特許異議申立
2017-700560
伸縮性編地
- 審判番号
- 2017-700560
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-092859
- 登録番号
- 特許第6046549号(P6046549)
- 請求日
- 2017年06月05日
- 審決日
- 2018年02月06日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋紡STC株式会社
- 【権利者代理人】風早 信昭
- 【権利者代理人】浅野 典子
- 【異議申立人】北田 保雄
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 久保 克彦
- 審判官 小野田 達志
- 分類
- P1651.121-YAA(A41B) / P1651.537-YAA(A41B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第126条第4項、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6046549号発明「伸縮性編地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6046549号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第6046549号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。
特許第6046549号の請求項2に係る特許についての申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許6046549号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成25年4月25日を出願日とする出願であって、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1~5について、特許異議申立人北田保雄(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後、当審において、平成29年8月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年10月10日に意見書の提出、及び、訂正の請求がなされ、その訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)に対して、申立人から平成29年11月15日に意見書が提出された。
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。それぞれの訂正事項を訂正箇所に下線を付して示す。
・訂正事項1
訂正前の請求項1に、
「繊度が英式番手(Ne)で30/1~100/1のセルロース系繊維の紡績糸と、繊度が33~78dtexの合成繊維フィラメントと、被覆弾性糸とからなるリブ編地からなり、一方ではセルロース系繊維の紡績糸を単独でリブに編成し、もう一方では被覆弾性糸をシリンダー針またはダイヤル針のいずれか一方にのみプレーティングしながら合成繊維フィラメントをリブに交編した編組織であることを特徴とする肌着用編地。」とあるのを、
冒頭から「・・・交編した編組織であること」までの部分について、「繊度が英式番手(Ne)で30/1~100/1のセルロース系繊維の紡績糸と、繊度が33~78dtexの合成繊維フィラメントと、被覆弾性糸とからなるリブ編地からなり、一方ではセルロース系繊維の紡績糸が単独でリブに編成され、もう一方では被覆弾性糸がシリンダー針またはダイヤル針のいずれか一方にのみプレーティングされながら合成繊維フィラメントがリブに交編された編組織であること」と訂正(以下、「訂正事項1-1」という。)し、
末尾の「・・・を特徴とする肌着用編地。」を、「・・・、及び編地のヨコ方向において、20%伸長時の応力が10~40cN、伸長応力回復率が90~100%であり、80%伸長時の応力が30~80cN、伸長応力回復率が85~100%であることを特徴とする肌着用編地。」と訂正する(以下、訂正事項1-2という。)。
・訂正事項2
請求項2を削除する。
・訂正事項3
訂正前の請求項3に、「請求項1または2に記載の肌着用編地。」とあるのを、「請求項1に記載の肌着用編地。」と訂正する。
・訂正事項4
訂正前の請求項4に、「請求項1~3のいずれかに記載の肌着用編地。」とあるのを、「請求項1または3に記載の肌着用編地。」と訂正する。
・訂正事項5
訂正前の請求項5に、「請求項1~4のいずれかに記載の肌着用編地」とあるのを、「請求項1,3または4のいずれかに記載の肌着用編地。」と訂正する。
・訂正事項6
訂正前の本件特許明細書の段落【0007】に、
「【0007】
すなわち、本発明は、(1)~(5)の構成を有するものである。
(1)繊度が英式番手(Ne)で30/1~100/1のセルロース系繊維の紡績糸と、繊度が33~78dtexの合成繊維フィラメントと、被覆弾性糸とからなるリブ編地からなり、一方ではセルロース系繊維の紡績糸を単独でリブに編成し、もう一方では被覆弾性糸をシリンダー針またはダイヤル針のいずれか一方にのみプレーティングしながら合成繊維フィラメントをリブに交編した編組織であることを特徴とする肌着用編地。
(2)編地のヨコ方向において、20%伸長時の応力が10~40cN、伸長応力回復率が90~100%であり、80%伸長時の応力が30~80cN、伸長応力回復率が85~100%であることを特徴とする(1)に記載の肌着用編地。
(3)プレーティング部の合繊繊維フィラメントの糸長が450~800mm/100Wであり、被覆弾性糸の糸長が150~350mm/100Wであり、かつ合繊フィラメントに対する被覆弾性糸の糸長比が0.25~0.8であることを特徴とする(1)または(2)に記載の肌着用編地。
