特許異議申立
2017-700936
半田接合構造および半田接合方法
- 審判番号
- 2017-700936
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-093641
- 登録番号
- 特許第6108164号(P6108164)
- 請求日
- 2017年10月02日
- 審決日
- 2017年12月14日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本電産株式会社
- 【異議申立人】杉本 結子
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 小関 峰夫
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1652.121-Y (H01R) / P1652.536-Y (H01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6108164号発明「半田接合構造および半田接合方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6108164号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6108164号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成25年4月26日(優先権主張平成24年11月7日)に特許出願され、平成29年3月17日に特許の設定登録がされ、同年4月5日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月2日に、その請求項1~6に係る特許に対し特許異議申立人杉本結子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6の特許に係る発明は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」~「本件発明6」という。)。
「【請求項1】
角柱または円柱の金属ピンと、
前記金属ピンに巻き付けられた巻付部を有するアルミニウム線と、
前記金属ピンと前記巻付部の少なくとも一部とを接合する半田層と、
を備え、
前記巻付部の前記少なくとも一部が、前記アルミニウム線の延びる方向に垂直な断面において一部が消失することにより現れた変形面、を有し、
前記変形面が、前記金属ピンと径方向に対向し、
前記断面において、前記変形面と、前記金属ピンとの径方向間に、アルミニウム粒子が存在し、
前記半田層が、前記変形面に密着する、半田接合構造。
【請求項2】
前記断面において、前記変形面と、前記アルミニウム線の原形の輪郭との間に、アルミニウム粒子が存在する、請求項1に記載の半田接合構造。
【請求項3】
前記金属ピンの表面が、前記半田層内の前記アルミニウム線の部位に対向する溝を有する、請求項1ないし2のいずれかに記載の半田接合構造。
【請求項4】
前記アルミニウム線の直径が、前記金属ピンの太さよりも小さい、請求項1ないし3のいずれかに記載の半田接合構造。
【請求項5】
前記巻付部の前記少なくとも一部が、前記アルミニウム線の直径よりも大きい間隙を空けて前記金属ピンに巻かれた粗巻部を有する、請求項1ないし4のいずれかに記載の半田接合構造。
【請求項6】
前記巻付部が、前記アルミニウム線の直径以下の間隙を空けて、または、間隙を空けることなく前記金属ピンに巻かれた密巻部を有する、請求項5に記載の半田接合構造。」
第3 申立理由の概要
1 申立理由1
異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証~甲第7号証を提出し、請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載された技術常識又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
甲第1号証:特開昭52-98901号公報
甲第2号証:特開2004-46946号公報
甲第3号証:特開2010-10248号公報
甲第4号証:特開2011-222406号公報
甲第5号証:再公表特許第2011/096527号
甲第6号証:特開昭53-96489号公報
甲第7号証:特開2007-49105号公報
なお、甲第5号証の再公表特許は、発行日が平成25年6月23日であり、本件特許の優先日前に公知の文献とはいえないが、同内容の国際公開第2011/096527号が平成23年8月11日に国際公開されていることは明らかなので、以下においては、甲第5号証は、前記の国際公開として検討する。
2 申立て理由2
異議申立人は、本件特許明細書には、変形面が、金属ピンと径方向に対向する構成、変形面と金属ピンとの径方向間にアルミニウム粒子が存在する構成について、どのような条件で超音波振動を行えば実施することができるかについて記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、本件請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
第4 刊行物の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、「アルミ線で構成されるモーターコイルとリード線の接続方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「本発明は上記の点に鑑みてなされたもので以下圧縮機用電動機を実施例として説明する。
(1)は圧縮機用電動機で該電動機は支持枠(2)の周縁立上り部(3)にボルト(4)(4)により固定される固定子鉄心(5)と、前記支持枠(2)の中心に形成された軸受部(6)に軸支された回転軸(7)に嵌合された回転子(8)とより構成している。
