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特許拒絶査定不服審判

2018-003326

RFIDリーダに適用可能なアレイアンテナシステムおよびアルゴリズム

審判番号
2018-003326
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-076046外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年03月07日
審決日
2019年12月18日
公報発行日
2020年06月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (H01Q) / P18 .537-WZ (H01Q)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015- 76046「RFIDリーダに適用可能なアレイアンテナシステムおよびアルゴリズム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月10日出願公開、特開2015-164318〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は,2009年1月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年1月30日 米国)を国際出願日とする出願である特願2010-545223号の一部を,平成27年4月2日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年 4月27日付け:拒絶理由通知書 平成28年11月10日  :意見書,手続補正書の提出 平成29年 3月10日付け:拒絶理由通知書 平成29年 9月14日  :意見書の提出 平成29年10月30日付け:拒絶査定 平成30年 3月 7日  :拒絶査定不服審判の請求,手続補正書の提出 平成31年 2月 7日付け:拒絶理由通知書 令和 元年 8月13日  :意見書,手続補正書の提出 第2 本願発明 令和元年8月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである(下線は請求人による。)。 「入力RF信号を受信するよう構成されたRF入力ポートであって,前記入力RF信号は少なくとも1つのRFIDタグを読み取るのに適している,RF入力ポートと, 複数のアンテナであって,前記複数のアンテナの各々は,アンテナ入力信号が入力されたときに,被励起媒質内で前記複数のアンテナの各々がRF場を生成するように構成され,前記複数のアンテナのうちの1つ又は複数のアンテナは,前記被励起媒質内の任意の場所でRF場を生成するよう構成された,複数のアンテナと, 対応する複数のアンテナ入力信号を前記入力RF信号から生成する手段であって,前記複数のアンテナ入力信号の各々のアンテナ入力信号は,前記少なくとも1つのRFIDタグを読み取るのに適しており,前記複数のアンテナ入力信号が同時に前記複数のアンテナに入力されるとき,対応する複数のRF場が前記被励起媒質内で同時に生成される,手段と 前記複数のRF場を変化させることによって,前記複数のアンテナの状態を変更する状態コントローラであって,第1の期間中に第1の状態を生成し,第2の期間中に第2の状態を生成する,状態コントローラとを備え, 前記状態コントローラは, 前記複数のアンテナ入力信号のうちの少なくとも1つのアンテナ入力信号の位相, 前記複数のアンテナ入力信号のうちの少なくとも2つのアンテナ入力信号の振幅の比, 前記複数のアンテナのうちの少なくとも1つのアンテナの放射パターン,および 前記複数のアンテナのうちの少なくとも1つのアンテナの偏波, のうち,1つまたは複数を変化させることによって,前記複数のRF場を変化させ, 前記複数のアンテナ入力信号はN個のアンテナ入力信号であり,前記複数のアンテナ入力信号の位相の変化には多くてもN-1個の自由度があり,前記複数のアンテナ入力信号のうちの少なくとも1つのアンテナ入力信号は,M個のアンテナ入力信号であり,M<Nである,アンテナシステム。」 第3 拒絶の理由 当審が通知した平成31年2月7日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうちの理由1の概要は,次のとおりである。 請求項1-66に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 1.特開2007-129688号公報 2.特開2008-42755号公報 3.