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特許無効審判

2016-800123

審判番号
2016-800123
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2010-536208
登録番号
特許第5840364号(P5840364)
請求日
2016年10月24日
審決日
2018年03月12日
公報発行日
2019年05月31日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】協和キリン富士フイルムバイオロジクス 株式会社
  • 【請求人代理人】南条 雅裕
  • 【請求人代理人】瀬田 あや子
  • 【請求人代理人】伊波 興一朗
  • 【被請求人】アッヴィ バイオテクノロジー リミテッド
  • 【被請求人代理人】北原 潤一
  • 【被請求人代理人】日野 真美
  • 【被請求人代理人】吉光 真紀
  • 【被請求人代理人】箱田 満
  • 【被請求人代理人】宮崎 綾
審判長/審判官
  • 審判長 須藤 康洋
  • 審判官 渡邉 潤也
  • 審判官 関 美祝
分類
P1123.121-YAA(A61K) / P1123.537-YAA(A61K) / P1123.851-YAA(A61K) / P1123.853-YAA(A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第123条第1項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第5840364号発明「タンパク質製剤及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 1 特許第5840364号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂 正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14、25~44、6 0~67〕、〔45~59〕について訂正することを認める。 2 請求項1~4、7、25、29~33、37~44、60~64に係る 特許についての本件審判の請求は、成り立たない。 3 請求項6、26~28、34~36、45~47、49~59に係る特 許についての本件審判の請求を却下する。 4 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

【理 由】 第1 請求 特許第5840364号の請求項1~4、6、7、25~47及び49~64に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。 第2 主な手続の経緯等 1 被請求人は、発明の名称を「タンパク質製剤及びその製造方法」とする特許第5840364号(設定登録時の請求項の数は88。以下、「本件特許」という。)の特許権者である。 本件特許は、国際出願日である平成20年11月28日(パリ条約による優先権主張 平成19年11月30日、アメリカ合衆国)にされたとみなされる特許出願(特願2010-536208号)に係るものであり、平成27年11月20日に特許権の設定登録がなされたものである。 2(1)請求人は、平成28年10月24日に、本件特許の請求項1~4、6、7、25~47及び49~64に係る発明についての特許について特許無効審判を請求し、これに対して、被請求人は、平成29年3月10日に答弁書を提出するとともに訂正請求書を提出して、本件特許に係る特許請求の範囲の訂正(以下、「本件訂正」という。)を請求した。これに対し、請求人は、同年5月19日に弁駁書を提出した。 (2)審判長は、同年6月21日付けで両当事者に対し口頭審理における審理事項を通知し(審理事項通知書)、これに対して、被請求人は同年8月24日、請求人は同年同月25日にそれぞれ口頭審理陳述要領書を提出した。 (3)同年9月8日、請求人代理人ら、被請求人代理人らの出頭のもと、第1回口頭審理が行われた。なお、上記口頭審理において、被請求人に対し、口頭で、訂正請求書による訂正について拒絶理由(訂正拒絶理由通知)が通知された。 (4)被請求人は、同年10月25日、手続補正書(訂正請求書)を提出し、訂正請求書及びこれに添付された訂正した特許請求の範囲について補正した。 第3 本件訂正の可否 1 被請求人の請求の趣旨 結論第1項に同旨である。すなわち、願書に添付した特許請求の範囲について、訂正請求書に添付された訂正した特許請求の範囲のとおりに一群の請求項ごとに訂正することを求める。 2 本件訂正の要旨 訂正請求書の記載によれば、被請求人の求める訂正は、実質、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 請求項1に、 「アダリムマブ及び水を含む水性製剤であって、前記製剤は2.5mS/cm未満の伝導度を有し、かつ前記アダリムマブの濃度は少なくとも30mg/mLである水性製剤。」とあるのを、 「50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度のアダリムマブ及び水を含む水性製剤であって、前記製剤は、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含み、かつ前記製剤は2.5mS/cm未満の伝導度を有する、水性製剤。」に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項25に、 「水及び少なくとも20mg/mLのアダリムマブを含む水性製剤であって、前記抗体アダリムマブの水力学的直径(Dh)は、緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく、緩衝化された溶液中のアダリムマブの濃度は、水性製剤中のアダリムマブの濃度と同じである、水性製剤。」とあるのを、 「50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度のアダリムマブ及び水を含む水性製剤であって、前記製剤のpHは5から7であり、前記製剤は、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間、液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含み、前記水性製剤中のアダリムマブは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく水力学的直径(Dh)を有し、前記水性製剤中のアダリムマブのDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく、前記緩衝化された溶液は、5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトールを含み、前記緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhは、前記水性製剤と同じ方法で測定される、水性製剤。」に訂正する。 (3)訂正事項3 請求項29に、 「少なくとも20mg/mLの濃度のアダリムマブ及び水を含み、前記アダリムマブが4nm未満の水力学的直径(Dh)を有する、水性製剤。」とあるのを、 「50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度のアダリムマブ及び水を含む水性製剤であって、前記水性製剤のpHは5から7であり、前記製剤は、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含み、前記水性製剤中のアダリムマブが4nm未満のDhを有し、ここで、前記Dhは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づくDhである、水性製剤。」に訂正する。 (4)訂正事項4 請求項6、12、14、26~28、34~36、及び45~59を削除する。 (5)訂正事項5 請求項1の記載を引用する請求項2~5、7~11、13、請求項29の記載を引用する請求項30、及び請求項1、25又は29の記載を直接又は間接的に引用する請求項31~33、37~44、60~67について、それぞれが直接又は間接的に引用する請求項についての訂正と同様に訂正するとともに、訂正事項4の請求項の削除にともない、削除された請求項を引用する請求項31、37~40、42、44、66、67について、「請求項1から30」とあるのを「請求項1~5、7~11、13、15~25、29~30」と訂正する。 3 本件訂正の可否についての判断 (1)訂正事項1 ア この訂正は、請求項1に係る発明を特定する事項について、以下のとおりとするものである。 (ア)水性製剤に含まれるアダリムマブの濃度について、本件訂正前に「少なくとも30mg/mL」とあったものを、本件特許明細書【0130】の記載に基づき「50mg/mL以上200mg/mL以下」と限定する。 (イ)水性製剤の性質について、本件特許明細書【0059】、【0148】及び実施例(特に実施例21、22、付表D、E)の記載に基づき、さらに「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと限定する。 イ よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2 ア この訂正は、請求項25に係る発明を特定する事項について、以下のとおりとするものである。 (ア)水性製剤に含まれるアダリムマブの濃度について、本件訂正前に「少なくとも20mg/mL」とあったものを、本件特許明細書【0130】の記載に基づき「50mg/mL以上200mg/mL以下」と限定する。 (イ)水性製剤の性質について、本件特許明細書【0512】【表44】(表39)の記載に基づき「pHは5~7であ」ると限定するとともに、本件特許明細書【0059】、【0148】及び実施例(特に実施例21、22、付表D、E)の記載に基づき、さらに「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと限定する。 (ウ)水性製剤に含まれるアダリムマブの「水力学的直径(Dh)」について、本件特許明細書にz-平均に基づく値とピーク単量体に基づく値が記載されているため、本件訂正前においてはいずれを意味するか不明瞭であったものを、本件特許明細書の実施例17、特に【0479】、【0512】【表44】(表39)の記載に基づき「粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく水力学的直径(Dh)」と特定することで明瞭にする。 (エ)本件訂正前において、「水性製剤中のアダリムマブのDh」と「緩衝化された溶液中のアダリムマブのDh」との関係に関して「緩衝化された溶液」が特定されていないため不明瞭であったところ、本件特許明細書【0200】及び実施例17、特に【0511】【表43】(表38)と【0512】【表44】(表39)の記載に基づき、「水性製剤中のアダリムマブのDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく、前記緩衝化された溶液は、5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトールを含み、前記緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhは、前記水性製剤と同じ方法で測定される」ものであると特定することで限定するとともに明瞭にする。 イ よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3 ア この訂正は、請求項29に係る発明を特定する事項について、以下のとおりとするものである。 (ア)水性製剤に含まれるアダリムマブの濃度について、本件訂正前に「少なくとも20mg/mL」とあったものを、本件特許明細書【0130】の記載に基づき「50mg/mL以上200mg/mL以下」と限定する。 (イ)水性製剤の性質について、本件特許明細書【0512】【表44】(表39)の記載に基づき「pHは5~7であ」ると限定するとともに、本件特許明細書【0059】、【0148】及び実施例(特に実施例21、22、付表D、E)の記載に基づき、さらに「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと限定する。 (ウ)水性製剤に含まれるアダリムマブの「水力学的直径(Dh)」について、本件特許明細書にz-平均に基づく値とピーク単量体に基づく値が記載されているため、本件訂正前においてはいずれを意味するか不明瞭であったものを、本件特許明細書の実施例17、特に【0479】、【0512】【表44】(表39)の記載に基づき「粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づくDh」と特定することで明瞭にする。 イ よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4 この訂正は、請求項の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、この訂正が、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (5)訂正事項5 この訂正は、請求項1、25又は29の記載を直接又は間接的に引用する請求項について、実質的に請求項1、25又は29についての訂正と同様に訂正するとともに、請求項6、12、14、26~28、34~36の削除にともない、これらの請求項を引用しないものに訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)一群の請求項ごとか否か ア 請求項1~14、25~44、60~67について 本件訂正前の請求項1~14、25~44、60~67は、本件訂正の対象である請求項1(訂正事項1)を請求項2~14が引用し、本件訂正の対象である請求項25(訂正事項2)を請求項26~28が直接又は間接的に引用し、本件訂正の対象である請求項29(訂正事項3)を請求項30が引用し、さらに本件訂正の対象である請求項1、25、29を含む請求項1~30を請求項31~44、60~67が直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正前において一群の請求項に該当するものである。 したがって、請求項1~14、25~44、60~67に係る訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。 イ 請求項45~59について 本件訂正前の請求項45~59は、本件訂正の対象である請求項46を請求項47が引用し、本件訂正の対象である請求項45~47を請求項48~59が直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正前において一群の請求項に該当するものである。 したがって、請求項45~59に係る訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。 (7)請求人の主張の検討 ア 請求人は、訂正事項2の訂正に関して、平成29年8月25日付け口頭審理陳述要領書において、本件訂正前の「緩衝化された溶液」を「5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトール」を含むもの(以下、「特定の緩衝化された溶液」という。)とすることは、本件特許明細書の記載に基づかないものであり、また、本件特許明細書には、本件訂正前の「緩衝化された溶液」に相当するものは、上記「特定の緩衝化された溶液」ではなく「PBS」のみであったと解されるから、「少なくとも50%小さく」の基準が異なることとなり、実質上特許請求の範囲を変更するものである旨主張する。 イ しかしながら、本件特許明細書の全ての記載を統合することにより導かれる「緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく」という技術的事項は、「緩衝化された溶液」が具体的にどのようなものであるかによるものでないことは明らかである(例えば、本件特許明細書【0143】には、「一実施形態において、水性製剤中のタンパク質のDhは、タンパク質濃度と無関係に、緩衝化された溶液中の同じタンパク質のDhと比べてより小さい。・・・緩衝化された溶液の例には、リン酸緩衝化された生理的食塩水(PBS)が含まれるが、これらに限定されない。・・・」と記載されている。)。 したがって、本件訂正前の「緩衝化された溶液」には「PBS」及び「特定の緩衝化された溶液」などを含むと認められるところ、訂正事項2の訂正は、これを本件特許明細書【0200】に記載された特定の緩衝化された溶液に限定したものである。 ウ よって、訂正事項2の訂正は、新たな技術的事項を導入するものでも、実質上特許請求の範囲を変更するものでもなく、請求人の上記主張は採用できない。 (8)独立特許要件の検討 本件訂正は、本件審判請求の対象となっていない請求項5、8~11、13、65~67についてする訂正を含むものであるところ、これら訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである(訂正事項5参照)。 