特許拒絶査定不服審判
2021-017998
不燃性内壁材の製造方法及びそれに用いる下地基材
- 審判番号
- 2021-017998
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-051867外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年12月27日
- 審決日
- 2022年10月03日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (E04F) / P18 .571-Z (E04F) / P18 .572-Z (E04F) / P18 .573-Z (E04F) / P18 .574-Z (E04F) / P18 .575-Z (E04F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 51867「不燃性内壁材の製造方法及びそれに用いる下地基材」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 2月 1日出願公開、特開2022- 20550〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年7月2日に出願された特願2020-114968号の一部を、令和3年3月25日に新たな特許出願としたものであって、令和3年6月17日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年8月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月22日付けで拒絶査定(謄本送達日:同年9月28日)がなされ、これに対し、同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
第2 令和3年12月27日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年12月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含んでおり、本件補正前と本件補正後の特許請求の範囲の記載は、請求項1についてみれば次のとおりである。
補正前(令和3年8月12日付け手続補正書):
「【請求項1】
ケイ酸カルシウム板の表面に、裏面に粘着層を有する樹脂製化粧フィルムを粘着するための水性シーラーで形成されるシーラー層を備え、内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが可能であることを特徴とする不燃性内壁材の下地基材。」
補正後(令和3年12月27日付け手続補正書):
「【請求項1】
ケイ酸カルシウム板の表面に、裏面に粘着層を有する樹脂製化粧フィルムを粘着するための水性シーラーで形成されるシーラー層を備えて成る内壁材の下地基材であって、
前記シーラー層を形成する水性シーラーは、固形分がケイ酸塩100質量%の水性無機シーラー、又は、固形分がアクリル樹脂40~60質量%、ケイ酸塩60~40質量%の水性アクリル樹脂塗料であることを特徴とする不燃性内壁材の下地基材。」(下線は補正箇所を示すものである。)
2 補正の適否の判断
(1)補正の目的の適否について
補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが可能である」という事項が削除されている。
そして、そのような発明を特定するために必要な事項を削除することは、特許請求の範囲を減縮しているとはいえず、また、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明でないことも明らかである。
よって、本件補正は、請求項1について、特許請求の範囲の減縮、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とする補正には該当しないので、特許法第17条の2第5項各号に規定するいずれの事項を目的とするものでもない。
(2)独立特許要件の検討
上記(1)のとおり、請求項1についての本件補正は、「内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが可能である」という事項を削除した点において、全体としては特許法第17条の2第5項各号に規定するいずれの事項を目的とするものでもない。
しかしながら、請求項1についての本件補正のうち、「シーラー層」の成分を特定した点のみについてみれば、本件補正前の請求項1に係る発明を限定しようとしたものということができ、請求人は請求項1についての本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的としたものである旨を主張している。
