特許拒絶査定不服審判
2024-008531
二次元磁気モーメントと高動作周波数帯を有する軟磁性複合材とその調製方法
- 審判番号
- 2024-008531
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-571819
- 請求日
- 2024年05月22日
- 審決日
- 2025年04月17日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】▲広▼州新莱福新材料股▲フン▼有限公司
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 【請求人】▲蘭▼州大学
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 ▲高▼橋 徳浩
- 審判官 井上 信一
- 分類
- P18 .113-Z (H01F) / P18 .121-Z (H01F) / P18 .575-Z (H01F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-571819「二次元磁気モーメントと高動作周波数帯を有する軟磁性複合材とその調製方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月 9日国際公開、WO2020/140506、令和 4年 2月25日特許出願公表、特表2022-516212〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年9月29日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2019年1月2日 中国(CN))を国際出願日とする出願であって、以後の本件に関する手続の概要は以下のとおりである。
令和4年 8月19日 手続補正書の提出
令和5年 7月11日付け 拒絶理由通知
令和5年10月16日 手続補正書、意見書の提出
令和6年 1月11日付け 拒絶査定(原査定)
令和6年 5月22日 審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年5月22日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和6年5月22日の手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
令和6年5月22日の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前には、
「【請求項1】
二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材であって、
絶縁マトリクスと、
前記絶縁マトリクス中に分散した二次元磁気モーメント微粉末と、を備え、
前記二次元磁気モーメント微粉末内において磁気モーメントが特定の二次元平面内に等方的に分布し、
前記絶縁マトリクス中に分布した二次元磁気モーメント微粉末が、前記二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントが前記二次元平面内に分布するようにして、配向されている、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。」
とあったものが、
「【請求項1】
二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材であって、
絶縁マトリクスと、
前記絶縁マトリクス中に分散した二次元磁気モーメント微粉末と、を備え、
前記二次元磁気モーメント微粉末内において磁気モーメントが前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内に等方的に分布し、
外部動作磁場がゼロの場合には前記二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントは前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内に分布し、前記外部動作磁場がゼロではない場合には前記二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントは前記外部動作磁場の作用下において前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内で又は前記特定の二次元平面に沿って回転運動又は歳差運動を行い、
前記絶縁マトリクス中に分布した二次元磁気モーメント微粉末が、多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって、前記軟磁性複合材内の前記二次元磁気モーメント微粉末の磁化容易面が前記多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって決められる二次元平面内に分布するようにして、配向されていて、前記軟磁性複合材の平面配向度が95%を超える、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。」
と補正された(下線部は補正箇所を示す。)。
2.補正の適否
上記補正は、
(a)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である二次元磁気モーメント微粉末内において磁気モーメントが等方的に分布する「特定の二次元平面」について、「前記二次元磁気モーメント微粉末内」におけるものであることの限定を付加し、