そこで、本件訂正後の請求項5、8~11、13、65~67に係る発明について、独立特許要件(特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定される要件)を満たすものか否かを検討するに、本件訂正後の請求項5、8~11、13、65~67に係る発明は、本件訂正後の請求項1、25又は29に係る発明を直接又は間接的に引用するものであるところ、後記するとおり、本件訂正後の請求項1、25又は29に係る発明には無効理由がなく、他に特許を受けることができるものではないとする理由も見当たらない。 よって、本件訂正後の請求項1、25又は29をさらに限定したものである本件訂正後の請求項5、8~11、13、65~67に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 (9)訂正拒絶理由の検討 口頭審理において通知された訂正拒絶理由(上記第2 2(3))は、被請求人が平成29年3月10日に提出した訂正請求書における請求項27及び28についてする訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるというものであったところ、平成29年10月25日付け手続補正書(訂正請求書)により訂正請求書及びこれに添付された訂正した特許請求の範囲が補正され、本件訂正は請求項27及び28を削除するという訂正事項を含むものとなった。そして、上記(4)のとおり、請求項27及び28を削除するとの訂正は認められることから、上記の拒絶理由は解消した。 4 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げるいずれかの事項を目的とするものであり、しかも同条第9項において準用する同法第126条第5項乃至第7項の規定に違反するものでもない。 よって、結論第1項のとおり、本件訂正を認める。 第4 本件各発明の要旨 上記第3のとおり本件訂正は認容されるので、審決が判断の対象とすべき特許に係る発明は本件訂正後のものである。そして、その要旨は、その特許請求の範囲の請求項1~4、7、25、29~33、37~44、60~64に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 なお、以下、上記請求項の番号に応じて各発明を「本件訂正発明1」などといい、これらをまとめて「本件訂正発明」ともいう。 また、本件訂正発明1及びこれを直接又は間接的に引用する場合の本件訂正発明2~4、7、31~33、37~44、60~64をまとめて「低伝導度製剤発明」といい、本件訂正発明25又は29及びこれを直接又は間接的に引用する場合の本件訂正発明30~33、37~44、60~64をまとめて「低Dh製剤発明」という場合もある。 「【請求項1】 50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度のアダリムマブ及び水を含む水性製剤であって、前記製剤は、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含み、かつ前記製剤は2.5mS/cm未満の伝導度を有する、水性製剤。 【請求項2】 製剤が2mS/cm未満の伝導度を有する、請求項1の製剤。 【請求項3】 製剤が1.5mS/cm未満の伝導度を有する、請求項1の製剤。 【請求項4】 製剤が1mS/cm未満の伝導度を有する、請求項1の製剤。 【請求項7】 アダリムマブの濃度が50mg/mLである請求項1の製剤。 【請求項25】 50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度のアダリムマブ及び水を含む水性製剤であって、前記製剤のpHは5から7であり、前記製剤は、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間、液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含み、前記水性製剤中のアダリムマブは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく水力学的直径(Dh)を有し、前記水性製剤中のアダリムマブのDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく、前記緩衝化された溶液は、5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトールを含み、前記緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhは、前記水性製剤と同じ方法で測定される、水性製剤。 【請求項29】 50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度のアダリムマブ及び水を含む水性製剤であって、前記水性製剤のpHは5から7であり、前記製剤は、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含み、前記水性製剤中のアダリムマブが4nm未満のDhを有し、ここで、前記Dhは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づくDhである、水性製剤。 【請求項30】 アダリムマブが3nm未満のDhを有する、請求項29の製剤。 【請求項31】 非イオン性の賦形剤をさらに含む、請求項1~5、7~11、13、15~25、29~30の何れか一項の製剤。 【請求項32】 非イオン性の賦形剤がポリオール、非イオン性界面活性剤、ショ糖、トレハロース、ラフィノース及びマルトースからなる群から選択される、請求項31の製剤。 【請求項33】 非イオン性界面活性剤がポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60又はポリソルベート80である、請求項32の製剤。 【請求項37】 製剤が浸透圧修飾剤、安定化剤、界面活性剤、抗酸化剤、凍結保護剤、充填剤、凍結乾燥保護剤、塩基性成分及び酸性成分からなる群から選択される因子を含まない、請求項1~5、7~11、13、15~25、29~30の何れか一項の製剤。 【請求項38】 少なくとも1つのさらなる別個のタンパク質をさらに含む、請求項1~5、7~11、13、15~25、29~30の何れか一項の製剤。 【請求項39】 インビトロでの使用に適している、請求項1~5、7~11、13、15~25、29~30の何れか一項の製剤。 【請求項40】 インビボでの使用に適している、請求項1~5、7~11、13、15~25、29~30の何れか一項の製剤。 【請求項41】 皮下、静脈内、吸入、皮内、経皮、腹腔内及び筋肉内投与からなる群から選択される投与の様式を介して、対象に投与するのに適している、請求項40の製剤。 【請求項42】 請求項1~5、7~11、13、15~25、29~30の何れか一項の製剤を含む装置。 【請求項43】 注射器、ペン、インプラント、無針注入装置、吸入装置及びパッチからなる群から選択される、請求項42の装置。 【請求項44】 請求項1~5、7~11、13、15~25、29~30の何れか一項の製剤を含む製品。 【請求項60】 非イオン性の賦形剤がポリオールである、請求項31の製剤。 【請求項61】 ポリオールがマンニトール又はソルビトールである請求項60の製剤。 【請求項62】 ポリオールがマンニトールである請求項61の製剤。 【請求項63】 非イオン性の賦形剤が、非イオン性界面活性剤である請求項31の製剤。 【請求項64】 非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である請求項63の製剤。」 第5 当事者の主張 1 無効理由に係る請求人の主張 本件特許の請求項1~4、7、25、29~33、37~44、60~64に係る発明は、下記(1)~(3)のとおりの無効理由があるから、特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当し、無効とすべきものである。 また、証拠方法として書証を申出、下記(4)のとおりの文書(甲1の1~甲12)を提出する。 (1)無効理由1(進歩性欠如) 本件特許の請求項1~4、7、25、29~33、37~44、60~64に係る発明は、甲1の1~甲1の4のいずれかに記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。 (2)無効理由2(明確性要件違反) 本件特許の請求項25、29~33、37~44、60~64に係る発明は、水性製剤中のアダリムマブの水力学的直径(Dh)に関して不明瞭な点があるため、また、本件特許の請求項25、31~33、37~44、60~64に係る発明は、比較対象としての緩衝化された溶液に関して不明瞭な点があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (3)無効理由3(サポート要件違反) 本件特許明細書には、本件特許の請求項1~4、7、25、29~33、37~44、60~64に係る発明の各発明特定事項(パラメータ)を満たす水性製剤であれば、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていないため、前記発明に係る特許についての特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (4)証拠方法 ・甲1の1:国際公開第2006/138181号 ・甲1の2:米国特許第6171586号明細書 ・甲1の3:再公表特許第2005/063291号 ・甲1の4:特開平11-29494号公報 ・甲3の1:実験成績報告書(作成日:平成28年10月7日、作成者:協和発酵キリン株式会社 バイオ生産技術研究所 藏夛敏之、遠藤良輔) ・甲3の2:実験成績報告書(作成日:平成28年10月7日、作成者:協和発酵キリン株式会社 バイオ生産技術研究所 藏夛敏之、遠藤良輔) ・甲3の3:実験成績報告書(作成日:平成28年10月7日、作成者:協和発酵キリン株式会社 バイオ生産技術研究所 藏夛敏之、遠藤良輔) ・甲4:実験成績報告書(作成日:平成28年10月7日、作成者:協和発酵キリン株式会社 バイオ生産技術研究所 藏夛敏之、遠藤良輔) ・甲5の1:米国で販売されたHumiraTM(アダリムマブ)の添付文書(2003年1月改訂版)、アボットラボラトリーズ ・甲5の2:世界の大型医薬品売上ランキング2007、ユートブレーン株式会社、2008年8月 ・甲6:東京高判平成13年11月1日(平成12年(行ケ)第238号) ・甲7:特許・実用新案審査基準 第III部 第2章第2節 進歩性 ・甲8:大阪地判平成19年12月11日(平成18年(ワ)第11880号等) ・甲9:知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)第10042号) ・甲10:特表2012-526121号公報 ・甲11の1:実験成績報告書(作成日:平成29年11月21日、作成者:協和発酵キリン株式会社 バイオ生産技術研究所 藏夛敏之、栗橋渉) ・甲11の2:実験成績報告書(作成日:平成29年11月21日、作成者:協和発酵キリン株式会社 バイオ生産技術研究所 藏夛敏之、栗橋渉) ・甲11の3:実験成績報告書(作成日:平成29年11月21日、作成者:協和発酵キリン株式会社 バイオ生産技術研究所 藏夛敏之、栗橋渉) ・甲12:実験成績報告書(作成日:平成29年12月1日、作成者:協和発酵キリン株式会社 バイオ生産技術研究所 藏夛敏之、上野哲寛) なお、甲11の1~甲12は第1回口頭審理後に提出されたものであるが、これら証拠の成立性について、被請求人からは何ら意見の申し出はない。 2 被請求人の主張 (1)本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。請求人主張の無効理由はいずれも理由がない。 また、証拠方法として書証を申出、下記(2)のとおりの文書(乙1~27)を提出する。 (2)証拠方法 ・乙1:Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1993,Vol.10,No.4,pp.307~377 ・乙2:International Journal of Pharmaceutics,1999,Vol.185,pp.129~188 ・乙3:Journal of Pharmaceutical Sciences,January 2007,Vol.96,No.1,pp.1~26 ・乙4:Pharmaceutical Biotechnology,2002,Vol.13,pp.1~25,109~133,177~198 ・乙5:Current Pharmaceutical Biotechnology,2002,Vol.3,No.4,pp.361~371 ・乙6:Journal of Pharmaceutical Sciences,January 2010,Vol.99,No.1,pp.82~93 ・乙7:Formulation and Process Development Strategies for Manufacturing Biopharmaceuticals,2010,pp.383~427 ・乙8:FEBS Letters,2014,Vol.588,No.2,pp.269~277 ・乙9:The Journal of Physical Chemistry.B,2009,Vol.113,No.17,pp.6109~6118 ・乙10:Advanced Drug Delivery Reviews,2006,Vol.58,No.5~6,pp.686~706 ・乙11:ILAR Journal,2005,Vol.46,No.3,pp.258~268 ・乙12:Behring Institute Mitteilungen,1988,No.82,pp.127~143 ・乙13:Journal of Pharmaceutical Sciences,June 2007,Vol.96,No.6,pp.1504~1517 ・乙14:AIChE Journal,August 2007,Vol.53,No.8,pp.1902~1907 ・乙15:Methods in Enzymology,1999,Vol.309,pp.236~255 ・乙16:Trends in Biotechnology,November 2013,Vol.31,No.11,pp.612~620 ・乙17:Pharmaceutical Research,August 1997,Vol.14,No.8,pp.969~975 ・乙18:Journal of Pharmaceutical Sciences,December 1998,Vol.87,No.12,pp.1554~1559 ・乙19:Journal of Pharmaceutical Sciences,August 2012,Vol.101,No.8,pp.2720~2732 ・乙20:Pharmaceutical Research,September 2003,Vol.20,No.9,pp.1325~1336 ・乙21:Freeze-Drying/Lyophilization of Pharmaceutical and Biological Products,Third Edition,2010,pp.167~197(審決注:乙21について職権で調査したところによれば(特に167頁脚注の記載について)、被請求人が乙21として答弁書に添付することで提出した刊行物は「第2版」ではなく「第3版」と認められ、被請求人はこの第3版を前提に主張を展開するようである。したがって、被請求人の証拠方法も、第2版ではなく第3版であると解される。) ・乙22:Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins,2012,pp.107~129 ・乙23:Protein Science,October 1995,Vol.4,pp.2073~2081 ・乙24:博士学位論文、「サブクラスチェンジによる抗体物性の変化」、伊藤剛彦、東京大学大学院新領域創成科学研究科、2013年12月25日、1~23頁 ・乙25:薬剤学,2014,Vol.74,No.1,pp.12~18 ・乙26:“Top 200 Medicines - Special Report”,http://www.pharmalive.com/special-report-top-200-medicines/ ・乙27:International Journal of Oncology,July 2007,Vol.31,No.1,pp.29~40 第6 当合議体の判断 当合議体は、本件訂正発明について、以下述べるように、無効理由1~3にはいずれも理由がないと判断する。 1 本件訂正発明 (1)本件訂正発明の要旨 上記第4で認定のとおりである。 (2)本件訂正発明の解決課題及び技術的意義 ア 本件訂正発明について、本件特許明細書には、次の記載がある。 (ア-1)「【0003】・・・タンパク質の安定性は、タンパク質を安定に、可溶性に及び凝集しないように保つために、溶液中のタンパク質と相互作用する賦形剤を含めることによって改善することができる。例えば、塩化合物及び他のイオン性の種は、タンパク質製剤への極めて一般的な添加物である。これらは、非特異的な様式でタンパク質に結合し、熱的安定性を増加させることによって、タンパク質の変性と戦う上での補助を行う。