特許拒絶査定不服審判
2021-007443
靴下およびその製造方法
- 審判番号
- 2021-007443
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-084372
- 請求日
- 2021年06月08日
- 審決日
- 2022年10月12日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】帝人フロンティア株式会社
- 【請求人代理人】為山 太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 八木 誠
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P18 .121-Z (A41B) / P18 .575-Z (A41B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-84372号「靴下およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018-178335〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年4月21日の出願であって、令和2年11月27日付けで拒絶理由通知をされ、同年12月22日に意見書が提出されるとともに、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、令和3年4月5日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して、同年6月8日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。
第2 令和3年6月8日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月8日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は補正箇所である)。
「【請求項1】
織物組織または編物組織を有する生地を含む靴下であって、前記生地が、単繊維径が10~3000nmの極細フィラメントA-1と単繊維径が前記極細フィラメントA-1より大のフィラメントA-2を含む複合糸Aと、伸縮性のある糸条Bとを含み、生地の摩擦係数が0.4以上であり、
前記複合糸Aが、フィラメントA-2が芯部に位置する複合仮撚捲縮加工糸であり、前記複合糸Aと糸条Bの割合がA:B=95:5~15:85であり、前記複合糸Aが生地の両面に露出しており、抗菌活性値3.2以上の抗菌性を有していることを特徴とする靴下。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
本件補正前の、特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
織物組織または編物組織を有する生地を含む靴下であって、前記生地が、単繊維径が10~3000nmの極細フィラメントA-1と単繊維径が前記極細フィラメントA-1より大のフィラメントA-2を含む複合糸Aと、伸縮性のある糸条Bとを含み、生地の摩擦係数が0.4以上であり、
前記複合糸Aが、フィラメントA-2が芯部に位置する複合仮撚捲縮加工糸であり、前記複合糸Aと糸条Bの割合がA:B=95:5~15:85であり、前記複合糸Aが生地の両面に露出していることを特徴とする靴下。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1の「複合糸A」について、「抗菌活性値3.2以上の抗菌性を有している」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項等
ア 引用文献1について
(ア)記載事項
原査定で引用された特開2013-185269号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与。以下同様。)。
「【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る靴下を示す底面図である。図2は、本発明の一実施形態に係る靴下を示す平面図である。本実施形態の靴下1は、着用者の踝までを覆う、いわゆるアンクル丈の靴下である。・・・」
「【0031】
