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商標取消審判

2021-300048

ピュアサーモンピュアーサーモン、ピュアサーモン、ピュアーサーモン

審判番号
2021-300048
法域
商標
審判種別
取消審判(商標取消の審決)
出願番号
商願2012-080229
登録番号
5585634
請求日
2021年01月22日
審決日
2022年04月01日
公報発行日
2022年11月25日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【請求人】高橋 友和
  • 【被請求人】株式会社モウイジャパン
  • 【被請求人代理人】特許業務法人酒井国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 佐藤 松江
  • 審判官 大森 友子
  • 審判官 石塚 利恵
分類
T131 .1 -Z (W29)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法50条
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第50条第2項、商標法第50条第1項、商標法第2条第3項、商標法第50条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第5585634号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 登録第5585634号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第5585634号商標(以下「本件商標」という。)は、「ピュアサーモン/PURE SALMON」の文字を横書きしてなり、平成24年9月20日に登録出願、第29類「さけ(生きているものを除く。),さけの加工水産物,さけを使用した冷凍加工水産物,さけを主材料とする加工水産物,さけを主材料とする冷凍加工水産物」を指定商品として、同25年5月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 なお、本件審判の請求の登録は、令和3年(2021年)2月12日であり、本件審判の請求の登録前3年以内の平成30年(2018年)2月12日から令和3年(2021年)2月11日までを以下「要証期間」という。 第2 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第54号証を提出した。 1 請求の理由 本件商標は、その指定商品(以下「請求に係る商品」という。)について、今日に至るまで継続して3年以上、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても使用されていないことは、請求人の調査により明らかであるから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。 2 答弁に対する弁駁 (1)被請求人は、答弁書において、本件商標を「さけの加工水産物,さけを使用した冷凍加工水産物,さけを主材料とする加工水産物,さけを主材料とする冷凍加工水産物」に使用することは不可能であった旨を述べており、本件商標を使用していなかったことを自認している。よって、要証期間における、本件商標についての使用の事実は存在しない。 (2)被請求人は、新型コロナウィルス感染症による社会的混乱から、本件商標権者が本件商標をさけの加工水産物等に使用することは不可能な状況であったと主張するが、日本国内において、新型コロナウィルスの感染者が初めて確認されたのが2020年1月であり、2月10日の時点では感染者数は26名であることからすれば、新型コロナウィルス感染症の影響が生じた時期は、早くとも2020年2月頃からであり(甲3、甲4)、要証期間のうちの三分の一程度にすぎない。本件商標は、設定登録から新型コロナウィルス感染症の影響が生じる2020年2月までに、既に6年8カ月ほどの期間が経過している。しかしながら、この間に、請求に係る商品について本件商標が使用された事実はなく、また、この間に本件商標を使用する準備や計画があったことについても、被請求人が提出した証拠によっては立証されていない。 (3)「Mowi」がサーモンブランドとして日本に上陸したのが1980年であり、本件商標権者は、1995年にノルウェーに本部をもつMowiグループ(以下、ノルウェーの本社であるMowi ASAを「Mowi社」といい、Mowi社のグループ会社をまとめていうときは「Mowiグループ」という。)