塩化合物(例えば、NaCl、KCl)は、凝集及び沈殿と戦うために、市販のインシュリン調製物中で首尾よく使用されてきた・・・全ての市販の液体タンパク質製剤中にほぼ一貫して添加物が存在することは、このような化合物を持たないタンパク質溶液が不安定性に起因する分解に伴う問題に遭遇し得ることを示唆している。」 (ア-2)「【0007】しばしば、タンパク質を基礎とする医薬製品は、治療効果のために、高い濃度で製剤化する必要がある。・・・しかしながら、高いタンパク質濃度の製剤の開発は、製造、安定性、分析、並びに、特に、治療用タンパク質に関して送達の困難性など多くの課題を提起する。例えば、タンパク質の凝集、不溶性及び分解に伴う困難さは、製剤中のタンパク質濃度が上昇するにつれて一般に増加する・・・。添加物又はタンパク質のより低い濃度では、有益な効果を与えた添加物によって、以前には見られなかった有害な効果が引き起こされ得る。高濃度タンパク質製剤の製造は、乳白色、凝集及び沈殿に伴う顕著な問題をもたらし得る。・・・」 (ア-3)「【0011】(発明の要旨)本発明は、長期の液体保存又は凍結/融解及び凍結乾燥などの他の処理工程の間に、高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたタンパク質が溶解度及び安定性を維持するという驚くべき発見に向けられる。 【0012】本発明は、水及びタンパク質(該タンパク質は、さらなる因子の必要なしに安定である。)を含む水性タンパク質製剤のための方法及び組成物に関する。具体的には、本発明の方法及び組成物は、透析ろ過溶媒として水を用いて、目的のタンパク質を含有する第1の溶液が透析ろ過される透析ろ過プロセスを基礎とする。このプロセスは、例えば、少なくとも所定容量の水との交換(例えば、5倍容量の交換)が存在するように行われる。本発明の方法を実施することによって、得られた水性製剤は、当初タンパク質溶液と比べて、賦形剤の総パーセントの著しい減少を有する。例えば、最初のタンパク質溶液と比べて、95から99%少ない賦形剤が水性製剤中に見出される。賦形剤の減少に関わらず、タンパク質は、高い濃度においてさえ、なお可溶性であり、その生物活性を保持する。一態様において、本発明の方法は、イオン性賦形剤などの追加成分を減少させながら、タンパク質の濃度の増加を含む組成物をもたらす。従って、水性製剤中のタンパク質の水力学的直径は、リン酸緩衝化された生理的食塩水(PBS)などの標準的な緩衝溶液中の同じタンパク質と比べてより小さい。 【0013】本発明の製剤は、標準的な緩衝化された製剤に対して多くの利点を有する。一態様において、水性製剤は、高いタンパク質濃度(例えば、50から200mg/mL又はそれ以上)を含む。増大した濃度でさえ、あらゆるサイズのタンパク質を本発明の製剤中に含めることができる。タンパク質の高い濃度に関わらず、製剤は最小限の凝集を有し、高タンパク質製剤に予想され得る有害な効果なしに、様々な方法及び形態(例えば凍結)を用いて保存することができる。本発明の製剤は、溶液中のタンパク質を安定化させるために伝統的な製剤中で使用されている、例えば、界面活性剤及び緩衝系などの賦形剤を必要としない。イオン性賦形剤の低いレベルの結果、本発明の水性製剤は、低い伝導度、例えば、2mS/cm未満を有する。・・・」 (ア-4)「【0059】「安定な」製剤とは、保存時に、その中のタンパク質が、その物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を実質的に保持する製剤である。・・・一実施形態において、タンパク質の安定性は、溶液中の単量体タンパク質のパーセントに従って測定され、分解された(例えば、断片化された)及び/又は凝集されたタンパク質の低いパーセントを有する。例えば、安定なタンパク質を含む水性製剤は、少なくとも95%の単量体タンパク質を含み得る。あるいは、本発明の水性製剤は、5%以下の凝集物及び/又は分解されたタンパク質を含み得る。」 (ア-5)「【0127】本明細書に記載されている方法に従って最初のタンパク質溶液を透析ろ過するために水が使用される場合、イオン性賦形剤は洗浄除去され、その結果、透析ろ過された水性製剤の伝導度は、最初のタンパク質溶液より低い。・・・低い伝導度の測定は、本発明の水性製剤が著しく低下した賦形剤(イオン性賦形剤を含む。)を有することを示唆する。」 (ア-6)「【0142】本発明の水性製剤は、溶液中のタンパク質の水力学的直径(Dh)によって特徴付けられ得る。・・・本明細書に記載されているもののような低イオン性製剤は、イオン性賦形剤を含むタンパク質製剤より、タンパク質のDhが顕著に低いことを特徴とし得る。交換溶媒として純水を使用するDF/UFプロセスを用いて作製された水性製剤中の抗体のDh値は、タンパク質濃度と独立して、慣用の製剤中の抗体のDhより顕著に低い。一実施形態において、本発明の水性製剤中の抗体は、4nm未満又は3nm未満のDhを有する。 【0143】一実施形態において、水性製剤中のタンパク質のDhは、タンパク質濃度と無関係に、緩衝化された溶液中の同じタンパク質のDhと比べてより小さい。したがって、ある実施形態において、本明細書に記載されている方法に従って作製された水性製剤中のタンパク質は、同じ所定濃度の緩衝化された溶液中のタンパク質のDhより少なくとも25%小さいDhを有する。緩衝化された溶液の例には、リン酸緩衝化された生理的食塩水(PBS)が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態において、本発明の水性製剤中のタンパク質は、所定の濃度のPBS中のタンパク質のDhより少なくとも50%小さい、所定の濃度のPBS中のタンパク質のDhより少なくとも60%小さい、所定の濃度のPBS中のタンパク質のDhより少なくとも70%小さい、又は所定の濃度のPBS中のタンパク質のDhより少なくとも70%超小さいDhを有する。・・・」 (ア-7)「【0198】(実施例1) アダリムマブ及びJ695での透析ろ過/限外ろ過 材料及び方法 ・・・ 【0199】出発製剤、例えば、製剤原料(DS)出発物質及びタンパク質標準物質と比較する際、各最終DF/UF産物におけるタンパク質安定性の特徴を調べるために、サイズ排除クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーを使用した。製剤原料又は「DS」は、活性医薬成分を表し、一般には、通常のバルク溶液における治療用タンパク質を指す。 【0200】・アダリムマブ製剤原料、(アダリムマブ吸光係数280nm:1.39mL/mg cm)。製剤原料はポリソルベート80を含有しなかった。DS組成物:5.57mMリン酸一ナトリウム、8.69mMリン酸二ナトリウム、106.69mM塩化ナトリウム、1.07mMクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトール。」 (ア-8)「【0290】およそ80mg/mLの濃度において、アダリムマブ溶液はもはや乳白光がないことが明らかになった(乳白光は、大量の断片があるアダリムマブ溶液の既知の特徴である。)。・・・」 (ア-9)「【0467】(実施例17) ・・・ 【0468】 ・・・ 17.1アダリムマブ市販製剤のDF/UFのための調製の概要 アダリムマブDS溶液(120mg/mL)を7つに分け、それぞれ0.25N NaOH及び0.25N HClでそれらをpH3、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8、pH9に調整した。次に、個々のpHのアダリムマブ緩衝液で試料を100mg/mLに希釈した。・・・ ・・・ 【0478】17.3アダリムマブ溶液の目視 DF/UF及び250mg/mLまでの濃縮後、様々なpHの水中のアダリムマブ溶液は、緩衝液中のアダリムマブ溶液(市販製剤)よりも乳白光が少ないようであった。水中のアダリムマブ溶液は全て、各pH値で透明な溶液に見えた。アダリムマブ溶液で、希釈後に乳白光は見られなかった。全体的に、濃縮及び希釈手順中、水中のアダリムマブ溶液において沈殿は観察されなかった。 【0479】17.4 粘度 個々の各濃度でのpH5アダリムマブ溶液の密度を考慮して、粘度測定を行った。落下球粘度計を使用した。200mPa*sより高い粘度は毛細管粘度計を用いて測定した。 ・・・ 【0481】17.5 濁度 図25で見られるように、濁度データに対して同じ傾向が見出された(即ち、濁度は、濃度の上昇及びpHの上昇に伴い上昇した。)。・・・ 【0482】17.6 流体力学直径(PCS) 各濃度及び各pH値で、各試料に対する粘度を考慮に入れて、PCS測定を行った。・・・ 【0483】流体力学直径(Dh)は、アダリムマブが水中で処方された場合(50mg/mL、pH5でDh約2nm)、市販製剤中に処方されたアダリムマブ(Dh約7nm)と比較して、顕著に縮小することが分かった。・・・対応するデータ表は、下記の17.11の部分で示される。 ・・・ 【0502】17.11 データ表 【0503】【表35】 【0504】【表36】 【0505】【表37】 【0506】【表38】 【0507】【表39】 【0508】【表40】 【0509】【表41】 【0510】【表42】 【0511】【表43】 【0512】【表44】 【0513】【表45】 」 (ア-10)「【0559】(実施例21) 水の中に製剤化されたアダリムマブの調製及びその安定性研究 ・・・ 【0579】アダリムマブのDF/UF処理 表51は、透析ろ過後のアダリムマブ特性を記載する。 【0580】【表59】 【0581】異なる温度での、透明性及び乳白光、液体の発色の度合い、SECなど、保存時のアダリムマブの特性が、付表Dに記載されている。」 (ア-11)「【0586】(実施例22) 非イオン性賦形剤を用いた、水の中に製剤化されたアダリムマブの安定性研究 以下の実施例は、さらなる非イオン性賦形剤を加えた水の中に抗体、すなわちアダリムマブを含有する製剤の安定性研究について記載する。 【0587】材料及び方法 アダリムマブ材料は、実施例21(DF/UF処理プロセス)のものと同じであった。DF/UF処理プロセス後に、表52に表記されているように、タンパク質溶液を製剤化した。・・・ 【0588】【表60】 -無菌注射用水中のポリソルベート80原液0.5%及び5%: 1.50の比で添加(アダリムマブ溶液10.5mLへ210μL、全ての試料中で等しいタンパク質濃度が確保されるようにするために、界面活性剤なしで製剤化された試料へ注射用水210μLを添加) -固体形態でマニトール/ショ糖を添加(それぞれ、525mg/840mg) ・・・ 【0602】表54は、各試料に対して測定されたPCSデータを記載する。 【0603】【表62】 【0604】表54に提供されているデータは、z-平均値が非イオン性賦形剤を含まない系(63mg/mL、1.85d.nm、220mg/mL、0.34d.nm、実施例21)におけるアダリムマブ溶液から得られた値と有意に異ならないことを示している。 【0605】保存時のアダリムマブの性質決定 付表Eは、保存時のアダリムマブ安定性に関するデータを提供する。 【0606】プラセボ溶液の伝導度 表55は、様々なアダリムマブ製剤の伝導度に対する非イオン性賦形剤の影響を記載する。全てのプラセボ溶液は、無菌注射用水Ph.Eur./USPを用いて調製された。 【0607】【表63】 」 (ア-12)「付表D 」 (ア-13)「付表E 」 イ 上記アからみて、本件訂正発明(特に、低伝導度製剤発明及び低Dh製剤発明)について、概ね次のことがいえる。 (ア)従来はタンパク質製剤中のタンパク質を安定に維持するために、溶液中のタンパク質と相互作用する賦形剤(特に、イオン性賦形剤)を含めることが必要であると考えられていた(上記(ア-1))。また、タンパク質の凝集、不溶性、分解などは、製剤中のタンパク質濃度が上昇するにつれて一般に増加するという問題があることも知られていた(上記(ア-2))。 (イ)本件訂正発明は、水性製剤中のアダリムマブが高い濃度であっても安定な水性製剤を提供することを解決課題とするものであり、長期の液体保存又は凍結/融解及び凍結乾燥などの他の処理工程の間に、高い濃度においてさえ水の中に製剤化されたアダリムマブが溶解度及び安定性を維持するという知見に基づき、透析ろ過溶媒として水を用いた透析ろ過により、当初のアダリムマブ溶液と比べてイオン性賦形剤を減少させながらアダリムマブの濃度を増加させることで、上記課題の解決を図るものである(上記(ア-3))。 ここで、本件特許明細書には、安定な水性製剤とは、保存時にその中のタンパク質が物理的安定性などを実質的に保持する製剤として定義され、例えば、少なくとも95%の単量体タンパク質を含むものであるから(上記(ア-4))、低伝導度製剤発明及び低Dh製剤発明は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブ」を含むと特定することで、安定な水性製剤であることも特定するものである。 なお、低伝導度製剤発明は、イオン性賦形剤の量を減じることで水性製剤の伝導度が低下することに基づき、低い伝導度の値を発明特定事項としたものであり(上記(ア-5))、低Dh製剤発明は、イオン性賦形剤の量を減じることで水性製剤中のアダリムマブのDhが低下することに基づき、低いDhの値を発明特定事項としたものであるといえる(上記(ア-6))。 (ウ)また、低伝導度製剤発明及び低Dh製剤発明により、従来安定性のために必要と考えられていたイオン性賦形剤を用いることなく上記課題を解決できることは、本件特許明細書の実施例17、21及び22において示されている。 すなわち、低伝導度製剤発明について、実施例21の表51及び付表Dには、水性製剤中のアダリムマブ濃度が220mg/mLで、pH5.57、伝導度1.167mS/cmの水性製剤と、水性製剤中のアダリムマブ濃度が63mg/mLで、pH5.44、伝導度が0.522mS/cmの水性製剤が、40℃で1ヶ月後にそれぞれ99.0%、98.0%が単量体であるアダリムマブを含む水性製剤であることが示されている(上記(ア-10)、(ア-12))。 また、実施例22の表52には、実施例21の水性製剤に非イオン性賦形剤であるマニトール、ショ糖及び/又はポリソルベート80をさらに含み、アダリムマブの最終濃度が50mg/mL又は200mg/mLである水性製剤が記載されているところ、表55からみて、非イオン性賦形剤による水性製剤の伝導度に対する影響は0.001~0.004mS/cm程度であることからすれば、実施例22の水性製剤は、実施例21の表51に示される伝導度と同程度の伝導度であることが理解できる。しかも、付表Eには、そのような水性製剤が、40℃で1ヶ月後に少なくとも97%が単量体であるアダリムマブを含む水性製剤であることが示されている。(上記(ア-11)、(ア-13)。なお、表106~表108が付表Eであることは、本件特許明細書全体の記載から明らかである。) 次に、低Dh製剤発明について言及するに、実施例17の表38には緩衝液中のアダリムマブに関するデータが、また、表39及び表40には水中のアダリムマブに関するデータが示されているところ(上記(ア-9))、これらデータについて、製剤中のアダリムマブ濃度が約100mg/mLであって、製剤のpHが5から7であるものについてまとめると次のようになる。 すなわち、水性製剤中のアダリムマブのz-平均に基づくDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのz-平均に基づくDhより少なくとも50%小さいか、あるいは、4nm未満であり、しかも、そのような水性製剤は、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含むことが理解できる。(なお、実施例17における緩衝液が、本件訂正発明25における緩衝化された溶液であり、z-平均に基づくDhが本件訂正発明25又は29における粘度に基づくものであることは、【0468】及び【0479】(上記(ア-9))並びに【0200】(上記(ア-7))に示されている。) (エ)なお、上記実施例17の表40には、%単量体がいつの時点の値であるかは記載されていないが、実施例21の表51には、アダリムマブ濃度が63mg/mLで、pH5.44である水性製剤中のz-平均に基づくDhが1.85nmである製剤について、実施例22の表52、54及び付表Eには、アダリムマブ濃度が50mg/mL又は200mg/mLで、pH5.5程度である水性製剤中のz-平均に基づくDhが3nm未満又は0.5nm未満である製剤について、いずれも40℃で1ヶ月後に少なくとも97%が単量体であるアダリムマブを含むことが記載されている(上記(ア-10)~(ア-13))。 よって、当業者であれば、これら本件特許明細書の記載から、アダリムマブ濃度が50mg/mL以上200mg/mL以下、pHが5から7であり、本件訂正発明25又は29で特定するDhの条件を満たす水性製剤は、40℃で1ヶ月、液体状態で保存したとき、少なくとも97%が単量体であるアダリムマブを含む、すなわち安定な水性製剤であることを理解するものといえる。 同様に、実施例21の付表D及び実施例22の付表Eには、5℃で3ヶ月又は2~8℃で1ヶ月保管した場合の単量体濃度に変化が無いかせいぜい3ヶ月で0.1%程度の減少であることが示されていることから、当業者であれば、アダリムマブ濃度が50mg/mL以上200mg/mL以下、pHが5から7であり、本件訂正発明25又は29で特定するDhの条件を満たす水性製剤は、2から8℃で1年間、液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含む、すなわち安定な水性製剤であることを合理的に推認するものといえる。 