特許拒絶査定不服審判
2021-009674
フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム
- 審判番号
- 2021-009674
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-106461外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年07月20日
- 審決日
- 2023年09月25日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .536-WZ (C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-106461「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月31日出願公開、特開2019-189872〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、平成30年4月20日を出願日とする出願(特願2018-81765号)の一部を令和1年6月6日に新たな出願としたもの(特願2019-106461号)であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 1年11月11日 :上申書、手続補正書の提出
同年12月25日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 3月 5日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月11日付け:拒絶理由通知書
同年 8月17日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月15日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 3年 2月 2日 :電話応対(同年2月4日応対記録作成)
同年 4月13日付け:拒絶査定
同年 7月20日 :審判請求書の提出
令和 5年 2月21日付け:拒絶理由通知書
同年 3月 2日 :電話応対(同日に応対記録作成)
同年 4月27日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明について
本願の請求項1~6に係る発明は、令和5年4月27日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。また、本願の明細書を「本願明細書」という。)
「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示すポリイミドで形成されたフレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム(但し、前記最大勾配は、前記シリコンウェハに対して前記ポリイミドフィルムに印加する直流電圧を最低電圧V1と最高電圧V2の間で、最低電圧V1から最高電圧V2までの正方向走査と、最高電圧V2から最低電圧V1までの負方向走査を走査速度0.25V/secの条件で行いながら、2.5kHzの測定周波数で容量測定を行い、第3回目の正方向走査時の規格化容量-電圧曲線における勾配の絶対値の最大値を意味し、ここで前記最低電圧V1は、前記ポリイミドフィルムのみの容量が観察される電圧であり、前記規格化容量-電圧曲線は、最低電圧V1における容量を1として規格化されている。
さらに前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、仕込み比から計算されるポリイミド全体におけるアミン末端基濃度が30μmol/g以下であり、且つ以下の条件(A)、(B)、(C)、(D)および(E)を満たす。
(A)
前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、(i)(α)5%熱分解温度が350℃以上のポリイミド、(β)下記一般式(1)で表される化学構造及び/又は下記一般式(2)で表される化学構造を有する化合物、および(γ)下記一般式(3)で表される化学構造、水酸基、カルボキシル基及びスルホ基からなる群のうち1種以上を有する化合物を含有するフィルム、並びに(ii)(α)5%熱分解温度が350℃以上のポリイミド、および(δ)アミド基、アミノ基、カルバメート基、カルボキシル基、アリール基、酸無水物基及び重合性環状エーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する下記一般式(4)で表される化学構造を有する化合物を含有するフィルム、のいずれとも異なる。
【化1】
[図:0001403934000001.jpg]
(B)
前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、プラズマ処理されたものではない。
(C)
前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサンを含むジアミン成分を用いて得られるポリイミドを含有しない。
(D)
前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、100モル部の線状芳香族ジアミン、97~99.5モル部の芳香族テトラカルボン酸二無水物、およびその残留アミンサイトと反応する十分な量の芳香族酸無水物を使用して得られたポリアミック酸組成物から製造されるポリイミドフィルムではない。
(E)
前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、1,4-シクロヘキサンジアミン41.4gと、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物103.6gおよび9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物5.0gとから得られたポリアミック酸組成物から製造されるポリイミドフィルムと同一ではない。)。」
(当審注:下線部は、当審が付した。)
上記本願発明の発明特定事項のうち、「(A)、(B)、(C)、(D)および(E)」については、下記において「条件(A)~(E)」と表記する。
第3 当審が通知した令和5年2月21日付け拒絶理由通知書における拒絶理由の概要
令和5年2月21日付け拒絶理由通知書における拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
理由A:(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
本願発明1の「ポリイミド」は、本願明細書の段落【0021】~【0023】に記載の「一般式II」において「テトラカルボン酸成分」を構成する「X1」について「4価の脂肪族基または芳香族基」との特定のみであり、「ジアミン成分」を構成する「Y1」についても「2価の脂肪族基または芳香族基」との特定のみであり、実質的に何ら特定されていないし、「X1」及び「Y1」についてカルボン酸基、アミノ基等の多様な置換基を有する態様も排除していないし、また、「ポリイミド」の「イミド基重量分率(wt%)」、「(イミド基)+(繰り返し単位中の官能基)重量分率(wt%)」、「末端アミン基量(μmol/g)」、「末端二水物基量(μmol/g)」、「末端官能基量」等も影響を与えると解すると、本願発明1の(A)~(D)の条件を考慮しても、膨大な態様を包含しているといえる(令和5年2月21日付け拒絶理由通知書の13頁12~23行)。
次に、本願発明1の「最大勾配」の値は「ポリイミドの表面状態(例えば組成、官能基(特に表面官能基)、不純物または添加物の存在等)が影響する」値であることは読み取ることはできる。
しかしながら、「ポリイミド中の官能基(イミド基、繰り返し単位中の官能基、末端官能基)」、「シランカップリング剤」の有無等が「C-V特性」に影響することは記載されているものの、具体的に、「ポリイミド中の官能基(イミド基、繰り返し単位中の官能基、末端官能基)」、「シランカップリング剤」の有無等が、本願発明1の「最大勾配」の値に、どの程度、どのように影響を与えるかまでは記載されていないし、これらが本願発明1の「最大勾配」に影響を与えることが本願の原出願の出願時において技術常識であったとも認められない(同13頁24行~14頁4行)。
さらに、本願発明1の「最大勾配」に「ポリイミド」の何が影響を与えるのか、本願明細書をみても、明確に把握することはできない(同14頁5~8行)。
そうすると、本願発明1の「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき」の最大勾配の値は、実際に測定してみる他には知ることができないと解され、「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示すポリイミド」を選択するためには、本願明細書の実施例1~7以外の「ポリイミド」以外の、膨大な態様を包含する「ポリイミド」1つ1つについて、段落【0129】~【0130】に記載の「C-V特性の測定方法」及び「勾配の求め方」に従って、ひたすら「最大勾配」の値を測定し、「0.005/V以上の最大勾配を示す」か否かを確認していく必要があり、これは、当業者に過度な試行錯誤を課すことになるといえる(同14頁9~19行)。
したがって、本願明細書は、本願発明1の「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」の製造、調製について、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているとはいえない。
第4 本願明細書及び各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項等
1 本願明細書に記載された事項
本願明細書には、以下の事項が記載されている。
(本a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフレキシブルデバイスの基板等の電子デバイス用途に好適に使用されるポリイミドに関し、さらにはポリイミドフィルム、ポリイミドフィルムを含む積層体および前記ポリイミドまたは積層体を含む電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイ用基板として、従来からガラスが用いられてきたが、ガラスは軽量化のために薄膜化すると強度が不足して壊れやすいという問題がある。そこで、ガラス基板の代替として、軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板が提案されてきた。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイでは、各ピクセルを駆動するために、基板上にTFT等の半導体素子を形成する。このため、基板には耐熱性や寸法安定性が要求される。ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れていることから、ディスプレイ用の基板として期待される。
【0003】
ポリイミド基板上に形成したTFT素子について、非特許文献1および2は、ポリイミド基板界面に存在する負電荷により正のキャリアが誘起されて、これがTFT特性に影響を及ぼすことを報告している。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のとおり、非特許文献1および2では、TFT特性に対するポリイミド界面の影響を報告しているが、具体的に負電荷が存在し得る界面準位密度の評価は実施されていない。またポリイミドの詳細についての記載は無く、加えてポリイミド基板を変更してTFT特性を評価したデータもないため、基板として適したポリイミドの情報も不明である。
【0006】
ポリイミドのような絶縁膜の表面の準位密度を評価する手法として、容量-電圧特性(以下、C-V特性と記載する)を測定する方法が挙げられる。一般に、半導体-絶縁膜―金属(電極)キャパシタの容量の電圧依存性を評価して得られるC-Vカーブは、半導体-絶縁膜界面に存在する準位密度の存在により形状が変化する事が知られている。従ってTFT特性等のデバイス特性に影響を与えるC-V特性を評価し、ディスプレイを含む半導体デバイスおよび電子デバイス用基板として最適なポリイミドフィルムを開発する上で、またポリイミドのさらなる用途拡大を図る上で、優れたC-V特性を有するポリイミドを提供することが必要である。
【0007】
本発明は優れたC-V特性を示すポリイミド、特にフィルム形態のポリイミド、そのポリイミドを用いた積層基板、およびそれらを含むフレキシブルディスプレイ等の電子デバイスを提供することを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れたC-V特性を示すポリイミド、特にフィルム形態のポリイミド、そのポリイミドを用いた積層基板、およびそれらを含むフレキシブルディスプレイ等の電子デバイスを提供することができる。
本発明のポリイミドフィルムは優れたC-V特性を有するため、例えばTFT等の半導体素子の基板として使用しても、半導体素子の性能に対して影響を与える懸念が少なく、また特に長期間の使用によるスイッチング特性のシフトなどの素子特性の変化や劣化の心配が小さい。」
(本b)「【0011】
<<C-V特性>>
まず、ポリイミドに関わるC-V特性の測定方法と定義を説明する。図1にC-V測定システムの模式図を示す。シリコンウェハ1の表面にポリイミドフィルム2を形成し測定サンプルとする。ポリイミドフィルム2の表面の所定面積に水銀を接触させて水銀電極3を形成する。シリコンウェハ1(接地電位)と水銀電極3の間に、直流電源4により直流電圧を印加し、その直流電圧における容量(キャパシタンス)を交流電源5により所定の周波数および振幅の交流電圧を印加して測定する。本願では、直流電圧を最低電圧V1から最高電圧V2の間で、正方向走査(直流電圧を上昇させる)と負方向走査(直流電圧を下降させる)を行い、その間に容量を測定し、第3回目の正方向走査時のC-V測定のデータに基づいて後述する「最大勾配」を求める。
【0012】
直流電圧範囲の最低電圧V1として、シリコンウェハがp型の場合、ポリイミドフィルムのみの容量が発現するように十分な負のバイアス電圧を加えるようにする。本発明の実施例では-40Vとしたが、ポリイミドフィルムの性質によっては、さらに低い電圧(負の絶対値が大きい電圧)を必要とする場合もある。直流電圧範囲の最高電圧V2は、後述する最大勾配が観察される電圧より十分高く、また負方向の走査においても、最大勾配が観察される程度に十分に高い電圧である。また、最低電圧V1の絶対値および最高電圧V2は共に、ポリイミドフィルムの絶縁破壊電圧以下で且つ装置の能力が許す範囲で広く設定される。本発明の実施例では-40V~40Vの走査範囲とした。
【0013】
直流電圧の走査速度は、例えば、10mV/sec~100V/secの範囲であり、この範囲より測定の目的を考慮して選択することができる。本発明の実施例では、0.25V/secを採用した。
【0014】
容量(キャパシタンス)測定のための交流電圧(正弦波)は、ポリイミドフィルムの用途により(即ち興味周波数領域に合わせて)変更することができるが、ディスプレイ用途では例えば100Hz~1MHz、特に500Hz~10kHzの範囲の周波数で測定すればよい。本発明の実施例では2.5kHzを使用した。また、振幅は直流電圧よりも十分に小さな電圧であればよく、適宜選ぶことができるが、本発明の実施例では0.1Vとした。
【0015】
本発明において、C-V測定結果を評価するにあたり、最低電圧V1における容量値を1として、測定C-V曲線を規格化した規格化容量-電圧曲線(規格化C-V曲線)により、ポリイミドの性質を評価する。これは、ポリイミドフィルムの膜厚の誤差や誘電率等の違いによる容量値の違いを除き、界面準位などの半導体に影響を与える因子を評価するためである。測定されるポリイミドフィルムの膜厚については、評価の誤差をなるべく小さくするために、本願の評価においては0.65μm~0.85μm厚、特に0.75μm厚を目標とするのが好ましい。
【0016】
このような測定システムおいて、直流電圧を最低電圧V1から最高電圧V2まで正方向走査すると(但し、第3回目の正方向走査である)、図2に示すように、典型的には、最初の平坦領域を過ぎると、比較的大きく容量が減少する第1減少領域が現れ、次いで比較的平坦な領域が観察される。次に、最高電圧V2から最低電圧V1まで負方向に電圧を走査すると、典型的には、前記領域が正方向の走査のときと逆の順番で観察される。但し、正方向走査の曲線とは一致せず、ヒステリシスが観察される場合が多い。
【0017】
上述の「第1減少領域」は、シリコンウェハ中の界面近傍が、多数キャリアの蓄積層から空乏層へ変化して空乏層が拡大していく過程と理解される。本発明において、第1減少領域における最大勾配(負で絶対値が最大)を、「最大勾配」と定義する。従って、「最大勾配」は、規格化C-V曲線の微分曲線において現れる負のピークの頂点の絶対値として得ることができる。
【0018】
本発明のポリイミドは、抵抗率が4Ωcmのシリコンウェハ上に形成した0.75μmの膜厚のフィルムついて、上述のC-V測定により得られた「最大勾配」が、0.005/V以上であり、好ましくは0.007/V超である。最大勾配は、界面準位密度が小さい程、大きい(絶対値が大きい)値を示す。界面準位密度には、ポリイミドの表面状態(例えば組成、官能基(特に表面官能基)、不純物または添加物の存在等)が影響すると考えられるが、本発明では半導体との界面においてポリイミドの表面状態が極めて好ましい状態にあるため、大きな「最大勾配」を有するものと推定できる。このような大きな「最大勾配」を有することによって、本発明のポリイミドをディスプレイ等の電子デバイスにおいて使用しても、電子デバイスの動作や耐久性に与える悪影響が小さい。
【0019】
このようなC-V特性に着目したポリイミドの開発は報告されておらず、実際に行われてもいない。当然ながら、既存のポリイミドは上述のC-V特性を満足するものではない。また、C-V特性はポリイミドの表面状態に影響すると考えられることから、C-V特性を満足すれば、そのポリイミドの化学構造は何でもよいということになる。」
(本c)「【0020】
<<ポリイミド、ポリイミド前駆体>>
本発明のポリイミドもしくはその前駆体(ポリイミド前駆体)は、C-V特性を満足すれば、その化学構造は特に制限されず、付与したい機能に応じて適宜化学構造を選択すればよい。ポリイミド前駆体は、下記一般式I:
【0021】
【化1】
[図:0001403934000002.jpg]
(一般式I中、X1は4価の脂肪族基または芳香族基であり、Y1は2価の脂肪族基または芳香族基であり、R1およびR2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~9のアルキルシリル基である。)
で表される繰り返し単位を有する。特に好ましくは、R1およびR2が水素原子であるポリアミック酸である。また、部分的にイミド化が進行したもの、即ち式I中の2つのアミド構造の少なくとも1つがイミド化した繰り返し単位を含有するポリマーも、「ポリイミド前駆体」および、「ポリアミック酸」(残存するR1およびR2が水素原子の場合)に包含される。
また、ポリイミドは下記一般式II:
【0022】
【化2】
[図:0001403934000003.jpg]
(式中、X1は4価の脂肪族基または芳香族基であり、Y1は2価の脂肪族基または芳香族基である。)
で表される繰り返し単位を有する。
【0023】
以下に、このようなポリイミドの化学構造を、上記繰り返し単位(一般式(II))中のX1およびY2の構造および製造に使用されるモノマー(テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、その他成分)により説明し、続いて製造方法を説明する。
【0024】
本明細書において、テトラカルボン酸成分は、ポリイミドを製造する原料として使用されるテトラカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物、その他テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等のテトラカルボン酸誘導体を含む。特に限定されるわけではないが、製造上、テトラカルボン酸二無水物を使用することが簡便であり、以下の説明ではテトラカルボン酸成分としてテトラカルボン酸二無水物を用いた例を説明する。また、ジアミン成分は、ポリイミドを製造する原料として使用される、アミノ基(-NH2)を2個有するジアミン化合物である。
【0025】
また、本明細書において、ポリイミドフィルムは、基板上に形成されて積層状態にあるもの、およびフィルムを支持する基板を有さないもの(自立フィルムを含む)の両方を意味する。本発明のポリイミドは、基板として使用される場合は、フィルムの形態であることが好ましい。また、本発明のポリイミドは、支持基板や異なる材料で形成された層の上に離散的に存在する層の形態であってもよい。
【0026】
<<繰り返し単位中の構造およびモノマー>>
<X1およびテトラカルボン酸成分>
【0027】
X1の芳香族環を有する4価の基としては、炭素数が6~40の芳香族環を有する4価の基が好ましい。
【0028】
芳香族環を有する4価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0029】
【化3】
[図:0001403934000004.jpg]
(式中、Z1は直接結合、または、下記の2価の基:
【0030】
【化4】
[図:0001403934000005.jpg]
のいずれかである。ただし、式中のZ2は、2価の有機基、Z3、Z4はでそれぞれ独立にアミド結合、エステル結合、カルボニル結合であり、Z5は芳香環を含む有機基である。)
【0031】
Z2としては、具体的には、炭素数2~24の脂肪族炭化水素基、炭素数6~24の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0032】
Z5としては、具体的には、炭素数6~24の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0033】
芳香族環を有する4価の基としては、得られるポリイミド材料の高耐熱性と高透明性を両立できるので、下記のものが特に好ましい。
【0034】
【化5】
[図:0001403934000006.jpg]
(式中、Z1は直接結合、または、へキサフルオロイソプロピリデン結合である。)
【0035】
ここで、得られるポリイミド材料の高耐熱性、高透明性、低線熱膨張係数を両立できるので、Z1は直接結合であることがより好ましい。
【0036】
加えて好ましい基として、上記式(9)において、Z1が下式(3A):
【0037】
【化6】
[図:0001403934000007.jpg]
で表されるフルオレニル含有基である化合物が挙げられる。Z11およびZ12はそれぞれ独立に、好ましくは同一で、単結合または2価の有機基である。Z11およびZ12としては、芳香環を含む有機基が好ましく、例えば式(3A1):
【0038】
【化7】
[図:0001403934000008.jpg]
(Z13およびZ14は、互いに独立に単結合、-COO-、-OCO-または-O-であり、ここでZ14がフルオレニル基に結合した場合、Z13が-COO-、-OCO-または-O-でZ14が単結合の構造が好ましく;R91は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、好ましくはメチルであり、nは0~4の整数であり、好ましくは1である。)
で表され構造が好ましい。
【0039】
X1が芳香族環を有する4価の基である一般式(II)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’-オキシジフタル酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸、ビスカルボキシフェニルジメチルシラン、ビスジカルボキシフェノキシジフェニルスルフィド、およびスルホニルジフタル酸が挙げられ、モノマーとしてこれらの二無水物が好ましく使用される。X1がフッ素原子を含有する芳香族環を有する4価の基である一般式(II)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物が挙げられる。さらに、好ましい化合物として、(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)が挙げられる。テトラカルボン酸成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
X1の脂環構造を有する4価の基としては、炭素数が4~40の脂環構造を有する4価の基が好ましく、少なくとも一つの脂肪族4~12員環、より好ましくは脂肪族4員環または脂肪族6員環を有することがより好ましい。好ましい脂肪族4員環または脂肪族6員環を有する4価の基としては、下記のものが挙げられる。
【0041】
【化8】
[図:0001403934000009.jpg]
(式中、R31~R38は、それぞれ独立に直接結合、または、2価の有機基である。R41~R47は、それぞれ独立に 式:-CH2-、-CH=CH-、-CH2CH2-、-O-、-S-で表される基よりなる群から選択される1種を示す。R48は芳香環もしくは脂環構造を含む有機基である。)
【0042】
R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37、R38としては、具体的には、直接結合、または、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、または、酸素原子(-O-)、硫黄原子(-S-)、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合が挙げられる。
【0043】
R48として芳香環を含む有機基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0044】
【化9】
[図:0001403934000010.jpg]
(式中、W1は直接結合、または、2価の有機基であり、n11~n13は、それぞれ独立に0~4の整数を表し、R51、R52、R53は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基である。)
