2021-007963
電力変換装置
- 審判番号
- 2021-007963
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-191921外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月17日
- 審決日
- 2022年01月26日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社デンソー
- 【請求人代理人】特許業務法人あいち国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WY (H02M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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本願は,平成28年4月25日に出願した特願2016-87169号の一部を令和1年10月21日に新たな特許出願としたものであって,出願と同日付けで上申書が提出され,令和2年11月26日付けで拒絶理由通知がされ,令和3年1月28日付けで手続補正がされ,令和3年3月16日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和3年6月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和3年8月2日に前置報告がされ,令和3年10月13日に上申書が提出されたものである。
第2 原査定の概要
原査定(令和3年3月16日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1.本願請求項1-6に係る発明は,以下の引用文献1,2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2008-206345号公報
2.国際公開第2016/021314号
第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1に「半導体素子(11)とダイオード(12)の並列接続の組を2組直列接続して内蔵する半導体モジュール(10)と,上記半導体モジュールの複数によって構成された」という事項を追加する補正は,補正前の請求項1の発明特定事項である「電力変換回路」が有する「三相交流モータ(52)のための3つの相(6a,6b,6c)」を限定的に減縮するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,「半導体素子(11)とダイオード(12)の並列接続の組を2組直列接続して内蔵する半導体モジュール(10)と,上記半導体モジュールの複数によって構成された,三相交流モータ(52)のための3つの相(6a,6b,6c)」という事項は,当初明細書の段落0017,0026,0028及び図2-図4に記載されているから,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-6に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。
第4 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は,令和3年6月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】電源(3)から供給される電力を変換して出力する電力変換回路(2)と,上記電力変換回路を制御する制御部(8)と,を備えた電力変換装置(1)であって,上記電力変換回路は,半導体素子(11)とダイオード(12)の並列接続の組を2組直列接続して内蔵する半導体モジュール(10)と,上記半導体モジュールの複数によって構成された,三相交流モータ(52)のための3つの相(6a,6b,6c)と,を有し,上記3つの相はいずれも,上記電源の高電位側端子(3a)に接続された上アーム(2a)と上記電源の低電位側端子(3b)に接続された下アーム(2b)とのそれぞれにおいて複数の半導体素子(11)が互いに並列接続された並列接続相として構成されており,上記制御部は,上記3つの相の中で使用時の素子温度が最も高いと予測される半導体素子(11a)を備える相の上記上アーム及び上記下アームのいずれか一方を対象アームとして,上記対象アームの互いに並列接続された複数の半導体素子(11)の間に異なる大きさの電流が流れる電流アンバランス状態を考慮して上記複数の半導体素子の全ての素子温度についての温度情報を検出し,検出した上記温度情報と設定した閾値(Tr)とに基づいて上記電力変換回路の過熱保護制御を行う,電力変換装置(1)。」
また,本願発明2-6は,本願発明1を減縮した発明である。
第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2008-206345号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)
ア 「【0033】(実施例3)本例も,図3に示すごとく,複数の電力変換装置1が一体化された状態にある例であるが,各電力変換装置1における被検モジュール20の位置を具体的に検討した例である。本例の電力変換装置1は,電気自動車又はハイブリッド自動車に搭載され,その駆動源となる3相交流電力を生成するものである。続きを表示(全55行)【0034】そして,上記第1の電力変換装置11は,主に回転機で発生したに交流電力を回生するインバータである。また,上記第2の電力変換装置12は,直流電源から供給される直流電力を昇圧し,一方回転機で発生した交流電力を直流電源へ回生する双方向昇降圧コンバータである。また,第3の電力変換装置13は,主駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータである。また,第4の電力変換装置14は,補助駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータである。【0035】昇降圧コンバータである第2の電力変換装置12と,主に回転機で発生した交流電力を回生するインバータである第1の電力変換装置11とを組合わせた電力変換回路の回路図を図4に示す。第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12には,IGBT素子等の半導体素子213とダイオード214と温度検出素子215を内蔵した半導体モジュール2がそれぞれ複数配設されている。【0036】第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12において,電源52の正極端子側(図面の上側)の半導体モジュール2を上アームの半導体モジュールといい,電源52の負極端子側(図面の下側)の半導体モジュール2を下アームの半導体モジュールという。即ち,図4において破線uにて囲んだものが上アームの半導体モジュール2であり,破線dにて囲んだものが下アームの半導体モジュール2である。