2 甲1の1~甲1の4及びこれらに記載された発明 (1)甲1の1の記載及び甲1の1発明 ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された文献である甲1の1には、次の記載がある。 なお、甲1の1は外国語で記載された文献であるため、本審決の便宜上、その記載内容については翻訳文のみを示す。(外国語の文献について、以下同じ。) (1a)「        発明の分野 本発明は、タンパク質製剤、とりわけ医薬タンパク質に関する。特に本発明は、自己緩衝バイオ医薬タンパク質組成物、及び該組成物の設計、製造及び使用の方法に関する。・・・ 発明の背景 医薬品生産と製剤工程の多くの態様はpH感受性である。最終医薬品の正確なpHの維持は、その安定性、有効性及び有効期間には重大な意味を持ち、またpHは、許容可能であり且つ安全で有効な投与用の製剤の設計において重要な考慮事項である。 pHを維持するため、製薬工程及び製剤化には、1種以上の緩衝剤が使用される。・・・医薬組成物用の優れた緩衝液は、他の多くの条件も満たすものでなければならない。・・・ 一般用途には多くの緩衝液があるが、生物学的適用に好適な緩衝液の数は限られており、これらのうち、製薬工程及び製剤化に許容可能な緩衝液は依然として少ない。結果として、所与の製薬工程、製剤化又は製品のためのpHの維持に有効なだけでなく、他の全ての必要条件を満たす緩衝液を見出すのは困難であることが多い。 製薬用途に好適な緩衝液の発見の課題は、医薬タンパク質について特に重大である。タンパク質の立体構造と活性は、pHに大きく依存している。タンパク質は、その有効性に有害な種々のpH感受性反応(典型的には、小分子薬に影響を及ぼすことをはるかに超える反応)の影響を受けやすい。例えば、ほんの幾つかの顕著な例を挙げると、アスパラギンとグルタミンの側鎖のアミドは低pH(4.0未満)で、また中性又は高pH(6.0以上)でも脱アミド化する。アスパラギン酸残基は、低pHで隣接ペプチド結合の加水分解を促す。ジスルフィド結合の安定性と配置は、特にチオールの存在下でpHに高度に依存する。タンパク質の溶解度、凝結、凝集、沈殿、及び細動は、pHに強く依存している。一部の医薬製剤には重要な晶癖も、pHに強く依存している。さらにpHは、多くの医薬ペプチド及びタンパク質の表面吸収において重要な因子でもある。 ・・・ 医薬最終製品中でpHを維持するために用いられる緩衝液もまた、pHの維持に有効なだけでなく、被験体への投与に安全かつ許容可能でなければならない。例えば、幾つかの他の有用な緩衝液、例えば低濃度又は高濃度のクエン酸塩と高濃度の酢酸塩は、非経口的に投与されると望ましくない痛みを伴う。 ・・・ したがって、医薬品の製造及び製剤化並びに医薬組成物の、特にバイオ医薬タンパク質の製造及び製剤化並びにバイオ医薬タンパク質組成物の、pHを維持するさらなる改良された方法の必要性がある。 発明の概要 したがって、特定の好ましい実施形態において本発明が提供する多様な目的及び態様の1つは、タンパク質を含むタンパク質製剤、特に、所望のpHを維持するための追加の緩衝剤を必要とせずにタンパク質自身によって緩衝される医薬タンパク質を含む製薬上許容される製剤、及び該製剤中でタンパク質が実質的に唯一の緩衝剤である(すなわち他の成分は、存在しているとしても製剤中で緩衝剤としては実質的に作用しない)タンパク質製剤である。」(1頁7行~3頁21行) (1b)「       発明の詳細な説明 本発明は、特に自己緩衝タンパク質製剤(特にバイオ医薬タンパク質製剤)、この製剤の製造方法、また特にこの製剤の使用方法を初めて提供するものである。・・・ ・・・ タンパク質の緩衝能の測定は、主として、本発明による自己緩衝タンパク質製剤を開発するために重要である。これに関して、緩衝能を計測する方法と、タンパク質の緩衝能を測定する方法が以下に記載される。データの比較可能性を準備できるようにするため、タンパク質緩衝能は、比較可能な単位で、及び/又は緩衝液の標準に関連して表さなければならない。したがって以下の項は、本発明による、pHの測定基準及びこれらの必要条件を満たす標準を説明する。 1.緩衝 ・・・ 本明細書による自己緩衝タンパク質組成物の緩衝能の計測において、この緩衝能を、同じpHで同じ緩衝能を有する標準緩衝液の濃度に関して表すのが便利である。・・・ ・・・ 2.タンパク質による緩衝とタンパク質の緩衝能 a.タンパク質の水素平衡と緩衝能の測定 タンパク質は、常に多くの酸性の構成要素と塩基性の構成要素を含有する。結果として、タンパク質の水素イオン平衡は、極めて複雑である。実際、所与の環境におけるタンパク質の水素イオン平衡の完全な説明は、現在の理論的方法及びコンピュータによる方法を超えている。したがって、タンパク質緩衝能の経験的測定が好ましい。・・・ ・・・ 本発明による滴定曲線と緩衝能の測定は、以下の実施例中で、酢酸塩緩衝液及び様々な医薬タンパク質に関して詳細に記載されている。・・・ ・・・ 本発明の特定の態様は、タンパク質の緩衝能を溶液中の濃度の関数として測定することである。この点に関する好適な方法において、所与のタンパク質の溶液は、一連の段階的濃度で調製される。pH滴定曲線は、目的のpH範囲にわたる各濃度のタンパク質について測定される。」(27頁1行~37頁25行) (1c)「3.タンパク質 本明細書に開示される発明は、所望の製剤に必要とされるタンパク質濃度等のパラメータ内の所望のpH範囲で十分な緩衝能をもたらす任意のタンパク質を用いて実施することができる。この点について好ましいタンパク質は、動物及び/又はヒトに対する治療上の使用、特にヒトに対する治療上の使用のための医薬タンパク質である。・・・ ・・・ a.抗体、抗体由来タンパク質及び抗体関連タンパク質等 ・・・ b.標的結合タンパク質 ・・・ c.特定の具体的なタンパク質 特定の具体的なタンパク質は、特定の抗体及び抗体関連タンパク質、例えば、直下に、また本明細書の他の箇所に挙げられるペプチド抗体である。 OPGL特異的抗体及びペプチド抗体等(・・・)として、例えば・・・が挙げられる。・・・OPGL特異的抗体(「Ab-hOPGL」)の、pH範囲4.5~5.0とpH5.0~5.5にわたる酸滴定と塩基滴定は、以下の実施例に記載される。これらのpH範囲におけるAb-hOPGLの緩衝能の計算も、以下の実施例に記載される。 ・・・ ミオスタチン結合剤又はペプチド抗体として、例えば・・・が挙げられる。・・・ IL-4受容体特異的抗体・・・として、例えば、・・・が挙げられる。・・・IL-4受容体特異的抗体(「Ab-hIL4R」)の、pH範囲4.5~5.0とpH5.0~5.5にわたる酸滴定と塩基滴定、及びこの範囲における緩衝能の計算は、以下の実施例に記載される。 インターロイキン1-受容体1(「IL1-R1」)特異的抗体、ペプチド抗体及び関連タンパク質等として、例えば、・・・が挙げられる。・・・ Ang2特異的抗体及びペプチド抗体及び関連タンパク質等として、例えば、・・・が挙げられる。・・・ NGF特異的抗体として、例えば、・・・が挙げられる。・・・ CD22特異的抗体及び関連タンパク質として、例えば、・・・がある。・・・本発明の例として、CD22特異的抗体(「Ab-hCD22」)の、pH範囲4.5~5.0とpH5.0~5.5にわたる酸滴定と塩基滴定が以下の実施例に記載される。 IGF-1受容体特異的抗体及び関連タンパク質として、例えば、・・・がある。・・・ B-7関連タンパク質1(「B7RP-1」)特異的抗体として、・・・が挙げられる。・・・B7RP-1特異的抗体(「Ab-hB7RP1」)の酸滴定と塩基滴定及び緩衝能の測定は、以下の実施例に示される。 IL-15特異的抗体、ペプチド抗体及び関連タンパク質として、例えば、・・・がある。・・・ IFNγ特異的抗体・・・として、例えば、・・・がある。・・・ TALL-1特異的抗体及び他のTALL特異的結合タンパク質として、例えば、・・・がある。・・・ 幹細胞因子(「SCF」)及び関連タンパク質として、例えば、・・・がある。・・・ Flt3-リガンド、(「Flt3L」)及び関連タンパク質として、例えば、・・・があり、この文献の内容は、Flt3-リガンド及び関連タンパク質に関して参照により本明細書に組み込まれる。 IL-17受容体及び関連タンパク質(「IL-17R」)として、例えば、・・・があり、この文献の内容は、Flt3-リガンド及び関連タンパク質に関して、参照により本明細書に組み込まれる。 Embrelとも呼ばれるエタネルセプト、及び関連タンパク質。 Actimmune(インターフェロン-γ-1b)、・・・、HUMIRA(アダリムマブ)、・・・、及びZEVALIN(登録商標)(イブリツモマブチウキセタン)。 d.配列変異 ・・・ この点について特に好ましい実施形態では、上記の基準タンパク質の50%~150%の活性を有する。特に極めて好ましい実施形態では、・・・基準の90%~110%の活性を有する。」(40頁20行~54頁20行) (1d)「4.製剤 タンパク質医薬品の製剤化に従来利用されていた多くの試薬と方法は、本発明の様々な態様及び好ましい実施形態による自己緩衝タンパク質組成物の製剤化に用いることができる。しかし、本発明の自己緩衝タンパク質製剤においては、緩衝は、従来の製剤のように緩衝剤からではなく、実質的に完全に該タンパク質自体からもたらされる。さらに、本発明の様々な態様及び好ましい実施形態による自己緩衝タンパク質製剤は、このような緩衝剤を実質的に含まない。 しかし、他の多くの点について、本発明の様々な態様及び実施形態による自己緩衝タンパク質組成物は、タンパク質の製剤化に従来用いられていた試薬及び方法・・・を用いて製剤化することができる。 これにしたがって、医薬品の製剤化及び使用のための、周知かつ関連技術分野では日常的な多くの方法と成分を、これに関連する本発明の様々な態様及び好ましい実施形態による自己緩衝タンパク質製剤の設計、製造及び使用に用いることができる。・・・ ・・・ 本発明の様々な態様における特定の好ましい実施形態による製剤は、自己緩衝タンパク質組成物、特に医薬タンパク質組成物を提供し、該組成物はタンパク質と溶媒を含み、また低張、等張、又は高張、好ましくはほぼ等張、特に好ましくは等張な量の1種以上の製薬上許容されるポリオール、極めて好ましくは任意の1種以上のソルビトール、マンニトール、スクロース、トレハロース、又はグリセロール・・・をさらに含む。 本発明の様々な態様における特定の好ましい実施形態による製剤は、自己緩衝タンパク質組成物、特に医薬タンパク質組成物を提供し、該組成物はタンパク質と溶媒を含み、また1種以上の製薬上許容可能な界面活性剤、好ましくは1種以上のポリソルベート20、ポリソルベート80・・・をさらに含む。 ・・・ a.賦形剤及び他の付加成分 上記のとおり、本発明の態様による特定の実施形態は、自己緩衝タンパク質組成物、特にタンパク質(特に医薬タンパク質)に加えて、この項及び本明細書の他の箇所に具体的に記載されるような1種以上の賦形剤を含む医薬タンパク質組成物を提供する。この点に関し賦形剤は、本発明において、以下の広範囲の目的、例えば製剤の物理的、化学的、又は生物学的特性の調整、粘度の調整、及び/又は有効性を改善するため及び/又はこのような製剤を安定化させるための本発明の処理、並びに例えば、製造、輸送、保存、使用前処理、投与の間又はその後に生じるストレスに起因する劣化及び損傷に対する処理に使用される。 ・・・ i.塩 塩は、例えば、自己緩衝製剤のイオン強度及び/又は等張性を調整するため及び/又は本発明による自己緩衝タンパク質組成物の自己緩衝タンパク質又は他の成分の溶解度及び/又は物理的安定性を改良するために、本発明の特定の好ましい実施形態にしたがって使用することができる。 周知のとおり、イオンは、タンパク質表面上の荷電した残基に結合することにより、またタンパク質中の荷電基と極性基を遮蔽してこれらの静電相互作用、誘引作用及び反発作用の強さを低下させることによりタンパク質の天然状態を安定化させることができる。イオンは、特に該タンパク質の変性したペプチド結合(-CONH)に結合することによりタンパク質の変性状態を安定化させることもできる。さらに、1つのタンパク質中の荷電基及び極性基のイオン相互作用もまた、分子間静電相互作用を低下させ、これによりタンパク質の凝集及び不溶化を妨げ又は低下させることができる。 イオン種は、タンパク質に対する効果の点で著しく異なる。多数の、イオンのカテゴリー別順列及びタンパク質に対するこれらの影響が明らかにされており、これらは本発明による自己緩衝タンパク質組成物の製剤化に用いることができる。・・・ ・・・ 本発明の好ましい実施形態による非経口製剤中の等張性を維持し、タンパク質の溶解性及び/又は安定性を改良し、粘度特性を改良し、タンパク質の安定性及び凝集に関する有害な塩の影響を回避し、塩媒介性のタンパク質分解を妨げるため、本発明の様々な好ましい実施形態による自己緩衝製剤中の塩濃度は(一価イオンについて)150mM未満であり、また多価イオンについて150mEq/l未満である。この点に関し、本発明の特定の特に好ましい実施形態において、総塩濃度は、約75mEq/L~約140mEq/Lである。」(54頁22行~63頁2行) (1e)「実施例4:Ab-hOPGL製剤のpH5.0~pH4.0の範囲にわたる酸滴定 pH5.0の、10mM酢酸塩(アセテート)(名目値)及び5%ソルビトール中のhOPGL抗体のバルクは、マルチマニホールドカセットを備えるLABSCALE TFF(登録商標)system(Millipore社)において、3 Millipore Pellicon XL 50再生セルロース限外ろ過膜を使用して、(塩酸により調整された)pH3.2の5.25%ソルビトールに対して透析ろ過された。当該透析ろ過液は、各製剤の透析ろ過の工程を通じて8~10回交換された。透析ろ過の後、得られた無緩衝溶液のpHを測定し、0.05N HCl又は0.05N NaOHを用いてpH5.0に調整した。 1、10、30、60、90、及び110mg/mlの溶液を希釈により滴定用に調製した。各希釈液のpHは、必要に応じて、NaOH又はHClでpH5.0に調整した。滴定は、上記の実施例に記載のとおりに行った。1、10、及び30mg/ml溶液を滴定するために0.2N HClを使用した。60mg/ml溶液を滴定するために0.4N HClを使用した。90及び110mg/mlの溶液を滴定するため0.8N HClを使用した。 滴定の結果は、図4に示す。最小二乗法による回帰線は、各濃度のデータセットについて示す。緩衝能は、各濃度の回帰線の傾きとして考えられる。 実施例5:Ab-hOPGL製剤のpH5.0~6.0の範囲にわたる塩基滴定 1、10、30、60、90、及び110mg/mlのAb-hOPGL溶液を、実施例4に記載のとおり滴定用に調製した。前記実施例に記載のとおりNaOHを用いて塩基滴定を行った。1、10、30、及び60mg/mlの溶液には0.2N NaOHを使用し、90及び110mg/mlの溶液には、0.4N NaOHを使用した。滴定の結果は、図5のグラフに表す。各濃度のデータについて線形回帰線を示す。緩衝能は、各濃度の回帰線の傾きとして考えられる。 ・・・ 実施例9:自己緩衝製剤と従来の緩衝剤のpH及びAb-hOPGL安定性 Ab-hOPGLの自己緩衝製剤を、上記の実施例のとおりに調製した。さらに、従来の緩衝剤である酢酸塩又はグルタミン酸塩のいずれかを含む製剤を作製した。製剤は全て、60mg/ml Ab-hOPGLを含有していた。この製剤中のpHとAb-hOPGLの安定性を、4℃で6ヶ月の保存期間中にモニターした。安定性は、保存期間中、製剤中の単量体のAb-hOPGLを測定することによりモニターした。測定は、上記のSE-HPLCを用いて行った。全3種類の製剤に関する結果を図9に示す。パネルAは3種類の製剤中のAb-hOPGLの安定性を示す。自己緩衝製剤中の安定性は、従来の緩衝製剤と同程度に優れている。パネルBはこの3種類の製剤のpH安定性を示す。この場合もやはり、自己緩衝製剤中のpH安定性は、従来の緩衝製剤と同程度に優れている。」(75頁25行~77頁33行) (1f)「実施例10:Ab-hB7RP1の滴定と緩衝能-pH5.0~4.0 Ab-hB7RP1の自己緩衝製剤を、上記実施例中でAb-hOPGLについて記載したとおり、1、10、30、及び60mg/mlの濃度に調製した。・・・この結果は、このpH範囲におけるAb-hB7RP1の自己緩衝能を明確に示す。Ab-hB7RP1の自己緩衝製剤は、40mg/mlでは、10mM酢酸ナトリウム緩衝液とほぼ同程度のこのpH範囲での緩衝能を与える。60mg/mlでは、上記製剤は、15mM酢酸ナトリウム緩衝液とほぼ同程度の緩衝能を与える。 実施例11:Ab-hB7RP1の滴定と緩衝能-pH5.0~6.0 Ab-hB7RP1の自己緩衝製剤を、上記実施例でAb-hOPGLについて記載したとおり、1、10、30、及び60mg/mlの濃度に調製した。・・・この結果は、このpH範囲におけるAb-hB7RP1の自己緩衝能を明確に示す。Ab-hB7RP1の自己緩衝製剤は、60mg/mlでは、10mM酢酸ナトリウム緩衝液とほぼ同程度のこのpH範囲内での緩衝能を与える。 実施例12:4℃と29℃における、自己緩衝製剤及び従来の緩衝製剤中のAb-hB7RP1の安定性 Ab-hB7RP1を上記の実施例に記載のとおりに調製し、自己緩衝製剤と、従来の緩衝剤である酢酸塩又はグルタミン酸塩のいずれかを用いた製剤とに上記のとおり製剤化した。製剤は全て、60mg/ml Ab-hB7RP1を含有していた。溶液のpHと溶液中のAb-hB7RP1の安定性を、4℃又は29℃での26週間の保存期間中モニターした。安定性は、保存期間中に製剤中の単量体Ab-hB7RP1を測定することによりモニターした。測定は、SE-HPLCを用いて上記のとおり行った。