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特許拒絶査定不服審判

2021-012181

偏光子保護フィルム、偏光板、及び液晶表示装置

審判番号
2021-012181
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-149784外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年09月13日
審決日
2022年05月09日
公報発行日
2022年07月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2017-149784「偏光子保護フィルム、偏光板、及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日出願公開、特開2017-194717〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続等の経緯

特願2017-149784号(以下「本件出願」という。)は、平成29年3月24日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年3月31日)を国際出願日とする特願2017-531407号の一部を、平成29年8月2日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 2年11月24日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 1月27日付け:手続補正書
令和 3年 1月27日付け:意見書
令和 3年 6月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 9月13日付け:手続補正書
令和 3年 9月13日付け:審判請求書
令和 3年11月 4日付け:上申書

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和3年9月13日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 補正についての判断

(1)本件補正前の特許請求の範囲の記載

本件補正前(令和3年1月27日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。

「【請求項1】
ポリエステルフィルムのMD方向又はTD方向の収縮力Ffが1100N/m以上である偏光子保護フィルム。
(ただし、収縮力Ff(N/m)は、ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000である)」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである。なお、下線は本件補正による補正箇所を示す。

「【請求項1】
ポリエステルフィルムのMD方向又はTD方向の収縮力Ffが1280N/m以上10000N/m以下である偏光子保護フィルム。
(ただし、収縮力Ff(N/m)は、ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000であり、熱収縮率は100℃30分間の熱処理を行うことで測定されたもの(で)ある。)」

(当合議体注:括弧内は明らかな脱字を補ったものである。以下、特に断らない。)

(3)本件補正の内容

本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、「ポリエステルフィルムのMD方向又はTD方向の収縮力Ff」の数値範囲を、「1100N/m以上」から「1280N/m以上10000N/m以下」に減縮する補正事項及び本件補正前において「熱収縮率」の測定方法が特定されていなかったものを、「100℃30分間の熱処理を行うことで測定されたものである」と特定の測定方法に限定する補正事項を含む。

また、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0006】)。

さらに、前者の補正は、願書に最初に添付された明細書の【0089】【表1】の記載に基づいてなされたものであり、後者の補正は、同明細書の【0052】及び【0053】の記載に基づいてなされたものである。

したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、同条5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)及び同条5項4号(明りょうでない記載の釈明)を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 独立特許要件(特許法36条6項1号)

(1)判断基準について

特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号の要件(以下「サポート要件」という。)に適合するか否かについては、特許請求の範囲と本願明細書の発明の詳細な説明を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、その技術の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。そうすると、特許請求の範囲がサポート要件に適合するためには、その前提として、特許請求の範囲には「課題を解決できると認識できる」事項、すなわち、課題解決手段が少なくとも記載されていることが必要といえる。

そこで、上記判断基準に基づいて、本件補正後発明が、サポート要件に適合するか、以下、検討する。

(2)本件明細書の記載について

本件補正後発明に係る特許請求の範囲の記載は、上記「第2」「1(2)」に記載のとおりであるところ、本件出願の明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審において付したものであり、判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン用モニター、テレビ等に用いられる液晶表示装置に関する。
【背景技術】
続きを表示(全17行)
【0002】
液晶表示装置の軽量化をするためガラス基板を薄膜化する傾向があり、従来の0.7mmから0.5mm以下、更には0.3mmのものなどが検討されており、今後更なる薄膜化が進行するものと考えられる。液晶表示装置におけるガラス基板は偏光板の熱挙動によるカールを抑制する効果があることから、ガラス基板の厚み減少に伴い、カール抑制効果が大幅に下がり、液晶表示装置内に存在する偏光板/液晶セル/偏光板からなる積層体の反りの問題が顕在化している。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2では温度変化に伴う歪や吸/放湿に伴う歪について制御することで改善検討がなされている一方で、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのガラス転移温度の低いフィルムを用いる場合に考慮すべき、フィルムが元々持っている残留歪(熱収縮率)の影響を考慮したものではなかった。
【0006】
即ち、本発明が解決しようとする課題は、液晶表示装置内の偏光板/液晶セル/偏光板からなる積層体のカールを高度に制御可能な液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液晶表示装置は、通常、液晶セルの一方の面に、偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行となるよう偏光板が積層され、もう一方の面に、偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺と平行となるよう偏光板が積層されている。市販の各種液晶表示装置を用いて鋭意検討を行った結果、収縮力の大きい偏光子吸収軸方向が長辺となる偏光板が収縮することでカールが発生しやすくなる形状因子の問題(カールは一般的に長辺方向に発生しやすい)や、液晶パネル内の上下の偏光板の非対称構成による影響により、液晶パネルは、クロスニコルに配置される上下偏光板の偏光子透過軸が長辺となる偏光板側に凸になることが問題の本質であることを本発明者らは見出した。
【0008】
更に、鋭意検討を行った結果、偏光子透過軸が長辺になる偏光板の長辺方向の収縮力は、保護フィルムの残留歪によって制御出来ることが明らかになり、この収縮力によって、液晶表示装置のカールを制御出来ることが分った。」