そこで、以下では、請求項1についての本件補正を、仮に特許請求の範囲の減縮を目的としたものと扱った場合に、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。上記1の補正後の請求項1を参照。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、予備的に検討する。
ア 引用文献
(ア)令和3年6月17日付け拒絶理由通知書において引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平7-144979号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は審決で付した。以下同様。)。
a 「【0002】
【従来の技術】従来、珪カル板、パルプセメント板、石膏スラグ板、石綿パーライト板、木片セメント板、セメント系押し出し成形板、ALC板などの無機質系窯業建材の表面は、そのままでは表面強度、羽毛立ち、吸い込みの大きさ、バラツキなどに問題があった。そこで従来これらの建材表面にはプライマーを塗布することにより、前記欠点を改良していた。
【0003】プライマーとしては、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、塩化ビニル系などの溶剤系プライマーが知られており、代表的なものとしては、湿気硬化型ウレタン樹脂系が知られている。このものは、表面補強効果および止水性能では優れているが、プライマー処理したまま放置しておくと塗膜硬化が進みすぎて当初良好であった仕上げ剤との密着性が低下してくるという問題と、溶剤系であるため安全衛生上の問題がある、希釈剤として溶剤を使うため高価であるなどの問題がある。一方、水系プライマーでは、アクリル樹脂エマルジョンを主成分とするものが知られている。このものは、溶剤を全く使用しないと言う面では優れているが、無機板の表面補強効果は不十分である。これは溶剤系に比べ無機板の含浸性が劣るためと考えられる。」
b 「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明によって、上記目的を達成し得る無機板用プライマー組成物が提供される。すなわち、本発明は、(A)樹脂成分が、(メタ)アクリル酸エステルからなる主単量体、または(メタ)アクリル酸エステルとスチレンからなる主単量体、カルボキシル基含有ビニル単量体、ヒドロキシル基含有ビニル単量体およびシリル基含有ビニル単量体の共重合体からなる合成樹脂エマルジョンおよび/または水溶性樹脂溶液と、(B)一般式(I)
M2 O・XSiO2 ・aq (I)
(式中、Mは周期律表第1A族に属するアルカリ金属を表し、Xは2~4.5の正の値、aqは水溶液を表す。)で表される水溶性珪酸塩とを固形分比で(A):(B)=10:1~1:10で配合してなる無機板用プライマー組成物に関する。」
c 「【0022】実施例1
合成樹脂エマルジョンの合成
供給物1
水 280部
ハイテノール08E(第一工業株式会社製)* 2部
供給物2
スチレン (SM) 245部
2-エチルヘキシルアクリレート (2EHA) 210部
2-ヒドロキシメタアクリレート (2HEMA) 20部
メタクリル酸 (MAa) 10部
KBM-503(信越化学株式会社製)** 4部
ハイテノール08E 8部
水 180部
*アニオン系界面活性剤(ポリオキシアルキルエーテルのスルフォン酸塩)
**γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
供給物1を撹拌機および流入容器を有する反応容器中に仕込み、供給物2の5%を投入し75℃まで昇温する。75℃になったら過硫酸カリウム1部を投入し、反応を開始する。15分プレ反応後、80℃に昇温後、供給物2と過硫酸カリウム1.5部を水45部に溶解したものを3時間で滴下し、1時間熟成する。熟成が終了後、冷却し4部のアンモニア水で中和し、固形分濃度49.6%の(A)成分を得る。
【0023】プライマー組成物の調整
(A)成分300部に水200部を加え、(B)成分の珪酸ソーダ4号(日本化学工業株式会社製,X=4)を500部加えてプライマー組成物を得た(固形分比(A):(B)=1:1)。」
d 「【0032】実施例1~2および比較例1~3で得られたプライマー組成物の混和安定性、高温安定性およびプライマー組成物の密着性、リコート性の試験結果を表1に示した。なお、試験方法は、下記に準じて行った。
試験方法
(B)成分混和安定性 (B)成分を加えたときの粗粒発生の有無を確認した。
高温安定性 60℃、一週間放置したときの安定性を確認した。
密着性 珪カル板(比重1.0)に100g/m2 になるようにプライマー組成物を塗布し、130℃、3分乾燥したのち、室温まで冷却した。その後仕上げ剤(HIビニレックス)を塗布し、130℃、5分乾燥後、室温まで冷却し、セロハンテープにより密着性を評価した。