特開2005-328382号公報 第4 引用文献の記載,引用発明,周知技術 1 引用文献1の記載及び引用発明 (1)当審拒絶理由で引用された特開2007-129688号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある(下線は当審による。以下同様。)。 ア 「【0001】 本発明は,データ読取装置,並びに位置特定システムに関し,より詳しくは,例えばいわゆるRFIDタグ,無線ICタグのような,無線によりデータを読み取り可能な記憶媒体からデータを読み出すためのデータ読取装置,並びにそのようなデータ読取装置を利用した位置特定システムに関する。」 イ 「【0035】 図1は,データ読取装置の基本的構成の例を示す機能ブロック図である。 データ読取装置1は,リーダ/ライタ制御装置10と,このリーダ/ライタ制御装置10に接続されたリーダ/ライタ20と,リーダ/ライタ20に接続されたアンテナユニット30とで構成される。 【0036】 リーダ/ライタ制御装置10は,リーダ/ライタ20に読み取り動作を実行する様命令し,また,リーダ/ライタ20に無線ICタグ40から読み取ったデータを送信する様命令し,リーダ/ライタ20から受け取ったデータを記憶し,所定の情報処理(例えば,在庫状況の一覧表示など)を行う機能を有する。リーダ/ライタ制御装置10は,例えば,コンピュータや各種コントローラなどである。 【0037】 リーダ/ライタ20は,制御部21と,制御部21に接続された送受信部22とを有ししている。制御部21は,リーダ/ライタ制御装置10からの命令を受け取り,これに応じて送受信部22を駆動させ,また送受信部22から出力されたデータ(無線ICタグ40から読み取ったもの)をリーダ/ライタ制御装置10に渡す機能を有している。 【0038】 送受信部22は,アンテナユニット30を介して無線ICタグ40と無線により交信を行う機能を有する。送受信部22は,変調部23と復調部24とを有している。変調部23は,キャリア波を制御部21から受け取った所定のコマンド,リクエスト,命令などの情報により所定の変調方式で変調して変調されたキャリア波(変調信号)を生成し,アンテナユニット30に供給する。復調部24は,無線ICタグ40が記憶しているデータに応じた信号に基づいて所定の変調方式で変調された変調信号を復調し,当該データに応じた信号を取り出し,制御部21に渡す。 【0039】 アンテナユニット30は,リーダ/ライタ20,より詳しくは変調部23から受け取った変調されたキャリア波を空中に放射し,電波を無線ICタグ40に向けて放射すると共に,無線ICタグから放射された変調信号を受信し,この変調信号をリーダ/ライタ20,より詳しくは復調部24に供給する。アンテナユニット30は,送信用アンテナ/受信用アンテナ(図略)とこれを保護するためのケース(図略)で構成されている。アンテナユニット30は,リーダ/ライタ20とは別体の装置になっており,リーダ/ライタ20とはケーブルなどで接続される。従って,アンテナユニット30は,リーダ/ライタ20から離れた場所であっても設置できる様になっている。また,別の構成例としては,リーダ/ライタ20に接続される複数のアンテナユニット30のうちの一つのアンテナユニットをリーダ/ライタ20内に組み込む構成としても本実施の形態は成立する。 【0040】 無線ICタグ40は,メモリ41と,制御部42と,送受信部43と,アンテナ44とを有している。メモリ41は,商品情報,発送者情報などの識別コードなど,読み取り対象となる情報を記憶している記憶装置である。制御部42は,リーダ/ライタ20からのコマンド,リクエスト,命令などを解釈し,これに応答する動作を実行する。送受信部43は,リーダ/ライタ20と同様に変調部(図略),復調部(図略)を有しており,リーダ/ライタ20と交信を行うために信号の変調/復調を行う。アンテナ44はリーダ/ライタ20からの変調信号を受信し,これを送受信部43に給電すると共に,送受信部43からの変調された変調波を受け取り,これをリーダ/ライタ20に受信させる様,空中に放射する。」 ウ 「【0044】 [A.2.デッドスポットの発生とその解消] 次に,データ読取装置1を使用した場合に,環境条件によって生じうる,読取用電波の干渉により生ずる読取不可能若しくは困難な箇所/領域(以下,デッドスポットと呼ぶ)について説明する。 【0045】 図4(A)は,ある閉鎖された空間(例えば倉庫やビルの一室)400にリーダ/ライタ20及びアンテナユニット30が配置された場合の電界パターン及びデッドスポットを示す図である。リーダ/ライタ20から変調されたキャリア波の供給を受けたアンテナユニットは電波を空中に放出する。