前記固定子鉄心(5)の巻線溝(9)(9)・・・に挿入されたモーターコイル(10)(10)・・・はアルミ線により構成されると共に前記モーターコイル(10)(10)・・・の端部には接続具(11)を有するリード線(12)が接続されている。
而して前記モーターコイル(9)の引出し端部(13)はリード線(11)の端部(14)に巻回して半田付(15)により接続すると共にこの接続部(16)をモーターコイル(9)の巻線端部(9a)に挿入してコイル整形と結束糸(17)で固定する。その後前記接続部(16)に無溶剤ワニス(18)を滴下して約150℃で1時間加熱処理すると接続部(16)とその周辺のコイル部が一体固化される。」(1ページ右下欄14行~2ページ左上欄11行)
(2)第3図を参照すると、リード線11の端部14と、モーターコイル9の引出し端部13がリード線11の端部14に巻回されている部分(以下、「巻付部」という。)とを接合する半田付15が看取される。
上記の記載事項、認定事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、第1図~第3図に示される実施例として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「リード線11の端部14と、
前記リード線11の端部14に巻回されている巻付部を有するアルミ線で構成されるモーターコイル9の引出し端部13と、
前記リード線11の端部14と前記巻付部を接合する半田付15と、
を備える、
アルミ線で構成されるモーターコイル9とリード線11の半田付15による接続。」
2 甲第2号証
甲第2号証(特に、段落【0026】、【0029】及び【0038】を参照。)には、「ヘッドアームアセンブルおよびその製造方法、並びにディスク装置」に関して、可動コイル34の巻線両端部を引き出し、これらの先端を接続用ピンである端子44に巻き付け、その後、半田処理をすることが記載されている(以下、「甲第2号証に記載された事項」という。)。
3 甲第3号証
甲第3号証(特に、段落【0015】及び【0028】を参照。)には、「インターポーザ基板とその製造方法」に関して、金属ワイヤとしてアルミを用いてはんだ接続する場合に、はんだ食われが発生する場合があることが記載されている(以下、「甲第3号証に記載された事項」という。)。
4 甲第4号証
甲第4号証(特に、段落【0001】、【0005】、【0019】、【0022】、【0023】、【図2】及び【図5】を参照。)には、「アルミ被覆電線及びそのハンダ付け方法」に関して、アルミ撚り線を芯線として用いたアルミ被覆電線の場合、銅線等に比べて、芯線の表面に酸化膜が形成されやすく、ハンダとの濡れ性が悪く、芯線に十分にハンダを付着させることができないという問題が存在していたところ、露出した芯線の一端をハンダ槽に貯留された溶融ハンダに浸し、振動板を介して溶融ハンダに20kHzの超音波振動を印加することにより、溶融ハンダの超音波振動によってアルミ素線の表面の酸化膜が破壊されて新しい金属表面が露出するようになり、アルミ素線の表面に溶融ハンダが濡れ性良く付着すること、及び芯線に端子金具をかしめ圧着することが記載されている(以下、「甲第4号証に記載された事項」という。)。
5 甲第5号証
甲第5号証(特に、段落【0004】、【0010】、【0020】、【0021】、【0033】~【0035】、【0039】、【0040】並びに【図2】の(a)及び(b)を参照。)には、「接続構造体」に関して、アルミ電線と、種類の異なる金属で構成された圧着端子とを接続するために、超音波振動を誘起した溶融ハンダに、アルミ電線先端部を浸漬することにより、被覆ハンダを付着させることが記載されている(以下、「甲第5号証に記載された事項」という。)。
6 甲第6号証
甲第6号証(特に、2ページ左上欄3行~18行、及び2ページ右上欄10行~14行を参照。)には、「リード線の接続方法」に関して、リード線の先端部を予めらせん状に加工してらせん状部を形成し、このらせん状部をピンに嵌め合わせ、はんだ付けすること、及びピンの外周に波状部を設けることにより、らせん状部と波状部とが噛み合って、抜け止め効果をよくすることが記載されている(以下、「甲第6号証に記載された事項」という。)。
7 甲第7号証
甲第7号証(特に、【請求項1】、段落【0011】、【0012】、【図1】及び【図2】を参照。)には、「細いエナメル線のからげ処理」に関して、エナメル線の両端をからげて半田付けするボビンに固定される端子からなるコイルにおいて、エナメル線の端子にからげ始める部分を密にからげ、からげ終わりに近い部分を疎にからげ、疎にからげた部分を半田付けすることが記載されている(以下、「甲第7号証に記載された事項」という。)。
第5 判断
1 申立理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「アルミ線で構成されるモーターコイル9とリード線11の半田付15による接続」は、本件発明1の「半田接合構造」に相当する。
以下同様に、「巻回され」ることは、「巻き付けられ」ることに、
「巻付部」は、「巻付部」に、
「アルミ線で構成されるモーターコイル9の引出し端部13」は、「アルミニウム線」に、
「巻付部を接合する半田付15」は、「巻付部の少なくとも一部とを接合する半田層」に、それぞれ相当する。
甲1発明の「リード線11の端部14」と、本件発明1の「角柱または円柱の金属ピン」とは、「被巻付部材」という点で共通する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは次の点で一致する。
[一致点]
「被巻付部材と、
前記被巻付部材に巻き付けられた巻付部を有するアルミニウム線と、
前記被巻付部材と前記巻付部の少なくとも一部とを接合する半田層と、
を備える、
半田接合構造。」
一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
「被巻付部材」に関し、本件発明1では、「角柱または円柱の金属ピン」であるのに対して、
甲1発明では、「リード線11の端部14」である点。
[相違点2]