上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とは互いに直列接続されて一対をなしている。そして,第1の電力変換装置11においては,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2との間に,三相の交流モータである回転機51のU相,V相,W相の各電極へ接続されるパワー配線41が接続されている。【0037】第2の電力変換装置12には,入力電圧を昇圧するためのリアクトル43が配設されている。また,第2の電力変換装置12の電源52側には,コンデンサ421が接続されている。該コンデンサ421は,直流の電源52から昇降圧コンバータである第2の電力変換装置12に入力される電源電流に含まれるリプル電流を吸収して,電源電圧を安定化する。【0038】また,第1の電力変換装置11と第2の電力変換装置12との間には,コンデンサ422が接続されている。コンデンサ422は,断続電流となる第2の電力変換装置12の出力電圧を平滑化して,安定した直流電圧を第1の電力変換装置11に入力させる。【0039】なお,第3の電力変換装置13及び第4の電力変換装置14も,上記第1の電力変換装置11と略同様の回路構成を有している。また,直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2は,互いに共通の冷却管31の間に配設されており,上アームの半導体モジュール2が冷却管31の上流側,下アームの半導体モジュール2が冷却管31の下流側の位置に配されている。【0040】そして,本例においては,各電力変換装置1(11?14)における被検モジュール20を,図3に示すように配置している。即ち,第1の電力変換装置11については,中央の下アーム(冷媒流路の下流側)の半導体モジュール2を被検モジュール20とした。また,第2の電力変換装置12については,右端の上下アームの2つの半導体モジュール2を被検モジュール20とした。第3の電力変換装置13については,右端から3列目の下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20とした。第4の電力変換装置14については,左端の下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20とした。なお,ここで,「右」,「左」は,図3における左右方向を基準にしたものである。【0041】次に,上記のごとく各電力変換装置1において,いずれの半導体モジュール2を被検モジュール20とするかについての決定方法を説明する。まず,第1の電力変換装置11について検討する。第1の電力変換装置1の6個の半導体モジュール2に対しては,基本的には均等に被制御電流が流れる。なお,ここで,均等とは,熱的平衡状態が実現される程度の時間で見たときに均等であることを意味し,瞬間的な通電量の均等を意味するものではない。以下においても同様である。【0042】そして第1の電力変換装置11には,第2の電力変換装置12が隣接配置しているが,この第2の電力変換装置12は,第1の電力変換装置11よりも発熱量が小さい。よって,第1の電力変換装置11における中央の上下アームの2つの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となる。この2つの半導体モジュール2のうち,下アームの半導体モジュール2は冷却管31の下流側に位置している。そのため,この下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20とする。即ち,第1の電力変換装置11については,中央の下アームの半導体モジュール2が被検モジュール20となる。【0043】次に,第2の電力変換装置12について検討する。第2の電力変換装置12は,3つの互いに並列接続された半導体モジュール2が,上アーム側と下アーム側との双方に配されている。それ故,並列接続された3つの半導体モジュール2には均等に電流が流れる。【0044】そして,第2の電力変換装置12は,左側に第1の電力変換装置11が隣接しており,右側に第3の電力変換装置13が隣接している。第1の電力変換装置11は,第2の電力変換装置12よりも発熱量は小さいが,第3の電力変換装置13は,第2の電力変換装置12よりも発熱量が大きい。そのため,右端,即ち第3の電力変換装置13に最も近い上下アームの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となる。【0045】次に,上アームよりも下アームの半導体モジュール2のほうが,冷却管31の下流側になるため,下アームの半導体モジュール2のみを被検モジュール20とすることも考えられる。しかしながら,第2の電力変換装置12は,昇降圧コンバータであって,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とには,必ずしも均等に電流が流れない。即ち,回生時には,上アームの半導体モジュール2に電流が流れ,昇圧時には下アームの半導体モジュール2に電流が流れる。それ故,電力変換装置12の運転方法によって,上下アームの半導体モジュール2のうちの何れのほうが通電量が大きくなるかは変動する。【0046】それ故,上アームの半導体モジュール2の温度上昇が下アームの半導体モジュール2の温度上昇よりも大きくなることもあれば,その逆の現象もあり得る。従って,上アームと下アームの一方のみを被検モジュール20とすることはできず,両者を被検モジュール20とする必要がある。即ち,第2の電力変換装置12においては,その右端の上下アームの2個の半導体モジュール2を被検モジュール20とする。【0047】次に,第3の電力変換装置13について検討する。第3の電力変換装置13は,左端から1列目と2列目の半導体モジュール2,3列目と4列目の半導体モジュール2,5列目と6列目の半導体モジュール2が,それぞれ互いに並列接続されている。そして,基本的に全ての半導体モジュール2に均等に電流が流れる。【0048】また,第3の電力変換装置13には,第2の電力変換装置12と第4の電力変換装置14とが隣接しているが,何れも第3の電力変換装置13よりも発熱量が小さい。それ故,6列の半導体モジュール2の中では,中央の2列,即ち,左から3列目,4列目の半導体モジュール2が温度上昇しやすい。この2列の半導体モジュール2のうち,冷却器3の冷媒入口331から遠い方である第4列目の半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,より温度上昇しやすい。更に,上アームよりも下アームの半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,温度上昇がしやすい。従って,左から4列目の下アームの半導体モジュール2が,被検モジュール20となる。【0049】次に,第4の電力変換装置14につき検討する。第4の電力変換装置14は,6個の半導体モジュール2に基本的に均等に電流が流れる。ただし,第4の電力変換装置14には,左側にのみ,より発熱量の大きい第3の電力変換装置13が隣接している。それ故,左端の2つの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となる。そして,上アームよりも下アームの半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,温度上昇がしやすい。従って,左端の下アームの半導体モジュール2が,被検モジュール20となる。【0050】以上のようにして,発熱のしやすさ,冷却のされやすさ等,種々の観点から,各電力変換装置1における最も温度上昇しやすい半導体モジュール2を選んで,被検モジュール20とする。これにより,一層確実に各電力変換装置1の熱保護を行うことができる。」
