2019-014576
車両用乗員拘束装置
- 審判番号
- 2019-014576
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-020637外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年10月31日
- 審決日
- 2020年08月04日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】トヨタ自動車株式会社
- 【請求人代理人】中島 淳
- 分類
- P18 .121-WY (B60R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 19項目
第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月7日の出願であって、令和1年5月24日付けで拒絶理由が通知され、同年7月11日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月31日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年10月31日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1~4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第3 本願発明
本願の請求項1~4に係る発明(以下「本願発明1~4」という。)は、令和1年7月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】前方車両との前面衝突までの衝突残り時間を予測する衝突残り時間予測部と、自車両の乗員に対して車両後方へ力を付与する力付与部と、前記乗員と車両用シートのシートバックとの間の間隙を拡大させる間隙拡大部と、続きを表示(全16行)前記乗員と前記シートバックとの間の間隙の大きさを予測する間隙予測部と、前記間隙拡大部が作動した場合に、前記衝突残り時間予測部により予測された前記衝突残り時間が、前記乗員を車両後方へ前記間隙の大きさ分引き戻すのに要する引き戻し時間以下の場合に限って、前記力付与部の作動を開始させる制御部と、を有する車両用乗員拘束装置。【請求項2】前記間隙予測部は、前記車両用シートに着座した乗員に装着されたシートベルトの引き出し量、前記乗員を撮影した撮影画像、及び前記自車両の減速度の少なくとも1つに基づいて、前記間隙の大きさを予測する請求項1記載の車両用乗員拘束装置。【請求項3】前記間隙拡大部は、前記自車両を減速させ前記乗員を慣性により前傾させるブレーキ装置、前記シートバックを後傾させるリクライニング装置、及び前記車両用シートを車両後方へ移動させるシートスライド装置の少なくとも1つである請求項1又は請求項2に記載の車両用乗員拘束装置。【請求項4】前記力付与部は、前記車両用シートに着座した乗員に装着されたシートベルトを引き込む火薬式プリテンショナ及び電動モータの少なくとも1つである請求項1~3の何れか1項に記載の車両用乗員拘束装置。」
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項等
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(1)引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
(1-1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される乗員移動制御装置であって、
シートバックを有するシートと、
前記シートに座る乗員を前記シートに拘束するシートベルトと、
前記乗員を後方に移動させる移動機構と、
前記車両の前面衝突を予知する衝突予知部と、
前記衝突予知部が予知した前記前面衝突により発生する前記乗員の減速度を予測し、その予測された減速度が前記乗員に発生し始める減速開始タイミングを予測する減速予測部と、
前記減速開始タイミング以前に前記乗員の後方移動を前記移動機構に始めさせる移動制御部とを備える、乗員移動制御装置。
【請求項2】
前記移動制御部は、前記減速開始タイミングから所定の時間遡ったタイミング以後に前記乗員の後方移動を前記移動機構に始めさせるものであり、
前記所定の時間は、前記移動機構が前記乗員を後方に移動させることが可能な総距離を移動させるのに必要な移動時間である、請求項1に記載の乗員移動制御装置。
【請求項3】
前記移動機構は、前記シートバックと前記乗員との間に前記乗員が移動可能な空間を生成する生成機構と、前記シートベルトを引張ることにより前記乗員を前記空間に移動させる引張機構とを有し、
