特許拒絶査定不服審判
2017-016234
引張ブレース制振システム
- 審判番号
- 2017-016234
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-114119外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年11月01日
- 審決日
- 2018年12月17日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社大林組
- 【請求人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【請求人代理人】前川 純一
- 【請求人代理人】二宮 浩康
- 【請求人代理人】上島 類
- 【請求人】ジェイアール東海コンサルタンツ株式会社
- 【請求人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【請求人代理人】前川 純一
- 【請求人代理人】二宮 浩康
- 【請求人代理人】上島 類
- 分類
- P18 .121-Z (F16F) / P18 .575-Z (F16F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-114119号「引張ブレース制振システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月11日出願公開、特開2014-231897号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月30日の出願であって、平成29年1月17日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年3月8日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成29年8月23日付けで拒絶査定がされた。これに対して平成29年11月1日に審判請求がされると同時に手続補正がされたものである。
第2 平成29年11月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月1日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は本件補正による補正箇所であり、当審で付した。)
「引張材によって支持されて架構フレームに設けられた振動減衰装置を有し、
前記振動減衰装置は、
前記架構フレームが振動により変形する際、前記引張材の引張力により変形する変形枠材と、
前記変形枠材に接続され、前記変形枠材の変形に応じて直動方向に作動して前記振動を減衰させるダンパと
を有し、
前記変形枠材は、
一対の相対移動部材と、
両相対移動部材を互いに平行に相対移動可能に連結している一対の連結部材と、を有し、
前記相対移動部材と前記連結部材とは、各々、同一の連結ボルトで前記引張材に連結され、
前記ダンパは、摩擦ダンパである、引張ブレース制振システム。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成29年3月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「引張材によって支持されて架構フレームに設けられた振動減衰装置を有し、
前記振動減衰装置は、
前記架構フレームが振動により変形する際、前記引張材の引張力により変形する変形枠材と、
前記変形枠材に接続され、前記変形枠材の変形に応じて直動方向に作動して前記振動を減衰させるダンパと
を有し、
前記変形枠材は、
一対の相対移動部材と、
両相対移動部材を互いに平行に相対移動可能に連結している一対の連結部材と、を有し、
前記相対移動部材と前記連結部材とは、各々、同一の連結ボルトで前記引張材に連結されている、引張ブレース制振システム。」
2 補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ダンパ」について、「前記ダンパは、摩擦ダンパである」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載される発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項等
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、特開2011-144556号公報には、図面とともに以下の記載がある(下線は当審で付した。)。
(1a)「【0001】
本発明は、制振性能に優れた制振装置及びそれを用いた間仕切り壁に関する。」
