特許拒絶査定不服審判
2021-002847
ビットレート最適化システム及び方法
- 審判番号
- 2021-002847
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-055500
- 請求日
- 2021年03月03日
- 審決日
- 2022年03月23日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】香港商科科串流股▲フン▼有限公司
- 【請求人代理人】特許業務法人IPアドバンス
- 審判長/審判官
- 審判長 千葉 輝久
- 審判官 清水 正一
- 審判官 川崎 優
- 分類
- P18 .536-WY (H04N) / P18 .537-WY (H04N) / P18 .561-WY (H04N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 55500「ビットレート最適化システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月24日出願公開、特開2019-186919、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年3月22日(パリ条約の例による優先権主張 2018年4月3日、台湾)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 1月30日付け:拒絶理由通知
同年 8月 4日 :意見書の提出、手続補正
同年10月28日付け:拒絶査定
令和3年 3月 3日 :拒絶査定不服審判請求、手続補正
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年3月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本願の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正により、次のように補正された(下線は補正箇所である。)。
【請求項1】
ビデオを保存する保存装置と、
前記保存装置に電気的に接続され、前記ビデオのビットレートを決めるプロセッサと、
を含み、
前記プロセッサは、前記ビデオにおける各々の画面の空間領域での情報数である空間複雑性と前記ビデオの時間軸における物体の移動量の大きさである時間複雑性との組み合わせが閾値よりも高いか低いかを分析して、人眼に敏感であるかを判断するため、前記ビデオにおける各々の画面の前記空間複雑性及び前記時間複雑性を取得し、
前記ビデオにおける各々の画面の前記空間複雑性及び前記時間複雑性の組み合わせを正規化して、更に所定の加重方程式に代入して前記ビットレートを取得し、
前記所定の加重方程式は、
(第1の平均複雑性)+(高複雑性閾値を超える画面の第2の平均複雑性)×(高複雑性閾値を超える画面数の全部の画面数に占める比率)×2であり、
前記第1の平均複雑性は前記ビデオにおける全ての画面の正規化された前記空間複雑性及び前記時間複雑性の平均であり、前記高複雑性閾値は前記第1の平均複雑性×2である、ビットレート最適化システム。
2 本件補正の適否について
(1)補正事項
本件補正により補正された請求項1の
「前記ビデオにおける各々の画面の前記空間複雑性及び前記時間複雑性の組み合わせを正規化して、更に所定の加重方程式に代入して前記ビットレートを取得し、」(以下、「補正事項a」という。)、
及び
「前記所定の加重方程式は、
(第1の平均複雑性)+(高複雑性閾値を超える画面の第2の平均複雑性)×(高複雑性閾値を超える画面数の全部の画面数に占める比率)×2であり、
前記第1の平均複雑性は前記ビデオにおける全ての画面の正規化された前記空間複雑性及び前記時間複雑性の平均であり、前記高複雑性閾値は前記第1の平均複雑性×2である」(以下、「補正事項b」という。)
について、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載にされた事項である否かを検討する。
(2)当初明細書等の記載
本願の当初明細書等には、以下のような記載がある(下線は、当審において付加したものである。)。
「 【0021】
作動時、保存装置110がビデオを保存する。プロセッサ120がビデオの空間複雑性及び時間複雑性を分析することで、人眼の感度を分析して、ビデオのビットレートを決める依拠とする。次に、プロセッサ120が前記ビットレートに基づいてビデオを圧縮し、圧縮されたビデオを伝送装置150によってユーザ装置190に伝送する。
【0022】
本発明の一実施例において、プロセッサ120がビデオを分析して各々の画面(画面内の各々の領域を含む)の空間複雑性及び時間複雑性を取得する。
【0023】
