特許拒絶査定不服審判
2021-011153
リファクターされたnifクラスターを使用する窒素固定
- 審判番号
- 2021-011153
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-536712
- 請求日
- 2021年08月23日
- 審決日
- 2023年09月20日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
- 【請求人代理人】葛和 清司
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 福井 悟
- 審判官 天野 貴子
- 分類
- P18 .55 -WZ (C12N) / P18 .536-WZ (C12N) / P18 .537-WZ (C12N) / P18 .56 -WZ (C12N) / P18 .121-WZ (C12N) / P18 .113-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第159条第1項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-536712「リファクターされたnifクラスターを使用する窒素固定」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月13日国際公開、WO2017/062412、平成30年12月20日国内公表、特表2018-537119〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年10月5日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、令和3年4月16日付けで拒絶査定がなされ、令和3年8月23日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。以後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和3年10月27日 補正書(審判請求書の理由の補正)の提出
令和4年 8月18日付け 拒絶理由通知書
令和5年 2月20日付け 意見書、手続補正書の提出
令和5年 3月 7日付け 拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和5年 8月 8日付け 意見書、手続補正書の提出
第2 令和5年8月8日付け手続補正書についての補正却下の決定
[結論]
令和5年8月8日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正
令和5年8月8日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、令和5年2月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、8~11、15を以下のように補正するものである。
(1)補正前:
「【請求項1】
大気中の窒素から固定された窒素を穀物用植物または穀物用植物または種子が生育するかまたは植えられる土壌に提供するための方法であって、リファクターされた外因性のnifクラスターを有する遺伝子操作された細菌を、穀物用植物または穀物用植物または種子が生育するかまたは植えられる土壌に送達することを含み、ここで、遺伝子操作された細菌は、遺伝子導入細菌を含み、ここで、遺伝子操作された細菌は、nifクラスターを天然に含有しない細菌種を含み、ここで、遺伝子操作された細菌が穀物用植物において確立され、穀物用植物に固定された窒素を提供し、リファクターされた外因性のnifクラスターが、コドン最適化されたnifクラスター遺伝子、合成部分の制御下のオペロン、スペーサー部分によって分離されたオペロン、およびコントローラの少なくとも1つを含む、前記方法。」
「【請求項8】
遺伝子操作された細菌が、プラスミド安定性の維持のための系を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
コントローラが、IPTG誘導性T7 RNAポリメラーゼをコードする核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
プラスミド安定性の維持のための系が、2つのparオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされる系である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
遺伝子操作された細菌が、分配系を含み、分配系がRK2 par系である、請求項8に記載の方法。」
「【請求項15】
遺伝子操作された細菌が、内部寄生菌である、請求項1に記載の方法。」
(2)補正後(補正箇所は下線部である。):
「【請求項1】
大気中の窒素から固定された窒素を穀物用植物または穀物用植物または種子が生育するかまたは植えられる土壌に提供するための方法であって、リファクターされた外因性のnifクラスターを有する遺伝子操作された細菌を、穀物用植物または穀物用植物または種子が生育するかまたは植えられる土壌に送達することを含み、ここで、遺伝子操作された細菌は、内部寄生菌であり、ここで、遺伝子操作された細菌が穀物用植物において確立され、穀物用植物に固定された窒素を提供し、リファクターされた外因性のnifクラスターが、必須遺伝子が、コドン最適化され、オペロンに組織化され、スペーサー部分によって機能的に分離されるプロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーターからなる合成部分の制御下に配置されたnifクラスターであり、ここで、リファクターされた外因性のnifクラスターが、遺伝子センサーおよび回路からなる少なくとも1つのコントローラをさらに含む、前記方法。」
「【請求項8】
少なくとも1つのコントローラが、誘導性プロモーターまたは異種分配系を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
誘導性プロモーターを含むコントローラが、IPTG誘導性T7 RNAポリメラーゼをコードする核酸をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
異種分配系が、2つのparオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