(1b)「【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、地震時の振動を早期に減衰させるのみならず、交通振動や強風などで生じる微振動についても応答性良く減衰しうる制振装置及びそれを用いた間仕切り壁を提供することを主たる目的としている。」
(1c)「【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1~2に示されるように、本実施形態の制振装置1は、例えば、住宅等の建物の上部側で水平にのびる上側水平部材2と、この上側水平部材2よりも下方を水平にのびる下側水平部材3との間に取り付けられ、上側水平部材2と下側水平部材3との間の水平力を吸収して振動を減衰させるものである。
【0021】
本実施形態では、制振装置1が工業化住宅の間仕切り壁Wの内部に設けられたものを示す。
【0022】
前記間仕切り壁Wは、図1、図3に示されるように、断面略溝型状をなしかつ溝部を内側に向けて水平にのびる上、下のランナー30と、該ランナー30間を上下にのびる例えば断面角パイプ状のスタッド31とからなる略矩形状の軽鉄の壁下地材、及び、この壁下地材の両側面を覆う例えば石膏ボードからなる面材33とから構成され、内部に中空部iが形成される。そして、本実施形態の制振装置1は、この中空部i内に納められている。
【0023】
また、間仕切り壁Wは、図2に示されるように、上側のランナー30がビス又は釘等によって上側水平部材2としての1階部分の天井板2aに固着される。一方、下側のランナー30は、下側水平部材3である1階部分の床材3aにビス又は釘等にて固着されている。ただし、本発明の制振装置1は、このような取付態様に限定されるものではない。」
(1d)「【0024】
前記制振装置1は、図1、図4に示されるように、変位ユニット4と、この変位ユニット4と前記上側水平部材2との間に配された上部側張力付与手段5と、前記変位ユニット4と下側水平部材3との間に配された下部側張力付与手段6と、前記変位ユニット4に設けられた支持部7と、該支持部7に固着された粘弾性体8とを含んで構成される。
【0025】
前記変位ユニット4は、図4に示されるように、略水平にのびる上部側リンク10と、その下方を略水平にのびる下部側リンク11と、これらの上部側リンク10と下部側リンク11との間を上下にのびて継ぐ左右一対の端部側リンク13、14とを含み、これらの各リンクが回転自在な回り対偶15で環状に枢結されることにより四節回転連鎖として構成されている。なお、前記各リンク10、11は、「略水平」であるから、水平線に対して10゜前後のずれは許容できる。
【0026】
本実施形態において、上部側リンク10と下部側リンク11とは、同一のリンク長さを有する。また、両側の端部側リンク13、14も、互いに同一のリンク長さを有する。これにより、本実施形態の変位ユニット4は、四節回転連鎖として、平行リンク機構を構成している。」
(1e)「【0029】
前記端部側リンク13、14は、垂直面内を上下にのびる縦長の板状をなす。また、端部側リンク13、14には、それぞれ上下に透孔19、20が形成されている。そして、各端部側リンク13、14の上端側は、上部側リンク10の空間S1に挿入され、かつ、透孔16、19が座金等を介して回動自在にボルトB1にて連結される。同様に、各端部側リンク13、14の下端側は、下部側リンク11の空間S2に挿入され、かつ、透孔18、20が座金等を介して回動自在にボルトB1にて連結される。
【0030】
これにより、変位ユニット4は、上部側リンク10と、下部側リンク11と、これらの間を上下にのびて継ぐ一対の端部側リンク13、14とが回り対偶15で連結された四節回転連鎖を構成できる。なお、各リンクは、金属材料からなるが、その具体的な形状や長さ等は、例示の態様に限定されることなく種々の態様に変形することができるのは言うまでもない。」
(1f)「【0031】
前記上部側張力付与手段5は、長さ調整可能な例えばターンバックル22を有する一対のブレース5A、5Bから構成される。各ブレース5A、5Bは、下端部から上端部に向かって互いに離間する向きで斜め上方にのびる。また、各ブレース材5A、5Bの下端部は、変位ユニット4の上部側リンク10の透孔17にそれぞれボルトB2にて連結固定される。」
(1g)「【0033】
同様に、下部側張力付与手段6も、長さ調整可能な例えばターンバックル22を有する一対のブレース6A、6Bから構成される。各ブレース6A、6Bは、上端部から下端部に向かって互いに離間する向きで斜め下方にのびる。また、各ブレース6A、6Bは、上端部が下部側リンク11の透孔23にそれぞれボルトB3にて連結されるとともに、下端側が前記竪材9の下端部に取付金具32を介して連結(溶接)されている。」
(1h)「【0035】
