特許無効審判
2020-800004
止痒剤
- 審判番号
- 2020-800004
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2017-700310
- 登録番号
- 3531170
- 請求日
- 2020年01月23日
- 審決日
- 2022年03月15日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】沢井製薬 株式会社
- 【請求人代理人】小松 陽一郎
- 【請求人代理人】原 悠介
- 【請求人代理人】千葉 あすか
- 【参加人】ニプロ 株式会社
- 【参加人代理人】森本 敏明
- 【被請求人】東レ 株式会社
- 【被請求人代理人】特許業務法人平木国際特許事務所
- 【被請求人代理人】重冨 貴光
- 【被請求人代理人】長谷部 陽平
- 【被請求人代理人】鷲見 健人
- 【被請求人代理人】皆川 量之
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 原田 隆興
- 審判官 齋藤 恵
- 分類
- P116 .71 -Y
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第67条第2項、特許法第67条、特許法第125条の2第1項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3531170号「止痒剤」の特許権存続期間延長登録出願2015-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録無効審判事件についてされた令和2年7月28日付け審決に対して、知的財産高等裁判所において「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分を無効とする。」という部分以外を取り消す判決(令和2年(行ケ)第10098号、令和3年3月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分を無効とする。」という部分以外については、成り立たない。
審判費用は、これを2分し,その1を請求人及び参加人の負担とし,その余を被請求人が負担すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 第1次審決までの手続の経緯
特許第3531170号「止痒剤」は、平成9年11月21日を国際出願日とする特願平10-524506号として出願され、平成16年3月12日にその特許権(以下、「本件特許権」という。)の設定登録がなされた。
その後、平成29年11月20日に、本件特許権について存続期間の延長登録の出願(特許権存続期間延長登録出願2017-700310号。以下、「本件延長登録出願」という。)がなされ、平成30年7月25日に本件特許権の存続期間の延長登録がなされた(以下、「本件延長登録」という。)。
これに対して、請求人沢井製薬株式会社は、令和2年1月23日(受付日)に本件延長登録に対する無効審判を請求した。その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和2年4月10日 審判事件答弁書の提出
令和2年4月10日 参加申請書の提出(ニプロ株式会社)
令和2年5月11日 参加申請に対する意見書の提出(請求人)
令和2年5月21日付け 書面審理通知書(請求人及び被請求人宛て)
令和2年6月 4日 参加申請に対する意見書の提出(被請求人)
令和2年6月11日付け 参加許否の決定
令和2年6月16日付け 書面審理通知書(参加人宛て)
令和2年7月28日付け 第1次審決
2 第1次審決後の手続の経緯
第1次審決では、「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2015-700061号に基づく特許権の存続期間の延長登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決がなされた。
被請求人は、第1次審決の取消しを求める訴訟(令和2年(行ケ)第10096号)を提起した。知的財産高等裁判所は、令和3年3月25日、第1次審決のうち「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分を無効とする。」という部分以外を取り消す判決(以下「本件取消判決」という。)をし、その後同判決は確定したので、「本件特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分を無効とする。」という部分は確定した。
第2 本件特許権に係る発明及び本件延長登録
1 本件特許権に係る発明
本件特許権に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである(一般式及び一般式中の置換基(R1等)の定義は、一部省略して記載する。また、以下、請求項1~36に係る各発明をそれぞれ「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)。
「【請求項1】
下記一般式(I)
[図:0001416860000001.jpg]
[式中、
[図:0001416860000002.jpg]
は二重結合又は単結合を表し、R1は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数6から12のアリール、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニル、アリル、炭素数1から5のフラン-2-イルアルキルまたは炭素数1から5のチオフェン-2-イルアルキルを表し、R2は水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルキルまたは-NR9R10を表し、R9は水素または炭素数1から5のアルキルを表し、R10は水素、炭素数1から5のアルキルまたは-C(=O)R11-を表し、R11は、水素、フェニルまたは炭素数1から5のアルキルを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシまたは炭素数1から5のアルコキシを表し、Aは-XC(=Y)-、-XC(=Y)Z-、-X-または-XSO2-(ここでX、Y、Zは各々独立してNR4、SまたはOを表し、R4は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分岐アルキルまたは炭素数6から12のアリールを表し、式中R4は同一または異なっていてもよい)を表し、Bは原子価結合、炭素数1から14の直鎖または分岐アルキレン(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチルおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、2重結合および/または3重結合を1から3個含む炭素数2から14の直鎖もしくは分岐の非環状不飽和炭化水素(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチルおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、またはチオエーテル結合、エーテル結合および/もしくはアミノ結合を1から5個含む炭素数1から14の直鎖もしくは分岐の飽和もしくは不飽和炭化水素(ただしヘテロ原子は直接Aに結合することはなく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)を表し、R5は水素または下記の基本骨格:
