特許拒絶査定不服審判
2017-004976
多次元幾何学的形状を用いたコーティングされた表面のテクスチャ分析のためのシステムおよび方法
- 審判番号
- 2017-004976
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-558235外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年04月07日
- 審決日
- 2018年03月06日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】ピーピージー・インダストリーズ・オハイオ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】山本 秀策
- 【請求人代理人】森下 夏樹
- 分類
- P18 .113-WY (G01N) / P18 .121-WY (G01N) / P18 .537-WY (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-558235「多次元幾何学的形状を用いたコーティングされた表面のテクスチャ分析のためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月2日国際公開、WO2014/158959、平成28年3月7日国内公表、特表2016-507073、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
この審判事件に関する特許出願(以下、「本願」という。)は、2013年(平成25年)3月14日にアメリカ合衆国でされた特許出願に基づくパリ条約の優先権を主張して平成26年3月6日にされた国際特許出願である。そして、平成28年12月28日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、平成29年1月5日に査定の謄本が送達された。
これに対して、同年4月7日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に特許請求の範囲についての補正がされた。
その後、当審は、同年10月24日付けで拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、請求人は、平成30年1月25日に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)をするとともに意見書(以下、「本件意見書」という。)を提出した。
第2 本願に係る発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項16に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明16」といい、本願発明1ないし本願発明16を総称して「本願各発明」という。)は、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項16に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
コンピュータ実装方法であって、
プロセッサを使用して、標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから多次元幾何学的物体を生成するステップであって、前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている、ステップと、
前記プロセッサを使用して、前記多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性を計算するステップであって、前記少なくとも1つの幾何学的特性は、体積値を含む少なくとも1つの値を有する、ステップと、
前記プロセッサを使用して、前記少なくとも1つの値を複数の既知の値と相関付け、前記標的コーティング中の少なくとも1つの顔料効果を識別するステップと、
前記プロセッサを使用して、前記少なくとも1つの顔料効果を出力するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
多次元幾何学的物体を生成するステップは、3次元物体を生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多次元幾何学的物体を生成するステップは、4次元物体を生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
多次元幾何学的物体を生成するステップは、入射光角度、反射光角度、スペクトル反射値、および平面表現のうちの少なくとも1つに基づいて、前記物体を生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
多次元幾何学的物体を生成するステップは、複数の波長でのスペクトル反射データに基づいて、前記物体を生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
多次元幾何学的物体を生成するステップは、スペクトル反射データおよび比色データのうちの少なくとも1つを使用して、前記物体を生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
多次元幾何学的物体を生成するステップは、入射光源データに基づいて、前記物体の1辺を生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの値を計算するステップは、複数の波長のうちの少なくとも1つのための少なくとも1つの値を計算するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記既知の値は、複数の顔料効果と関連付けられる代表値である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
データベースと、
前記データベースと通信するプロセッサであって、
標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから多次元幾何学的物体を生成することであって、前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている、ことと、
前記多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性を計算することであって、前記少なくとも1つの幾何学的特性は、体積値を含む少なくとも1つの値を有する、ことと、
前記少なくとも1つの値を複数の既知の値と相関付け、前記標的コーティング中の少なくとも1つの顔料効果を識別することと、
前記少なくとも1つの顔料効果を出力することと、
を行うようにプログラムされる、プロセッサと、
を備える、システム。
【請求項11】
前記プロセッサと通信する分光光度計をさらに備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記プロセッサはさらに、前記既知の値を前記データベースから読み出すようにプログラムされる、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記プロセッサと通信するディスプレイデバイスをさらに備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから多次元幾何学的物体を生成するための手段であって、前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている、手段と、