ガンマプロテオバクテリアが、サルモネラ、大腸菌およびシュードモナスからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。」
なお、補正前の請求項15は削除された。
2.補正の適否
(1)請求項8~10に係る補正について
本件補正により、請求項8に、コントローラが誘導性プロモーターまたは異種分配系を含むこと、請求項9に、コントローラが誘導性プロモーターを含むこと、請求項10に、異種分配系が2つのparオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされることが加えられた。
ア.当初明細書等の記載事項
この出願の国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面の翻訳文(以下、「当初明細書等」という。下線は当審で付与した。)には、以下の記載がある。
本a
「【0004】
種々の側面において、本発明は、大気中の窒素から固定された窒素を提供するための方法に関し、外因性nifクラスターを有する改変細菌を、穀物用植物、あるいは、穀物用植物または種子が生育するかまたは植えられる土壌に送達することを含み、ここで、改変細菌は、固定された窒素を提供する。いくつかの態様において、nifクラスターは、ネイティブなnifクラスターである。いくつかの態様において、nifクラスターは、リファクターされたnifクラスターである。」
本b
「【0010】
他の態様において、外因性nifクラスターまたは遺伝子は、コントローラを含む。コントローラは、IPTG誘導性T7RNAポリメラーゼをコードする核酸であり得る。代替的には、コントローラは、2つのparオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされる分配系であり得る。いくつかの態様において、分配系は、RK2par系である。
種子または苗の外表面と関連する改変細菌を有する穀物用植物の種子または苗は、本発明の他の側面において提供される。いくつかの態様において、改変細菌は、外因性nifクラスターを有する。」
本c
「【0026】
生物学的窒素固定は、nifH、nifDおよびnifKによってコードされる3つのタンパク質の複合体(ニトロゲナーゼ)によって実施され、これらはアセンブリされ、さらなる17の遺伝子によって活性化される[8]。nifクラスターを新しい宿主に移入することは、この経路が遺伝子発現における小さな変化に非常に感受性であり、そして、多数の生物における調節制御が十分に確立されていないという事実のため、非常に困難である[8,9]。例に示されるように、リファクター化方法を、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)M5a1由来の16の遺伝子のnifクラスターに適用し、nifを調節するための系を操作した。この方法は、遺伝子クラスターを一連の十分に特徴付けられた遺伝子部分にモジュール化した。リファクター化は、新しい宿主において機能する調節の交換を容易にする大規模部分置換のためのプラットフォームとして使用できる。リファクター化はまた、アンモニアおよび酸素を含むネイティブなnifクラスターを抑制するシグナルへの応答を除去する際に価値がある。
【0027】
かなり驚くべきことに、内部共生細菌に移入された、野生型およびリファクターされたnifの両方のnifクラスターが、穀物用植物において、その細菌が固定された窒素を提供することを可能にすることを発見した。・・・以下の例で提示された実験は、リファクターされたnifクラスターに連結された遺伝子センサーが、化学的シグナルに応答して、3つの異なるサルモネラ株の窒素固定経路を首尾よく調節したことを実証する。
・・・
【0029】
いくつかの態様において、γ-プロテオバクテリアである内部寄生細菌の例としては、サルモネラ種、チフス菌(Yersinia pestis)、コレラ菌(Vibrio cholera)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、カンキツかいよう病菌(Xanthomonas axonopodis pv. citri)およびキウイフルーツかいよう病菌(Pseudomonas syringae pv. actinidiae)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい態様において、γ-プロテオバクテリアは、サルモネラおよび大腸菌を含む。
・・・
【0033】
nifクラスターは、生きている生物に利用可能な窒素の形態に大気中の窒素を固定するのに関与する酵素をコードする遺伝子のコレクションである。nif遺伝子によってコードされる主な酵素は、種々の目的のためにその生物が使用できるアンモニアのような他の窒素形態に大気中の窒素(N2)を変換することを担当するニトロゲナーゼ複合体である。ニトロゲナーゼ酵素に加えて、nif遺伝子はまた、窒素固定に関与する多数の調節タンパク質をコードする。・・・リファクターされたnifクラスターは、外因性因子によって調節されるように設計されてもよく、および/または構成的に調節されてもよい。
・・・
【0038】
リファクター化プロセスは、遺伝子クラスターのいくつかのレベルの再構築を含む。例えば、nifクラスターなどの遺伝子クラスター中の必須遺伝子のコドンは、野生型(WT)遺伝子から派生したDNA配列を創出するように変更される。これは、コドン最適化を介して達成され得る。再コードされた遺伝子は、内部の調節因子を同定するためにコンピュータスキャンしてもよい。次いで、これらの調節構成要素は除去してもよい。これらは、オペロンに組織化され、スペーサー部分によって機能的に分離される合成部分(プロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーター)の制御下に配置される。最後に、遺伝子発現の条件および動態を調節する遺伝子センサーおよび回路からなるコントローラを追加してもよい。
【0039】
リファクターされた遺伝子クラスター中の遺伝子成分は典型的には、少なくとも1つの合成調節因子を含む。合成調節因子は、遺伝子発現を調節する役割を果たし、天然に存在する調節因子とは異なる任意の核酸配列である。それは、天然に存在する因子と、例えば、1ヌクレオチド異なり得る。あるいは、それは、1以上の非天然ヌクレオチドを含み得る。あるいは、それは、全く異なる因子であり得る。各場合において、それは、外因性調節因子(すなわち、天然に存在するバージョンと同一ではない)であると考えられ得る。したがって、「調節因子」は、転写または翻訳の開始または速度、あるいは、転写または翻訳産物の安定性および/または移動性に影響するヌクレオチド配列を有する核酸をいう。調節領域としては、これらに限定されないが、プロモーター配列、リボソーム結合部位、リボザイム、エンハンサー配列、応答配列、タンパク質認識部位、誘導性因子、タンパク質結合配列、5’および3’非翻訳領域(UTR)、転写開始部位、転写終結配列、ポリアデニル化配列、イントロン、およびこれらの組合せが挙げられる。
