特許拒絶査定不服審判
2024-019546
地中構造物の構築方法
- 審判番号
- 2024-019546
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-216591
- 請求日
- 2024年12月05日
- 審決日
- 2026年06月08日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社大林組
- 【請求人代理人】弁理士法人一色国際特許事務所
- 【請求人】太平洋セメント株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人一色国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 石川 信也
- 分類
- P18 .121-Z (E02D) / P18 .575-Z (E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-216591「地中構造物の構築方法」拒絶査定不服審判事件〔令和4年7月7日出願公開、特開2022-102071〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年12月25日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年 4月12日付け:拒絶理由通知書
同年 6月17日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月10日 :原査定の謄本の送達)
同年12月 5日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年12月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年12月5日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年12月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和6年6月17日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
原位置で、芯材と該芯材を内包する地盤改良体とを備える地中構造物を構築する地中構造物の構築方法であって、
ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった比重を1.5程度に調整した掘削泥水で満たす工程と、
前記地中孔に遅硬性固化液を添加して前記掘削泥水と混合攪拌し、テーブルフロー値が160mmを超える地盤改良液を作成する工程と、
前記地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む工程と、を備え、
前記遅硬性固化液は、セメントミルク、遅延剤及び可溶性硫酸塩を含み、
前記地中構造物は、支持杭であることを特徴とする地中構造物の構築方法。」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
低空頭の環境下にある原位置で、複数の鋼材を継ぎ足してなる芯材と該芯材を内包する地盤改良体とを備える地中構造物を構築する地中構造物の構築方法であって、
ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった比重を1.5程度に調整した掘削泥水で満たす工程と、
前記地中孔に遅硬性固化液を添加して前記掘削泥水と混合攪拌し、テーブルフロー値が160mmを超える地盤改良液を作成する工程と、
前記地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む工程と、を備え、
前記遅硬性固化液は、セメントミルク、遅延剤及び可溶性硫酸塩を含み、
前記地中構造物は、支持杭であることを特徴とする地中構造物の構築方法。」
2 補正の目的
本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「原位置」について、「低空頭の環境下にある」ものに限定するとともに、同じく本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「芯材」について、「複数の鋼材を継ぎ足してなる」ものに限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 独立特許要件の判断
本件補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に示した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成Eまでに分説する。
<本件補正発明の分説>
X 低空頭の環境下にある原位置で、複数の鋼材を継ぎ足してなる芯材と該芯材を内包する地盤改良体とを備える地中構造物を構築する地中構造物の構築方法であって、
A ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった比重を1.5程度に調整した掘削泥水で満たす工程と、
B 前記地中孔に遅硬性固化液を添加して前記掘削泥水と混合攪拌し、テーブルフロー値が160mmを超える地盤改良液を作成する工程と、
C 前記地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む工程と、を備え、
D 前記遅硬性固化液は、セメントミルク、遅延剤及び可溶性硫酸塩を含み、
E 前記地中構造物は、支持杭であることを特徴とする
X 地中構造物の構築方法。
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は、当合議体において付したものであり、以下同様である。
「【背景技術】
【0002】
従来より、地中に地盤改良体を築造し、これを利用して地中構造物を構築する方法が広く知られている。例えば特許文献1では、小型の地盤改良装置を用いて複数のソイルセメント柱を築造し、これらを連結してソイルセメント構造物を構築している。
【0003】
特許文献1では、小型の地盤改良装置に、下端部近傍に掘削ビットを備えるロッドと、このロッドに起振力を伝達する起振装置を備えており、ロッドに上下方向の起振力を付与しながら回転させることにより地盤を削孔しつつロッドの先端よりセメントミルクを吐出する。
【0004】
すると、掘削土とセメントミルクが混合撹拌されて、地盤中にソイルセメント柱が築造される。そこで、このようなソイルセメント柱を部分的に重なり合うようにしながら順次築造することにより、地中にソイルセメント構造物を構築している。なお、セメントミルクは一般に、ポルトランドセメント、水、高炉スラグ微粉末を含んでいる。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような小型の地盤改良装置を用いると、地中構造物の施工対象領域が狭隘であったり低空頭な環境下にある場合にも、効率よく地盤を掘削撹拌して地盤改良体を築造することができる。ところが、こうして築造した地盤改良体に芯材を建込んで支持杭を構築しようとすると、芯材の建込み作業に課題を生じる場合が多い。
【0007】
具体的には、芯材の建込み作業は、掘削土とセメントミルクとを混合撹拌したのち凝結が開始するまでの期間中に実施する。しかし、低空頭な環境下で施工を行う場合には、芯材を複数に分割しこれを継ぎ足しながら建て込むこととなり、多大な作業時間を要する。このため、凝結が開始するまでの期間中に作業を終了できないといった事態を生じる可能性がある。
【0008】
また、施工対象領域が置かれる環境下によっては、作業時間帯に制約を伴う場合がある。例えば、鉄道の軌道近傍に施工対象領域が位置する場合には、作業時間が終電始電列車間の夜間作業かつ短時間に限定されため、地盤改良体を築造する作業と芯材を建込む作業とを連続して実施できない可能性がある。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、作業時間や作業空間に制約がある場合にも経済的かつ効率よく、地盤改良体を利用した地中構造物を構築することである。
…(中略)…
