特許拒絶査定不服審判
2021-004245
発泡性アルコール飲料の製造方法と瓶入り発泡性アルコール飲料
- 審判番号
- 2021-004245
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-073726
- 請求日
- 2021年04月02日
- 審決日
- 2023年03月20日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三和酒類株式会社
- 【請求人代理人】須藤 晃伸
- 【請求人代理人】須藤 阿佐子
- 【請求人代理人】鈴木 恵理子
- 【請求人代理人】榛葉 貴宏
- 審判長/審判官
- 審判長 大島 祥吾
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 分類
- P18 .561-Z (C12G) / P18 .57 -Z (C12G) / P18 .121-Z (C12G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 73726「発泡性アルコール飲料の製造方法と瓶入り発泡性アルコール飲料」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月24日出願公開、特開2019-180278〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年4月6日の出願であって、主な手続の経緯は次のとおりである。
令和2年10月26日付け 拒絶理由通知
令和2年12月24日 意見書及び手続補正書の提出
令和3年1月19日付け 拒絶査定
令和3年4月2日 審判請求書及び手続補正書の提出
令和4年11月10日 上申書の提出
第2 令和3年4月2日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年4月2日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
令和3年4月2日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の「加水した蒸留酒に、二次発酵に必要なグルコース源と窒素源の発酵助成剤とSaccharomyces属の酵母を添加して、密閉型容器内で二次発酵させることを特徴とする、蒸留酒に酵母のアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されている発泡性アルコール飲料の製造方法。」という記載を、「加水した蒸留酒を原料とし、密閉型容器内において、該原料蒸留酒に二次発酵に必要なグルコース源と窒素源である無機塩及び窒素源を含む発酵助成剤とSaccharomyces属の酵母を添加して二次発酵させ、該原料蒸留酒に酵母のアルコール発酵で生じた炭酸ガスを内包させ、蒸留酒に酵母のアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されている発泡性アルコール飲料を得ることを特徴とする、蒸留酒に酵母のアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されている発泡性アルコール飲料の製造方法。」という記載(当審注:下線は補正箇所を示す。)にする補正を含むものである。
2 補正の適否
特許法第17条の2第5項の規定によれば、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲についての補正は、請求項の削除(同項第1号)、特許請求の範囲の減縮(同項第2号)、誤記の訂正(同項第3号)又は明りようでない記載の釈明(同項第4号)を目的とするものに限るとされている。
請求人は、審判請求書の請求の理由[3][3-2]の「(1)補正の目的」において「審判請求時の上記補正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。」と述べ、同「(2)補正の内容」において、「この補正は、拒絶査定での第36条第6項第2号の要件違反で不明瞭な記載であると指摘された、補正前の「窒素源の発酵助成剤」を「窒素源である無機塩及び窒素源を含む発酵助成剤」と補正し、発酵助成剤が無機塩と窒素源を含むものであることを明確にした。」と述べているので、まず、本件補正が「明りようでない記載の釈明」を目的とするものに該当するかについて、検討する。
本件補正後の請求項1の「窒素源である無機塩及び窒素源を含む発酵助成剤」という記載において、「窒素源である」との句が、「無機塩」を修飾するものであるのか、「無機塩及び窒素源」を修飾するものであるのか、又は「無機塩及び窒素源を含む発酵助成剤」を修飾するものであるのかが不明であり、そのため、「窒素源である無機塩及び窒素源を含む発酵助成剤」が、何を意味するのか明確でない。
したがって、本件補正後の請求項1の記載は依然として明瞭でなく、本件補正は「明りようでない記載の釈明」を目的とするものとは認められない。
また、本件補正が、「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」及び「誤記の訂正」のいずれかを目的とするものではないことも明らかである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。
