特許無効審判
2018-800148
加除圧制御システム及びその制御方法並びに血管強化方法
- 審判番号
- 2018-800148
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2012-215586
- 登録番号
- 特許第5255722号(P5255722)
- 請求日
- 2018年12月17日
- 審決日
- 2020年08月03日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】橋本 好弘
- 【請求人代理人】権藤 龍光
- 【被請求人】KAATSU JAPAN 株式会社
- 【被請求人代理人】稲葉 良幸
- 【被請求人代理人】根本 浩
- 【被請求人代理人】佐藤 宏樹
- 【被請求人代理人】山室 慶一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 林 茂樹
- 審判官 宮崎 基樹
- 審判官 芦原 康裕
- 分類
- P1123.113-ZDB(A61H) / P1123.121-ZDB(A61H) / P1123.851-ZDB(A61H) / P1123.856-ZDB(A61H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第3項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第126条第7項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5255722号発明「加除圧制御システム及びその制御方法並びに血管強化方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第5255722号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔21-31〕について訂正することを認める。
特許第5255722号の請求項1,12に係る発明についての特許を無効とする。
特許第5255722号の請求項21に係る発明についての審判請求は,成り立たない。
審判費用は,その3分の1を請求人の負担とし,3分の2を被請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5255722号(以下,「本件特許」という。)は,平成24年9月28日(優先権主張平成24年6月28日)を出願日とする出願であって,その特許権の設定登録は平成25年4月26日にされ,その後,請求人橋本好弘から特許無効審判が請求されたものである。
以下,本件審判請求以降の経緯を整理して示す。
平成30年12月17日 本件審判請求
平成31年 3月 6日付け 手続補正指令書(方式)
令和 1年 5月 7日 審判請求書を補正対象とする手続補正書
の提出
同年 7月12日 審判事件答弁書の提出
同年 8月13日付け 審理事項通知
同年 9月30日 口頭審理陳述要領書(1)の提出(被請
求人より)
同年10月11日 口頭審理陳述要領書(1)の提出(請求
人より)
同年10月18日付け 審理事項通知(2)
同年10月31日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(被請
求人より)
同年10月31日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(請求
人より)
同年10月31日 第1回口頭審理の実施
同年11月 6日 上申書の提出(請求人より)
同年11月11日 上申書の提出(被請求人より)
同年12月25日付け 審決の予告
令和 2年 3月 5日 訂正請求書
同年 3月31日付け 訂正拒絶理由通知・職権審理結果通知
同年 4月30日 意見書の提出(被請求人より)
以下,「審判請求書」を「請求書」と,「口頭審理陳述要領書」を「要領書」と,また,「甲第1号証」,「乙第1号証」等をそれぞれ「甲1」,「乙1」等と略記する。
第2 当事者の主張
1 請求人の主張
(1)請求の趣旨
請求人による請求の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,12及び21に記載された各発明についての特許をいずれも無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求めるというものである(なお,請求書の6 請求の趣旨に記載の「特許第5255722号発明の特許請求の範囲の請求項1,12び21」との記載は,「特許第5255722号の特許請求の範囲の請求項1,12及び21」の誤記と認められる。)。
(2)無効理由
請求人の主張の全趣旨を踏まえ,令和元年10月31日の第1回口頭審理において,無効理由は,以下のとおり整理された(第1回口頭審理調書参照。)。
ア 無効理由1
本件特許の請求項1,12及び21に係る発明は,甲1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効である。
イ 無効理由2
本件特許の請求項1,12及び21に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲2~甲7に記載された事項ないし技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効である。
(3)証拠方法
請求人は請求書に添付して甲1~4を,要領書(1)に添付して甲5~7を,要領書(2)に添付して甲8~11を提出した。
なお,甲1~11の成立について,当事者間に争いはない。
甲1:特開2007-125254号公報の写し(以下,写しは省略
して記載。)
甲2:特開2008-99842号公報
甲3:特許第3447701号公報
甲4:株式会社サトウスポーツプラザ,「加圧トレーニングQ&A」
,平成19年8月ころ
甲5:株式会社サトウスポーツプラザ,「加圧トレーニングQ&A」
,2007年7月ころ
甲6:五味雅吉,「腰痛 自分で治すバンドの本」,八広社,平成元
年12月20日,初版,74~75ページ,120~121ペ
ージ,166~167ページ,220ページ
甲7:森田敏宏,陳述書,平成24年4月29日
甲8:永井奈津子,陳述書,令和元年10月20日
甲9:株式会社サトウスポーツプラザ,「第1回加圧トレーニング中
部懇話会フォローアップセミナー資料」,平成19年4月22
日
甲10:佐藤義昭,外3名,「加圧トレーニングの理論と実践」,株式
会社講談社,2012年3月1日,第8刷,第79~86ペー
ジ
甲11:日本経済新聞,2006年2月23日,3版,17面,「健や
かスポーツ からだのお話 加圧筋トレ医療に応用」
(4)訂正請求について
令和2年3月31日付け職権審理結果通知書によって,同日付けの訂正拒絶理由に対する意見を求めたが,請求人から意見書は提出されなかった。
2 被請求人の主張
(1)答弁の趣旨
被請求人の主張する答弁の趣旨は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める,というものである。
(2)証拠方法
被請求人は,要領書(1)に添付して乙1を提出した。
なお,乙1の成立について,当事者間に争いはない。
乙1:株式会社サトウスポーツプラザ,「加圧マスターミニインスト
ラクター養成講習」に関する契約書,平成18年9月14日
(3)訂正請求について
被請求人は,令和2年3月31日付け訂正拒絶理由で訂正要件を満たしていないとされた訂正事項1,2について,同年4月30日に提出された意見書において反論を述べている。
第3 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
令和2年3月5日付け訂正請求書(以下,「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下,「本件訂正」という。)の趣旨は,「特許第5255722号の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1~31について訂正することを求める。」ものである。
2 訂正の内容
本件訂正は,特許請求の範囲を以下の訂正事項1ないし3のとおりに訂正することを求めるものである。
(1)請求項1ないし11からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定するものである」と記載されているのを,「複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定するものであり,前記除圧動作により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~11も同様に訂正する。)。
(2)請求項12ないし20からなる一群の請求項に係る訂正
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項12に「前記加除圧制御工程では,複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定する」と記載されているのを,「前記加除圧制御工程では,複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定し,前記除圧動作により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13~20も同様に訂正する。)。