前記移動制御部は、前記減速開始タイミング以前に、前記空間の生成を前記生成機構に始めさせ、且つ、前記シートベルトの引張りを前記引張機構に始めさせる、請求項1又は2に記載の乗員移動制御装置。」
(1b)「【0001】
本発明は、乗員移動制御装置に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の前面衝突により発生する減速度は、車体からシートやシートベルトを介して乗員に伝達される。よって、前面衝突による減速度が車両に発生してから、前面衝突による減速度が乗員に発生するまでには、例えば図1の矢印で示されるように、タイムラグがある。前面衝突時以降の乗員の減速度を低減するには、乗員の減速度の発生を早めて、そのようなタイムラグを短縮することが望ましい。
【0005】
しかしながら、衝突の瞬間にシートを後方を移動させる上述の従来技術では、実際の衝突を検知してからシートを後方に移動させるまでに遅れがあるので、乗員の減速度の発生を十分に早めることは難しい。
【0006】
そこで、乗員の減速度の発生を早め易い、乗員移動制御装置の提供を目的とする。」
・・・
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0011】
図2は、乗員移動制御装置1の構成の一例を示す図である。乗員移動制御装置1は、車両100に搭載され、車両100の乗員6の移動を制御する装置の一例である。乗員移動制御装置1は、例えば、シート2と、シートベルト4と、リトラクタ3と、タング7と、バックル8と、移動機構20と、衝突予知部30と、減速予測部40と、移動制御部50とを備える。
・・・
【0021】
衝突予知部30と、減速予測部40と、移動制御部50とは、例えば、少なくとも一つのECU(Electronic Control Unit)により実現可能である。ECUは、一つ又は複数のマイクロコンピュータを備える。
【0022】
衝突予知部30は、車両100(自車両)の前面衝突を予知する。衝突予知部30は、例えば、車両100の前方障害物の運動状態と車両100の運動状態とを各センサにより検知し、車両100の前方障害物との衝突を回避できず且つ移動機構20を起動させるべき衝突が発生するか否かを予知する。
・・・
【0024】
減速予測部40は、衝突予知部30が予知した前面衝突により発生する乗員6の減速度を予測し、その予測された減速度(以下、「減速度Do」と称する)が乗員6に発生し始める減速開始タイミング(以下、「減速開始タイミングTo」と称する)を予測する。減速予測部40は、例えば、車両100の前方障害物との衝突を回避できず且つ移動機構20を起動させるべき衝突が発生すると衝突予知部30により予知された場合、減速開始タイミングToを予測する。
【0025】
減速予測部40は、例えば、衝突予知部30が予知した前面衝突に関して事前に取得可能なデータ(衝突事前データ)を用いて、減速開始タイミングToを予測する。衝突事前データの具体例として、車両100の前面との衝突が衝突予知部30により予知された前方障害物の種類、形状、大きさ、当該前方障害物との衝突予測位置、当該前方障害物との衝突予測角度、車両100の走行速度、車両100の加減速度などが挙げられる。
・・・
【0029】
移動制御部50は、減速予測部40が予測した減速開始タイミングTo以前に乗員6の後方移動を移動機構20に始めさせる移動制御信号を出力する。これにより、移動機構20は、減速開始タイミングTo以前に乗員6を後方に移動させることを開始するので、図3に示されるように、乗員6の実減速度Drが発生し始めるタイミングTrを早めやすい。
【0030】
図3は、前面衝突以後の車両100の減速度Dcと、前面衝突により発生すると予測される乗員6の減速度Doと、適切なタイミングで後方移動させた乗員6の実減速度Drとの各推移の一例を示す図である。
【0031】
乗員移動制御装置1によれば、車両100から乗員6に伝達される減速度が立ち上がる以前に、衝突以降に乗員6が負うエネルギーの一部が車両100に与えられるので、衝突以降の乗員6への負荷を軽減することができる。また、乗員移動制御装置1によれば、乗員6を後方移動させることにより、図3の矢印で示されるように、乗員6を後方移動させない場合に比べて、乗員6の減速度の急減を抑制できる。
・・・
【0033】
ところで、移動制御部50は、減速開始タイミングToから所定の時間D1遡ったタイミング(To-D1)以後に乗員6の後方移動を移動機構20に始めさせるのがよい。所定の時間D1とは、移動機構20が乗員6を後方に移動させることが可能な総距離を移動させるのに必要な移動時間である。つまり、移動制御部50は、(To-D1)からToまでの期間に乗員6の後方移動を始めさせるのが好ましく、乗員6を最も減速できるタイミング(To-D1)にできるだけ近いタイミングで、乗員6の後方移動を始めさせるのがより好ましい。移動制御部50は、(To-D1)からToまでの期間内のタイミングで乗員6の後方移動を始めさせることで、乗員6の後方移動を早く始めすぎることを防止できる。