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、掘削泥水で満たされた地中孔に、セメントミルク、遅延剤及び可溶性硫酸塩を含む遅硬性固化液を添加し攪拌して地盤改良液を作成することで、所望の強度発現を可能にしつつ、地中構造物の作業工程全体に高い自由度をもたらすことが可能となり、作業時間や作業空間に制約がある場合にも、経済的かつ効率よく地盤改良体を利用した地中構造物を構築することが可能となる。」
(2) 引用文献の記載事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開平11-71751号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。なお、当合議体により、後記(ウ)の引用発明の認定に直接用いる記載等に下線を付した。
a 【0001】~【0016】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は掘削孔を掘削精度が確認できる状態で掘削するとともに、掘削孔の底部にセメントミルクを注入して撹拌機又は掘削機本体で攪拌することにより、掘削孔中の泥水とセメントミルクを混合して現位置でソイルセメント壁を構築するようにしたソイルモルタル地中連続壁の施工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年の地下工事の大深度化に伴って土留め工法による掘削孔の深度は50メートルを超え、最深で130メートルもの大深度化が要求されている。従来からこれらの大深度化土留め工法は、RC(rainforced concrete,鉄筋コンクリート)地中連続壁工法が採用されており、掘削孔は泥水を使用して、バケット式掘削機、回転式掘削機等によって掘削を行う各種の泥水掘削工法によって掘削されている。これらの泥水掘削工法は施工実績も多々あるものの工事費が極めて高価となるため、工事費の低廉な工法の開発が希求されている現状にある。
【0003】これらの泥水掘削工法では自然泥水、ベントナイト泥水、ポリマー泥水等の各種泥水が掘削孔の安定液として、掘削土の輸送流体として、生コンクリート打設時の生コンクリートの置換流体として使用されており、更には掘削機の冷却等としても利用されている。
【0004】上記RC地中連続壁工法に代えた土留め工法として以下の工法がある。
【0005】○1(当合議体注:丸数字は「○」の後の数字により表記する。以下同様である。)ソイル柱列壁工法
従来から低深度工法として25メートル程度の掘削孔を掘削する際に採用されているソイル柱列壁工法を高深度工法に適用した例である。この工法は土とセメントミルクが良く混合するように工夫した特殊オーガを用いて現位置で混合したソイルセメントにH鋼材などを挿入して構造体としたもので、代表的工法としてSMW工法がある。SMW工法は特殊多軸オーガの先端からセメントミルクとかアスファルト乳液、ベントナイト液等の混合液を吐出させて混合攪拌を行い、壁体を完成させる工法である。壁体の連続性は各ユニット壁の完全連続造成により達成させている。
【0006】○2CBモルタル置換工法(泥水固化置換工法)
RC連続掘削機を使用して掘削した後、地上で泥水とセメントミルクを混練したCBモルタル(セメントベントナイト)を作って掘削中の泥水と置換する工法である。
【0007】○3掘削土を利用した流動化材での置換工法(泥水固化置換工法)
RC連続掘削機を使用して掘削した後、掘削土にセメントミルクを加えて攪拌し、流動化材(比重1.6程度)として置換する工法である。
【0008】○4泥水固化工法(泥水現位置攪拌工法-エアバッキ)
RC連続掘削機を使用して掘削した後、泥水にセメントミルク、水ガラスを加え、エアバッキを行って泥水を現位置で攪拌する工法である。
…(中略)…
【0012】
【発明が解決しようとする課題】前記○1のソイル柱列壁工法は掘削孔の精度が測定できないため、ジョイント部の確実な止水ができない場合が有り、止水性に問題が残っている。更に背面薬注などの止水工事併用となる場合が多く、ソイル柱列壁工法自体の工事費は安価であっても止水工事費と合計すると工事費が高価になってしまうという問題がある。
【0013】また、ソイル柱列壁工法は、掘削深度が深くなると工事中にセメントミルクの硬化が始まるため、掘削時にベントナイト泥水を使用しなければならず、堅い地層などで掘削時間が長くなると、ベントナイトの注入量(リットル/分)が一定であるため掘削容量以上の廃泥が発生する難点がある。
【0014】前記○2のCBモルタル置換工法の場合、CBモルタルの比重(1.25程度)と泥水の比重(1.08程度)との比重差が少ないため、置換不良を起こす惧れがある。また、後続の仮設設備はRC地中連続壁工法と同じであるため、材料費差程度しか工事費が安価にならないという問題がある。
【0015】前記○3の掘削土を利用した流動化材での置換工法は流動化材と泥水との比重差もあり、地上練りのため流動化材の品質を充分に管理することができる上、残土処理費とか材料代が減少してトータルの工事費が安価になるという利点があるが、後続の仮設設備はRC地中連続壁工法と同じであるため、仮設ヤードの減少にはつながらないという問題がある。更に○4の泥水固化工法の場合には、大深度でのエアバッキ能力に問題点が残っている。
【0016】そこで本発明は従来の土留め工法による掘削孔の構築工法が有している課題を解消して、掘削後にセメントミルクを注入撹拌する現位置改良工法となり、又余剰泥水は再利用するため廃泥が発生することがなく、工事期間の短縮と工事費の低廉化をはかることができるソイルモルタル地中連続壁の施工方法を提供することを目的とするものである。」
b 【0022】~【0032】、【図3】~【図8】
「【0022】本実施形態の地中連続壁の施工例を説明すると、先ず図1に示すバケット車1のバケット1aを用いて口切掘削部2を掘削し、図2に示したように口切掘削部2上にRC地中連続壁用の掘削機3を据え付ける。そして図3のように掘削機3の掘削機本体3aによって泥水4の併用下で掘削孔5を掘削する。」
「【図3】
[図:0001437891000001.jpg]
」
「【0023】次に掘削機3とは別体の公知の超音波測定器を利用して掘削孔5の掘削精度を確認した後、図4に示すモルタル打設装置11により掘削孔5中にセメントミルクを注入する。」
「【図4】
[図:0001437891000002.jpg]
」
「【0024】モルタル打設装置11は、クローラ式の走行装置12上にブーム13とホースドラム巻取装置14が配置されていて、セメントサイロ15で得られるセメントと清水槽16から得られる清水とをミキサー17で混合して得たセメントミルクを、アジテータ18及び圧送ポンプ19により一時貯留槽20に送り込み、更にポンプ21を介してホースドラム巻取装置14から繰り出したホース22からガイドシーブ23を介して掘削孔5の底部にセメントミルクを注入し、撹拌機24もしくは掘削機本体3aにより攪拌を行い、泥水4を利用して矩形ソイルセメント壁25を形成する。このように、泥水4とセメントミルクの撹拌には撹拌機24を使用してもよく、掘削機本体3aを使用することもできる。
【0025】その後撹拌機24又は掘削機本体3aをその長さ分だけ上昇させて、該上昇した個所にセメントミルクを注入して前記と同様の作業を順次掘削孔5の全長に渡って行う。このように地上で作製したセメントミルクを一定量毎にポンプ21を用いて掘削孔5の底部に供給し、矩形ソイルセメント壁25を形成した後、以後一定量のセメントミルクの供給と攪拌を繰り返すことによって掘削孔5の全長に渡って現位置で矩形ソイルセメント壁25を構築する。特に一定量のセメントミルクを供給することによって掘削孔の他の泥水4は撹拌機24又は掘削機本体3aによって隔てられるため、現位置でのセメントミルクの攪拌と混練が確実に行われる。
【0026】また、撹拌機24又は掘削機本体3aの下方にセメントミルクを連続して注入し、撹拌機24又は掘削機本体3aを上昇させつつ、撹拌機24又は掘削機本体3aより上方の泥水4とセメントミルクを隔離した状態で、撹拌機より下方の泥水4とセメントミルクを撹拌機24又は掘削機本体3aによって連続的に撹拌混合することにより施工することもできる。
【0027】次に撹拌機24もしくは掘削機本体3aを引き上げ、図5のように矩形ソイルセメント壁25中に芯材10を搬入して建て込み、固化することによって図6に示したように地中連続壁の構築が完成する。」
「【図5】
[図:0001437891000003.jpg]
【図6】
[図:0001437891000004.jpg]
」