(3)請求項21ないし31からなる一群の請求項に係る訂正
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項21に「前記加圧工程を複数回実施する際に,各加圧工程における加圧力を直前の加圧工程における加圧力よりも高く設定する」と記載されているのを,「前記加圧工程を複数回実施する際に,各加圧工程における加圧力を直前の加圧工程における加圧力よりも高く設定し,前記除圧工程により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」に訂正する(請求項21の記載を引用する請求項22~31も同様に訂正する。)。
3 訂正拒絶理由について
当審において令和2年3月31日付けで通知した訂正拒絶理由は,概略,以下のとおりのものである。
(1)請求項1ないし11からなる一群の請求項に係る訂正に対して
ア 訂正事項1について
訂正後の請求項2に係る発明(以下,「訂正発明2」という。)は,物の発明である「システム」自体としては,甲1に記載された発明との差異が認められない。
よって,訂正発明2は,甲1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,または,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,訂正発明2は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって,本件訂正の訂正事項1を含む,請求項1ないし11からなる一群の請求項に係る訂正請求は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定に適合しておらず,認められない。
(2)請求項12ないし20からなる一群の請求項に係る訂正に対して
イ 訂正事項2について
訂正後の請求項13に係る発明(以下,「訂正発明13」という。)は,物であるシステムの「制御方法」自体としては,甲1に記載された発明との差異が認められない。
よって,訂正発明13は,甲1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,または,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,訂正発明13は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって,本件訂正の訂正事項2を含む,請求項12ないし20からなる一群の請求項に係る訂正請求は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定に適合しておらず,認められない。
4 訂正の適否についての当審の判断
(1)請求項1ないし11からなる一群の請求項に係る訂正について
ア 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし11において,請求項2ないし11は,訂正する請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから,請求項1ないし11は,特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
イ 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は,訂正前の請求項1の「除圧動作」において,ベルトが使用者の四肢の特定部分に巻き付けられた状態を特定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり,訂正事項1は,「除圧動作」において,ベルトが使用者の四肢の特定部分に巻き付けられた状態を特定することによって,特許請求の範囲を減縮するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
願書に添付した明細書には,次の事項が記載されている。
a「【0057】
制御データが生成されたら,加除圧制御装置200と緊締具100を,接続管300を介して接続する(装置接続工程:S2)。次いで,緊締具100を,図3及び図4に示したようにして使用者の四肢の特定部分に巻き付け,形状維持部材130で特定部分に固定する(緊締具巻付工程:S3)。この状態においては,特定部分にはほとんど加圧力が付与されていない。なお,本実施形態では,特定部分は,両腕の付け根部分と両脚の付け根部分である。」
上記aの記載からみて,緊締具100を使用者の四肢の特定部分に巻き付け,形状維持部材130で特定部分に固定した状態においては,特定部分にはほとんど加圧力が付与されていないものと認められる。してみると,除圧動作により,加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,特定部分を締め付ける加圧力が付与されていないものといえる。したがって,訂正事項1に含まれる「前記除圧動作により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」という発明特定事項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
よって,訂正事項1は,特許法134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて
本件審判事件において,請求項1については無効審判の請求の対象とされているので,本件訂正後の請求項1に係る発明については,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかの要件は課されない。
訂正事項1により実質的に訂正されることとなる訂正後の請求項2ないし11に係る発明については,本件審判請求の対象とされておらず,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかの要件が課されるため,以下検討する。
訂正後の請求項2に係る発明(以下,「訂正発明2」という。)は,訂正前の請求項1に係る発明に,「前記除圧動作により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」との特定事項(以下,「訂正付加事項1」という。)を付加し,更に,「前記特定部分に巻き付けられた状態における前記ベルトのループ形状を維持する形状維持部材と,前記ベルトに設けられたガス袋と,所定の管を介して前記ガス袋への気体の供給及び前記ガス袋からの気体の除去を行う圧力調整手段と,を更に備え,前記制御装置は,前記圧力調整手段を制御することにより前記加圧動作及び前記除圧動作を実現させるものである,」との特定事項(以下,「特定事項2」という。)を付加したものである。
下記「第5 1~3,6」で説示するとおり,甲1には,本件訂正前の請求項1に係る発明が記載されている。
また,甲1には,固定部材130(「形状維持部材」に相当。以下同様。),ガス袋120(「ガス袋」),ポンプ210及び弁212(「圧力調整手段」)が記載されており,特定事項2も記載されている(【0019】,【0020】,【0023】の記載参照。)。
訂正付加事項1については,「加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態」,すなわち,ガス袋内の圧力が大気圧とされた状態においては,「特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」,すなわち,形状維持部材(ベルト)の取り付けによって生じる締め付け力もかからない状態を特定しているものと認められるが,当該特定は,物の発明である「システム」において,その使用方法(ベルトの取り付け方法)を特定したにすぎず,物の発明としての構成を何ら特定するものでない。
このため,訂正発明2は,物の発明である「システム」自体としては,甲1に記載された発明との差異が認められない。
よって,訂正発明2は,甲1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,または,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。
よって,訂正発明2は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(オ)被請求人の主張について
被請求人は,令和2年4月30日提出の意見書において「しかし,「前記除圧動作により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」との特定事項(訂正付加事項1)は,「システム」における「制御装置」自体の特徴的な構成を特定するものであるから,まさに物の発明としての構成を特定するものである。したがって,訂正付加事項1の構成を備える本件特許の請求項1~11にかかる「加除圧制御システム」はこの点において物としても甲1発明とは異なる。」と主張している。
上記主張について検討する。
