特許拒絶査定不服審判
2022-018624
メーカの表現の仕組みを表すアプリケーションソフト
- 審判番号
- 2022-018624
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-202056
- 請求日
- 2022年11月01日
- 審決日
- 2023年07月10日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】藤池 一誠
- 審判長/審判官
- 審判長 畑中 高行
- 審判官 木方 庸輔
- 審判官 五十嵐 努
- 分類
- P18 .561-Z (H04N) / P18 .121-Z (H04N) / P18 .536-Z (H04N) / P18 .537-Z (H04N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-202056「メーカの表現の仕組みを表すアプリケーションソフト」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年11月24日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 2月 1日付け:拒絶理由通知書
令和4年 7月26日付け:拒絶査定
令和4年11月 2日 :審判請求書及び手続補正書の受付
第2 令和4年11月2日になされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年11月2日になされた手続補正を却下する。
[理由]
1 令和4年11月2日になされた手続補正の内容
(1)特許請求の範囲の補正
令和4年11月2日に提出された手続補正書によりなされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を以下のとおりに補正するものである。
・本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
ユーザの求める各種カメラ固有の写真色を擬似的に再現するためのアプリケーションソフトであり、具体的にカメラ固有の画像センサと画像処理エンジンの組み合わせをプロファイル化しスマホやタブレットやPCのカメラ機能を利用することを特徴とするアプリケーションソフト。」
(2)補正後の請求項1の発明特定事項
補正後の請求項1について、当審にてA~Dに分説し、以下それぞれ「発明特定事項A」~「発明特定事項D」という。
・本件補正後の請求項1
「【請求項1】
(A)ユーザの求める各種カメラ固有の写真色を擬似的に再現するためのアプリケーションソフトであり、
(B)具体的にカメラ固有の画像センサと画像処理エンジンの組み合わせをプロファイル化し
(C)スマホやタブレットやPCのカメラ機能を利用する
(D)ことを特徴とするアプリケーションソフト。」
2 本件補正の適否
本件補正における請求項1に対する補正が、特許法第17条の2第3項の規定に適合するか否か、すなわち、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてされたか否かについて、以下に検討する。
(1)当初明細書等に記載の事項
当初明細書等のうち、明細書及び特許請求の範囲についての記載は、以下のア及びイのとおりである。
ア 明細書
「【発明の名称】メーカの表現の仕組みを表すアプリケーションソフト
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムやカメラやレンズ等のメーカが必要とする景色等を表現するために写真や動画やプロファイル等の色彩による表現やそのボケ具合等の仕組みをリアルに表すためのアプリケーションに関する。
【技術背景】
【0002】
各種のメーカは自社の必要と思われる景色等を写真や動画やプロファイル等を用いて表すことの必要性を感じているが従来は特定の内容のものしかなくメーカが希望する各種の組み合わせのものはなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
メーカとしては自身を表す色彩を有しているがこれと各種レンズを組み合わせて景色等を表すプロファイルを表現するソフト的なものはなく本発明者はこのソフトを作成しこれを特許出願する事とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以上の発明を実現するためのものであり、その内容は請求項1に記載されるようにフィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現するためであり、更に、具体的に請求項2に記載される前記仕組みが写真や動画やプロファイル等の色彩による表現やそのボケ具合を表現するものからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
このソフトを用いることにより、各種メーカは自社の希望する景色等を各種の色彩やそのボケ具合等により表現することが出来、景色の表現の拡大を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1から図4は各社の特色の色彩をもち景色を表したものである。
【図1】N社のカメラ色再現の写真。
【図2】C社のカメラ色再現の写真。
【図3】F社のカメラ色再現の写真。
【図4】K社のカメラ色再現の写真。
【発明を実施するための形態】
【0007】
各社は自社の有する色彩に任意のレンズメーカのレンズを組み合わせて景色等を表現することを実施した。これにより、自社の希望する色彩を有する景色等を表現する事が出来た。
【0008】
本発明は以上の内容のものからなるが、図1等は一例に過ぎず、他の色々な背景等の表現が出来る事は勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明はフィルムメーカやカメラメーカやレンズメーカ等の各メーカの自社の存在の特徴を表現するものの1つの大きな手段であり、活用されることを期待するものである。」
イ 特許請求の範囲
「【請求項1】
フィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト。