3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
なお、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、上記2のとおり、本件補正後の請求項1の記載は明瞭でなく、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことから、本件補正は、特許法第第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものとなり、やはり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、令和2年12月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1及び8に係る発明(以下、順に「本願発明1」及び「本願発明8」という。)は、次のとおりである。
<本願発明1>
「【請求項1】
加水した蒸留酒に、二次発酵に必要なグルコース源と窒素源の発酵助成剤とSaccharomyces属の酵母を添加して、密閉型容器内で二次発酵させることを特徴とする、蒸留酒に酵母のアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されている発泡性アルコール飲料の製造方法。」
<本願発明8>
「【請求項8】
発泡性アルコール飲料であって、蒸留酒に二次発酵による酵母由来の炭酸ガスが内包されている瓶入り発泡性アルコール飲料。」
2 原査定の拒絶の理由の概要
令和3年1月19日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の拒絶の理由の概要は、おおむね、次の理由を含むものである。
本願の請求項1及び8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2016-195551号公報
引用文献2:特開2009-89663号公報
引用文献3:酒類販売管理研修モデルテキスト 酒類販売管理研修 第2編 酒類の商品知識等,国税庁課税部酒税課,[オンライン],2017年 4月,第1章 酒類の商品知識等,pp.2-4,47,[令和3年 1月18日検索]、インターネット<URL:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hambai/moderutekisuto/pdf/h29_02_1.pdf>、<URL:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hambai/moderutekisuto/pdf/h29_02_2.pdf>
引用文献4:国際公開第2005/113737号
3 当審の判断
(1)引用文献に記載された事項等
ア 引用文献1に記載された事項等
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、「アルコール飲料の製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
・記載事項(1-1)
「【請求項1】
炭素源及び窒素源を含む原料と水とを使用して発酵前液を調製すること、及び前記発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行うことを含むアルコール飲料の製造方法であって、
前記原料の総量100重量%に対する麦芽の使用量は10重量%以下であり、
前記発酵前液の調製において、ビタミンBを添加することを含む
ことを特徴とするアルコール飲料の製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項4】
炭素源及び窒素源を含む原料と水とを使用して発酵前液を調製すること、及び前記発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行うことを含むアルコール飲料の製造方法であって、
前記原料の総量100重量%に対する麦芽の使用量は10重量%以下であり、
前記発酵前液の調製において、カリウム塩、マグネシウム塩及びリン酸塩からなる群より選択される1種以上を添加することを含む
ことを特徴とするアルコール飲料の製造方法。」
・記載事項(1-2)
「【0017】
発酵前液の原料に含まれる炭素源は、炭素原子を含む化合物であって酵母が資化できるものであれば、特に限られない。炭素源としては、例えば、酵母が資化できる糖類が好ましく使用される。具体的に、糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、シュクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)及びマルトトリオースからなる群より選択される1種以上が好ましく使用される。
【0018】
発酵前液の原料に含まれる窒素源は、窒素原子を含む化合物であって酵母が資化できるものであれば、特に限られない。窒素源としては、例えば、アミノ酸及び/又はペプチドが好ましく使用される。より具体的に、例えば、タンパク質酵素分解物が好ましく使用される。」
・記載事項(1-3)
「【0071】