図3(a)は、第1編地を示す図であり、図3(b)は、第1編地の編目を編成するFTY(FilamentTwisted Yarn)を示す図である。靴下1は、少なくとも、着用者の趾骨部B1(図5及び図6参照)に相当する部分の足底側を覆う領域71と、着用者の中足骨頭部B2(図5及び図6参照)に相当する部分の足底側を覆う領域72、言い換えれば、足趾部の足底M2(図5及び図6参照)、及び足指の付根部M3(図5参照)と土踏まずM4(図5及び図6参照)との間の盛り上がった足根小球M5(図5及び図6参照)を覆う領域72とからなる第1領域73に配置される編地が、芯糸92に巻糸93を巻きつけたFTY(カバリング糸)91のみから編成される編目94により形成される(以後、「第1編地P1」と称す)。なお、第1編地P1については、後段にて詳述する。
【0032】
本実施形態の靴下1では、図1及び図2に示すように、足趾部3のうち着用者の趾骨部B1(図5及び図6参照)に相当する部分の足底側を覆う領域71と、足部4のうち着用者の中足骨頭部B2(図5及び図6参照)に相当する部分の足底側を覆う領域72とからなる第1領域73とに加え、足部4のうち着用者の土踏まず部M4(図5及び図6参照)を覆う領域74と、踵部5と同じ領域である領域75と、第1袋部31~第5袋部35において、着用者の足底側から爪先を跨って足甲側にまで延びる先端部分31a~35aを覆う領域81~85と、に配置される編地が第1編地P1となっている。」
「【0034】
図4(a)は、第2編地を示す図であり、図4(b)は、第2編地の編目を編成するFTY(FilamentTwisted Yarn)を示す図である。靴下1は、少なくとも、着用者の足甲側の少なくとも一部を覆う第2領域88に配置される編地が、芯糸96に巻糸97を巻きつけたFTY(カバリング糸)95のみから編成される編目98により形成される(以後、「第2編地P2」と称す)。FTY95は、芯糸96の伸縮性を保ちつつ、巻糸96により編立時のガイドとの摩擦を抑えることができる編立可能な高伸縮糸である。編地をFTY95のみで編成することにより、伸縮性の少ない紡績糸を表糸に使用する場合に比べ、高い伸縮性を確保することができる。なお、第2編地P2については、後段にて詳述する。
【0035】
本実施形態の靴下1では、図1及び図2に示すように、足趾部3のうち足甲側を覆う領域86と、足部4のうち足甲側を覆う領域87と、レッグ部6のうち足首腹側を覆う領域89と、レッグ部6のうち足首背側を覆う領域76とに配置される編地が第2編地P2となっている。」
「【0036】
第1編地P1について詳細に説明する。第1編地P1は、図3(a)及び(b)に示すように、芯糸92及び当該芯糸92に巻きつけられた巻糸93からなるFTY91のみから編成される編目94により形成されている。
【0037】
第1編地P1の芯糸92としては、20デニール以上100デニール以下のポリウレタン長繊維を用いることが好ましい。また、第1編地P1の巻糸93としては、単繊維径が200nm以上1000nm以下、総デニール数が20以上200以下の長繊維(フィラメント糸)を用いることが好ましい。本実施形態の靴下1では、20デニールのポリウレタン長繊維を芯糸92として用い、単繊維径が700nmのフィラメントで構成され、総デニール数が35の長繊維を巻糸93として用いた。
【0038】
直径が極めて小さい200nm以上1000nm以下の複数のフィラメントによって巻糸93を形成することで、編地と接地面(肌面又は履物)との接触面積が大きくなるため、当該巻糸93と接触する着用者の肌面又は履物との間に大きな摩擦力が生じる。巻糸93は、編目94形成時に裏面(着用者の肌面側)と表面(履物側)との両方に露出しているので、着用時に肌面と靴下1との間の滑りを低減することができると共に、靴下1と履物との間の滑りも低減することができる。このため、走行や歩行に際して、靴下1と着用者の肌面との間のグリップ力及び靴下1と履物との間のグリップ力が保持され、着用者の身体能力を効果的に瞬発力や推進力に変換することができ、結果、運動能力として十分に発揮することができる。また、靴下1を着用した際のずれにくさというメリットも提供することもできる。
【0039】
また、このような靴下1では、芯糸92に20デニール以上100デニール以下の糸が用いられるので、着用者の足の動きに追随できるフィット性を得ることもできる。これにより、着用者の足と靴下1との一体感を提供することができる。」
「【0044】
