特許異議申立
2018-700523
面材模様仕上がりシミュレーション装置及び面材模様仕上がりシミュレーション方法
- 審判番号
- 2018-700523
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-565364外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年06月27日
- 審決日
- 2019年09月06日
- 公報発行日
- 2019年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.121-YAA(G06T) / P1651.536-YAA(G06T)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6252691号発明「面材模様仕上がりシミュレーション装置及び面材模様仕上がりシミュレーション方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6252691号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7、9〕、8について訂正することを認める。
特許第6252691号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6252691号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)6月1日(優先権主張 平成27年6月19日)を国際出願日とする出願であって、平成29年12月8日にその特許権の設定登録(特許公報発行日 平成29年12月27日)がされ、平成30年6月27日に特許異議申立人井上雅恵により請求項1~8に対して特許異議の申立てがされたものである。
そして、その後の経緯は次のとおりである。
平成30年 9月14日付け 取消理由通知
同年11月19日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年12月27日 意見書の提出(特許異議申立人)
平成31年 3月25日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 元年 5月22日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 7月11日 意見書の提出(特許異議申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨、訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和元年5月22日に特許権者により行われた、願書に添付した特許請求の範囲の訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、特許第6252691号の特許請求の範囲を本件訂正の訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正の内容は以下ア~カのとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像を出力する面材模様仕上がりシミュレーション装置であって、
前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップと前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報とを含む情報から、前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出する入射光計算部と、
前記入射光情報と、前記法線マップと、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記面材の観察条件情報とを含む計算情報から、前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求める反射光計算部と、
前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像を表示する表示部と
を備える面材模様仕上がりシミュレーション装置。」
に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を、
「前記絵柄における拡散反射率情報が予め記憶された絵柄情報テーブル、面材表面の前記光沢情報が予め記憶された光沢情報テーブル、面材表面に設けられた前記エンボス膜の凹凸形状の情報が予め記憶された凹凸形状テーブルとが予め書き込まれて記憶されている面材データベースとを備え、
前記面材の前記エンボス膜の法線マップを生成する前記エンボス膜の凹凸形状の情報と前記拡散反射率情報と、前記光沢情報とをユーザの入力に対応して前記面材データベースから読みだして変更する変更部をさらに備える
請求項1又は請求項2に記載の面材模様仕上がりシミュレーション装置。」
に訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項4~6も同様に訂正する)
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を、
「仕上がりをシミュレーションする前記計算情報と、前記計算情報のうち凹凸形状情報、光源情報、拡散反射率情報、光沢情報、及び観察情報のいずれかが異なる全ての計算情報に対し、ユーザの入力に対応した前記計算情報のうちの少なくとも一つの変更を同時に適用する変更部とをさらに備える
請求項3に記載の面材模様仕上がりシミュレーション装置。」
に訂正する。(請求項4の記載を引用する請求項5~6も同様に訂正する)
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7の請求項1を引用するものについて、
「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像を出力する面材模様仕上がりシミュレーション装置であって、
前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップと前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報とを含む情報から、前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出する入射光計算部と、
前記入射光情報と、前記法線マップと、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記面材の観察条件情報とを含む計算情報から、前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求める反射光計算部と、
前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像を表示する表示部とを備え
前記面材の前記エンボス膜における前記凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材の前記表面を示す前記画像の画素毎に投影して求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部をさらに備える面材模様仕上がりシミュレーション装置。」
に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5を引用するものについて、
「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像を出力する面材模様仕上がりシミュレーション装置であって、
前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップと前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報とを含む情報から、前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出する入射光計算部と、
前記入射光情報と、前記法線マップと、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記面材の観察条件情報とを含む計算情報から、前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求める反射光計算部と、
前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像を表示する表示部と、
前記絵柄における拡散反射率情報が予め記憶された絵柄情報テーブル、面材表面の前記光沢情報が予め記憶された光沢情報テーブル、面材表面に設けられた前記エンボス膜の凹凸形状の情報が予め記憶された凹凸形状テーブルとが予め書き込まれて記憶されている面材データベースと、
前記面材の前記エンボス膜の法線マップを生成する前記エンボス膜の凹凸形状の情報と前記拡散反射率情報と、前記光沢情報とをユーザの入力に対応して前記面材データベースから読みだして変更する変更部とを備え、
前記表示部の表示画面における、凹凸形状情報と前記拡散反射率情報と前記光沢情報との各々のデータを入力する各入力画像において、当該入力画像の操作の操作量に対応した数値を、前記凹凸形状情報と前記拡散反射率情報と前記光沢情報との各々のデータとして入力する操作部と、
