商標取消審判
2020-300844
スフィア
- 審判番号
- 2020-300844
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 取消審判(商標取消の審決)
- 出願番号
- 商願2007-101260
- 登録番号
- 5130676
- 請求日
- 2020年11月24日
- 審決日
- 2021年11月18日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【請求人】高橋 隆二
- 【請求人代理人】寺島 英輔
- 【請求人代理人】川瀬 茂裕
- 【被請求人】ラボ・スフィア 株式会社
- 【被請求人代理人】鈴木 壯兵衞
- 審判長/審判官
- 審判長 岩崎 安子
- 審判官 森山 啓
- 審判官 板谷 玲子
- 分類
- T132 .1 -Z (X11)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法50条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第2条第3項、商標法第50条第1項、商標法第2条第3項第8号、商標法第50条第2項、商標法第50条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第5130676号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第5130676号商標の指定商品中、第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」についての商標登録を取り消す。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第5130676号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおり、「スフィア」の片仮名と「SPHERE」の欧文字を二段に書してなり、平成19年9月27日に登録出願、第11類「照明器具用レンズ,電球類及び照明用器具,便所ユニット,浴室ユニット,乾燥装置,換熱器,蒸煮装置,蒸発装置,蒸留装置,熱交換器,工業用炉,原子炉,暖冷房装置,業務用加熱調理機械器具,業務用食器乾燥機,業務用食器消毒器,家庭用電熱用品類」を指定商品として、同20年3月6日に登録査定、同年4月25日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録は、令和2年12月10日であり、本件審判の請求の登録前3年以内の平成29年12月10日から令和2年12月9日までを以下「要証期間」という。
第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証及び参考資料1ないし参考資料4を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」(以下「請求に係る指定商品」という場合がある。)について、継続して3年以上日本国内において本件商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定によりその登録は取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件取消審判の対象たる指定商品について
ア 被請求人は、請求人が取消対象として求めた、第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」は本件商標の指定商品ではないので、本件取消審判は不適法であると主張する。
しかし、本件取消審判の取消対象は明確であって、本件商標の指定商品に属するものと解釈され得るので、本件取消審判は適法である。
イ 商標不使用取消審判の対象たる指定商品・指定役務については、それらが複数あるときは、その一部の指定商品又は指定役務について取消しを請求することができる。審判の対象となる指定商品の範囲は、設定登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく、請求人において取消しを求めた審判請求書の請求の趣旨の記載に基づいて決められる(参照:高部眞規子著「実務詳説商標関係訴訟」267頁)。被請求人の主張は、不使用取消審判の対象について、設定登録において表示された指定商品でなければならないとの独自の考えに基づくものであって失当である。
本件取消対象指定商品は、「商品・サービス国際分類表アルファベット順一覧表」において、第11類「電球類及び照明用器具」の例示商品中に記載されているので、本件取消審判は適法である。
(2)被請求人は、本件取消対象指定商品についての本件商標の使用の事実がないことは明らかに争っていない。よってその余を検討するまでもなく、本件商標は本件取消対象指定商品について取消されるべきものである。
なお、請求人は、第三者たる株式会社SPREAD(以下「SPREAD社」という。)の代理人弁護士であるところ、被請求人からSPREAD社に対して本件商標の商標権侵害警告がなされたことを契機として本件不使用取消審判の請求がなされた。その紛争の背景を理解した上で判断されることも有用と思われるので、上記当事者間の交渉の経緯を示す書面を参考資料として提出する。
第3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、答弁において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第12号証を提出した。
1 本件審判の請求の不当性
本件審判は、本件商標の指定商品ではない、第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」について、不使用による商標登録の取消請求がなされたものである。よって、本件審判の請求は「登録を取り消す対象となる指定商品が存在しない審判の請求」であって、審判の請求の価値や意味がなく、瑕疵のある不当な審判請求である。
2 本件商標の登録内容の説明
本件商標の登録内容には、本件審判の請求に係る、第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」は指定商品として存在しない。
3 本件商標の指定商品の使用の事実
上述したとおり、請求に係る指定商品である第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」は、本件商標の登録された指定商品としては記載されていない商品である。本件審判の請求は、指定商品としては記載されていない商品を取消対象とするものであり、瑕疵のある不当な審判請求である。