前記多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性を計算するための手段であって、前記少なくとも1つの幾何学的特性は、体積値を含む少なくとも1つの値を有する、手段と、
前記少なくとも1つの値を複数の既知の値と相関付け、前記標的コーティング中の少なくとも1つの顔料効果を識別するための手段と、
前記少なくとも1つの顔料効果を出力するための手段と、
を備える、装置。
【請求項15】
前記既知の値をデータベースから読み出すための手段をさらに備える、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
ソフトウェアを含む非一過性コンピュータ可読媒体であって、
前記ソフトウェアは、
標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから多次元幾何学的物体を生成することであって、前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている、ことと、
前記多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性を計算することであって、前記少なくとも1つの幾何学的特性は、体積値を含む少なくとも1つの値を有する、ことと、
前記少なくとも1つの値を複数の既知の値と相関付け、前記標的コーティング中の少なくとも1つの顔料効果を識別することと、
前記少なくとも1つの顔料効果を出力することと、
をプロセッサに行わせる、非一過性コンピュータ可読媒体。」
なお、本願発明2ないし本願発明9は、いずれも本願発明1の構成を全て含む。
本願発明10は、本願発明1に係る方法の各ステップを実行するようにプログラムされるプロセッサを備えるシステムの発明である。本願発明11ないし本願発明13は、いずれも本願発明10の構成を全て含む。
本願発明14は、本願発明1に係る方法の各ステップを実行する手段を備える装置の発明である。本願発明15は、本願発明14の構成を全て含む。
本願発明16は、本願発明1に係る方法の各ステップをプロセッサに実行させるソフトウェアを含む非一過性コンピュータ可読媒体の発明である。
第3 原査定の概要
本願の請求項1ないし請求項6及び請求項8ないし請求項17のそれぞれに係る発明は、後記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、後記の引用文献1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項7に係る発明は、後記の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特表2008-539439号公報
引用文献2:特表2010-510520号公報
第4 当審拒絶理由の概要
本願は、特許請求の範囲の記載が後記(1)ないし(3)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1、請求項11、請求項15及び請求項17には、「標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから構築される多次元幾何学的物体を生成する」と記載されているが、「分光光度測定から取得された複数のデータ」と「多次元幾何学的物体」とがどのような関係にあるのか分からない。
したがって、請求項1、請求項11、請求項15及び請求項17のそれぞれに係る発明は、いずれも明確でない。請求項1、請求項11又は請求項15の記載を引用して記載された請求項2ないし請求項10,請求項12ないし請求項14及び請求項16のそれぞれに係る発明も、同様である。
(2)請求項1には、「前記多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性を計算するステップであって、前記少なくとも1つの幾何学的特性は、体積値を含む少なくとも1つの値を有する、ステップ」と記載されているから、請求項1に係る発明は、「多次元幾何学的物体」の「幾何学的特性」として「体積値」を計算するものである。
そして、請求項1の記載を引用して記載された請求項2には、「多次元幾何学的物体を生成するステップは、2次元平面を生成するステップを含む」と記載されているから、「多次元幾何学的物体」は「2次元平面」であってもよい。
そうすると、請求項2に係る発明は、「2次元平面」の「幾何学的特性」として「体積値」を計算するものということになるが、「2次元平面」の「体積値」とは何を指すのか分からない。
したがって、請求項2に係る発明は、明確でない。
(3)請求項5に記載された「平面表現」は、明細書の記載を参酌しても、何を指すのか分からない。
したがって、請求項5に係る発明は、明確でない。
第5 引用文献に記載された発明等
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。
「【0003】
たとえば、或る限られた数の視認方向及び照明方向にわたって反射率を測定する離散多角分光計(discrete multi-angle spectrometer)を用いることが知られている。そのようなデバイスの一例は、X-RITE社から市販されるMA68である。しかしながら、これらのデバイスは全て、限られた数の視認方向(たとえば、同一平面方向)しか考慮しないか、たとえば、全ての方向にわたって加算するか、又は平均をとることによって、全ての視認角から導出されるデータをまとめて考慮するかのいずれかである。結果として、既知の離散多角分光計によって与えられる結果は、表面外観の指向性変化を反映しない。コーティング業界を引き合いに出すと、これらの結果は、従来の塗料、顔料及びコーティングを含む、表面特性のうちのいくつかの特性を測定するのに役に立つ可能性がある。しかしながら、それらの結果は、今日、自動車、船舶、通貨、民生プラスチック、化粧品等に見られるような、異なる角度から視認されるときに異なる外観を有する、特殊な塗料、顔料及び他の特殊コーティングを有する表面の特性を測定するのには役に立たない。たとえば、サンプルに制限がある多角分光計は、たとえば、或る角度から見ると或る色(たとえば、白色)に見え、別の角度から見ると別の色(たとえば、ピンク色)に見える真珠光沢の自動車用塗料のような干渉コーティングの特性を測定するのには役に立たない。また、それらの分光計は通常、表面の特性を、たとえば、コーティング配合及び/又は塗布工程の要因に起因する、表面の物理的な特徴に結び付けるだけの十分に細かい結果を提供しない。
【0004】
既知の離散多角分光計の短所のうちのいくつかは、変角分光光度計(goniospectrometer)及びパルーシアメータ(parousiameter)のような、表面の完全な双方向反射率分布関数(Bidirectional Reflectance Distribution Function)(BRDF)を測定するデバイスによって対処される。これらのデバイスによって生成される完全なBRDFは、表面からの散乱の豊富な特徴を、照明角、視認角、波長及び他の変数の関数として与える。しかしながら、BRDFを測定する既知のデバイスはいずれも、大きな欠点を有する。」
「【0006】
