特許拒絶査定不服審判
2024-005039
圧接方法
- 審判番号
- 2024-005039
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-166351外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年03月25日
- 審決日
- 2025年01月15日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社大林組
- 【請求人代理人】弁理士法人一色国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (F16F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-166351「圧接方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 3月18日出願公開、特開2021- 42827〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年9月12日の出願であって、令和5年4月7日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月25日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月25日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年12月22日付け(発送日:同年12月26日)に拒絶査定がなされ、それに対して、令和6年3月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)令和5年10月25日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2は、以下のとおりである。
「【請求項1】
複数枚の板材を面外方向に重ね合わせ、前記複数枚の板材を前記面外方向に貫通するボルトに螺合されたナットを締め付けて圧接する圧接方法であって、
前記ボルトは、前記面外方向に沿って配置される螺条軸部を有する軸本体部と、前記軸本体部の一端に設けられ、前記複数枚の板材の前記面外方向における一方側に配置される頭部と、他端に設けられ前記複数枚の板材の前記面外方向における他方側に配置される先端軸部と、を有しており、
前記ナットは、前記複数枚の板材の前記他方側にて前記螺条軸部に螺合されており、
前記複数枚の板材と前記頭部との間、または、前記複数枚の板材と前記ナットとの間のいずれか一方に皿ばねが設けられており、
前記先端軸部は、前記ナットの螺進方向と反対側に突出しており、
シャーレンチなどの工具を用い、前記先端軸部を把持して反力受けとしつつ前記ナットを回転螺進させて、前記皿ばねが所定量圧縮されるまで前記ナットを締め込み、
前記ボルトは、前記皿ばねが前記所定量圧縮されるまで前記ナットが締め込まれる前に剪断破壊しない強度を有し、
前記先端軸部が破断する前にナットの締め付けを完了させることを特徴とする圧接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧接方法であって、
前記皿ばねが圧縮される前記所定量は、前記皿ばねの撓み量により確認することを特徴とする圧接方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正発明」という。)は、以下のとおりである。(下線は、当審で付した。)
「【請求項1】
複数枚の板材を面外方向に重ね合わせ、前記複数枚の板材を前記面外方向に貫通するボルトに螺合されたナットを締め付けて圧接する圧接方法であって、
前記ボルトは、前記面外方向に沿って配置される螺条軸部を有する軸本体部と、前記軸本体部の一端に設けられ、前記複数枚の板材の前記面外方向における一方側に配置される頭部と、他端に設けられ前記複数枚の板材の前記面外方向における他方側に配置される先端軸部と、を有しており、
前記ナットは、前記複数枚の板材の前記他方側にて前記螺条軸部に螺合されており、
前記複数枚の板材と前記頭部との間、または、前記複数枚の板材と前記ナットとの間のいずれか一方に皿ばねが設けられており、
前記先端軸部は、前記ナットの螺進方向と反対側に突出しており、
シャーレンチなどの工具を用い、前記先端軸部を把持して反力受けとしつつ前記ナットを回転螺進させて、前記皿ばねが所定量圧縮されるまで前記ナットを締め込み、
前記ボルトは、前記皿ばねが前記所定量圧縮されるまで前記ナットが締め込まれる前に剪断破壊しない強度を有し、
前記皿ばねが圧縮される前記所定量は、前記皿ばねの撓み量により確認し、
前記先端軸部が破断する前にナットの締め付けを完了させることを特徴とする圧接方法。」