結果を図12に示す。パネルAは4℃での保存の結果を示す。パネルBは29℃での保存の結果を示す。Ab-hB7RP1は、4℃の自己緩衝製剤中で従来の緩衝剤と少なくとも同程度に安定していた。29℃においては、自己緩衝製剤は従来の緩衝剤と少なくとも同程度に安定しており、10週目~最終時点では、従来の緩衝製剤を僅かに上回っていた可能性がある。 実施例13:4℃と29℃における、自己緩衝Ab-hB7RP1のpH安定性 ・・・ 実施例14:Ab-hCD22製剤の緩衝能-pH4.0~6.0 Ab-hCD22の自己緩衝製剤を調製し、上記の実施例中でAb-hOPGLとAb-hB7RP1について記載のとおり、pH範囲5.0~4.0と5.0~6.0にわたり滴定した。・・・緩衝能は濃度に線形に依存し、Ab-hCD22の約21mg/ml製剤は、同様に測定した10mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0の緩衝能と等しい緩衝能を有する。・・・ 実施例15:Ab-hIL4R製剤の滴定と緩衝能-pH5.0~4.0 Ab-hIL4Rの自己緩衝製剤を、上記の実施例中でAb-hOPGLに関して記載したとおり、1、10、25、及び90mg/mlの濃度に調製した。・・・この結果は、Ab-hIL4RのこのpH範囲の自己緩衝能を明確に示す。約75mg/mlでは、Ab-hIL4Rの自己緩衝製剤は、同様に測定した10mM酢酸ナトリウムpH5.0とほぼ同じ程度の標題のpH範囲の緩衝能を与える。 実施例16:Ab-hIL4R製剤の滴定と緩衝能-pH5.0~6.0 Ab-hIL4Rの自己緩衝製剤を、上記の実施例中でAb-hOPGLに関して記載したとおり、1、10、25、及び90mg/mlの濃度に調製した。・・・この結果は、このpH範囲におけるAb-hIL4Rの自己緩衝能を明確に示す。約90mg/mlでは、Ab-hIL4Rの自己緩衝製剤は、同様に測定した10mM酢酸ナトリウムpH5.0とほぼ同じ程度の、標題のpH範囲での緩衝能を与える。 実施例17:37℃における、酢酸塩製剤と自己緩衝Ab-hIL4R製剤中のAb-hIL4RとpHの安定性 pH5.0、70mg/mlのAb-hIL4Rの自己緩衝製剤と酢酸塩緩衝剤とを上記のとおり調製した。pHとAb-hIL4Rの安定性は、製剤中で4週間、37℃でモニターした。Ab-hIL4Rの安定性は、上記のとおりSE-HPLCでモニターした。この結果を図17に示す。パネルAは、Ab-hIL4Rが、自己緩衝製剤中で酢酸ナトリウム緩衝製剤中のAb-hIL4Rと少なくとも同程度に安定であることを示す。パネルBは、自己緩衝製剤中のpHが酢酸ナトリウム緩衝剤中のpHと同程度に安定であることを示す。」(78頁1行~80頁24行) (1g)「図9 図12 図17 」 イ 上記(1e)の実施例4によれば、酢酸塩及びソルビトールを含む緩衝溶液中のAb-hOPGL抗体原体を、塩酸により調整されたpH3.2のソルビトール水溶液で透析ろ過して無緩衝溶液を得、これを所定の濃度に希釈し、さらに塩酸又は水酸化ナトリウムを用いてpH5.0に調整したことが記載されているといえるところ、これは実施例9からみて自己緩衝製剤を調製しているものといえることから、甲1の1には、次の「甲1の1発明」が記載されていると認められる。 「60、90又は110mg/mLの濃度のAb-hOPGL、ソルビトール及び水を含む自己緩衝製剤であって、前記製剤のpHは5.0である自己緩衝製剤。」 (2)甲1の2の記載及び甲1の2発明 ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された文献である甲1の2には、次の記載がある。 (2a)「         発明の分野 本発明は、抗体を含む安定な水性医薬製剤に関する。」(1欄7~9行) (2b)「         発明の要約 したがって、本発明は、先だって凍結乾燥されていない治療的有効量の抗体、pHを約4.5から約6.0の範囲に維持する緩衝液、界面活性剤及びポリオールを含む安定な水性医薬製剤に関する。好ましくは、当該製剤は、約2~8℃で、少なくとも1年間安定であり・・・、及び/又は、当該製剤のその後の凍結及び融解に安定である。」(2欄23~32行) (2c)「好ましくは、当該製剤は、室温(~30℃)又は40℃において、少なくとも1か月安定であり、及び/又は、約2~8℃において、少なくとも1年間、少なくとも2年間安定である。さらに、当該製剤は、好ましくは当該製剤のその後の(例えば、-70℃への)凍結及び融解に安定である。」(6欄1~5行) (2d)「抗体は目的の抗原に対するものである。・・・ ・・・抗原の例は、例えば、以下の分子を含む;・・・;腫瘍壊死因子-アルファ・・・」(9欄62行~10欄19行) (2e)「約0.1mg/mL~約50mg/mL・・・が当該製剤における抗体濃度の例である。」(22欄13~18行) (2f)「ポリオールは、等張化剤として作用し、抗体を安定化し得るものであり、当該製剤に含まれる。好ましい形態において、当該製剤は、塩化ナトリウムなどの等張化量の塩を含まず、これは、抗体の沈殿を引き起こし得るからであり、及び/又は、低pHにおける酸化という結果をもたらし得るからである。好ましい形態において、ポリオールは、スクロース又はトレハロースなどの非還元糖である。」(22欄31~37行) (2g)「材料及び方法 以下の方法に使用される材料は下記の通りであった:・・・rhuMAb CD18(MOPS、酢酸ナトリウム、pH6.9中の~1.3mg/mL)。 緩衝液調製物及び製剤の設定:2リットル以下の保存緩衝液を透析及び製剤のために調製した。 0.2M酢酸ナトリウム、pH5:22.7mLの酢酸、17mLの50%NaOH、ミリ-Q水で2Lにされる。最終pH4.98。溶液を2Lナルゲンバイアル中へ滅菌ろ過し、5℃で保存した。 ・・・ 20%トレハロース:400gのトレハロース、ミリ-Q水で2Lにされる。最終pH6.4。溶液を2Lナルゲンバイアル中へ滅菌ろ過し、5℃で保存した。 10%(v/v)TWEEN20(登録商標):10mLの濃縮TWEEN20(登録商標)を注意深く取りだし、100mLのメスフラスコに添加し、ミリ-Q水で希釈し、溶解するまで攪拌した。暗所で2~8℃で保存する。 製剤:下記の表2は、出発タンパク質原体が本研究のための透析ろ過に供される緩衝液の調製を示す。組換えヒトモノクローナル抗体CD18(rhuMAb CD18)原体(~1.3mg/mLタンパク質濃度)約40mLは、表2に示されるように調製された溶液に対して(5℃で4時間2L及び夜通しで2Lまで)透析ろ過された。・・・ *製剤F2は、286μLの氷酢酸を希釈して調製された酢酸緩衝液及び200mLの20%トレハロースを用いて調製され、最終の500mLになるまでミリQ水と混合された。これは、10mM酢酸及び8%トレハロースである。約250mLが、必要とされるpHの調整に必要とされた。製剤F4は、50%NaOHの0.5mLを用いて調製された。 ・・・ 次いで、これらタンパク質溶液を、表5に示すように、予備透析緩衝液を用いて最終~1mg/mLのタンパク質濃度に希釈し、TWEEN20(登録商標)が、最後濃度0.01%(v/v)まで添加された。」(27欄下から18行~29欄3行) (2h)「・・・40℃で保存された製剤の安定化において、トレハロース製剤(67~270mM)は、NaClよりもはるかに効果的であった。・・・ ・・・ 緩衝液交換:組換えヒト化モノクローナル抗体CD20(rhuMAb CD20)原体の異なる試験緩衝液中への交換は、使用前に脱イオン水により徹底的に洗浄されたSpectra/Por(登録商標)7膜(分子量カットオフ(MWCO)=8kDa)を用い、2~8℃における透析ろ過により行われた。抗体の1容量は、適切な試験緩衝液の少なくとも10容積に対して透析ろ過された。この工程は、1日の間に3回から4回繰り返された。40mg/mLの最終濃度を得るために、当該抗体はさらにYM30膜(分子量カットオフ(MWCO)=30kDa)を含むAmicon UF/DFセルを用いて濃縮された。」(40欄41行~41欄2行) (2i)「加速温度貯蔵中のrhuMAb CD20を安定化するトレハロースの能力が、試験され、塩化ナトリウムの場合と比較された。 図26は、40℃で保存された試験製剤の透明性に関するトレハロース又は塩化ナトリウムの過剰モル率の効果を示す。塩化ナトリウムは、安定性に有害である。・・・ ・・・ 結論 上記のスクリーニング試験は、安定な高濃度rhuMAb CD20液体高用量製剤は、酢酸塩で緩衝し、pHを5に維持し、好ましくは抗体1モルあたり少なくとも約500モルのトレハロースを含むことによって可能であったことを示した。好ましい液体高用量の形状は、pH5で、40mg/mLのrhuMAb CD20、25mM酢酸塩、150mMトレハロース、0.9%ベンジルアルコール及び0.02%ポリソルベート20からなり、2~8℃において、2年間の保存寿命を有する。」(45欄6行~46欄28行) (2j)「請求の範囲 1.先だって凍結乾燥されていない治療的有効量の抗体、pH約4.8から約5.5の酢酸緩衝液、界面活性剤及びポリオールを含む安定な水性医薬製剤であって、ここで、当該製剤は、浸透圧に影響を与える量の塩化ナトリウムを含まない、製剤。」(57欄1~7行) イ 上記(2g)によれば、rhuMAb CD18原体(約1.3mg/mLタンパク質濃度)約40mLを、表2にF2製剤として示されるように調製された緩衝液に対して透析ろ過した後、透析緩衝液を用いて約1mg/mLのタンパク質濃度に希釈し、TWEEN20(登録商標)を最終濃度0.01%(v/v)まで添加して得られた製剤が記載されているところ、これは、酢酸ナトリウム、トレハロース、TWEEN20(登録商標)を含み、約pH5.0の製剤といえるから、甲1の2には、次の「甲1の2発明」が記載されていると認められる。 「約1mg/mLの濃度のrhuMAb CD18、酢酸ナトリウム、トレハロース、TWEEN20(登録商標)及び水を含む水性医薬製剤であって、前記製剤のpHは約5.0である水性医薬製剤。」 (3)甲1の3の記載及び甲1の3発明 ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された文献である甲1の3には、次の記載がある。 (3a)「【請求項1】 グルタミン酸緩衝液および/またはクエン酸緩衝液中に、治療上有効な量の抗体を含み、pHが4.0~6.0である安定な水性医薬製剤。」 (3b)「【0012】 以上のように、治療用途に好適な多くの抗体が研究、開発、実用化され、医療現場で頻繁に使用されるようになった現状においては、投与準備の操作が簡便で、細菌混入の危険性も低い、安定な水性医薬製剤が必要とされている。特に、抗HLA-DR抗体のような治療用途に好適な抗体を含有する安定な水性医薬製剤が当該分野で必要とされている。 ・・・ 【0015】 本発明では、治療上有効な量の抗体、pHを4.0から6.0に維持するグルタミン酸および/又はクエン酸を含有する安定な水性医薬製剤を提供する。製剤は少なくとも低温(2℃から8℃)において1年以上安定であり、すなわち少なくとも25℃において3箇月間および/又は40℃において1箇月間安定であり、製剤の凍結融解および振動に安定である。」 (3c)「【0027】 本発明における抗体の「治療上有効な量」とは、治療に抗体が有効である疾患の予防又は治療に有効な量を指す。・・・約1mg/mLから約200mg/mL、好ましくは約5mg/mLから約50mg/mL、最も好ましくは約10mg/mLおよび/又は約20mg/mLが製剤中の例示的な抗体濃度である。」 (3d)「【0031】 本特許に含まれる抗体は、好ましくはヒト抗体、ヒト型化抗体又はキメラ抗体であり、好ましくはIgGであり、好ましくはIgGのサブクラスが、IgG1、IgG2、IgG4のいずれかである。・・・また、より好ましくはHLA-DRに対するヒトモノクローナル抗体、・・・である。・・・さらに、本特許にはCD40に対するヒトモノクローナル抗体も含まれ、・・・である。・・・」 (3e)「【0042】 実施例1 抗HLA-DR抗体を含有する水性製剤(緩衝剤の検討) この実施例はWO2003/033538に公開されているHLA-DRに対する抗体(抗HLA-DR抗体)を含有する水性製剤を記述する。 ・・・ 【0061】 実施例2 抗HLA-DR抗体を含有する水性製剤(pHの検討) この実施例はWO2003/033538に公開されているHLA-DRに対する抗体(抗HLA-DR抗体)を含有する水性製剤を記述する。 ・・・ 【0071】 実施例3 抗HLA-DR抗体含有製剤(等張化剤の検討) この実施例はWO2003/033538に公開されているHLA-DRに対する抗体(抗HLA-DR抗体)を含有する水性製剤を記述する。 ・・・ 【0075】 (3)結果および考察 ・・・また発明者は予備的な検討により等張化剤として塩(塩化ナトリウム)あるいは糖(ソルビトール)を比較した試験を行っており、熱安定性試験において重合体、分解物、デアミド体生成量に関して糖類を用いた場合により安定である知見を得ている。 【0076】 従って、本発明の等張化剤は好ましくは本質的に塩を含まず、好ましくは溶液中において抗体に化学的影響を与えない非還元糖が好ましいポリオールであり、製剤が凍結融解上安定であることが望まれる場合は、製剤中の抗体を不安定化させるような凍結温度(例えば-20℃)で結晶化しないものが好適である。ソルビトールが優れた溶液安定性を有しているため好ましい。 ・・・ 【0079】 またさらに、HSAに対する組換え完全ヒトIgG1抗体(抗HSA抗体)を用い同様の検討を行っており、本発明は抗体種類によらず成立することを確認している。また、抗HSA抗体を用いた水性医薬製剤の検討では抗体濃度1mg/mLから100mg/mLまで検討を行っており、本発明で明らかになった方法は抗体濃度によらず成り立つことが明らかとなっている。 【0080】 実施例4 抗体含有医薬製剤の調製 抗体を含有する安定な水性医薬製剤の調製例を以下に記載する。 【0081】 本発明に用いる抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)をコードする遺伝子で形質転換され該抗体を発現産生し得るCHO細胞の培養上清から、WO2003-033538に示されている方法で該抗体を精製する。この精製抗体を約10mg/mLに濃縮後、限外濾過膜を用いて10mMグルタミン酸緩衝液、262mM D-ソルビトール、pH=5.5バッファーに置換する。バッファー置換後の回収液中に含まれる抗体濃度を20mg/mLに濃縮および調製した後、ポリソルベート80を0.05mg/mLとなるように添加し抗体を20mg/mL含む水性医薬製剤を得る。また上記20mg/mL抗体製剤を抗体の含まれていない水性医薬製剤(10mMグルタミン酸緩衝液、262mM D-ソルビトール、0.05mg/mLポリソルベート80溶液)で希釈することにより任意の抗体濃度の水性医薬製剤を調製する。以下の表4のAからNに抗体を10mg/mL含有する水性医薬製剤1mLあたりの組成例を示す。 ・・・ 【0084】 実施例5 抗CD40抗体を含有する水性製剤 この実施例はWO02-088186に公開されているCD40に対する抗体(抗CD40アンタゴニスト抗体)を含有する水性製剤を記述する。」 イ 上記(3e)の実施例4によれば、精製抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)を約10mg/mLに濃縮後、限外濾過膜を用いて10mMグルタミン酸緩衝液、262mM D-ソルビトール、pH=5.5バッファーに置換し、バッファー置換後の回収液中に含まれる抗体濃度を20mg/mLに濃縮及び調製した後、ポリソルベート80を0.05mg/mLとなるように添加することで抗体を20mg/mL含む水性医薬製剤を得たこと、また上記20mg/mL抗体製剤を抗体の含まれていない水性医薬製剤(10mMグルタミン酸緩衝液、262mM D-ソルビトール、0.05mg/mLポリソルベート80溶液)で希釈することにより例えば10mg/mLの抗体濃度の水性医薬製剤を調製することが記載されていることから、甲1の3には、次の「甲1の3発明」が記載されていると認められる。 「10又は20mg/mLの濃度の抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)、グルタミン酸緩衝液、D-ソルビトール、ポリソルベート80及び水を含む水性医薬製剤であって、前記製剤のpHは5.5である水性医薬製剤。」 (4)甲1の4の記載及び甲1の4発明 ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された文献である甲1の4には、次の記載がある。 (4a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、一般に、タンパク質精製およびウイルス不活性化/除去、そして具体的には、血漿および他の給源からのγ-グロブリン精製のための改良法に関する。」 (4b)「【0015】 【発明の構成】本発明は、ヒト血漿および他の給源からの抗体(特にIgGタイプの)の精製のための改良法である。本方法は、pH3.8~4.5における抗体の懸濁、続いてカプリル酸(または他のカプリル酸塩源)の添加、そしてpH5.0~5.2へのpHシフトを伴う。混入しているタンパク質、脂質およびカプリル酸塩の沈殿物が生成し、そして除去されるが、一方、大多数の抗体は溶液中に残る。再び、カプリル酸ナトリウムが、少なくとも約15mMの最終濃度まで添加される。この溶液が、活性なウイルスの力価を実質的に低下するのに十分な条件下でインキュベートされる(例えば25℃で1時間)。