[図:0001416860000003.jpg]
のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表し、R6は水素、R7は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、もしくは、R6とR7は一緒になって-O-、-CH2-、-S-を表し、R8は水素、炭素数1から5のアルキルまたは炭素数1から5のアルカノイルを表す。また、一般式(I)は(+)体、(-)体、(±)体を含む]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤。
(合議体注:【請求項2】~【請求項9】は、請求項1に従属し、一般式(I)における置換基を限定するものである。)
【請求項10】
下記一般式(II)
[図:0001416860000004.jpg]
[式中、・・・X-はその薬理学的に許容される対イオン付加塩を表す。・・・]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤。
(合議体注:【請求項11】~【請求項14】は、請求項10に従属し、一般式(II)における置換基を限定するものである。)
【請求項15】
下記一般式(III)
[図:0001416860000005.jpg]
で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする止痒剤。
(合議体注:【請求項16】~【請求項19】は、請求項15に従属し、一般式(III)における置換基を限定するものである。)
【請求項20】
そう痒が皮膚疾患あるいは内蔵疾患に伴うものである、請求項1ないし19のいずれかに記載の止痒剤。
【請求項21】 一般式(II)
(合議体注:一般式は省略)
[式中、・・・]で表されるモルヒナン4級アンモニウム塩誘導体。
(合議体注:【請求項22】~【請求項25】は、請求項21に従属し、一般式(II)における置換基を限定するものである。)
【請求項26】
一般式(III)
(合議体注:一般式は省略)
[式中、・・・]で表されるモルヒナン-N-オキシド誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩。
(合議体注:【請求項27】~【請求項30】は、請求項26に従属し、一般式(III)における置換基を限定するものである。)
【請求項31】
請求項21ないし25記載のモルヒナン4級アンモニウム塩誘導体を含んでなる医薬。
【請求項32】
請求項26ないし30記載のモルヒナン-N-オキシド誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩を含んでなる医薬。
【請求項33】
一般式(VIII)
(合議体注:一般式は省略)
で表される3級アミンを、アルキル化剤を用いて4級アンモニウム塩化することを特徴とする一般式(II)
(合議体注:一般式は省略)
(上記一般式(III)および(II)において、・・・)で表される化合物の製造法。
【請求項34】
アルキル化剤が・・・である請求項33記載の製造法。
【請求項35】
一般式(IX)
(合議体注:一般式は省略)
で表される3級アミンを、酸化剤を用いて酸化することを特徴とする一般式(III)で表される化合物の製造法。
(合議体注:一般式は省略)
(上記一般式(IX)および(III)において、・・・)
【請求項36】
酸化剤が・・・である請求項35記載の製造法。」
2 本件延長登録
本件延長登録に係る延長の期間及び特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容は、次のとおりのものである。
(1)延長の期間
5年
(2)特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
ア 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第14条第1項に規定する医薬品に係る同条第9項の承認
イ 処分を特定する番号
22900AMX00538000
ウ 処分の対象となった医薬品
販売名 レミッチOD錠2.5μg
有効成分 ナルフラフィン塩酸塩
エ 処分の対象となった医薬品について特定された用途
次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
透析患者(血液透析患者を除く)、慢性肝疾患患者
(以下、当該処分を「本件処分」といい、当該処分の対象となった医薬品を「本件医薬品」という。)
第3 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、
「特許第3531170号の特許権の存続期間の延長登録(特願2017-700310号)を無効とする
審判費用は被請求人の負担とする」
との審決を求め、以下の(1)及び(2)の無効理由を主張し、証拠方法として以下の(3)に記載の書証を提出した。
(1)無効理由1の概要
本件発明に係る「止痒剤」は、「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする」ものであって、「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物」の酸付加塩である「ナルフラフィン塩酸塩」を発明特定事項として含んでいない。本件特許明細書において、塩を形成していないフリー体と酸付加塩とは区別して記載されており、出願経過において、酸付加塩は特許請求の範囲から意識的に除外されたものである。
これに対して、本件医薬品の有効成分は「ナルフラフィン塩酸塩」であるから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。
したがって、本件延長登録は、同法第125条の2第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2の概要
本件延長登録では、その理由となる処分(本件医薬品の承認)における「処分の対象となった物について特定された用途」は、「透析患者(血液透析患者を除く)、慢性肝疾患患者」におけるそう痒症の改善であるとされているが、「慢性肝疾患患者」については、本件処分には存在しない(本件処分の適用患者ではない)、あるいは先行処分と重複するから、本件発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない。
したがって、本件延長登録は、同法第125条の2第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
(3)証拠方法
甲第1号証:特許登録原簿謄本(特許第3531170号)
甲第2号証:訂正特許公報(特許第3531170号)
甲第3号証:特許権存続期間の延長登録出願2015-700061号の文献表示(J-PlatPat)