「【0028】特に上記の工程を撹拌機24又は掘削機本体3aの長さ毎のバッチ式で攪拌することにより、セメントミルクの添加量と攪拌時間を制御し、高度の品質を保持した地下連続壁を構築することができる。特に本方法によれば後続設備の回収槽とか良液槽は不要であり、狭いスペースでの施工を可能とするとともにトレミー管などの打設治具とか建て込み工程を省略して施工能率を向上させることができる。
【0029】泥水を利用して固化処理したソイルセメントの品質、即ち強度は泥水中の水分量、乾土量、セメントミルク中のセメント量、セメントミルク中の水分量によって決定される。ここでW1:泥水中の水分量、S:泥水中の乾土重量、W:セメントミルク中の水分量、C:セメントミルク中のセメント重量とすると、(W+W1)/(C+S)と強度間には図7に示す相関関係がある。」
「【図7】
[図:0001437891000005.jpg]
」
「【0030】品質管理方法の一例として、図8に示すサンプリングマシン26を用いてサンプラー26aを掘削孔5内に垂下し、掘削孔5内の泥水比重を固化長さ毎に測定して乾土重量を求め、必要とするセメントミルクを注入した後に撹拌機24により攪拌を行い、泥水を利用して固化長さ毎に一定強度のソイルセメント壁25,25を形成する。」
「【図8】
[図:0001437891000006.jpg]
」
「【0031】今、V:固化部容量、γ:固化部の測定比重値、Cw:乾燥土重量濃度、S:乾燥土重量、W1:固化部水分重量とすると、
Cw=〔ρs(γ-1)〕/〔γ(ρs-1)〕
S=V×γ×Cw
W1=V×γ×(1-Cw)
従って乾燥土重量S,固化部水分重量W1,セメントミルクのW/C及び設定した(W+W1)/(C+S)により前記必要とするセメントミルク量を決定する。
【0032】品質管理方法の他の例として、掘削孔5内の泥水4を循環させて全体を均一な比重とし、必要とするセメントミルク量を決定するようにしてもよい。」
(イ) 引用文献1の記載から読み取れる事項の認定
a 「泥水4」の「ベントナイト泥水4」への読み替えについて
引用文献1には、【0022】に「本実施形態の地中連続壁の施工例を説明すると、・・・図3のように掘削機3の掘削機本体3aによって泥水4の併用下で掘削孔5を掘削する。」と記載されるなど、掘削孔5の掘削にあたり泥水4を利用することが記載されている。
そして、引用文献1の【0003】に、「これらの泥水掘削工法では自然泥水、ベントナイト泥水、ポリマー泥水等の各種泥水が・・・使用されており」と記載されるように、掘削に用いられる泥水としてベントナイト泥水はきわめて一般的なものであるから、引用文献1には、実施形態として、【0022】~【0032】の記載において、「泥水4」を「ベントナイト泥水4」に読み替えた構成が記載されていると認められる。
b 認定事項1について
引用文献1の【0022】には、「図3のように掘削機3の掘削機本体3aによって泥水4の併用下で掘削孔5を掘削する。」と記載されているところ、引用文献1の【図3】をみると、「掘削孔5が泥水4により概略満たされていること」が看取できる。
そして、前記aの認定を踏まえると、引用文献1には、次の技術事項(以下「認定事項1」という。)が記載されていると認められる。
<認定事項1>
「掘削機3の掘削機本体3aによってベントナイト泥水4の併用下で掘削孔5を掘削し、掘削孔5がベントナイト泥水4により概略満たされること。」
(ウ) 引用発明の認定
前記(イ)において認定した事項及び前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所等を括弧内に示した。
<引用発明>
「現位置でソイルセメント壁を構築するようにしたソイルモルタル地中連続壁の施工方法であって、(【0001】)
掘削機3の掘削機本体3aによってベントナイト泥水4の併用下で掘削孔5を掘削し、掘削孔5がベントナイト泥水4により概略満たされ、(認定事項1)
次に掘削機3とは別体の超音波測定器を利用して掘削孔5の掘削精度を確認した後、モルタル打設装置11により掘削孔5中にセメントミルクを注入し、(【0023】)
モルタル打設装置11は、掘削孔5の底部にセメントミルクを注入し、撹拌機24もしくは掘削機本体3aによりベントナイト泥水4とセメントミルクの攪拌を行い、矩形ソイルセメント壁25を形成し、(【0024】)
その後撹拌機24又は掘削機本体3aをその長さ分だけ上昇させて、該上昇した個所にセメントミルクを注入して同様の作業を順次掘削孔5の全長に渡って行い、(【0025】)
次に撹拌機24もしくは掘削機本体3aを引き上げ、矩形ソイルセメント壁25中に芯材10を搬入して建て込み、固化することによって地中連続壁の構築が完成されるものであって、(【0027】)
品質管理方法の一例として、掘削孔5内の泥水比重を固化長さ毎に測定して乾土重量を求め、必要とするセメントミルクを注入した後に撹拌機24により攪拌を行い、ベントナイト泥水を利用して固化長さ毎に一定強度のソイルセメント壁25,25を形成し、(【0030】)
品質管理方法の他の例として、掘削孔5内のベントナイト泥水4を循環させて全体を均一な比重とし、必要とするセメントミルク量を決定するようにしてもよいものである、(【0032】)
ソイルモルタル地中連続壁の施工方法。(【0001】)」
イ 引用文献4、11及び12の記載事項、並びに、周知技術1~3及び技術常識1の認定
(ア) 引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2004-43275公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a 【0001】~【0017】
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水硬性固化材の硬化を遅延させる硬化遅延剤及びそれを用いた硬化遅延工法に関する。更には、本発明は、水硬性固化材を用いて固化対象土と混合攪拌して改良土とする工事のうち、改良土の硬化遅延を必要とする場合における効果的な硬化遅延剤としても使用することができる硬化遅延剤及びそれを用いた硬化遅延工法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
水硬性を有する固化材である各種セメント及び/又はセメント系固化材等(これらを本発明では「水硬性固化材」と総称する)を使用する場合、水硬性固化材が硬化するまでの時間を延長したい必要性が生ずる場合がある。
例えば、
(1)工事中断後に工事を再開する場合などの施工工程の推移に伴って、生ずる固化部の打継ぎ部は構造的に不連続となってコールドジョイントを生じ、応力の伝達が不十分となったり、コールドジョイント部で止水性が損なわれる等の欠陥が発生する場合があった。このような事態を避けるために、打ち継ぎ部の先に施工した部分が硬化するまでの時間を延長する必要性が生ずる。
【0003】
(2)また、水硬性固化材を用いて行う工事、例えば、地中に連続する壁体を形成するような工事では、水硬性固化材が未硬化の間に、鋼管、H型鋼、I型鋼等の補強材を挿入する工法がある。この場合、鋼材などの補強材を挿入する工法においては、水硬性固化材が硬化を開始し始めた時点以降では挿入が困難又は不可能となる。また、補強材の挿入は、ある程度の長さの地下壁を形成した後に行うのが一般的であり、それ故、補強材の挿入時間までに水硬性固化材の硬化するまでの時間を延長する必要性が生ずる。
【0004】
上記の(1)や(2)に記した現象は、水硬性固化材を用いて地盤土と混合攪拌して改良土とする工事である下記の(3)や(4)等のような工事の場合にも発生する。
【0005】
(3)軟弱地盤を改良土とすることによる地盤の支持力の確保のための工事や、土留壁、止水壁などとするための改良土による地中壁の造成工事、又は有害物質を含む汚染土の無害化するために改良土工事に使用する場合の工事等。
【0006】
(4)軟弱な地盤に建造する構築物の基礎杭とするために、地盤を掘削しながら水硬性固化材を攪拌混合して地盤中に柱体状改良土(例えば、ソイルセメント柱体)を形成し、その改良土の柱体中に鋼管杭等の杭体を埋設して杭を造成する後埋設工法や、例えば、水硬性固化材液(例えばセメントミルク)を吐出しながら掘削翼と攪拌翼付きのロッドを鋼管中に挿通し攪拌混合することにより改良土(例えば、ソイルセメント)の柱体形成しつつ、鋼管杭等の杭体を埋設して杭を造成する同時埋設工法(いずれの場合も鋼管を使用する場合は、鋼管ソイルセメント杭造成工法という。)。
【0007】
(a)上記の後埋設工法においては、その改良土が硬化を開始し始めた時点以降では杭の挿入が困難又は不可能となる場合がある。