2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項2は、請求項1の記載を引用して記載されたものである。
したがって、本件補正前の請求項2に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明として相違するところがないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項2を、独立形式に書き改めて記載したものである。
そうしてみると、本件補正は、本件補正前の請求項1を削除して、本件補正前の請求項2を本件補正後の請求項1にしたものであるから、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる請求項の削除を目的とする補正である。
したがって、本件補正は適法になされたものである。
第3 原査定の拒絶の理由
(進歩性)この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2005-249087号公報
2.特開2005-155768号公報
第4 引用例の記載及び引用発明
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2005-249087号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。「・・・」は記載の省略を意味する。)。
ア「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、高力ボルトセットの製造時に、ピンテールのノッチ部の寸法管理、ねじ部の潤滑処理が必要となり、高力ボルトの締め付け時には、一次締めのトルク管理、一次締め後のマーキング、本締め、本締め後のナット回転量などの確認と工程も管理する項目が多く、コストが掛かっていた。
また、特に建設現場は、多くの場合風雨に曝される環境にあり、従来の高力ボルトセットでは、トルク係数が高くなる降雨時や降雪時あるいは粉塵が舞う環境では適正な締め付け作業ができない不具合があった。
また、従来の高力ボルトセットでは、極端な温度条件下ではボルトの表面潤滑処理に影響が生じるので、0~60℃が適用温度範囲として限定されており、そのため、寒冷地などでは適正な締め付け作業ができない不具合があった。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、作業環境の如何に拘わらず高品質管理を行なえ、コストダウン、省力化を図る上で有利な高力ボルトを用いた構造材の締結構造を提供することにある。」
イ「【0009】
締結構造18は、高力ボルト20、ナット22、皿ばね24を含んで構成され、高力ボルト20に導入張力を持たせて構造材12,14,16が締結されている。
高力ボルト20は、丸型の頭部2002と、雄ねじが形成された軸部2004とを備えている。軸部2004の先端部には、軸部2004と同軸上に断面が六角形、あるいは八角形などの形状の締め付け用孔2006が形成され、この締め付け用孔2006は軸部2004の先端面に開口している。
高力ボルト20の軸部2004は、重ね合わされた構造材12,14,16の部分を貫通するボルト挿通孔26に挿通され、頭部2002の下面は構造材16の面1602に当接されている。
・・・・
【0011】
図4は、皿ばね24に加える圧縮力F(軸方向に加える軸力)と皿ばね24の軸方向の変形量Sの関係線図を示す。
図4において、皿ばね24の特性を曲線(1)で示し、皿ばね24は、圧縮力F(軸方向に加える軸力)と軸方向の変形量Sとの関係が非線形特性を有している。
そして、皿ばね24は、前記導入張力よりも小さい値の圧縮力で弾性変形する第1の圧縮変形状態(イ)と、前記導入張力と等しい値の圧縮力で弾性変形する第2の圧縮変形状態(ロ)と、前記導入張力よりも大きい値の圧縮力で弾性変形する第3の圧縮変形状態(ハ)と、前記圧縮力によりそれ以上弾性変形できない完全に潰された(あるいは完全に変形しきった)第4の圧縮変形状態(ニ)となるように形成されている。
本実施例では、皿ばね24が均一の厚さ(肉厚)Tの鋼板製であることから、第4の圧縮変形状態(ニ)では、高さHが鋼板の厚さTと等しくなる平坦な平板形状に圧縮変形された状態となる。
そして、第4の圧縮変形状態(ニ)を越えると、圧縮力Fは急激に増加する。
したがって、皿ばね24は、第4の圧縮変形状態(ニ)となる前に、圧縮力Fが導入張力を越える第3の圧縮変形状態(ハ)となるように形成されている。
また、皿ばね24は、圧縮力Fが導入張力を越えたあたりから(第2の圧縮変形状態(ロ))を越えたあたりから)その非線形特性の曲線の傾きが小さくなるように形成されている。
【0012】
