特許異議申立
2019-700277
3次元チルトセンサ及びこれを用いた測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する方法
- 審判番号
- 2019-700277
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-244441
- 登録番号
- 特許第6401594号(P6401594)
- 請求日
- 2019年04月10日
- 審決日
- 2019年09月30日
- 公報発行日
- 2020年02月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社カツラ・オプト・システムズ
- 【異議申立人】中野 善和
- 審判長/審判官
- 審判長 小林 紀史
- 審判官 濱野 隆
- 審判官 中塚 直樹
- 分類
- P1651.121-ZC (G01B) / P1651.113-ZC (G01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6401594号発明「3次元チルトセンサ及びこれを用いた測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
特許第6401594号の請求項1、3に係る特許を取り消す。
同請求項2、4に係る特許を維持する。
理由
第1 手続の経緯
特許第6401594号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成26年12月2日になされたものであり、平成30年9月14日にその特許権の設定の登録がされ、同年10月10日にその特許掲載公報が発行された。本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の数は4である。
これに対して、平成31年4月10日に特許異議申立人中野善和(以下、「申立人」という。)は、証拠として甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、本件特許の請求項1ないし4について特許異議の申立てをしたところ、当審から令和1年6月26日付けで本件特許の請求項1及び3について取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
測定用光を測定対象に照射して前記測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する3次元チルトセンサであって、
測定用光源と、コリメータレンズと、第一及び第二の測定用光学系と、ハーフミラーと、前記測定対象に設ける回折格子からなる専用ターゲットとから構成され、
前記第一の測定用光学系は、前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの反射光(0次の回折光)に基づいて前記専用ターゲット上に設定したX軸とY軸のそれぞれの軸廻りの角度変位を測定し、
前記第二の測定用光学系は、前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの1次の回折光に基づいて前記専用ターゲット上に設定した前記X軸と前記Y軸とに垂直なZ軸廻りの角度変位を測定し、
前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位が0の場合に、前記Z軸廻りの角度変位(ロール)を次の数1により算出する、
ことを特徴とする3次元チルトセンサ。
(ロール)=sin-1{(θX0-θX1)÷sin-1(λ÷d)}・・・・(数1)
【請求項2】
測定用光を測定対象に照射して前記測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する3次元チルトセンサであって、
測定用光源と、コリメータレンズと、第一及び第二の測定用光学系と、ハーフミラーと、前記測定対象に設ける回折格子からなる専用ターゲットとから構成され、
前記第一の測定用光学系は、前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの反射光(0次の回折光)に基づいて前記専用ターゲット上に設定したX軸とY軸のそれぞれの軸廻りの角度変位を測定し、
前記第二の測定用光学系は、前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの1次の回折光に基づいて前記専用ターゲット上に設定した前記X軸と前記Y軸とに垂直なZ軸廻りの角度変位を測定し、
