特許拒絶査定不服審判
2018-007471
靴の履き心地の改善方法
- 審判番号
- 2018-007471
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-076386外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年05月31日
- 審決日
- 2019年07月22日
- 公報発行日
- 2019年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .14 -Z (A61F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016- 76386号「靴の履き心地の改善方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-185040号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本願は、平成28年4月6日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月11日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月26日 :意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
平成30年 3月20日付け:拒絶査定
平成30年 5月31日 :審判請求書の提出
第2.本願発明及び本願明細書の記載
1.本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
被験者の足の裏の立方骨の下の位置を前記足の上方に向けて押すことにより前記立方骨を前記足の上方に押し上げる第1過程と、
前記足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を前記足の上方に向けて押すことにより、前記第5中足骨の基端を前記足の外側に、前記第5中足骨の先端を前記足の内側に近づける第2過程と、
前記第1過程及び前記第2過程を実施した後に、前記足の楔状骨及びそれよりも前の部分を、前記足の舟状骨及びそれよりも後の部分に対して内側に捻る第3過程と、
を含む靴の履き心地の改善方法(人に対する医療行為に相当する治療方法を除く)。」
2.本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある(なお、下線は当審が付与した。)。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴の履き心地の改善方法に関する。
・・・
【0003】
例えば、外反母趾、内反小趾である。外反母趾、内反小趾を持つ者は靴を履くときに苦痛を感じる等することが多く、場合によっては靴を履いていないときに苦痛を感じることさえある。外反母趾、内反小趾はその典型的なものであるが、それ以外にも靴に起因する問題は様々ある。それら問題のうち、痛みを含めた靴の履き心地の悪さを、本願では問題として扱う。
【0004】
以下、足の構造について、主に骨に着目して簡単に説明する。図8に人の足に含まれる骨を示す。
・・・(中略)・・・
足にはこれだけ多数の骨が含まれている。また、足を構成するのは骨だけではなく、筋肉、それに連なる腱、筋肉又は腱と骨との間に存在する関節包、筋肉又は骨を包む皮膚等様々な組織が存在する。
これだけ多数の組織の少なくとも大半が正しく機能していなければ、人は靴を履いたときに履き心地の悪さを感じるのである。
【0005】
靴の履き心地を改善するための方法として2つのアプローチがある。1つ目は靴を履く者の足に靴を合わせるというアプローチであり、2つ目は靴を履く者の足を靴に合わせるというアプローチである。
・・・(中略)・・・
それに比して、第2のアプローチはより本質的である。足の状態を靴に合わせるというのは、足の状態をより正常な或いはよりあるべき姿に近づけるということである。そのようなことが可能であれば、人は通常の靴であればどんな靴でも選択可能となり、また、どんな靴でも履き心地良く履けるようになる。靴の履き心地が改善されることには大きな利益があるが、ファッション性が要求される靴であるから、その選択の幅が広がるということで得られる満足もある。
本願発明者は、以上の観点から、より本質的な第2のアプローチについての研究を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
広く知られたことではあるが、靴の履き心地が悪いと感じる者の足は、正常な或いはあるべき姿から変形が生じていることが多い。逆にいえば、足の状態をより正常な或いはよりあるべき姿に近づけることができれば、人は履き心地良く靴を履くことが可能となる。 しかしながら、それは簡単ではない。それは、上述した通り人の足がかなり複雑な構造をしていることに起因する。人の足がかなり複雑な構造をしていることから、靴の履き心地の悪さの原因が何かを特定することは難しいし、また、その原因が特定されたとしても靴の履き心地を良くするためにどうすればよいかということが容易には判らないのである。少なくとも今まではそうであった。