[概要]
包括的な一態様では、本発明は、表面の、空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数(BRDF)を測定するための装置に関する。その装置は、第1の照明方向から表面を照明するように向けられる第1の光源と、表面によって反射される光を受光するように配置される複数のセンサとを備えてもよい。複数のセンサは、第1、第2、第3の、同一平面上にない方向において表面によって反射される光を受光するように配置される、第1のセンサ、第2のセンサ及び第3のセンサを含むことがある。種々の実施の形態において、その装置は、複数のセンサと通信するコンピュータを備えることができる。そのコンピュータは、第1の反射方向、第2の反射方向及び第3の反射方向を考慮して、複数のセンサによって検知される光を、その表面の第1の外観特性に変換するように構成される。
【0007】
別の包括的な態様では、本発明は、或る表面の空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数(BRDF)を測定するための方法に関する。当該方法は、第1の照明方向から表面上に入射する第1の光源で表面を照明するステップと、複数の反射方向において表面によって反射される複数の波長の光を検知するステップとを含む。複数の反射方向は、第1の反射方向、第2の反射方向及び第3の反射方向を含む。当該方法は、第1の反射方向、第2の反射方向及び第3の反射方向を考慮して、光を表面の第1の外観特性に変換するステップも含む。」
「【0010】
[発明の詳細な説明]
本発明の実施形態は、表面の、空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数(BRDF)を測定及び/又は解析する方法及び装置に向けられる。或る表面に光が入射するとき、その光の一部は、種々の方向にわたってその表面から離れるように、反射されるか、散乱されるか、又はそれ以外の方式で誘導される。表面のBRDFは、全ての波長及び反射方向にわたる、この反射率の強度を、照明角及び他の変数(たとえば、偏光)の関数として表現するものである。種々の実施形態によれば、反射率の強度を或る離散的な数の反射方向においてのみ測定することによって、或る表面のBRDFが空間的にアンダーサンプリングされる。種々の実施形態において、離散した反射方向は、同一平面上にない方向にすることができる。その後、測定された反射率を処理して、観測されている表面の外観特性を導出することができる。その外観特性は、測定された反射率によって記録されるような、方向に依存する表面の外観変化を反映することができる。
【0011】
図1は、種々の実施形態による、或る表面の空間的にアンダーサンプリングされたBRDFを測定し、処理するためのプロセスフロー100を示す流れ図を示す。ステップ102では、その表面に光を向けることができる。その光は、1つ又は複数のビームとして形成することができ、コリメート(collimate)されても、されなくてもよい。その光は、1つ又は複数の広範なスペクトルの照明源から発してもよく、1つ又は複数の照明方向から、その表面に入射してもよい。照明源及び照明方向の数は、特定の応用形態によって異なることがある。しかしながら、照明源及び/又は照明方向の数を増やすと、結果として生成されるBRDFの品質を高めることができることは理解されよう。1つ又は複数の照明方向は、表面法線に対して任意の角度を成すことがあることが理解されよう。しかしながら、種々の実施形態において、1つ又は複数の照明方向は、表面法線に対して、0度~65度(たとえば、0度、45度等)の角度を成すことができる。
【0012】
ステップ104では、複数の離散した反射方向において、その表面からの反射率の強度を測定することができる。これらの測定された反射率は、対応する反射方向と共に、その表面の空間的にアンダーサンプリングされたBRDFを表すことは理解されよう。種々の実施形態において、反射方向の完全な組は同一平面上にないものとすることができる。また、種々の実施形態において、各反射方向において何度も測定を行うことができ、測定される度に、或る特定の波長又は波長範囲における反射率強度が記録されていく。種々の実施形態において、複数の離散した反射方向毎に1つのセンサを固定して、複数の固定されたセンサからそれらの測定を行うことができる。反射率は離散した方向においてのみ測定されており、あらゆる方向においては測定されないので、反射率を測定するのにかかる時間は、完全なBRDFデバイス(たとえば、変角分光光度計及びパルーシアメータ)によってかかる時間よりも少ないことは理解されよう。種々の実施形態において、それらの測定は、5秒未満で行うことができる。
【0013】
空間的にアンダーサンプリングされたBRDFは、各反射方向において観測された強度を表す、一連の反射率ベクトルとして表すことができる。たとえば、観測された反射方向はそれぞれ、その反射方向を指しているベクトルを有することができ、その大きさは、その反射方向において観測される反射率強度に等しい。1つの反射方向において複数の波長又は波長範囲が観測される場合には、その反射方向は、複数の波長又は波長範囲のそれぞれに対応する1つのベクトルを有することができることは理解されよう。
【0014】
例示として、図2は、1つの例示的な表面202を示しており、光が照明方向204から表面202に入射する。同一平面上にない3つの離散した反射方向206、208、210が観測される。図3は、種々の実施形態による、別の例示的な表面302を示しており、1つの照明方向304からの入射光と、11個の観測される反射方向306、308、310、312、314、316、318、320、322、324及び326とを有する。反射方向の数及び同一性(identity)は異なることがあることは理解されよう。たとえば、種々の実施形態において、5個~15個の反射方向が存在することがある。また、種々の実施形態において、それらの反射方向は、業界標準反射方向(たとえば、15度、25度、45度、75度及び100度の非鏡面反射角を有する方向)を含むことがある。また、種々の実施形態において、反射方向のうちの少なくとも1つが、表面の表面法線に対する照明方向に直交するように選択されることがある。」
「【0017】
再び図1を参照すると、ステップ106では、ステップ104において測定された反射率を処理して、表面の1つ又は複数の外観特性を生成することができる。空間的にアンダーサンプリングされたBRDFそのものが表面の1つの外観特性であると見なすこともできるが、たとえば、BRDFを操作することによって、他の外観特性が生成されることがあることは理解されよう。それらの外観特性のうちの少なくとも1つが、その表面の指向性の外観差を反映することがあり、その差は、測定された反射率強度及び反射方向に固有である。種々の実施形態において、BRDFに対して操作を行うことによって、さらなる特性が見いだされることがある。たとえば、図5は、測定された反射率を、その表面のBRDFのための数学的なモデルに結び付けて、特定の数学的な操作を実行することによって、測定された反射率を処理する、プロセスフロー500を示しており、以下に説明される。別の例として、図8は、BRDFデータの種々のモーメントを解析するためのプロセスフロー800を示す。」
「【0026】