ここで導入張力とは、重ね合わされた構造材12,14,16の部分を締結する際に、軸部2004に作用させる張力の設定値(設計値)である。このような非線形特性は、皿ばね24の外径、内径、厚さT、高さH、材料を適宜設定することで得られる。
図4から明らかなように、第3の圧縮変形状態(ハ)は、圧縮力Fが導入張力と一致した第2の圧縮変形状態(ロ)と、それ以上弾性変形できない完全に潰された第4の圧縮変形状態(ニ)との間の状態であり、第3の圧縮変形状態(ハ)における軸方向の変形量Sは視認できる範囲を有しており、実施例では、軸方向の変形量Sで約2mmの範囲を有している。
【0013】
皿ばね24は、図2に示すように、その中心孔2402にボルト挿通孔26から突出する軸部2004が挿通され、その上からナット22が軸部2004に螺合される。そして、締め付け用孔2006に治具が挿入されナット22が回転操作されることで、あるいは、ナット22を回転不能に支持し締め付け用孔2006に挿入した治具を回転させることで、ナット22が軸部2004に対して締め付けられ、図3に示すように、ナット22と構造材12の面1202との間で第3の圧縮変形状態(ハ)に圧縮されている。
したがって、皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に圧縮されることで、ボルト20の軸部2004には所望の張力が導入されることになる。
【0014】
実施例1によれば、皿ばね24の形状を視認することで、すなわち、皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に変形されたか否かを視認することで、ボルト20に所望値の導入張力が付与されているか否かを簡単に判別でき、したがって、品質管理を簡単に行なえ、コストを低減しつつ高品質な締結構造が得られる。
特に、実施例では、第3の圧縮変形状態(ハ)における軸方向の変形量Sが視認できる範囲を有しているので、所望値の導入張力が付与されているか否かをより一層簡単に判別できる。
また、上述のように静的に視認できる他、第3の圧縮変形状態(ハ)になると、皿ばね24の非線形型特性の曲線の傾きが小さくなるので、例えば、作業者が負荷電力を把握できる電動式工具でボルト20を締め付ける場合、負荷電力が小さくなったところで締め付けを終了すればよく、したがって、ボルト20の軸部2004に所望の導入張力が付与されたことが、動的にも簡単に判別でき、高力ボルト20の締め付け作業の効率を高める上で有利となり、コストを低減する上で有利となる。言い換えると、所定の張力が導入されたか否かは、皿ばね24の変形量で保証され、この変形量は、目視または締め付け負荷の変化で簡単に判別(検知)できる。」
ウ「【図2】
[図:0001421199000001.jpg]
」
エ 段落【0009】には、「締結構造18は、高力ボルト20、ナット22、皿ばね24を含んで構成され、高力ボルト20に導入張力を持たせて構造材12,14,16が締結されている。」と記載され、段落【0013】には、「皿ばね24は、・・・軸部2004が挿通され、その上からナット22が軸部2004に螺合される。」と記載されている。
また、段落【0014】に記載のとおり、皿ばね24の形状を視認することを考慮すれば、図2において、皿ばね24が配置された構造材12,14,16に対する上方を「面外方向」ということができる。
よって、図2には、複数の構造材12、14、16を面外方向に重ね合わせ、前記複数の構造材12、14、16を面外方向に貫通する高力ボルト20に螺合されたナット22を締め付けて構造材を締結する締結構造が示されている。
オ 段落【0009】には、「高力ボルト20は、丸型の頭部2002と、雄ねじが形成された軸部2004とを備えている。」と記載されている。
また、図2において、「軸部2004」の一端である「頭部2002」とは反対側の他端には、軸部2004の先端があり、この先端を「先端部」ということができる。そして、「頭部2002」は、「面外方向における一方側」に配置され、「先端部」は、「面外方向における他方側」に配置されているといえる。
よって、図2には、高力ボルト20は、面外方向に沿って配置される雄ねじが形成された軸部2004と、軸部2004の一端に設けられ、複数の構造材12、14、16の面外方向における一方側に配置される頭部2002と、他端に設けられ複数の構造材12、14、16の面外方向における他方側に配置される先端部と、を有している点が示されている。
カ 図2において、「ナット22」が螺合されるのは、「他方側」であるといえる。
よって、図2には、ナット22は、複数の構造材12、14、16の他方側にて雄ねじが形成された軸部2004に螺合されることが示されている。
キ 図2には、複数の構造材12、14、16とナット22との間に皿ばね24が設けられていることが示されている。