【0008】
(b)上記の同時埋設工法の場合においても、杭は絶えず沈設し、所定深度から地表側に連続して杭を沈設する必要があり、地表側の先に施工された改良土が硬化し始めるとその時点以降では、杭を挿入のための下方移動が困難となり、その時点の深度より深い部分の施工が不可能になる場合がある。所定の深度までの杭の造成が不可能になる。
【0009】
これらの改良土を使用した杭工事の場合も、所定の深度まで杭を挿入できる時間まで水硬性固化材の硬化する時間を延長する必要性が生ずる。
【0010】
(5)また、水硬性固化材液(例えばセメントミルク)を吐出しながら、例えば、掘削翼と攪拌翼付きのロッドを鋼管中に挿通することにより改良土(例えば、ソイルセメント)を深い深度まで築造する場合は、所定の深さまで築造した後にその最深度にある掘削翼と攪拌翼含む施工装置を回収するに際して、その上部改良土が硬化し始めた時点以降では掘削翼と攪拌翼の部分が受ける抵抗力が大きく、施工装置の回収が困難となったり、又は不可能となる場合もある。それ故に、改良土が硬化するまでの時間を延長する必要性が生ずる。
【0011】
一般に、改良土の築造深度が通常の場合は、上記の(3)や(4)のように地盤土と水硬性硬化固化材とを混合して改良土(ソイルセメント)とする場合は、直ぐには硬化しないので上記したような理由で施工不能や性能低下を起こす現象になることが少ないが、地盤土の条件によっては、改良土の硬化開始が早くなることがあり、施工手順によっては現状よりも、改良土の硬化開始を遅めたい場合がある。
【0012】
以上に列記したように硬化開始を遅めたい場合には、水硬性固化材として硬化時間の長いセメント、例えば高炉セメントを使用することも一般に行われている。しかし、高炉セメントは普通ポルトランドセメントに比べ硬化時間が若干遅い程度であり、充分な硬化遅延の効果が得られない。
【0013】
そこで、これらの欠点を防止するために遅延材(従来から知られている硬化遅延形の混和剤など、水硬性固化材に対して遅延効果を有する添加剤を本発明では「遅延剤」という。)を添加することがある。そして、硬化遅延形の混和剤の添加量を増すことや、硬化遅延効果を大きくすることにより硬化時間が遅延し作業性の確保、ラップ部等の品質の改善が見込まれることは知られていた。例えば、セメント系固化材の硬化遅延性を調整する技術がある(例えば、特許文献1参照。)。
…(中略)…
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、一方では、硬化を所望の時間まで遅延させるには遅延剤(硬化遅延形の混和剤)の添加量を多くする必要があり、添加量の増加により、セメント等の水硬性固化材による十分な強度が得られない事態が発生し、施工上の問題となることがあった。特にこの問題は、水硬性固化材を用いて対象土を改良する(例えばソイルセメントとする)場合に多く発生する。
【0016】
それ故に、このような問題がある遅延剤を使用しないで工事をしようとしても施工できない事態が発生する。
【0017】
本発明は、水硬性固化材の硬化遅延を図る技術に改良を加え、遅延強化助剤を添加することにより所望の硬化遅延効果を発揮し、土と混合してもその混合硬化物が所望の強度を発揮することが可能な硬化遅延剤を提供することを目的とする。また、本発明方法は、このような硬化遅延剤を用いた改良土(例えばソイルセメント)の硬化遅延工法を提供することを目的とする。」
b 【0018】~【0038】
「【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の発明は、遅延剤と、下記に示した物質からなる群から選ばれた1種又は2種以上である遅延強化助剤とからなり、水硬性固化材に混入する材料であることを特徴とする硬化遅延剤である。。
【0019】
記
アルカリ金属の酸化物、水酸化物、亜硫酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩;アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、硫酸塩、塩化物、炭酸塩;鉄の酸化物、水酸化物;亜鉛の酸化物、水酸化物;アルミニウムの酸化物、水酸化物、硫酸塩;アルミナセメント、及び耐火セメント
本発明において「遅延剤」としては、粉状又は液状などの様態は限定されず、従来から知られている硬化遅延形の混和剤など、水硬性固化材に対して遅延効果を有する添加剤が含まれる。例えば、次の(ア)~(カ)が含まれる。
…(中略)…
【0027】
次に、本発明において「硬化遅延剤」とは従来の「遅延剤」に本発明に係る「遅延強化助剤」を加えたものを言う。本発明に係る「遅延強化助剤」は、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、亜硫酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩;アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、硫酸塩、塩化物、炭酸塩;鉄の酸化物、水酸化物;亜鉛の酸化物、水酸化物;アルミニウムの酸化物、水酸化物、硫酸塩;アルミナセメント、及び耐火セメントである。
…(中略)…
【0034】
次に、本発明の第3の発明は、水硬性固化材100質量部に遅延剤0.2~12質量部、遅延強化助剤1~50質量部を添加して成る硬化材を固化対象土と攪拌混合して硬化遅延された改良土とし、該改良土の未硬化時間内に所要工事を遂行した後、前記改良土を固化させることを特徴とする改良土の硬化遅延工法である。このような工法に従うと、改良土(例えばソイルセメント)の硬化が所望の時間に合わせることが可能になるために、遅延剤(遅延硬化形の混和剤)を単独で使用する場合よりも、安価な遅延強化助剤を添加することにより遅延剤(遅延硬化形の混和剤)自体の使用量を少なくしても所期の硬化遅延効果を発揮し、トータルコストを低減できる。また、遅延剤(硬化遅延形の混和剤)を単独で使用する場合、硬化を所望の時間まで遅延させるには遅延剤(硬化遅延形の混和剤)の添加量を多くする必要があり、添加量の増加により、改良土(例えばソイルセメント)の硬化体が十分な強度が得られない事態が発生していたが、遅延剤(遅延硬化形の混和剤)の使用量を減らしても、遅延強化助剤を添加することにより硬化を所望の時間まで遅延できるので、改良土(例えばソイルセメント)の硬化体の強度を許容範囲に収めることができる。
【0035】
上記した固化対象土としては、地盤土、排土、土を含む産業廃棄物などが例として挙げられ、改良土とする目的として、ソイルセメントの形成、排土を流動化し固化させる流動化処理土とすることなどが挙げられる。
【0036】
また、第3の発明の改良土(例えばソイルセメント)が未硬化の間に、所要工事を遂行する具体的な例として、改良土中に鋼管、H型鋼、I型鋼等の補強材を挿入する次の(イ)、(ロ)のような工法がある。
【0037】
(イ)鋼管ソイルセメント杭造成工法
この工法は、従来技術の(4)に記載した工法である。この改良土と鋼管が一体化された合成杭は、高靭性、高支持力の合成杭となり、この改良土を使用した杭工事の場合も、所定の深度まで杭を挿入できる時間まで水硬性固化材の硬化する時間を延長する。
【0038】
(ロ)ソイルセメント地中連続壁構築工法
地盤に挿入したチェーンソー形のカッターを横方向に移動させて溝を掘削しながら、固化材液の注入を行うことにより、地盤土と固化材液の混合攪拌を行い、地中に連続した改良土(ソイルセメント)の壁体を構築する工法(以下、「TRD工法」と言う)における壁体中にH型鋼等の補強材を挿入する作業である。このような壁体は土留壁、止水壁、液状化対策や地盤の補強、地下水の遮断等に使用される。」
c 【0080】~【0082】
「【0080】
〔試験例3〕
試験例3として対象土にシルト質粘土を用い、試験例2と同様に、TRD工法用の室内実験を行った。結果を表4~5並びに図9~15に示した。この実験の条件は次のとおりである。
【0081】
水硬性固化材である高炉セメント(B種)を使用し、かつセメントの使用量であるセメント量C=250kg/m3(地盤土1m3当たりのセメント量)として、水固化材比100質量%とした。遅延剤、遅延強化助剤の添加量はセメント100質量部に対する質量部(外割)の値を%と表示している。図9~15に示すように、ベーンせん断抵抗試験によるベーンせん断抵抗値(せん断強さ)を縦軸に取り、遅延剤、遅延強化助剤及びセメントからなる固化材液を地盤土試料に対し撹拌混合した時間からの経過時間(硬化時間)を横軸に取って詳細な結果を示した。