前記支持部7は、変位ユニットの4つのリンク10、11、13及び14のうちの一つのリンクに設けられた第1支持片7Aと、該第1支持片7Aが設けられた前記リンクとは異なるリンクに設けられかつ第1支持片7Aと向き合う第2支持片7Bとから構成される。そして、これら支持片7A、7Bの間で粘弾性体8が固着される。」
(1i)「【0042】
以上のように構成された本実施形態の制振装置1の作用について述べる。
上側水平部材2と下側水平部材3との間に水平力が作用すると、この水平力は、ランナー30、スタッド31、竪材9を介して上部側張力付与手段5及び下部側張力付与手段6に伝えられる。
【0043】
また、上部側張力付与手段5及び下部側張力付与手段6によって上下に引っ張られて支持されている変位ユニット4は、回動自在な四節回転連鎖をなす。このため、変位ユニット4は、簡単な構造でありながら、図7に示されるように、小さな外力でも容易に変形できる。従って、上部側張力付与手段5及び下部側張力付与手段6を介して伝えられる上側水平部材2と下側水平部材3との間の僅かな水平力(相対水平変位)でも、確実に変位ユニット4が菱形に変形する。変位ユニット4が変形することにより、第1支持片7Aと第2支持片7Bとの間で挟まれた粘弾性体8には、図7及び図8に示されるように、せん断変形が生じ、そのヒステリシスロスによって振動エネルギーが吸収できる。これにより、振動が早期に減衰する。」
イ これらのことから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「上側水平部材2に固着される上側のランナー30及び下側水平部材3に固着される下側のランナー30と、該ランナー30間を上下にのびるスタッド31とからなる略矩形状の間仕切り壁Wの壁下地材の内部に納められた制振装置1を有し、
制振装置1は、
上部側リンク10及び下部側リンク11と、これらの間を上下にのびて継ぐ一対の端部側リンク13、14とが、回動自在にボルトB1にて連結され四節回転連鎖を構成した変位ユニット4と、
下端部が変位ユニット4の上部側リンク10の透孔17にそれぞれボルトB2にて連結固定され、上端部が上側水平部材2及び下側水平部材間3をのびる竪材9の上部側に連結された一対のブレース5A、5Bから構成される上部側張力付与手段5と、
上端部が変位ユニット4の下部側リンク11の透孔23にそれぞれボルトB3にて連結固定され、下端側が前記竪材9の下端部に連結された一対のブレース6A、6Bから構成される下部側張力付与手段6と、
上部側リンク10に設けられた第1支持片7Aと、下部側リンク11に設けられた第2支持片7Bと、第1支持片7Aと第2支持片7Bとの間で固着された粘弾性体8と、
を含んで構成され、
上部側張力付与手段5及び下部側張力付与手段6を介して伝えられる上側水平部材2と下側水平部材3との間の水平力(相対水平変位)により、変位ユニット4を菱形に変形させ、当該変形により、第1支持片7Aと第2支持片7Bとの間で挟まれた粘弾性体8にせん断変形が生じ、振動エネルギーが吸収できる、制振装置1。」
(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「上側水平部材2に固着される上側のランナー30及び下側水平部材3に固着される下側のランナー30と、該ランナー30間を上下にのびるスタッド31とからなる略矩形状の間仕切り壁Wの壁下地材」は、機能的にみて架構フレームといえるから、本件補正発明の「架構フレーム」に相当する。
イ 引用発明の「上部側リンク10及び下部側リンク11」は、この両者で一対の相対移動する部材を構成しているから、本件補正発明の「一対の相対移動部材」に相当する。
また、引用発明の、上部側リンク10及び下部側リンク11「の間を上下にのびて継ぐ一対の端部側リンク13、14」は、上部側リンク10及び下部側リンク11とともに「四節回転連鎖を構成」し、上部側リンク10及び下部側リンク11を互いに平行に相対移動可能に連結している一対の部材であるので、本件補正発明の「両相対移動部材を互いに平行に相対移動可能に連結している一対の連結部材」に相当する。
さらに、引用発明の「変位ユニット4」は、「上部側リンク10及び下部側リンク11と、これらの間を上下にのびて継ぐ一対の端部側リンク13、14と」から構成されるものであるところ、「上部側張力付与手段5及び下部側張力付与手段6を介して伝えられる上側水平部材2と下側水平部材3との間の水平力(相対水平変位)により」「菱形に変形」するものであるから、本件補正発明の「変形枠材」に相当する。