イ 「【0059】(実施例6)本例は,図7に示すごとく,並列接続された3個の半導体モジュール2における半導体素子の温度情報の全てを電力変換装置1の制御部19へ送信し,制御部19は,3個の温度情報のうち最も高い温度情報を有する半導体モジュール2を被検モジュール20として認定するよう構成した例である。即ち,上記3個の半導体モジュール2の温度検出素子215は,全て制御部19に接続されている。【0060】そして,制御部19は,被検モジュール20として認定した半導体モジュール2の温度を基に,全ての半導体モジュール2への通電の遮断を行ったり,被制御電力を低下させたりする。その他は,実施例1と同様である。【0061】本例の場合には,並列接続された3個の半導体モジュール2のうち,実際に最も温度上昇したものを被検モジュール20とするため,確実に電力変換装置1の熱保護を行うことができる。」
ウ 「【0062】【図1】実施例1における,電力変換装置の平面図。【図2】実施例2における,複数の電力変換装置の複合体の平面図。【図3】実施例3における,複数の電力変換装置の複合体の平面図。【図4】実施例3における,電力変換回路の回路図。【図5】実施例4における,複数の電力変換装置の複合体の平面図。【図6】実施例5における,電力変換回路の一部の回路図。【図7】実施例6における,電力変換回路の一部の回路図。」
エ 「図3[図:0001382299000001.jpg]」
オ 「図4[図:0001382299000002.jpg]」
カ 「図7[図:0001382299000003.jpg]」
(2)引用発明
引用文献1の上記記載について検討する。
ア 上記(1)アの段落【0033】の「図3に示すごとく,複数の電力変換装置1が一体化された状態にある」との記載,上記(1)ウの「複数の電力変換装置の複合体の平面図」との記載,及び上記(1)エに摘記した図3の記載から,引用文献1には,「複数の電力変換装置1が一体化された状態にある複数の電力変換装置の複合体」が記載されていると認められる。
イ 上記(1)アの段落【0033】の「電力変換装置1は,電気自動車又はハイブリッド自動車に搭載され,その駆動源となる3相交流電力を生成するものである」との記載から,引用文献1には,「電力変換装置1は,電気自動車又はハイブリッド自動車に搭載され,その駆動源となる3相交流電力を生成するものであ」ることが記載されていると認められる。
ウ 上記(1)アの段落【0034】の「上記第1の電力変換装置11は,主に回転機で発生したに交流電力を回生するインバータである。また,上記第2の電力変換装置12は,直流電源から供給される直流電力を昇圧し,一方回転機で発生した交流電力を直流電源へ回生する双方向昇降圧コンバータである。また,第3の電力変換装置13は,主駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータである。また,第4の電力変換装置14は,補助駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータである。」との記載,及び上記(1)エに摘記した図3の記載から,引用文献1には,「第1の電力変換装置11は,主に回転機で発生した交流電力を回生するインバータであり,第2の電力変換装置12は,直流電源から供給される直流電力を昇圧し,一方回転機で発生した交流電力を直流電源へ回生する双方向昇降圧コンバータであり,第3の電力変換装置13は,主駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータであり,第4の電力変換装置14は,補助駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータであ」ることが記載されていると認められる。
エ 上記(1)アの段落【0035】の「第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12には,IGBT素子等の半導体素子213とダイオード214と温度検出素子215を内蔵した半導体モジュール2がそれぞれ複数配設されている」との記載,及び上記(1)オに摘記した図4の記載から,引用文献1には,「第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12には,IGBT素子等の半導体素子213とダイオード214と温度検出素子215を内蔵した半導体モジュール2がそれぞれ複数配設されて」いることが記載されていると認められる。
オ 上記(1)アの段落【0036】の「第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12において,電源52の正極端子側(図面の上側)の半導体モジュール2を上アームの半導体モジュールといい,電源52の負極端子側(図面の下側)の半導体モジュール2を下アームの半導体モジュールという。即ち,図4において破線uにて囲んだものが上アームの半導体モジュール2であり,破線dにて囲んだものが下アームの半導体モジュール2である。上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とは互いに直列接続されて一対をなしている。そして,第1の電力変換装置11においては,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2との間に,三相の交流モータである回転機51のU相,V相,W相の各電極へ接続されるパワー配線41が接続されている。」との記載,及び上記(1)オに摘記した図4の記載から,引用文献1には,「第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12において,電源52の正極端子側の半導体モジュール2を上アームの半導体モジュールといい,電源52の負極端子側の半導体モジュール2を下アームの半導体モジュールといい,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とは互いに直列接続されて一対をなしており,第1の電力変換装置11においては,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2との間に,三相の交流モータである回転機51のU相,V相,W相の各電極へ接続されるパワー配線41が接続されて」いることが記載されていると認められる。