ク 段落【0013】には、「ナット22が回転操作されることで、・・・ナット22が軸部2004に対して締め付けられ、・・・ナット22と構造材12の面1202との間で第3の圧縮変形状態(ハ)に圧縮されている。」と記載されているから、図2において、ナット22の螺進方向は、皿ばね24が圧縮される下方であるといえる。
よって、図2には、先端部は、ナット22の螺進方向と反対側に突出していることが示されている。
ケ 段落【0014】には、「皿ばね24の形状を視認することで、すなわち、皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に変形されたか否かを視認することで、ボルト20に所望値の導入張力が付与されているか否かを簡単に判別でき、したがって、品質管理を簡単に行なえ、コストを低減しつつ高品質な締結構造が得られる。」と記載されており、このような締結構造は、構造体を締結する締結方法としても理解できる。
よって、引用例1には、皿ばね24の形状を視認することで、皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に変形されたか否かを判別する構造材を締結する締結方法が記載されているといえる。
上記ア~ケの事項を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「複数の構造材12、14、16を面外方向に重ね合わせ、前記複数の構造材12、14、16を面外方向に貫通する高力ボルト20に螺合されたナット22を締め付けて構造材を締結する締結方法であって、
前記高力ボルト20は、前記面外方向に沿って配置される雄ねじが形成された軸部2004と、前記軸部2004の一端に設けられ、前記複数の構造材12、14、16の前記面外方向における一方側に配置される頭部2002と、他端に設けられ前記複数の構造材12、14、16の前記面外方向における他方側に配置される先端部と、を有しており、
前記先端部には、締め付け用孔2006が形成され、この締め付け用孔2006は軸部2004の先端面に開口しており、
前記ナット22は、前記複数の構造材12、14、16の前記他方側にて雄ねじが形成された軸部2004に螺合されており、
前記複数の構造材12、14、16と前記ナット22との間に皿ばね24が設けられており、
前記先端部は、前記ナット22の螺進方向と反対側に突出しており、
締め付け用孔2006に治具が挿入されナット22が回転操作されることで、ナット22が軸部2004に対して締め付けられ、皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に圧縮され、
皿ばね24の形状を視認することで、皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に変形されたか否かを判別する構造材を締結する締結方法。」
(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2005-155768号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている
ア「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
・・・
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、鋼構造物の組立および解体時の施工性に優れ、且つ、周辺環境にも影響を与えないボルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明に係るボルトでは、少なくとも先端部に形成されたねじ部を有する円柱状の軸部と、当該軸部の基端部に形成され、当該軸部より大きな径を有する頭部とを備えるボルトにおいて、前記ねじ部に螺合するナットの締め付けおよび取り外しの際の反力受けとなる、前記軸部より小さな径を有する把持部が、前記軸部の先端面に形成されていることを特徴とする。
本発明では、軸部先端の把持部を反力受けとしてボルトを緩めることができるため、ボルトがとも廻りせず、確実にボルトを緩めることができる。
また、本発明では、常に片側からの作業が可能であるため、作業員一人でボルトの締め付けおよび取り外しを行うことができる。
さらに、本発明では、後述するアウタースリーブとインナースリーブからなる電動スリーブを使用すれば、ナットの締め付けおよび取り外しが静的に行えるため、騒音および振動が発生しない。その結果、環境公害が生じることもない。」
イ「【0008】
次に、本発明に係るボルトを締め付ける方法および緩める方法について説明する。
