特許拒絶査定不服審判
2021-000522
ディーゼルエンジンのための排気システム
- 審判番号
- 2021-000522
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-553450
- 請求日
- 2021年01月14日
- 審決日
- 2021年10月19日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
- 【請求人代理人】園田・小林特許業務法人
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 正章
- 審判官 鈴木 充
- 審判官 金澤 俊郎
- 分類
- P18 .121-Z (F01N) / P18 .575-Z (F01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-553450「ディーゼルエンジンのための排気システム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日国際公開、WO2017/180114、令和1年7月4日国内公表、特表2019-518896〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)4月13日を国際出願日とする出願であって、平成31年4月2日に手続補正書が提出され、令和2年1月6日付け(発送日:令和2年1月14日)で拒絶理由が通知され、令和2年4月13日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年9月4日付け(発送日:令和2年9月15日)で拒絶査定がされ、これに対して令和3年1月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和3年4月20日に上申書が提出されたものである。
第2 令和3年1月14日の手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和3年1月14日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
1 本件補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(令和2年4月13日の手続補正書)の請求項1に、
「【請求項1】
ディーゼルエンジンによって生じる排気ガスを処理するための排気システムであって、
(a) 白金族金属(PGM)及び基材を含む、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置であって、白金族金属(PGM)が白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びこれらの組み合わせから選択され、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置が、(i)ディーゼル酸化触媒(DOC)、(ii)触媒化スートフィルター(CSF)、(iii)コールドスタートコンセプト触媒;(iv)ディーゼル酸化触媒(DOC)及び触媒化スートフィルター(CSF);並びに(v)コールドスタートコンセプト触媒及び触媒化スートフィルター(CSF)から成る群より選択され得り、ディーゼル酸化触媒が、20から200g ft-3の総充填量のPGMを有し得り、コールドスタート触媒が、≧1g ft-3の総充填量のPGMを含む、排出制御装置と;
(b) 排気ガスにアンモニア前駆物質を導入するためのインジェクターであって、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置の下流にあるインジェクターと;
(c) 排気ガスにアンモニア前駆物質を導入するためのインジェクターの下流の、基材と第1の選択的触媒還元組成物とを含む第1の選択的触媒還元触媒であって、基材がフロースルー基材かフィルタリング基材のいずれかである第1の選択的触媒還元触媒と;
(d) 第1の選択的触媒還元触媒の下流の、フロースルー基材及び第2の選択的触媒還元(SCR)組成物を含む第2の選択的触媒還元触媒と
を備え、かつ、
排出制御装置及び第1の選択的触媒還元触媒の少なくとも一方がフィルタリング基材を有する排気システム。」
とあったものを、
「【請求項1】
ディーゼルエンジンによって生じる排気ガスを処理するための排気システムであって、
(a) 白金族金属(PGM)及び基材を含む、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置であって、白金族金属(PGM)が白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びこれらの組み合わせから選択され、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置が、コールドスタートコンセプト触媒;並びにコールドスタートコンセプト触媒及び触媒化スートフィルター(CSF)から成る群より選択され得り、コールドスタート触媒が、≧1g ft-3の総充填量のPGMを含む、排出制御装置と;
(b) 排気ガスにアンモニア前駆物質を導入するためのインジェクターであって、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置の下流にあるインジェクターと;
(c) 排気ガスにアンモニア前駆物質を導入するためのインジェクターの下流の、基材と第1の選択的触媒還元組成物とを含む第1の選択的触媒還元触媒であって、基材がフロースルー基材かフィルタリング基材のいずれかである第1の選択的触媒還元触媒と;
(d) 第1の選択的触媒還元触媒の下流の、フロースルー基材及び第2の選択的触媒還元(SCR)組成物を含む第2の選択的触媒還元触媒と
を備え、かつ、
排出制御装置及び第1の選択的触媒還元触媒の少なくとも一方がフィルタリング基材を有する排気システム。」
と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために当審で付与した。)。
上記補正は、本件補正前の請求項1に記載される発明の発明特定事項である「一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置」について、「(i)ディーゼル酸化触媒(DOC)、(ii)触媒化スートフィルター(CSF)、(iii)コールドスタートコンセプト触媒;(iv)ディーゼル酸化触媒(DOC)及び触媒化スートフィルター(CSF);並びに(v)コールドスタートコンセプト触媒及び触媒化スートフィルター(CSF)から成る群より選択され得」るものであったものを、選択肢の中から、「(i)ディーゼル酸化触媒(DOC)」、「(ii)触媒化スートフィルター(CSF)」及び「(iv)ディーゼル酸化触媒(DOC)及び触媒化スートフィルター(CSF)」を削除して、「コールドスタートコンセプト触媒;並びにコールドスタートコンセプト触媒及び触媒化スートフィルター(CSF)から成る群より選択され得」るものに限定したものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。
2 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由において引用されたNASERI,Mojghan 外4名,Development of Emission Control Systems to Enable High NOX Conversion on Heavy Duty Diesel Engines,SAE International Journal of Engines,(米国),SAE International,2015年 6月,Volume8 Issue3,p.1144-1150(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。
ア 「INTRODUCTION