被請求人は,令和2年3月5日提出の訂正請求書の「6(3)イ(ア)c 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること」において,「また,本件特許の明細書の段落【0057】における「緊締具100を,図3及び図4に示したようにして使用者の四肢の特定部分に巻き付け,形状維持部材130で特定部分に固定する(緊締具巻付工程:S3)。この状態においては,特定部分にはほとんど加圧力が付与されていない。」(下線付加)との記載からしても,「加圧力」は,加除圧制御装置によって付与された圧力のみならず,緊締具を固定することによって付与された装着圧も含まれると理解できる。」と述べている。
ここで,被請求人の主張のとおりに解釈すると,訂正付加事項1に含まれる「前記特定部分を締め付ける加圧力」には,加除圧制御装置によって付与された圧力のみならず,緊締具を固定することによって付与された装着圧も含まれることとなる。そうすると,「加除圧制御装置によって付与された圧力」については,制御装置によって制御可能な圧力であることから「制御装置」自体の構成であるということができるが,「緊締具を固定することによって付与された装着圧」については,制御装置とは関係なく,自身又は誰かによって緊締具が巻き付けられることによって生じる圧力であって,「制御装置」によって制御可能な圧力ではないことから,「制御装置」自体の構成とは認められない。したがって,出願人の主張は当を得たものではなく,採用できない。
(カ)小活
したがって,本件訂正の訂正事項1は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定に適合していない。
ウ 請求項1ないし11からなる一群の請求項に係る訂正の適否の結論
上記「イ」のとおり,請求項1ないし11からなる一群の請求項に係る訂正に含まれる訂正事項1は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定に適合していないので,請求項1ないし11からなる一群の請求項に係る訂正は認められない。
(2)請求項12ないし20からなる一群の請求項に係る訂正について
ア 一群の請求項について
訂正前の請求項12ないし20において,請求項13ないし20は,訂正する請求項12を直接又は間接的に引用しているものであるから,請求項12ないし20は,特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は,訂正前の請求項12の「除圧動作」において,ベルトが使用者の四肢の特定部分に巻き付けられた状態を特定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり,訂正事項2は,「除圧動作」において,ベルトが使用者の四肢の特定部分に巻き付けられた状態を特定することによって,特許請求の範囲を減縮するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記「(1)イ(ウ)a」のとおり,願書に添付した明細書の段落【0057】の記載からみて,緊締具100を使用者の四肢の特定部分に巻き付け,形状維持部材130で特定部分に固定した状態においては,特定部分にはほとんど加圧力が付与されていないものと認められる。してみると,除圧動作により,加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,特定部分を締め付ける加圧力が付与されていないものといえる。したがって,訂正事項2に含まれる「前記除圧動作により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」という発明特定事項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
よって,訂正事項2は,特許法134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて
本件審判事件においては,請求項12については無効審判の請求の対象とされているので,本件訂正後の請求項12に係る発明については,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかの要件は課されない。
訂正事項2により実質的に訂正されることとなる訂正後の請求項13ないし20に係る発明については,本件審判請求の対象とされておらず,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかの要件が課されるため,以下検討する。
訂正後の請求項13に係る発明(以下,「訂正発明13」という。)は,訂正前の請求項12に係る発明に,「前記除圧動作により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」との特定事項(以下,「訂正付加事項2」という。)を付加し,更に,「前記加除圧制御システムは,前記特定部分に巻き付けられた状態における前記ベルトのループ形状を維持する形状維持部材と,前記ベルトに設けられたガス袋と,所定の管を介して前記ガス袋への気体の供給及び前記ガス袋からの気体の除去を行う圧力調整手段と,を更に備え,前記加除圧制御工程では,前記圧力調整手段を制御することにより前記加圧動作及び前記除圧動作を実現させる,」との特定事項(以下,「特定事項13」という。)を付加したものである。
下記「第5 1~2,4,6」で説示するとおり,甲1には,訂正前の請求項12に係る発明が記載されている。
また,甲1には,固定部材130(「形状維持部材」に相当。以下同様。),ガス袋120(「ガス袋」),ポンプ210及び弁212(「圧力調整手段」)が記載されており,特定事項13も記載されている(【0019】,【0020】,【0023】の記載参照。)。
訂正発明13は,物であるシステムの制御方法に係る発明であるところ,訂正付加事項2については,「加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態」,すなわち,ガス袋内の圧力が大気圧とされた状態においては,「特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」,すなわち,形状維持部材(ベルト)の取り付けによって生じる締め付け力もかからない状態を特定しているものと認められるが,当該特定は,物であるシステムの使用方法(ベルトの取り付け方法)を特定するものであり,物であるシステムの「制御方法」自体を何ら特定するものでない。
このため,訂正発明13は,物であるシステムの「制御方法」自体としては,甲1に記載された発明との差異が認められない。
よって,訂正発明13は,甲1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,または,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。
よって,訂正発明13は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(オ)被請求人の主張について
被請求人は,令和2年4月30日提出の意見書において「しかし,訂正付加事項1について述べたことからも明らかなように,「前記除圧動作により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」との特定事項(訂正付加事項2)は,物である「システム」の「制御方法」自体における特徴的な構成を特定するものである。したがって,訂正付加事項2の構成を備える本特許の請求項12~20にかかる「加除圧制御システムの制御方法」は,物であるシステムの「制御方法」として甲1発明とは異なる。」と主張している。
上記主張について検討する。
被請求人は,令和2年3月5日提出の訂正請求書の「6(3)イ(ア)c 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること」において,「また,本件特許の明細書の段落【0057】における「緊締具100を,図3及び図4に示したようにして使用者の四肢の特定部分に巻き付け,形状維持部材130で特定部分に固定する(緊締具巻付工程:S3)。この状態においては,特定部分にはほとんど加圧力が付与されていない。」(下線付加)との記載からしても,「加圧力」は,加除圧制御装置によって付与された圧力のみならず,緊締具を固定することによって付与された装着圧も含まれると理解できる。」と述べている。
ここで,被請求人の主張のとおりに解釈すると,訂正付加事項2に含まれる「前記特定部分を締め付ける加圧力」には,加除圧制御装置によって付与された圧力のみならず,緊締具を固定することによって付与された装着圧も含まれることとなる。そうすると,「加除圧制御装置によって付与された圧力」については,制御装置によって制御可能な圧力であることから「システム」の「制御方法」自体の構成であるということができるが,「緊締具を固定することによって付与された装着圧」については,制御装置とは関係なく,自身又は誰かによって緊締具が巻き付けられることによって生じる圧力であって,「制御装置」によって制御可能な圧力ではないことから,「システム」の「制御方法」自体の構成とは認められない。したがって,出願人の主張は当を得たものではなく,採用できない。
(カ)小活