甲第4号証:特許権存続期間の延長登録出願2015-700061号の経過情報照会(J-PlatPat)
甲第5号証:公開特許公報(特開2014-105174)
甲第6号証:再公表特許(WO2016/152965)
甲第7号証:特許公報(特許第2525552号)
甲第8号証:薬発第385号「医療品医薬品添付文書の記載要領について(通知)」
甲第9号証:医薬品インタビューフォーム、レミッチ(R)カプセル2.5μg、レミッチ(R)OD錠2.5μg、2019年2月改訂(第15版)(合議体注:丸囲みのRを「(R)」として示す。以下同じ。)
甲第10号証:大塚昭信ら編集、「製薬学 改訂第2版」、1992年4月10日、株式会社南江堂発行、221頁~225頁
甲第11号証:添付文書、レミッチ(R)OD錠2.5μg、2019年2月改訂(第4版)
甲第12号証:webページ「e-gov『有効成分』検索結果一覧」の出力物
甲第13号証:團野浩著、「詳説 薬事法 第2版」、2012年3月4日
株式会社ドーモ発行、394頁~395頁
甲第14号証:團野浩著、「詳説 薬機法 第4版」、2017年1月27日、株式会社ドーモ発行、634頁~635頁
甲第15号証:「医薬実務用語集 第9版」、1993年2月11日、薬事日報社発行、330頁~331頁
甲第16号証:澤田邦昌ら編集、「医薬実用英語ハンドブック」、平成8年6月5日、株式会社薬業時報社発行、6頁~7頁
甲第17号証:伊藤正男ら編集、「医学書院 医学大辞典」、2003年3月1日、株式会社医学書院発行、2451頁
甲第18号証:新村出編、「広辞苑 第三版」、1983年12月6日、株式会社岩波書店発行、925頁
甲第19号証:特許協力条約に基づいて出願された国際出願(PCT/JP97/04267)の日本を指定国とする出願である特願平10-524506号の願書に最初に添付された明細書中の68頁~85頁(特許請求の範囲の部分)(合議体注:特許庁への出願人提出書類の閲覧写しであるため、公報編纂時の見え消し線の記載もある。)
甲第20号証:特願平10-524506号に対する平成13年4月24日付け拒絶理由通知書
甲第21号証:特願平10-524506号の平成13年7月16日付け意見書
甲第22号証:特願平10-524506号の平成13年7月16日付け手続補正書(合議体注:特許庁への出願人提出書類の閲覧写しであるため、公報編纂時の見え消し線の記載もある。)
甲第23号証の1:欧州特許庁の特許公報(EP 0897726 B1)の第1頁
甲第23号証の2:欧州特許出願第97912539.0の意見書(同封物のうち、明細書の補正した頁及び6a頁を除く)
甲第24号証:不服2018-7539号(特許権存続期間の延長登録出願2017-700154号の拒絶査定不服審判請求事件)における令和1年12月4日付け拒絶理由通知書
甲第25号証:添付文書、レミッチ(R)OD錠2.5μg、2017年3月作成(第1版)
甲第26号証:特許権存続期間の延長登録出願2017-700310号に対する平成30年3月13日付け拒絶理由通知書
(以下、それぞれ「甲1」等という。)
2 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、
「本件審判の請求は、成り立たない
審判費用は、請求人の負担とする」
との審決を求め、請求人の主張する上記無効理由は理由がない旨主張し、証拠方法として以下の書証を提出した。
乙第1号証:松村明編、「大辞林 第三版」、2006年10月27日、株式会社三省堂発行、1385頁、2581頁
乙第2号証:特許無効審判の審決(無効2019-800038号)
乙第3号証:武田真莉子「鑑定意見書」(2020年2月7日)
乙第4号証:今井輝子「鑑定意見書」(2020年2月7日)
乙第5号証:厚生省薬務局編、「逐条解説 薬事法」、昭和58年8月10日、株式会社ぎょうせい発行、361頁、365頁~366頁
乙第6号証:日本製薬工業協会ら、「医薬品インタビューフォーム作成の手引き(改訂版)」、38頁
乙第7号証:特願平10-524506号に対する平成13年4月24日付け拒絶理由通知書
乙第8号証:「第十七改正日本薬局方技術情報」(JPTI 2016)、46頁~47頁
乙第9号証:World Health Organization「Guidance on the Use of International Nonproprietary Names(INNs) for Pharmaceutical Substances」、5頁~6頁
乙第10号証:医薬品製造販売承認書 販売名「レミッチOD錠カプセル2.5μg」(平成29年3月30日)
乙第11号証:「試験結果証明書」、2020年1月27日
乙第12号証:岡野定輔編著、「新・薬剤学総論 改訂第3版」、1987年4月10日、株式会社南江堂発行、30頁~33頁
乙第13号証:橋田充編「経口投与製剤の設計と評価」、平成7年2月10日、株式会社薬業時報社発行、100頁~101頁
乙第14号証:Lipinski, CA, Drug Discovery Today: Technologies, vol.1(4), pp.337-341(2004)
乙第15号証:中尾薫ら,日本神経精神薬理学雑誌, vol.28, pp.75-83(2008)
乙第16号証:Che,T et al., Cell, vol.172, pp.55-67 (2018)
乙第17号証:Zhang,H et al., J.Biol.Chem.,vol.290(49), pp.29127-29139(2015)
乙第18号証:橘高敦史編、「創薬科学・医薬化学」、2007年10月20日、株式会社化学同人発行、133頁~136頁
乙第19号証:公開特許公報(特開2017-137302)
乙第20号証:特許協力条約に基づいて公開された国際出願(WO2016/208729 A1)
乙第21号証:特許協力条約に基づいて公開された国際出願(WO2015/025766 A1)
乙第22号証:東レ株式会社「レミッチOD錠2.5μg 医薬品製造販売承認申請書 添付書類 1.9 一般的名称に係る文書」
乙第23号証:保地毅彦、薬剤学、Vol.72(2)、pp.106-110 (2012)
乙第24号証:芦澤一英編著、「医薬品の多形現象と晶析の科学 開発・製造とレギュレーションの動向」、2002年9月20日、丸善プラネット株式会社発行、310頁~311頁
乙第25号証:日本薬剤学会出版委員会編、「薬剤学実験法 必携マニュアル I.物理薬剤学」、2014年4月5日、株式会社南江堂発行、164頁~167頁
乙第26号証:「第十七改正日本薬局方解説書(製剤総則)」、2016年、廣川書店刊行、A-34頁~A-35頁
乙第27号証:Parker,S et al., Biomaterials,vol.20, pp.55-60(1999)
乙第28号証:鈴木欣孝ら,小児歯科学雑誌, vol.39(5),pp.1095-1099(2001)
乙第29号証:鈴木昭ら,小児歯科学雑誌, vol.42(3),pp.365-374(2004)
乙第30号証:林久由ら,膜(MEMBRANE), vol.36(6), pp.293-299(2011)
乙第31証:webページ「Molecular Interactions」の出力物(https://www.cambridgemedchemconsulting.com/resources/molecular_interactions.html)