【0034】
移動制御部50又は減速予測部40は、(To-D1)からToまでの期間内で、乗員6の後方移動を移動機構20に始めさせるタイミングTr(図3参照)を決定する。移動制御部50又は減速予測部40は、予測された減速度Doの大きさ、予測された減速波形、予測された減速度Dc、予測された衝突波形の少なくとも一つに応じて、(To-D1)からToまでの期間内のタイミングTrを調整する。
【0035】
図5は、前面衝突の場面で後方移動させるタイミングが異なる場合の乗員6の速度の各推移の一例を示す図である。図5において、「衝突」は、車両100の前面と前方障害物との衝突タイミングを示す。また、図5において、車両100の前面との衝突物が前方車両である場合の減速開始タイミングToを「T1」とする。
・・・
【0042】
図7は、乗員6をシートベルト4の引張りで後方移動可能にする空間15をシートバック12の一部の変形により生成する場合の一例を示す図である。図8は、シートバック12の一部の変形により生成された空間15に乗員6をシートベルト4の引張りで後方移動させる場合の一例を示す図である。
【0043】
図7,8において、移動機構20は、シートバック12と乗員6との間に乗員6が後方移動可能な空間15を生成する生成機構21と、シートベルト4を引張ることにより乗員6を空間15に移動させる引張機構22とを有する。
【0044】
生成機構21は、シートバック12の一部を変形させることによって、空間15を生成するものであり、例えば、シートバック12の車両前後方向の厚さを可変する。なお、空間15の生成手段は、これに限られない。
【0045】
引張機構22は、シートベルト4を引張ることによって、乗員6を生成機構21により生成された空間15に後方移動させるものである。引張機構22は、例えば、リトラクタ3に内蔵され、ショルダーベルト部9を引張るプリテンショナーを用いる装置である。引張機構22は、ラップベルト部10を引張るプリテンショナーを用いる装置でもよい。なお、シートベルト4の引張機構22は、これらに限られない。ショルダーベルト部9とラップベルト部10の少なくとも一方を引張る引張機構22は、電動モータを用いる装置でもよいし、スプリングを用いる装置でもよいし、圧縮空気を用いる装置でもよい。
【0046】
移動制御部50は、減速開始タイミングTo以前に、空間15の生成を生成機構21に始めさせてから、シートベルト4の引張りを引張機構22に始めさせる。これにより、乗員6の後方移動が減速開始タイミングTo以前に始まる。
・・・
【符号の説明】
【0061】
1 乗員移動制御装置
2 シート
3 リトラクタ
4 シートベルト
5 ベルトアンカー
6 乗員
・・・
15,16 空間
・・・
20 移動機構
21,23 生成機構
22 引張機構
30 衝突予知部
35 シートレール機構
40 減速予測部
50 移動制御部
100 車両」
(1c)引用文献1には、以下の図が示されている。
(1-2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載のとおり(摘示(1a))、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、図番は、摘示(1b)を参考に付した。)。
「車両100に搭載される乗員移動制御装置1であって、シートバック12を有するシート2と、前記シート2に座る乗員6を前記シート2に拘束するシートベルト4と、前記乗員6を後方に移動させる移動機構20と、続きを表示(全12行)前記車両100の前面衝突を予知する衝突予知部30と、前記衝突予知部30が予知した前記前面衝突により発生する前記乗員6の減速度を予測し、その予測された減速度が前記乗員6に発生し始める減速開始タイミングToを予測する減速予測部40と、前記減速開始タイミングTo以前に前記乗員6の後方移動を前記移動機構20に始めさせる移動制御部50とを備え前記移動制御部50は、前記減速開始タイミングToから所定の時間D1遡ったタイミング(To-D1)以後に前記乗員6の後方移動を前記移動機構20に始めさせるものであり、前記所定の時間D1は、前記移動機構20が前記乗員6を後方に移動させることが可能な総距離を移動させるのに必要な移動時間であり、前記移動機構20は、前記シートバック12と前記乗員6との間に前記乗員6が移動可能な空間15、16を生成する生成機構21、23と、前記シートベルト4を引張ることにより前記乗員6を前記空間15、16に移動させる引張機構22とを有し、前記移動制御部50は、前記減速開始タイミングTo以前に、前記空間15、16の生成を前記生成機構21、23に始めさせ、且つ、前記シートベルト4の引張りを前記引張機構22に始めさせる、乗員移動制御装置1。」
