特許異議申立
2018-700283
車両用電子制御装置
- 審判番号
- 2018-700283
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-180064外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年04月04日
- 審決日
- 2018年12月07日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1652.161-YAA(H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6227937号発明「車両用電子制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6227937号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第6227937号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6227937号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成25年8月30日の出願であって、平成29年10月20日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月8日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1に係る特許について、平成30年4月4日付けで特許異議申立人 野本 裕史 により特許異議の申立てがなされ、同年7月10日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月13日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 野本 裕史 から同年11月15日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正請求による訂正の適否
1.訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成30年9月13日付けの訂正請求の趣旨は、
「特許第6227937号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」
というものである。
そして、上記訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「【請求項1】
発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置。」
と記載されているのを、
「【請求項1】
発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記基板に実装されたコネクタと、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記基板の第1の実装面には、前記発熱部品及び前記コネクタが実装されており、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の前記第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0010】に
「以上の目的を達成すべく、本発明は、発熱部品と、前記発熱部品が実装された基板と、前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、を有し、前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを第1の局面とする。」
と記載されているのを、
「以上の目的を達成すべく、本発明は、発熱部品と、前記発熱部品が実装された基板と、前記基板に実装されたコネクタと、前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、を有し、前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、前記基板の第1の実装面には、前記発熱部品及び前記コネクタが実装されており、前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の前記第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを第1の局面とする。」
と訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0015】に
「本発明の第1の局面における構成によれば、本発明は、発熱部品と、発熱部品が実装された基板と、発熱部品及び基板を収容する収容ケースと、を有し、収容ケースの内部に充填された樹脂により、発熱部品及び基板を収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、発熱部品から所定間隔を設けて発熱部品を覆った状態で基板の第1の実装面に取り付けられると共に、収容ケースの内部に充填された樹脂により収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることにより、発熱部品から発生する熱を効率よく伝熱させて外部に放熱し、局所的に高温になる領域が生じることを抑制することができる。」
と記載されているのを、