図8は、BRDFの1つ又は複数のモーメントを用いて、表面特性を指示する値を導出するためのプロセスフロー800を示す。ステップ802では、第1のモーメント、すなわち重み付けされた指向性応答を求めることができる。重み付けされた方向応答は、所与の波長又は波長範囲にわたって観測される強度及び反射方向を表す各ベクトルの、全てのベクトル和にすることができる。複数の波長又は波長範囲が考慮される場合、考慮される波長又は波長範囲毎に、重み付けされた指向性応答を計算することができることは理解されたい。」
「【0030】
重み付けされた指向性応答は、その表面の種々の特性に結び付けられることがある。たとえば、コーティングを有する表面の場合、重み付けされた指向性応答を用いて、2つの表面間の塗布工程の変動を特定することができる。たとえば、2つの表面が、表面上のコーティングの塗布工程においてのみ異なるとき、通常は、第1の表面の重み付けされた指向性応答を、第2の表面の重み付けされた指向性応答に変換することができる。必要な平行移動、回転及びスケーリングを、特定の塗布工程の変動に実験的に結び付けることができる。
【0031】
ステップ804では、その表面の平均スペクトルの第1のモーメントを求めることができる。平均スペクトルの第1のモーメントは、その方向が平均スペクトルの第1のモーメントを表すベクトルにすることができる。ステップ806では、重み付けされたスペクトル空間分布関数を求めることができる。重み付けされたスペクトル空間分布は、重み付けされた指向性応答の方向的エンドポイントによって定義される全体的な線形状を記述する関数にすることができる。これらの外観特性(たとえば、平均スペクトルの第1のモーメント及び重み付けされたスペクトル空間分布)はいずれも、その表面の種々の物理的特性に実験的に結び付けることができる。
【0032】
図9は、種々の実施形態による、たとえば上記のような、表面の空間的にアンダーサンプリングされたBRDFを測定及び/又は解析する方法を実施するために用いることができるシステム901の図を示す。システム901は、測定デバイス900を含み、また、たとえばサーバ922、ユーザ装置926及び/又はデータベース924のような、他の種々の他の情報記憶デバイス、処理デバイス及び/又はインターフェースデバイスも含むことができる。システム901の種々のデバイス900、922、924、926は、ネットワーク920を介して互いにコンタクトすることができ、ネットワーク920として任意の適当なタイプの有線又は無線ネットワークを用いることができる。
【0033】
種々の実施形態において、測定デバイス900は、光学ユニット902及び電子工学ユニット904を含むことができる。光学ユニット902は、検査中の表面906に向かって光908を誘導するように構成される照明光学系912と、表面906からの光908を受光すると共にその反射率910を検知するための受光光学系914とを含むことができる。たとえば、照明光学系912及び受光光学系914は、上記のように、表面906の空間的にアンダーサンプリングされたBRDFを検知することができる。電子工学ユニット904は、光学ユニット902によって生成される反射率結果を処理することができる。種々の実施形態において、電子工学ユニット904は、表面の外観特性を導出し、且つ/又は外観特性を物理的特性に関連付けるための計算ロジック916を含むことがある。ユーザインターフェースモジュール918が、結果(たとえば、生の反射率データ、外観特性、物理的特性等)を、デバイス900のユーザに提供することができる。種々の実施形態において、結果を処理すること及び提供することのうちのいくつか、又は全てが、そのシステムの処理用の他の構成要素(たとえば、サーバ922、データベース924、ユーザ装置926)によって実行されることもある。たとえば、サーバ922及びユーザ装置926は、処理を実行して、外観特性及び/又は物理的特性を導出することができ、その処理の結果が、ユーザインターフェース926を通して、ユーザに提供されることがあり、データベース924は、測定された反射率と表面特性との間の実験的な相関を格納することができる。」
「【0035】
受光光学系914は、離散した反射方向に沿って配置される1つ又は複数のセンサ915を備えることがある。種々の実施形態において、センサ915は、たとえば、図2に示される反射方向206、208及び210のような、同一平面上にない反射方向を検知するように配置されることがある。センサ915として、反射率を(たとえば、複数の離散した波長範囲にわたって)測定するのに適している任意の種類の撮像又は非撮像のセンサ又はセンサアセンブリを用いることができる。たとえば、センサ915は、1つ又は複数のフォトダイオードを含むことができる。任意の適当な種類の波長弁別装置(たとえば、任意の種類のバンドパススペクトルフィルタ、回折格子分光器等)をフォトダイオードの前に配置して、離散した波長範囲を検知することができる。たとえば、図16のセンサ1602によって示されるように、MAZet Jencolour製品群が用いられることがある。種々の実施形態において、複数のバンドパスフィルタを含むホイール又は他の可動デバイスを、フォトダイオードの前に選択的に配置することができ、1つのフォトダイオードがいくつかの離散した波長範囲を測定できるようにする。他の種々の実施形態では、各反射方向に沿って、複数のフォトダイオードを配設することができ、複数のフォトダイオードはそれぞれ、1つの個別のバンドパスフィルタを有する。センサ915は、対数応答又はピクセルの小さなアレイを有するカメラ(たとえば、Taos社から市販されるTCS230製品群)のような、たとえば、RGBセンサのような、同時に複数の波長範囲を離散的に測定することができる広帯域検出器を含むことができることは理解されよう。」
「【0040】
図17は、上記の方法及び/又は装置を用いて、未知の表面の特性を特定するための1つの例示的なプロセスフロー1700を示す。ステップ1702、1704、1706及び1708では、その表面の観測された反射率又はBRDFから、種々の外観特性を導出することができる。たとえば、ステップ1704では、重み付けされたスペクトル空間分布の大きさを求めることができる。ステップ1704では、その表面の積分された(integrated)BRDFを求めることができる。ステップ1706では、その表面の積分されたBSDFを求めることができる。種々の実施形態において、ステップ1708では、その表面の格子線構造を求めることができる。ステップ1710では、外観特性が、以下の参照表1のような参照表と比較され、未知の表面、及び/又はその表面の物理的特性が特定される。参照表は、たとえば、データベース924によって、及び/又はデバイス900の電子工学ユニット904によって格納されることがあることは理解されよう。」
【0041】【表1】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図17】
(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の前記(1)の記載によれば、以下のことが認められる。
ア 引用文献1には、表面の空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数を測定するBRDF測定方法が記載されている(【0007】)。