(b)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である二次元磁気モーメント微粉末内の「磁気モーメント」について、「外部動作磁場がゼロの場合には」「前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内に分布し、前記外部動作磁場がゼロではない場合には」「前記外部動作磁場の作用下において前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内で又は前記特定の二次元平面に沿って回転運動又は歳差運動を行」うものであることの限定を付加し、
(c)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である絶縁マトリクス中に分布した「二次元磁気モーメント微粉末」について、「前記二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントが前記二次元平面内に分布するようにして、配向され・・」とあったのを「多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって、前記軟磁性複合材内の前記二次元磁気モーメント微粉末の磁化容易面が前記多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって決められる二次元平面内に分布するようにして、配向され・・」と補正し、実質的に、二次元磁気モーメント微粉末が配向されて分布する二次元平面が、「多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって」、その「磁化容易面が前記多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって決められる」二次元平面であることの限定を付加し、
(d)さらに、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「軟磁性複合材」について、「平面配向度が95%を超える」ものであることの限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、上記補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下に検討する。
(1)引用例の記載事項、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2008/136391号(以下、「引用例」という。)には、「高周波用磁性材料」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
ア.「 請求の範囲
[1] 希土類-鉄-窒素系磁性材料を含んでなる、高周波用磁性材料。
・・・・(中 略)・・・・
[7] 希土類-鉄-窒素系磁性材料の有する結晶磁気異方性が面内磁気異方性である、請求項1~6のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料。
・・・・(中 略)・・・・
[14] 請求項1~12のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料を5~99.9質量%、樹脂を0.1~95質量%含有する、高周波用磁性材樹脂複合材料。」
イ.「[0002] (前 略)・・また、「高周波用磁性材樹脂複合材料」とは、高周波用磁性材料と樹脂との複合材料であり、単に「磁性材樹脂複合材料」といえば、磁性材料と樹脂との複合材料であって、高周波用磁性材樹脂複合材料に限らない。」
ウ.「[0020] 以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、希土類-鉄-窒素系磁性材料、或いは希土類-鉄-窒素系磁性材料の表面にフェライト系磁性材料が被覆されてなる高周波用磁性材料に関するものであり、その主な形態は、希土類-鉄-窒素系磁性材料“粉体”、或いは希土類-鉄-窒素系磁性材料“粉体”の表面がフェライト系磁性材料で覆われている高周波用複合磁性材料“粉体”である。これらの高周波用磁性材料粉体をそのまま固化して成形したり、樹脂等の成分を加えて成形したりしたのち、各種用途の高周波用磁性材料として用いられる。・・(以下、略)」
エ.「[0038] 本発明の希土類-鉄-窒素系磁性材料において、その面内磁気異方性を利用した材料であることが望ましい。面内磁気異方性材料とは、c軸に磁気モーメントが存在するより、c面上に磁気モーメントが存在する方が、エネルギー的に安定な材料である。従って、Ha2 >Ha1である。関係式(5)で示したように、Ha2 /Ha1が大きいほど、より高い周波数で高い透磁率が実現できる。即ち、本発明の材料としてはHa1が0.01~106 A/m、Ha2 が10~1010A/mであって、かつHa2 >Ha1 が成り立つ材料であることが望ましい。
・・・・(中 略)・・・・
[0039] さて、本発明の希土類-鉄-窒素系磁性材料は以上のように、面内磁気異方性を有する希土類成分、鉄成分、窒素成分を含む3元以上の金属間化合物或いは固溶体がその主体を成しており、これらの3元以上の成分からなる磁性材料の面内磁気異方性という性質を利用した高周波用磁性材料であるという特徴を有するものである。」
オ.「[0040] 本発明の希土類-鉄-窒素系磁性材料のうち、菱面体晶を有するNd2Fe17母合金を窒化した材料を例にして、その窒素組成量と自然共鳴周波数や微構造の関係について、以下にさらに詳しく述べる。
Nd2Fe17に窒素を導入した場合、Nd2Fe17あたり窒素が3個であるNd2Fe17N3であると、磁気異方性エネルギー、透磁率、キュリー温度など多くの磁気特性が最適となる。これは、既に磁石材料として実用化されているSm2Fe17N3材料(例えば、非特許文献2参照)と事情がよく似通っている。
粒界をほとんど持たない粉砕粒径25μmであるNd2Fe17N3材料の異方性磁場Ha1、Ha2は、その磁気曲線からそれぞれ30kA/m、3MA/mと見積もられ、この値と関係式(5)から、自然共鳴周波数frの計算値は、10GHz程度となる。・・(以下、略)」