アンテナユニット30に格納されたアンテナ(図略)は,特有の放射の方向特性を有し,この水平方向における方向特性を電界パターン401として図示する。また,アンテナユニット30のビーム方向を矢印406により示す。 【0046】 アンテナユニット30から放出された電波は,様々な方向に向けて放出される。空間400内のある位置Pには,アンテナユニット30から直接到達する電波である直接波402Aが到達すると共に,アンテナユニット30から空間400の壁に向かった別の直接波403Aが壁によって反射されて生じた反射波404Aも到達する。このとき,反射波404Aは,十分な電界強度を有した状態で位置Pに到達する。そのため電波の波長と,直接波402A及び反射波404Aの進行距離の関係によっては,直接波402A及び反射波404Aが逆位相となり,互いに打ち消しあって位置P周辺にデッドスポット405Aが発生する。 【0047】 一方,空間400内の別の地点である位置Qにおいても,アンテナユニット30から直接到達する電波である直接波402Bが位置Qに到達すると共に,アンテナユニット30から空間400の壁に向かった別の直接波403Bが壁によって反射されて生じた反射波404Bも位置Qに到達する。しかし,別の直接波403Bの電界強度は弱く,従ってその反射波404Bの電界強度も弱い状態となる。そのため,直接波402Bと反射波404Bが位置Qにおいて逆位相となっても,直接波402Bが打ち消されることはなく位置Q周辺にデッドスポットは生じていない。 【0048】 なお,図4(A)では,一カ所のみデッドスポット405Aを図示したが,複数箇所でデッドスポットが発生しうる。かかるデッドスポット405Aに無線ICタグ40が位置した場合には,その無線ICタグ40はリーダ/ライタ20との交信ができず,その結果リーダ/ライタ20はデッドスポット405内に位置する無線ICタグ40のデータの読み取りができない。」 エ 「【0051】 図4(B)は,図4(A)の状態で生じたデッドスポット405Aを解消するため,アンテナユニット30の放射特性を変化させた状態を示す図である。アンテナユニット30に搭載するアンテナは,リーダ/ライタ20若しくはリーダ/ライタ制御装置10の制御によりその放射特性を可変できるアンテナ,例えばフェイズドアレイ・アンテナとする。 【0052】 図4(B)に示す例では,アンテナの放射特性を変化させたことにより,ビーム方向406及び電界パターン401が変えられた状態である。電界パターン401が変位するため,位置P,位置Qに到達する反射波の電界強度も変化する。すなわち,位置Pに到達する反射波404Aの電界強度は弱くなり,一方位置Qに到達する反射波404Bの電界強度は強まる。その結果,この例では位置P周辺のデッドスポット405Aは消滅するが,位置Q周辺に新たなデッドスポット405Bが発生する。 【0053】 位置Pに置かれている無線ICタグ40は,図4(A)の状態においては読み取り不可能であるが,アンテナユニットの放射特性を変更し,図4(B)の状態になった後は,読み取り可能となる。 【0054】 本実施の形態にかかるデータ読取装置1は,例えば図4(A),図4(B)ようにアンテナの放射特性を変更しながら無線ICタグ40の読み取り処理を行うことにより,デッドスポット405における読み取り不可能状態を回避しつつ,無線ICタグ40の読み取り処理を行うことができる。」 オ 図1 カ 図4 (2)上記(1)の記載について,以下のことがいえる。 ア 段落【0001】,【0035】によれば,データ読取装置1は,RFIDタグ,無線ICタグのような,無線によりデータを読み取り可能な記憶媒体からデータを読み出すためのものであり,リーダ/ライタ制御装置10と,リーダ/ライタ20と,アンテナユニット30とで構成されている。 イ 段落【0037】によれば,リーダ/ライタ20は,制御部21と送受信部22とを有しており,制御部21はリーダ/ライタ制御装置10からの命令を受け取って送受信部22を駆動させるものである。 そして,段落【0038】によれば,送受信部22は変調部23を有し,変調部23は,制御部21から受け取った所定のコマンド,リクエスト,命令などの情報により,キャリア波を所定の変調方式で変調して,変調されたキャリア波(変調信号)を生成するものである。 そうすると,「リーダ/ライタ20」は,「所定のコマンド,リクエスト,命令などの情報により,キャリア波を所定の変調方式で変調して,変調されたキャリア波(変調信号)を生成」しているといえる。 ウ 段落【0051】によれば,アンテナユニット30に搭載するアンテナはその放射特性を可変できるフェイズドアレイ・アンテナである。 