特許拒絶査定不服審判
2021-016141
津波対策浮体装置
- 審判番号
- 2021-016141
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-108349
- 請求日
- 2021年11月25日
- 審決日
- 2023年06月12日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】辻本 嘉義
- 審判長/審判官
- 審判長 前川 慎喜
- 審判官 土屋 真理子
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P18 .536-WZ (E02B) / P18 .537-WZ (E02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-108349「津波対策浮体装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 5月21日出願公開、特開2020- 76287〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年11月6日に出願した特願2018-208732号の一部を令和元年6月11日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 3年 3月18日 手続補正書の提出
令和 3年 5月12日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 7月 6日 意見書、手続補正書の提出
令和 3年 9月 8日付け 拒絶査定
令和 3年11月25日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 4年 9月 9日付け 拒絶理由通知書
令和 4年11月11日 意見書、手続補正書の提出
令和 4年12月26日付け 拒絶理由通知書
令和 5年 3月10日受付 意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
令和5年3月10日受付の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである(下線は手続補正書のとおり。)。
「【請求項1】
海面から一定の深さを有するとともに津波に耐えうる所定の重量を有する底部と海面上高さが15メートル以上の空気層及び鎖を繋ぐ筒を備える誘導浮体部材と
前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部を備えると共に所定の幅と
津波を防止するための長さを有する浮体防波堤部を備える津波対策浮体部材と
複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の海面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より短い幅で複数の前記誘導浮体部材を固定する固定部材
を具備し
複数の前記誘導浮体部材の筒と複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の先端部が鎖により繋がれた前記複数の津波対策浮体部材が前記複数の誘導浮体部材に誘導されて津波により移動し複数の前記津波対策浮体部材の接触部と海底面が接触すると所定の幅より短い幅で固定された複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上し浮体防波堤部による浮力がない複数の前記津波対策浮体部材が重力により海底に落下して回転した後、岸に近づくと複数の前記誘導浮体部材及び複数の前記津波対策浮体部材が砂浜或いは海底面に乗り上げ所定の幅より短い幅で固定された複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部が防波堤になることを特徴とする鎖状津波対策浮体装置」
第3 当審拒絶理由の概要
令和4年12月26日付けで当審において通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、理由1及び2の概要は、以下のとおりである。
理由1.(サポート要件)
本件補正前の本願発明は、発明の詳細な説明の記載に照らして、課題として、「誘導浮体部材により誘導され津波により前記誘導浮体部材が岸に近づいたとき津波対策浮体部材が回転して防波堤になる津波対策浮体装置を提供すること」(以下、「課題1」という。)が含まれる。
本件補正前の本願発明の「鎖状津波対策浮体装置」は、所定の「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」を具備し(以下、「発明特定事項1」という。)、「前記複数の津波対策浮体部材が前記複数の誘導浮体部材に誘導されて津波により移動し複数の前記津波対策浮体部材の接触部と海底面が接触すると」「複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上し海上に浮上したの前記複数の浮体防波堤部が」「複数の前記誘導浮体部材まで津波により移動することにより複数の前記津波対策浮体部材が津波により回転した後、岸に近づくと複数の前記誘導部材浮体部材まで移動した」「前記複数の浮体防波堤部が防波堤となる」(以下、「発明特定事項2」という。)ものである。
しかるところ、この発明の詳細な説明の記載においては、「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」について具体的な実施例の記載はなく、また例えばどのような材質、形状であるのかという具体的な説明の記載もない。