カ.「[0063] なお、本発明の磁性材樹脂複合材料には、チタン系、シリコン系カップリング剤を添加することができる。一般にチタン系カップリング剤を多く加えると流れ性、成形加工性が向上し、その結果磁性粉体の配合量を増やすことが可能となり、磁場配向を行う際、配向性が向上して、磁気特性の優れた材料になる。」
キ.「[0079](6)配向・成形工程
本発明の磁性材料は、希土類-鉄-窒素系磁性材料、及び/又は、フェライト系磁性材料を表面被覆した希土類-鉄-窒素系磁性材料のみを固化するか、又は金属バインダー、他の磁性材料や樹脂を添加して成形するなどして、各種用途に用いられる。特に上記で述べた樹脂を配合すると、本発明の磁性材樹脂複合材料となる。また、本発明の磁性材料が異方性材料であった場合、この成形工程で少なくとも1回、磁場配向操作を行うと高磁気特性の磁性材料または磁性材樹脂複合材料となるので特に推奨される。
・・・・(中 略)・・・・
[0082] ・・・・(中 略)・・・・
上記(3)の工程、または(3)の工程→(4)の工程、または(3)の工程→(5)の工程、または(3)の工程→(4)の工程→(5)の工程で得た希土類-鉄-窒素系磁性材料粉体、及び/又は、フェライト被覆希土類-鉄-窒素系磁性材料粉体を高周波用磁性材樹脂複合材料に応用する場合、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂と混合したのち圧縮成形したり、熱可塑性樹脂と共に混練したのち射出成形を行ったり、さらに押出成形、ロール成形やカレンダ成形などによりして成形する。
[0083] ・・・・(中 略)・・・・
上記の方法で、成形する際、その工程の一部又は全部を磁場中で行うと、磁性粒子が磁場配向して、磁気特性が向上することがある。この磁場配向の方法には大きく、一軸磁場配向、回転磁場配向、対向磁極配向の3種類が挙げられる。
[0084] ・・・・(中 略)・・・・
回転磁場配向とは、運動が可能な状態にある複合磁性材料又は磁性材樹脂複合材料を、通常一つの平面内で回転する外部磁場の中におき、磁性材料の困難磁化方向を一方向に揃える方法である。・・(以下、略)
[0085] ・・・・(中 略)・・・・
面内磁気異方性を有する高周波用材料や高周波用磁性材樹脂複合材料を一軸磁場配向すれば、透磁率が1~50%向上し、回転磁場配向や対向磁極配向を行うと1~200%向上する。
磁場成形は、磁性材料を充分に磁場配向せしめるため、好ましくは8kA/m以上、さらに好ましくは80kA/m以上、最も好ましくは400kA/m以上の磁場中で行う。磁場配向に必要な磁場の強さと時間は、磁性材料粉体の形状、磁性材樹脂複合材料の場合マトリックスの粘度や磁性材料粉体との親和性により決まる。」
ク.「[0092][実施例3及び4]
純度99.9%のNd及び純度99.9%のFeを用いてアルゴンガス雰囲気下高周波溶解炉で溶解混合し、さらにアルゴン雰囲気中、950℃で100時間、焼鈍し、徐冷して表面研磨することにより、Nd10.5Fe89.5組成の原料合金を調製した。
この原料合金をジョークラッシャーにより粉砕し、次いでアルゴン雰囲気中ピンミルでさらに粉砕した後、音波式分級機で粒度を調整して、平均粒径50μmの粉体を得た。
このNd-Fe原料合金粉体を横型管状炉に仕込み、420℃において、アンモニアガス分圧0.35atm、水素ガス分圧0.65atmの混合気流中で2時間加熱処理し、次いで400℃においてアルゴンガス中で30分間、焼鈍を行うことにより、平均粒径25μmのNd9.1Fe77.3N13.6組成に調整した。
この希土類-鉄-窒素系磁性材料の磁化の値は159emu/g、異方性磁場Ha1、Ha2は、その磁気曲線からそれぞれ30kA/m、3MA/mと見積もられ、自然共鳴周波数frの値は10GHz程度となった。なお、磁気異方性比は0.84であった。
続いて、得られた希土類-鉄-窒素系磁性材料を回転ボールミルで粉砕して、平均粒径約4μmのNd-Fe-N系磁性材料を作製した。これにエポキシ樹脂を10質量%配合したのち、試料をa、bに2分した。非磁性の超硬金型に仕込んだのち、試料aはそのまま1GPaで加圧成形(実施例3)し、試料bは超硬金型ごと1.2MAの磁場中で、60r.p.m.の回転速度で2分間回転させることで回転磁場配向を施し、その後1GPaで加圧成形(実施例4)した。この2つの試料を150℃で2時間キュア処理した試料を加工してトロイダル試料Aを作製した。できあがりの密度は3.8で、磁性材料の体積分率は40体積%であった。
・・・・(中 略)・・・・
さらに、本トロイダル試料Aのドーナツ状底面を測定面として、X線回折法により解析した結果、両者とも主に菱面体晶を示す回折線が認められたが、試料bでは(006)の回折線がパウダーパターンで最強線である(303)と比べて、非常に大きく観測され、磁性材料がトロイダル試料Aの径と垂直方向にc軸が配向する形で磁場配向していることが分かった。(006)/(303)強度比では、試料aが0.6であるのに対して、試料bが3.4であった。従って、この希土類―鉄-窒素系磁性材料は面内磁気異方性材料であることが結論される。・・(以下、略)」
上記「ア.」ないし「ク.」から以下のことがいえる。
・上記引用例に記載の「高周波用磁性材料」は、上記「ア.」の請求の範囲[1]、「ウ.」記載によれば、希土類-鉄-窒素系磁性材料からなるものであり、粉体である。
・上記「ア.」の請求の範囲[7]、「エ.」の記載によれば、希土類-鉄-窒素系磁性材料は、結晶磁気異方性としてc面上に磁気モーメントが存在する面内磁気異方性を有する材料であって、引用例に記載の「高周波用磁性材料」は、かかる面内磁気異方性という性質を利用したものであり、上記「ク.」の記載によれば、実施例4(試料b)における希土類-鉄-窒素系磁性材料も面内磁気異方性材料である。
・上記「オ.」の記載によれば、希土類-鉄-窒素系磁性材料は例えば菱面体晶を有するNd2Fe17N3であり、上記「ク.」の記載によれば、実施例4(試料b)でも、菱面体晶を示すNd9.1Fe77.3N13.6、すなわち実質Nd2Fe17N3である。