【0045】
W1としては、具体的には、直接結合、下記の式(5)で表される2価の基、下記の式(6)で表される2価の基が挙げられる。
【0046】
【化10】
[図:0001403934000011.jpg]
(式(6)中のR61~R68は、それぞれ独立に直接結合または前記式(5)で表される2価の基のいずれかを表す。)
【0047】
脂環構造を有する4価の基としては、得られるポリイミドの高耐熱性、高透明性、低線熱膨張係数を両立できるので、下記のものが特に好ましい。
【0048】
【化11】
[図:0001403934000012.jpg]
【0049】
X1が脂環構造を有する4価の基である式(II)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,3,3’,4’-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-オキシビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-チオビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-スルホニルビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(ジメチルシランジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(テトラフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、オクタヒドロペンタレン-1,3,4,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸、9-オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、(4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2c,3c,6c,7c-テトラカルボン酸、(4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2t,3t,6c,7c-テトラカルボン酸や、これらのテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等の誘導体が挙げられる。テトラカルボン酸成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0050】
<Y1およびジアミン成分>
Y1の芳香族環を有する2価の基としては、炭素数が6~40、更に好ましくは炭素数が6~20の芳香族環を有する2価の基が好ましい。
【0051】
芳香族環を有する2価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0052】
【化12】
[図:0001403934000013.jpg]
(式中、W1は直接結合、または、2価の有機基であり、n11~n13は、それぞれ独立に0~4の整数を表し、R51、R52、R53は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基である。)
【0053】
W1としては、具体的には、直接結合、下記の式(5)で表される2価の基、下記の式(6)で表される2価の基が挙げられる。
【0054】
【化13】
[図:0001403934000014.jpg]
【0055】
【化14】
[図:0001403934000015.jpg]
(式(6)中のR61~R68は、それぞれ独立に直接結合または前記式(5)で表される2価の基のいずれかを表す。)
【0056】
ここで、得られるポリイミドの高耐熱性、高透明性、低線熱膨張係数を両立できるので、W1は、直接結合、または式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種であることが特に好ましい。また、W1が、R61~R68が直接結合、または式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種である前記式(6)で表される2価の基のいずれかであることも特に好ましい。
【0057】
加えて好ましい基として、上記式(4)において、W1が下式(3B):
【0058】
【化15】
[図:0001403934000016.jpg]
で表されるフルオレニル含有基である化合物が挙げられる。Z11およびZ12はそれぞれ独立に、好ましくは同一で、単結合または2価の有機基である。Z11およびZ12としては、芳香環を含む有機基が好ましく、例えば式(3B1):
【0059】
【化16】
[図:0001403934000017.jpg]
(Z13およびZ14は、互いに独立に単結合、-COO-、-OCO-または-O-であり、ここでZ14がフルオレニル基に結合した場合、Z13が-COO-、-OCO-または-O-でZ14が単結合の構造が好ましく;R91は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、好ましくはフェニルであり、nは0~4の整数であり、好ましくは1である。)
で表され構造が好ましい。
【0060】
別の好ましい基として、上記式(4)において、W1がフェニレン基である化合物、即ちターフェニルジアミン化合物が挙げられ、特にすべてパラ結合である化合物が好ましい。
【0061】
別の好ましい基として、上記式(4)において、W1が式(6)の最初のフェニル環1個の構造において、R61およびR62が2,2-プロピリデン基である化合物が挙げられる。
【0062】
さらに別の好ましい基として、上記式(4)において、W1が次の式(3B2):
【0063】
【化17】
[図:0001403934000018.jpg]
で表される化合物が挙げられる。
【0064】
Y1が芳香族環を有する2価の基である一般式(II)の繰り返し単位を与えるジアミン成分としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)、4,4’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、p-メチレンビス(フェニレンジアミン)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス((アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)ジフェニル)スルホン、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)ジフェニル)スルホン、オクタフルオロベンジジン、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-アミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-エチルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-アニリノ-1,3,5-トリアジンが挙げられる。Y1がフッ素原子を含有する芳香族環を有する2価の基である一般式(II)の繰り返し単位を与えるジアミン成分としては、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが挙げられる。加えて好ましいジアミン化合物として、4,4’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス([1,1’-ビフェニル]-5,2-ジイル))ビス(オキシ))ジアミン、[1,1’:4’,1”-ターフェニル]-4,4”-ジアミン、4,4’-([1,1’-ビナフタレン]-2,2’-ジイルビス(オキシ))ジアミンが挙げられる。ジアミン成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0065】
Y1の脂環構造を有する2価の基としては、炭素数が4~40の脂環構造を有する2価の基が好ましく、少なくとも一つの脂肪族4~12員環、より好ましくは脂肪族6員環を有することが更に好ましい。
【0066】
脂環構造を有する2価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0067】
【化18】
[図:0001403934000019.jpg]
(式中、V1、V2は、それぞれ独立に直接結合、または、2価の有機基であり、n21~n26は、それぞれ独立に0~4の整数を表し、R81~R86は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基であり、R91、R92、R93は、それぞれ独立に 式:-CH2-、-CH=CH-、-CH2CH2-、-O-、-S-で表される基よりなる群から選択される1種である。)
【0068】
V1、V2としては、具体的には、直接結合および前記の式(5)で表される2価の基が挙げられる。
【0069】
脂環構造を有する2価の基としては、得られるポリイミドの高耐熱性、低線熱膨張係数を両立できるので、下記のものが特に好ましい。
【0070】
【化19】
[図:0001403934000020.jpg]
脂環構造を有する2価の基としては、中でも、下記のものが好ましい。
【0071】
【化20】
[図:0001403934000021.jpg]
【0072】
Y1が脂環構造を有する2価の基である一般式(II)の繰り返し単位を与えるジアミン成分としては、例えば、1,4-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-エチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-プロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソプロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-sec-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-tert-ブチルシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,3-ジアミノシクロブタン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノビシクロヘプタン、ジアミノメチルビシクロヘプタン、ジアミノオキシビシクロヘプタン、ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン、イソホロンジアミン、ジアミノトリシクロデカン、ジアミノメチルトリシクロデカン、ビス(アミノシクロへキシル)メタン、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダンが挙げられる。ジアミン成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。」
(本d)「【0073】
上記のテトラカルボン酸成分およびジアミン成分に加えて、カルボン酸モノ無水物を添加して反応させることも好ましい。カルボン酸モノ無水物は、特にジカルボン酸モノ無水物が好ましく、芳香族カルボン酸モノ無水物であっても脂肪族カルボン酸モノ無水物であってもよい。特に芳香族カルボン酸モノ無水物が好ましい。芳香族カルボン酸モノ無水物は、炭素数6~30の芳香環を有するものが好ましく、炭素数6~15の芳香環を有するものがより好ましく、炭素数6~10の芳香環を有するものがさらに好ましい。
【0074】
カルボン酸モノ無水物としては、例えば、無水フタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、1,2-ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、1,8-ナフタレンジカルボン酸無水物、1,2-アントラセンジカルボン酸無水物、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物、1,9-アントラセンジカルボン酸無水物などの芳香族カルボン酸モノ無水物、および無水マレイン酸、無水コハク酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水イタコン酸、無水トリメリット酸などの脂環式カルボン酸モノ無水物が挙げられる。これらの中でも、無水フタル酸が好ましい。
【0075】
カルボン酸モノ無水物を添加する場合、次の式(1)および(2)を満たすことがより好ましい。
【0076】
式(1) 0.97≦X/Y<1.00
式(2) 0.5≦(Z/2)/(Y-X)≦1.05
(式中、Xはテトラカルボン酸成分のモル数、Yはジアミン成分のモル数、Zはカルボン酸モノ無水物のモル数を表す。)
【0077】
X/Yが、0.97以上であることにより、ポリイミド前駆体(特にポリアミック酸)の分子量を増やし、得られるポリイミドフィルムの強度や耐熱性が向上する。X/Yは、好ましくは0.98以上である。X/Yは1.00未満である場合、テトラカルボン酸成分に対してジアミン成分が過剰となる。こうすることにより、カルボン酸モノ無水物で末端封止可能なアミノ基を形成できる。X/Yは、好ましくは0.99以下である。
【0078】
また、(Z/2)/(Y-X)は、カルボン酸モノ無水物と、末端封止可能なアミノ基とのモル比を表す。X/Yが1.00未満であり、(Z/2)/(Y-X)が0.5以上であることにより、ポリイミド前駆体の末端封止率を上げることができ、C-V特性を向上できる。(Z/2)/(Y-X)は、1に近いほど好ましい。(Z/2)/(Y-X)は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上である。(Z/2)/(Y-X)が1.05以下であることにより、遊離のカルボン酸モノ無水物の量を低減し、得られるポリイミドフィルムの強度およびC-V特性を向上できる。(Z/2)/(Y-X)は、好ましくは1.03以下、より好ましくは1.01以下である。
【0079】
本発明の1態様において、ポリイミド繰り返し単位(即ち前記一般式II)中のイミド基(-C(O)NC(O)-)の重量分率が、38.3重量%未満であることが好ましい。特定の態様においては、30重量%以下であることがより好ましい。
【0080】
ここで、ポリイミドは共重合体であってよく、即ちポリイミドを与えるテトラカルボン酸成分およびジアミン成分のうち少なくとも一方が2種類以上の化合物を含有してもよい。この場合、イミド基の重量分率は、モノマーの仕込み割合に基づいて、加重平均で計算される。イミド基以外の基の重量分率についても同様に計算される。以下の説明で、特定の基の重量分率に言及する場合、ポリイミドは単独重合体である場合と共重合体である場合の両方を含む。
【0081】
本発明の1態様において、ポリイミド繰り返し単位中の官能基の重量分率は小さい方が好ましい。ここで定義される「繰り返し単位中の官能基」は、ポリイミド繰り返し単位中の芳香環および飽和アルキル鎖以外の部分であり、-O-(エーテル結合)、-CO-(カルボニル基)、-COO-(エステル)、-SO2-などである。芳香環および飽和アルキル鎖の水素を置換しているFおよびClは、「繰り返し単位中の官能基」に含まれない。
【0082】
イミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせて、ポリイミド繰り返し単位中の38.3重量%未満であることも好ましく、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下である。
【0083】
本発明の好ましい1形態において、繰り返し単位を形成するテトラカルボン酸成分は、フルオレン構造を分子内に有するテトラカルボン酸二無水物、および2つの酸無水物基以外の官能基(上記「繰り返し単位中の官能基」に対応する基)1個に対してベンゼン環を3個以上有するテトラカルボン酸二無水物から選ばれる化合物を含むことが好ましい。尚、2つの酸無水物基以外に、「繰り返し単位中の官能基」に相当する官能基を有さない化合物も好ましい化合物に含まれ、この場合、ベンゼン環の個数は好ましくは2個以上であり、より好ましくは3個以上である。
【0084】
本発明の好ましい1形態において、繰り返し単位を形成するジアミン成分は、フルオレン構造を分子内に有するジアミン、および2つのアミン基以外の官能基(上記「繰り返し単位中の官能基」に対応する基)1個に対してベンゼン環を3個以上有するジアミンから選ばれる化合物を含むことが好ましい。尚、2つのアミン基以外に、「繰り返し単位中の官能基」に相当する官能基を有さない化合物も好ましい化合物に含まれ、この場合、ベンゼン環の個数は好ましくは2個以上であり、より好ましくは3個以上である。
【0085】
本発明の好ましい1形態において、繰り返し単位を形成するテトラカルボン酸成分およびジアミン成分のそれぞれが、上記の条件、即ちフルオレン構造を分子内に有する化合物、および「繰り返し単位中の官能基」1個に対してベンゼン環を3個以上有する化合物(官能基0個の場合を含む)から選ばれる化合物を含むことが好ましい。
【0086】
本発明の1態様において、「末端官能基量」が小さいことも好ましい。「末端官能基量」は、ポリイミドを製造する際(ポリアミック酸を製造する際)のテトラカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み比、各成分の純度、末端封止剤の添加量、反応性添加剤の添加量に基づいて計算される。テトラカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み比からの末端官能基量の計算は次のように行う。
テトラカルボン酸二無水物/ジアミン比=1で得られるポリイミドの重合度は理論的に∞なので、末端基は1/∞=0とする。テトラカルボン酸二無水物とジアミンの仕込みが等モルでない場合、ジアミンが過剰である場合を例に取ると、理論的に、式(II-B)の構造の重合度nのポリイミドができるものとする。nは、
(式) テトラカルボン酸二無水物/ジアミン比=n/(n+1)
を満たすnを求めることで得られる。繰り返し単位の式量をaとし、末端ジアミン1個分の分子量をabとすると、重合度nのポリイミドの式量は、(a*n+ab)となるから、末端アミン量は、
2/(a*n+ab) [単位 mol/g]
で求められる。本願の実施例ではμmol/gで表記した。
【0087】
【化21】
[図:0001403934000022.jpg]
【0088】
本発明の1態様において、末端アミン基量が好ましくは30μmol/g以下、より好ましくは20μmol/g以下、さらに好ましくは10.5μmol/g以下である。また、本発明の異なる態様において、末端の全官能基量が好ましくは30μmol/g以下、より好ましくは20μmol/g以下、さらに好ましくは10.5μmol/g以下である。
【0089】
本発明の好ましい1態様においては、イミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせた重量分率が30重量%以下且つ「末端官能基量」が20μmol/g以下が好ましく、また異なる好ましい1態様においては、イミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせた重量分率が40重量%以下且つ「末端官能基量」が10.5μmol/g以下が好ましい。またイミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせた重量分率が30重量%以下且つ「末端官能基量」が10.5μmol/g以下も非常に好ましい。
【0090】
以上のようなポリイミド中の官能基(イミド基、繰り返し単位中の官能基、末端官能基)のコントロールは、本発明のC-V特性を有するポリイミドを得るために考慮すべき要素である。」
(本e)「【0091】
<<新規ポリイミド前駆体およびポリイミド>>
本出願は、新規な構造を含有するポリイミド前駆体およびポリイミドも開示する。新規ポリイミド前駆体およびポリイミドは、
少なくとも3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)を含有するテトラカルボン酸成分(A)と、
(B-1)1,4―ジアミノベンゼン、[1,1’:4’,1”-ターフェニル]-4,4”-ジアミン、および1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼンから選ばれる少なくとも一つのジアミン、および
(B-2)9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス([1,1’-ビフェニル]-5,2-ジイル))ビス(オキシ))ジアミン、および4,4’-([1,1’-ビナフタレン]-2,2’-ジイルビス(オキシ))ジアミンから選ばれる少なくとも一つのジアミン
を含有するジアミン成分(B)を反応して得られる繰り返し単位を含む。即ち、前記一般式Iおよび一般式IIにおいて、X1が上記テトラカルボン酸成分(A)に由来し、Y1が上記ジアミン成分(B)に由来する繰り返し単位を含む。
【0092】
テトラカルボン酸成分(A)は、好ましくは3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)を40モル%以上の割合で含む。また、テトラカルボン酸成分(A)として、s-BPDA以外に、(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)を含むことも好ましい。これら以外に、前述の列挙したテトラカルボン酸二無水物を含有することができる。例えば、フルオレン構造を分子内に有するテトラカルボン酸二無水物、および2つの酸無水物基以外の官能基(「繰り返し単位中の官能基」に対応する基)1個に対してベンゼン環を3個以上有するテトラカルボン酸二無水物から選ばれる化合物を含むことができる。s-BPDAおよび(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)以外のテトラカルボン酸二無水物の量は、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下であり、0モル%であってもよい。
【0093】
ジアミン成分(B)は、上記(B-1)のジアミンおよび(B-2)のジアミンを合わせて、好ましくは40モル%以上の割合で含む。また、ジアミン成分(B)として(B-1)のジアミンおよび(B-2)のジアミン以外に前述の列挙したジアミン化合物を含有することができる。例えば、フルオレン構造を分子内に有するジアミン、および2つのアミン基以外の官能基(「繰り返し単位中の官能基」に対応する基)1個に対してベンゼン環を3個以上有するジアミンから選ばれる化合物を含むことができ、好ましい化合物としては、1,1’:4’,1”:4”,1”’-クォーターフェニル-4,4”’-ジアミン等を挙げることができる。(B-1)のジアミンおよび(B-2)のジアミン以外のジアミン化合物の量は、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下であり、0モル%であってもよい。
【0094】
また、ポリイミド前駆体またはポリイミドの繰り返し単位中、s-BPDAと(B-1)のジアミンに由来する繰り返し単位およびs-BPDAと(B-2)のジアミンに由来する繰り返し単位の割合の合計が、40モル%以上であることが好ましい。
【0095】
この新規ポリイミドはC-V特性に優れており、ポリイミド繰り返し単位中のイミド基重量分率、イミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせた重量分率、および「末端官能基量」の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つが、前述の範囲(特には好ましい範囲)となるように、併用化合物、仕込みテトラカルボン酸二無水物/ジアミン比等を選択することが好ましい。」
(本f)「【0096】
<<ポリイミドフィルムの製造方法>>
ポリイミドの製造、特にキャリア基板上にポリイミドフィルムを形成した積層体を経由するポリイミドフィルムの製造方法を以下に説明する。
【0097】
ポリイミドフィルムの製造方法の例を概略的に示すと、
(1)ポリイミド前駆体(特にポリアミック酸)溶液、またはポリイミド前駆体溶液に必要に応じてイミド化触媒、脱水剤、無機微粒子などを選択して加えたポリイミド前駆体溶液組成物をキャリア基板上にキャストし、加熱により脱水環化、脱溶媒することによりポリイミドフィルムを形成する方法(熱イミド化);
(2)ポリイミド前駆体(特にポリアミック酸)溶液に環化触媒および脱水剤を加え、さらに必要に応じて無機微粒子などを選択して加えたポリイミド前駆体溶液組成物をキャリア基板上にキャストし、化学的に脱水環化させて、これを加熱により脱溶媒、イミド化することによりポリイミドフィルムを形成する方法(化学イミド化);
(3)ポリイミドが有機溶媒に可溶の場合、必要により無機微粒子などの添加剤を選択して加えたポリイミド溶液組成物をキャリア基板上にキャストし、加熱により溶媒を除去しながら、所定温度まで加熱することによりポリイミドフィルムを形成する方法
などが挙げられる。
【0098】
<ポリイミド前駆体溶液、ポリイミド溶液>
まず、ポリイミド前駆体溶液およびポリイミド溶液の製造について説明する。ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド溶液は、略等モルのテトラカルボン酸成分とジアミン成分を、有機溶媒中で重合することにより得られる。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後、反応条件下で混合してもよい。
・・・
【0102】
ポリイミド前駆体溶液の製造例の一例として、前記のテトラカルボン酸成分とジアミン成分との重合反応を、例えば、それぞれを実質的に等モル或いはどちらかの成分(酸成分、或いはジアミン成分)を少し過剰にして混合し、反応温度100℃以下、好ましくは80℃以下にて約0.2~60時間反応させることにより実施して、ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
【0103】