本実施形態の靴下1では、図1に示す領域71~領域75を覆う第1編地P1の履物の中敷に対する静止摩擦係数Aが0.6以上に設定され、第1編地P1の着用者の足底に対する静止摩擦係数Bが1.0以上に設定され、当該静止摩擦係数Aは当該静止摩擦係数Bよりも小さく設定されている。すなわち、第1編地P1と履物の中敷との間よりも、動力の発信源である足底と第1編地P1との間の方が大きな力が働く分、足底と第1編地P1との間に高い摩擦力が必要になるため、静止摩擦係数Aよりも静止摩擦係数Bを高い値に設定する必要がある。また、これらの値を下回ると十分な摩擦力が得られず運動能力を十分に発揮できない可能性がある。これにより、着用者の肌面と靴下1との間、又靴下1と履物との間の滑りが低減され、ハードな競技を行う場合であっても、グリップ力を発揮することができる。この結果、本実施形態の靴下1では、従来の靴下よりも蹴り出し時の推進力が高く確保される。」
「【0056】
(実験例2)
実験例2では、下記(A)~(C)の靴下(以下、各サンプルと称す)について、着用者の足底を覆う部分に配置される編地の履物の中敷に対する静止摩擦係数と、当該編地の着用者の足底(足裏肌面)に対する静止摩擦係数とを測定した。具体的には、(a)株式会社アシックス製の中敷(インソール)及び(b)足裏肌面のそれぞれの上に、5cm×5cmの板に装着した各サンプル((A)~(C))を載置し、更にそのサンプル品の上から荷重(1.73kg/25cm2)を加えた。この状態で、5cm×5cmの板に装着した各サンプル((A)~(C))を一方向に引っ張ったときの応力(最大静止摩擦力)をそれぞれ測定し、静止摩擦係数(応力/荷重)をそれぞれ算出した。応力の測定には、引張試験機(株式会社イマダ製:デジタルフォースゲージZP50N)を用いた。また、各サンプルについて10回の計測を行い、その平均値を算出した。この結果を以下の表2に示す。」
図1
[図:0001391416000001.jpg]
図2
[図:0001391416000002.jpg]
図3
[図:0001391416000003.jpg]
図4
[図:0001391416000004.jpg]
(イ)引用文献1の記載によって認められること
a 【0029】、【0032】、【0035】及び図1、2の記載によれば、靴下1は、第1編地P1と第2編地P2を有することが認められる。
b 【0031】及び図3(a)、(b)の記載によれば、第1編地P1は、芯糸92に巻糸93を巻きつけたFTY91のみから編成されることが認められ、【0034】及び図4(a)、(b)の記載によれば、第2編地P2は、芯糸96に巻糸97を巻きつけた高伸縮糸であるFTY95のみから編成されることが認められる。
c 【0037】の記載によれば、芯糸92は、20デニールのポリウレタン長繊維であること、及び、巻糸93は、単繊維径が700nmのフィラメントで構成され、総デニール数が35の長繊維であることが認められる。
(ウ)引用発明
上記(イ)a~c及び【0044】の記載を総合すると、引用発明1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1編地P1と第2編地P2を有する靴下1であって、第1編地P1は、20デニールのポリウレタン長繊維である芯糸92に、単繊維径が700nmのフィラメントで構成され、総デニール数が35の長繊維である巻糸93を巻きつけたFTY91のみから編成され、第2編地P2は、芯糸96に巻糸97を巻きつけた高伸縮糸であるFTY95のみから編成され、第1編地P1の履物の中敷に対する静止摩擦係数Aが0.6以上に設定され、第1編地P1の着用者の足底に対する静止摩擦係数Bが1.0以上に設定される、靴下1。」
イ 引用文献2について
原査定で引用された特開2014-210986号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
従来、優れた滑り止め性能、ワイピング性能、ソフトな風合いを得るため、超極細のポリエステルフィラメントを用いた布帛が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、かかる布帛において、海島型複合繊維を用いて布帛を得た後、海島型複合繊維の海成分をアルカリで溶解除去するため設備上の制約があり、また、工程が複雑になるという問題があった。さらには、ウールなどの耐アルカリ性に弱点がある他繊維との交織や交編ができないという問題があった。
【0003】
また、特許文献2では、超極細のポリエステルフィラメントが提案されているが、かかる超極細のポリエステルフィラメントを用いて布帛や繊維製品を製造すると、製造設備によりフィラメント表面が擦過されることにより糸切れなどが発生し、工程安定性に劣り、高品位の布帛や繊維製品を得ることができないという問題があった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、超極細のポリエステルフィラメントを含む糸条であって、取扱性に優れ、かつ高品位の布帛や繊維製品を得ることが可能な糸条を提供することにある。」