前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位が0以外の場合に、前記Z軸廻りの角度変位(ロール)を次の数2により算出する、
ことを特徴とする3次元チルトセンサ。
(ロール)=tan-1(θY0÷θX0)-tan-1(-s3÷g3)・・・・(数2)
【請求項3】
3次元チルトセンサを用いた、測定用光を測定対象に照射して前記測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する方法であって、
測定用光源から照射される前記測定用光をコリメータレンズにより平行光線とし、前記平行光線とした前記測定用光をハーフミラーを透過させて前記測定対象に設けられた専用ターゲットの面上に垂直に照射し、
前記専用ターゲットからの反射光(0次の回折光)を前記ハーフミラーに反射させることによって第一の測定用光学系に導き、前記第一の測定用光学系により第一の受光素子に前記反射光を結像させ、前記結像による結像点の位置に基づいて前記専用ターゲットの面上に設定したX軸及びY軸廻りの角度変位を求め、
前記専用ターゲットからの1次の回折光の方向に第二の測定用光学系を設け、前記第二の測定用光学系により、第二の受光素子に前記1次の回折光を結像させ、前記結像による結像点の位置に基づいて前記専用ターゲットの面に対して垂直に設けたZ軸廻りの角度変位を求めることにより、
前記専用ターゲットの前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位及び前記Z軸廻りの角度変位に基づいて、前記測定対象の3軸廻りの角度変位を求め、
前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位が0の場合に、前記Z軸廻りの角度変位(ロール)を次の数1により算出する、
ことを特徴とする測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する方法。
(ロール)=sin-1{(θX0-θX1)÷sin-1(λ÷d)}・・・・(数1)
【請求項4】
3次元チルトセンサを用いた、測定用光を測定対象に照射して前記測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する方法であって、
測定用光源から照射される前記測定用光をコリメータレンズにより平行光線とし、前記平行光線とした前記測定用光をハーフミラーを透過させて前記測定対象に設けられた専用ターゲットの面上に垂直に照射し、
前記専用ターゲットからの反射光(0次の回折光)を前記ハーフミラーに反射させることによって第一の測定用光学系に導き、前記第一の測定用光学系により第一の受光素子に前記反射光を結像させ、前記結像による結像点の位置に基づいて前記専用ターゲットの面上に設定したX軸及びY軸廻りの角度変位を求め、
前記専用ターゲットからの1次の回折光の方向に第二の測定用光学系を設け、前記第二の測定用光学系により、第二の受光素子に前記1次の回折光を結像させ、前記結像による結像点の位置に基づいて前記専用ターゲットの面に対して垂直に設けたZ軸廻りの角度変位を求めることにより、
前記専用ターゲットの前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位及び前記Z軸廻りの角度変位に基づいて、前記測定対象の3軸廻りの角度変位を求め、
前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位がそれぞれ0以外の場合に、前記Z軸廻りの角度変位(ロール)を次の数2により算出する、
ことを特徴とする測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する方法。
(ロール)=tan-1(θY0÷θX0)-tan-1(-s3÷g3)・・・・(数2)」
第3 取消理由の概要
当審において、請求項1及び3に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件発明1及び3は、下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
引用文献1:W.Gao(2),Y.Saito,H.Muto,Y.Arai,Y.Shimizu
「A three-axis autocollimator for detection of angular error motions of a precision stage」