ポリイミド溶液の製造例の一例として、前記のテトラカルボン酸成分とジアミン成分との重合反応を、例えば、それぞれを実質的に等モル或いはどちらかの成分(酸成分、或いはジアミン成分)を少し過剰にして混合し、公知の方法でポリイミド溶液を得ることができ、例えば反応温度140℃以上、好ましくは160℃以上(好ましくは250℃以下、さらに230℃以下)にて約1~60時間反応させることにより実施して、ポリイミド溶液を得ることができる。
【0104】
また、前述のようにカルボン酸モノ無水物(特にジカルボン酸モノ無水物)を加える場合、一般的にはテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、好ましくは前述の式(1)を満たすモル比で溶媒中で反応させて、末端にアミノ基を有するポリイミド前駆体(特にポリアミック酸)を得る第1の工程、および、次いでカルボン酸モノ無水物を、好ましくは前述の式(2)を満たすモル比で添加して反応させて、ポリイミド前駆体(特にポリアミック酸)の末端を封止する第2の工程を含む方法が好ましい。
【0105】
第1の工程では、イミド化反応を抑制するために、例えば100℃以下、好ましくは80℃以下の比較的低温で行なわれる。限定するものではないが、通常、反応温度は25℃~100℃、好ましくは40℃~80℃、より好ましくは50℃~80℃であり、反応時間は、通常、0.1~24時間程度、好ましくは2~12時間程度である。反応温度及び反応時間を前記範囲内とすることによって、効率よく高分子量のポリイミド前駆体の溶液組成物を得ることができる。なお、反応は、空気雰囲気下でも行うことができるが、通常は不活性ガス雰囲気下、好ましくは窒素ガス雰囲気下で行われる。
【0106】
第2の工程では、反応温度を適宜設定してよいが、ポリイミド前駆体の末端を確実に封止する観点から、好ましくは25℃~70℃、より好ましくは25℃~60℃、さらに好ましくは25℃~50℃である。反応時間は、通常、0.1~24時間程度である。
【0107】
このようにして得られたポリイミド前駆体溶液またはポリイミド溶液はそのまま、あるいは必要であれば有機溶媒を除去し、または、新たに有機溶媒を加えて、ポリイミドフィルムの製造に使用することができる。
【0108】
ポリイミド前駆体溶液には、熱イミド化であれば必要に応じて、イミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えてもよい。ポリイミド前駆体溶液には、化学イミド化であれば必要に応じて、環化触媒および脱水剤、無機微粒子などを加えてもよい。ポリイミド溶液には、必要に応じて、無機微粒子などを加えてもよい。
【0109】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN-オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2-ジメチルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、N-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、5-メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N-ベンジル-2-メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5-ジメチルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、2,5-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、4-n-プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01~2倍当量、特に0.02~1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0110】
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0111】
環化触媒としては、トリメチルアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、α-ピコリン、β-ピコリンなどの複素環第3級アミンなどが挙げられる。
【0112】
脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられる。
【0113】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、および微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。これらの無機微粒子は二種以上を組合せて使用してもよい。これらの無機微粒子を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
【0114】
一実施形態において、ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド溶液は、アルコキシシランなどのシランカップリング剤を含まないことが好ましい。シランカップリング剤を使用したポリイミドフィルムでは、シランカップリング剤がブリードアウトする場合がある。これにより、ポリイミドフィルムのC-V特性の低下、さらには接着力低下、積層体の膨れなどの問題が生じる。更には、ポリイミド前駆体溶液にシランカップリング剤を添加または反応させると、ポリイミド前駆体溶液の粘度安定性が低下するという問題もある。このような問題を避けるためには、シランカップリング剤を使用しないことが好ましい。
【0115】
<積層体および電子デバイスの製造>
電子デバイスの製造では、まず、ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド溶液(これらに、必要により添加剤を含有する組成物溶液も含む)をキャリア基板上に流延し、加熱処理によりイミド化および脱溶媒(ポリイミド溶液のときは主として脱溶媒)することによってポリイミドフィルムを形成し、キャリア基板とポリイミドフィルムとの積層体を得る。キャリア基板に制限はないが、一般に、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等のガラス基板や鉄、ステンレス等の金属基板が使用される。ポリイミド前駆体溶液およびポリイミド溶液のキャリア基板上への流延方法は特に限定されないが、例えばスピンコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、電着法などの従来公知の方法が挙げられる。ポリイミド前駆体溶液を用いた場合の加熱処理条件は、特に限定されないが、例えば50℃~150℃の温度範囲で乾燥した後、最高加熱温度として例えば150℃~600℃であり、好ましくは200℃~550℃、より好ましくは250℃~500℃で処理することが好ましい。ポリイミド溶液を用いた場合の加熱処理条件は、特に限定されないが、最高加熱温度として例えば100℃~600℃であり、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上であり、また好ましくは500℃以下、より好ましくは450℃以下である。」
(本g)「【実施例】
【0127】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0128】
以下の例で用いた特性の測定方法を次に示す。
【0129】
<C-V特性の測定方法>
C-V特性は、図1の模式図に示すシステムにより、以下の条件で実施した。
測定装置:堀場ジョバンイボン社製水銀プローブ式CV測定装置(水銀プローブModel 802-150(Materials Development Corporation)
水銀電極面積:0.00475 cm2
直流電圧走査条件:+40Vで30s間保持した後、+40Vから-40Vまで負方向走査を行い、-40Vで30s間保持し、その後、+40Vまで正方向走査を行う。これを3サイクル繰り返した。
交流電圧条件:周波数約2.5kHz、振幅0.1Vの交流正弦波
測定温度:室温
【0130】
<勾配の求め方>
規格化C-V曲線の微分関数の近似値として、ある電圧Vn1の時の規格化容量Cn1と、Vn1+1.5[V]であるVn2の時の規格化容量Cn2から、絶対値「|(Cn2-Cn1)/(Vn2-Vn1)|」を、規格化C-V曲線全体についてこの値を計算し、|(Cn2-Cn1)/(Vn2-Vn1)|の最大値をその組成の勾配として採用した。
【0131】
実施例、比較例に使用したモノマーおよび添加剤を示す。
モノマーA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(式量294.22)、純度(%)99.9
モノマーA2:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(式量294.22)、純度(%)99.0(低純度)
モノマーB:(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)(式量726.66)、純度(%)98.2
モノマーC:1,4-ジアミノベンゼン(式量108.14)、純度(%)100.0
モノマーD:4,4’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス([1,1’-ビフェニル]-5,2-ジイル))ビス(オキシ))ジアミン(式量684.78)、純度(%)99.0
モノマーE:[1,1’:4’,1”-ターフェニル]-4,4”-ジアミン(式量260.31)、純度(%)99.1
モノマーF:4,4’-([1,1’-ビナフタレン]-2,2’-ジイルビス(オキシ))ジアミン(式量468.51)、純度(%)99.1
モノマーG:1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(式量344.48)、純度(%)99.7
モノマーH:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(式量348.43)、純度(%)99.2
モノマーI:フタル酸無水物(式量148.11)、純度(%)100.0
添加剤:3-アミノプロピルトリエトキシシラン(式量218.32)、純度(%)99.7
【0132】
モノマーの化学構造を以下に示す。
【0133】
【化22】
[図:0001403934000023.jpg]
【0134】
【化23】
[図:0001403934000024.jpg]
【0135】
【化24】
[図:0001403934000025.jpg]
【0136】
[参考例1](実施例1の組成)
(モノマーA 50/モノマーB 50//モノマーC 50/モノマーD 50)
窒素ガスで置換した反応容器中に、1,4-ジアミノベンゼン(50モル%)および4,4’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス([1,1’-ビフェニル]-5,2-ジイル))ビス(オキシ))ジアミン(50モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(50モル%)および(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)(50モル%)を加え、さらに30分間撹拌し、粘度1.82Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0137】
[参考例2](実施例2の組成)
(モノマーA 50/モノマーB 50//モノマーD 50/モノマーE 50)
窒素ガスで置換した反応容器中に、[1,1’:4’,1”-ターフェニル]-4,4”-ジアミン(50モル%)(50モル%)および4,4’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス([1,1’-ビフェニル]-5,2-ジイル))ビス(オキシ))ジアミン(50モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(50モル%)および(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)(50モル%)を加え、さらに30分間撹拌し、粘度0.742Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0138】
[参考例3](実施例3の組成)
(モノマーA 50/モノマーB 50//モノマーE 50/モノマーF 50)
窒素ガスで置換した反応容器中に、[1,1’:4’,1”-ターフェニル]-4,4”-ジアミン(50モル%)および4,4’-([1,1’-ビナフタレン]-2,2’-ジイルビス(オキシ))ジアミン(50モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(50モル%)および(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)(50モル%)を加え、さらに30分間撹拌し、粘度0.886Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0139】
[参考例4](実施例4の組成)
(モノマーA 100//モノマーG 50/モノマーH 50)
窒素ガスで置換した反応容器中に、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(50モル%)および9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(50モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(100モル%)を加え、さらに30分間撹拌し、粘度3.249Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0140】
[参考例5](実施例5の組成)
(モノマーA 100//モノマーG 50/モノマーH 50)
窒素ガスで置換した反応容器中に、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(50モル%)および9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(50モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(100モル%)を加え、さらに30分間撹拌し、ポリアミック酸溶液を得た。その後190℃まで昇温した後、3時間保持してイミド化を行い、粘度4.03Pa・s(25℃)の液状ポリイミド樹脂組成物(ポリイミド溶液)を得た。
【0141】
[参考例6](実施例6の組成)
(モノマーA 100//モノマーC 100)
窒素ガスで置換した反応容器中に、1,4-ジアミノベンゼン(100モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(100モル%)を加え、さらに30分間撹拌し、粘度6.6Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0142】
[参考例7](実施例7の組成)
(モノマーA 98//モノマーC 100//モノマーI 4)
窒素ガスで置換した反応容器中に、1,4-ジアミノベンゼン(100モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(98モル%)およびを加え、さらに30分間撹拌した。その後フタル酸無水物(4モル%)を加え、更に30分間攪拌し、粘度3.11Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0143】
[参考例8](比較例1の組成)
(モノマーA 99.5//モノマーC 100//添加剤)
窒素ガスで置換した反応容器中に、1,4-ジアミノベンゼン(100モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(99.5モル%)および3-アミノプロピルトリエトキシシラン(モノマー総量に対して0.05部)を加え、さらに30分間撹拌し、粘度28.75Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0144】
[参考例9](比較例2の組成)
(モノマーA 98//モノマーC 100)
窒素ガスで置換した反応容器中に、1,4-ジアミノベンゼン(100モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(98モル%)を加え、さらに30分間撹拌し、粘度3.11Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0145】
[参考例10](比較例3の組成)
(モノマーA2 100//モノマーC 100)
窒素ガスで置換した反応容器中に、1,4-ジアミノベンゼン(100モル%)、NMPを仕込み、15分間40℃で加熱撹拌し、モノマーを溶解させた。その後、3,3’,4,4’-テトラカルボン酸ビフェニル二無水物(モノマーA2;低純度)(100モル%)を加え、さらに30分間撹拌し、粘度480Pa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物(ポリアミック酸溶液)を得た。
【0146】
<実施例1~3>
6インチシリコンウェハ(625μm厚、抵抗率4Ωcm、p型(不純物ボロン))上に、参考例1~3で製造したポリアミック酸溶液をさらに希釈した溶液をスピンコートし、120℃、150℃、200℃、250℃にて各10分、330℃にて5分間加熱処理し、厚さ0.75μmのポリイミドフィルムを形成した。得られたポリイミドフィルムを用いて、C-V測定を行った結果および使用した参考例の組成を表1に示す。
【0147】
<実施例4>
実施例1と同様に、6インチシリコンウェハ上に参考例4で製造したポリアミック酸溶液をさらに希釈した溶液をスピンコートし、120℃、150℃、200℃、250℃にて各10分、360℃にて5分間加熱処理し、厚さ0.75μmのポリイミドフィルムを形成した。結果を表1に示す。
【0148】
<実施例5>
実施例1と同様に、6インチシリコンウェハ上に、参考例5で製造したポリイミド溶液をさらに希釈した溶液をスピンコートし、120℃、150℃、200℃、250℃にて各10分、300℃にて5分間加熱処理し、厚さ0.75μmのポリイミドフィルムを形成した。結果を表1に示す。
【0149】
<実施例6、7、比較例1、2、3>
実施例1と同様に、6インチシリコンウェハ上に、参考例6、7、8、9、10で製造したポリアミック酸溶液をさらに希釈した溶液をスピンコートし、120℃、150℃、200℃、250℃にて各10分、450℃にて5分間加熱処理し、厚さ0.75μmのポリイミドフィルムを形成した。結果を表1に示す。
【0150】
【表1】
[図:0001403934000026.jpg]
」
2 各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項
本願発明の条件(A)~(E)に関する各拒絶理由通知書で引用された引用文献に記載された事項は、以下のとおりである。
(1)特開2016-225638号公報に記載された事項
令和1年12月25日付け拒絶理由通知書及び令和2年6月11付け拒絶理由通知書の引用文献2であり、令和5年2月21日付け拒絶理由通知書の引用文献2である特開2016-225638号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(引2a)「【請求項1】
(α)5%熱分解温度が350℃以上のポリイミド、(β)下記一般式(1)で表される化学構造及び/又は下記一般式(2)で表される化学構造を有する化合物、(γ)下記一般式(3)で表される化学構造、水酸基、カルボキシル基及びスルホ基からなる群のうち1種以上を有する化合物、(δ)アミド基、アミノ基、カルバメート基、カルボキシル基、アリール基、酸無水物基及び重合性環状エーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する下記一般式(4)で表される化学構造を有する化合物を含有することを特徴とするフレキシブルデバイス用基板。
【化1】
[図:0001403934000027.jpg]
【化2】
[図:0001403934000028.jpg]
【化3】
[図:0001403934000029.jpg]
【化4】
[図:0001403934000030.jpg]
」
(引2b)「【実施例】
【0222】
以下、実施例に従って本実施の形態を詳細に説明する。但し、本実施の形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0223】
[合成例1]
(ポリアミック酸ワニスP-1の合成)
500ml三口セパラブルフラスコに窒素導入管を取り付けた。窒素下、オイルバス30℃で、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)270.0g、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)21.94gを入れ、均一に分散するまで攪拌した。さらに、p-フェニレンジアミン(PPD)8.06gを少しずつ添加した後、オイルバス80℃で4時間加熱して、ポリアミック酸ワニスP-1を得た。重量平均分子量は27万であった。
・・・
【0229】
[実施例1~26及び比較例1~4]
(ポリアミック酸及びポリイミド組成物の調製)
表1及び表2に示すように各種成分を調製、混合した。これを孔径2.5ミクロンのPTFE製フィルターで加圧ろ過して、実施例1~26及び比較例1~4のワニス状組成物を得た。
【0230】
【表1】
[図:0001403934000031.jpg]
【0231】
【表2】
[図:0001403934000032.jpg]
【0232】
ここで、使用した(B)シリコーン化合物又はフッ素化合物及び(C)アルコキシシラン化合物は、以下の通りである。なお比較例4に含まれるアルコキシシラン化合物は、メチルトリメトキシシランであり、アミド基、アミノ基、カルバメート基、カルボキシル基、アリール基、酸無水物基及び重合性環状エーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシラン化合物に該当しない。
【0233】
(B)シリコーン化合物又はフッ素化合物
A-1 DBE-712(アヅマックス社製)
A-2 DBE-821(アヅマックス社製)
A-3 ポリフローKL-100(共栄社化学社製)
A-4 ポリフローKL-401(共栄社化学社製)
A-5 ポリフローKL-402(共栄社化学社製)
A-6 ポリフローKL700(共栄社化学社製)
A-7 LE-604(共栄社化学社製)
A-8 LE-605(共栄社化学社製)
A-9 LINC-151-EPA(共栄社化学社製)
【0234】
(C)アルコキシシラン化合物
S-1 3-(トリエトキシシリルプロピル)無水コハク酸(GELEST社製)
S-2 3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GELEST社製)
S-3 3-アミノプロピルトリエトキシシラン(GELEST社製)
S-4 3-アミノプロピルトリエトキシシランと無水フタル酸との1:1反応物
S-5 3-アミノプロピルトリメトキシシランと無水フタル酸との1:1反応物
S-6 (3-トリエトキシシリルプロピル)-t-ブチルカルバメート(GELEST社製)
S-7 3-アミノプロピルトリエトキシシランとフェニルイソシアネートとの1:1反応物
S-8 3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と3-アミノプロピルトリエトキシシランの1:2反応物
S-9 メチルトリメトキシシラン(GELEST社製)
・・・
【0252】
[比較例5]
(A)ポリアミック酸として合成例1で示したP-1、(B)シリコーン化合物としてDBE-712(アヅマックス社製)、(D)溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を、10.0:0.05:89.95の質量比で調合、混合した。これを孔径2.5ミクロンのPTFE製フィルターで加圧ろ過して、ワニス状組成物を得た。
【0253】
表面をアルカリ洗浄法及びプラズマ洗浄法により洗浄した無アルカリガラス基板上にバーコーターを用いてキュア後の膜厚が20μmとなるように、ワニス状組成物を塗工した。そして得られた塗膜を、140℃×1hr+250℃×1hr+350℃×1hrの条件でキュアした。
【0254】
[比較例6]
(A)ポリアミック酸として合成例1で示したP-1、(B)フッ素化合物としてLE-605(共栄社化学社製)、(D)溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を、10.0:0.09:89.91の比で調合、混合した。これを孔径2.5ミクロンのPTFE製フィルターで加圧ろ過して、ワニス状組成物を得た。
【0255】
表面をアルカリ洗浄法及びプラズマ洗浄法により洗浄した無アルカリガラス基板上にバーコーターを用いてキュア後の膜厚が20μmとなるように、ワニス状組成物を塗工した。そして得られた塗膜を、140℃×1hr+250℃×1hr+350℃×1hrの条件でキュアした。
【0256】
[比較例7]
(A)ポリアミック酸として合成例1で示したP-1、(C)アルコキシシラン化合物として3-アミノプロピルトリエトキシシランと無水フタル酸との1:1反応物、(D)溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を、10.0:0.05:89.95の質量比で調合、混合した。これを孔径2.5ミクロンのPTFE製フィルターで加圧ろ過して、ワニス状組成物を得た。
【0257】
表面をアルカリ洗浄法及びプラズマ洗浄法により洗浄した無アルカリガラス基板上にバーコーターを用いてキュア後の膜厚が20μmとなるように、ワニス状組成物を塗工した。そして得られた塗膜を、140℃×1hr+250℃×1hr+350℃×1hrの条件でキュアした。
【0258】
[組成物(フレキシブルデバイス用基板)の構造解析]