よって、本件審判は本件商標の指定商品ではない商品に関する請求であるので、本来的に、本件商標の指定商品の使用の事実の説明は不要である。請求人の意図が分かりかねるが、以下において、不当な請求に係る第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」を包括する上位概念である、本件商標の指定商品中、第11類「電球類及び照明用器具」に着目して、使用の事実を参考までに説明する。
(1)商標の使用者
「自己のウェブサイトの画面」(乙1)、「見積書」(乙4)、「納品伝票」(乙6)及び「見積書」(乙7)には、「ラボ・スフィア株式会社」、「宮城県仙台市太白区八木山南3丁目16番地5号」が表示されている。
「商品説明書」(乙3)、「納品書」(乙5)、「納品伝票」(乙6)、「納品書」(乙8)、「納品書」(乙9)及び「技術説明書」(乙10)には、「ラボ・スフィア株式会社」が表示されている。
(2)使用に係る商品
ラボ・スフィア株式会社のウェブサイトの画面(乙1)の第2頁には、本件商標の指定商品「電球類及び照明用器具」であるスフィア光学体の説明が記載されている。また、同画面(乙1)の第3頁には指定商品「電球類及び照明用器具」としてスフィア光学体の説明と画像が記載され、用途例として「照明用器具」が記載されている。ウェブサイトの画面に記載された「照明用器具」は、今回の不当な請求に係る「オートバイ用ライト,自動車用ライト」を含む上位概念である。しかしながら、「オートバイ用ライト,自動車用ライト」は、本件商標の指定商品には、もともと含まれていないのは上述したとおりである。
以下はあくまで参考までの説明であるが、特に、同画面(乙1)の第3頁には、用途例として「自動車、鉄道、航空、船舶」と記載されていることに留意されたい。同画面(乙1)の第3頁には、本件商標の指定商品「電球類及び照明用器具」に含まれる下位概念としての「自動車用ライト」が用途例として記載されているので、「自動車用ライト」に関しても、ラボ・スフィア株式会社のウェブサイトの画面に指定商品の広告・宣伝及び出所表示の目的として記載されていると読める。
更に、同画面(乙1)の第3頁には用途例として、「信号、表示、標識、誘導灯」、「道路灯、トンネル灯、街路灯、公園灯、庭園灯、非常灯、ダウンライト」及び「医療用、通信、集魚灯、植物育成用、害虫駆除、光装飾」が記載されている。よって、同画面(乙1)の第3頁の記載は、需要者はこれを「オートバイ用ライト,自動車用ライト」の上位概念である「照明用器具」を意味するものと理解できる。
商品説明書(乙3)には、本件商標の指定商品「電球類及び照明用器具」の製品の型式名及び対応する性能が、表形式で一覧表示されている。
各種伝票(乙4~乙9)には、商品説明書(乙3)に記載された内容に従ってBtoBの取引をした場合における、本件商標の指定商品「電球類及び照明用器具」の型式名が、それぞれ記載されている。
技術説明書(乙10)には、本件商標の指定商品「電球類及び照明用器具」に該当するスフィアLED照明灯の技術説明が記載されている。
(3)使用に係る商標
自己のウェブサイトの画面(乙1)の第3頁、商品説明書(乙3)及び技術説明書(乙10)の第2頁第8行目には、本件商標が記載されている。
(4)使用時期
ラボ・スフィア株式会社のウェブサイト画面(乙1)ヘのログの記録は、FTPクライアントソフトウェアFFFTPのウィンドウの一覧表(乙2)に表示されている。この一覧表の第1行には「2011/02/01 21:00」とタイムスタンプが記載されている。更に、一覧表の第2行には「2019/11/06 14:53」と記載され、第3行には「2011/02/01 21:00」と記載され、第4行には「2019/11/05 14:04」と記載されている。よって、同画面(乙1)を示すファイルがウェブサイトのサーバコンピュータに2011年2月11日の21:00にアップロードされ、2019年11月6日及び2019年11月5日においても継続してサーバコンピュータに保存され、需要者に公開されていたことが証明できる。なお、FFFTPのウィンドウの第2行の「2019/11/06 14:53」及び第4行の「2019/11/05 14:04」のタイムスタンプが付されたログはサイズ0であるので、ウェブサイトの画面の内容に変更がないことが分かる。
なお、同画面(乙1)の第2頁(http://www.labo-sphere.co.jp/index.htm)は、2011年2月11日から現在まで継続してアップロードされ、需要者に公開され広告宣伝活動を継続している。このことは、他社のウェブサイトの画面等にもラボ・スフィア株式会社のウェブサイトの画面(乙1)へのリンクが張られていることからも分かる。例えば、「ipros ものづくり」のウェブサイト(https://www.ipros.jp/company/detai1/2052767/)は、最終更新日が2016年6月15日であるが、このウェブサイトの画面には、ラボ・スフィア株式会社のウェブサイト(乙1)ヘリンクが張られている。
さらに、最終更新日が2020年10月30日のwebsite.informer.comのウェブサイト(https://website.informer.com/labo-sphere.co.jp)には、ラボ・スフィア株式会社のウェブサイト(乙1)ヘのリンクが張られているので、同画面(乙1)が2016年6月15日から少なくとも2020年10月30日まで継続して表示されていることが、他社のウェブサイトからのリンクにより分かる。
見積書(乙4)の発行日の欄には、「2018年1月19日」と記載され、納品書及び請求書(乙5)の納品日の欄には、「平成30年1月24日」と記載され、納品書、請求書及び物品受領書(乙6)の発行日の欄には、それぞれ、「平成30年4月27日」と記載されている。
更に、見積書(乙7)の発行日の欄には、「2018年4月27日」と記載され、納品書(乙8)の納品日の欄には、「平成30年5月17日」と記載され、納品書(乙9)の納品日の欄には、「令和1年10月15日」と記載されている。
更に、技術説明書(乙10)の第1頁には、「平成31年2月26日」と記載され、技術説明書を新仙台郵便局からダイレクトメールとして郵送した記録となる領収書(乙11)には、「2019年2月28日」と記載されている。同領収書(乙11)の記載から、技術説明書(乙10)と同様な書類が2019年2月28日に他に52通がダイレクトメールとして郵送され、マーケティング戦略におけるプロモーションとして、指定商品「電球類及び照明用器具」の広告・宣伝活動がなされたことが分かる。2019年2月28日に技術説明書(乙10)と同様な書類を郵送した全53通のダイレクトメールのそれぞれの宛先は、リスト(乙12)に示されている。