本件発明1では、「前記巻付部の前記少なくとも一部が、前記アルミニウム線の延びる方向に垂直な断面において一部が消失することにより現れた変形面、を有し、前記変形面が、前記金属ピンと径方向に対向し、前記断面において、前記変形面と、前記金属ピンとの径方向間に、アルミニウム粒子が存在し、前記半田層が、前記変形面に密着する」のに対して、
甲1発明では、かかる構成を備えていない点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点2について先に検討する。
本件発明1の「前記巻付部の前記少なくとも一部が、前記アルミニウム線の延びる方向に垂直な断面において一部が消失することにより現れた変形面、を有し、前記変形面が、前記金属ピンと径方向に対向」するとの構成は、「アルミニウム線を金属などで形成されたピンに巻きつけ、半田槽に浸し超音波振動を加えた場合、近接する金属ピンの為にアルミニウム線の表面の一部をより確実に消失させる」(本件特許明細書の段落【0037】)ことにより達成されるものである。
甲第3号証に記載された事項に開示されるように、金属ワイヤとしてアルミを用いてはんだ接続する場合に、はんだ食われが発生する場合があることは技術常識であるから、甲1発明においても、巻付部において、はんだ食われが発生し得ると解される。
しかし、甲1発明の巻付部において、はんだ食われが、アルミ線の引出し端部13の、リード線11の端部14と対向している面で発生することまでが技術常識とまではいえず、また、本件特許明細書の段落【0037】に記載されているように「アルミニウム線を金属などで形成されたピンに巻きつけ、半田槽に浸し超音波振動を加え」るものでもないから、甲1発明は、上記相違点2に係る本件発明1の構成のうちの「前記巻付部の前記少なくとも一部が、前記アルミニウム線の延びる方向に垂直な断面において一部が消失することにより現れた変形面、を有し、前記変形面が、前記金属ピンと径方向に対向」するとの構成を備えているとはいえない。
また、たとえ甲1発明に甲第3号証に記載された事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成のうちの「前記巻付部の前記少なくとも一部が、前記アルミニウム線の延びる方向に垂直な断面において一部が消失することにより現れた変形面、を有し、前記変形面が、前記金属ピンと径方向に対向」するとの構成に至るものではない。
さらに、甲第4及び5号証に記載された事項は、アルミ線の端にハンダを付着させた後で、該アルミ線と端子とを接続するものにすぎず、アルミニウム線の延びる方向に垂直な断面において一部が消失することにより変形面を形成することを意図したものでもなく、更に、本件特許明細書の段落【0037】に記載されているように「アルミニウム線を金属などで形成されたピンに巻きつけ、半田槽に浸し超音波振動を加え」るものでもない。
そうすると、たとえ甲1発明に甲第4及び5号証に記載された事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成のうちの「前記巻付部の前記少なくとも一部が、前記アルミニウム線の延びる方向に垂直な断面において一部が消失することにより現れた変形面、を有し、前記変形面が、前記金属ピンと径方向に対向」するとの構成に至るものではない。
また、甲第2、6及び7号証に記載された事項は、上記相違点2に係る本件発明1の構成のうちの「前記巻付部の前記少なくとも一部が、前記アルミニウム線の延びる方向に垂直な断面において一部が消失することにより現れた変形面、を有し、前記変形面が、前記金属ピンと径方向に対向」するとの構成を示唆するものではない。
以上のことから、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点1について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載された技術常識又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載された技術常識又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
2 申立理由2について
本件特許明細書には、超音波振動の具体的な周波数及び振幅についての条件は記載されていない。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0037】には、アルミニウム線を金属ピンに巻きつけ、半田槽に浸し、アルミニウム線の酸化物層を除去するときよりも強い超音波振動を加えて、アルミニウム線の表面の一部を消失させることが記載されているから、超音波振動で、金属ピンと径方向に対向するように変形面を形成するための事項が示されているといえる。
また、アルミニウム線の酸化膜除去には、20kHzの超音波振動を印加した溶融ハンダに浸漬することは、例えば、甲第4号証の段落【0022】に記載されているように、本件出願前によく知られている。
超音波発生器の振幅、周波数が適宜調整できることは技術常識といえるので、本件特許明細書の段落【0037】の記載から、変形面を形成し得る超音波強度を定めることは当業者が十分なし得るといえる。
そして、アルミニウム線の表層と表層下の地金部分の一部が消失して、金属ピンと径方向に対向するように変形面が形成される際に、上記変形面が形成された部分の周辺、すなわち変形面と金属ピンとの径方向間に、アルミニウム粒子が存在するようになることは明らかである。
よって、具体的な数値が示されていないことをもって、当業者が実施できないとまではいえない。
以上のことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、変形面が、金属ピンと径方向に対向する構成、変形面と金属ピンとの径方向間にアルミニウム粒子が存在する構成について、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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