実施例27、28及び比較例5~7にて、無アルカリガラス基板上に塗工・キュアされた組成物からなるフレキシブルデバイス用基板の構造解析をTOF-SIMSを用いて実施した。TOF-SIMSの測定条件を下記に示す。」
(2)特開2015-214122号公報に記載された事項
令和1年12月25日付け拒絶理由通知書の引用文献3である特開2015-214122号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(引3a)「【請求項1】
少なくとも支持体とポリイミドフィルムとから構成されてなる積層体を作製するために好適な芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミン類との反応によって得られるポリアミック酸溶液から得られることを特徴とするポリイミドフィルムであって、下記の3条件ともに満たしている事を特徴とするポリイミドフィルム。
(1)表面粗さが1.5nm以下。
(2)O/Cが0.3から0.45の間。
(3)N/Oが0.40から0.50の間。
【請求項2】
前記ポリアミック酸溶液が芳香族テトラカルボン酸類とベンゾオキサゾール構造(骨格)を有する芳香族ジアミン類との反応によって得られるポリアミック酸溶液から得られることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記ポリアミック酸溶液が3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン類との反応によって得られるポリアミック酸溶液から得られることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミドフィルム。」
(引3b)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムと支持体から構成されてなる積層体の製造に適したポリイミドフィルムであり、更に詳しくは、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など薄膜からなり、微細な加工が必要となるデバイスを、ポリイミドフィルム表面に形成するにあたり、一時的ないし半永久的に、ポリイミドフィルムを支持体となる支持体に貼り合わせた積層体を得るための積層体を利用したフィルムデバイスの作製に適した、耐熱性を有する積層体作製可能なポリイミドフィルムに関する発明である。
・・・
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、耐熱性、フレキシブル性をより高いレベルで具備したポリイミドのフィルムが、このフィルムとほぼ同程度の線膨張係数を有するガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属から選ばれた一種の支持体とが積層された耐熱性と絶縁性に優れた積層体が、電子デバイス作製などに使用される際に極めて有意であるが、この積層体の耐熱性が高くなることで、更にデバイス作製の幅が広がり、有用性が高まるとの認識から、ポリイミドフィルムの表面処理を見直し、分析と併せて、積層体の耐熱性をあげる処理を見出し、それに使用できる支持体と接着剤を使用しないでも接着しうる、接着性に優れ、支持体から剥がす際にも支障のない、線膨張係数が低めの特定範囲にあり、かつ精緻な回路形成が平滑面に形成しうるポリイミドフィルムを見出した。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリイミドフィルムは、少なくとも支持体とポリイミドフィルムから構成されてなる積層体を形成するための積層体形成用ポリイミドフィルムで、該ポリイミドフィルムは芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミンとの反応によって得られるポリアミック酸溶液から得られるポリイミドフィルムであって、少なくともフィルム片面において
(1)表面粗さRaが1.5nm以下。
(2)ポリイミドフィルム表面のO/Cが0.3から0.45の間。
(3)ポリイミドフィルム表面のN/Oが0.40から0.50の間。
なる条件を満たすことが必須である。
【0012】
前記(1)表面粗さRa1.5nm以下 を実現するためには、プラズマ処理前のポリイミドフィルムとして、表面粗さRaが 0.1~2.0nmのフィルムを使用する。
なお、ここに表面粗さRaは走査型プローブ顕微鏡により得られる数値である。
【0013】
前記(2)ポリイミドフィルム表面のO/Cが0.3から0.45の間。
前記(3)ポリイミドフィルム表面のN/Oが0.40から0.50の間。
を有するポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの樹脂組成において、N元素の含有率が6原子%以上のポリイミド樹脂ないし、O元素の含有率が12原子%以下のポリイミド樹脂からなるポリイミドフィルムを用い、かつ、プラズマ処理時に於ける処理ガスとして後述のガスを使用することによって得ることができる。
なお、ここにO/C、N/Oは ESCAによる表面分析から得られるポリイミドフィルム表面の構成元素の原子比である。
なお、ポリイミドフィルム表面のO/Cは0.25~0.42がより好ましく、N/Oは0.40~0.45がより好ましい。
【0014】
本発明で特に有用に用いられるポリイミドフィルムは後述の組成のポリイミドからなり、ガラス転移温度が250℃以上、好ましくは300℃以上更に好ましくは350℃以上あるいは、500℃以下の領域において、ガラス転移点が観測されないことが好ましい。本発明におけるガラス転移点温度は示差熱分析(DSC)により求めるものである。
【0015】
本発明のポリイミドフィルムは、芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類との反応によって得られるポリアミック酸溶液をイミド化して得られるポリイミドのフィルムであって、線膨張係数(フィルムの長さ方向と幅方向でいずれも)が-5ppm/℃~+20ppm/℃であることが好ましく、芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類とが下記の組み合わせであるポリイミドフィルムが好ましい。
A.ピロメリット酸残基を有する芳香族テトラカルボン酸類、ベンゾオキサゾール構造(骨格)を有する芳香族ジアミン類との組み合わせ。
B.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
一般にポリイミドフィルムは、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸無水物を反応して得られるポリアミック酸(ポリイミド前駆体)溶液を、支持体に塗布・乾燥してグリーンフィルム(前駆体フィルム、またはポリアミック酸フィルムともいう)と成し、さらに支持体上で、あるいは支持体から剥がした状態でグリーンフィルムを高温熱処理することにより脱水閉環反応を行うことによって得られる。
その製造方法としては例えば、芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類との反応によって得られるポリイミドの前駆体溶液の一つに平均粒子径0.05~2.5μmの滑材(粒子)を0.05質量%~20質量%を含有させ、他の一つに平均粒子径0.05~2.5μmの滑材(粒子)を含有しないか又はその含有率が0.01質量%以下で含有するそれぞれ別の溶液を用いて製造した、滑材含有ポリイミド層と滑材を含有しないポリイミド層とが積層されたポリイミドフィルムを使用して、少なくとも滑材含有しないポリイミド層面にプラズマ処理により、易接着化を果たしている。
本発明に好ましく使用されるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、具体的には以下のものが挙げられ、該ジアミンは、単独であっても二種以上を用いることも可能である。」
(引3c)「【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は下の通りである。
・・・
【0084】
〔製造例3~4〕
(ポリアミド酸溶液B1~B2の作製)
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、テトラカルボン酸二無水物として3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物398質量部、パラフェニレンジアミン147質量部を4600質量部のN、N-ジメチルアセトアミドに溶解し、コロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックス(DMAC-ST30、日産化学工業製)をシリカが表2記載量になるよう加え、25℃の反応温度で24時間攪拌すると、褐色で粘調なポリアミド酸溶液B1~B2が得られた。
【0085】
【表2】
[図:0001403934000033.jpg]
【0086】
《フィルム作製例1》
ポリアミド酸溶液A1を、ポリエチレンテレフタレート製フィルムA-4100(東洋紡績株式会社製)の無滑材面上に、コンマコーターを用いてコーティングし、110℃にて5分間乾燥後、支持体から剥がさずにポリアミド酸フィルムを巻き取った。
得られたポリアミド酸フィルムを製膜機の巻きだし部に取り付け、上記のポリアミド酸溶液A2をポリアミド酸溶液A1の塗布量を表3に示す厚さ比となるように、コンマコーターを用いてポリアミド酸フィルム面にコーティングし、110℃にて20分間乾燥することで、2層構成のポリアミド酸フィルムを得た。2層全体の厚さが熱処理後に表3に示す厚さとなるように、塗布厚さは調整した。
この多層ポリアミド酸フィルムを3つの熱処理ゾーンを有するピンテンターに通し、一段目150℃×2分、2段目220℃×2分、3段目475℃×4分間の熱処理を行い、500mm幅にスリットして、多層ポリイミドフィルムを得た。このとき、熱処理後巻き取る前に剥離可能な非ポリイミド保護フィルムとして、PETフィルムに微粘着層の付いたフィルム(フィルムA)をポリアミド酸溶液A1側にラミネートしてから、巻き取った。得られたポリイミドフィルムをフィルム1とした。このポリイミドフィルムの特性を表3に示す。
【0087】
《フィルム作製例2》
ポリアミド酸溶液A1、A2のコーティング厚さを表3に示した値とした以外は全く作製例1と同様にして、フィルム2を得た。その内容を作製例1と同様に表3に示す。
【0088】
《フィルム作製例3》
ポリアミド酸溶液A1とA2の塗布順番を変え、コーティング厚さを表3に示した値とした以外は全く作製例1と同様にして、フィルム3を得た。その内容を作製例1と同様に表3に示した。
【0089】
《フィルム作製例4》
ポリアミド酸溶液B1、B2のコーティング厚さを表3に示した値とした以外は全く作製例1と同様にして、フィルム4を得た。その内容を作製例1と同様に表3に示した。
【0090】
《フィルム作製例5》
ポリアミド酸溶液B1、B2のコーティング厚さを表3に示した値とした以外は全く作製例1と同様にして、フィルム4を得た。その内容を作製例1と同様に表3に示した。
【0091】
【表3】
[図:0001403934000034.jpg]
」
(3)特開2008-230096号公報に記載された事項
令和2年6月11付け拒絶理由通知書の引用文献3である特開2008-230096号公報(上記拒絶理由通知書では「引用文献3」であったが、本審決においては、便宜的に「引用文献4」と表記することとする。)には、以下の事項が記載されている。
(引4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
主金属層および厚さ10nm以上の酸化防止金属層を有する金属箔上に耐熱性樹脂層を有する金属層付き積層フィルムであって、主金属層/酸化防止金属層界面の断面において、主金属の界面結晶密度が1000個/mm以下であることを特徴とする金属層付き積層フィルム。
・・・
【請求項8】
金属箔に耐熱性樹脂前駆体組成物を塗布し、熱処理することにより、金属箔上に耐熱性樹脂層を形成して得られることを特徴とする請求項1~6いずれか記載の金属層付き積層フィルム。」
(引4b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層付き積層フィルムに関する。さらに詳しくは、金属箔上に耐熱性樹脂層を有する、フレキシブル回路基板用材料に好適に用いられる金属層付き積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ディスプレイおよびデジタルカメラ等の電子機器の小型化、軽量化および薄型化が急速に進んでいる。これに伴い、耐折れ性に優れ、軽量で耐熱性を有するフレキシブル回路基板の需要が高まっている。フレキシブル回路基板の中でも、ディスプレイ用の液晶ドライバー実装用途においては、耐折れ性、軽量化、耐熱性に加えて、ディスプレイの高精細化に伴い、微細な回路パターンを形成できることが求められている。このため、フレキシブル回路基板の半導体実装方式は、従来用いられていたTAB(テープ オートメーテッド ボンディング/Tape Automated Bonding)方式から微細配線形成に適したCOF(チップ オン フィルム/Chip On Film)方式へと移行してきている。COF方式の場合は、フレキシブル回路基板に形成される回路配線が細くなることに加え、フレキシブル回路基板上の配線に直接加熱した半導体を実装するため、高温の熱履歴を経ても高い接着力を保持できる、耐熱接着性の高いフレキシブル回路基板が求められている。
・・・
【0049】
本発明の金属層付き積層フィルムを用いて、金属層に配線パターンを形成することによりフレキシブルプリント回路基板(FPC)を製造することができる。配線パターンのピッチは特に限定されないが、好ましくは10~150μm、より好ましくは15~100μm、さらに好ましくは20~80μmの範囲である。」
(引4c)「【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。接着力、主金属層構成元素濃度の最大値、主金属層の界面結晶密度、ボンディング性、絶縁信頼性、工程内最高温度の測定方法について述べる。
・・・
【0061】
以下の製造例に示してある酸二無水物、ジアミンの略記号の名称は下記の通りである。
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
OPDA:3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物
SiDA:1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン
DAE :4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
PDA :p-フェニレンジアミン
DBAB:4,4’-ジアミノベンズアニリド
NMP :N-メチル-2-ピロリドン。
【0062】
(実施例1)
温度計、乾燥窒素導入口、温水・冷却水による加熱・冷却装置、および、攪拌装置を付した反応釜に、SiDA 62.15g(0.25mol)、DAE 110.11g(0.55mol)、PDA 21.62g(0.2mol)、をNMP 2765gと共に仕込み、溶解させた後、BPDA 294.2g(1mol)を添加し、70℃で6時間反応させたことにより、15重量%ポリアミド酸樹脂溶液(PA1)を得た。
【0063】
また、同様の反応釜にDAE 40.04g(0.20mol)、PDA 86.48g(0.8mol)をNMP 2384gと共に仕込み、溶解させた後、BPDA 294.2g(1mol)を添加し、70℃で6時間反応させ、15重量%ポリアミド酸樹脂溶液(PA2)を得た。
【0064】
ポリアミド酸樹脂溶液PA1を、あらかじめアルゴン雰囲気中で低温プラズマ処理しておいた厚さ25μmのポリイミドフィルム(“カプトン”(登録商標)100EN 東レ・デュポン(株)製)に乾燥後の膜厚が1.5μmになるようにリバースコーターで塗工し、80℃で10分、さらに170℃で10分乾燥し、ポリイミドフィルム/耐熱性樹脂層の積層体を得た。
【0065】
SUS304の板に電解銅めっきを施し、めっき後にSUS板から剥がすことにより厚さ8μmの銅箔(CU1)を得た。銅めっき液は、銅濃度70g/L、硫酸濃度200g/L、atotec社製添加剤:カパラシドGS添加剤20mL/L、カパラシドGS補正剤0mL/Lとした。めっき時の電流密度は1A/dm2で、40分めっきを行った。この銅箔(CU1)のSUS板側をS面とし、電解液側をD面とした。このときD面の表面結晶密度は500個/mmであった。
【0066】
この銅箔のD面を真空中にてArプラズマによってクリーニングし、Ni/Crを元素比95:5にて15nmスパッタ製膜した。製膜面をシランカップリング剤にて処理した後、ポリアミド酸樹脂溶液PA2を乾燥後の膜厚が6μmになるようにスリットコーターで塗工し、100℃で1分、さらに170℃で4分乾燥し、金属箔/耐熱性樹脂層の積層体を得た。
【0067】
上記ポリイミドフィルム/耐熱性樹脂層の積層体の耐熱性樹脂層に、上記金属箔/耐熱性樹脂層の耐熱性樹脂層側を張り合わせ、ロールの表面温度を180℃に加熱したロールラミネーターで、保護フィルムとして厚さ25μmのポリイミドフィルム(“カプトン”(登録商標)100H 東レ・デュポン(株)製)を両ロールとポリイミドフィルム/耐熱性樹脂層の積層体、金属箔/耐熱性樹脂層の積層体の間にそれぞれ介在させ、線圧70N/mm、速度1m/分で加熱圧着した。ここで得られた金属層付き積層フィルムを窒素中にて80℃で1時間、さらに150℃で1時間、さらに昇温に2時間、さらに220℃で1時間、さらに昇温に2時間、さらに350℃で1時間、さらに40℃までの降温に3時間かけて熱処理して金属層付き積層フィルムを得た。諸特性の評価結果を表1に示す。」
(4)特開平4-224824号公報に記載された事項
令和2年6月11付け拒絶理由通知書の引用文献5である特開平4-224824号公報(上以下「引用文献5」という)には、以下の事項が記載されている。
(引5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 化学量論で100モル部の線状芳香族ジアミンと約97~99.5モル部の芳香族ジ酸無水物および十分な量の芳香族酸無水物を用いて、その残留アミンサイトと反応させ、そして組成物を安定化させた粘度の安定した本質的にゲルのない反応生成物を含むことを特徴とする改良ポリアミック酸組成物。
【請求項2】 芳香族ジアミンがp-フェニレンジアミン、4,4′ジアミノビフェニル、2,2′ジトリフルオロメチル-4,4′ジアミノビフェニル、4,4″ジアミノターフェニル、ジトリフルオロメチル-4,4″-ジアミノターフェニル、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニルおよび3,3′,5,5′-テトラメチル-4,4′-ジアミノビフェニルから選ばれる請求項1記載のポリアミック酸組成物。
【請求項3】 芳香族ジ酸無水物がジ無水ピロメリト酸および3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物から選ばれる請求項1記載のポリアミック酸組成物。
【請求項4】 芳香族酸無水物が無水フタル酸または置換無水フタル酸である請求項1記載のポリアミック酸組成物。
【請求項5】 重量平均分子量が20,000~50,000の範囲内にある請求項1記載のポリアミック酸組成物。」
(引5b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は化学量論オフセット(offset)法によって生成された粘度が安定した、本質的にゲルのないポリアミック酸組成物に関する。本発明はまた低い熱膨張率並びに改善された熱的、機械的および不動態化特性を有するポリアミック酸組成物から作られたポリイミドに関する。
【0002】さらに、本発明は多層ポリイミド並びに絶縁体および不動態化層としてポリイミドを使用するメタライズされた構造物を生成する方法に関する。
【0003】
【従来の技術および発明が解決すべき課題】ポリイミドは、有機重合体系絶縁体が普通に使用される無機材料に比べて低い誘電率を有するために、集積回路(IC)デバイスの性能特性を改善するのに大きな利益を与えるものと長く認められ、マイクロエレクトロニクスにおける不動態化および中間層誘電体として潜在的な利益を与えてきた物質であった。高密度集積回路において、迅速な信号伝達および低いクロストークレベルはいくつかの重要な考慮すべきものの中に入るもので、かくして典型的に誘電率3.5を有し、多くの優れた熱的および機械的性質を示すポリイミド絶縁体は無機誘電体以上に好ましいものである。
【0004】しかしながら、非線状芳香族ジアミンおよび/またはジ酸無水物前駆体から誘導された従来のポリイミドは、デバイス、基体またはパッケージに使用される無機物質(非金属性物質)であるケイ素、セラミックス、酸化ケイ素および窒化ケイ素の場合の2~3ppm度-1、および普通に使用される治金材料の場合の6~25ppm度-1に比べて、典型的に30~60ppm度-1の比較的高い熱膨張率(TCE)を有する。
【0005】デバイスおよびパッケージの多層構造における有機材料と無機材料との間のこのTCEの不適当な組合せ(すなわち、従来のポリイミド)は、組立てサイクルでの高温工程の間に熱応力の発達を生じさせ、それはしばしばフィルムクラッキング/層間剥離に至らしめ、最終製品の性能の信頼性に関して心配を引き起こす。標準的なポリイミドの使用における前記の制限のために、これらの材料の応用に当りとり分けマイクロエレクトロニクスにおいて応力のない多層構造物を形成する目的のために低TCEポリイミドの開発に最近大きな関心が持たれてきた。
・・・
【0012】具体的には、溶媒N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジ酸無水物(sBPDA)とp-フェニレンジアミン(pPDA)の場合において、高純度の出発物質の1:1化学量論を使用する室温での縮合重合は、比較的低い固形物含量(<10%)でさえもゲルとしてポリアミック酸を生成することが観察された。」
(引5c)「【0039】実施例 1
BPDA-PDAポリアミック酸の合成
高純度p-フェニレンジアミン(帯域精製した)10.8g(0.1モル)を機械式撹拌機、温度計およびアルゴンあるいはN2パージのための三方弁を備え付けた三ツ首フラスコ中の300gNMP(最低純度99.8%)に溶解した。溶液を静かに撹拌しながら、28.95g(0.0985モル)sBPDA(再結晶した)固体を反応混合物の温度が25~31℃の間に維持されるような割合で少しずつ添加した。添加が終了したあと撹拌を4~5時間持続しその間に温度は25℃まで低下し透明な粘性の溶液を得た。
【0040】過剰の試薬としてのp-フェニレンジアミンを使用して化学量論オフセットのために残っているアミン末端基を不活性化するために、新たに昇華した無水フタル酸0.37g(2.5ミリモル)を添加し、撹拌をさらに4~5時間持続した。こうして得た2750センチストークスの粘度を持つ重合体溶液を湿気から保護しながら0.2~2μmフィルターを通して濾過し、こはく色のガラス製びん(あるいはプラスチック製びん)に移し、4~5℃以下の冷蔵庫に保管した。再結晶および再昇華したp-フェニレンジアミンを使用して同様の結果を得た。
・・・
【0043】ポリイミドフィルムの性質
-フィルムの厚さ:2~2.5μmの完全硬化したフィルムは3000回転/30秒でシリコンウェファー上にスピン塗し、400℃まで加熱/硬化して形成した。
-機械的性質は標準応力-ひずみ引張り試験法を使用して、6~8μmの厚さの完全硬化したフィルム(塗膜間において85°/30分および130~140℃/45分で穏やかに加熱しながら2000回転/分の回転速度で2塗り層により形成した)について測定した。」
(5)国際公開第2016/136597号に記載された事項
令和5年2月21日付け拒絶理由通知書の引用文献6である国際公開第2016/136597号(以下「引用文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。
(引6a)「請求の範囲
[請求項1]
ポリイミド層と基板とを備えたポリイミド積層体の製造方法であって、
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとにより合成されるポリアミド酸、および、溶媒を含むポリアミド酸溶液を、基板上に塗布し、その基板上にポリイミド層を形成させる工程を含み、
上記ポリアミド酸溶液に含まれる溶媒が、4-メチル-2-ペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、およびキシレンからなる溶媒群Aより選ばれる少なくとも1つと、N-メチル-2-ピロリドンとを含み、
かつ、上記ポリアミド酸溶液の粘度が、1.0Pa・s以上20.0Pa・s以下である、ポリイミド積層体の製造方法。
・・・
[請求項10]
上記ポリイミド積層体のポリイミド層の線膨張係数が、-10ppm/K以上20ppm/K以下である請求項1~9のいずれか1項に記載のポリイミド積層体の製造方法。
[請求項11]
請求項1~10のいずれか1項に記載のポリイミド積層体の製造方法で得られたポリイミド積層体におけるポリイミド層に電子素子を形成する工程と、
上記電子素子を形成された上記ポリイミド層を上記基板から剥離する工程と、
を含むフレキシブルディスプレイ基板の製造方法。
[請求項12]
請求項11に記載の製造方法で得られたフレキシブルディスプレイ基板を含むフレキシブルデバイス。」
(引6b)「[0024]
≪テトラカルボン酸二無水物成分≫
・・・3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと略記することもある。)が挙げられる。」
(引6c)「実施例
[0091]
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態の変更が可能である。
・・・
[0112]
[合成例2]
<ポリアミド酸溶液の製造>
ポリテトラフルオロエチレン製シール栓付き攪拌器、攪拌翼、および、窒素導入管を備えた容積2Lのガラス製セパラブルフラスコにNMPを850.0g入れ、1,4-シクロヘキサンジアミン41.4gを加え、溶液を窒素雰囲気下で30分間攪拌した。
[0113]