本方法においては、アルコール飲料として、発泡性アルコール飲料を製造することとしてもよい。発泡性アルコール飲料は、泡立ち特性及び泡持ち特性を含む泡特性を有するアルコール飲料である。すなわち、発泡性アルコール飲料は、例えば、炭酸ガスを含有するアルコール飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有するアルコール飲料である。」
・記載事項(1-4)
「【実施例1】
【0074】
[アルコール飲料の製造]
麦芽を使用することなく、炭素源としてのショ糖、窒素源としての小麦タンパク分解物、ホップエキストラクト、及び添加剤としてのチアミン塩酸塩を含む原料と、水とを使用し、さらに調製後のアルコール濃度が3.81体積%となる量の原料用アルコール(アルコール含有量65.5体積%)を配合して、150mLの発酵前液を調製した。
【0075】
ショ糖としては、その全量が酵母によってアルコール(エタノール)に変換された場合には1.5体積%又は3.0体積%のアルコールが生成されると理論的に計算される量(3.9g又は7.8g)のグラニュー糖を使用した。小麦タンパク分解物としては、市販の小麦グルテンをタンパク質分解酵素で分解することにより調製された組成物を、発酵前液中の濃度が400ppmとなる量で使用した。ホップエキストラクトは、市販のものを0.075g使用した。チアミン塩酸塩としては、市販のものを、発酵前液中の濃度が100ppmとなる量で使用した。
【0076】
次いで、上述のようにして調製された発酵前液にビール酵母を添加して、20℃にて4日間、アルコール発酵を行った。そして、アルコール発酵後の発酵液をろ過し、発泡性アルコール飲料を得た。
【0077】
[アルコール含有量の測定]
製造されたアルコール飲料の15℃におけるアルコール含有量(体積%)を、文献「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「8.3 アルコール」の「8.3.6 アルコライザー法」に記載の方法に従い、測定した。
【0078】
[真性エキスの測定]
製造されたアルコール飲料の15℃における真性エキス(%)を、文献「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「8.4 真性エキス」の「8.4.3 アルコライザー法」に記載の方法に従い、測定した。
【0079】
[プリン体含有量の測定]
製造されたアルコール飲料のプリン体含有量(mg/100mL)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。すなわち、文献「Biomedical Chromatography,2009;23(8):p.858-864」の記載に従い、次の装置及び条件で測定し、プリン体の含有量を算出した。装置:HP1100(アジレントテクノロジー社)、カラム:ShodexAsahipakGS-320HQ(7mmI.D.×300mm)、移動相:150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)、流量:0.6mL/min、カラム温度:35℃、検出:UV 260nm。
【0080】
[結果]
図1には、目標とするアルコール(Alc)生成量が1.5体積%であった(酵母により1.5体積%のアルコールが生成されると理論的に計算される量のショ糖を炭素源として使用した)例1A-1~例1A-4、及び目標とするアルコール生成量が3.0体積%であった例1B-1~例1B-4のそれぞれについて、窒素源として使用された小麦タンパク分解物の量、添加剤として使用されたチアミン塩酸塩の量、アルコール発酵(20℃)の日数、製造されたアルコール飲料のアルコール含有量(「総Alc含有量」)、アルコール発酵中に酵母により生成されたアルコール量(「Alc生成量」)、真性エキス、及びプリン体含有量を示す。
【0081】
ここで、図1の「Alc生成量(体積%)」は、アルコライザーにより測定されたアルコール飲料のアルコール含有量(「総Alc含有量(体積%)」)から上述の「3.81体積%」を差し引いて算出した。図1における「-」は、窒素源又は添加剤が使用されなかったこと、又はプリン体含有量を測定しなかったことを示す。
【0082】
図1に示すように、窒素源及び添加剤を使用しなかった例1A-1及び例1B-1では、酵母によるアルコール生成量(「Alc生成量」)は極めて低かった(それぞれ0.52体積%及び0.57体積%)。
【0083】
これに対し、窒素源及び添加剤(チアミン塩酸塩)を使用した例1A-4及び例1B-4における酵母によるアルコール生成量(「Alc生成量」)は、上述の例1A-1及び例1B-1のそれに比べて顕著に大きく、また、当該窒素源及び添加剤の一方のみを使用した例1A-2、例1A-3、例1B-2及び例1B-3のそれに比べても、十分に大きかった。
【0084】
一方で、市販の麦芽100%ビールのプリン体含有量は一般に8mg/100mL~12mg/100mL程度であるが、窒素源及び添加剤を使用した例1A-4及び例1B-4においては、原料に由来するプリン体の量が低減されていることにより、アルコール飲料のプリン体含有量の増加が効果的に抑制された。」
・記載事項(1-5)
「【図1】
[図:0001397408000001.jpg]
」