リコート性 密着性試験と同様の養生方法でシーラー塗工板を作製し、セロハンテープによりリコート性を評価した。」
e 「【0034】
【発明の効果】本発明によって得られるプライマー組成物は、合成樹脂エマルジョンと水溶性珪酸塩との混和安定性が良好であり、高温安定性にも優れている。またプライマーとして使用した場合、無機板との密着性、リコート性に優れており、無機板の表面補強に有効である。」
f 上記bないしeによると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。
「(メタ)アクリル酸エステルとスチレンからなる主単量体からなる合成樹脂エマルジョンからなる(A)成分と、(B)水溶性珪酸塩とを配合してなる、混和安定性が良好である、無機板用プライマー組成物であって、
水 280部、ハイテノール08E(第一工業株式会社製) 2部からなる供給物1を撹拌機および流入容器を有する反応容器中に仕込み、スチレン (SM) 245部、2-エチルヘキシルアクリレート (2EHA) 210部、2-ヒドロキシメタアクリレート (2HEMA) 20部、メタクリル酸 (MAa) 10部、KBM-503(信越化学株式会社製) 4部、ハイテノール08E 8部、水 180部からなる供給物2の5%を投入し75℃まで昇温させ、75℃になったら過硫酸カリウム1部を投入し、反応を開始させ、15分プレ反応後、80℃に昇温後、供給物2と過硫酸カリウム1.5部を水45部に溶解したものを3時間で滴下し、1時間熟成し、熟成が終了後、冷却し4部のアンモニア水で中和し、固形分濃度49.6%の(A)成分を得、(A)成分300部に水200部を加え、(B)成分の珪酸ソーダ4号(日本化学工業株式会社製,X=4)を500部加えて得られる、固形分比(A):(B)=1:1であるプライマー組成物を、
珪カル板に100g/m2 になるように塗布したシーラー塗工板。」
(イ)令和3年6月17日付け拒絶理由通知書において引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2009-83269号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
a 「【0066】
製造例1(化粧シートの製造)
化粧シート5としてポリプロピレン樹脂フィルム(厚さ120μm)を用い、該フィルムの表面に、シリコーンアクリレート系電離放射線硬化性樹脂を含有する電離放射線硬化性樹脂組成物をグラビアオフセットコータ法で塗工した。塗工後、加速電圧175kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させて、表面保護層6を得た。次いで、70℃で24時間の養生を行い、11枚の表面保護層付きシートを得た。
シリコーンアクリレート系電離放射線硬化性樹脂含有組成物の組成内容
(1)ウレタンアクリレート(オリゴマー) 84質量部
(2)2官能シリコーンアクリレート 2質量部
(3)ワックス 5質量部
(4)シリカ 5質量部
(5)紫外線吸収剤 4質量部
【0067】
製造例2(シーラー層を積層した無機基板2の製造)
市販の比重0.8、厚さ6mmのケイ酸カルシウム板及び比重1.0、厚さ6mmのケイ酸カルシウム板に、無機シーラー又は有機シーラー(イソシアネート系有機シーラー、大日本インキ化学工業製:商品名「UCシーラーW-009N」)を表1に示す塗布量(いずれも固形物換算、単位:g/m2)で塗布し、11枚のシーラー層を積層した無機基板2を得た。
塗布に当っては、無機シーラー用希釈剤である水又は有機シーラー用希釈剤で適宜希釈して塗布量を調整した。
無機シーラーは、下記の組成物を使用した。
リチウムシリケート水溶液(リチウムシリケート45:日産化学工業(株)製)
SiO2 20% (SiO2/Li2Oモル比:4.5)
シリル化ウレタン重合体を含む水性接着剤は、下記の組成物を使用した。
アクアリンカーSU501A(コニシ株式会社製)
シリル化ウレタン樹脂 固形分 35%
【0068】
実施例1~4及び比較例1~7
製造例1で得られた表面保護層6を有する化粧シート5の、表面保護層6を有さない面に、表1に示すようにシリル化ウレタン重合体を含む水性接着剤又はエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)系接着剤(中央理化工業製、商品名「BA-10」、塗布前にイソシアネート系硬化剤を加えた)を塗布量30g/m2(固形物換算)で塗布した後、製造例2で得られたシーラー層を積層した無機基板2のシーラー層の面にラミネートし、不燃化粧板1を得た。いずれの不燃化粧板1も、無機基板2の側面及び裏面の端部まで化粧シートが巻き込まれるように貼着した。得られた不燃化粧板1について、総発熱量及び密着性を評価した。評価結果を表1に示す。」