・・・
【0044】
プロモーターは、構成的または誘導性であり得る。・・・
【0045】
誘導性プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にし、外的に提供される化合物、温度などの環境因子、または特定の生理学的状態の存在(例えば、急性期)、細胞の特定の分化状態によって、または、複製細胞のみにおいて、調節され得る。誘導性プロモーターおよび誘導性の系は、これらに限定されないが、インビトロゲン、クローンテックおよびアリアドを含む種々の市販の供給源から入手可能である。多数の他の系が、記載されており、当業者によって容易に選択され得る。外的に提供されるプロモーターによって調節される誘導性プロモーターの例としては、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系[WO 98/10088];エクジソン昆虫プロモーター[No et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996)]、テトラサイクリン抑制系[Gossen et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992)]、テトラサイクリン誘導性系[Gossen et al, Science, 268:1766-1769 (1995)、またHarvey et al, Curr. Opin. Chem. Biol., 2:512-518 (1998)を参照]、RU486誘導性系[Wang et al, Nat. Biotech., 15:239-243 (1997)およびWang et al, Gene Ther., 4:432-441 (1997)]およびラパマイシン誘導性系[Magari et al, J. Clin. Invest., 100:2865-2872 (1997)]が挙げられる。この文脈において有用であり得るさらに他のタイプの誘導性プロモーターは、特定の生理学的条件(例えば、温度、急性期、細胞の特定の分化状態)によって調節されるか、または、複製細胞のみにおいて調節されるプロモーターである。」
本d
「【0063】
例において示されるように、リファクター化アプローチは、大気中のN2をアンモニアに変換するための窒素固定経路をコードするクレブシエラ・オキシトカからのnif遺伝子クラスターに適用されている。ネイティブな遺伝子クラスターは、7つのオペロンで20の遺伝子からなり、23.5kbのDNAにコードされている。リファクターされた遺伝子クラスターは、野生型(WT)とDNA配列同一性をほとんど共有しなくてもよい。
【0064】
Nifクラスターがネイティブなnifクラスターである場合、任意の天然に存在するnifクラスターのDNA配列を有していてもよい。例えば、それは、クレブシエラ・オキシトカ由来の天然に存在するnifクラスター(配列番号)、シュードモナス・スタッツェリnifクラスター(配列番号5)およびパエニバチルスnifクラスターの配列を有していてもよい。リファクターされたnifクラスターは、他の窒素形態へのN2変換の促進に関与するタンパク質を産生する際に活性である任意のリファクターされたnifクラスターであり得る。
【0065】
以下の例示的なnifクラスターのDNA配列が、本発明に従って有用である。
リファクターされたnifクラスターv1.0
【表1-1】・・・(配列番号1)
【0066】 リファクターされたnifクラスターv2.1
【表2-1】・・・(配列番号2)
【0067】 パエニバチルスWLY78 nifクラスター
【表3-1】・・・(配列番号3)
【0068】 クレブシエラ・オキシトカM5a1 nifクラスター
【表4-1】・・・(配列番号4)
【0069】 シュードモナス・スタッツェリA1501 nifクラスター
【表5-1】・・・(配列番号5)
【0070】
【表6-1】・・・(配列番号6)」
本e
「【0089】
例
例1:リファクターされたnifクラスターを使用するサルモネラにおける窒素固定方法
細菌におけるニトロゲナーゼ活性アッセイ
・・・
【0093】
結果
nifクラスターのサルモネラ株への移入
クレブシエラのネイティブおよびリファクターされたnifクラスターの移入は、クレブシエラ・オキシトカM5alおよびK12 MG1655のような大腸菌において機能的であると証明された。しかしながら、nifクラスターの異種発現が、作物用穀物にコロニー形成し得る他の腸内細菌においても活性であろうことは証明されていない。我々は、ヒトから植物の範囲の種々の宿主に感染し得る病原性サルモネラ株を回収した。我々は、ネイティブおよびリファクターされたnifクラスターを、多様なサルモネラ株に移入し、自由な生育条件で窒素固定の試験をした。また、リファクターされたクラスターと一緒に、IPTGに応答して全nifクラスターの発現を駆動するセンサーおよび回路をコードするコントローラプラスミドを、サルモネラ株に導入した。
【0094】
詳細には、ネイティブまたはリファクターされたnifクラスターを含有するサルモネラ・チフィ株は、多様なサルモネラ株の中でより高いニトロゲナーゼ活性を示した。サルモネラ・ダブリン、サルモネラ・ニューポート、およびサルモネラ・ポモナのみが、窒素固定するサルモネラ・チフィ株のものよりも低い程度に、ネイティブなnifクラスターからのニトロゲナーゼ活性を示した(図1)。
【0095】
サルモネラ・チフィによるトウモロコシB73の根の内部コロニー形成
サルモネラ株が、トウモロコシ植物において内部寄生細菌となり得るか否かを決定するために、我々は、重要な商業用作物品種であるトウモロコシB73の根に細菌を接種した。異種nif発現によって最も高いニトロゲナーゼ活性のうちの1つを示すサルモネラ・チフィATCC 14028を、内部コロニー形成アッセイのために選択した。接種の14日後、サルモネラ・チフィATCC 14028による内部コロニー形成を、植物の苗の根を使用して分析した。サルモネラ・チフィATCC 14028のCFUは、根の表面殺菌後に検出されなかった。内部コロニー形成した細菌細胞を評価するために、各植物苗の表面殺菌した根を、PBS中で粉砕して、LBプレート上に蒔いた。我々は、粉砕した根抽出物からのサルモネラ・チフィATCC 14028による約106CFU/植物の内部寄生菌のコロニー形成を検出したが、同じ環境で大腸菌MG1655によるCFUは検出されなかった(図2)。これは、サルモネラ・チフィATCC 14028がトウモロコシB73の内部にコロニー形成できることを示す。
