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特許無効審判

2019-800098

エクオール含有抽出物及びその製造方法、エクオール抽出方法、並びにエクオールを含む食品

審判番号
2019-800098
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2017-125880
登録番号
6275313
請求日
2019年11月19日
審決日
2020年11月25日
公報発行日
2023年02月24日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社 ダイセル
  • 【請求人代理人】吉澤 敬夫
  • 【請求人代理人】紺野 昭男
  • 【請求人代理人】井波 実
  • 【請求人代理人】川田 篤
  • 【参加人】株式会社 アドバンスト・メディカル・ケア
  • 【参加人代理人】関根 宣夫
  • 【参加人代理人】水野 晃
  • 【参加人代理人】丹羽 厚太郎
  • 【参加人代理人】中田 裕人
  • 【被請求人】大塚製薬 株式会社
  • 【被請求人代理人】城山 康文
  • 【被請求人代理人】山内 真之
  • 【被請求人代理人】大出 萌
  • 【被請求人代理人】小野 誠
  • 【被請求人代理人】重森 一輝
審判長/審判官
  • 審判長 田村 聖子
  • 審判官 中島 庸子
  • 審判官 小暮 道明
分類
P1113.113-YAA(A23L) / P1113.121-YAA(A23L) / P1113.536-YAA(A23L) / P1113.832-YAA(A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第126条第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第44条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第123条第1項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の特許第6275313号発明「エクオール含有抽出物及びその製造方法、エクオール抽出方法、並びにエクオールを含む食品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 特許第6275313号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許第6275313号に係る出願は、平成20年6月13日(国内優先権主張 平成19年6月13日の特許出願3件)を国際出願日とする特願2009-519326号(PCT/JP2008/060913、親出願)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づき分割した特願2013-108439号(第一世代)の一部を、同規定に基づき分割した特願2016-156372号(第二世代)の一部を、さらに同規定に基づき分割して新たな出願(第三世代)としたものであり、特許権の設定登録以降の手続の経緯の概要は以下のとおりである。 平成30年 1月19日 特許権の設定登録 令和 1年 11月19日 特許無効審判請求 令和 2年 2月 7日 答弁書、訂正請求 令和 2年 4月20日 口頭審理陳述要領書(請求人) 令和 2年 5月11日 口頭審理陳述要領書(被請求人) 令和 2年 5月19日 口頭審理中止通知 令和 2年 6月25日 参加申請書(株式会社アドバンスト・ メディカル・ケア) 令和 2年 6月30日 口頭審尋(TV会議で非公開) 令和 2年 7月14日 上申書(請求人) 令和 2年 7月28日 上申書(被請求人) 令和 2年 7月30日 参加許否の決定(株式会社アドバンスト・ メディカル・ケアの参加を許可) 令和 2年 8月 4日 上申書(請求人) 第2 訂正請求の適否 1.訂正の内容 令和2年2月7日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は次の(1)~(4)のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも1種のダイゼイン類、並びに、アルギニンを含む発酵原料を」と記載されているのを、「少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること、及び、前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法」と記載されているのを、「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1において、オルニチン及びエクオールの生成量の具体的な数値をさらに特定する「・・・であって、前記発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し、」の記載を追加する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1において、生成物である発酵物の用途が食品素材であることをさらに特定する「及び、前記発酵物が食品素材として用いられるものである」の記載を追加する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1によって、訂正後の請求項1に係る発明では、発酵物の製造方法がダイゼイン類にアルギニンを添加する工程を含むことが特定されており、この特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法が減縮される。 したがって、訂正事項1は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0031】、【0091】、【0093】等の記載から微生物のエクオール発酵のためにダイゼイン類を含む発酵原料を用いること、段落【0033】、【0093】等の記載から大豆胚軸はダイゼイン類を含む発酵原料の代表例であることが理解され、これらの理解を踏まえると、段落【0036】、【0050】、【0222】、【0226】等の大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことに関する記載から、ダイゼイン類にアルギニンを添加して発酵を行うことが理解されるといえる。 そうすると、本件特許明細書には、ダイゼイン類にアルギニンを添加して発酵を行うことが実質的に記載されているといえるから、訂正事項1は新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項1は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2によって、訂正後の請求項1に係る発明では、発酵物が粉末状に特定されおり、この特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法が減縮される。 したがって、訂正事項2は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書の段落【0144】、【0222】、【0225】、【0229】等には、発酵物を粉末状にすることが記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項2は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3によって、訂正後の請求項1に係る発明では、発酵処理により発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成することが特定されており、この特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法が減縮される。 したがって、訂正事項3は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 本件特許明細書の段落【0050】には、アルギニンを添加した大豆胚軸を発酵原料とした発酵物について、「発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上」に該当する量のオルニチンを含有することが記載され、段落【0042】には、「発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上」に該当する量のエクオールを含有することが記載されている。そして、エクオール発酵のためにダイゼイン類を含む発酵原料を用いること、大豆胚軸はダイゼイン類を含む発酵原料の代表例であることを踏まえれば、アルギニンを添加した大豆胚軸だけでなくアルギニンを添加したダイゼイン類からもエクオールとオルニチンが生成するといえる。そして、本件特許明細書の段落【0226】に記載されるように、大豆胚軸に含まれるダイゼイン類からエクオールが生成し、アルギニンからオルニチンが生成すると認められるから、エクオールの生成量およびオルニチンの生成量は、アルギニンを添加したダイゼイン類を発酵原料とする場合についても、アルギニンを添加した大豆胚軸を発酵原料とする場合と同様であると認められる。 また、本件特許明細書の段落【0042】、【0226】には、発酵物に含有されるオルニチン及びエクオールが発酵処理により生成したものであることが記載されている。 したがって、訂正事項3は新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項3は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4によって、訂正後の請求項1に係る発明では、製造方法で製造される発酵物の用途が食品素材に特定されており、この特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法が減縮される。 したがって、訂正事項4は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書の段落【0144】等には、発酵物の用途が食品素材であることが記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項4は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (5)請求人の主張する新規事項追加について ア 訂正事項1に関して (ア)訂正前に「少なくとも1種のダイゼイン類、並びに、アルギニンを含む」として「発酵原料」である「大豆胚軸」中に含まれていたはずの「アルギニン」を、訂正後には「大豆胚軸」とは別個に存在する「アルギニン」とし、『少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること』としている。 (イ)本件特許明細書には「アルギニンを添加する」対象は「大豆胚軸」だけであり、「ダイゼイン類」に「アルギニンを添加する」ことは記載されていない。 (ア)の主張について 本件特許明細書の実施例の参考例1-1~1-3(段落【0221】~【0224】)などに大豆胚軸及びアルギニンを配合した発酵原料が記載されているように、訂正前の「少なくとも1種のダイゼイン類、並びに、アルギニンを含む発酵原料」の記載は、発酵原料が大豆胚軸のような「ダイゼイン類」と「アルギニン」とを含むことを特定しているのであって、請求人が主張する「アルギニン」が「大豆胚軸」中に含まれていたことを特定するものではない。 請求人の主張は誤りであり、採用できない。 (イ)の主張について 本件特許明細書には次の記載がある。なお、下線は当審が付したものである。 「【0029】 以下、本発明について説明する 1.エクオール含有抽出物の製造方法 本発明は、のの製造方法(原文のまま)は、エクオール含有大豆胚軸発酵物を原料として用いて、エクオール含有抽出物を製造する方法を提供する。具体的には、本発明のエクオール含有抽出物の製造方法は、後述する第I法及び第II法の2つの手法に大別される。以下、本発明の製造方法において原料として使用されるエクオール含有大豆胚軸発酵物、並びに第I法及び第II法の具体的内容についてについて詳述する。 エクオール含有大豆胚軸発酵物 本発明のエクオール含有抽出物の製造方法は、エクオール含有大豆胚軸発酵物を原料として使用する。