特許拒絶査定不服審判
2021-016845
液冷式電気機器
- 審判番号
- 2021-016845
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-181404
- 請求日
- 2021年12月07日
- 審決日
- 2022年10月21日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東芝産業機器システム株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人サトー
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 清水 稔
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P18 .121-Z (H01F) / P18 .113-Z (H01F) / P18 .575-Z (H01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項、特許法第29条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-181404「液冷式電気機器」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月11日出願公開、特開2019- 57631〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年9月21日の出願であって、令和3年5月27日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年7月19日に手続補正がされ、令和3年9月14日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和3年12月7日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。
第2 令和3年12月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年12月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
収納容器内に、機器本体が収納されると共に、前記機器本体の絶縁及び冷却のための冷却液が収納される液冷式電気機器において、
前記収納容器内の冷却液の表面部分に位置して、前記冷却液の液面Sの上下方向の揺動に対応可能な所定の高さ寸法Hを有し、上下両面が開口すると共に内部が複数区画に仕切られた格子板状をなす波打ち抑制板を備え、
前記波打ち抑制板は、高さ方向の中間部に前記液面Sが位置されるように設けられると共に、高さ寸法Hが、格子状の一つの区画の幅寸法Lに対し、液面Sが最大傾斜角度θで揺動した場合でも、前記冷却液が該波打ち抑制板の上端部を乗り越えないように、L*tanθよりも大きく構成されている
液冷式電気機器。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年7月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
収納容器内に、機器本体が収納されると共に、前記機器本体の絶縁及び冷却のための冷却液が収納される液冷式電気機器において、
前記収納容器内の冷却液の表面部分に位置して、前記冷却液の液面の上下方向の揺動に対応可能な所定の高さ寸法を有し、上下両面が開口すると共に内部が複数区画に仕切られた格子板状をなす波打ち抑制板を設けた液冷式電気機器。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「波打ち抑制板」の内容について、「液面」を「液面S」、、「高さ寸法」を「高さ寸法H」と表記の変更をするとともに、「前記波打ち抑制板は、高さ方向の中間部に前記液面Sが位置されるように設けられると共に、高さ寸法Hが、格子状の一つの区画の幅寸法Lに対し、液面Sが最大傾斜角度θで揺動した場合でも、前記冷却液が該波打ち抑制板の上端部を乗り越えないように、L*tanθよりも大きく構成されている」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1について
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、実公昭41-12496号公報第(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「図面の簡単な説明
第1図乃至第3図は従来の車輌用変圧器の概略構成を示すもので、第1図は上部カバーを取外した平面図、第2図は側面図、第3図は第1図のA-A線に沿う断面図である。」(第1頁左欄、「図面の簡単な説明」の第1-4行)
「交流電気車輌に搭載される車輌用変圧器は、車体屋根高さ以内に収納しなければならず、厳しい高さ制限を受ける。しかもその用途から小型軽量化しなければならず、強制送油風冷式に構成されることが多い。また一般にこの種変圧器は車輌の運行或は停止時に油面が動揺し、絶縁油の冷却循環系統へ油槽上部のガス室内のガスが混入し、ボイド発生の原因となるため、変圧器本体上の油面を高くし、油面附近には波打ち防止板を設けることが行なわれている。