(以上、第1次審決前に提出された証拠。以下、それぞれ「乙1」等という。)
乙第40号証:宮木高明、「薬」、昭和32年2月18日、株式会社岩波書店発行、44頁~57頁
乙第41号証:町島啓ほか、「ナースのための薬理学(第3版)」、平成4年3月10日、株式会社南山堂発行、6頁~10頁
乙第42号証:長倉三郎ほか、「岩波 理化学辞典 第5版」、平成10年2月20日、株式会社岩波書店発行、42頁~45頁
乙第43号証:薬科学大辞典編集委員会、「廣川 薬科学大辞典 第2版」、平成2年6月25日、株式会社廣川書店発行、1422頁
乙第44号証:薬科学大辞典編集委員会「廣川 薬科学大辞典 第5版」、平成25年3月4日、株式会社廣川書店発行、1584頁
乙第45号証:塩路雄作、「続・医薬品工業と粉体工学」、昭和52年、粉体工学研究会誌、14巻、7号、405頁~413頁
乙第46号証:社団法人日本薬学会ファルマシアレビュー編集委員会、「3.新薬の開発と臨床薬理」、昭和53年6月25日、ファルマシアレビューNo.1、25頁~48頁
乙第47号証:佐久間昭、「薬の効果・逆効果 臨床薬理学入門」、昭和56年1月20日、株式会社講談社発行、18頁~27頁
乙第48号証:社団法人日本薬学会ファルマシアレビュー編集委員会、「3.主薬の有効性,安全性を左右する」、昭和62年3月5日、ファルマシアレビュー、No.22、23頁~36頁
乙第49号証:高橋謙一ほか、「生物学的同等性試験のための溶出試験」、平成14年、SCAS NEWS 2002-II、9頁~11頁
乙第50号証:當瀬規嗣、「よくわかる薬理学の基本としくみ」、平成20年8月10日、株式会社秀和システム発行、42頁~46頁
乙第51号証:賀川義之、「飲み方守って効果発揮」、平成25年6月25日、静岡新聞(平成25年6月25日夕刊)、5面
乙第52号証:緒方宏泰、「先発医薬品と臨床上の有効性・安全性が『同等』であるジェネリック医薬品の評価 ~生物学的同等性を考える~」、平成26年12月、後発医薬品品質情報、No.2、3頁~5頁
乙第53号証:井上勝央、「医薬品の吸収機構の解明とその吸収性改善・予測への応用を目指して」、平成28年8月、Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences、No.124、5頁
乙第54号証:東京都健康安全研究センター、「くらしの健康」、平成29年3月、第37号、1頁~4頁
乙第55号証:厚生省薬務局審査第一・生物製剤課長、「徐放性製剤(経口投与製剤)の設計及び評価に関するガイドラインについて」、昭和63年3月11日、薬審一第五号
乙第56号証:厚生労働省、「試験問題の作成に関する手引き」、平成30年3月、38頁~54頁
乙第57号証:厚生労働省医薬食品局総務課長通知、「登録販売者試験の実施について」、平成19年8月8日、薬食総発第0808001号
乙第58号証:大阪府、「登録販売者試験(平成30年9月13日(木)実施) 試験問題」、平成30年、(大阪府・午後の部)
乙第59号証:大阪府、「平成30年度登録販売者試験問題 正答」、平成30年
乙第60号証:本間克明、「第4版 登録販売者合格教本」、平成30年7月3日、株式会社技術評論社発行、86頁~91頁
乙第61号証:辛島正俊、「第4章 原薬の開発形態検討」「医薬品原薬の結晶化と物性評価:その最先端技術と評価の実際」、平成31年1月31日、株式会社シーエムシー出版発行、50頁~61頁
乙第62号証:森川安理、「医薬原薬の製造【第13回】」と題するウェブページ、平成27年7月21日、(https://www.gmp-platform.com/topics_detail1/id=837)
乙第63号証:橋田充、「経口投与製剤の設計と評価」、平成7年2月10日、株式会社薬業時報社発行、76頁~77頁
乙第64号証:井田泰夫、「4 塩形成」「難水溶性薬物の物性評価と製剤設計の新展開」、平成22年1月29日、株式会社シーエムシー出版発行、111頁~120頁
乙第65号証:大塚昭信ほか、「製剤学」、昭和62年5月1日、株式会社南江堂発行、213頁~216頁
乙第66号証:宮嶋孝一郎、「医薬品の開発 第15巻、製剤の物理化学的性質」、株式会社廣川書店発行、平成元年10月25日、48頁~51頁
乙第67号証:一番ヶ瀬尚、「製剤学 改稿版」、昭和57年11月1日、株式会社廣川書店発行、134頁~165頁
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乙第69号証:池田憲ほか、「医薬品の投与剤形」、昭和58年5月14日、医歯薬出版株式会社発行、53頁~63頁
乙第70号証:公益社団法人日本薬学会、「医療薬学 VII.製剤化のサイエンス」、平成29年10月31日、156頁~157頁
乙第71号証:山本昌ほか、「製剤学 改訂第7版」、平成29年4月10日、247頁~249頁
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乙第73号証:熊谷裕生ほか、「新しいかゆみ治療薬ナルフラフィン(レミッチ)の臨床開発と有効性」、透析療法ネクストXII、平成23年7月1日、94頁~108頁
乙第74号証:熊谷裕生ほか、「血液透析患者のかゆみの病態生理とナルフラフィンの臨床効果」、週刊日本医事新報、平成23年4月16日、4538号、72頁~80頁
乙第75号証:熊谷裕生ほか、「血液透析患者のかゆみの病態とナルフラフィンの効果」、モダンフィジシャン、平成24年4月1日、32巻、4号、442頁~445頁
乙第76号証:深川雅史ほか、「EBM透析療法」、平成22年6月15日、株式会社中外医学社発行、230頁~235頁
乙第77号証:斉藤毅ほか、「ナルフラフィンの新規受容体に対する親和性」、第32回メディシナルケミストリーシンポジウム講演要旨集、平成26年11月7日、74頁
乙第78号証:株式会社技術情報協会編、「動物/疾患モデルの作製技術・病態解析・評価手法」、平成29年8月31日、株式会社技術情報協会発行、333頁~338頁
乙第79号証:大石順子ほか、「高齢者 くすりの相談室 第17集」、平成24年10月、15頁~16頁
乙第80号証:村山裕美、「ナルフラフィン製剤」と題する資料、平成30年6月、株式会社ユース、とくりん薬局、
乙第81号証:大館市立総合病院薬剤科、「薬局ニュース」、平成29年7月10日、28巻、4号
乙第82号証:藤田芳郎、「書評・新刊案内(レジデントのための血液透析患者マネジメント)」、週刊 医学界新聞、平成24年1月9日、第2960号、13頁
乙第83号証:医薬品製造販売承認書 販売名「レミッチOD錠2.5μg」(平成29年3月30日)
乙第84号証:第十七改正日本薬局方(厚生労働省告示第64号)、平成28年3月7日、9頁
乙第85号証:西島正弘「鑑定意見書」(令和2年6月17日)
乙第86号証:一般財団法人法曹会編、最高裁判所判例解説民事篇平成27年度(下)(7月~12月分)、平成30年6月1日、479頁~504頁
乙第87号証:裁判所ウェブサイト、最高裁平成27年11月17日判決、平成26年(行ヒ)第356号
乙第88号証:裁判所ウェブサイト、知財高裁平成29年1月20日大合議判決、平成28年(ネ)第10046号
乙第89号証:岩田弘ほか、「物質特許の知識」、昭和50年3月25日、財団法人通商産業調査会、372頁~377頁