CIRP Annals- Manufacturing Technology 第60巻、第1号、第515-518頁、2011年(甲第1号証)
第4 引用文献1に記載された発明
上記引用文献1の第515頁右欄第5行~第517頁左欄第14行までの記載内容並びに図面Fig.1及びFig.2の図示内容を総合すると、上記引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「X軸、Y軸及びZ軸の3軸方向に移動可能な精密リニアステージにおける各軸廻りの角度誤差、すなわち、X軸廻りのピッチ誤差ΔθX、Y軸廻りのヨー誤差ΔθY及びZ軸廻りのロール誤差ΔθZを検出する3軸オートコリメータであって、
ステージ移動テーブル上に配置された格子間隔gの格子反射器に対して、レーザダイオード(LD)から射出された波長λのS偏光光がコリメートレンズ(CL)によりコリメート光に変換され、偏光ビームスプリッタ(PBS)により前記格子反射器側に曲げられ、そのビーム光が1/4波長板(QWP)により円偏光とされた上で、前記格子反射器に垂直に入射され、
前記格子反射器からの0次回折ビーム及び1次回折ビームは、前記1/4波長板(QWP)によりp偏光光に変換され、前記偏光ビームスプリッタ(PBS)を通過し、焦点距離fのコリメータ対物レンズ(CO)を介してオートコリメーションユニットの2つの位置検出器I、IIにおいてそれぞれ受光されるものであり、
前記2つの位置検出器I、IIは、結像した回折ビームスポットのX方向及びY方向の変位を検出できるように、前記コリメータ対物レンズ(CO)の焦点面に距離Lだけ離れて配置されており、
ステージがヨー誤差ΔθYを有する場合に、0次回折ビーム及び1次回折ビームの受光位置が、それぞれX方向にΔxI及びΔxIIだけ初期位置から変位したとすると、ΔxIとΔxIIは等しく、ΔθYは小さいことから、
ΔθY=ΔxII/KθY・・・(3)
ただし、KθY=2f・・・(4)
により、ヨー誤差ΔθYが得られるものであり、
ステージがピッチ誤差ΔθXを有する場合に、0次回折ビーム及び1次回折ビームの受光位置が、それぞれY方向にΔyI及びΔyII1だけ初期位置から変位したとすると、ΔyIとΔyII1は等しく、ΔθXは小さいことから、
ΔθX=ΔyI/KθX・・・(5)
ただし、KθX=2f・・・(6)
により、ピッチ誤差ΔθXが得られるものであり、
ステージがロール誤差ΔθZを有する場合に、0次回折ビームの受光位置がY方向にΔyIだけ初期位置から変位し、1次回折ビームの受光位置がY方向にΔyIIだけ初期位置から変位したとすると、ΔθZは小さいことから、
ΔθZ=(ΔyII-ΔyI)/KθZ・・・(9)
ただし、KθZ=ftan(arcsinλ/g)・・・(10)
により、ロール誤差ΔθZが得られるものである、
3軸オートコリメータ。」
第5 対比・判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「精密リニアステージ」は、本件発明1の「測定対象」に相当するから、引用発明の「X軸、Y軸及びZ軸の3軸方向に移動可能な精密リニアステージにおける各軸廻りの角度誤差」は、本件発明1の「測定対象の3軸廻りの角度変位」に相当する。
また、引用発明の「レーザダイオード(LD)」は、本件発明1の「測定用光源」に相当するから、引用発明の「レーザダイオード(LD)から射出された波長λのS偏光光」は、本件発明1の「測定用光」に相当する。
そうすると、引用発明の「X軸、Y軸及びZ軸の3軸方向に移動可能な精密リニアステージにおける各軸廻りの角度誤差」「を検出する3軸オートコリメータ」は、本件発明1の「測定用光を測定対象に照射して前記測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する3次元チルトセンサ」に相当する。
イ 引用発明の「コリメートレンズ(CL)」は、本件発明1の「コリメータレンズ」に相当し、引用発明の「ステージ移動テーブル上に配置された格子間隔gの格子反射器」は、本件発明1の「前記測定対象に設ける回折格子からなる専用ターゲット」に相当する。
また、引用発明の「焦点距離fのコリメータ対物レンズ(CO)」及び「オートコリメーションユニットの2つの位置検出器I、II」の組合せは、本件発明1の「第一及び第二の測定用光学系」に相当する。