【0096】
トウモロコシ植物におけるニトロゲナーゼ活性
接種の14日後、我々は、遺伝子改変したサルモネラ・チフィATCC 14028株に感染した植物苗からのニトロゲナーゼ活性を、アセチレン生成アッセイによって分析した。各群から30を超える植物を分析した。ネイティブなnifクラスターおよびリファクターされたnifクラスターを保有するサルモネラ・チフィATCC 14028で接種した植物のうちそれぞれ18%および51%が、nifクラスターを発現しないサルモネラ・チフィATCC 14028を接種した植物と比較して、増加したエチレン生成を示した(図3)。ネイティブなnifクラスターと比較してリファクターされたnifクラスターは、植物においてアセチレン還元のバリエーションが少なかった。このことは、リファクターされたnifクラスターの発現が、複雑なネイティブな生物学的シグナルの制御下で依然として存在するネイティブなnifクラスターの調節よりも、外的に添加された誘導因子によってリファクターされたnifクラスターの発現を制御する合成コントローラ系によって付与される我々の環境とより一貫していることを示唆する。
【0097】
遺伝子系の安定性の改善
クラスターおよびコントローラのプラスミドベースの操作は、細胞分裂の間のプラスミド安定性に依存する。抗生物質用途としてのプラスミド安定性のためのかかる選択的圧力は、インビトロ環境において簡単に適用および維持され得る。しかしながら、プラスミドは、インビボ環境における選択的な抗生物質圧力なしで、経時的に宿主細菌から治癒される。
【0098】
細菌における遺伝子系の安定性を増加するために、2つの操作手法を使用した。第一に、我々は、IPTG誘導性T7RNAポリメラーゼおよび選択的マーカーをコードするコントローラを、mini-Tn7系を使用して標的ゲノムに導入した[Choi, K. H., (2005). A Tn7-based broad-range bacterial cloning and expression system. Nature methods, 2(6), 443-448.]。mini-Tn7系を用いる転移は、宿主範囲が広く、部位特異的であることが示されている。
【0099】
ゲノム組み込みは、必須遺伝子glmSの下流に位置するTn7付着部位(attTn7)において生じる。サルモネラは、導入された遺伝子系の単一コピー挿入を保証する単一のglmS遺伝子を含有する。ゲノム組み込みのために設計された新しいコントローラプラスミドpR6K-T7RWは、T7RNAポリメラーゼおよび2つのTn7末端(Tn7LおよびTn7R)に隣接する選択マーカーからなる。上流のglmS発現からの転写の読み飛ばしによる干渉を最小化するために、構成的プロモーター駆動選択マーカーおよびセンサータンパク質lacIは、glmSと向きが反対である。T7RNAポリメラーゼの読み飛ばしは、装置とゲノムとの間のターミネーターによってブロックされた。
【0100】
我々は、コントローラプラスミドpR6K-T7RWおよびTnsABCDトランスポサーゼをコードするヘルパープラスミドをサルモネラATCC 14028に形質転換した。コントローラ装置の挿入部位は、PCRによって確認した。我々は、装置が、サルモネラのglmS停止コドンの25bp下流に組み込まれていることを同定した。我々は、発芽したトウモロコシ種子の接種の2週間後、ゲノムベースのコントローラまたはプラスミドベースのコントローラのいずれかを含有する、内部コロニー形成サルモネラ株における選択的マーカーに基づくプラスミド安定性を試験した。ゲノムベースの系からのマーカーの欠失はなかったが、プラスミドベースの系からは、約20%の株のみが、抗生物質を補充したプレート上で保持されており、サルモネラゲノム上のコントローラ装置は、植物の苗において2週間を超えて選択的圧力なしで安定していることを示す(図4A)。」
【0101】
nif遺伝子の最適な発現レベルが、多様な内容で、プラスミド上のクラスターの遺伝子部分を交換することによって迅速にアクセスできるように、nifクラスターは、広範な宿主範囲のプラスミドpBBR1上で構築した。プラスミドベースのnif系の多様性および操作性を維持するために、我々は、プラスミド上のnifクラスターの安定性を保証しながら、ゲノムベースの操作の代替物を探求した。2つのparオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされる分配系は、プラスミドRK2の安定な維持に貢献する[Easter, C. L., Schwab, H., Helinski, D. R. (1998). Role of the parCBA operon of the broad-host-range plasmid RK2 in stable plasmid maintenance. Journal of bacteriology, 180(22), 6023-6030.]。しかしながら、RK2par系の機能の移入可能性は、他のタイプのプラスミド上では試験されていない。我々は、RK2par系をプラスミドpBBR1に基づいて構築したnifプラスミドに組み込み、コロニー形成した根からのサルモネラ株におけるプラスミド安定性を分析した。
【0102】
par系がない、nifプラスミド安定性は、植物への接種の14日後に選択的な圧力の非存在下で、4%まで減少した。一方、nifプラスミド上にpar系を追加することにより、同一の条件下で、96%のプラスミド安定性を生じたため、このことから、RK2par系は、他のプラスミドタイプの安定性を改善するモジュールとして機能することが示唆された(図4B)。これらの操作努力は、環境に放出される予定である細菌中の複雑な複数の遺伝子系の安定性を提供するための手段としてのモジュラースタンダードとなり得る。」
本f
「
[図:0001406986000001.jpg]
」(図1)
「
[図:0001406986000002.jpg]
」(図2)
「
[図:0001406986000003.jpg]
」(図3)
イ.新規事項の検討