【請求項2】
前記仕組みが写真や動画やプロファイル等の色彩による表現やそのボケ具合を表現するものからなることを特徴とする請求項1の仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト。」
(2)判断
ア 発明特定事項Aについて
発明特定事項Aは、「ユーザの求める各種カメラ固有の写真色を擬似的に再現するためのアプリケーションソフト」というものであるが、「擬似的に」との用語は、上記(1)のとおり当初明細書等に記載がない。
しかし、段落【0006】及び【図1】乃至【図4】には、各社のカメラの色を再現した写真について記載されており、この記載から、ユーザの求める各種カメラ固有の写真色を擬似的に再現することが読み取れる。
したがって、当初明細書等には、「ユーザの求める各種カメラ固有の写真色を擬似的に再現するためのアプリケーションソフト」が、実質的に記載されていると認められる。
イ 発明特定事項Bについて
発明特定事項Bは、「具体的にカメラ固有の画像センサと画像処理エンジンの組み合わせをプロファイル化」するものであるが、「画像処理エンジン」について、上記(1)のとおり当初明細書等に記載がない。更に、「画像センサと画像処理エンジンの組み合わせをプロファイル化」することについても当初明細書等に記載がない。
したがって、当初明細書等には、「具体的にカメラ固有の画像センサと画像処理エンジンの組み合わせをプロファイル化」することについて、記載がない。
ウ 発明特定事項Cについて
発明特定事項Cは、「スマホやタブレットやPCのカメラ機能を利用する」ものであるが、「スマホ」、「タブレット」及び「PC」について、上記(1)のとおり当初明細書等に記載がない。更に、「スマホやタブレットやPCのカメラ機能」についても当初明細書等に記載がない。
したがって、当初明細書等には、「スマホやタブレットやPCのカメラ機能を利用する」ことについて、記載がない。
3 まとめ
上記2(2)のイ及びウのとおり、本件補正により特許請求の範囲に記載された発明は、当初明細書等に記載がない。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。
したがって、上記「第2」の[補正の却下の決定の結論]で述べたとおり、本件補正を却下する。
第3 本願の特許請求の範囲
令和4年11月2日になされた手続補正は、上記「第2」のとおり却下されたから、本願の特許請求の範囲は、願書に最初に添付された特許請求の範囲のとおりのものであり、上記「第2」の2(1)イに記載したとおりのものである。
第4 原査定の拒絶の理由
原査定である令和4年7月26日付け拒絶査定は、次のとおりである。
「この出願については、令和 4年 2月 1日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶査定をすべきものです。」
そして、令和4年2月1日付け拒絶理由通知書の概要は、以下の「理由1」~「理由4」のとおりであり、原査定の拒絶の理由も、以下のとおりのものである。
●理由1(明確性:特許法第36条第6項第2号)
(1)請求項1、2に記載の「アプリケーションソフト」は、動作主体が明確でない。
(2)請求項1に記載の「フィルムやカメラやレンズ等」は、「等」で示される範囲が明確でない。
(3)請求項1に記載の「メーカの必要とする景色等」は、「等」で示される範囲が明確でない。
(4)請求項1に記載の「メーカの必要とする景色等」は、「メーカの必要とする景色」で示される範囲が明確でない。
(5)請求項1に記載の「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」は、「仕組み」が明確でない。
(6)請求項1に記載の「メーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現する」は、何を以て「リアル」であるとするのかが明確でない。
(7)請求項2に記載の「プロファイル等」は、「等」で示される範囲が明確でない。
●理由2(実施可能要件:特許法第36条第4項第1号)
請求項1は、「フィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」である。しかし、「アプリケーションソフト」において、どのように「フィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現する」のかについて、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
また、請求項1を引用する請求項2についても同様である。
●理由3(サポート要件:特許法第36条第6項第1号)
請求項1は、上記理由2のとおり実施可能でないから、発明の詳細な説明に記載したものではない。
請求項1を引用する請求項2も同様である。
●理由4(進歩性:特許法第29条第2項)
(1)請求項1及び2について 引用文献1
(2)請求項1及び2について 引用文献2
(3)請求項1及び2について 引用文献3
(4)請求項1及び2について 引用文献4
(5)請求項1及び2について 引用文献5
(6)請求項1及び2について 引用文献6
<引用文献等一覧>
1.特開2014-225786号公報
2.ケイズプロダクション、“ユーリードシステムズ PhotoImpact 11”、DOS/V SPECIAL、日本、株式会社毎日コミュニケーションズ、2006年4月1日、Vol.11、No.4、p.129
3.茂手木秀行、“Dx0 Optics Pro v5”、DTP WORLD、日本、株式会社ワークコーポレーション、2008年3月13日、Vol.13、No.3、pp.140~141
4.特開2000-50097号公報
5.“デジタルシネマカメラの比較撮影”、CG WORLD、日本、株式会社ワークスコーポレーション、2014年5月1日、Vol.189、pp.42~45
6.藤島健、“Dx0 FilmPack v1.1”、MAC POWER、日本、株式会社アスキー、2007年7月1日、Vol.18、No.7、p.145
第5 原査定の拒絶の理由についての当審の判断