そして、引用発明の「偏光ビームスプリッタ(PBS)」は、測定対象からの光を測定用光学系に導く機能を有する光学部材である点で、本件発明1の「ハーフミラー」と同じ機能を果たしているといえる。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「測定用光源と、コリメータレンズと、第一及び第二の測定用光学系と、測定対象からの光を測定用光学系に導く機能を有する光学部材と、前記測定対象に設ける回折格子からなる専用ターゲットとから構成され」る点で共通する。
ウ 引用発明の「ビーム光」が「前記格子反射器に垂直に入射され」ることは、本件発明1の「前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射すること」に相当する。
また、引用発明の「格子反射器」からの「0次回折ビーム」及び「1次回折ビーム」は、それぞれ本件発明1の「前記専用ターゲットからの反射光(0次の回折光)」及び「前記専用ターゲットからの1次の回折光」に相当するから、引用発明の「焦点距離fのコリメータ対物レンズ(CO)」及び「位置検出器I」の組合せは、本件発明1の「第一の測定用光学系」に相当し、引用発明の「焦点距離fのコリメータ対物レンズ(CO)」及び「位置検出器II」の組合せは、本件発明1の「第二の測定用光学系」に相当する。
エ 引用発明の「Y軸廻りのヨー誤差ΔθY」、「X軸廻りのピッチ誤差ΔθX」および「Z軸廻りのロール誤差ΔθZ」は、本件特許の明細書の段落【0045】の「X軸廻りの角度変位(ヨー)」、「Y軸廻りの角度変位(ピッチ)」という記載及び段落【0046】の「Z軸廻りの角度変位(ロール)」という記載を参酌すれば、それぞれ本件発明1の「X軸の軸廻りの角度変位」(ヨー)、「Y軸の軸廻りの角度変位」(ピッチ)及び「前記X軸と前記Y軸とに垂直なZ軸廻りの角度変位」(ロール)に相当するから、引用発明の「X軸」、「Y軸」及び「Z軸」は、それぞれ本件発明1の「Y軸」、「X軸」及び「Z軸」に相当する。
オ 引用発明では、「位置検出器I」における「0次回折ビーム」の「受光位置」の「Y方向」「変位」「ΔyI」により、式(5)「ΔθX=ΔyI/KθX」を適用して、「X軸廻りのピッチ誤差ΔθX」を得ているから、引用発明の「焦点距離fのコリメータ対物レンズ(CO)」と「位置検出器I」は、本件発明1の「前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの反射光(0次の回折光)に基づいて前記専用ターゲット上に設定した」「Y軸」の「軸廻りの角度変位を測定」する「第一の測定用光学系」に相当する。
カ 引用発明では、「位置検出器II」における「1次回折ビーム」の「受光位置」の「X方向」「変位」「ΔxII」により、式(3)「ΔθY=ΔxII/KθY」を適用して、「Y軸廻りのヨー誤差ΔθY」を得ているから、本件発明1と引用発明とは、「前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの光に基づいて前記専用ターゲット上に設定した」「X軸」の「軸廻りの角度変位を測定」する「測定用光学系」を備えている点で共通する。
キ 引用発明では、「位置検出器I」における「0次回折ビーム」の「受光位置」の「Y方向」「変位」「ΔyI」及び「位置検出器II」における「1次回折ビーム」の「受光位置」の「Y方向」「変位」「ΔyII」により、式(9)「ΔθZ=(ΔyII-ΔyI)/KθZ」を適用して、「Z軸廻りのロール誤差ΔθZ」を得ているから、引用発明においても、「第二の測定光学系」が「前記専用ターゲットからの1次の回折光に基づいて前記専用ターゲット上に設定した」「Z軸廻りの角度変位を測定」しているといえる。
ク 上記ア~キより、本件発明1と引用発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点1~3において相違する。
[一致点]
「測定用光を測定対象に照射して前記測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する3次元チルトセンサであって、
測定用光源と、コリメータレンズと、第一及び第二の測定用光学系と、測定対象からの光を測定用光学系に導く機能を有する光学部材と、前記測定対象に設ける回折格子からなる専用ターゲットとから構成され、
前記測定用光学系は、前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの光に基づいて前記専用ターゲット上に設定したX軸の軸廻りの角度変位を測定し、
前記第一の測定用光学系は、前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの反射光(0次の回折光)に基づいて前記専用ターゲット上に設定したY軸の軸廻りの角度変位を測定し、