したがって,本件訂正の訂正事項2は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定に適合していない。
ウ 請求項12ないし20からなる一群の請求項に係る訂正の適否の結論
上記「イ」のとおり,請求項12ないし20からなる一群の請求項に係る訂正に含まれる訂正事項2は,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定に適合していないので,請求項12ないし20からなる一群の請求項に係る訂正は認められない。
(3)請求項21ないし31からなる一群の請求項に係る訂正について
ア 一群の請求項について
訂正前の請求項21ないし31において,請求項22ないし31は,訂正する請求項21を直接又は間接的に引用しているものであるから,請求項21ないし31は,特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
イ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は,訂正前の請求項21の「除圧工程」において,ベルトが使用者の四肢の特定部分に巻き付けられた状態を特定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり,訂正事項3は,「除圧工程」において,ベルトが使用者の四肢の特定部分に巻き付けられた状態を特定することによって,特許請求の範囲を減縮するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記「(1)イ(ウ)a」のとおり,願書に添付した明細書の段落【0057】の記載からみて,緊締具100を使用者の四肢の特定部分に巻き付け,形状維持部材130で特定部分に固定した状態においては,特定部分にはほとんど加圧力が付与されていないものと認められる。してみると,除圧工程により,加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,特定部分を締め付ける加圧力が付与されていないものといえる。したがって,訂正事項3に含まれる「前記除圧工程により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」という発明特定事項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
よって,訂正事項3は,特許法134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて
本件審判事件において,請求項21については無効審判の請求の対象とされているので,本件訂正後の請求項21に係る発明については,特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかの要件は課されない。
訂正事項3により実質的に訂正されることとなる訂正後の請求項22ないし31に係る発明については,本件審判請求の対象とされておらず,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかの要件が課されるため,以下検討する。
甲1には,「除圧工程により,加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない」点について記載されていないし,甲1に記載された発明から自明なものともいえない。よって,訂正後の請求項22ないし31に係る発明は,甲1に記載された発明ではなく,または,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。また,訂正後の請求項22ないし31に係る発明について,他に特許を受けることができないとする理由を発見しない。
よって,訂正後の請求項22ないし31に係る発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
ウ 請求項21ないし31からなる一群の請求項に係る訂正の適否の結論
上記「イ」のとおり,請求項21ないし31からなる一群の請求項に係る訂正に含まれる訂正事項3は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合する。さらに,本件審判請求の対象とされていない請求項22ないし31についても,同法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合する。
よって,請求項21ないし31からなる一群の請求項について,本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔21-31〕のとおり,訂正することを認める。
第4 本件発明
上記「第3」のとおり,請求項1ないし11からなる一群の請求項に係る訂正を認めることができないから,本件特許の請求項1ないし11に係る発明は,その設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであり,また,請求項12ないし20からなる一群の請求項に係る訂正を認めることができないから,本件特許の請求項12ないし20に係る発明は,その設定登録時の特許請求の範囲の請求項12ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものである。請求項21ないし31からなる一群の請求項に係る訂正は認められるから,本件特許の請求項21ないし31に係る発明は,本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項21ないし31に記載された事項により特定されるとおりのものである。
したがって,本件特許の請求項1,12及び21に係る発明はそれぞれ次のとおりのものである。
「【請求項1】
使用者の四肢の特定部分に巻き付けられて前記特定部分に加圧力を付与するように構成されたベルトと,前記ベルトにより前記特定部分に付与される加圧力の制御を行う制御装置と,を備える加除圧制御システムであって,
前記制御装置は,前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する除圧動作と,を交互に繰り返すように前記ベルトにより付与される加圧力の制御を行うものであり,複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定するものである,
加除圧制御システム。」(以下,「本件発明1」という。)
「【請求項12】
使用者の四肢の特定部分に巻き付けられて前記特定部分に加圧力を付与するように構成されたベルトを備える加除圧制御システムの制御方法であって,
前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する除圧動作と,を交互に繰り返すように,前記ベルトにより付与される加圧力を制御する加除圧制御工程を含み,
前記加除圧制御工程では,複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定する,
加除圧制御システムの制御方法。」(以下,「本件発明2」という。)
「【請求項21】
使用者の四肢の特定部分に巻き付けられるように構成されたベルトを用いて前記特定部分に加圧力を付与する加圧工程と,前記加圧工程により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する除圧工程と,を交互に繰り返すことにより,前記使用者の血管の血管内皮細胞から生成される一酸化窒素を増加させ,もって前記血管を強化する血管強化方法(医療行為を除く)であって,
前記加圧工程を複数回実施する際に,各加圧工程における加圧力を直前の加圧工程における加圧力よりも高く設定し,
前記除圧工程により,前記加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,前記特定部分を締め付ける加圧力が付与されていない,血管強化方法。」(以下,「本件発明3」という。)
第5 無効理由についての当審の判断
無効理由1及び2について
1 甲1の記載事項
本件特許の優先権主張の日(以下,「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1には,図面とともに,以下の記載がある(下線は,当審が付与したものである。以下同様。)。
「【0009】
上述したように,加圧トレーニングは,四肢の所定の部位に対して締付け力を与えることによりその四肢の所定の部位よりも下流側の血流を阻害して,それにより筋肉の増強を図るものである。この加圧トレーニングは,締付け力の与えられた四肢を運動させても,安静にしたままでもよいが,運動をさせた方が筋肉の増強を効果的に行えることは以上で述べたとおりである。
今回発明者が気付いたのは,加圧トレーニングを行うにあたって締付け力を上げ下げすると,四肢の締付け力を与えられている部位よりも下流側の筋肉を運動させたのと同様の現象を四肢の下流側に生じさせることができるという点である。これにより,四肢の所定の部位に与える締付け力を変化させるだけで,締付け力を与えているその四肢に,断続的な運動を行わせたような効果を与えられる。
これに基づいて,更に研究を継続した結果,発明者は,以下の2点に気が付いた。