乙第90号証:土井脩、「新薬承認審査の基本方針の見直し」、Pharmaceutical and Medical Device Regulatory Science、平成30年、49巻、8号、564頁~565頁
乙第91号証:厚生省薬務局審査・新医薬品課長、「商標権抵触等により医薬品の販売名のみを変更するものの取扱いについて」、平成4年2月14日、薬審第37号
乙第92号証:U.S. Government Printing Office、35 U.S.C.§156(2018)、p.1047-1120
乙第93号証:LexisNexis、Merck & Co. v. Teva Pharms. USA, Inc., 347 F.3d 1367、令和2年6月24日
乙第94号証:LexisNexis、Pfizer Inc. v. Dr. Reddy’s Labs., Ltd., 359 F.3d 1361、令和2年6月24日
乙第95号証:被請求人、特許権存続期間延長登録願(特許第3531170号)(平成29年11月20日)
乙第96号証:L.フィーザーほか、「フィーザー有機化学 上」、昭和29年6月25日、丸善株式会社発行、206頁~230頁
乙第97号証:太田俊作、「薬品製造学」、平成2年9月15日、さんえい出版発行、234頁~244頁
乙第98号証:津田喜典ほか、「薬品化学(改訂第6版)」、平成8年9月20日、株式会社南江堂発行、190頁~197頁
乙第99号証:大日本住友製薬株式会社、モルヒネ塩酸塩錠10mg「DSP」添付文書(第10版)、令和2年2月改訂
乙第100号証:シオノギファーマ株式会社、MSコンチン錠10mg・30mg・60mg添付文書(第11版)、令和2年2月改訂
乙第101号証:武田薬品工業株式会社、コデインリン酸塩水和物「タケダ」原末・コデインリン酸塩散10%「タケダ」添付文書(第1版)、令和元年7月改訂
乙第102号証:武田薬品工業株式会社、ジヒドロコデインリン酸塩「タケダ」原末・ジヒドロコデインリン酸塩散10%「タケダ」添付文書(第1版)、令和元年7月改訂
乙第103号証:武田テバ薬品株式会社、ロルファン注射液1mg添付文書(第8版)、平成28年10月改訂
乙第104号証:ニプロ株式会社、デキストロメトルファン臭化水素酸塩錠15mg「NP」添付文書(第2版)、平成28年4月改訂
乙第105号証:辰巳化学株式会社、ジメモルファンリン酸塩錠10mg「TCK」・ジメモルファンリン酸塩散10%「TCK」添付文書(第7版)、平成27年2月改訂
乙第106号証:第一三共株式会社、医薬品インタビューフォーム、ナロキソン塩酸塩静注0.2mg「第一三共」、(改訂第11版)、1頁~2頁、令和元年7月改訂
乙第107号証:大塚製薬株式会社、レペタン注0.2mg・0.3mg添付文書(第13版)、平成26年12月改訂
乙第108号証:シオノギファーマ株式会社、オキシコンチン錠5mg・10mg・20mg・40mg添付文書(第13版)、平成31年4月改訂
乙第109号証:丸石製薬株式会社、ソセゴン錠25mg添付文書(第3版)、令和2年6月改訂
乙第110号証:日医工株式会社、セダペイン注15添付文書(第5版)、平成21年6月改訂
乙第111号証:武田薬品工業株式会社、ペチジン塩酸塩注射液35mg・50mg「タケダ」添付文書(第10版)、令和2年2月
乙第112号証:ニプロESファーマ株式会社、アスベリン錠10・アスベリン錠20・アスベリン散10%・アスベリンドライシロップ2%・アスベリンシロップ0.5%・アスベリンシロップ「調剤用」2%添付文書(第13版)、平成29年10月改訂
乙第113号証:田辺三菱製薬株式会社、アクレフ口腔粘膜吸収剤200μg・400μg・600μg・800μgに関する資料(抜粋)、平成20年8月29日
乙第114号証:ヤンセンファーマ株式会社、アルチバ静注用2mg・5mg添付文書(第7版)、平成28年10月改訂
乙第115号証:鶴原製薬株式会社、ペントキシベリンクエン酸塩錠15mg「ツルハラ」添付文書(第10版)、令和2年4月改訂
乙第116号証:日本新薬株式会社、コルドリン錠12.5mg・コルドリン顆粒4.17%添付文書(第8版)、平成27年9月改訂
乙第117号証:成川衛、「革新的医薬品 審査のポイント」、平成27年12月7日、日経BP社発行、108頁~109頁、116頁~117頁、166頁~167頁、188頁~189頁、208頁~209頁、212頁~213頁、216頁~217頁、220頁~221頁、224頁~225頁、236頁~237頁、246頁~247頁、254頁~255頁、282頁~283頁、298頁~299頁、306頁~307頁、314頁~315頁、318頁~319頁、322頁~323頁、326頁~327頁、330頁~331頁、334頁~335頁、338頁~341頁、358頁~359頁
乙第1158号証:北里大学薬学部臨床医学(医薬開発学)ウェブサイトのうち成川衛氏紹介ページ(www.pharm.kitasato-u.ac.jp、/pharmmed/people/narukawa.html)
乙第119号証:被請求人、意見書(特願2017-700310号)、平成30年4月20日
乙第120号証:被請求人、手続補正書(特願2017-700310号)、平成30年4月20日
乙第121号証:登録査定謄本(特願2017-700310号)、平成30年7月17日
乙第122号証:医薬品製造販売承認事項一部変更承認書(レミッチOD錠2.5μg)、平成29年9月22日
乙第123号証:公益社団法人日本麻酔科学会、「麻酔薬および麻酔薬関連薬使用ガイドライン 第3版」、平成21年12月25日、219頁~220頁
乙第124号証:神戸大学大学院法学研究科 興津征雄教授、意見書、令和3年1月19日
乙第125号証:被請求人代理人、対応関係表(無効2020-800004)、令和3年12月15日
(以上、令和3年12月24日付け上申書に添付された、本件取消訴訟において被請求人が提出した証拠、及び、無効審判と本件取消訴訟で提出された証拠番号の対応表。乙第32号証~乙第39号証は欠番。)
第4 第1次審決の理由の要旨及び本件取消判決について
1 第1次審決の理由の要旨
(1)無効理由1について
ア 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の記載に照らすと、本件特許の特許請求の範囲は、塩を含むか否かを明示的に記載するものであって、一般式(II)及び(III)の化合物に関しては塩を含むが、一般式(I)の化合物に関しては塩を含まないものであると解するのが相当である。
そうすると、ナルフラフィン塩酸塩を有効成分とする本件医薬品は、本件発明1の発明特定事項を備えておらず、本件発明2~36の発明特定事項も備えていないから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。
イ 本件特許の審査経過に照らすと、ナルフラフィン塩酸塩などの「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物の薬理学的に許容される酸付加塩」を有効成分とする止痒剤は、出願当初は特許請求の範囲に含まれていたものの、手続補正により特許請求の範囲から除外されたものと解するよりほかない。仮に、手続補正をした者の意図がそうでなかったとしても、外形的にこう解されることが否定されるわけではない。