本発明の一実施例において、上記空間複雑性は、ビデオにおける各々の画面の空間領域での細部の多さである。具体的には、空間複雑性は、一枚の画面における細部、コントラスト、シャープネス及びトーンでの情報の多さである。例えば、ある画面に森の葉、水波を含むはっきりした風景があれば、その空間複雑性は高い。ある画面がアニメーションにおける1つのシーンであり、大部分の画面が大きい色塊からなり、その空間複雑性は低い。
【0024】
本発明の一実施例において、上記時間複雑性は、ビデオの時間軸における物体の移動量の大きさである。具体的には、ビデオが大量の影格から構成され、影格の前後の間もほとんど連続した動作であるため、ここでの時間複雑性とは、前後の影格の間の動作幅である。アクション映画を例として、刺激である場合、連続した数秒間でもビデオが激しく震動し、この場合に激しく震動する動作幅は時間複雑性が高いことを表す。
【0025】
本発明の一実施例において、プロセッサ120は、視覚評価公式によって空間複雑性と時間複雑性との組み合わせが人眼に対して敏感であるかを判断して、ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を取得する。
【0026】
具体的には、視覚評価公式は下記の通りである。領域(画面をN×Nの領域に切る)の移動ベクトル、輝度や彩度及び空間複雑性によって、視覚感度を判断し、Nは16又は他の正整数であってよい。
【0027】
例として、予め複数の受験者の人眼の感受から取得した統計データによって、高移動ベクトル(hight_mv)、低移動ベクトル(low_mv)、高敏感輝度(high_luma)、低敏感輝度(low_luma)、高空間複雑性(high_spatial_coml)、低空間複雑性(low_spatial_coml)を定義する。
【0028】
上記によると、高敏感:移動ベクトル(mv)>high_mv、輝度>high_luma、空間複雑性>high_spatial_complである。低敏感:移動ベクトル(mv)<low_mv、輝度<low_luma、空間複雑性<low_spatial_complである。
【0029】
本発明の一実施例において、プロセッサ120がビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を正規化して、更に所定の加重方程式に代入してビットレートを取得する。
【0030】
所定の加重方程式に関しては、例として、「平均複雑性」を全ての画面の複雑性の平均に定義し、「高複雑性閾値」を平均複雑性×2に定義すると、所定の加重方程式=平均複雑性+(高複雑性閾値に該当する画面の複雑性の平均)×(高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例)×2になる。
【0031】
その後、プロセッサ120は、保存装置110に保存される複雑性とビットレートとの関係の内蔵表に基づいて、所定の加重方程式から取得した複雑性数値を代入して、対応するビットレートを探し出す。」
(3)当初明細書等に記載される技術的事項
上記の記載によれば、本願の当初明細書等に記載される記載事項は、
ア.ビデオの空間複雑性(ビデオにおける各々の画面の空間領域での細部の多さであって、具体的には、一枚の画面における細部、コントラスト、シャープネス及びトーンでの情報の多さ)及び時間複雑性(ビデオの時間軸における物体の移動量の大きさ)を分析することで、人眼の感度を分析して、ビデオのビットレートを決める依拠とすること(段落【0021】、【0023】、【0024】)、
イ.視覚評価公式によって空間複雑性と時間複雑性との組み合わせが人眼に対して敏感であるかを判断して、ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を取得すること(段落【0025】)、
ウ.ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を正規化して、更に所定の加重方程式に代入してビットレートを取得すること(段落【0029】)、
である(以下、記載事項アないしウという。)。
(3-1)記載事項ウの「所定の加重方程式」について
ここで、記載事項ウにおける「所定の加重方程式」とは、段落【0030】によれば、例として、
・「平均複雑性」を「全ての画面の複雑性の平均」に定義
・「高複雑性閾値」を「平均複雑性×2」に定義
・所定の加重方程式=平均複雑性+(高複雑性閾値に該当する画面の複雑性の平均)×(高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例)×2
である。
そして、記載事項ウは、ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を正規化して、所定の加重方程式に代入してビットレートを取得するものであるから、つまり、上記の一般化して記述された方程式の「複雑性」という変数に「正規化された(ビデオにおける各々の画面の)人眼敏感情報」を代入し、ビットレートを取得するものと理解できる。
その場合には、「平均複雑性」とは、ビデオにおける全て画面での「正規化された人眼敏感情報」の平均となる。