原料が均一に溶解したことを確認した後、BPDA103.6gを加え、さらに9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物5.0gを加え、反応初期に生成する塩が溶解し始め、重合反応が開始するまで窒素雰囲気下で、溶液の温度を約80℃に調整し、30分間撹拌した。その後室温まで冷却し、さらに5時間撹拌し、23℃で粘度が226.0Pa・sを示す粘調なポリアミド酸溶液を得た。
[0114]
なお、このポリアミド酸溶液におけるジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して15重量%であり、テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、ジアミンの総モル数で除したモル比は、1.000である。ポリアミド酸の分子量を測定したところMw=64000であった。
[0115]
[実施例6]
合成例2で得られたポリアミド酸溶液を、固形分濃度が9.5重量%となり、かつ溶液中の溶媒の比率がNMP/MIBK=90/10となるように、NMPおよびMIBKを添加して希釈し、23℃で粘度が7.0Pa・sで、水分が1300ppmを示すポリアミド酸溶液を得た。
[0116]
<ポリイミド積層体の製造>
得られたポリアミド酸溶液を、両辺150mm、厚さ0.7mmの正方形の無アルカリガラス板(コーニング社製 イーグルXG)上にバーコーターで乾燥後の厚みが10μmになるように流延し、熱風オーブン内で120℃にて20分乾燥した。その後、かかる無アルカリガラス板を、窒素雰囲気下で20℃から350℃まで5℃/分で昇温し、350℃で1時間加熱し、ポリイミド層の厚みが10μmのポリイミド積層体を得た。」
第5 当審の判断
本願は、令和5年4月27日提出の意見書及び手続補正書によっても、また、それ以前の意見書、手続補正書での対応を勘案しても、以下に述べるとおり、令和5年2月21日付け拒絶理由通知の理由A(実施可能要件)によって拒絶すべきものである。
1 拒絶理由A(実施可能要件、特許法第36条第4項第1号)の判断手法について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
以下、この観点から検討する。
2 本願発明について
(1)本願発明の発明特定事項について
本願発明は、上記「第2 本願発明について」において記載したとおりの発明特定事項を有するものである。
すなわち、「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示すポリイミドで形成されたフレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」に係る発明であり、
「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示す」との発明特定事項により特定されるのは、本願の出願時の特許請求の範囲の請求項1の「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの厚膜で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示すことを特徴とするポリイミド」との記載及び段落【0018】の「本発明のポリイミドは、抵抗率が4Ωcmのシリコンウェハ上に形成した0.75μmの膜厚のフィルムついて、上述のC-V測定により得られた「最大勾配」が、0.005/V以上であり」との記載からみて、「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」の材料である上記「ポリイミド」が「0.005/V以上の最大勾配を示す」ということであると解され、
その「最大勾配」(以下「最大勾配」という。)の測定条件として、「前記最大勾配は、前記シリコンウェハに対して前記ポリイミドフィルムに印加する直流電圧を最低電圧V1と最高電圧V2の間で、最低電圧V1から最高電圧V2までの正方向走査と、最高電圧V2から最低電圧V1までの負方向走査を走査速度0.25V/secの条件で行いながら、2.5kHzの測定周波数で容量測定を行い、第3回目の正方向走査時の規格化容量-電圧曲線における勾配の絶対値の最大値を意味し、ここで前記最低電圧V1は、前記ポリイミドフィルムのみの容量が観察される電圧であり、前記規格化容量-電圧曲線は、最低電圧V1における容量を1として規格化されている」(以下「最大勾配の測定条件」という。)と特定したものであり、
さらに、「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」について、「仕込み比から計算されるポリイミド全体におけるアミン末端基濃度が30μmol/g以下」であること、「条件(A)~(E)」を満たすことを特定したものであるといえる。
本願発明の「ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示すポリイミド」について、一般に「ポリイミド」とは高分子化合物そのものを指すと解されるが、一方で、例えば、本願明細書の(本b)の段落【0018】には「本発明のポリイミドは、・・・上述のC-V測定により得られた「最大勾配」が、0.005/V以上であり、・・・界面準位密度には、ポリイミドの表面状態(例えば組成、官能基(特に表面官能基)、不純物または添加物の存在等)が影響すると考えられるが、本発明では半導体との界面においてポリイミドの表面状態が極めて好ましい状態にあるため、大きな「最大勾配」を有するものと推定できる」(下線は当審で付与した)と記載されているように、本願発明の「ポリイミド」の意義として、高分子化合物である「ポリイミド」に加えて「不純物」や「添加物」等を含む「組成物」であることを示唆する記載もある。
したがって、以下の検討において、「ポリイミド」については、高分子化合物である「ポリイミド」であると解釈するが、本願明細書の記載ぶりによっては、予備的に「不純物」や「添加物」等を含む「組成物」とも解釈することとする。
(2)本願発明の「最大勾配」について
上記「(1)本願発明について」で述べた本願発明の発明特定事項のうち、「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示す」の「最大勾配」について、本願明細書の記載事項を確認する。
ア 「最大勾配」の定義について
まず、「C-V特性」について、本願明細書の(本a)の段落【0006】には「ポリイミドのような絶縁膜の表面の準位密度を評価する手法として、容量-電圧特性(以下、C-V特性と記載する)を測定する方法が挙げられる」と記載され、「容量-電圧特性」(C-V特性)の測定は、「絶縁膜の表面の準位密度を評価する手法」の1つであると解される。
本願明細書の(本b)の段落【0011】~【0019】には「C-V特性」について記載されており、具体的には、段落【0011】~【0015】及び図1~2には「C-V特性」の測定の原理、測定条件について記載され、段落【0016】及び図2には、「C-V特性」の測定について「このような測定システムおいて、直流電圧を最低電圧V1から最高電圧V2まで正方向走査すると(但し、第3回目の正方向走査である)、図2に示すように、典型的には、最初の平坦領域を過ぎると、比較的大きく容量が減少する第1減少領域が現れ、次いで比較的平坦な領域が観察される」と記載され、段落【0017】には、「上述の「第1減少領域」は、シリコンウェハ中の界面近傍が、多数キャリアの蓄積層から空乏層へ変化して空乏層が拡大していく過程と理解される。本発明において、第1減少領域における最大勾配(負で絶対値が最大)を、「最大勾配」と定義する」と記載されている。
すなわち、本願発明の「最大勾配」は、「C-V特性」の測定の際に観察される「比較的大きく容量が減少する第1減少領域」、すなわち、「シリコンウェハ中の界面近傍が、多数キャリアの蓄積層から空乏層へ変化して空乏層が拡大していく過程」における「最大勾配(負で絶対値が最大)」であることを、本願において独自に定義した指標であることが読み取れる。
イ 「最大勾配」の測定について
本願発明の「最大勾配」の測定について、本願発明には、「前記最大勾配は、前記シリコンウェハに対して前記ポリイミドフィルムに印加する直流電圧を最低電圧V1と最高電圧V2の間で、最低電圧V1から最高電圧V2までの正方向走査と、最高電圧V2から最低電圧V1までの負方向走査を走査速度0.25V/secの条件で行いながら、2.5kHzの測定周波数で容量測定を行い、第3回目の正方向走査時の規格化容量-電圧曲線における勾配の絶対値の最大値を意味し、ここで前記最低電圧V1は、前記ポリイミドフィルムのみの容量が観察される電圧であり、前記規格化容量-電圧曲線は、最低電圧V1における容量を1として規格化されている。」と特定されている。
この点について、本願明細書の記載を確認すると、上記摘記(本b)の段落【0011】には「ポリイミドフィルム2の表面の所定面積に水銀を接触させて水銀電極3を形成する。シリコンウェハ1(接地電位)と水銀電極3の間に、直流電源4により直流電圧を印加し、その直流電圧における容量(キャパシタンス)を交流電源5により所定の周波数および振幅の交流電圧を印加して測定する」こと、「本願では、直流電圧を最低電圧V1から最高電圧V2の間で、正方向走査(直流電圧を上昇させる)と負方向走査(直流電圧を下降させる)を行い、その間に容量を測定し、第3回目の正方向走査時のC-V測定のデータに基づいて後述する「最大勾配」を求める」ことが記載され、段落【0012】~【0019】には、「最大勾配」の測定条件として、直流電圧の走査範囲、走査速度(本願発明では「0.25mV/sec」)、容量測定のための交流電圧(正弦波)の周波数の範囲(同「2.5kHz」)、その振幅、ポリイミドフィルムの膜厚(同「0.75μm」)の検討について記載されている。
本願明細書には、「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行」ったときの「最大勾配」を求め、ポリイミドが0.005/V以上のような大きな「最大勾配」を有することによって、これをディスプレイ等の電子デバイスに使用してもその動作や耐久性に与える悪影響が小さいことが記載され(段落【0018】)、上記「最大勾配」の測定条件は、本願発明の上記「最大勾配の測定条件」であると解される。そして、この測定条件によるポリイミドの「最大勾配」が本願出願時に周知の物性値であるとの事情は見当たらない。
したがって、本願発明における「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示す」との発明特定事項は、請求人が測定条件について検討した上で独自に定めたポリイミドの物性値であり、本願の出願時における汎用の物性値ではないと解される。
本願明細書の(本g)の実施例においては、段落【0129】に記載の具体的な条件で「C-V特性」を測定するものであるが、「直流電圧走査条件」として「3サイクル」を行うことが記載されている。
そして、本願発明の「最大勾配」を求めるには、段落【0130】に記載のとおり、段落【0129】に記載の測定方法からデータを取得し、「規格化C-V曲線」を作成し、さらに、その微分関数の近似値を求め、その最大値を「最大勾配」とすると解される。
したがって、ある「ポリイミド」の本願発明の「最大勾配」の値を測定するには、段落【0129】に記載の具体的な条件で「C-V特性」を測定するものであるが、「直流電圧走査条件」として「3サイクル」を行ってデータを取得し、「規格化C-V曲線」を作成し、さらに、その微分関数の近似値を求め、その最大値を取得するという作業が必要になると解される。
(3)本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」について
本願発明の「ポリイミド」については、下記「3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について」「(1)本願明細書の一般的記載について」「ア 本願発明の「ポリイミド」について」で検討するが、「ポリイミド」について、本願明細書の(本b)の段落【0019】には、「このようなC-V特性に着目したポリイミドの開発は報告されておらず、実際に行われてもいない。当然ながら、既存のポリイミドは上述のC-V特性を満足するものではない」(下線は当審で付与した。)と記載されている。
当該記載によれば、本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」は、「既存のポリイミド」ではなく、新規の「ポリイミド」であるから、本願発明の「ポリイミド」の製造方法・製造条件には、従来の既存の「ポリイミド」の製造方法・製造条件と異なる点もあると解され、当業者が本願発明の「フィルム」を製造できるためには、上記異なる点も含めて、本願明細書には、本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」の製造方法・製造条件が明確かつ十分に記載されるべきものであると解される。
(4)本願発明の条件(A)~(E)について
本願発明の条件(A)~(E)については、下記「6 本願発明1についての実施可能要件に関する他の事項」「(1)本願発明の条件(A)~(E)について」において、詳述する。
3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
(1)本願明細書の一般的記載について
以下、本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」の製造方法・条件について、まずは、本願明細書の発明の詳細な説明の一般的記載(段落【0001】~【0126】。以下、単に「本願明細書の記載」ということがある。)を確認する。
ア 本願発明の「ポリイミド」の化学構造について
(ア)本願発明の「ポリイミド」の化学構造について
本願発明は、「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」の原料となる「ポリイミド」について、上記条件(C)、(D)、(E)で特定される化学構造を有する「ポリイミド」ないしは「ポリアミック酸組成物から製造されるポリイミド」ではないことを条件としている他は、化学構造等について特定されていない(アミン末端基濃度については後記イで検討する。)。
以下、本願発明の「ポリイミド」、特に、その化学構造に着目して、本願明細書の記載を確認する。
本願発明の「ポリイミド」の化学構造について、本願明細書の記載を確認すると、段落【0021】~【0023】に「一般式II:
[図:0001403934000035.jpg]
」の化学構造を示すことが記載され、「一般式II」について「(式中、X1は4価の脂肪族基または芳香族基であり、Y1は2価の脂肪族基または芳香族基である。)」とされ、「テトラカルボン酸成分」を構成する「X1」について「4価の脂肪族基または芳香族基」との特定のみであり、「ジアミン成分」を構成する「Y1」について「2価の脂肪族基または芳香族基」との特定のみであり、実質的に何ら特定されていないし、「X1」及び「Y1」について、水酸基、カルボン酸基、アミノ基等の多様な置換基を有する態様も排除していない。
「テトラカルボン酸成分」の好ましい例について段落【0026】~【0049】に記載されている。段落【0027】~【0039】には「芳香族環」を有する「テトラカルボン酸成分」の例が記載され、段落【0040】~【0049】には「脂環構造」を有する「テトラカルボン酸成分」の例が記載されており、このうち、段落【0043】~【0044】には「脂環構造」に加えて「芳香族環」を有する例も記載され、「芳香族環」への置換基である「R51、R52、R53は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基である」と、置換基を有する例も示されている。段落【0026】~【0049】の記載は、あくまで「テトラカルボン酸成分」の好ましい例とされており、本願発明において「テトラカルボン酸成分」は上記条件(C)、(D)、(E)以外は何ら特定されていないため、膨大な態様を包含しているといえる。
また、「ジアミン成分」の好ましい例についても、段落【0050】~【0072】に記載されている。段落【0050】~【0064】には「芳香族環」を有する「ジアミン成分」の例が記載され、段落【0065】~【0072】には「脂環構造」を有する「ジアミン成分」の例が記載されており、段落【0067】には「脂環構造」への置換基である「R81~R86は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基であり」と、置換基を有する例も示されている。段落【0050】~【0072】の記載は、あくまで「ジアミン成分」の好ましい例とされており、本願発明において「ジアミン成分」は上記条件(C)、(D)、(E)以外は何ら特定されていないため、膨大な態様を包含しているといえる。
さらに、段落【0073】~【0074】には「カルボン酸モノ無水物を添加することが好ましい」とされ、「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」に加えて「カルボン酸モノ無水物」を用いる態様も包含することが記載されている。さらに、段落【0074】には、「カルボン酸モノ無水物」について、具体的な化合物について多様なものが記載されている。
さらに、段落【0080】には、「ここで、ポリイミドは共重合体であってよく、即ちポリイミドを与えるテトラカルボン酸成分およびジアミン成分のうち少なくとも一方が2種類以上の化合物を含有してもよい」と記載され、例えば、「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」のうちどちらかを「2種以上」選択した場合は、膨大な態様をする「テトラカルボン酸成分」の組合せ、膨大な態様をする「ジアミン成分」の組合せ、そして、これらのさらなる組合せが存在することとなり、より膨大な組合せを包含することになる。
段落【0079】~【0085】には、「ポリイミド」、「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」等の好ましい態様が記載されているが、あくまで「好ましい」例のみである。
以上を踏まえると、本願発明の「ポリイミド」は、それぞれ多様な「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、場合によっては「カルボン酸モノ無水物」の組合せから構成されるものであり、上記条件(A)~(E)特に、条件(C)~(E)を考慮しても、膨大な態様を包含しているといえる。
ここで、「ポリイミド」、すなわち、それを構成する「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」の化学構造、及び置換基は「ポリイミド」の物性値にも影響するため、本願発明の「最大勾配」の値にも影響を及ぼすことが想定されるが、「ポリイミド」の化学構造に関する本願明細書の段落【0020】~【0085】、【0091】~【0094】には、本願発明の「最大勾配」の値とするための「ポリイミド」の化学構造の指針となるような記載はない。
(イ)令和5年4月27日提出の意見書における請求人の主張について
本願明細書には具体的には記載されていないが、上述のとおり、「ポリイミド」、すなわち、それを構成する「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」の化学構造、及び置換基は本願発明の「最大勾配」値に影響を及ぼすことが想定される。
この点について、令和5年4月27日提出の意見書において、請求人は、「最大勾配」が大きい場合、界面準位密度が小さいことになり、すなわち表面の電荷トラップが少ないことを示しています。電荷トラップは組成、官能基、不純物、添加剤、構造的な欠陥によって影響されるので、X1およびY1の骨格構造は「最大勾配」に影響を与えると考えられます」(当該意見書の「〔2〕理由A」「〔2-1〕 審尋への回答」(1)(ア)を参照。下線は当審で付与した。)、「上記同様の理由により置換基は「最大勾配」に影響すると考えられます。置換基は電荷をトラップするサイトになる場合や、また置換基はポリイミドを形成するプロセスにおいて分解し電荷をトラップする欠陥にもなり得るため、主に「最大勾配」の値を小さくする影響が考えられます」(当該意見書の「〔2〕理由A」「〔2-1〕 審尋への回答」(1)(イ)を参照。下線は当審で付与した。)と述べており、「ポリイミド」を構成する「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」の化学構造、及び置換基は、本願発明の「最大勾配」値に影響を及ぼすであろうことを自認している。
そして、「ポリイミド」を構成する「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」の化学構造、及び置換基について、「ポリイミドフィルム」の「C-V特性」や本願発明の「最大勾配」値に対して、具体的にどのような場合に、どの程度の影響を及ぼすかまでは、本願明細書に記載されておらず、当該意見書においても説明されることはなかった。
なお、当該意見書において、請求人は、「ポリイミド」を構成する「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」の化学構造について「構造欠陥に関して考察すれば、ポリイミドを形成するプロセスにおいて熱分解による欠陥生成を生じにくい芳香族系ポリイミドは「最大勾配」の値を大きくする影響を与えると考えられます」と主張している。
しかしながら、本願発明は、「ポリイミド」について「芳香族ポリイミド」であることは何ら特定されていないし、上述したとおり、段落【0021】~【0023】に記載の「一般式II」の化学構造では、「テトラカルボン酸成分」を構成する「X1」について「4価の脂肪族基または芳香族基」との特定のみであり、「ジアミン成分」を構成する「Y1」について「2価の脂肪族基または芳香族基」と特定され、「X1」及び「Y1」を「脂肪族基」とすることも記載されているし、段落【0040】~【0049】、【0065】~【0072】には、好ましい例として「脂環構造」を有する「テトラカルボン酸成分」ないしは「ジアミン成分」の例を記載している。
そうすると、請求人の当該主張は、本願発明の発明特定事項の記載、及び、本願明細書の記載に基づくものではなく、採用することはできない。
また、当該意見書において、請求人は、「ポリイミド」の置換基について「アミン基やカルボン酸基、水酸基、ニトロ基等の置換基」については、そのような置換基を有するポリイミドを(少なくとも主成分とする)フィルムは耐熱性に劣ることが技術常識であるので、耐熱性が求められるフレキシブルディスプレイ等の電子デバイス用基板として使用されません」と主張している。
しかしながら、本願発明は、「ポリイミド」について「置換基」を有さないものであることは何ら特定されていないし、上述したとおり、段落【0043】~【0044】、【0067】には、好ましい例として置換基としての「水酸基、カルボキシル基」も示されている。
そうすると、請求人の当該主張は、本願発明の発明特定事項の記載、及び、本願明細書の記載に基づくものではなく、採用することはできない。
イ 本願発明の「仕込み比から計算されるポリイミド全体におけるアミン末端基濃度が30μmol/g以下」であることについて
本願発明には、「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」について、「仕込み比から計算されるポリイミド全体におけるアミン末端基濃度が30μmol/g以下」であることを発明特定事項としている。
この「アミン末端濃度」について、本願明細書の(本d)の段落【0086】~【0088】に記載されている。具体的には、段落【0086】に「本発明の1態様において、「末端官能基量」が小さいことも好ましい。」とした上で、「末端アミン量」の計算式を示している。そして、段落【0088】には、「末端アミン基量」が「30μmol/g以下」が好ましいとされているが、「末端アミン基量」が本願発明の「最大勾配」の値にどの程度寄与するか等については、一切記載されていない。
ウ 本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」で形成された「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件について
(ア)本願明細書における「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件について
本願明細書の(本f)の段落【0096】~【0122】には、「ポリイミドフィルムの製造方法」について記載されている。
具体的には、段落【0097】には「ポリイミドフィルムの製造方法の例」の概略が記載されており、段落【0098】~【0114】には「ポリイミドフィルム」を調整するための「ポリイミド前駆体溶液、ポリイミド溶液」について、用いる有機溶媒(段落【0099】)、有機溶媒中のモノマーの濃度、粘度(段落【0100】~【0101】)、「ポリイミド前駆体溶液」の製造例、その反応温度条件、反応操作方法等(段落【0103】~【0107】)、触媒、その他の添加剤(段落【0108】~【0114】について記載されている。また、段落【0115】~【0122】には「積層体および電子デバイスの製造」について、「ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド溶液」の「キャリア基板」上への流延、加熱処理条件等(段落【0115】)、「ポリイミドフィルム」の厚さ(段落【0116】)、剥離強度(段落【0117】)、他の層との積層構造(段落【0118】~【0122】)について記載されている。
これらの「ポリイミド」製造方法、製造条件についての記載は、一般的なポリイミドフィルムの製造方法であり、特異的な製造方法、製造条件を示すものではないと解される。
(イ)本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」の製造方法、製造条件について
本願明細書には、「ポリイミド」の「最大勾配」の値を「0.005/V以上」とするための直接的かつ具体的な製造方法、製造条件についての記載はない。
一方で、「最大勾配」の値や「C-V特性」に関する事項として、以下の記載はある。(下線は、当審で付与した。)
(a)「界面準位密度には、ポリイミドの表面状態(例えば組成、官能基(特に表面官能基)、不純物または添加物の存在等)が影響すると考えられるが、本発明では半導体との界面においてポリイミドの表面状態が極めて好ましい状態にあるため、大きな「最大勾配」を有するものと推定できる。」(段落【0018】)