そして、発明特定事項1で特定される「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」であれば、発明特定事項2のように回転し防波堤となること(課題1を解決できること)が本願出願時において技術常識でもないから(発明の詳細な説明にもこれが技術常識である旨の記載はない。)、発明の詳細な説明に具体的記載がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できるものともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明には、本願発明が課題1を解決できると当業者が認識できるように実体をともなって具体的に記載されているということはできず、よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
よって、本件補正前の本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(実施可能要件)
上記理由1.で検討したように、発明の詳細な説明には、「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」について具体的な実施例の記載はなく、また例えばどのような材質、形状として製造されるのかという具体的な説明の記載もない。
そして、発明特定事項2のように回転し防波堤となる、発明特定事項1で特定される「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」の製造が本願出願時において技術常識ということもない。
よって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 意見書における審判請求人の主張
令和5年3月10日受付の意見書(以下、単に「意見書」という。)における審判請求人の主張は以下のとおりである。
「理由1及び理由2
請求人の津波対策浮体部材の回転に関する事実誤認により審判官にご迷惑をおかけしましたことを詫びします。
津波対策浮体部材が重力より大きい浮体防波堤部の浮力により海面に浮かぶのみで津波による何ら強度的影響受けることなく移動し、津波対策浮体部材の接触部が海底と接触すると浮体防波堤部が海面から海上に浮上し浮体防波堤部による浮力がない津波対策浮体部材が重力により落下して回転する。
理由3 明確性要件
請求項1の補正は段落0008“”前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し浮体防波堤部の幅より小さい幅で誘導浮体部材が固定されているので岸に近づくと津波対策浮体部材が回転することにより浮体防波堤部が交互に重って防波堤になり、前記誘導浮体部材により津波による更なる回転を阻止される。岸に到達すると誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる“”の記載及び段落0013””大都市および地下設備が多い東京湾、大阪湾、伊勢湾等の外海では弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材を配置すれば、環状誘導浮体部材は湾の入口の海岸又は砂浜に到達するまで海面に浮かぶのみで津波により何ら強度的影響を受けることなく移動し、海岸又は砂浜に近づくと前記津波対策浮体部材が回転して””の記載が根拠である。
段落0010及び0011に記載された鋼鉄製津波対策浮体部材が重力より大きい浮体防波堤部の 浮力により海面に浮かぶのみで津波による何ら強度的影響受けることなく移動し、津波対策浮体部材の接触部が海底面と接触すると複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上し浮体防波堤部による浮力がない前記複数の津波対策浮体部材が重力により落下して回転する。」
第5 当審の判断
1 発明の詳細な説明の記載内容
発明の詳細な説明には、次の内容が記載されている。
(1)発明が解決しようとする課題
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第一の目的は誘導浮体部材により誘導され津波により前記誘導浮体部材が岸に近づいたとき津波対策浮体部材が回転して防波堤になる津波対策浮体装置を提供することである。
本発明の第二の目的は前記津波対策浮体装置を鎖で結合した」鎖状津波対策浮体装置を提供することである。」
(2)課題を解決するための手段
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の津波対策浮体装置は、水面から一定の深さを有する誘導浮体部材を具備するとともに前記誘導浮体部材と鎖によりつながれ前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部及び所定の幅と長さ或いは深さを有する防波堤部を備えた津波対策浮体部材を具備し、岸に近づいたとき津波対策浮体部材が回転して防波堤になることを特徴とする。
本発明の鎖状津波対策浮体装置は前記津波対策浮体部材の防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より短い幅で複数の前記誘導浮体部材を固定して前記津波対策浮体部材を結合することにより鎖状の前記津波対策浮体部材を備え岸に近づいたとき鎖状の前記津波対策浮体部材の防波堤部の防波堤が交互に重なって防波堤になることを特徴とする。