(イ)引用文献1に記載された発明
引用文献1に記載された事項を、特に例1A-4に関して整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、順に「引用製法発明」及び「引用飲料発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用製法発明>
「麦芽を使用することなく、炭素源としてのショ糖をその全量が酵母によってアルコール(エタノール)に変換された場合には1.5体積%のアルコールが生成されると理論的に計算される量、窒素源としての小麦タンパク分解物を発酵前液中の濃度が400ppmとなる量、ホップエキストラクトを0.075g、及び添加剤としてのチアミン塩酸塩を発酵前液中の濃度が100ppmとなる量、を含む原料と、水とを使用し、さらに調製後のアルコール濃度が3.81体積%となる量の原料用アルコール(アルコール含有量65.5体積%)を配合して、調製された150mLの発酵前液にビール酵母を添加して、20℃にて4日間、アルコール発酵を行って、アルコール発酵後の発酵液をろ過して、製造された、真性エキス含有量が0.83%である発泡性アルコール飲料の製造方法。」
<引用飲料発明>
「麦芽を使用することなく、炭素源としてのショ糖をその全量が酵母によってアルコール(エタノール)に変換された場合には1.5体積%のアルコールが生成されると理論的に計算される量、窒素源としての小麦タンパク分解物を発酵前液中の濃度が400ppmとなる量、ホップエキストラクトを0.075g、及び添加剤としてのチアミン塩酸塩を発酵前液中の濃度が100ppmとなる量、を含む原料と、水とを使用し、さらに調製後のアルコール濃度が3.81体積%となる量の原料用アルコール(アルコール含有量65.5体積%)を配合して、調製された150mLの発酵前液にビール酵母を添加して、20℃にて4日間、アルコール発酵を行って、アルコール発酵後の発酵液をろ過して、製造された、真性エキス含有量が0.83%である発泡性アルコール飲料。」
イ 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、「発泡性清酒の製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。
・記載事項(2-1)
「【0002】
従来の発泡性清酒の製造方法として、第一に、清酒に炭酸ガスを吹き込む方法、第二に密閉型耐圧醪タンクで後醗酵させる方法、第三に販売容器内で後醗酵させる方法の3方法が知られている。」
・記載事項(2-2)
「【0038】
アルコール調整された混合清酒12を、全容器内の酒質が均一となるよう、攪拌しながら販売用容器、例えばシャンパン瓶のような耐圧瓶に充填し、好ましくは750mlのシャンパン瓶を使用する。容器詰め31は粗漉後、3時間以内で速やかに混合、充填を終了することが好ましい。
【0039】
充填後、打栓を行うが、この場合は単式王冠もしくはねじ式等のキャップで行い、密閉する。
【0040】
混合清酒12が充填密栓された販売用容器は、一定期間一定温度に保守して二次醗酵32する。その間、経時的に炭酸ガス濃度が高くなる。容器は0~3℃、好ましくは0~2℃の状態下で6ヶ月以上、真横に保管する。この間に容器内で酵母が活性し、二次醗酵により販売容器内で炭酸ガスが発生する。」
ウ 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、おおむね次の記載がある。
・記載事項(3-1)
「
[図:0001397408000002.jpg]
[図:0001397408000003.jpg]
[図:0001397408000004.jpg]
」(第2ないし4ページ)
・記載事項(3-2)
「
[図:0001397408000005.jpg]
」(第47ページ)
エ 引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4には、「大麦、小麦及び麦芽を使用しない発泡性醸造酒の製造方法及びその製造方法によって製造された発泡性醸造酒」に関して、おおむね次の記載がある。
・記載事項(4-1)
「[0014] 請求項4に記載の発明によれば、原料酒を蒸留して製造せずに、請求項1又は2に記載の発泡性醸造酒の製造方法で得られる、真性エキス濃度が2%未満である発泡性醸造酒、つまりスピリッツを新規な手法で提供できる。」
・記載事項(4-2)
「[0037]・・・(略)・・・。
(実施例3)
通常、スピリッツ類は原料酒を蒸留して製造するが、我々は上述したその他雑酒の製造方法を応用して、スピリッツを製造する非常に独特な製造方法を開発した。
[0038] 使用原料:スピリッツを製造するために、原料をシロップ69kg(固形分含量75%、シロップは改良した米糖化液、又はマルトース比率の高いDE57の製品を使い、何れのシロップも商業的に入手可能である)とした。そして改良した米糖化液が原料に占める割合を5重量%(♯3、米糖化液の改良品を3.5kg)とした。すなわち、カラメル色素240g,ホップペレット400g、エンドウタンパク2000gに300-350Lのお湯を加えて、更にシロップを加えて溶解させ、60-90分間煮沸した。その後、ワールプールと呼ばれる沈殿槽でホップ粕などを除去し、10℃までプレートクーラーで冷却し、発酵前液を得た。この発酵前液にビール酵母を添加し、6-15℃で発酵させた(発酵日数は後述)。その後、-1℃で貯酒を行った。