図2は、本発明に係るボルトを締め付ける方法および緩める方法を示す説明図である。ここで、符号40は、本発明に係るボルトを締め付けたり、緩めたりするための電動スリーブであり、ナット2に嵌合するアウタースリーブ41と、把持部4に嵌合するインナースリーブ42とを備える。アウタースリーブ41とインナースリーブ42とは、図示しない遊星歯車機構などにより相対的に反対方向に回転させられるような構造になっている。
【0009】
被締結部材50と被締結部材51を本実施形態によるボルト1で締め付ける場合、先ず、ボルト1の軸部9に座金3を挿入し、被締結部材50と被締結部材51を貫通するように設けられた孔32にボルト1を挿入する。そして、ボルト1の軸部9に別の座金3を挿入した後、ボルト1の雄ねじ部5にナット2を螺合する。
次に、電動スリーブ40のアウタースリーブ41とインナースリーブ42をそれぞれナット2と把持部4に嵌合させた後、電動スリーブ40のスイッチを入れてアウタースリーブ41とインナースリーブ42をそれぞれ反対方向に回転させてボルト1とナット2の締め付けを行う。そして、ボルト接合部に所定のトルクが導入された時点で、ボルト1およびナット2の回転は停止する。
【0010】
一方、ボルト1を緩める場合は、電動スリーブ40のアウタースリーブ41とインナースリーブ42をそれぞれナット2と把持部4に嵌合させた後、電動スリーブ40のスイッチを入れてアウタースリーブ41とインナースリーブ42をそれぞれ締め付け時と逆方向に回転させてボルト1とナット2を緩めるものである。
【0011】
なお、本発明に係るボルトは、電動スリーブ40を用いなくとも、スパナなどの工具を用いて、締め付けたり、緩めたりすることが可能である。
【0012】
本実施形態によるボルト1では、軸部9先端の把持部4を反力受けとしてボルト1を緩めることができるため、ボルトがとも廻りせず、確実にボルトを緩めることができる。
また、本実施形態によるボルト1では、常に片側からの作業が可能であるため、作業員一人でボルトの締め付けおよび取り外しを行うことができる。
さらに、本実施形態によるボルト1では、電動スリーブ40使用に際し、アウタースリーブ41とインナースリーブ42が回転するだけであり、騒音および振動が発生しない。その結果、環境公害が生じることもない。」
ウ「【図2】
[図:0001421199000002.jpg]
」
エ 図2における、反力受けとしての把持部4がある部分を、ボルト1の「先端軸部」ということができる。
第5 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「複数の構造材12、14、16」、「高力ボルト20」は、それぞれ、本件補正発明の「複数枚の板材」、「ボルト」に相当する。
また、引用発明において、「ナット22を締め付け」れば、複数の構造体は圧接されることは明らかである。したがって、引用発明の「ナット22を締め付けて構造材を締結する締結方法」乃至「締結方法」は、本件補正発明の「ナットを締め付けて圧接する圧接方法」乃至「圧接方法」に相当する。
よって、引用発明の「複数の構造材12、14、16を面外方向に重ね合わせ、前記複数の構造材12、14、16を面外方向に貫通する高力ボルト20に螺合されたナット22を締め付けて構造材を締結する締結方法」は、本件補正発明の「複数枚の板材を面外方向に重ね合わせ、前記複数枚の板材を前記面外方向に貫通するボルトに螺合されたナットを締め付けて圧接する圧接方法」に相当する。
イ 引用発明の「軸部2004」、「頭部2002」は、それぞれ、本件補正発明の「軸本体部」、「頭部」に相当する。また、引用発明の「軸部2004」における「雄ねじが形成された」部分は、本件補正発明の「螺条軸部」に相当するから、引用発明の「雄ねじが形成された軸部2004」は、本件補正発明の「螺条軸部を有する軸本体部」に相当する。
よって、引用発明の「前記高力ボルト20は、前記面外方向に沿って配置される雄ねじが形成された軸部2004と、前記軸部2004の一端に設けられ、前記複数の構造材12、14、16の前記面外方向における一方側に配置される頭部2002と、他端に設けられ前記複数の構造材12、14、16の前記面外方向における他方側に配置される先端部と、を有」する点と、
本件補正発明の「前記ボルトは、前記面外方向に沿って配置される螺条軸部を有する軸本体部と、前記軸本体部の一端に設けられ、前記複数枚の板材の前記面外方向における一方側に配置される頭部と、他端に設けられ前記複数枚の板材の前記面外方向における他方側に配置される先端軸部と、を有」する点とは、
「前記ボルトは、前記面外方向に沿って配置される螺条軸部を有する軸本体部と、前記軸本体部の一端に設けられ、前記複数枚の板材の前記面外方向における一方側に配置される頭部と、他端に設けられ前記複数枚の板材の前記面外方向における他方側に配置される先端部分と、を有」すという限りにおいて一致する。
ウ 引用発明の「前記ナット22は、前記複数の構造材12、14、16の前記他方側にて雄ねじが形成された軸部2004に螺合されて」いる点は、本件補正発明の「前記ナットは、前記複数枚の板材の前記他方側にて前記螺条軸部に螺合されて」いる点に相当する。