「本発明の第1の局面における構成によれば、本発明は、発熱部品と、発熱部品が実装された基板と、基板に実装されたコネクタと、発熱部品及び基板を収容する収容ケースと、を有し、収容ケースの内部に充填された樹脂により、発熱部品及び基板を収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、基板の第1の実装面には、発熱部品及びコネクタが実装されており、発熱部品から所定間隔を設けて発熱部品を覆った状態で基板の第1の実装面に取り付けられると共に、収容ケースの内部に充填された樹脂により収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることにより、発熱部品から発生する熱を効率よく伝熱させて外部に放熱し、局所的に高温になる領域が生じることを抑制することができる。」
と訂正する。
2.訂正の適否の判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る特許発明において、基板にコネクタが実装されていること、及び、基板の第1の実装面に、発熱部品及びコネクタが実装されていることの限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
本件特許明細書の段落【0028】には、基板30の第1の実装面30aに、発熱部品20、並びにコネクタ70が実装されることが記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、本件訂正前の請求項1について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。
特許異議の申立てがされていない請求項2ないし5は、請求項1の訂正によって、訂正されることになったものであるから、独立特許要件について検討する必要がある。
ここで、下記「第4」から「第5」で示すように、訂正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものには該当しない。そうすると、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正後の請求項2ないし5に係る発明は、訂正後の請求項1よりも更に発明特定事項を追加したものであるから、同様の理由により特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものには該当しない。また、訂正後の請求項2ないし5に係る発明が、他に特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由があるとは認められない。よって、訂正後の請求項2ないし5に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
(3)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正事項2は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるだけのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に揚げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものである。
イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるだけのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ.全ての請求項との関連について
訂正事項2は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから、全ての請求項に関連して行われるものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
(4)訂正事項3
ア.訂正の目的について
訂正事項3は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるだけのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に揚げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものである。
イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるだけのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ.全ての請求項との関連について
訂正事項3は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから、全ての請求項に関連して行われるものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第7項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件特許発明
本件訂正は、上記「第2」のとおり認められたので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記基板に実装されたコネクタと、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記基板の第1の実装面には、前記発熱部品及び前記コネクタが実装されており、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の前記第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置。
【請求項2】
前記基板の前記第1の実装面の裏面である第2の実装面に取り付けられ、前記第1の実装面の前記発熱部品が実装される領域に対応する前記第2の実装面の領域を覆うと共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第2の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする請求項1記載の車両用電子制御装置。