【0082】
遅延剤として、オキシカルボン酸系遅延剤(商品名ER-2,株式会社サンフローパリック製)を用い、遅延強化助剤として、生石灰(CaO、試薬1級)、酸化亜鉛(ZnO、試薬1級)、消石灰(Ca(OH)2、試薬1級)、ボウ硝(硫酸ソーダ、Na2SO4・10H2O、試薬1級)、ミョウバン(カリウムアルミニウムミョウバン、AlK(SO4)2・12H2O、試薬1級)、二水石膏CaSO4・2H2O、試薬1級)、亜硫酸ソーダ(NaHSO3、試薬1級)、にがり(塩化マグネシウムMgCl2・6H2O、試薬1級)、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O、試薬1級)、苛性ソーダ(NaOH、試薬1級)、炭酸カルシウム(CaCO3、試薬1級)、水酸化亜鉛(Zn(OH)2、試薬1級)、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3、試薬1級)、又は水ガラス(ケイ酸ソーダ、Na2O・SiO2・H2O、試薬1級)を用いたものを表4に示した。」
(イ) 引用文献11に記載された事項
前置報告書において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2011-140765号公報(以下「引用文献11」という。)には、次の記載がある。
a 【0002】~【0011】
「【背景技術】
【0002】
鉄道の線路間やホーム内など、列車軌道に近接して杭を施工する場合、列車の運行が優先されるため、最終電車の通過後から始発電車の通過前までの2、3時間しか作業時間が確保できない。杭頭の上部空間には架線や屋根等が存在するため、これらを避けた低空頭(4m程度)条件下での作業となる、などの制約がある。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事実に鑑み、大型の装置を必要とせず、低空頭条件下で既製杭の施工を可能とすることを目的とする。」
b 【0022】~【0061】
「【0022】
本発明の実施の形態に係る杭の施工方法は、図1に示す5つの工程に従って行われる。
先ず、初期掘削工程10について説明する。
図2に示すように、本実施の形態で用いられる杭40は既製のコンクリート杭であり、外形D1、内径D2の中空円筒状とされている。内径D2は、後述する掘削ヘッド58及び掘削ロッド62が挿入される大きさとされている。
【0023】
杭長L1は、杭40を埋設する施工場所の空頭高さ以下(2m前後)とされている。このため、複数の杭40を順次埋め込みながら杭継を行い、所要長さを確保する。
…(中略)…
【0047】
図12、図13に杭継手順を示す。
図12(A)に示すように、杭継前は掘削ロッド62のフランジは、接合作業が可能な寸法だけ第1の杭41の上端面から突き出ている。
【0048】
次に、図12(B)に示すように、第2の杭74と中継ぎ掘削ロッド102をクレーン54で同時に吊り下げた状態で、先に掘削ロッド62の上端と中継ぎ掘削ロッド102の下端を接合する。このとき、第1の杭41の上端と第2の杭74の下端の間には隙間Kが生じており、連結作業が妨げられることはない。
次に、図12(C)に示すように、杭把持装置38のジャッキ42を伸張して第1の杭41を持ち上げる。第1の杭41の上端と第2の杭74の下端を突き合わせた状態で、突き合わせ部を連結する。
【0049】
図14、図15に連結部の詳細を示す。第1の杭41の上端面と第2の杭74の下端面を、ガイドピン110を利用して位置合せした後、3つに分割された接合部材106で周囲を囲み、外からボルト77で接合し一体化する。これにより、溶接の手間が省け、迅速に第1の杭41と第2の杭74が接合できる。
【0050】
次に、図13(D)、後述する図16(A)(B)に示すように、杭継後は、クレーン54からワイヤー56を取り外し、杭把持装置38のジャッキ42を縮張して第1の杭41と第2の杭74を下げる。これにより、中継ぎ掘削ロッド104のフランジを、減速機66の接合が可能な寸法だけ第2の杭74の上端面から突き出すことができる。この状態で、吊り治具104と中継ぎ掘削ロッド104のワイヤーを取り外す。
【0051】
最後に、図13(E)に示すように、後述する杭沈下工程14で、第1の杭41と第2の杭74を掘削しながら沈下させる。
…(中略)…
【0053】
…(中略)…
そして、第2の杭74を杭把持装置38で把持した状態で、第3の杭を上述した要領で杭継する。この杭継を、第1の杭41の先端部が支持層36に達するまで繰り返す。
【0054】
このとき、掘削ロッド62の掘削中に使用される掘削液には、セメントを添加してある。これにより、掘削時には、第1の杭41及び順次接合された第2の杭74以降の杭の自重による沈下を確保すると共に、縦穴70とそれぞれの杭の周面の間を埋めて、縦穴70の壁の崩落を抑制する。
【0055】
また、施工後は、第1の杭41及び順次接合された第2の杭74以降の杭を囲んで固化し、これらの杭の支持力を確保する。
なお、杭の全長が長い場合、或いは施工時間の制約等で掘削が複数日に渡る場合等には、掘削液に遅延剤を添加し、掘削液の固化を遅らせればよい。…(中略)…
【0061】
なお、杭40は、既製のコンクリート杭で説明したが、コンクリート杭に限定されることはなく、既製の鋼管杭を用いてもよい。」
(ウ) 引用文献12に記載された事項
前置報告書において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開平11-181764号公報(以下「引用文献12」という。)には、次の記載がある。
a 【0015】~【0018】、【図1】
「【0015】図1は、地中Gに杭(一体固形物に相当)1を造成している状況を示すもので、掘削装置2のオーガー2a先端部分からセメントミルク3を吐出しながら地中Gを掘削することによって掘削部分にセメントミルク3・残留土4等からなるソイルセメント液5を位置させ、そのソイルセメント液5中に、H形鋼(補強鋼材に相当)6を挿入して、前記ソイルセメント液5との一体固形物である杭1を形成するものである。」
「【図1】
[図:0001437891000007.jpg]
」
「【0016】掘削設備は、図1に示すように、前記掘削装置2の他に、プラント設備としてセメントサイロ7・ベントナイトサイロ8・水タンク9・分散剤貯蔵漕10・遅延剤貯蔵漕11・調合装置12・注入ポンプ13を設けて構成してある。…(後略)…
【0017】前記掘削装置2は、クローラ型ベースマシーン2A上に、軸芯周りに回転駆動自在に設置された掘削用オーガー装置2Bを設けて構成してある。このオーガー装置2Bのオーガー2aを軸芯周りに回転駆動させて地中に押し込むことによって、土を撹拌しながら杭形成範囲を掘削することができる。尚、前記オーガー2a内には前記プラント設備で形成されたセメントミルク3を先端部から吐出できるように流路を設けてあると共に、上端部には、前記注入ポンプ13からの送液ホース14を連通接続するためのスイベル15を取り付けてある。前記調合装置12は、セメントサイロ7からのセメント7a、ベントナイトサイロ8からのベントナイト8a、水タンク9からの水9a、分散剤貯留槽10からの分散剤10a、遅延剤貯留槽11からの遅延剤11aを受けて所定の配合のセメントミルク3を混練できるように構成してある。そして、前記調合装置12で調製されたセメントミルク3は、前記注入ポンプ13によって前記掘削装置2に送られてオーガー2aから吐出される。従って、掘削によって、地中掘削部分には残留土とセメントミルク3とが混在した状態のソイルセメント液5が充満する。…(中略)…前記遅延剤11aは、オキシカルボン酸系の薬剤で構成してあり、掘削工程でのトラブルで余分な時間が生じたり、一本の掘削長が長くてH形鋼6の建て込みまでに時間が掛かったりする場合でも、ソイルセメント液5の適度な流動性を保持してH形鋼6の挿入をスムースに実施できるように前記セメントミルク3に添加してある。
【0018】そして、所定深度までの掘削が完了した後、前記ソイルセメント液5の流動性が確保されている状態でH形鋼6を掘削部分に挿入して、前記ソイルセメント液5が硬化することによって杭1の築造が完成する。」
b 【0025】~【0026】
「【0025】〔別実施形態〕以下に他の実施の形態を説明する。
【0026】〈1〉 一体固形物は、先の実施形態で説明した杭に限るものではなく、例えば、連続壁であってもよい。」