そして,段落【0039】によれば,アンテナユニット30は,リーダ/ライタ20から受け取った変調されたキャリア波を空中に放射し,電波を無線ICタグ40に向けて放射すると共に,無線ICタグから放射された変調信号を受信し,この変調信号をリーダ/ライタ20に供給するものである。 ここで,段落【0040】によれば,無線ICタグ40の制御部42は,リーダ/ライタ20からのコマンド,リクエスト,命令などを解釈し,これに応答する動作を実行するものである。 上記によれば,「アンテナユニット30」である「フェイズドアレイ・アンテナ」は,「リーダ/ライタ20から受け取った変調されたキャリア波を空中に放射し,電波を無線ICタグ40に向けて放射すると共に,リーダ/ライタ20からのコマンド,リクエスト,命令などを解釈し,これに応答する動作を実行する無線ICタグ40から放射された変調信号を受信し,この変調信号をリーダ/ライタ20に供給」しているといえる。 エ 段落【0054】によれば,データ読取装置1が,アンテナの放射特性を変更しながら,無線ICタグ40の読み取り処理を行うことで,デッドスポット405における読み取り不可能状態を回避しつつ,読取処理を行うことができる。 ここで,段落【0051】によれば,アンテナユニット30に搭載するアンテナは,リーダ/ライタ制御装置10の制御によりその放射特性を可変できるのだから,「アンテナユニット30の放射特性を可変」するのは「リーダ/ライタ制御装置10」であって,上記ウのとおり,「アンテナユニット30」は,「フェイズドアレイ・アンテナ」である。 つまり,「データ読取装置1のリーダ/ライタ制御装置10」は「デッドスポット405における読み取り不可能状態を回避しつつ,読取処理を行うことができる」ように,「フェイズドアレイ・アンテナの放射特性を変更しながら無線ICタグ40の読み取り処理を行う」ものであるといえる。 (3)上記(1)及び(2)から,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「RFIDタグ,無線ICタグのような,無線によりデータを読み取り可能な記憶媒体からデータを読み出すためのデータ読取装置であって, 所定のコマンド,リクエスト,命令などの情報により,キャリア波を所定の変調方式で変調して,変調されたキャリア波(変調信号)を生成するリーダ/ライタと, リーダ/ライタから受け取った変調されたキャリア波を空中に放射し,電波を無線ICタグに向けて放射すると共に,リーダ/ライタからのコマンド,リクエスト,命令などを解釈して,これに応答する動作を実行する無線ICタグから放射された変調信号を受信し,この変調信号をリーダ/ライタに供給するフェイズドアレイ・アンテナと, デッドスポットにおける読み取り不可能状態を回避しつつ,読み取り処理を行うことができるように,アンテナの放射特性を変更しながら無線ICタグの読み取り処理を行うリーダ/ライタ制御装置と,を備えるデータ読取装置。」 2 周知技術 (1)当審拒絶理由で引用された特開2008-42755号公報(以下「周知文献1」という。)には,次の記載がある。 「【0035】 図5は図2に示したアンテナ装置10の具体的な構成を示す回路図である。2つの素子アンテナ11a,11bは図2に示したアンテナ1を構成している。移相回路21とスイッチ22とは,図2に示した指向性切り替え制御部2を構成している。また,方向性結合器31,ダイオードD,ローパスフィルタLPFおよびコンパレータCPを含む回路は,図2に示した送信電力検出部3を構成している。さらに,T型フリップフロップFFは状態切り替え記憶部4を構成している。 【0036】 上記移相回路21は,線路LaまたはLbを伝搬する信号に位相差を持たせて素子アンテナ11a,11bに給電するもので,例えば90度ハイブリッド回路などで構成される。すなわち,スイッチ22が例えば線路La側を選択している時,移相回路21の作用により,素子アンテナ11aへの信号に比べて素子アンテナ11bに対する信号の位相が一定量遅れて,アンテナの指向性はビームBaで示す方向を向く。またスイッチ22が線路 Lb側を選択している時,移相回路21の作用により,素子アンテナ11bへの信号に比べて素子アンテナ11aに対する信号の位相が一定量遅れて,アンテナの指向性はビームBbで示す方向を向く。」 (2)上記(1)の段落【0036】によれば,素子アンテナ11aへの信号に比べて素子アンテナ11bに対する位相が一定量遅れると,アンテナの指向性はビームBaで示す方向を向き,素子アンテナ11bへの信号に比べて素子アンテナ11aに対する信号の位相が一定量遅れると,アンテナの指向性はビームBbで示す方向を向くのであって,段落【0035】によれば,2つの素子アンテナ11a,11bはアンテナ1を構成している。 