【0009】

ここで、偏光板の収縮力の測定方法について記述する。一般的に、フィルムの収縮力はTMAなどを用いて、試験開始の低い温度状態で極小荷重で初期長を設定し、初期長の長さを保ったまま昇温中の収縮方向の力を計測する。しかしながら、昇温過程ではポリマーのコンフォメーション変化を伴う残留歪の回復による収縮(以下、単に熱収縮と記載する)と同時に、昇温によってポリマーの自由体積・占有体積が増加することによる熱膨張(以下、単に熱膨張と記載する)が発生する為、ポリエステルフィルムのガラス転移温度付近(例えば~Tg+50℃程度)の温度域においては、しばしば熱収縮<熱膨張の関係となることからフィルム全体としては膨張し、収縮力は観測されない。

【0010】

検討の結果、TMA昇温過程で収縮力が発生しない場合であっても、TMA冷却過程で収縮力が発生することが明らかになった。これは、熱膨張による歪は可逆変化であるため昇温冷却後に元の状態に戻るが、昇温過程で収縮した熱収縮分だけ寸法が小さい状態で冷却されることから、冷却過程で熱応力が発生するためである。つまり、熱応力の歪をフィルムの熱収縮率に置き換えることができ、冷却後の収縮力は下記式で表現される。尚、本発明における熱収縮率とは、熱処理中の水分率変化を含んだものである。

収縮力(N/m)

=フィルム厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000

【0011】

つまり、代表的な本発明は、以下の通りである。

項1.

液晶セル、液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A、液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを有する液晶表示装置において、

前記偏光板Aは、偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり、偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造であり、

前記偏光板Bは、偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり、偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造であり、 前記ポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の収縮力Ffと、偏光板Bが有する偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力Fpが下記式(1)を満たすことを特徴とする液晶表示装置。