上記「第4」に示した原査定の拒絶の理由について、以下に検討する。
本願の特許請求の範囲は、以下に記載したとおりである。ここで、特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明を、以下それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。また、当審にて1A及び2Aに分説し、以下それぞれ「発明特定事項1A」及び「発明特定事項2A」という。
(本願発明1)
「【請求項1】
(1A) フィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト。」
(本願発明2)
「【請求項2】
(2A) 前記仕組みが写真や動画やプロファイル等の色彩による表現やそのボケ具合を表現するものからなる
(1A)ことを特徴とする請求項1の仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト。」
1 理由4(進歩性:特許法第29条第2項)について
(1)引用文献1に基づく進歩性について
ア 本願発明1について
(ア)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審にて付与した(以下同様。)。
「【0009】
本発明の目的は、他の撮像装置のレンズ特性及びセンサ特性に合わせて画像データを得ることが可能な撮像装置及びその制御方法、並びにプログラムを提供することにある。」
「【0044】
図5において、図3、4で説明したレンズ、センサ、色空間に関するエミュレート情報を取得する(ステップS301)。このステップS301は、撮像装置で撮影して得られる画像データを、他の撮像装置のレンズ及び撮像素子の特性に合わせた画像データとするために、撮影条件の決定、及び画像データを変換するためのエミュレート情報を取得する取得手段に対応する。
【0045】
次いで、取得したレンズ、センサエミュレート情報を基に撮影条件を決定し、決定した撮影条件で撮影を行い、撮影で得られた画像データを、画像処理部105で変換する(ステップS302)。」
「【0082】
図8(A)において、エミュレート情報901には、本番撮影時・仮撮影時のレンズの機種名、レンズの色味情報、RGBの変換係数を示すエミュレート情報が含まれている。」
(イ)引用文献1に記載された発明(文献1発明)
上記(ア)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「文献1発明」という。)が記載されているといえる。
なお、文献1発明を当審にて1a~1eに分説し、以下それぞれ「発明特定事項1a」~「発明特定事項1e」という。また、各発明特定事項の末尾には、引用文献1での記載箇所を( )内に示した(以下同様。)。
(文献1発明)
「(1a) 他の撮像装置のレンズ特性及びセンサ特性に合わせて画像データを得るプログラムであって(【0009】)、
(1b) レンズ、センサ、色空間に関するエミュレート情報を取得し(【0044】)、
(1c) 撮像装置で撮影して得られる画像データを、他の撮像装置のレンズ及び撮像素子の特性に合わせた画像データとするために、撮影条件の決定、及び画像データを変換するためのエミュレート情報を取得し(【0044】)、
(1d) 取得したレンズ、センサエミュレート情報を基に、撮影で得られた画像データを、画像処理部で変換するものであり(【0045】)、
(1e) エミュレート情報には、レンズの機種名を示すエミュレート情報が含まれている(【0082】)
(1a) プログラム(【0009】)。」
(ウ)対比
文献1発明の発明特定事項1bによれば、文献1発明の「エミュレート情報」は、「レンズ」及び「センサ」に関する情報であり、発明特定事項1cによれば、文献1発明は、撮像装置で撮影して得られる画像データを、他の撮像装置のレンズ及び撮像素子の特性に合わせた画像データとするためにエミュレート情報を取得するものであるから、文献1発明の「画像処理部」においてエミュレート情報を基にして画像データを変換することは、本願発明1の発明特定事項Aにおける「カメラやレンズの景色を表現する仕組みをリアルに再現する」ことに相当する。
また、発明特定事項1aによれば、文献1発明は、プログラムであるから、発明特定事項Aにおける「アプリケーションソフト」に相当する。
そうすると、文献1発明は、本願発明1と、「カメラやレンズの景色を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」である点で一致するから、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
(一致点)
「カメラやレンズの景色を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」
(相違点)
本願発明1は、景色等を表現する仕組みが、フィルムやカメラやレンズ等の「メーカの必要とする」ものであるのに対し、文献1発明は、この点の特定がない点で相違する。
(エ)判断
上記(ウ)の相違点について検討する。
本願発明1の「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」は、「フィルムやカメラやレンズ等の」ものである。
ここで、本願の段落【0002】には、「各種のメーカは自社の必要と思われる景色等を写真や動画やプロファイル等を用いて表すことの必要性を感じている」と記載されており、また、段落【0009】には、「本発明はフィルムメーカやカメラメーカやレンズメーカ等の各メーカの自社の存在の特徴を表現するものの1つの大きな手段」と記載されている。
これらの記載から、本願発明1の「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」は、フィルム、カメラまたはレンズの各メーカが自社の製品の特徴を表現するために、必要とする景色等について、プロファイル等を用いて表しているものであることが読み取れる。