の日本法人として設立された後、2010年には成田工場、2013年には関西工場を開設し自社工場を運営し、さけやさけの加工品を提供している(乙1、甲5)。本件商標権者の商業登記簿によれば、1995年の設立時の商号をマリンハーベストジャパン株式会社とし、2019年に株式会社モウイジャパンに変更しており(甲6)、今日に至るまで、本件商標権者は、さけやさけを使用した様々な商品を提供しているが、これら商品には、「Mowi」や「Sterling」等の商標が使用されており、本件商標が使用された事実は確認できない(甲7~甲18)。 (4)本件商標の使用の準備に関し、被請求人が提出する乙第4号証-1は極めて不鮮明な写真であり、被写体が誰であり、何をしているのかを判別することはできない。また、「試食会の様子 2020.6.9」との記載はあるが、これを裏付けるものは一切なく、撮影者及び撮影場所も不明である。乙第4号証-2及び乙第4号証-3は、英文による書類であるところ、「日本」に関する表示が一切ないため、そもそも日本との関連性が明らかではないし、掲載されている写真の撮影者、撮影場所も不明である。また、「(試食会の様子2020.6.9)」や「ここではMowi Pureの魚市場向け商品をMowi Supreme HOGと呼んでいます。」との記載については、他の部分が全て英文であり、当該部分のみ日本語で記載されていることから、当該日本語の記載部分は、被請求人がこれらを証拠として提出する際に、後から記載したものとみるのが自然であり、かかる記載を裏付けるものは何も提出されていない。以上からすれば、これらの証拠によっては、日本を対象地域とする新商品の販売の準備が行われたという事実は証明されていない。 また、被請求人が提出する乙第5号証-1は英文で記載されその内容は不明であり、宛先及び差出人の情報は黒塗りされていることから、出所も宛先も全く不明である。日本に関する記載としては、「Mowi team in Japan」の表示があることのみであり、これのみをもって、本件商標権者とMowi社との間で、日本の市場を対象とする商品の品質に関する調整が行われたとはいえない。乙第5号証-2も、作成者および出所が不明であり、何を意図する書類であるのかも不明であるし、「2020/9/25が最後の保存日」との記載があるがこれを裏付けるものは何もない。また、サーモンとその成分に関する記載は確認できるものの、多くの部分が黒塗りされた断片的な情報であり、日本を販売先とした商品に関する資料であることは示されていない。以上からすれば、これらの証拠によっては、本件商標権者とMowi社との間で、日本を販売先とする商品に関する品質の調整が行われたことが客観的に証明されているとはいえない。 仮に、乙第4号証及び乙第5号証が日本で販売する商品の調整に関するものだったとしても、本件商標を我が国において使用する計画は一切示されていないから、本件商標の使用の準備が行われた事実は証明されていない(乙3)。 (5)本件商標権者はMowi PureとMowi Supremeを同一のものとして取り扱っているが(乙4-2)、これは他の証拠と整合していない。本件商標権者の親会社(甲19)の公式ページによれば、「Mowi Supreme」は飲食店向けの商品であって、その商品ラインは、主に1kg~2kg程度のフィレや切り身等である(甲20、甲21)。他方、「Mowi Pure」は、一般の消費者が日常的に食する商品として販売されるものであり、飲食店向け商品である「Mowi Supreme」とは明らかに異なる商品である(甲20~甲22)。 (6)本件商標権者は、新型コロナウィルス感染症の発生以降も、積極的な営業活動を行っており、本件商標の不使用は本件商標権者の事業上の判断によるものであるから、新型コロナウィルス感染症の発生による影響は、本件商標の不使用の理由となるものではない。 ア 被請求人は、「各国でロックダウンの措置が取られたことにより、新商品を発売できるような状況ではなくなった」と主張するが、Mowiグループの事業としては、2020年3月に、新商品「Mowi Pure」を米国のECサイト「Amazon Fresh」で売り出しており、さらに、2020年第4四半期には「MOWI Gourmet」の販売を開始し、2021年4月には「Mowi Essential」を米国で売り出すことをアナウンスしている(甲25~甲27)。Mowi社の2020年年次レポート(甲25)では、パンデミックの最中であっても、米国におけるMOWIブランド商品を売り出したことは、予想を上回る成果を上げたことが報告されている。