・上記「ア.」の請求の範囲[14]、「イ.」、「ウ.」、「キ.」の記載によれば、引用例に記載の「高周波用磁性材料」、すなわち希土類-鉄-窒素系磁性材料粉体に樹脂を配合(混合)することで高周波用磁性材樹脂複合材料とすることができるものであり、上記「ク.」の記載によれば、実施例4(試料b)においても、希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体(平均粒子径4μm)にエポキシ樹脂を配合してなるものである。
・上記「カ.」、「キ.」の記載によれば、高周波用磁性材樹脂複合材料を成形する際に、高磁気特性とするために例えば磁性材料の困難磁化方向を一方向に揃える方法である回転磁場配向を施すことで、磁性材料の粉体(磁性粒子)を磁場配向せしめてなるものであり、上記「ク.」の記載によれば、実施例4(試料b)においても、回転磁場配向を施してなるものである。
以上のことから、「高周波用磁性材料」に樹脂を配合(混合)して加圧成形してなる「高周波用磁性材樹脂複合材料」を発明として捉え、特に回転磁場配向を施してなる実施例4に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体にエポキシ樹脂を配合(混合)してなる高周波用磁性材樹脂複合材料であって、
前記希土類-鉄-窒素系磁性材料は、結晶磁気異方性としてc面上に磁気モーメントが存在する面内磁気異方性を有する材料である、菱面体晶を示すNd9.1Fe77.3N13.6(実質Nd2Fe17N3)であって、かかる面内磁気異方性という性質を利用するものであり、
成形する際に、高磁気特性とするために前記磁性材料の困難磁化方向を一方向に揃える方法である回転磁場配向を施すことで、前記磁性材料の粉体を磁場配向せしめてなる、高周波用磁性材樹脂複合材料。」
(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア.まず、引用発明における「希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体」について、結晶磁気異方性としてc面上に磁気モーメントが存在する面内磁気異方性を有する材料である、菱面体晶を示すNd9.1Fe77.3N13.6(実質Nd2Fe17N3)であることから、当該粉体内において磁気モーメントは、粉体内のc面、すなわち本願補正発明でいうところの「特定の二次元平面」内に等方的に分布しているといえるものであり、したがって、引用発明の「希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体」は、本願補正発明でいう「二次元磁気モーメント微粉末」に相当するものである。
そして、引用発明における「高周波用磁性材樹脂複合材料」は、希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体にエポキシ樹脂を配合(混合)してなるものであるところ、技術常識に照らして、希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体は樹脂中に分散しているといえるものであり、したがって、引用発明の「エポキシ樹脂」は、本願補正発明でいう「絶縁マトリクス」に相当するものである。
よって、本願補正発明と引用発明とは、「絶縁マトリクスと、前記絶縁マトリクス中に分散した二次元磁気モーメント微粉末と」を備え、「前記二次元磁気モーメント微粉末内において磁気モーメントが前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内に等方的に分布」してなるものである点で一致するということができる。
ただし、二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントについて、本願補正発明では「外部動作磁場がゼロの場合には」「前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内に分布し、前記外部動作磁場がゼロではない場合には」「前記外部動作磁場の作用下において前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内で又は前記特定の二次元平面に沿って回転運動又は歳差運動を行」う旨特定するのに対し、引用発明ではそのような明確な特定がない点で相違するといえる。
イ.引用発明においても、成形する際に、高磁気特性とするために磁性材料の困難磁化方向を一方向に揃える方法である回転磁場配向を施すことで、「磁性材料の粉体」を磁場配向せしめてなるものであり、各磁性材料の粉末は、当該磁性材料の粉末の困難磁化方向すなわちc軸方向と直交する磁化容易面すなわちc面が回転磁場配向の磁場によって定まる二次元平面(厳密には、互いに平行な複数の二次元平面)内に分布するようにして成形体中において配向されているといえるものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記絶縁マトリクス中に分布した二次元磁気モーメント微粉末が、多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって、前記軟磁性複合材内の前記二次元磁気モーメント微粉末の磁化容易面が前記多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって決められる二次元平面内に分布するようにして、配向されている」ものである点で一致するということができる。
ただし、軟磁性複合材について、本願補正発明では「平面配向度が95%を超える」ものであることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