その1点目は,締付け力の上げ下げを行わせながら加圧トレーニングを実施した場合には,締付け力の上げ下げを行わずに,例えば血流を阻害するに適当な一定の締付け力を四肢の所定の部位に与えつづけることにより加圧トレーニングを実施した場合よりも,同じ時間だけ加圧トレーニングを行ったときの効果が増すということである。以下,このような効果を「トレーニング効果向上効果」と呼ぶこととする。
その2点目は,以下のようなものである。
加圧トレーニングを行う際に,四肢の所定の部位に本来与えたい締付け力を与えられない場合がある。それは,加圧トレーニングを実施する者の体調が万全でない場合や,加圧トレーニングを実施する者が加圧トレーニングにまだ不慣れな場合などに,四肢にいきなり大きな締付け力を与えてしまうと,締付けを行っている四肢の締付けが行われている部位よりも下流側に,血流の阻害を超えて止血が生じてしまうからである。止血が生じてしまうと,加圧トレーニングの効果を得られないどころか,その程度にもよるが,加圧トレーニングを実施する者の健康に害をなすおそれすらある。ところで,このような場合に,本来与えたい締付け力よりも下の圧力の範囲で締付け力の上げ下げを行ってから本来与えたい締付け力を与えると止血が生じにくく, 適切な締付け力の上げ下げを行ってやれば,止血の発生を略完全に防ぐことができ,それにより加圧トレーニングの効果を得られやすくなると同時に,加圧トレーニングの安全性を高められる。これが発明者が気付いた2点目であり,そのような効果を,以下,「安全性向上効果」と呼ぶ。
なお,安全性向上効果が生じる理由は,本来与えたい締付け力よりも下の圧力の範囲で締付け力の上げ下げを行うことが,いわゆる準備運動のような効果を生じるからであると発明者は考えている。」
「【0014】
以下の内容は,トレーニング効果向上効果を奏する発明と,安全性向上効果を奏する発明の双方に共通する。
…(中略)…
前記制御手段は,前記下ピークのときに前記緊締具が前記所定の部位に与える締付け力が,前記緊締具を前記所定の部位に取付けた際における締付け力である自然締付け力と略一致するようにして,前記圧力調整手段を制御するようになっていてもよい。これは,下ピークのときに,緊締具のガス袋の中の圧力を略常圧にすることを意味する。」
「【0019】
この実施形態における緊締具100は,四肢のいずれかの筋肉の所定の部位の外周を囲むものであり,筋肉の所定の部位を締付けることで,筋肉の所定の部位に所定の締付け力を与えるものであり,且つ後述のようにして,腕又は脚の所定の部位に対して与える締付け力を変化させられるようにされている。この緊締具100は,この実施形態では,基本的に,ベルト110,ガス袋120及び固定部材130からなる。
ベルト110は,緊締具100が巻き付けられる所定の部位(所定の部位は,一般的には,腕の付け根の近辺又は脚の付け根近辺のうち,外部から締付けを行うことで血流の阻害を起こすに適切な位置である。以下,これを「締付け部位」という。)に巻き付けられるようなものであれば,その詳細を問わない。
この実施形態におけるベルト110は,必ずしもそうである必要性はないが,伸縮性を備えた素材からなる。より詳細には,ネオプレンゴムにより構成されている。」
「【0020】
ガス袋120は,ベルト110に取付けられている。この実施形態におけるガス袋120は,ベルト110の一方の面に取付けられている。もっとも,ガス袋120のベルト110への取付け方はこれには限られず,内部を中空に構成したベルト110の内部に,ガス袋120を設けるなどしてもよい。
ガス袋120は,また,かならずしもそうである必要はないが,その一端部がベルト110の一端部(図2では,ベルト110の下端部。)付近に一致するようにしてベルト110に取付けられている。ガス袋120は,気密性を有する素材で形成された気密な袋である。この実施形態におけるガス袋120は,例えばマンシェットに用いられるゴム袋と同様の伸縮性を備えたゴムからなる。尚,ガス袋120の素材はこれに限定されず,気密性を保てる素材を適宜選択すれば足りる。
…(中略)…
ベルト110を締付け部位に巻き付け,固定部材130にてベルト110を固定した状態でガス袋120へ空気が送り込まれると,緊締具100が筋肉を締付け,加圧力を与えるのである。逆に,その状態でガス袋120内の空気が抜かれれば,緊締具100が筋肉に与える加圧力が小さくなる。緊締具100を固定した当初の状態で緊締具100が締付け部位に与える圧力が,本発明にいう自然締付け力に相当する。」
「【0022】
一例となる加圧トレーニング装置200の構成を概略的に示したのが,図5である。図5に示したように,加圧トレーニング装置200は,4つのポンプ210と,制御装置220とを備えて構成されている。なお,この実施形態では,加圧トレーニング装置200はケースを備えておりその内部にポンプ210と制御装置220を内蔵するようになっている。ケースの外側には,また,入力装置が設けられているが,その図示は省略する。
4つのポンプ210は,4つの緊締具100とそれぞれ対応付けられている。この実施形態では,ポンプ210が,本発明における圧力調整手段に相当する。
ポンプ210は,その周囲にある気体(この実施形態では,空気)を取り込み,これを後述のポンプ接続口211を介して外部へ送る機能を備えている。ポンプ210は,また,弁212を備えており,弁212を開放することで,ポンプ210内部の気体を外部へ排出できるようになっている。4つのポンプ210はともに,ポンプ接続口211を備えており,これに接続された接続管300と,接続口121を介して,ガス袋120へと接続されている。ポンプ210が気体を送れば,ガス袋120に気体が送り込まれ,ポンプ210が弁212を開放すればガス袋120から気体を抜くことができる。なお,弁212は必ずしもポンプ210に設けられている必要は無く,ポンプ210からガス袋120に至る経路のいずれかに設けられていれば足りる。
ポンプ210には,また,図示を省略の圧力計が内蔵されており,それによりポンプ210内の気圧を測定できるようになっている。ポンプ210内の気圧は,当然にガス袋120内の気圧に等しい。
【0023】
制御装置220は,ポンプ210を制御するものである。制御装置220は,弁212を閉じた状態でポンプ210を駆動させて空気を緊締具100のガス袋120へ送り,或いはポンプ210が備える弁212を開放してガス袋120内の空気を抜くという制御を行う。つまり,制御装置220は,弁212の開閉を含めたポンプ210の制御を行うものとなっている。」
「【0030】
制御データが生成されたら,加圧トレーニング装置200と緊締具100を接続管300を介して接続する。次いで,緊締具100を,図3,図4に示したようにして締付け部位に巻き付け,固定部材130で締付け部位に固定する。この状態で,自然締付け力が締付け部位に加わる。なお,この実施形態では,締付け部位は両腕の基端近辺と両脚の基端近辺である。
【0031】
この状態で加圧トレーニング装置200をトレーニングモードにし,加圧トレーニングを行う。加圧トレーニング装置200にトレーニングモードを実行させるには,上述したように,入力装置を適当に操作すればよい。
…(中略)…出力制御部414は,制御データに基づいてポンプ210を制御する。ポンプ210は,圧力計でポンプ210内の気圧を測定しながら,ポンプ210内の気圧を,制御データで示されたように自動的に保つ。
【0032】
この実施形態で,どのように,締付け部位に与える締付け力を変化させるかということを,図8~図11を用いて説明する。
この実施形態で説明する加圧トレーニング装置200は,トレーニングモードで,準備モードと通常モードの2種類のモードを連続して実行する。なお,この実施形態では,加圧トレーニングを実行する者の腕に対して与えるべき締付け力(適正圧)は150~160mmHg,脚の適正圧は250~260mmHgであるものとする。また,腕,脚ともに,自然締付け力は50mmHgであるものとする。
【0033】
まず,準備モードでは,例えば,図8,図9に示したような締付け圧が腕又は脚に与えられるように,制御データによってポンプ210が制御される。なお,腕と脚はこの実施形態では同時に加圧されることがないようになっている。これには限られないが,この実施形態では,準備モードでも通常モードでも,まず腕が,次いで脚が加圧されるようになっている。
準備モードでは,緊締具100が締付け部位に与える締付け力が,適正圧よりも低い範囲の上ピークと,直前の上ピークよりも低い圧力の下ピークを繰り返すように締付け力が変化する。
図8は,腕についての準備モードにおいて緊締具100が締付け部位に与える締付け力を示している。
図8(A)では,2分30秒間隔で,上ピークと下ピークが繰り返される。加圧が行われている時間と,加圧が行われていない時間は,この実施形態では等しくされている。また,この例における準備モードは,35分実施される。上ピークと下ピークが繰り返される回数は,必ずしもこの限りではないが,この例では7回である。上ピークと下ピークはともに,基本的に,同じ締付け力を2回ずつ繰り返すようになっている。ただし,5回目の上ピークだけは,同じ締付け力を繰り返さないようになっている。このように,上ピークと,下ピークは,必ずしも規則的に繰り返される必要はない。この例では,上ピークは直前の上ピークと同じかそれよりも大きくなるようにされ,下ピークも同様とされている。下ピークは直前の上ピークよりも37.5mmHgだけ締付け力が小さくなるようにされている。ただし,下ピークは,直前の上ピークよりも30mmHg以上小さければよい。なお,締付け力の変化には,実際には数秒かかるため,締付け力が変化する際のグラフは垂直とはならないが,図8(A)では,簡単のためその部分のグラフをあえて垂直に記している。なお,以後も同様にグラフを記すこととする。