したがって、本件特許の審査経緯に照らしても、本件発明1~36は、ナルフラフィン塩酸塩を有効成分とする本件医薬品を含むものではないといえる。一方、本件医薬品の有効成分はナルフラフィン塩酸塩なのだから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認めることができない。
(2)無効理由2について
本件医薬品(レミッチOD錠2.5μg)の最初の製造販売承認(以下、「先行処分」という。)は2017年3月30日であるところ(甲9)、その効能・効果は、2017年3月作成の本件医薬品の添付資料第1版に記載のとおり、「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る) 血液透析患者、慢性肝疾患患者」というものである(甲25)。したがって、本件発明1のうち血液透析患者及び慢性肝疾患患者を対象とする場合については、先行処分によって実施できるようになっていたといえる。
本件処分は、先行処分の後、「腹膜透析患者」にも効能・効果が認められ、既に承認を取得している効能・効果と合わせて「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)透析患者、慢性肝疾患患者」として2017年9月22日になされた承認である(甲9)。そして、本件延長登録は、この本件処分に基づき、「処分の対象となった医薬品について特定された用途」を「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)透析患者(血液透析患者を除く)、慢性肝疾患患者」として登録され(上記第2の2(2)エ)、先行処分により実施できるようになった「血液透析患者」については本件延長登録の対象から除かれて認められた。
しかしながら、上述のとおり、慢性肝疾患患者を対象とする場合についても、先行処分によって実施できるようになっていたのだから、慢性肝疾患患者を対象とする場合の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。
したがって、本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」が「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」の部分は、同法第125条の2第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
2 本件取消判決における取消事由と結論
本件取消判決における原告主張の審決取消事由は、取消事由1(本件医薬品の有効成分に関する事実認定の誤り)、取消事由2(本件発明1の解釈の誤り)、取消事由3(法令解釈の誤り)、取消事由5(延長登録要件を充足する部分を除外せずに延長登録全部無効判断をしたことの法解釈の誤り)である。
本件取消判決の結論は、取消事由1は理由があり、本件審決にはその結論に影響を及ぼす違法があるものの、本件審決が、無効理由2に基づき、本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」を「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とする部分を無効にしたことは正当であるから、本件審決のうち「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分を無効とする。」という部分以外を取り消し、その余の請求を棄却するというものである。
3 本件取消判決の拘束力について
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。
したがって、当審の審理は、本件取消判決の判決主文が導き出されるのに必要な判示事項である、同判決が認定した事実関係(本件取消判決65頁7行~75頁2行)及び当該事実関係にもとにして検討された事項(本件取消判決75頁3行~77頁5行、以下の(0)~(5))に拘束される。
(合議体注:本件取消判決の頁行の引用は、知的財産高等裁判所ウェブサイトに掲載された判決におけるものである。知的財産高等裁判所ウェブサイトに掲載された判決に黒塗り(閲覧等制限申立)がある場合は、判決原本を確認した。以下同様。)
(0)本件処分は、薬機法14条9項に基づく医薬品製造販売承認事項一部変更承認であるから、本件処分においては、「有効成分」をはじめとする先行処分に係る製造販売承認書の記載に基づくものであると認められる。
(1)特許権の存続期間の延長登録の制度は、政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものであるから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったかどうかは、このような特許法の存続期間延長の制度が設けられている趣旨に照らして判断されるべきであり、その場合における本件処分の内容の認定についても、このような観点から実質的に判断されるべきであって、承認書の「有効成分」の記載内容から形式的に判断すべきではない。このように解することは、最高裁平成26年(行ヒ)第356号・同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻7号1912頁の趣旨にも沿うものということができる。
(2)医薬品について、良好な物性と安定性の観点からフリー体に酸等が付加されて、フリー体とは異なる化合物(付加塩)が医薬品とされる場合があること、そのような医薬品が人体に取り込まれたときには、付加塩からフリー体が解離し、フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること、ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり、ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは、平成28年3月31日に先行処分に係る製造販売の承認申請がされた時までに、当業者に広く知られていたものと認められる。
(3)医薬品分野の当業者は、医薬品の目的たる効能、効果を生ぜしめる作用に着目して、医薬品に配合される付加塩だけでなく、そのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。