(4)セルロース系繊維の紡績糸の撚係数Kが2.5~3.5であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の肌着用編地。
(5)被覆弾性糸に含まれる弾性繊維における往きでの200%伸長時の応力が5~12mNであり、伸長応力回復率が30~80%であり、かつ、復りでの200%伸長時の応力が7mN以下であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の肌着用編地。」とあるのを、
「【0007】
すなわち、本発明は、(1)~(5)の構成を有するものである。
(1) 繊度が英式番手(Ne)で30/1~100/1のセルロース系繊維の紡績糸と、繊度が33~78dtexの合成繊維フィラメントと、被覆弾性糸とからなるリブ編地からなり、一方ではセルロース系繊維の紡績糸が単独でリブに編成され、もう一方では被覆弾性糸がシリンダー針またはダイヤル針のいずれか一方にのみプレーティングされながら合成繊維フィラメントがリブに交編された編組織であること、及び編地のヨコ方向において、20%伸長時の応力が10~40cN、伸長応力回復率が90~100%であり、80%伸長時の応力が30~80cN、伸長応力回復率が85~100%であることを特徴とする肌着用編地。
(2)(削除)
(3)プレーティング部の合繊繊維フィラメントの糸長が450~800mm/100Wであり、被覆弾性糸の糸長が150~350mm/100Wであり、かつ合繊フィラメントに対する被覆弾性糸の糸長比が0.25~0.8であることを特徴とする(1)に記載の肌着用編地。
(4)セルロース系繊維の紡績糸の撚係数Kが2.5~3.5であることを特徴とする(1)または(3)に記載の肌着用編地。
(5)被覆弾性糸に含まれる弾性繊維における往きでの200%伸長時の応力が5~12mNであり、伸長応力回復率が30~80%であり、かつ、復りでの200%伸長時の応力が7mN以下であることを特徴とする(1),(3)または(4)のいずれかに記載の肌着用編地。」
と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項
(1)訂正事項1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1に係る肌着用編地が、「『セルロース系繊維の紡績糸単独』と『被覆弾性糸がシリンダー針またはダイヤル針のいずれか一方にのみプレーティングされた合成繊維フィラメント』」が「リブに交編」された編組織構造であることを明確にするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
訂正事項1-2は、肌着用編地について、訂正前の請求項2に特定された事項を、請求項1に付加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3~5について
訂正事項3~5は、それぞれ、訂正前の請求項2を引用する請求項3~5を、訂正事項2の請求項2を削除する訂正事項2と整合させるために、請求項2を引用しないものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の明細書の記載において、各請求項の発明特定事項を記載した箇所である段落【0007】の記載を、本件訂正後の請求項のものに整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。さらに、訂正事項6に係る請求項1~5の全てについて訂正が請求されるものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。
(5)一群の請求項について
本件訂正は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2~5について、訂正することを求めるものであるから、一群の請求項毎に請求されるものである。
3.小括
上記2.(1)~(5)に示したとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項1~5についての訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、3~5に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
繊度が英式番手(Ne)で30/1~100/1のセルロース系繊維の紡績糸と、繊度が33~78dtexの合成繊維フィラメントと、被覆弾性糸とからなるリブ編地からなり、一方ではセルロース系繊維の紡績糸が単独でリブに編成され、もう一方では被覆弾性糸がシリンダー針またはダイヤル針のいずれか一方にのみプレーティングされながら合成繊維フィラメントがリブに交編された編組織であること、及び編地のヨコ方向において、20%伸長時の応力が10~40cN、伸長応力回復率が90~100%であり、80%伸長時の応力が30~80cN、伸長応力回復率が85~100%であることを特徴とする肌着用編地。
【請求項3】
プレーティング部の合繊繊維フィラメントの糸長が450~800mm/100Wであり、被覆弾性糸の糸長が150~350mm/100Wであり、かつ合繊フィラメントに対する被覆弾性糸の糸長比が0.25~0.8であることを特徴とする請求項1に記載の肌着用編地。
【請求項4】
セルロース系繊維の紡績糸の撚係数Kが2.5~3.5であることを特徴とする請求項1または3に記載の肌着用編地。
【請求項5】
被覆弾性糸に含まれる弾性繊維における往きでの200%伸長時の応力が5~12mNであり、伸長応力回復率が30~80%であり、かつ、復りでの200%伸長時の応力が7mN以下であることを特徴とする請求項1、3または4のいずれかに記載の肌着用編地。」
2.取消理由の概要
本件発明1、3~5のそれぞれに係る特許に対して、平成29年8月15日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。本取消理由の通知によって、本件特許異議の申立てに係るすべての取消理由が通知された。