以上からすれば、Mowiグループでは、新型コロナウィルス感染症による社会的混乱があったとしても、これにより新商品の企画や販売を含む営業活動が中止されることなく、遂行されていたといえる。 イ 被請求人は、Mowi社や本件商標権者が在宅勤務を行ったことを理由とし、様々な企画・活動が遅れたとも主張しているが、従業員の一部が在宅勤務をしていたとしても、新商品の開発のための事業を行うことができていた(乙4、乙5)のであるから、当該新商品に本件商標の使用を予定していたのであれば、同時期に、例えば商標のデザインの検討やデザイン制作の発注、商品パッケージや広告媒体等に付する商標の使用態様の検討といった具体的な準備も進めることができたはずであるが、本件商標の使用の具体的な準備や計画に関する証拠は一切提出されていない。 ウ 被請求人は、本件商標権者が水産加工品の市場価格の下落等により、新商品を販売できない状況となった旨主張するが、市場の状況に鑑み、本件商標権者の利益の確保及び既存のビジネスの維持に集中し、新商品の販売を見合わせたことは、本件商標権者自身の経営上の判断にすぎず、単なる自己都合に起因する商標の不使用であるから、本件商標権者の責めに帰すことができない事由によるものではない。 また、市場の動向に関しては一般論にすぎず、新型コロナウィルス感染症の発生以降も、本件商標権者に係る商品の販売対象である日本の市場の販売量は前年に比べ伸び続けており(甲30~甲33)、本件商標権者は、新型コロナウィルス感染症による販売量の落ち込みがないことを認識していたはずである。本件商標権者のさけの切り身やさけの加工水産物といった商品は、新型コロナウィルス感染症の発生以降も、例えばAmazonや楽天といったECサイトや、直営していた店舗、スーパーマーケット等でも販売されていた(甲34~甲41)。 エ 被請求人は、本件商標権者の販売先と見込まれていた高級料亭等が営業停止や営業時間短縮となった旨を主張するが、高級料亭やレストラン等に販売することは、本件商標権者の事業の展開上の自己都合にすぎないのであるから、その販売先の市場や営業が縮小傾向にあったとしても、本件商標の使用の妨げになるような不可抗力事由であるとはいえない。 さらに指摘すれば、「Mowi Pure」に係る商品(乙3)は、フランスやポーランド、米国での販売状況等を参照すれば、明らかに一般の消費者向けの商品であるから、高級料亭等が打撃をうけたことが、本件商標を使用する商品の販売開始を見合わせる理由であるとする被請求人の主張は客観的な状況と整合しない。仮に、新商品の販売予定先が高級料亭等であることの方が事実であったならば、Mowi社の公式サイトの記載のとおり「Mowi Supreme」ブランドの商品がレストラン向けの商品であること、また、「Mowi Supreme」と呼ばれるサーモンの試食がなされていること(乙4)を合わせて考えれば、本件商標権者は、「Mowi Supreme」ブランドの商品の販売を予定していたと理解する方が自然である。 オ 被請求人は、新型コロナウィルス感染症の発生以降の、2020年5月ないし同年12月において、積極的なプロモーション活動及び販促のための催事を行っている(甲41~甲53)。 カ 被請求人は、本件商標権者の工場で新型コロナウィルス感染者のクラスターが発生したことにより、新規事業を開始することがさらに難しくなった旨主張するが、仮に事実であったとしても、クラスターの発生は2021年1月5日以降であり、要証期間全体のうちの最後の38日間(要証期間全体のうちの約3%)という極めて短い期間にすぎないのであるから、これが商標の不使用に影響を及ぼし、本件商標の不使用の正当理由に当たるとは考えられない。 (7)以上を総合すると、被請求人が提出した証拠はそもそも出所・信用性が乏しい上、当該証拠が一応真正で信用に足るものだとしても、さけの加工水産物等の新商品に本件商標の使用をする準備をしていたことは立証されていない。 仮に、本件商標を使用する準備のみがあったとした場合でも、本件商標権者は、長年にわたりさけやさけの加工水産物等の販売事業を行ってきた事業者であって、新型コロナウィルスの発生以降も継続して当該事業を営み、2020年の日本でのさけの販売量は前年に比べ増え、新しい販売促進事業も展開していることからすれば、その経営判断によっては本件商標の使用が可能であったといえ、新型コロナウィルス感染症は新商品の準備が遅延する理由とはならない。かかる点を考慮すれば、被請求人が主張するような事情は、本件商標権者の意思が入り込む余地のない不可避的な事情ではなく、自らの意思による経営上の判断として、本件商標を使用しないことを選択したにすぎない。 