(4)先行処分に係る製造販売承認書には、「成分」として「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されており、本件添付文書にも「有効成分に関する理化学的知見」として、「ナルフラフィン塩酸塩」と記載され、その構造式や性状などが記載されているが、これは、賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から、実際に医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく記載であると解される。これに対し、本件添付文書の「有効成分・含量(1カプセル中)」の欄に、「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」と記載されており、本件インタビューフォームには、和名は「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されているものの、洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナルフラフィン」が併記されているし、「有効成分(活性成分)の含量」として、「カプセル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有」と記載されている。そして、先行処分に係る製造販売承認書では、●(省略)●同じく本件添付文書や本件インタビューフォームにおける、本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度推移や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩酸塩ではなく、ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。
(5)以上のことを考え併せると、本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は、先行処分に係る製造販売承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するのではなく、実質的には、本件医薬品の承認審査において、効能、効果を生ぜしめる成分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と、本件医薬品に配合されている、その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当である。
したがって、「ナルフラフィン塩酸塩」のみを本件医薬品の有効成分と解し、「ナルフラフィン」は、本件医薬品の有効成分ではないと認定して、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した本件審決の認定判断は誤りであり、取消事由1は理由がある。
4 本件延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分について
本件取消判決は、原告主張の取消事由5(延長登録要件を充足する部分を除外せずに延長登録全部無効判断をしたことの法解釈の誤り)に関し、本件審決について以下のように判示し(本件取消判決78頁18行~80頁1行、以下の(6)、(7))、本件審決が、無効理由2に基づき、本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」を「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とする部分を無効にしたことは正当であるから、本件審決のうち「本件延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分は無効とする。」部分を維持し、その後、この部分は確定している。
(6)慢性肝疾患患者を対象とする場合については、先行処分により既に実施可能となっていたのであるから、慢性肝疾患患者を対象とする場合の実施について、本件処分を受けることが必要であったとはいえないことは明らかである。
本件審決は、前記第2の3(3)のとおり、慢性肝疾患患者を対象とする場合については、先行処分により既に実施可能となっていたことを認定した後、引き続き、「本件延長登録のうち、『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』の部分は、旧特許法125条の2第1項1号に該当し、無効にすべきものと認められる。」、「無効理由2は、本件延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』の部分について理由がある。」と判断しているのであり、このことからすると、本件審決は、無効理由2に基づいて本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」を「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とする部分のみについて無効理由があると判断したものと解され、本件審決のこの判断は、正当なものとして是認することができる。
(7)なお、本件審決は、「第6 むすび」として、「上記第5の1のとおり無効理由1は理由があり、本件発明の実施に旧特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められず、上記第5の2のとおり無効理由2も理由があり、本件発明のうち慢性肝疾患患者を対象とする部分の実施に旧特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件延長登録は、その全体が旧特許法125条の2第1項1号に該当し、無効とすべきものである。」と判断している。しかし、この判断は、無効理由1と無効理由2を総括する「第6 むすび」に記載されているものである上、無効理由2については、本件発明のうち慢性肝疾患患者を対象とする部分の実施についてのみ旧特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないと記載している。
そうすると、本件審決は、無効理由2については本件延長登録が部分的に無効になるにすぎないが、無効理由1があることにより、結局、本件延長登録全体が無効となることから、「第6 むすび」で「その全体が」と判断したものと解される。
すなわち、本件審決は、無効理由1に基づいて本件延長登録全体を無効にするとともに、無効理由2に基づいて本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」を「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とする部分のみを無効にしたものであると解される。
第5 当審の判断
本件取消判決の拘束力からみて、無効理由1を検討する。
なお、上第4の2、4のとおり、第1次審決のうち、無効理由2についての「本件延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分は無効とする」という部分は確定している。
1 無効理由1について
(1)医薬品について、良好な物性と安定性の観点からフリー体に酸等が付加されて、フリー体とは異なる化合物(付加塩)が医薬品とされる場合があること、そのような医薬品が人体に取り込まれたときには、付加塩からフリー体が解離し、フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること、ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり、ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは、平成28年3月31日に先行処分に係る製造販売の承認申請がされた時までに、当業者に広く知られていたものと認められる。
(2)医薬品分野の当業者は、医薬品の目的たる効能、効果を生ぜしめる作用に着目して、医薬品に配合される付加塩だけでなく、そのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。