なお、特許庁が平成29年3月に発行した「宮城県における知的財産活動の概要」(https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/chiiki_report/document/h28/03.pdf)の第17頁から第19頁にはラボ・スフィア株式会社が紹介され、その中で、スフィア光源とスフィア光源を使用した照明器具の説明が写真の掲載と共にある。そして、「現在、照明メーカーとの量産化協力体制確立に努めている」旨が記載されているので、9か月後の平成29年12月以降においても量産化協力体制確立への努力やそれによる生産活動や営業活動が継続されていることが推定可能である。
以上の説明を総合すれば、特許庁が発行した文書によっても、指定商品「電球類及び照明用器具」の照明メーカーヘの広告宣伝活動と、照明メーカーとの協力体制確立への努力や協力体制確立後の営業活動が、要証期間に日本国内において進められていることが分かる。
4 むすび
以上のとおり、本件審判は、本件商標の指定商品とは関係のない第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」について、不使用による商標登録の取消請求がなされたものであり、本件審判の請求には重大な瑕疵があり、本来的に成り立たない。
なお、上述のとおり、「オートバイ用ライト,自動車用ライト」を包括する上位概念である指定商品「電球類及び照明用器具」に関しては、要証期間に日本国内において、商標権者であるラボ・スフィア株式会社が使用していることは明らかである。
第4 審尋
当審より被請求人に対し、令和3年5月13日付け審尋において、「被請求人の主張及び提出された証拠からは、被請求人が、要証期間に、日本国内において、『オートバイ用ライト,自動車用ライト』について、本件商標を使用していたことを確認することができない。この点に関し、請求人は、乙第1号証の第3頁において、『自動車用ライト』が用途例として記載されているので、『自動車用ライト』に関しても、商標権者のウェブサイトの画面上で、広告・宣伝及び出所表示の目的として記載されていると読める旨主張しているが、当該頁には、スフィア光学体の用途例の一つとして、『自動車』が表示されているだけであって、本件商標について、『自動車用ライト』の商標として、商標法第2条第3項の使用が行われている事実を確認することができない。
したがって、被請求人の提出した証拠によっては、被請求人が要証期間に、日本国内において、本件商標を本件審判の請求に係る指定商品について使用したことを証明したものと認めることができない。」旨の合議体の暫定的見解及び請求人が提出した令和3年2月24日付けの審判事件弁駁書に対する回答を求めた。
第5 審尋に対する回答
1 回答書
(1)実益のない濫訴の助長
先の答弁書において、本件審判は、本件商標の指定商品ではない第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」について、不使用による商標登録の取消請求がなされたものであるから、本件審判の請求は「登録を取り消す対象となる指定商品が存在しない審判の請求」であって、審判の請求の価値や意味がなく、瑕疵のある不当な審判請求である旨主張した。
確かに、包括的な上位概念が指定商品である場合において、請求人が登録商標の指定商品の下位概念である商品を取消対象の指定商品として請求する場合が、実務上存在する場合がある。
このような指定商品の単位を請求人が自由に決めることができるという考え方は、その指定商品が被請求人の残余の指定商品とは非類似の商品である等、その指定商品を取り消すことに実益があるという特定の場合に限られる。指定商品を取り消すことに実益のない場合にまで拡張し、任意の下位概念となる指定商品の取り消しを認めることは、被請求人の負担をいたずらに増加させるものであり、不使用取消審判制度の濫用にあたるものである。
本件審判にて請求人が対象とした第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」の指定商品は、本件商標の「照明器具用レンズ」及び「電球類及び照明用器具」の類似範囲に属するか、実質的に同一商品である。
例えば「自動車用ライト」といっても、「自動車用ライト」には自動車の車内の照明器具や計器の表示に用いられる「電球類及び照明用器具」も含まれ、「電球類及び照明用器具」に含まれる他の商品の類似商品である。「オートバイ用ライト」の場合も同様である。そもそも、照明用器具の概念は非常に広く、「オートバイ用ライト」、「自動車用ライト」とは「オートバイ用に用いられるライト」、「自動車用に用いられるライト」を意味しており、消費者、需要者には照明用器具である。よって、一般的な感覚として、消費者、需要者は「オートバイ用ライト」、「自動車用ライト」と「電球類及び照明用器具」を区別しないのが通常である。したがって、「オートバイ用ライト,自動車用ライト」の指定商品を、被請求人の指定商品群の中の穴として取り消しても、かかる穴は被請求人の権利の禁止権の範囲に含まれるか、場合によっては専用権の範囲に該当し得るものであり、かかる穴の発生は、請求人には実益がない。
請求人が提示した初心者向けのテキストである高部眞規子著「実務詳説商標関係訴訟」(金融財政事情研究会刊)のp.267の第13行目から第15行目には、確かに「請求人において取消を求めた審判請求書の請求の趣旨の記載に基づいて決められる」の旨の記載がある。しかし、当該頁には理由付けや適用できる境界条件等の記載もなく、簡単に2、3行記載されているに過ぎない。かかる記載をもって、すべての場合において請求人が指定商品の単位を自由に決められるとするのは早計で、あまりにも安易な考え方である。当該頁の記載は、あくまで請求人に実益がある場合に適用されるものとして限定的に理解されるべきであって、請求人に実益がない場合にまで拡張できるものではない(例えば、網野誠著「商標[第3版]」(有斐閣)p.796等参照。)。
かかる実益ない指定商品についてまで、安易に不使用取消審判を認めることは、商標権者の負担がいたずらに荷重されるおそれがあるばかりでなく、安易な不使用取消審判を請求する濫訴の傾向を助長するものとなる。
したがって、実益ない指定商品についての安易な不使用取消審判の認容は、かえって不使用取消審判の目的や商標保護の目的に反するものとなる。
(2)オートバイ用ライト、自動車用ライトは用途例の限定に過ぎない
弁駁書にて、請求人は、真の請求人であるSPREAD社の代理人弁護士であることを自認した。