以下、エクオール含有大豆胚軸発酵物について説明する。 【0030】 エクオール含有大豆胚軸発酵物とは、エクオール産生微生物で大豆胚軸を発酵させて得られる大豆胚軸発酵物である。 【0031】 当該エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造に使用されるエクオール産生微生物としては、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物が使用される。ここで、ダイゼイン配糖体としては、具体的には、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等が挙げられる。 【0032】 上記エクオール産生微生物としては、食品衛生上許容され、上記能力を有する限り特に制限されず、従来公知のもの、或いは通常の方法でスクリーニングしたものを使用できる。例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcusgarvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcusintermedius)、ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcusconstellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroidesovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物の中にエクオール産生能を有する微生物が存在していることが分かっている。エクオール産生微生物の中で、好ましくは、ラクトコッカス属、及びストレプトコッカス属等の乳酸菌であり、更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、特に好ましくはラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。エクオール産生微生物は、例えば、ヒト糞便中からエクオールの産生能の有無を指標として単離することができる。上記エクオール産生微生物については、本発明者等により、ヒト糞便から単離同定された菌、即ち、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)、及びバクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)が寄託されており、本発明ではこれらの寄託菌を使用できる。これらの寄託菌の中でも、ラクトコッカス20-92が好適に使用される。 【0033】 当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は、発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される。大豆胚軸とは、大豆の発芽時に幼芽、幼根となる部分であり、ダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類が多く含まれていることが知られている。本発明に使用される大豆胚軸は、含有されているダイゼイン類が著しく損失されていないことを限度として、大豆の産地や加工の有無については制限されない。例えば、生の状態のもの;加熱処理、乾燥処理、蒸煮処理等に供された大豆から分離したもの;未加工の大豆から分離した胚軸を加熱処理、乾燥処理又は蒸煮処理等に供したもの等のいずれであってもよい。また、使用される大豆胚軸は、脱脂処理や脱タンパク処理に供したものであってもよい。また、使用される大豆胚軸の形状については、特に制限されるものではなく、粉末状であっても、粉砕又は破砕された粒状又は塊状であってもよい。より効率的にエクオールを生成させるという観点からは、粉末状の大豆胚軸を使用することが望ましい。 【0034】 大豆胚軸の発酵処理は、適量の水を大豆胚軸に加えて水分含量を調整し、これに上記エクオール産生微生物を接種することにより行われる。 【0035】 大豆胚軸に添加される水の量は、使用するエクオール産生微生物の種類や発酵槽の種類等によって応じて適宜設定される。通常、発酵開始時に、大豆胚軸と水が以下の割合で共存していればよい:大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、水が400~4000重量部、好ましくは500~2000重量部、更に好ましくは600~1000重量部。 【0036】 また、大豆胚軸の発酵において、発酵原料となる大豆胚軸には、必要に応じて、発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として、酵母エキス、ポリペプトン、肉エキス等の窒素源;グルコース、シュクロース等の炭素源;リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に、エクオール産生微生物として、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下、「オルニチン・エクオール産生微生物」と表記する)を使用する場合には、大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって、得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合、アルギニンの添加量については、例えば、大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、アルギニンが0.5~3重量部程度が例示される。なお、オルニチン・エクオール産生微生物としては、エクオール産生能とアルギニンからオルニチンへの変換能を指標として公知のスクリーニング方法により得ることができる。オルニチン・エクオール産生微生物は、例えばラクトコッカス・ガルビエから選択することができ、その具体例としてラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)が挙げられる。 【0037】 更に、使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)のpHについては、エクオール産生微生物が生育可能である限り特に制限されないが、エクオール産生微生物を良好に増殖させるという観点からは、発酵原料のpHを6~7程度、好ましくは6.3~6.8程度に調整しておくことが望ましい。 【0038】 また、使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)には、更に、前記ダイゼイン類を含むイソフラボンを添加しておいてもよい。このようにイソフラボンを発酵原料に別途添加しておくことにより、得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール含量をより高めることが可能になり、その有用性を一層向上させることができる。」 「【0091】 エクオールを含む発酵物は、エクオール産生微生物を用いて公知の方法に従って発酵することにより製造される。具体的には、エクオール産生微生物を、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を、該ダイゼイン類を含む発酵原料(発酵に供される原料)に接種し、該微生物の生育環境下で発酵(培養)させることにより、エクオールを含む発酵物を得ることができる。 【0092】 上記エクオール産生微生物としては、前記「1.エクオール含有抽出物の製造方法」の「エクオール含有大豆胚軸発酵物」の欄に記載するエクオール産生微生物が使用される。 【0093】 また、ダイゼイン類を含む発酵原料としては、ダイゼイン類を含む限り、特に制限されるものではないが、安全性の観点から、食品素材としても利用可能なものが好適である。ダイゼイン類を含む発酵原料としては、具体的には、大豆、大豆胚軸、大豆胚軸の抽出物、豆腐、油揚げ、豆乳、納豆、醤油、味噌、テンペ、レッドクローブ又はその抽出物、アルファルファ又はその抽出物等が挙げられる。これらの中でも、大豆胚軸は、ダイゼイン類を豊富に含んでいるので、ダイゼイン類を含む発酵原料として好ましい。」 上記のとおり、本件特許明細書には「エクオール産生微生物を、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を、該ダイゼイン類を含む発酵原料(発酵に供される原料)に接種し、該微生物の生育環境下で発酵(培養)させることにより、エクオールを含む発酵物を得ることができる。」、「ダイゼイン類を含む発酵原料としては、ダイゼイン類を含む限り、特に制限されるものではない」と記載されており、本件特許明細書には、エクオールの発酵原料として「ダイゼイン類を含む発酵原料」が記載されていると認められる。 また、「大豆胚軸とは、大豆の発芽時に幼芽、幼根となる部分であり、ダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類が多く含まれていることが知られている。」と記載されており、大豆胚軸はダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類を多く含む材料の代表例として記載されていると認められる。 したがって、本件特許明細書には「大豆胚軸」を代表とする「ダイゼイン類」がエクオールの発酵原料として記載されていると認められ、「大豆胚軸」にアルギニンを添加するとの記載から、「ダイゼイン類」にアルギニンを添加することも記載されているといえる。 イ 訂正事項2に関して 本件特許明細書に「粉末状」とすることが記載されているのは「大豆胚軸」の発酵物であり、「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」の発酵物の粉末化処理については記載されていない。 上記主張について 上記ア(イ)の主張について で述べたとおり、本件特許明細書には「大豆胚軸」を代表とする「ダイゼイン類」が発酵原料として記載されていると認められるから、「大豆胚軸」の発酵物を粉末化することに関する記載から、「ダイゼイン類」の発酵物を粉末化することも記載されているといえる。 ウ 訂正事項3に関して (ア)本件特許明細書には発酵物にオルニチンが含有されることについては記載されているが、「8mg以上のオルニチン・・・を生成」することは記載されていない。また、本件特許明細書に記載されるオルニチンの下限値は、大豆胚軸由来のアルギニンと、別途添加したアルギニンを合わせたものから得られたオルニチンの量であり、アルギニン添加の対象を「ダイゼイン類」として「大豆胚軸」を用いない場合には、「大豆胚軸」由来のアルギニンによるオルニチンは得られず、「添加」由来のアルギニンによって得られたオルニチンしか得られないことになるので、「8mg以上」の数値範囲を満たさない。さらに、本件特許明細書にはオルニチンの上限に限定がないことも記載されていない。 (イ)請求項1には「1mg以上のエクオール」と記載され、上限値が特定されていないが、本件特許明細書にはエクオールの上限に限定がないことも記載されていない。また、山本実験報告書(甲14の1)によれば、「ダイゼイン」を発酵原料とする場合にはエクオールは生成しないから、本件特許明細書に「ダイゼイン類」を含む原料を用いた場合に「発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」が生成することは記載されていない。 (ア)の主張について 本件特許明細書の段落【0050】には、「このようなエクオール含有大豆胚軸発酵物に含まれるオルニチンの含有量として具体的には、エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たりオルニチンが5~20mg、好ましくは8~15mg、更に好ましくは9~12mg程度が例示される。」と記載されており、オルニチンは発酵前の原料には含まれていないこと(【表3】)を考慮すれば、発酵物に含有されるオルニチンは発酵によって生成したものであることは明らかである。 そして、請求項1の「前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し」の記載は、発酵原料から得られた発酵物に含まれるオルニチンが乾燥重量1g当たり8mg以上であることを特定しているに過ぎず、添加されたアルギニンから生成するオルニチンの量のみを特定しているものではない。