2021-005651
イジングモデルの計算装置
- 審判番号
- 2021-005651
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-041757外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年04月30日
- 審決日
- 2022年01月06日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】日本電信電話株式会社
- 【請求人代理人】沖川 仁
- 【請求人代理人】永田 健悟
- 【請求人】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
- 【請求人代理人】沖川 仁
- 【請求人代理人】永田 健悟
- 分類
- P18 .113-WY (G06E) / P18 .121-WY (G06E)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月6日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
出
第2 原査定の概要
原査定(令和3年1月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1 本願請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 本願請求項1~4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第3 本願発明
本願請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明4」という。)は、令和3年4月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される発明であり、それらのうちの本願発明1は、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】イジングモデルの複数のスピンに擬似的に対応し、同一の発振周波数を有する複数の光パルスを発生・増幅させる光増幅器と、前記複数の光パルスを周回伝搬させるリング共振器と、前記複数の光パルスが前記リング共振器を周回伝搬するたびに、前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分を測定する、光パルス測定部と、前記光パルス測定部において測定した前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分の情報を入力として、前記イジングモデルの結合係数と前記複数の光パルスの前記情報とから決定される、ある光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分に関わる相互作用を算出する、相互作用計算部と、前記相互作用計算部において算出された前記相互作用に基づいて、前記リング共振器内を周回伝搬する前記複数の光パルスに対して重ね合わされる光パルスの位相および振幅を変調することにより、前記ある光パルスに関わる相互作用を実装する相互作用実装部と、を備え、前記相互作用計算部は、測定したN個の光パルスの位相および振幅がc1 、c2 、c3 、c4 、・ci ・cN-1 、cN を要素とする列ベクトルに対し、イジングモデルの結合係数を演算パラメータとする以下に示す行列を乗算して、得られた列ベクトルの要素f1 、f2 、f3 、f4 、・fi ・fN - 1 、fN を前記N個の光パルスに対応するN個のある光パルスに関わる相互作用として演算し、【数1】[図:0001381563000001.jpg]前記光パルス測定部は、前記光パルス測定部と前記相互作用計算部と前記相互作用実装部とにより構成されるフィードバックループ制御が繰り返される過程で、前記複数の光パルスが安定状態に到達した後に測定した前記複数の光パルスの位相を、イジングモデルのスピンに変換することにより、イジングモデルのスピンの値を得ることを特徴とするイジングモデルの計算装置。」
なお、本願発明2~4は、本願発明1を減縮した発明である。
第4 引用文献1、引用発明
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由にて引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。)。
「[0060](本発明のイジングモデルの量子計算装置の構成及び原理)本発明のイジングモデルの量子計算装置Qの構成を図4に示す。本発明では、イジングハミルトニアンを、1体~3体の相互作用を含むとして、数式3のようにする。[数3][図:0001381563000002.jpg][0061] パラメトリック発振器1は、イジングモデルの複数のスピンσ1~σ4に擬似的に対応し同一の発振周波数を有する複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4をパラメトリック発振させる。リング共振器2は、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4を周回伝搬させる。複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4は、SP1、SP2、SP3、SP4、SP1、SP2、SP3、SP4、・・・の順序で、後述のフィードバックループに入る。[0062] 暫定的スピン測定部3は、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4がリング共振器2を周回伝搬するたびに、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の位相を暫定的に測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の擬似的なスピンσ1~σ4を暫定的に測定する。具体的には、暫定的スピン測定部3は、図6及び図7を用いて後述する局部発振パルスLOを用いて、ホモダイン検波を行う。[0063] 相互作用計算部4は、ある擬似的スピンパルスSPiが関わるイジングモデルの結合係数λi、Jij、Kijk及び暫定的スピン測定部3が暫定的に測定した他の擬似的スピンパルスSPj、SPkの擬似的なスピンσj、σkに基づいて、ある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σiに対する比例係数λi+ΣJijσj+ΣKijkσjσk)を暫定的に計算する。図4では、i、j、k=1~4の場合を示している。