【0007】
本願発明は、今まで存在することのなかった靴の履き心地の良さを改善するための方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の靴の履き心地の改善方法は、本願発明者が研究の結果見出した以下の知見により想到された。
【0009】
本願発明者の研究によれば、人が靴の履き心地の悪さを感じる原因の大半は、以下のものであるということがわかった。
1.爪先の幅が広い場合
これは、5本の中足骨の先端がそれらの基端よりも広がっている場合である。
2.外反母趾の親指が靴の内部に当たる
これは、特に第1中足骨の先端がその基端に対して内側に傾いた場合である。炎症が生じると痛みが大きくなる。
3.内反小趾の小指が靴の内部に当たる
これは、特に第5中足骨の先端がその基端に対して外側に傾いた場合である。炎症が生じると痛みが大きくなる。
4.爪の横が靴の内部にあたる
中足骨が平行でなく回旋しているため指も回旋し、結果爪の横が靴の内部に当たる場合である。
その他、指が曲がって伸びなくなったせいで、指の背が靴の内部に当たる等の原因も存在するが、概ね以上の4つが人が靴の履き心地を悪いと感じる原因であるといえる。
・・・
【0011】
上述の4つの原因は、5本の中足骨が平行でないということが問題であるとまとめることができる。したがって、5本の中足骨を本来の平行な状態に戻すことができるのであれば、靴の履き心地の悪さを感じる者の大半について、靴の履き心地の改善をもたらすことができる、というのが本願発明者が得た知見である。
本願発明はこの知見に基づきなされた。
【0012】
本願発明は、被験者の足の裏の立方骨の下の位置を前記足の上方に向けて押すことにより前記立方骨を前記足の上方に押し上げる第1過程と、前記足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を前記足の上方に向けて押すことにより、前記第5中足骨の基端を前記足の外側に、前記第5中足骨の先端を前記足の内側に近づける第2過程と、前記第1過程及び前記第2過程を実施した後に、前記足の楔状骨及びそれよりも前の部分を、前記足の舟状骨及びそれよりも後の部分に対して内側に捻る第3過程と、を含む靴の履き心地の改善方法である。
本願発明は、上述したように、第1過程から第3過程を含んでいる。これらのうち、第1過程と第2過程とは順不同であり、第3過程は第1過程と第2過程との双方が実行された後に実行される。
・・・(中略)・・・
第1過程は、被験者の足の裏の立方骨の下の位置を足の上方に向けて押すことにより立方骨を前記足の上方に押し上げるというものである。これは、立方骨を上方に移動させることを目的として、足の外側のアーチを挙上するものである。立方骨を上方に移動させると、立方骨に押された楔状骨を、舟状骨に対してその内側の正しい位置に移動させることができる可能性がある。それが達成されると、5本の中足骨が平行に近づく。なお、足の内側において舟状骨と楔状骨との相互の可動性が低下していると、立方骨の上方への移動を楔状骨が妨げることになる。このため、内側において、舟状骨に対して楔状骨を舟状骨の内側に滑らせるような動きを繰り返し、その可動性を回復さておくのが好ましい。この観点から、第1過程では、例えば足の爪先を内側に捻ることにより楔状骨を前記足の内側に移動させることを、立方骨の押し上げとともに、或いはそれに先立って行うことができる。
第2過程は、足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を足の上方に向けて押すことにより、第5中足骨の基端を足の外側に、前記第5中足骨の先端を前記足の内側に近づけるというものである。これは、図1(C)で示したような第5中足骨の先端が外側に傾くという変形が特に生じ易いということに着目し、かかる変形を重点的に矯正することを目的としたものである。好ましくは足の中央部で短趾屈筋を内側に向けて指先で固定しつつ、足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置(つまり第5中足骨と第4中足骨との間)に対応する位置を足の上方に向けて押すことにより、第5中足骨の基端側が外側に移動し、それによりシーソーの如く第5中足骨の先端側が内側に移動する。これも、5本の中足骨を平行に近づけるに寄与する。
第3過程は、足の楔状骨及びそれよりも前の部分を、足の舟状骨及びそれよりも後の部分に対して内側に捻るというものである。これを行うと、立方骨に対する3つの骨からなる楔状骨の滑りが改善され、立方骨に押されて楔状骨が舟状骨に対して内側に移動し、内側に傾いた中足骨を含む前足部は足背から見て内側に向かって捻じられた位置に移動する。これにより、5本の中足骨が平行に近づく。なお、第3過程を第1過程、第2過程の後に行うのは、第1過程と第2過程を先に行っておくことにより、立方骨に対して楔状骨が動きやすくなるからである。これによっても、5本の中足骨が平行に近づく。