(エ) 周知技術1の認定
前記(ア)及び(ウ)に示した引用文献4、12の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下「周知技術1」という。)
<周知技術1>
「掘削孔内におけるセメントミルクなどの固化液と掘削土とを含む混合液中に芯材を建込み固化することにより形成した支持杭。」
(オ) 周知技術2の認定
前記(イ)に示した引用文献11の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下「周知技術2」という。)
<周知技術2>
「低空頭の環境下にある原位置において長尺状の鋼材を建込むことにより地中構造物を構築するにあたり、複数の鋼材を継ぎ足して建込むこと。」
(カ) 周知技術3の認定
前記(ア)に示した引用文献4の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下「周知技術3」という。)
<周知技術3>
「遅延剤に可溶性硫酸塩からなる遅延強化助剤を加えた硬化遅延剤を、セメントなどの水硬性固化剤に対して混入させることにより、硬化遅延効果を発揮するとともに硬化物が強度を発揮することを可能にすること。」
(キ) 技術常識1の認定
前記(ア)~(ウ)に示した引用文献4、11、12の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識1」という。)
<技術常識1>
「セメントミルクを用いて行われる現場施工作業において、施工作業に時間を要するために、セメントミルクの固化を遅らせるための遅延剤を添加することが必要とされる場合があること。」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(地中構造物の構築方法)
a 構成Xは、「低空頭の環境下にある原位置で、複数の鋼材を継ぎ足してなる芯材と該芯材を内包する地盤改良体とを備える地中構造物を構築する地中構造物の構築方法」の発明であることを特定するものである。
b 引用発明の「芯材10」は、本件補正発明の「芯材」に相当する。
また、引用発明の「矩形ソイルセメント壁25を形成」するための「ベントナイト泥水4とセメントミルク」を「攪拌」し「固化」したものは、本件補正発明の「地盤改良体」に相当し、引用発明は「矩形ソイルセメント壁25中に芯材10を搬入して建て込」むものであるから、当該「攪拌」し「固化」したものは、「芯材」を内包するといえる。
そうすると、引用発明の「現位置でソイルセメント壁を構築するようにしたソイルモルタル地中連続壁の施工方法」と、本件補正発明の「低空頭の環境下にある原位置で、複数の鋼材を継ぎ足してなる芯材と該芯材を内包する地盤改良体とを備える地中構造物を構築する地中構造物の構築方法」は、「原位置で、芯材と該芯材を内包する地盤改良体とを備える地中構造物を構築する地中構造物の構築方法」である点において共通する。
c その一方で、引用発明は、「現位置」が「低空頭の環境下」であるか明らかでなく、「芯材」が「複数の鋼材を継ぎ足してなる」ものでもない。
d 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Xの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Xの観点における一致点
「原位置で、芯材と該芯材を内包する地盤改良体とを備える地中構造物を構築する地中構造物の構築方法」の発明である点。
(b) 構成Xの観点における相違点
本件補正発明においては、「原位置」が「低空頭の環境下」にあり、「芯材10」が「複数の鋼材を継ぎ足してなる」ものであるのに対して、
引用発明においては、「現位置」が「低空頭の環境下」であるか明らかでなく、「芯材10」が「複数の鋼材を継ぎ足してなる」ものではない点。
(イ) 構成Aの観点(地盤を削孔し掘削泥水で満たす工程)
a 構成Aは、「ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった比重を1.5程度に調整した掘削泥水で満たす工程」を備えることである。
b 引用発明は、「掘削機3の掘削機本体3aによってベントナイト泥水4の併用下で掘削孔5を掘削」するものであるから、ベントナイト液を供給しながら「掘削孔5を掘削」するものであることは明らかである。
また、引用発明の「ベントナイト泥水4」は、本件補正発明の「前記ベントナイト液に掘削土が混じった」「掘削泥水」に相当する。
そうすると、引用発明の「掘削機3の掘削機本体3aによってベントナイト泥水4の併用下で掘削孔5を掘削し、掘削孔5がベントナイト泥水4により概略満たされ」る工程と、本件補正発明の「ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった比重を1.5程度に調整した掘削泥水で満たす工程」は、「ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった掘削泥水で満たす工程」である点において共通する。
c その一方で、引用発明の「ベントナイト泥水4」の比重は明らかでない。
d 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Aの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Aの観点における一致点
「ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった掘削泥水で満たす工程」を備える点。
(b) 構成Aの観点における相違点
「前記ベントナイト液に掘削土が混じった」「掘削泥水」について、本件補正発明においては、「比重を1.5程度に調整した」ものであるのに対して、
引用発明においては、「ベントナイト泥水4」の比重が明らかでない点。
(ウ) 構成Bの観点(地盤改良液を作成する工程)
a 構成Bは、「前記地中孔に遅硬性固化液を添加して前記掘削泥水と混合攪拌し、テーブルフロー値が160mmを超える地盤改良液を作成する工程」を備えることである。
b 引用発明の「セメントミルク」と、本件補正発明の「遅硬性固化液」は、「固化液」である点において共通する。
また、引用発明の「ベントナイト泥水4とセメントミルク」を「攪拌」した混合液は、その「テーブルフロー値」が明らかでない点を措くとして、本件補正発明の「地盤改良液」に相当する。
そうすると、引用発明の「モルタル打設装置11は、掘削孔5の底部にセメントミルクを注入し、撹拌機24もしくは掘削機本体3aによりベントナイト泥水4とセメントミルクの攪拌を行い、矩形ソイルセメント壁25を形成し、」「その後撹拌機24又は掘削機本体3aをその長さ分だけ上昇させて、該上昇した個所にセメントミルクを注入して同様の作業を順次掘削孔5の全長に渡って行」う工程と、本件補正発明の「前記地中孔に遅硬性固化液を添加して前記掘削泥水と混合攪拌し、テーブルフロー値が160mmを超える地盤改良液を作成する工程」は、「前記地中孔に固化液を添加して前記掘削泥水と混合攪拌し、地盤改良液を作成する工程」である点において共通する。
c 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Bの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Bの観点における一致点
「前記地中孔に固化液を添加して前記掘削泥水と混合攪拌し、地盤改良液を作成する工程」を備える点。
(b) 構成Bの観点における相違点
「固化液」について、本件補正発明においては、「遅硬性固化液」であるのに対して、引用発明においては、「遅効性固化液」といえるものではなく、
「地盤改良液」について、本件補正発明においては、「テーブルフロー値が160mmを超える」ものであるのに対して、引用発明においては、「ベントナイト泥水4とセメントミルク」を「攪拌」した混合液の「テーブルフロー値」が明らかでない点。
(エ) 構成Cの観点(芯材を建込む工程)
a 構成Cは、「前記地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む工程」を備えることである。
b 引用発明の「矩形ソイルセメント壁25」は、「掘削孔5の底部にセメントミルクを注入し、撹拌機24もしくは掘削機本体3aによりベントナイト泥水4とセメントミルクの攪拌を行」うことにより形成されるものであり、「その後撹拌機24又は掘削機本体3aをその長さ分だけ上昇させて、該上昇した個所にセメントミルクを注入して同様の作業を順次掘削孔5の全長に渡って行」うから、引用発明の「掘削孔5」は、「ベントナイト泥水4とセメントミルク」を「攪拌」した混合液により満たされるといえる。