なお、この点については、被請求人も口頭審理陳述要領書において「本件訂正発明では「…少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること、及び、前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を…発酵処理することを含む、…発酵物の製造方法であって、前記発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン…を生成」すると規定されているにすぎず、8mg以上のオルニチンの全量が添加アルギニン由来であると限定されているわけではない。すなわち、発酵処理により生成するオルニチンが「前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上」を満たしさえすればよいのであって、大豆胚軸を用いた場合のように、原料中に当初より含有されているアルギニンが存在する場合には、かかるアルギニンに由来して生成したオルニチンも「前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン」に含まれ得ることに何ら問題はない。」と主張している。 また、オルニチンの生成量を増加させるためには、アルギニンの添加量を増加させればよいことは、本件特許明細書の記載から理解できるといえる。 さらに、通常、微生物は代謝産物を必要な程度の量を生産するという技術常識に照らせば、本件特許発明にオルニチン上限値が特定されていないからといって、下限値をはるかに超えるような生成量である場合まで含むものとは解されないところ、オルニチンの上限については、本件特許明細書の段落【0050】の記載も参酌すれば、当業者であればある程度理解できるから、上限値を特定しないことが新規事項の追加であるとはいえない。 (イ)の主張について 上記(ア)の主張について で述べた技術常識に照らせば、本件特許発明にエクオールの上限値が特定されていないからといって、下限値をはるかに超えるような生成量である場合まで含むものとは解されないところ、エクオールの上限については、本件特許明細書の段落【0045】の 「エクオール含有大豆胚軸発酵物として、具体的には、以下のイソフラボンの組成のものが例示される(以下の単位「mg」は、大豆胚軸発酵物1g(乾燥重量)当たりの各イソフラボンの総量を示す): エクオール:1~20mg、好ましくは2~12mg」の記載も参酌すれば、当業者であればある程度理解できるから、上限値を特定しないことが新規事項の追加に該当するとはいえない。 また、訂正事項が新規事項に該当するかどうかは、訂正事項が本件特許明細書に記載されているか、本件の優先日当時の技術常識に照らして記載されているに等しい事項といえるものであるかを検討することで判断されるところ、山本実験報告書(甲14の1)は本件優先日当時の技術常識を示すものとはいえないから、山本実験報告書(甲14の1)の記載と、本件訂正が新規事項であるか否かは直接関係がない。本件特許明細書の段落【0031】の「当該エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造に使用されるエクオール産生微生物としては、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物が使用される。」の記載から、エクオール産生微生物の発酵によってダイゼイン類からエクオールが生成することが理解され、さらに技術常識から原料のダイゼイン類を増加すれば生成するエクオールが増加することも理解できるから、本件特許明細書には「ダイゼイン類」を発酵原料として「発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」が生成することが記載されているといえる。 エ 訂正事項4に関して 本件特許明細書には、大豆胚軸発酵物を食品素材として使用することが記載されているだけで、ダイゼイン類の発酵物について食品に使用することは記載されていない。 上記主張について 上記ア(イ)の主張について で述べたとおり、本件特許明細書には「大豆胚軸」を代表とする「ダイゼイン類」が発酵原料として記載されていると認められるから、「大豆胚軸」の発酵物を食品素材とすることに関する記載から、「ダイゼイン類」の発酵物を食品素材とすることも記載されているといえる。 (6)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件特許第6275313号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること、及び、 前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む、オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって、 前記発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し、及び、 前記発酵物が食品素材として用いられるものである、 前記製造方法。」 第4 当事者の主張の概要 1.請求人の主張 無効審判請求人は、特許第6275313号特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下のように主張する。 -無効理由1として、 本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証の1~甲第3号証の8、甲第4号証の1~甲第4号証の3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条第2項の規定により特許を受けることができない。 -無効理由2として、 本件の請求項1に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であるか、甲第6号証に記載された発明及び甲第4号証の1、甲第7号証、甲第8号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条第2項の規定により特許を受けることができない。 -無効理由3として、 本件の請求項1に係る発明は、甲第9号証に記載された発明であるか、甲第9号証に記載された発明及び甲第4号証の1、甲第10号証、甲第11号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条第2項の規定により特許を受けることができない。 -無効理由4として、 本件特許に係る出願は分割要件違反であり、分割出願の遡及効果を得ることはできないから、本件の請求項1に係る発明は、甲第12号証に記載された発明であるか、甲第12号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条第2項の規定により特許を受けることができない。 -無効理由5として、 本件の請求項1に係る発明は、委任省令要件を満たさないものであるから、特許法第36条第4項第1号の要件を満足しない。 との理由から、本件の請求項1に係る発明の特許は特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当し、無効とすべきである。 そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 (審判請求書に添付されたもの) 甲第1号証:国際公開第2005/000042号 甲第2号証:Bull. Eur. Ass. Fish Pathol., 21 (4)2001, p.136-144 甲第3号証の1:JOURNAL OF BACTERIOLOGY, 1976,Vol. 127, No. 2, 780-784 甲第3号証の2: 『生化学実験講座11 アミノ酸代謝と生体アミン(中)』、昭和51年11月28日発行、日本化学会編、株式会社東京化学同人、532~535頁 甲第3号証の3:『微生物学(上)』、昭和56年9月10日発行、株式会社培風館、380~383頁 甲第3号証の4:『微生物学辞典』平成元年8月23日発行、日本微生物学協会編、技報堂出版株式会社、「アルギニン加水分解酵素」の項 甲第3号証の5:独国特許出願公開10006064号公報 甲第3号証の6:Journal of Applied Bacteriology,1996, 81(5)、p.486-492 甲第3号証の7:JOURNAL OF BACTERIOLOGY, 1987, Vol.169, No. 12, p. 5597-5604 甲第3号証の8:特開2007-68441号公報 甲第4号証の1:「保存中の無菌調製豆乳の品質評価指標について」、日本食品工業学会誌、1985年、32巻7号、457~462頁 甲第4号証の2:「大豆の水浸漬による遊離アミノ酸の変動」、日本家政学会誌、2002年、53巻12号、1197~1202頁 甲第4号証の3:「人乳と牛乳の遊離アミノ酸含量ならびに育児用粉乳へのタウリン補足が乳児の血清タウリン値に及ぼす影響」、日本栄養・食糧学会誌、1984年、37巻4号、301~309頁 甲第5号証の1:「大豆発酵食品の成分よりみた発酵分解の意義」、日本醸造協会雑誌、1967年、62巻4号、367~373頁 甲第5号証の2:「みその乳酸菌の研究(第7報)アルギニンの分解」、食糧研究所研究報告、昭和40年、第19号、121~126頁 甲第6号証の1:国際公開第2004/009035号 甲第6号証の2:特表2006-504409号公報 甲第7号証:Journal of Bacteriology, , Vol. 150,No. 3, 1982, 1024-1032 甲第8号証:ヤクルト中央研究所のウェブサイト「菌の図鑑」中「ラクトコッカス・ラクチス」の項目(https://institute.yakult.co.jp/bacteria/4237) 甲第9号証:国際公開第99/07392号 甲第10号証:「製品要覧I」第19版、32~33頁、日水製薬株式会社 甲第11号証:大塚製薬株式会社従業員 内山成人が平成31年4月5日に作成した実験報告書 甲第12号証:再公表公報 WO2008/153158 甲第13号証:特開2017-18120号公報(特願2016-156372号) 甲第14号証の1:株式会社ダイセル従業員 山本浩明が2019年10月7日に作成した実験報告書 甲第14号証の2: J. Biosci. Bioeng., 2006, 102(3),p. 247-250 甲第15号証の1:分析試験成績書、一般財団法人 日本食品分析センター、2017(平成29)年9月7日作成 甲第15号証の2:DifcoTM & BBLTM Manual,BD Diagnostic Systems 甲第15号証の3:BactoTM Brain Heart Infusionの容器ラベル、Becton, Dickinson and Company (口頭審理陳述要領書に添付されたもの) 甲第16号証の1:「おやすみオルニチン 良眠サポート」についての「様式I:届出食品の科学的根拠等に関する基本情報(一般消費者向け)(印刷日:2019(令和元)年10月8日) 甲第16号証の2:「キリン サプリ ヨーグルトテイスト」についての「様式I:届出食品の科学的根拠等に関する基本情報(一般消費者向け)(印刷日:2019(令和元)年10月8日) 甲第17号証の1:Journal of Daily Research , 1998,65 p.101-107 甲第17号証の2:International Journal of Food Microbiology, 1999, 47, p. 203-209 甲第18号証の1: 株式会社ダイセル従業員 山本浩明が2020年4月16日に作成した実験報告書 甲第18号証の2:分析試験成績書、一般財団法人 日本食品分析センター、2020(令和2)年3月19日作成 甲第18号証の3:分析試験成績書、一般財団法人 日本食品分析センター、2020(令和2)年3月31日作成 甲第19号証:大塚製薬株式会社従業員 内山成人が令和2年3月6日に作成した実験報告書(特許権侵害差止請求事件 甲第34号証) 甲第20号証:特許第3864317号公報 甲第21号証:再公表公報 WO2012/033150 甲第22号証:平成30年(ワ)第18555号 