以上の第1~第3過程を実施することにより、靴の履き心地の原因を正確に知ることができなくとも、大半の者について、靴の履き心地が改善される。
【0013】
上述したように、第1過程は、被験者の足の裏の立方骨の下の位置を足の上方に向けて押すことにより立方骨を前記足の上方に押し上げるというものである。
これは被験者自身が自分の足に対して行うこともできるが、被験者に対して施術者が行うのが実際的である。例えば、前記第1過程では、前記足を前方に投げ出した前記被験者の正面に位置した施術者が、当該足の内側に位置する側の手である一方の手で前記足の爪先を、前記足の外側に位置する手である他方の手で前記足の踵をそれぞれ把持し、前記他方の手の親指で足の裏の立方骨の下の位置を前記足の上方に向けて押すようにしても良い。これにより、施術者は簡単に、そして楽な体勢で第1過程を被験者の足に対して実行することができる。
また、第1過程では、上述の立方骨の押し上げを行う前に、前記足を前方に投げ出した前記被験者の正面に位置した施術者が、当該足の内側に位置する側の手である一方の手で前記足の爪先を、前記足の外側に位置する手である他方の手で前記足の踵をそれぞれ把持し、前記一方の手を内側に捻ることで前記足の爪先を内側に捻ることを行っても良い。これにより舟状骨と楔状骨との相互の可動性の回復を、立方骨の押し上げに先立って行うことができることになる。
また、第1過程は、前記足を前方に投げ出した前記被験者の正面に位置した施術者が、当該足の内側に位置する側の手である一方の手で前記足の爪先を、前記足の外側に位置する手である他方の手で前記足の踵をそれぞれ把持し、前記一方の手を内側に捻ることで前記足の爪先を内側に捻るとともに、前記他方の手の親指で足の裏の立方骨の下の位置を前記足の上方に向けて押すようにしても良い。これによれば、立方骨の押し上げと、舟状骨と楔状骨との相互の可動性の回復とを同時に図ることができる。
【0014】
上述したように、第2過程は、足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を足の上方に向けて押すことにより、第5中足骨の基端を足の外側に、前記第5中足骨の先端を前記足の内側に近づけるというものである。
第2過程も被験者が自ら、或いは施術者が被験者に対して実施することができる。
第2過程では、前記足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を前記足の上方且つ前記足の外側に向けて押すようにしてもよい。第2過程で、第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を足の上方に移動させるだけでなく、例えばそれと同時に、或いは第5中足骨の基端やや内側の位置を上側に押し込んだ状態で更に外側に向けて押す(第5中足骨の基端を第4中足骨の基端から押し広げる)ようにすることで、第5中足骨の基端を足の外側に、第5中足骨の先端を足の内側に近づけるという効果をより良く得られるようになる。
【0015】
上述したように、第3過程は、足の楔状骨及びそれよりも前の部分を、足の舟状骨及びそれよりも後の部分に対して内側に捻るというものである。
第3過程も被験者が自ら、或いは施術者が被験者に対して実施することができる。
施術者が第3過程を行う場合、施術者は、その一方の手で前記被験者の前記足の踵又は足首を把持するとともに、その他方の手で前記被験者の前記足の楔状骨及びそれよりも前の部分を把持し、前記他方の手を前記一方の手に対して内側に捻るようにしても良い。これにより、施術者は簡単に、そして楽な体勢で第3過程を被験者の足に対して実行することができる。」
第3.原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である、平成30年1月11日付け拒絶理由通知の理由は、概略、次のとおりのものである。
「発明の詳細な説明の段落[0003]に記載されているように、請求項1に係る発明の「靴の履き心地の改善方法」は痛みという病的な問題を含めた靴の履き心地の悪さを改善するためのものであり、それ以外のものを含み得る余地はないから、請求項1に係る発明は、痛みという病的な問題を含めた靴の履き心地の悪さを改善するものであって「人間を治療する方法」に該当し、同様に、請求項1の構成にさらなる特定を含む請求項2~7に係る発明も「人間を治療する方法」に該当する。
したがって、請求項1~7に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定された産業上利用できる発明には該当しない。」
第4.当審の判断(特許法第29条第1項柱書について)
1.
