特許拒絶査定不服審判
2020-003205
MgB2超伝導線材の製造方法,超伝導コイル及びMRI
- 審判番号
- 2020-003205
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-511933
- 請求日
- 2020年03月09日
- 審決日
- 2021年07月28日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社日立製作所
- 【請求人代理人】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 辻本 泰隆
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 審判官 小田 浩
- 分類
- P18 .121-WY (H01B) / P18 .537-WY (H01B) / P18 .55 -WY (H01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2018-511933「MgB2超伝導線材の製造方法,超伝導コイル及びMRI」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日国際公開,WO2017/179349,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は,特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2017年(平成29年) 3月10日(優先権主張 2016年(平成28年) 4月14日 日本国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年10月 9日 :国内書面,上申書,手続補正書の提出
令和 1年 9月 4日付け:拒絶理由通知書
令和 1年10月30日 :意見書,手続補正書の提出
令和 1年12月13日付け:拒絶査定(以下,「原査定」という。)
令和 2年 3月 9日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和 2年11月12日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由1」という。)
令和 3年 1月14日 :意見書,手続補正書の提出
令和 3年 2月24日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由2」という。)
令和 3年 4月27日 :意見書,手続補正書の提出
第2 原査定の概要
1 原査定(令和 1年12月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
理由1 本願請求項1-9に係る発明は,以下の引用文献1-6に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2007-059261号公報
引用文献2 国際公開第2015/087387号
引用文献3 国際公開第2015/093475号
引用文献4 特開2012-014912号公報
引用文献5 特開2006-107841号公報
引用文献6 特開2003-217369号公報
第3 当審拒絶理由の概要
1 当審拒絶理由1の概要は次のとおりである。
理由1 本願請求項1-9に係る発明は,以下の引用文献1-7に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2007-59261号公報
引用文献2 国際公開第2015/087387号
引用文献3 国際公開第2015/093475号
引用文献4 特開2012-14912号公報
引用文献5 特開2006-107841号公報
引用文献6 特開2003-217369号公報
引用文献7 特開2006-127898号公報
2 当審拒絶理由2の概要は次のとおりである。
理由1 令和 3年 1月14日付け手続補正でした請求項5の補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
理由2 令和 3年 1月14日付け手続補正の請求項5及び請求項5を引用する請求項6-8に係る発明は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
第4 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は,令和 3年 4月27日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
マグネシウム粉末とホウ素粉末に固体有機化合物を添加した状態でメカニカルミリング法により衝撃を粉末に与えてマグネシウム粒子の内部にホウ素粒子が分散した混合体を作製する混合工程と,
前記混合体を金属管に充填粉末として充填する充填工程と,
前記混合体を充填した金属管を加工して線材にする伸線工程と,
前記線材を熱処理してMgB2を合成する熱処理工程と,を有し,
前記固体有機化合物の添加量が,ホウ素に対する炭素の配合比率として0.1at%以上7.5at%未満であり,
前記充填工程における前記充填された混合体の充填粉末が,前記固体有機化合物を添加しない状態でのマグネシウムのマトリクスにホウ素が分散したメカニカルミリング法による充填粉末と比較して変形しやすく,