つまり,「アンテナを構成する2つの素子アンテナのうち,どちらの素子アンテナの位相を他方の素子アンテナの位相に対して遅らせるかにより,アンテナの指向性を変更すること」が周知文献1に記載されている。 (3)平成16年7月28日に発行された特許第3547568号公報(以下「周知文献2」という。)には,次の記載がある。 ア 「【0013】 【発明の実施の形態】 以下,図面を参照して本発明の実施例の形態について説明する。 図1にこの発明の実施の形態の第1の例を示す。同図は,細幅の金属板の前後に放射素子群として4素子のダイポールアレーを配置し,斜め双方向にビームを持つ例について示している。同図において,数字符号1-1は第1のダイポールアレー,1-2は第2のダイポールアレー,1-3は細幅の金属板,1-4は第1のダイポールアレーの給電分配回路,1-5は第2のダイポールアレーの給電分配回路,1-6は第1及び第2のダイポールアレーの入出力を合成あるいは分配し,かつ両ダイポールアレーの入出力の相対位相を調整する位相回路である。 【0014】 金属板の幅は一般的には使用周波数の波長以下であり,後述する図2の特性の計算では0.2波長としている。また,金属板の長さは,第1の放射素子群の放射素子と第2の放射素子群の放射素子と直接の結合が遮られる程度であれば良い。図右上方に示す座標のθ,φなどの表示は図2と対応しており,また,矢印を付した線で示す○Pは観測点の方向を示すベクトルを表わしている。これは後述する図4についても同様である。 【0015】 図1において,第1のダイポールアレー1-1及び第2のダイポールアレー1-2の各々の給電分配回路で作られる第n番目の放射素子(1≦n≦N)の給電位相ψ1n及びψ2nを,各々ψ1n=-ψo (n-1),ψ2n=ψo (n-1)で与える。ここで,ψo は隣接素子間の遅れ位相差であり,素子番号(N01~N04)は上から下へ順に付けている。第1及び第2のダイポールアレーは,単独では,各々下及び上方向にビームチルトした水平面内無指向性のパターンを有している。この第1及び第2のダイポールアレーを細幅の金属板1-3の両面に配置し,各々のダイポールアレーの入出力の相対位相を調整する位相回路に接続する。 【0016】 位相回路1-6において,第2のダイポールアレーに対する第1のダイポールアレーの相対遅れ位相量をαとする。この位相回路1-6を用いたとき,実際に,第1及び第2のダイポールアレーの第n番目の放射素子に給電される遅れ位相は,各々α-ψo (n-1),ψo (n-1)となる。 また,図1に示した無線基地局アンテナにおいて,素子数N,隣接素子間の位相差ψo 及び,素子間隔の値を変化させることによって,垂直面内の主ビーム方向を任意の方向へ向けることが可能となる。」 イ 図1 (4)上記(3)の段落【0016】によれば,アンテナは,素子数,隣接素子間の位相差,及び素子間隔の値を変更させることによって,垂直面内の主ビーム方向を任意の方向へ向けることが可能であって,段落【0013】及び【図1】によれば,4素子のダイポールアレーは,垂直方向に配置されている。 つまり,「アンテナを構成する垂直方向に配置されている4つの素子の隣接素子間の位相差を変更させることにより,垂直面内の主ビーム方向を任意の方向へ向けることが可能であって,ダイポールアレーの第n番目の放射素子の給電位相は-ψo (n-1)である」ことが,周知文献2に記載されている。 (5)特開昭57-154905号公報(以下「周知文献3」という。)には,次の記載がある。 「第1図は,電子制御アンテナの動作原理を示す図であり,図示していない移相器を内蔵した多数のアンテナ素子(l1)(l2)・・・(ln)が等間隔で一列に配列されている。これらの移相器の位相をすべて同一,たとえば零度に設定すると,アンテナ・アレイの正面方向にアンテナ・メイン・ビームが形成される。ここで,アンテナ・メイン・ビームを正面方向から角度θだけ傾いた方向に形成しようとすると,アンテナ素子(l1)内蔵の移相器の位相を基準としたk番目のアンテナ素子(lk)内蔵の移相器の相対位相Ψkは ・・・(中略)・・・ Ψk=(2π/λ)(k-1)dsinθ   (1) となり,2番のアンテナ素子(l2)内蔵の移相器の相対位相Ψzは,第(1)式でk=zとおいて与えられる。 Ψz=(2π/λ)dsinθ   (2)」(2頁左上欄13行~左下欄1行) なお,2頁右上欄19行の「Ψz」,「k=z」は,それぞれ「Ψ2」,「k=2」の誤記であり,同左下欄1行の「Ψz」も「Ψ2」の誤記であると認められる。 (6)上記(5)の記載によれば,「移相器を内蔵した多数のアンテナ素子が等間隔で配列されている電子制御アンテナにおいて,移相器の位相をすべて同一とすると,アンテナ・アレイの正面方向にビームが形成され,正面方向から角度θだけ傾いた方向に形成しようとすると,k番目のアンテナ素子内蔵の移相器の位相ψkが(2π/λ)(k-1)dsinθである」ことが,周知文献3に記載されている。 (7)郵政省通信総合研究所編,丸善株式会社,平成10年7月30日発行の「通信の百科事典-通信・放送・郵便のすべて-」70頁に記載されるように,複数のアンテナ素子で構成されるアンテナを「アレーアンテナ」と呼ぶこと,アレーアンテナの各素子の位相を変化させることでビームの方向を変えることができるアンテナを「フェーズドアレーアンテナ」と呼ぶこと,はいずれも技術常識であり,また,同578頁に記載されるように,フェーズドアレーアンテナは,1つの入力信号を各アンテナ素子に対応した移相器により位相を変化させて各アンテナ素子から電波を放射することで,ビームの方向を変えることができること,も技術常識である。 (8)上記(4)によれば,周知文献2においてダイポールアレーの第n番目の放射素子の給電位相は-ψo (n-1)であるから,1番目の放射素子の給電位相は,隣接素子間の遅れ位相差に関わらず常に0であることが自明である。 また,上記(6)によれば,周知文献3においてk番目のアンテナ素子内蔵の移相器の位相ψkが(2π/λ)(k-1)dsinθであるから,1番目の移相器の位相は角度θにかかわらず0であることが自明である。 つまり,フェーズドアレーアンテナのビーム方向を変えるに当たって「1番目のアンテナ素子の位相を0として,2番目以降のアンテナ素子に入力される入力信号の位相を制御する」ことは周知技術であり,N個のアンテナ素子を有するフェーズドアレーアンテナにおいて,1番目を除くN-1個のアンテナ入力信号の位相を制御することは,「N個のアンテナ入力信号の位相の変化には,多くてもN-1個の自由度がある」ことに他ならない。 上記によれば,「フェーズドアレーアンテナは,複数N個のアンテナ素子にそれぞれ同時にアンテナ入力信号が入力され,N個のアンテナ入力信号のうちのN-1個のアンテナ入力信号の位相を変化させることによって,N個の電波を変化させるものであり,N個のアンテナ素子のそれぞれのアンテナ入力信号の位相の変化にN-1個の自由度があること」は,周知技術である。 第5 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)本願発明の「RFIDタグ」と,引用発明の「無線ICタグ」とは,「タグ」という点で一致する。 (2)引用発明は,「フェイズドアレイ・アンテナ」が,「リーダ/ライタ」から「変調されたキャリア波」を受け取る,すなわち受信することが可能なように,「フェイズドアレイ・アンテナ」と「リーダ/ライタ」との接続点から「変調されたキャリア波」が「フェイズドアレイ・アンテナ」に入力されることが明らかである。また,引用発明では「フェイズドアレイ・アンテナ」が「変調されたキャリア波を空中に放射し,電波を無線ICタグに向けて放射する」ことが行われる。 ここで,「RF」とは,「無線周波数」であって,「通信に有用である可干渉性の電磁放射の周波数」(マグローヒル科学技術用語大辞典第2版,日刊工業新聞社,昭和54年3月20日発行)であるから,引用発明の「変調されたキャリア波」はRFの信号であるといえる。 したがって,引用発明の「フェイズドアレイ・アンテナ」に入力される「変調されたキャリア波」は,本願発明の「入力RF信号」に相当する。また,上記接続点を「RF入力ポート」と称することは任意である。 (3)引用発明の「フェイズドアレイ・アンテナ」は,上記第4の2(7)で述べた,複数のアンテナ素子で構成されるアンテナを「アレーアンテナ」と呼び,アレーアンテナの各素子の位相を変化させることでビームの方向を変えることができるアンテナを「フェーズドアレーアンテナ」と呼ぶ,との技術常識に照らすと,複数のアンテナ素子で構成されるものであり,「変調されたキャリア波」を「空中に放射」するとともに,各アンテナ素子に入力される入力信号の位相を変化させることによって,ビームの方向,すなわち「アンテナの放射特性を変更」することが可能なものである。 一方,本願発明は,「被励起媒質内で前記複数のアンテナの各々がRF場を生成する」ものである。 ここで,「場」とは,「空間の各点ごとにある物理量Aが与えられているとき,Aの場が存在するといい,Aを場の量という。力の場,速度の場,電磁場,重力場の類。」(広辞苑第6版,株式会社岩波書店)であるから,「RF場」とは,空間に通信に有用な電磁放射の周波数が与えられている状態であると解される。そして,本願発明では「複数のアンテナの各々」が「RF場」を生成するから,「RF場」は,「複数のアンテナの各々」すなわち複数のアンテナ素子の各々から電磁波が放射された状態であるといえる。 