そうすると、本願発明1の「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」は、フィルム、カメラ又はレンズのいずれか単独のものであっても、あるいは、これらの組み合わせのものであっても「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」といえる。
よって、本願発明1の「フィルムやカメラやレンズ等」は、選択的な発明特定事項といえる。そうすると、「フィルム」、「カメラ」または「レンズ」のいずれかの「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」が、文献1発明に基づいて容易に想到することが示されれば、本願発明1が、文献1発明に基づいて容易に想到することが示されるものである。
ここで、文献1発明の発明特定事項1eは、「エミュレート情報には、レンズの機種名を示すエミュレート情報が含まれている」ものであり、「レンズの機種名」は、一般にメーカに応じて付けられているものである。
そうすると、文献1発明の「エミュレート情報」を、メーカに応じた情報とすることで、文献1発明が「カメラやレンズのメーカの必要とする景色を表現する仕組み」を備える構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、本願発明1は、文献1発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
イ 本願発明2について
本願の請求項2の「前記仕組み」は、請求項1の「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」のことである。
ここで、請求項2には、当該「仕組み」が、「写真や動画やプロファイル等」の「色彩による表現やそのボケ具合を表現するもの」と記載されている。この記載は、「写真」、「動画」又は「プロファイル」等のいずれか1つ、いずれか2つ又は3つ全てについての、「色彩による表現」又は「そのボケ具合を表現するもの」のいずれか1つ又は両方であることを意味するものである。そうすると、これらのいずれの組み合わせであっても請求項2の「景色を表現する仕組み」ということができるから、請求項2の「仕組み」は、「写真」、「動画」又は「プロファイル」、及び、「色彩による表現」又は「そのボケ具合を表現するもの」について、それぞれ選択的な発明特定事項といえる。
そして、文献1発明の「画像データ」が、本願発明2の「動画」に含まれることは、明らかである。
また、文献1発明の発明特定事項1bによれば、エミュレート情報は、レンズ、センサ、色空間に関するものであるから、文献1発明の「エミュレート情報」は、本願発明2の「色彩による表現」に含まれるといえる。
したがって、本願発明2は、文献1発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
(2)引用文献2に基づく進歩性について
ア 本願発明1について
(ア)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の記載がある。
・上段 第4行
「独自の機能が満載の画像編集ソフト」
・中段 中欄 第12~17行
「…カメラの特性を生かした自然な明るさに補正できる。カメラのプロファイルは、キヤノン、ソニーなどのメーカーごとに10種類が用意されており、自分のカメラに合わせて独自のプロファイル作成する事も可能だ。」
(イ)引用文献2に記載された発明(文献2発明)
上記(ア)の記載によれば、引用文献2には、以下の発明(以下「文献2発明」という。)が記載されているといえる。
(文献2発明)
「カメラのプロファイルがメーカーごとに用意された
カメラの特性を生かした自然な明るさに補正する
画像編集ソフト」
(ウ)対比
文献2発明の「カメラのプロファイル」は、本願発明1の「カメラの景色を表現する仕組み」を構成する情報に相当する。また、文献2発明の「カメラのプロファイルがメーカーごとに用意され」ることは、本願発明1の「カメラのメーカの景色を表現する仕組み」に係る情報を備えることに相当する。そして、文献2発明の「カメラの特性を生かした自然な明るさに補正する」ことは、本願発明1の「カメラの景色等を表現する仕組みをリアルに再現する」ことに相当する。
そうすると、文献2発明は、本願発明1の「カメラのメーカの景色を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」に相当するから、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
(一致点)
「カメラのメーカの景色を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」
(相違点)
本願発明1は、景色等を表現する仕組みが、フィルムやカメラやレンズ等のメーカの「必要とする」ものであるのに対し、文献2発明は、メーカ「ごとに用意される」ものである点で相違する。
(エ)判断
上記(ウ)の相違点について検討する。
上記(1)ア(エ)と同様に、本願発明1の「フィルムやカメラやレンズ等」は、選択的な発明特定事項と認められるから、フィルム、カメラ又はレンズのいずれか、あるいは、これらの組み合わせにより「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」が、文献2発明に基づいて容易に想到することが示されれば、本願発明1が、文献2発明に基づいて容易に想到することが示されるものである。
ここで、文献2発明の画像編集ソフトは、カメラの特性をメーカーごとに用意するものであるから、メーカーの必要とする特性をメーカーごとに用意するものといえる。そうすると、文献2発明のメーカーごとに用意されたカメラの特性を用いて画像を編集する構成を、本願発明1の「メーカの必要とする景色を表現する仕組みをリアルに再現する」構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、本願発明1は、文献2発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
イ 本願発明2について
上記(1)イと同様に、本願の請求項2の「写真や動画やプロファイル等」及び「色彩による表現やそのボケ具合を表現するもの」は、それぞれ、選択的な発明特定事項といえる。