エ 引用発明の「前記複数の構造材12、14、16と前記ナット22との間に皿ばね24が設けられて」いる点は、本件補正発明の「前記複数枚の板材と前記頭部との間、または、前記複数枚の板材と前記ナットとの間のいずれか一方に皿ばねが設けられて」いる点に相当する。
オ 引用発明の「前記先端部は、前記ナット22の螺進方向と反対側に突出して」いる点と、本件補正発明の「前記先端軸部は、前記ナットの螺進方向と反対側に突出して」いる点とは、「前記先端部分は、前記ナットの螺進方向と反対側に突出して」いるという限りにおいて一致する。
カ 引用発明の「治具」は、工具の一つであるから、本件補正発明の「シャーレンチなどの工具」に相当する。
また、引用発明の「締め付け用孔2006に治具が挿入されナット22が回転操作されることで、ナット22が軸部2004に対して締め付けられ」ることは、締め付け用孔2006に治具が挿入されることで軸部2004を固定した上で、ナット22を回転させるものであるから、実質的には、先端部に形成された締め付け用孔2006を反力受けとしつつナット22が締め付けられているといえる。
そして、引用発明の「皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に圧縮される」点は、本件補正発明の「前記皿ばねが所定量圧縮される」点に相当する。
よって、引用発明の「締め付け用孔2006に治具が挿入されナット22が回転操作されることで、ナット22が軸部2004に対して締め付けられ、皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に圧縮され」る点と、
本件補正発明の「シャーレンチなどの工具を用い、前記先端部を把持して反力受けとしつつ前記ナットを回転螺進させて、前記皿ばねが所定量圧縮されるまで前記ナットを締め込」む点とは、
「シャーレンチなどの工具を用い、前記先端部分を反力受けとしつつ前記ナットを回転螺進させて、前記皿ばねが所定量圧縮されるまで前記ナットを締め込」むという限りにおいて、一致する。
キ 引用発明の「皿ばね24の形状を視認する」点は、本件補正発明の「皿ばねの撓み量により確認」する点に相当する。
よって、引用発明の「皿ばね24の形状を視認することで、皿ばね24が第3の圧縮変形状態(ハ)に変形されたか否かを判別する」点は、本件補正発明の「前記皿ばねが圧縮される前記所定量は、前記皿ばねの撓み量により確認」する点に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「複数枚の板材を面外方向に重ね合わせ、前記複数枚の板材を前記面外方向に貫通するボルトに螺合されたナットを締め付けて圧接する圧接方法であって、
前記ボルトは、前記面外方向に沿って配置される螺条軸部を有する軸本体部と、前記軸本体部の一端に設けられ、前記複数枚の板材の前記面外方向における一方側に配置される頭部と、他端に設けられ前記複数枚の板材の前記面外方向における他方側に配置される先端部分と、を有しており、
前記ナットは、前記複数枚の板材の前記他方側にて前記螺条軸部に螺合されており、
前記複数枚の板材と前記頭部との間、または、前記複数枚の板材と前記ナットとの間のいずれか一方に皿ばねが設けられており、
前記先端部分は、前記ナットの螺進方向と反対側に突出しており、
シャーレンチなどの工具を用い、前記先端部分を反力受けとしつつ前記ナットを回転螺進させて、前記皿ばねが所定量圧縮されるまで前記ナットを締め込み、
前記皿ばねが圧縮される前記所定量は、前記皿ばねの撓み量により確認する圧接方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
ボルトの先端部分に関して、本件補正発明は「先端軸部」であるのに対し、引用発明では「先端部」である点。
[相違点2]
先端部分を反力受けとする点に関して、本件補正発明では、先端軸部を「把持」するのに対し、引用発明では、先端部に形成された「締め付け用孔2006に治具が挿入」される点。
[相違点3]
本件補正発明は、「前記ボルトは、前記皿ばねが前記所定量圧縮されるまで前記ナットが締め込まれる前に剪断破壊しない強度を有」するのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
[相違点4]
本件補正発明は、「前記先端軸部が破断する前にナットの締め付けを完了させる」のに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
第6 判断
1 相違点1、2について検討する。
相違点1、2は、いずれもボルトの先端部分に関することなので、まとめて検討する。