[0064] ここで、NP完全問題などが、イジングモデルにマッピングされた後、相互作用計算部4は、イジングモデルの結合係数λi、Jij、Kijkを入力する。[0065] 相互作用実装部5は、ある擬似的スピンパルスSPiに対して注入される光の振幅及び位相を制御することにより、相互作用計算部4が暫定的に計算したある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σiに対する比例係数λi+ΣJijσj+ΣKijkσjσk)の大きさ及び符号を暫定的に実装する。具体的には、相互作用実装部5は、図6及び図7を用いて後述する局部発振パルスLOを用いて、注入光パルスを生成する。[0066] 擬似的スピン測定部6は、暫定的スピン測定部3、相互作用計算部4及び相互作用実装部5により構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4が定常状態に到達した後に、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の位相を測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の擬似的なスピンσ1~σ4を測定する。具体的には、擬似的スピン測定部6は、図6及び図7を用いて後述する局部発振パルスLOを用いて、ホモダイン検波を行う。」
「[0112](第2の実施形態のイジングモデルの量子計算装置の構成)第2の実施形態のイジングモデルの量子計算装置Qの構成を図7に示す。[0113] パルス発生器8は、角周波数ωを有する局部発振パルスLOを発生させる。第二高調波発生器9は、角周波数ωを有する局部発振パルスLOを用いて、角周波数2ωを有するパルスを発生させる。パラメトリック発振器1は、角周波数2ωを有するパルスを用いて、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)をパラメトリック発振させる。複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)は、SP1、・・・、SP(N)、SP1、・・・、SP(N)、・・・の順序で、フィードバックループに入る。[0114] ここで、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)は、発振閾値の近傍でポンプパルスを用いてパラメトリック発振される。そして、パルス発生器8は、例えば、モード同期レーザーを備える。よって、パルス発生器8は、角周波数ωを有する局部発振パルスLOの位相について、図5で示したように0とすることができる。[0115] 暫定的スピン測定部3は、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)の一部に対して、角周波数ωを有する局部発振パルスLOを用いてホモダイン検波を行う。ここで、暫定的スピン測定部3は、cos成分及びsin成分を測定している。[0116] 相互作用計算部4は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)であり、イジングモデルの結合係数λi、Jij、Kijkを入力する。相互作用実装部5は、ある擬似的スピンパルスSPiに対して、振幅及び位相を制御された角周波数ωを有する局部発振パルスLOを注入する。[0117] 擬似的スピン測定部6は、暫定的スピン測定部3と共用であり、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)の一部に対して、角周波数ωを有する局部発振パルスLOを用いてホモダイン検波を行い、イジングモデルのスピンσを出力する。[0118] 図7を用いて説明したように、複数の擬似的スピンパルスSPiの発振位相φi(t)の暫定的な測定結果を用いた、各擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用の大きさ及び符号のフィードバック実装を、具体的な構成を用いて行うことができる。そして、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と比べて、擬似的スピンパルスSPi及び局部発振パルスLOがペアとなってリング共振器2を周回伝搬しないため、擬似的スピンパルスSPi及び局部発振パルスLOi間のクロストークをなくすことができ、全局部発振パルスLOiを同相化させるパルス同相化部7をなくすことができる。よって、イジングモデルの量子計算装置Qにおいて、読み出しエラーを防止することができる。」
「[0139](本発明のイジングモデルの量子計算方法のループ手順)本発明のイジングモデルの量子計算方法のループ手順を図18、19に示す。[0140] 図18に示したイジングモデルの量子計算方法のループ手順を実現するために、図4、6、7に示したイジングモデルの量子計算装置Qのように、暫定的スピン測定部3(又は擬似的スピン測定部6)、パラメトリック発振器1及び相互作用実装部5が、リング共振器2中の擬似的スピンパルスSPの周回伝搬方向にこの順序で配置される。[0141] パラメトリック発振器1は、複数の擬似的スピンパルスSPをパラメトリック発振させる(ステップS1)。暫定的スピン測定部3は、擬似的なスピンσを暫定的に測定する(ステップS2)。相互作用計算部4は、イジング相互作用を暫定的に計算する(ステップS3)。パラメトリック発振器1は、複数の擬似的スピンパルスSPをパラメトリック増幅させる(ステップS4)。相互作用実装部5は、イジング相互作用を暫定的に実装する(ステップS5)。ステップS3、S4は、順序が入れ替わることがある。[0142] 複数の擬似的スピンパルスSPが定常状態に到達しなければ(ステップS6においてNO)、ステップS2~S6のループ手順を繰り返す。複数の擬似的スピンパルスSPが定常状態に到達したならば(ステップS6においてYES)、擬似的スピン測定部6は、擬似的なスピンσを最終的に測定する(ステップS7)。」
「[図4][図:0001381563000003.jpg]」
「[図7][図:0001381563000004.jpg]」
2 引用発明