当初明細書等の記載より、コントローラは、IPTG誘導性T7RNAポリメラーゼをコードする核酸(本bの【0010】、本eの【0093】、【0098】、【0099】)、又は、2つのparオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされる分配系であり得(本bの【0010】、本eの【0101】、【0102】)、分配系には、RK2par系である態様が含まれること(本bの【0010】、本eの【0101】、【0102】)、コントローラは、遺伝子発現の条件および動態を調節する遺伝子センサーおよび回路からなるものであること(本cの【0038】)が当初明細書等に記載されてあったと認められる。
また、当初明細書等によれば、プロモーターは、スペーサー部分によって機能的に分離される合成部分(プロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーター)に含まれるものであり(本cの【0038】)、プロモーターには構成的または誘導性であるものが存在し(本cの【0044】)、誘導性プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にし、外的に提供される化合物、温度などの環境因子、または特定の生理学的状態の存在(例えば、急性期)、細胞の特定の分化状態によって、または、複製細胞のみにおいて、調節され得るもの(本cの【0045】)と記載されている。
そうすると、当初明細書等には、コントローラが、誘導性プロモーターを含むことは明記されてないし、コントローラは、合成部分に含まれるプロモーターとは別物として位置づけられているから(本cの【0038】)、当初明細書等に記載されたプロモーターの一態様である誘導性プロモーター(本cの【0044】)がコントローラに含まれることが当初明細書等に記載されてあったと認めることはできない。
一方、当初明細書等には、2つのparオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされる分配系やRK2par系が記載されるものの、これらの分配系以外を含み得る上位概念としての異種分配系に関する記載は当初明細書等に存しないので、2つのparオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされる分配系やRK2 par系の記載だけで、それら以外の分配系を含み得る異種分配系がコントローラに含まれることが当初明細書等に記載されてあったと認めることはできない。
よって、本件補正の請求項8における「コントローラが、誘導性プロモーターまたは異種分配系を含む」との事項、請求項9における「誘導性プロモーターを含むコントローラ」との事項を追加する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえるから、本件補正の請求項8~9に係る補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものとは認められない。
ウ.審判請求人の主張
審判請求人は、現請求項8は、現請求項1の補正に伴い、本願明細書の【0010】および【0044】等の記載に基づいて補正した旨、【0010】、【0096】及び図3より、コントローラは外因性因子(IPTG)によって誘導される遺伝子配列を含むことが認識され、【0045】のテトラサイクリン誘導性系を含む誘導性プロモーターの例が記載されることから、本願明細書には、IPTG誘導性およびテトラサイクリン誘導性系を含む2つのコントローラが記載されているといえ、当業者には、コントローラが誘導性プロモーターを含み得ることが理解される旨、本願明細書には、コントローラが異種分配系を含んでもよいことが記載されている旨を主張している。
しかるところ、上記イによると、当初明細書等の記載から、コントローラがIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシドの略語であり、外因性因子を示す用語ではない。)誘導性T7 RNAポリメラーゼをコードする遺伝子配列を含むことは理解できるものの、上記イで述べたとおり、コントローラは、合成部分に含まれるプロモーターとは別物として位置づけられているから、テトラサイクリン誘導性系等の各種の誘導性プロモーター(本cの【0044】)がコントローラに含まれることが当初明細書等に記載されてあったとは認められない。
また、当初明細書等には、上位概念としての異種分配系に関する記載はないので、parオペロン(parCBAおよびparDE)によってコードされる分配系やRK2 par系の記載だけで、それら以外の分配系を含み得る異種分配系がコントローラに含まれることが当初明細書等に記載されてあったとは認められない。
したがって、審判請求人の主張は、理由がない。
エ.小括
本件補正の請求項8~10に係る補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(2)請求項1に係る補正について
本件補正により、請求項1に、「遺伝子操作された細菌」が「内部寄生菌」であること、及び、「リファクターされた外因性のnifクラスター」が「必須遺伝子が、コドン最適化され、オペロンに組織化され、スペーサー部分によって機能的に分離されるプロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーターからなる合成部分の制御下に配置されたnifクラスターであり、ここで、リファクターされた外因性のnifクラスターが、遺伝子センサーおよび回路からなる少なくとも1つのコントローラをさらに含む」ことが加えられた。
上記の補正は、補正前の請求項1に記載されていた「遺伝子操作された細菌」、「リファクターされた外因性のnifクラスター」を、それぞれ当初明細書等の【0028】、【0038】に記載されていた事項に限定するものである。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで、上記の補正により補正された請求項1に係る発明(以下では「補正後の請求項1発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)(以下、「独立特許要件」という。)について、検討する。
ア.本願明細書及び図面の記載事項
この出願の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本願明細書等」という。)は、審査・審判の一連の手続きで補正されていないので、上記(1)アで示した当初明細書等に記載した事項と同じであり、以下では、当初明細書等に記載した事項を本願明細書等に記載した事項ということがある。
イ.独立特許要件の検討
(ア)明確性要件
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