「【0009】
また、本発明によれば、前記の糸条を用いて得られた布帛が提供される。また、本発明によれば、前記の糸条を用いて得られた、靴下、手袋、サポーター、衣料、織編テープ、紐からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。」
「【0018】
本発明の糸条において、例えば、ポリウレタン繊維やポリエーテルエステル系繊維などからなる弾性繊維糸条と、ポリエステルフィラメントAとをインターレース空気ノズルなどにより空気混繊させた複合糸や、弾性繊維糸条とポリエステルフィラメントAとを複合仮撚捲縮加工した複合糸や、弾性繊維糸条のまわりにポリエステルフィラメントAをカバリングした複合糸などや、紡績糸との複合糸でもよい。例えば、ポリエステルフィラメントAを鞘部に配し、フィラメントBなどの他の繊維を芯部に配した複合糸とすることも好ましい。」
ウ 引用文献3について
特開2011-179143号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、抗菌剤を添加しなくてもそれ自体が抗菌性能を有し、且つ衣料用用途としてソフト性と実用強度を備えたポリ乳酸極細繊維を含む繊維構造体を提供することにある。」
「【0032】
本発明の繊維構造体としては具体的には、衣料品としてスポーツウエア、ホームウエア、コート、ブルゾン、ブラウス、シャツ、スカート、スラックス、室内運動着、パジャマ、寝間着、肌着、オフィスウェア、作業服、食品白衣、看護白衣、患者衣、介護衣、学生服、厨房衣などが挙げられる。雑貨用品としては、エプロン、タオル、手袋、マフラー、靴下、帽子、靴、サンダル、かばん、傘などが挙げられる。インテリア用品としては、カーテン、絨毯、マット、こたつカバー、ソファーカバー、クッションカバー、ソファー用側地、便座カバー、便座マット、テーブルクロスなどが挙げられる。寝具用品としては、布団用側地、布団用詰め綿、毛布、毛布用側地、枕の充填材、シーツ、防水シーツ、布団カバー、枕カバーなどが挙げられる。介護用品としては、サポーター、コルセット、リハビリ用靴や、肌着、おむつカバー、小物などが挙げられる。」
エ 引用文献4について
特開2016-14214号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱性に加え抗菌活性を有するプラチナ繊維に関する。」
「【0049】
(5)抗菌性
【0050】
プラチナナノコロイドを付着させた繊維製品である抗菌消臭発熱性製品について(財)日本紡績検査協会により抗菌性の試験を行った。試験菌株は黄色ぶどう球菌であり、試験方法はJIS L 1902 :2008定量試験(菌液吸収法)による。但し、洗濯方法は、JIS L 0217 103号の試験方法による。洗剤は、JAFET標準洗剤を使用した。
【0051】
試験結果を以下に示す。
【表7】
[図:0001391416000005.jpg]
増殖値算出方法:log b-log a (試験成立条件;増殖値が1.0以上であること)
各活性値の算出方法:殺菌活性値=log a-log c
静菌活性値=(log b-log a)-(log c-log o)
【表8】
[図:0001391416000006.jpg]
【0052】
この結果から、洗濯0回よりも、洗濯10回後の方が、殺菌活性値、静菌活性値が高い値となっており、抗菌効果が高まっていることが明らかになった。このように、洗濯0回よりも、洗濯10回後の方が、値が高くなり、抗菌性が高まっていることは、本発明のプラチナナノコロイドを付着させた繊維製品について、触媒化学が作用していることに起因している。
【0053】
一方、(財)日本化学繊維検査協会による抗菌性試験も行った。その結果を以下に示す。
【表9】
[図:0001391416000007.jpg]
【表10】
[図:0001391416000008.jpg]
【表11】
[図:0001391416000009.jpg]
【表12】
[図:0001391416000010.jpg]
【0054】
表9,10は普通の抗菌剤のみを使用した試料の試験結果を示しており、表9は洗濯0回及び洗濯10回後を、表10は洗濯20回後の試料についての試験結果である。表11,12はプラチナ配合した抗菌剤を使用した試料の試験結果を示しており、表11は洗濯0回及び洗濯10回後を、表12は洗濯20回後の試料についての試験結果である。