上記1から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「パラメトリック発振器1は、イジングモデルの複数のスピンσ1~σ4に擬似的に対応し同一の発振周波数を有する複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4をパラメトリック発振させ、リング共振器2は、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4を周回伝搬させ、暫定的スピン測定部3は、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4がリング共振器2を周回伝搬するたびに、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の位相を暫定的に測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の擬似的なスピンσ1~σ4を暫定的に測定し、相互作用計算部4は、ある擬似的スピンパルスSPiが関わるイジングモデルの結合係数λi、Jij、Kijk及び暫定的スピン測定部3が暫定的に測定した他の擬似的スピンパルスSPj、SPkの擬似的なスピンσj、σkに基づいて、ある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σiに対する比例係数λi+ΣJijσj+ΣKijkσjσk)を暫定的に計算し、ここで、NP完全問題などが、イジングモデルにマッピングされた後、相互作用計算部4は、イジングモデルの結合係数λi、Jij、Kijkを入力し、相互作用実装部5は、ある擬似的スピンパルスSPiに対して注入される光の振幅及び位相を制御することにより、相互作用計算部4が暫定的に計算したある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σiに対する比例係数λi+ΣJijσj+ΣKijkσjσk)の大きさ及び符号を暫定的に実装し、擬似的スピン測定部6は、暫定的スピン測定部3、相互作用計算部4及び相互作用実装部5により構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4が定常状態に到達した後に、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の位相を測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の擬似的なスピンσ1~σ4を測定する、イジングモデルの量子計算装置Qであって、暫定的スピン測定部3は、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)の一部に対して、角周波数ωを有する局部発振パルスLOを用いてホモダイン検波を行い、ここで、暫定的スピン測定部3は、cos成分及びsin成分を測定し、相互作用実装部5は、ある擬似的スピンパルスSPiに対して、振幅及び位相を制御された角周波数ωを有する局部発振パルスLOを注入し、擬似的スピン測定部6は、暫定的スピン測定部3と共用であり、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)の一部に対して、角周波数ωを有する局部発振パルスLOを用いてホモダイン検波を行い、イジングモデルのスピンσを出力し、イジングモデルの量子計算方法のループ手順において、パラメトリック発振器1は、複数の擬似的スピンパルスSPをパラメトリック発振させ、暫定的スピン測定部3は、擬似的なスピンσを暫定的に測定し、相互作用計算部4は、イジング相互作用を暫定的に計算し、パラメトリック発振器1は、複数の擬似的スピンパルスSPをパラメトリック増幅させ、相互作用実装部5は、イジング相互作用を暫定的に実装する、イジングモデルの量子計算装置Q。」
第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明の「パラメトリック発振器1」は、「イジングモデルの複数のスピンσ1~σ4に擬似的に対応し同一の発振周波数を有する複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4をパラメトリック発振させ」るものである。
ここで、引用発明の「相互作用実装部5」は、「ある擬似的スピンパルスSPiに対して注入される光の振幅及び位相を制御する」ものであることから、「パラメトリック発振器1」が「発振させ」る「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4」が光パルスであることは明らかである。
また、引用発明は、「イジングモデルの量子計算方法のループ手順において」、「パラメトリック発振器1」は、「複数の擬似的スピンパルスSPをパラメトリック発振させ」るとともに、「複数の擬似的スピンパルスSPをパラメトリック増幅させ」るから、引用発明の「パラメトリック発振器1」は、上記光パルスを発生・増幅させるものといえる。
よって、引用発明の「イジングモデルの複数のスピンσ1~σ4に擬似的に対応し同一の発振周波数を有する複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4をパラメトリック発振させ」る「パラメトリック発振器1」は、本願発明1の「イジングモデルの複数のスピンに擬似的に対応し、同一の発振周波数を有する複数の光パルスを発生・増幅させる光増幅器」に相当する。
(イ)引用発明の「リング共振器2」は、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4を周回伝搬させ」るから、上記(ア)も踏まえると、本願発明1の「前記複数の光パルスを周回伝搬させるリング共振器」に相当する。
(ウ)引用発明の「暫定的スピン測定部3」は、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4がリング共振器2を周回伝搬するたびに、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の位相を暫定的に測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の擬似的なスピンσ1~σ4を暫定的に測定」するものであるとともに、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)の一部に対して、角周波数ωを有する局部発振パルスLOを用いてホモダイン検波を行い、ここで、暫定的スピン測定部3は、cos成分及びsin成分を測定」するものである。
ここで、「ホモダイン検波」は、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)」の角周波数が「局部発振パルスLO」と同一(ω)であることを示すものと考えられ、また、引用文献1の図7の左上に「3,6」として示されている部分の2個の「局部発振パルス」の入力端子の一方に移相器「π/2」が挿入されていることから、「cos成分及びsin成分」は、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)」の位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか一方の軸の成分及び他方の軸の成分であるものと解される。