この観点で、補正後の請求項1発明で特定されるリファクターされた外因性のnifクラスターを検討する。
補正後の請求項1には、「必須遺伝子が、コドン最適化され、オペロンに組織化され、スペーサー部分によって機能的に分離されるプロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーターからなる合成部分の制御下に配置されたnifクラスターであり、ここで、リファクターされた外因性のnifクラスターが、遺伝子センサーおよび回路からなる少なくとも1つのコントローラをさらに含む」と記載されている。
ここで、本願明細書等には、リファクターされたnifクラスターは野生型(WT)とDNA配列同一性をほとんど共有しなくてもよい(本dの【0063】)、リファクター化は新しい宿主において機能する調節の交換を容易にする大規模部分置換のためのプラットフォームとして使用できる(本cの【0026】)、リファクター化は、アンモニアおよび酸素を含むネイティブなnifクラスターを抑制するシグナルへの応答を除去する際に価値がある(本cの【0026】)、リファクターされたnifクラスターは、外因性因子によって調節されるように設計されてもよく、および/または構成的に調節されてもよい(本cの【0033】)との記載があり、これらの記載は、審判請求人が令和5年8月8日付け意見書で述べるように、「リファクターの目的は、制御可能なセンサーおよび遺伝子回路の調節下にシステムが配置されるように、制御不可能なネイティブな調節を除去する」こと、「ネイティブなnif遺伝子は、コドン無作為化が記録されて、内部調節因子が除去され、遺伝子発現のレベルを決定するネイティブな部分(リボソーム結合部位(RBS)、シグマ54プロモーター、ターミネーター)が、新たな微生物宿主において充分に特徴付けられている、新たな遺伝子部分(例として、合成T7プロモーター、合成RBS、合成ターミネーター)と交換」されることを意図したものと認められる。
しかし、クレブシエラ・オキシトカの「リファクターされたnifクラスター」であると認められる配列番号1または配列番号2の塩基配列をみても、リファクター前のnifクラスターから如何なる内部調節因子が除去されているのか、合成T7プロモーター、合成RBS、合成ターミネーターが具体的に如何なるもので、どの位置で交換されているのか、合成部分の制御下に配置される必須遺伝子が如何なるものであるのかについて、本願明細書等を参照しても理解することができない。
なお、合議体は、令和4年8月18日付け拒絶理由通知書で、配列番号1、2の塩基配列のものが具体的にどのようにリファクター化されたものであるか、本願明細書等の記載から明らかでない旨、令和5年3月7日付け拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書で、配列番号1または配列番号2のどの箇所が「リファクター化プロセスから生じる配列」になっているのか明らかにされてないし、クラブシエラ・オキシトカ以外である場合の「リファクター化プロセスから生じる配列」として具体的に如何なるものが採用されるかについても当業者が容易に理解できるとは認められない旨を審判請求人に通知した。
これに対し、審判請求人は、令和5年2月20日付け意見書において、リファクターされたnifクラスターは、一般的な、かつ、利用可能な生物情報学ツール(例として、BLASTおよびSnapGene)を使用して、当業者によって容易に注解することができるとし、nifコード配列、スペーサー部分、調節配列を含むnifクラスター内の種々の構成要素のヌクレオチド位置は、公知の配列に対する配列相同性に基づいて容易に注解することができ、例えば、合成部分(プロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーター)の配列は公知である等と述べている。
また、審判請求人は、審判請求書において、配列番号1および2は、
1)オープンリーディングフレームの内部調節を除去するための16コドン最適化nif遺伝子、
2)各遺伝子の発現レベルを最適化するための合成RBSおよびT7プロモーターバリアント、および、
3)転写単位を遮蔽するためのターミネーターおよびスペーサーエレメント
という3つの重要な特徴を有し、
さらに、配列番号2は、
1)nif遺伝子のための新たな合成RBS(H、D、E、N、J、W、Z)、
2)nifDK発現を増加するためのnifD遺伝子の上流のターミネーターおよびT7プロモーター、および
3)相同組換えから生じる遺伝子不安定性を最小化するための反復配列(>45bp)の除去
という3つの特徴を有するように、配列番号1から最適化されていると述べている。
しかし、審判請求人の上記説明を考慮にいれても、配列番号1、2の塩基配列において、どの部分がリファクターされ、どの部分がリファクターされてないのか、また、どの部分が、プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、遺伝子センサーおよび回路からなるコントローラであるのか、どの部分が必須遺伝子であるのかについて理解することはできず、リファクターされたnifクラスターを具体的に把握する手がかりとして配列番号1、2の塩基配列を考慮することができない。
加えて、本願明細書等には、配列番号1、2の塩基配列以外に、請求項1で特定されたリファクターされたnifクラスターを把握するための手がかりとなる具体的な記載は存しないから、補正後の請求項1で特定されるリファクターされた外因性のnifクラスターは、本願明細書等の記載を基に、本願の出願時の技術常識を参酌しても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確というべきである。
したがって、補正後の請求項1発明は明確とはいえない。
(イ)実施可能要件
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
本願明細書等には、リファクターされた外因性nifクラスターを有する改変細菌を、穀物用植物、あるいは、穀物用植物または種子が生育するかまたは植えられる土壌に送達することにより、大気中の窒素から固定された窒素を提供する方法の発明が記載され(本aの【0004】)、それを裏付けるものとして、実施例には、クレブシエラのネイティブおよびリファクターされたnifクラスターをサルモネラ株の一つであるサルモネラ・チフィATCC 14028に移入した細菌を、トウモロコシB73の根に接種したところ、nifクラスターを発現しないサルモネラ・チフィATCC 14028を接種した植物と比較して増加したエチレン生成、すなわち、向上したニトロゲナーゼ活性(窒素固定化)を示したこと、また、リファクターされたnifクラスターが、ネイティブなnifクラスターと比べてアセチレン還元のバリエーションが少なかったことが記載されている(本eの【0089】~【0096】、本fの図1、図3)。