SPREAD社の製品カタログ(乙13)から分かるように、「オートバイ用ライト」、「自動車用ライト」といっても、例えば、同カタログの第8頁に示されているようなLEDランプをオートバイや自動車に搭載しているに過ぎず、その実態は本件商標の指定商品である「電球類及び照明用器具」と等価である。同カタログの第8頁に開示されたLEDランプの写真はSPREAD社が自社の製品の主要な機能と特徴的な技術を説明するためであることは、カタログの性質から明らかである。しかし、同カタログに示された「オートバイ用ライト」、「自動車用ライト」等の主要な機能と特徴的な技術は、汎用のライト(電球類及び照明用器具)と本質的な部分で差異はない。
よく知られているように、機能には「使用機能」、「魅力機能(貴重機能)」及び「不要機能」がある。使用機能は更に存在意義そのものの機能である「基本機能(1次機能)」、基本機能を補充する機能である「補助機能(2次機能)」及び実用上の付加価値を高める機能である「付随機能」に分類される。魅力機能は製品のデザイン、装飾、概観等の機能である。照明器具の分野においては、基本機能の「光を放って対象物を照明する」という主語と述語の関係で表現される、存在意義そのものの機能に関しては、「汎用のライト」と「オートバイ用ライト」又は「自動車用ライト」は同一である。
弁駁書記載のとおり、被請求人は、SPREAD社に対して本件商標の商標権侵害警告を送付している。これに対しSPREAD社は、令和2年6月3日付けで侵害を認める旨のFAX(乙14)を被請求人に送付している。更に、SPREAD社は令和2年6月10日付けでライセンス契約を提案するFAX(乙15)を被請求人に送付している。SPREAD社の製品である「オートバイ用ライト」、「自動車用ライト」が、本件商標の指定商品である「電球類及び照明用器具」と非類似であれば、その旨の弁明をし、非侵害である旨の反駁が可能であったはずである。SPREAD社は自ら、自社の商品はその機能と技術の実態として、本件商標の指定商品である「電球類及び照明用器具」に該当し、「オートバイ用ライト」、「自動車用ライト」は基本機能が同一の商品の用途例の限定に過ぎないことを認めたのである。SPREAD社は、かかる不利な証拠を隠匿するために、本件審判において、ダミーの代理人を本件審判の請求人としたものと推定する。
例えば、第1類「工業用の化学品」には、下位概念として、塩酸、硝酸、硫酸等の基本機能が全く異なる商品が含まれる。指定商品が第1類「工業用の化学品」であり、商標権者が塩酸と硝酸のみを製造販売し、硫酸については製造販売していない状況は、想定上あり得る。このような基本機能が全く異なる商品が含まれる場合、請求人が硫酸について取消審判を請求しても、商標権者の被害はほとんどない。塩酸、硝酸及び硫酸はそれぞれ異なる化学物質であり使用機能が全く異なり、製造設備もそれぞれ異なるからである。即ち、塩酸、硝酸及び硫酸はそれぞれ異なる技術に依拠し、それぞれ別個の投資が必要である。
塩酸、硝酸及び硫酸の例では、使用機能の中心をなす基本機能が、それぞれ全く異なる商品を指定商品とする場合である。これに対し、「電球類及び照明用器具」のような基本機能が実質同一で汎用性の高い商品の場合は、市場における指定商品の取引事情が全く異なる。単に販売チャネル上の交渉における問題等があった等の理由で、指定商品の内から、用途が異なる「オートバイ用ライト」及び「自動車用ライト」を除外することは、同一製造設備で製造可能であり、かつ自動車用等にも適用可能な汎用性を有する「電球類及び照明用器具」の販売の分野を、自動車等の分野を除外するように制限するものとなり、商標権者の被害は甚大である。
知的財産権の根本は衡平の原則にある。この衡平の原則を鑑みれば、被請求人側に指定商品の選択の自由があるからということで、指定商品の汎用性を無視して、用途例の限定に過ぎない「オートバイ用ライト」及び「自動車用ライト」を安易に除外することは、被請求人にはあまりにも酷であり、バランスを欠く判断となる。請求人が今回請求した指定商品の指定は、「電球類及び照明用器具」の市場における取引の事情や技術的背景を無視したものであり、商標法の本来の目的に反し、取消審判制度の濫用にあたるものである。
1980年に経済学者のD・F・エーベル(Abell)教授は、著書「Design The Business」にて顧客層、顧客機能、技術の3次元を考慮して市場のドメインを決定すべきという3次元事業定義モデルを提唱している。
エーベルの「顧客層」とは事業の対象となる顧客である。エーベルの「顧客機能」とは満たされるべき顧客ニーズである。顧客ニーズとは、先ほど紹介した価値分析(VA)や価値工学(VE)で定義される使用機能や魅力機能である。エーベルの「技術」とは、ニーズを満たすための技術である。上述した塩酸、硝酸及び硫酸の例の場合では、それぞれ異なる化学物質であるので、「顧客機能」及び「技術」は異なり、したがって顧客も同一とは限らない。
一方、被請求人がスフィア光学体と呼ぶ指定商品「電球類及び照明用器具」の場合においては、スフィア光学体の汎用性が高いため、エーベルが定義する「顧客機能」は同一の基本機能を共有しているので、塩酸、硝酸及び硫酸の場合とは、全く事情が異なる。同様に、エーベルが定義する「技術」は、スフィア光学体の製造に必要な同一の技術で足りるので、塩酸、硝酸及び硫酸の場合のように異なる技術に依拠しているのではない。
スフィア光学体の場合、エーベルの3次元事業定義モデルにおいて、顧客機能、技術は同一の場合である。顧客機能及び技術が同一の3次元事業定義モデルにおいて、顧客層が用途例として複数存在可能となるのが、スフィア光学体の市場における取引事情である。即ち、スフィア光学体の3次元事業定義モデルでは、顧客層が、自動車メーカー、自動車用部品メーカー、オートバイメーカー、オートバイ用部品メーカー(以下「自動車メーカー等」という。)に限定されず、自動車メーカー等以外の種々の多様なメーカーや需要者が存在し得るが、それらは単にスフィア光学体の用途例として存在しているだけである。
このように、指定商品が「工業用の化学品」の場合と「電球類及び照明用器具」の場合では、市場における3次元モデルが全く異なり、指定商品の意味や単位の取り方も変わってくる。この市場における汎用性の高い商品の取引の事情、顧客のニーズや技術的背景を無視して、「工業用の化学品」の場合と同様に「電球類及び照明用器具」に対し、単なる用途の違いで「指定商品」の単位を決め、取消請求を認容することは、衡平の原則から許されるものではない。
(3)用途例が示されれば、自動車用ライトの広告宣伝と等価