この点について上記(ア)、(イ)も踏まえると、引用発明の「暫定的スピン測定部3」と、本願発明1の
「前記複数の光パルスが前記リング共振器を周回伝搬するたびに、前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分を測定する、光パルス測定部」とは、
「前記複数の光パルスが前記リング共振器を周回伝搬するたびに、前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面の座標軸における成分を測定する、光パルス測定部」
である点で共通している。
(エ)引用発明の「相互作用計算部4」は、「ある擬似的スピンパルスSPiが関わるイジングモデルの結合係数λi、Jij、Kijk及び暫定的スピン測定部3が暫定的に測定した他の擬似的スピンパルスSPj、SPkの擬似的なスピンσj、σkに基づいて、ある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σiに対する比例係数λi+ΣJijσj+ΣKijkσjσk)を暫定的に計算し、ここで、NP完全問題などが、イジングモデルにマッピングされた後、相互作用計算部4は、イジングモデルの結合係数λi、Jij、Kijkを入力」するものである。
これは、「相互作用計算部4」が、「暫定的スピン測定部3」において測定した、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4」の位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか一方の軸の成分及び他方の軸の成分(上記(ウ))の情報を入力として、「イジングモデルの結合係数λi、Jij、Kijk」と前記「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4」の前記情報とから決定される、「ある擬似的スピンパルスSPi」の位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか一方の軸の成分及び他方の軸の成分に関わる「相互作用」を算出することを示すものと解される。
この点について上記(ア)、(ウ)も踏まえると、引用発明の「相互作用計算部4」と、本願発明1の
「前記光パルス測定部において測定した前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分の情報を入力として、前記イジングモデルの結合係数と前記複数の光パルスの前記情報とから決定される、ある光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分に関わる相互作用を算出する、相互作用計算部」
とは、
「前記光パルス測定部において測定した前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面の座標軸における成分の情報を入力として、前記イジングモデルの結合係数と前記複数の光パルスの前記情報とから決定される、ある光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面の座標軸における成分に関わる相互作用を算出する、相互作用計算部」
である点で共通している。
(オ)引用発明の「相互作用実装部5」は、「ある擬似的スピンパルスSPiに対して注入される光の振幅及び位相を制御することにより、相互作用計算部4が暫定的に計算したある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σiに対する比例係数λi+ΣJijσj+ΣKijkσjσk)の大きさ及び符号を暫定的に実装」するものであるとともに、「ある擬似的スピンパルスSPiに対して、振幅及び位相を制御された角周波数ωを有する局部発振パルスLOを注入」するものである。
ここで、「局部発振パルスLO」が、上記(ア)と同様に光パルスであることは明らかであり、その「振幅及び位相を制御」することは、「相互作用計算部4が暫定的に計算したある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用」に基づいて、「局部発振パルスLO」の位相および振幅を変調することによりなされるものと解される。また、当該「振幅及び位相を制御」された「局部発振パルスLO」を「ある擬似的スピンパルスSPiに対して」「注入」することにより、後者が前者に対して「重ね合わされる」ものと解される。
これらの点について上記(ア)、(イ)、(エ)も踏まえると、引用発明の「相互作用実装部5」は、本願発明1の「前記相互作用計算部において算出された前記相互作用に基づいて、前記リング共振器内を周回伝搬する前記複数の光パルスに対して重ね合わされる光パルスの位相および振幅を変調することにより、前記ある光パルスに関わる相互作用を実装する相互作用実装部」に相当する。
(カ)引用発明の「擬似的スピン測定部6」は、「暫定的スピン測定部3、相互作用計算部4及び相互作用実装部5により構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4が定常状態に到達した後に、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の位相を測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の擬似的なスピンσ1~σ4を測定する」ものであるとともに、「暫定的スピン測定部3と共用であり、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP(N)の一部に対して、角周波数ωを有する局部発振パルスLOを用いてホモダイン検波を行い、イジングモデルのスピンσを出力」するものである。
ここで、「測定」した「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の位相」は、「イジングモデルのスピンσ」に変換されるといえる。また、当該「変換」により、「イジングモデルのスピンσ」の値が得られるといえる。
これらの点について上記(ア)、(ウ)~(オ)も踏まえると、引用発明の「擬似的スピン測定部6」が、「暫定的スピン測定部3、相互作用計算部4及び相互作用実装部5により構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4が定常状態に到達した後に、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の位相を測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4の擬似的なスピンσ1~σ4を測定する」ものであることは、本願発明1において、「前記光パルス測定部は、前記光パルス測定部と前記相互作用計算部と前記相互作用実装部とにより構成されるフィードバックループ制御が繰り返される過程で、前記複数の光パルスが安定状態に到達した後に測定した前記複数の光パルスの位相を、イジングモデルのスピンに変換することにより、イジングモデルのスピンの値を得る」ものであることに相当する。