To meet NOX emission requirements and regulations for heavy duty diesel engines, selective catalytic reduction (SCR) has been demonstrated to be an effective solution. With increasing demand for improved fuel economy there is a desire to improve the NOX emission reduction of the SCR system, thus allowing for higher engine out NOX emissions. Such requirements will challenge the current aftertreatment designs, which consist of DOC, catalyzed soot filter (CSF) and SCR units. One approach is to replace the CSF with a diesel particulate filter coated with SCR(SCR-DPF) while keeping the flow-through SCR downstream. The downstream SCR can also be improve by using a highly porous flow-through substrate coated with higher washcoat loadings than those typically used on standard substrates today. This design will not only allow for improvement of NOx conversion at low tempreture since the SCR-DPF unit will be closer to turbo out, but also an increased number of SCR active sites can be placed in the overall system without increasing the packing size in a typical 2010/13 system and thus provide high NOx conversion. For the SCR-DPF technology, high porosity filters are needed to enable the use of the higher catalytic loadings necessary to get good performance and durability. There highly porous filters need to have very good thermo mechanical properties to enable them to survive the active regeneration events over the life of the system. Also, a novel catalyst known as diesel Cold Start Concept (dCSCTM) catalyst was introduced for cold start application [1]. This Cold Start catalyst stores HC and NOX at low temperatures with very high storage efficiencies. The NOX release temperature in a cold start catalyst is designed to be high enough that the released NOX can be further converted by the downstream catalytic components.」(1144ページ左欄1行ないし1145ページ左欄5行)
〔当審訳〕
「はじめに
大型ディーゼルエンジンのNOX排出規制を満たすためには,選択的触媒還元(SCR)が有効な手段であることが実証されている。燃費向上への要求が高まる中、SCRシステムのNOX排出量削減効果を向上させ,エンジンからのNOX排出量を増加させたいという要望がある。このような要求は、DOC、触媒付きスートフィルター(CSF)、SCRユニットで構成されている現在の後処理装置の設計を変化させる。一つのアプローチは、CSFを、SCRでコーティングされたディーゼル・パティキュレート・フィルター(SCR-DPF)に置き換え、下流にはフロースルーのSCRを残すことである。下流のSCRは、多孔質のフロースルー基材に、現在の標準的な基材で使用されているものよりも高いウォッシュコートの負荷をかけてコーティングすることで改善することもできる。この設計により、SCR-DPFユニットがターボアウトに近くなる前に、低温でのNOX転換率が向上するだけでなく、一般的な2010/13年型システムのように充填量を増やすことなく、システム全体でSCR活性サイトの数を増やすことができ、高いNOX転換率を実現することができる。SCR-DPF技術では、良好な性能と耐久性を得るために必要な、より高い触媒負荷を使用できるようにするために、気孔率の高いフィルターが必要となる。高気孔率のフィルターは、システムの寿命期間中の活発な再生イベントに耐えられるよう、非常に優れた熱機械的特性を持つ必要がある。また、コールドスタート用に「ディーゼル・コールドスタート・コンセプト(dCSCTM)触媒」と呼ばれる新しい触媒が導入された[1]。このコールドスタート触媒は、HCとNOXを低温で非常に高い吸蔵効率で吸蔵する。コールドスタート触媒のNOX放出温度は、放出されたNOXが下流の触媒成分によってさらに変換されるように十分高く設計されている。」
イ 「In the current study, result are being presented from the evaluation of combinations of a cold start catalyst plus SCR-DPF unit with downstream high porosity SCR catalysts to achieve high NOX conversions. The performance was evaluated on an engine with high engine out NOX. First, the NOx conversion capability of these system was evaluated during standard transient FTP protocol cycle. Second, different control strategies were evaluated to understand the effect of reductant dosing strategy and thermal management on NOx conversion.」(1145ページ左欄11ないし19ページ)
〔当審訳〕
「今回の研究では、コールドスタート触媒とSCR-DPFユニット、および下流の高気孔率SCR触媒を組み合わせて、高いNOX転換率を達成するための評価結果を示している。この性能は、エンジンアウトのNOXが多いエンジンで評価した。第一に、これらのシステムのNOX変換能力を、標準的なトランジェントFTPプロトコルサイクルで評価した。次に、還元剤の投与方法と熱管理がNOX変換に与える影響を理解するために、異なる制御戦略を評価した。」
ウ 「EXPERIMENTAL
In previous paper [9], it was shown that the best system for high NOx conversion is a combination of DOC, SCR-DPF, and SCR on high porosity high cell density SCR catalyst. In the current work, two systems were utilized; they consisted of 1) diesel oxidation catalyst (DOC), SCR coated on DPF or SCR-DPF system and a high porosity, high cell density SCR catatyst, and 2) Cold Start Concept catalyst, SCR-DPF system and, a high porosity high cell density SCR catalyst. Cu-zeolite SCR technology was used in the system for SCR-DPF technology and high porosity high cell density SCR. The system configurations are shown in Figure 1. The different substrate detail and aging conditions are shown in Table 1.