第1図乃至第3図はかかる従来の構成を示すもので、1は巻線2と鉄心3とよりなる変圧器本体の油槽で4内へ収容されている。5は油槽4上に設けた上部カバーで、油槽4上を密閉するように設けてある。6は油槽4内へ収容された絶縁油、7は絶縁油面上に形成されるガス室、8は絶縁油6の油面附近に設けられた波打防止板で、この波打防止板8は複数個の室に仕切られ、各所へ油の連通孔を有するように構成される。9は該波打防止板8を支持すべく油槽4の上部へ複数個設けられた取付フランジ、10は波打防止板8の下方に位置する油槽4より設けた絶縁油6の吸込口で油槽4内絶縁油はこの吸込口より油冶却器(図示せず)を経て再び油槽4の下部へ導かれるものである。11は鉄心3を締付けるべく吸込口10と反対面へ設けられこの鉄心3と油槽4との間に打込まれた楔である。」(第1頁左欄下から18行-同頁右欄第9行、なお「油冶却器」は「油冷却器」の誤記と認められる。)
「さて、上述の従来構成によれば油面上より吸入口10までの吸込揚程は、第2図および第3図のaに示すようになり、吸込の流線が極めて短い。」(第1頁右欄第10-12行、なお「油冶却器」は「油冷却器」の誤記と認められる。)
[図:0001392768000001.jpg]
[図:0001392768000002.jpg]
[図:0001392768000003.jpg]
(イ)上記記載から、第1図ないし第3図に示される従来の車輌用変圧器に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「強制送油風冷式に構成され、巻線2と鉄心3とよりなる変圧器本体が油槽4内へ収容された、車輌用変圧器であって、
油槽4上を密閉するように油槽4上に設けた上部カバー5、油槽4内へ収容された絶縁油6、絶縁油6の油面附近に設けられた波打防止板8、該波打防止板8を支持すべく油槽4の上部へ複数個設けられた取付フランジ9を備え、
波打防止板8は複数個の室に仕切られ、各所へ油の連通孔を有する、車輌用変圧器。」
イ 参考文献1について
当審で引用する、特開昭48-82443号公報(以下、「参考文献 1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「なお本発明の沸騰冷却装置を移動体に積込む場合は、冷却媒体の液面に第5図にその一実施例の斜視図を示すような波打ち防止板を設ければ、冷却媒体の波打ちを防げる。このような波打ち防止板を設けないと、移動体等の振動により、冷却媒体が大きな波打ちを生じ発熱体を冷却媒体から露出させてしまい正常な冷却を行なわせることかできなくなる可能性がある。しかしなから前記の波打ち防止板が設けてあれば、移動体の振動によつてもこの波打ち防止板で仕切られた小さな区画内で波打ちをするから、冷却媒体は大きな波打ちをしない。このため発熱体が冷却媒体から露出することがなく、正常な冷却を行なうことができる。」(第3頁左上欄第15行-右上欄第7行)
[図:0001392768000004.jpg]
(3)引用発明との対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明1における「油槽4内」に「巻線2と鉄心3とよりなる変圧器本体」が「収容」されることが、本願発明1における「収納容器内に、機器本体が収納される」ことに相当する。
(イ)引用発明1における「油槽4内」の「絶縁油6」が、「強制送油風冷式」による「車輌用変圧器」の冷却、及び絶縁のためのものであることは技術常識であるから、引用発明1における「強制送油風冷式に構成され」た「車輌用変圧器」が、本願発明1における「前記機器本体の絶縁及び冷却のための冷却液が収納される液冷式電気機器」に相当する。
(ウ)引用発明1における「絶縁油6の油面附近に設けられた波打防止板8」は、油面の波打を防止する目的で設けられているのであるから(必要であれば、参考文献1参照。)、油面の波打、すなわち液面Sの上下方向の揺動に対応可能な所定の高さ寸法を有していることは明らかである。
よって、引用発明1における「絶縁油6の油面附近に設けられた波打防止板8」を「取付フラソジ9」で「支持」することと、本願発明1とは、「前記収納容器内の冷却液の表面部分に位置して、前記冷却液の液面Sの上下方向の揺動に対応可能な所定の高さ寸法Hを有し」た「波打ち抑制板を備え」ている点で一致するといえる。
(エ)引用発明1における「波打防止板8」は「複数個の室に仕切られ、各所へ油の連通孔を有する」ものであるが、引用文献1の図面第2図、第3図には、「波打防止板8」内の絶縁油面から、「波打防止板8」の「油の連通孔」を通って、その下の油槽4へと向かい、最終的に吸込口10に吸い込まれる「吸込の流線」が複数記載されているから、引用発明1における「波打防止板8」は、「複数個の室」ごとに「油の連通孔を有」し、その結果、上下両面が開口していると認められる。
したがって、引用発明1における「複数個の室に仕切られ、各所へ油の連通孔を有する」「波打防止板8」と本願発明1における「波打ち抑制板」とは、「上下両面が開口すると共に内部が複数区画に仕切られた」「波打ち抑制板」の点で一致する。
しかしながら、「波打ち抑制板」が、本願発明1では「格子板状」をなしているのに対し、引用発明1では「格子板状」をなしているとは明記されていない点で相違する。
(オ)本願発明1では、「前記波打ち抑制板は、高さ方向の中間部に前記液面Sが位置されるように設けられると共に、高さ寸法Hが、格子状の一つの区画の幅寸法Lに対し、液面Sが最大傾斜角度θで揺動した場合でも、前記冷却液が該波打ち抑制板の上端部を乗り越えないように、L*tanθよりも大きく構成されている」のに対し、引用発明1における「波打防止板8」には、そのような特定はなされていない点で相違する。
イ 以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「収納容器内に、機器本体が収納されると共に、前記機器本体の絶縁及び冷却のための冷却液が収納される液冷式電気機器において、