なお、甲第○号証を、以下、「甲○」といい、甲○に記載された発明あるいは事項を、「甲○発明」あるいは「甲○事項」という。
【理由1】 本件発明1、3~5は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
(1)本件発明1は、甲1発明及び甲2~4事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明3は、甲1発明及び甲2~7事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明4は、甲1発明、甲2~7事項、及び、例えば甲8に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明5は、甲1発明、甲2~7事項、及び、例えば甲8に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
< 刊 行 物 一 覧>
甲1:実願昭47-128010号(実開昭49-82084号)のマイクロフィルム
甲2:実公昭59-35595号公報
甲3:特開2012-12733号公報
甲4:特開2002-220704号公報
甲5:特開2000-45155号公報
甲6:特開2005-213662号公報
甲7:特開2007-182650号公報
甲8:特開昭63-120143号公報
【理由2】 本件発明1、3~5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
本件発明1は、「肌着用編地」(物の発明)であるが、「一方ではセルロース系繊維の紡績糸を単独でリブに編成し、もう一方では被服弾性糸をシリンダー針又はダイヤル針のいずれか一方にのみプレーティングしながら合成繊維フィラメントをリブに交編した」という、その物の製造方法が記載されているものと認められる。そして、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在することを認める理由が見出せない。
3.当審の判断
(1)【理由2】について
事情に鑑み、【理由2】から検討する。
上記第2.の2.(1)に示したように、本件訂正後の請求項1の記載は、肌着用編地が、「『セルロース系繊維の紡績糸単独』と『被覆弾性糸がシリンダー針またはダイヤル針のいずれか一方にのみプレーティングされた合成繊維フィラメント』」が「リブに交編」された編組織構造表していることが、一義的に明らかである。そうすると、請求項1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほど、明確ではないとはいえず、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないとはいえない。
よって、本件発明1、3~5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すことはできない。
<申立人が提出した平成29年11月15日付け意見書について>
申立人は当該意見書において、本件訂正後の請求項1の記載について、「・・・単に動詞を能動態から受動態に変更したからといって、依然として請求項1にはその物の製造方法が記載されているものと認められ、・・・請求項1およびこの請求項1を引用する請求項2~5も不明確であることに変わりはない。」(1ページ21~25行)と主張している。
しかし、上記したように、訂正後の請求項1の記載は、製造された編地構造を特定しようとするものであり、それ自体は明確であるから、当該記載によって、第三者の利益が不当に害されるほど、明確ではないとはいえず、申立人の上記主張は採用することはできない。
(2)【理由1】について
ア.甲1発明
甲1には、1ページ4~8行、同10~15行、3ページ25~29行、4ページ9~17行の記載、及び第2図の図示があり、これらの記載及び図示から、以下の甲1発明が記載されていると認める。
「綿糸と、ナイロンフイラメントと、スパンデツクス糸とからなるリブ編地からなり、一方ではナイロンフイラメントが単独でリブに編成され、もう一方では綿糸を編成したコースの片側の針列のみにスパンデツクス糸を編み込んで交編された編組織である春夏物ボデーウエアー用として最適な編地。」
イ.本件発明1と甲1発明との対比・検討
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の<相違点1>で相違する。
<相違点1>
リブに交編された編み組織について、
本件発明1は、一方では繊度が英式番手(Ne)で30/1~100/1のセルロース系繊維の紡績糸を単独でリブに編成され、もう一方では被覆弾性糸がプレーティングされた繊度が33~78dtex合成繊維フィラメントをリブに交編されたものであるのに対し、
甲1発明は、一方をナイロンフイラメントが単独でリブに編成され、もう一方では綿糸を編成したコースの片側の針列のみにスパンデツクス糸を編み込んで交編されたものである点。」
そこで上記相違点1について検討する。
甲1には、以下の記載がある。
(ア)「綿糸と合成繊維フイラメント糸を1コース毎に交編し、且つ綿糸を編成したコースの片側の針列にのみスパンデツクス糸を編込んでなるフライス編地。」(1ページ5~8行)
(イ)「本考案はボデーウエアー或いはフアンデーシヨン等のフアツシヨン用素材に適したフライス編地に関するものであり、タテ、ヨコの2方向の伸縮性、肌ざわり及び吸湿性にすぐれ、且つ編地表面が平滑で光沢のあるフライス編地を提供するものである。」(1ページ10~15行)
(ウ)「・・・従来、例えば第1図に見られる表地にナイロン1、裏地に綿糸2の裏綿フライスと呼ばれる編地があつた。しかしこの編地はタテ方向の伸びが全くなく、ボデーウエアーの様な体の屈伸にフイツトしなければならないものには適するものと云えなかつた。又スパンデツクスを芯糸にした綿コアヤーンを用いた編地はタテ・ヨコ方向の伸縮性を満足するが編地面に凹凸ができやすく、生地が厚くなるなどの欠点があり、これもフアツシヨン素材として適さなかつた。」(2ページ3~13行)