上記の実施例には、クレブシエラのリファクターされたnifクラスターのアミノ酸配列に関する記載はないが、本願明細書等の【表1-1】及び【表2-1】には、リファクターされたクレブシエラ・オキシトカのnifクラスターの例示的な塩基配列が示されており(本dの【0063】、【0065】~【0066】)、以上の本願明細書等の記載からすると、配列番号1または配列番号2の塩基配列を含む、クレブシエラ・オキシトカの「リファクターされたnifクラスター」を用い、「内部寄生菌」としてサルモネラ株を用いた場合の発明については、当業者は過度の試行錯誤、実験を要することなく実施できるものと認められる。
しかし、補正後の請求項1発明で使用されるリファクターされた外因性のnifクラスターは、「必須遺伝子が、コドン最適化され、オペロンに組織化され、スペーサー部分によって機能的に分離されるプロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーターからなる合成部分の制御下に配置されたnifクラスターであり、ここで、リファクターされた外因性のnifクラスターが、遺伝子センサーおよび回路からなる少なくとも1つのコントローラをさらに含む」というものであり、クレブシエラ・オキシトカ以外のnifクラスターや任意のリファクター化の態様であるものも対象とし、配列番号1または配列番号2の塩基配列とは大きく異なる配列を有するnifクラスターを広く包含するものである。
また、上記(ア)で示したように、配列番号1または配列番号2の塩基配列についてみても、かかる塩基配列が、補正後の請求項1発明で採用されているリファクターされた外因性のnifクラスターの発明特定事項を満たすか否かについて、本願明細書等の記載から明らかでない。
そうすると、補正後の請求項1発明で特定されたリファクターされたnifクラスターを用いた場合に、実施例で示された発明と同様のニトロゲナーゼ活性(窒素固定)を示すことは、当業者といえども推認できないといえる。
なお、審判請求人は、令和5年8月8日付け意見書で、本願明細書の【0067】~【0070】には、配列番号3~6のヌクレオチド配列も示され、【0093】~【0102】の記載を踏まえると、配列番号1,2以外の配列についても使用できることが当業者に明らかである旨を主張するが、配列番号3~6のヌクレオチド配列が、補正後の請求項1発明の発明特定事項を満たすリファクターされたnifクラスターであることは、本願明細書等の記載より理解できないので、かかる主張は、その前提において誤りがあり、採用できない。
一方で、本願明細書等に、「我々は、粉砕した根抽出物からのサルモネラ・チフィATCC 14028による約106CFU/植物の内部寄生菌のコロニー形成を検出したが、同じ環境で大腸菌MG1655によるCFUは検出されなかった(図2)。これは、サルモネラ・チフィATCC 14028がトウモロコシB73の内部にコロニー形成できることを示す。」との記載があることからすると(本eの【0095】)、内部寄生菌であっても、大腸菌のように穀物用植物によってはコロニー形成ができない場合があり、サルモネラ以外の任意の広範な内部寄生菌を宿主とした場合には、実施例で示されたものと同様に穀物用植物において確立される態様でニトロゲナーゼ活性(窒素固定)を示すことは当業者といえども推認できないといえる。
そうすると、本願明細書等の記載に基づき、当業者が、補正後の請求項1発明を実施するには、本願の出願時の技術常識を参酌しても、過度の試行錯誤や実験を要するものと認められるので、本願明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が、補正後の請求項1発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
ウ.小括
補正後の請求項1発明は、特許法第36条第4項第1号、第6項第2号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3)補正の適否の検討のまとめ
本件補正は、請求項8~10について、特許法第17条の2第3項の規定に違反し、また、本件補正により補正された請求項1に係る発明は、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明
本願の請求項1~15に係る発明は、令和5年2月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に(補正前)の【請求項1】に記載したとおりのものである。
第4 当審で通知した拒絶理由の概要
当審が通知した令和5年3月7日付け拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書は、以下の拒絶理由を含むものである。以下では、その概要を示す。
理由1(新規事項)
令和5年2月20日付け手続補正書でした補正により、請求項1が「リファクターされた外因性のnifクラスターが、コドン最適化されたnifクラスター遺伝子、合成部分の制御下のオペロン、スペーサー部分によって分離されたオペロン、およびコントローラの少なくとも1つを含む」と特定されたが、当初明細書等には、上記特定が記載されているとは認められないので、上記補正は新規事項を追加するものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。
理由3(実施可能要件)
「nifクラスターを天然に含有しない細菌種」には多種多様な細菌種が包含されるところ、細菌種はそれぞれ異なる代謝系を有することが知られているので、サルモネラ以外の任意の細菌を宿主とした場合でも、実施例と同様のニトロゲナーゼ活性(窒素固定)が得られることは推認できない。
また、本願明細書の段落【0038】、【0039】の記載をみると、請求項1に記載の発明にいう「リファクターされたnifクラスター」は、配列番号1または配列番号2の塩基配列の核酸とは大きく異なるもの等を広く包含しており、そのような広範な「リファクターされたnifクラスター」を用いる場合には、実施例と同様のニトロゲナーゼ活性(窒素固定)が得られることは推認できない。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由4(明確性要件)