合議体の暫定的見解は、乙第1号証の第3頁には、スフィア光学体の用途例の一つとして、「自動車」が表示されているだけであって、本件商標について、「自動車用ライト」の商標として、商標法第2条第3項の使用が行われている事実を確認することができないとの指摘である。しかし、当該合議体の暫定的見解は当を得ないものである。なぜなら、上述のように、「オートバイ用ライト」及び「自動車用ライト」とは、それぞれ「オートバイ用に用いられるライト」及び「自動車用に用いられるライト」の意味であり、汎用性の高い商品の用途例の限定に過ぎないからである。
特に、請求人のスフィア光学体の機能と技術的特徴は、請求人の保有する特許第3175105号等に開示されている。
これらの請求人の保有する特許文献の記載内容によれば、スフィア光学体が「自動車用ライト」の実用上の付加価値を高める、光の指向性やエネルギー変換効率が高いという付随機能や、簡単な構造であるので、振動や衝撃に強いという補助機能を有することが理解できる。よって、スフィア光学体は、補助機能や付随機能等を含めた「自動車用ライト」としての使用機能を、本来的に有した商品であることが分かる。
なお、「自動車用ライト」としてのスフィア光学体の使用機能に関しては、第三者に非公開の条件を前提として、回答補足書にて補足的に説明する。回答補足書には、請求人のスフィア光学体を大手A社が自動車用ライトに好適と認定し、被請求人とA社が共同開発に着手したことが記載されている。
したがって、スフィア光学体の主要部分の機能や構造に関しては、その主要部の形態に加工を加えず、そっくりそのままスフィア光学体を使用した場合であっても、「自動車用ライト」が実現できる汎用性の高さを、スフィア光学体は本来的に有しているという商品固有の特性を、合議体の暫定的見解では看過されている。
3次元事業定義モデルで説明すれば、被請求人のスフィア光学体が、顧客機能として自動車用ライトとしての機能を有し、かつ技術として自動車用ライトとしての技術的特徴を有している市場の取引事情においては、顧客層に対し、用途例に自動車の分野が含まれているとの情報を、被請求人のウェブサイトの画面(乙1)で示すだけで、自動車用ライトの広告宣伝機能を果たしている。
既に汎用のライトと自動車用ライトの基本機能は同一であることは説明した。自動車用ライトには振動や衝撃に強い、或いは温度変化に耐えるという補助機能や付随機能があるであろうが、この補助機能や付随機能に関して、同ウェブサイトの画面上に用途例として、「自動車」の記載があれば、需要者は、自動車用ライトに必要な補助機能や付随機能が満たされていることが理解できる。このような光学分野の商品の特性及び市場の取引事情から、被請求人のウェブサイトの画面(乙1)でスフィア光学体の用途例の一つとして、「自動車」が表示されていることは、指定商品「自動車用ライト」に関して商標法第2条第3項の使用が行われていることになる。
より具体的には、乙第1号証の第3頁の上段に示されたスフィア光学体の写真は、スフィア光学体が自動車用ライトとして用いられる場合であっても、構造や外形としての同一性を維持できる。よって、乙第1号証の第3頁の上段には、自動車用ライトの写真が掲載されているものと、読み替えることが可能である。特許第3175105号等の一群の特許文献が開示する記載内容から分かることは、乙第1号証の第3頁の上段の写真に例示したレンズ部分の構造が、スフィア光学体の特徴部分であるということである。したがって、自動車用ライトとして用いられる場合であっても、他の汎用のライトとして用いられる場合であっても、特徴部分をなすレンズ部分の構造が変わることはない。
同様に、乙第1号証の第3頁のスフィア光学体の写真の下に記載された「スフィア光学体とは」の説明は、自動車用ライトの説明であると読み替えることが可能で、乙第1号証の第3頁の中段の「主な特徴」の説明も、自動車用ライトの説明に対応する文章と読み替えることが可能である。結局のところ、例えば、自動車メーカー等の担当者が、用途例として「自動車」が表示されていることをウェブサイトの画面で発見して、スフィア光学体を購入すれば、自動車用ライトが販売されたことと等価である。このように、スフィア光学体は、特徴部分をなす主要部の機能や構造(技術)の同一性を維持しながら、多様な用途に、広範に提供可能な商品である。「オートバイ用ライト」及び「自動車用ライト」とは、それぞれ「オートバイ用に用いられるライト」及び「自動車用に用いられるライト」という意味に過ぎないということ、並びに、3次元事業定義モデルで説明したスフィア光学体という商品の有する固有の特徴である汎用性の高さを、合議体の暫定的見解では看過されている。スフィア光学体という商品の有する固有の特徴及び指定商品名としての「・・・用ライト」という用語の意味を鑑みれば、商標法第2条第3項に規定する広告を内容とする情報としては、自動車メーカー等の顧客に対し、自動車用ライトとして必要な機能と技術がウェブサイトの画面に開示されていれば、自動車用ライトの広告宣伝機能として、十分であることが理解できるはずである。
被請求人の主要な事業形態は、BtoBの企業間取引である。BtoBの企業間取引において、自動車メーカー等に半製品若しくは中間生成物、又は完成品としてスフィア光学体を納入すれば、自動車メーカー等に自動車用ライトが納入されたことになる。また、BtoBの企業間取引の前段階において、自動車メーカー等の担当者が、被請求人のウェブサイト(乙1)を介して、自動車用ライトの半製品若しくは中間生成物又は完成品として、スフィア光学体に興味をもてば、商標法第2条第3項に規定する自動車用ライトに閲する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為に該当する。
実際に、被請求人のウェブサイト(乙1)にリンクした「iprosものづくり」のウェブサイトの運営者の記録によれば、世界的に著名な大手自動車メーカーB社が、その子会社や関連会社等を含む複数の閲覧者として、被請求人のウェブサイト(乙1)を要証期間内に閲覧した事実が分かる。この閲覧の事実は、マーケティングの観点から判断すれば、大手自動車メーカーB社に対して、被請求人のウェブサイト(乙1)によって、自動車用ライトに関する商標法第2条第3項に規定する行為がなされ、要証期間内にB社が被請求人の自動車用ライトに興味を持ったことが分かる。なお、SPREAD社は自動車・輸送機器の業者であるが、SPREAD社も被請求人のウェブサイト(乙1)に複数回アクセスしている。
したがって、被請求人のウェブサイト(乙1)の記載内容は、要証期間内に日本国内において、指定商品「自動車用ライト」に関して、商標権者であるラボ・スフィア株式会社が、自己の登録商標を使用していることを証明するものであることは明らかである。
(4)指定商品「自動車用ライト」の使用の事実