(エ)「本考案は上記諸欠点を解決した編地を提供するものである。即ち、本考案は綿糸と合成繊維フイラメント糸を1コース毎に交編し、且つ綿糸を編成したコースの片側の針列にのみスパンデツクス糸を編込んでなるフライス編地である。」(2ページ14~18)
(オ)「又本考案の編地において、生地の裏となる側では綿糸の網目を大きくすることにより伸縮性のない綿糸がスパンデツクス糸の伸縮を妨げないようにすると共に綿糸の被覆面積を大にして触感を良好にするうえで好ましい。」(3ページ最下行~4ページ4行)
以上の摘記から、甲1発明の、「もう一方では綿糸を編成したコースの片側の針列のみにスパンデツクス糸を編み込」んでスパンデツクス糸を綿糸の方に編みこむことの技術的意義は、従来の綿糸と合成樹脂フイラメントのみを1コース毎に交編したフライス編地が、綿糸に伸縮性がないために、タテ方向の伸縮が不十分なものであったところ、綿糸とスパンデツクス糸を編み込むことによって、弾性糸であるスパンデツクスの伸縮によって、タテ方向への伸縮も可能としたものであることが理解できる。
したがって、甲1発明が、スパンデツクス糸(本件発明1の被覆弾性糸と弾性糸である限りで一致)を綿糸(本件発明1のセルロース系繊維に相当)に編み込んでいるところ、綿糸ではなく、ナイロンフイラメント(本件発明1の合成繊維フィラメントに相当)に編み込むようにすることの動機はなく、むしろ、そうすることで、伸縮性のない綿糸のみからなるコースが生じ、編地のタテ方向の伸縮が妨げられることとなるから、阻害事由が存在する。
また、甲1発明のスパンデツクス糸は本件発明1の被服弾性糸のように被覆されておらず、この被覆されていないスパンデツクス糸を被覆弾性糸とすることは、上記摘記事項(ウ)に示したように、編地面に凹凸ができやすく、生地が厚くなるとの欠点が生じるから、この点についても阻害事由が存在する。
そして、肌着用編地のリブに交編された編組織について、一方ではセルロース系繊維の紡績糸を単独でリブに編成され、もう一方では被覆弾性糸がプレーティングされた合成繊維フィラメントをリブに交編することは、甲1には記載されていないし、他の甲号証にも記載されていない。さらに、申立人が平成29年11月15日に提出した意見書に添付した参考資料1~4にも記載されていない。
本件発明1は、相違点1に係る構成を備えることで、「・・・セルロース紡績糸に合繊フィラメントを交互編みすることにより、肌着として良好な風合と、本発明が狙う伸縮特性と編地強力を両立することができる。更に、被覆弾性糸を合繊フィラメントにリブ目の一方にのみプレーティングすることにより、編地をヨコに引張ったときに被覆弾性糸がスムーズに伸長して、抵抗感がなく、柔らかく伸縮することができる。これにより、本発明の被覆弾性糸の低い応力回復力と高い伸長回復率を達成することができる。本発明の編地では、弾性繊維をベアで使わずに被覆弾性糸の形で使用することが重要である。弾性繊維単体でベア使いにした場合、弾性繊維が持つ伸長回復応力が直接編地の性能として現れて、編地の伸長応力が強くなってしまい、圧迫感のない肌着とすることが難しくなる。本発明では、被覆弾性糸を使用することで、編込むときのドラフトを下げることができ、編地の伸長応力を極限まで引下げることが可能となる。」(本件特許明細書段落【0010】、【0011】)との格別な作用効果を奏する。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2~8事項及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明3~5について
本件発明3~5は、いずれも本件発明1を引用するものである。そうすると、上記イ.に示したように、本件発明1は、甲1発明、甲2~8事項及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明3~5のいずれも、甲1発明、甲2~8事項及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.申立人が提出した平成29年11月15日付け意見書について
申立人は上記意見書において、甲1発明には、ヨコ方向の伸縮性を妨げるタック組織が存在しないから、特許権者の甲1発明は本件特許発明が奏する効果を達成する意図はなく、むしろ、逆のことを提案しようとするものであるとの主張には理由がない旨、主張している。
しかし、上記イ.で述べたように、甲1発明におけるタック組織の有無にかかわらず、甲1発明には、本件発明1との間に、上記相違点1が存在し、この相違点1に係る構成を備えることの動機がなく、むしろ阻害事由が存在している。そのため、本件発明1、甲2~8事項及び周知の事項基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人の意見を採用することはできない。
オ.小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3~5の各々は、甲1発明、甲2~8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではないから、本件発明1、3~5の各々は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
よって、本件発明1、3~5の各々に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1、3~5のそれぞれに係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許の請求項2に係る特許は、本件訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件発明2に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって結論のとおり決定する。
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2017-700560