イ 表面の空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数を測定するBRDF測定方法は、既知の離散多角分光計によって与えられる結果は異なる角度から視認されると異なる外観を呈する特殊コーティング(例えば、ある角度からは白色に見え、別の角度からはピンク色に見える真珠光沢の自動車用塗料のような干渉コーティング)を有する表面の特性の測定に役に立たない一方、表面の完全な双方向反射率分布関数を測定することでこの短所に対処できる変角分光光度計及びパルーシアメータは大きな欠点を有するという課題を解決しようとするものであるから(【0003】、【0004】)、測定対象として想定される表面は、異なる角度から視認されると異なる外観を呈する特殊コーティングを有する表面であると認められる。
ウ 表面の空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数を測定するBRDF測定方法は、表面に光を向けるステップ102と、表面からの反射率の強度を測定するステップ104と、測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106とを含む(【0010】ないし【0012】、【0017】、図1)。
エ ステップ104では、同一平面上にない複数の離散した反射方向において、表面からの反射率の強度を測定し、また、各反射方向において何度も測定を行い、測定のたびに特定の波長における反射率強度を記録する(【0010】、【0012】)。
すなわち、ステップ104では、同一平面上にない複数の離散した反射方向のそれぞれにおいて、複数の波長のそれぞれについて、表面からの反射率の強度を測定する。
オ 複数の離散した反射方向のそれぞれにおいて、複数の波長のそれぞれについて測定された表面からの反射率の強度は、その反射方向を向き、その波長における反射率の強度に等しい大きさを有する反射率ベクトルとして表される(【0013】、【0014】、図2)。
カ ステップ106は、外観特性として、複数の反射率ベクトルのベクトル和を波長ごとに計算して波長ごとの重み付けされた指向性応答を求めるステップ802と、別の外観特性として、表面の平均スペクトルの第1のモーメントを表すベクトルを求めるステップ804と、さらに別の外観特性として、波長ごとの重み付けされた指向性応答の方向的エンドポイントによって定義される全体的な線形状を記述する関数である重み付けされたスペクトル空間分布関数を求めるステップ806とを含み、これらの外観特性が表面の種々の特性に実験的に結び付けられる(【0017】、【0026】、【0030】、【0031】、図8)。
キ 表面の空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数を測定するBRDF測定方法は、測定デバイス900とサーバ922とデータベース924とユーザ装置926とを含むシステム901であって、測定デバイス900、サーバ922、データベース924及びユーザ装置926がネットワーク920を介して互いにコンタクトするシステム901によって実施される(【0032】、図9)。
ク 測定デバイス900は、光学ユニット902と電子工学ユニット904とを含み、光学ユニット902は、表面906に向かって光908を誘導する照明光学系912と、表面906からの光908を受光するとともにその反射率910を検知する受光光学系914とを含み、電子工学ユニット904は、表面906の外観特性を導出し、それを物理的特性に関連付ける計算ロジック916と、外観特性及び物理的特性をユーザに提供するユーザインターフェースモジュール918とを含む(【0033】、図9)。
ケ 受光光学系914は、複数の離散した反射方向のそれぞれに沿って配置された複数のセンサ915を備える(【0035】)。
コ 表面の空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数を測定するBRDF測定方法を実施する装置は、複数のセンサと通信するコンピュータを備えることから(【0006】)、計算ロジック916を含む電子工学ユニット904は、コンピュータによって実現されていると認められる。
サ データベース924は、測定された反射率と表面特性との間の実験的な相関を格納する(【0033】、図9)。
シ 以上のことをまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「異なる角度から視認されると異なる外観を呈する特殊コーティングを有する表面に光を向けるステップ102と、
同一平面上にない複数の離散した反射方向のそれぞれにおいて、複数の波長のそれぞれについて、表面からの反射率の強度を測定するステップ104であって、表面からの反射率の強度は、その反射方向を向き、その波長における反射率の強度に等しい大きさを有する反射率ベクトルとして表されるステップ104と、
測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106であって、外観特性として、複数の反射率ベクトルのベクトル和を波長ごとに計算して波長ごとの重み付けされた指向性応答を求めるステップ802と、別の外観特性として、表面の平均スペクトルの第1のモーメントを表すベクトルを求めるステップ804と、さらに別の外観特性として、波長ごとの重み付けされた指向性応答の方向的エンドポイントによって定義される全体的な線形状を記述する関数である重み付けされたスペクトル空間分布関数を求めるステップ806とを含み、これらの外観特性が表面の種々の特性に実験的に結び付けられるステップ106とを含む、
表面の空間的にアンダーサンプリングされた双方向反射率分布関数を測定するBRDF測定方法であって、
測定デバイス900とサーバ922とデータベース924とユーザ装置926とを含むシステム901であって、測定デバイス900、サーバ922、データベース924及びユーザ装置926がネットワーク920を介して互いにコンタクトするシステム901によって実施され、
測定デバイス900は、光学ユニット902と電子工学ユニット904とを含み、
光学ユニット902は、表面906に向かって光908を誘導する照明光学系912と、表面906からの光908を受光するとともにその反射率910を検知する受光光学系914とを含み、
受光光学系914は、複数の離散した反射方向のそれぞれに沿って配置された複数のセンサ915を備え、
電子工学ユニット904は、表面906の外観特性を導出し、それを物理的特性に関連付ける計算ロジック916と、外観特性及び物理的特性をユーザに提供するユーザインターフェースモジュール918とを含むコンピュータによって実現され、
データベース924は、測定された反射率と表面特性との間の実験的な相関を格納する、
BRDF測定方法。」
2 引用文献2
引用文献2には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴニオ外観性(gonioapparent)の材料または表面の、特に金属フレーク顔料または特殊な効果フレーク顔料(effect flake pigments)(典型的には色相変化干渉顔料(hue shifting interference pigments)である)などの効果フレーク顔料を含んでいる材料または表面の双方向反射分布関数(BRDF)を、限られた測定データで生成するための方法に関する。」
「【0035】