(1)特許法第29条第1項柱書は、産業上利用することができる発明をした者がその発明について特許を受けることができることを規定するところ、規定された特許要件には、「産業上利用することができる発明」であること(以下、「産業上の利用可能性の要件」ということもある。)、が含まれる。
(2)「特許・実用新案審査基準」においては、「第III部 第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性」の「3. 産業上の利用可能性の要件についての判断」に「審査官は、請求項に係る発明が3.1のいずれかの類型に該当する場合は、産業上の利用可能性の要件を満たさないと判断する。」と記載されている。
そして、「3.1 産業上の利用可能性の要件を満たさない発明の類型」として、「(i)人間を手術、治療又は診断する方法の発明(3.1.1参照)」と規定し、同じく「3.1.1」の「(2)人間を治療する方法」の説明において、以下のように記載されている。
「 人間を治療する方法には、以下のものが含まれる。
(i)病気の軽減及び抑制のために、患者に投薬、物理療法等の手段を施す方法」
・・・
(iii)病気の予防方法(例:虫歯の予防方法、風邪の予防方法)
なお、健康状態を維持するために処置する方法(例:マッサージ方法、指圧方法)も、病気の予防方法として取り扱う。
・・・」
2.産業上の利用可能性の要件についての検討
(1)本願発明の「靴の履き心地の改善方法」の技術課題について
本願発明の「靴の履き心地の改善方法」の技術課題について検討する。
上記第2.2.に示す本願明細書【0003】の「外反母趾、内反小趾を持つ者は靴を履くときに苦痛を感じる等することが多く、場合によっては靴を履いていないときに苦痛を感じることさえある。外反母趾、内反小趾はその典型的なものであるが、それ以外にも靴に起因する問題は様々ある。それら問題のうち、痛みを含めた靴の履き心地の悪さを、本願では問題として扱う。」との記載からみて、本願発明は、「痛みを含めた靴の履き心地の悪さ」を「外反母趾、内反小趾」を典型的な例として、これを防止することにあるといえる。
また、本願明細書【0004】の「足を構成するのは骨だけではなく、筋肉、それに連なる腱、筋肉又は腱と骨との間に存在する関節包、筋肉又は骨を包む皮膚等様々な組織が存在する。これだけ多数の組織の少なくとも大半が正しく機能していなければ、人は靴を履いたときに履き心地の悪さを感じるのである。」との記載、本願明細書【0005】の「靴の履き心地を改善するための方法として2つのアプローチがある。・・・2つ目は靴を履く者の足を靴に合わせるというアプローチである。」との記載、「第2のアプローチはより本質的である。足の状態を靴に合わせるというのは、足の状態をより正常な或いはよりあるべき姿に近づけるということである。」との記載、「本願発明者は、以上の観点から、より本質的な第2のアプローチについての研究を行っている。」との記載、本願明細書【0006】の「足の状態をより正常な或いはよりあるべき姿に近づけることができれば、人は履き心地良く靴を履くことが可能となる。」との記載、及び、本願明細書【0007】の「今まで存在することのなかった靴の履き心地の良さを改善するための方法を提供すること」との記載からみて、本願発明は、「足を構成する多数の組織の少なくとも大半が正しく機能していなければ、人は靴を履いたときに履き心地の悪さを感じるもの」との問題に鑑み、「足の状態をより正常な或いはよりあるべき姿に近づける」ことを技術課題とするものといえる。
(2)本願発明の「靴の履き心地の改善方法」の課題解決手段について
(2-1)本願明細書【0009】の「概ね以上の4つが人が靴の履き心地を悪いと感じる原因である」との記載、【0011】の「4つの原因は、5本の中足骨が平行でないということが問題であるとまとめることができる。したがって、5本の中足骨を本来の平行な状態に戻すことができるのであれば、靴の履き心地の悪さを感じる者の大半について、靴の履き心地の改善をもたらすことができる、というのが本願発明者が得た知見である。本願発明はこの知見に基づきなされた。」との記載からみて、本願発明の「靴の履き心地の改善方法」は、「5本の中足骨を本来の平行な状態に戻す」ことを課題解決手段とし、これにより、靴の履き心地の悪さを感じる者の靴の履き心地の改善をもたらすものといえる。
以下、本願発明の