ウ 引用発明の「上部側張力付与手段5」は、「下端部が変位ユニット4の上部側リンク10の透孔17にそれぞれボルトB2にて連結固定され、上端部が上側水平部材2及び下側水平部材間3をのびる竪材9の上部側に連結された一対のブレース5A、5Bから構成される」ものであり、また、「下部側張力付与手段6」は、「上端部が変位ユニット4の下部側リンク11の透孔23にそれぞれボルトB3にて連結固定され、下端側が前記竪材9の下端部に連結された一対のブレース6A、6Bから構成される」ものであるから、「変位ユニット4」は、「上部側張力付与手段5」と、「下部側張力付与手段6」とによって「間仕切り壁Wの壁下地材」に支持されているといえる。したがって、引用発明の「上部側張力付与手段5」と「下部側張力付与手段6」は、本件補正発明の「引張材」に相当する。
そして、引用発明の「上部側張力付与手段5及び下部側張力付与手段6を介して伝えられる上側水平部材2と下側水平部材3との間の水平力(相対水平変位)により、変位ユニット4を菱形に変形させ」ることは、本件補正発明の「変形枠材」が「前記架構フレームが振動により変形する際、前記引張部材の引張力により変形する」ことに相当する。
エ 本件補正発明の「変形枠材に接続され、前記変形枠材の変形に応じて直動方向に作動して前記振動を減衰させるダンパ」に関して、本願明細書に「変形枠材7の変形に応じて摩擦ダンパ6が直動方向すなわち、一対の相対移動部材8、9の相対移動に対して平行な方向に作動する。」(段落【0036】)と記載されていることも考慮すると、「直動方向」とは、変形枠材における一対の相対移動部材の相対移動に対して平行な方向を意味するものと解される。
ここで、引用発明の「変位ユニット4」には「粘弾性体8」が、その「上部側リンク10に設けられた第1支持片7Aと、下部側リンク11に設けられた第2支持片7Bと、第1支持片7Aと第2支持片7Bとの間で固着され」るので、引用発明の「粘弾性体8」は変位ユニット4に接続されているといえる。また、当該「粘弾性体8」は、変位ユニット4の変形により「第1支持片7Aと第2支持片7Bとの間で挟まれた粘弾性体8にせん断変形が生じ、振動エネルギーが吸収できる」ものであり、しかも、せん断変形の方向は上記直動方向である。
したがって、引用発明の「上部側リンク10に設けられた第1支持片7Aと、下部側リンク11に設けられた第2支持片7Bと、第1支持片7Aと第2支持片7Bとの間で固着された粘弾性体8」は、変位ユニット4の変形により「第1支持片7Aと第2支持片7Bとの間で挟まれた粘弾性体8にせん断変形が生じ、振動エネルギーが吸収できる」ものであるので、本件補正発明の「変形枠材に接続され、前記変形枠材の変形に応じて直動方向に作動して前記振動を減衰させるダンパ」に相当する。
オ 上記イ及びエより、引用発明の「変位ユニット4」と「第1支持片7A」、「第2支持片7B」及び「粘弾性体8」は、本件補正発明の「振動減衰装置」に相当し、また、さらに上記ウをも踏まえると、それらは「上部側張力付与手段5」及び「下部側張力付与手段6」により「壁下地材の内部に納められ」ているので、引用発明は、本件補正発明の「引張材によって支持されて架構フレームに設けられた振動減衰装置」に相当する構成を成している。
カ 引用発明の「制震装置1」は、本件補正発明の「引張ブレース制振システム」に相当する。
キ 以上のとおりであるから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「引張材によって支持されて架構フレームに設けられた振動減衰装置を有し、
前記振動減衰装置は、
前記架構フレームが振動により変形する際、前記引張材の引張力により変形する変形枠材と、
前記変形枠材に接続され、前記変形枠材の変形に応じて直動方向に作動して前記振動を減衰させるダンパと
を有し、
前記変形枠材は、
一対の相対移動部材と、
両相対移動部材を互いに平行に相対移動可能に連結している一対の連結部材と、を有した、引張ブレース制振システム。」
<相違点1>
本件補正発明は、「前記相対移動部材と前記連結部材とは、各々、同一の連結ボルトで前記引張材に連結され」るものであるのに対し、引用発明は、「上部側張力付与手段5」は「上部側リンク10の透孔17にボルトB2にて連結固定され」、「下部側張力付与手段6」は「下部側リンク11の透孔23にボルトB3にて連結固定され」るものであり、透孔17、23は、上部側リンク10及び下部側リンク11と、一対の端部側リンク13、14とをボルトB1にて連結する箇所とは特定されていない点。
<相違点2>
ダンパに関し、本件補正発明は、「摩擦ダンパ」であるのに対し、引用発明は「粘弾性体8」である点。
(4)判断
ア 相違点1について