【請求項3】
前記第1の熱拡散カバーと前記第2の熱拡散カバーとを前記基板を介して互いに締結する樹脂製の締結部材を更に備えることを特徴とする請求項2記載の車両用電子制御装置。
【請求項4】
前記第1の熱拡散カバー及び前記第2の熱拡散カバーの内部に充填された前記樹脂が、前記基板に実装される他の電子部品に沿いながら前記発熱部品に対して偏在して前記収容ケース内に配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両用電子制御装置。
【請求項5】
前記収容ケースの熱伝導率は、前記樹脂部の熱伝導率よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の車両用電子制御装置。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
当審において、本件訂正前の請求項1に係る特許発明に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)理由1(特許法第29条の2)
本件特許の請求項1に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
記
先の出願1:PCT/JP2012/075719号(国際公開第2014/054145号)
2.当審の判断
(1)先の出願1の記載
本件特許の出願日前の他の特許出願であり、本件特許の出願後に国際公開された先の出願1の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「電子機器」に関し、図面と共に、以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与した。)
ア.「基板と、前記基板の搭載面に設けられた電子部品と、前記基板に設けられて前記電子部品を覆う金属製カバーと、これら基板、電子部品及び金属製カバーを収容するケースと、前記ケース内に充填される封止樹脂と、を備え、
前記封止樹脂が、前記基板及び前記電子備品を埋設し、さらに、前記金属製カバーの内側及び外側の両方に充填されている電子機器。」(請求項1)
イ.「前記金属製カバーが、前記封止樹脂よりも熱伝導率の高い金属によって構成されている請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電子機器。」(請求項6)
ウ.「[背景技術]
[0002]
従来、車両等に搭載される電子機器では、振動対策や放熱対策等のため、例えば特許文献1のように、各種電子部品を基板に搭載した構成をケースに収容した上で、ケース内に樹脂(例えばエポキシ樹脂)を充填して、電子部品や基板を含む電子回路を封止(埋設)している。また、電子機器の回路には、バッテリー等の電源に直接接続され、大電流が流れるもの(電源回路)がある。
このような電源回路を構成する電子部品に大電流が流れることで電子部品周囲の樹脂が過剰に加熱されると、樹脂にクラックが発生することがある。このクラックは、電子部品から樹脂とケースとの界面まで最短距離で直線状に進行する。従来では、このクラックが電子機器の外部に露出しないように、ケースを金属製ケース(例えばアルミケース)としている。」(段落[0002])
エ.「しかしながら、上記従来のようにケースを金属製とした場合、電子機器の重量が重く、また、電子機器の価格が高くなってしまう。
本発明の一態様は、樹脂に生じるクラックの露出を抑制しながら軽量化及び低価格化も図ることが可能な電子機器を提供することを目的とする。」(段落[0004])
オ.「図1,2に示すように、本実施形態の電子機器1は、基板2と、電子部品3と、ケース4と、金属製カバー5と、封止樹脂6とを備えている。」(段落[0015])
カ.「電子部品3は、基板2の搭載面2aに設けられている。本実施形態では、複数種類の電子部品3(3A,3B)が設けられている。
一部の電子部品3Aは、通電により発生する熱が高い電子部品(以下、発熱部品3Aと呼ぶ。)である。
・・・(中略)・・・
他の電子部品3Bは、通電により発熱するものの発生する熱が発熱部品3Aよりも低い電子部品(例えばコンデンサ)である。」(段落[0016])
キ.「ケース4は、エポキシ樹脂等からなる樹脂製ケース4であり、前述した電子部品3及び基板2を収容するように構成されている。本実施形態ではケース4が一方向に開口しており、電子部品3及び基板2をケース4の開口端部4bからケース4内に収容することができる。本実施形態では、基板2がケース4内に収容された状態で基板2の搭載面2aがケース4の底面4aに対向する。」(段落[0017])
ク.「金属製カバー5は、前述した電子部品3及び基板2と同様にケース4に収容され、基板2に設けられた電子部品3を覆っている。
・・・(中略)・・・
本実施形態の金属製カバー5は、複数の電子部品3のうち発熱部品3Aのみを覆っている。」(段落[0018])
ケ.「封止樹脂6は、ケース4内に充填されて基板2及び電子部品3を埋設している。また、封止樹脂6は、金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されている。本実施形態の封止樹脂6は、ポッティングによりケース4の開口端部4bからケース4内に流し込んだ後に硬化(キュア)する硬質ポッティング樹脂である。」(段落[0022])
コ.「そして、本実施形態の電子機器1において、発熱部品3Aに大電流が流れる等して発熱部品3A周囲の封止樹脂6が過剰に加熱された場合には、発熱部品3A周囲の封止樹脂6にクラックが発生する。このクラックが基板2の搭載面2a側の封止樹脂6に発生した場合、クラックは、図3に示すように、発熱部品3Aから離れる方向に進行して金属製カバー5の内面に到達する。」(段落[0024])