[0039] 発酵液は珪藻土を利用して濾過して酵母を取り除き、最終的なその他雑酒を得た。
[0040] スピリッツは、真性エキスが酒税法のスピリッツの定義である2.00%未満になる様に発酵度の高いマルトース、又はフラクトース、あるいはグルコース比率の高いシロップを原料に使うか、あるいはDE50のシロップで使って予め発酵前もろみ液のエキス濃度を調整する方法もある。さらに雑酒をろ過時の真性エキス2.00未満にすればスピリッツに転用できる。真性エキスとは前述した仮性エキスからアルコールによる比重の影響を除いたものであり、仮性エキスより正確なエキス分を示している。
[0041] 図3は本実施例3における♯3の製造工程において、発酵日数を示したものである。この結果からも分かる様に、改良した米糖化液をシロップ中5重量%使用することで適正な発酵がなされた。
[0042] ♯3の最終製品ではアルコール濃度を5.00容量%に調整し、真性エキスは1.93重量%であった。この真性エキスは、酒税法のスピリッツの定義である2.00%未満を満たしている。♯3の製品及び製造法は、一般的に醸造酒を蒸留して製造するスピリッツの製法とは明らかに異なっており、非常に独特な製造方法で新規性が高いものと理解できる。さらに、発酵終了以降に、香料、糖などを添加して、エキス分を2.00%以上にすればリキュールにもなる。」
(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用製法発明を対比する。
引用製法発明における「原料用アルコール(アルコール含有量65.5体積%)」は、引用文献3の記載事項(3-2)に示されるように、発酵後に蒸留されて得られる蒸留酒であると認められるので、本願発明1における「蒸留酒」に相当する。
引用製法発明における「原料と、水とを使用し、さらに調製後のアルコール濃度が3.81体積%となる量の原料用アルコール(アルコール含有量65.5体積%)を配合して、調製された150mLの発酵前液にビール酵母を添加して、20℃にて4日間、アルコール発酵を行って」にいう「アルコール発酵」は、本願発明1における「二次発酵」に相当する。
引用製法発明における「ビール酵母」は、本願発明1における「Saccharomyces属の酵母」に相当する。
引用製法発明における「炭素源としてのショ糖」は、本願発明1における「二次発酵に必要なグルコース源」に相当する。
引用製法発明における「窒素源としての小麦タンパク分解物」は、本願発明1における「窒素源の発酵助成剤」に相当する。
引用製法発明における「発泡性アルコール飲料」にいう「発泡性」について、引用文献1には、記載事項(1-4)に示された製造方法においてガスの添加を行うことなく「発泡性アルコール飲料」を得ていること及び記載事項(1-3)に「本方法においては、アルコール飲料として、発泡性アルコール飲料を製造することとしてもよい。・・・(略)・・・発泡性アルコール飲料は、例えば、炭酸ガスを含有するアルコール飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有するアルコール飲料である。」との記載があることから、引用製法発明における「発泡性アルコール飲料」の「発泡性」は、ビール酵母によるアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されることによりもたらされているものと認められ、引用製法発明における「発泡性アルコール飲料」は、本願発明1における「二次発酵による酵母由来の炭酸ガスが内包されている発泡性アルコール飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「水、蒸留酒、二次発酵に必要なグルコース源、窒素源の発酵助成剤、Saccharomyces属の酵母を合わせて、二次発酵させる、酵母のアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されている発泡性アルコール飲料の製造方法。」
そして、次の点で相違する。
<相違点1-1>
本願発明1は「加水した蒸留酒に、二次発酵に必要なグルコース源と窒素源の発酵助成剤とSaccharomyces属の酵母を添加」するものであると特定されているのに対し、引用製法発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
製造される「発泡性アルコール飲料」において、「酵母のアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されている」ものが、本願発明1では「蒸留酒」であると特定されているのに対し、引用製法発明では「蒸留酒」であるとは特定されていない点。
<相違点1-3>
「二次発酵」が、本願発明1では「密閉型容器内」で行われると特定されているのに対し、引用製法発明では「密閉型容器内」で行われるとは特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点1-1ないし1-3について検討する。
(ア)相違点1-1について