カ 上記(1)アの段落【0039】の「第3の電力変換装置13及び第4の電力変換装置14も,上記第1の電力変換装置11と略同様の回路構成を有している。」,「また,直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2は,互いに共通の冷却管31の間に配設されており,上アームの半導体モジュール2が冷却管31の上流側,下アームの半導体モジュール2が冷却管31の下流側の位置に配されている。」との記載,及び上記(1)エに摘記した図3の記載から,引用文献1には,「第3の電力変換装置13も,上記第1の電力変換装置11と略同様の回路構成を有しており,直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2は,互いに共通の冷却管31の間に配設されており,上アームの半導体モジュール2が冷却管31の上流側,下アームの半導体モジュール2が冷却管31の下流側の位置に配されて」いることが記載されていると認められる。
キ 上記(1)アの段落【0041】の「各電力変換装置1において,いずれの半導体モジュール2を被検モジュール20とするかについての決定方法」との記載から,引用文献1には,「各電力変換装置1において,いずれの半導体モジュール2を被検モジュール20とするかについての決定方法」が記載されていると認められる。
ク 上記(1)アの段落【0041】の「第1の電力変換装置1の6個の半導体モジュール2に対しては,基本的には均等に被制御電流が流れる。なお,ここで,均等とは,熱的平衡状態が実現される程度の時間で見たときに均等であることを意味し,瞬間的な通電量の均等を意味するものではない。」との記載,及び段落【0042】の「そして第1の電力変換装置11には,第2の電力変換装置12が隣接配置しているが,この第2の電力変換装置12は,第1の電力変換装置11よりも発熱量が小さい。よって,第1の電力変換装置11における中央の上下アームの2つの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となる。」,「この2つの半導体モジュール2のうち,下アームの半導体モジュール2は冷却管31の下流側に位置している。そのため,この下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20とする。」との記載から,引用文献1には,「第1の電力変換装置1の6個の半導体モジュール2に対しては,基本的には均等に被制御電流が流れ,ここで,均等とは,熱的平衡状態が実現される程度の時間で見たときに均等であることを意味し,瞬間的な通電量の均等を意味するものではなく,第1の電力変換装置11には,第2の電力変換装置12が隣接配置しているが,この第2の電力変換装置12は,第1の電力変換装置11よりも発熱量が小さいので,第1の電力変換装置11における中央の上下アームの2つの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となり,この2つの半導体モジュール2のうち,下アームの半導体モジュール2は冷却管31の下流側に位置しているため,この下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20と」することが記載されていると認められる。
ケ 上記(1)アの段落【0043】の「第2の電力変換装置12は,3つの互いに並列接続された半導体モジュール2が,上アーム側と下アーム側との双方に配されている。それ故,並列接続された3つの半導体モジュール2には均等に電流が流れる。」との記載,段落【0044】の「そして,第2の電力変換装置12は,左側に第1の電力変換装置11が隣接しており,右側に第3の電力変換装置13が隣接している。第1の電力変換装置11は,第2の電力変換装置12よりも発熱量は小さいが,第3の電力変換装置13は,第2の電力変換装置12よりも発熱量が大きい。そのため,右端,即ち第3の電力変換装置13に最も近い上下アームの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となる。」との記載,段落【0045】の「次に,上アームよりも下アームの半導体モジュール2のほうが,冷却管31の下流側になるため,下アームの半導体モジュール2のみを被検モジュール20とすることも考えられる。」,「しかしながら,第2の電力変換装置12は,昇降圧コンバータであって,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とには,必ずしも均等に電流が流れない。」,「それ故,電力変換装置12の運転方法によって,上下アームの半導体モジュール2のうちの何れのほうが通電量が大きくなるかは変動する。」との記載,及び段落【0046】の「従って,上アームと下アームの一方のみを被検モジュール20とすることはできず,両者を被検モジュール20とする必要がある。」との記載から,引用文献1には,「第2の電力変換装置12は,3つの互いに並列接続された半導体モジュール2が,上アーム側と下アーム側との双方に配されているので,並列接続された3つの半導体モジュール2には均等に電流が流れ,第2の電力変換装置12は,左側に第1の電力変換装置11が隣接しており,右側に第3の電力変換装置13が隣接していて,第1の電力変換装置11は,第2の電力変換装置12よりも発熱量は小さいが,第3の電力変換装置13は,第2の電力変換装置12よりも発熱量が大きいため,右端,即ち第3の電力変換装置13に最も近い上下アームの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となり,次に,上アームよりも下アームの半導体モジュール2のほうが,冷却管31の下流側になるため,下アームの半導体モジュール2のみを被検モジュール20とすることも考えられるが,第2の電力変換装置12は,昇降圧コンバータであって,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とには,必ずしも均等に電流が流れない,即ち,電力変換装置12の運転方法によって,上下アームの半導体モジュール2のうちの何れのほうが通電量が大きくなるかは変動するので,上アームと下アームの一方のみを被検モジュール20とすることはできず,両者を被検モジュール20とする必要があ」ることが記載されていると認められる。