b 「【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の不燃化粧板は、不燃性を有し、密着性に優れ、かつ意匠性、搬送性及び施工性が良好であるので建築物の天井、壁材等の内外装用建材や、家具等の様々な用途に用いることができる。特に、本発明の不燃材化粧板が有する不燃性を生かして、流し台、ガスコンロ等のキッチン周辺建材や、壁面パネル、その他の建築基準法上、不燃性を要請される建築物の各所に好適に用いることができる。」
c 上記aないしbによると、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用技術事項2」という。)が開示されていると認められる。
「建築物の壁材等の内装用建材に用いることができる不燃化粧板であって、化粧シート5としてポリプロピレン樹脂フィルムを用い、ケイ酸カルシウム板に、無機シーラーを塗布し、シーラー層を積層した無機基板2とし、塗布に当っては、無機シーラー用希釈剤である水で適宜希釈して塗布量を調整し、無機シーラーは、リチウムシリケート水溶液を使用し、化粧シート5の、表面保護層6を有さない面に接着剤を塗布し、シーラー層を積層した無機基板2のシーラー層の面にラミネートして不燃化粧板1とする点。」
イ 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「珪カル板」は、本願補正発明の「ケイ酸カルシウム板」に相当する。
(イ)引用発明1の「プライマー組成物」の、「アクリル酸エステルとスチレンからなる主単量体からなる合成樹脂エマルジョン」からなり、「水 280部、ハイテノール08E(第一工業株式会社製) 2部からなる供給物1を撹拌機および流入容器を有する反応容器中に仕込み、スチレン (SM) 245部、2-エチルヘキシルアクリレート (2EHA) 210部、2-ヒドロキシメタアクリレート (2HEMA) 20部、メタクリル酸 (MAa) 10部、KBM-503(信越化学株式会社製) 4部、ハイテノール08E 8部、水 180部からなる供給物2の5%を投入し75℃まで昇温させ、75℃になったら過硫酸カリウム1部を投入し、反応を開始させ、15分プレ反応後、80℃に昇温後、供給物2と過硫酸カリウム1.5部を水45部に溶解したものを3時間で滴下し、1時間熟成し、熟成が終了後、冷却し4部のアンモニア水で中和し」て、「固形分濃度49.6%」として得られる「(A)成分」は、「アクリル」を含む「樹脂」であることから、本願補正発明の「アクリル樹脂」に相当する。
引用発明1の「プライマー組成物」の、「水溶性珪酸塩」であって、「珪酸ソーダ4号(日本化学工業株式会社製,X=4)」である「(B)成分」は、本願補正発明の「ケイ酸塩」に相当する。
引用発明1の「プライマー組成物」の「(A)成分」と「(B)成分」が「固形分比(A):(B)=1:1」であることは、本願補正発明の「固形分がアクリル樹脂40~60質量%、ケイ酸塩60~40質量%」であることに相当する。
引用文献1の段落【0003】に、「アクリル樹脂エマルジョンを主成分と」したものは、「水系プライマー」として用いられることが示されているところ、引用発明1の「プライマー組成物」は、混和の際に「(A)成分300部に水200部を加え、」「水溶性珪酸塩である」「(B)成分の珪酸ソーダ4号(日本化学工業株式会社製,X=4)を500部加えて」得られるものであって、「混和安定性が良好であ」るから、全体として水性であることは明らかであり、本願補正発明の「水性アクリル樹脂塗料」に相当する。
(ウ)引用発明1の「シーラー塗工板」は、「プライマー組成物を、珪カル板に100g/m2 になるように塗布した」ものであることから、引用発明1の「プライマー組成物を、珪カル板に100g/m2 になるように塗布した」ことは、本願補正発明の「ケイ酸カルシウム板の表面に、」「水性シーラーで形成されるシーラー層を備えて」いることに相当する。
(エ)引用文献1の段落【0032】の密着性の試験及びリコート性の試験についての記載をふまえると、引用発明1の「シーラー塗工板」は、その表面に別の部材を密着させたり、リコートを施すことを想定しているといえるため、引用発明1の「シーラー塗工板」と本願補正発明の「不燃性内壁材の下地基材」とは、「下地材」である点で共通する。
(オ)したがって、両者は、以下の点で一致する。
(一致点)
「ケイ酸カルシウム板の表面に、水性シーラーで形成されるシーラー層を備えて成る下地材であって、前記シーラー層を形成する水性シーラーは、固形分がアクリル樹脂40~60質量%、ケイ酸塩60~40質量%の水性アクリル樹脂塗料である、下地材。」
(カ)そして、以下の点で相違する。
(相違点)
「シーラー層」及び「下地材」に関して、本願補正発明は、「裏面に粘着層を有する樹脂製化粧フィルムを粘着するため」のものであり、「不燃性内壁材の下地基材」であることが特定されているのに対し、引用発明1は、そのような特定事項を有していない点。
ウ 判断