引用製法発明において、「二次発酵」に相当する「アルコール発酵」に先立って、水、蒸留酒、「二次発酵に必要なグルコース源」に相当する「炭素源としてのショ糖」、「窒素源の発酵助成剤」に相当する「窒素源としての小麦タンパク分解物」及び「Saccharomyces属の酵母」に相当する「ビール酵母」を合わせる順序は、当業者が適宜決めるべき設計的事項であって、まず、液体である蒸留酒(原料アルコール)及び水を合わせた後、すなわち蒸留酒に加水した後に、液体ではない「炭素源としてのショ糖」、「窒素源としての小麦タンパク分解物」及び「ビール酵母」を添加して、「二次発酵」に相当する「アルコール発酵」を行うようにして、相違点1-1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点1-2について
引用製法発明における「麦芽を使用することなく」製造された「真性エキス含有量が0.83%である発泡性アルコール飲料」は、引用文献4の記載事項(4-1)及び記載事項(4-2)の記載に照らすと、酒税法の「スピリッツ」である。
また、引用文献3の記載事項(3-1)に照らすと「スピリッツ」は、酒税法による酒類の分類上、「蒸留酒」に分類される。
したがって、引用製法発明における「麦芽を使用することなく」製造された「真性エキス含有量が0.83%である発泡性アルコール飲料」は、本願発明1において「酵母のアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されている」とされる「蒸留酒」に相当する。
よって、相違点1-2は、実質的な相違点とはいえない。
(ウ)相違点1-3について
引用製法発明においては、上記のとおり、「二次発酵」に相当する「アルコール発酵」で生じた「炭酸ガス」が内包されることにより、「発泡性アルコール飲料」の「発泡性」がもたらされているものと認められるところ、「アルコール発酵」で生じた「炭酸ガス」の蒸散を最小限にして飲料に内包させるために、「密閉型容器内」で「アルコール発酵」を行うようにして、相違点1-3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(エ)効果について
本願発明1の奏する効果は、引用製法発明の各発明特定事項及び「密閉型容器内」で「アルコール発酵」を行うようにしたことから当業者が予測できるものであって、本願発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものとはいえない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、「窒素源」について、令和2年12月24日に提出された意見書の[4](1)、(2-2)及び(2-3)において、本願発明1における「窒素源の発酵助成剤」が「無機塩」と「窒素源」を含むものであるのに対し、引用製法発明の「窒素源」が「無機塩」を含まないものであり、相違する旨を主張している。
しかしながら、本願発明1における「窒素源の発酵助成剤」は、文言どおり、「発酵助成剤」が「窒素源」であり、「無機塩」は必須のものではないと解され得るものであって、「発酵助成剤」が「無機塩」と「窒素源」を含むものであることを前提とした請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、相違点(1-2)について、令和2年12月24日に提出された意見書の[4](2-2)及び(2-3)においては、引用製法発明における発泡性アルコール飲料が醸造酒であって蒸留酒でないことを主張し、審判請求書の[3-3](1-2)においては、引用製法発明における発泡性アルコール飲料は、確かに、酒税法による酒類の分類上、スピリッツとして蒸留酒類に分類されるものであるものの、酒税法上の蒸留酒類に分類されるスピリッツには、蒸留酒のスピリッツと醸造酒のスピリッツがあり、引用製法発明における発泡性アルコール飲料(スピリッツ)は、後者の醸造酒であるのに対し、本願発明1の発泡性アルコール飲料は、蒸留酒に該当するものであって、当該蒸留酒は、本願明細書の段落0018~0019に記載の蒸留酒の定義(醸造酒をさらに蒸留して製造するアルコール分が高い酒)に照らせば、前者の蒸留酒であるため、本願発明1と引用製法発明とが区別される旨を主張している。
上記主張について検討するに、本願明細書の段落【0020】及び【0021】には、上記主張中の「醸造酒のスピリッツ」が蒸留酒に包含されることが記載されている上に、本願明細書の実施例に記載の発泡性アルコール飲料も、引用製法発明と同じく、蒸留酒の二次発酵で得られたエキス分が2%以下であって、請求人の主張中の「醸造酒のスピリッツ」に該当するものであることから、本願発明1における発泡性アルコール飲料と引用製法発明における発泡性アルコール飲料とを、この点で区別することはできず、本願請求項1に記載の「蒸留酒」(本願請求項1に「蒸留酒」との記載が2つあるうちの最後の記載のもの)が、醸造酒のスピリッツを包含しないことを前提とする請求人の主張は採用できない。
さらに、請求人は、令和4年11月10日に提出された上申書の[4](3)において、本願発明1と引用製法発明は、(イ)原料の加水した蒸留酒に添加する二次発酵に必要な窒素源として、本願発明1では、窒素源である無機塩を用いるのに対して、引用製法発明では、無機塩でない小麦タンパク分解物を用いる点、および(ロ)二次発酵前の加水した蒸留酒に添加する原料が、本願発明1では、二次発酵に必要なグルコース源と窒素源を含む発酵助成剤であるのに対して、引用製法発明では、二次発酵に必要なグルコース源と窒素源を含む発酵助成剤の他に、さらにホップエキストラクト、チアミン塩酸塩及び硫酸マグネシウムを用いる点、の2点で相違する旨を主張する。なお、(ロ)についての主張は、審判請求書の[3-3](1-1)及び(1-3)における主張と同様のものと認められる。