As shown in Table 1, SCR-DPF component used for this study was on NGK cordierite C650, 300 cells per square inch and with 12 mil wall thickness. The high porosity high cell density flow through substrates (HPS) used for SCR was on NGK cordierite 600 cells per square inch with 4 mil wall thickness. All components were hydrothermally aged at 650°C for 100 hours, prior to testing. There was 10% water present during hydrothermal aging.」(1145ページ左欄20ないし38行)
〔当審訳〕
「実験
以前の論文[9]では、DOC、SCR-DPF、および高気孔率・高セル密度のSCR触媒を組み合わせたシステムが、高いNOX変換率を実現するための最適なシステムであることが示された。今回の研究では、1)ディーゼル酸化触媒(DOC)、DPF上にコーティングされたSCR、またはSCR-DPFシステムと高気孔率・高セル密度のSCR触媒、2)コールドスタートコンセプト触媒、SCR-DPFシステムと高気孔率・高セル密度のSCR触媒、という2つのシステムを利用した。SCR-DPF技術と高気孔率高セル密度SCRのシステムには、Cu-ゼオライトSCR技術が採用された。システムの構成を図1に示す。これらの基板の詳細とエージング条件を表1に示す。
表1に示すように、本研究で使用されたSCR-DPFコンポーネントは、NGKコーディエライトC650で、1平方インチあたり300セル、12ミルの壁厚を持つ。SCRに使用した高気孔率・高セル密度フロースルー基板(HPS)は、NGKコーディエライト、1平方インチあたり600セル、4ミルの壁厚であった。すべての部品は、テストの前に650℃で100時間の水熱熟成を行った。水熱エージング中は10%の水分が含まれていた。」
エ 「Three options were considered for this study. In one option, effect of dosing NH3 gas under very cold temperature condition of the cold FTP cycle was evaluated, NH3 gas was introduced during the cold sections while standard Urea dosing was resumed once the temperature was warm enough to enable Urea dosing. In another option, the impact of pre-stored NH3 along with standard Urea dosing was evaluated. In the final and third option, an electrical heater was used to warm up the exhaust in the first 400 seconds of the cold FTP and its effect was evaluated under cold FTP along with NH3 pre-saturation and standard Urea dosing. The maximum power for the heater 20KW. The heater was installed after either DOC or Cold Start Concept catalyst and before urea injection and SCR-DPF unit as shown in the schematic.」(1146ページ左欄 下から10行ないし右欄3行)
〔当審訳〕
「この研究では3つのオプションを検討した。1つのオプションでは、コールドFTPサイクルの非常に低い温度条件でNH3ガスを投与する効果を評価し、コールドセクションでNH3ガスを導入し、尿素の投与が可能になるほど温度が上がった時点で標準的な尿素の投与を再開した。もう1つのオプションでは、標準的な尿素の投与とともに事前に貯蔵したNH3の影響を評価した。別のオプションでは、標準的な尿素投与に加えてNH3を事前に貯蔵した場合の影響を評価した。最後の3つ目のオプションでは、冷間FTPの最初の400秒間に電気ヒータを使用して排気を暖め、その効果をNH3の事前貯蔵と標準的な尿素投与とともに冷間FTPで評価した。ヒータの最大出力は20KWであった。ヒータはDOCまたはコールドスタートコンセプト触媒の後、尿素噴射とSCR-DPFユニットの前に設置された(図参照)。」
オ 「The same test was repeated by replacing DOC with the Cold Start Concept catalyst. Both temperature and NOX traces for that configuration are shown in Figure 12. The Cold Start catalyst was capable of storing significant amount of NOX at start of cycle through the first 100 seconds. After 100 seconds, with temperature increasing, the dCSC started releasing some NOX with most coming out after 250 seconds. Meanwhile, with the heater, the inlet temperature of the SCR-DPF reached 200°C around 100 seconds in the cycle which enabled NOX reduction across the SCR-DPF and SCR. This was also supported by the stored NH3 available. As a result, there was no NOX breakthrough in the tailpipe after the first 100 seconds and all NOX was converted. This resulted in a NOX conversion of 98% for the dCSC systems.」(1149ページ右欄33行ないし1150ページ左欄8行)
〔当審訳〕
「DOCをコールドスタートコンセプト触媒に置き換えて同じテストを繰り返した。この構成での温度とNOXのトレースを図12に示す。コールドスタート触媒は、サイクル開始時から最初の100秒間,かなりの量のNOXを貯蔵することができた。100秒後、温度が上昇するにつれて、dCSCはいくらかのNOXを放出し始め、250秒後にはほとんどのNOXが放出された。一方、ヒータを使用した場合、SCR-DPFの入口温度はサイクル開始から100秒前後で200℃に達し、SCR-DPFとSCRでNOXを還元することができた。これは、貯蔵されていたNH3のおかげでもある。その結果、最初の100秒後にはテールパイプ内でNOXのブレークスルーが発生せず、すべてのNOXが変換された。この結果、dCSCシステムのNOX転換率は98%となった。」