前記第二の測定用光学系は、前記専用ターゲットの面上に垂直に前記測定用光を照射することによる前記専用ターゲットからの1次の回折光に基づいて前記専用ターゲット上に設定した前記X軸と前記Y軸とに垂直なZ軸廻りの角度変位を測定する、
3次元チルトセンサ。」
[相違点1]
「測定対象からの光を測定用光学系に導く機能を有する光学部材」が、本件発明1では「ハーフミラー」であるのに対して、引用発明では「偏光ビームスプリッタ(PBS)」である点。
[相違点2]
本件発明1では、「前記専用ターゲット上に設定したX軸とY軸のそれぞれの軸廻りの角度変位」のいずれについても、「第一の測定用光学系」が「前記専用ターゲットからの反射光(0次の回折光)に基づいて」「測定」しているのに対して、引用発明では、「X軸廻りのピッチ誤差ΔθX」(本件発明1の「Y軸の軸廻りの角度変位」に相当)については、「位置検出器I」(本件発明1の「第一の測定光学系」に相当)の受光する「0次回折ビーム」に基づいて測定しているものの、「Y軸廻りのヨー誤差ΔθY」(本件発明1の「X軸の軸廻りの角度変位」に相当)については、「位置検出器II」(本件発明1の「第二の測定光学系」に相当)の受光する「1次回折ビーム」に基づいて測定しており、同一の測定光学系が測定するものではない点。
[相違点3]
本件発明1では、「前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位が0の場合に、前記Z軸廻りの角度変位(ロール)を次の数1により算出」しているのに対して、引用発明では、(数1)により算出しているのか否か明らかではない点。
(ロール)=sin-1{(θX0-θX1)÷sin-1(λ÷d)}・・・・(数1)
(2)判断
上記相違点1から3について検討する。
ア 相違点1について
「測定対象からの光を測定用光学系に導く機能を有する光学部材」として、「ハーフミラー」を用いることや、「偏光ビームスプリッタ」を用いることは、いずれも例示するまでもなく周知の事項であるから(本件特許の明細書の段落【0037】の「上記の様な機能を有すれば上記ハーフミラーに限定されるものではなく、プリズム等を利用したビームスプリッタ等を用いることも可能である。」の記載も参照。)、引用発明において、「偏光ビームスプリッタ(PBS)」の代わりに「ハーフミラー」を採用することにより、上記相違点1に係る本件発明1のごとく構成することは、当業者が容易に為し得たことである。
イ 相違点2について
引用発明では、「Y軸廻りのヨー誤差ΔθY」(本件発明1の「X軸の軸廻りの角度変位」に相当)について、「位置検出器II」の受光する「1次回折ビーム」の「受光位置」の「X方向」「変位」「ΔxII」により、式(3)「ΔθY=ΔxII/KθY」を適用して測定しているが、引用発明では、「位置検出器I」の受光する「0次回折ビーム」の「受光位置」の「X方向」「変位」「ΔxI」と、「位置検出器II」の受光する「1次回折ビーム」の「受光位置」の「X方向」「変位」「ΔxII」は「等しい」としていることから、上記式(3)において「ΔxII」の代わりに「ΔxI」として「ΔθY」を算出した場合にも正しい値が得られることは明らかであり、その場合には、「位置検出器I」の受光する「0次回折ビーム」の「受光位置」の「X方向」「変位」「ΔxI」により「Y軸廻りのヨー誤差ΔθY」を測定したことになる。
そうすると、引用発明において、「X軸廻りのピッチ誤差ΔθX」(本件発明1の「Y軸の軸廻りの角度変位」に相当)及び「Y軸廻りのヨー誤差ΔθY」(本件発明1の「X軸の軸廻りの角度変位」に相当)のいずれについても、「位置検出器I」(本件発明1の「第一の測定光学系」に相当)の受光する「0次回折ビーム」に基づいて測定するようにして、上記相違点2に係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易に為し得たことである。
ウ 相違点3について
(ア) 引用発明は、「ΔθZは小さい」としたときに、
式(9)「ΔθZ=(ΔyII-ΔyI)/KθZ」により「ロール誤差ΔθZ」を得るものであるが、「1次回折ビームの受光位置」は、角度偏差に応答して、C1からD1まで半径Lを有してC0のまわりに回転するから(第516頁右欄下から8行目から5行目までの記載を参照)、Y方向の変位「ΔyII」について、「ΔθZは小さい」という前提を設けず、C0C1=C0D1=Lの関係を考慮すれば、Fig.2に示された幾何学的関係より、