以上のとおり、乙第1号証ないし乙第9号証によっては、要証期間内に本件商標(又はこれと社会通念上同一の商標)が本件商品について使用されていた事実は一切証明されておらず、また、使用をしていないことについて正当な理由があることは証明されていないのであるから、本件商標は取消を免れることはできない。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、答弁において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第18号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。 1 令和3年6月18日付け第二回目答弁書 (1)本件商標権者は、ノルウェーに所在するMowi社の関連会社である(乙1)。Mowi社は、2019年から、ポーランドやフランスなどで「さけの加工水産物,さけを使用した冷凍加工水産物,さけを主材料とする加工水産物,さけを主材料とする冷凍加工水産物」に関する新商品に「Mowi pure」というブランドを付して販売している(乙3)。本件商標権者は、当該「Mowi pure」ブランドに係る新商品を、日本において、本件商標を使用して販売することを予定していた。具体的には、サンプルの取り寄せ、試食会、ASC認証された魚を販売するための準備及び品質についての細かな調整等を進めていた(乙4)。特に、品質の調整には重点をおいており、2020年5月のeメールでは、本件商標権者とMowi社の間で品質に関する細かな調整が行われていた(乙5)。 (2)本件商標権者は本件商標の使用の準備を進めていたところ、新型コロナウイルス感染症が社会にもたらした変化は、本件商標に係る事業展開にも甚大な影響を与えた。Mowi社においては、各国でロックダウン等の措置が取られたことにより、新商品を発売できるような状況ではなくなった。本件商標権者も、2020年3月1日から在宅勤務、組織再編を行った結果、様々な企画、活動の進捗が遅れた(乙7-3)。また、日本における数回にわたる緊急事態宣言の発令により、水産加工品の市場価格の下落や外食の営業停止という想定外の事態が起こった結果、本件商標権者は利益の確保及び既存のビジネスの維持に集中せざるを得ず、本件商標に係る新商品の販売の見合わせを余儀なくされた(乙8)。とりわけ、本件商標に係る新商品はASC認証を受けたブランド魚として販売される予定であったが、その販売先と見込まれていた高級料亭、レストラン、ホテル等が軒並み新型コロナウィルス感染症で営業停止や営業時間短縮となって大きな打撃をうけたので、販売開始を見合わせるほかなかった。また、本件商標権者の取扱商品「サーモン」に関し、ノルウェーからの水産物輸出総額は2020年4月、5月ともに前年より減ったというデータがある(乙8-4)。さらに、2021年1月には本件商標権者の成田工場で新型コロナウイルス感染者のクラスターが発生し(乙9)、工場の操業を3日間停止せざるを得なかった。このことによっても、本件商標権者の事業は大きな打撃を受け、新規事業を開始することはさらに難しくなった。 以上により、本件商標権者が、本件商標を「さけの加工水産物,さけを使用した冷凍加工水産物,さけを主材料とする加工水産物,さけを主材料とする冷凍加工水産物」に使用することが不可能な状況であったことは明らかであり、このような実情を考慮すると、本件商標の不使用について正当な理由があったといえる。特に、今回の新型コロナウィルス感染症は、今までの規範や実務慣行を根底から覆すほど甚大な影響を社会全体に与えた。この中で、本件商標権者が実際に使用を予定し、準備していた本件商標の使用開始が遅れたことは、不可抗力によるものとしかいいようがない。 よって、本件商標の不使用に係る「正当理由」が存在する。 2 令和4年2月1日付け第三回目答弁書 (1)本件商標権者は、新型コロナウイルス感染症の影響が生ずる2020年2月より前の時点において、「本件商標権者が本件商標を自らの判断でその使用をせず、他の商標を採択して使用していた」わけではなく、本件商標の使用の準備を開始していた。実際、ASC対応の魚を日本市場においてレストラン向けに販売することを検討していたことを証明する(乙10)。そして、SDGsが注目される昨今、日本でも環境に配慮したASC対応の本件商標に係る新商品を販売しようと準備を進めていたのである。新商品ローンチに向けた社内の調整は、2019年2月のメールに遡ることができ、日本市場での販売に向けて、試食会の実施、外部検査機関による品質チェックなど、実に入念な準備をしていた。 (2)第二回目答弁書において提出した証拠について ア 乙第4号証-1は、個人情報保護の観点から、参加者の顔は極力映らないようにして提出したものである。よって、本答弁にて再提出する(乙18)。