(b)「カルボン酸モノ無水物を添加する場合、次の式(1)および(2)を満たすことがより好ましい。
式(1) 0.97≦X/Y<1.00
式(2) 0.5≦(Z/2)/(Y-X)≦1.05
(式中、Xはテトラカルボン酸成分のモル数、Yはジアミン成分のモル数、Zはカルボン酸モノ無水物のモル数を表す。)
・・・
また、(Z/2)/(Y-X)は、カルボン酸モノ無水物と、末端封止可能なアミノ基とのモル比を表す。X/Yが1.00未満であり、(Z/2)/(Y-X)が0.5以上であることにより、ポリイミド前駆体の末端封止率を上げることができ、C-V特性を向上できる。(Z/2)/(Y-X)は、1に近いほど好ましい。(Z/2)/(Y-X)は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上である。(Z/2)/(Y-X)が1.05以下であることにより、遊離のカルボン酸モノ無水物の量を低減し、得られるポリイミドフィルムの強度およびC-V特性を向上できる。」(段落【0075】~【0078】)
(c)「ポリイミド繰り返し単位中の官能基の重量分率は小さい方が好ましい。ここで定義される「繰り返し単位中の官能基」は、ポリイミド繰り返し単位中の芳香環および飽和アルキル鎖以外の部分であり、-O-(エーテル結合)、-CO-(カルボニル基)、-COO-(エステル)、-SO2-などである。芳香環および飽和アルキル鎖の水素を置換しているFおよびClは、「繰り返し単位中の官能基」に含まれない。イミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせて、ポリイミド繰り返し単位中の38.3重量%未満であることも好ましく、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下である」こと(段落【0081】)
(d)「本発明の1態様において、末端アミン基量が好ましくは30μmol/g以下である」こと。「また、本発明の異なる態様において、末端の全官能基量が好ましくは30μmol/g以下である」こと(段落【0088】)
(e)「イミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせた重量分率が30重量%以下且つ「末端官能基量」が20μmol/g以下が好ましく、また異なる好ましい1態様においては、イミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせた重量分率が40重量%以下且つ「末端官能基量」が10.5μmol/g以下が好ましい」こと(段落【0089】)
(f)「ポリイミド中の官能基(イミド基、繰り返し単位中の官能基、末端官能基)のコントロールは、本発明のC-V特性を有するポリイミドを得るために考慮すべき要素である」こと(段落【0090】)
(g)「ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド溶液は、アルコキシシランなどのシランカップリング剤を含まないことが好ましい。シランカップリング剤を使用したポリイミドフィルムでは、シランカップリング剤がブリードアウトする場合がある。これにより、ポリイミドフィルムのC-V特性の低下、さらには接着力低下、積層体の膨れなどの問題が生じる。」こと(段落【0114】)
上記(a)~(g)について検討すると、上記(a)は「界面準位密度には、ポリイミドの表面状態(例えば組成、官能基(特に表面官能基)、不純物または添加物の存在等)が影響すると考えられる」とされている。
そのうち、「組成、官能基(特に表面官能基)」について上記(f)に「ポリイミド中の官能基(イミド基、繰り返し単位中の官能基、末端官能基)のコントロールは、本発明のC-V特性を有するポリイミドを得るために考慮すべき要素である」と記載され、当該(f)の内容として、上記(b)~(e)の「カルボン酸モノ無水物を添加する場合」の「テトラカルボン酸成分のモル数」、「ジアミン成分のモル数」、「カルボン酸モノ無水物のモル数」の関係、「ポリイミド繰り返し単位中の官能基の重量分率」、「末端アミン基量」、「末端の全官能基量」、「イミド基と「繰り返し単位中の官能基」を合わせた重量分率」が示されていると解されるが、本願明細書の一般的記載には、それぞれの値をどの程度変化させれば、「C-V特定」、さらには、本願発明の「最大勾配」のどの程度変化させることができるのかについては、何ら説明されていない。
また、上記(a)の「組成」、「添加物存在」について、上記(g)には「シランカップリング剤を含まないことが好ましい」、「ポリイミドフィルムのC-V特性の低下・・・などの問題が生じる」と記載され、「シランカップリング剤」の添加が「C-V特性の低下」が生じるとされているが、あくまで、「シランカップリング剤」を添加しないことが好ましいとされているのみであり、「シランカップリング剤」を添加した「ポリイミド」であっても、本願発明の「最大勾配」の値を有しさえすれば、本願発明の「ポリイミド」に相当することになる。さらに、本願明細書には、「シランカップリング剤」をどの程度添加した場合に、本願発明の「最大勾配」のどの程度変化させることができるのかについては、何ら説明されていない。
さらに、上記(a)の記載のうち、「不純物」の影響については本願明細書に具体的に記載されていないし、上記(a)は、「界面準位密度には、ポリイミドの表面状態・・・が影響すると考えられる」と推認の記載にとどまっている。仮に、「ポリイミドの表面状態」が「界面準位密度」に影響するとしても、「ポリイミドの表面状態」がどのような場合に、本願発明の「最大勾配」の値にどのように影響するかは、本願明細書には具体的に記載されていない。
また、上記(f)についても、「ポリイミド中の官能基・・・のコントロールは、本発明のC-V特性を有するポリイミドを得るために考慮すべき要素である」と、「考慮すべき」一要素の記載にとどまっている。仮に、「ポリイミド中の官能基」の「コントロール」と「C-V特性」との間に関係があるとしても、「ポリイミド中の官能基」をどのように「コントール」すると、「C-V特性」にどのような影響があるのか、本願明細書には具体的に記載されていない。
以上を踏まえると、結局のところ、本願明細書には、本願発明の「最大勾配」の値を「0.005/V以上」とするための具体的な製造方法、製造条件について、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(ウ)本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」で形成された「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件に関する技術常識について(令和5年4月27日提出の意見書における請求人の説明)
本願発明の「最大勾配」の値を「0.005/V以上」とするための具体的な製造方法、製造条件については、本願明細書の段落【0019】に「このようなC-V特性に着目したポリイミドの開発は報告されておらず、実際に行われてもいない。当然ながら、既存のポリイミドは上述のC-V特性を満足するものではない」と記載されているし、本願の原出願の出願時の技術常識であったことを確認できない。
この点について、令和5年4月27日提出の意見書において、請求人も、「ポリイミドについての測定例は過去にないので、ポリイミドについて最大勾配の値の技術常識はありません」(当該意見書の「〔2〕理由A」「〔2-1〕 審尋への回答」(1)(エ)を参照)、「C-V特性をポリイミドフィルムについて検討したのは本願が初めてであるので、本願発明者が知る限りにおいて、例えば官能基の影響の大きさ示す文献等は存在しません。過度な試行錯誤を要することなく製造できることの直接的な根拠となる文献は、残念ながらないものと本願発明者は考えています」(当該意見書の「〔2〕理由A」「〔2-1〕 審尋への回答」(6)を参照)、「確かに、「影響を与える要素」のそれぞれがどの程度影響を与えるかについて、明細書中に定量的な記載がない点はご指摘のとおりです。しかしながら、最大勾配に「影響を与える要素」のそれぞれの影響の程度を定量的に具体的に(例えば数値で)示すことは、実際上不可能であり、将来の研究を待たなくては解決できない問題です」(当該意見書の「〔2〕理由A」「〔2-2〕 理由Aについて」と述べており、本願の原出願の出願時において、本願発明の「最大勾配」の値を「0.005/V以上」とするための具体的な製造方法、製造条件に関する指針についての技術常識が存在しないことを自認していると解される。
そうすると、結局のところ、本願の出願時において、本願発明の「最大勾配」の値を「0.005/V以上」 とするための具体的な製造方法、製造条件に関する指針についての技術常識は存在しなかったものと認められる。
(2)本願明細書の具体的記載(実施例)について
本願明細書の具体的記載(実施例)をみると、実施例1~7は本願発明の「最大勾配」の値を満たす「ポリイミド」が記載されており、実施例1~7の「ポリイミド」は本願明細書に記載のそれらの具体的な製造方法・製造条件に従えば、当業者が製造できると解される。
しかしながら、以下に検討するとおり、実施例1~7及び比較例1~3のデータ及び製造方法・製造条件をみても、ポリイミドの化学構造、物性値、製造条件等について、何に着目すれば、本願発明の「最大勾配」の値にどの程度影響するかの指針を十分に把握できないため、本願発明の「最大勾配」の値を満たす「ポリイミド」であって、実施例1~7以外のものについては、当業者が製造できるように明確かつ十分に記載しているとは認められない。
ア 本願明細書の実施例の概略
本願明細書の段落【0127】~【0150】には、実施例が記載されており、段落【0150】の【表1】には、実施例1~7及び比較例1~3のデータが示されている。
その概略について、以下のことが確認できる。
(a)実施例1~7には、「テトラカルボン酸成分」として、段落【0131】~【0135】に記載の「モノマーA」のみ(実施例4~7)又は「モノマーA」と「モノマーB」との1:1の組み合わせ(実施例1~3)、「ジアミン成分」として段落【0131】~【0135】に記載の「モノマーC」のみ(実施例6~7)、「モノマーC」~「モノマーH」のうち2つのモノマーの組み合わせ(実施例1~5)を用いた「ポリイミド」についてのデータが示されている。
また、比較例1~3には、「テトラカルボン酸成分」として、段落【0131】~【0135】に記載の「モノマーA」のみ、「ジアミン成分」として段落【0131】~【0135】に記載の「モノマーC」のみを用いた「ポリイミド」についてのデータが示されている。
(b)実施例1~7には、「イミド基重量分率(wt%)」が「14.8」~「38.2」、「(イミド基)+(繰り返し単位中の官能基)重量分率(wt%)」が「21.1」~「38.2」、「末端アミン基量(μmol/g)」が「0」~「10.4」、「末端二水物基量(μmol/g)」が「0」~「14.9」、「末端官能基量」が「0」~「14.9」であり、「C-V特性 最大勾配」が「0.0052」~「0.0116」の「ポリイミド」が記載されている。
一方、比較例1~3には、「イミド基重量分率(wt%)」が「38.2」、「(イミド基)+(繰り返し単位中の官能基)重量分率(wt%)」が「38.2」、「末端アミン基量(μmol/g)」が「35.4」~「116.6」、「末端二水物基量(μmol/g)」が「0」、「末端官能基量」が「35.4」~「116.6」であり、「C-V特性 最大勾配(V-1)」が「0.0040」~「0.0049」の「ポリイミド」が記載されている。
上記(a)について、実施例1~7、比較例1~3で用いられた「テトラカルボン酸成分」は「モノマーA」と「モノマーB」のみであり、「ジアミン成分」は「モノマーC」~「モノマーH」(比較例1~3では「モノマーC」の例のみ)のみであって、いずれも「芳香族基」を有するもの、かつ、非常に限られた芳香族化合物を用いた例のみである。
上記「(1)本願明細書の一般的記載について」「ア 本願発明の「ポリイミド」の化学構造について」「(ア)本願発明の「ポリイミド」の化学構造について」及び「(イ)本願発明の「ポリイミド」の化学構造の本願発明の「最大勾配」値に対する影響について」において検討したとおり、本願発明の発明特定事項、及び、本願明細書の一般的記載では、「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」については何ら特定されておらず実施例1~7以外の「芳香族基」を有する化合物のほか、「脂肪族基」を有するもの、さらには「置換基」を有するものも包含されているといえるが、実施例において具体的にデータを示しているのは、「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、「カルボン酸モノ無水物」として、実施例1~7で用いた非常に限られた、水酸基、カルボン酸基のような置換基を含まない「芳香族基」を有するもののみである。また、段落【0040】~【0049】、【0065】~【0072】において、好ましい例として示されている「脂環構造」を有する「テトラカルボン酸成分」ないしは「ジアミン成分」を用いた例すら示されていない。
上記(b)について、本願発明の発明特定事項である「C-V特性 最大勾配(V-1)」について着目すると、実施例1~7は「0.0052」~「0.0116」の範囲の値であり、一方、比較例1~3は「0.0040」~「0.0049」の値であり、実施例1~7の最小値である「0.0052」と、比較例1~3の最大値である「0.0049」とは、わずか「0.0003」の違いのみである。また、比較例1~3の「0.0040」~「0.0049」は、本願発明の「最大勾配」の値の下限である「0.005/V」に非常に近接した値であるといえる。
イ 各実施例及び比較例のデータの評価
(ア)各実施例及び比較例のデータの評価について
各実施例及び比較例のデータについて確認すると、本願発明の発明特定事項である「C-V特性 最大勾配(V-1)」への影響について、以下の点について、不明確であると解される。
まず、実施例1~6の比較について、
(c)実施例1~6をみても、「イミド基重量分率(wt%)」、「(イミド基)+(繰り返し単位中の官能基)重量分率(wt%)」、「末端アミン基量(μmol/g)」、「末端二水物基量(μmol/g)」、「末端官能基量」のうち、どの値が「C-V特性 最大勾配(V-1)」に対してどの程度影響を与えているのかは把握することができない。また、特に、実施例1~6の間で「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値が異なるのは「ジアミン成分」の「繰り返し単位中の官能基」の化学構造、種類が異なることに起因するとも解されるが、「ジアミン成分」の「繰り返し単位中の官能基」の化学構造、種類が「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値に対してどの程度の影響を与えているかも理解できない。
(d)実施例4及び実施例5は、同じ「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」を用い、「イミド基重量分率(wt%)」、「(イミド基)+(繰り返し単位中の官能基)重量分率(wt%)」、「末端アミン基量(μmol/g)」、「末端二水物基量(μmol/g)」、「末端官能基量」も同じであり、段落【0139】、【0147】及び【0140】、【0148】の製造方法の違いにより「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値に影響したと推察されるが、その製造方法の違いにより何故「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値が変化したのか、その理由は明らかでない。
比較例1~3について、「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」が同じ実施例6~7とも対比しながらみていくと、
(e)比較例1は、「3-アミノプロピルトリエトキシシラン」を添加したものであるが、実施例6と比べて「C-V特性 最大勾配(V-1)」が低下したものである理由について、「3-アミノプロピルトリエトキシシラン」を添加したことが理由なのか、あるいは、「末端アミン基量」が多すぎることが理由なのか直ちに把握することができない。(なお、実施例6と比較例1は、同じ「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」を用いているにもかかわらず、「末端アミン基量」が異なる理由も明らかでない。)
(f)比較例2について、実施例6と比較すると、比較例2は「テトラカルボン酸成分」の使用量が「98」と少ないため、実施例6と比べて「末端アミン基量」が多くなっている。また、実施例7と比較すると、実施例7では「モノマーI:フタル酸無水物」を用いて「末端アミン基」を封止しているが、比較例2は封止していないため「末端アミン基量」が多くなっている。比較例1との比較では、比較例2の方が倍以上の「末端アミン基量」となっているにもかかわらず、「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値は比較例1も比較例2も「0.0040」と同じである。
(g)比較例3について、実施例6と比較すると、実施例6は「純度(%)99.9」の「モノマーA」を用いているのに対し、比較例3は「純度(%)99.0(低純度)」の「モノマーA2」を用いており、比較例3は、その影響で「末端アミン基量」が多くなり、「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値が小さくなっていると解される。しかしながら、比較例3が実施例6に比べて「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値が小さくなっている理由は、「末端アミン基量」が多くなったためか、「不純物」の存在のためか明らかではない。また、比較例3は、比較例1に比べて「末端アミン基量」が多くなっているにもかかわらず「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値が大きくなっているが、その理由も明らかではない。
以上を踏まえると、実施例1~7及び比較例1~3のデータをみても、本願発明の「最大勾配」に「ポリイミド」の何が、どの程度の影響を与えるのか、直ちに把握することはできない。
(イ)令和5年4月27日提出の意見書における請求人の主張について
上記「(ア)各実施例及び比較例のデータの評価について」で記載した(c)~(g)の事項について、令和5年2月21日付け拒絶理由通知書において特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないとする理由を通知するとともに、当該拒絶理由通知書に記載した審尋事項として詳細に説明を求めたところ、令和5年4月27日提出の意見書において、審尋事項に対する回答を得た。
以下、請求人の審尋事項に対する回答を記載するとともに、当該回答の内容について検討する。
a 上記(d)に関連して、実施例4~5について、「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」は同じであるにもかかわらず、「C-V特性 最大勾配」の値が異なっている理由についての説明を求めたところ、請求人は、「実施例4と5では最高熱処理温度が異なります。実施例5では最高熱処理温度が300℃と、360℃の実施例4よりも低く、一部イミド化未反応によりカルボン酸が残留している可能性が考えられます。前述の通り官能基は「最大勾配」を小さくする影響があるため、実施例5の「最大勾配」が実施例4よりも小さくなっていると考えられます」と回答をした。
当該請求人の回答について検討すると、本願明細書の(本g)の段落【0147】~【0148】の記載をみると、請求人の主張のとおり、実施例4は「360℃」、実施例5は「300℃」と「熱処理温度」が違うことが確認でき、この「熱処理温度」の違いが「C-V特性 最大勾配」の値に影響したとも解される。
しかしながら、請求人の「実施例5では最高熱処理温度が300℃と、360℃の実施例4よりも低く、一部イミド化未反応によりカルボン酸が残留している可能性が考えられます。前述の通り官能基は「最大勾配」を小さくする影響があるため、実施例5の「最大勾配」が実施例4よりも小さくなっていると考えられます」との主張は、あくまで可能性の主張にとどまり、十分に確認できたものとはいえないし、本願明細書には、「ポリイミド」の「最高熱処理温度」が「C-V特性 最大勾配」の値に影響を及ぼすことは記載されていないため、当該主張は、本願明細書の記載に基づくものとはいえない。
また、「実施例5では・・・一部イミド化未反応によりカルボン酸が残留している」との説明について、実施例4も実施例5も、(本g)の段落【0150】の【表1】のデータをみると、「末端アミン基量」、「末端酸二無水物基量」、「末端官能基量」のいずれも同じものとなっている。本願明細書の段落【0086】~【0089】において、「末端アミン基量」及び「末端官能基量」は「テトラカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み比、各成分の純度、末端封止剤の添加量、反応性添加剤の添加量に基づいて計算される」とあり、段落【0150】の【表1】のデータは、あくまで「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」等の添加量に基づく計算値であると解され、実際は、反応温度等の条件によっても、「C-V特性 最大勾配」への影響があることを示していると解される。
この点について、請求人の主張によれば、「最高熱処理温度」の高い実施例4の方が実施例5に比べて「C-V特性 最大勾配」の値が高くなることになるが、段落【0150】の【表1】のデータを確認すると、実施例4では「0.0054」、実施例5では「0.0104」と、実施例5の方が「C-V特性 最大勾配」の値が高くなっており、上記請求人の主張と実施例の測定値とは一致していない。
仮に、請求人の主張どおり、「ポリイミド」の「最高熱処理温度」の違いにより「一部イミド化未反応によりカルボン酸」の「残留」の程度が異なることが技術常識であったとしても、「最高熱処理温度」がどの程度の場合に「カルボン酸」の「残留」の程度がどの程度のものとなるかは明らかでない。本願明細書の(本f)の段落【0115】には「ポリイミド前駆体溶液を用いた場合の加熱処理条件」における「最高加熱温度」について、「例えば150℃~600℃であり、好ましくは200℃~550℃、より好ましくは250℃~500℃で処理することが好ましい」と記載されており、例えば、実施例5の「最高加熱処理温度」よりも低い「150℃」、さらに好ましいとされる「200℃」、「250℃」の場合であっても、実施例4及び実施例5と同様に、本願発明の「最高勾配」の値が「0.005/V以上」となるかどうかも予測することができない。
そうすると、結局のところ、本願明細書の実施例4~5と同じ「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」を用いた「ポリイミド」であり、かつ、本願明細書の段落【0115】に記載した範囲内の「最高加熱処理温度」で処理したものであっても、本願発明の「最大勾配」の値を満たすかどうか、1つ1つ確認する必要があると解される。
b 上記(c)に関連して、実施例1~6について、実施例1~3の「C-V特性 最大勾配」の値が異なっている理由、実施例6の方が実施例7よりも「C-V特性 最大勾配(V-1)」の値の値が大きくなっている理由等についての説明を求めたところ、請求人は、「実施例1~3について考察すると、末端アミン基量は実施例1に対して実施例2,3は少なく「最大勾配」は大きくなる方向へ影響を示すはずですが、実際は小さくなっています。従って、不純物またはジアミン成分により「最大勾配」が小さくなる影響を受けたと考えられます」、「実施例7では実際は反応可能なアミン末端全てに無水フタル酸が反応していない(実際の末端アミン基は実施例6よりも多い)と思われますので、実施例6よりも「最大勾配」は小さくなったと考えられます」と回答した。
当該請求人の回答について検討すると、請求人の上記の回答は、「・・・考えられます」とのあくまで可能性の主張にとどまり、実験等により十分に確認されたものとはいえないし、また、技術的根拠を基に説明されたものではない。
仮に、「不純物」及び「ジアミン成分」の種類が本願発明の「最大勾配」の値に影響するとしても、「ジアミン成分」の化学構造の違いにより本願発明の「最大勾配」の値にどの程度影響を与えるのか、「不純物」についてどの程度の量の場合に本願発明の「最大勾配」の値にどの程度影響を与えるのか、「ジアミン成分」の種類によって「不純物」の種類も異なることが想定されるところ「不純物」の種類によって本願発明の「最大勾配」の値への影響は異なるのか、さらに、「不純物」と「ジアミン成分」はどちらが本願発明の「最大勾配」に影響を与えるのかは明らかではない。
また、上記回答によれば、本願明細書の(本d)の段落【0073】~【0078】に記載された「カルボン酸モノ無水物」である「無水フタル酸」について、「実施例7では実際は反応可能なアミン末端全てに無水フタル酸が反応していない(実際の末端アミン基は実施例6よりも多い)」と回答されており、段落【0076】~【0078】に記載された「式(1)」及び「式(2)」を満たす「カルボン酸モノ無水物」を添加したとしても、理論どおりには、末端アミン基を封止できないことを示唆しているといえる。
そうすると、結局のところ、本願明細書の実施例1~3、6~7のデータから当業者といえども本願発明の「最大勾配」の値を有する具体的な指針は理解できず、本願明細書の実施例1~3、6~7と類似の「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、「カルボン酸モノ無水物」を用いたとしても、「ジアミン成分」の種類、「不純物」の量や種類、「カルボン酸モノ無水物」の「末端アミン基」の封止の程度、そして、これらのそれぞれの事項の本願発明の「最大勾配」の値への影響がどの程度のものとなるかについては十分に予測できるとはいえず、実施例1~3、6~7と類似の「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、「カルボン酸モノ無水物」を用いて調整した「ポリイミド」について、本願発明の「最大勾配」の値を満たすかどうか、1つ1つ確認する必要があると解される。