(キ)引用発明の「イジングモデルの量子計算装置Q」は、後述する相違点は別として、本願発明1の「イジングモデルの計算装置」に相当する。
また、引用発明の「イジングモデルの量子計算装置Q」は、「パラメトリック発振器1」と、「リング共振器2」と、「暫定的スピン測定部3」と、「相互作用計算部4」と、「相互作用実装部5」とを備えるといえる。
イ 上記アから、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「イジングモデルの複数のスピンに擬似的に対応し、同一の発振周波数を有する複数の光パルスを発生・増幅させる光増幅器と、前記複数の光パルスを周回伝搬させるリング共振器と、前記複数の光パルスが前記リング共振器を周回伝搬するたびに、前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面の座標軸における成分を測定する、光パルス測定部と、前記光パルス測定部において測定した前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面の座標軸における成分の情報を入力として、前記イジングモデルの結合係数と前記複数の光パルスの前記情報とから決定される、ある光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面の座標軸における成分に関わる相互作用を算出する、相互作用計算部と、前記相互作用計算部において算出された前記相互作用に基づいて、前記リング共振器内を周回伝搬する前記複数の光パルスに対して重ね合わされる光パルスの位相および振幅を変調することにより、前記ある光パルスに関わる相互作用を実装する相互作用実装部と、を備え、前記光パルス測定部は、前記光パルス測定部と前記相互作用計算部と前記相互作用実装部とにより構成されるフィードバックループ制御が繰り返される過程で、前記複数の光パルスが安定状態に到達した後に測定した前記複数の光パルスの位相を、イジングモデルのスピンに変換することにより、イジングモデルのスピンの値を得る、イジングモデルの計算装置。」
(相違点1)
本願発明1では、「光パルス測定部」が「前記複数の光パルス」に関して「測定する」パラメータが、「前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分」、すなわち、「位相平面」の「位相および振幅が成す2軸」のうちの片方の「成分」であるのに対して、引用発明では、「暫定的スピン測定部3」が「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4」に関して「測定する」パラメータが、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4」に関する「cos成分及びsin成分」、すなわち、位相平面の位相および振幅が成す2軸の両方の成分である点。
また、これに伴い、本願発明1の「相互作用計算部」における、「相互作用を算出する」ために「入力」される「前記光パルス測定部において測定した前記複数の光パルス」に関する情報の内容及び「相互作用を算出する」対象が、いずれも「前記複数の光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分」に関するものであるのに対し、引用発明の「相互作用計算部4」に入力される情報及び「相互作用」を「計算」する対象は、いずれも、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4」の「位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分」に関するものであるとは特定されない点。
(相違点2)
本願発明1では、「前記相互作用計算部」の「演算」の内容が、「測定したN個の光パルスの位相および振振幅がc1 、c2 、c3 、c4 、・ci ・cN-1 、cN を要素とする列ベクトルに対し、イジングモデルの結合係数を演算パラメータとする以下に示す行列
[図:0001381563000005.jpg]
を乗算して、得られた列ベクトルの要素f1 、f2 、f3 、f4 、・fi ・fN - 1 、fN を前記N個の光パルスに対応するN個のある光パルスに関わる相互作用として演算」するものであるのに対し、引用発明では、「相互作用計算部4」の「計算」の内容が、「擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σiに対する比例係数λi+ΣJijσj+ΣKijkσjσk)」である点。
(2)判断
そこで、まず相違点1について検討する。
イジングモデルの計算装置において、複数の光パルスに関して測定するパラメータを、それらの光パルスの位相および振幅が成す2軸の直交する位相平面のいずれか1軸における成分とし、当該1軸における成分の情報を入力として相互作用を演算することは、引用文献1には記載されておらず、本願出願日前において周知技術であったともいえない。
また、引用発明の「暫定的スピン測定部3」が「測定」する、「複数の擬似的スピンパルスSP1~SP4」に関する「cos成分及びsin成分」のうちの、いずれか一方の成分の測定及び演算が省略できることについて、引用文献1は何ら示唆するものではない。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 本願発明2~4について
本願発明2~4は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明1の相違点1に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第6 原査定について
本願発明1~4は、(少なくとも)本願発明1の相違点1,2に係る構成において、引用文献1に記載された発明と相違する。
また、審判請求時の補正により、本願発明1~4は、本願発明1の相違点1に係る構成を備えるものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。
第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-005651