(2)引用文献2の記載事項
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引用文献2には、次の記載がある。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、請求項1の前提部分によって乗員を車両座席に拘束する方法に関し、また特に請求項15の前提部分による方法で用いる、交通事故中に乗員を車両座席に拘束する安全拘束装置に関する。
・・・
【0013】本発明による解決法によると、特に前部座席の乗客は常に完全に背もたれにもたれた位置にいるわけではなく、車両中の乗員は、前かがみ(正しい位置から外れている状態)にさえもなっている可能性があり、まず第一にある一定の力で座席へ引き戻され、その後車両が危険な状態の間、ある保持力で保持されるが、その保持力は、低めのものを選択することができる。
・・・
【0022】乗員位置検出装置により、図2に示した方法の場合に乗員が通常の着座位置にいるかどうか検知することが可能であり、例えば、この検知出力に基づいて作動を実行することが可能である。乗員の位置は赤外線センサ装置、超音波センサ装置、レーダー・センサ装置、およびベルト伸び測定装置を用いて、例えば座席と背もたれの位置により、および/またはベルトの駆動装置の運動の測定により検知が可能である。
【0023】乗員がより前方の位置、例えばエアバッグに関して「正しい位置から外れている状態」の着座位置にいる場合、一般には前部座席の乗客の場合に起こると考えられるが、乗客は車両座席へ、つまり通常の着座位置へ力S2で引き戻され、時間t1後、危険な車両状態の間中、より低い力S3で保持されることになる。」
(3)引用文献3の記載事項
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引用文献3には、次の記載がある。
(3a)「【0001】
本発明は、衝突時若しくは急激な減速時に乗員の保護を図るために、シートベルト及びエアバッグを組合せた乗員拘束装置に関するものである。
・・・
【0026】
図3は本発明に係る乗員拘束装置のブロック図であり、乗員拘束装置10は、車速センサ35及びGセンサ36の情報から、制御部37でシートベルト装置20及びエアバッグ装置30を制御すべき状況かどうかを判断させ、シートベルト装置20及びエアバッグ装置30を制御すべき状況であると判断したときに、カメラ(乗員認識手段・シート認識手段)31で、乗員13の頭部を監視するとともにヘッドレスト16を監視することで、乗員13の頭部とヘッドレスト16との距離を算出し、シートベルト22の引込み量と、エアバッグ41の膨出展開量を決定する。シートベルト22の引込みはプリテンショナ21に設けたモータ(張力調整手段)29を駆動することで行い、エアバッグ41は供給手段42で圧縮空気を供給することで膨出展開させ、その量(膨出展開量)は展開制御手段43によるテザー52の長さにて決定する。」
(4)引用文献4の記載事項
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引用文献4には、次の記載がある。
(4a)「【0001】
本発明は、車両に対して車両前方から障害物が衝突する衝突前段階に、制動装置を自動的に作動させる自動制動システムを搭載した車両で用いられる乗員保護装置の作動制御装置に関する。
・・・
【0007】
本局面による乗員保護装置の作動制御装置は、検出した車両の減速加速度と、作動可否判定閾値との関係に基づいて乗員保護装置の作動可否を判定する判定手段を備え、自動制動システムにより実行される自動制動に関する自動制動情報に基づいて、前記作動可否判定閾値を変更するものであってよい。前記自動制動情報は、制動装置の自動的な作動により発生された制動量に関する情報であって、前記作動可否判定閾値は、該制動量に応じて変更されるものであってよい。前記自動制動情報は、制動装置の自動的な作動により発生された制動量に関する情報であって、前記作動可否判定閾値は、該制動量が大きい場合は小さい場合に比べて低くされてよい。前記乗員保護装置は、展開出力が可変のエアバック装置を含み、乗員保護装置の作動制御装置は、前記自動制動情報に基づいて、前記エアバック装置の展開出力を変更するものであってよい。前記乗員保護装置は、ステアリングコラム部に設けられるエネルギ吸収加重が可変のコラム吸収エネルギ可変機構、又は、シートベルト張力が可変のシートベルト張力可変機構を含み、乗員保護装置の作動制御装置は、前記自動制動情報に基づいて、前記エネルギ吸収加重又は前記シートベルト張力を変更するものであってよい。
・・・
【0040】
