3Dデータシステム1」は、「人形の各パーツを取り寄せる準備工程」及び「各パーツの立体形状をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積する取込み工程」を有するといえる。
以上のことから、本件特許発明1と甲5発明とは、複数の「工程」を有する「方法」との概念で共通する。
よって、本件特許発明1と公然実施発明とは、以下の点で一致し、次の相違点で相違する。(上記「申立理由1」における相違点と共通する相違点は、同じ表記とする。)
[一致点]
「人形の各パーツを取り寄せる準備工程と、
前記各パーツの立体形状をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積する取込み工程と、
を有する、方法。」
[相違点1’]
本件特許発明1の準備工程が、「別々に作製された」人形の各パーツ「及び柄の入った織物を取り寄せる」工程であるのに対し、甲5発明は、そのような準備工程を有していない点。
[相違点2’]
本件特許発明1の取込み工程が、「前記織物の柄をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積する」ものであるのに対し、甲5発明は、そのような取込み工程を有していない点。
[相違点3]
本件特許発明1が、「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」を有するのに対し、甲5発明は、そのような編集工程を有していない点。
[相違点4’]
本件特許発明1が、「加工後の前記立体形状から立体物を成形するとともに、抽出された前記模様を無地又は地紋入りの生地に印刷する成形工程」を有するのに対し、甲5発明は、そのような成形工程を有していない点。
[相違点5]
本件特許発明1が、「印刷後の前記生地から前記模様を含む裂地を切り出して、成形された前記立体物に貼り付けた上で組み立てる仕上げ工程」を有するのに対し、甲5発明は、そのような仕上げ工程を有していない点。
[相違点8]
本件特許発明1が、「人形の製造方法」であるのに対し、甲5発明の「3Dデータシステム1」は、「人形」を「製造」しているものではない点。
イ 判断
(ア)相違点3について
事案に鑑み、上記相違点3から検討する。
甲7発明は、生地柄のイメージデータを表示し、縦サイズ23及び横サイズ24に記憶されたサイズの矩形を、イメージデータに重ねて表示し、矩形の範囲内の単位パターンを抽出するものであるものの、人形の各パーツの立体形状に合うように、前記単位パターンを抽出するものではないから、上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるとはいえない。
また、異議申立人が提出したその他の甲号証をみても、上記相違点3に係る発明特定事項は示されていないし、設計的事項といえる理由も見当たらない。
したがって、甲5発明に、甲2発明乃至甲12発明を適用したとしても、上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項には至らない。
(イ)相違点4’について
上記「2 (2)」のとおり、甲6発明には、浸透性媒体にチョッキの加工用データを印刷することが、また、上記「2 (6)」のとおり、甲10発明には、布にデータを印刷することが認められるものの、上記(ア)のとおり、柄から立体形状に合うように模様を抽出する編集工程が何れの甲号証にも示されていないことからして、「抽出された模様」を生地に印刷することを、当業者が容易になし得るといえる理由なない。
したがって、甲5発明に、甲2発明乃至甲12発明を適用したとしても、上記相違点4’に係る本件特許発明1の発明特定事項には至らない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点3及び相違点4’に係る発明特定事項を備えることによって、「人形を小型化しても生地を無駄にすることなく衣裳の柄を適切の配置することができる。無地又は地紋入りの生地に対して衣裳の柄を印刷することで、切り出す位置を選ぶことなく適切な柄を得ることが可能となり、西陣織など高級な生地でもそれを活かして無駄なく使用することができる。」という本件特許明細書(【0015】及び【0051】参照。)に記載された効果を奏するものと認められる。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲5発明乃至甲12発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、本件特許発明1について、申立理由2は成り立たない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、上記第2のとおり、本件特許発明1の「印刷後の前記生地から前記模様を含む裂地を切り出して、成形された前記立体物に貼り付けた上で組み立てる仕上げ工程」に替えて、「印刷後の前記生地から前記模様を含む衣裳を切り出して、成形された前記立体物を組み立てた上で着せ付ける仕上げ工程」を有するものである。
してみると、上記(1)の検討を参酌すれば、本件特許発明2と甲5発明とは、以下の点で一致し、次の相違点で相違する。
[一致点]
「人形の各パーツを取り寄せる準備工程と、
前記各パーツの立体形状をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積する取込み工程と、
を有する、方法。」
[相違点1’]
本件特許発明2の準備工程が、「別々に作製された」人形の各パーツ「及び柄の入った織物を取り寄せる」工程であるのに対し、甲5発明は、そのような準備工程を有していない点。