引用発明においては、上側水平部材2と下側水平部材3の水平力による振動(変位)を、四節回転連鎖として構成されている変位ユニット4の上部側リンク10及びその下方を略水平にのびる下部側リンク11の変位とするものであり、その具体的構成として引用文献1には、上部側張力付与手段5と下部側張力付与手段6が、上部側リンク10及びその下方を略水平にのびる下部側リンク11と、上部側リンク10と下部側リンク11との間を上下にのびて継ぐ左右一対の端部側リンク13、14とを回転自在な回り対偶15を構成するボルトB1とは別の連結部材である、ボルトB2、B3で、それぞれ連結する構成を採用している(摘示1e)。しかしながら、変位ユニット4の上部側リンク10及び下部側リンク11を変位させるための入力の構成として、上部側張力付与手段5と下部側張力付与手段6をボルトB1とは別の連結部材であるボルトB2、B3で上部側リンク10及び下部側リンク11に連結する構成が必須の構成であるというものではなく、例えば、ボルトB1自体を用いて(すなわち、ボルトB1に連結することによって)上部側リンク10及び下部側リンク11に連結する構成であっても、上側水平部材2と、下側水平部材3の水平力による振動(変位)を、四節回転連鎖として構成されている変位ユニット4の上部側リンク10及び下部側リンク11を変位させるのための入力として構成しうる(要するに、ボルトB1を直接変位させることによって各リンクの変位を生じさせることができる)。
そして、引張材を、相対移動部材と連結部材とからなる変形枠材の相対移動部材と連結部材とを連結する連結ボルトに連結する構成によって、架構フレームの変位を引張材を介して変形枠材の相対移動部材を変位させる構成は、例えば、特開平9-279894号公報(段落【0016】、【0019】、図1~2)、特開昭62-211469号公報(第2頁左下欄第8~14行、第1~3図)、及び、特開平1-318629号公報(第2頁右上欄第8~15行、第1~2図)に記載されるように従来周知の構成(以下、「従来周知の構成」という。)である。
ここで、部品数を削減し構成を簡素化することは、当業者が当然に認識している課題であるから、引用発明に従来周知の構成を適用して、上部側張力付与手段5及び下部側張力付与手段6を上部側リンク10及び下部側リンク11にそれぞれ連結するのに、ボルトB1とは別のボルトB2及びB3を用いる代わりに、それらボルトB1とボルトB2及びB3とを共通化するよう構成する動機付けは、十分にあるといえる。
そうしてみると、引用発明において、相違点1に係る本件補正発明の構成となすことは、従来周知の構成に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものである。
イ 相違点2について
平行な部材間にあって両部材間に生じる直動方向の振動を減衰させるダンパとして摩擦ダンパは周知の技術(以下、「摩擦ダンパの周知技術」という。)である(例えば、特開2008-231912号公報(段落【0022】~【0028】)、及び、特開2003-214471号公報(【請求項1】))。そして、かかる摩擦ダンパの周知技術を引用発明のダンパに適用することによって、引用発明の「地震時の振動を早期に減衰させる」(摘示1b)という作用効果が減殺されるものではない。
そうだとすれば、引用発明において、相違点2に係る本件補正発明の構成となすことは、摩擦ダンパの周知技術に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものである。
ウ 作用効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明並びに従来周知の構成及び摩擦ダンパの周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものであって格別なものということはできない。
エ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、引用文献1に記載された発明に基づいて本願補正発明に係る構成を想到することの阻害要因を主張するので、それについて検討する。
具体的には、審判請求人は、次のように主張する。
「引用文献1において用いられる粘弾性ダンパ(引用文献1の「粘弾性体8」)が対象とする振動は、摩擦ダンパが対象とする地震などの振動よりも小さい微振動を含んでいる。そして、引用文献1は、段落[0006]に記載されているように『地震時の振動を早期に減衰させるのみならず、交通振動や強風などで生じる微振動についても応答性良く減衰しうる制振装置及びそれを用いた間仕切り壁を提供することを主たる目的としている。』のであり、その微震動を減衰する目的を達成するために、『粘弾性体8』を必須要件とした発明である。
したがって、引用文献1の『粘弾性体8』を引用文献2(審決注:上記特開2008-231912号公報)の『摩擦ダンパ』に変更した場合には、交通振動や強風などで生じる微振動については応答性良く減衰することができなくなるため、引用文献1の『粘弾性体8』を引用文献2の『摩擦ダンパ』に変更する動機付けがないばかりか阻害要因が存在すると解される。」(審判請求書の7ページ18行~28行)
