2020-002044
糖尿病管理モニタで分析物濃度を動的に較正および測定するためのシステムおよび方法
- 審判番号
- 2020-002044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-255139外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年02月14日
- 審決日
- 2020年12月21日
- 公報発行日
- 2021年02月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
- 【請求人代理人】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
- 分類
- P18 .121-WY (G01N) / P18 .537-WY (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 20項目
第1 手続の経緯
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本願は、2014年(平成26年)12月17日(パリ条約による優先権主張2013年12月27日、米国、2014年7月31日、米国)を国際出願日する出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
第2 原査定の概要
原査定(令和元年12月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1~19に係る発明は、以下の引用文献A~Gに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
A.特表2010-526599号公報
B.特開平6-82459号公報(周知技術を示す文献)
C.特表平6-500390号公報(周知技術を示す文献)
D.特開2000-19172号公報(周知技術を示す文献)
E.Kristin Weidemaier,Multi-day pre-clinical demonstration of glucose/galactose binding protein-based fiber optic sensor,Biosensors and Bioelectronics,2011年 6月15日,Vol.26/Iss.10,PP.4117-4123(周知技術を示す文献)
F.特表平11-508792号公報(周知技術を示す文献)
G.特表2013-514809号公報(周知技術を示す文献)
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1
本願請求項1~19に係る特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明から把握できる「センサ使用の間に自己較正を動的に行い、センサの寿命にわたって較正を安定的に維持できるようにする」という課題(【0006】、【0102】)を解決するための手段を反映していない点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2
本願請求項1~19に係る発明は、以下の引用文献1~3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.Kristin Weidemaier,Multi-day pre-clinical demonstration of glucose/galactose binding protein-based fiber optic sensor,Biosensors and Bioelectronics,2011年 6月15日,Vol.26/Iss.10,PP.4117-4123(拒絶査定時の引用文献E)
2.特開平6-82459号公報(拒絶査定時の引用文献B)
3.特表平6-500390号公報(拒絶査定時の引用文献C)
第4 本願発明
本願請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明9」という。)は、令和2年10月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1~9は以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】マトリクスに内包される蛍光標識されたグルコース結合タンパク質の蛍光スペクトル測定に基づいてグルコース濃度を推定するためのセンサであって、前記センサは、第1の基礎状態と第2の基礎状態との間で最大限に不変である最も大きな範囲を参照帯域に設定することであって、前記第1の基礎状態は、前記グルコース結合タンパク質が閉構造のコンホメーションをとっている状態であり、前記第2の基礎状態は、前記グルコース結合タンパク質が開構造のコンホメーションをとっている状態である、ことと、前記第1の基礎状態と前記第2の基礎状態との間で最大限に変化している最も大きな範囲を信号帯域に設定することと、続きを表示(全34行)前記信号帯域における蛍光スペクトル信号の積分値を、前記参照帯域における蛍光スペクトル信号の積分値で除算して得た値に基づいて前記グルコース濃度を推定することと、を実行する、センサ。【請求項2】前記センサはインビトロセンサである請求項1に記載のセンサ。