[相違点2’]
本件特許発明2の取込み工程が、「前記織物の柄をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積する」ものであるのに対し、甲5発明は、そのような取込み工程を有していない点。
[相違点3]
本件特許発明2が、「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」を有するのに対し、甲5発明は、そのような編集工程を有していない点。
[相違点4’]
本件特許発明2が、「加工後の前記立体形状から立体物を成形するとともに、抽出された前記模様を無地又は地紋入りの生地に印刷する成形工程」を有するのに対し、甲5発明は、そのような成形工程を有していない点。
[相違点6]
本件特許発明2が、「印刷後の前記生地から前記模様を含む衣裳を切り出して、成形された前記立体物を組み立てた上で着せ付ける仕上げ工程」を有するのに対し、甲5発明は、そのような仕上げ工程を有していない点。
[相違点8]
本件特許発明2が、「人形の製造方法」であるのに対し、甲5発明の「3Dデータシステム1」は、「人形」を「製造」しているものではない点。
イ 判断
上記「(1) イ 判断」に鑑みれば、異議申立人が提出したその他の甲号証をみても、上記相違点3に係る発明特定事項は示されていないし、設計的事項といえる理由も見当たらない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明2は、甲5発明乃至甲12発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、本件特許発明2について、申立理由2は成り立たない。
(3)本件特許発明3乃至本件特許発明5について
本件特許発明3乃至本件特許発明5は、本件特許発明1又は本件特許発明2を引用するものであるところ、上記(1)及び(2)のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲5発明乃至甲12発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件特許発明3乃至本件特許発明5も、甲5発明乃至甲12発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、本件特許発明3乃至本件特許発明5について、申立理由2は成り立たない。
(4)申立理由2のまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2によっては、本件特許の請求項1乃至請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)本件特許発明1及び本件特許発明2について
申立理由3は、「本件特許の請求項1及び請求項2には、「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」と記載されているが、本件明細書には、前記「編集工程」の構成及び方法について何ら具体的な記載はない、というものである。
そこで、本件明細書についてみるに、本件特許明細書には、以下のとおり記載されている。
「【0029】
編集工程130は、コンピュータ300に取り込まれた各パーツ200の立体形状(三次元データ)を加工する。特に、顔の表情の僅かな違いにより売れ行きに影響を与える頭200aのパーツが対象となる。職人によってセンスの違いが出るし、時代によって流行の傾向が異なるので、コンピュータ300を利用して微調整し、量産する際に一定以上の品質も維持する。
【0030】
図3に示すように、例えば、クラウド400のデータベース420からインターネットを介してコンピュータ300に読み込んだ顔200aの三次元データを、仮想空間上の立体画像としてモニタ等に表示し、ペン型の3D触力覚(ハプティクス)インタフェースデバイス等の入力装置を用いて、実空間での作業に近い感覚で加工・編集すれば良い。」
「【0033】
また、編集工程130は、織物の柄200dから各パーツ200の立体形状に合うように模様220を抽出する。特に、衣裳を着せる胴体200bのパーツが対象となる。例えば、コンピュータ300のモニタ等に胴体200bの立体画像を表示し、柄200dの平面画像から衣裳に取り入れたい模様220を取り出して、胴体200bの上に当てることで、衣裳を着せたイメージが得られれば良い。
【0034】
必要があれば、配置や大きさを調整した上で、胴体200bに貼り付ける衣裳に表示する模様220の画像データとして作成する。人形のサイズやポーズが変わっても調整が容易となる。」
上記【0030】の記載からすれば、本件明細書には、コンピュータ300に読み込んだ三次元データを、立体画像としてモニタ等に表示し、入力装置を用いて、加工・編集することが記載され、加工・編集する具体的なアプリケーションソフトウエアは記載されていないが、本件特許の出願時点において、三次元データを、モニタ等に表示し、加工・編集するアプリケーションソフトウェアは、周知の技術手段であることからして、上記本件特許明細書(特に、【0029】及び【0030】)は、当業者が、本件特許発明1及び本件特許発明2の「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工する」ことを容易に実施できる程度に記載されているものと認める。