c 上記(e)に関連して、比較例1について、実施例6と比べて「C-V特性 最大勾配(V-1)」が低下する理由についての説明を求めたところ、請求人は、「比較例1の組成に関する[0143]に誤記がありましたので、「(モノマーA 100//モノマーC 100//添加剤)」を「(モノマーA 99.5//モノマーC 100//添加剤)」と補正しました」とし、「実施例6は仕込み量が「テトラカルボン酸成分」/[ジアミン成分]=100/100に対して、比較例1は99.5/100であり比較例1の方が末端アミン基量が多くなります。さらに3-アミノプロピルトリエトキシシランはアミン基を持ちます。このアミン基によって末端アミン基量が増えており、結果として「最大勾配」が低下しています」と回答した。
当該請求人の回答について検討する。
実施例6と比較例1との異なる点を確認すると、
両者は、「ジアミン成分」量に対する「ジカルボン酸成分」の量について実施例6は両者が同モル量であるのに対し、比較例1は、「ジアミン酸成分」の量が多くなっているのに対し、
シランカップリング剤の添加について、比較例1は添加されているのに対し、実施例6は添加されていない点で異なり、回答書では、さらに、シランカップリング剤である「3-アミノプロピルトリエトキシシラン」の「アミン基」についても言及している。
そうすると、実施例6と比較例1との「C-V特性 最大勾配(V-1)」の差は、「ジアミン成分」量が多いことによるのか、(本f)の段落【0114】において「使用しないことが好ましい」とされる「シランカップリング剤」を添加したことによるのか、「シランカップリング剤」が「アミノ基」を有することによるのか、さらに、これらの事項のそれぞれが本願発明の「最大勾配」の値にどの程度影響するのかは明らかでない。さらに、付言すると、本願発明の「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」は「シランカップリング剤」を含む態様を包含するものであり、「シランカップリング剤」を添加する場合に、どの程度の量であれば、本願発明の「最大勾配」の値を満たすようにできるのか、仮に、「シランカップリング剤」が「アミン基」を有さないものの場合はどの程度の量を添加できるのか等も明らかではなく、本願明細書の実施例6、比較例1と同じ「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」を用いた「ポリイミド」であって「シランカップリング剤」を添加した場合には、「シランカップリング剤」の種類や量を代えて、本願発明の「最大勾配」の値を満たすかどうか、1つ1つ確認する必要があると解される。
d 上記(g)に関連して、比較例3について、比較例1~2のデータを比べて、「C-V特性 最大勾配(V-1)」は「0.0049」であり、比較例1~2の「0.0040」の値に比べて、大きなものとなっている理由についての説明を求めたところ、請求人は、「比較例1では3-アミノプロピルトリエトキシシランを添加しており、その「最大勾配」を低下させる影響が比較例3の純度による末端アミン基量増加や不純物による「最大勾配」低下よりも大きいと言えます」、「比較例2は「テトラカルボン酸成分」の純度は高いですが、添加量が98mol%と「ジアミン成分」100mol%に対して少なく、末端アミン基量が比較例3よりも多くなっています。このため「最大勾配」が比較例2で低くなっていると考えられます」と回答している。
当該請求人の回答について検討する。
まず、比較例3と比較例2との対比については「・・・考えられます」とのあくまで可能性の主張にとどまり、十分に確認されたものとはいえない。さらに、比較例3と比較例2の違いは、「末端アミン基量」の他、「不純物」の量も異なると解されるところ、比較例3と比較例2の「C-V特性 最大勾配(V-1)」の差は、「末端アミン基量」に基づくものか、「不純物」の種類及び量に基づくものであるのかは明らかでない。
次に、比較例3と比較例1との対比について、比較例1は「(モノマーA 99.5//モノマーC 100//添加剤)」であるから、比較例3と比較例1とは、「テトラカルボン酸成分」の「純度による末端アミン基量」、「不純物」に加えて、比較例1の「テトラカルボン酸成分」自体の量が少ないことによる「末端アミン基」の違い、比較例1には「アミン基」含有の「シランカップリング剤」を添加したことの違いもあり、これらの事項のそれぞれが本願発明の「最大勾配」の値にどの程度影響するのかは明らかでない。
e 以上に検討したとおり、令和5年4月27日提出の意見書において、請求人は、実施例1~7と比較例1~3の間の「C-V特性 最大勾配」の値の差について、「ポリイミド」の「末端アミン基量」、「不純物」及び「ジアミン成分」の種類、「カルボン酸モノ無水物」による「末端アミン基」の封止の程度、「ポリイミド」の「最高熱処理温度」による「カルボン酸」の「残留」の程度、「シランカップリング剤」の使用の有無、「シランカップリング剤」の「アミン基」の有無等が影響していると考えられると述べるものの、これらの事項のそれぞれが、本願発明の「最大勾配」の値にどのように、どの程度影響するのかは、依然として明らかにされていない。
そうすると、実施例1~7の場合に、本願発明の「最大勾配」の値を満たす「ポリイミドで形成されたフレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」を製造できることは理解できるものの、例えば、比較例1と同じ「シランカップリング剤」の量を少量とした場合、「シランカップリング剤」の種類を変更した場合や、「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」のいずれかについてその添加量について若干少なくした場合や、あるいは、純度が若干低いものを用いた場合や、さらには、実施例1~7と同じ「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、「カルボン酸モノ無水物」を同じ量で用いた場合であっても、「最高熱処理温度」等の製造条件を本願明細書に記載の範囲内で変更した場合に、本願発明の「最大勾配」の値を満たすポリイミドフィルムを得ることができるのか否かは依然として明らかではない。
4 実施可能要件に関する当審の判断
以上の検討を踏まえて、本願明細書は、本願発明について、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているといえるかについて、検討する。
上記「2 本願発明について」「(2)本願発明の「最大勾配」について」「イ 「最大勾配」の測定について」及び「(3)本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」について」で検討したとおり、本願発明の「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示す」の「最大勾配」は、請求人が独自に定めた物性値であり、本願の出願時における汎用の物性値ではない。
また、本願明細書の(本b)の段落【0019】によれば、本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」は「既存のポリイミド」ではなく、新規の「ポリイミド」であるから、従来の既存の「ポリイミド」の製造方法・製造条件と異なる点も含めて、本願明細書においては、本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」の製造方法・製造条件について、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、明確かつ十分に記載されるべきものであると解される。
上記「3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について」「(1)本願明細書の一般的記載について」「ア 本願発明の「ポリイミド」の化学構造について」「(ア)本願発明の「ポリイミド」の化学構造について」で検討したとおり、本願発明の「ポリイミド」の化学構造について、それぞれ多様な「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、場合によっては「カルボン酸モノ無水物」の組合せから構成されるものであって、膨大な態様を包含するものであり、本願発明の発明特定事項の記載及び本願明細書の記載からみて、「芳香環」を有するもの、「置換基」を有しないものに限定されることなく、膨大な態様を包含するものであるといえる。
そして、本願発明の「ポリイミド」の化学構造の本願発明の「最大勾配」値に対する影響については、「3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について」「(1)本願明細書の一般的記載について」「ア 本願発明の「ポリイミド」の化学構造について」「(イ)本願発明の「ポリイミド」の化学構造の本願発明の「最大勾配」値に対する影響について(令和5年4月27日提出の意見書における請求人の説明)」で述べたとおり、「ポリイミド」を構成する「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」の化学構造、及び置換基は、本願発明の「最大勾配」値に影響を及ぼすことが想定され、この点については請求人も自認している。
本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」で形成された「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件については、上記「3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について」「(1)本願明細書の一般的記載について」「ウ 本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」で形成された「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件について」「(イ)本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」の製造方法、製造条件について」で検討したとおり、本願明細書の一般的記載において、「ポリイミド」の「最大勾配」の値を「0.005/V以上」とするための直接的かつ具体的な製造方法、製造条件についての記載はない。
本願明細書の一般的記載には、「最大勾配」の値や「C-V特性」に関する事項として、「ポリイミドの表面状態(例えば組成、官能基(特に表面官能基)、不純物または添加物の存在等)が影響すると考えられる」(段落【0018】)、「ポリイミド中の官能基(イミド基、繰り返し単位中の官能基、末端官能基)のコントロールは、本発明のC-V特性を有するポリイミドを得るために考慮すべき要素である」(段落【0090】)、「アルコキシシランなどのシランカップリング剤を含まないことが好ましい」(段落【0114】)等の記載はあるものの、「考慮すべき」一要素の記載にとどまっており、結局のところ、本願明細書の一般的記載には、本願発明の「最大勾配」の値を「0.005/V以上」とするための具体的な製造方法、製造条件について、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
さらに、上記「3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について」「(1)本願明細書の一般的記載について」「ウ 本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」で形成された「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件について」「(ウ)本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」で形成された「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件に関する技術常識について(令和5年4月27日提出の意見書における請求人の説明)」で述べたとおり、本願の原出願の出願時において、本願発明の「最大勾配」の値を「0.005/V以上」とするための具体的な製造方法、製造条件に関する技術常識の存在は確認できず、請求人も当該技術常識が存在しないことを自認していると解される。
次に、本願明細書の具体的記載(実施例)を確認すると、上述したとおり、本願発明の「ポリイミド」は「芳香環」を有するもの、「置換基」を有しないものに限定されることなく、「芳香環」を有しない「脂肪族基」や「脂環構造」を有し、さらに「置換基」を有するものも包含しているところ、上記「3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について」「(2)本願明細書の具体的記載(実施例)について」「ア 本願明細書の実施例の概略」で述べたとおり、実施例1~7及び比較例1~3で用いられた「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」及び「カルボン酸モノ無水物」とも置換基を有しない「芳香環」を有する特定の化合物を用いた「ポリイミド」例のみである。さらに、「C-V特性 最大勾配(V-1)」のデータを確認すると、実施例1~7は「0.0052」~「0.0116」の範囲の値であり、一方、比較例1~3は「0.0040」~「0.0049」の値であり、実施例1~7の最小値である「0.0052」と、比較例1~3の最大値である「0.0049」とは、わずか「0.0003」の違いのみである。また、比較例1~3の「0.0040」~「0.0049」は、本願発明の「最大勾配」の値の下限である「0.005/V」に非常に近接した値であるといえる。
実施例1~7及び比較例1~3のデータを比較・評価しても、上記「3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について」「(2)本願明細書の具体的記載(実施例)について」「イ 各実施例及び比較例のデータの評価」で検討したとおり、令和5年4月27日提出の意見書における請求人の主張及び説明を参酌しても、実施例1~7及び比較例1~3において用いられた「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、「カルボン酸モノ無水物」、「シランカップリング剤」及び製造条件等の何が、本願発明の「最大勾配」値にどの程度影響したのかを把握することができない。
以上を踏まえると、実施例1~7と同じ「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、「カルボン酸モノ無水物」を同じ量で用いた場合は本願発明の「最大勾配」の値を満たす「ポリイミドで形成されたフレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」を製造できることは理解できるものの、実施例1~7以外の「ポリイミド」については、結局のところ、本願発明の「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき」の最大勾配の値が0.005/V以上を示すか否かは、「テトラカルボン酸成分」、「ジアミン成分」、「モノカルボン酸無水物」等の各種「ポリイミド」の原料や「シランカップリング剤」等の添加剤について本願明細書に記載された膨大な選択肢の中から一つひとつ選択してポリイミドを製造し、ポリイミドフィルムを形成して、実際に測定してみる他には知ることができないと解される。
そうすると、「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示すポリイミド」を選択するためには、本願明細書の実施例1~7以外の「ポリイミド」以外の、膨大な態様を包含する「ポリイミド」1つ1つについて、段落【0129】~【0130】に記載の「C-V特性の測定方法」及び「勾配の求め方」に従って、ひたすら「最大勾配」の値を測定し、「0.005/V以上の最大勾配を示す」か否かを確認していく必要があり、これは、当業者に過度な試行錯誤を課すことになるといえる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、当業者が実施できるように、明確かつ十分なものとはいえない。
特に、上述のとおり、本願発明は、「ポリイミド」について「芳香環」を有するもの、「置換基」を有しないものに限定されるものに何ら限定されるものではないところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、「芳香環」を有しない「脂肪族基」や「脂環構造」を有する「ポリイミド」や「置換基」を有する「ポリイミド」についてのデータは一切示されていないから、少なくとも、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明において何ら特定されないあらゆる「ポリイミド」について、「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示すポリイミド」を得るための製造方法・製造条件が明確かつ十分に記載しているとはいえない。
5 令和5年4月27日提出の意見書における請求人の主張について
令和5年4月27日提出の意見書における請求人の主張については、上記「3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について」「(1)本願明細書の一般的記載について」「ア 本願発明の「ポリイミド」の化学構造について」「(イ)本願発明の「ポリイミド」の化学構造の本願発明の「最大勾配」値に対する影響について(令和5年4月27日提出の意見書における請求人の説明)」及び「「ウ 本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」で形成された「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件について」「(ウ)本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」で形成された「ポリイミドフィルム」の製造方法、製造条件に関する技術常識について(令和5年4月27日提出の意見書における請求人の説明)」、「(2)本願明細書の具体的記載(実施例)について」「イ 各実施例及び比較例のデータの評価」「(イ)令和5年4月27日提出の意見書における請求人の主張及び説明」において検討を行ったが、上記で検討を行わなかった事項について、以下に検討する。
(a)令和5年2月21日付け拒絶理由通知書において、審尋事項として「「ポリイミド」の化学構造と、「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき」の「最大勾配」の値について、技術常識があれば、それを示す文献を添付して、意見書において説明して下さい」と審尋したところ、請求人は、(a-1)「CV法の説明(書籍)6頁」を添付した上で、「最大勾配の技術常識の一つである一般的な算出法としてはp240の図6.12, 式(6.46), (6.47)あたりをご参照ください。図6.12に、理想C-V曲線に比べて実際のC-V曲線の方が勾配(絶対値)が小さく、理想曲線とのずれから界面電荷密度Qssが得られることが記載されています(239頁最終文)」、(a-2)「一般的なポリイミドの最大勾配の値は、本願で比較例として開示している値と考えています」((当該意見書の「〔2〕理由A」「〔2-1〕 審尋への回答」(1)エを参照)と回答した。
当該請求人の説明について検討する。
まず、前者の回答(a-1)について、添付された文献である「河東田隆編、「集積回路プロセスシリーズ 半導体評価技術」、産業図書株式会社発行、1994年5月30日(第4版)、222~241頁」の記載をみると、「最大勾配の技術常識の一つである一般的な算出法」等の一般的な説明はあるものの、「ポリイミド」の化学構造や「ポリイミド」に含まれる不純物や添加される添加剤と、「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき」の「最大勾配」の値との関係を具体的に説明している記載は存在しない。
したがって、当該文献を参照しても、本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」を得るための具体的な製造方法・製造条件を理解することはできない。
次に、後者(a-2)の「一般的なポリイミドの最大勾配の値は、本願で比較例として開示している値と考えています」との回答について、本願明細書の(本g)の比較例1~3を確認すると、比較例1は、「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」を「99.5:100」と「1:1」で用いたものでなく、さらに、「シランカップリング剤」を配合したものであり、比較例2は、「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」とを「98:100」と「1:1」で用いたものでなく、さらに、比較例3は、「テトラカルボン酸成分」について「モノマーA2:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(式量294.22)、純度(%)99.0(低純度)」と低純度のものを用いた例である。
一方、「2 本願発明について」「(4)本願発明の条件(A)~(E)について」で検討したとおり、引用文献2~4、6の「ポリイミド」は、いずれも「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」を1:1で用いて製造され、引用文献5の「ポリイミド」は「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」に加えて、「残留アミンサイト」(アミン末端基)を「芳香族酸無水物」で封止したものであり、いずれも「シランカップリング剤」は添加されていないものである。また、「フレキシブル電子デバイス基板用」に用いる材料については純度が高いものを用いることが一般的であると解される。
そうすると、本願明細書の比較例は、その製造条件からみて、本願の原出願の出願時における「一般的なポリイミド」とはいえず、「比較例として開示している値」は「一般的なポリイミドの最大勾配の値」であるとは解されない。
なお、請求人は、手続補正書による補正によって引用文献2~6の「ポリイミド」ないし「ポリイミドフィルム」の態様について、単に所謂「除くクレーム」としたのみであり、本願発明の条件(A)~(E)と、本願発明の「最大勾配」の値との関係を何ら明らかにすることはなかった。
(b)請求人は、当該意見書の「〔2-2〕 理由Aについて」において、「本願明細書には、「影響を与える要素」を説明しており、また、実施例、比較例からその「影響を与える要素」の影響の程度を定性的には把握可能です。そのため、本願発明の実施においては、「ノーアイデア」で膨大な種類のポリイミドやその製造条件とトライする必要はありません。本願明細書を参照すれば、ポリイミドの構造や製造条件についての絞り込みが可能であり、絞り込まれた候補組成、候補製造条件について、「C-V特性の測定方法」に従って測定し、最大勾配を求めれば済むので、限られた範囲ついて測定、解析を行うだけです。従って、本願発明の実施において、当業者に過度な試行錯誤を求めるものではなく、本願は実施可能要件を十分に満たしているものと思料します。」と主張している。
しかしながら、上記「4 検討・判断」でも述べたとおり、本願発明は、本願発明の発明特定事項の記載及び本願明細書の記載からみて、「ポリイミドの構造」について「芳香環」を有するもの、「置換基」を有しないものに限定されるものに何ら限定されるものではないため、「ポリイミドの構造」に関して絞り込みを行うことはできない。さらに、「製造条件」についても、本願発明の「最大勾配」の値に対して、「ポリイミド」の何がどの程度影響を与えるのか明らかではないため、十分な絞り込みを行うことはできないと解される。
したがって、請求人の当該主張を採用することはできない。
6 本願発明についての実施可能要件に関する他の事項
(1)本願発明の条件(A)~(E)について
本願発明の条件(A)~(E)は、令和1年12月25日付け拒絶理由通知書の新規性、進歩性の拒絶理由に対応する令和2年3月5日提出の手続補正(条件(A)、(B))、同年6月11日付け拒絶理由通知書の新規性、進歩性の拒絶理由に対応する同年8月17日提出の手続補正(条件(C)、(D))、及び、令和5年2月21日付け拒絶理由通知書の新規性、進歩性の拒絶理由に対応する同年4月27日提出の手続補正(条件(A)の補正、条件(E))によるものであり、条件(A)~(E)それぞれの具体的な内容について念のため確認する。
本願発明の条件(A)~(E)は、いずれも、下記で確認するように、引用文献2~6の具体的な実施例ないしは比較例として記載された「ポリイミド」であって、その原料となるテトラカルボン酸成分及びジアミン成分が本願明細書の実施例と同じか、あるいは本願明細書の一般的記載において好ましいされるテトラカルボン酸成分及びジアミン成分を用いて製造された「ポリイミド」として記載されたものである。そして、これらの「ポリイミド」は本願発明の「最大勾配」の値の特定を満たす蓋然性が高いとして、新規性及び進歩性の拒絶理由が通知されたところ、本願発明の「最大勾配」の値との関係について何ら説明されることなく、単に「除くクレーム」として、それぞれの態様が除外されたものである。
そして、本願発明の条件(A)~(E)によっても、本願発明の「最大勾配」値を満たす「ポリイミド」を当業者が製造することができる程度に、その化学構造や製造方法・製造条件等の指針を示すものではないので、本願発明の条件(A)~(E)を特定したことによって、本願発明についての実施可能要件を満たすことにはならない。
ア 条件(A)について
本願発明の条件(A)は、
「前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、(i)(α)5%熱分解温度が350℃以上のポリイミド、(β)下記一般式(1)で表される化学構造及び/又は下記一般式(2)で表される化学構造を有する化合物、および(γ)下記一般式(3)で表される化学構造、水酸基、カルボキシル基及びスルホ基からなる群のうち1種以上を有する化合物を含有するフィルム、並びに(ii)(α)5%熱分解温度が350℃以上のポリイミド、および(δ)アミド基、アミノ基、カルバメート基、カルボキシル基、アリール基、酸無水物基及び重合性環状エーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する下記一般式(4)で表される化学構造を有する化合物を含有するフィルム、のいずれとも異なる。