標本のBRDFを生成するための方法の第1ステップ(A)では、照射角Θiおよび反射散乱角Θrの関数としてスペクトルデータまたは測色データのいずれかを含む測光データρ’(ΘiΘr)を取得し、コンピュータ・デバイスへ入力する。このデータは、データベース(ここで、この測光データは典型的には3つの異なる角度で以前に測定されたものである)から取得できるか、または典型的には3つの異なる角度で標本の測定を実際に行うことによって取得できるか、または典型的には3つの異なる角度での標本の模擬データとして取得できる。一般に使用される照射角および反射散乱角の組合わせは、45:-30(15の場合)、45:0(45の場合)および45:65(110の場合)であり、これらは15、45および110度の非鏡面反射角になる。非鏡面反射角の組合わせ15、45、および75度ならびに25、45および75度になるようなものなど、同様の非鏡面反射角の組合わせになる他の適切な照射角と反射散乱角の組合わせを使用してもよい。」
第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 引用発明の「測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106」は、「外観特性として、複数の反射率ベクトルのベクトル和を波長ごとに計算して波長ごとの重み付けされた指向性応答を求めるステップ802」、「別の外観特性として、表面の平均スペクトルの第1のモーメントを表すベクトルを求めるステップ804」及び「さらに別の外観特性として、波長ごとの重み付けされた指向性応答の方向的エンドポイントによって定義される全体的な線形状を記述する関数である重み付けされたスペクトル空間分布関数を求めるステップ806」を含むから、計算によって外観特性を求めるステップであることが明らかである。
一方、引用発明の「BRDF測定方法」は、「表面906の外観特性を導出し、それを物理的特性に関連付ける計算ロジック916と、外観特性及び物理的特性をユーザに提供するユーザインターフェースモジュール918とを含むコンピュータによって実現され」る「電子工学ユニット904」を含む「システム901によって実施され」る。
そうすると、引用発明の「BRDF測定方法」の「測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106」を実施するのは、「コンピュータによって実現され」る「電子工学ユニット904」、すなわち、コンピュータであるということができる。
したがって、引用発明の「測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106」は、本願発明1の「コンピュータ実装方法」に相当する。
イ コンピュータがプロセッサを有し、コンピュータの動作がプロセッサによって制御されることは、技術常識であるから、引用発明の「測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106」は、それ自体も、それに含まれる各ステップも、プロセッサを使用して実行されることが明らかである。
したがって、引用発明の「測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106」及びそれに含まれる各ステップと本願発明1の各ステップとは、いずれも「プロセッサを使用して」実行される点で共通する。
ウ 引用発明の「異なる角度から視認されると異なる外観を呈する特殊コーティングを有する表面」は、本願発明1の「標的コーティング」に相当する。
エ 引用発明の「表面からの反射率の強度」は、「同一平面上にない複数の離散した反射方向のそれぞれにおいて、複数の波長のそれぞれについて」「測定する」結果として得られることから、複数の測定値であることが明らかであるし、「複数の波長のそれぞれについて」「測定する」結果として得られることから、分光光度測定で得られる測定値であることも明らかである。
したがって、前記ウを踏まえると、引用発明の「同一平面上にない複数の離散した反射方向のそれぞれにおいて、複数の波長のそれぞれについて」「測定する」結果として得られる「表面からの反射率の強度」は、本願発明1の「標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータ」に相当する。
オ 引用発明の「複数の波長のそれぞれについて」「測定する」結果として得られる「表面からの反射率の強度」は、引用発明を実施する「システム901」の「測定デバイス900」の「光学ユニット902」に含まれる「表面906からの光908を受光するとともにその反射率910を検知する受光光学系914」によって測定されるから、「受光光学系914」が分光光度測定を行うことは明らかである。
したがって、前記ウ及びエを踏まえると、引用発明の「表面906からの光908を受光するとともにその反射率910を検知する受光光学系914」は、本願発明1の「分光光度計」に相当する。
カ 引用発明の「表面からの反射率の強度」が「その反射方向を向」いた「反射率ベクトルとして表される」のは、「受光光学系914」が「複数の離散した反射方向のそれぞれに沿って配置された複数のセンサ915を備え」ることに由来するから、引用発明の「表面からの反射率の強度」は、「受光光学系914」の「複数のセンサ915」の配置に関連付けられているということができる。
したがって、前記ウないしオを踏まえると、引用発明の「表面からの反射率の強度」が「その反射方向を向」いた「反射率ベクトルとして表され」ることは、本願発明1の「前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている」ことに相当する。
キ 引用発明の「波長ごとの重み付けされた指向性応答」は、「複数の反射率ベクトルのベクトル和を波長ごとに計算して」「求める」ものであり、「測定された反射率を処理して」「生成する」「表面の外観特性」の一つである。
したがって、前記エを踏まえると、引用発明の「波長ごとの重み付けされた指向性応答」と、本願発明1の「標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから」「生成する」「多次元幾何学的物体」とは、「標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから」「生成する」「二次データ」である点で共通する。
ク 前記イないしキをまとめると、引用発明の「測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106」に含まれる「外観特性として、複数の反射率ベクトルのベクトル和を波長ごとに計算して波長ごとの重み付けされた指向性応答を求めるステップ802」と、本願発明1の「プロセッサを使用して、標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから多次元幾何学的物体を生成するステップであって、前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている、ステップ」とは、「プロセッサを使用して、標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから二次データを生成するステップであって、前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている、ステップ」である点で共通する。
ケ 引用発明の「波長ごとの重み付けされた指向性応答の方向的エンドポイントによって定義される全体的な線形状を記述する関数である重み付けされたスペクトル空間分布関数」は、「波長ごとの重み付けされた指向性応答」から求められる「外観特性」である。