特許権侵害差止請求事件 原告第5準備書面 甲第23号証:平成30年(ワ)第18555号 特許権侵害差止請求事件 原告第10準備書面 甲第24号証:京都府立医科大学附属病院、内視鏡・超音波診療部部長、京都府立医科大学消化器内科学准教授 内藤 裕二の陳述書、2020(令和2)年3月16日作成 甲第25号証の1:「健康食品」の安全性・有効性情報の印刷物 (URL:https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail91lite.html) 甲第25号証の2:「健康食品」の安全性・有効性情報の印刷物 (URL:https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/indiv.html) 甲第26号証:東京大学アイソトープ総合センター 特任研究員 裏出良博の陳述書、2020(令和2)年2月20日作成 甲第27号証:「大豆イソフラボンを含む特定保健用食品の安全性評価の基本的な考え方」、2006年5月、食品安全委員会 甲第28号証の1:「製品要覧I」第19版、32~33頁、日水製薬株式会社 甲第28号証の2:分析試験成績書、一般財団法人 日本食品分析センター、2017(平成29)年9月7日作成 (令和2年7月14日付け上申書に添付されたもの) 甲第29号証:株式会社ダイセル従業員 山本浩明が2020年5月25日に作成した分析報告書 甲第30号証:DifcoTM & BBLTM Manual,2003年発行、686頁、BD Diagnostic Systems 甲第31号証:株式会社ダイセル従業員 山本浩明が2020年6月15日に作成した調査報告書 (令和2年8月4日付け上申書に添付されたもの) 甲第32号証:熊本県畜産協会のウェブサイトの「食肉の知識」に掲載されている女子栄養大学出版部発行の「四訂食品成分表」に基づく「表3 食品可食部100g当たりのアミノ酸組成」(http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/tokusei_hataraki/hyo3.html) 甲第33号証:VGD INC.のウェブサイト(https://voigtglobal.com/bd-bbl-gaspak-anaerobic-systems/1342-bbl-envelope-gaspak-plus-hydrogen-co2-generator-271040-bd.html) 2.被請求人の主張 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては、本件特許発明を無効にすることはできないと主張する。 そして、被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。 (答弁書に添付されたもの) 乙第1号証:発酵工学、1977、第55巻、第2号、p68-74 乙第2号証:土と微生物、1991, No.38, pp.45-60 乙第3号証:特許6005453号公報 乙第4号証:特願2012-202388号出願の平成28年2月24日付け拒絶理由通知 乙第5号証:特願2012-202388号出願の平成28年4月22日付け意見書 乙第6号証:栄研化学株式会社従業員 下條誉幸が令和元年12月23日に作成した陳述書 乙第7号証:宮城学院女子大学生活科学部教授 正木恭介が令和元年8月16日に作成した意見書 乙第8号証:鹿児島大学医歯学総合研究科衛生学・健康増進医学教授 堀内正久が令和元年8月21日に作成した意見書 乙第9号証:大塚製薬株式会社従業員 上野友美が平成30年12月25日に作成した実験報告書 乙第10号証:産経ニュースのウェブサイトを印刷した書面 乙第11号証:「ブレインハートインヒュージョンブイヨン[ニッスイ]」、 日水製薬株式会社 (口頭審理陳述要領書に添付されたもの) 乙第12号証:日本食品科学工学会誌、2015年、62巻7号、p.356-363 乙第13号証:腸内細菌学雑誌、2007, 21巻3号, 217-220 乙第14号証:特開2008-61584号公報 乙第15号証:大塚製薬株式会社従業員 内山成人が令和2年4月21日に作成した実験報告書 乙第16号証:嫌気性菌生化学的同定キット「ラピッドID 32 A アピ」の添付文書 乙第17号証-1:日水製薬コスモ会からの回答メール(抜粋) 乙第17号証-2:日水製薬コスモ会のウェブページの印刷物 乙第18号証:鹿児島大学医歯学総合研究科衛生学・健康増進医学教授 堀内正久が令和2年4月20日に作成した意見書 (令和2年7月28日付け上申書に添付されたもの) 乙第19号証:大塚製薬株式会社従業員 内山成人が令和2年7月8日に作成した陳述書 第5 証拠の記載事項 1.甲第1号証 甲第1号証(以下、「甲1」と略記する。他の証拠についても同様とする。)には、以下の事項が記載されている。 (1-1)「 技 術 分 野 本発明は、エクオール産生能を有する乳酸菌、該乳酸菌を含有する組成物および該乳酸菌を利用してエクオールを製造する方法に関する。」(明細書1頁3行から5行) (1-2)「項1.ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を必須成分として含有することを待徴とするエクオール産生乳酸菌含有組成物。」(明細書2頁26行から末行) (1-3)「項9.ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種に、ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を作用させることを特徴とするエクオールの製造方法。 項10.ラクトコッカス属に属する乳酸菌が、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)である項9に記載の方法。」(明細書3頁11行から15行) (1-4)「該乳酸菌の具体例には、本発明者らがヒト糞便中より新たに単離・同定したラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)が包含される。 以下、この乳酸菌の菌学的性質につき詳述する。」(明細書3頁26行から28行) (1-5)「(13) アルギニンジヒドラーゼ: +」(明細書4頁20行) (1-6)「(2) ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質 本菌株ラクトコッカス20-92が資化するダイゼイン類には、ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインが含まれる。ダイゼイン配糖体の具体例としては、例えばダイジンを例示することができる。該ダイジンは、アグリコンとしてダイゼインを有するイソフラボン配糖体(ダイゼイン配糖体)である。該ダイジンの場合は、上記微生物により資化されて、ダイゼインを遊離し、該ダイゼインが更に資化されてジヒドロダイゼインとなり、それから最終的にエクオールが産生される。 本発明においては上記ダイゼイン類を基質として利用する。また、該基質としてはダイゼイン類に限らず、これを含有する各種の物質を利用することができる。該ダイゼイン類を含有する物質(ダイゼイン類含有物質)の代表例としては、大豆イソフラボンを例示することができる。大豆イソフラボンは、既に市販されており、本発明ではこのような市販品、例えばフジッコ社製「フジフラボンP10」(登録商標)などを利用することもできる。また、大豆イソフラボンに限らず、例えば葛、葛根、レッドクローブ、アルファルファなどの植物自体およびこれらを起源とするイソフラボン誘導体もまた、ダイゼイン類含有物質に含まれる。 更に、ダイゼイン類を含有する物質の他の具体例としては、上述した大豆、葛、葛根、レッドグローブ、アルファルファなどの食素材自体に加えて、それらの加工品、例えば大豆粉、煮大豆、豆腐、油揚げ、豆乳、大豆胚軸抽出物など、およびそれらの発酵調製物、例えば納豆、醤油、味噌、テンペ、発酵大豆飲料などを挙げることができる。これらはいずれもダイゼイン類を含有している。また、これらは、ダイゼイン類の他に、エストロゲン様作用を有するイソフラボン類、例えばゲニステインとその配糖体(ゲニスチンなど);グリシテインとその配糖体(グリシチンなど);ダイゼインおよびゲニステインの一部がメチル化された前駆体であるバイオチェインA(Biochain A)およびフォルモネチン(Formonetin)などを含有しており、本発明に好適に利用できる。」(明細書9頁3行から28行) (1-7)「試験例1 増殖性とエクオール産生能(活性)および生成量試験 (1)試験方法 ラクトコッカス20-92株(107-109/g)をBHIブロス(増殖用液体培地(基礎培地))5mL中で嫌気的条件下、37℃で24時間培養した後、基礎培地で102および104に希釈して希釈液を調製した。 培養終了後の培養液およびその各希釈液のそれぞれ0.2mLずつを、ダイゼイン含有基礎培地(BHIブロスにダイゼインを10μg/mLとなる量で添加したもの)、牛乳および豆乳の各5mLと混合し、嫌気的条件下、37℃で培養した。培養時間は10μg/mLダイゼイン含有基礎培地および豆乳では、8時間、24時間、48時間、72時間および96時間とし、牛乳では8時間、24時間および48時間とした。 培養開始前と各培養終了時点で、培養液0.1mLおよび0.2mLをサンプリングし、それぞれ菌数測定およびエクオール産生能(活性)測定に供した。更に、10μg/mLダイゼイン含有基礎培地および豆乳については、培養開始前と各培養終了時点で培養液0.5mLをサンプリングして、該液中のエクオール産生量を測定した。 菌数測定は次の通り行った。即ち、各サンプル0.1mLをPBS(-)溶液(ニッスイ社製)で希釈して104、105、106および107希釈液を作成し、これら各希釈液の0.1mLをGAM寒天培地に塗布して、好気的条件下に37℃で24時間培養し、培地上に生育してくるコロニー数を計測して菌数とした。 エクオール産生能(活性)の測定は次の通り行った。即ち、各サンプル0.2mLをダイゼイン含有基礎培地5mL(各3本)と混合し、96時間、嫌気的条件下、37℃で培養し、培養終了後に各培養液0.5mLをサンプリングして、酢酸エチル5mLで2回抽出後、抽出液中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオールをHPLCで測定し、また、それらの総量からエクオールの占める割合を算出した。得られた結果を下記5段階でスコア化し、3検体の平均スコアをエクオール産生能(活性)の指標とした。 4:90%以上エクオール、 3:エクオール生成、ダイゼインが50%未満に減少(中間体あり)、 2:エクオール生成、ダイゼイン50%以上が残存(中間体あり)、 1:中間体生成あり、エクオール生成なし 0:中間体およびエクオールの生成なし、ダイゼインの減少なし。 エクオール産生量測定は、次の通り行った。即ち各サンプル0.5mLを酢酸エチル5mLで2回抽出し、抽出液中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオールをHPLCで測定した。各濃度を算出してエクオール産生量とした。 (2)試験結果 (2-1)菌数(増殖性)を調べた結果を図1に示す。 図中、(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり、(2)は豆乳を利用した場合の結果であり、(3)は牛乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し、縦軸は生菌数(Log cfu/ml)を示す。 各図に示す結果より、本菌株の増殖性は良好であり、ダイゼイン含有基礎培地、豆乳および牛乳のいずれでも接種量の如何に関わらず培養8時間で定常状態に達した。菌数は、ダイゼイン含有基礎培地で109.1-9.4個/mLを維持し、豆乳では108.5-8.7個/mL、牛乳では108.0-8.4個/mLを維持することが判った。 (2-2)エクオール産生能(活性)を求めた結果を図2に示す。 図2において、(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり、(2)は豆乳を利用した場合の結果であり、(3)は牛乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し、縦軸はスコアを示す。 