サ.「また、本実施形態の電子機器1によれば、金属製カバー5の熱伝導率が封止樹脂6よりも高いため、発熱部品3Aに電流が流れることで金属製カバー5の内側に充填された封止樹脂6が局所的に加熱されても、この熱を金属製カバー5において効率よく拡散できる。これにより、金属製カバー5の外側の封止樹脂6が局所的に過剰に加熱されることを抑えることが可能となる。したがって、金属製カバー5外側の封止樹脂6にクラックが発生することをより確実に抑えることが可能となる。」(段落[0028])
シ.「また、電子機器1を搭載する車両のエンジン(不図示)が駆動している状態では、交流発電機(ACG)104の電圧が発熱部品3Aに常時印加される。」(段落[0029])
上記アないしシ、図1ないし図3、および図5ないし図9から、先の出願1の「電子機器」には以下の事項が記載されている。
・上記ウ、エの記載事項によれば、「車両等に搭載される電子機器」に関する背景技術が開示されるとともに、当該背景技術における課題を解決することが先の出願1の目的である。また、上記シの記載事項によれば、先の出願1に記載の「電子機器1」が「車両」に「搭載」されることが記載されている。よって、先の出願1に記載の「電子機器1」は、「車両に搭載される」ものであると認められる。
・上記ア、オの記載事項によれば、「電子機器1」は、「基板2」と、「電子部品3」と、「ケース4」と、「金属製カバー5」を備えるものである。
・上記カの記載事項によれば、「電子機器1」が備える「電子部品3」は「通電により発生する熱が高い電子部品」である「発熱部品3A」及び通電により発熱するものの発生する熱が発熱部品3Aよりも低い電子部品である「他の電子部品3B」を含むものであり、「基板2の搭載面2aに設けられ」ているものである。
・上記キの記載事項によれば、「ケース4」は「電子部品3及び基板2を収容する」ものである。
・上記ケの記載事項によれば、「封止樹脂6」は、「ケース4内に充填されて基板2及び電子部品3を埋設」しているものである。そして、「封止樹脂6」は、「ケース4内に流し込んだ後に硬化」するものである。
・上記ア、クの記載事項、及び、図1、図3、図5ないし図9によれば、「金属製カバー5」は、「基板に設けられて電子部品を覆う」ものであり、「複数の電子部品3のうち発熱部品3Aのみを覆っ」ているものである。そして、「発熱部品3A」は「基板2の搭載面2aに設けられ」ているものであるから、基板に設けられて「発熱部品3A」を覆う「金属製カバー5」も、基板の「基板2の搭載面2aに設けられ」ているものと認められる。
・上記コの特に「このクラックが基板2の搭載面2a側の封止樹脂6に発生した場合、クラックは、図3に示すように、発熱部品3Aから離れる方向に進行して金属製カバー5の内面に到達する」という記載事項によれば、「発熱部品3A」と「金属製カバー5」との間には封止樹脂6が介在しているものと認められる。
・上記ケの記載事項によれば、「ケース4内に充填」される「封止樹脂6」は、「発熱部品3A」を「覆っ」ている「金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されて」、その後「硬化する」ものである。
・上記イ、サの記載事項によれば、「金属製カバー5」は「封止樹脂よりも熱伝導率の高い金属によって構成され」、「発熱部品3Aに電流が流れることで金属製カバー5の内側に充填された封止樹脂6が局所的に加熱されても、この熱を金属製カバー5において効率よく拡散する」ものである。
よって、先の出願1の当初明細書等には次の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されていると認められる。
「通電により発生する熱が高い電子部品である発熱部品3Aと、
通電により発熱するものの発生する熱が発熱部品3Aよりも低い電子部品である他の電子部品3Bと、
発熱部品3Aと他の電子部品3Bが搭載面2aに設けられた基板2と、
発熱部品3Aと基板2とを収容するケース4と、
を備え、
ケース4の内部に充填され硬化された封止樹脂6により、発熱部品3A及び基板2をケース4内に埋設した、車両に搭載される電子機器1において、
基板の搭載面2aに設けられ、封止樹脂6を介して発熱部品3Aを覆う金属製カバー5であって、ケース4の内部に充填された封止樹脂6が金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されて硬化されるとともに、金属製カバー5が封止樹脂6よりも熱伝導率の高い金属によって構成されることにより、発熱部品3Aに電流が流れることで金属製カバー5の内側に充填された封止樹脂6が局所的に加熱されても、この熱を拡散する金属製カバー5を更に備えた、車両に搭載される電子機器1」
(2)対比・判断
本件特許発明1と先願発明1とを対比する。
・先願発明1の「発熱部品3A」は、通電により発生する熱が高い電子部品であるから、本件特許発明1の「発熱部品」に相当する。
・基板上に部品を「設ける」ことを「実装」すると表現することは当業者にとって一般的なことであるから、先願発明1の「発熱部品3Aが搭載面2aに設けられた基板2」は、本件特許発明1の「発熱部品が実装された基板」に相当する。
・先願発明1の「発熱部品3Aと基板2とを収容するケース4」は、本件特許発明1の「前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケース」に相当する。
・封止樹脂で部品を埋設することは、当該部品を封止することに他ならないから、先願発明1の「ケース4の内部に充填され硬化された封止樹脂6により、発熱部品3A及び基板2をケース4内に埋設」することは、本件特許発明1の「前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止」することに相当する。