式(1) 0.1≦Ff/Fp≦2

(ただし、収縮力Ff(N/m)は、ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000であり、収縮力Fp(N/m)は、偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000である。)」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0013】
液晶表示装置の画面は通常、長方形であり、長辺と短辺を有する。本明細書において、「液晶表示装置の長辺方向」とは、液晶表示装置の長辺と平行な方向であり、「偏光板Aの長辺方向」、「偏光板Bの長辺方向」、「偏光板Bが有する偏光子の長辺方向」、「偏光板Aのポリエステルフィルムの長辺方向」と同一である。よって、本明細書において、「液晶表示装置の長辺方向」とは、「偏光板Aの長辺方向」、「偏光板Bの長辺方向」、「偏光板Bが有する偏光子の長辺方向」、「偏光板Aが有するポリエステルフィルムの長辺方向」と読み替えることができる。「液晶表示装置の短辺方向」とは、液晶表示装置の短辺と平行な方向であり、長辺方向と垂直な方向を意味する。
【0014】
続きを表示(全15行)
本発明の液晶表示装置は、液晶セル、液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A、液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを少なくとも有する。液晶セルと偏光板とは、通常、粘着層を介して貼りあわせることができる。液晶表示装置には、液晶セル、偏光板A、偏光板Bの他に、バックライト等、通常、液晶表示装置に使用される構成部材を含むことができる。液晶セルは、液晶を2枚のガラス基板で挟んだ構造を有する。一実施形態において、液晶セルを構成するガラス基板の厚みは、0.7mm以下、0.6mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、0.3mm以下、又は0.25mm以下であることが好ましい。
【0015】
偏光板Aは、偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行(即ち、偏光子の透過軸方向が偏光板Aの長辺方向と平行であることと同義)であり、偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルム(偏光子保護フィルムとして使用される)が積層された構造を有する。偏光子のポリエステルフィルムを積層した面とは反対側の面には、TACフィルム、環状オレフィンフィルム、アクリルフィルム等のリタデーションの低い保護フィルムや光学補償フィルムを積層することができる。ここで、リタデーションの低い保護フィルムとは、例えば、リタデーションが500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、100nm以下、又は50nm以下の保護フィルムであり得る。また、偏光板Aは、偏光子の片面のみポリエステルフィルムが積層され、偏光子のもう一方の面には保護フィルムや光学補償フィルムが積層されない構造も好ましい形態の一つである。ポリエステルフィルムは、偏光子の液晶セル側、液晶セルとは遠位側(外側)のいずれか(又は両側)に配置することができるが、偏光子の液晶セルとは遠位側(外側)に配置することが好ましい。
・・・中略・・・
【0017】
偏光板Bは、偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行(即ち、偏光子の吸収軸が偏光板Bの長辺方向と平行であることと同義)であり、偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造である。保護フィルムには、TACフィルム、環状オレフィンフィルム、アクリルフィルム等のリタデーションの低い保護フィルムや光学補償フィルムを積層することができる。ここで、リタデーションの低い保護フィルムとは、例えば、リタデーションが500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、100nm以下、又は50nm以下の保護フィルムであり得る。また、保護フィルムとして、ポリエステルフィルムを偏光子に積層することもできる。ポリエステルフィルムを用いる場合は、偏光子の液晶セルとは遠位側に積層することが好ましい。
・・・中略・・・
【0021】
本発明の液晶表示装置では、0.1≦Ff/Fp≦2であることが望ましい。Ff/Fpの下限値は、0.2、又は0.3であることが好ましい。Ff/Fpの上限値は、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8又は0.7であることが好ましい。一実施形態において、0.1≦Ff/Fp≦1.0、0.1≦Ff/Fp<1.0、0.1≦Ff/Fp≦0.9、0.1≦Ff/Fp≦0.8、0.2≦Ff/Fp≦0.8、又は0.3≦Ff/Fp≦0.7であることが好ましい。
【0022】
ここで、Ffは偏光板Aのポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の収縮力を指し、ポリエステルフィルム厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000で定義される。Fpは偏光板Bの偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力を指し、偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000で定義される。収縮力Ff及びFpの式において、弾性率、及び熱収縮率は、いずれも液晶表示装置の長辺方向の値である。偏光板Bの収縮力は主に偏光子によって発現しており、偏光子の厚みや製膜条件によって収縮力は変化する。よって、それに応じて偏光板Aに使用するポリエステルフィルムの収縮力を調節することが望ましい。」
ウ 「【実施例】
・・・中略・・・
【0049】
(1)収縮力
続きを表示(全40行)