ウ.そして、引用発明における「高周波用磁性材樹脂複合材料」は、上記「ア.」で述べたように、本願補正発明でいう「絶縁マトリクス」、「二次元磁気モーメント微粉末」にそれぞれ相当するエポキシ樹脂、希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体を備えるものであることから、本願補正発明でいう「二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材」に相当するといえるものである。
よって上記「ア.」ないし「ウ.」によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材であって、
絶縁マトリクスと、
前記絶縁マトリクス中に分散した二次元磁気モーメント微粉末と、を備え、
前記二次元磁気モーメント微粉末内において磁気モーメントが前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内に等方的に分布し、
前記絶縁マトリクス中に分布した二次元磁気モーメント微粉末が、多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって、前記軟磁性複合材内の前記二次元磁気モーメント微粉末の磁化容易面が前記多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって決められる二次元平面内に分布するようにして、配向されている、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントについて、本願補正発明では「外部動作磁場がゼロの場合には」「前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内に分布し、前記外部動作磁場がゼロではない場合には」「前記外部動作磁場の作用下において前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内で又は前記特定の二次元平面に沿って回転運動又は歳差運動を行」う旨特定するのに対し、引用発明ではそのような明確な特定がない点。
[相違点2]
軟磁性複合材について、本願補正発明では「平面配向度が95%を超える」ものであることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。
(3)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
引用発明における「希土類-鉄-窒素系磁性材料」は、結晶磁気異方性としてc面上に磁気モーメントが存在する面内磁気異方性という性質を利用するものであるところ、引用例の段落[0012]、[0038](上記「(1)エ.」参照)、[0040](上記「(1)オ.」参照)、[0092](上記「(1)ク.」参照)に記載のように、いわゆる磁気モーメントがc面内で容易方向から外れるときの異方性磁場(すなわち面内異方性磁場)Ha1、c軸方向に振れるときの異方性磁場(すなわち面外異方性磁場)Ha2としたとき、引用発明の「希土類-鉄-窒素系磁性材料」は、それぞれ30kA/m、3MA/mと見積もられるものであり、Ha2はHa1よりも100倍程度大きいことからも明らかなように、引用発明にあっても、通常想定されるHa2を超えないような強さの外部動作磁場であれば、希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体の磁気モーメントは、外部動作磁場がゼロの場合には希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体内の特定の二次元平面内に分布し、外部動作磁場がゼロではない場合には外部動作磁場の作用下において希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体内のc面内で又はc面に沿って回転運動又は歳差運動を行うものであることは当業者にとって自明なことである。
よって、相違点1は実質的な相違ではない。
[相違点2]について
引用発明にあっても、より高磁気特性なものとすることは当然望まれることであるところ、例えば引用例の段落[0085](上記「(1)キ.」参照)に「磁場成形は、磁性材料を充分に磁場配向せしめるため、好ましくは8kA/m以上、さらに好ましくは80kA/m以上、最も好ましくは400kA/m以上の磁場中で行う」と記載されているように、磁場配向に必要な磁場の強さを極力強くするなどして充分に磁場配向せしめ、本願補正発明である「平面配向度」が95%を超えるものとすることも当業者であれば容易になし得たことである。
そして、上記相違点を勘案しても、本願補正発明が奏する効果は、引用発明から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。
3.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、次のような主張している。
(1)引用例(引用文献2)の段落0038には、「面内磁気異方性材料とは、c軸に磁気モーメントが存在するより、c軸上に磁気モーメントが存在する方が、エネルギー的に安定な材料である。」という面内磁気異方性材料の定義が記載されているが、この定義は教科書通りのものであり、強磁性材料においては、磁化の方向が自由エネルギーの最小値によって決められるというものであり、その「磁気モーメント」は、本願発明1の「二次元磁気モーメント」の構成、つまり、磁気モーメントが二次元平面内に分布しているというものではなく、引用例(引用文献2)のこの記載からは、磁気モーメントが平面内で等方的に分布していることは理解することはできない。(審判請求書12~13頁)
(2)引用例(引用文献2)には、磁性材料の容易磁化方向や困難磁化方向を一方向にそろえることが開示されているのみであり、引用例(引用文献2)の開示から、当業者が、二次元磁気モーメント微粉末の磁化容易面を複合材に平行に配向することには容易に想到し得ないものである。磁気モーメントの方向を揃えることは、磁化容易面を配向させることとは全く異なることである。(審判請求書14頁)