前記操作部により入力された前記凹凸形状情報のデータから前記面材の前記エンボス膜の凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材を示す前記画像の画素毎に求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部とをさらに備える面材模様仕上がりシミュレーション装置。」
と改め、新たに請求項9とする。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8を、
「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像を出力する面材模様仕上がりシミュレーション方法であって、
入射光計算部が、前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップと前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報とを含む情報から、前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出し、
反射光計算部が、前記入射光情報と、前記法線マップと、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記面材の観察条件情報とを含む計算情報から、前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求め、
表示部が、前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像を表示する面材模様仕上がりシミュレーション方法。」
に訂正する。
2 請求項1~請求項7、請求項9に係る訂正について
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項2~7は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用し、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7、9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、訂正事項1~5は、一群の請求項〔1~7、9〕についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
(2-1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「表面に絵柄及び凹凸形状を有する面材」を「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材」と限定するとともに、訂正前の請求項1の「法線マップ」を「前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップ」と限定し、さらにこれらの限定に伴い訂正前の請求項1の「前記表面からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求める反射光計算部」を「前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求める反射光計算部」に訂正し、明瞭でない記載を釈明するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項1により訂正された事項は、明細書の段落0018、0028、0030、0035に記載されている。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項1は、請求項1のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
エ 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2-2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2は、訂正前の請求項3の面材模様仕上がりシミュレーション装置に、「前記絵柄における拡散反射率情報が予め記憶された絵柄情報テーブル、面材表面の前記光沢情報が予め記憶された光沢情報テーブル、面材表面に設けられた前記エンボス膜の凹凸形状の情報が予め記憶された凹凸形状テーブルとが予め書き込まれて記憶されている面材データベースとを備え、」を付加して限定するとともに、訂正前の請求項3の「前記面材の前記表面の前記法線マップと前記拡散反射率情報と、前記光沢情報とをユーザの入力に対応して変更する変更部」を「前記面材の前記エンボス膜の法線マップを生成する前記エンボス膜の凹凸形状の情報と前記拡散反射率情報と、前記光沢情報とをユーザの入力に対応して前記面材データベースから読みだして変更する変更部」に限定するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項2により訂正された構成のうち、「前記絵柄における拡散反射率情報が予め記憶された絵柄情報テーブル、面材表面の前記光沢情報が予め記憶された光沢情報テーブル、面材表面に設けられた前記エンボス膜の凹凸形状の情報が予め記憶された凹凸形状テーブルとが予め書き込まれて記憶されている面材データベースとを備え、」との構成については、明細書の段落0016、0019~0023に記載されている。
また、訂正事項2により訂正された構成のうち、「前記面材の前記エンボス膜の法線マップを生成する前記エンボス膜の凹凸形状の情報と前記拡散反射率情報と、前記光沢情報とをユーザの入力に対応して前記面材データベースから読みだして変更する変更部」との構成については、明細書の段落0017、0026、0028に記載されている。
以上から、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項2は、請求項3のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
エ 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2-3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3は、訂正前の請求項4の「ユーザの入力に対応した変更」の対象を明瞭にするために、「ユーザの入力に対応した変更を同時に適用する変更部をさらに備える」を「ユーザの入力に対応した前記計算情報のうちの少なくとも一つの変更を同時に適用する変更部とをさらに備える」に訂正するものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項3により訂正された事項は、明細書の段落0055、0070に記載されている。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項3は、請求項4のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(2-4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項4は、訂正前の請求項1を引用する請求項7を独立項とし、上記訂正事項1と同様の訂正を行ったうえ、訂正前の請求項7の「前記面材の前記表面における前記凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材を示す前記画像の画素毎に求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部」を「前記面材の前記エンボス膜における前記凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材の前記表面を示す前記画像の画素毎に投影して求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部」に限定するもので、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に規定する特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項4により訂正された構成のうち、「前記面材の前記エンボス膜における前記凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材の前記表面を示す前記画像の画素毎に投影して求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部」については、明細書の段落0030、0034に記載されている。
また、訂正事項4により訂正された構成のうち、上記訂正事項1と同様の訂正については、上記(2-1)イのとおりである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項4は、請求項7のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