カ 1145ページ「Figure 1 System Configurations」の図
[図:0001382861000001.jpg]
キ 1146ページ「System with electrical heater Schematic」の図
[図:0001382861000002.jpg]
ク 上記ア から、引用文献1は、ディーゼルエンジンによって生じる排気ガスを処理するための排気システムに関するものであることがわかる。
ケ 上記ウ 及びエ の記載事項並びにカ の下の図及びキ の図から、排気ガスの流れの上流側から、コールドスタートコンセプト触媒、尿素を噴射する手段、SCR-DPFシステム、高気孔率・高セル密度のSCR触媒の順に配置されていることが把握できる。
コ 上記ア 及び技術常識から、SCR-DPFシステムはフィルタリング基材を有することは明らかである。
上記記載事項及び認定事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
〔引用発明〕
「ディーゼルエンジンによって生じる排気ガスを処理するための排気システムであって、
コールドスタートコンセプト触媒と;
コールドスタートコンセプト触媒の下流にある、排気ガスに尿素を噴射する手段と;
排気ガスに尿素を噴射する手段の下流の、SCR-DPFシステムと;
SCR-DPFシステムの下流の、高気孔率・高セル密度のSCR触媒と
を備え、かつ、
SCR-DPFシステムがフィルタリング基材を有する排気システム。」
(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2015/150805号(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「BACKGROUND TO THE INVENTION
Diesel engines produce an exhaust emission that generally contains at least four classes of pollutant that are legislated against by inter-governmental organisations throughout the world: carbon monoxide (CO), unburned hydrocarbons (HCs), oxides of nitrogen (NOx) and particulate matter (PM). Oxidation catalysts, such as diesel oxidation catalysts (DOCs), are typically used to oxidise carbon monoxide (CO) and hydrocarbons (HCs) in an exhaust gas produced by a diesel engine. Diesel oxidation catalysts can also oxidise some of the nitric oxide (NO) that is present in the exhaust gas to nitrogen dioxide (N02). Oxidation catalysts and other types of emissions control device typically achieve high efficiencies for treating or removing pollutants once they have reached their effective operating temperature. However, these catalysts or devices can be relatively inefficient below their effective operating temperature, such as when the engine has been started from cold (the "cold start" period) or has been idling for a prolonged period. As emissions standards for diesel engines, whether stationary or mobile (e.g. vehicular diesel engines), are being progressively tightened, there is a need to reduce the level of emissions produced during the cold start period.」
〔当審訳〕
「発明の背景
ディーゼルエンジンは、一般的に、世界中の政府間組織によって法制化されている少なくとも4つのクラスの汚染物質、すなわち、一酸化炭素(CO)、未燃焼炭化水素(HC)、窒素酸化物(ΝΟX)、および粒子状物質(PM)を含む排気ガスを生成する。ディーゼル酸化触媒(DOC)のような酸化触媒は、通常、ディーゼルエンジンによって生成される排気ガス中の一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)を酸化するために使用される。また、ディーゼル酸化触媒は、排ガス中に含まれる一酸化窒素(NO)の一部を二酸化窒素(ΝΟ2)に酸化させることもできる。酸化触媒をはじめとする排ガス規制装置は、有効な作動温度に達すると、汚染物質を高い効率で処理・除去することができる。しかし、これらの触媒やデバイスは、エンジンが冷えた状態から始動したとき(「コールドスタート」期間)や、長時間のアイドリング状態が続いたときなど、有効動作温度以下では比較的効率が悪くなることがある。ディーゼルエンジンの排出基準が徐々に厳しくなっているため、コールドスタート時の排出量を削減することが求められている。」
イ 「SUMMARY OF THE INVENTION
The oxidation catalyst of the invention is able to adsorb NOx at relatively low exhaust gas temperatures (e.g. less than 200 °C), such as during the cold start period of an engine. At higher exhaust gas temperatures, when the oxidation catalyst is at its effective temperature, the adsorbed NOx is released and nitric oxide (NO) is oxidised by the catalyst to nitrogen dioxide (N02) for treatment by a downstream emissions control device. The oxidation catalyst may also be able to adsorb hydrocarbons (HCs) at relatively low temperatures, and then release and oxidise any adsorbed HCs at higher temperatures. The oxidation catalyst also has good activity toward oxidising carbon monoxide (CO) and hydrocarbons (HCs) in an exhaust gas produced by a diesel engine.