そして、文献2発明の「画像」が本願発明2の「写真や動画」に含まれることは、明らかである。
また、文献2発明は、「自然な明るさに補正」するものであるから、「自然な明るさ」に係る情報は、本願発明2の「色彩による表現」に含まれるといえる。
したがって、本願発明2は、文献2発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
(3)引用文献3に基づく進歩性について
ア 本願発明1について
(ア)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の記載がある。
・141ページ 下段 左欄 第8~14行
「RAW現像ソフトウェアの基本である、露出やトーン、ホワイトバランス調整といった画づくりの機能は全て万全であり、独自の現像アルゴリズムからはノイズが少なく、解像力の高い、高品質の画像が簡単にでき上がる。そのバックボーンになっているのは、多くのデジタルカメラとそれに組み合わせるレンズの実写結果の解析だ。」
・140ページ 下段 左欄 第9~11行
「劇的なまでにノイズが補正され、ブラーと色収差が補正されて解像度が向上している。」
・140ページ 下段 右欄 第5~8行
「「カラーレンダリングプロファイル」では、異なるカメラの色再現をエミュレーションできる。さらに「Dx0 FilmPack」(別売)と合わせれば、フィルムの色再現も可能だ。」
(イ)引用文献3に記載された発明(文献3発明)
上記(ア)の記載によれば、引用文献3には、以下の発明(以下「文献3発明」という。)が記載されている。
(文献3発明)
「多くのデジタルカメラとそれに組み合わせるレンズについて、
異なるカメラの色再現をエミュレーションし、
フィルムの色再現もする、
高品質の画像が簡単にでき上がる現像ソフトウェア」
(ウ)対比
文献3発明の「異なるカメラの色再現をエミュレーション」することは、本願発明1の「景色を表現する仕組みをリアルに再現する」ことに相当する。
そうすると、文献3発明は、本願発明1の「フィルムやカメラやレンズの景色を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」に相当するから、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
(一致点)
「フィルムやカメラやレンズ等の景色等を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」
(相違点)
本願発明1は、景色等を表現する仕組みが、フィルムやカメラやレンズ等の「メーカの必要とする」ものであるのに対し、文献3発明は、この点の特定がない点で相違する。
(エ)判断
上記(ウ)の相違点について検討する。
上記(1)ア(エ)と同様に、本願発明1の「フィルムやカメラやレンズ等」は、選択的な発明特定事項と認められるから、フィルム、カメラ又はレンズのいずれか、あるいは、これらの組み合わせにより「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」が、文献3発明に基づいて容易に想到することが示されれば、本願発明1が、文献3発明に基づいて容易に想到することが示されるものである。
ここで、カメラ及びフィルムは、それぞれ、複数のメーカが販売しているものであり、これらを特定する情報には、メーカを特定することが含まれるものである。
そうすると、文献3発明の「異なるカメラの色再現、及び、フィルムの色再現をエミュレーション」する構成は、カメラ及びフィルムを特定することによって、そのメーカを特定することが含まれるといえるから、文献3発明の当該構成を、本願発明1の「フィルムやカメラのメーカの必要とする景色を表現する仕組みをリアルに再現する」構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、本願発明1は、文献3発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
イ 本願発明2について
上記(1)イと同様に、本願の請求項2の「写真や動画やプロファイル等」及び「色彩による表現やそのボケ具合を表現するもの」は、それぞれ、選択的な発明特定事項といえる。
そして、文献3発明の現像ソフトウェアが取り扱う「画像」が本願発明2の「写真や動画」に含まれることは、明らかである。
また、文献3発明は、「カメラ及びフィルムの色再現」をするものであるから、文献3発明の「カメラ及びフィルムの色再現」に係る情報は、本願発明2の「色彩による表現」に含まれるといえる。
したがって、本願発明2は、文献3発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
(4)引用文献4に基づく進歩性について
ア 本願発明1について
(ア)引用文献4に記載された事項
引用文献4には、以下の記載がある。
「【0045】本実施形態によれば、ある入力機器の画像を、あるフィルムの階調再現に近づけることが可能になる。たとえば図8に示すような入力機器の階調特性を、図9に示すような銀塩フィルムの階調特性に変換するルックアップテーブルを作成して、ある入力機器の画像をある銀塩フィルムで再現される画像に近づけることができる。こうすることで、良好な階調再現および好ましい色再現を簡単に実現することができる。好ましい色再現を実現することは、デジタルカメラなどの入力機器から入力した画像の画質を向上させるための1つの手段として、非常に有効であると考えられる。」
「【0123】(他の実施形態)本発明は前述した実施形態の機能を実現する様に各種のデバイスを動作させる様に該各種デバイスと接続された装置あるいはシステム内のコンピュータに、前記実施形態機能を実現するためのソフトウエアのプログラムコードを供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(CPUあるいはMPU)を格納されたプログラムに従って前記各種デバイスを動作させることによって実施したものも本発明の範疇に含まれる。」
(イ)引用文献4に記載された発明(文献4発明)