自動制動情報とは、自動制動実行中か否かを表す情報や、自動制動により発生される制動量を表す情報を含んでよい。かかる自動制動情報を得るため、プリクラッシュECU80は、自動制動実行中、自動制動減速度G1に対して、次のような演算処理を実行し、自動制動により発生される制動量に係る演算値S1及びΔV1を算出する。
【0041】
S1=∫∫G1(t)dt………(3)
ΔV1=∫G1(t)dt ………(4)
式(3)、(4)において、積分区間は、自動制動実行開始時刻t=t0から現在時刻(但し、衝突開始時刻t1より前)までとし、S1(0)=0、ΔV1(0)=0とする。従って、演算値S1は、物理的には、自動制動実行開始時刻から現在時刻までの、乗員の車両10に対する相対移動量(前方移動量)に相当する。また、演算値ΔV1は、物理的には、衝突開始時刻から現在時刻までの、乗員の車両10に対する相対速度(前方移動速度)に相当する。」
3 対比・判断
3-1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用文献1の「衝突予知部30は、例えば、車両100の前方障害物の運動状態と車両100の運動状態とを各センサにより検知し、車両100の前方障害物との衝突を回避できず且つ移動機構20を起動させるべき衝突が発生するか否かを予知する。」(【0022】)及び「図5において、「衝突」は、車両100の前面と前方障害物との衝突タイミングを示す。また、図5において、車両100の前面との衝突物が前方車両である場合の減速開始タイミングToを「T1」とする。」(【0035】)との記載によれば、引用発明の「前記車両100の前面衝突を予知する衝突予知部30」は、前方車両との前面衝突を予測することも明らかであるから、本願発明1の「前方車両との前面衝突までの衝突残り時間を予測する衝突残り時間予測部」とは、「前方車両との前面衝突を予測する予測部」の点で共通するものといえる。
イ 引用発明の「車両100」、「乗員6」、「シート2」及び「シートバック12」は、本願発明1の「自車両」、「乗員」、「車両用シート」及び「シートバック」にそれぞれ相当する。
また、引用発明は、「シートバック12を有するシート2と、前記シート2に座る乗員6を前記シート2に拘束するシートベルト4と、前記乗員6を後方に移動させる移動機構20と」を備えるものであるところ、上記「移動機構20」は、「前記シートバック12と前記乗員6との間に前記乗員6が移動可能な空間15、16を生成する生成機構21、23と、前記シートベルト4を引張ることにより前記乗員6を前記空間15、16に移動させる引張機構22とを有し」て構成されるものであるから、上記「移動機構20」を構成する「引張機構22」が、車両100の乗員6に対して車両後方へ力を付与すること、また、上記「移動機構20」を構成する「生成機構21、23」が、乗員6とシートバック12との間の間隙を拡大させることは技術的に明らかである。
したがって、引用発明の「引張機構22」は、本願発明1の「自車両の乗員に対して車両後方へ力を付与する力付与部」に相当し、また、引用発明の「生成機構21、23」は、本願発明1の「前記乗員と車両用シートのシートバックとの間の間隙を拡大させる間隙拡大部」に相当するものといえる。
ウ 引用発明は、「前記車両100の前面衝突を予知する衝突予知部30と、前記衝突予知部30が予知した前記前面衝突により発生する前記乗員6の減速度を予測し、その予測された減速度が前記乗員6に発生し始める減速開始タイミングToを予測する減速予測部40と、前記減速開始タイミングTo以前に前記乗員6の後方移動を前記移動機構20に始めさせる移動制御部50とを備え」るものであるところ、上記「移動制御部50」は、「前記減速開始タイミングToから所定の時間D1遡ったタイミング(To-D1)以後に前記乗員6の後方移動を前記移動機構20に始めさせるものであ」って、「前記減速開始タイミングTo以前に、前記空間15、16の生成を前記生成機構21、23に始めさせ、且つ、前記シートベルト4の引張りを前記引張機構22に始めさせる」ものであるから、上記「移動制御部50」は、生成機構21、23が作動した場合に、引張機構22の作動を開始させる制御部をなすことが明らかである。
したがって、引用発明の「移動制御部50」と、本願発明1の「前記間隙拡大部が作動した場合に、前記衝突残り時間予測部により予測された前記衝突残り時間が、前記乗員を車両後方へ前記間隙の大きさ分引き戻すのに要する引き戻し時間以下の場合に限って、前記力付与部の作動を開始させる制御部」とは、上記イをも踏まえると、「前記間隙拡大部が作動した場合に、前記力付与部の作動を開始させる制御部」の点で共通するものといえる。
エ 引用発明の「乗員移動制御装置1」は、本願発明1の「車両用乗員拘束装置」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、