【請求項3】前記センサはインビボセンサである請求項1に記載のセンサ。【請求項4】前記センサは連続センサである請求項1に記載のセンサ。【請求項5】マトリクスに内包される蛍光標識されたグルコース結合タンパク質の蛍光スペクトル測定に基づいてグルコース濃度を推定するためのセンサと、インスリン注入デバイスとを備える糖尿病管理システムであって、前記センサは、第1の基礎状態と第2の基礎状態との間で最大限に不変である最も大きな範囲を参照帯域に設定することであって、前記第1の基礎状態は、前記グルコース結合タンパク質が閉構造のコンホメーションをとっている状態であり、前記第2の基礎状態は、前記グルコース結合タンパク質が開構造のコンホメーションをとっている状態である、ことと、前記第1の基礎状態と前記第2の基礎状態との間で最大限に変化している最も大きな範囲を信号帯域に設定することと、前記信号帯域における蛍光スペクトル信号の積分値を、前記参照帯域における蛍光スペクトル信号の積分値で除算して得た値に基づいて前記グルコース濃度を推定することと、を実行するプロセッサを含む、糖尿病管理システム。【請求項6】前記プロセッサはインスリン要件をさらに決定し、前記インスリン注入デバイスに送信される信号は、前記決定されたインスリン要件に基づくインスリン要件を備える請求項5に記載の糖尿病管理システム。【請求項7】前記センサはインビトロセンサである請求項5に記載の糖尿病管理システム。【請求項8】前記センサはインビボセンサである請求項5に記載の糖尿病管理システム。【請求項9】前記センサは連続センサである請求項5に記載の糖尿病管理システム。」
第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
令和2年9月2日付けの拒絶の理由に引用された引用文献1(拒絶査定時の引用文献E)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与した。以下同様。
ア 「ABSTRACTWe report here the first pre-clinical demonstration of continuous glucose tracking by fluorophore- labeled and genetically engineered glucose/galactose binding protein (GGBP). Acrylodan-labeled GGBP was immobilized in a hydrogel matrix at the tip of a small diameter optical fiber contained in a stainless steel needle. The fiber optic biosensors were inserted subcutaneously into Yucatan and Yorkshire swine, and the sensor response to changing glucose levels was monitored at intervals over a 7-day period. Sensor mean percent error on day 7 was 16.4 ± 5.0% using a single daily reference blood glucose value to calibrate the sensor. The GGBP sensor’s susceptibility to common interferents was tested in a well-plate system using human sera. No significant interference was observed from the tested interferents except for tetracycline at the drug’s maximum plasma concentration. The robust performance of the GGBP-based fiber optic sensor in swine models and resistance to interferents indicates the potential of this technology for continuous glucose monitoring in humans.」
「概要本研究では、蛍光物質で標識され、遺伝子操作されたグルコース/ガラクトース結合タンパク質(GGBP)による連続的なグルコース追跡の初の前臨床実証を報告します。アクリルダンで標識されたGGBPは、ステンレス製の針に入った小径の光ファイバーの先端でヒドロゲルマトリックスに固定化されています。光ファイバーバイオセンサーは、ユカタンとヨークシャー豚に皮下挿入され、変化するグルコースレベルへのセンサーの応答を、7日間の間隔で監視しました。7日目の平均誤差は16.4±5.0%であり、1日1回の基準血糖値を用いてセンサーを校正しました。一般的な干渉因子に対するGGBPセンサーの感受性は、ヒト血清を用いたウェルプレートシステムでテストされました。血漿中最大濃度のテトラサイクリンを除いて、テストされた干渉因子による有意な干渉は観察されなかった。豚モデルにおけるGGBPベースの光ファイバーセンサーの堅牢な性能と干渉因子に対する耐性は、ヒトにおける連続的なグルコースモニタリングのためのこの技術の可能性を示しています。」