上記(ア)の記載によれば、引用文献4には、以下の発明(以下「文献4発明」という。)が記載されている。
(文献4発明)
「入力機器の画像を、あるフィルムの階調再現に近づける(【0045】)
ソフトウエア(【0123】)」
(ウ)対比
文献4発明の「入力機器の画像を、あるフィルムの階調再現に近づける」ことは、本願発明1の「フィルムの景色を表現する仕組みをリアルに再現する」ことに相当する。
そうすると、文献4発明は、本願発明1の「フィルムの景色を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」に相当するから、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
(一致点)
「フィルムの景色を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」
(相違点)
本願発明1は、景色等を表現する仕組みが、フィルムやカメラやレンズ等の「メーカの必要とする」ものであるのに対し、文献4発明は、この点の特定がない点で相違する。
(エ)判断
上記(ウ)の相違点について検討する。
上記(1)ア(エ)と同様に、本願発明1の「フィルムやカメラやレンズ等」は、選択的な発明特定事項と認められるから、フィルム、カメラ又はレンズのいずれか、あるいは、これらの組み合わせにより「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」が、文献4発明に基づいて容易に想到することが示されれば、本願発明1が、文献4発明に基づいて容易に想到することが示されるものである。
ここで、フィルムは、複数のメーカが販売しているものであり、フィルムを特定することは、実質的にメーカを特定することが含まれるものである。
そうすると、文献4発明の「入力機器の画像を、あるフィルムの階調再現に近づける」構成には、フィルムを特定することによって、そのメーカを特定することが含まれるといえるから、文献4発明の当該構成を、本願発明1の「フィルムのメーカの必要とする景色を表現する仕組みをリアルに再現する」構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、本願発明1は、文献4発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
イ 本願発明2について
上記(1)イと同様に、本願の請求項2の「写真や動画やプロファイル等」及び「色彩による表現やそのボケ具合を表現するもの」は、それぞれ、選択的な発明特定事項といえる。
そして、文献4発明の「画像」が本願発明2の「写真や動画」に含まれることは、明らかである。
また、文献4発明は、「階調再現」するものであるから、文献4発明の「階調再現」に係る情報は、本願発明2の「色彩による表現」に含まれるといえる。
したがって、本願発明2は、文献4発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
(5)引用文献5に基づく進歩性について
ア 本願発明1について
(ア)引用文献5に記載された事項
引用文献5には、以下の記載がある。
・42ページ 左欄 第21~33行
「現在の映像制作現場では、現像プロセスを通してルックの調整ができることやダイナミックレンジの広さ、そして味わいのあるルックなどを理由に、フィルムの人気が根強い。そのため、今回はフィルムカメラを含めた全てのカメラをACES上で色味を統一した後、富士フイルムの映像制作用色管理システム「Image Processing System IS-100」のKodak VISION3 200TのフィルムエミュレーションLUTを使用して、全てのカメラのルックをKodak VISION3 200Tに統一することになった。」
(イ)引用文献5に記載された発明(文献5発明)
上記(ア)の記載によれば、引用文献5には、以下の発明(以下「文献5発明」という。)が記載されている。
(文献5発明)
「フィルムカメラを含めた全てのカメラを、
フィルムエミュレーションLUTを使用して、
全てのカメラのルックを統一する
映像制作用色管理システム」
(ウ)対比
文献5発明の「フィルムエミュレーションLUT」は、本願発明1の「フィルムの景色を表現する仕組み」に係る情報に相当する。
また、文献5発明の「全てのカメラのルックを統一する」ことは、統一されるカメラのルックに全てのカメラのルックを合わせることであるから、本願発明1の「カメラの景色を表現する仕組みをリアルに再現する」ことに相当する。
そして、文献5発明の「映像制作用色管理システム」で実施されるシステムの動作は、システムを動作させるプログラムによって実施されるものであり、そのようなシステムのプログラムは、アプリケーションソフトといえるものである。
そうすると、文献5発明は、本願発明1の「フィルムやカメラの景色を表現する仕組みをリアルに再現するアプリケーションソフト」に相当するから、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
(一致点)
「フィルムやカメラの景色を表現する仕組みをリアルに再現するアプリケーションソフト」
(相違点)
本願発明1は、景色等を表現する仕組みが、フィルムやカメラやレンズ等の「メーカの必要とする」ものであるのに対し、文献5発明は、この点の特定がない点で相違する。
(エ)判断
上記(ウ)の相違点について検討する。
上記(1)ア(エ)と同様に、本願発明1の「フィルムやカメラやレンズ等」は、選択的な発明特定事項と認められるから、フィルム、カメラ又はレンズのいずれか、あるいは、これらの組み合わせにより「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」が、文献5発明に基づいて容易に想到することが示されれば、本願発明1が、文献5発明に基づいて容易に想到することが示されるものである。
ここで、文献5発明は、「全てのカメラのルックを統一する」ものであり、この「全て」に、富士フイルムやKodakといったメーカが含まれることは、引用文献5の記載からも明らかであることから、文献5発明の「全てのカメラのルックを統一する」ための情報には、メーカを特定することが含まれるものである。