また、「高複雑性閾値に該当する画面の複雑性の平均」とは、「正規化された人眼敏感情報」が上記平均の2倍となる画面における「正規化された人眼敏感情報」の平均であり、「高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例」とは、「正規化された人眼敏感情報」が平均の2倍となる画面数の、ビデオにおける全ての画面数に対する比率のことであると理解できる。
(3-2)以上のことから、当初明細書等には、
・「ビデオの空間複雑性及び時間複雑性との組み合わせ」が人眼に対して敏感であるかを「視覚評価公式」によって判断して「ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報」を取得し(記載事項ア、イ)、
取得した「ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報」を正規化して、更に「所定の加重方程式」に代入して、ビデオのビットレートを取得すること(記載事項ア、ウ)
・所定の加重方程式=平均複雑性+(高複雑性閾値に該当する画面の複雑性の平均)×(高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例)×2
「平均複雑性」とは、ビデオにおける全て画面での「正規化された人眼敏感情報」の平均
「高複雑性閾値」とは「平均複雑性×2」(上記(3-1))
という技術的事項が記載されているものと認められる。
(4)判断
上記(1)の補正事項と上記(3-2)の当初明細書等に記載される技術的事項を比較検討する。
補正事項aの「前記ビデオにおける各々の画面の前記空間複雑性及び前記時間複雑性の組み合わせを正規化して、更に所定の加重方程式に代入して前記ビットレートを取得し、」は、「空間複雑性及び時間複雑性の組み合わせ」を「正規化する」ものであるから、当初明細書等に記載される『「ビデオの空間複雑性及び時間複雑性の組み合わせ」が人眼に対して敏感であるかを「視覚評価公式」によって判断して「ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報」を取得し、取得した「ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報」を正規化』するという技術的事項とは異なるものであって、当初明細書等に記載されたものではない。
次に、補正事項bの「前記第1の平均複雑性は前記ビデオにおける全ての画面の正規化された前記空間複雑性及び前記時間複雑性の平均であり、」について検討する。
上記(3-2)に示したように、当初明細書等に記載される技術的事項は『「平均複雑性」とは、ビデオにおける全て画面での「正規化された人眼敏感情報」の平均』というものである。
上記の平均複雑性は、請求項1の「第1の平均複雑性」に対応するものであるところ、補正事項bは、『ビデオにおける全ての画面の「正規化された前記空間複雑性及び前記時間複雑性」の平均』であるのに対し、当初明細書等に記載される技術的事項は、『ビデオにおける全て画面での「正規化された人眼敏感情報」の平均』である。
そうすると、補正事項bは、当初明細書等に記載される技術的事項とは異なるものであって、当初明細書等に記載されたものではない。
そして、上記補正事項a、bは、当初明細書等から自明のものでもなく、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、上記のとおり本件補正を却下する。
第3 原査定の概要
原査定(令和2年10月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
理由1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
●理由1(特許法第36条第4項第1号)について
・請求項1ないし6について
請求項1には、
(a)「視覚評価公式によって前記空間複雑性と前記時間複雑性との組み合わせが人眼に敏感であるかを判断して、前記ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を取得」すること、
(b)「前記ビデオにおける各々の画面の前記人眼敏感情報を正規化」すること、
(c)「更に所定の加重方程式に代入して前記ビットレートを取得し、前記所定の加重方程式は、(前記ビデオにおける全ての画面の第1の平均複雑性)+(高複雑性閾値に該当する画面の第2の平均複雑性)×(高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例)×2であり、前記高複雑性閾値は前記第1の平均複雑性×2である」こと
が記載されている(以下、それぞれ「発明記載事項(a)」ないし「発明記載事項(c)」という。)が、これらの事項は、発明の詳細な説明を参照しても、どのような技術的事項を示すものであるのかが不明である。
これらの不明な点により、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