ΔyII=ΔyI+LsinΔθZ
という関係式が成り立ち、これにより、
ΔθZ=sin-1{(ΔyII-ΔyI)/L}・・・(a)
という式から、「ロール誤差ΔθZ」が算出される。
(イ) 「前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位が0の場合」には、引用発明では、ΔyI=0となり、上記式(a)は、
ΔθZ=sin-1(ΔyII/L)・・・(b)
となる。
(ウ) 本件特許の明細書の段落【0039】には、「上記図2においては、上記各回折光の結像点における各座標は、上記専用ターゲット140を基点とした各回折光の角度線上の位置を角度で表示している。」と記載されており、上記式(b)について、本件特許の明細書の上記記載に沿った形で表現してみると、
ΔθZ=sin-1(1次回折光のY方向変位を回折角で表現したもの/位置検出器IとIIの距離を回折角で表現したもの)・・・(c)
となる。
(エ) 「1次回折ビーム」の回折角を「φ1st」とすると、レンズの公式から、式(1)「L=ftanφ1st」が得られるから(Fig.1も参照)、上記式(c)の右辺の「位置検出器IとIIの距離を回折角で表現したもの」は、「φ1st」であり、式(2)「φ1st=arcsin(λ/g)」から、それは「arcsin(λ/g)」に等しく、本件発明1の「sin-1(λ÷d)」に相当する。
(オ) 上記「(1)対比」のエにおいて検討したように、引用発明の「Y軸」は本件発明1の「X軸」に相当するから、上記式(c)の右辺の「1次回折光のY方向変位を回折角で表現したもの」は、本件発明1の「(θX0-θX1)」に相当する。
カ そうすると、上記式(c)は、本件発明1の「(数1)」に相当するから、結局のところ、本件発明1の「(数1)」は、引用発明において、「ロール誤差ΔθZ」の算出の際、「ΔθZは小さい」という前提を設けずに幾何学的関係に基づき、回折光の結像点における座標表示を回折光の角度線上の位置に対応する角度で行うことにより得たものに他ならず、上記相違点3に係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易に為し得たことである。
そして、本件発明1の奏する効果は、引用発明から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著であるということはできない。
したがって、本件発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。
2 本件発明3について
本件発明3は、「測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する方法」の発明であり、本件発明1と発明のカテゴリ上の差異があるにすぎないから、上記1において対比・判断した内容が同様に当てはまる。
そして、本件発明3の奏する効果は、引用発明から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著であるということはできない。
したがって、本件発明3は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。
3 小括
上記1及び2から、請求項1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人は、本件発明2及び4が、甲第1号証に記載された発明に甲第3号証記載の技術事項、甲第5~7号証に開示された周知技術を採用することにより当業者が容易に発明できたものであるから、請求項2及び4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張する。
なお、申立人は、本件発明1及び3が、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1及び3に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたもの(新規性欠如)である旨主張するが、上記第5において述べたとおり、当審は、請求項1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたもの(進歩性欠如)であると判断しており、新規性に係る判断も行っているから、上記新規性欠如に係る特許異議申立理由について、ここで改めて言及はしない。
2 当審の判断
(1)本件発明2について