偏光子及びポリエステルフィルムの収縮力は、以下の式から計算した。尚、フィルム厚み、弾性率、熱収縮率は、以下に説明される測定値である。 収縮力(N/m) =フィルム厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000
【0050】
(2)フィルム厚み
偏光子及びポリエステルフィルムの厚み(mm)は、25℃50RH%の環境で168時間静置後に電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をmmに換算した。
【0051】
(3)弾性率
偏光子及びポリエステルフィルムの弾性率は、25℃50RH%の環境で168時間静置後にJIS-K7244(DMS)にしたがって、セイコーインスツルメンツ社製の動的粘弾性測定装置(DMS6100)を用いて評価を行った。引張モード、駆動周波数は1Hz、チャック間距離は5mm、昇温速度は2℃/minの条件で25℃~120℃の温度依存性を測定し、30℃~100℃の貯蔵弾性率の平均を弾性率とした。なお、液晶表示装置の長辺方向と平行な方向の弾性率を測定した。
【0052】
(4)熱収縮率および収縮主軸の傾き
偏光子及びポリエステルフィルムの熱収縮率及び収縮主軸の傾きは25℃50RH%の環境で168時間静置後に直径80mmの円を描き、円の直径を画像寸法測定器(KEYENCE社製イメージメジャーIM6500)を用いて、1°毎に測定し、処理前の長さとした。次に、100℃に設定したギアオーブンを用いて30分間の熱処理を行い、その後、室温25℃に設定された環境で10分間冷却した後に処理前と同様の方法で1°毎に評価を行い、処理後の長さとした。
【0053】
本発明における熱収縮率とは、以下計算式で計算される熱収縮率の中で、液晶表示装置の長辺方向と平行な方向の値で定義される。
熱収縮率=(処理前の長さー処理後の長さ)/処理前の長さ ×100 収縮主軸の傾きは、1°毎に測定された熱収縮率が最大となる角度であり、長辺方向または短辺方向からの狭角で定義される。つまり収縮主軸の傾きは0~45°の範囲となる。
・・・中略・・・
【0055】
(6)カール高さ
後述する各実施例で作成した液晶パネルの作成において、「厚さ0.4mmのガラス基板を用いた50インチサイズのIPS型液晶セル」を、「短辺方向の長さ125mm、長辺方向の長さ220mm、厚み0.4mmのガラス板」に代えた以外は同様にして、評価用液晶パネルを作成した。次に、評価用液晶パネルを、100℃に設定したギアオーブンを用いて30分間の熱処理を行い、その後、室温25℃50%RHに設定された環境で10分間冷却した後に、凸側を下にして水平面に置き、4隅の高さをメジャーで計測し、最大値をカール高さとした。また、最大カール高さが5mm以下を良好な範囲とした。カールは曲率で表現されるべき現象であるが、簡便のため、高さで評価を行っている。また、カール現象は、サンプルの剛性に対してサンプルサイズが大きくなるとお椀型となり、フィルム内で曲率が一定にならない現象が生じることがあるが、本実施例の結果は全て曲率が一定であることを確認している。
・・・中略・・・
【0063】
(実施例1)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また、PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層及び外層III用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2種のポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
【0064】
次いで、リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.08g/m2になるように、上記接着性改質塗布液を塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
【0065】
この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度105℃の熱風ゾーンに導き、TDに4.0倍に延伸した。次に、温度180℃、30秒間で熱処理を行い、その後、100℃まで冷却したフィルムをMDに1%延伸し、その後、60℃まで冷却したフィルムの両端部を把持しているクリップを開放して350N/mの張力で引き取り、フィルム厚み約80μmの一軸配向PETフィルムからなるジャンボロールを採取し、得られたジャンボロール3等分して、3本のスリットロール(L(左側),C(中央),R(右側))を得た。Rに位置するスリットロールより偏光子保護フィルム1を得た(Rに位置するスリットロールの中央部を偏光子保護フィルム1として使用した)。
【0066】
PVAとヨウ素とホウ酸からなる偏光子(偏光子の吸収軸方向の収縮力が5100N/m)の片側に偏光子保護フィルム1を偏光子の透過軸とフィルムのMDが平行になるように貼り付けた。また、偏光子の反対の面にTACフィルム(富士フィルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けた。このようにして、長辺方向が偏光子の透過軸方向と一致する偏光板(偏光板A)と、長辺方向が偏光子の吸収軸方向と一致する偏光板(偏光板B)を作成した。厚さ0.4mmのガラス基板を用いた50インチサイズのIPS型液晶セルの視認側に偏光板Bを、光源側に偏光板Aを、それぞれ偏光子保護フィルム1が液晶セルとは遠位側(反対側)となるようにPSAを介して貼り合わせて液晶パネルを作成した。この液晶パネルを筐体に組み込んで液晶表示装置を作成した。
・・・中略・・・
【0087】
実施例1~18の液晶表示装置の液晶パネル、及び、比較例1~3の液晶表示装置の液晶パネルを、100℃に設定したギアオーブンを用いて30分間の熱処理を行い、その後、室温25℃、50RH%に設定された環境で10分間冷却した後に、液晶パネルを観察したところ、実施例1~16はカールは観察されなかったが、比較例1~3のものはカールが観察された。
【0088】
各実施例の測定結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
[図:0001386037000001.jpg]
」