上述したとおり、請求に係る指定商品「オートバイ用ライト,自動車用ライト」は、本件商標の登録された指定商品の市場における取引事情を無視した、請求することに実益がない請求である。かかる実益がない指定商品の請求を安易に認容することは、不使用取消審判の制度の濫用にあたり、商標保護の目的に反するものである。
以下において説明する「自動車用ライト」の使用の事実は、上記主張が認められるのであれば不要であるが、上記主張が認められない事態を考え、念のために説明する。
ア 商標の使用者
「被請求人のウェブサイトの画面」(乙1)には、「ラボ・スフィア株式会社」、「宮城県仙台市太白区八木山南3丁目16番地5号」が表示されている。「商品説明書」(乙3)には、「ラボ・スフィア株式会社」が表示されている。
イ 使用に係る商品
ラボ・スフィア株式会社のウェブサイトの画面(乙1)の第2頁には、スフィア光学体の説明が記載されている。また、スフィア光学体の用途例として「自動車」の表現があるから、請求に係る指定商品「自動車用ライト」が記載されている。今回の請求の濫用に係る「オートバイ用ライト,自動車用ライト」とは、商品の市場における取引事情、商品の機能及び技術を鑑みれば、単に用途の異なっているに過ぎず、ウェブサイトの画面に記載されたスフィア光学体と実質的同一の商品である。したがって、同画面(乙1)の第3頁のスフィア光学体の説明と画像は、指定商品「自動車用ライト」としてのスフィア光学体の説明と画像に等価である。
即ち、同画面(乙1)の第3頁に、スフィア光学体の用途例の一つとして「自動車」と記載されていることは、商品の市場における取引事情、商品の機能及び技術を鑑みれば、同画面(乙1)の第3頁には、「自動車用ライト」が指定商品の態様として実質的に記載されている。よって、請求人が指定した指定商品「自動車用ライト」は、ラボ・スフィア株式会社のウェブサイトの画面において、指定商品「自動車用ライト」の広告・宣伝及び出所表示の目的として記載されていると読める。
乙第3号証には本件商標の指定商品「自動車用ライト」に用いる個別のスフィアレンズの型式名及び対応する性能が、表形式で一覧表示されている。
ウ 使用に係る商標
ラボ・スフィア株式会社のウェブサイトの画面(乙1)の第3頁、商品説明書(乙3)には、本件商標の標章が記載されている。
エ 使用時期
(ア)答弁書で述べたとおり、ラボ・スフィア株式会社のウェブサイト画面(乙1)へのログの記録を表示した、FTPクライアントソフトウェアFFFTPのウィンドウの一覧表(乙2)によれば、同画面(乙1)を示すファイルがウェブサイトのサーバコンピュータに2011年2月11日の21:00にアップロードされ、2019年11月6日及び同月5日においても継続してサーバコンピュータに保存され、需要者に公開されていたこと、ウェブサイトの画面の内容に変更がないことが分かる。
また、同画面(乙1)の第2頁は、2011年2月11日から現在まで継続してアップロードされ、需要者に公開され広告宣伝活動を継続していることは、2016年6月15日及び2020年10月30日に、他社のウェブサイトの画面等にもラボ・スフィア株式会社のウェブサイトの画面(乙1)へのリンクが張られていることからも分かる。
なお、特許庁が平成29年3月に発行した「宮城県における知的財産活動の概要」において、ラボ・スフィア株式会社が紹介されており、スフィア光源とスフィア光源を使用した照明器具の説明が写真とともに掲載され、「現在、照明メーカーとの量産化協力体制確立に努めている」旨が記載されている。
以上の説明を総合すれば、特許庁が発行した文書によっても、指定商品「自動車用ライト」に関して、自動車メーカー等を含めた照明メーカーヘの広告宣伝活動と、自動車メーカー等との協力体制確立への努力や協力体制確立後の営業活動が、要証期間に日本国内において進められていることが分かる。
既に説明したとおり、「ipros ものづくり」のウェブサイトの運営者の記録によれば、上述したように大手自動車メーカーB社が、その子会社や関連会社等を含む複数の閲覧者として、乙第1号証に示した、指定商品「自動車用ライト」を掲載したウェブサイトを閲覧している。
(イ)被請求人は、回答補足書の中で、C社に対し、自動車用ライトに関する商談を行ったことを説明している。この商談の切っ掛けがC社側からの被請求人に対する引き合いであったことを考慮すると、乙第1号証のウェブサイトの画面に開示した自動車用ライトの情報が、C社に対し広告宣伝機能を果たした結果といえる。回答補足書に添付した乙第18号証の第1頁及び第3頁の日付から分かるとおり、要証期間内の2019年2月から8月の間に、自動車用ライトに関する商談を行っている。
この自動車用ライトに関する商談においては、乙第3号証で示した、本件商標の標章を付した自動車用ライトに関する広告が用いられている。
よって、乙第18号証は、被請求人が商標法第2条第3項第8号に規定する「商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布」及び「商品に関する広告等を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当する行為をしたことを証明している。
(ウ)回答補足書に添付した乙第21号証によれば、要証期間内の2018年7月25日に、D社の担当者と被請求人が自動車用ライトに関する商談を行ったことが分かる。この商談もD社側からの被請求人に対する引き合いが切っ掛けであったことを考慮すると、被請求人のウェブサイトの画面(乙1)に開示した自動車用ライトの情報が、D社に対し広告宣伝機能を果たした結果といえる。D社との商談では、既に乙第3号証で説明した、本件商標の標章が付された、自動車用ライトに関する広告が用いられている。
よって、乙第21号証は、被請求人が商標法第2条第3項第8号に規定する「商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布」及び「商品に関する広告等を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当する行為をしたことを証明している。
(5)使用できなかった正当な理由
回答補足書に記載のとおり、C社との間で、被請求人は自動車用ライトの開発を進めていた。しかし、2020年に入り新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がまん延を開始したことに伴い、自動車用ライトの開発の速度が停滞し、ほぼ中断に近い状況となっている。
また、E社との間で、被請求人は自動車用ライトの開発を要証期間において進めていた。しかし、新型コロナウイルスがまん延を開始したことに伴い、E社との開発は、製品化に至るまで発展させることができなくなった。