そして、前記(ウ)bの対比を踏まえると、引用発明の「矩形ソイルセメント壁25中に芯材10を搬入して建て込」む工程は、本件補正発明の「前記地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む工程」に相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、は、構成Cの観点について、次の点において一致する。
「前記地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む工程」を備える点。
(オ) 構成Dの観点(遅硬性固化液の組成)
a 構成Dは、「前記遅硬性固化液は、セメントミルク、遅延剤及び可溶性硫酸塩を含」むことである。
b 前記(ウ)bにおいて検討したとおり、引用発明の「セメントミルク」は、本件補正発明の「遅硬性固化液」と、「固化液」である点において共通するものであるから、引用発明は、本件補正発明の「前記遅硬性固化液は、セメントミルク、遅延剤及び可溶性硫酸塩を含」むことと、「前記固化液は、セメントミルクを含む」ことにおいて共通する構成を有する。
c その一方で、引用発明において、「ベントナイト泥水4」とともに「攪拌」される「セメントミルク」は、「遅延剤及び可溶性硫酸塩を含む」「遅延性固化液」といえるものではない。
d 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Dの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Dの観点における一致点
「前記固化液は、セメントミルクを含む」点。
(b) 構成Dの観点における相違点
本件補正発明においては、「固化液」が「遅硬性固化液」であり、「セメントミルク」の他に「遅延剤及び可溶性硫酸塩を含む」ものであるのに対して、
引用発明においては、「ベントナイト泥水4」とともに「攪拌」される「セメントミルク」が「遅延剤及び可溶性硫酸塩を含む」「遅硬性固化液」といえるものではない点。
(カ) 構成Eの観点(支持杭)
a 構成Eは、「前記地中構造物は、支持杭である」ことである。
b 引用発明は、本件補正発明の構成Eに相当する構成を備えていないから、本件補正発明と引用発明は、構成Eの観点について、次の点において相違する。
<構成Eの観点における相違点>
「地中構造物」について、本件補正発明においては、「支持杭」であるのに対して、引用発明においては、「ソイルモルタル地中連続壁」である点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点
「原位置で、芯材と該芯材を内包する地盤改良体とを備える地中構造物を構築する地中構造物の構築方法であって、
ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった掘削泥水で満たす工程と、
前記地中孔に固化液を添加して前記掘削泥水と混合攪拌し、地盤改良液を作成する工程と、
前記地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建込む工程と、を備え、
前記固化液は、セメントミルクを含む、
地中構造物の構築方法」である点。
(イ) 相違点
a 相違点1
「地中構造物」について、本件補正発明においては、「支持杭」であるのに対して、引用発明においては、「ソイルモルタル地中連続壁」である点。
b 相違点2
本件補正発明においては、「原位置」が「低空頭の環境下」にあり、「芯材」が「複数の鋼材を継ぎ足してなる」ものであるのに対して、
引用発明においては、「現位置」が「低空頭の環境下」であるか明らかでなく、「芯材10」が「複数の鋼材を継ぎ足してなる」ものではない点。
c 相違点3
本件補正発明においては、「固化液」が「遅硬性固化液」であり、「セメントミルク」の他に「遅延剤及び可溶性硫酸塩を含」むものであるのに対して、
引用発明においては、「ベントナイト泥水4」とともに「攪拌」される「セメントミルク」が「遅延剤及び可溶性硫酸塩を含む」「遅硬性固化液」といえるものではない点。
d 相違点4
「前記ベントナイト液に掘削土が混じった」「掘削泥水」について、本件補正発明においては、「比重を1.5程度に調整した」ものであるのに対して、引用発明においては、「ベントナイト泥水4」の比重が明らかでない点。
e 相違点5
「地盤改良液」について、本件補正発明においては、「テーブルフロー値が160mmを超える」ものであるのに対して、引用発明においては、「ベントナイト泥水4とセメントミルク」を「攪拌」した混合液の「テーブルフロー値」が明らかでない点。
(4) 判断
ア 相違点1について
前記(2)イ(エ)において周知技術1として認定したとおり、「掘削孔内におけるセメントミルクなどの固化液と掘削土とを含む混合液中に芯材を建込み固化することにより形成した支持杭。」は、本願の出願前に周知の技術であった。
そして、引用発明の「施工方法」の施工対象である「ソイルモルタル地中連続壁」と周知技術1の「支持杭」は、掘削孔内におけるセメントミルクなどの固化液と掘削土とを含む混合液中に芯材を建込み固化することにより形成される地中構造物である点において共通するものであり、引用発明と同様の施工方法により周知技術1の「支持杭」の構造も施工可能であることは当業者にとって明らかであるから、引用発明において、「施工方法」の施工対象を周知技術1の「支持杭」の構造とすることにより、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
引用発明の「施工方法」の施工対象である「ソイルモルタル地中連続壁」などのような地中構造物が、低空頭の環境においても必要とされる場合があることは、当業者にとって自明である。
そして、前記(2)イ(オ)において周知技術2として認定したとおり、「低空頭の環境下にある原位置において長尺状の鋼材を建込むことにより地中構造物を構築するにあたり、複数の鋼材を継ぎ足して建込むこと。」は、本願の出願前に周知の技術であった。
そうすると、引用発明の「施工方法」の施工対象である地中構造物が低空頭の環境において必要とされる場合に、周知技術2を適用して、長尺状の「芯材10」を複数の鋼材を継ぎ足して建込むものとすることにより、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3について
前記(2)イ(キ)において技術常識1として認定したとおり、「セメントミルクを用いて行われる現場施工作業において、施工作業に時間を要するために、セメントミルクの固化を遅らせるための遅延剤を添加することが必要とされる場合があること。」は技術常識であるところ、引用発明の「施工方法」においても、セメントミルクを用いた後その固化前に「芯材10」を建込むことから、施工作業に時間を要し、セメントミルクの固化を遅らせるための遅延剤を添加することが必要とされる場合があり得ることは明らかである。
また、前記イにおいて検討したとおり、引用発明において、長尺状の「芯材10」を複数の鋼材を継ぎ足して建込むものとする場合にも、継ぎ足される鋼材の数などによっては施工作業に時間を要し、遅延剤を添加することが必要とされる場合もあり得ることは、当業者にとって自明である。
ここで、前記(2)イ(カ)において周知技術3として認定したとおり、「遅延剤に可溶性硫酸塩からなる遅延強化助剤を加えた硬化遅延剤を、セメントなどの水硬性固化剤に対して混入させることにより、硬化遅延効果を発揮するとともに硬化物が強度を発揮することを可能にすること。」は、本願の出願前に周知の技術であった。
そして、引用発明の「施工方法」の施工対象である地中構造物が必要な強度を発揮することは当然に求められるから、引用発明において、施工作業に時間を要し遅延剤を添加することが必要とされる場合に、周知技術3を適用して、セメントミルクに対して遅延剤に可溶性硫酸塩からなる遅延強化助剤を加えた硬化遅延剤を混入させること(セメントミルク、遅延剤及び可溶性硫酸塩を含む遅硬性固化液を用いること)により、相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
エ 相違点4について