(3)判断

ア 本件明細書に記載された課題について

本件明細書に記載された課題は、「液晶表示装置内の偏光板/液晶セル/偏光板からなる積層体のカールを高度に制御可能な液晶表示装置を提供すること」(【0006】)と認められる。(以下、「本件課題」という。)

イ 本件明細書に記載された課題を解決できると認識できる範囲について

本件明細書の【0007】の「収縮力の大きい偏光子吸収軸方向が長辺となる偏光板が収縮することでカールが発生しやすくなる形状因子の問題(カールは一般的に長辺方向に発生しやすい)や、液晶パネル内の上下の偏光板の非対称構成による影響により、液晶パネルは、クロスニコルに配置される上下偏光板の偏光子透過軸が長辺となる偏光板側に凸になることが問題の本質である」との記載及び【0008】の「偏光子透過軸が長辺になる偏光板の長辺方向の収縮力は、保護フィルムの残留歪によって制御出来ることが明らかになり、この収縮力によって、液晶表示装置のカールを制御出来ることが分った」との記載によれば、本件明細書には、「偏光子吸収軸方向が長辺となる偏光板」と、「偏光子透過軸が長辺となる偏光板」とが「クロスニコルに配置される」液晶表示装置において、「偏光子透過軸が長辺になる偏光板の長辺方向の収縮力」を「保護フィルムの残留歪によって制御」することで上記の「問題の本質」を解決し、それにより本件課題を解決したことが理解できる。

そして、上記下線部を具体化するための説明として、本件明細書の【発明を実施するための形態】欄(特に、【0013】~【0022】、【0063】~【0065】及び【0087】~【0089】【表1】等)には、[A]「液晶セル、液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A、液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを少なくとも有する」液晶表示装置において、[B]「偏光板Aは、偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行(即ち、偏光子の透過軸方向が偏光板Aの長辺方向と平行であることと同義)であり、偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルム(偏光子保護フィルムとして使用される)が積層された構造を有」し、[C]「偏光板Bは、偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行(即ち、偏光子の吸収軸が偏光板Bの長辺方向と平行であることと同義)であり、偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造」であり、さらに、「偏光板Aのポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の収縮力を指し、ポリエステルフィルム厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000で定義」される「Ff」、及び、「偏光板Bの偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力を指し、偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000で定義」される「Fp」の比の値を調整することで、評価用液晶パネルの「最大カール高さ」が「良好な範囲」に収まることが記載されている。

一方、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記比の値を調整することなしに本件課題、さらには、本件明細書の【0007】に記載された「問題の本質」を解決できたことの記載や示唆はないし、そのような記載や示唆がなくとも、本件出願時における技術常識に基づいて、当業者が、本件課題や上記「問題の本質」を解決するための手段を認識し得たことを示す根拠を見いだすこともできない。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、上記偏光板A/液晶セル/上記偏光板Bからなる積層体において、「Ff/Fpを所定の範囲内に調整すること」(以下「本件構成」という。)で、本件課題を解決できると理解される。そうしてみると、本件課題を解決できると認識できる範囲に、少なくとも、本件構成が含まれるといえる。そして、このことは、本件明細書における「液晶パネル内の上下の偏光板の非対称構成による影響により・・・ことが問題の本質である」(【0007】)との記載、「よって、それに応じて偏光板Aに使用するポリエステルフィルムの収縮力を調整することが望ましい。」(【0022】、下線は当合議体で付与した。)との記載、「偏光板A に偏光子保護フィルムとして使用するポリエステルフィルムは、0.1Fp≦Ff≦2Fpとなるように、収縮力Ffを調節することが好ましい。」(【0041】)との記載及び本件明細書においてFf及びFp単独については好ましい数値範囲が記載されていないことからも無理なく理解できる事項でもある。