エ 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているから、訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2-5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項5は、訂正前の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5を引用する請求項7を独立項とし、上記訂正事項1及び訂正事項2と同様の訂正を行ったうえ、訂正前の請求項7の「前記面材の前記表面における前記凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材を示す前記画像の画素毎に求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部」を「前記操作部により入力された前記凹凸形状情報のデータから前記面材の前記エンボス膜の凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材を示す前記画像の画素毎に求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部」に限定するもので、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に規定する特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項5により訂正された構成のうち、「前記操作部により入力された前記凹凸形状情報のデータから前記面材の前記エンボス膜の凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材を示す前記画像の画素毎に求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部」については、明細書の段落0068、0069に記載されている。
また、訂正事項5により訂正された構成のうち、上記訂正事項1及び訂正事項2と同様の訂正については、上記(2-1)イ及び(2-2)イのとおりである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項5は、請求項7のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
エ 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているから、訂正事項5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項1~訂正事項5についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項1~5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合する。
3 請求項8に係る訂正について
(1)訂正事項6について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項6は、訂正前の請求項8の「表面に絵柄及び凹凸形状を有する面材」を「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材」と限定するとともに、訂正前の請求項8の「法線マップ」を「前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップ」と限定し、さらにこれらの限定に伴い訂正前の請求項8の「前記表面からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求め、」を「前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求め、」に訂正し、明瞭でない記載を釈明するものである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項6により訂正された事項は、明細書の段落0018、0028、0030、0035に記載されている。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項6は、請求項1のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
エ 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているから、訂正事項6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
オ 訂正事項6についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
4 小括
上記2(3)及び3(1)オのとおり、訂正事項1~6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7、9〕、8について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~9に係る発明(以下「本件特許発明1~9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、本件特許発明1~9の各構成には、「A」~「D」、「A1」~「M1」の符号を当審において付した。以下、構成A~構成D、構成A1~構成M1と称する。
(本件特許発明1)【請求項1】
(A1)表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像を出力する面材模様仕上がりシミュレーション装置であって、
(B1)前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップと前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報とを含む情報から、前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出する入射光計算部と、
(C1)前記入射光情報と、前記法線マップと、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記面材の観察条件情報とを含む計算情報から、前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求める反射光計算部と、
(D1)前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像を表示する表示部と
(A1)を備える面材模様仕上がりシミュレーション装置。
(本件特許発明2)【請求項2】
(E1)前記入射光計算部及び前記反射光計算部は、2つの画像において、凹凸形状情報、前記光源情報、前記拡散反射率情報、前記光沢情報、及び観察情報の各々のうち1つ以上の情報が異なっている前記模様の仕上がりをシミュレーションし、
(F1)前記表示部が前記2つの画像の各々を、前記表示部の表示画面に並べて表示する
(A1)請求項1に記載の面材模様仕上がりシミュレーション装置。
(本件特許発明3)【請求項3】
(G1)前記絵柄における拡散反射率情報が予め記憶された絵柄情報テーブル、面材表面の前記光沢情報が予め記憶された光沢情報テーブル、面材表面に設けられた前記エンボス膜の凹凸形状の情報が予め記憶された凹凸形状テーブルとが予め書き込まれて記憶されている面材データベースとを備え、
(H1)前記面材の前記エンボス膜の法線マップを生成する前記エンボス膜の凹凸形状の情報と前記拡散反射率情報と、前記光沢情報とをユーザの入力に対応して前記面材データベースから読みだして変更する変更部をさらに備える
(A1)請求項1又は請求項2に記載の面材模様仕上がりシミュレーション装置。
(本件特許発明4)【請求項4】
(I1)仕上がりをシミュレーションする前記計算情報と、前記計算情報のうち凹凸形状情報、光源情報、拡散反射率情報、光沢情報、及び観察情報のいずれかが異なる全ての計算情報に対し、ユーザの入力に対応した前記計算情報のうちの少なくとも一つの変更を同時に適用する変更部とをさらに備える
(A1)請求項3に記載の面材模様仕上がりシミュレーション装置。
(本件特許発明5)【請求項5】
(J1)前記表示部の表示画面における、凹凸形状情報と前記拡散反射率情報と前記光沢情報との各々のデータを入力する各入力画像において、当該入力画像の操作の操作量に対応した数値を、前記凹凸形状情報と前記拡散反射率情報と前記光沢情報との各々のデータとして入力する操作部をさらに備える
(A1)請求項3又は請求項4に記載の面材模様仕上がりシミュレーション装置。
(本件特許発明6)【請求項6】
(K1)前記操作部は、
前記表示部の前記表示画面における、前記模様の仕上がりの拡大及び縮小の比率を示すサイズ情報を入力し、前記サイズ情報が前記操作部に入力された場合、前記サイズ情報の比率に対応して前記面材を示す画像のサイズを変更し、
(L1)前記反射光計算部は、
前記サイズが変更された前記面材を示す前記画像の画素毎の反射光の前記放射輝度を求める
(A1)請求項5に記載の面材模様仕上がりシミュレーション装置。
(本件特許発明7)【請求項7】
(A1)表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像を出力する面材模様仕上がりシミュレーション装置であって、
(B1)前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップと前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報とを含む情報から、前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出する入射光計算部と、