(3)先行処分に係る製造販売承認書(乙10(合議体注:本件取消判決の甲36))には、「成分」として「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されており、本件添付文書(甲11)にも「有効成分に関する理化学的知見」として、「一般名:ナルフラフィン塩酸塩 Nalfurafine Hydrochloride」と記載され、その構造式や性状などが、「化学名:(2E)-N- [(5R,6R)-17-(Cyclopropylmethyl)-4,5-epoxy-3,14-dihydroxymorphinan-6-yl]-3-(furan-3-yl)-N-methylprop-2-enamide monohydrochloride
構造式:
[図:0001416860000006.jpg]
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性状:白色~ごくうすい黄色の粉末である。吸湿性が高く、光にやや不安定である。溶解性は、水、メタノールに対して溶けやすく、エタノール(95)に対しては溶けにくく、酢酸エチルとジエチルエーテルにはほとんど溶けない。」と記載されているが、これは、賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から、実際に医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく記載であると解される。これに対し、本件添付文書(甲11)の「有効成分・含量(1カプセル中)」の欄に、「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」と記載されており、本件インタビューフォーム(甲9)には、和名は「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されているものの、洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナルフラフィン」が併記されているし、「有効成分(活性成分)の含量」として、「カプセル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有」と記載されている。そして、先行処分に係る製造販売承認書(乙10(合議体注:本件取消判決の甲36))では、●(省略)●同じく本件添付文書(甲11)や本件インタビューフォーム(甲9)における、本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度推移や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩酸塩ではなく、ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。
(4)そうすると、本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は、先行処分に係る製造販売承認書(乙10(合議体注:本件取消判決の甲36))に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するのではなく、実質的には、本件医薬品の承認審査において、効能、効果を生ぜしめる成分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と、本件医薬品に配合されている、その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当である。
(5)一方、本件発明は、上記第2の1のとおりの36の請求項に係る発明からなるところ、化合物の一般式、引用関係からみて、次のア~ウの3つに大別することができる。
ア 一般式(I)で表される化合物に関する発明(本件発明1~9及び20)
イ 一般式(II)で表される化合物に関する発明(本件発明10~14、20~25、31、33及び34)
ウ 一般式(III)で表される化合物に関する発明(本件発明15~20、26~30、32、35及び36)
そして、ナルフラフィンは、本件発明1の一般式(I)のオピオイドκ受容体作動性化合物において、式中の
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が「単結合」を表し、R1が「炭素数4のシクロアルキルアルキル」である「シクロプロピルメチル」を表し、R2及びR3が「ヒドロキシ」を表し、Aが「-XC(=Y)-」であって、Xが「NR4」を表し、Yが「O」を表し、R4が「炭素数1の直鎖アルキル」である「メチル」を表し、Bが「2重結合を1個含む炭素数2の直鎖の非環状不飽和炭化水素」である「-CH=CH-」を表し、R5が
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であってQは「O」を表す有機基である「フラン-3-イル」を表し、R6とR7が一緒になって「-O-」を表し、R8が「水素」を表す化合物に相当するから、一般式(I)に含まれ、一般式(II)及び(III)には含まれないものである。
(6)したがって、本件医薬品の承認審査における有効成分はフリー体の「ナルフラフィン」と原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認められ、本件発明1は、ナルフラフィンを有効成分とする止痒剤を含むものであるといえるから、本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったと認められる。
2 無効理由1に対する請求人の主張について
請求人が審判請求書においてする無効理由1についての主張とそれに対する当審の判断は、次のとおりである。
(1)請求人の主張
上記第4の1(1)無効理由1の概要のとおりである。
(2)請求人の主張について
請求人の主張は、本件医薬品の有効成分は「ナルフラフィン塩酸塩」であることを前提とするものであるが、上記1(1)~(4)のとおり、本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は、フリー体の「ナルフラフィン」と「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当であるから、その前提において誤っており、その主張を採用することができない。
3 小括
したがって、無効理由1は成り立たない。
第6 むすび
上記第5のとおり無効理由1は成り立たない。
本件審決の本件延長登録のうち特定部分を無効することが確定したことを踏まえ、審判に関する費用については、参加によって生じた費用を含めて、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第64条の規定により、これを2分し,その1を請求人及び参加人の負担とし,その余を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり、審決する。
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2020-800004