引用例2には、複数の被締結部材50、51をボルト1とナット2で締め付ける場合に、ボルト1の先端軸部に把持部4をナット2の反力受けとしてボルト1の締め付けを行う方法が記載されている(以下「引用例2記載の事項」という。)。
引用発明と引用例2記載の事項とは、共に複数の板材をボルトとナットで締め付けを行う方法である点で共通しており、ボルトの先端部分を反力受けとしてボルトの締め付けを行うという機能においても共通する。
そして、引用発明において、先端部を反力受けとするための構造は、その反力受けとしての機能を有する限りにおいて、当業者が適宜決定する設計事項といえるところ、引用発明の「先端部」に形成した「締め付け用孔2006」に代えて、引用例2記載の事項の「先端軸部」に「把持部4」を設ける構造を採用し、上記相違点1、2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
2 相違点3について検討する。
引用例1の段落【0012】には、「ここで導入張力とは、重ね合わされた構造材12,14,16の部分を締結する際に、軸部2004に作用させる張力の設定値(設計値)である。このような非線形特性は、皿ばね24の外径、内径、厚さT、高さH、材料を適宜設定することで得られる。」と記載されている。
すなわち、引用発明の高力ボルト20は、皿ばね4との関係において軸部2004の設計値が設定されているから、皿ばねが所定量圧縮されるまでナットが締め込まれる前に剪断破壊しない強度を有することは明らかである。
よって、上記相違点3に係る本件補正発明の構成は、実質的な相違点とはいえない。
仮に、上記相違点3に係る本件補正発明の構成が実質的な相違点であるとしても、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得たことである。
3 相違点4について検討する。
通常のボルトであれば、ナットの締め付けにより先端部が破断しないような強度を有することは技術常識であるから、引用発明において、高力ボルト20の先端部が破断する前にナット22の締め付けが完了することは明らかである。(なお、トルシアボルトの場合は、ナットの締め付けにより先端部が破断するが、本件補正発明の高力ボルト20はトルシアボルトに限定されるものではない。)
また、引用発明の「先端部」を、引用例2記載の事項の「先端軸部」とすることは、上記相違点1、2で検討したとおりである。
よって、引用発明に引用例2記載の事項を採用し、上記相違点4に係る本件補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
4 本件補正発明が奏する効果について
上記相違点1~4によって本件補正発明が奏する効果は、当業者が引用発明及び引用例2記載の事項から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。
5 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「すなわち、上記必須要件とする目的は、[0013]に記載の「皿ばね24が圧縮変形状態(ハ)に圧縮されることで、ボルト20の軸部2004には所望の張力が導入される」ことであるが、その実現のためには、[0013]に記載の「締め付け用孔2006に治具が挿入されナット22が回転操作されることで、あるいは、ナット22を回転不能に支持し締め付け用孔2006に挿入した治具を回転させること」が必須の解決手段と解されます。」と主張する(第4頁第15~20行)。
上記請求人の主張について検討する。
引用例1には、作業環境の如何に拘わらず高品質管理を行なえ、コストダウン、省力化を図る上で有利な高力ボルトを用いた構造材の締結構造を提供することを課題とし(段落【0004】)、このような課題を解決するために、複数の構造材の重ね合わされた部分のボルト挿通孔に挿通された高力ボルトと、前記ボルト挿通孔から突出する高力ボルトの軸部に螺合されるナットとにより前記複数の構造材の部分を前記高力ボルトに導入張力を持たせて締結する構造であって、かつ皿ばねが設けられ、皿ばねが第3の圧縮変形状態に変形されたか否かを視認することで、ボルトに所望値の導入張力が付与されているか否かを簡単に判別できるようにしたことが記載されている(段落【0005】、【0006】)。
したがって、引用例1に記載された課題及び課題を解決するための手段からみて、「締め付け用孔2006に治具が挿入されナット22が回転操作される」ことは、必須の解決手段とは認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。
6 まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用例2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-005039