(C1)前記入射光情報と、前記法線マップと、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記面材の観察条件情報とを含む計算情報から、前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求める反射光計算部と、
(D1)前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像を表示する表示部とを備え
(M1)前記面材の前記エンボス膜における前記凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材の前記表面を示す前記画像の画素毎に投影して求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部
(A1)をさらに備える面材模様仕上がりシミュレーション装置。
(本件特許発明8)【請求項8】
(A)表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像を出力する面材模様仕上がりシミュレーション方法であって、
(B)入射光計算部が、前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップと前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報とを含む情報から、前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出し、
(C)反射光計算部が、前記入射光情報と、前記法線マップと、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記面材の観察条件情報とを含む計算情報から、前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求め、
(D)表示部が、前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像を表示する
(E)面材模様仕上がりシミュレーション方法。
(本件特許発明9)【請求項9】
(A1)表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像を出力する面材模様仕上がりシミュレーション装置であって、
(B1)前記エンボス膜の凹凸形状の法線マップと前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報とを含む情報から、前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出する入射光計算部と、
(C1)前記入射光情報と、前記法線マップと、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記面材の観察条件情報とを含む計算情報から、前記面材からの反射光の放射輝度を、前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求める反射光計算部と、
(D1)前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像を表示する表示部と、
(G1)前記絵柄における拡散反射率情報が予め記憶された絵柄情報テーブル、面材表面の前記光沢情報が予め記憶された光沢情報テーブル、面材表面に設けられた前記エンボス膜の凹凸形状の情報が予め記憶された凹凸形状テーブルとが予め書き込まれて記憶されている面材データベースと、
(H1)前記面材の前記エンボス膜の法線マップを生成する前記エンボス膜の凹凸形状の情報と前記拡散反射率情報と、前記光沢情報とをユーザの入力に対応して前記面材データベースから読みだして変更する変更部とを備え、
(J1)前記表示部の表示画面における、凹凸形状情報と前記拡散反射率情報と前記光沢情報との各々のデータを入力する各入力画像において、当該入力画像の操作の操作量に対応した数値を、前記凹凸形状情報と前記拡散反射率情報と前記光沢情報との各々のデータとして入力する操作部と、
(M1)前記操作部により入力された前記凹凸形状情報のデータから前記面材の前記エンボス膜の凹凸形状を示す法線ベクトルを前記面材を示す前記画像の画素毎に求め、前記法線マップを生成する法線マップ生成部と
(A1)をさらに備える面材模様仕上がりシミュレーション装置。
2 取消理由(決定の予告)の概要
平成31年3月25日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
平成30年11月19日付けの訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~請求項8に係る特許は、下記の甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第7号証~甲第12号証の発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
記
甲第1号証:特開2011-103097号公報
甲第2号証:特開2007-140820号公報
甲第4号証:小笠原祐治、「C++による簡単実習3次元CG入門」、
第2版第2刷、森北出版株式会社、2005年4月15日
甲第7号証:国際公開第99/40526号
甲第8号証:特表2007-500901号公報
甲第9号証:特開2001-125944号公報
甲第10号証:特開2013-110615号公報
甲第11号証:特開2005-242506号公報
甲第12号証:和歌山大学床井研究室ホームページ ブログ記事
「第24回 バンプマッピング」、
<URL:https://web.archive.org/web/20070815140303/
http://marina.sys.wakayama-u.ac.jp/~tokoi/?date=
20050826>、
ウェブアーカイブInternet Archiveの保存日:平成19年
8月15日
3 特許異議申立人の意見書における意見の概要
令和元年5月22日に特許権者から提出された訂正請求書及び意見書に対して、特許異議申立人より令和元年7月11日に提出された意見書における意見の概要は次のとおりである。
本件特許発明1~本件特許発明8は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第7号証~甲第15号証の記載により当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許発明1~本件特許発明8に係る特許は取り消すべきものである。
そして、特許異議申立人が提出した甲号証は、以下のものである。
甲第13号証:特開2000-85076号公報
甲第14号証:特開2008-73998号公報
甲第15号証:特公昭58-14312号公報
4 取消理由(決定の予告)で引用しなかった甲号証
上記取消理由(決定の予告)において引用しなかった甲号証は以下のとおりである。
甲第3号証:「コンピュータグラフィックス」、財団法人画像情報
教育振興協会、第2版、2010年3月1日、
146~149、151、152頁
甲第5号証:株式会社コロッサス ホームページ ブログ記事
「アーノルドレンダー検証 その5
(http://cls-studio.co.jp/%E3%81%9D%E3%81%AE5/)」、
2013年10月17日
甲第6号証:はてなブログ「Three.jsを使って、作ってみた Three.js
バンプマッピング(Bump mapping)-凹凸処理-」
(http://gupuru. hatenablog.jp/entry/2013/12/10
/210928)、2013年12月10日
5 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明又は技術
(1)甲第2号証について
(1-1)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の記載がある。なお、以下の下線は当審で付したものである。
「【0003】
建築物、家具、自動車の内装部品などの物品データは、仮想物体の三次元データであるのに対して、提示用のCG画像は、通常、二次元画像として用意される。したがって、三次元の物品データを利用してCG画像を作成する際には、コンピュータ内に仮想物体の三次元データを取り込み、照明条件、視点位置、投影平面を設定した上で、三次元の仮想物体の二次元投影像を投影平面上に得るためのレンダリング処理が行われる。この処理は、基本的には、照明条件で定められた光源からの照明光が仮想物体の各部で反射して視点位置へ向かう現象をコンピュータ上でシミュレートするものであり、視点位置へ向かう反射光の強度を演算する処理ということができる。」
「【0024】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< §1.レンダリング処理の基本概念 >>>
本発明は、コンピュータを用いたレンダリング処理に係るものであり、特に、表面に繊維シート(布などの繊維質材料からなるシート)を張り付けた三次元仮想物体についてのレンダリング処理に応用した場合に有用である。ここでは、説明の便宜上、従来の一般的なレンダリング処理の基本概念を説明しておく。
【0025】
図1は、一般的なレンダリング処理の原理を示す斜視図である。この例は、三次元仮想物体10を、視点Eから観察したときに、投影平面H上に二次元投影画像15を求めるシェーディングモデルを示すものである。このとき、二次元画像として用意されているテクスチャデータ20を、仮想物体10の表面にマッピングした状態で、投影画像15を求める演算が行われる。
【0026】