沈殿物(主としてカプリル酸塩)が除去され、そして清澄な溶液は、イオン強度を低下するために純水で希釈される。2種の異なる樹脂を用いるアニオン交換クロマトグラフィーが利用されて、出発時の分布に類似の抗体サブクラス分布をもつ非常に純粋な抗体調製物を得る。」 (4c)「【0017】材料および方法 pHの調整は、1M酢酸。2M酢酸、6%NaOH、1MNaOHもしくは1MHClを用いて行った。・・・」 (4d)「【0032】最終産物のための好適な条件は、この製造者によって保有される特許に基づいて選択される。これらの条件(低pHおよび低塩)は、理論的に、いかなるIgG産物にも好都合であろう。回収されたタンパク質はpH4.2に調整される、それは、濃度約5%(w/v)まで限外濾過される。次いで、純水に対してダイアフィルトレーションされる。 【0033】精製されたIgGは、安定な液状製剤(Tenold,1983記載のように)や、また他の適当な最終製剤(例えば、凍結乾燥製剤)のいずれのためにも濃縮される。液状製剤では、精製IgGは濃縮されて、無菌濾過後に5%または10%IgG(w/v)のいずれかを得る。・・・」 (4e)「【0037】 【実施例】 (実施例1) コーン画分II+IIIペーストからIgGの精製 ・・・ 【0039】その混合液を濾過して、クロマトグラフィーのための澄明な溶液を作成した。溶液の伝導率を、純水を用いて2.0~3.0mS/cmに調整した。伝導率の調整後、溶液のpHを5.0~5.2に調整した。 ・・・ 【0041】クロマトグラフィーから回収された通過液のpHを、酢酸を用いて3.8~4.0に調整した。それを、バッファー(純水)を7回交換してダイアフィルトレーションした。次いで、それを濃縮し、そしてpH4.2において最終製剤化した。 ・・・ 【0044】(実施例2) 細胞培養培地からIgGの精製 最初に、モノクローナル抗体を含有する細胞系増殖培地を、適当なpHおよび伝導率に調整する。これは、pHを酢酸で4.2に調整しながら純水に対するダイアフィルトレーションによって行った。伝導率は1.0mS/cm未満にしなければならない。 【0045】モノクローナル抗体の精製を、上記の段階にしたがって達成する。次いで、精製されたモノクローナル抗体を濃縮し、そしてグリシン、マルトースまたは他の適切な添加剤を用いてpH4.2に最終製剤化する。pH4.2における製剤化によって、5℃で2年間安定な液剤が達成できる。これは商業的観点から非常に望ましいことである。」 イ 上記(4e)の実施例2によれば、モノクローナル抗体を含有する細胞系増殖培地を、pHを酢酸で4.2に調整しながら純水に対してダイアフィルトレーションすることによって得られた、伝導率が1.0mS/cm未満の精製されたモノクローナル抗体について、これを濃縮し、グリシン、マルトース又は他の適切な添加剤を用いてpH4.2に最終製剤化することが記載されていることから、甲1の4には、次の「甲1の4発明」が記載されていると認められる。 「細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体、グリシン、マルトース又は他の適切な添加剤及び水を含む製剤であって、前記製剤のpHは4.2である製剤。」 3 無効理由1(進歩性欠如)の検討 (1)甲1の1に基づく進歩性欠如についての検討 ア 本件訂正発明1 (ア)本件訂正発明1と甲1の1発明との対比 甲1の1発明の「Ab-hOPGL」と、本件訂正発明1の「アダリムマブ」は、抗体である点で共通する。 また、甲1の1発明の「自己緩衝製剤」は、本件訂正発明1の「水性製剤」に相当する。 なお、甲1の1発明は「ソルビトール」を含むものであるが、本件訂正発明1は、「アダリムマブ及び水を含む」ものであって、例えば請求項1を間接的に引用する請求項61においてさらにソルビトールを含むことが特定されているとおり、ソルビトールを含むことを排除するものではないから、この点は相違点ではない。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 ・一致点 「50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度の抗体及び水を含む、水性製剤。」である点 ・相違点1 抗体が、本件訂正発明1は「アダリムマブ」であるのに対し、甲1の1発明は「Ab-hOPGL」である点 ・相違点2 本件訂正発明1は、水性製剤が「2.5mS/cm未満の伝導度を有する」と特定しているのに対し、甲1の1発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点3 本件訂正発明1は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと特定しているのに対し、甲1の1発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~3の検討 a 相違点1 (a)甲1の1は、医薬品においてpHの維持がその安定性などに重大な意味を持ち、特に、医薬タンパク質においては立体構造や活性がpHに大きく依存しているため、pHの維持がより重要であるとの背景、並びに、緩衝液の選択にも様々な条件を伴うとの背景のもと、所望のpHを維持するための追加の緩衝剤を必要とせず、タンパク質を実質的に唯一の緩衝剤であるようにしたタンパク質製剤に関する技術を開示するものである(上記(1a))。 そして、甲1の1には、自己緩衝タンパク質製剤を開発するため、タンパク質の緩衝能を測定することが重要であること、その方法として、タンパク質の溶液を一連の段階的濃度で調製してそれぞれの濃度のpH滴定曲線を測定し、タンパク質の緩衝能を溶液中の濃度の関数として測定することが示されており(上記(1b))、実施例4~8には、OPGL特異的抗体(Ab-hOPGL)の緩衝能を求めるため、特定のpH及び濃度を有する無緩衝溶液を調製し、酸滴定及び塩基滴定を行って緩衝能を求めたこと、実施例9には、得られた製剤が安定であったことが示されている(上記(1e)、(1g))。また、実施例10~11、14~16には、同様に、B7RP-1特異的抗体(Ab-hB7RP1)、CD22特異的抗体(Ab-hCD22)及びIL-4受容体特異的抗体(Ab-hIL4R)の緩衝能を調べたこと、実施例12、17には、Ab-hB7RP1及びAb-hIL4Rについては、得られた製剤が安定であったことが示されている(上記(1f)、(1g))。 さらに、上記(a)で述べたことを前提として、甲1の1には、実施例で緩衝能を測定した4つのタンパク質以外に、自己緩衝タンパク質製剤を得るためのタンパク質が多数挙げられており、そのなかの「c.特定の具体的なタンパク質」の例としてアダリムマブが記載されている(上記(1c))。 (b)そこで、甲1の1発明の「Ab-hOPGL」に代えて、「アダリムマブ」を採用することが想到容易といえるか検討する。 (c)甲1の1には、異なる4つの抗体について同じ透析ろ過を行って自己緩衝製剤を調製したこと、そのうちの3つは安定な自己緩衝製剤であったことが実施例において示されている(上記(1e)、(1f)、(1g))。 しかしながら、証拠(乙2~4、10及び20)から、抗体はタンパク質と同様にそれぞれに安定性が異なること、また、個々のアミノ酸配列の違いなどから、安定な製剤とするための抗体全般に適用可能な技術は存在せず、むしろ特定の抗体で安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことが本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったといえる。 すなわち、乙2~4、10及び20には、次の記載がある。 ・乙2 「異なるタンパク質間の構造的差異は非常に大きいので、普遍的な安定化戦略の一般化は成功していない。非常にしばしば、タンパク質は個々に評価され、試行錯誤的に安定化されなければならない。」(130頁右欄下から6~1行) 「残念なことに、タンパク質共溶質相互作用及びタンパク質の複数の不活化機構の明確で明白な理解が欠如しているため、適切な安定剤の選択において従うべき単一経路は存在しない。」(178頁左欄37~42行) 「液体タンパク質医薬品を製剤化する際の最も手ごわい課題は、許容可能な貯蔵寿命のためにタンパク質の生物学的活性を保存することである。残念なことに、そのような製品の製剤化の際に、従うべき単一の経路はない。通常、タンパク質はケースバイケースで評価されねばならない。」(178頁3~9行) ・乙3 「そのような分解物を生成するそれらの傾向は、それらの個々の配列、pI、疎水性、及び炭水化物含量に非常に依存する。」(14頁左欄下から7~4行) 「特定の抗体を安定化する1つの製剤賦形剤は、その配列の相違のために別の抗体には適していない可能性があることを強調すべきである。」(14頁右欄8~11行) 「・・・抗体は、多くのタンパク質と同様に、様々な不安定性を経験するのである。これらの物理的、科学的不安定性は、変性、凝集、表面吸着、脱アミド化、酸化、異性化、分裂などを含む。異なる抗体間での一次配列が大きく異なると、これらの分解経路の相対的過酷さは大きく異なる可能性がある。概して、凝集、脱アミド化、異性化は、抗体でより一般的であるように思われる。 ・・・市販の抗体製品で使用されている、又は製品で検討されている製剤賦形剤及び緩衝剤はすべて、製品の一部として選択する前に、安定性試験を通じて各抗体候補について個別に評価する必要がある。抗体はそれぞれ構造的に異なるからである。」(21頁7~43行) ・乙4 「タンパク質は多数の反応性化学基と繊細な三次元構造からなる複雑な分子であるため、すべての成分を安定に保つための一連の条件を特定することは事実上不可能である。」(2頁1~4行) 「一次配列に対するタンパク質構造、機能、及び安定性の絶妙な感受性は、タンパク質製剤のための一般的なアプローチに容易に役立たない。・・・密接に関連するタンパク質でさえ、分解に対する相対的な安定性及び主要な経路は全く異なる可能性がある。」(185頁下から5行~186頁1行) ・乙10 「現在承認されているIgG1ベースの抗体医薬品のアミノ酸配列を調べると、これらのタンパク質では、小さなセグメントのみが互いに劇的に異なることが明らかになる。・・・先験的に、これらの抗体医薬品のうちの1つの安定した製剤を見出すことによって、そのような製剤は、全てではないにしろほとんどの類似の抗体にとって良好であると推定するかもしれない。このことが経験によって裏づけられたものであったなら、本稿のような概説は不要であろう。そうではなく、各抗体は、安定性の要件に関連するユニークな性格を有するようであり、これらの抗体の小さな差異は抗原特異性を規定する表面露出アミノ酸の違いに焦点を当てているという事実に由来する現象である。したがって、各抗体薬物の界面はユニークであり、したがって、最大限の安定性及び活性の保持を提供するために特定の製剤成分を必要とする。」(690頁左欄下から2行~右欄19行) ・乙20 「本概説は、タンパク質安定性及び凝集の分野における包括的な文献レビューを提供することを目的としたものではない。各タンパク質は化学的及び物理的にユニークであり、したがって独特の安定性挙動を示すであろう。」(1326頁2~6行) また、証拠(乙2、3、10及び13)から、抗体は濃度が高くなるほど凝集が起こりやすくなるなど、抗体の安定性は濃度に影響を受けることも本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったといえる。 すなわち、乙2、3、10及び13には、次の記載がある。 ・乙2 「タンパク質の凝集は、一般に濃度に依存する。・・・高濃度でタンパク質の凝集が加速することが多くの場合において報告されている。」(152頁右欄14~23行) ・乙3 「抗体の凝集は、物理的な不安定性のより一般的な発現である。濃度依存性の抗体凝集は、高濃度でタンパク質製剤を開発する上で最大の課題と考えられていた。」(8頁下から5~最下行) 「凝集プロセスは通常濃度依存性であるため、高濃度の抗体には少なくとも2つの潜在的な問題がある:貯蔵中に凝集する傾向が強いこと、高粘度の可能性が高いため、注入時により困難(注入時間と粘度の相関)であることである。高濃度タンパク質製剤を開発するためには、濃度依存性のタンパク質凝集が最大の課題であることが示唆されている。」(14頁左欄10行~15頁1行) ・乙10 「抗体には高濃度粘度の問題を示すものもあるが、示さないものもある。・・・したがって、任意の特異的抗体製剤における粘性、吸着損失及び凝集に対処することは、ケースバイケースで行われる可能性が高い。」(692頁右欄下から17~10行) 「凝集(共有、非共有、解離及び非解離)は、高濃度抗体製剤に起こりやすい分解事象とみなされなければならない。」(693頁左欄11~14行) ・乙13 「しかしながら、高濃度のタンパク質製剤を開発することは、濃度依存的な凝集感受性と、分子間相互作用と溶液中の高分子の集合により高粘度になる傾向によって、著しい困難を生じる。」(1505頁右欄7~14行) (d)そうすると、甲1の1には、異なる4つの抗体について、同じ透析ろ過により自己緩衝製剤を調製でき、そのうちの3つの抗体については60mg/mL程度の濃度で安定な製剤であったことが記載され、また、自己緩衝タンパク質製剤を得るためのタンパク質としてアダリムマブが例示されてはいるものの、上述の技術常識を踏まえれば、当業者は、実施例の4つの抗体とは全く別の抗体であるアダリムマブについても同じ透析ろ過により50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度の安定な自己緩衝製剤が得られると予測し得ないといわざるをえない。 またそもそも、甲1の1には、抗体あるいは抗体関連タンパク質について、かなりの数のタンパク質が網羅的に記載されており、その中からことさらにアダリムマブを選択する理由もない。 したがって、「Ab-hOPGL」に代えて「アダリムマブ」を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (e)よって、相違点1は、当業者が容易になし得たことではない。 b 相違点2及び相違点3 (a)まず、相違点2に係る水性製剤の伝導度について検討するに、甲1の1の実施例4には、塩酸によりpH3.2に調整された5.25%ソルビトールに対して透析ろ過を行って無緩衝溶液を調製し、その後0.05N HCl又は0.05N NaOHを用いてpH5.0に調整したことや、各濃度の溶液についても同様にして最終pHを5.0に調整したことが記載されてはいるものの(上記(1e))、得られた溶液の伝導度については記載されておらず、したがって、甲1の1発明の伝導度は不明である。 しかも、甲1の1は、自己緩衝タンパク質製剤について、従来用いられていた試薬を製剤化に用いることができること、イオン強度、等張性を調整するためや、物理的安定性を改良するために塩を使用することができること、塩の使用によってタンパク質の凝集及び不溶化を妨げ又は低下させることもできることといった技術を開示するものであって(上記(1d))、自己緩衝タンパク質製剤の伝導度を特定の値未満に調整すべきことについて何ら着目しない。 (b)次に、水性製剤中のアダリムマブの安定性を規定したものといえる相違点3に係る構成について検討するに、甲1の1の実施例9には、甲1の1発明のうちの60mg/mLの濃度のAb-hOPGL及びソルビトールを含む製剤について、安定性を評価するために4℃で6ヶ月保存した場合の製剤中の単量体のAb-hOPGLを測定したところ、およそ98%が単量体であったことが示されている(上記(1e)、(1g))。 しかしながら、上記a(c)で検討のとおり、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったことからすると、Ab-hOPGLについての安定性の評価から、水性製剤中のアダリムマブの安定性を予測することはできない。 (c)ところで、甲3の1及び甲11の1によれば、甲1の1の実施例4に準じて抗体としてアダリムマブを用いて得られた水性製剤の伝導度は、0.448mS/cmであり、当該製剤を40℃で1ヶ月液体状態で保存したとき、98.8%が単量体であったとされる。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の1発明と同じ条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明1で特定する伝導度や単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の1の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点3に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 (d)よって、相違点2及び相違点3は、当業者が容易になし得たことではない。 c 本件訂正発明1の効果についての検討 本件訂正発明1は、本件特許明細書に記載されているとおり、アダリムマブ及び水を含む水性製剤において、その伝導度に着目し、これを2.5mS/cm未満とすることによって、溶液中のタンパク質を安定化させるために伝統的な製剤中で使用されているイオン性賦形剤を必要とせずに、長期の液体保存又は凍結/融解及び凍結乾燥などの他の処理工程の間に、50~200mg/mLという高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたタンパク質が溶解度及び安定性を維持することができる水性製剤、すなわち、40℃で1か月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含む水性製剤としたものである(【0011】~【0013】、【0127】、実施例21、22)。 