図8(B)では,2分30秒程度の上ピークと,1分15秒程度の下ピークを繰り返す例である。このように,加圧が行われている時間と,加圧が行われていない時間は,必ずしも等しい必要はない。この例における準備モードは,35分弱実施される。上ピークと下ピークが繰り返される回数は,この例では9回である。上ピークは直前の上ピークからの上がり幅が一定となるようにして徐々に上昇していく。この例では,下ピークは一定である。この例では,下ピークは,自然締付け力の50mmHgを保っている。この例では,下ピークの時間帯の少なくとも始めの時間帯では,弁212が完全に開放される。
図9は,脚についての準備モードにおいて緊締具100が締付け部位に与える締付け力を示している。
図9(A)では,2分30秒間隔で,上ピークと下ピークが繰り返される。加圧が行われている時間と,加圧が行われていない時間は,この実施形態では等しい。この例における準備モードは,35分実施される。上ピークと下ピークが繰り返される回数は,この例では7回である。上ピークと下ピークはともに,基本的に,同じ締付け力を2回ずつ繰り返すようになっている。最後の上ピークは,同じ締付け力を繰り返さないようになっている。この例では,上ピークは直前の上ピークと同じかそれよりも大きくなるようにされている。いずれの下ピークも自然締付け力に等しい。
図9(B)は,2分30秒程度の上ピークと,1分15秒程度の下ピークを繰り返す例である。この例における準備モードは,35分弱実施される。上ピークと下ピークが繰り返される回数は,この例では9回である。上ピークは直前の上ピークからの上がり幅が一定となるようにして徐々に上昇していく。この例では,下ピークは一定である。この例では,下ピークは,自然締付け力の50mmHgを保っている。」
「【0039】
【図1】 本発明の一実施形態の加圧トレーニングシステムの全体構成を概略的に示す図。」
2 甲1に記載された発明
(1) 緊締具100は,腕と脚の所定部位である締付け部位に巻き付けられ,締付け部位に締付け力を与えるものである(【0019】,【0030】,【0033】)。
制御装置220は,弁212の開閉を含めたポンプ210の制御を行うことで,緊締具100が締付け部位に与える締付け力を変化させるものである(【0023】,【0033】)。
そして,該締付け力の変化に際し,制御装置220は,弁212を閉じた状態でポンプ210を駆動させて空気を緊締具100のガス袋120へ送り,或いはポンプ210が備える弁212を開放してガス袋120内の空気を抜くという制御を行う(【0023】)ことで,上ピーク(加圧が行われている時間)と下ピーク(加圧が行われていない時間)とが繰り返される(【0033】)のであるから,制御装置220は,ガス袋120へ空気を送って締付け部位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位への加圧を行わない下ピークと,を繰り返すように,緊締具100が締付け部位に与える締付け力を変化させるものである。また,上ピークは,直前の上ピークから徐々に上昇していくものである(【0033】)。
また,「加圧トレーニングシステム」は,緊締具100と加圧トレーニング装置200とを含むものである(【0039】)。
(2) そうすると,甲1には,以下の「甲1-1発明」が記載されている。
「腕と脚との所定の部位に巻き付けられ,締付け部位に締付け力を与える緊締具100と,緊締具100が締付け部位に与える締付け力を変化させる制御装置220と,を備える加圧トレーニングシステムであって,
制御装置220は,ガス袋120へ空気を送って締付け部位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位への加圧を行わない下ピークと,を繰り返すように,緊締具100が締付け部位に与える締付け力を変化させるものであり,上ピークは直前の上ピークから徐々に上昇していくようにする,
加圧トレーニングシステム。」
(3) また,甲1には,以下の「甲1-2発明」も記載されている。
「腕と脚との所定の部位に巻き付けられ,締付け部位に締付け力を与える緊締具100を備える加圧トレーニングシステムの制御方法であって,
ガス袋120へ空気を送って締付け部位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位への加圧を行わない下ピークと,を繰り返すように,緊締具100が締付け部位に与える締付け力を変化させる制御工程を含み,
前記制御工程では,上ピークは直前の上ピークから徐々に上昇していくようにする,
加圧トレーニングシステムの制御方法。」
(4) また,甲1には,以下の「甲1-3発明」も記載されている。
「腕と脚との所定の部位に巻き付けられる緊締具100を用いて,ガス袋120へ空気を送って締付け部位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法であって,上ピークは直前の上ピークから徐々に上昇していくようにする,加除圧方法。」
3 本件発明1について
(1) 本件発明1と甲1-1発明とを対比する
甲1-1発明の「腕と脚との所定の部位」は,明らかに本件発明1の「使用者の四肢の特定部分」に相当する。
以下同様に,「締付け部位」は「特定部分」に,「締付け力を与える」は「加圧力を付与する」に,「緊締具100」はその機能からみて「ベルト」に,「締付け力を変化させる制御装置220」は「加圧力の制御を行う制御装置」に,「加圧トレーニングシステム」は四肢の所定の部位に対して,加圧と除圧を繰り返すように制御するシステムであるから「加除圧制御システム」に,「上ピークは直前の上ピークから徐々に上昇していくようにする」は「複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定する」に,それぞれ相当する。
また,「ガス袋120へ空気を送って締付け部位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す」と「前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する除圧動作と,を交互に繰り返す」は,「前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧動作と,を交互に繰り返す」限りにおいて共通する。
(2) そうすると,本件発明1と甲1-1発明とは,次の一致点で一致し,相違点で一応相違する。
【一致点】
「使用者の四肢の特定部分に巻き付けられて前記特定部分に加圧力を付与するように構成されたベルトと,前記ベルトにより前記特定部分に付与される加圧力の制御を行う制御装置と,を備える加除圧制御システムであって,
前記制御装置は,前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧動作と,を交互に繰り返すように前記ベルトにより付与される加圧力の制御を行うものであり,複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定するものである,
加除圧制御システム。」
【相違点】
前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧動作において,本件発明1では,加圧力を完全に除去するのに対し,甲1-1発明では,加圧力を下ピークまで除去する点。
(3) 上記相違点について検討する。
ア 本件特許の明細書には,加圧動作により特定部分に付与された加圧力を完全に除去する点に関し,次の記載がある。
「【0042】
ポンプ210には,また,図示されていない圧力計が内蔵されており,それによりポンプ210内の気圧を測定できるようになっている。ポンプ210内の気圧は,当然にガス袋120内の気圧に等しい。
【0043】
制御装置220は,ポンプ210を制御するものである。制御装置220は,弁212を閉じた状態でポンプ210を駆動させて空気を緊締具100のガス袋120へ送り,或いはポンプ210が備える弁212を開放してガス袋120内の空気を抜くという制御を行う。つまり,制御装置220は,弁212の開閉を含めたポンプ210の制御を行うものとなっている。」
「【0061】
図9は,緊締具100のベルト110により使用者の腕の付け根部分に付与される加圧力の経時的な変化を示すタイムチャートである。図9に示す例では,制御装置220がポンプ210を制御することにより,約5秒間かけて,腕の付け根部分に付与する加圧力を0mmHgから適正圧(約150mmHg)まで増大させ,その適正圧を約10秒間維持する(腕加圧工程;S51)。その後,制御装置220は,ポンプ210を制御することにより,約5秒間かけて,腕の付け根部分に付与する加圧力を適正圧(約150mmHg)から0mmHgまで低減させ(すなわち加圧力を完全に除去し),その状態を約10秒間維持する(腕除圧工程:S52)。そして,制御装置220は,これら腕加圧工程S51及び腕除圧工程S52を複数回(例えば両工程を3回ずつ)繰り返す。」