このようなレンダリング処理を行うために、まず、仮想物体10を示す物体データが用意される。たとえば、図示の例では、XYZ三次元座標系上に定義された多数のポリゴン(多角形)の集合として、仮想物体10が表現されており、仮想物体10の表面の各部は、それぞれポリゴンによって構成されている。したがって、仮想物体10を示す物体データは、このポリゴンの集合体からなる三次元形状データということになり、仮想物体10の実体は物体データということになる。以下、説明の文脈に応じて、これを仮想物体10と呼んだり、物体データ10と呼んだりする。
【0027】
一方、テクスチャデータ20は、uv二次元座標系上に定義された二次元画像データであり、二次元平面上に配列された多数の画素の集合体である。ここに示す例では、ハート型の絵柄模様が表現されている。もちろん、テクスチャデータ20によって表現される模様は、必ずしも人為的に描かれた絵柄模様だけではなく、天然素材がもつ固有の陰影模様の場合もある。たとえば、無地の絨毯を表現するテクスチャデータには、人為的な模様は描かれていないが、絨毯の毛並みによる陰影模様が表現されていることになる。結局、このテクスチャデータ20は、二次元平面上における反射特性の分布を示す反射特性データということができる。レンダリング処理を行う際には、このuv座標系上に定義されたテクスチャデータ20を、XYZ座標系上に定義された仮想物体10の表面にマッピングし、仮想物体表面の各部の反射特性を決定することになる。
【0028】
なお、テクスチャデータ20は、たとえば、スキャナ装置やデジタルカメラなどを用いて、実在の繊維シートを撮影することによって用意することもできるし、CGの技術を用いて、コンピュータ上で人為的に作成することもできる。
【0029】
レンダリング処理にあたっては、この他、照明条件、視点位置、投影平面を設定する必要がある。照明条件としては、光源の種類(たとえば、形状、大きさ、波長特性など)や位置などを設定する。図示の例の場合、光源G、視点E、投影平面Hが図示の位置に設定されている。また、三次元仮想物体10の表面に、どのようにして二次元テクスチャデータ20をマッピングするかを示すマッピング態様(たとえば、相対的な位置や向き)も設定しておく必要がある。一方、投影平面H上には、xy二次元座標系が定義されており、投影画像15(レンダリング処理の目的物として得られる二次元画像)は、このxy座標系上の画像データとして得られることになる。
【0030】
いま、図示のとおり、仮想物体10上にサンプル点Qを定義し、このサンプル点Qから視点Eに向かう反射光Vを考える。この反射光Vは、光源Gからの照明光Lが、サンプル点Qで反射することにより得られる光であり、視点Eの位置で観察される光である。もっとも、ここでいう「反射」とは、「鏡面反射」のみでなく、「拡散反射」も含めた広い概念であり、サンプル点Qに様々な角度で入射する照明光がそれぞれ反射光として視点Eに向かうことになる。したがって、図示の反射光Vは、様々な角度から入射した照明光から得られる反射光の集まりというべきものになる。
【0031】
1つのサンプル点Qから視点Eに向かう反射光Vと投影平面Hとの交点位置に、当該反射光Vの強度に応じた画素値をもつ画素Pを定義するようにし、仮想物体10の表面上の多数のサンプル点から視点Eに向かう各反射光について、同様に、投影平面H上に画素を定義すれば、多数のサンプル点について定義された多数の画素の集合により、三次元仮想物体10の二次元投影画像15が投影平面H上に得られることになる。実用上は、予め投影平面H上に所望の解像度で画素配列を定義しておき、視点Eと個々の画素Pの代表点(たとえば、中心位置)とを結ぶ線を仮想物体10上へと伸ばし、仮想物体表面との交点位置にサンプル点Qを定義し、上述した手法により、個々の画素Pの画素値を演算すれば、必要な解像度をもった二次元データを得ることができる。
【0032】
このように、投影平面H上の画素Pの画素値を求めるためには、サンプル点Qから画素Pを通って視点Eに向かう反射光Vの強度を求める必要があるが、このような反射光Vの強度は、基本的に、サンプル点Qに入射する照明光Lの強度と、サンプル点Qにおける光の反射率(鏡面反射率や拡散反射率)とを考慮した演算によって求めることができる。もちろん、このとき、サンプル点Qを含むポリゴンの向きを考慮に入れた演算が行われ、サンプル点Qにマッピングされたテクスチャデータ20(uv座標系上に定義された二次元画像データ)も考慮に入れた演算が行われる。したがって、仮想物体10の表面が曲面であれば、当該曲面に応じた陰影をもった投影画像15が得られることになり、テクスチャデータ20が、図示のように、ハート型の絵柄の情報をもっていれば、投影画像15上にも、このハート型の絵柄が表現されることになる(図1では、この絵柄の図示は省略)。
【0033】
図2は、図1に示すレンダリング処理において、サンプル点Qからの反射光の強度を演算する最も単純な手法を示す斜視図である。図示のとおり、XYZ三次元座標系上の1点として定義されるサンプル点Qから視点Eに向かう反射光Vの強度I(V)は、
I(V)=K・I(L)
なる式で表わされる。ここで、I(L)は照明光Lのサンプル点Qの位置における強度であり、Kは反射係数である。照明光Lの強度I(L)は、光源Gの輝度、光源Gとサンプル点Qとの距離、サンプル点Qが所属するポリゴンに対する照明光Lの入射角といったパラメータによって決定される。これに対して、反射係数Kは、テクスチャデータ20によって決定される。そこで、まず、テクスチャデータ20を仮想物体10の表面に所定のマッピング態様でマッピングした場合に、サンプル点Qの位置が、テクスチャデータ20のどの座標に対応するかを求め、当該対応座標に位置する画素T(u,v)を決定する。図2には、サンプル点Qに対応する画素T(u,v)の位置がX印で示されている。そして、この対応画素T(u,v)の画素値として定義されている値が、サンプル点Qの位置における反射係数Kになる。
【0034】
テクスチャデータ20として、カラー画像を用いる場合は、個々の原色ごとに、それぞれ所定の反射係数(反射率)が定義される。図3は、テクスチャデータ20を構成する画素配列を示す平面図である。ここでは、図示の便宜上、6行8列の非常に小規模な画素配列を示しているが、実用上は、より大きな画素配列からなるテクスチャデータが用いられる。図の個々の正方形が1つの画素(一般的には、Texture Cellの意味で「テクセル」と呼ばれる)を示しており、画素T(u,v)は、座標値(u,v)で示される位置の画素に対応する。この例では、1つの画素T(u,v)の画素値として、3つの係数Kr,Kg,Kbが定義されている。ここで、係数Krは原色R(赤)の波長成分をもった照明光についての反射率、係数Kgは原色G(緑)の波長成分をもった照明光についての反射率、係数Kbは原色B(青)の波長成分をもった照明光についての反射率である。
【0035】
このようなカラー画像からなるテクスチャデータ20をマッピングした場合、サンプル点Qからの反射光の強度は、光の各波長成分ごとに演算される。たとえば、反射光Vの赤色波長成分の強度Ir(V)は、照明光Lの赤色波長成分のサンプル点Qの位置における強度Ir(L)と、反射係数Krとを用いて、
Ir(V)=Kr・Ir(L)
なる式で求めることができる。
【0036】
<<< §2.高次元画像をテクスチャとして用いるモデル >>>
§1では、テクスチャデータ20として、二次元画像を用いた例を示した。このような二次元画像をマッピングするモデルでは、サンプル点Qの反射特性が、照明光の入射角や反射光の射出角に依存しないものとして取り扱っているが、パイル地のような三次元構造をもった繊維シートを物体表面に張り付けた場合、厳密には、照明光の入射角や反射光の射出角に依存した異方性反射の特性を考慮した取り扱いをしなければならない。
【0037】
このように、光の入射方向や反射方向に関する角度に依存して、反射特性が異なるような取り扱いを行う基本的なモデルとして、BRDF(Bi-directional Reflectance Distribution Function)と呼ばれるモデルが提案されている。図4は、このBRDFモデルの原理を説明するための斜視図である。図示のとおり、仮想物体表面上のサンプル点Qの位置に法線nを立て、サンプル点Qを含み、法線nに直交する直交平面S(以下、基準面Sと呼ぶ)を定義する。そして、法線nと入射照明光Lとのなす角をθL、基準面S上への入射照明光Lの投影像L′とこの基準面S上のサンプル点Qを通る所定の基準線ζとのなす角度をφLとし、入射照明光Lの向きを角度θLおよび角度φLの組み合わせで定義する。同様に、法線nと反射光Vとのなす角をθV、基準面S上への反射光Vの投影像V′と基準線ζとのなす角度をφVとし、反射光Vの向きを角度θVおよび角度φVの組み合わせで定義する。いわば、角度θL,θVは、入射照明光および反射光の仰角に相当する(本来の「仰角」は、水平面に対する角度を意味するので、角度θL,θVは、厳密に言えば「90°-仰角」であるが、ここでは、便宜上、単に「仰角」と呼ぶことにする)。また、角度φL,φVは、入射照明光および反射光の方位角に相当する。
【0038】
ここで、サンプル点Qにおける入射照明光Lの強度をI(L)としたとき、サンプル点Qからの反射光Vの強度I(V)を、θL,φL,θV,φVの関数として与えられる反射係数K(θL,φL,θV,φV)を用いて、
I(V)=K(θL,φL,θV,φV)・I(L)
なる式で求めるのが、BRDFモデルである。このBRDFモデルの特徴は、反射係数Kを、入射照明光Lの向きを示すパラメータ「θL,φL」および反射光Vの向きを示すパラメータ「θV,φV」の関数として与える点にある。
【0039】