コ 上記(1)アの段落【0047】の「第3の電力変換装置13は,左端から1列目と2列目の半導体モジュール2,3列目と4列目の半導体モジュール2,5列目と6列目の半導体モジュール2が,それぞれ互いに並列接続されている。そして,基本的に全ての半導体モジュール2に均等に電流が流れる。」との記載,及び段落【0048】の「また,第3の電力変換装置13には,第2の電力変換装置12と第4の電力変換装置14とが隣接しているが,何れも第3の電力変換装置13よりも発熱量が小さい。それ故,6列の半導体モジュール2の中では,中央の2列,即ち,左から3列目,4列目の半導体モジュール2が温度上昇しやすい。この2列の半導体モジュール2のうち,冷却器3の冷媒入口331から遠い方である第4列目の半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,より温度上昇しやすい。」,「更に,上アームよりも下アームの半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,温度上昇がしやすい。従って,左から4列目の下アームの半導体モジュール2が,被検モジュール20となる。」との記載から,引用文献1には,「第3の電力変換装置13は,左端から1列目と2列目の半導体モジュール2,3列目と4列目の半導体モジュール2,5列目と6列目の半導体モジュール2が,それぞれ互いに並列接続されており,基本的に全ての半導体モジュール2に均等に電流が流れ,第3の電力変換装置13には,第2の電力変換装置12と第4の電力変換装置14とが隣接しているが,何れも第3の電力変換装置13よりも発熱量が小さいので,6列の半導体モジュール2の中では,中央の2列,即ち,左から3列目,4列目の半導体モジュール2が温度上昇しやすく,この2列の半導体モジュール2のうち,冷却器3の冷媒入口331から遠い方である第4列目の半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,より温度上昇しやすく,更に,上アームよりも下アームの半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,温度上昇がしやすいので,左から4列目の下アームの半導体モジュール2が,被検モジュール20とな」ることが記載されていると認められる。
サ 上記(1)アの段落【0049】の「第4の電力変換装置14は,6個の半導体モジュール2に基本的に均等に電流が流れる。」,「ただし,第4の電力変換装置14には,左側にのみ,より発熱量の大きい第3の電力変換装置13が隣接している。それ故,左端の2つの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となる。」,「そして,上アームよりも下アームの半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,温度上昇がしやすい。従って,左端の下アームの半導体モジュール2が,被検モジュール20となる。」との記載から,引用文献1には,「第4の電力変換装置14は,6個の半導体モジュール2に基本的に均等に電流が流れ,第4の電力変換装置14には,左側にのみ,より発熱量の大きい第3の電力変換装置13が隣接しているので,左端の2つの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となり,上アームよりも下アームの半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,温度上昇がしやすいので,左端の下アームの半導体モジュール2が,被検モジュール20とな」ることが記載されていると認められる。
シ 上記(1)アの段落【0050】の「発熱のしやすさ,冷却のされやすさ等,種々の観点から,各電力変換装置1における最も温度上昇しやすい半導体モジュール2を選んで,被検モジュール20とする。」,「これにより,一層確実に各電力変換装置1の熱保護を行うことができる。」との記載から,引用文献1には,「発熱のしやすさ,冷却のされやすさ等,種々の観点から,各電力変換装置1における最も温度上昇しやすい半導体モジュール2を選んで,被検モジュール20とすることにより,一層確実に各電力変換装置1の熱保護を行うことができる」ことが記載されていると認められる。
ス 上記ア~シより,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数の電力変換装置1が一体化された状態にある複数の電力変換装置の複合体であって,電力変換装置1は,電気自動車又はハイブリッド自動車に搭載され,その駆動源となる3相交流電力を生成するものであり,第1の電力変換装置11は,主に回転機で発生した交流電力を回生するインバータであり,第2の電力変換装置12は,直流電源から供給される直流電力を昇圧し,一方回転機で発生した交流電力を直流電源へ回生する双方向昇降圧コンバータであり,第3の電力変換装置13は,主駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータであり,第4の電力変換装置14は,補助駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータであり,第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12には,IGBT素子等の半導体素子213とダイオード214と温度検出素子215を内蔵した半導体モジュール2がそれぞれ複数配設されており,続きを表示(全13行)第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12において,電源52の正極端子側の半導体モジュール2を上アームの半導体モジュールといい,電源52の負極端子側の半導体モジュール2を下アームの半導体モジュールといい,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とは互いに直列接続されて一対をなしており,第1の電力変換装置11においては,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2との間に,三相の交流モータである回転機51のU相,V相,W相の各電極へ接続されるパワー配線41が接続されており,第3の電力変換装置13も,上記第1の電力変換装置11と略同様の回路構成を有しており,直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2は,互いに共通の冷却管31の間に配設されており,上アームの半導体モジュール2が冷却管31の上流側,下アームの半導体モジュール2が冷却管31の下流側の位置に配されており,各電力変換装置1において,いずれの半導体モジュール2を被検モジュール20とするかについての決定方法において,第1の電力変換装置1の6個の半導体モジュール2に対しては,基本的には均等に被制御電流が流れ,ここで,均等とは,熱的平衡状態が実現される程度の時間で見たときに均等であることを意味し,瞬間的な通電量の均等を意味するものではなく,第1の電力変換装置11には,第2の電力変換装置12が隣接配置しているが,この第2の電力変換装置12は,第1の電力変換装置11よりも発熱量が小さいので,第1の電力変換装置11における中央の上下アームの2つの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となり,この2つの半導体モジュール2のうち,下アームの半導体モジュール2は冷却管31の下流側に位置しているため,この下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20とし,第2の電力変換装置12は,3つの互いに並列接続された半導体モジュール2が,上アーム側と下アーム側との双方に配されているので,並列接続された3つの半導体モジュール2には均等に電