【0055】
表10の抗菌加工、プラチナなし、洗濯20回後の試料の18時間培養後の生菌数の対数値と表12の抗菌加工、プラチナ入り、洗濯20回後の試料の18時間培養後の生菌数の対数値を比較すると、後者が飛躍的に良好な数値となっていることから、本製品の抗菌性の高さが証明される。また、表11,12に示されるように、抗菌加工、プラチナ入りのカラー生地では、洗濯10回後よりも洗濯20回後の方が静菌活性値の値が高くなっており、抗菌性が高まっていることが明らかとなった。このように、洗濯10回よりも、洗濯20回後の方が、値が高くなり、抗菌性が高まっていることは、本発明のプラチナナノコロイドを付着させた繊維製品について、触媒化学が作用していることに起因している。」
「【0125】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本実施形態に係るプラチナ加工製品としては、例えば、枕カバー(ピロケース)、布団カバー(掛け布団カバー、敷き布団カバー)、布団の衿カバー、敷きパット、枕パット(ピロパット)、シーツ等の寝具カバーや、キャミソール、タンクトップ、ショーツ、ブリーフ、トランクス、ブラジャー等の下着や、靴下やパンティストッキング等の靴下類や、パジャマやネグリジェ等の寝間着や、綿布団、羊毛布団、羽毛布団、羽根布団、化繊布団等の布団や、ハンドタオル、フェイスタオル、マスク、ボディタオル、バスタオル、スポーツタオル、ビーチタオル等のタオル等が実現される。さらに、ブーツやスニーカー、スリッパ、サンダル等の靴類や、その中敷き、財布やカバン等のナイロン製品、はらまきやシャツ、ズボン、学生服、ドレス等の衣服、カーテンやテーブルクロス、バスマットやキッチンマット、トイレタリー製品等が実現される。この他、本発明は、生活雑貨、日用製品一般に適用可能である。」
(3)対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「第1編地P1と第2編地P2」は、その機能や構造からみて、前者の「織物組織または編物組織を有する生地」に相当し、以下同様に、「有する」ことは「含む」ことに、「靴下1」は「靴下」に、「芯糸92」は「フィラメントA-2」に、「単繊維径が700nmのフィラメントで構成され」る「巻糸93」は「単繊維径が10~3000nmの極細フィラメントA-1」に、「FTY91」は「複合糸A」に、「高伸縮糸である」ことは「伸縮性のある」ことに、「FTY95」は「糸条B」に、それぞれ相当する。
後者の「第1編地P1と第2編地P2を有する靴下1」は、前者の「織物組織または編物組織を有する生地を含む靴下」に相当する。
後者の「第1編地P1は、20デニールのポリウレタン長繊維である芯糸92に、単繊維径が700nmのフィラメントで構成され、総デニール数が35の長繊維である巻糸93を巻きつけたFTY91のみから編成され、第2編地P2は、芯糸96に巻糸97を巻きつけた高伸縮糸であるFTY95のみから編成され」は、前者の「前記生地が、単繊維径が10~3000nmの極細フィラメントA-1と単繊維径が前記極細フィラメントA-1より大のフィラメントA-2を含む複合糸Aと、伸縮性のある糸条Bとを含み」と、「前記生地が、単繊維径が10~3000nmの極細フィラメントA-1とフィラメントA-2を含む複合糸Aと、伸縮性のある糸条Bとを含み」という点で共通する。
後者の「第1編地P1」は、FTY91のみから編成されるものであるから、後者の「第1編地P1と第2編地P2を有する靴下1」は、前者の「前記複合糸Aが生地の両面に露出している」ことにも相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「織物組織または編物組織を有する生地を含む靴下であって、前記生地が、単繊維径が10~3000nmの極細フィラメントA-1とフィラメントA-2を含む複合糸Aと、伸縮性のある糸条Bとを含み、前記複合糸Aが生地の両面に露出している、靴下。」
<相違点1>
複合糸Aについて、本件補正発明では、フィラメントA-2は、「単繊維径が前記極細フィラメントA-1より大」であり、フィラメントA-2が芯部に位置する「複合仮撚捲縮加工糸」であるのに対し、引用発明では、芯糸92は、単繊維径が巻糸93より大であるか不明であり、芯糸92に巻糸93を巻きつけたものである点。
<相違点2>