イ 「2.1. Acrylodan-labeled GGBPWild type E. coli GGBP (NCBI 230520) was modified via sitedirected mutagenesis to replace the tryptophan at the 183 position with a cysteine for fluorophore labeling. The mutant W183C GGBP was labeled with acrylodan and purified using previously published protocols (de Lorimier et al., 2002; Amiss et al., 2007). In addition, a more thermally stable variant of W183C GGBP (SM4 GGBP) was developed that incorporated additional mutations beyond the 183 position (U.S. Patent Application No. 20080044856 A1). The SM4 GGBP mutant retained the same glucose affinity as W183C, but with a 10°higher melting temperature. For both W183C acrylodan- labeled GGBP and SM4-acrylodan-labeled GGBP, the acrylodan spectrum changes intensity and shifts to longer wavelengths with increasing glucose concentration (Fig. 1B). Fluorescence intensity can then be measured at two wavelengths, and the ratio of signal intensities at these wavelengths (R) will depend on glucose concentration ([G]) according to Eq. (1). In Eq. (1), R0 is the ?uorescence ratio in the absence of glucose, R∞ is the ?uorescence ratio in the presence of saturating glucose, and Kd is an apparent dissociation constant.・・・Since fluorescence intensity ?uctuations typically affect both measured wavelength bands in the same manner, the calculated ratio, R, is inherently self-referenced and largely insensitive to the overall intensity of the fluorescence signal. This self-referencing capability of the acrylodan-GGBP sensor is highly advantageous in that the sensor retains accuracy even if overall signal intensity is reduced, provided that the overall signal:noise ratio remains within the capabilities of the optical detector.」
「2.1. アクリルダン標識GGBP野生型大腸菌GGBP(NCBI 230520)は、183位のトリプトファンをフルオロフォア標識のためのシステインで置換するために、部位特異的変異誘発により修飾された。変異体W183C GGBPは、アクリロダンで標識され、以前に公開されたプロトコル(デ・ロリミエら、2002;Amissら、2007)を使用して精製された。さらに、W183C GGBPのより熱的に安定な変異体(SM4 GGBP)が、183の位置を超える追加の変異を組み込んだものとして開発された(米国特許出願第2008044856号A1)。SM4 GGBP突然変異体は、W183Cと同じグルコースの結合性を保持したが、融解温度が10°高くなった。W183Cアクリロダン標識GGBPおよびSM4アクリロダン標識GGBPの両方について、アクリロダンのスペクトルは、グルコース濃度の増加に伴って強度が変化し、より長い波長にシフトする(図1B)。次いで、蛍光強度を2つの波長で測定することができ、これらの波長でのシグナル強度の比(R)は、式(1)に従ってグルコース濃度([G])に依存する。式(1)において、R0はグルコース非存在下での蛍光比、R∞は飽和グルコース存在下での蛍光比、Kdは見かけ上の解離定数である。・・・蛍光強度の変動は通常、測定された両方の波長帯域に同じように影響を与えるため、計算された比Rは本質的に自己参照され、蛍光信号の全体的な強度の影響をほとんど受けません。アクリロダン-GGBPセンサーのこの自己参照機能は、全体の信号強度が低下しても、全体の信号:ノイズ比が光検出器の能力の範囲内であれば、センサーの精度を維持できるという点で非常に有利です。」