流が流れ,第2の電力変換装置12は,左側に第1の電力変換装置11が隣接しており,右側に第3の電力変換装置13が隣接していて,第1の電力変換装置11は,第2の電力変換装置12よりも発熱量は小さいが,第3の電力変換装置13は,第2の電力変換装置12よりも発熱量が大きいため,右端,即ち第3の電力変換装置13に最も近い上下アームの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となり,次に,上アームよりも下アームの半導体モジュール2のほうが,冷却管31の下流側になるため,下アームの半導体モジュール2のみを被検モジュール20とすることも考えられるが,第2の電力変換装置12は,昇降圧コンバータであって,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とには,必ずしも均等に電流が流れない,即ち,電力変換装置12の運転方法によって,上下アームの半導体モジュール2のうちの何れのほうが通電量が大きくなるかは変動するので,上アームと下アームの一方のみを被検モジュール20とすることはできず,両者を被検モジュール20とする必要があり,第3の電力変換装置13は,左端から1列目と2列目の半導体モジュール2,3列目と4列目の半導体モジュール2,5列目と6列目の半導体モジュール2が,それぞれ互いに並列接続されており,基本的に全ての半導体モジュール2に均等に電流が流れ,第3の電力変換装置13には,第2の電力変換装置12と第4の電力変換装置14とが隣接しているが,何れも第3の電力変換装置13よりも発熱量が小さいので,6列の半導体モジュール2の中では,中央の2列,即ち,左から3列目,4列目の半導体モジュール2が温度上昇しやすく,この2列の半導体モジュール2のうち,冷却器3の冷媒入口331から遠い方である第4列目の半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,より温度上昇しやすく,更に,上アームよりも下アームの半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,温度上昇がしやすいので,左から4列目の下アームの半導体モジュール2が,被検モジュール20となり,第4の電力変換装置14は,6個の半導体モジュール2に基本的に均等に電流が流れ,第4の電力変換装置14には,左側にのみ,より発熱量の大きい第3の電力変換装置13が隣接しているので,左端の2つの半導体モジュール2が被検モジュール20の候補となり,上アームよりも下アームの半導体モジュール2の方が冷却効率が低いため,温度上昇がしやすいので,左端の下アームの半導体モジュール2が,被検モジュール20となり,発熱のしやすさ,冷却のされやすさ等,種々の観点から,各電力変換装置1における最も温度上昇しやすい半導体モジュール2を選んで,被検モジュール20とすることにより,一層確実に各電力変換装置1の熱保護を行うことができる,複数の電力変換装置の複合体。」
2.引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(国際公開第2016/021314号)には,次の事項が記載されている。
ア 「[0026] 図4は,インバータ4の各相の特性等を示す表図である。[0027] 配線インダクタンスは,上述のように,配線の長さが長いほど大きいので,U相に係る配線インダクタンスLuと,V相に係る配線インダクタンスLvと,W相に係る配線インダクタンスLwとの関係は,Lu>Lv>Lwである。[0028] スイッチング速度とは,スイッチング素子Q1乃至Q6のようなスイッチング素子がオフ状態からオン状態(又はオン状態からオフ状態)へと切り替わる際の速度を意味する。スイッチング速度は,駆動ライン71乃至76の抵抗R1乃至R6が小さいほど速くなる。上述のように,R5,R6<R3,R4<R1,R2であるので,U相に係るスイッチング速度Vuと,V相に係るスイッチング速度Vvと,W相に係るスイッチング速度Vwとの関係は,Vw>Vv>Vuである。[0029] サージ電圧は,配線インダクタンスと電流変化率(dI/dt)の積に比例し,電流変化率は,スイッチング速度が速くなるほど大きくなる。U相は,配線インダクタンスLuが他の相よりも大きいが,スイッチング速度Vuが他の相よりも小さい。逆に,W相は,配線インダクタンスLwが他の相よりも小さいが,スイッチング速度Vwが他の相よりも大きい。V相は,配線インダクタンスLv及びスイッチング速度Vvは共に中間である。従って,サージ電圧は,各相において略同一となる。換言すると,各相のスイッチング速度は,好ましくは,各相の配線インダクタンスの相違を吸収してサージ電圧が同一となるように調整される。例えば,各相のスイッチング速度は,サージ電圧がスイッチング素子Q1乃至Q6の耐圧(共通)に対して同一のマージンを有するように設定される。[0030] 発熱量は,スイッチング損失に比例し,スイッチング損失は,スイッチング速度が小さいほど大きくなる。従って,U相に係る発熱量Quと,V相に係る発熱量Qvと,W相に係る発熱量Qwとの関係は,Qu>Qv>Qwである。[0031] 冷媒の温度(LLC水温)は,冷媒流路60の上流側の方が低いので(第1上下アーム41等から熱を奪いながら流れるため),U相を冷却する際のLLC水温Twuと,V相を冷却する際のLLC水温Twvと,W相を冷却する際のLLC水温Twwとの関係は,Tww>Twv>Twuである。[0032] チップ温度は,発熱量と冷媒の温度との関係する。U相は,発熱量Quが他の相よりも大きいが,冷却に供されるLLC水温Twuが他の相よりも低い。逆に,W相は,発熱量Quが他の相よりも小さいが,冷却に供されるLLC水温Twwが他の相よりも高い。V相は,発熱量Qv及びLLC水温Twvは共に中間である。従って,チップ温度は,各相において略同一となる。換言すると,冷媒の流れ方向は,各相の発熱量の相違を吸収してチップ温度が同一となるように決定される(図3A及び図3B参照)。[0033] このように本実施例によれば,U相に係るスイッチング速度Vuと,V相に係るスイッチング速度Vvと,W相に係るスイッチング速度Vwとの関係が,Vw>Vv>Vuであるので,Vu=Vv=Vuとする構成に比べて,V相に係るスイッチング速度Vv及びW相に係るスイッチング速度Vwが速くなる。これにより,V相に係る発熱量Qv及びW相に係る発熱量Qwを低減できる。よって,インバータ4全体としてのスイッチング損失(発熱量)を効率的に低減できる。」
イ 「図2[図:0001382299000004.jpg]」
ウ 「図4[図:0001382299000005.jpg]」
3.引用文献Aについて
(1)前置報告書において引用文献2として新たに引用された特開2011-135725号公報(以下,「引用文献A」という。)には,次の事項が記載されている。