The invention provides an oxidation catalyst for treating an exhaust gas from a diesel engine, which oxidation catalyst comprises: a first washcoat region for adsorbing NOx, wherein the first washcoat region comprises a zeolite catalyst, wherein the zeolite catalyst comprises a noble metal and a zeolite; a second washcoat region for oxidising nitric oxide (NO), wherein the second washcoat region comprises platinum (Pt) and a support material; and a substrate having an inlet end and an outlet end.」(2ページ9ないし25行)
〔当審訳〕
「発明の概要
本発明の酸化触媒は、エンジンのコールドスタート時などの比較的低い排気ガス温度(例えば200℃以下)でNOXを吸着することができる。より高い排気ガス温度では、酸化触媒がその有効温度にあるときに、吸着されたNOXが放出され、一酸化窒素(NO)が触媒によって二酸化窒素(NO2)に酸化され、下流の排出ガス制御装置によって処理される。また、酸化触媒は、比較的低温で炭化水素(HC)を吸着し、高温で吸着したHCを放出して酸化させることができるものであってもよい。また、この酸化触媒は、ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中の一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)を酸化する活性を有している。
本発明は、ディーゼルエンジンからの排ガスを処理するための酸化触媒を提供するものであり、この酸化触媒は、NOXを吸着するための第1のウォッシュコート領域であって、この第1のウォッシュコート領域が貴金属とゼオライトからなるゼオライト触媒と、一酸化窒素(NO)を酸化するための第2のウォッシュコート領域であって、この第2のウォッシュコート領域が白金(Pt)と担体材料からなる第2のウォッシュコート領域と、入口側の端部と出口側の端部を有する基材と、を備える。」
ウ 「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION
The oxidation catalyst of the invention comprises a first washcoat region and a second washcoat region. The first washcoat region may comprise, or consists essentially of, a zeolite catalyst.
The zeolite catalyst comprises, or consists essentially of, a noble metal and a zeolite. Zeolite catalysts can be prepared according to the method described in WO2012/166868.
The noble metal is typically selected from the group consisting of palladium (Pd), platinum (Pt), rhodium (Rh), gold (Au), silver (Ag), iridium (Ir), ruthenium (Ru), osmium (Os) and mixtures of two or more thereof. Preferably, the noble metal is selected from the group consisting of palladium (Pd), platinum (Pt), rhodium (Rh), gold (Au), silver (Ag), iridium (Ir), ruthenium (Ru) and mixtures of two or more thereof. More preferably, the noble metal is selected from the group consisting of palladium (Pd), platinum (Pt) and rhodium (Rh). Even more preferably, the noble metal is palladium (Pd). It is further preferred that the zeolite catalyst comprises palladium as the only noble metal.
Generally, it is preferred that the noble metal comprises, or consists of, palladium (Pd) and optionally a second metal selected from the group consisting of platinum (Pt), rhodium (Rh), gold (Au), silver (Ag), iridium (Ir) and ruthenium (Ru). Preferably, the noble metal comprises, or consists of, palladium (Pd) and optionally a second metal consisting of platinum (Pt) and rhodium (Rh). Even more preferably, the noble metal comprises, or consists of, palladium (Pd) and optionally platinum (Pt). When the noble metal comprises, or consists of, palladium (Pd) and a second metal, then the ratio by mass of palladium (Pd) to the second metal is > 1:1. More preferably, the ratio by mass of palladium (Pd) to the second metal is > 1:1 and the molar ratio of palladium (Pd) to the second metal is > 1:1.」(5ページ14行ないし6ページ6行)
〔当審訳〕
「発明の詳細な説明
本発明の酸化触媒は、第1のウォッシュコート領域と、第2のウォッシュコート領域とを備えている。第1のウォッシュコート領域は、ゼオライト触媒からなるか、または本質的に構成されていてもよい。
ゼオライト触媒は、貴金属とゼオライトとからなるか、または本質的にこれらからなる。ゼオライト触媒は、WO2012/166868に記載されている方法に従って調製することができる。
貴金属は、典型的には、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、およびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される。好ましくは、貴金属は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、およびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される。より好ましくは、貴金属は、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)およびロジウム(Rh)からなる群から選択される。さらに好ましくは、貴金属はパラジウム(Pd)である。ゼオライト触媒が、唯一の貴金属としてパラジウムを含んでいることがさらに好ましい。
一般に、貴金属が、パラジウム(Pd)と、任意に、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される第2の金属とからなるか、またはこれらからなることが好ましい。好ましくは、貴金属は、パラジウム(Pd)と、任意に白金(Pt)およびロジウム(Rh)からなる第2の金属からなるか、またはこれらからなる。さらに好ましくは、貴金属は、パラジウム(Pd)と、任意に白金(Pt)とからなる。貴金属がパラジウム(Pd)と第2の金属からなる場合、パラジウム(Pd)と第2の金属の質量比は1:1以上であることが好ましい。より好ましくは、パラジウム(Pd)と第2の金属の質量比が1:1以上であり、パラジウム(Pd)と第2の金属のモル比が1:1以上である。」
エ 「As the diesel engine warms up, the exhaust gas temperature increases and the temperature of the zeolite catalyst (and the washcoat region having PNA activity) will also increase. The zeolite catalyst will release adsorbed NOx at these higher temperatures (e.g. 200 °C or above). The zeolite catalyst can release adsorbed NOx when the platinum component of the second washcoat region has reached its effective temperature for oxidising NO or the zeolite catalyst can release adsorbed NOx at just below this effective temperature. The zeolite catalyst has unexpectedly been found to have a high release temperature for adsorbed NOx.