請求項1に対応する請求項4、及び、請求項1、4を引用する請求項2ないし3、5ないし6に係る発明についても請求項1と同様のことがいえる。
●理由2(特許法第36条第6項第2号)について
・請求項1ないし6について
請求項1の上述した理由1の(a)ないし(c)の記載は、理由1の検討内容によれば、その技術的事項が不明である。
請求項1に対応する請求項4、及び、請求項1、4を引用する請求項2ないし3、5ないし6に係る発明についても請求項1と同様のことがいえる。
第4 本願発明
本件補正は、上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、令和2年8月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、以下に示すものである。
【請求項1】
ビデオを保存する保存装置と、
前記保存装置に電気的に接続され、前記ビデオの空間複雑性及び時間複雑性を分析することで、人眼の感度を評価して、前記ビデオのビットレートを決める依拠とするプロセッサと、
を含み、
前記プロセッサは、視覚評価公式によって前記空間複雑性と前記時間複雑性との組み合わせが人眼に敏感であるかを判断して、前記ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を取得し、前記ビデオにおける各々の画面の前記人眼敏感情報を正規化して、更に所定の加重方程式に代入して前記ビットレートを取得し、
前記所定の加重方程式は、
(前記ビデオにおける全ての画面の第1の平均複雑性)+(高複雑性閾値に該当する画面の第2の平均複雑性)×(高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例)×2であり、
前記高複雑性閾値は前記第1の平均複雑性×2であるビットレート最適化システム。
【請求項2】
前記空間複雑性は、前記ビデオにおける各々の画面の空間領域での情報数である請求項1に記載のビットレート最適化システム。
【請求項3】
前記時間複雑性は、前記ビデオの時間軸における物体の移動量の大きさである請求項1又は2に記載のビットレート最適化システム。
【請求項4】
ビデオを提供する工程と、
前記ビデオの空間複雑性及び時間複雑性を分析することで、人眼の感度を評価して、前記ビデオのビットレートを決める依拠とする工程と、
を備え、
前記人眼の感度を評価する工程は、視覚評価公式によって前記空間複雑性と前記時間複雑性との組み合わせが人眼に敏感であるかを判断して、前記ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を取得することを含み、
前記ビデオの前記ビットレートの依拠を決める工程は、前記ビデオにおける各々の画面の前記人眼敏感情報を正規化して、更に所定の加重方程式に代入して前記ビットレートを取得することを含み、
前記所定の加重方程式は、
(前記ビデオにおける全ての画面の第1の平均複雑性)+(高複雑性閾値に該当する画面の第2の平均複雑性)×(高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例)×2であり、
前記高複雑性閾値は前記第1の平均複雑性×2であるビットレート最適化方法。
【請求項5】
前記空間複雑性は、前記ビデオにおける各々の画面の空間領域での情報数である請求項4に記載のビットレート最適化方法。
【請求項6】
前記時間複雑性は、前記ビデオの時間軸における物体の移動量の大きさである請求項4又は5に記載のビットレート最適化方法。
第5 判断
1.特許法第36条第4項第1号違反について
令和2年8月4日付けの手続補正において、本願明細書は、特許請求の範囲の請求項1及び4を再掲した段落【0005】及び【0008】について、特許請求の範囲の請求項1及び4に整合させる補正を行ったのみであり、本願明細書のその他の段落は当初明細書等と同じである。
したがって、本願発明1ないし本願発明6の実施可能要件を判断するに際し、当該発明の技術事項に関連する、上記第2の[理由]2(2)に摘記した発明の詳細な説明の段落【0021】ないし【0031】を参照する。
(1)発明の詳細な説明の記載について
(1-1)本願の発明の詳細な説明には、まず、上記第2の[理由]2(3)、(3-1)において認定した以下のアないしウの事項が記載されている。
ア.ビデオの空間複雑性(ビデオにおける各々の画面の空間領域での細部の多さであって、具体的には、一枚の画面における細部、コントラスト、シャープネス及びトーンでの情報の多さ)及び時間複雑性(ビデオの時間軸における物体の移動量の大きさ)を分析することで、人眼の感度を分析して、ビデオのビットレートを決める依拠とすること(段落【0021】、【0023】、【0024】)、
イ.視覚評価公式によって空間複雑性と時間複雑性との組み合わせが人眼に対して敏感であるかを判断して、ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を取得すること(段落【0025】)、