・先願発明1の「金属製カバー5」は、「封止樹脂6を介して発熱部品3Aを覆う」ものであるから、「金属製カバー5」と「発熱部品3A」との間には、所定の間隔が設けられていると認められる。また、「金属製カバー5」を基板の搭載面2aに「設ける」ことは、「金属製カバー5」を基板の搭載面2aに「取り付けられる」ことに他ならない。さらに、先願発明1の「ケース4の内部に充填された封止樹脂6が、金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されて硬化され」ることは、「金属製カバー5」がケース4の内部に充填された封止樹脂6によりケース内に封止されることに他ならない。よって、先願発明1の「基板の搭載面2aに設けられ、封止樹脂6を介して発熱部品3Aを覆う金属製カバー5であって、ケース4の内部に充填された封止樹脂6が金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されて硬化されるとともに、金属製カバー5が封止樹脂6よりも熱伝導率の高い金属によって構成されることにより、発熱部品3Aに電流が流れることで金属製カバー5の内側に充填された封止樹脂6が局所的に加熱されても、この熱を拡散する金属製カバー5」は、本件特許発明1の「前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止され、熱を拡散する機能を有した金属製の第1の熱拡散カバー」に相当する。
・先願発明1の「発熱部品3A」、「基板2」、「ケース4」、及び「金属製カバー5」を備えた「車両に搭載される電子機器1」は、本件特許発明1の「発熱部品」、「基板」、「収容ケース」、及び「熱拡散カバー」を備えた「車両用電子制御装置」に相当する。
・本件特許発明1の「基板」は、第1実装面に、発熱部品に加えて「コネクタ」が実装されているものであるのに対し、先願発明1の「基板2」は、「発熱部品3A」に加えて「他の電子部品3B」が設けられてはいるものの、「コネクタ」との特定がされていない点で相違している。
よって、本件特許発明1と先願発明1とは、以下の点で一致ないし相違する。
<一致点>
「 発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置」
<相違点>
本件特許発明1の「基板」は、 第1実装面に、発熱部品に加えて「コネクタ」が実装されているものであるのに対し、先願発明1の「基板2」は、「発熱部品3A」に加えて「他の電子部品3B」が設けられてはいるものの、「コネクタ」との特定がされていない点。
よって、本件特許発明1と先願発明1との間には上記のように相違点があるから、本件特許発明1は、先願発明1とは同一ではなく、先の出願1に記載された発明であるとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるということはできない。
第5 特許異議申立人から平成30年11月15日付けで提出された意見書について
特許異議申立人は、平成30年11月15日付けで提出された意見書において、本件訂正後の請求項1について、新たな証拠として甲2ないし甲4を挙げて次のように主張している。
先の出願1には、基板2の搭載面2aに、他の電池部品3Bが設けられることが開示されている。よって、訂正後の請求項1に記載の発明と先の出願1との間の相違点としては、訂正後の請求項1に記載の発明では「コネクタ」と記載されているのに対して、先の出願1では「電子部品」と記載されているに留まるという点で相違するに過ぎない。
そして、電子部品としてコネクタを採用することは甲2ないし甲4に記載されているように周知技術であるから、電子部品3Bとしてコネクタを採用することは具体化手段における微差に過ぎない。
よって、訂正後の請求項1に記載の発明は先の出願1と実質的に同一である。
上記主張について検討する。
先の出願1の段落[0017]には、「本実施形態ではケース4が一方向に開口しており、電子部品3及び基板2をケース4の開口端部4bからケース4内に収容することができる。本実施形態では、基板2がケース4内に収容された状態で基板2の搭載面2aがケース4の底面4aに対向する。」(下線は当審において付与した。)と記載され、段落[0022]には、「封止樹脂6は、ケース4内に充填されて基板2及び電子部品3を埋設している。」と記載されている。また、図1には、図1の上側で開口したケース4内で、基板2の搭載面2aが、図1の下側であるケースの底面に対向して収容されることが図示されている。
これらの記載によれば、ケース4は、図1の上側で示される一方向に開口し、その余の方向で開口していないものである。そして、基板2の搭載面2aに設けられている電子部品3(発熱部品3A及び他の電子部品3B)は、ケース4の開口していない底面に対向した状態で、ケース4内に充填された封止樹脂6により埋設されているものであるから、電子部品3Bはケース外部には露出しないものである。
一方、「コネクタ」は、他の電線等と相互接続するための電子部品であるから、ケース外部に露出して設けられるべきものである。
してみると、特許異議申立人が主張するように、電子部品としてコネクタを採用することが周知技術であったとしても、先の出願1においては外部に露出しないものである電子部品3Bとして、外部に露出するべきものであるコネクタを採用することには、阻害要因があるといえる。
したがって、上記「第4 2.(2)」で前述した「<相違点>」は、具体化手段における微差とはいえず、訂正後の請求項1に記載の発明は、先の出願1と実質的に同一のもということはできないから、特許異議申立人による上記主張は理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700283