It has also been unexpectedly found that a washcoat region comprising the zeolite catalyst of the second zeolite catalyst embodiment has cold start catalyst (CSCTM) activity. Such activity can reduce emissions during the cold start period by adsorbing NOx and hydrocarbons (HCs) at relatively low exhaust gas temperatures (e.g. less than 200 °C). Adsorbed NOx and/or HCs can be released by the washcoat region when the temperature of the zeolite catalyst is close to or above the effective temperature of the other catalyst components for oxidising NO and/or HCs.]
〔当審訳〕
「ディーゼルエンジンが暖まると、排気ガスの温度が上昇し、ゼオライト触媒(およびPNA活性を有するウォッシュコート領域)の温度も上昇する。ゼオライト触媒は、これらの高い温度(例えば、200℃以上)で吸着したNOXを放出する。ゼオライト触媒は、第2のウォッシュコート領域の白金成分がNOを酸化するための有効温度に達したときに吸着したNOXを放出することができ、あるいは、ゼオライト触媒は、この有効温度のすぐ下で吸着したNOXを放出することができる。このゼオライト触媒は、吸着したNOXの放出温度が高いことが予想外に判明した。
また、第2のゼオライト触媒の実施形態に係るゼオライト触媒を含むウォッシュコート領域が、コールドスタート触媒(CSCTM)活性を有することも予想外に発見された。このような活性は、比較的低い排気ガス温度(例えば200℃未満)でNOXや炭化水素(HC)を吸着することにより、コールドスタート期間中のエミッションを低減することができる。吸着されたNOXおよび/またはHCは、ゼオライト触媒の温度が、NOおよび/またはHCを酸化するための他の触媒成分の有効温度に近いかまたはそれ以上であるときに、ウォッシュコート領域によって放出され得る。」
オ 「The first washcoat region and/or the second washcoat region may be disposed or supported on the substrate.」(20ページ15ないし16行)
〔当審訳〕
「第1のウォッシュコート領域及び/又は第2のウォッシュコート領域は、基材上に配置又は支持されていてよい。」
カ 「Example 1
Pd nitrate was added to slurry of small pore zeolite with CHA structure and was stirred. The slurry was applied to a cordierite flow through monolith having 400 cells per square inch structure using established coating techniques. The coating was dried and calcined at 500°C. A coating containing a Pd-exchanged zeolite was obtained. The Pd loading of this coating was 80 g ft"3.