前記収納容器内の冷却液の表面部分に位置して、前記冷却液の液面Sの上下方向の揺動に対応可能な所定の高さ寸法Hを有し、上下両面が開口すると共に内部が複数区画に仕切られた波打ち抑制板を備えた、
液冷式電気機器。」
(相違点1)
「波打ち抑制板」が、本願補正発明では「格子板状」をなしているのに対し、引用発明1では「格子板状」をなしていることは明記されていない点。
(相違点2)
本願補正発明では、「前記波打ち抑制板は、高さ方向の中間部に前記液面Sが位置されるように設けられると共に、高さ寸法Hが、格子状の一つの区画の幅寸法Lに対し、液面Sが最大傾斜角度θで揺動した場合でも、前記冷却液が該波打ち抑制板の上端部を乗り越えないように、L*tanθよりも大きく構成されている」のに対し、引用発明1における「波打防止板8」には、そのような特定はなされていない点。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献1の「車輌用変圧器の概略構成を示す」「側面図」である「第2図」、及び「第1図」(当審注:上部カバーを取外した平面図)の「A-A線に沿う断面図」である「第3図」には、「波打防止板8」が所定間隔で直立していることが記載されている。
よって、引用文献1における、互いに90°異なる方向から見た第2図及び第3図の記載からみて、引用発明1における「複数個の室に仕切られ」た「波打防止板8」も、各「複数個の室」が格子状となるように「仕切られ」た、「格子板状」をなしていると考えるのが自然である。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。
イ 相違点2について
(ア)まず、上記相違点2に係る本願補正発明の構成について検討する。
本願の請求項1には「最大傾斜角度θ」の数値が具体的に特定されているわけではないから、上記相違点2に係る本願補正発明の「高さ寸法Hが、格子状の一つの区画の幅寸法Lに対し、液面Sが最大傾斜角度θで揺動した場合でも、前記冷却液が該波打ち抑制板の上端部を乗り越えないように、L*tanθよりも大きく構成されている」との構成は、波打ち抑制板の「高さ寸法H」の数値を何ら特定するものではない。
よって、上記相違点2に係る本願補正発明の上記構成は、想定される油面の揺動によっても冷却液が波打ち抑制板の上端部を乗り越えないように、波打ち抑制板が設計及び設置されていることを、数式等により表現したに過ぎないものと認められる。
(イ)これに対し、参考文献1に記載されているとおり、「区画」された「波打ち防止板」とは、「冷却媒体の液面に」「設け」、「移動体の振動によつてもこの波打ち止板で仕切られた小さな区画内で波打ちをするから、冷却媒体は大きな波打ちをしない」ようにするために用いられる部材であるから、引用発明1における「複数個の室に仕切られ」た「波打ち防止板」についても、「油面」の「動揺」が「波打ち防止板」による小さな区画(室)内での波打ちとなるように、つまり、油面の上下動が、「波打ち防止板」による小さな区画(室)内に収まるように設計し、設置することは、当業者にとって自明の事項であると認められる。
よって、引用発明1における、「波打ち防止板」を上記のように設計、設置し、上記相違点2に係る本願補正発明の構成が満足されるようにすることは、上記(ア)で述べたことを踏まえると、当業者が容易になし得たことである。
ウ また、本願補正発明の奏する作用効果も、引用発明1が奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年12月7日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和3年7月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2」1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定における、請求項1についての拒絶の理由1は、次のとおりである。
「この出願の請求項1に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記
引用文献1:実公昭41-12496号公報」
3 引用文献
原査定の拒絶の理由1で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記「第2」2(2)アに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記「第2」2で検討した本願補正発明から、「液面」を「液面S」、「高さ寸法」を「高さ寸法H」とする表記の変更を元に戻すとともに、「前記波打ち抑制板は、高さ方向の中間部に前記液面Sが位置されるように設けられると共に、高さ寸法Hが、格子状の一つの区画の幅寸法Lに対し、液面Sが最大傾斜角度θで揺動した場合でも、前記冷却液が該波打ち抑制板の上端部を乗り越えないように、L*tanθよりも大きく構成されている」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用文献1に記載された発明とは、上記「第2」2(3)イに記載した(相違点1)で相違し、その他の点では一致する。
しかしながら、(相違点1)は、上記「第2」2(4)アで述べたとおり、実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は、実質的に、引用文献1に記載された発明である。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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