また,「励起」とは,「外部からエネルギーを与えることにより,原子,分子などにより高いエネルギー準位へ遷移させること。」(電子通信用語辞典,社団法人電子情報通信学会編,コロナ社,昭和59年11月30日発行)であるから,本願発明の「被励起媒質」とは,「エネルギーが与えられる媒質」,つまり「空間」である。 上記によれば,本願発明において「被励起媒質内で前記複数のアンテナの各々がRF場を生成する」とは,「空間に複数のアンテナ素子の各々が電磁波を放射する」ことを意味している。 したがって,引用発明の「フェイズドアレイ・アンテナ」は,被励起媒質内の任意の場所でRF場を生成する,複数のアンテナであって,それらの各々は,個々のアンテナに「変調されたキャリア波」に基づいた信号が入力されたとき,すなわちアンテナ入力信号が入力されたときに,被励起媒質内でRF場を生成するといえる。 (4)上記(3)の個々のアンテナに入力されるそれぞれのアンテナ入力信号は,「リーダ/ライタ」から受け取った「変調されたキャリア波」から生成すべきことが明らかである。したがって,引用発明は,複数のアンテナに対応する複数のアンテナ入力信号を「変調されたキャリア波」から生成する手段を備えている。 (5)引用発明の「リーダ/ライタ」が生成する「変調されたキャリア波」は,「所定のコマンド」等によりキャリア波が変調されていることが明らかである。そして,引用発明では,「無線ICタグ」が「リーダ/ライタからのコマンド」等を解釈して応答することで,「無線ICタグの読み取り処理」が行われており,「変調されたキャリア波」が「無線ICタグ」で受信されることが明らかであるから,「変調されたキャリア波」は,「無線ICタグ」を読み取るのに適しているといえる。また,上記(4)のとおり,個々のアンテナに入力されるそれぞれのアンテナ入力信号は,「変調されたキャリア波」から生成されるから,複数のアンテナ入力信号の各々のアンテナ入力信号も,「無線ICタグ」を読み取るのに適しているといえる。 (6)上記第4の2(7)で述べた,フェーズドアレーアンテナは,1つの入力信号を各アンテナ素子に対応した移相器により位相を変化させて各アンテナ素子から電波を放射することで,ビームの方向を変えることができる,との技術常識に照らすと,上記(4)の手段により生成される複数のアンテナに対応する複数のアンテナ入力信号は,同時に前記複数のアンテナに入力されることが明らかである。そうすると,引用発明の「フェイズドアレイ・アンテナ」において上記(3)の被励起媒質内で生成されるRF場も,複数のアンテナのそれぞれに対応して,複数のRF場が同時に生成されるものである。 (7)引用発明において,「アンテナの放射特性」における「アンテナ」は「フェイズドアレイ・アンテナ」を指しているから,「アンテナの放射特性を変更」するとは,「フェイズドアレイ・アンテナの複数のアンテナ素子の状態を時間的に変更する」ことであるといえる。また,「リーダ/ライタ制御装置」が「アンテナの放射特性を変更」することが,上記(6)の複数のRF場を変化させることによって行われることは明らかである。 そうすると,引用発明の「アンテナの放射特性を変更しながら無線ICタグの読み取り処理を行うリーダ/ライタ制御装置」は,本願発明の「前記複数のRF場を変化させることによって,前記複数のアンテナの状態を変更する状態コントローラであって,第1の期間中に第1の状態を生成し,第2の期間中に第2の状態を生成する,状態コントローラ」に相当する。 (8)上記(6)の技術常識に照らすと,上記(7)の複数のRF場を変化させることが,上記(4)の複数のアンテナ入力信号のうちの少なくとも1つの位相を変化させることによって行われることは明らかである。 (9)引用発明の「データ読取装置」は,「フェイズドアレイ・アンテナ」,「リーダ/ライタ制御装置」を備えるシステムであるから,アンテナシステムであるといえる。 (10)以上のことから,本願発明と引用発明とは, (一致点)「入力RF信号を受信するよう構成されたRF入力ポートであって,前記入力RF信号は少なくとも1つのタグを読み取るのに適している,RF入力ポートと, 複数のアンテナであって,前記複数のアンテナの各々は,アンテナ入力信号が入力されたときに,被励起媒質内で前記複数のアンテナの各々がRF場を生成するように構成され,前記複数のアンテナのうちの1つ又は複数のアンテナは,前記被励起媒質内の任意の場所でRF場を生成するよう構成された,複数のアンテナと, 対応する複数のアンテナ入力信号を前記入力RF信号から生成する手段であって,前記複数のアンテナ入力信号の各々のアンテナ入力信号は,前記少なくとも1つのタグを読み取るのに適しており,前記複数のアンテナ入力信号が同時に前記複数のアンテナに入力されるとき,対応する複数のRF場が前記被励起媒質内で同時に生成される,手段と 前記複数のRF場を変化させることによって,前記複数のアンテナの状態を変更する状態コントローラであって,第1の期間中に第1の状態を生成し,第2の期間中に第2の状態を生成する,状態コントローラとを備え, 前記状態コントローラは, 前記複数のアンテナ入力信号のうちの少なくとも1つのアンテナ入力信号の位相 を変化させることによって,前記複数のRF場を変化させる, アンテナシステム。」 