A second slurry was prepared using a silica-alumina powder milled to a d90 < 20 micron. Appropriate amounts of soluble platinum and palladium salts were added followed by beta zeolite such that the slurry comprised 75% silica-alumina and 25% zeolite by mass. The slurry was then stirred to homogenise The resulting washcoat was applied to the inlet channels of the flow through monolith using established coating techniques. The part was then dried and calcined at 500°C. The Pt loading of the finished part was 45 g ft-3 and the Pd loading was 95 g ft-3.」(42ページ8ないし26行)
〔当審訳〕
「実施例1
CHA構造を有する小孔のゼオライトのスラリーに硝酸パラジウムを添加し、撹拌した。このスラリーを、確立されたコーティング技術を用いて、1平方インチあたり400セルの構造を有するコーディエライトフロースルーモノリスに塗布した。コーティングを乾燥させ、500℃で焼成した。Pd交換されたゼオライトを含むコーティングが得られた。このコーティングのPd装填量は80gft-3であった。
d90<20μmに粉砕したシリカ-アルミナ粉末を用いて第2のスラリーを調製した。適切な量の可溶性白金塩およびパラジウム塩を添加し、続いてβゼオライトを添加して、スラリーの質量がシリカ-アルミナ75%およびゼオライト25%となるようにした。その後、スラリーを攪拌して均質化した。得られたウォッシュコートを、確立されたコーティング技術を用いてフロースルーモノリスの入口チャネルに塗布した。その後、部品を乾燥させ、500℃で焼成した。完成した部品のPt装填量は45gft-3、Pd装填量は95gft-3であった。」
上記記載事項から、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。
〔引用文献2記載事項〕
「ディーゼルエンジンのコールドスタート時などの比較的低い排気ガス温度でNOXを吸着することができる酸化触媒であって、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)及び基材を含み、排気ガス中の一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)を酸化する活性を有していて、Pt装填量が45gft-3、Pd装填量が95gft-3である酸化触媒。」
3 対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「排気ガスに尿素を噴射する手段」は、その機能又は技術的意義からみて、本件補正発明における「排気ガスにアンモニア前駆物質を導入するためのインジェクター」に相当する。
引用発明における「フィルタリング基材を有する」「SCR-DPFシステム」は、引用文献1の記載事項(上記2 ア )及び技術常識を参酌すると、フィルタリング基材と選択的触媒還元組成物とを含むものであるから、本件補正発明における「基材と第1の選択的触媒還元組成物とを含む第1の選択的触媒還元触媒であって、基材がフロースルー基材かフィルタリング基材のいずれかである第1の選択的触媒還元触媒」に相当し、「排出制御装置及び第1の選択的触媒還元触媒の少なくとも一方がフィルタリング基材を有する」に相当する。
引用発明における「高気孔率・高セル密度のSCR触媒」は、引用文献1の記載事項(上記2 ウ )を参酌すると、フロースルー基板及び選択的触媒還元(SCR)組成物を含むものであるから、本件補正発明における「フロースルー基材及び第2の選択的触媒還元(SCR)組成物を含む第2の選択的触媒還元触媒」に相当する。
引用発明における「コールドスタートコンセプト触媒」と、本件補正発明における「白金族金属(PGM)及び基材を含む、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置であって、白金族金属(PGM)が白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びこれらの組み合わせから選択され、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置が、コールドスタートコンセプト触媒;並びにコールドスタートコンセプト触媒及び触媒化スートフィルター(CSF)から成る群より選択され得り、コールドスタート触媒が、≧1g ft-3の総充填量のPGMを含む、排出制御装置」とは、「コールドスタートコンセプト触媒から成る、排出制御装置」という限りにおいて一致している。
よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
「ディーゼルエンジンによって生じる排気ガスを処理するための排気システムであって、
(a) コールドスタートコンセプト触媒から成る、排出制御装置と;
(b) 排気ガスにアンモニア前駆物質を導入するためのインジェクターであって、排出制御装置の下流にあるインジェクターと;
(c) 排気ガスにアンモニア前駆物質を導入するためのインジェクターの下流の、基材と第1の選択的触媒還元組成物とを含む第1の選択的触媒還元触媒であって、基材がフロースルー基材かフィルタリング基材のいずれかである第1の選択的触媒還元触媒と;
(d) 第1の選択的触媒還元触媒の下流の、フロースルー基材及び第2の選択的触媒還元(SCR)組成物を含む第2の選択的触媒還元触媒と
を備え、かつ、
排出制御装置及び第1の選択的触媒還元触媒の少なくとも一方がフィルタリング基材を有する排気システム。」
〔相違点〕
「コールドスタートコンセプト触媒から成る、排出制御装置」に関して、本件補正発明においては、「白金族金属(PGM)及び基材を含む、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための」ものであって、「白金族金属(PGM)が白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びこれらの組み合わせから選択され」、「コールドスタート触媒が、≧1g ft-3の総充填量のPGMを含む」ものであるのに対して、引用発明においては、コールドスタートコンセプト触媒の具体的な構成が不明な点。
上記相違点について検討する。
引用文献2記載事項は、「ディーゼルエンジンのコールドスタート時などの比較的低い排気ガス温度でNOXを吸着することができる酸化触媒であって、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)及び基材を含み、排気ガス中の一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)を酸化する活性を有していて、Pt装填量が45gft-3、Pd装填量が95gft-3である酸化触媒。」である。