前記伸線工程は,前記混合体が充填された前記金属管を引き抜き加工のあとに回転する複数の加工治具の間に通して前記金属管を縮径することを特徴とするMgB2超伝導線材の製造方法。」
なお,本願発明2-4は,本願発明1を減縮した発明である。
第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1の記載事項と引用発明1
(1) 引用文献1の記載事項
当審拒絶理由1に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)
「【0009】
本発明のMgB2超電導体もしくはその線材の製造方法においては,前記のとおり,超電導体であるMgB2の原料としてのMg粉末あるいはMgH2粉末とB粉末との混合体の調製に際して芳香族炭化水素を添加し,次いで加圧成形して熱処理する。加圧成形は通常の金型を用いたプレスにより行い,圧力は100~300kg/cm2が好適である。
【0010】
原料としての上記の粉末については従来と同様の純度や粒径のものを,モル比で,MgまたはMgH2/B=0.5/2~1.5/2の範囲において混合することができる。より好ましくはそのモル比は0.8/2~1.2/2程度の範囲である。
【0011】
粒径については,平均粒径がMgまたはMgH2が10~50μm,Bが0.2~1μmの範囲程度が好適に考慮される。混合に際しては,具体的にはMgあるいはMgH2粉末とB粉末の混合体に適量の芳香族炭化水素を加え,さらにボールミルなどで十分に混合する。この混合体を加圧成形したのち熱処理をしてバルク体を得る。線材の場合は,芳香族炭化水素を添加した混合体を鉄などの金属管に充填し,圧延ロール等でテープやワイヤーに加工した後,熱処理をする。
【0012】
芳香族炭化水素については,単環または多環の炭素環または複素環を有する化合物のうちの各種のものが考慮されてよく,この化合物の炭素数としては特に限定されることはないが,一般的には4~20の範囲が好適に考慮される。
【0013】
芳香族炭化水素は本発明の作用効果を阻害しない限り各種の官能基を有していてもよい。入手容易性や取り扱い性,価格等を考慮して適宜に選択することができる。たとえば代表的なものとしては,ベンゼン,ナフタレン,アントラセン,ペリレン,ビフェニル,トルエン,キシレン等の炭素環状の芳香族炭化水素,あるいはチオフェン等の複素環状の芳香族炭化水素が例示される。
【0014】
これらの芳香族炭化水素は,MgB2の理論もしくは実験生成量に対して1~40モル%の割合で添加することがより好ましい。この範囲において,たとえば,4.2K,10T(テスラ)磁場中でのJcが5000A/cm2以上,12T(テスラ)磁場中でのJcが2000A/cm2以上の高いJcを有するMgB2超電導体もしくはその線材がより確実に実現されることになる。」
(2) 引用発明1
以上から,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「Mg粉末とB粉末の混合体に適量の芳香族炭化水素を加え,さらにボールミルなどで十分に混合することで混合体を調製し,
ナフタレンなどの芳香族炭化水素を添加した混合体を鉄などの金属管に充填し,
圧延ロール等でテープやワイヤーに加工した後,
熱処理をする,MgB2超電導体の線材の製造方法において,
芳香族炭化水素は,MgB2の理論もしくは実験生成量に対して1~40モル%の割合で添加することがより好ましい,
MgB2超電導体の線材の製造方法。」
2 引用文献2の記載事項
(1) 当審拒絶理由1に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は,MgB2超電導線材およびその製造方法に関する。」
「[0006] in-situ法において,初期充填率を改善する方法として,原料粉末のメカニカルミリングが有効である。金属容器に,MgとBの粉末,金属ボールを入れて,遊星ボールミル装置を用いて高速で回転させることにより,硬いB粉が軟らかいMg粉にめり込んだ状態となる。その混合粉を金属管へ充填し,伸線加工すると,粉末粒子間の空隙がほとんどない状態となるため,初期充填率は100%に近い値となる。それにより,熱処理後の充填率も74%まで向上する。」
(2) 以上から,引用文献2には,次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「 初期充填率を改善する方法として,メカニカルミリングを用い,硬いB粉が軟らかいMg粉にめり込んだ状態となるまで混合する
MgB2超電導線材をin-situ法により生成する製造方法。」
第6 当審の判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明1の「芳香族炭化水素」は,常温で固体である「ナフタレン」などを用いることから,本願発明1の「固体有機化合物」に対応する。
そして,引用発明1では,「Mg粉末とB粉末」に「芳香族炭化水素」が添加された状態で,「ボールミルなどで十分に混合すること」から,本願発明1と引用発明1とは,「マグネシウム粉末とホウ素粉末に固体有機化合物を添加した状態で」「ミリング法により」「混合体を作製する混合工程」を有する点で共通する。
イ 引用発明1では,「混合体を鉄などの金属管に充填」することから,本願発明1と引用発明1とは,「前記混合体を金属管に充填粉末として充填する充填工程」を有する点で一致する。