しかしながら、摩擦ダンパの周知技術を示す例として挙げた上記特開2008-231912号公報には、「地震や強風等により発生する建物架構の振動を効果的に制振するようにしたボルト接合部の制振構造に関する。」(段落【0001】)と記載されているほか、摩擦ダンパ8の具体的な振動エネルギー吸収の態様は、「ナット18の締付け」(段落【0024】)等により変更しうるものである。そうすると、引用文献1が、「地震時の振動を早期に減衰させるのみならず、交通振動や強風などで生じる微振動についても応答性良く減衰しうる制振装置及びそれを用いた間仕切り壁を提供することを主たる目的としている。」(段落【0006】)とし、想定する振動発生源として、地震のほかに交通振動や強風を挙げているからといって、その点が、当該引用文献1に記載された発明である引用発明に摩擦ダンパの周知技術を適用する阻害要因になるとは認められない。
同様に、摩擦ダンパの周知技術を示す別な例として挙げた上記特開2003-214471号公報には、「本発明は、建築物に生じる地震や風、交通車両による振動あるいは機械類から発生する振動など種々の振動を制御するための制振用ダンパーに関する。」(段落【0001】)と記載されているほか、制振用ダンパーの具体的な振動エネルギー吸収の態様は、「摩擦係数と鉛直荷重との組み合わせを適切に選択」(段落【0017】)することより調整しうるものである。そうすると、引用文献1が、想定する振動発生源として、地震のほかに交通振動や強風を挙げているからといって、その点が、当該引用文献1に記載された発明である引用発明に摩擦ダンパの周知技術を適用する阻害要因になるとは認められない。
審判請求人はまた、「引用文献1を、本願発明と同じような『前記相対移動部材と前記連結部材とは、各々、同一の連結ボルトで前記引張材に連結され』とする構成を備えるように変更することは、・・・引用文献1の本質的な基本機構(必須要件)の変更であり、引用文献1の発明の目的に反することとなる。よって、・・・阻害要因が存在すると解される。」(審判請求書の8ページ13行~29行)とも主張している。
しかしながら、何をもって「本質的な基本機構(必須要件)」とするのか、具体的な根拠は示されておらず、「引用文献1の発明の目的に反することとなる」とする具体的な理由も、何ら示されていない。実際、引用文献1に記載された発明において、変位ユニットが「四節回転連鎖」をなすリンク機構を備えていることは「本質的な基本機構(必須要件)」であるにしても、実施形態として記載された構成であるボルトB1~B3の計8本のボルトを用いることが「本質的な基本機構(必須要件)」であって、それを変更することが「引用文献1の発明の目的に反することとなる」とする理由を見いだすことはできない。
そして、引用発明に従来周知の構成を適用することが、当業者が容易に想到し得たことは、上記アにて説示したとおりである。
以上により、審判請求人の主張は、採用することができない。
オ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明並びに従来周知の構成及び摩擦ダンパの周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年11月1日にされた手続補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1~11に係る発明は、平成29年3月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される上記「第2」の[理由]1(2)のとおりのものである。
2 引用文献の記載事項等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2」の[理由]2(2)に記載したとおりである。
3 対比・判断
本願発明は、上記「第2」の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記ダンパは、摩擦ダンパである」という限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記の限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2」の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明並びに従来周知の構成及び摩擦ダンパの周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び従来周知の構成に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-016234