引用文献2記載事項における「白金(Pt)及びパラジウム(Pd)」は白金族金属(PGM)であり、Pt装填量が45gft-3、Pd装填量が95gft-3であるから、白金族金属(PGM)の総充填量は140gft-3、つまり≧1g ft-3である。そして、引用文献2記載事項における酸化触媒は、排気ガス中の一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)を酸化する活性を有しているから、一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置といえる。
そうすると、引用文献2記載事項は「白金族金属(PGM)及び基材を含む、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置であって、白金族金属(PGM)が白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びこれらの組み合わせから選択され、一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置が、コールドスタート時などの比較的低い排気ガス温度でNOXを吸着することができるものであり、≧1g ft-3の総充填量のPGMを含む、排出制御装置。」と表現できる。
引用発明におけるコールドスタートコンセプト触媒と引用文献2記載事項における酸化触媒とは、コールドスタート用の触媒という点で、機能が共通している。
そうすると、引用発明において、コールドスタートコンセプト触媒を具体化するにあたって引用文献2記載事項を適用して、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、本件補正発明が奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものではない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない
4 請求人の主張について
請求人は令和3年4月20日の上申書において、次のように主張している。
「本願明細書には、「コールドスタートコンセプト(dCSCTM)触媒(実施例2)を含む排気システムの場合、コールドスタートコンセプト(dCSCTM)触媒は、サイクルの開始j時に最初の100秒でかなりの量のNOxを貯蔵することができた。100秒後、温度上昇とともに、コールドスタートコンセプト(dCSCTM)触媒はいくらかのNOx放出を始め、250秒後にはほとんど放出した。一方、加熱器を用いると、SCR-DPFの入口温度はサイクルに入って約100秒後に200℃に達し、SCR-DPFからSCR触媒にかけてNOxを還元することができた。これは、利用可能な貯蔵されたNH3によってもサポートされた。結果として、最初の100秒後に排気管にNOxの漏出はなく、全てのNOxが変換された。これは、コールドスタートコンセプト(dCSCTM)触を含有する排気システムである実施例2のNOx転化率98%をもたらした。」ことが記載され(本願明細書段落〔0233〕)、本願明細書の表2の実験結果には、本願発明に係るコールドスタートコンセプト(dCSCTM)触媒を含有する排気システムが、ディーゼル酸化触媒(DOC)を含有する排気システムと比較して高いNOx転化率を有することが示されます。また、上述したように、引用文献1は、本願発明の技術的特徴の組み合わせを具体的に開示するものではありません。また、引用文献4(国際公開第2015/150805号)も、本願発明の技術的特徴の組み合わせを具体的に開示するものではありません。従って、当業者であっても、引用文献1及び4の開示内容から、本願発明に係る排気システムが奏する高いNOx転化率を予期できないものと思料致します。少なくともこの点から、本願発明は、有利な効果を奏するものであると思料致します。」
しかしながら、引用文献1には、上記と同様の作用効果について記載されており(上記第4 1 オ を参照。)、請求人が主張する作用効果は、引用発明のコールドスタートコンセプト触媒として、引用文献2記載事項を適用すれば、当然に奏する効果である。
したがって、請求人の主張は採用できない。
5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし14に係る発明は、令和2年4月13日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1 」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1に対して 引用文献等1、4及び5
・請求項2ないし14に対して 引用文献等1ないし5
<引用文献等一覧>
1.NASERI,Mojghan 外4名,Development of Emission Control Systems to Enable High NOX Conversion on Heavy Duty Diesel Engines,SAE International Journal of Engines,(米国),SAE International,2015年 6月,Volume8 Issue3,p.1144-1150(本審決における引用文献1)
2.特開2013-007335号公報
3.国際公開第2014/208839号
4.国際公開第2015/150805号(本審決における引用文献2)
5.特表2015-526284号公報
3 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用されたNASERI,Mojghan 外4名,Development of Emission Control Systems to Enable High NOX Conversion on Heavy Duty Diesel Engines,SAE International Journal of Engines,(米国),SAE International,2015年 6月,Volume8 Issue3,p.1144-1150(本審決における引用文献1)、国際公開第2015/150805号(本審決における引用文献2)の記載事項及び引用発明は、上記「第2 〔理由〕2 」に記載したとおりである。
4 当審の判断
本件補正発明は、上記「第2〔理由〕1 」で述べたように、本願発明の発明特定事項である「一酸化炭素(CO)及び/又は炭化水素(HC)を酸化するための排出制御装置」について、「(i)ディーゼル酸化触媒(DOC)、(ii)触媒化スートフィルター(CSF)、(iii)コールドスタートコンセプト触媒;(iv)ディーゼル酸化触媒(DOC)及び触媒化スートフィルター(CSF);並びに(v)コールドスタートコンセプト触媒及び触媒化スートフィルター(CSF)から成る群より選択され得」るものであったものを、選択肢の中から、「(i)ディーゼル酸化触媒(DOC)」、「(ii)触媒化スートフィルター(CSF)」及び「(iv)ディーゼル酸化触媒(DOC)及び触媒化スートフィルター(CSF)」を削除して、「コールドスタートコンセプト触媒;並びにコールドスタートコンセプト触媒及び触媒化スートフィルター(CSF)から成る群より選択され得」るものとしたものであるから、本願発明を限定して下位概念化したものである。
そして、本願発明を限定して下位概念化したものである本件補正発明が、上記「第2〔理由〕3 」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-000522