特許拒絶査定不服審判
2020-012440
固体電解質、および、電池
- 審判番号
- 2020-012440
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-117554外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年09月07日
- 審決日
- 2022年01月05日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【請求人代理人】鎌田 健司
- 【請求人代理人】野村 幸一
- 分類
- P18 .121-WY (H01M)
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016-117554「固体電解質、および、電池」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日出願公開、特開2017-224427、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は,平成28年6月14日の出願であって,令和2年3月24日付けで拒絶理由通知がされ,同年5月22日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年6月10日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年9月7日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 原査定の理由の概要
原査定(令和2年6月10日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。
本願の請求項1~8に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2015-176854号公報
第3 本願発明
本願請求項1~8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」~「本願発明8」という。)は,令和2年5月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
リチウムとホウ素を含む酸化物と,
炭素と,
を含み,
前記炭素の含有量は,0.4wt%以上,かつ,1.5wt%以下である,
固体電解質。」
なお,本願発明2~7は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明8は,本願発明1~7のいずれかの固体電解質を含む電池の発明である。
第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2015-176854号公報)には,次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
「【実施例】
【0024】
以下,実施例によって本発明を更に具体的に説明するが,本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
実施例1(ガラス状の酸化物系固体電解質の製造)
一般式(I)’(100-x)Li3BO3・xLi2SO4で表される固体電解質を以下の手順で製造した。
まず,LiOH・H2O(和光純薬製,純度98~102%)とH3BO3(和光純薬製,純度99.5%)とを反応させた後,600℃で2時間,空気雰囲気下で加熱することによりLi3BO3結晶を得た。
上記とは別に,Li2SO4・H2O(和光純薬製,純度99%)を300℃で2時間,空気雰囲気下で加熱することによりLi2SO4結晶を得た。
【0025】
得られたLi3BO3結晶とLi2SO4結晶とを,種々のx値(x=0,5,10,15,25,50,60,100)でメカニカルミリング処理に付してガラス状の酸化物系固体電解質を得た。この処理には,遊星型ボールミルである,Fritsch社製Pulverisette P-7を使用し,ポット及びボールはZrO2製であり,45mlのポット内に直径5mmのボールが500個入っているミルを使用した。メカニカルミリング処理は,370rpmの回転速度,室温,アルゴン雰囲気中で40~70時間行った。
なお,上記製造法は,Akitoshi Hayashi et al., Journal of Non-Crystalline Solids 356 (2010) 2670-2673のExperimentalの記載に準じている。
【0026】
実施例2(ガラスセラミックス状の酸化物系固体電解質の製造)
実施例1と同様にしてガラス状の酸化物系固体電解質を得た後,結晶化温度以上の290℃で2時間加熱し,室温まで冷却することでガラスセラミックス状の酸化物系固体電解質を得た。」
上記記載から,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「一般式(I)’(100-x)Li3BO3・xLi2SO4で表される固体電解質。」
第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「Li3BO3」は,本願発明1の「リチウムとホウ素を含む酸化物」に相当するから,両者は,「リチウムとホウ素を含む酸化物」を含む「固体電解質」である点で一致する。
イ 本願明細書には,固体電解質の炭素の含有量について以下の記載がある。
「【0037】
[固体電解質の製造方法]
実施の形態1における固体電解質の製造方法の一例として,Li3BO3-Li2SO4ガラス固体電解質の製造方法が,以下に説明される。