また,被請求人は要領書(1)にて,「したがって,「加圧力を完全に除去」した状態(図11の0mmHgの状態)とは,ガス袋内を真空にすることを意味するものではなく,弁が解放されてガス袋内の圧力が大気圧と略同一となり,かつ,ベルトを巻いた部位がベルトから圧力(装着圧)を受けていない状態を意味する。」(6.(1)(1-1)(イ)第6~10行)と述べている。
これらの記載によれば,本件発明1における「加圧動作により特定部分に付与された加圧力を完全に除去する」とは,加圧動作により特定部位に付与された加圧力を,ガス袋内の圧力が大気圧と略同一(0mmHg)となるまで低下させることを意味すると認められる(被請求人の要領書(1)の上記記載後半部分の装着圧を受けていない状態を意味する旨の主張が受け入れられない点は,後述する。)。
イ 一方,甲1には,下ピークのときに,緊締具のガス袋の中の圧力を略常圧にしてもよいことが記載されている(【0014】)。
また,甲1には,上記ガス袋の中の圧力を略常圧にしてもよいことに関して,「以下の内容は,トレーニング効果向上を奏する発明と,安全性向上効果を奏する発明の双方に共通する」(【0014】)との記載があり,甲1に記載されたいずれの発明においても略常圧としてもよいことが記載されていると認められる(なお,図8及び図9に示される準備モードは,「安全性向上効果を奏する発明」であるから(【0009】,【0033】)甲1-1発明は,「安全性向上効果を奏する発明」に分類される。)。
ここで,甲1の発明の詳細な説明において「常圧」について特段定義されていないところ,「常圧」とは一般的には「特別に減圧も加圧もしないときの圧力。通常,大気圧に等しい圧力。ほぼ一気圧。」(三省堂 大辞林 第三版)を意味するので,ガス袋の中の圧力を略常圧にするということは,ガス袋の中を減圧も加圧もしない略大気圧(ゲージ圧で略0mmHg)にすることを意味し,すなわち,加圧のためにガス袋の中に送り込んだ空気により発生する加圧力をほぼ完全に取り除くことを意味する。
そして,上記アも考慮すれば,加圧力を「ほぼ完全に」取り除くことと,「完全に」取り除くことにおいて,技術的意義において実質的な差異はなく,同一視できる。
ウ よって,甲1には,甲1-1発明において「前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する」点が記載されているといえることから,上記相違点は実質的な相違点ではない。
よって,本件発明1は,甲1に記載された発明である。
また,仮に本件発明1と甲1-1発明との間に他の相違点が存在したとしても,その点は,当業者が適宜なし得た程度のことである。
(4) 被請求人の主張について
被請求人は,この相違点について「「自然締付け力」が付与されている状態は,加圧力が完全に除去された状態(圧力がゼロの状態)とは異なる。」(答弁書第6ページ第17~18行)旨主張するので,この点について検討する。
本件発明1の「前記制御装置は,前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する除圧動作と,」との記載から,本件発明1で特定されている,完全に除去される「加圧力」は,「前記加圧動作により前記特定部分に付与された」ものであって,ここで「前記加圧動作」とは,制御装置により行われる「前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作」である。
一方,甲1に記載された「自然締付け力」は「緊締具100を固定した当初の状態で緊締具100が締付け部位に与える圧力」(【0014】)である。
してみると,本件発明の「前記加圧動作によって前記特定部分に付与された加圧力」と,甲1に記載された「自然締付け力」とは,前者が制御装置により付与される力であるのに対して,後者は制御装置とは関係なく緊締具を固定する力であることから,そもそも異なる力であることがわかる。
つまり,「自然締付け力」が付与されることと,「加圧力」が完全に除去されることとは別個の事象であって,例えば,「自然締付け力」が付与されている状態で,「加圧力」が完全に除去される状態も生じ得るし,「自然締付け力」が付与されていない状態で,「加圧力」が完全に除去される状態もまた生じ得る。
そして,本件発明1は,特許請求の範囲の記載において「自然締付け力」の有無について何ら特定するものではないし,また,本件明細書の記載全体をみても,上記「前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する」との特定により,「自然締付け力」が付与されている状態ではないことを特定していると解すべき根拠も見あたらない。
さらに,被請求人はこの相違点について「本件特許発明1における「加圧力を完全に除去する除圧動作」とは,ベルトによって特定部位に与えられる圧力を「完全に除去」する動作を意味するため,当該動作によって,ガス袋内への空気の供給によって付与されている圧力のみならず,ベルトを装着した際の装着圧も含め,ベルトによって特定部位に与えられる圧力が一切除去されている状態にすることを意味していると解するのが合理的である」(要領書(2)第2ページ第22~29行)とも主張する。
しかし,上述のとおり,特許請求の範囲の「前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する除圧動作」との記載によって特定されるのは,加圧動作により付与された加圧力を完全に除去することであって,ベルトを装着した際の装着圧も含め,ベルトによって特定部位に与えられる圧力が一切除去されている状態にすることを意味するとまでは解することができない。
よって,被請求人の上記主張は,本件発明1に係る請求項1の記載に基づくものでなく,採用できない。
また,被請求人が要領書(2)及び上申書で説明する,「ガス袋内の気圧を測定する「圧力計」は,空気の新たな供給によって付与された圧力のみならず,ベルトを締め付けることによる装着圧も当然に測定する」(要領書(2)第3ページ第25~27行)という事象は,ガス袋の内部に空気が存在する状態で,かつバルブが閉じられた状態で,ベルトを装着する場合にはそのとおりであるとしても,本件特許の明細書には,そのような条件について何ら記載されていない。
よって,被請求人の上記主張は明細書の記載に基づくものでないし,さらには,上記事象が生じるとしても,そのことは,甲1-1発明においてガス袋の中の圧力を略常圧にした場合に,「前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力が完全に除去される」ことを否定する事象でもないから,該説明により,本願発明のいわゆる新規性,進歩性を認めることはできない。
4 本件発明2について
(1) 本件発明2と甲1-2発明とを対比する。
甲1-2発明の「腕と脚との所定の部位」は,明らかに本件発明2の「使用者の四肢の特定部分」に相当する。
以下同様に,「締付け部位」は「特定部分」に,「締付け力を与える」は「加圧力を付与する」に,「緊締具100」はその機能からみて「ベルト」に,「加圧トレーニングシステム」は加圧と除圧とを制御しているものであるから「加除圧制御システム」に,「上ピークは直前の上ピークから徐々に上昇していくようにする」は「複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定する」に,それぞれ相当する。
また,「ガス袋120へ空気を送って締付け部位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す」と「前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する除圧動作と,を交互に繰り返す」は,「前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧動作と,を交互に繰り返す」限りにおいて共通する。
(2) そうすると,本件発明2と甲1-2発明とは,次の一致点で一致し,相違点で一応相違する。
【一致点】
「使用者の四肢の特定部分に巻き付けられて前記特定部分に加圧力を付与するように構成されたベルトを備える加除圧制御システムの制御方法であって,
前記特定部分に所定の加圧力を付与する加圧動作と,前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧動作と,を交互に繰り返すように,前記ベルトにより付与される加圧力を制御する加除圧制御工程を含み,
前記加除圧制御工程では,複数回の加圧動作を実現させる際に,各加圧動作における加圧力を直前の加圧動作における加圧力よりも高く設定する,
加除圧制御システムの制御方法。」
【相違点】
前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧動作において,本件発明2では,加圧力を完全に除去するのに対し,甲1-2発明では,加圧力を下ピークまで除去する点。
(3) 上記相違点について検討する。
ア 上記3で述べたのと同様に,本件発明2における「加圧動作により特定部分に付与された加圧力を完全に除去する」とは,加圧動作により特定部位に付与された加圧力を,ガス袋内の圧力が大気圧と略同一(0mmHg)となるまで低下させることを意味すると認められる。