該図に示される結果から、ダイゼイン含有基礎培地、豆乳および牛乳のいずれにおいてもエクオール産生能(活性)は経時的に増加する傾向が確認された。しかも、牛乳および豆乳を利用した場合でも、本菌株のエクオール産生能(活性)は維持されることが確認された。 (2-3)エクオール産生量測定結果 ダイゼイン含有基礎培地および豆乳(ダイゼイン換算量として約80μg/mL)中に産生されるエクオール量を測定した結果は、図3に示すとおりである。 図3において(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり、(2)は豆乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し、縦軸はエクオール濃度(μg/ml)を示す。 両培地とも、培養開始後48時間目以降からエクオール産生を認めた。豆乳を利用した場合では、接種量の変化によるエクオール生成量の違いが観察され、特に4.00%接種によって培養96時間で57.0μg/mLの著量のエクオール生成が認められた。 豆乳中にはエクオールの基質となるダイゼインが90%以上配糖体(グルコースが結合した状態)で存在しているが、測定したクロマトグラム上には該配糖体のピークは消失していることから、本菌株は配糖体を分解し(β-グルコシダーゼ活性)てダイゼインを生成した後、該ダイゼインをエクオールに代謝するものと考えられる。」(明細書23頁22行から25頁末行) 2.甲第2号証 甲2には、ラクトコッカス・ガルビエの単離株は、ADH(アルギニンジヒドラーゼ)の活性が+の表現型であることが示されている。 3.甲第3号証の1~8 甲3の1~8には、アルギニンジヒドラーゼ経路によって、アルギニンからオルニチンが生成することに関して記載されている。 4.甲第4号証の1~3 甲4の1~3には、豆乳、大豆、牛乳にアルギニンが含まれることが記載されている。 5.甲第5号証の1、2 甲5の1、2には、オルニチンは、大豆発酵食品の発酵中に微生物がアルギニンの異化作用により系内に含まれているアルギニンから生成されることが記載されている。 6.甲第6号証の1、2 甲6の1は英語で記載されているから、甲6の1のパテントファミリ-である公表公報(甲6の2)を甲6の1の翻訳として用いる。なお、甲6の1及び甲6の2を併せて甲6と略記する。甲6には以下の事項が記載されている。 (6-1)「【0023】 本発明はまた、S-エクオール製品を製造する方法に関し、次のステップを含む: 1)基本的にS-エクオールからなるエクオール鏡像異性体を含み、微生物によってイソフラボンの代謝から生合成された組成物を提供すること;2)下記の抽出法から選ばれる抽出法によって前記組成物からS-エクオールを抽出し、S-エクオールを含む製品を製造すること;A)前記組成物を低分子量アルコールと混合し、水に対するアルコールの比率を少なくとも40:60および95:5以下で用意することを含む溶剤抽出法、およびB)前記組成物を約4.0と約5.5との間のpHで混合することを含む酸性水溶液抽出法;3)前記抽出物を約15%から約55%までの固形分に濃縮すること;4)前記濃縮物を約6%から約13%までの固形分に希釈すること;5)固体沈殿物を希釈した溶液から単離することで、S-エクオール製品を生成すること。」 (6-2)「【0065】 S-エクオールの生合成 従来の食品技術を利用して、S-エクオールはバルクで製造することができ、また種々の食品においては現場で製造できる。ダイゼインやダイゼインを誘導できる他のイソフラボン誘導体を含むベース培養液、食物製品または植物抽出物を提供できる。ダイゼインまたは他のイソフラボンは、標準的なバクテリア性または酵素発酵プロセスによってS-エクオールに変換でき、Sエクオールを含有するバルク溶液や食物製品、または植物抽出物を提供できる。 【0066】 食物製品としてのS-エクオールの製造は、ダイズイン、ダイゼイン、ホルモノネチンまたはプエラリンまたはそれらの共役物または混合物等の充分なスタート物質を含む食物に繁殖するバクテリアの代謝活動を利用することによって達成できる。図2に示すように、ダイゼインのエクオールへの変換は、3つの主なステップを含む:1) グルコシド共役基の加水分解;2)イソフラボンアグリコンのジヒドロ中間体への変換;および3)ジヒドロ中間体のエクオールへの変換。3つのステップの各々に必要な代謝経路および酵素は、必ずしも1つのバクテリアに現れるわけではない。ヒトの研究事例ではこれらの反応を行うことに関連して作用するひとつかそれ以上のバクテリアがしばしば存在するということが示唆される。これらの研究では、エクオールは、少量であるかほとんど検出されないかも知れないが、ジヒドロダイゼインは、しばしば大量に血漿および尿に存在するという事実が証明された。エクオールは単一の微生物によってダイゼインから製造されるかも知れないが、それぞれに固有の代謝の特徴を持つバクテリア種の混合物を使う時、よりよいまたは更に効率的な変換を達成することができると思われる。S-エクオールへの効果的な変換をするための重要な条件には、バクテリア微生物または微生物の混合物、培養温度および微生物が利用できる酸素の量の選択などが含まれる。これらの状態は、当業界に精通した人々によく知られている技術によって最適化できる。この反応を遂行するために使う微生物は、食品工業で使用される標準的な技術によって不活性化でき、またはその製品において活性状態であり続けることが可能である。 【0067】 ダイゼインおよび/または他の構造的にS-エクオールに関係するイソフラボン、または中間複合物を変換する過程で有用なバクテリアは、バクテリアの菌種や「エクオール産生者」であるヒトやウマ、齧歯類、または他の哺乳類の胃腸管にコロニーを作ることが見出されたバクテリアの菌種を含むことができる。哺乳類の腸内バクテリアは、糞便で見出されるので、エクオール産生バクテリアもまたエクオール産生哺乳類の糞便中に見出せる。 【0068】 発酵過程で有用な典型的なバクテリアは、最適変換速度およびエクオールの生合成を効率的に行うことを示すべきである。 【0069】 典型的にはダイゼイン(または他の関連イソフラボン)を中間体を通じてS-エクオールへ変換するために、一つ以上のバクテリア菌種が必要である。その反応は、一般に3つの主な反応のうちの1つ以上を含む:イソフラボングリコンからアグリコンイソフラボンへの変換;アグリコンイソフラボンからジヒドロイソフラボンへの変換;およびジヒドロイソフラボンから産物エクオールへの変換である。例えば、ウマの糞尿から単離した微生物の混合培養液および「エクオール産生者」として知られるヒトの胃腸管から単離した混合培養液は、インビボで行うようにグリコンダイセインを最終生成物であるS-エクオールに変換することができる。 【0070】 グリコンをアグリコンに変換できる(例えばダイズインをダイゼインに)典型的なバクテリア菌種は、ENTEROCOCCUS FAECALIS、LACTOBACILLUS PLANTARUM、LISTERIA WELSHIMERI、「エクオール産生者」の哺乳類の腸管から単離された微生物の混合培養物、BACTERIODES FRAGILIS、BIFIDOBACTERIUM LACTIS、EUBACTRIA LIMOSUM、LACTOBACILLUS CASEI、LACTOBACILLUS ACIDOpHILOUS、LACTOBACILLUS DELBRUECKII、LACTOBACILLUS PARACASEI、LISTERIA MONOCYTOGENES、MICROCOCCUS LUTEUS、PROPRIONOBACTERIUM FREUDENREICHIIおよびSACHAROMYCES BOULARDII、およびそれらの混合物を含む。 【0071】 アグリコンをエクオールに(例えばダイゼインをエクオールに)変換できる典型的なバクテリア菌種はPROPRIONOBACTERIA FREUNDENREICHII、BIFIDOBACTERIUM LACTIS、LACTOBACILLUS ACIDOpHILUS、 LACTOCOCCUS LACTIS、 ENTEROCOCCUS FAECIUM、LACTOBACILLUS CASEIおよびLACTOBACILLUS SALIVARIUS、および「エクオール産生者」の哺乳類の胃腸管から単離された微生物の混合培養物を含む。」 (6-3)「【実施例5】 【0152】 食品中におけるダイゼインのエクオールへのバクテリア変換 還元環境下でダイゼインを代謝させることができるバクテリアまたはバクテリアの組み合わせを見出す実験において、ほぼ20 mg/lのダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳の諸試料に、異なるバクテリア単独またはいくつかの微生物の組み合わせを植え付けた。微生物を植えつけた豆乳を37℃で42時間まで嫌気状態で培養した。実験期間の全体にわたってある時間間隔で試料を抜出し、イソフラボン含有量、特にダイゼイン含有量を分析した。ダイゼインのエクオールへの変換は、時間と共に当該反応物中のダイゼインレベルの低下を伴い、変わりに水素化産物、即ちエクオールが現れる。ダイゼインレベル以外で、イソフラボン含有量の著しい変化は微生物を植えつけた試料のいずれにも見当たらず、このことはイソフラボン(適当な代謝バクテリアが存在しないか不活性である時のダイゼインを含む)の安定性を明示している。結果を表Dに示す。調べた7種の微生物を植えつけた試料のうち、4種は全培養期間中ダイゼイン濃度に変化を示さなかった。微生物を植えつけた試料のうちの3種は、水素化化合物の濃度変化に伴ってダイゼインレベルの実質的な低下を示した。この変化に作用した微生物はPROPRIONOBACTERIA FREUNDENREICHII、以下を含む混合培養物:BIFIDOBACTERIUM LACTIS、LACTOBACILLUS ACIDOpHILUS、LACTOCOCCUS LACTIS、ENTEROCOCCUS FAECIUM、LACTOBACILLUS CASEI、およびLACTOBACILLUS SALIVARIUS、およびウマの糞便から単離した混合培養物であった。初期レベルのほぼ50%のダイゼイン減失は、ウマの糞便混合培養物では15時間未満で生じ、そして他の2種の培養物では25時間までかかった。 【0153】 【表4】 [図:0001393420000001.jpg] 」 7.甲第7号証 甲7には、ストレプトコッカス・ラクチスは、アルギニンデイミナーゼ経路を介して、アルギニンを代謝し、オルニチン、アンモニア、二酸化炭素及びATPを産生すること、アルギニンデイミナーゼ経路はかつてアルギニンジヒドラーゼ経路と言われていたことが記載されている。 8.甲第8号証 甲8には、ストレプトコッカス・ラクチスは、ラクトコッカス・ラクチスと呼ばれることが記載されている。 9.甲第9号証 甲9には以下の事項が記載されている。 (9-1)「本発明によれば、次に、ダイゼインを資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を、ダイゼイン含有物に作用させて得られるエクオールを含有する、食品形態又は医薬品形態の組成物(以下「エクオール含有組成物」という)が提供される。」(明細書7頁11~15行) (9-2)「本発明によれば、また、ダイゼインを資化してエクオールを産生する能力を有する微生物が、バクテロイデス・オバタス、ストレプトコッカス・インターメディアス及びストレプトコッカス・コンステラータスからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記イソフラボン含有組成物及びエクオール含有組成物、特に該微生物が、FERM BP-6435として寄託されたバクテロイデス E-23-15(Bacteroides E-23-15)、FERM BP-6436として寄託されたストレプトコッカス E-23-17(Streptococcus E-23-17)及びFERM BP-6437として寄託されたストレプトコッカス A6G-225(Streptococcus A6G-225)からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記イソフラボン含有組成物及びエクオール含有組成物が提供される。」(明細書7頁16行~8頁7行) (9-3)「ダイゼインに、ダイゼインを資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を作用させる、エクオールの製造方法も提供される。」