引用技術事項2に照らして、表面にシーラー層を備えたケイ酸カルシウム板について、不燃性内壁材の下地基材とすること、及び、裏面に粘着層を有する樹脂製フィルムを当該シーラー層に対して粘着することは、いずれも本願出願前において周知の技術(以下、「周知技術」という。)である。
引用発明1と周知技術とは、表面にシーラー層を備えたケイ酸カルシウム板という共通の技術分野に属している。
また、引用文献1において、表面にプライマーを塗布した珪カル板について、段落【0002】には、建材とする用途が示されており、また段落【0032】には、プライマー層の上にリコート等のさらなる加工を行うシーラー塗工板とすることが示されているところ、引用発明1において、建材とする用途として、引用文献2に示される周知技術を採用して、不燃性内壁材の下地基材とし、また、シーラー塗工板として表面にさらに行う加工として、同じく引用文献2に示される周知技術の如く、裏面に粘着層を有する樹脂フィルムを粘着することとし、もって上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本願補正発明は、当業者が引用発明1及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3)請求人の主張について
ア 請求人の主張
(ア)請求人は、審判請求書において、請求項1についての補正は、減縮を目的としている旨を主張している。
(イ)本願補正発明の進歩性に関し、請求人は、審判請求書において、引用文献1には、発明の課題として「多品種小ロットの内壁材の製造という要求に応えることができる、不燃性の内壁材の下地基材を提供すること」という課題についての記載は全くなく、引用文献1の記載事項から、「プライマー組成物を塗布した硅カル板を内壁材の下地基材とし、これを独立した商品として流通に供する」との動機付けが得られる筈はない旨を主張している。
イ 請求人の主張についての検討
請求人の上記主張について、検討する。
(ア)上記2(1)のとおり、審判請求時の補正によって、請求項1から「内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが可能である」という事項が削除されており、当該事項を削除する補正について、特許請求の範囲の減縮を目的としているとは認められないため、請求人の上記ア(ア)の主張は採用することができない。
(イ)上記2(1)のとおり、審判請求時の補正によって、「内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが可能である」という事項が削除されており、請求人の上記ア(イ)の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、採用することができない。
そして、本件補正発明が独立特許要件を満たすか否かについては、上記(2)のとおり判断されるべきものである。
3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正は、仮に請求項1についてシーラーの成分を特定したことをもって、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものと扱ったとしても、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明1
本件補正は、上記第2のとおり却下されたから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和3年8月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものとなり、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1に「補正前」として示したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3 引用文献
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、上記第2[理由]2(2)ア(ア)fに示した引用発明1が記載されている。
(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、上記第2[理由]2(2)ア(イ)cに示した引用技術事項2が記載されている。
(3)引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特公昭63-28948号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
ア 「本発明のシーラー用アクリル系合成樹脂エマルジヨンを用いれば、けいカル板を建物の外壁に張り付けたのち防水シートを貼着したり、けいカル板を内装材として内壁に取り付けた上に、壁装材などを貼着したりすることもできる」(第5欄25-29行)
イ 上記アによると、引用文献3には、次の技術事項(以下「引用技術事項3」という。)が開示されていると認められる。