「被験者の足の裏の立方骨の下の位置を前記足の上方に向けて押すことにより前記立方骨を前記足の上方に押し上げる第1過程」、
「前記足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を前記足の上方に向けて押すことにより、前記第5中足骨の基端を前記足の外側に、前記第5中足骨の先端を前記足の内側に近づける第2過程」、及び、
「前記第1過程及び前記第2過程を実施した後に、前記足の楔状骨及びそれよりも前の部分を、前記足の舟状骨及びそれよりも後の部分に対して内側に捻る第3過程」
との各構成について検討する。
(2-2)「第1過程」について
上記第2.2.に示す本願明細書【0012】における、「第1過程は、被験者の足の裏の立方骨の下の位置を足の上方に向けて押すことにより立方骨を前記足の上方に押し上げるというものである。これは、立方骨を上方に移動させることを目的として、足の外側のアーチを挙上するものである。立方骨を上方に移動させると、立方骨に押された楔状骨を、舟状骨に対してその内側の正しい位置に移動させることができる可能性がある。それが達成されると、5本の中足骨が平行に近づく。」との記載を踏まえると、本願発明の「第1過程」の「被験者の足の裏の立方骨の下の位置を足の上方に向けて押すことにより立方骨を前記足の上方に押し上げる」ことは、立方骨を上方に移動させることを目的として、足の外側のアーチを挙上するものであって、立方骨を上方に移動させると、立方骨に押された楔状骨を、舟状骨に対してその内側の正しい位置に移動させることができる可能性があり、それが達成されると、5本の中足骨が平行に近づく機能有するものであって、上記(2-1)において述べた「5本の中足骨を本来の平行な状態に戻す」との課題解決手段に基づくものである。
(2-3)「第2過程」について
上記第2.2.に示す本願明細書【0012】における、「第2過程は、足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を足の上方に向けて押すことにより、第5中足骨の基端を足の外側に、前記第5中足骨の先端を前記足の内側に近づけるというものである。これは、図1(C)で示したような第5中足骨の先端が外側に傾くという変形が特に生じ易いということに着目し、かかる変形を重点的に矯正することを目的としたものである。好ましくは足の中央部で短趾屈筋を内側に向けて指先で固定しつつ、足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置(つまり第5中足骨と第4中足骨との間)に対応する位置を足の上方に向けて押すことにより、第5中足骨の基端側が外側に移動し、それによりシーソーの如く第5中足骨の先端側が内側に移動する。これも、5本の中足骨を平行に近づけるに寄与する。」との記載を踏まえると、本願発明の「第2過程」の「足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置に対応する位置を足の上方に向けて押すことにより、第5中足骨の基端を足の外側に、前記第5中足骨の先端を前記足の内側に近づける」ことは、第5中足骨の先端が外側に傾くという変形が特に生じ易いということに着目し、かかる変形を重点的に矯正することを目的とし、足の裏の第5中足骨の基端やや内側の位置(つまり第5中足骨と第4中足骨との間)に対応する位置を足の上方に向けて押すことにより、第5中足骨の基端側が外側に移動し、それによりシーソーの如く第5中足骨の先端側が内側に移動させ、5本の中足骨を平行に近づけるに寄与するとの機能を有するものであって、上記(2-1)において述べた「5本の中足骨を本来の平行な状態に戻す」との課題解決手段に基づくものである。
(2-4)「第3過程」について
上記第2.2.に示す本願明細書【0012】における、「第3過程は、足の楔状骨及びそれよりも前の部分を、足の舟状骨及びそれよりも後の部分に対して内側に捻るというものである。これを行うと、立方骨に対する3つの骨からなる楔状骨の滑りが改善され、立方骨に押されて楔状骨が舟状骨に対して内側に移動し、内側に傾いた中足骨を含む前足部は足背から見て内側に向かって捻じられた位置に移動する。これにより、5本の中足骨が平行に近づく。なお、第3過程を第1過程、第2過程の後に行うのは、第1過程と第2過程を先に行っておくことにより、立方骨に対して楔状骨が動きやすくなるからである。