ウ 「2.2. Sensor constructionThe fiber optic sensors were formed by covalent attachment of a GGBP-containing Polyethyleneglycol dimethacrylate:Methacrylic acid (PEGDMA:MAA) hydrogel matrix to the surface of a glass optical fiber.・・・The fluorescence response of the sensors was read via a custom instrument. Sensor excitation was at 420 nm (Brite-LED Optoelectronics BL-LBVT5N18C series). The fluorescence signal was monitored with photodiodes (Hamamatsu, S9270) at two wavelength regions: 465 nm (bandpass filter XF3078, Omega Optical, 30 nm FWHM) and 560 nm (bandpass filterXF1067, Omega Optical, 55 nm FWHM).」
「2.2 センサーの構造GGBPを含むポリエチレングリコールジメタクリレート:メタクリル酸(PENGDMA:MAA)ハイドロゲルマトリックスをガラス製の光ファイバーの表面に共有結合させることにより、光ファイバーセンサーを形成した。・・・センサーの蛍光応答は、特注の装置で読み取った。センサーの励起は420nm(Brite-LED Optolectronics BL-LBVT5N18Cシリーズ)でした。蛍光信号は、465nm(バンドパスフィルタXF3078,Omega Optical,30nm半値全幅)と560nm(バンドパスフィルタXF1067,Omega Optical,55nm半値全幅)の2つの波長領域で、フォトダイオード(浜松,S9270)を用いてモニターしました。」
エ 「Importantly, while the absolute fluorescence intensity was observed to decline during the 7-day monitoring of the sensor, the ratio of signals in the 560 and 465 nm wavelength bands was substantially more stable. This key observation may indicate that optical based sensors like GGBP, with signals that are inherently self-referenced, may have calibration parameters that are largely immune to biofouling of the sensor. This in turn could translate into greater accuracy and improved stability when compared to electrochemical sensors.」(4122頁右欄11行~19行)
「重要なことは、センサーの7日間のモニタリング中に絶対的な蛍光強度が低下することが観察された一方で、560nmと465nmの波長帯の信号の比率は実質的に安定していたことです。この重要な観察結果は、GGBPのような光学ベースのセンサーは、本質的に自己参照可能な信号を持つため、センサーのバイオファウリングの影響をほとんど受けない口径パラメータを持っている可能性があることを示していると考えられます。このことは、電気化学センサと比較した場合、より高い精度と安定性の向上につながる可能性があります。」
オ 「4.ConclusionsFluorophore-labeled GGBP offers a simple, direct, equilibrium- based method for continuously measuring blood glucose. The GGBP-based fiber optic biosensor described in this work uses a fluorophore-labeled GGBP immobilized in a hydrogel matrix to produce an optical signal in the presence of glucose. The sensor was operational in a variety of media, including buffer, serum, and interstitial fluid, and provided quantitative episodic and continuous measurement of glucose. The sensor was stable and accurate over 7 days of continuous monitoring in swine and was robust against tested interferents. The data presented here represent the first in vivo demonstration of continuous and reversible tracking of glucose by GGBP and indicate the potential of GGBP-based sensors for continuous glucose monitoring in humans.」