上記主張について検討するに、上記(イ)についての主張は、本件補正が認められることを前提にした主張であって、上記第2に示したとおり、本件補正について補正の却下の決定がされたため、採用できない。また、上記(ロ)についての主張は、請求項1及び本願明細書の【0025】等の記載からみて、本願発明1は、ホップエキストラクト、チアミン塩酸塩及び硫酸マグネシウムを用いることを排除していないことから、採用できない。
エ まとめ
したがって、本願発明1は、引用製法発明、すなわち引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)本願発明8について
ア 対比
本願発明8と引用飲料発明を対比する。
引用飲料発明における「原料用アルコール(アルコール含有量65.5体積%)」は、引用文献3の記載事項(3-2)に示されるように、発酵後に蒸留されて得られる蒸留酒であると認められるので、本願発明8における「蒸留酒」に相当する。
引用飲料発明における「原料と、水とを使用し、さらに調製後のアルコール濃度が3.81体積%となる量の原料用アルコール(アルコール含有量65.5体積%)を配合して、調製された150mLの発酵前液にビール酵母を添加して、20℃にて4日間、アルコール発酵を行って」にいう「アルコール発酵」は、本願発明8における「二次発酵」に相当する。
引用飲料発明における「ビール酵母」は、本願発明8における「Saccharomyces属の酵母」に相当する。
引用飲料発明における「発泡性アルコール飲料」にいう「発泡性」については、上記(2)アと同様であり、引用飲料発明における「発泡性アルコール飲料」の「発泡性」は、ビール酵母によるアルコール発酵で生じた炭酸ガスが内包されることによりもたらされているものと認められ、引用飲料発明における「発泡性アルコール飲料」は、本願発明8における「二次発酵による酵母由来の炭酸ガスが内包されている発泡性アルコール飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「発泡性アルコール飲料であって、蒸留酒に二次発酵による酵母由来の炭酸ガスが内包されている発泡性アルコール飲料。」
そして、次の点で相違する。
<相違点8>
本願発明8では「瓶入り」と特定されているのに対し、引用飲料発明ではそのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点8について検討する。
引用文献2の記載事項(2-1)及び記載事項(2-2)に示されるように、「発泡性アルコール飲料」を「瓶入り」とすることは、通常行われていることであるから、引用飲料発明を「瓶入り」として、相違点8に係る本願発明8の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 効果について
本願発明8の奏する効果は、引用飲料発明の各発明特定事項及び引用文献2に記載された事項から当業者が予測できるものであって、本願発明8の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものとはいえない。
エ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「[3-3]拒絶査定に対する反論
(1)進歩性欠如の拒絶理由(29条2項違反)に対する意見
(1-1)本願発明1と引用文献1の発明(引用発明1)との対比
・・・(略)・・・
(1-4)小括
したがって、本願発明1は、引用文献1の記載から当業者が容易になし得たものとはいえず、引用文献1の記載に基づく進歩性欠如の拒絶査定は取り消されるべきものである。
また、本願発明2~10についても、本願発明1と同様の理由により、引用文献1の記載から当業者が容易になし得たものとはいえない。」と主張する。
そこで、上記主張について検討するに、本願の請求項1及び8の記載からみて、本願発明8は本願発明1と明らかに異なることから、「本願発明1と同様の理由により、引用文献1の記載から当業者が容易になし得たものとはいえない」とはいうことはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
オ まとめ
したがって、本願発明8は、引用飲料発明、すなわち引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明1及び8、すなわち請求項1及び8に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
なお、仮に本件補正が却下されないとしても、本願発明8と本件補正後の請求項8に係る発明は全く同じであることから、本件補正後の請求項8に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、依然として、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-004245