したがって、前記キを踏まえると、引用発明の「重み付けされたスペクトル空間分布関数」と、本願発明1の「前記多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性」であって「体積値を含む少なくとも1つの値」とは、「二次データから導出される特性」である点で共通する。
コ 前記ケを踏まえると、引用発明の「測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106」に含まれる「さらに別の外観特性として、波長ごとの重み付けされた指向性応答の方向的エンドポイントによって定義される全体的な線形状を記述する関数である重み付けされたスペクトル空間分布関数を求めるステップ806」と、本願発明1の「前記プロセッサを使用して、前記多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性を計算するステップであって、前記少なくとも1つの幾何学的特性は、体積値を含む少なくとも1つの値を有する、ステップ」とは、「前記プロセッサを使用して、前記二次データから導出される特性を計算するステップ」である点で共通する。
サ 前記ウを踏まえると、引用発明の「表面の外観特性」と本願発明1の「標的コーティング中の少なくとも1つの顔料効果」とは、「標的コーティングの効果」である点で共通する。
シ 引用発明の「重み付けされたスペクトル空間分布関数」は、「外観特性」の一つであるから、「ステップ106」において「表面の種々の特性に実験的に結び付けられる」ものである。そして、引用発明の「BRDF測定方法」を実施する「システム901」の「データベース924は、測定された反射率と表面特性との間の実験的な相関を格納する」のであるから、「重み付けされたスペクトル空間分布関数」は、事前の実験によって既知となった複数の「表面特性」すなわち「表面の種々の特性」の中から識別されると認められる。
したがって、前記サを踏まえると、引用発明の「測定された反射率を処理して表面の外観特性を生成するステップ106であって、」「これらの外観特性が表面の種々の特性に実験的に結び付けられるステップ106」と、本願発明1の「前記プロセッサを使用して、前記少なくとも1つの値を複数の既知の値と相関付け、前記標的コーティング中の少なくとも1つの顔料効果を識別するステップ」とは、「前記プロセッサを使用して、前記特性を複数の既知の値と相関付け、前記標的コーティングの効果を識別するステップ」である点で共通する。
ス 引用発明の「BRDF測定方法」を実施する「測定システム901」の「測定デバイス900」の「電子工学ユニット904」は、「外観特性及び物理的特性をユーザに提供するユーザインターフェースモジュール918」「を含むコンピュータによって実現され」るから、引用発明が「外観特性」「をユーザに提供する」ものであることは明らかである。
したがって、前記サを踏まえると、引用発明は、本願発明1の「前記プロセッサを使用して、前記少なくとも1つの顔料効果を出力するステップ」と、「前記プロセッサを使用して、前記効果を出力するステップ」である点で共通するステップを有する。
そして、引用発明が有するこのステップは、「外観特性及び物理的特性をユーザに提供するユーザインターフェースモジュール918」「を含むコンピュータによって実現され」る「電子工学ユニット904」によって実行されることが明らかであるから、本願発明1の「コンピュータ実装方法」に相当する。
(2)一致点及び相違点
前記(1)の対比の結果をまとめると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
ア 一致点
「コンピュータ実装方法であって、
プロセッサを使用して、標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから二次データを生成するステップであって、前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている、ステップと、
前記プロセッサを使用して、前記二次データから導出される特性を計算するステップと、
前記プロセッサを使用して、前記特性を複数の既知の値と相関付け、前記標的コーティングの効果を識別するステップと、
前記プロセッサを使用して、前記効果を出力するステップと、
を含む、方法。」
イ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1は、「二次データ」が「多次元幾何学的物体」であり、「二次データから導出される特性」が「多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性」であって「体積値を含む少なくとも1つの値」であるのに対し、
引用発明は、「二次データ」が「波長ごとの重み付けされた指向性応答」であり、「二次データから導出される特性」が「波長ごとの重み付けされた指向性応答の方向的エンドポイントによって定義される全体的な線形状を記述する関数である重み付けされたスペクトル空間分布関数」である点。
(イ)相違点2
本願発明1は、「標的コーティングの効果」が「標的コーティング中の少なくとも1つの顔料効果」であるのに対し、
引用発明は、「標的コーティングの効果」が「表面の外観特性」であり、それが「顔料効果」であるかは不明である点。
(3)相違点1についての判断
引用発明の「複数の反射率ベクトル」(本願発明1の「複数のデータ」に相当する。)から、「複数の反射率ベクトルのベクトル和を波長ごとに計算して波長ごとの重み付けされた指向性応答を求める」ことに代えて、「多次元幾何学的物体を生成する」ようにし、さらに、「波長ごとの重み付けされた指向性応答の方向的エンドポイントによって定義される全体的な線形状を記述する関数である重み付けされたスペクトル空間分布関数」に代えて、「多次元幾何学的物体の少なくとも1つの幾何学的特性」であって「体積値を含む少なくとも1つの値」を求めるようにすることは、引用文献1にも引用文献2にも記載されていないし、示唆されてもいない。
また、引用発明の「波長ごとの重み付けされた指向性応答」(「二次データ」である点で本願発明1の「多次元幾何学的物体」と共通する。)は、「複数の反射率ベクトルのベクトル和を波長ごとに計算」したものであるから、「反射率ベクトルとして表され」る「表面からの反射率の強度」(本願発明1の「複数のデータ」に相当する。)と同様、ベクトル量であるのに対し、本願発明1の「多次元幾何学的物体」は、「複数のデータ」から生成される仮想的な立体と解されるから、両者は概念自体が異なる。そうすると、引用発明の「波長ごとの重み付けされた指向性応答」を、本願発明1の「多次元幾何学的物体」に変更することは、当業者にとって自明であるということもできない。
したがって、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献1及び引用文献2に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできない。
(4)本願発明1についてのまとめ
前記(2)のとおり、本願発明1は、相違点1及び相違点2で引用発明と相違するから、引用文献1に記載された発明であるということはできない。
また、前記(3)のとおり、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献1及び引用文献2に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて、また、さらに引用文献2に記載された発明に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