「けいカル板を内装材として内壁に取り付けた上に、壁装材などを貼着したりすることもできる点。」
(4)引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特公平8-3207号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
ア 「i)基材
本発明に使用するボード基材とは、けい酸カルシウム、炭酸マグネシウム、セメント、石膏、石綿、木材チップ、パルプ、紙、軽量骨材等を主成分として成型された建築外装用乾式ボード材であり、一般に新建材と総称されるものである。例えば、住宅用無機質系サイディングボード、住宅用木質系サイディングボード、石綿けい酸カルシウム板、各種複合パネル材等が例示される。」(第3欄20-27行)
イ 「iii)塗装方法
本発明の仕上層及び下塗層は現場塗装及び/又は、工場塗装によって形成される。現場塗装においては、ローラー塗装、刷毛塗り、スプレー吹き等の塗装方法で行われ、工場塗装においてはこれらに加え各種ロールコーター、フローコーター等の方法で塗装される。もちろん下塗層を工場塗装し、仕上層を現場塗装する工程をとってもよい。」(第4欄12-19行)
ウ 上記アないしイによると、引用文献4には、次の技術事項(以下「引用技術事項4」という。)が開示されていると認められる。
「けい酸カルシウムを主成分として成型された建築外装用乾式ボード材において、下塗層を工場塗装し、仕上層を現場塗装する工程をとってもよい点。」
(5)引用文献5
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平1-208127号公報(以下、「引用文献5」という。)には、次の記載がある。
ア 「この様にして、この発明に従って製造される硅酸カルシウム板は上述の工程がいずれも工場にて簡単に行うことができ、紙貼付け後の硅酸カルシウム板を工場にて所要の寸法および形状に切断形成することによって、現場にては何等特別な仕上下地工程を施す必要がなく直ちに直接仕上塗装することが出来、従来における様な仕上下地工程を大幅に簡略化できて人件費の軽減および施工期間の短縮を図ることができると共に、工場にて製造するために品質を常に一定に保つことが出来、熱に強く耐火性に優れた硅酸カルシウム板が得られる等の効果を奏するようできる。」(第2頁左下欄2-13行)
イ 上記アによると、引用文献5には、次の技術事項(以下「引用技術事項5」という。)が開示されていると認められる。
「紙貼付け後の硅酸カルシウム板を工場にて所要の寸法および形状に切断形成することによって、現場にては、直ちに直接仕上塗装することが出来る点。」
4 原査定の理由についての判断
(1)対比
本願発明1は、本願補正発明に係る「水性シーラー」について、「固形分がケイ酸塩100質量%の水性無機シーラー、又は、固形分がアクリル樹脂40~60質量%、ケイ酸塩60~40質量%の水性アクリル樹脂塗料である」との限定を省くとともに、「不燃性内壁材の下地基材」について、「内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが可能である」限定を付加したものである。
本願発明1と本願補正発明とにおける上記構成の置換、及び、上記第2の2(2)イに示した本願補正発明と引用発明1との対比をふまえて、本願発明1と引用発明1とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。
(一致点)
「ケイ酸カルシウム板の表面に、水性シーラーで形成されるシーラー層を備えて成る下地材」
そして、以下の点で相違する。
(相違点)
「シーラー層」及び「下地材」に関して、本願発明1は、「裏面に粘着層を有する樹脂製化粧フィルムを粘着するため」のものであり、「内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが可能である不燃性内壁材の下地基材」であることが特定されているのに対し、引用発明1は、そのような特定事項を有していない点。
(2)判断
ア 引用技術事項2に照らして、表面にシーラー層を備えたケイ酸カルシウム板を不燃性内壁材の下地基材とし、裏面に粘着層を有する樹脂製フィルムを当該シーラー層に対して粘着することは、本願出願前において周知の技術(以下、「周知技術」という。)である。
引用発明1と周知技術とは、表面にシーラー層を備えたケイ酸カルシウム板という共通の技術分野に属している。