これによっても、5本の中足骨が平行に近づく」との記載を踏まえると、本願発明の「第3過程」の「足の楔状骨及びそれよりも前の部分を、足の舟状骨及びそれよりも後の部分に対して内側に捻る」ことは、これを行うと、立方骨に対する3つの骨からなる楔状骨の滑りが改善され、立方骨に押されて楔状骨が舟状骨に対して内側に移動し、内側に傾いた中足骨を含む前足部は足背から見て内側に向かって捻じられた位置に移動し、5本の中足骨が平行に近づくものであり、また、第3過程を第1過程、第2過程の後に行うことは、第1過程と第2過程を先に行っておくことにより、立方骨に対して楔状骨が動きやすくなるからであり、これによっても、5本の中足骨が平行に近づくものであるところ、いずれも、上記(2-1)において述べた「5本の中足骨を本来の平行な状態に戻す」との課題解決手段に基づくものである。
(2-5)以上によれば、本願発明は、「足を構成する多数の組織の少なくとも大半が正しく機能していなければ、人は靴を履いたときに履き心地の悪さを感じるもの」との問題に鑑み、「足の状態をより正常な或いはよりあるべき姿に近づける」ことを技術課題として、「5本の中足骨を本来の平行な状態に戻す」ことを課題解決手段としているのであるから、上記1.(2)の「(i)病気の軽減及び抑制のために、患者に投薬、物理療法等の手段を施す方法」のうち「物理療法等の手段」に該当するか、若しくは、足の痛みの発生や足の正常でない状態化の予防を行う「(iii)病気の予防方法」に該当し、「人間を治療する方法」の発明に該当するといわざるを得ない。
(3)本願発明の「(人に対する医療行為に相当する治療方法を除く)」点について
「(人に対する医療行為に相当する治療方法を除く)」こと(以下「除外事項」という。)について検討する。
上記(2)にて示したとおり、本願発明を構成する「第1過程」~「第3過程」はいずれも「人間を治療する方法」つまり、「人に対する医療行為に相当する治療方法」に該当するものであるから、上記除外事項に従うと、「第1過程」~「第3過程」を全て除くことになり、本願発明の課題を解決するための構成がなくなることになる。このような除外事項は通常あり得るものではないから、実質的には意味の無い「除外事項」というほかなく、当該除外事項の有無により、本願発明の特定事項に影響を及ぼすものではない。
(4)小括
以上のとおり、本願発明は、「人間を治療する方法」の発明に該当するから、特許法第29条第1項柱書に規定される産業上利用できる発明に該当しない。
3.審判請求書における主張について
請求人は、審判請求書において、本願発明が、産業上の利用可能性を有する理由として以下主張している。(以下の下線は出願人が付したもの。)。
(主張1)
「<第1の理由>
・・・審査基準が特許を受けることができないと規定する、「人間を治療する方法」は、医師或いはその指示を受ける看護師、助産師等が行う行為の他、医療類似行為を行う資格のある者(より具体的には、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師)が行う行為しかせいぜい含まないものである、と思料します。
・・・
そして、本願発明は、・・・(中略)・・・靴店の店員、・靴店に所属し或いは靴店の依頼により仕事を請けるシューフィッター、スポーツトレーナーによる実施は、上述した「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の第1条等に照らせば、マッサージや、指圧には当たりません。
したがって、本願発明の実施の態様の少なくとも一部には、明確に、「特許庁審査基準第3部第1章3.1.1」において定められる「人間を手術、治療又は診断する方法」以外の方法が含まれることになります。
よって、「(人に対する医療行為に相当する治療方法を除く)」という注釈を加えることによって医療行為を排除した本願発明は、人間を手術、治療又は診断する方法には該当しないから、産業上の利用可能性のある発明であり、特許法第29条第1項柱書に規定の要件を充足する、ということになります。(以下略)」
(主張2)
「<第2の理由>
・・・本願発明で問題としているのは、「痛みを含めた靴の履き心地の悪さであって、「痛みについての靴の履き心地の悪さ」のみならず、当然に、「痛み以外の靴の履き心地の悪さ」をも本願発明における問題に含まれます。本願明細書は、「痛み」についても言及してはおりますが、それは、靴が脚に合わない結果の最悪の場合であって、それだけを本願発明が問題視しているわけではありません。