しかしながら、
上記(1)の主張について
上記「2.(2)ア.」にも記載したように、引用発明における「希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体」は、「菱面体晶」を示すNd9.1Fe77.3N13.6(実質Nd2Fe17N3)であり、「結晶磁気異方性としてc面上に磁気モーメントが存在する面内磁気異方性」を有するものであることから、磁気モーメントはc面上においてc軸を中心として等方的に分布しているといえるものであって、本願補正発明の「二次元磁気モーメント」の構成を備えるものである。したがって、上記(1)の主張は採用できない。
上記(2)の主張について
上記「2.(2)イ.」にも記載したように、引用発明においても、希土類-鉄-窒素系磁性材料の粉体にエポキシ樹脂を配合(混合)してなるものを加圧成形する際に、高磁気特性とするために磁性材料の困難磁化方向すなわちc軸方向を一方向に揃える回転磁場配向を施すものであり、それによって各「磁性材料の粉体」は、その困難磁化方向すなわちc軸方向と直交する磁化容易面すなわちc面が回転磁場配向の磁場によって定まる互いに平行な二次元平面内に分布するように成形体中において配向されているといえるものである。したがって、上記(2)の主張は採用できない。
よって、審判請求書の主張はいずれも採用できない。
4.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において重用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和6年5月22日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和5年10月16日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材であって、
絶縁マトリクスと、
前記絶縁マトリクス中に分散した二次元磁気モーメント微粉末と、を備え、
前記二次元磁気モーメント微粉末内において磁気モーメントが特定の二次元平面内に等方的に分布し、
前記絶縁マトリクス中に分布した二次元磁気モーメント微粉末が、前記二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントが前記二次元平面内に分布するようにして、配向されている、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。」
2.原査定の概要
本願の請求項1に対する原査定(令和6年1月11日付け拒絶査定)の拒絶の理由のうち、理由1(新規性)の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記
引用文献2:国際公開第2008/136391号
3.引用例、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例(引用文献2)、及び引用発明は、前記「第2 [理由]2.(1)」に記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は、前記「第2 [理由]2.」で検討した本願補正発明から以下の(a)ないし(d)の限定を省いたものに相当する。
(a)発明特定事項である二次元磁気モーメント微粉末内において磁気モーメントが等方的に分布する「特定の二次元平面」について、「前記二次元磁気モーメント微粉末内」におけるものであることの限定、
(b)発明特定事項である二次元磁気モーメント微粉末内の「磁気モーメント」について、「外部動作磁場がゼロの場合には」「前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内に分布し、前記外部動作磁場がゼロではない場合には」「前記外部動作磁場の作用下において前記二次元磁気モーメント微粉末内の特定の二次元平面内で又は前記特定の二次元平面に沿って回転運動又は歳差運動を行」うものであることの限定、
(c)発明特定事項である絶縁マトリクス中に分布した「二次元磁気モーメント微粉末」について、「前記二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントが前記二次元平面内に分布するようにして、配向され・・」とあったのを「多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって、前記軟磁性複合材内の前記二次元磁気モーメント微粉末の磁化容易面が前記多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって決められる二次元平面内に分布するようにして、配向され・・」と補正し、実質的に、二次元磁気モーメント微粉末が配向されて分布する二次元平面が、「多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって」、その「磁化容易面が前記多極外部配向磁場又は回転外部配向磁場によって決められる」二次元平面であることの限定、
(d)発明特定事項である「軟磁性複合材」について、「平面配向度が95%を超える」ものであることの限定、すなわち上記「第2 [理由]2.(2)」に記載した相違点2に係る事項の限定。
上記のとおり、本願発明は、本願補正発明から少なくとも上記相違点2に係る事項の限定を省いたものに相当するところ、上記「第2 [理由]2.(2)」及び「第2 [理由]2.(3)」の「[相違点1について]」に記載したとおり、上記相違点2に係る事項以外の事項については引用発明も実質的に備えるものであることを踏まえると、本願発明と引用発明との間に相違するところはなく、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるといえる。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-008531