「4. 結論フルオロフォア標識GGBPは、血糖値を連続的に測定するためのシンプルで直接的な平衡ベースの方法を提供します。本研究で説明するGGBPベースの光ファイバーバイオセンサーは、フルオロフォア標識GGBPをヒドロゲルマトリックスに固定化し、グルコースの存在下で光信号を生成するために使用します。このセンサーは、緩衝液、血清、間質性浮動体を含む様々な媒体で動作し、グルコースの定量的なエピソード的および連続的な測定を提供しました。センサーは、豚の連続モニタリングの7日間にわたって安定して正確であり、テストされた干渉因子に対して堅牢でした。ここで発表されたデータは、GGBPによるグルコースの連続的かつ可逆的な追跡を初めて生体内で実証したものであり、ヒトにおける持続的なグルコースモニタリングのためのGGBPベースのセンサーの可能性を示しています。」
カ Fig.1
「Fig. 1. (A) Ribbon structures depicting the glucose-mediated conformational change of glucose/galactose binding protein (GGBP). Left: Open unliganded conformation of GGBP using Protein Data Bank structure file 2FW0. Right: the closed or glucose-bound structure of GGBP using Protein Data Bank structure file 2FVY. (B) Fluorescence response of acrylodan-labeled GGBP to glucose. The shaded regions show wavelength bands monitored by the optical system.」
「図1:グルコース/ガラクトース結合タンパク質(GGBP)の構造変化を示すリボン構造(A)グルコース/ガラクトース結合タンパク質(GGBP)のグルコース介在型構造変化を示すリボン構造。左:プロテインデータバンクの構造式2FWOを使用したオープンな非二重結合のコンホメーションのGGBP。右:プロテインデータバンクの構造式2FVYを使用したグルコース結合の閉構造のGGBP。(B)アクリルダンで標識したGGBPのグルコースに対する蛍光応答。網掛け領域は、光学系でモニターした波長帯を示す。」
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)から次のことが理解できる。
GGBPは、グルコース濃度に応じて、開構造のコンホメーションをとる状態と閉構造のコンホメーションをとる状態があること。
465±30nm及び560±55nmの波長帯域の蛍光強度の比(R)からグルコース濃度を求めること。
465±30nmはグルコース濃度に応じて蛍光強度の変化が大きな信号帯域であること。
560±55nmはグルコース濃度に応じて蛍光強度の変化が小さな参照帯域であること。
上記(1)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 蛍光物質のアクリルダンで標識されたグルコース/ガラクトース結合タンパク質(GGBP)が、光ファイバーの先端でヒドロゲルマトリックスに固定化されている光ファイバーバイオセンサーであって、GGBPは、グルコース濃度に応じて、開構造のコンホメーションをとる状態と閉構造のコンホメーションをとる状態があり、465±30nm及び560±55nmの波長帯域の蛍光強度の比(R)からグルコース濃度を求め、465±30nmはグルコース濃度に応じて蛍光強度の変化が大きな信号帯域であり、560±55nmはグルコース濃度に応じて蛍光強度の変化が小さな参照帯域である、光ファイバーバイオセンサー。」
2 引用文献2について