本件補正発明は、生地の「摩擦係数が0.4以上」であるのに対し、引用発明は、第1編地P1の「履物の中敷に対する静止摩擦係数Aが0.6以上」に設定され、第1編地P1の「着用者の足底に対する静止摩擦係数Bが1.0以上」に設定される点。
<相違点3>
複合糸Aと糸条Bの割合について、本件補正発明では、「A:B=95:5~15:85」であるのに対し、引用発明は、不明である点。
<相違点4>
本件補正発明は、「抗菌活性値3.2以上の抗菌性を有している」のに対し、引用発明は、抗菌性について不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用文献2には、優れた滑り止め性能を有する、高品位の(靴下を含む)繊維製品を得ることが可能な糸条として、ポリウレタン繊維などからなる弾性繊維糸条と、ポリエステルフィラメントAとを複合仮撚捲縮加工した複合糸とすること(【0002】、【0005】、【0009】、【0018】等参照。以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されており、また、その【0018】には、上記複合仮撚捲縮加工した複合糸と並列的に、引用発明の「FTY91」と同様の構造を持つ、弾性繊維糸条のまわりにポリエステルフィラメントAをカバリングした複合糸が記載され、2つの該複合糸が機能的に同様である、すなわち、互いに置換可能であること示唆されていると認められるところ、引用文献2技術事項は、靴下を含む繊維製品に関するものであり、引用発明とは、技術分野が共通又は関連し、また、滑り止めという機能も引用発明と共通するから、引用発明において、引用文献2技術事項を適用し、FTY91を引用文献2技術事項の上記複合仮撚捲縮加工した複合糸に置き換えることは、当業者が容易に想到し得たことである。
引用発明の「20デニールのポリウレタン長繊維である芯糸92」の径を概算する。芯糸92の断面形状を円で近似し、その径をr[cm]とし、ポリウレタンの密度d[g/cm3]とすると、芯糸92は20デニールであり、9000mで20gであるから、πr2×9000×100×d=20である。よって、r=√(2/πd)/300となる。一般に、ポリウレタンの密度は、1.1~1.5g/cm3であり、π≒3.1415とすると、芯糸92の径r≒0.0022~0.0025[cm]=22000~25000[nm]である。
そして、引用発明において、芯糸92は、単繊維のみで構成されるのか、複数の単繊維で構成されるのか、また、その単繊維径がどの程度であるのか、引用文献1には記載がなく不明であるが、上記で概算したように、芯糸92の径は約22000~25000nmであり、巻糸93の単繊維径の700nmより十分太いこと、及び、第1編地P1はFTY91により編成され、FTY91は芯糸92に巻糸93を巻きつけたものであり、それを複合仮撚捲縮加工した複合糸に置き換えても、複合糸としての基本的な構造はほとんど変わらないことを勘案すると、FTY91を複合仮撚捲縮加工した複合糸に置き換える際、芯糸92の単繊維を例えば30本以下として、芯糸92の単繊維径を巻糸93の単繊維径より太くすることは、当業者であれば、必要に応じて適宜選択し得る設計的事項にすぎない。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点2について
本件補正発明の「生地の摩擦係数」について、本願明細書を参照すると、【0037】には、
「かくして得られた靴下は、超極細のフィラメントを靴下の表面および裏面の両面に露出させることにより、足裏と靴下との滑り、および靴と靴下との滑りが防止されることにより着用快適性に優れた靴下が得られる。
その際、生地の摩擦係数が0.4以上(好ましくは0.4~2.5)であることが肝要である。該摩擦係数が0.4未満であると滑り防止効果が小さく好ましくない。なお、該摩擦係数はASTM D1894-95の方法で静止摩擦係数を測定し、その静止摩擦係数の値を、摩擦係数とする。また、生地の表面と裏面とで摩擦係数が異なる場合は、どちらか一方が0.4以上であればよいが、両面の摩擦係数が0.4以上であることが好ましい。」と記載されている。