(明細書9頁19~21行) (9-4)「本発明によれば、更に、FERM BP-6435として寄託されたバクテロイデス E-23-15、FERM BP-6436として寄託されたストレプトコッカス E-23-17及びFERM BP-6437として寄託されたストレプトコッカス A6G-225から選択される微生物も提供される。」(明細書9頁最終行~10頁5行) (9-5)「本発明エクオール含有組成物は、上記ダイゼイン含有物、好ましくは大豆イソフラボン又はこれを含有する食素材を基質として利用して、一般的な発酵方法に従い、上記微生物を培養することによって調製できる。 この方法は、より詳しくは、例えば基質を溶液状態にして滅菌した後、これに所定の微生物を添加して、37℃下に、嫌気状態あるいは好気的静置状態で、48~96時間程度発酵(必要に応じてpH調節剤、還元物質(例えば酵母エキス、ビタミンK1等)を添加できる)させることにより実施できる。 上記培養は、例えばストレプトコッカス インターメディアス菌の場合は、より好ましくは次の如くして実施できる。即ち、嫌気性菌増殖用の変法GAM培地(Modified Gifu Anaerobic Medium)に、基質としてダイゼインを0.01~0.5mg/mlの範囲で溶解する。予め、変法GAM培地で14時間程度前培養して増殖させた微生物の培養液を、ダイゼインを溶解させた変法GAM培地に接種する。接種量は培地の1/100容量とする。好気的条件下に、37℃で、48~96時間静置培養する。 本発明は、かかる微生物を利用したエクオールの製造方法をも提供するものである。 上記発酵系内には、更に好ましくは上記微生物の維持、増殖に特に適した栄養成分を含有させることができる。該栄養成分としては、例えば乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラクチュロース、ラクチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等のオリゴ糖を例示できる。これらの配合量は、特に限定されるものではないが、通常本発明組成物中に1~3重量%程度配合される量範囲から選ばれるのが好ましい。 かくして、所望のエクオール含有培養物が得られる。」(明細書27頁21行~29頁7行) (9-6)「実施例3 発酵豆乳凍結乾燥粉末の調製 ストレプトコッカスA6G-225(FERM BP-6437)約107個/mlの1mlを用いて、豆乳100gを37℃で24時間乳酸発酵させて、エクオールを生成させた。これを凍結乾燥して粉末とした。粉末中のエクオール含量は、0.1~0.3重量%であった。 上記粉末を用いて、下記処方の各成分を秤量混合して、発酵豆乳凍結乾燥粉末形態の本発明組成物を調製した。 発酵豆乳凍結乾燥粉末 2.2g 賦形剤 適量 ビタミン・ミネラル 適量 香料 適量 全量 20g 尚、賦形剤としては、コーンスターチ17gを用いた。」(明細書32頁7行~20行) 10.甲第10号証 甲10には、「変法GAM培地」はアルギニンを含んでいることが記載されている。 11.甲第11号証 甲11には、「ストレプトコッカスA6G-225(FERM BP-6437)」が「オルニチン産生能力」を有することが示されている。 12.甲第12号証 本件特許に係る出願は第3世代の分割出願であるところ、甲12はその親出願である特願2009-519326号の再公表公報であり、本件特許明細書と同様の事項が記載されている。 13.甲第15号証の1~3 甲15には、「BHIブロス」(Bact Brain Heart Infusion)は脳や心臓の生体成分を含み、それらにアルギニンが含まれることが記載されている。 第6 当審の判断 1.無効理由1について (1)本件特許発明 本件特許発明は、前記第3に示したように、次のとおりのものである。 「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること、及び、 前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む、オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって、 前記発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し、及び、 前記発酵物が食品素材として用いられるものである、 前記製造方法。」 (2)甲1に記載された発明 第5の1.より、甲1には、ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌であるラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcusgarvieae)、具体的にはラクトコッカス20-92(FERMBP-10036号)で発酵処理し、エクオールが産生された発酵物が得られていることが記載されているから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「ダイゼイン配糖体、ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料(豆乳を含むダイゼイン含有基礎培地など)を エクオール産生能力を有する微生物であるラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)で発酵処理することを含む、 エクオールを含有する発酵物を製造する方法。」 (3)対比 本件特許発明と甲1発明を対比すると、両者は、 「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む、エクオールを含有する発酵物の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違すると認められる。 (相違点1)本件特許発明は「発酵原料にアルギニンを添加すること」を含み、「アルギニンを含む発酵原料を」、「オルニチン産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む」、「オルニチン及びエクオールを含有する」「発酵物の製造方法」であり、「発酵処理により、発酵物の乾燥重量1g当たり、前記8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成」することが特定されているのに対して、甲1発明は「エクオールを含有する発酵物を製造する方法」である点。 すなわち、本件特許発明では、発酵原料がアルギニンを添加したものであること、微生物がオルニチン産生能力を有すること、及び発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成することが特定されているのに対して、甲1発明ではこれらの点が特定されていない点。 (相違点2) 本件特許発明では、製造される発酵物について、粉末状であること、及び食品素材として用いられることが特定されているのに対して、甲1発明では特定されていない点。 (4)検討 (相違点1)について 本件特許発明にいう「オルニチン及びエクオールを含有する」「発酵物の製造方法」は、発酵物に含まれる「発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」を有用な生成物として生成させることを目的とするものと認められ、換言するなら、本件特許発明は『オルニチン及びエクオールの製造方法』に関するものといえる。そして、本件特許発明では、「発酵物の乾燥重量1g当たり、前記8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールの生成」が特定されており、これは発酵物中のオルニチンやエクオール生成量が前者であれば8mg以上、後者であれば1mg以上という所定量である発酵物が得られるように製造することが特定されていると認められる。 したがって、当該所定量のオルニチンとエクオールを有用な生成物として生成させることが本件特許発明の目的であって、この目的を達成できるようにダイゼイン類にアルギニンを添加して発酵原料を調製し、特定の微生物を用いて発酵原料を発酵処理することが本件特許発明の技術思想であると認められる。 これに対して、甲1発明は、エクオールの生成を目的として発酵処理を行う発明であるが、甲1にはオルニチンの生成を目的として発酵処理を行うものではなく、ゆえに、発酵物中にオルニチンが所定量生成したことを確認したことなどは記載されていない。すなわち、甲1発明からは上記本件特許発明におけるオルニチンを生成しようとする技術思想をくみ取ることができない。同様に、甲2、甲3の1~8、甲4の1~3、及び他の証拠をみても、エクオールの生成を目的として発酵処理を行う際に、さらにオルニチンの生成を目的とすること、その際に、オルニチン産生能力を有する微生物を用いること、発酵物中のオルニチンの生成量が8mg以上である発酵物を製造することができるように、オルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加することが記載ないし示唆されているとは認められない。 したがって、相違点1を当業者が容易になし得るとはいえない。 よって、(相違点2)について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められない。 (5)無効審判請求人の主張について 無効審判請求人は、概ね次の点を主張していると認められる。 ア 甲18の1実験報告書および甲29分析報告書に示すように、甲1の試験例1で用いられる「BHIブロス」にはアルギニンが含まれており、「BHIブロス」のようなアルギニンを含む培地を用いてラクトコッカス20-92株の発酵を行えば、乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンが生成するといえる。 イ アルギニンジヒドラーゼがアルギニンからオルニチンが生成することは周知であり、ラクトコッカス20-92株がアルギニンジヒドラーゼ活性を有することも知られている(甲2)から、ラクトコッカス20-92株がオルニチン産生能力を備えることを認識できる。 ウ 単に発酵物に「オルニチン」及び「エクオール」が存在することは本件特許発明の効果であり、当該事項は甲1に記載されているに等しい事項である。 アについて 上記(4)で述べたとおり、本件特許発明は有用な生成物として所定量のエクオールとオルニチンが生成されることを目的とし、この目的を達成できるようにアルギニンを添加した発酵原料を調製して発酵処理することを技術思想とするものである。 甲1には発酵処理を行う際に、有用な生成物としてエクオールだけでなくオルニチンを生成させることは記載されておらず、また、そのためにアルギニンを添加することも記載されておらず、このようなことが他の証拠に教示されているとも認められない。 したがって、甲1の試験例1のようなラクトコッカス20-92株の培養物において、オルニチンが生成することやその量を確認したり、オルニチン生成を目的としてオルニチンの原料であるアルギニンを培地に添加したりすることを当業者が動機付けられるとはいえない。 イについて 本件特許発明のような製造方法に係る発明において、当該製造方法を行った結果として発酵物の中にオルニチンが存在していることと、有用な生成物としてオルニチンを生成させるようにすることとを同一視することはできない。甲1の記載から、エクオールを発酵により製造する際に、同時にオルニチンを製造しようとする動機は読み取れないから、アルギニンジヒドラーゼがアルギニンからオルニチンが生成すること、ラクトコッカス20-92株がアルギニンジヒドラーゼ活性を有することが当業者に知られていたとしても、甲1の記載に接した当業者が、有用な生成物としてエクオールだけでなくオルニチンを生成させることを容易に想到するとはいえない。 ウについて 請求人は、発酵物に「オルニチン」及び「エクオール」が存在することは発酵を行った結果にすぎないと主張していると解されるが、請求人のこのような主張は誤りである。上記(4)のとおり、本件特許発明は「オルニチン及びエクオール」を有用な生成物として所定量生成させる製造方法の提供を特徴とする発明である。 2.無効理由2について (1)甲6に記載された発明 第5の6.