令和2年9月2日付けの拒絶の理由に引用された引用文献2(拒絶査定時の引用文献B)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0002】【従来の技術】生きている細胞内に存在するカルシウムイオン等の遊離イオン濃度の定量には、Fura-2、Indo-1などの蛍光性プローブ試薬が用いられている。これらの試薬の合成法及び特性については、下記の文献“The Journal of Biological Chemistry(1985),Issue of March 25,p.3440-3450 ”“Biophysical Journal, Vol.54, (1988) p.1089-1104 ”に示されている。これらのプローブ試薬は、特定のイオンとの結合・解離によって、その蛍光特性が変化する性質を持つ。したがって、プローブ試薬を細胞内に導入し、ある波長の励起光により生じた蛍光の強度を測定することにより、細胞内のイオン濃度を測定することができる。【0003】しかし、励起光、蛍光とも1波長のみの測定では、細胞内でのプローブ試薬の濃度が不明、または分布が不均一である場合には正確な測定値を得ることができない。また、蛍光の退色などのイオン濃度に依存しない蛍光強度の変化も合わせて測定している可能性もある。【0004】そこで、これらを補正するために等吸収点を持つ蛍光プローブ試薬を用い、異なる波長をもつ2つの励起光における蛍光強度または1つの励起光における2種類の波長の蛍光強度をそれぞれ測定し、その比を測定する方法がとられている。【0005】図2は、上述の測定法に用いる蛍光プローブ試薬の励起スペクトルと蛍光スペクトルを示す図である。同図(a)では、細胞内に存在するカルシウムイオンの濃度を測定するFura-2(蛍光プローブ試薬)の励起スペクトルを示しており、スペクトルを示すそれぞれの曲線上の数字は、細胞内のカルシウムイオン濃度を表している。図示されるように、Fura-2はカルシウムイオンとの結合により、波長340nmの励起光での蛍光強度が増大し、逆に波長380nmの励起光では蛍光強度は減少する性質を持つ。さらに、波長360nm励起による蛍光強度は、カルシウムイオン濃度に依存せず一定であるという性質がある。このため、Fura-2では例えば340nmと380nm、または340nmと360nmの励起波長での蛍光強度の比と、予め作成した検量線とから、細胞内のカルシウムイオン濃度を求めていた。蛍光強度の比の値を濃度の絶対値に変換する検量線は、既知の濃度のカルシウムイオンを含む試料をあらかじめ調製して蛍光プローブ試薬を加え、その蛍光強度比を測定することで作成される。【0006】同図(b)は、同じくIndo-1(蛍光プローブ試薬)の蛍光スペクトルを示したものであり、波長355nmの励起光を細胞に照射した場合に生じる蛍光の各波長でのスペクトルを示している。蛍光波長440nm付近では、Fura-2同様、等吸収点を持つ。このため、1波長の励起光によって生じる蛍光の2波長それぞれの蛍光強度の比から、Fura-2を用いた前述の方法と同様にして、細胞内のカルシウムイオン濃度を求めることができる。 」
(2)図2
3 引用文献3について
令和2年9月2日付けの拒絶の理由に引用された引用文献3(拒絶査定時の引用文献C)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「 二、三の場合には、分析体と検出試薬との相互作用の結果、新しい吸収バンドまたは発光バンドを成長させ、同時にオリジナルバンドの崩壊を生じる。2つの相異なる種の存在は、明確に限定される等吸収点の出現によって表示される。第3実施態様において、等吸収点は内部標準として使用される。図4はコンゴレッドと塩素との反応を示す。コンゴレッドとその塩素との錯体の吸収スペクトル曲線51,52,53,54,55,56は、それぞれ無塩素、50,100,200,400,800ppb塩素から生じる。コンゴレッドは、500nmのピーク57を含む可視波長範囲において強い吸収バンドを示す。塩素が添加されると、500nmでの吸収が低減するが、他の吸収バンドが650nmをピーク58として成長する。図4に図示のように、560nmと800nmの吸収は不変である。これらが等吸収点と呼ばれる(それぞれ59、60)。塩素の正確な決定のため、500nmと560nmの吸収または650nmと560nmの吸収の比率が求められる。800nmの等吸収点も同様に使用することができる。500nmまたは650nmにおける検出器応答の方が560nmにより近接しているので、560nmの選択がより正確である。560nmと800nmの吸収は外部作用のみで変動する。500nmおよび650nmにおいては、吸収は外部作用と塩素の存在によって同様に影響される。従って、比率は塩素濃度に対してのみ感性である。」(6頁右下欄2行~7頁左上欄2行)
(2)FIG.4
4 引用文献Aについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Aには、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0122】<例1>図3は蛍光色素の励起/吸収スペクトルの例を示し、この場合、HPTSである。異なるpHにおいて取得された蛍光色素の吸収スペクトルより、λ酸、λ塩基およびλ等吸収点を決定できる。より低いpH(例えば、より酸性な条件)において405nm近傍におけるピークは460nm近傍におけるピークより高く、従って、蛍光色素の酸性型による吸収最大である。より高いpH(例えば、より塩基性な条件)において460nm近傍におけるピークは405nm近傍におけるピークより高く、従って、蛍光色素の塩基性型による吸収最大である。λ等吸収点は吸収がpHに依存しない波長であり、例えば、HPTSの場合、422nm近傍となる。【0123】次いで、第1の励起波長(例えば、λ酸、λ塩基またはλ等吸収点)における照射の結果生じる発光波長における第1の蛍光発光強度(Ixで、I酸、I塩基またはI等吸収点でよい)を検出器で測定し、結果を電子的制御で貯える。次いで、第2の励起波長においてセンサーを再び照射する。第2の励起波長は第1の励起波長とは異なり、また、λ酸、λ塩基またはλ等吸収点より選択できる。次いで、第2の励起波長(例えば、λ酸、λ塩基またはλ等吸収点)における照射の結果生じる第2の蛍光発光強度(Iyで、I酸、I塩基またはI等吸収点でよい)を検出器が検出/測定する。次いで、第1および第2の蛍光発光の比(Ix/Iy)を計算できる。Ix/Iyはポリヒドロキシル濃度には依存しないため、ポリヒドロキシル濃度の効果を考慮せずpH標準曲線(Ix/Iy対pH)をプロットできる。」