イ 一方,甲1には,下ピークのときに,緊締具のガス袋の中の圧力を略常圧にしてもよいことが記載されている(【0014】)。
また,甲1には,上記ガス袋の中の圧力を略常圧にしてもよいことに関して,「以下の内容は,トレーニング効果向上を奏する発明と,安全性向上効果を奏する発明の双方に共通する」(【0014】)との記載があり,甲1に記載されたいずれの発明においても略常圧としてもよいことが記載されていると認められる(なお,図8及び図9に示される準備モードは,「安全性向上効果を奏する発明」であるから(【0009】,【0033】)甲1-2発明は,「安全性向上効果を奏する発明」に分類される。)。
ここで,甲1の発明の詳細な説明において「常圧」について特段定義されていないところ,「常圧」とは一般的には「特別に減圧も加圧もしないときの圧力。通常,大気圧に等しい圧力。ほぼ一気圧。」(三省堂 大辞林 第三版)を意味するので,ガス袋の中の圧力を略常圧にするということは,ガス袋の中を減圧も加圧もしない略大気圧(ゲージ圧で略0mmHg)にすることを意味し,すなわち,加圧のためにガス袋の中に送り込んだ空気により発生する加圧力をほぼ完全に取り除くことを意味する。
そして,上記アも考慮すれば,加圧力を「ほぼ完全に」取り除くことと,「完全に」取り除くことにおいて,技術的意義において実質的な差異はなく,同一視できる。
ウ よって,甲1には,甲1-2発明において「前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する」点が記載されているといえることから,上記相違点は実質的な相違点ではない。
よって,本件発明1は,甲1に記載された発明である。
また,仮に本件発明1と甲1-2発明との間に他の相違点が存在したとしても,その点は,当業者が適宜なし得た程度のことである。
(4) 被請求人の主張について
被請求人の主張に関しては,上記3(4)で述べたとおりである。
5 本件発明3について
(1) 本件発明3と甲1-3発明とを対比する。
甲1-3発明の「腕と脚との所定の部位」は,明らかに本件発明3の「使用者の四肢の特定部分」に相当する。
以下同様に,甲1-3発明の「締付け部位」は「特定部分」に,「巻き付けられる緊締具100」は「巻き付けられるように構成されたベルト」に,「上ピークは直前の上ピークから徐々に上昇していくようにする」は「前記加圧工程を複数回実施する際に,各加圧工程における加圧力を直前の加圧工程における加圧力よりも高く設定する」に,それぞれ相当する。
また,「ガス袋120へ空気を送って締付け部位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す」と「前記特定部分に加圧力を付与する加圧工程と,前記加圧工程により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する除圧工程と,を交互に繰り返す」は,「前記特定部分に加圧力を付与する加圧工程と,前記加圧工程により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧工程と,を交互に繰り返す」限りにおいて共通する。
(2) そうすると,本件発明3と甲1-3発明とは,次の一致点で一致し,相違点1ないし3で相違する。
【一致点】
「使用者の四肢の特定部分に巻き付けられるように構成されたベルトを用いて前記特定部分に加圧力を付与する加圧工程と,前記加圧工程により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧工程と,を交互に繰り返す方法であって,
前記加圧工程を複数回実施する際に,各加圧工程における加圧力を直前の加圧工程における加圧力よりも高く設定する,
方法。」
【相違点1】
前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を除去する除圧動作において,本件発明3では,加圧力を完全に除去するのに対し,甲1-3発明では,加圧力を下ピークまで除去する点。
【相違点2】
除圧工程により,加圧動作によって付与された加圧力が完全に除去された状態においては,本件発明3では,特定部分を締め付ける加圧力が付与されていないのに対し,甲1-3発明では,特定部分を締め付ける加圧力が付与されているか否かが不明である点。
【相違点3】
加圧工程と除圧工程とを繰り返す方法が,本件発明3は「前記使用者の血管の血管内皮細胞から生成される一酸化窒素を増加させ,もって前記血管を強化する血管強化方法(医療行為を除く)」であるのに対し,甲1-3発明は,そのようなものであるのか明らかでない点。
(3) 上記相違点1について検討する。
ア 上記3で述べたのと同様に,本件発明3における「加圧動作により特定部分に付与された加圧力を完全に除去する」とは,加圧動作により特定部位に付与された加圧力を,ガス袋内の圧力が大気圧と略同一(0mmHg)となるまで低下させることを意味すると認められる。
イ 一方,甲1には,下ピークのときに,緊締具のガス袋の中の圧力を略常圧にしてもよいことが記載されている(【0014】)。
また,甲1には,上記ガス袋の中の圧力を略常圧にしてもよいことに関して,「以下の内容は,トレーニング効果向上を奏する発明と,安全性向上効果を奏する発明の双方に共通する」(【0014】)との記載があり,甲1に記載されたいずれの発明においても略常圧としてもよいことが記載されていると認められる(なお,図8及び図9に示される準備モードは,「安全性向上効果を奏する発明」であるから(【0009】,【0033】)甲1-3発明は,「安全性向上効果を奏する発明」に分類される。)。
ここで,甲1の発明の詳細な説明において「常圧」について特段定義されていないところ,「常圧」とは一般的には「特別に減圧も加圧もしないときの圧力。通常,大気圧に等しい圧力。ほぼ一気圧。」(三省堂 大辞林 第三版)を意味するので,ガス袋の中の圧力を略常圧にするということは,ガス袋の中を減圧も加圧もしない略大気圧(ゲージ圧で略0mmHg)にすることを意味し,すなわち,加圧のためにガス袋の中に送り込んだ空気により発生する加圧力をほぼ完全に取り除くことを意味する。
そして,上記アも考慮すれば,加圧力を「ほぼ完全に」取り除くことと,「完全に」取り除くことにおいて,技術的意義において実質的に差異はなく,同一視できる。
ウ よって,甲1には,甲1-3発明において「前記加圧動作により前記特定部分に付与された加圧力を完全に除去する」点が記載されているといえることから,上記相違点は実質的な相違点ではない。
(4) 上記相違点2について検討する。
甲1の段落【0014】には,制御手段が,下ピークのときに緊締具が所定の部位に与える締付け力が,緊締具を所定の部位に取り付けた際における締付け力である自然締付け力と略一致するようにして,圧力調整手段を制御するようになっていてもよいことが記載されている。しかしながら,上記「自然締付け力」による加圧力が付与されていない状態とすることは,甲1には記載されていない。また,甲1に記載された発明から自明なものともいえない。さらに,自然締付け力による加圧力が付与されていない状態とすることは,甲2~甲7にも記載されておらず,技術常識であるとも言えない。
よって,本件発明3は,上記相違点3について検討するまでもなく,甲1に記載された発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。また,本件発明3は,甲1に記載された発明及び甲2~甲7に記載された事項ないし技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
6 結論
以上のとおり,本件発明1~2は,甲1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号(無効理由1)に該当し特許を受けることができないものであり,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項(無効理由2)の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本件発明1~2に係る特許は,同法第123号第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
また,本件発明3は,特許法第29条第1項第3号(無効理由1)に該当せず,本件発明3は,特許法第29条第2項(無効理由2)の規定により特許を受けることができないものではないから,本件発明3に係る特許を無効とすることはできない。
第6 むすび
以上のとおり,請求人の主張する無効理由1及び2によって,本件特許の請求項1,12に係る特許は無効とすべきものである。
一方,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件特許の請求項21に係る特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第64条の規定により,その3分の1を請求人の負担とし,3分の2を被請求人の負担とする。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-800148