このBRDFモデルに、テクスチャマッピングの概念を付加したものが、前掲の非特許文献1等に記載されているBTF(Bi-directional Texture Function)モデルである。BTFモデルでは、上記BRDFモデルで用いた4つの角度パラメータに、更に、二次元uv座標系上での座標値(u,v)がパラメータとして加わることになり、サンプル点Qにおける入射照明光Lの強度をI(L)としたとき、サンプル点Qからの反射光Vの強度I(V)は、
I(V)=K(θL,φL,θV,φV,u,v)・I(L)
なる式で与えられる。すなわち、図4に示す反射光Vの強度I(V)は、入射照明光Lがどの方向からサンプル点Qに照射され、反射光Vがサンプル点Qからどの方向に射出するか、という角度に関するパラメータに依存して定まるとともに、サンプル点Qの位置(u,v座標値)にも依存して定まるファクターということになる。」
「【0103】
<<< §7.本発明に係るレンダリング方法の基本手順 >>>
次に、図17の流れ図を参照しながら、本発明に係るテクスチャデータを用いたレンダリング方法の基本手順を説明する。ここで説明するレンダリング処理は、基本的には、図1を参照しながら§1で述べたレンダリング処理と同等の処理である。すなわち、その目的は、各部の反射特性を示すテクスチャデータを三次元仮想物体の表面にマッピングし、これを所定の視点から観察したときに得られる投影画像を示す二次元データを生成することである。ただ、用いるテクスチャデータとして、§6で述べた手順で作成された圧縮テクスチャデータ25を用いることが前提となっている。」
「【0112】
<<< §8.本発明に係る装置の基本構成 >>
ここでは、図16の流れ図に示した「レンダリング用テクスチャデータの作成方法」および図17の流れ図に示した「テクスチャデータを用いたレンダリング方法」を実行するための装置を、図18のブロック図を参照しながら説明する。この図18において、上段に示すテクスチャデータの作成装置100は、図16のステップS12,S13,S14を実行するための装置であり、下段に示すレンダリング装置200は、図17のステップS21~S27を実行するための装置である。いずれの装置も、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現される装置であり、個々のブロックとして示す構成要素は、コンピュータのハードウエアとソフトウエアとの組み合わせにより実現されることになる。
(略)
【0121】
反射光演算部250は、図17のステップS25に対応する段階を実行する機能を有し、物体データ、圧縮テクスチャデータ内の対応画素によって示される情報、レンダリング条件を参照して、サンプル点Qからの反射光の強度を演算する。具体的には、対応画素が代表画素であった場合には、当該代表画素について収録されているテーブルによって示される反射特性を利用して、サンプル点Qからの反射光の強度演算を行う。また、対応画素が一般画素であった場合には、「当該一般画素について収録されているデータによって示された近似代表画素」について収録されているテーブルを、「当該一般画素について収録されているデータによって示されたオフセット量」だけシフトして得られるテーブルによって示される反射特性を利用して、サンプル点Qからの反射光の強度演算を行う。
【0122】
二次元データ生成部260は、図17のステップS27に対応する段階を実行する機能を有し、物体データ、反射光強度、レンダリング条件に基づいて、投影画像データを生成する。すなわち、各サンプル点Qからの反射光に基づいて、投影平面H上に得られる投影画像15を示す二次元データを生成し、これを投影画像データとして出力する。」
(1-2)甲第2号証に記載の技術的事項
上記記載から、甲第2号証には、以下(ア)~(オ)の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)段落0024、0025、0027の記載から、「三次元仮想物体の表面にテクスチャデータによって表現される絵柄模様をマッピングした状態で投影画像を求める演算を行う、コンピュータを用いたレンダリング処理方法」であることが記載されている。ここで、レンダリング処理について、段落0003には、「照明条件で定められた光源からの照明光が仮想物体の各部で反射して視点位置へ向かう現象をコンピュータ上でシミュレートするものであり、視点位置へ向かう反射光の強度を演算する処理」であることが記載されている。
(イ)段落0026の「たとえば、」との記載のとおり、「ポリゴン」は仮想物体の表面を表現するための手段の一例であることを考慮すれば、段落0030、0032、0033の記載から、「前記仮想物体上のサンプル点Qに入射する照明光Lの強度I(L)を、光源Gの輝度、光源Gとサンプル点Qとの距離、サンプル点Qの表面に対する照明光Lの入射角によって決定すること」が記載されているといえる。
(ウ)段落0027には、テクスチャデータ20は、二次元画像データであり、絵柄模様が表現されていること、段落0033には、反射係数Kはテクスチャデータ20によって決定されること、段落0034には、反射率と反射係数Kは同じ意味であることが記載されている。よって、段落0027、0032~0034、0037~0039の記載から、「前記サンプル点Qから視点Eに向かう反射光Vの強度I(V)を、前記サンプル点Qに入射する照明光Lの強度I(L)と、入射照明光Lの仰角θL、入射照明光Lの方位角φL、反射光Vの仰角θV、反射光Vの方位角φV、サンプル点Qの位置(u,v)の関数であって、絵柄模様に対応した反射係数K(鏡面反射や拡散反射)とから算出すること」が記載されている。
(エ)段落0103、0112、0121の記載から、「本発明に係るテクスチャデータを用いたレンダリング方法を実行するための装置における反射光演算部は、物体データ、圧縮テクスチャデータ内の対応画素によって示される情報、レンダリング条件を参照して、サンプル点Qからの反射光の強度を演算する」ものであることが記載されており、当該演算する内容は、上記(イ)、(ウ)の処理に対応するものと解されるから、反射光演算部が上記(イ)、(ウ)の処理を行うものと認められる。
(オ)段落0122の記載から、「二次元データ生成部は、各サンプル点Qからの反射光に基づいて、投影平面上に得られる投影画像を示す二次元データを生成し、これを投影画像データとして出力する」ものであることが記載されている。
(カ)引用発明
以上より、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。なお、各構成の符号(a)~(d)は、説明のために当審が付したものであり、以下、構成a~構成dと称する。
(引用発明)
(a)三次元仮想物体の表面にテクスチャデータによって表現される絵柄模様をマッピングした状態で投影画像を求める演算を行う、コンピュータを用いたレンダリング処理方法であって、レンダリング処理は、照明条件で定められた光源からの照明光が仮想物体の各部で反射して視点位置へ向かう現象をコンピュータ上でシミュレートするものであり、視点位置へ向かう反射光の強度を演算する処理であり、
(b)反射光演算部が、前記仮想物体上のサンプル点Qに入射する照明光Lの強度I(L)を、光源Gの輝度、光源Gとサンプル点Qとの距離、サンプル点Qの表面に対する照明光Lの入射角によって決定し、
(c)前記反射光演算部が、前記サンプル点Qから視点Eに向かう反射光Vの強度I(V)を、前記サンプル点Qに入射する照明光Lの強度I(L)と、入射照明光Lの仰角θL、入射照明光Lの方位角φL、反射光Vの仰角θV、反射光Vの方位角φV、サンプル点Qの位置(u,v)の関数であって、絵柄模様に対応した反射係数K(鏡面反射や拡散反射)とから算出し、
(d)二次元データ生成部が、各サンプル点Qからの反射光に基づいて、投影平面上に得られる投影画像を示す二次元データを生成し、これを投影画像データとして出力する
(a)方法。
(2)甲第1号証について
上記甲第1号証には、次の記載がある。
「【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、表面に凹凸模様を有する媒体の柄癖を、画像で確認可能な柄癖可視化装置、柄癖可視化方法、及びプログラムを提供することを目的とする。」
「【0010】
また、前記投影画像の各画素に対して、ぼかし処理を施すぼかし手段を更に備え、前記出力手段によって出力される画像は、前記ぼかし手段によるぼかし処理が施された画像を含むことが望ましい。
これにより、遠方から意匠を観察したような画像を出力でき、壁紙等の大判の対象についての柄癖確認作業に好適である。」
「【0052】
制御部3は、注目画素の法線ベクトルNと光源ベクトルLから、光線の正反射ベクトルRを算出する。正反射ベクトルRは次の式(12)のように表される。」
「【0055】
次に制御部3は、視点ベクトルWと正反射ベクトルRのなす角の余弦を算出する。ここで、視点ベクトルWと正反射ベクトルRのなす角をαとする。余弦cosαは次の式(13)により算出される。」
「【0062】
また、鏡面反射光による輝度値Isは、フォンの反射モデルに基づき、次の式(16)で表される。
【0063】
Is=Ii・ks・cosnα ・・・(16)
【0064】
ここで、入射光の強さをIi、拡散反射光による輝度値をId、鏡面反射光による輝度値をIs、反射の強さを表す拡散反射率をkd、光沢の強さを表す鏡面反射率をks、光沢の鋭さを表す係数をnとしている。
入射光の強さIi、拡散反射率kd、鏡面反射率ks、光沢の鋭さを表す係数nは定数で、固定値としてもよいし、ユーザが設定するようにしてもよい。これらは媒体の材質によって定まるものである。」