ウ.ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を正規化して、更に所定の加重方程式に代入してビットレートを取得すること(段落【0029】)、
ここで、「所定の加重方程式」とは、例として、
・「平均複雑性」を「全ての画面の複雑性の平均」に定義
・「高複雑性閾値」を「平均複雑性×2」に定義
・所定の加重方程式=平均複雑性+(高複雑性閾値に該当する画面の複雑性の平均)×(高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例)×2
であること(段落【0030】)。
(1-2)上記イの「視覚評価公式」に関して、段落【0026】ないし【0028】に、次の事項が記載されている。
・視覚評価公式は、領域(画面をN×Nの領域に切る;Nは16又は他の正整数)の移動ベクトル、輝度や彩度及び空間複雑性によって、視覚感度を判断するものであり(段落【0026】)、
・予め複数の受験者の人眼の感受から取得した統計データによって、高移動ベクトル(hight_mv)、低移動ベクトル(low_mv)、高敏感輝度(high_luma)、低敏感輝度(low_luma)、高空間複雑性(high_spatial_coml)、低空間複雑性(low_spatial_coml)を定義し(段落【0027】)、
・高敏感:移動ベクトル(mv)>high_mv、輝度>high_luma、空間複雑性>high_spatial_complである。低敏感:移動ベクトル(mv)<low_mv、輝度<low_luma、空間複雑性<low_spatial_complであること(段落【0028】)。
すなわち、「視覚評価公式」とは、
(i)予め複数の受験者の人眼の感受から取得した統計データによって、高移動ベクトルと低移動ベクトル、高敏感輝度と低敏感輝度、高空間複雑性と低空間複雑性を定義する閾値(高移動ベクトル(hight_mv)、低移動ベクトル(low_mv)、高敏感輝度(high_luma)、低敏感輝度(low_luma)、高空間複雑性(high_spatial_coml)、低空間複雑性(low_spatial_coml))を求めておき、
(ii)画面をN×Nに分割した領域毎に、移動ベクトル、輝度や彩度及び空間複雑性を指標として、統計データから決定した高移動ベクトルと低移動ベクトル、高敏感輝度と低敏感輝度、高空間複雑性と低空間複雑性を定義する閾値に基づき、視覚感度を判断する特定の公式である。
そうすると、上記イは、画面をN×Nに分割した領域毎に、上記(i)、(ii)で規定される視覚評価公式によって空間複雑性と時間複雑性との組み合わせ(移動ベクトル、輝度、空間複雑性など)が人眼に対して敏感であるかを表す視覚感度を判断し、そして、その画面をN×Nに分割した領域毎に得られた視覚感度に関する情報を画面全体で集計して、ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を取得することである。
(1-3)上記ウの「人眼敏感情報を正規化」することに関して、「正規化」とは、技術常識から以下のように理解することができる。
・正規化とは、一般的に、統計学等においてデータのスケール(単位)を扱いやすいものに整えることであって、主要な方法として、データを最小値0~最大値1にスケーリングする技術があり、本願においては、「ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報」を、例えば、最小値と最大値の間で0から1の値にスケーリングすること。
(1-4)さらに、上記ウの「人眼敏感情報を正規化して、更に所定の加重方程式に代入してビットレートを取得すること」に関して、「正規化された人眼敏感情報」を上記「所定の加重方程式」に代入するに際し、
・「複雑性」として、「正規化された人眼敏感情報」
・「平均複雑性」として、ビデオにおける全て画面での「正規化された人眼敏感情報」の平均
・「高複雑性閾値」として、「平均複雑性×2」
を代入すると、
所定の加重方程式=(ビデオにおける全て画面での「正規化された人眼敏感情報」の平均)+(高複雑性閾値に該当する画面の「正規化された人眼敏感情報」の平均)×(高複雑性閾値に該当する画面数の、ビデオにおける全ての画面数に対する比率)×2
となり、当該「所定の加重方程式」を用いることにより、ビットレートが取得されることとなる。
(1-5)小括
以上、(1-1)ないし(1-4)に示したように、本願発明1ないし本願発明6の技術事項に関連する発明の詳細な説明の段落【0021】ないし【0031】に記載される事項は、当業者であれば、その技術的内容を十分に理解することができるものであり、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
(2)発明記載事項について
上記第3において、実施可能要件に違反するとして指摘された本願発明1の発明記載事項(a)ないし(c)について検討する。