それに対し、甲1の1発明は、50mg/mLを超える60、90又は100mg/mLの濃度の抗体を含む自己緩衝製剤であるが、自己緩衝製剤の伝導度には何ら着目していない。そして、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であるのは、上述のとおりである。 そうすると、甲1の1に、60mg/mLの濃度のAb-hOPGLを含む自己緩衝製剤が安定であったことが示されているとしても、このことから直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、特定の伝導度未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明1が奏する効果を予測し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1の1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件訂正発明29 (ア)本件訂正発明29と甲1の1発明との対比 甲1の1発明の「Ab-hOPGL」と、本件訂正発明29の「アダリムマブ」は、抗体である点で共通する。 また、甲1の1発明の「自己緩衝製剤」は、本件訂正発明29の「水性製剤」に相当する。 なお、甲1の1発明が「ソルビトール」を含む点は、上記ア(ア)で検討したとおり相違点ではない。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 ・一致点 「50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度の抗体及び水を含む水性製剤であって、前記水性製剤のpHは5から7である、水性製剤。」である点 ・相違点1 抗体が、本件訂正発明29は「アダリムマブ」であるのに対し、甲1の1発明は「Ab-hOPGL」である点 ・相違点2 本件訂正発明29は、「前記水性製剤中のアダリムマブが4nm未満のDhを有し、ここで、前記Dhは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づくDhである」と特定しているのに対し、甲1の1発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点3 本件訂正発明29は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと特定しているのに対し、甲1の1発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~3の検討 a 相違点1 上記ア(イ)aで検討したのと同様の理由により、Ab-hOPGLに代えてアダリムマブを採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 b 相違点2及び相違点3 (a)相違点2に係る水性製剤中の抗体のDhについて検討するに、甲1の1には、甲1の1発明のAb-hOPGLのDhについての記載はない。 ここで、本件特許明細書には、水性製剤中のタンパク質のDhはイオン性賦形剤(ヒスチジン、アルギニン、塩化ナトリウムなど)があるとその影響を受け、イオン性賦形剤がないものと比較して大きくなることが記載されている(【0142】~【0143】)。 それに対し、甲1の1は、自己緩衝タンパク質製剤について、従来用いられていた試薬を製剤化に用いることができること、イオン強度、等張性を調整するためや、物理的安定性を改良するために塩を使用することができること、塩の使用によってタンパク質の凝集及び不溶化を妨げ又は低下させることもできることといった技術を開示するものである(上記(1d))。 すなわち、自己緩衝タンパク質製剤中のタンパク質のDhに影響を与えるとされる塩の添加は任意としているとおり、甲1の1は、自己緩衝タンパク質製剤中のタンパク質のDhを特定の値未満に調整すべきことについて何ら着目しない。 (b)相違点3については、上記ア(イ)b(b)で検討したのと同様の理由により、Ab-hOPGLについての安定性の評価から、水性製剤中のアダリムマブの安定性を予測することはできない。 (c)ところで、甲3の1及び甲11の1によれば、甲1の1の実施例4に準じて抗体としてアダリムマブを用いて得られた水性製剤中のアダリムマブのDhは、Anton Paar社製落下球式測定計により測定した検体の粘度1.6275mPasを用い、Malvern社製Zetasizer Nano ZSを用いて測定したz-平均に基づく値が2.475nmであり、当該製剤を40℃で1ヶ月液体状態で保存したとき、98.8%が単量体であったとされる。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の1発明と同じ条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明29で特定するDhや単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の1の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点3に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 (d)よって、相違点2及び相違点3は、当業者が容易になし得たことではない。 c 本件訂正発明29の効果についての検討 本件訂正発明29は、本件特許明細書に記載されているとおり、アダリムマブ及び水を含む水性製剤において、水性製剤中のアダリムマブのDhに着目し、これを4nm未満とすることによって、溶液中のタンパク質を安定化させるために伝統的な製剤中で使用されているイオン性賦形剤を必要とせずに、長期の液体保存又は凍結/融解及び凍結乾燥などの他の処理工程の間に、50~200mg/mLという高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたタンパク質が溶解度及び安定性を維持することができる水性製剤、すなわち、40℃で1か月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含む水性製剤としたものである(【0011】~【0012】、【0142】、実施例17、21、22)。 それに対し、甲1の1発明は、50mg/mLを超える60、90又は100mg/mLの濃度の抗体を含む自己緩衝製剤であるが、自己緩衝製剤中の抗体のDhには何ら着目していない。そして、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であるのは、上述のとおりである。 そうすると、甲1の1に、60mg/mLの濃度のAb-hOPGLを含む自己緩衝製剤が安定であったことが示されているとしても、このことから直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、水性製剤中の抗体のDhを特定の値未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明29が奏する効果を予測し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明29は、甲1の1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 ウ 本件訂正発明25 (ア)本件訂正発明25と甲1の1発明との対比 本件訂正発明25と甲1の1発明とを対比すると、両発明は、上記イで検討した本件訂正発明29との対比における一致点及び相違点1、3と同じ一致点及び相違点1、3を有するとともに、以下の相違点2’を有する。 ・相違点2’ 本件訂正発明25は、「前記水性製剤中のアダリムマブは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく水力学的直径(Dh)を有し、前記水性製剤中のアダリムマブのDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく、前記緩衝化された溶液は、5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトールを含み、前記緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhは、前記水性製剤と同じ方法で測定される」と特定しているのに対し、甲1の1発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1、3及び相違点2’の検討 a 相違点1、3は、上記イ(イ)a及びb(b)で検討したとおりである。 b 次に、相違点2’について検討するに、相違点2’は、水性製剤中のアダリムマブのDhについて、本件訂正発明29においては、4nm以下と特定されていたものを、同じ濃度とpHで、特定の緩衝化された溶液中のDhより少なくとも50%小さいと特定したものであるところ、上記イ(イ)b(a)で検討したとおり、甲1の1は、自己緩衝タンパク質製剤中のタンパク質のDhを同じ濃度とpHで、特定の緩衝化された溶液中のタンパク質のDhより少なくとも50%小さいものとすべきことについて何ら着目しないものである。 c ところで、請求人は、甲3の1には、甲1の1の実施例4に準じて得られた水性製剤中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(2.475nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(2.120nm)が記載されており、また、甲4には、PBS中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(11.10nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(8.201nm)が記載されており、これら証拠に記載されている値から、Dhの相対値(%)を算出したところ、50%小さい値が導出されたことから(22.30%と25.85%)、甲1の1発明においてアダリムマブを採用した場合にも、本件訂正発明25で特定するDhの条件を満たすと主張する(請求書46頁の表)。 さらに、甲12には、本件訂正発明25で特定された緩衝液中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(9.366nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(9.840nm)が示されていることを踏まえ、特定された緩衝液との比較においても本件訂正発明25で特定するDhの条件を満たす旨主張する。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の1発明と同じ条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明25で特定するDhや単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の1の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2’に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点3に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 d よって、相違点1、3及び相違点2’は、当業者が容易になし得たことではない。 e 本件訂正発明25の効果についての検討 本件訂正発明25は、本件訂正発明29と同様に、水性製剤中のアダリムマブのDhに着目し、これを特定の値未満とすることで、50~200mg/mLという高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたタンパク質が溶解度及び安定性を維持することができる水性製剤、すなわち、40℃で1か月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含む水性製剤としたものである(【0011】~【0012】、【0142】~【0143】、実施例17、21、22)。 したがって、本件訂正発明29と同様に、甲1の1から直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、水性製剤中の抗体のDhを特定の値未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明25が奏する効果を予測し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明25は、甲1の1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 エ 本件訂正発明2~4、7、30~33、37~44、60~64 本件訂正発明2~4、7、30~33、37~41、60~64は、本件訂正発明1、25又は29を直接又は間接的に引用して、さらに限定した水性製剤に関する発明であり、本件訂正発明42、43又は44は、本件訂正発明1、25又は29の水性製剤を含む装置、又は製品に関する発明であるから、いずれも上記ア~ウと同様の理由により、甲1の1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 オ 甲1の1に基づく進歩性欠如についてのまとめ 以上のとおりであるから、甲1の1に基づく進歩性欠如に関する請求人の主張に係る無効理由1には理由がない。 (2)甲1の2に基づく進歩性欠如についての検討 ア 本件訂正発明1 (ア)本件訂正発明1と甲1の2発明との対比 甲1の2発明の「rhuMAb CD18」と、本件訂正発明1の「アダリムマブ」は、抗体である点で共通する。 また、甲1の2発明の「水性医薬製剤」は、本件訂正発明1の「水性製剤」に相当する。 なお、甲1の2発明は、「酢酸ナトリウム」、「トレハロース」及び「TWEEN20(登録商標)」を含むものであるが、本件訂正発明1は、「アダリムマブ及び水を含む」ものであって、例えば請求項1を間接的に引用する請求項32及び33においてさらにトレハロースやポリソルベート20(本審決注:TWEEN20(登録商標)と同じ)を含むことが特定されるように、アダリムマブと水以外の成分を含むことを排除するものではないから、この点は相違点ではない。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 ・一致点 「抗体及び水を含む水性製剤。」である点 ・相違点1 抗体が、本件訂正発明1は「アダリムマブ」であるのに対し、甲1の2発明は「rhuMAb CD18」である点 ・相違点2 水性製剤に含まれる抗体の濃度が、本件訂正発明1は「50mg/mL以上200mg/mL以下」であるのに対し、甲1の2発明は「1mg/mL」である点 ・相違点3 本件訂正発明1は、水性製剤が「2.5mS/cm未満の伝導度を有する」と特定しているのに対し、甲1の2発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点4 本件訂正発明1は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと特定しているのに対し、甲1の2発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~4の検討 a 相違点1 (a)甲1の2は、先だって凍結乾燥されていない治療的有効量の抗体、pHを約4.5から約6.0の範囲に維持する緩衝液、界面活性剤及びポリオールを含む安定な水性医薬製剤に関する技術を開示するものであり、そのような抗体に対する抗原の例の一つとして、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を挙げる(上記(2b)、(2d))。 ここで、甲5の1によれば、アダリムマブもTNF-αに特異的に結合する抗体であることから、甲1の2発明の「rhuMAb CD18」に代えて「アダリムマブ」を採用することが想到容易といえるか検討する。 (b)甲1の2には、甲1の2発明のrhuMAb CD18の他に、これとは異なる抗体であるrhuMAb CD20を製剤化した実施例も示されているが(上記(2h))、これら2つの抗体以外に実際に安定な水性医薬製剤を得たことは示されておらず、これら2つの抗体はアダリムマブとも全く異なる抗体である。しかも、甲1の2に示されている異なる2つの抗体における水性医薬製剤の組成は異なるものであることが理解できる(上記(2g)、(2i))。 そうすると、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体で安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったことからすると、甲1の2に2つの抗体について安定な水性医薬製剤を調製できたことが示されているからといって、アダリムマブでも安定な製剤が得られるということはできない。 またそもそも、甲1の2に多数例示されている抗原の例の中からことさらTNF-αに着目し、しかも、その抗体としてアダリムマブを選択する理由もない。 