撮影者はマーケティング部のスタッフ、撮影場所は本件商標権者のテストキッチン(乙13-1)、被写体は本件商標権者のスタッフである。当時コロナ禍で出勤者が少なくなっていた中、顧客対応のため出勤を余儀なくされていたスタッフが本社に若干いたため、ASC対応の新ブランドの魚を実際に試食してもらい、自社の既存のサーモン等と食べ比べてもらった。 乙第4号証-2及び乙第4号証-3は、Mowi社へ報告するために英文で書かれたものであり、日本で試食会後に作成された報告資料である。掲載されている写真の撮影者はマーケティング部のスタッフ、撮影場所は本件商標権者のテストキッチンである。また、「(試食会の様子2020.6.9)」等の記載については、審判官や請求人がわかりやすいようにと被請求人が追記したコメントである。この試食会で使われた魚が「Mowi Supreme」であることは、運搬用に使われた発砲スチロールに「MOWI SUPREME」とロゴが入っていることからも裹付けられる(乙13-2)。日本において、「Mowi pure」をノルウェーから取り寄せる場合、個別パックされた完成商品の「Mowi pure」を取り寄せるのではなく、ホグの状態である「Mowi Supreme」のサンプルを取り寄せたのは、両者はカットの方法が異なるだけで、原料はほぼ同じものと認識していたからである。 また、試食会が日本で行われたものであることを示すため、追加資料を提出する(乙13-3~乙13-5)。よって、これらは、本件審判の請求の登録前に、日本を対象地域として、ノルウェーから魚が取り寄せられ、日本のスタッフに対して試食が行われたという証拠になる。 イ 乙第5号証-1は、Mowi社のスタッフが、本件商標権者のセールスとマーケティングスタッフに向けて送ったもので、個人情報保護の観点から、個人名は出さないようにしていたものである。乙第5号証-2の作成者は本件商標権者のマーケティング部のスタッフである。資料中に日本語が併記されていることから、日本を販売先とした商品に関する資料であることがわかる。さらに、本件商標に係る新商品の原料となる「Mowi pure」は、ASC対応の特別な養殖による魚であり、Mowi社とやりとりする上で、当該魚についての質問であることを明確に示すため、「Mowi pure salmon」と入れたのである。よって、本件商標権者は「Mowi pure salmon」を本件商標として認識した上で使用して、販売する準備を進めていたといえる。当該資料について、「2020/9/25が最後の保存日」であることがわかるスクリーンショットを提出する(乙14)。 また、本件商標権者は、本件商標に係る新商品の発売に向けてアイテムコードを新設し(乙15-1)、品質チェックのために、ノルウェーから度々ASC認証された魚をフィレやホグの状態で取り寄せていた(乙15-2、乙15-3)。よって、本件商標権者が、本件商標を日本において、使用する準備を行っていたことは明らかである。 (3)「Mowi Pure」及び「Mowi Supreme」について ア 本件商標権者は、「Mowi pure」の原料を使用して、日本で本件商標に係る新商品として販売しようと企画していたのであり、インボイスやメールでのやりとりに「Mowi pure fillet」や「Mowi pure Hog」という表現が出てくるのも、そのためである。(乙15-1~乙15-3)。Mowi社でのブランドの分け方が、そのまま日本市場に適用されるわけではなく、各国ごとにカスタマイズされているのが現状である。請求人が引用している内容は、あくまでノルウェーおよびその周辺国向けの情報である(甲20~甲24)。以上より、「Mowi pure」と「Mowi Supreme」とが同一のものとして取り扱われていることは、他の証拠と十分に整合がとれている。 イ 本件商標権者は、新商品の準備を可能な限り進めていたが、コロナ禍による外出自粛や緊急事態宣言の発令により、その先の顧客との商談がかなわなかったため、それ以上進めることは困難であった。鮮魚のバイヤーは感染を恐れて対面商談を避けていたのである。魚の卸販売においては、舌の肥えたバイヤーが味に納得してはじめて、取引を始めることができるのであり、バイヤーとの商談もままならなくなった状態では、新商品の提案を進めることは非常に困難であった。商標のロゴデザインや商品パッケージ、広告などは、販売先が決まった後にバイヤーと相談しながら一緒に作り上げていくことが多いのが実情である。よって請求人の主張は、鮮魚マーケットの実態に即していない。 (4)新型コロナウイルス感染症の影響について ア 新型コロナウイルス感染症がもたらした影響は、局地的かつ一時的な「地震、水害等の不可抗力」よりも、さらに広範囲にわたって世界規模で引き起こされたものであり、紛れもなく不可効力である。