「前方車両との前面衝突を予測する予測部と、自車両の乗員に対して車両後方へ力を付与する力付与部と、前記乗員と車両用シートのシートバックとの間の間隙を拡大させる間隙拡大部と、前記間隙拡大部が作動した場合に、前記力付与部の作動を開始させる制御部と、を有する車両用乗員拘束装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明1は、予測部が、「前方車両との前面衝突までの衝突残り時間を予測する衝突残り時間予測部」として構成され、また、「前記乗員と前記シートバックとの間の間隙の大きさを予測する間隙予測部」を備えるとともに、制御部が、「前記間隙拡大部が作動した場合に、前記衝突残り時間予測部により予測された前記衝突残り時間が、前記乗員を車両後方へ前記間隙の大きさ分引き戻すのに要する引き戻し時間以下の場合に限って、前記力付与部の作動を開始させる制御部」として構成されているのに対し、
引用発明は、予測部が、「前記車両100の前面衝突を予知する衝突予知部30」として構成され、また、制御部が「前記減速開始タイミングTo以前に前記乗員6の後方移動を前記移動機構20に始めさせる移動制御部50」として構成されるものであって、「前記減速開始タイミングToから所定の時間D1遡ったタイミング(To-D1)以後に前記乗員6の後方移動を前記移動機構20に始めさせるものであり、前記所定の時間D1は、前記移動機構20が前記乗員6を後方に移動させることが可能な総距離を移動させるのに必要な移動時間であり」、「前記減速開始タイミングTo以前に、前記空間15、16の生成を前記生成機構21、23に始めさせ、且つ、前記シートベルト4の引張りを前記引張機構22に始めさせる」ものとして構成されている点。
(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 引用文献1の「移動制御部50は、減速予測部40が予測した減速開始タイミングTo以前に乗員6の後方移動を移動機構20に始めさせる移動制御信号を出力する。これにより、移動機構20は、減速開始タイミングTo以前に乗員6を後方に移動させることを開始するので、図3に示されるように、乗員6の実減速度Drが発生し始めるタイミングTrを早めやすい。」(段落【0029】)及び「移動制御部50は、減速開始タイミングToから所定の時間D1遡ったタイミング(To-D1)以後に乗員6の後方移動を移動機構20に始めさせるのがよい。所定の時間D1とは、移動機構20が乗員6を後方に移動させることが可能な総距離を移動させるのに必要な移動時間である。つまり、移動制御部50は、(To-D1)からToまでの期間に乗員6の後方移動を始めさせるのが好ましく、乗員6を最も減速できるタイミング(To-D1)にできるだけ近いタイミングで、乗員6の後方移動を始めさせるのがより好ましい。移動制御部50は、(To-D1)からToまでの期間内のタイミングで乗員6の後方移動を始めさせることで、乗員6の後方移動を早く始めすぎることを防止できる。」(段落【0033】)との記載によれば、引用発明の「移動制御部50」による「前記減速開始タイミングToから所定の時間D1遡ったタイミング(To-D1)以後に前記乗員6の後方移動を前記移動機構20に始めさせる」との構成は、「減速予測部40」より予測した減速開始タイミングToを基準とし、かかる減速開始タイミングTo以前に乗員6の後方移動を移動機構20に始めさせる移動制御信号を出力すること、具体的には、移動機構20が乗員6を後方に移動させることが可能な総距離を移動させるのに必要な移動時間D1を設定し、好ましくは、(To-D1)からToまでの期間に乗員6の後方移動を始めさせること、より好ましくは、(To-D1)にできるだけ近いタイミングで乗員6の後方移動を始めさせること、が予定されている。
そして、上記「乗員6の後方移動を移動機構20に始めさせる」タイミングについて、好ましいとされる上記「(To-D1)からToまでの期間」は、図5に示されているとおり、車両の前面衝突時以降のタイミングを含むものであるから、かかるタイミングが、本願発明1の「衝突残り時間予測部」により、「前方車両との前面衝突までの衝突残り時間を予測する」ことを前提とした、「前記衝突残り時間予測部により予測された前記衝突残り時間が、前記乗員を車両後方へ前記間隙の大きさ分引き戻すのに要する引き戻し時間以下の場合に限って」として特定されるタイミングと異なることは技術的に明らかである。
さらに、より好ましいとされる上記「(To-D1)にできるだけ近いタイミング」は、あくまでも、「減速予測部40」によって予測された「減速開始タイミングTo」を前提とし、「前記減速開始タイミングToから所定の時間D1遡ったタイミング(To-D1)」にできるだけ近いタイミングであるから、本願発明1の「衝突残り時間予測部」により、「前方車両との前面衝突までの衝突残り時間を予測する」ことを前提とした、「前記衝突残り時間予測部により予測された前記衝突残り時間が、前記乗員を車両後方へ前記間隙の大きさ分引き戻すのに要する引き戻し時間以下の場合に限って」として特定されるタイミングと同義ということもできない。