ア 「【0027】次に,本例の電力変換装置1の回路の説明をする。図3に示すごとく,電力変換装置1は,インバータ部10aと,コンバータ部10bとから構成されている。コンバータ部10bによって直流電源11の電圧を昇圧し,インバータ部10aによって交流に変換する。インバータ部10aによって得られた交流電力を使って,三相交流モータ12を駆動し,車両を走行させる。インバータ部10aは,図3に示すごとく,複数個の半導体モジュール2から構成されている。個々の半導体モジュール2は,2個のスイッチング素子23(IGBT素子)と2個のフリーホイールダイオード24を有する。三相交流モータ12に接続される3本の交流端子21U,21V,21Wのうち,2本の交流端子21U,21Vに電流センサ5が取り付けられている。」
イ 「図1[図:0001382299000006.jpg]」
ウ 「図3[図:0001382299000007.jpg]」
第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明の「電力変換装置の複合体」は,当該「電力変換装置の複合体」を構成する「電力変換装置1」が「電気自動車又はハイブリッド自動車に搭載され」て,「その駆動源となる3相交流電力を生成する」ものである。そして,前記「電力変換装置の複合体」を構成する複数の「電力変換装置1」のうちの「第3の電力変換装置13」は,「直流電源から供給される直流電力」から「主駆動用の回転機に供給する交流電力を生成するインバータ」であるから,引用発明の「直流電源から供給される直流電力」を変換して交流電力を生成する「第3の電力変換装置13」は,本願発明1の「電源(3)から供給される電力を変換して出力する電力変換回路(2)」に相当する。
また,引用発明には,電力変換回路を制御する制御部は明示されていないものの,引用発明の電力変換装置がそのような制御部を備えていることは自明のことであるから,引用発明の「直流電源から供給される直流電力」を変換して交流電力を生成する「第3の電力変換装置13」を含む「電力変換装置の複合体」は,本願発明1の「電源(3)から供給される電力を変換して出力する電力変換回路(2)と,上記電力変換回路を制御する制御部(8)と,を備えた電力変換装置(1)」に相当するといえる。
イ 引用発明において,「第1の電力変換装置11及び第2の電力変換装置12には,IGBT素子等の半導体素子213とダイオード214と温度検出素子215を内蔵した半導体モジュール2がそれぞれ複数配設されており」,「第3の電力変換装置13も,上記第1の電力変換装置11と略同様の回路構成を有して」いるものであるから,引用発明の「第3の電力変換装置13」と本願発明1の「電力変換回路」とは,後記する点で相違するものの,“半導体モジュールを有”する点で共通している。
ウ 引用発明の「第1の電力変換装置11」においては,「上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2との間に,三相の交流モータである回転機51のU相,V相,W相の各電極へ接続されるパワー配線41が接続されており」,これと「略同様の回路構成を有して」いるとされる「第3の電力変換装置13」は,「直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2は,互いに共通の冷却管31の間に配設されており,上アームの半導体モジュール2が冷却管31の上流側,下アームの半導体モジュール2が冷却管31の下流側の位置に配されており」,「左端から1列目と2列目の半導体モジュール2,3列目と4列目の半導体モジュール2,5列目と6列目の半導体モジュール2が,それぞれ互いに並列接続されて」いるものであるから,「第3の電力変換装置13」は,左端から1列目と2列目の半導体モジュール2が互いに並列接続されて,三相の交流モータのU相,V相,W相のうちの第1の相を構成し,同様に,左端から3列目と4列目の半導体モジュール2が互いに並列接続されて,三相の交流モータのU相,V相,W相のうちの第2の相を構成し,左端から5列目と6列目の半導体モジュール2が互いに並列接続されて,三相の交流モータのU相,V相,W相のうちの第3の相を構成しているものと認められる。
そうすると,引用発明の「第3の電力変換装置13」と本願発明1の「電力変換回路」とは,“半導体モジュールの複数によって構成された,三相交流モータ(52)のための3つの相(6a,6b,6c)を有し”ている点で共通する。
エ 上記ウで検討したとおり,「第3の電力変換装置13」は,左端から1列目と2列目の半導体モジュール2が互いに並列接続されて,三相の交流モータのU相,V相,W相のうちの第1の相を構成し,同様に,左端から3列目と4列目の半導体モジュール2が互いに並列接続されて,三相の交流モータのU相,V相,W相のうちの第2の相を構成し,左端から5列目と6列目の半導体モジュール2が互いに並列接続されて,三相の交流モータのU相,V相,W相のうちの第3の相を構成していることから,例えば第1の相においては,左端から1列目の「直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2」のうちの「上アームの半導体モジュール2」と,左端から2列目の「直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2」のうちの「上アームの半導体モジュール2」とが並列接続され,また,左端から1列目の「直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2」のうちの「下アームの半導体モジュール2」と,左端から2列目の「直列接続された一対の上下アームの半導体モジュール2」のうちの「下アームの半導体モジュール2」とが並列接続されているものと認められ,第2の相,第3の相においても,同様に並列接続されているものと認められる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,「上記3つの相はいずれも,上記電源の高電位側端子(3a)に接続された上アーム(2a)と上記電源の低電位側端子(3b)に接続された下アーム(2b)とのそれぞれにおいて複数の半導体素子(11)が互いに並列接続された並列接続相として構成されて」いる点で共通する。
オ 引用発明では,「発熱のしやすさ,冷却のされやすさ等,種々の観点から,各電力変換装置1における最も温度上昇しやすい半導体モジュール2を選んで,被検モジュール20とすることにより,一層確実に各電力変換装置1の熱保護を行うことができる」ものであるから,引用発明の「電力変換装置の複合体」と本願発明1の「電力変換装置(1)」とは,後記する点で相違するものの,「上記電力変換回路の過熱保護制御を行う」点で共通しているといえる。
カ 上記ア~オの検討から,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
(一致点)
電源(3)から供給される電力を変換して出力する電力変換回路(2)と,上記電力変換回路を制御する制御部(8)と,を備えた電力変換装置(1)であって,
上記電力変換回路は,半導体モジュール(10)と,上記半導体モジュールの複数によって構成された,三相交流モータ(52)のための3つの相(6a,6b,6c)と,を有し,
上記3つの相はいずれも,上記電源の高電位側端子(3a)に接続された上アーム(2a)と上記電源の低電位側端子(3b)に接続された下アーム(2b)とのそれぞれにおいて複数の半導体素子(11)が互いに並列接続された並列接続相として構成されており,