請求項1の鎖状津波対策浮体装置は海面から一定の深さを有するとともに津波に耐えうる所定の重量を有する底部と海面上高さが15メートル以上の空気層及び鎖を繋ぐ筒を備える誘導浮体部材と前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部を備えると共に所定の幅と津波を防止するための長さを有する浮体防波堤部を備える津波対策浮体部材と複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の海面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より短い幅で複数の前記誘導浮体部材を固定する固定部材 を具備し複数の前記誘導浮体部材の筒と複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の先端部が鎖により繋がれた前記複数の津波対策浮体部材が前記複数の誘導浮体部材に誘導されて津波により移動し複数の前記津波対策浮体部材の接触部と海底面が接触すると所定の幅より短い幅で固定された複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上し浮体防波堤部による浮力がない複数の前記津波対策浮体部材が重力により海底に落下して回転した後、岸に近づくと複数の前記誘導浮体部材及び複数の前記津波対策浮体部材が砂浜或いは海底面に乗り上げ所定の幅より短い幅で固定された複数の前記誘導浮体部材の浮体防波堤部が防波堤になることを特徴とする。」
(3)発明の効果
「【発明の効果】
【0007】
前記津波対策浮体部材の接触部の水面からの深さが前記誘導浮体部材の深さより深いので岸に近づいたとき前記津波対策浮体部材が回転することにより防波堤になりその後前記誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。
前記津波対策浮体部材の防波堤部の位置を交互に変更し防波堤部の所定の幅より短い幅により前記誘導浮体部材を固定しているので岸に近づくと前記津波対策浮体部材が回転することにより防波堤部が交互に重なって防波堤になりその後前記誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。」
(4)発明を実施するための形態
「【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明による津波対策浮体装置の第一の実施形態は、水面から一定の深さを有し底部に津波に耐えうる重量の海水と海面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層及び鎖を繋ぐ例えば上面に備えられた筒を有する誘導浮体部材を具備するとともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部及び所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための長さで表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体防波堤部を備え前記誘導浮体部材の前記筒と前記浮体防波堤部の先端部とが鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備することを特徴とする。
前記誘導浮体部材に誘導され岸に近づくと,前記津波対策浮体部材の底部接触部の深さが前記誘導浮体部材の深さより深いので浮体防波堤部が回転して防波堤になり、前記誘導浮体部材により津波による前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の更なる回転を阻止される。 なお、前記誘導浮体部材は浮体防波堤部の更なる回転を阻止するため例えば大型の円形状で浮体防波堤部の回転の際、中空膜体の前記浮体が緩衝作用をする。
また、前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の更なる回転を阻止ため前記誘導浮体部材は浮体部材による環状形状で隣の浮体部材が固い結合部材により結合された大型環状結合形状でもよい。
前記津波対策浮体部材の底部接触部を比較的深く設定すると岸に近づく前に浮体防波堤部が回転し、岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。また、前記津波対策浮体部材の底部接触部を500メートル以上の深さに設定すると沖合で浮体防波堤部が回転する。
本発明による鎖状津波対策浮体装置は、前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の津波対策浮体部材を備えたことを特徴とする。
前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し浮体防波堤部の幅より小さい幅で誘導浮体部材が固定されているので岸に近づくと津波対策浮体部材が回転することにより浮体防波堤部が交互に重なって防波堤になり、前記誘導浮体部材により津波による更なる回転を阻止される。岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。
【0009】
本発明による津波対策浮体装置の第二の実施形態は、水面から一定の深さを有し底部に津波に耐えうる重量の海水と海面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層及び鎖を繋ぐ例えば上面に備えられた筒を有する誘導浮体部材を具備するとともに前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部と所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための深さを備えた垂直の底部接触防波堤部及び所定の幅と更なる回転を阻止するための長さで表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体回転阻止部を備え前記誘導浮体部材の前記筒と前記浮体回転阻止部の先端部とが鎖により繋がれた津波対策浮体部材を具備することを特徴とする。