本件発明2と甲第1号証に記載された引用発明(上記第4の1を参照。)とを、上記第5の「1 本件発明1について」の「(1)対比」において検討した内容も参照しながら対比すると、両者は、上記「(1)対比」において示した一致点で一致し、同じく上記「(1)対比」において示した相違点1、2に加えて以下の相違点3’において相違する。
[相違点3’]
本件発明2では、「前記X軸及び前記Y軸廻りの角度変位が0以外の場合に、前記Z軸廻りの角度変位(ロール)を次の数2により算出」しているのに対して、引用発明では、(数2)により算出しているのか否か明らかではない点。
(ロール)=tan-1(θY0÷θX0)-tan-1(-s3÷g3)・・・・(数2)
相違点1及び2については、上記第5の「1 本件発明1について」の「(2)判断」の「ア 相違点1について」及び「イ 相違点2について」において述べたとおりであり、以下では、上記相違点3’について検討する。
上記相違点3’に係る本件発明2の(数2)の導出については、本件特許の明細書の段落【0051】~【0053】に記載されているところ、その要点は、射出レーザ光の単位ベクトルeの方向をZ軸負方向とする、3次元チルトセンサに固定した3次元直交座標系XYZにおいて、正反射光の単位ベクトルr0と回折光の単位ベクトルr1を求め、この3つの単位ベクトルr0,r1,eから、専用ターゲット(回折格子)の姿勢を表す3つの互いに直交する単位ベクトルn,g,sをそれぞれ計算により求めて、この3つの単位ベクトルn,g,sによって張られた座標系と、上記3次元チルトセンサに固定した3次元直交座標系XYZとの間の座標変換式を、いわゆるZ-Y-Zオイラー角φ、θ、ψを用いて行列表現した際、その表現行列(回転行列R)の第3行第1列成分g3と同行第2列成分s3の比の逆正接によりψを特定すれば、1次回折光の角度変位が求められ((数2)の右辺第2項)、0次回折光の角度変位((数2)の右辺第1項)と合算することにより、X軸及びY軸廻りの角度変位(ヨー、ピッチ)が0以外の場合にも、Z軸廻りの角度変位(ロール)が導けるというものである。
この点に関して、申立人より証拠として提出された甲第3号証、甲第5~7号証には、次のとおりの技術事項が記載されていると認められる。
ア 甲第3号証(伊藤昌文外4名「リソグラフィ・マークのレーザー回折光を用いた位置姿勢の検出法」、計測自動制御学会論文集、1991年10月31日、第27巻、第10号、第1188~1190頁)
「ガラス基板上のアルミ膜に一次元回折格子を形成し、その上に位相型円形回折格子を重ね合わせて形成した基準点用回折格子マークを測定対象物に取り付け、当該マークに平行なレーザビームを照射することにより生じる、円形回折格子による楕円錐状の回折光と、一次元回折格子による三角平面状の回折光をスクリーン上で観察することにより、測定対象物の姿勢を検出する方法において、
センサ座標系をOs-XsYsZs、測定対象物の座標系をOw-XwYwZwとし、スクリーンをXsYs平面、照射レーザーの光軸をZs軸、マークを取り付ける対象物面をXwYw平面、1次元の回折格子の方向をXw軸、円形回折格子の中心を座標系原点とすると、
センサ座標系Os-XsYsZsに対する対象物面XwYwの最大傾斜角α、最大傾斜角方向β、Zw軸回りの回転角γは、オイラー角に相当し、楕円の回折像の楕円の長径に対する短径の比Rを測定することにより、(1)式を用いてαを算出し、楕円の長軸とXs軸とのなす角を測定してβを得て、得られたα、βと直線の回折像の傾きθにより、(2)式を用いてγを算出すること。」
イ 甲第5号証(特開2005-214867号公報)
「回転中心要素1を中心に回転する回転体に対して、その回転体と一体に回転するレーザ光源4、5からレーザ光を照射し、回転体からの反射光を、回転体の支持機構に固定された2次元位置検出装置6、7で受光して、それらの受光点の位置情報を検出して、ロール角(x軸回り)、ヨー角(z軸回り)、ピッチ角(y軸回り)の3軸回りの角度で表現される回転体の姿勢角を算出する、姿勢角検出装置において、2次元位置検出装置6、7に係る位置検出3次元座標系で表した単位光線ベクトルsP、sQを、座標変換の変換行列を用いて、支持機構固定座標系で表した単位光線ベクトルP、Qに変換し、前記単位光線ベクトルP、Qの各座標軸成分と、ロール角α、ヨー角β、ピッチ角γとの関係式を、3軸回転時の回転行列を用いて導出し、得られた関係式から3軸姿勢角の変位量Δα、Δβ、Δγを求める式を導くこと。」(段落【0016】~【0021】、【0024】~【0069】、【図1】、【図3】、【図4】)
ウ 甲第6号証(特開平5-240940号公報)