上記電力変換回路の過熱保護制御を行う,電力変換装置(1)。
(相違点)
(相違点1)本願発明1の半導体モジュールは,「半導体素子(11)とダイオード(12)の並列接続の組を2組直列接続して内蔵する半導体モジュール(10)」であるのに対して,引用発明の半導体モジュールは,「IGBT素子等の半導体素子213とダイオード214と温度検出素子215を内蔵した半導体モジュール2」であって,「IGBT素子等の半導体素子213とダイオード214と温度検出素子215」を「2組直列接続して内蔵する」というものではない点。
(相違点2)加熱保護制御を行う際に,本願発明1は,「上記制御部は,上記3つの相の中で使用時の素子温度が最も高いと予測される半導体素子(11a)を備える相の上記上アーム及び上記下アームのいずれか一方を対象アームとして,上記対象アームの互いに並列接続された複数の半導体素子(11)の間に異なる大きさの電流が流れる電流アンバランス状態を考慮して上記複数の半導体素子の全ての素子温度についての温度情報を検出し,検出した上記温度情報と設定した閾値(Tr)とに基づいて上記電力変換回路の過熱保護制御を行う」ものであるのに対し,引用発明は,そのような態様で加熱保護制御を行うものではない点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み,上記相違点2について先に検討する。
引用発明には,いずれの半導体モジュール2を被検モジュール20とするかを決定する手法として,例えば,第1の電力変換装置1では,6個の半導体モジュール2に対して基本的には均等に被制御電流が流れると仮定し,まず,隣接配置されている電力変換装置の発熱量が大きいか否かを判断し,隣接する電力変換装置の発熱量が小さい場合には,自身の電力変換装置を構成する複数の半導体モジュール2のうちの中央に位置する上下アームの2つの半導体モジュール2を被検モジュールの候補とし,さらに,上下アームの2つの半導体モジュール2のうち下アームの半導体モジュール2は冷却管31の下流側に位置しているためこれを被検モジュールと決定することが記載され,
また,第2の電力変換装置2では,3つの互いに並列接続された半導体モジュール2には均等に電流が流れると仮定し,右側に隣接している第3の電力変換装置13の発熱量が大きいため,第3の電力変換装置13に最も近い上下アームの半導体モジュール2のうちの下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20とすることが考えられるところ,第2の電力変換装置12は,昇降圧コンバータであって,上アームの半導体モジュール2と下アームの半導体モジュール2とに必ずしも均等に電流が流れないことから,上アームと下アームの両方を被検モジュール20と決定することが記載され,
第3の電力変換装置13では,それぞれ互いに並列接続されている,左端から1列目と2列目の半導体モジュール2,3列目と4列目の半導体モジュール2,5列目と6列目の半導体モジュール2には均等に電流が流れると仮定し,第3の電力変換装置13に隣接する第2の電力変換装置12と第4の電力変換装置14は何れも第3の電力変換装置13よりも発熱量が小さいので,6列の半導体モジュール2の中では,中央の2列,即ち,左から3列目,4列目の半導体モジュール2が温度上昇しやすく,この2列の半導体モジュール2のうち,冷却器3の冷媒入口331から遠い方である第4列目の下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20と決定することが記載され,
さらに,第4の電力変換装置14では,6個の半導体モジュール2には基本的に均等に電流が流れると仮定し,左側に発熱量の大きい第3の電力変換装置13が隣接しているので,左端の2つの半導体モジュール2のうち下アームの半導体モジュール2を被検モジュール20と決定することが記載されている。
これらの記載によれば,引用発明は,例えば,発熱のしやすさ,冷却のされやすさ等,種々の観点から,各電力変換装置1における最も温度上昇しやすい半導体モジュール2を被検モジュール20と決定することにより,一層確実に各電力変換装置1の熱保護を行うことができるというものである。
そして,引用発明は上記のように種々の観点を用いて最も温度上昇しやすいと予測される半導体モジュール(半導体素子)を選択しているものの,引用発明には,三相交流モータ(52)のための「3つの相」の中で「使用時の素子温度が最も高いと予測される半導体素子(11a)を備える相」を特定し,当該「相」の中の上アーム又は下アームを対象アームとして選択した上で,選択された対象アーム内の全ての半導体素子を,素子温度を検出する素子として選択するという手法についての記載はない。
また,そのような手法で温度情報を検出する半導体素子を選択することは,引用文献1,2及び引用文献Aの何れにも記載も示唆もされておらず,また,そのような手法が,本願出願前に当該技術分野における周知技術であったということもできない。
そうすると,上記のように種々の観点で加熱保護制御を実行している引用発明において,当該観点による加熱保護制御に変えて,三相交流モータ(52)のための「3つの相」の中で「使用時の素子温度が最も高いと予測される半導体素子(11a)を備える相」を特定し,当該「相」の中の上アーム又は下アームを対象アームとして選択した上で,選択された対象アーム内の全ての半導体素子を,素子温度を検出する素子として選択するという手法を採用する動機付けがあるとはいえず,そのように構成することが,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって,上記相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2.本願発明2-6について
本願発明2-6は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の上記相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
第7 原査定について
<理由1(特許法第29条第2項)について>
令和3年6月17日付けの手続補正で補正された請求項1は,「上記制御部は,上記3つの相の中で使用時の素子温度が最も高いと予測される半導体素子(11a)を備える相の上記上アーム及び上記下アームのいずれか一方を対象アームとして,上記対象アームの互いに並列接続された複数の半導体素子(11)の間に異なる大きさの電流が流れる電流アンバランス状態を考慮して上記複数の半導体素子の全ての素子温度についての温度情報を検出し,検出した上記温度情報と設定した閾値(Tr)とに基づいて上記電力変換回路の過熱保護制御を行う」という事項を有するものであり,上記のとおり,本願発明1-6は,上記引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。
第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-007963