前記誘導浮体部材に誘導され岸に近づくと,前記津波対策浮体部材の接触部の深さが前記誘導浮体部材の深さより深いので前記津波対策浮体部材が回転し、前記浮体回転阻止部の長さが大きいので津波による前記底部接触防波堤部の更なる回転を阻止される。 なお、前記誘導浮体部材は底部接触防波堤部の更なる回転を阻止する必要はないので第一の実施形態のように大型でなくてよい。
前記津波対策浮体部材の接触部を比較的深く設定すると岸に近づく前に底部接触防波堤部が回転し、岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。また、前記津波対策浮体部材の接触部を500メートル以上の深さに設定し前記底部接触防波堤部の例えば前記誘導浮体側に中空膜体等の浮体を有する底部接触浮体防波堤部にすると沖合で津波対策浮体部材の浮体回転阻止部が回転し前記底部接触浮体防波堤部が浮体となる。津波対策浮体部材が岸に乗り上げる際、浮体回転阻止部が津波により押され底部接触浮体防波堤部が更に回転して防波堤となり、浮体回転阻止部が津波対策浮体部材の更なる回転を阻止する。
本発明による鎖状津波対策浮体装置の第二の実施形態は、前記津波対策浮体部材の底部接触防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により複数の前記誘導浮体部材を固定した鎖状の津波対策浮体部材を備えたことを特徴とする。 前記津波対策浮体部材の底部接触防波堤部の位置を交互に変更し底部接触防波堤部の幅より小さい幅で誘導浮体部材が固定されているので岸に近づくと前記津波対策浮体部材が回転することにより底部接触防波堤部が交互に重なって防波堤になり、前記浮体回転阻止部により津波による更なる前記津波対策浮体部材の回転を阻止する。岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる。
【0010】
本発明による津波対策鎖状環状漁業浮体装置の第一の実施形態は、底部に津波に耐えうる重量の海水と海面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層及び上面に鎖を繋ぐ筒を備えた誘導浮体部材と、前記誘導浮体部材の外部に配置され前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部及び所定の幅と津波を防止するための長さで表面或いは裏面に又は表面及び裏面に浮体を有する浮体防波堤部を備え前記浮体防波堤部の先端部と前記誘導浮体部材の筒と鎖により繋がれる鋼鉄製の津波対策浮体部材と、前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し前記所定の幅より狭い幅で例えば金属結合部材で結合した複数個の誘導浮体部材と、前記複数個の誘導浮体部材の何れかに配置された自然エネルギー発電装置と、前記複数個の誘導浮体部材を環状に結合した環状誘導浮体部材と、前記環状誘導浮体部材を折り曲げ可能に鎖により結合した鎖状環状誘導浮体部材と、前記環状誘導浮体部材により保持された漁撈装置或いは養殖装置と、水面上の下部の水排出用開口を上部に具備し深層水を取水する水取水開口を下部に具備する水循環用管と、前記水循環用管の内部を貫通し内部の水面が前記水循環用管外の水面と同じの際前記水排出用開口を閉鎖する比重が水より小さな環状内部貫通部材と、前記水循環用管内での前記環状内部貫通部材の上部の空気を前記自然エネルギー発電の電力により排気する排気手段と、前記水循環用管を保持し前記水排出用開口より排出された深層水を一時貯水して外部に排出する一時貯水槽を具備する浮体構造物を前記環状誘導浮体部材の内部に配置することを特徴とする。
【0011】
本発明による津波対策鎖状環状漁業浮体装置の第二の実施形態は、底部に津波に耐えうる重量の海水と海面上高さが5メートル以上(望ましくは15メートル)の空気層及び上面に鎖を繋ぐ筒を備えた誘導浮体部材と、前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの接触部と所定の幅と15メートル以上の津波を防止するための深さを備えた垂直の底部接触防波堤部及び所定の幅と更なる回転を阻止するための長さで表面或いは表面及び裏面に例えば中空膜体等の浮体を有する浮体回転阻止部を備え前記誘導浮体部材の前記筒と前記浮体回転阻止部の先端部とが鎖により繋がれた鋼鉄製の津波対策浮体部材と、前記津波対策浮体部材の底部接触防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より狭い幅で例えば金属結合部材で結合した複数個の誘導浮体部材と、前記複数個の誘導浮体部材の何れかに配置された自然エネルギー発電装置と、前記複数個の誘導浮体部材を環状に結合した環状誘導浮体部材と、前記環状誘導浮体部材を折り曲げ可能に鎖により結合した鎖状環状誘導浮体部材と、前記環状誘導浮体部材により保持された漁撈装置或いは養殖装置と、水面上の下部の水排出用開口を上部に具備し深層水を取水する水取水開口を下部に具備する水循環用管と、前記水循環用管の内部を貫通し内部の水面が前記水循環用管外の水面と同じの際前記水排出用開口を閉鎖する比重が水より小さな環状内部貫通部材と、前記水循環用管内での前記環状内部貫通部材の上部の空気を前記自然エネルギー発電の電力により排気する排気手段と、前記水循環用管を保持し前記水排出用開口より排出された深層水を一時貯水して外部に排出する一時貯水槽を具備する浮体構造物を前記環状誘導浮体部材の内部に配置することを特徴とする。