・・・
とすれば、仮に、「痛みについての靴の履き心地の悪さ」の解消が、「特許庁審査基準第3部第1章3.1.1」でいう人の治療方法に該当するとしても、「痛み以外の靴の履き心地の悪さ」の解消は、「特許庁審査基準第3部第1章3.1.1」でいう人の治療方法には含まれない、ということになりますし、上述した治療の対象とならない「痛み」の解消も人の治療方法には含まれないことになります。・・・
したがって、本願発明の実施の態様には明確に、「特許庁審査基準第3部第1章3.1.1」において定められる「人間を手術、治療又は診断する方法」以外の方法が含まれることになります。
よって、「(人に対する医療行為に相当する治療方法を除く)」という注釈を加えることによって医療行為を排除した本願発明は、人間を手術、治療又は診断する方法には該当しないから、産業上の利用可能性のある発明であり、特許法第29条第1項柱書に規定の要件を充足する、ということになります。」
(主張3)
「<第3の理由>
第3の理由は、本願と同様の先登録例が存在するということにあります。
これは既に意見書で述べた通りです。意見書ではしなかった、請求項の引用を行います。以下の先登録例のうち、例えば、下記4は歯科医師による施術しか殆ど想定できず、本願発明よりも余程医療行為よりでしょうし、下記5はマッサージを行うことをその内容に含んでいるというより、殆どマッサージ方法そのものといえます。
これらの先登録例の存在、及びそれらとの対比によれば、本願発明も特許法第29条第1項柱書に規定の要件を充足するという結論が導かれるはずです。」
以下、上記主張1~3について検討する。
(1)主張1について
「医療行為」に関して、「特許・実用新案審査基準」には、「3.1.1 人間を手術、治療又は診断する方法の発明」の説明の冒頭に、「人間を手術、治療又は診断する方法は、通常、医師(医師の指示を受けた者を含む。以下同じ。)が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法であって、いわゆる「医療行為」と言われているものである。」と記載されている。
ここでいう「医師」は、「通常」想定され得る主体が例示されたに過ぎず、方法発明の主体が「医師」である発明だけが「人間を手術、治療又は診断する方法」であるということを意味するものでない。
そうすると、本願発明が特許法第29条第1項柱書に規定される「産業上の利用可能性の要件」を充足するか否かを判断する際には、本願発明の方法の実施主体にかかわらず、当該発明の技術上の意義が人間を治療する方法にあるか否かにより判断するものと解すべきであるといえる。
そして、 上記2.(1)で検討したように、本願発明の「靴の履き心地の改善方法」は、「足の状態をより正常な或いはよりあるべき姿に近づける」との技術課題に対して、「5本の中足骨を本来の平行な状態に戻す」ことを課題解決手段としたものであるから、「人間を治療する方法」を念頭に置いたものであり、さらに、上記2.(2)で検討したように、本願発明を構成する「第1過程」~「第3過程」はいずれも「人間を治療する方法」つまり、「人に対する医療行為に相当する治療方法」に該当するものである。
よって、上記主張1は採用できない。
(2)主張2について
上記2.(2)で検討したとおり、本願発明を構成する「第1過程」~「第3過程」は、全て「人間を治療する方法」であり、本願明細書全体をとおしてみても、「第1過程」~「第3過程」に係る構成が、痛み、又は痛みの発生を予防するための構成以外のものであると解する余地はないから、本願発明は、人間を治療する方法に該当するものである。
よって、上記主張2は採用できない。
(3)主張3について
本件査定不服事件と請求人が指摘する「先登録例」とは別事件であり、その内容は異なるものであるから、「先登録例」が特許されたことを理由として本願発明が産業上利用できる発明であるということはできない。
よって、主張3は採用できない。
第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、産業上利用できる発明に該当しないから、特許法第29条第1項柱書の規定により、特許を受けることができない。
そして、他の請求項に係る発明についても、本願発明を引用するものであるから、同様の理由で特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-007471