またそれに伴い、政府からは緊急事態宣言などの「公権力の発動」がなされ、人々は互いの接触を避けるため、長期の自粛を余儀なくされている。2022年1月末現在も、新たな変異種「オミクロン株」の発生により再び感染者の急増が確認されており、この現状こそコロナ禍が「不可抗力」であることを証明している。よって、新型コロナウイルス感染症が社会全体及び本件商標権者の事業に与えた影響は、本件商標の不使用の理由とするに十分といえる。 イ 請求人は、弁駁書において、米国の事例を挙げているが、米国の市場は日本の市場とまったく事情が異なる。本件商標権者は、当初より、オンライン販売は考えておらず、フィレやホグの状態で魚市場および外食市場向けに売り込むことを想定していた。よって、米国のオンライン販売や小売店での成功例をもって、日本における新商品販売が新型コロナウイルス感染症によって妨げられたことを否定する証拠にはならない。 (5)本件商標権者のコロナ禍における商品販売について 本件商標権者の既存の商品販売量の落ち込みがなかったのは、工夫して販売したためであり、本件商標に係る新商品事業を進めることができなかったこととは無関係である。プロモーション活動等は、新型コロナウイルス感染症による社会的混乱によって、通常時の販促が行えなくなった状況で苦渋の末に生み出されたものであり、WEBやSNSなどをメインとした新たな販促方法であった。またこれらはすべて既存商品のプロモーションである。これらは、新型コロナウイルス感染症の打撃を受けて、本件商標権者がいかにビジネスの方向性を修正せざるを得なかったかを証明するものである。 第4 当審の判断 1 本件商標の使用について (1)本件商標権者(被請求人)は、ノルウェーに所在するMowi社の日本法人であって、「サケ・マス類の養殖、加工及び販売、その他魚類の販売」を事業内容として、1995年(平成7年)4月26日に設立された法人である(乙1)。 本件商標権者は、Mowi社が、2019年から、ポーランドやフランスなどで販売している「Mowi pure」と称するさけの加工水産物等(乙3-1、乙3-4)を、日本において本件商標を使用して販売することを予定しており、サンプルの取り寄せ、試食会、品質に関する調整を進めていたとしている(乙4、乙5、乙10、乙13~乙15、乙18、請求人の主張)。 しかしながら、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言の発令等により、本件商標権者は、新規事業を開始することが難しくなり、本件商標を、その指定商品に使用することが不可能な状況であった(乙7-3、乙9、乙12、乙17、請求人の主張)。 上記からすると、本件商標権者は、要証期間に、請求に係る指定商品について本件商標の使用をしていないことを自認するものである。 (2)仮に、以下の請求人の提出した証拠及び主張により、本件商標権者が本件商標の使用の準備を進めていたとしても、本件商標の使用をしたものと認めることはできない。 ア 本件商標権者は、「Mowi Supreme」と称する商品を日本に空輸し、2020年6月9日に、本件商標権者のテストキッチンにおいて、サーモンの「ブラインドテスト」を行なった(乙4-1、乙13、乙18)。 イ 本件商標権者は、ASC認証された魚を販売するため、本件商標権者とMowi社の間で品質に関する調整を行った(乙4、乙5)。 ウ 本件商標権者は、ノルウェー産のアトランティックサーモンを2020年10月及び同年11月にMowi社から輸入した(乙15)。 上記アないしウは、いずれの証拠においても本件商標の表示がないものであって、当該証拠が本件商標の使用の準備に係るものであったとしても、商標法第2条第3項各号のいずれかに該当する本件商標の使用をしたものと認めることはできない。その他、本件商標権者は、本件商標の使用をしていることに関して何ら主張、立証していない。 そうとすると、被請求人は、要証期間に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、本件商標を請求に係る指定商品について使用をしていることを証明したものと認めることはできない。 2 本件商標を使用していないことについての正当な理由の有無について (1)商標法第50条第2項ただし書にいう「正当な理由」とは、地震、水害等の不可抗力、放火、破壊等の第三者の故意又は過失による事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために使用をすることができなかった場合をいうと解すべきである(東京高等裁判所 平成7年(行ケ)第124号判決、知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10160号判決、知的財産高等裁判所 平成22年(行ケ)第10012号判決参照)。 (2)本件商標を使用していない正当な理由について、本件商標権者(被請求人)が主張する事由は、以下のとおりである。 ア 新型コロナウイルス感染症のため、各国でロックダウン等が行われ、Mowi社は、新商品を発売できるような状況ではなくなった。 イ 本件商標権者は、2020年3月1日から在宅勤務を行った結果、様々な企画、活動の進捗が遅れた。 ウ 日本において、水産加工品の市場価格が下落したことや、販売先と見込まれていた高級料亭、レストラン、ホテル等の営業停止又は営業時間短縮により、本件商標権者は利益の確保及び既存のビジネスの維持に集中せざるを得ず、本件商標に係る新商品の販売の見合わせを余儀なくされた。 エ 魚の卸販売においては、バイヤーと取引を行うところ、鮮魚のバイヤーは感染を恐れて対面商談を避けていたため、本件商標権者は、バイヤーとの商談が行えず、新商品の提案を進めることは非常に困難であった。 オ 2021年1月に、本件商標権者の成田工場で新型コロナウイルス感染者のクラスターが発生し(乙9)、工場の操業を3日間停止したため、新規事業を開始することはさらに難しくなった。 カ 新型コロナウィルス感染症は、今までの規範や実務慣行を根底から覆すほど甚大な影響を社会全体に与えた。この中で、被請求人が実際に使用を予定し、準備していた本件商標の使用開始が遅れたことは、不可抗力によるものとしかいいようがなく、本件商標の不使用に係る「正当理由」は存在するというべきである (3)しかしながら、Mowi社は、米国において、2020年3月に「Mowi Pure」と称するサーモン商品の販売をECサイト「Amazon Fresh」を通じて開始し、同年第四半期には「MOWI Gourmet」と称するサーモン商品の販売を開始したほか、2021年4月には「Mowi Essential」と称するサーモン商品の販売をアナウンスしている。そして、新型コロナウィルス感染症の世界的大流行の最中であっても、MOWIブランドを米国に導入し予想を上回る成果を上げたことが報告されている(甲25~甲27)。 また、本件商標権者は、毎月30日を「サーモンの日」として、小売店やソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を通じて販売促進及び普及に取り組んできたところ、2020年5月に「サーモンの日ソング」を制作、同年7月には、小売店である平和堂において初めて全店規模で販売促進活動を行い、同年7月及び8月に「サーモンの日ダンスキャンペーン」を実施したほか、その後も継続的にSNSを通じたキャンペーンや、百貨店である松屋銀座本店への出店を行っている(甲41~甲53)。 そして、我が国において、2020年の生鮮アトランティックサーモンの輸入量や単価が前年を割り込んだという報道がある(乙8-18)一方、2020年のMowi社の日本向け販売量は、2019年より21.4%増加している(甲30)。 以上からすると、Mowi社及び本件商標権者は、新型コロナウィルス感染症の期間においても、新規事業の立ち上げや新規販売促進活動を行い、我が国におけるMowi社に係る商品の販売量も増加していたところ、本件商標権者が、要証期間に、本件商標に係る新商品を販売するという予定を実現し得なかったのは、利益の確保及び既存のビジネスの維持に集中するという本件商標権者の判断であるから、主として本件商標権者の事情によるものであって、被請求人が主張する事由は、その責めに帰すことができない事由とは認めることができない。 (4)そうすると、被請求人の主張する上記事由は、商標法第50条第2項ただし書にいう「正当な理由」には当たらないというべきであって、その他、本件商標に関し、上記「正当な理由」があることは認められない。 3 まとめ 以上のとおり、被請求人は、要証期間に日本国内において、商標権者、通常使用権者又は専用使用権者のいずれかが、請求に係る指定商品について、本件商標を使用していた事実を証明したものとは認められない。 また、被請求人の主張する、本件商標を請求に係る指定商品に使用していない理由は、正当な理由には当たらず、その他、本件商標に関し、本件商標を使用していないことについて正当な理由があるものとは認められない。 したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-300048

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