(2)図3
5 引用文献Dについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Dには、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0007】【課題を解決するための手段】本発明は、試料中の2種類以上の測定対象物を分析するための多波長蛍光偏光法であって、次の工程:(a)2種類以上の蛍光標識物質であって、異なる測定対象物にそれぞれ特異的に結合する物質と測定対象物ごとに異なる蛍光色素とが共有結合した蛍光標識物質を提供する工程、(b)該蛍光標識物質を2種類以上の測定対象物と結合させる工程、および(c)それぞれの測定対象物が結合した蛍光標識物質の蛍光偏光度変化を測定する工程、を包含する多波長蛍光偏光法に関する。【0008】本発明の方法において、上記測定対象物は、生体内物質、微生物、ウイルス、医薬品、環境汚染物質または乱用薬物であり得る。生体内物質は、ペプチド、タンパク質、脂質、糖類または核酸類であり得る。生体内物質としてのタンパク質は、抗体、ホルモン、炎症マーカ、凝固因子、アポリポタンパク質、高密度リポタンパク質(HDL)、低密度リポタンパク質(LDL)、糖化アルブミン、糖化ヘモグロビン、ヘモグロビンまたは酵素であり得る。」
6 引用文献Fについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Fには、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「 図1は、患者12に外科手術で埋め込めるセンサ及びインシュリンポンプを具備する血液グルコース監視制御システム10を示す。」(28頁11~12行)
7 引用文献Gについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Gには、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0044】検出されるであろう放出される光の波長は、少なくとも部分的に、特定の蛍光検出可能な生成物に依存する場合がある。図1Cに見られるように、蛍光検出可能な生成物(例えば、4-MU等)は、様々な量で、広い範囲の波長にわたって、光を放出する。実施形態において、放出は、最大放出に近い波長で検出される場合がある。あるいは、他の波長(最大放出の波長に加えてか、又はそれに替わって)が、放出される光を検出するために監視されてもよい。Emλ1は、あらゆる所望の波長であってもよく、様々な波長における放出の強度、利用され得る特定の検出器(費用等)、サンプル内の他の化合物(例えば、酵素基質)からの干渉、あるいはその組み合わせに部分的に基づいて選択されてもよい。実施形態において、Emλ1は、蛍光検出可能な生成物がその最大強度の放出を有する波長であってもよい。そのようなEmλ1は、背景信号からの干渉を最小化するため、検出限度を減少させるため、又はそれらの組み合わせのために有用である場合がある。放出を監視するために選択される波長が何であれ、本明細書には放出波長、又はEmλ1として称される。」
(2)「【0051】別の任意選択の工程である工程209が、工程205の後にそのような方法に追加されてもよい。工程209は、試験サンプル内の微生物を定量化する工程を含み、上述のように、そのような定量化は、例えば、既知濃度の微生物のサンプルの使用を含んでもよく、あるいは相対比較(つまり、より高いか、より低いかの結果を得る工程)であってもよい。」
第6 対比・判断
当審拒絶理由の特許法第29条第2項について
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ヒドロゲルマトリックス」及び「蛍光物質のアクリルダンで標識されたグルコース/ガラクトース結合タンパク質(GGBP)」は、本願発明1の「マトリクス」及び「蛍光標識されたグルコース結合タンパク質」に相当するところ、引用発明の「蛍光物質のアクリルダンで標識されたグルコース/ガラクトース結合タンパク質(GGBP)が、光ファイバーの先端でヒドロゲルマトリックスに固定化され」、「465±30nm及び560±55nmの波長帯域の蛍光強度の比(R)からグルコース濃度を求め」る「光ファイバーバイオセンサー」は、本願発明1の「マトリクスに内包される蛍光標識されたグルコース結合タンパク質の蛍光スペクトル測定に基づいてグルコース濃度を推定するためのセンサ」に相当する。
イ 引用発明の「閉構造のコンホメーションをとる状態」及び「開構造のコンホメーションをとる状態」は、本願発明1の「グルコース結合タンパク質が閉構造のコンホメーションをとっている状態であ」る「第1の基礎状態」及び「前記グルコース結合タンパク質が開構造のコンホメーションをとっている状態である」「第2の基礎状態」に相当するところ、引用発明の「560±55nmの波長帯域」を「グルコース濃度に応じて蛍光強度の変化が小さな参照帯域」とすることと、本願発明1の「第1の基礎状態と第2の基礎状態との間で最大限に不変である最も大きな範囲を参照帯域に設定すること」とは、「第1の基礎状態と第2の基礎状態との間でほぼ最大限に不変である所定の波長帯域の範囲を参照帯域に設定すること」の点で共通する。