そうすると、文献5発明の「カメラのルックを統一する」構成を、本願発明1の「カメラのメーカの必要とする景色を表現する仕組みをリアルに再現する」構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、本願発明1は、文献5発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
イ 本願発明2について
上記(1)イと同様に、本願の請求項2の「写真や動画やプロファイル等」及び「色彩による表現やそのボケ具合を表現するもの」は、それぞれ、選択的な発明特定事項といえる。
そして、文献5発明は、「映像制作用色管理システム」であるから、「映像」が取り扱われるものである。ここで、映像とは、動きを表す画像の集まりを指し示す用語であるから、動画に含まれるものである。文献5発明の「映像」が本願発明2の「写真や動画」に含まれることは、明らかである。
また、文献5発明は、「カメラのルックを統一する」ものであるから、文献5発明の「フィルムエミュレーションLUT」に係る情報は、本願発明2の「色彩による表現」に含まれるといえる。
したがって、本願発明2は、文献5発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
(6)引用文献6に基づく進歩性について
ア 本願発明1について
(ア)引用文献6に記載された事項
引用文献6には、以下の記載がある。
・左欄 第1~7行
「「Dx0 FilmPack v1.1」は、デジタル画像に対して、既存の銀塩フィルムの発色傾向や粒状性などをシミュレートできるソフトだ。開発元の仏ディーエックスオー・ラボ社は、各メーカーのレンズ特性データに基づき収差などを自動補正する機能を持つRAWデータ現像ソフト「Dx0 Optics Pro」でも知られる。」
(イ)引用文献6に記載された発明(文献6発明)
上記(ア)の記載によれば、引用文献6には、以下の発明(以下「文献6発明」という。)が記載されている。
(文献6発明)
「デジタル画像に対して、銀塩フィルムの発色傾向をシミュレートできるソフト」
(ウ)対比
文献6発明の「銀塩フィルムの発色傾向をシミュレート」することは、フィルムの特性を再現することであるから、本願発明1の「フィルムの景色を表現する仕組みをリアルに再現する」との発明特定事項に含まれるものである。
そうすると、文献6発明と本願発明1は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
(一致点)
「フィルムの景色を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」
(相違点)
本願発明1は、景色等を表現する仕組みが、フィルムやカメラやレンズ等の「メーカの必要とする」ものであるのに対し、文献6発明は、この点の特定がない点で相違する。
(エ)判断
上記(ウ)の相違点について検討する。
上記(1)ア(エ)と同様に、本願発明1の「フィルムやカメラやレンズ等」は、選択的な発明特定事項と認められるから、フィルム、カメラ又はレンズのいずれか、あるいは、これらの組み合わせにより「メーカの必要とする景色等を表現する仕組み」が、文献6発明に基づいて容易に想到することが示されれば、本願発明1が、文献6発明に基づいて容易に想到することが示されるものである。
ここで、フィルムは、複数のメーカが販売しているものであり、これらを特定する情報には、メーカを特定することが含まれるものである。
そうすると、文献6発明の「デジタル画像に対して、銀塩フィルムの発色傾向をシミュレート」する構成は、フィルムを特定することで、メーカを特定することを含むものであるから、本願発明1の「フィルムのメーカの必要とする景色を表現する仕組みをリアルに再現する」構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、本願発明1は、文献6発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
イ 本願発明2について
上記(1)イと同様に、本願の請求項2の「写真や動画やプロファイル等」及び「色彩による表現やそのボケ具合を表現するもの」は、それぞれ、選択的な発明特定事項といえる。
そして、文献6発明の「デジタル画像」が本願発明2の「写真や動画」に含まれることは、明らかである。
また、文献6発明は、「発色傾向をシミュレートする」ものであるから、文献6発明の「発色傾向をシミュレートする」ことに係る情報は、本願発明2の「色彩による表現」に含まれるといえる。
したがって、本願発明2は、文献6発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。
2 理由2(実施可能要件:特許法第36条第4項第1号)について
(1)実施可能要件の一般的な判断基準
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきであると解される(知財高裁平成29年(行ケ)第10138号)。
(2)当審の判断
本願発明1及び2について、上記(1)の判断基準に従い、判断する。
本願発明1は、「フィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」である。
一方で、当初明細書等は、上記「第2」の2(1)アのとおりであり、「アプリケーションソフト」において、具体的にどのような手順で、どのような計算を実施することで、画像の処理を行うのかが記載されていない。
よって、どのように「フィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現する」のかについて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
したがって、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、本願発明1または2を実施することができる程度に記載されているとはいえない。
3 理由1(明確性:特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1及び2