という点で一致する。 (11)また,両者は以下の点で相違する。 (相違点1)「タグ」が,本願発明では,「RFIDタグ」であるのに対し,引用発明では「無線ICタグ」である点。 (相違点2)本願発明では,「複数のアンテナ入力信号」に関して,「前記複数のアンテナ入力信号はN個のアンテナ入力信号であり,前記複数のアンテナ入力信号の位相の変化には多くてもN-1個の自由度があり,前記複数のアンテナ入力信号のうちの少なくとも1つのアンテナ入力信号は,M個のアンテナ入力信号であり,M<Nである」と特定されるのに対し,引用発明では,「フェイズドアレイ・アンテナ」に入力される複数のアンテナの入力信号に関する個数の特定がない点。 2 判断 (1)まず,相違点1について検討する。 引用発明は,「RFIDタグ,無線ICタグのような,無線によりデータを読み取り可能な記憶媒体からデータを読み出すためのデータ読取装置」であるから,引用発明において,「無線ICタグ」に代えて,これと同じく「無線によりデータを読み取り可能な記憶媒体」である,「RFIDタグ」とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 (2)次に,相違点2について検討する。 上記第4の2(8)のとおり,「フェーズドアレーアンテナは,複数N個のアンテナ素子にそれぞれ同時にアンテナ入力信号が入力され,N個のアンテナ入力信号のうちのN-1個のアンテナ入力信号の位相を変化させることによって,N個の電波を変化させるものであり,N個のアンテナ素子のそれぞれのアンテナ入力信号の位相の変化にN-1個の自由度があること」は周知技術であり,引用発明において,「リーダ/ライタ制御装置」が,「デッドスポットにおける読み取り不可能状態を回避しつつ,読み取り処理を行うことができるように,アンテナの放射特性を変更しながら無線ICタグの読み取り処理を行う」ことを,当該周知技術に基づき,「フェイズドアレイ・アンテナ」に含まれるアンテナ素子の個数をNとして,N個のアンテナ入力信号のうちのN-1個のアンテナ入力信号の位相を変化させることによってN個のRF場を変化させ,N個のアンテナのそれぞれのアンテナ入力信号の位相の変化にN-1個の自由度があるものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。ここで,N-1<Nが成り立つところ,この大小関係は本願発明の「M<N」に含まれる。 (3)そして,本願発明の作用効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測できる程度のものである。 3 請求人の主張について 請求人は,令和元年8月13日に提出された意見書において,引用文献1では,RFIDタグに一度に1つのRF信号しか入力されないから,引用文献1に開示されているものは「フェイズドアレイ・アンテナ」ではない旨主張するとともに,引用文献1の図11の各アンテナ(30A1,30A2,30A3,30A4)は,各々で駆動することができるため,「フェイズドアレイ・アンテナ」ではない旨を述べている。 しかしながら,引用文献1の「アンテナユニット30に搭載するアンテナは,リーダ/ライタ20若しくはリーダ/ライタ制御装置10の制御によりその放射特性を可変できるアンテナ,例えばフェイズドアレイ・アンテナとする。」(段落【0051】)との記載によれば,図11の各アンテナ(30A1,30A2,30A3,30A4)は,それぞれ,フェイズドアレイ・アンテナであって,30A1~30A4のそれぞれを各アンテナ素子とした30A1~30A4の全体で,1つのフェイズドアレイ・アンテナが構成されるものではない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。

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2018-003326

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