要するに、引用文献1には、「車両の前面衝突により発生する減速度は、車体からシートやシートベルトを介して乗員に伝達される。よって、前面衝突による減速度が車両に発生してから、前面衝突による減速度が乗員に発生するまでには、例えば図1の矢印で示されるように、タイムラグがある。前面衝突時以降の乗員の減速度を低減するには、乗員の減速度の発生を早めて、そのようなタイムラグを短縮することが望ましい。」(段落【0004】)及び「そこで、乗員の減速度の発生を早め易い、乗員移動制御装置の提供を目的とする。」(段落【0006】)と記載されているように、引用発明は、前面衝突による減速度が車両に発生してから、前面衝突による減速度が乗員に発生するまでにはタイムラグがあり、そのようなタイムラグの短縮を課題とするものであって、その制御の態様は、あくまでも、上記「タイムラグ」(「減速開始タイミングTo」)を踏まえてのものであり、上記相違点に係る本願発明の「衝突残り時間」を踏まえたものということはできないし、そのような「衝突残り時間」を踏まえたものとして構成すべき合理的な理由もない。
イ そして、引用文献2(摘示(2a))には、交通事故中に乗員を車両座席に拘束する安全拘束装置に関し(段落【0001】)、乗員位置検出装置により、乗員が通常の着座位置にいるかどうか検知、より具体的には、座席と背もたれの位置により、および/またはベルトの駆動装置の運動の測定により検知し(段落【0022】)、乗員がより前方の位置にいる場合、乗客は車両座席へ、つまり通常の着座位置へ力S2で引き戻され、時間t1後、危険な車両状態の間中、より低い力S3で保持されること(段落【0023】)が記載され、
引用文献3(摘示(3a))には、衝突時若しくは急激な減速時に乗員の保護を図るための乗員拘束装置に関し(段落【0001】)、乗員拘束装置10は、車速センサ35及びGセンサ36の情報から、制御部37でシートベルト装置20を制御すべき状況かどうかを判断させ、シートベルト装置20を制御すべき状況であると判断したときに、カメラ31で、乗員13の頭部を監視するとともにヘッドレスト16を監視することで、乗員13の頭部とヘッドレスト16との距離を算出し、シートベルト22の引込み量を決定すること(段落【0026】)が記載され、
引用文献4(摘示(4a))には、「車両に対して車両前方から障害物が衝突する衝突前段階に、制動装置を自動的に作動させる自動制動システムを搭載した車両で用いられる乗員保護装置の作動制御装置に関し(段落【0001】)、乗員保護装置の作動制御装置は、自動制動システムにより実行される自動制動に関する自動制動情報に基づいて、作動可否判定閾値を変更するものであってよく(段落【0007】)、自動制動情報は、自動制動実行中か否かを表す情報や、自動制動により発生される制動量を表す情報を含んでよく、かかる自動制動情報を得るため、自動制動により発生される制動量に係る演算値S1を算出すること(段落【0040】)、演算値S1は、「S1=∫∫G1(t)dt………(3)」より算出され、物理的には、自動制動実行開始時刻から現在時刻までの、乗員の車両10に対する相対移動量(前方移動量)に相当すること(段落【0041】)が記載されているが、それら各記載事項は、上記相違点に係る本願発明の「前記間隙拡大部が作動した場合に、前記衝突残り時間予測部により予測された前記衝突残り時間が、前記乗員を車両後方へ前記間隙の大きさ分引き戻すのに要する引き戻し時間以下の場合に限って、前記力付与部の作動を開始させる」ことを記載ないし示唆するものではない。
してみると、仮に、引用発明に上記引用文献2~4に記載された技術事項を適用し得たとしても、上記相違点に係る本件発明の構成に至るものではない。
ウ したがって、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献2~4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものということはできないから、本願発明1は、引用発明及び引用文献2~4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3-2 本願発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定して発明を特定するものであるから、本件発明1と同様に、引用発明及び引用文献2~4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-014576