また、引用文献1において、表面にプライマーを塗布した珪カル板について、段落【0002】には、建材とする用途が示されており、また段落【0032】には、プライマー層の上にリコート等のさらなる加工を行うシーラー塗工板とすることが示されているところ、引用発明1において、建材とする用途として、引用文献2に示される周知技術を採用して、不燃性内壁材の下地基材とし、また、シーラー塗工板として表面にさらに行う加工として、同じく引用文献2に示される周知技術の如く、裏面に粘着層を有する樹脂フィルムを粘着することとし、もって上記相違点に係る本願発明1の構成となすことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ そして、その際に、当該珪カル板が、内壁材の共通素材として樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが「可能である」ことは、当業者であれば、容易に把握できることである。
ウ さらに、実際に「内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され」る場合、及び、実際に「後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とする」場合についても、以下検討する。
引用技術事項3ないし5に照らして、ケイ酸カルシウム板の製造と仕上げ層の付加を別の箇所で行うことは、本願出願前において周知の技術(以下、「周知技術2」という。)であることをふまえると、引用発明1の「シーラー塗工板」を、内壁材の共通素材として実際に流通に供することに、格別の困難性を見出すことはできず、当業者が適宜なし得た事項である。
そして、引用文献1の段落【0032】には、引用発明1の「シーラー塗工板」は、セロハンテープを貼って、密着性を評価することが示されていることをふまえても、引用発明1の「シーラー塗工板」に対して、実際に「裏面に粘着層を有する」「任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着」することも、上記アで述べたとおり、当業者が適宜なし得た事項である。
(3)請求人の主張について
ア 請求人の主張
(ア)請求人は、令和3年8月12日付け意見書において、引用文献1には、「多品種小ロットの内壁材の製造という要求に応えることができる、不燃性の内壁材の下地基材を提供すること」という本願発明の課題についての記載は全くなく、引用文献1の記載内容から、その無機板用プライマーを塗布した硅カル板を、その上に、任意に選択した樹脂製化粧フィルムを粘着することを前提として、樹脂製化粧フィルムと別個独立の商品として流通に供するという、従来全く想定されていなかった発想が想起されるとする合理的理由は見出し得ないし、引用文献2の発明によって、本願発明の課題を解決することができないことは言うまでもないところであり、引用文献2の発明を引用文献1の発明に組み合わせたところで、本願発明1の構成が導き出されることはない旨を主張している。
(イ)請求人は、令和3年8月12日付け意見書において、引用文献3~5に記載された発明はいずれも多層構造の商品として流通されるものであり、引用文献3~5に記載された発明を引用文献1の発明に組み合わせたところで、本願発明1の構成が導き出されることはない旨を主張している。
イ 請求人の主張についての検討
請求人の上記主張について、検討する。
(ア)本願の請求項1には、内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供され、後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすることが「可能である」ことが特定されているに過ぎず、実際に内壁材の共通素材として前記樹脂製化粧フィルムを粘着する前の状態で前記樹脂製化粧フィルムとは別個独立の商品として流通に供することや、実際に後に任意の前記樹脂製化粧フィルムを粘着して内壁材とすること、あるいはそのために本願発明1に係る下地基材が備える具体的な構成が特定されているわけではない。そして、流通や後のフィルムの粘着が「可能である」ことについては、上記(2)イに判断したとおりであるから、請求人による上記ア(ア)の主張は、採用することができない。
(イ)引用発明1の、珪カル板にプライマー組成物を塗布したものが、「シーラー塗工板」として用いられていること、及び、引用技術事項3ないし5に照らして、ケイ酸カルシウム板に対する仕上げ層の付加をケイ酸カルシウム板の製造とは別の箇所で行うことが周知の技術であることからすれば、引用発明1の製品を「シーラー塗工板」としてそのまま流通に供すること、及び、引用文献2に示されるような樹脂フィルム化粧シートを後で貼着させることは、上記(2)ウで述べたとおり、当業者が適宜なし得た事項である。
そして、請求人の上記主張をふまえて検討しても、本願発明1の進歩性については、上記(2)のとおり判断されるべきものである。
(4)まとめ
よって、本願発明1は、原査定の理由のとおり、引用発明1及び周知の技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、原査定の理由のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-017998