ASTM D1894は、上部試料を下部試料の上に置き、上部試料の上に試験荷重となる重りを載せ、上部試料に引き紐を付けて下部試料上で引っ張り、その際の抵抗力を計測することで、摩擦係数を求めるもの(例えば、URL:https://www.tic-test.co.jp/service/friction/参照)であるところ、引用発明の「静止摩擦係数A」、「静止摩擦係数B」の計測方法は、引用文献1の【0056】に示されており、ASTM D1894の計測方法と同等の原理に基づくものであると認められる。 そして、本願明細書の上記記載を参酌すると、本件補正発明の「生地の摩擦係数」は、生地の足裏に対する静止摩擦係数、及び、生地の靴(すなわち、靴の内側)に対する静止摩擦係数を含むと解され、引用発明の「第1編地P1の履物の中敷に対する静止摩擦係数A」、「第1編地P1の着用者の足底に対する静止摩擦係数B」は、本件補正発明の「生地の摩擦係数」に相当するから、相違点2は、実質的な相違点であるとは認められない。
(ウ)相違点3について
引用文献1(特に、【0032】、【0035】及び図1、2等)を参酌すると、第1編地P1と第2編地P2の一方を他方に比べて極端に多くすることは、記載も示唆もされていないことを勘案すると、引用文献1に接した当業者にとって、引用発明において、第1編地P1を編成するFTY91と第2編地P2を編成するFTY95の割合を、例えば、図1、2を参照して、95:5~15:85の範囲内の値とすることは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る設計的事項である。
(エ)相違点4について
本件補正発明の「抗菌活性値」は、本願明細書の【0046】の記載によれば、「JIS L 1902:2002」によって求められるものであると認められるところ、「抗菌活性値」との用語は、「JIS L 1902:2015」で新たに導入されたものであり、「JIS L 1902:2008」以前においては、「静菌活性値」との用語で表されたものと同じもの(例えば、URL:https://www.boken.or.jp/news/jis_l1902/参照。)であるので、本件補正発明の「抗菌活性値」は、「JIS L 1902:2008」以前の「静菌活性値」と同じものであり、本願明細書の【0046】の記載の「JIS L 1902:2002」が「JIS L 1902:2015」の誤記であるとすると、本件補正発明の「抗菌活性値」は、「JIS L 1902:2015」の「抗菌活性値」である。
そうすると、引用文献4に記載の「静菌活性値」は、引用文献4の【0050】の記載によれば、「JIS L 1902:2008」によるものであるから、本件補正発明の「抗菌活性値」に相当することは明らかである。
靴下において、ある程度以上の抗菌性を持たせることは、本願出願前において、周知の課題(例えば、引用文献3の【0007】、【0032】、及び、引用文献4の【0001】、【0125】等参照。)であると認められるところ、例えば、引用文献4(【0051】~【0055】、【0125】、特に、表8、9、11、12の「静菌活性値」等参照。)に示されるように、本件補正発明の「抗菌活性値3.2以上」との数値は、本願出願前において、当業者が実施困難であるような、又は、当業者が通常想定し得ないような特殊な数値であるとはいえないから、引用発明において、ある程度以上の抗菌性を持たせることによって、相違点4に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る設計的事項である。
そして、相違点4に係る本件補正発明の構成による効果(本願明細書の【0030】参照)は、引用文献1、3,4に接した当業者であれば、予測し得る程度のものであり、格別なものであるとは認められない。
ウ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記の通り却下されたので、本件補正前の本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(2)」に示したとおりのものと認められる。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 1~12
・引用文献 1、2
・引用文献等一覧
1.特開2013-185269号公報
2.特開2014-210986号公報
3 引用文献の記載事項等
引用文献1の記載事項等は、上記「第2 2(2)ア」に示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、「複合糸A」について、「抗菌活性値3.2以上の抗菌性を有している」との限定を削除するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の事項を付加したものである本件補正発明が、上記「第2 2(3)」で説示したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-007443