【0012】
前記多数個の誘導浮体部材を結合部材によって結合した環状誘導浮体部材の内部に前記水循環用管を保持する浮体構造物を配置しているので水面下200メートル以上の前記水取水開口より未利用の栄養塩を多く含んだ深層水を取水し水面上の下部の前記水排出用開口より深層水を前記一時貯水槽に排出し前記一時貯水槽から前記浮体構造物の付近の海面に貯水水を排出し好漁場となる。
又、前記多数個の誘導浮体部材の外界側の外部に前記所定の幅と津波を防止するための長さを有し表面或いは裏面に又は表面及び裏面に浮体を備える浮体防波堤部或いは浮体回転阻止部及び前記誘導浮体部材の深さより大きな深さの底部接触部或いは底部接触防波堤部を備えた例えば鋼鉄製の津波対策浮体部材の防波堤部の位置を交互に変更し前記所定の幅より短い幅で固定部材により前記誘導浮体部材が固定される。津波対策浮体部材の浮体防波堤部或いは浮体回転阻止部の長さの先端部と前記誘導浮体部材の筒とが鎖により繋がれる。
前記環状誘導浮体部材を鎖により繋ぎ弓状鎖状環状誘導浮体部材を配置すれば、環状誘導浮体部材は湾の入口の海岸又は砂浜に到達するまで海面に浮かぶのみで津波により何ら強度的影響を受けることなく移動し、海岸又は砂浜近くに近づくと前記津波対策浮体部材の底部接触部が先に底部と接触するので津波対策浮体部材が回転し、前記誘導浮体部材或いは浮体回転阻止部により津波による更なる回転を阻止される。海岸又は砂浜に到達すると前記環状誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材は海岸又は砂浜を乗り上げる。海岸又は砂浜或いは岩礁に到達しない前記環状誘導浮体部材は海岸又は砂浜に到達するまで弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材は前記環状浮体部材相互が前記結合部材で折れ曲がって結合されながら移動する。
前記環状浮体部材により保持された漁撈装置或いは養殖装置は本出願人が既に提案している漁撈生簀及び漁撈生簀を兼ねる養殖生簀(特開2011-217615)も一実施例であるがそれに限定されないで公知の漁撈装置或いは養殖装置も実施可能である。
【0013】
大都市及び地下設備が多い東京湾、大阪湾、伊勢湾等の外海では弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材を配置すれば、環状誘導浮体部材は湾の入口の海岸又は砂浜に到達するまで海面に浮かぶのみで津波により何ら強度的影響を受けることなく移動し、海岸又は砂浜に近づくと前記津波対策浮体部材が回転して前記環状誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が海岸又は砂浜を乗り上げ津波の進入を緩和或いは防止すると共に海岸又は砂浜或いは岩礁に到達しない前記環状誘導浮体部材は海岸又は砂浜或いは岩礁に到達するまで弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材は前記環状誘導浮体部材相互が前記結合部材で結合されながら折れ曲がって移動する。そして湾の入口の海岸又は砂浜に到達すると前記津波対策浮体部材が回転して前記誘導浮体部材と前記津波対策浮体部材が海岸又は砂浜を乗り上げ湾内への津波の進入を緩和或いは阻止することが可能である。又、例えば前記鎖状環状誘導浮体部材を鎖状環状誘導浮体部材の端部を重複して複数個の弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材を配置することにより平時は船の運行に障害を与えることなく津波の際複数個の弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材が端部が重複しているので前記津波対策浮体部材の回転により湾の入口から湾内への津波の進入を緩和若しくは阻止することが可能となる。
東北等湾を構成しない太平洋沿岸或いは日本海沿岸でも前記鎖状環状誘導浮体部材を備えた複数個の弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材を端部を重複して複数個配置すれば平時は船の運行に障害を与えることなく津波の際複数個の弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材が端部で重複して前記津波対策浮体部材の回転により津波を緩和若しくは阻止することが可能である。
本発明による端部を重複して配置された複数個の弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材により前記沿岸への津波の進入を緩和若しくは阻止すると共に複数個の弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材に電力ケーブルを敷設し複数個の弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材の前記端部の誘導浮体部材間を電力ケーブルにより海中で接続して電力ケーブル網を構成することも可能である。」
2 理由2.実施可能要件(特許法第36条第4項第1号違反)について
事案に鑑み、まず、実施可能要件について、すなわち、本件補正により、発明の詳細な説明が、本願発明について「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」との要件を満たすようになったかについて検討する。
(1)本件補正の内容