「移動体1のレーザ計測装置3から再帰反射器CCに向けて面ビーム41、42を照射し、再帰反射器CCからの反射光をレーザ計測装置3にて受光する光計測システムにより、固定直交座標系O-XYZにおける移動体の位置(XP,YP,ZP)及び姿勢(Ψ,Θ,Φ)を求める際に、
移動体座標系o-xyzからみた再帰反射器CCの位置ベクトル<ci>の単位ベクトル<Li>を、移動体からの観測角θi、φiを求めることにより特定し、
固定直交座標系O-XYZからみた移動体座標系o-xyzの原点oの位置ベクトル<P>と、オイラー角で表現した回転行列<R>を用いて、固定直交座標系O-XYZと移動体座標系o-xyzとの座標変換を<X>=<R><x>+<P>で表して、
移動体の位置(XP,YP,ZP)及び姿勢(Ψ,Θ,Φ)を数値解析の手法により求めること。」
(段落【0017】~【0030】、【0037】、【図1】、【図4】、【図5】、【図7】~【図9】)
エ 甲第7号証(特開2014-71850号公報)
「ユーザーがAR(拡張現実)の画像を出力するために、AR時カメラ102を用いてマーカを撮影したとき、マーカ座標系で見たカメラの位置座標、伏角及び方位角を求める際に、マーカ座標系とカメラ座標系との座標変換をオイラー角で表現した回転行列を用いて特定し、この回転行列からマーカ座標系で見たカメラの位置座標、伏角及び方位角を算出すること。」
(段落【0131】~【0143】、【0192】~【0222】)
オ 甲第5~7号証に開示された周知技術
上記イ~エにおいて認定した各技術事項を踏まえると、甲第5~7号証には、以下の周知技術が開示されているといえる。
「対象物上に設定した座標系と固定された座標系との間の座標変換をオイラー角を用いた回転行列で表現し、得られた関係式から対象物の姿勢(角度変位)を算出すること。」
そこで、引用発明に上記甲第3号証記載の技術事項を適用することが当業者にとって容易なものであるか否かについて検討してみると、そもそも引用発明では、X軸、Y軸及びZ軸の3軸回りの角度誤差を検出するために、ステージ移動テーブル上に配置された格子反射器に座標系を設定し、XYZ固定座標系と格子反射器設定座標系との間の座標変換をオイラー角を用いた回転行列で表現しようとしたものではなく、それを示唆するような記載も引用文献1(甲第1号証)には見当たらない。
また、甲第3号証記載の技術事項は、一次元回折格子の上に位相型円形回折格子を重ね合わせて形成した基準点用回折格子マークを測定対象物に取り付け、当該マークに平行なレーザビームを照射することにより生じる、円形回折格子による楕円錐状の回折光と、一次元回折格子による三角平面状の回折光をスクリーン上で観察することにより、測定対象物の姿勢を検出するものであるから、格子間隔gの格子反射器からの0次回折ビームと1次回折ビームを2つの位置検出器で受光し、それぞれの受光スポットの変位から、幾何学的関係に基づいて3軸回りの角度誤差を得ようとする引用発明とは、その測定原理が異なるものである。
そうすると、甲第5~7号証に開示された上記周知技術を参照したとしても、引用発明に上記甲第3号証記載の技術事項を適用する契機は見い出せないから、上記相違点3’に係る本件発明2の構成は、引用発明と、甲第3号証記載の技術事項、甲第5~7号証に開示された周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用することはできず、本件発明2は、甲第1号証、甲第3号証、甲第5~7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
なお、甲第2号証(枝番を含む)及び甲第4号証は、それぞれ甲第1号証及び甲第3号証の公知日を特定するために提出されたものにすぎない。
(2)本件発明4について
本件発明4は、「測定対象の3軸廻りの角度変位を測定する方法」の発明であり、本件発明2と発明のカテゴリ上の差異があるにすぎないから、上記(1)において対比・判断した内容が同様に当てはまる。
したがって、本件発明4は、甲第1号証、甲第3号証、甲第5~7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
3 小括
上記2の(1)及び(2)から、申立人の主張する特許異議申立理由によっては、請求項2及び4に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
また、請求項2及び4に係る特許については、特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700277