令和5年2月20日付け手続補正書でした補正により請求項1に記載された「合成部分の制御下のオペロン」及び「スペーサー部分によって分離されたオペロン」は、いかなることを特定しているか明らかでないし、かかる特定は、本願明細書の【0038】に記載されているものとも異なるので、本願発明は明確でない。
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
第5 本願明細書等の記載
この出願の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本願明細書等」という。)は、審査・審判の一連の手続きで補正されていないので、上記(1)アで示した当初明細書等に記載した事項と同じであり、以下では、当初明細書等に記載した事項を本願明細書等に記載した事項ということがある。
第6 当審の判断
1.理由1(新規事項)の検討
令和5年2月20日付け手続補正書でした補正により、請求項1に「リファクターされた外因性のnifクラスターが、コドン最適化されたnifクラスター遺伝子、合成部分の制御下のオペロン、スペーサー部分によって分離されたオペロン、およびコントローラの少なくとも1つを含む」という発明特定事項が追加された。
当初明細書等には、「リファクター化プロセスは、遺伝子クラスターのいくつかのレベルの再構築を含む。例えば、nifクラスターなどの遺伝子クラスター中の必須遺伝子のコドンは、野生型(WT)遺伝子から派生したDNA配列を創出するように変更される。これは、コドン最適化を介して達成され得る。再コードされた遺伝子は、内部の調節因子を同定するためにコンピュータスキャンしてもよい。次いで、これらの調節構成要素は除去してもよい。これらは、オペロンに組織化され、スペーサー部分によって機能的に分離される合成部分(プロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーター)の制御下に配置される。最後に、遺伝子発現の条件および動態を調節する遺伝子センサーおよび回路からなるコントローラを追加してもよい。」(本cの【0038】)との記載はあるが、上記の発明特定事項である、「リファクターされた外因性のnifクラスターが、コドン最適化されたnifクラスター遺伝子、合成部分の制御下のオペロン、スペーサー部分によって分離されたオペロン、およびコントローラの少なくとも1つを含む」という記載は当初明細書等に存在しない。
また、上記の当初明細書等の記載事項や他の箇所の記載事項から、「リファクターされた外因性のnifクラスターが、コドン最適化されたnifクラスター遺伝子、合成部分の制御下のオペロン、スペーサー部分によって分離されたオペロン、およびコントローラの少なくとも1つを含む」ことが当初明細書等に記載されていると同視できるとは認められない。
したがって、令和5年2月20日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえるので、当該補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものとは認められない。
2.理由3(実施可能要件)の検討
上記の第2の2(2)イ(ア)で示したものと同様に、本願明細書等の記載からすると、配列番号1または配列番号2の塩基配列を含む、クレブシエラ・オキシトカの「リファクターされたnifクラスター」を用い、「内部寄生菌」としてサルモネラ株を用いた場合の発明は実施できるものと認められる。
しかし、本願発明で使用されるリファクターされた外因性のnifクラスターは、「コドン最適化されたnifクラスター遺伝子、合成部分の制御下のオペロン、スペーサー部分によって分離されたオペロン、およびコントローラの少なくとも1つを含む」というものであり、クレブシエラ・オキシトカ以外のnifクラスターや任意のリファクター化の態様であるものも対象とし、配列番号1または配列番号2の塩基配列とは大きく異なる配列を有するnifクラスターを広く包含するものである。
また、上記第2の2(2)イ(ア)で示したように、配列番号1または配列番号2の塩基配列についてみても、かかる塩基配列が、本願発明で採用されているリファクターされた外因性のnifクラスターの発明特定事項を満たすか否かについて、本願明細書等の記載から明らかでない。
そうすると、本願発明で特定されたリファクターされたnifクラスターを用いた場合に、実施例で示された発明と同様のニトロゲナーゼ活性(窒素固定)を示すことは、当業者といえども推認できないといえる。
一方で、本願明細書等には、内部寄生菌であっても、大腸菌のように、穀物用植物によってはコロニー形成ができない場合があることが示されており(本eの【0095】)、サルモネラ以外の任意の広範な内部寄生菌を宿主とした場合には、実施例で示されたものと同様に穀物用植物において確立される態様でニトロゲナーゼ活性(窒素固定)を示すことは当業者といえども推認できないといえる。
そうすると、本願明細書等の記載に基づき、当業者が、本願発明を実施するには、本願の出願時の技術常識を参酌しても、過度の試行錯誤や実験を要するものと認められるので、本願明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
3.理由4(明確性要件)の検討
請求項1には「合成部分の制御下のオペロン」及び「スペーサー部分によって分離されたオペロン」という記載があるが、本願明細書等には、これらのオペロンを具体的に説明する記載は存しないし、クレブシエラ・オキシトカの「リファクターされたnifクラスター」の例示的な塩基配列を示す配列番号1、2を参照しても、これらのオペロンが具体的に如何なるものか理解、特定することができない。
したがって、請求項1の記載は、本願明細書等の記載を基に、本願の出願時の技術常識を参酌しても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえるので、本願発明は、明確とはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、本願について、令和5年2月20日付け手続補正書でした補正は、特許法第17条の2第3項の規定にする要件を満たしていない。
また、本願は、請求項1に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が、同法同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、請求項2~15について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-011153