(2-1)発明記載事項(a)について
発明記載事項(a)である「視覚評価公式によって前記空間複雑性と前記時間複雑性との組み合わせが人眼に敏感であるかを判断して、前記ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報を取得」することについては、発明の詳細な説明の上記(1-1)イの記載及び上記(1-2)に対応するものである。
(2-2)発明記載事項(b)について
発明記載事項(b)である「前記ビデオにおける各々の画面の前記人眼敏感情報を正規化」することについては、発明の詳細な説明の上記(1-1)ウの記載及び上記(1-3)に対応するものである。
(2-3)発明記載事項(c)について
発明記載事項(c)である「更に所定の加重方程式に代入して前記ビットレートを取得し、前記所定の加重方程式は、(前記ビデオにおける全ての画面の第1の平均複雑性)+(高複雑性閾値に該当する画面の第2の平均複雑性)×(高複雑性閾値に該当する画面数の全部の画面数に占める比例)×2であり、前記高複雑性閾値は前記第1の平均複雑性×2である」ことについては、発明の詳細な説明の上記(1-1)ウの記載及び上記(1-4)に対応するものである。
(2-4)小括
以上、(2-1)ないし(2-3)に示したように、本願発明1の発明記載事項(a)ないし(c)は、本願の発明の詳細な説明に対応する記載があり、その記載される事項は、当業者であれば、その技術的内容を十分に理解することができるものであり、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
(3)まとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものといえる。
また、請求項1のビットレート最適化システムを、それに対応するビットレート最適化方法の発明とした請求項4、及び、請求項1、4を引用する請求項2ないし3、5ないし6に係る発明についても請求項1と同様である。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
2.特許法第36条第6項第2号違反について
本願の請求項1ないし6は、技術的に特段不明確な記載は存在せず、それらの発明特定事項が示す技術内容も、上記1に示したように、発明の詳細な説明に記載されており、特許を受けようとする発明が明確に把握できるものである。
よって、本願特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
3.その他の拒絶理由について
なお、令和2年1月30日付けの拒絶理由通知では、理由3において、本願発明の進歩性に関し、引用文献1(特表2008-533841号公報)が提示された。
引用文献1には、マルチメディアデータの複雑度(空間的複雑度及び時間的複雑度)を判定してマルチメディアデータを分類し、その分類に基づいてマルチメディアデータを符号化するためのビットレートを決定する技術であって、人間視覚感度を使用(例えば、Girodの人間視覚モデルを利用)して、空間的複雑度及び時間的複雑度を、例えば、空間的複雑度を相対的テクスチャ値(「高」、「中」、「低」)に、時間的複雑度を相対的モーション値(「高」、「中」、「低」)に関連付けることで取得し、マルチメディアデータを複数のコンテンツ分類に分類し、コンテンツ分類におけるマルチメディアデータに関する視覚的に知覚される品質レベルとビットレートの間の関係に基づいて、マルチメディアデータのビットレートを決定する技術が記載されている。
すなわち、引用文献1に記載される発明は、人間視覚感度を使用して空間的複雑度及び時間的複雑度を取得し、視覚的に知覚される品質レベルに基づいて、マルチメディアデータのビットレートを決定するものである。
引用文献1に記載される発明は、人眼の感度を利用して、ビデオの空間的複雑度及び時間的複雑度からビデオのビットレートを取得する技術である点で本願発明1と共通するものの、引用文献1には、本願発明1の、「ビデオにおける各々の画面の人眼敏感情報」を、「空間複雑性と時間複雑性との組み合わせ」から、所定の公式として定義された「視覚評価公式によって」取得すること、「正規化された人眼敏感情報」を所定の方程式として定義された「所定の加重方程式」に代入してビットレートを取得することについての具体的構成の開示はない。
そして、引用文献1に記載される発明において、上記具体的構成を採用する動機付けはなく、当業者が当該構成を容易になし得るものともいえない。
請求項1のビットレート最適化システムを、それに対応するビットレート最適化方法の発明とした請求項4、及び、請求項1、4を引用する請求項2ないし3、5ないし6に係る発明についても請求項1と同様である。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、原査定の理由によって拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-002847