2 本願発明2ないし本願発明9について
本願発明2ないし本願発明9は、いずれも本願発明1の構成を全て含むから、少なくとも本願発明1と引用発明との相違点1及び相違点2(前記1(2)イ(ア)及び(イ))で引用発明と相違する。
したがって、本願発明2ないし本願発明9は、引用文献1に記載された発明であるということはできない。
そして、前記(3)のとおり、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献1及び引用文献2に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、相違点1に係る本願発明2ないし本願発明9の構成も同様である。
したがって、本願発明2ないし本願発明9は、引用文献1に記載された発明に基づいて、また、さらに引用文献2に記載された発明に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
3 本願発明10ないし本願発明13について
本願発明10は、本願発明1に係る方法の各ステップを実行するようにプログラムされるプロセッサを備えるシステムの発明であるから、相違点1に係る本願発明1の構成に対応する構成を備える。また、本願発明11ないし本願発明13は、いずれも本願発明10の構成を全て含むから、本願発明10と同様に、相違点1に係る本願発明1の構成に対応する構成を備える。
したがって、本願発明10ないし本願発明13は、引用文献1に記載された発明であるということはできない。
そして、前記1(3)のとおり、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献1及び引用文献2に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、これに対応する本願発明10ないし本願発明13の構成も同様である。
したがって、本願発明10ないし本願発明13は、引用文献1に記載された発明に基づいて、また、さらに引用文献2に記載された発明に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
4 本願発明14及び本願発明15について
本願発明14は、本願発明1に係る方法の各ステップを実行する手段を備える装置の発明であるから、相違点1に係る本願発明1の構成に対応する構成を備える。また、本願発明15は、本願発明14の構成を全て含むから、本願発明14と同様に、相違点1に係る本願発明1の構成に対応する構成を備える。
したがって、本願発明14及び本願発明15は、引用文献1に記載された発明であるということはできない。
そして、前記1(3)のとおり、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献1及び引用文献2に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、これに対応する本願発明14及び本願発明15の構成も同様である。
したがって、本願発明14及び本願発明15は、引用文献1に記載された発明に基づいて、また、さらに引用文献2に記載された発明に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
5 本願発明16について
本願発明16は、本願発明1に係る方法の各ステップをプロセッサに実行させるソフトウェアを含む非一過性コンピュータ可読媒体の発明であるから、相違点1に係る本願発明1の構成に対応する構成を備える。
したがって、本願発明16は、引用文献1に記載された発明であるということはできない。
そして、前記1(3)のとおり、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献1及び引用文献2に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、これに対応する本願発明16の構成も同様である。
したがって、本願発明16は、引用文献1に記載された発明に基づいて、また、さらに引用文献2に記載された発明に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第7 当審拒絶理由について
(1)本件補正により、本件補正後の請求項1には「プロセッサを使用して、標的コーティングの分光光度測定から取得された複数のデータから多次元幾何学的物体を生成するステップであって、前記複数のデータは、分光光度計の物理的なレイアウトに関連付けられている、ステップ」と記載されることとなり、本件補正後の請求項10、請求項14及び請求項16にも同様の事項が記載されることとなった結果、「分光光度測定から取得された複数のデータ」と「多次元幾何学的物体」との関係が明確になったので、本件補正前の請求項1、請求項11、請求項15及び請求項17(本件補正後の請求項1、請求項10、請求項14及び請求項16)についての当審拒絶理由(前記第4の(1))は、解消された。
(2)本件補正により、本件補正前の請求項2が削除されたので、本件補正前の請求項2についての当審拒絶理由(前記第4の(2))は、解消された。
(3)本件意見書の内容も参酌すると、本件補正後の請求項4に記載された「平面表現」は、明細書に「2次元物体に関して、2つの角度の反射は、上部の直線と継合され、両方の反射は、測定点上に収束し、三角形を作成し得る。」(【0014】)と記載され、図2に「2D三角形平面」として示された「三角形」を指すことが明らかであるので、本件補正前の請求項5(本件補正後の請求項4)についての当審拒絶理由(前記第4の(3))は、解消された。
第8 原査定について
原査定は、引用文献1(特に【0010】ないし【0041】)には、表面に1つ又は複数の照明方向から光を向け、複数の離散した反射方向において表面からの反射率の強度(BRDF)を測定し、そこから外観特性としての重み付けされたスペクトル空間分布の大きさを求め、外観特性が参照表と比較されて表面の物理的特性を特定することが記載されているとした上で、「外観特性」及び「表面の物理的特性」が本願各発明の「多次元物体の幾何学的特性」及び「顔料効果」に相当すると判断した。
確かに、引用文献1には、「外観特性」として「重み付けされたスペクトル空間分布の大きさ」を求めることが記載されている(【0040】、図17)。しかし、この「重み付けされたスペクトル空間分布の大きさ」は、「重み付けされたスペクトル空間分布関数」から導出される量と解される。そして、「重み付けされたスペクトル空間分布関数」は、ベクトル量である「重み付けされた指向性応答」から求めるものであって、「多次元幾何学的物体」から求めるものではないから、「多次元物体の幾何学的特性」に相当するということはできない。
したがって、本願発明1ないし本願発明16(本件補正前の請求項1及び請求項3ないし請求項17のそれぞれに係る発明に対応する。)についての原査定の理由は、維持することができない。
なお、本件補正前の請求項2は、本件補正により削除された。
第9 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願は拒絶をするべきものであるということはできない。
また、他に、本願は拒絶をするべきものであるとする理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-004976