より、甲6には、「ほぼ20mg/lのダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳」に「以下を含む混合培養物:BIFIDOBACTERIUM LACTIS、LACTOBACILLUS ACIDOPHILUS、LACTOCOCCUS LACTIS、ENTEROCOCCUS FAECIUM、LACTOBACILLUS CASEI、およびLACTOBACILLUS SALIVARIUS」を植え付けた結果、エクオールを産生することが記載されている。 したがって、甲6は、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。 「ダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳を エクオール産生能力を有する微生物である、BIFIDOBACTERIUM LACTIS、LACTOBACILLUS ACIDOPHILUS、LACTOCOCCUS LACTIS、ENTEROCOCCUS FAECIUM、LACTOBACILLUS CASEI、及び、LACTOBACILLUS SALIVARIUSを含む「混合培養物」で発酵処理することを含む、 エクオールを含有する発酵物を製造する方法。」 (2)対比 本件特許発明と甲6発明を対比すると、両者は、 「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む、エクオールを含有する発酵物の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違すると認められる。 (相違点1’)本件特許発明は「オルニチン及びエクオールを含有する」「発酵物の製造方法」であり、「発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成」することが特定されているのに対して、甲1発明は「エクオールを含有する発酵物を製造する方法」であり、また、本件特許発明では、発酵原料にアルギニンを添加すること及び微生物がオルニチン産生能力有することが特定されているのに対して、甲6発明では特定されていない点。 (相違点2’) 本件特許発明では、製造される発酵物について、粉末状であること、及び食品素材として用いられることが特定されているのに対して、甲6発明では特定されていない点。 (3)検討 (相違点1’)について 本件特許発明は、上記1.(4)で検討したとおり、発酵物に含まれる「8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」を有用な生成物として生成させることを目的とする『オルニチン及びエクオールの製造方法』に関するものといえ、本件特許発明には、エクオールに加えて有意な量のオルニチンを製造するために、オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物を用いること、該微生物の発酵によってオルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加してオルニチンが8mg以上の発酵物が得られるように製造することが特定されていると認められる。 これに対して、甲6発明は、エクオールの生成を目的として発酵処理を行う発明であるが、甲6にはオルニチンの生成を目的として発酵処理を行うことは記載されていない。また、甲4の1、甲7、甲8、及び他の証拠をみても、エクオールの生成を目的として発酵処理を行う際に、さらにオルニチンの生成を目的とすること、その際に、オルニチン産生能力を有する微生物を用いること、オルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加してオルニチンが所定量含まれる発酵物が得られるように製造することが記載ないし示唆されているとは認められない。 したがって、相違点1’を当業者が容易になし得るとはいえない。 よって、(相違点2’)について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲6に記載された発明であるとも、甲6に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められない。 3.無効理由3について (1)甲9に記載された発明 第5の9.より、甲9には次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認められる。 「基質としてダイゼイン、例えば豆乳を含む発酵原料を 変法GAM培地でエクオール産生能力を有する微生物であるストレプトコッカス インターメディアス菌、特にストレプトコッカスA6G-225(FERM BP-6437)で発酵処理することを含む、 エクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって、 粉末状の発酵物の乾燥重量1g当たり、1mg~3mgのエクオールを生成し、 前記発酵物が、例えば飲料、乳製品、発酵乳、バー、顆粒、粉末、カプセル、錠剤等の食品形態として用いられる、製造方法。」 (2)対比 本件特許発明と甲9発明を対比すると、両者は、 「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む、エクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって、 該発酵物が食品素材として用いられるものである、 前記製造方法。」である点で一致し、次の点で相違すると認められる。 (相違点1”) 本件特許発明は「オルニチン及びエクオールを含有する」「発酵物の製造方法」であり、「発酵処理により、前記発酵物の乾燥重量1g当たり、8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成」することが特定されているのに対して、甲9発明は「エクオールを含有する発酵物を製造する方法」であり、また、本件特許発明では、発酵原料にアルギニンを添加すること及び微生物がオルニチン産生能力有することが特定されているのに対して、甲9発明では特定されていない点。 (3)検討 (相違点1”)について 本件特許発明は、上記1.(4)で検討したとおり、発酵物に含まれる「8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」を有用な生成物として生成させることを目的とする『オルニチン及びエクオールの製造方法』に関するものといえ、本件特許発明には、エクオールに加えて有意な量のオルニチンを製造するために、オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物を用いること、該微生物の発酵によってオルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加してオルニチンが8mg以上の発酵物が得られるように製造することが特定されていると認められる。 これに対して、甲9発明は、エクオールの生成を目的として発酵処理を行う発明であるが、甲9にはオルニチンの生成を目的として発酵処理を行うことは記載されていない。また、甲4の1、甲10、甲11、及び他の証拠をみても、エクオールの生成を目的として発酵処理を行う際に、さらにオルニチンの生成を目的とすること、その際に、オルニチン産生能力を有する微生物を用いること、オルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加してオルニチンが所定量含まれる発酵物が得られるように製造することが記載ないし示唆されているとは認められない。 したがって、相違点1”を当業者が容易になし得るとはいえない。 よって、本件特許発明は、甲9に記載された発明であるとも、甲9に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められない。 4.無効理由4について 請求人は、本件特許出願は分割要件違反であるから出願日は遡及せず、本件特許発明は甲12により新規性、進歩性を有しないことを主張している。 そこで、以下検討する。 (1)本件特許出願(第三世代)の原出願(特願2016-1563726号、特開2017-18120号公報、甲13、第二世代)の記載事項 分割出願に係る本件出願の原出願の明細書(甲13)には、発酵原料に関して、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。 「【0029】 以下、本発明について説明する 1.エクオール含有抽出物の製造方法 本発明は、のの製造方法(原文のまま)は、エクオール含有大豆胚軸発酵物を原料として用いて、エクオール含有抽出物を製造する方法を提供する。具体的には、本発明のエクオール含有抽出物の製造方法は、後述する第I法及び第II法の2つの手法に大別される。以下、本発明の製造方法において原料として使用されるエクオール含有大豆胚軸発酵物、並びに第I法及び第II法の具体的内容についてについて詳述する。 エクオール含有大豆胚軸発酵物 本発明のエクオール含有抽出物の製造方法は、エクオール含有大豆胚軸発酵物を原料として使用する。以下、エクオール含有大豆胚軸発酵物について説明する。 【0030】 エクオール含有大豆胚軸発酵物とは、エクオール産生微生物で大豆胚軸を発酵させて得られる大豆胚軸発酵物である。 【0031】 当該エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造に使用されるエクオール産生微生物としては、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物が使用される。ここで、ダイゼイン配糖体としては、具体的には、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等が挙げられる。 【0032】 上記エクオール産生微生物としては、食品衛生上許容され、上記能力を有する限り特に制限されず、従来公知のもの、或いは通常の方法でスクリーニングしたものを使用できる。例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcusgarvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcusintermedius)、ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcusconstellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroidesovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物の中にエクオール産生能を有する微生物が存在していることが分かっている。エクオール産生微生物の中で、好ましくは、ラクトコッカス属、及びストレプトコッカス属等の乳酸菌であり、更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、特に好ましくはラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。エクオール産生微生物は、例えば、ヒト糞便中からエクオールの産生能の有無を指標として単離することができる。上記エクオール産生微生物については、本発明者等により、ヒト糞便から単離同定された菌、即ち、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)、及びバクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)が寄託されており、本発明ではこれらの寄託菌を使用できる。これらの寄託菌の中でも、ラクトコッカス20-92が好適に使用される。 【0033】 当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は、発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される。大豆胚軸とは、大豆の発芽時に幼芽、幼根となる部分であり、ダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類が多く含まれていることが知られている。本発明に使用される大豆胚軸は、含有されているダイゼイン類が著しく損失されていないことを限度として、大豆の産地や加工の有無については制限されない。