ウ 引用発明の「465±30nm」「の波長帯域」を「グルコース濃度に応じて蛍光強度の変化が大きな信号帯域」とすることと、本願発明1の「前記第1の基礎状態と前記第2の基礎状態との間で最大限に変化している最も大きな範囲を信号帯域に設定すること」とは、「前記第1の基礎状態と前記第2の基礎状態との間でほぼ最大限に変化している所定の波長帯域の範囲を信号帯域に設定すること」の点で共通する。
エ 引用発明の「信号帯域」「465±30nm及び」「参照帯域」「560±55nmの波長帯域の蛍光強度」は、それぞれの「波長帯域の蛍光強度」を総和したものであることが明らかであるから、引用発明の「信号帯域」「465±30nm及び」「参照帯域」「560±55nmの波長帯域の蛍光強度の比(R)からグルコース濃度を求め」ことは、本願発明1の「前記信号帯域における蛍光スペクトル信号の積分値を、前記参照帯域における蛍光スペクトル信号の積分値で除算して得た値に基づいて前記グルコース濃度を推定すること」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
(一致点)
「 マトリクスに内包される蛍光標識されたグルコース結合タンパク質の蛍光スペクトル測定に基づいてグルコース濃度を推定するためのセンサであって、前記センサは、第1の基礎状態と第2の基礎状態との間でほぼ最大限に不変である所定の波長帯域の範囲を参照帯域に設定することであって、前記第1の基礎状態は、前記グルコース結合タンパク質が閉構造のコンホメーションをとっている状態であり、前記第2の基礎状態は、前記グルコース結合タンパク質が開構造のコンホメーションをとっている状態である、ことと、前記第1の基礎状態と前記第2の基礎状態との間でほぼ最大限に変化している所定の波長帯域の範囲を信号帯域に設定することと、前記信号帯域における蛍光スペクトル信号の積分値を、前記参照帯域における蛍光スペクトル信号の積分値で除算して得た値に基づいて前記グルコース濃度を推定することと、を実行する、センサ。」
(相違点)
設定する参照帯域と信号帯域を、本願発明1では、「最大限に不変である最も大きな範囲」と「最大限に変化している最も大きな範囲」にするのに対し、引用発明では、「蛍光強度の変化が小さ」い「560±55nm」と「蛍光強度の変化が大き」い「465±30nm」にする点。
(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
原査定及び令和2年9月2日付けの当審の拒絶理由に引用された引用文献(上記第5参照。)には、いずれも上記相違点に係る本願発明1の構成についての記載も示唆もなく、この構成が周知である証拠もない。よって、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得ることでない。
そして、本願発明1は、センサ使用の間に自己較正を動的に行い、センサの寿命にわたって較正を安定的に維持できるという作用効果を奏するもの(本願明細書【0006】、【0102】参照。)であり、本願発明1が奏する作用効果は、当業者が引用文献1の記載から予測し得ることでない。
してみると、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
2 本願発明2~9について
本願発明2~9は、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
第7 原査定についての判断
令和2年10月19日付けの補正により、補正後の本願発明1~9では、設定する参照帯域と信号帯域を、最大限に不変である最も大きな範囲と最大限に変化している最も大きな範囲にすることが特定された。この特定された事項は、原査定における引用文献A~Gに記載されておらず周知でもないので、本願発明1~9は、当業者であっても、原査定における引用文献A~Gに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。
第8 当審拒絶理由について
特許法第36条第6項第1号について
当審では、本願請求項1~19に係る特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明から把握できる「センサ使用の間に自己較正を動的に行い、センサの寿命にわたって較正を安定的に維持できるようにする」という課題(【0006】、【0102】)を解決するための手段を反映していないとの拒絶の理由を通知しているが、令和2年10月19日付けの補正において、補正後の本願発明1~9では、設定する参照帯域と信号帯域を、最大限に不変である最も大きな範囲と最大限に変化している最も大きな範囲にすることが特定された結果、この拒絶の理由は解消した。
第9 むすび
以上のとおり、本願発明1~9は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の拒絶理由及び当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-002044