更に、F社と契約している被請求人の自動車用ライトの開発も現在継続中ではあるが、新型コロナウイルスのまん延に伴い、開発が停滞している、というやむを得ない事情がある。
以上説明したとおり、一部に関しては、上記のように指定商品「自動車用ライト」に係る商標の使用の証明をした。しかし、上記において商標の使用の証明ができなかった残余に関しては、新型コロナウイルスのまん延に依拠した日本全体の経済活動の停滞により、指定商品「自動車用ライト」の販売の段階までに至らずに使用できなくなった正当な理由もある。
(6)まとめ
上述のとおり、請求人指定に係る指定商品「自動車用ライト」は、要証期間に日本国内において、商標権者であるラボ・スフィア株式会社が使用していることは明らかである。
また、使用できなかった一部の指定商品「自動車用ライト」に関しては、新型コロナウイルスのまん延によって、開発を中断せざるを得なくなった正当な理由もある。
2 回答補足書
●(省略)●
第6 当審の判断
1 本件審判の請求の不当性等について
(1)被請求人は、本件審判は、本件商標の指定商品ではない第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」について、不使用による商標登録の取消請求がなされたものであるから、本件審判の請求は「登録を取り消す対象となる指定商品が存在しない審判の請求」であって、審判の請求の価値や意味がなく、瑕疵のある不当な審判請求である旨主張している。
しかしながら、取消審判請求の審理の対象となる指定商品の範囲は、設定登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく、請求人において取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて決められるのであって、請求に係る指定商品である第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」は、本件商標の指定商品中、第11類「電球類及び照明用器具」の範ちゅうに含まれるものであるから、本件審判の請求は、瑕疵のある不当なものとはいえない。
(2)また、被請求人は、請求人が取消対象とした第11類「オートバイ用ライト,自動車用ライト」は、本件商標の指定商品中、「照明器具用レンズ」及び「電球類及び照明用器具」の類似範囲に属するか、実質的に同一商品であって、「オートバイ用ライト,自動車用ライト」を取り消しても、類似の商品が残り、請求人には実益がないから、本件審判の請求は、不使用取消審判制度の濫用に当たり、商標保護の目的に反する旨主張する。
しかしながら、商標法上、不使用による商標登録の取消審判の請求は、「何人」も請求できる(商標法第50条第1項)のであって、請求に係る指定商品を取り消すことに実益がある者に限られるなどと解する余地はないから、本件審判の請求が不使用取消審判制度の濫用や商標保護の目的に反することにはならない。
2 本件商標の使用について
(1)事実認定
被請求人の提出した証拠及び主張によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 被請求人のウェブサイト(乙1)について
(ア)被請求人のウェブサイト(乙1)の会社概要によれば、ラボ・スフィア株式会社は、光学電子分野及び医療・健康・福祉分野を中心とした研究開発型の会社であり、独自の提案から生まれた技術をもとに、研究、開発を展開し、併せて開発技術の受託、ライセンス並びに技術供与を行っている。その一例として光学電子分野では、新たに被請求人が提案開発したオリジナル光学体である、スフィアレンズと発光体(一例としてLED)とから構成されるスフィア光学体の研究、開発を行っている。また、被請求人の事業内容として、「スフィア光学体及び関連製品の試作開発及び製品化、販売」がある。
(イ)被請求人のウェブサイト(乙1)の製品情報として、「スフィア光学体」が、その写真とともに紹介されている。スフィア光学体とは、従来の球面レンズとは異なる、発光体全体を包み込むスフィアレンズと発光体(一例としてLED)とから構成される新規な光学体で、超集束から広範囲の照射まで実現でき、かつ均一な照射面が得られる光学的特徴を有するものである。スフィア光学体の用途例としては、「信号、表示、標識、誘導灯、照明用器具」のほか「自動車、鉄道、航空、船舶」などがある。また、同製品情報の頁の左側には、「スフィア」の片仮名と「SPHERE」の欧文字が二段で表示され、その下に「(商標登録第5130676号)」と表示されている。
イ 商品説明書(乙3)及び取引書類(乙4~乙9)について
(ア)商品説明書(乙3)は、「スフィアレンズ型番」と題された、型式名と1/2輝度放射角(日亜LED)の項目からなる一覧表である。当該一覧表の右上には「スフィア」の片仮名と「SPHERE」の欧文字が二段で表示され、右下には「ラボ・スフィア株式会社」と表示されている。
(イ)2018年(平成30年)1月19日付け見積書(乙4)、同年1月24日付け納品書及び請求書(乙5)、同年4月27日付け見積書(乙7)、同年5月17日付け納品書(乙8)並びに令和1年10月15日付け納品書(控)(乙9)は、被請求人と山田照明株式会社との間のスフィアレンズに関する取引書類である。各取引書類の品名には、商品説明書(乙3)掲載のスフィアレンズの型式名(型番)が表示されている。
(ウ)平成30年4月27日付け納品書、請求書及び物品受領書(乙6)は、被請求人と株式会社セイビ堂との間のスフィアレンズに関する取引書類である。各取引書類の品名には、商品説明書(乙3)掲載のスフィアレンズの型式名(型番)が表示されている。
ウ 技術説明書等(乙10~乙12)について
(ア)乙第10号証の1頁目は「書類送付のご案内」と題するペーパーであり、日付として「平成31年2月26日」、送付元として「ラボ・スフィア株式会社」、送付先の部署として「オリンピック・パラリンピック準備局 大会施設部 施設整備第一課」、内容として「・・・この度、弊社提案に係る特殊レンズを使用した道路照明灯の製品量産化体制が整い販売できることになりました。つきましては、下記の通り書類を送付させていただきます・・・・。1会社概要、2技術紹介、3実績」と記載されている。
(イ)同号証の2頁目の「1会社概要」に、「・・・この度、成果の一つである特殊レンズ付き低消費電力LED照明灯(スフィアLED照明装置)を開発提案し、・・・量産体制に入りました。従来の水銀、ナトリウム街路灯、道路灯に換わるLED照明灯の中でも、スフィアレンズ効果により更なる低消費電力化、高寿命化を実現し、・・・特許登録もされているオンリーワンの製品です。また、『スフィア/SPHERE』は登録商標です。」(審決注:「/」は改行を示す。)と記載されている。