ウ 本件補正後発明のサポート要件の適合性について

本件補正後発明は、上記「第2」「1(2)」のとおりであり、「ポリエステルフィルムのMD方向又はTD方向の収縮力Ffが1280N/m以上10000N/m以下である」こと、「偏光子保護フィルム」であること及び「収縮力Ff(N/m)は、ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm2)×熱収縮率(%)÷100×1000であり、熱収縮率は100℃30分間の熱処理を行うことで測定されたものある」ことが特定されているにとどまるから、本件構成を必ずしも含まない発明といえる。

そうすると、本件補正後発明は、本件課題を解決するための、必要最低限の構成ともいうべき本件構成を含まない態様を包含していることになるから、結局、本件出願の特許請求の範囲には「課題を解決できると認識できる」事項、すなわち、課題解決手段が少なくとも記載されているということができない。

さらにすすんで検討する。本願補正後発明は、「偏光子保護フィルム」そのものの発明であって、これが偏光板を構成する他の構成(偏光子等)の存在を示唆するとまではいえても、本件課題が生じる前提となる構成ともいうべき、上記イに示した[A]~[C]に係る構成を示唆ないし推認させるものでもない。すなわち、例えば、本件出願の特許請求の範囲には、偏光板の吸収軸や透過軸とMD方向又はTD方向との関係、偏光板が用いられる装置が液晶表示装置なのか、他の装置なのか、あるいは偏光板を単体で用いるのか、用いられる装置の形状と偏光板の吸収軸や透過軸との関係等については、何ら特定されていない。

したがって、本件補正後発明は、本件構成を必ずしも含まない点のみならず、上記前提となる構成を何ら備えていない点からも、本件課題を解決することが認識できる範囲を超えた発明であるというほかない。

エ 審判請求人の主張について

審判請求人は、令和3年9月13日付けの審判請求書において、概略、以下のとおり主張する。

(主張1)「本願出願時の特許請求の範囲や明細書に好ましい要件として記載された事項は、それらの全てを満たさなければ、本発明の課題を解決できないというものではなく、より高いレベルで確実に本発明の課題を解決するための指針を示しているに過ぎず、当業者であれば、そのことを理解します。」

(主張2)「例えば、当業者であれば、本願明細書の記載を参照することにより、補正後の請求項1に記載された収縮力Ffを有する偏光子保護フィルムを用いる場合に、本発明の課題を解決するために適切な偏光子等を選択することが可能です。」

(主張1について)

本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が本件明細書人記載された課題を解決できると認識できる範囲(本件課題を解決するための手段)が、少なくとも本件構成を最低限含むことは、上記イに示したとおりである。加えて、本件構成が、本件課題を解決するために必要とされる構成であること(単に、好ましいとされる構成ではないこと)は、例えば、本件明細書の【0089】【表1】の実施例5及び比較例2の測定結果から明らかなように、「Ff」の値のみ特定しても、カール高さを十分に抑制できるかは必ずしも定まらないことからみても明らかである。

したがって、主張1は採用の限りでない。

(主張2について)

少なくとも、本件出願の特許請求の範囲の請求項1には、審判請求人が主張する「適切な偏光子」に係る構成を、本件補正後発明が具備していること、あるいは、当該「適切な偏光子」を具備することによる作用効果を認識ないし推認することができるような記載は存在しない。そうすると、主張2は、本件出願の特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。

したがって、主張2は採用の限りでない。

オ 小括

以上ア~エのとおりであるから、本件補正後発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。

したがって、本件出願の本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、本件補正後発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するのであり、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

以上「第2」のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」「1(1)」に記載された事項によって特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本件出願の特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないという理由を含むものである。

3 判断

上記「第2」「1(3)」のとおり、本件補正後発明は、本願発明の範囲を減縮するものに該当する。したがって、減縮される前の本願発明は、本件補正後発明の範囲を超える範囲まで含むことは明らかである。

そうすると、上記「第2」「(3)」の説示と同様に、本願発明が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであることは明らかである。

第4 むすび

以上「第3」のとおり、本件出願は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2021-012181

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