例えば、生の状態のもの;加熱処理、乾燥処理、蒸煮処理等に供された大豆から分離したもの;未加工の大豆から分離した胚軸を加熱処理、乾燥処理又は蒸煮処理等に供したもの等のいずれであってもよい。また、使用される大豆胚軸は、脱脂処理や脱タンパク処理に供したものであってもよい。また、使用される大豆胚軸の形状については、特に制限されるものではなく、粉末状であっても、粉砕又は破砕された粒状又は塊状であってもよい。より効率的にエクオールを生成させるという観点からは、粉末状の大豆胚軸を使用することが望ましい。 【0034】 大豆胚軸の発酵処理は、適量の水を大豆胚軸に加えて水分含量を調整し、これに上記エクオール産生微生物を接種することにより行われる。 【0035】 大豆胚軸に添加される水の量は、使用するエクオール産生微生物の種類や発酵槽の種類等によって応じて適宜設定される。通常、発酵開始時に、大豆胚軸と水が以下の割合で共存していればよい:大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、水が400~4000重量部、好ましくは500~2000重量部、更に好ましくは600~1000重量部。 【0036】 また、大豆胚軸の発酵において、発酵原料となる大豆胚軸には、必要に応じて、発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として、酵母エキス、ポリペプトン、肉エキス等の窒素源;グルコース、シュクロース等の炭素源;リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に、エクオール産生微生物として、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下、「オルニチン・エクオール産生微生物」と表記する)を使用する場合には、大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって、得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合、アルギニンの添加量については、例えば、大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、アルギニンが0.5~3重量部程度が例示される。なお、オルニチン・エクオール産生微生物としては、エクオール産生能とアルギニンからオルニチンへの変換能を指標として公知のスクリーニング方法により得ることができる。オルニチン・エクオール産生微生物は、例えばラクトコッカス・ガルビエから選択することができ、その具体例としてラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)が挙げられる。 【0037】 更に、使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)のpHについては、エクオール産生微生物が生育可能である限り特に制限されないが、エクオール産生微生物を良好に増殖させるという観点からは、発酵原料のpHを6~7程度、好ましくは6.3~6.8程度に調整しておくことが望ましい。 【0038】 また、使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)には、更に、前記ダイゼイン類を含むイソフラボンを添加しておいてもよい。このようにイソフラボンを発酵原料に別途添加しておくことにより、得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール含量をより高めることが可能になり、その有用性を一層向上させることができる。」 「【0091】 エクオールを含む発酵物は、エクオール産生微生物を用いて公知の方法に従って発酵することにより製造される。具体的には、エクオール産生微生物を、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を、該ダイゼイン類を含む発酵原料(発酵に供される原料)に接種し、該微生物の生育環境下で発酵(培養)させることにより、エクオールを含む発酵物を得ることができる。 【0092】 上記エクオール産生微生物としては、前記「1.エクオール含有抽出物の製造方法」の「エクオール含有大豆胚軸発酵物」の欄に記載するエクオール産生微生物が使用される。 【0093】 また、ダイゼイン類を含む発酵原料としては、ダイゼイン類を含む限り、特に制限されるものではないが、安全性の観点から、食品素材としても利用可能なものが好適である。ダイゼイン類を含む発酵原料としては、具体的には、大豆、大豆胚軸、大豆胚軸の抽出物、豆腐、油揚げ、豆乳、納豆、醤油、味噌、テンペ、レッドクローブ又はその抽出物、アルファルファ又はその抽出物等が挙げられる。これらの中でも、大豆胚軸は、ダイゼイン類を豊富に含んでいるので、ダイゼイン類を含む発酵原料として好ましい。」 (2)分割要件と出願日の遡及について 上記(1)のとおり、本件特許出願(第三世代)の原出願(第二世代)の明細書(甲13)には、「エクオール産生微生物を、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を、該ダイゼイン類を含む発酵原料(発酵に供される原料)に接種し、該微生物の生育環境下で発酵(培養)させることにより、エクオールを含む発酵物を得ることができる。」、「ダイゼイン類を含む発酵原料としては、ダイゼイン類を含む限り、特に制限されるものではない」と記載されており、エクオールの発酵原料として「ダイゼイン類を含む発酵原料」が記載され、大豆胚軸はダイゼイン類の代表例として記載されていると認められる。また、発酵原料には他の成分が添加されることも記載されており、これらの点は、本件特許出願(第三世代)の親出願(第一世代)の明細書(甲12)にも記載されていると認められる。 そうすると、本件特許明細書には「大豆胚軸」を代表とする「ダイゼイン類」がエクオールの発酵原料として記載されていると認められ、「大豆胚軸」にアルギニンを添加するとの記載から、「ダイゼイン類」にアルギニンを添加することも記載されているといえる。 したがって、本件特許発明に特定される「ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること、及び、前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料」をエクオールの発酵原料とすることは、本件特許出願(第三世代)の原出願(第二世代)及び親出願(第一世代)の明細書に記載されていた事項であると認められる。 よって、原出願及び親出願と同じく、本件特許発明の新規性・進歩性の判断は遅くとも本件出願の親出願の出願日である「2008年6月13日」より前の文献に基づいてなされるといえる。 (3)新規性、進歩性について 本件特許出願は第三世代の分割出願であるところ、甲12はその親出願である特願2009-519326号(PCT/JP/2008/060913)の再公表公報であって、その記載内容は平成20(2008)年12月18日に国際公開されているが、甲12は上記「2008年6月13日」よりも後に公知となった文献であるから、この文献により本件特許発明を新規性要件違反、進歩性要件違反とすることはできない。 (4)請求人の主張について 請求人は甲14の1(山本実験報告書)を示し、本件特許明細書の実施例における「大豆胚軸」を「大豆イソフラボン」又は「ダイゼイン」に置き換えた場合に、エクオールが生成しないことを根拠として、本件特許発明は分割要件を満たさない旨を主張している。 しかし、甲14の1に記載された実験結果と本件特許発明の分割の適法性とは直接関係がない。 甲14の1の実験で発酵に使用されている微生物はdo03株(Asaccharobacter celatusDSM 18785)であって、本件特許明細書の実施例に記載されたラクトコッカス20-92株ではなく、甲14の1で採用された方法がエクオールを生成しなかったのであれば、当該方法は本件特許発明には該当しないだけのことである。 なお、被請求人の実験(乙15)によれば、エクオールの産生が認められており、採用する方法における条件の検討によってエクオールの産生が可能となる場合もあると考えられる。 したがって、請求人の主張は採用できない。 5.無効理由5について (1)本件特許発明の技術上の意義 本件特許明細書には、次の事項が記載されている。 「【0226】 原料として使用した粉末状大豆胚軸(表2及び3中、発酵前と表記する)及び得られた粉末状大豆胚軸発酵物(表2及び3中、発酵後と表記する)の含有成分の分析を行った。大豆イソフラボン類の分析結果を表2に、栄養成分の分析結果を表3に示す。この結果からも、ラクトコッカス20-92株によって大豆胚軸を発酵させることにより、高含量のエクオールを含む大豆胚軸発酵物が製造されることが確認された。また、ラフィノースやスタキオース等のオリゴ糖は、発酵前後でその含量が同程度であり、発酵による影響を殆ど受けないことが明らかとなった。一方、アルギニンについては、発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。従って、大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス20-92株で発酵処理することにより、エクオールのみならず、オルニチンをも生成させ得ることが明らかとなった。」 本件特許発明の技術上の意義は、本件明細書の上記記載からみて、ラクトコッカス20-92株を用いて発酵を行うと、培地中のアルギニンからオルニチンが生成することを明らかにし、そのことに基づいて、エクオールに加えて有意な量のオルニチンを含有する発酵物の製造方法を提供したことであると認められる。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記記載に加えて【表3】(段落【0228】)に発酵によりアルギニンからオルニチンが生成することが示されていることから、技術上の意義に関して十分に記載されていると認められる。 したがって、本件特許明細書は委任省令要件を満足する。 (2)請求人の主張について 請求人は、無効理由5に係る委任省令違反に関して、概ね次の点を主張していると認められる。 ア 本件明細書には、発酵物がオルニチンを含有することの効果に関して記載されていない。 イ 甲14の1を示し、本件明細書には、「ダイゼイン」を発酵原料とする場合のエクオールを生成する手段について記載されていない。 ウ 本件明細書には、本件訂正発明(本件特許発明)の課題について記載されていない。 アについて 上記(1)のとおり、本件特許発明の技術上の意義は、エクオールに加えて有意な量のオルニチンを含有する発酵物の製造方法を提供したことであり、製造された発酵物がオルニチンを含有することの効果まで記載される必要はない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 イについて 本件特許明細書には、大豆胚軸を発酵原料とする場合の製造方法について具体的に記載されており、当業者であれば、大豆胚軸の場合の記載を参考に製造条件を検討して、「ダイゼイン」を発酵原料とする場合にもエクオールを生成させることができると認められる。 また、甲14の1については、上記4.(4)で検討したとおりである。 したがって、請求人の主張は採用できない。 ウについて 上記(1)のとおり、本件特許明細書は委任省令要件を満足する。 請求人は発明の「課題」について主張しており、仮にこの主張が「発明の解決しようとする課題」についての主張であるなら、当該課題が解決できるかどうかは、委任省令要件ではなく特許法第36条第6項第1号に規定されるいわゆるサポート要件の問題である。 なお、本件特許発明がサポート要件を満足することについては、無効2018-800122号の審決において、無効理由2についての判断で述べたとおりである。 したがって、請求人の主張は採用できない。 第7 むすび 請求人の主張する無効理由についての当審の判断は、以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。

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2019-800098

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