(3)甲第12号証について
上記甲第12号証には、次の記載がある。
「法線マップの作成
個々の画素の値に色ではなく法線ベクトルを格納しているテクスチャのことを,法線マップ(ノーマルマップ)と呼びます.法線マップとなる画像は,あらかじめ作成しておくこともできます」
(2頁下6~下4行)
(4)甲第13号証について
上記甲第13号証には、次の記載がある。
「【0015】図1は、透明もしくは着色透明な高結晶性ポリプロピレンシート1の両面を、コロナ処理、プラズマ処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理等で活性化処理し、ポリプロピレンシート1の片側の面に隠蔽層2及び隠蔽層2の上に絵柄層3を設けた後、表面の絵柄層3を保護するためにトップコート層4を施し、絵柄層3と逆のポリプロピレンシート1面には、木質基材等と貼り合わせる際の密着性を確保するためにプライマー層6を設けた構成の化粧シート7である。なお、意匠性を向上させるためにトップコート層4にエンボス模様5を適宜設けることができる。」
(5)甲第14号証について
上記甲第14号証には、次の記載がある。
「【要約】
【課題】表面加飾性に優れ、高度な表面強度が得られ、且つバイオマス原料から構成された環境に配慮した化粧シートを提供することにある。
【解決手段】熱可塑性樹脂シート基材1の上に、少なくとも絵柄インキ層2とポリエステル系樹脂からなる透明熱可塑性樹脂層3と表面保護層4とがこの順に積層され、前記表面保護層4側から熱エンボス加工により該表面保護層4及び前記透明熱可塑性樹脂層3、又は前記透明熱可塑性樹脂層3に、凹凸部5による表面加飾が施されてなる化粧シートにおいて、前記ポリエステル系樹脂からなる透明熱可塑性樹脂層3が、ポリ乳酸樹脂又はポリ乳酸樹脂を含有している。」
(6)甲第15号証について
上記甲第15号証には、次の記載がある。
「(2)第2図示の如く有色ベースフイルム1上に木目模様印刷層2を設け、更に木目模様印刷層2表面を含む全面にトップフイルム層3を設け、該トップフイルム層3に凸部にインキを付けた導管エンボス版によってバレープリント法により導管の凹部14を凹設すると同時にその谷部に導管模様印刷層15を設けてなる木目化粧シート;この木目化粧シートにおいては、導管の凹部14の深さは均一であり、導管の凹部の深さの変化は表現されていない。」
6 取消理由(決定の予告)に記載した取消理由について
6.1 本件特許発明8について
(1)対比
本件特許発明8の構成A~構成Dを引用発明の構成a~構成dと対比する。
(ア)構成Aについて
引用発明の構成aにおける「表面にテクスチャデータによって表現される絵柄模様をマッピングした状態」の「三次元仮想物体」は、レンダリング処理でシミュレートする対象であるから、本件特許発明8の構成Aにおける「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材」とは、シミュレーションする対象であって「表面に絵柄及び三次元形状を有する物体」である点で共通する。しかしながら、当該シミュレーションする対象である物体が、構成Aは「面材」であるのに対し、構成aは「面材」であると特定されていない点で相違する。さらに、物体の表面に係る構成が、構成Aは「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する」ものであるのに対し、構成aは「三次元仮想物体の表面に」「絵柄模様をマッピングした状態」である点で相違する。
次に、構成aにおける「投影画像」は、レンダリング処理でシミュレートしたものであるから、構成Aの「面材における前記絵柄及び前記凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像」とは、「物体における前記絵柄及び前記三次元形状からなる物体表面の仕上がりを示す画像」である点で共通する。しかしながら、「物体表面の仕上がりを示す画像」が、構成Aは「面材における絵柄及び凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像」であるのに対し、構成aは「三次元仮想物体の表面にテクスチャデータによって表現される絵柄模様をマッピングした状態」における「投影画像」である点で相違する。
そして、引用発明の構成aと本件特許発明8の構成Aとは「物体表面の仕上がりシミュレーション方法」で共通するものの、構成Aは「面材模様仕上がりシミュレーション方法」であるのに対し、構成aは「投影画像を求める演算を行う、コンピュータを用いたレンダリング処理方法」である点で相違する。
(イ)構成Bについて
引用発明の構成bにおける「光源Gの輝度」は、構成Bにおける「前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報」に相当し、構成bにおける「光源Gの輝度、光源Gとサンプル点Qとの距離、サンプル点Qの表面に対する照明光Lの入射角」は、構成Bにおける「前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報を含む情報」に相当する。
そして、構成bにおける「光源Gの輝度、光源Gとサンプル点Qとの距離、サンプル点Qの表面に対する照明光Lの入射角」によって決定する「前記仮想物体上のサンプル点Qに入射する照明光Lの強度I(L)」と、構成Bにおける「前記模様の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報」は、「前記物体表面の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報」である点で、共通する。
よって、構成bの「反射光演算部」と構成Bの「入射光計算部」は、入射光情報を算出する「入射光計算部」である点で共通する。しかしながら、前記入射光情報の算出において、構成Bは「エンボス膜の凹凸形状の法線マップ」を用いているのに対し、構成bは「エンボス膜の凹凸形状の法線マップ」を用いていない点で相違する。
(ウ)構成Cについて
引用発明の構成cにおける「前記サンプル点Qから視点Eに向かう反射光V」の「仰角θV」及び「方位角φV」を用いるために、視点Eの位置情報を必要とすることは明らかであるから、引用発明は、当該「視点Eの位置情報」が用いられているものと認められる。そして、当該「視点Eの位置情報」と、本件特許発明8の構成Cにおける「前記面材の観察条件情報」は、「前記物体の観察条件情報」である点で共通する。
構成cにおける「サンプル点Qの位置(u,v)の関数であって、絵柄模様に対応した反射係数K(拡散反射)」は、構成Cにおける「前記絵柄における拡散反射率情報」に相当する。
構成cにおける「サンプル点Qの位置(u,v)の関数である反射係数K(鏡面反射)」と、構成Cにおける「前記面材の前記表面の光沢を示す光沢情報」は、「前記物体の前記表面の光沢を示す光沢情報」である点で共通する。
構成cにおける「サンプル点Qから視点Eに向かう反射光Vの強度I(V)」と、構成Cにおける「面材からの反射光の放射輝度」は、「物体からの反射光の放射輝度」である点で共通する。また、当該「強度I(V)」は、仮想物体上のサンプル点Qについて算出されているから、構成Cにおける「前記模様の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎」に求める構成とは、「前記物体表面の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎」に求める点で、共通する。
そして、構成cの、「前記サンプル点Qに入射する照明光Lの強度I(L)と、入射照明光Lの仰角θL、入射照明光Lの方位角φL、反射光Vの仰角θV、反射光Vの方位角φV、サンプル点Qの位置(u,v)の関数であって、絵柄模様に対応した反射係数K(鏡面反射や拡散反射)」から「前記サンプル点Qから視点Eに向かう反射光Vの強度I(V)」の算出を行う「反射光演算部」は、「前記入射光情報と、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記物体の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記物体の観察条件情報とを含む計算情報」から「前記物体からの反射光の放射輝度を、前記物体表面の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に」求める「反射光計算部」である点で、構成Cにおける「反射光計算部」と共通する。
しかしながら、上記(ア)で示した「面材」及び「模様の仕上がりを示す画像」に係る相違点に加え、前記表面からの反射光の放射輝度の計算において、構成Cは「法線マップ」を用いているのに対し、構成cは「法線マップ」を用いていない点で相違する。
(エ)構成Dについて
引用発明の構成dの「投影画像を示す二次元データ」及び「投影画像データ」は、「二次元データ生成部が、各サンプル点Qからの反射光に基づいて」生成するものであるから、構成dにおける「投影画像」と、本件特許発明8の構成Dにおける「前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記面材の前記表面における前記模様の仕上がりを示す前記画像」は、「前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記物体の前記表面における前記物体表面の仕上がりを示す前記画像」である点で共通する。そして、構成dの「二次元データ生成部」は、「投影画像データ」を出力するから、構成Dの「表示部」とは、「前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記物体の前記表面における前記物体表面の仕上がりを示す前記画像を出力する」構成を備える点で共通する。