ア 本願発明は、上記第2のとおりであり、本件補正により、本件補正前の本願発明における「発明特定事項1」(以下、「鎖状津波対策浮体装置」は、所定の「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」を具備する構成を、拒絶理由と同様、「発明特定事項1」という。)については、「誘導浮体部材」の「底部」の有する「所定の重量」が「津波に耐えうる所定の重量」であることを特定した。
イ また、本件補正前の本願発明における「発明特定事項2」について、「前記複数の津波対策浮体部材が前記複数の誘導浮体部材に誘導されて津波により移動し複数の前記津波対策浮体部材の接触部と海底面が接触すると」「複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上し」た後に、「浮体防波堤部による浮力がない複数の前記津波対策浮体部材が重力により海底に落下して回転した後、岸に近づくと複数の前記誘導浮体部材及び複数の前記津波対策浮体部材が砂浜或いは海底面に乗り上げ」「複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部が防波堤になる」ものに補正した。
ウ そして、明細書の段落【0006】においても、課題を解決するための手段が、発明特定事項1及び2と同様の内容に関して、上記ア及びイにおける本願発明の内容と同様に補正されている。
エ 上記補正された「発明特定事項2」によれば、「鎖状津波対策浮体装置」は、「津波対策浮体部材の接触部と海底面が接触する」と「複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上」し、「浮力がない複数の前記津波対策浮体部材が重力により海底に落下」して「回転」し、さらに、「鎖状津波対策浮体装置」全体が「岸に近づく」と「砂浜或いは海底面に乗り上げ」て「複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部が防波堤になる」ものと理解できる。
オ そこで、以下、上記エの動作をする「鎖状津波対策浮体装置」が、発明の詳細な説明に実施可能な程度に記載されているかについて検討する。
(2)検討
ア この発明の詳細な説明の記載において、段落【0006】は課題を解決するための手段として本願発明と同様のことを記載しており、本願発明について具体的に開示されているのは、「津波対策浮体装置の第一の実施形態」について記載された段落【0008】である。
ところで、審判請求人は、意見書(上記第4)の「理由3 明確性要件」の欄において、段落【0008】以外に、段落【0010】、【0011】及び【0013】を挙げて「補正の根拠」として説明しているが「理由3」は「明確性要件」についての主張であり、発明の詳細な説明中の段落【0010】及び【0011】は「津波対策鎖状環状漁業浮体装置の第一の実施形態」及び「第二の実施形態」であって、「津波対策浮体装置の第一の実施形態」とは別の実施例であり、段落【0013】も「前記環状誘導浮体部材」に言及するものであって、本願発明について直接的に開示するものではない。しかしながら、審判請求人による発明の詳細な説明に関する唯一の説明であるので、以下、理由2.に対する検討においても、段落【0008】に加え、段落【0010】、【0011】及び【0013】についても検討する。
イ 段落【0008】には、「津波対策浮体部材の接触部と海底面が接触する」と「複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上」し、「浮力がない複数の前記津波対策浮体部材が重力により海底に落下」して「回転」する「津波浮体部材」の具体例は記載されていない。また、段落【0010】、【0011】及び【0013】にも記載されていない。
(ア)「津波対策浮体部材の接触部」と「海底面」が接触する状態において、「複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上」するためには、「津波対策浮体部材」等に「浮上させる」ための何らかの構造が必要であるが、段落【0008】には「津波対策浮体部材」等が備えるべき「浮上させる」ための構造について記載されていない。また、段落【0010】、【0011】及び【0013】にも記載されていない。
(イ)同様に、「浮上」した「複数の前記津波対策浮体部材」が「重力により海底に落下」するためには、「津波対策浮体部材」等に何らかの「重力により海底に落下」するための構造が必要であるが、段落【0008】には「津波対策浮体部材」等が備えるべき「重力により海底に落下」するための構造について記載も示唆もされていない。また、段落【0010】、【0011】及び【0013】にも記載されていない。
(ウ)さらに、「津波対策浮体部材」が「回転」すると「鎖状津波対策浮体装置」が「岸に近づく」ことができるようになるとともに、「岸に近づく」と「砂浜或いは海底面に乗り上げ」て「複数の前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部が防波堤になる」ためには、「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」が、そのような動作が可能なように構成されることが必要であるが、そのような「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」について、段落【0008】には記載も示唆もされていない。また、段落【0010】、【0011】及び【0013】にも記載されていない。
(エ)そして、上記(ア)ないし(ウ)を実現する「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」の製造が、本願出願時における技術常識であるともいえない。