(ウ)同「2技術紹介」に、「スフィアLED照明灯の特徴」と題して製品の紹介がされており、当該箇所において「スフィアLED照明灯」の文字からなる標章が表示されている。
(エ)同「3実績」に、「(1)既存のLED道路灯と比較して国土交通省新技術情報システム(NETIS)に唯一認可」、「(5)省エネルギー型道路灯・・・として試験設置実証済」と記載されている。
(オ)同「4連絡先」に、本件商標権者である「ラボ・スフィア株式会社」の名称及び住所等が記載されている。
(カ)領収書(乙11)には、「郵便物引受合計通数 53通」、「合計 ¥6,460」、「取扱日時:2019年2月28日 17:56」及び「連絡先:新仙台郵便局」と記載されている。
(キ)乙第12号証には、53か所のあて名、部署名とその住所(東京都の区市名表示まで)が一覧で表示されており、その項番1として、「オリンピック・パラリンピック準備局 大会施設部 施設整備第一課」と記載されている。
(ク)以上の(ア)ないし(キ)を勘案すると、被請求人が技術説明書と主張している乙第10号証は、商標権者が開発したLED道路照明灯(「スフィアLED照明灯」)のプロモーションのための広告と認められる。そして、「書類送付のご案内」ペーパー(乙10)の日付が「平成31年(2019年)2月26日」であり、領収書(乙11)の取扱日時が「2019年2月28日 17:56」であること、「書類送付のご案内」ペーパー(乙10)の送付先が、あて名リスト(乙12)の項番1に掲載されていること、領収書(乙11)の郵便物引受合計通数が、あて名リスト(乙12)の数と同じ53通であること、領収書(乙11)の連絡先が「新仙台郵便局」であり、商標権者の住所が「宮城県仙台市」であることなどから、商標権者は、平成31年(2019年)2月28日に、乙第12号証のあて名に向けた乙第10号証の書類に係る郵便物53通について、新仙台郵便局で郵送の手続きをしたと認められる。
(2)判断
上記(1)で認定した事実によれば、被請求人は、スフィアレンズと発光体(LED等)から構成されるスフィア光学体について、本件商標を表示して、自社のウェブサイト上で広告していたこと(乙1)、被請求人は、本願商標を表示した「スフィアレンズ型番」と題する商品説明書を用いて、山田照明株式会社及び株式会社セイビ堂との間で、スフィアレンズについて、要証期間内に取引していたこと(乙3~乙9)、被請求人は、被請求人が開発したLED道路照明灯(「スフィアLED照明灯」)について、本件商標を表示した広告を要証期間内に頒布していたこと(乙10~乙12)は認められる。
しかしながら、被請求人が請求に係る指定商品である「オートバイ用ライト,自動車用ライト」について本件商標を使用した事実については、何ら立証がされていない。
したがって、被請求人が、要証期間に日本国内において、請求に係る指定商品について、本件商標を使用したことを認めることができない。
なお、被請求人が提出した全ての証拠をみても、被請求人が請求に係る指定商品について、本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)を使用していたことを認めるに足る事実は見出せない。
(3)被請求人の主張について
被請求人は、自社のウェブサイト画面(乙1)には、「スフィア光学体」の説明と画像が表示され、その用途例として「自動車」の記載があるところ、請求に係る指定商品中「自動車用ライト」は、商品の市場における取引事情、商品の機能及び技術を鑑みれば、「スフィア光学体」と実質的に同一の商品であって、用途例の一つである「自動車」の記載は、「自動車用ライト」が実質的に記載されているといえるから、同画面(乙1)は、「自動車用ライト」の広告・宣伝等を目的としたものと読める旨主張している。
しかしながら、当該「自動車」の表示は、あくまで「スフィア光学体」の用途例の一つとして記載されているにすぎないから、同画面(乙1)は、「自動車用ライト」の広告ではなく、「スフィア光学体」の広告と認められる。
したがって、被請求人の主張は採用することができない。
3 本件商標の不使用の正当な理由について
被請求人は、C社、E社及びF社との間で秘密保持契約を結び(乙17、乙19、乙20)、自動車用ライトの共同開発を進めていたが、2020年に入り新型コロナウイルスのまん延が始まり、同年4月に緊急事態宣言等が発令される事態になったため、「自動車用ライト」の研究開発の遅延や、製品化の断念等のやむを得ない事情が生じ、「自動車用ライト」の販売の段階までに至らずに本件商標を使用できなかった正当な理由がある旨主張する。
しかしながら、提出された証拠からは、被請求人が上記各社との間で自動車用ライトの共同開発を進めていたことまでは確認できないし、要証期間内の最後の1年にも満たない期間の新型コロナウィルスのまん延等によって、当該共同開発が具体的にどのように影響を受けたのかについても証拠上明らかではない。
また、仮に、被請求人が自動車用ライトの共同開発を進めており、新型コロナウィルスのまん延によって、当該共同開発に何らかの影響があったとしても、上記各契約書の冒頭に「●(省略)●」とあることからすれば、そもそも新型コロナウイルスまん延等の影響の如何にかかわらず、当該共同開発は、未だ製品の開発、販売の「検討」の段階に留まるものであったと認められる。
そうすると、要証期間に、「自動車用ライト」の販売の段階までに至らずに本件商標を使用できなかったとしても、それは主として被請求人の事情(経営上の判断を含む。)によるものであって、被請求人が主張する事由は、その責めに帰すことができない事由とは認めることができない。
したがって、被請求人の主張する上記事由は、商標法第50条第2項ただし書にいう「正当な理由」には当たらないというべきであって、その他、本件商標に関し、上記「正当な理由」があることは認められない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、要証期間に日本国内において、商標権者、通常使用権者又は専用使用権者のいずれかが、請求に係る指定商品について、本件商標を使用していた事実を証明したものとは認められない。
また、被請求人は、本件商標を請求に係る指定商品に使用していないことについて正当な理由があったということもできない。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品中、「オートバイ用ライト,自動車用ライト」について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-300844