また、【0033】及び【0034】の記載からすれば、本件明細書には、柄200dの平面画像から取り出した衣裳に取り入れたい模様220を、胴体200bの立体画像に合わせて、その配置や大きさを調整することが記載されているのであるから、本件特許明細書(特に、【0033】及び【0034】)は、当業者が、本件特許発明1及び本件特許発明2の「前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する」こと容易に実施できる程度に記載されているものと認める。
以上のことから、本件特許明細書は、当業者が、本件特許の請求項1及び請求項2に記載の「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」を、容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認める。
(2)本件特許発明3乃至本件特許発明5について
上記(1)のとおり、本件特許明細書は、当業者が、本件特許の請求項1及び請求項2に係る特許を、容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されている以上、本件特許発明3乃至本件特許発明5について、本件特許明細書は、当業者が、容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとする理由はない。
(3)申立理由3のまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3によっては、本件特許の請求項1乃至請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(明確性要件)
(1)本件特許発明1について
申立理由4は、「取り込まれた前記立体形状の三次元データを」何を用いて、どのような加工を行うかについての記載がないため、何を加工するのか不明瞭である。さらに、「前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する」とは、具体的にどのような条件で、どのような模様をどのように抽出するのか記載がない。」というものである。
そこで、前記申立理由4について、以下、検討する。
ア 「取り込まれた前記立体形状の三次元データ」について
請求項1の「立体形状の三次元データ」は、同請求項1に記載の「各パーツの立体形状」「をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積」したものであることは明らかであるところからすれば、「立体形状の三次元データ」がコンピュータ上のアプリケーションソフトウェアで加工されることは、一般的な技術常識から明らかといえる。
そして、前記アプリケーションソフトウェアを使用するに際しては、その機能の範囲内でユーザの目的に従って加工すればよいところ、請求項1に、加工の内容まで特定を要する理由はない。
してみると、請求項1の「取り込まれた前記立体形状の三次元データ」が不明確であるとする理由はない。
イ 「前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する」について
請求項1の「取込み工程」が「各パーツの立体形状及び前記織物の柄をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積する」ことであることからして、「柄」は、「織物の柄をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積」したものであり、また、「立体形状」は、「各パーツの立体形状をコンピュータに取り込んでデータベースに蓄積」したものを加工したものであることは明らかである。
そして、「柄」が「織物の柄」から取り込んだものであって、「織物の柄」を「コンピュータに取り込ん」だ時点では、「柄」が加工後の立体形状に合っていないことも明らかである。
そうすると、「コンピュータに取り込ん」だ「柄」が加工後の立体形状に合っていないのであるから、加工後の立体形状の立体物に貼り付けるためには、当然、加工後の立体形状に合うように「模様を抽出する」必要があることは明らかといえる。
してみると、請求項1で特定される「模様を抽出する」とは、加工された人形の立体形状に合う「模様」を、コンピュータに取り込んだデータベースに蓄積した「柄」から抽出することを意味することは、明らかであって、この「柄」から「模様」を抽出することが、本件特許発明1における「編集工程」といえる。
してみると、請求項1の「前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する」が不明確であるとする理由はない。
ウ 小括
そうすると、請求項1の「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」との記載が不明確であるとする理由はない。
(2)本件特許発明2乃至本件特許5について
上記(1)のとおり、請求項1の「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」との記載が不明確でとする理由はないのであるから、請求項2乃至請求項5における「取り込まれた前記立体形状の三次元データを加工するとともに、前記柄から前記立体形状に合うように模様を抽出する編集工程」も不明確であるとする理由はない。
(3)申立理由4のまとめ
以上のとおりであるから、申立理由4によっては、本件特許の請求項1乃至請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1乃至請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1乃至請求項5を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700476