上記「第4」の理由1において(2)及び(3)で指摘したとおり、請求項1に記載の「フィルムやカメラやレンズ等」及び「メーカの必要とする景色等」は、「等」で示される範囲が明確でないから、請求項1に係る発明が明確でない。
また、請求項2は、請求項1を引用するものであるが、請求項2の記載を参酌しても、請求項2に係る発明は、明確でない。
(2)請求項2
上記「第4」の理由1において(7)で指摘したとおり、請求項1に記載の「プロファイル等」は、「等」で示される範囲が明確でないから、請求項2に係る発明が明確でない。
第6 むすび
上記「第5」のとおり、本願の本願発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。
また、本願の発明の詳細な説明の記載は、同法第36条第4項第1号に掲げる事項に該当しないものであるから同項の規定に違反するものである。
更に、本願の特許請求の範囲の記載は、同条第6項第2号に掲げる事項に該当しないものであるから同項の規定に違反するものである。
したがって、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
(なお、上記「第2」において、本件補正は却下されており、その理由として、「2 本件補正の適否」において、本件補正が、特許法第17条の2第3項(新規事項の追加)の規定に違反してなされたものである点を指摘している。
1 ここで、仮に、本件補正が同項の規定を満たすものであった場合について、念のために検討する。
(1)特許法第17条の2第5項(補正の目的)について
本件補正は、上記「第2」の2(1)イに記載された特許請求の範囲を、上記「第2」の1(2)に記載された特許請求の範囲に補正するものであるから、本件補正前の請求項1又は2に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明を比較すると、本件補正は、「アプリケーションソフト」について、本件補正前の発明特定事項1Aの「フィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現するための」ものであることから、本件補正後の発明特定事項Aの「ユーザの求める各種カメラ固有の写真色を擬似的に再現するための」ものであることへ変更する補正(以下「補正A」という。)、及び、本件補正後の発明特定事項Cの「スマホやタブレットやPCのカメラ機能を利用する」との発明特定事項を追加する補正(以下「補正C」という。)を含むものである。よって、補正A及びCが、同項の各号に掲げられた目的に該当するかを検討する。
補正A及びCは、発明特定事項を変更又は追加するものであり、同項第1号(請求項の削除)、第2号(特許請求の範囲の限定的減縮)、第3号(誤記の訂正)及び第4号(不明瞭な記載の釈明)のいずれにも該当しないことは、明らかである。
よって、補正A及びCを含む本件補正は、同項の規定に違反してなされたものである。
したがって、依然として、本件補正は、却下するべきものである。
2 ここで、更に、仮に、本件補正が同項の規定を満たすものであった場合について、念のために検討する。
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び第2号(明確性)について
本件補正後の請求項1は、発明特定事項Bとして「具体的にカメラ固有の画像センサと画像処理エンジンの組み合わせをプロファイル化」する動作が備えられるものであるが、具体的に何をどのようにすることで「プロファイル化」することになるのかが、当初明細書等に対応する記載がなく、また、当初明細書等を参酌しても明確でない。
また、本件補正後の請求項1は、発明特定事項Cとして「スマホやタブレットやPCのカメラ機能を利用する」との動作が備えられるものであるが、具体的に何をどのようにすることで「利用する」ことになるのかが、当初明細書等に対応する記載がなく、また、当初明細書等を参酌しても明確でない。
よって、本件補正後の請求項1に係る発明は、当初明細書等に記載された事項ではなく、また、明確でない。
(2)特許法第29条第2項(進歩性)について
本件補正前の請求項2は、上記「第5」で示したとおり、発明特定事項1A及び2Aからなる「アプリケーションソフト」であり、本件補正後の請求項1は、上記「第2」で示したとおり、発明特定事項A、B及びCからなる「アプリケーションソフト」である。
本件補正後の請求項1の発明特定事項Aである「ユーザの求める各種カメラ固有の写真色を擬似的に再現するためのアプリケーションソフト」と、本件補正前の請求項2における発明特定事項1Aである「フィルムやカメラやレンズ等のメーカの必要とする景色等を表現する仕組みをリアルに再現するためのアプリケーションソフト」とは、概ね一致するものである。
また、本件補正後の請求項1の発明特定事項B及びCは、「具体的にカメラ固有の画像センサと画像処理エンジンの組み合わせをプロファイル化」すること、及び、「スマホやタブレットやPCのカメラ機能を利用する」ことが上記(1)で示したとおり明確でないため、進歩性の判断において、本件補正後の請求項1の発明特定事項から除外する。
(更に、本件補正後の請求項1の発明特定事項Cにおける「スマホやタブレットやPCのカメラ機能を利用する」との記載が、「スマホやタブレットやPCのカメラ機能により画像を取得する」ことである場合について検討する。
引用文献1~6は、いずれも、カメラで撮影された画像を補正するものであるから、補正の対象となる画像をカメラ機能により取得することは、当業者にとって当然のことである。また、カメラ機能を有する電子機器として「スマホやタブレットやPC」が挙げられることも、当業者にとって自明のことである。)
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、上記「第5」の1での検討と同様に、当業者が文献1発明~文献6発明のそれぞれに基づいて容易になし得るものである。)
審決本文(J-PlatPat)
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2022-018624