ウ 審判請求人が補正の根拠として挙げる、段落【0008】の「前記津波対策浮体部材の浮体防波堤部の水面上の高さを交互に変更し浮体防波堤部の幅より小さい幅で誘導浮体部材が固定されているので岸に近づくと津波対策浮体部材が回転することにより浮体防波堤部が交互に重なって防波堤になり、前記誘導浮体部材により津波による更なる回転を阻止される。岸に到達するとと誘導浮体部材と津波対策浮体部材が岸を乗り上げる」との記載及び段落【0013】の「大都市及び地下設備が多い東京湾、大阪湾、伊勢湾等の外海では弓状の前記鎖状環状誘導浮体部材を配置すれば、環状誘導浮体部材は湾の入口の海岸又は砂浜に到達するまで海面に浮かぶのみで津波により何ら強度的影響を受けることなく移動し、海岸又は砂浜に近づくと前記津波対策浮体部材が回転して」との記載に、上記イ(ア)ないし(ウ)について本願発明を具体的に実施できるような構造や構成についての記載がないことは明らかである。
エ (ア)審判請求人は、「段落0010及び0011に記載された鋼鉄製津波対策浮体部材が重力より大きい浮体防波堤部の 浮力により海面に浮かぶのみで津波による何ら強度的影響受けることなく移動し、津波対策浮体部材の接触部が海底面と接触すると複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上し浮体防波堤部による浮力がない前記複数の津波対策浮体部材が重力により落下して回転する。」と主張するが、段落【0010】及び【0011】においても、「津波対策浮体部材の接触部が海底面と接触すると複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上し浮体防波堤部による浮力がない前記複数の津波対策浮体部材が重力により落下して回転する」ように動作する具体的な装置としての構造は示されていない。
(イ)仮に、本願発明の「津波対策浮体部材」が段落【0010】及び【0011】記載のもの同様「鋼鉄製」であって「鋼鉄製津波対策浮体部材が重力より大きい浮体防波堤部の浮力により海面に浮かぶのみで津波による何ら強度的影響受けることなく移動し、」「海底面と接触する」ものであるとしても、当該津波対策浮体部材の材質ないし構成を段落【0008】等の構成と併せて勘案することによって「複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上し浮体防波堤部による浮力がない前記複数の津波対策浮体部材が重力により落下して回転する」具体的な構成が当業者によって想起され得るようになるものでもない。
オ 以上のとおりであるから、発明の詳細な説明には、本願発明の「津波対策浮体部材の接触部と海底面が接触する」と「複数の浮体防波堤部が海面から海上に浮上」し、「浮力がない複数の前記津波対策浮体部材が重力により海底に落下」して「回転」する「津波浮体部材」の具体例が記載されたものではなく、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(3)意見書における審判請求人の主張について
意見書における「理由1及び理由2」についての主張は、「請求人の津波対策浮体部材の回転に関する事実誤認により審判官にご迷惑をおかけしましたことを詫びします。津波対策浮体部材が重力より大きい浮体防波堤部の浮力により海面に浮かぶのみで津波による何ら強度的影響受けることなく移動し、津波対策浮体部材の接触部が海底と接触すると浮体防波堤部が海面から海上に浮上し浮体防波堤部による浮力がない津波対策浮体部材が重力により落下して回転する。」とのものであって、補正後の本願発明を記載したに過ぎず、実施可能要件についての拒絶理由を解消するに足る釈明はない。
また、「理由3 明確性要件」の欄に記載された主張については、意見書中における「審判請求人による発明の詳細な説明に関する唯一の説明である」との理由で、上記(2)において検討したとおりである。
(4)小括
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
3 理由1.サポート要件(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)本願発明は、課題として、「誘導浮体部材により誘導され津波により前記誘導浮体部材が岸に近づいたとき津波対策浮体部材が回転して防波堤になる津波対策浮体装置を提供すること」(以下、「課題1」という。)が含まれる。
(2)上記2において検討したように、この出願の発明の詳細な説明の記載においては、「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」について具体的な実施例の記載はなく、また例えばどのような形状、構造であるのかという具体的な説明の記載もない。
そして、発明特定事項1で特定される「誘導浮体部材」、「津波対策浮体部材」及び「固定部材」であれば、発明特定事項2のように回転し防波堤となること(課題1を解決できること)が本願出願時において技術常識でもないから(発明の詳細な説明にもこれが技術常識である旨の記載はない。)、発明の詳細な説明に具体的記載がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できるものともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明には、本願発明が課題1を解決できると当業者が認識できるように実体をともなって具体的に記載されているということはできず、よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
よって、請求項1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)小括
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-016141