しかしながら、上記(ア)で示した「面材」及び「模様の仕上がりを示す画像」に係る相違点に加え、前記画像を出力する構成が、構成Dは表示部が画像を表示するものであるのに対し、構成dは二次元データ生成部が画像を出力するものである点で相違する。
(2)一致点、相違点
以上のことから、本件特許発明8と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
(A’)表面に絵柄及び三次元形状を有する物体における前記絵柄及び前記三次元形状からなる物体表面の仕上がりを示す画像を出力する物体表面の仕上がりシミュレーション方法であって、
(B’)入射光計算部が、前記表面に照射される光を出射する光源の光源情報を含む情報から、前記物体表面の仕上がりを示す前記画像の画素毎に入射する入射光の情報である入射光情報を算出し、
(C’)反射光計算部が、前記入射光情報と、前記絵柄における拡散反射率情報と、前記物体の前記表面の光沢を示す光沢情報と、前記物体の観察条件情報とを含む計算情報から、前記物体からの反射光の放射輝度を、前記物体表面の仕上がりを示す前記画像の前記画素毎に求め、
(D’)前記画素毎における前記放射輝度から求められた前記物体の前記表面における前記物体表面の仕上がりを示す前記画像を出力する
(A’)物体表面の仕上がりシミュレーション方法。
(相違点1)
シミュレーションする対象である物体が、本件特許発明8は「面材」であるのに対し、引用発明は物体が「面材」であると特定されていない点。また、物体の表面に係る構成が、本件特許発明8は「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する」ものであるのに対し、引用発明は「三次元仮想物体の表面に」「絵柄模様をマッピングした状態」である点。
(相違点2)
「物体表面の仕上がりを示す画像」が、本件特許発明8は「面材における絵柄及び凹凸形状からなる模様の仕上がりを示す画像」であるのに対し、引用発明は「三次元仮想物体の表面にテクスチャデータによって表現される絵柄模様をマッピングした状態」における「投影画像」である点。
(相違点3)
本件特許発明8は「面材模様仕上がりシミュレーション方法」であるのに対し、引用発明は「投影画像を求める演算を行う、コンピュータを用いたレンダリング処理方法」である点。
(相違点4)
入射光情報の算出において、本件特許発明8は「エンボス膜の凹凸形状の法線マップ」を用いているのに対し、引用発明は「エンボス膜の凹凸形状の法線マップ」を用いていない点。
(相違点5)
前記表面からの反射光の放射輝度の計算において、本件特許発明8は「法線マップ」を用いているのに対し、引用発明は「法線マップ」を用いていない点。
(相違点6)
前記画像を出力する構成が、本件特許発明8は表示部が画像を表示するものであるのに対し、引用発明は二次元データ生成部が画像を出力するものである点。
(3)判断
上記相違点のうち、まず相違点1について検討する。
「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材」は、甲第13号証~甲第15号証に記載の周知技術にあるように周知の物体であると認められる。当該周知の物体を投影画像のレンダリング処理の対象とすること自体は、当業者が普通に想定し得ることである。
しかしながら、引用発明において投影画像のレンダリング処理の対象とされている「三次元仮想物体の表面にテクスチャデータによって表現される絵柄模様をマッピングした状態」(構成a)は、絵柄上にエンボス膜が存在するものではなく、当該構成の物体と上記周知の物体とが、エンボス膜の光透過の有無の違いに基づき、絵柄の投影画像が異質のものとなることは、当業者に明らかな事項である。
よって、引用発明の絵柄上にエンボス膜が存在しない物体に対する投影画像のレンダリング処理を、上記周知の絵柄上にエンボス膜が存在する物体に直ちに適用することはできない。
また、「絵柄上の凹凸形状のエンボス膜の光透過を考慮したレンダリング処理」については、取消理由(決定の予告)の甲第1号証、甲第4号証、甲第7号証~甲第12号証、及び、取消理由(決定の予告)で引用しなかった甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証のいずれにも記載されておらず、周知技術とも認められない。
以上から、引用発明におけるレンダリング処理を、上記「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材」に適用することは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(4)まとめ
したがって、本件特許発明8は、引用発明及び甲第2号証~甲第15号証に記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
6.2 本件特許発明1~本件特許発明7、本件特許発明9について
本件特許発明1、本件特許発明7、本件特許発明9は、本件特許発明8の構成Aと同様の構成A1を有するものであるから、本件特許発明8と同じ理由で、当業者であっても、甲第1号証~甲第15号証に記載された発明及び技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明2~本件特許発明6は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件特許発明1からさらに限定を加えるものであるから、本件特許発明8と同じ理由で、当業者であっても、甲第1号証~甲第15号証に記載された発明及び技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
7 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
平成31年3月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について、以下検討する。
(1)甲第1号証を主引用例とした場合の進歩性(特許法第29条第2項)について
上記5.1(3)のとおり、前記凹凸形状のエンボス膜の光透過を考慮したレンダリング処理については、甲第1号証~甲第15号証のいずれにも記載されておらず、当業者が上記「表面に絵柄及び該絵柄上に凹凸形状のエンボス膜を有する面材」の面材模様仕上がりシミュレーション装置を容易に発明することができたものとはいえない。
よって、甲第1号証を主引例とした場合であっても、本件特許発明1~本件特許発明9を当業者が容易になし得たものとはいえない。
(2)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
(2-1)段落0035の記載について
段落0035には、面材表面における各画素からの観察位置に対する反射光の放射輝度を算出する具体的方法は記載されていない。
しかしながら、同段落0035には、反射光の放射輝度を双方向反射率分布関数(BRDF)のモデル式を用いて算出することが記載されており、BRDFのモデル式を用いた反射光の算出方法は、甲第2号証(上記5(1)(1-1)を参照。)に記載されているように周知技術である。また、反射光の放射輝度の算出に法線マップを用いることも、甲第1号証(上記5(2)を参照。)及び甲第12号証(上記5(3)を参照。)の記載に基づき周知技術と認められる。
よって、当業者であれば、上記具体的方法の記載が存在しなくても、当該周知技術に基づき、面材表面における各画素からの観察位置に対する反射光の放射輝度を算出することができるものと認められる。
(2-2)段落0036、0037、0040、0041の記載について
本件特許明細書の段落0036には、「画素値計算部16は、反射光計算部15が計算した各画素の反射光の放射輝度I2から、以下の(2)式を用いることにより、各画素における画素値dを算出する。」と記載されているが、段落0037の(2)式には、「I2」は含まれていない。
しかしながら、段落0036の「放射輝度I2から、以下の(2)式を用いることにより、各画素における画素値dを算出する。」との文意、及び、段落0037の(2)式「d=f(αI0)」の記載から、段落0036の「I2」と段落0037の(2)式の「I0」が同じ放射輝度として用いられていることは明らかである。よって、上記「I2」と「I0」の記載の不一致は明らかな誤記と認められる。
また、本件特許明細書の段落0040には「また、上述した説明は、単一波長を対象とした放射輝度I2の計算について説明した。しかしながら、反射光計算部15は、複数の波長を計算する場合、以下の(3)式により放射輝度I2を計算する。」と記載されているが、段落0041の(3)式には、「I2」は含まれていない。
しかしながら、段落0040の「(3)式により放射輝度I2を計算する。」との文意、及び、段落0041の(3)式「I0=∫Iλdλ」の記載から、段落0040の「I2」と段落0037の(2)式の「I0」が同じ放射輝度として用いられていることは明らかである。よって、上記「I2」と「I0」の記載の不一致は明らかな誤記と認められる。
(2-3)まとめ
上記(2-1)及び(2-2)から、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たしている。
第4 むすび
以上のとおりであるから、平成31年3月25日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-700523