【0038】
まず,ホウ酸リチウム(Li3BO3)を作製する。具体的には,例えば,ホウ酸(H3BO3)と水酸化リチウム(LiOH・H2O)を混合する。これを例えば空気中で加熱する。これにより,ホウ酸リチウム(Li3BO3)が得られる。
【0039】
Li3BO3は,大気中に存在する微量水分および炭酸ガスと反応する。これらの反応により,Li3BO3の粒子の表面に,炭酸リチウム(Li2CO3)が生成する。これらの反応は,下記の反応式で,示される。
Li3BO3+3/2H2O → 3LiOH+1/2B2O3
2LiOH+CO2 → Li2CO3+H2O
【0040】
なお,炭酸リチウムをより多く生成させるために,Li3BO3を含む粒子を大気中に所定時間暴露する工程が,実施されてもよい。
【0041】
これらの工程の実施時間および実施条件を調整することで,実施の形態1における固体電解質の炭素の含有量(炭酸リチウムの量)を調整することができる。」
以上の記載によれば,固体電解質の炭素の含有量は,ホウ酸リチウム(Li3BO3)の空気中での加熱の時間及び実施条件や,大気中での暴露の時間及び実施条件によって調整できるものであるといえる。
一方,前記第4 1の引用文献1の記載によれば,「一般式(I)’(100-x)Li3BO3・xLi2SO4で表される固体電解質」を製造する際に,Li3BO3結晶は空気中で加熱されているから,当該「固体電解質」は,本願発明と同様に炭素を含有しているといえる。
ウ 以上から,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「リチウムとホウ素を含む酸化物と,
炭素と,
を含む,
固体電解質。」
<相違点>
相違点1:「炭素の含有量」について,本願発明1は,「0.4wt%以上,かつ,1.5wt%以下である」のに対し,引用発明は不明である点。
(2)相違点についての判断
ア 前記(1)イで検討したように,固体電解質の炭素の含有量は,ホウ酸リチウム(Li3BO3)の空気中での加熱の時間及び実施条件や,大気中での暴露の時間及び実施条件によって調整できるものである。
イ そうすると,引用文献1と本願明細書において,それぞれに記載されているホウ酸リチウム(Li3BO3)の空気中での加熱時間及び実施条件,大気中での暴露の時間及び実施条件がいずれも同じである場合には,引用発明の炭素の含有量と,本願発明1の炭素の含有量は同じになるといえる。
ウ そこで,引用文献1と本願明細書のそれぞれの実施例の製造条件を比較することによって,引用発明の炭素の含有量と,本願発明1の炭素の含有量が同じであるか否かを検討する。
(ア)本願発明1の実施例1~6の製造条件
本願明細書の【0101】~【0117】によれば,実施例1~6の製造条件は,以下のとおりである。
実施例1
ホウ酸リチウム(Li3BO3):500℃で1時間,さらに600℃で2時間,空気中で加熱
ミリング:510rpmで50時間
実施例2
ミリング:370rpmで100時間
これ以外は,実施例1と同じ条件
実施例3
実施例1で合成したホウ酸リチウム:大気中に,2日間,暴露
これ以外は,実施例1と同じ条件
実施例4
実施例1で合成したホウ酸リチウムと硫酸リチウム
ミリング:510rpmで50時間
実施例5
実施例1で合成したホウ酸リチウムと硫酸リチウム
ミリング:370rpmで100時間
これ以外は,実施例4と同じ条件
実施例6
実施例1で合成したホウ酸リチウム:大気中に,2日間,暴露
これ以外は,実施例4と同じ条件
(イ)引用発明の実施例の製造条件
一方,引用文献1の【0024】~【0026】によれば,実施例1,2の製造条件は,以下のとおりである。
実施例1
Li3BO3結晶:600℃で2時間,空気雰囲気下で加熱
Li2SO4結晶:300℃で2時間,空気雰囲気下で加熱
メカニカルミリング処理:アルゴン雰囲気中で40~70時間
実施例2
実施例1と同様にして得たガラス状の酸化物系固体電解質
結晶化温度以上の290℃で2時間加熱
(ウ)以上によれば,本願発明1の実施例1~6と,引用発明の実施例1,2とでは,ホウ酸リチウム(Li3BO3)の空気中での加熱の時間及び温度,大気中での暴露の時間が同じであるとはいえないから,引用発明の炭素の含有量と,本願発明1の炭素の含有量も同じであるとはいえない。
ウ また,固体電解質が「炭素」「を含み」,「前記炭素の含有量」を「0.4wt%以上,かつ,1.5wt%以下」とすることは,本願の出願時において周知技術であるともいえない。
エ したがって,引用発明において,「炭素」「を含み」,「炭素の含有量」を「0.4wt%以上,かつ,1.5wt%以下」とすること,すなわち,相違点1に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって,本願発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
2 本願発明2~8について
本願発明2~7は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明8は,本願発明1~7のいずれかの固体電解質を含む電池の発明であり,いずれも相違点1に係る本願発明1の構成を有しているから,本願発明1と同様の理由により,本願発明2~8は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
第6 むすび
以上のとおり,本願発明1~8は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
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