相違点4に係る本件補正発明の構成である「掘削泥水」を「比重を1.5程度に調整した」ものとすることについて、本願明細書には、掘削泥水の比重を調整することの技術的意義が説明されておらず、比重「1.5程度」という数値の意味についても説明がされていない。そうすると、本件補正発明において、「掘削泥水」を「比重を1.5程度に調整した」ものとすることは、孔壁の安定を確保するためという程度の技術的意義を有するにすぎないものと解される。
引用発明は、「ベントナイト泥水4の併用下で掘削孔5を掘削」するものであり、ベントナイト液を供給しながら「掘削孔5を掘削」するものといえるところ、掘削孔5の掘削にあたり、ベントナイト液に含まれるベントナイトの量やベントナイト液の注入量を適量に調整することは、当然に行われることであって、これにより「ベントナイト泥水4」(掘削泥水)の比重を1.5程度に調整することは、孔壁の安定を確保するとの観点から、当業者であれば適宜なし得た設計事項にすぎない。
オ 相違点5について
本願明細書の【0034】及び【0066】の記載から、本件補正発明において、「地盤改良液」の「テーブルフロー値が160mmを超える」ものとされているのは、芯材を良好に挿入できるような流動性を確保するという技術的意義を有するものと理解できる。
一方、引用発明は、「矩形ソイルセメント壁25」、すなわち、「ベントナイト泥水4とセメントミルク」を「攪拌」した混合液の中に「芯材10を」「建て込」むものであるから、当該混合液には、芯材10を建て込む(挿入する)ことが可能な程度の流動性が必要とされることは、当業者にとって自明である。
そうすると、引用発明において、「ベントナイト泥水4とセメントミルク」を「攪拌」した混合液に対して「芯材10」を良好に建込むことが可能なように、当該混合液における必要な流動性の程度(下限値)を、実験的に適宜定めることは、当業者の通常の創作能力の範囲内の事項である。
また、本件補正発明における「テーブルフロー値」の「160mm」という数値に臨界的意義は認められない。
したがって、引用発明において、「芯材10」を良好に挿入することを可能にするという観点から、前記混合液の流動性を「テーブルフロー値が160mmを超える」ものとすることにより、相違点5に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得た程度の事項にすぎない。
カ 総合評価
前記ア~オにおいて検討したとおり、引用発明において、前記相違点1~5に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明、周知技術1~3及び技術常識1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1~5を総合的に勘案しても、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術1~3及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
キ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において、とりわけ前記相違点4について、概略、次の主張をしている。
引用文献1では、掘削孔の泥水比重を固化長さ毎に測定して乾土重量を求め、求めた乾土重量に基づいて必要とするセメントミルク量を決定し、決定したセメントミルク量を掘削孔に添加している。つまり、引用文献1において、掘削孔内の泥水は比重調整を行わないことが明示されているといえる。
してみれば、もし仮に、審査官が説示するように「比重を1.5程度にすることは、通常行われていること」であったとしても、当業者であれば、引用文献1における掘削孔内の泥水に、審査官が通常行われていると説示する、比重を1.5程度にする、という構成を適用することはありえない。
(イ) 請求人の主張についての検討
本件補正発明においては、「比重を1.5程度に調整した掘削泥水」と特定され、「程度」という文言から、当該比重の調整については概略の比重を調整したものも含まれると解される。
また、本願明細書の【0029】には、「掘削土砂Gとベントナイト液W1とを混合攪拌した掘削泥水W2は、比重が1.5程度になるよう、ベントナイト液W1に含まれるベントナイト量と掘削土砂Gに注入するベントナイト液W1の注入量を調整した。」と記載され、同【0048】にも同趣旨の記載があるように、本願明細書には発明を実施するための形態として、ベントナイト液W1に含まれるベントナイト量と掘削土砂Gに注入するベントナイト液W1の注入量を調整することにより、掘削泥水W2の比重を調整することが記載されているといえる。
一方、引用発明において、掘削孔5の掘削にあたり、ベントナイト液に含まれるベントナイトの量やベントナイト液の注入量を調整することが全く行われないとはおよそ考え難く、これらを調整することによりベントナイト泥水4(掘削泥水)の概略の比重が調整されることは、自明といえる。
そうすると、請求人が指摘する引用文献1における、掘削孔の泥水比重を固化長さ毎に測定して乾土重量を求め、求めた乾土重量に基づいて必要とするセメントミルク量を決定する旨の記載については、前述のとおり掘削泥水の概略の比重を調整したうえで、固化長さ毎に精密な比重を測定して、測定された比重に基づいて必要とされるセメントミルク量を決定していると理解することも可能であるから、引用文献1における当該記載は、引用発明において掘削泥水の比重の調整が全く行われ得ないといえるための根拠とはならない。
また、その他の請求人の主張について検討しても、前記カの判断を変更すべき事情は見いだせない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(5) 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明、周知技術1~3及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記3(5)のとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由3(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由3(進歩性の欠如) 本願発明は、出願前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開平11-071751号公報(主たる引用文献)
引用文献2.特開2012-012783号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2006-241316号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2004-043275号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開平11-293246号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開平10-140155号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7.特開2008-115652号公報(周知技術を示す文献)
引用文献8.特開2008-37891号公報(周知技術を示す文献)
引用文献9.特開2008-31713号公報(周知技術を示す文献)
引用文献10.特開昭62-288214号公報(周知技術を示す文献)
3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
引用文献1、4、11及び12に記載された事項並びに引用発明、周知技術1、3及び技術常識1は、前記第2の3(2)ア(ア)及び(ウ)並びにイ(ア)~(エ)、(カ)~(キ)において示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の2において検討したとおり、本件補正発明から、「原位置」について「低空頭の環境下にある」との限定を省くととともに、「芯材」について「複数の鋼材を継ぎ足してなる」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、その発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(4)において説示したとおり、引用発明、周知技術1~3及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-019546