【化1】
[図:0001403934000036.jpg]
」とするものである。
これは、上記「第4 本願明細書及び各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項等」「2 各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項」「(1)特表2016-225638号公報に記載された事項」において摘記された引用文献2の(引2a)の請求項1の
「(α)5%熱分解温度が350℃以上のポリイミド、(β)下記一般式(1)で表される化学構造及び/又は下記一般式(2)で表される化学構造を有する化合物、(γ)下記一般式(3)で表される化学構造、水酸基、カルボキシル基及びスルホ基からなる群のうち1種以上を有する化合物、(δ)アミド基、アミノ基、カルバメート基、カルボキシル基、アリール基、酸無水物基及び重合性環状エーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する下記一般式(4)で表される化学構造を有する化合物を含有することを特徴とするフレキシブルデバイス用基板。
【化1】
[図:0001403934000037.jpg]
【化2】
[図:0001403934000038.jpg]
【化3】
[図:0001403934000039.jpg]
【化4】
[図:0001403934000040.jpg]
」
の「ポリイミド」の態様とは異なるとするとともに、(引2b)の段落【0252】~【0255】の、「(δ)アミド基、アミノ基、カルバメート基、カルボキシル基、アリール基、酸無水物基及び重合性環状エーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する下記一般式(4)で表される化学構造を有する化合物」に相当する化合物を含まない比較例5及び比較例6の「塗膜」(段落【0253】、【0255】の「140℃×1hr+250℃×1hr+350℃×1hrの条件でキュア」により「ポリイミド膜」となる。)、及び、段落【0256】~【0257】の「(β)下記一般式(1)で表される化学構造及び/又は下記一般式(2)で表される化学構造を有する化合物」に相当する化合物を含まない比較例7の「塗膜」(段落【0253】、【0255】の「140℃×1hr+250℃×1hr+350℃×1hrの条件でキュア」により「ポリイミド膜」となる。)の態様を、いわゆる「除く」とするものであるといえる。
引用文献2の(引2b)の実施例1~21、比較例1~7は、いずれも段落【0223】の「ポリアミック酸ワニスP-1」を用いるものであり、「ポリアミック酸ワニスP-1」は「・・・3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)21.94gを入れ、均一に分散するまで攪拌した。さらに、p-フェニレンジアミン(PPD)8.06gを少しずつ添加した後、オイルバス80℃で4時間加熱して、ポリアミック酸ワニスP-1を得た。重量平均分子量は27万であった」と記載されているとおり、テトラカルボン酸成分として「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)」を0.075mol(BPDAの分子量は294.2であるから、21.94(g)/294.2(g/mol)=約0.075mol)、ジアミン成分として「p-フェニレンジアミン(PPD)」を0.075mol(PPDの分子量は108.14であるから、8.06(g)/108.14(g/mol)=約0.075mol)、すなわち、同モルで反応させたものであり、本願明細書の(本g)の実施例6のテトラカルボン酸成分とジアミン成分と同じものである。
引用文献2には、「(α)5%熱分解温度が350℃以上のポリイミド」を有する「フレキシブルデバイス用基板」((引2a)の請求項1を参照)が記載されているが、本願発明の「最大勾配」の値については何ら記載されていない。
また、令和1年12月25日付け拒絶理由通知書では、引用文献2の(引2b)の段落【0223】の「ポリアミック酸ワニスP-1」について言及し、令和5年2月21日付け拒絶理由通知書では、引用文献2の(引2b)の比較例5及び比較例6を引用発明として、新規性及び進歩性に関する拒絶理由を通知したが、それぞれ令和2年3月5日提出の意見書、令和5年4月27日提出の意見書では、引用文献2の「ポリアミック酸ワニスP-1」を含む「塗膜」の「最大勾配」の値については何ら確認されず、本願発明についてこれらとは異なるとした手続補正がなされる対応となり、引用文献2の請求項1の「(β)下記一般式(1)で表される化学構造及び/又は下記一般式(2)で表される化学構造を有する化合物」、「(γ)下記一般式(3)で表される化学構造、水酸基、カルボキシル基及びスルホ基からなる群のうち1種以上を有する化合物」、「(δ)アミド基、アミノ基、カルバメート基、カルボキシル基、アリール基、酸無水物基及び重合性環状エーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する下記一般式(4)で表される化学構造を有する化合物」の「ポリイミド」の「最大勾配」の値への影響、すなわち、条件(A)を満たす「ポリイミド」の「最大勾配」の値への影響等については何ら明らかにされなかった。
イ 条件(B)について
本願発明の条件(B)は、
「前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、プラズマ処理されたものではない」
とするものである。
これは、上記「第4 本願明細書及び各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項等」「2 各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項」「(2)特開2015-214122号公報に記載された事項」において摘記された引用文献3の(引3a)の請求項1の
「少なくとも支持体とポリイミドフィルムとから構成されてなる積層体を作製するために好適な芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミン類との反応によって得られるポリアミック酸溶液から得られることを特徴とするポリイミドフィルムであって、下記の3条件ともに満たしている事を特徴とするポリイミドフィルム。
(1)表面粗さが1.5nm以下。
(2)O/Cが0.3から0.45の間。
(3)N/Oが0.40から0.50の間」との記載、さらに、(引3b)の
「【0012】
前記(1)表面粗さRa1.5nm以下 を実現するためには、プラズマ処理前のポリイミドフィルムとして、表面粗さRaが 0.1~2.0nmのフィルムを使用する。
なお、ここに表面粗さRaは走査型プローブ顕微鏡により得られる数値である。
【0013】
前記(2)ポリイミドフィルム表面のO/Cが0.3から0.45の間。
前記(3)ポリイミドフィルム表面のN/Oが0.40から0.50の間。
を有するポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの樹脂組成において、N元素の含有率が6原子%以上のポリイミド樹脂ないし、O元素の含有率が12原子%以下のポリイミド樹脂からなるポリイミドフィルムを用い、かつ、プラズマ処理時に於ける処理ガスとして後述のガスを使用することによって得ることができる。」
との記載からみて、引用文献3の請求項1の「ポリイミドフィルム」は、「プラズマ処理」を行って得られるものとの前提で、当該態様を「除く」趣旨で、本願発明の「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」について、「プラズマ処理されたものではない」との補正を行ったものと解される。
引用文献3の(引3c)の段落【0084】には、「ポリアミド酸溶液B1~B2の作製」として、「・・・3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物398質量部、パラフェニレンジアミン147質量部を・・・に溶解し、・・・25℃の反応温度で24時間攪拌すると、褐色で粘調なポリアミド酸溶液B1~B2が得られた」こと、段落【0086】、【0089】、【0090】には、「多層ポリアミド酸フィルムを3つの熱処理ゾーンを有するピンテンターに通し、一段目150℃×2分、2段目220℃×2分、3段目475℃×4分間の熱処理を行い、500mm幅にスリットして、多層ポリイミドフィルムを得た」と記載され、「ポリアミド酸溶液B1~B2」は、テトラカルボン酸成分として「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物」を1.35mol(=398(g)/294.2(g/mol))、ジアミン成分として「パラフェニレンジアミン(PPD)」を1.35mol(147(g)/108.14(g/mol))、すなわち、ほぼ同モルで反応させたものであり、本願明細書の(本g)の実施例6のテトラカルボン酸成分とジアミン成分と同じ化学構造を有するものをほぼ同モルで反応させて得た「ポリイミド」であるといえる。
また、令和1年12月25日付け拒絶理由通知書では、引用文献3の(引3b)の段落【0084】の「ポリアミド酸溶液B1~B2」について言及し、新規性及び進歩性に関する拒絶理由を通知したが、それぞれ令和2年3月5日提出の意見書では、引用文献3の「ポリアミド酸溶液B1~B2」を用いた「ポリイミドフィルム」の「最大勾配」の値については何ら確認されず、本願発明について、「ポリイミドフィルム」作製後の「プラズマ処理」をしたものではないとする手続補正がなされる対応となり、「プラズマ処理」が、「ポリイミド」の「最大勾配」の値にどのような影響を与えるのか、すなわち、条件(B)を満たす「ポリイミド」の「最大勾配」の値への影響については何ら明らかにされなかった。
ウ 条件(C)について
本願発明の条件(C)は、
「前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサンを含むジアミン成分を用いて得られるポリイミドを含有しない」
とするものであるが、これは、上記「第4 本願明細書及び各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項等」「2 各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項」「(3)特開2008-230096号公報に記載された事項」において摘記された引用文献4の(引4c)の段落【0062】~【0067】の実施例1の「・・・SiDA 62.15g(0.25mol)、DAE 110.11g(0.55mol)、PDA 21.62g(0.2mol)、をNMP 2765gと共に仕込み、溶解させた後、BPDA 294.2g(1mol)を添加し、70℃で6時間反応させたことにより、15重量%ポリアミド酸樹脂溶液(PA1)を得た」こと(段落【0062】)が記載され、「15重量%ポリアミド酸樹脂溶液(PA1)」中に、ジアミン成分として、「SiDA」(1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン)を含んでいることから、当該態様を「除く」趣旨で、本願発明の「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」について、「1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサンを含むジアミン成分を用いて得られるポリイミドを含有しない」との補正を行ったものと解される。
引用文献4の(引4b)の段落【0001】には「フレキシブル回路基板用材料に好適に用いられる金属層付き積層フィルムに関する」ことが記載され、(引4c)には「ポリイミドフィルム」について記載されているが、引用文献4には、本願発明の「最大勾配」の値については何ら記載されていない。
また、令和2年6月11日付け拒絶理由通知書では、引用文献4(当該拒絶理由通知書では、引用文献3)の実施例1について言及し、新規性及び進歩性に関する拒絶理由を通知したが、令和2年8月17日提出の意見書においては、本願発明の「最大勾配」の値に対する、ジアミン成分として「1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン」を含むものを用いたことによる影響、すなわち、条件(C)を満たす「ポリイミド」の「最大勾配」の値への影響については何ら確認されることはなかった。
エ 条件(D)について
本願発明の条件(D)は、
「前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、100モル部の線状芳香族ジアミン、97~99.5モル部の芳香族テトラカルボン酸二無水物、およびその残留アミンサイトと反応する十分な量の芳香族酸無水物を使用して得られたポリアミック酸組成物から製造されるポリイミドフィルムではない」
とするものである。
これは、上記「第4 本願明細書及び各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項等」「2 各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項」「(4)特開平4-224824号公報に記載された事項」において摘記された引用文献5の(引5a)の
「・・・線状芳香族ジアミンと約97~99.5モル部の芳香族ジ酸無水物および十分な量の芳香族酸無水物を用いて、その残留アミンサイトと反応させ、・・・改良ポリアミック酸組成物」を用いて「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」とする態様を、いわゆる「除く」とするものであると解される。
引用文献5の(引5c)の段落【0039】~【0040】の実施例1では、「高純度p-フェニレンジアミン(帯域精製した)10.8g(0.1モル)を・・・に溶解した。溶液を静かに撹拌しながら、28.95g(0.0985モル)sBPDA(再結晶した)固体を反応混合物の温度が25~31℃の間に維持されるような割合で少しずつ添加した。・・・過剰の試薬としてのp-フェニレンジアミンを使用して化学量論オフセットのために残っているアミン末端基を不活性化するために、新たに昇華した無水フタル酸0.37g(2.5ミリモル)を添加し、撹拌をさらに4~5時間持続した」ことが記載されており、テトラカルボン酸成分として「sBPDA」((引5b)の段落【0012】によれば、「3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジ酸無水物」である。)を「0.0985モル」、ジアミン成分として「p-フェニレンジアミン」を「0.1モル」、本願明細書の(本g)の段落【0133】、【0150】の【表1】の「モノマーI」である「無水フタル酸」を「2.5ミリモル」を用いるものであり、これらのモノマーは本願明細書の(本g)の実施例7のテトラカルボン酸成分とジアミン成分、モノマーIと同じものである。
さらに、引用文献5の(引5c)の段落【0043】には、段落【0039】~【0040】の実施例1の「BPDA-PDAポリアミック酸」について、「2~2.5μmの完全硬化したフィルムは3000回転/30秒でシリコンウェファー上にスピン塗布し、400℃まで加熱/硬化して形成した」ことが記載されており、また、(引5b)には、一般論であるが「ポリイミドは、有機重合体系絶縁体が普通に使用される無機材料に比べて低い誘電率を有するために、集積回路(IC)デバイスの性能特性を改善するのに大きな利益を与えるものと長く認められ、マイクロエレクトロニクスにおける不動態化および中間層誘電体として潜在的な利益を与えてきた物質であった」ことが記載され、「集積回路(IC)デバイス」の基板に用いることが示唆されているといえるが、引用文献5には、本願発明の「最大勾配」の値については何ら記載されていない。
また、令和2年6月11日付け拒絶理由通知書では、引用文献5の実施例1について言及し、新規性及び進歩性に関する拒絶理由を通知したが、令和2年8月17日提出の意見書においては、引用文献5の「線状芳香族ジアミンと約97~99.5モル部の芳香族ジ酸無水物および十分な量の芳香族酸無水物を用いて、その残留アミンサイトと反応させ、・・・改良ポリアミック酸組成物」を用いたことによる本願発明の「最大勾配」の値への影響、すなわち、条件(D)を満たす「ポリイミド」の「最大勾配」の値への影響については、何ら確認されなかった。
オ 条件(E)について
本願発明の条件(E)は、
「前記フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルムは、1,4-シクロヘキサンジアミン41.4gと、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物103.6gおよび9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物5.0gとから得られたポリアミック酸組成物から製造されるポリイミドフィルムと同一ではない。」
とするものであるが、これは、上記「第4 本願明細書及び各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項等」「2 各拒絶理由で引用された引用文献に記載された事項」「(5)国際公開第2016/136597号に記載された事項」において摘記された引用文献6の(引6c)の段落[0112]~[0116]の[合成例2]、[実施例6]の「・・・NMPを850.0g入れ、1,4-シクロヘキサンジアミン41.4gを加え、溶液を窒素雰囲気下で30分間攪拌した。原料が均一に溶解したことを確認した後、BPDA103.6gを加え、さらに9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物5.0gを加え、・・・粘調なポリアミド酸溶液を得た」の「ポリアミド酸溶液」から製造される「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」の態様について、いわゆる「除く」とするものであるといえる。
引用文献6の[合成例2]、[実施例6]のテトラカルボン酸成分の1つである「BPDA」((引6b)の段落[0024]によれば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)は、本願明細書の(本g)の段落【0133】の「モノマーA」と同じ化合物であり、もう1つのテトラカルボン酸成分である「9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物」は本願明細書の(本c)の【0036】~【0037】において好ましいとされる化合物である。また、ジアミン成分である「1,4-シクロヘキサンジアミン」は、(本c)の段落【0072】に例示されている化合物である。
引用文献6の(引6a)の請求項11には「フレキシブルディスプレイ基板」が記載され、(引6a)及び(引6c)の[0116]には「ポリイミド層」とすることが記載されているが、引用文献6には、本願発明の「最大勾配」の値については何ら記載されていない。
また、令和5年2月21日付け拒絶理由通知書では、引用文献6の実施例6を引用発明として、新規性及び進歩性に関する拒絶理由を通知したが、令和5年4月27日提出の意見書においては、引用文献6の[合成例2]、[実施例6]の「ポリアミド酸溶液」を用いたことによる、本願発明の「最大勾配」の値に対する影響、すなわち、条件(E)を満たす「ポリイミド」の「最大勾配」の値への影響については何ら確認されることはなかった。
カ 条件A~Eについてのまとめ
上記「ア 条件(A)について」~「オ 条件(E)について」で述べたとおり、引用文献2~6には、本願発明の「最大勾配」の値に関する記載はないものの、引用文献2~6の具体的な実施例ないしは比較例の「ポリイミド」を用いたフィルムの材料となるテトラカルボン酸成分及びジアミン成分が本願明細書の実施例と同じか、あるいは本願明細書の一般的記載において好ましいとされるテトラカルボン酸成分及びジアミン成分を用いて製造された「ポリイミド」が記載され、それらの「ポリイミド」は本願発明の「最大勾配」の値の特定を満たす蓋然性が高いとして、新規性及び進歩性の拒絶理由が通知された。
そして、その新規性及び進歩性の拒絶理由に対応するために、手続補正により、引用文献2~6の請求項1の記載、拒絶理由で通知された具体的な実施例ないしは比較例の特徴となる成分を用いた態様について所謂「除く」ために、本願発明の条件(A)~(E)の発明特定事項としたものであると解される。その際には、引用文献2~6の具体的な実施例ないしは比較例の「ポリイミド」を用いたフィルム、ないしは引用文献2~6の具体的な実施例ないしは比較例の「ポリイミド」に類似する化学構造、組成を有するフィルムが、本願発明の「最大勾配」の値を満たすかどうかの確認は行われることはなかったため、本願発明の条件(A)~(E)と本願発明の「最大勾配」の値との関係は明らかとならなかった。
上記「2 本願発明について」「(3)本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミドフィルム」について」でも述べたとおり、本願明細書の(本b)の段落【0019】には、「このようなC-V特性に着目したポリイミドの開発は報告されておらず、実際に行われてもいない。当然ながら、既存のポリイミドは上述のC-V特性を満足するものではない」と記載されているが、「既存のポリイミド」である引用文献2~6の「ポリイミド」の原料となるテトラカルボン酸成分とジアミン成分は、本願明細書の(本g)の具体的な実施例と同じであるか、あるいは、本願明細書の一般的記載において好ましいとされているものであるから、本願発明の「ポリイミドフィルム」の原料となる「ポリイミド」の化学構造と、「既存のポリイミド」である引用文献2~6の「ポリイミド」の化学構造には違いがない場合も存在することになると解される。
そうすると、段落【0019】の「当然ながら、既存のポリイミドは上述のC-V特性を満足するものではない」ことを前提とした場合には、「ポリイミド」の化学構造に加えて、「ポリイミド」の化学構造以外の製造方法や製造条件も重要になると解され、本願明細書には、本願発明の「最大勾配」の値を満たすための製造方法・製造条件について、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されている必要があるといえるが、上記で検討したとおり、引用文献2~6の実施例に記載された「ポリイミド」との関係でも、本願発明の「最大勾配」の値を有する「ポリイミド」の製造方法・製造要件は結局明らかにされなかった。
(2)本願発明の「不純物」や「添加物」等を含む「組成物」としての「ポリイミド」について
上記「2 本願発明について」「(1)本願発明の発明特定事項解釈について」で述べたとおり、本願発明の「ポリイミド」は、高分子化合物である「ポリイミド」であることに加えて、本願明細書の記載ぶりによっては「不純物」や「添加物」等を含む「組成物」でもあると解される。
具体的には、本願明細書の段落【0018】、【0108】~【0114】の記載、本願発明の条件(A)及び(B)の特定、及び、令和5年4月27日提出の意見書における請求人の「シランカップリング剤以外の添加剤もポリイミド形成プロセスにおいて欠陥の発生源となるため、「最大勾配」が小さくなる影響を与えると考えられます。一方でポリイミドの分解を抑制する効果を持つ添加剤であれば「最大勾配」を大きくする影響を与える可能性はあります」(当該意見書の「〔2〕理由A」「〔2-1〕 審尋への回答」(2)を参照)との主張等を参酌すると、本願発明の「ポリイミド」は、「不純物」等でなく他の「添加剤」を含む態様も包含するか、あるいは、少なくとも、他の「添加剤」と併用する態様、さらには、条件(B)の「プラズマ処理」以外の後処理をする態様も包含していると解される。
この場合は、上述の「ポリイミド」の化学構造の膨大な態様に加えて、「添加剤」や後処理の種類等の組合せも考慮することとなり、さらに、膨大な態様を包含することになる。
しかしながら、本願明細書には、「シランカップリング剤」以外の「添加剤」の、本願発明の「最大勾配」の値への影響の言及は一切なく、当該意見書において「シランカップリング剤以外の添加剤もポリイミド形成プロセスにおいて欠陥の発生源となるため、「最大勾配」が小さくなる影響を与えると考えられます。一方でポリイミドの分解を抑制する効果を持つ添加剤であれば「最大勾配」を大きくする影響を与える可能性はあります」と述べるのみで、「ポリイミド形成プロセスにおいて欠陥の発生源」となる「シランカップリング剤」以外の「添加剤」や、「ポリイミドの分解を抑制する効果を持つ添加剤」とは何かの説明もされていないし、多様な「添加剤」の本願発明の「最大勾配」の値への影響についての技術常識の存在も確認できない。
そうすると、本願発明の「ポリイミド」について、「添加剤」や後処理の種類等の組合せも考慮する場合には、さらに膨大な態様を包含することとなるため、当業者にさらなる試行錯誤を課すことになるといえる。
7 まとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明の「抵抗値が4Ωcmのシリコンウェハ上に、ポリイミドフィルムを0.75μmの膜厚で形成した積層体の容量-電圧測定を行ったとき、0.005/V以上の最大勾配を示すポリイミドで形成されたフレキシブル電子デバイス基板用ポリイミドフィルム」について、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
また、令和5年4月27日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項2~6に記載された発明についても、同様の理由で、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、本願発明1~6について特許法第36条第4項第1号の規定(実施可能要件)に適合するものではなく、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-009674