ウ 引用発明1では,「圧延ロール等でテープやワイヤーに加工」することから,本願発明1と引用発明1とは,「前記混合体を充填した金属管を加工して線材にする伸線工程」を有し,「前記伸線工程は,前記混合体が充填された前記金属管を」「回転する複数の加工治具の間に通して前記金属管を縮径すること」である点で一致する。
エ 引用発明1では,「圧延ロール等でテープやワイヤーに加工した後,」「熱処理をする」ことで,「MgB2超電導体」が合成されており,本願発明1と引用発明1とは,「前記線材を熱処理してMgB2を合成する熱処理工程」を有する点で一致する。
オ 引用発明1の「MgB2超電導体の線材の製造方法」は,本願発明1の「MgB2超伝導線材の製造方法」に対応する。
(2) 一致点・相違点
したがって,本願発明1と引用発明1との,一致点と相違点は,以下のと
おりである。
(一致点)
「マグネシウム粉末とホウ素粉末に固体有機化合物を添加した状態でミリング法により混合体を作製する混合工程と,
前記混合体を金属管に充填粉末として充填する充填工程と,
前記混合体を充填した金属管を加工して線材にする伸線工程と,
前記線材を熱処理してMgB2を合成する熱処理工程と,を有し,
前記伸線工程は,前記混合体が充填された前記金属管を回転する複数の加工治具の間に通して前記金属管を縮径するMgB2超伝導線材の製造方法。」
(相違点)
(相違点1) 混合工程に関して,本願発明1では,「メカニカルミリング法により衝撃を粉末に与えてマグネシウム粒子の内部にホウ素粒子が分散した混合体を作製する」のに対し,引用発明1では,そのような特定はなされていない点。
(相違点2) 本願発明1では,「前記固体有機化合物の添加量が,ホウ素に対する炭素の配合比率として0.1at%以上7.5at%未満」の範囲であるのに対し,引用発明1では,そのような特定はなされていない点。
(相違点3) 混合体の充填粉末に関して,本願発明1では,「前記固体有機化合物を添加しない状態でのマグネシウムのマトリクスにホウ素が分散したメカニカルミリング法による充填粉末と比較して変形しやすく」と特定されているのに対し,引用発明1では,変形しやすさについて,そのような特定はなされていない点。
(相違点4) 伸線工程に関して,本願発明1では,「前記混合体が充填された前記金属管を引き抜き加工のあとに回転する複数の加工治具の間に通して前記金属管を縮径する」と特定されているのに対し,引用発明1では,引き抜き加工について,そのような特定はなされていない点。
(3) 相違点についての判断
ア 相違点3について
事案に鑑みて,上記相違点3について先に検討する。
引用発明1には,混合工程において,「固体有機化合物」として「ナフタレン」を添加した状態で混合体を作製することは特定されているが,「混合体の充填粉末」の変形しやすさについては何ら特定されておらず,また,示唆もない。
加えて,引用文献2記載事項にも,「メカニカルミリングを用い,硬いB粉が軟らかいMg粉にめり込んだ状態となるまで混合する」ことは記載されているが,変形しやすさについては何ら記載されておらず,また,示唆もない。
そして,上記相違点3に係る本願発明1の構成は,引用文献3-7にも記載されていない。
すると,引用発明1において,上記相違点3に係る本願発明1の構成を想到することは,当業者であれば容易になし得たものであるとはいえない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明1及び引用文献2-7に記載の技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2 本願発明2-4について
本願発明2-4は,本願発明1の全ての構成要素を備える従属請求項であり,上記相違点3に係る本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1及び引用文献2-7に記載の技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
第7 原査定について
1 理由1について
本願発明1-4は,上記「第6」における上記相違点3に係る構成を有するものとなった。
そして,上記「第6」で検討したように,本願発明1-4は,当業者であっても,原査定における引用文献1-6に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定の理由1を維持することはできない。
第8 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由1について
本願発明1-4は,上記「第6」における上記相違点3に係る構成を有するものとなった。
そして,上記「第6」で検討したように,本願発明1-4は,当業者であっても,当審拒絶理由1の引用文献1-7に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
したがって,当審拒絶理由1の理由1は解消した。
2 当審拒絶理由2について
令和 3年 4月27日の手続補正により,請求項5-9は削除された。
したがって,当審拒絶理由2の理由1,2は,解消した。
第9 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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