したがって、「rhuMAb CD18」に代えて「アダリムマブ」を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (c)よって、相違点1は、当業者が容易になし得たことではない。 b 相違点2~4 (a)まず、相違点2について検討するに、甲1の2には、製剤における抗体の濃度として、約0.1mg/mL~約50mg/mLが例示され(上記(2e))、40mg/mLの濃度のrhuMAb CD20を含む安定な水性医薬製剤を調製したことが示されている(上記(2i))。 そこで、1mg/mLである甲1の2の抗体の濃度を、「50mg/mL以上200mg/mL以下」とすることが容易であるといえるか検討するに、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であった。 そうすると、甲1の2発明は、1mg/mLの濃度のrhuMAb CD18を含む水性医薬製剤であるところ、甲1の2において、40mg/mLの濃度のrhuMAb CD20について安定な水性医薬製剤が得られたことや、製剤における抗体の濃度として約0.1mg/mL~約50mg/mLが例示されているからといって、このことから直ちに、rhuMAb CD18とは異なるアダリムマブについても、安定な水性製剤が得られるとの合理的な成功への期待をもって、甲1の2に例示されている濃度範囲の上限値と同一又はそれ以上である「50mg/mL以上200mg/mL以下」の濃度の水性製剤とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (b)次に、相違点3について検討するに、甲1の2には、製剤の安定性のために、塩化ナトリウムなどの等張化量の塩を含まないことが記載され、また、甲1の2発明も塩化ナトリウムなどの塩を含まない溶液で透析ろ過して得られたものであるが(上記(2f)、(2g)、(2i)、(2j))、得られた溶液の伝導度については記載されておらず、したがって、甲1の2発明の水性製剤の伝導度は不明である。 また、甲1の2は、pHを約4.5から約6.0の範囲に維持する緩衝液と、界面活性剤及びポリオールを含むものとすることで安定な製剤を得る技術を開示するものであり(上記(2b)、(2j))、甲1の2発明は緩衝液として酢酸緩衝液を用いている。 そうすると、甲1の2は、pHを約4.5から約6.0の範囲に維持する緩衝液を用いることを必須の条件としているだけで、緩衝液による伝導度への影響は何ら考慮しておらず、安定な水性医薬製剤とするための条件として、伝導度を特定の値未満に調整すべきことについては何ら着目しない。 (c)また、相違点4について検討するに、甲1の2は、約2~8℃で、少なくとも1年間安定である水性医薬製剤に関するものであり(上記(2a)、(2b))、40mg/mLの濃度のrhuMAb CD20、酢酸塩、トレハロース、ベンジルアルコール、ポリソルベート20及び水を含む水性医薬製剤については、2~8℃において、2年間の保存寿命を有することが示されている(上記(2i))。 しかしながら、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったことからすると、rhuMAb CD20についての安定性の評価から直ちに、水性製剤中のアダリムマブの安定性を予測することはできない。 (d)ところで、甲3の2及び甲11の2によれば、甲1の2のF2製剤に準じて抗体としてアダリムマブを用いて得られた水性製剤の伝導度は、0.551mS/cmであり、当該製剤を40℃で1ヶ月液体状態で保存したとき、98.9%が単量体であったとされる。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の2発明に準じた条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明1で特定する伝導度や単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の2の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2~3に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点4に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 (e)よって、相違点2~4は、当業者が容易になし得たことではない。 c 本件訂正発明1の効果についての検討 甲1の2発明は安定な水性医薬製剤に関する技術を開示するものであるが、水性医薬製剤の伝導度には何ら着目していない。そして、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であるのは、上述のとおりである。 そうすると、甲1の2に、1mg/mLの濃度のrhuMAb CD18が記載され、また、40mg/mLの濃度のrhuMAb CD40を含む水性医薬製剤が安定であったことが記載されているとしても、このことから直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、特定の伝導度未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明1が奏する効果を予測し得るとはいえない。 また、本件特許明細書には、界面活性剤及び緩衝系などの賦形剤を用いることなく高濃度の安定な水性製剤を得ることができることが示されており(【0013】、実施例21、22)、安定な水性医薬製剤とするために、製剤のpHを約4.5から約6.5の範囲に維持する緩衝液を必須とする甲1の2から、緩衝液を用いることなく特定の伝導度未満とすることで安定な水性医薬製剤が得られることを予測し得るともいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1の2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件訂正発明29 (ア)本件訂正発明29と甲1の2発明との対比 甲1の2発明の「rhuMAb CD18」と、本件訂正発明29の「アダリムマブ」は、抗体である点で共通する。 また、甲1の2発明の「水性医薬製剤」は、本件訂正発明29の「水性製剤」に相当する。 なお、甲1の2発明が、「酢酸ナトリウム」、「トレハロース」及び「TWEEN20(登録商標)」を含む点は、上記ア(ア)で検討したとおり相違点ではない。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 ・一致点 「抗体及び水を含む水性製剤であって、前記製剤のpHは5から7である、水性製剤。」である点 ・相違点1 抗体が、本件訂正発明29は「アダリムマブ」であるのに対し、甲1の2発明は「rhuMAb CD18」である点 ・相違点2 水性製剤に含まれる抗体の濃度が、本件訂正発明29は「50mg/mL以上200mg/mL以下」であるのに対し、甲1の2発明は「1mg/mL」である点 ・相違点3 本件訂正発明29は、「前記水性製剤中のアダリムマブが4nm未満のDhを有し、ここで、前記Dhは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づくDhである」と特定しているのに対し、甲1の2発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点4 本件訂正発明29は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと特定しているのに対し、甲1の2発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~4の検討 a 相違点1 上記ア(イ)aで検討したのと同様の理由により、rhuMAb CD18に代えてアダリムマブを採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 b 相違点2~4 (a)相違点2及び4は、上記ア(イ)b(a)及び(c)で検討したのと同様である。 (b)相違点3 相違点3について検討するに、甲1の2には、甲1の2発明のrhuMAbのDhについての記載はない。 ここで、本件特許明細書には、水性製剤中のタンパク質のDhはイオン性賦形剤(ヒスチジン、アルギニン、塩化ナトリウムなど)があるとその影響を受け、イオン性賦形剤がないものと比較して大きくなることが記載されている(【0142】~【0143】)。 それに対し、甲1の2には、製剤の安定性のために、塩化ナトリウムなどの等張化量の塩を含まないことは記載されているが(上記(2f)、(2i)、(2j))、pHを約4.5から約6.0の範囲に維持する緩衝液と、界面活性剤及びポリオールを含むものとすることで安定な製剤を得る技術を開示するものであり(上記(2b)、(2j))、甲1の2発明は緩衝液として酢酸緩衝液を用いている。 そうすると、甲1の2発明には、水性製剤中のタンパク質のDhに影響があるとされる塩化ナトリウムは含まれていないものの、酢酸緩衝液などの他の必須とされる成分によるDhへの影響は何ら考慮しておらず、甲1の2は、安定な水性医薬製剤とするための条件として、水性製剤中の抗体のDhを特定の値未満に調整すべきことについては何ら着目しないものである。 (c)ところで、甲3の2及び甲11の2によれば、甲1の2のF2製剤に準じて抗体としてアダリムマブを用いて得られた水性製剤中のアダリムマブのDhは、Anton Paar社製落下球式測定計により測定した検体の粘度1.7568mPasを用い、Malvern社製Zetasizer Nano ZSを用いて測定したz-平均に基づく値が2.990nmであり、当該製剤を40℃で1ヶ月液体状態で保存したとき、98.9%が単量体であったとされる。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の2発明に準じた条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明29で特定するDhや単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の2の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2~3に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点4に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 (d)よって、相違点2~4は、当業者が容易になし得たことではない。 c 本件訂正発明29の効果についての検討 甲1の2発明は安定な水性医薬製剤に関する技術を開示するものであるが、水性医薬製剤中の抗体のDhには何ら着目していない。そして、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であるのは、上述のとおりである。 そうすると、甲1の2に、1mg/mLの濃度のrhuMAb CD18が記載され、また、40mg/mLの濃度のrhuMAb CD40を含む水性医薬製剤が安定であったことが記載されているとしても、このことから直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、水性製剤中のアダリムマブのDhを特定の値未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明29が奏する効果を予測し得るとはいえない。 また、本件特許明細書には、界面活性剤及び緩衝系などの賦形剤を用いることなく高濃度の安定な水性製剤を得ることができることが示されており(【0013】、実施例21、22)、安定な水性医薬製剤とするために、製剤のpHを約4.5から約6.5の範囲に維持する緩衝液を必須とする甲1の2から、緩衝液を用いることなく抗体のDhを特定の値未満とすることで安定な水性医薬製剤が得られることを予測し得るともいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明29は、甲1の2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 ウ 本件訂正発明25 (ア)本件訂正発明25と甲1の2発明との対比 本件訂正発明25と甲1の2発明とを対比すると、両発明は、上記イで検討した本件訂正発明29との対比における一致点及び相違点1~2、4と同じ一致点及び相違点1~2、4を有するとともに、以下の相違点3’を有する。 ・相違点3’ 本件訂正発明25は、「前記水性製剤中のアダリムマブは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく水力学的直径(Dh)を有し、前記水性製剤中のアダリムマブのDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく、前記緩衝化された溶液は、5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトールを含み、前記緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhは、前記水性製剤と同じ方法で測定される」と特定しているのに対し、甲1の2発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~2、4及び相違点3’の検討 a 相違点1~2、4は、上記イ(イ)a及びb(a)で検討したとおりである。 b 相違点3’は、水性製剤中のアダリムマブのDhについて、本件訂正発明29においては、4nm以下と特定されていたものを、同じ濃度とpHで、特定の緩衝化された溶液中のDhより少なくとも50%小さいと特定したものであるところ、上記イ(イ)b(b)で検討したとおり、甲1の2は、水性医薬製剤中の抗体のDhを同じ濃度とpHで、特定の緩衝化された溶液中の抗体のDhより少なくとも50%小さいものとすべきことについて何ら着目しないものである。 c ところで、請求人は、甲3の2には、甲1の2のF2製剤に準じて得られた水性製剤中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(2.990nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(2.765nm)と、甲4においてPBS中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(11.10nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(8.201nm)が記載されており、これら証拠に記載されている値から、Dhの相対値(%)を算出したところ、50%小さい値が導出されたことから(26.94%と33.71%)、甲1の2発明においてアダリムマブを採用した場合にも、本件訂正発明25で特定するDhの条件を満たすと主張する(請求書46頁の表)。 さらに、甲12には、本件訂正発明25で特定された緩衝液中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(9.366nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(9.840nm)が示されていることを踏まえ、特定された緩衝液との比較においても本件訂正発明25で特定するDhの条件を満たす旨主張する。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の2発明と同じ条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明25で特定するDhや単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の2の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2、3’に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点4に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるというはできない。 d よって、相違点1~2、4及び相違点3’は、当業者が容易になし得たことではない。 e 本件訂正発明25の効果についての検討 本件訂正発明29と同様に、甲1の2から直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、水性製剤中の抗体のDhを特定の値未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明25が奏する効果を予測し得るとはいえない。 (ウ)小括 よって、本件訂正発明25は、甲1の2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 エ 本件訂正発明2~4、7、30~33、37~44、60~64 本件訂正発明2~4、7、30~33、37~41、60~64は、本件訂正発明1、25又は29を直接又は間接的に引用して、さらに限定した水性製剤に関する発明であり、本件訂正発明42、43又は44は、本件訂正発明1、25又は29の水性製剤を含む装置、又は製品に関する発明であるから、いずれも上記ア~ウと同様の理由により、甲1の2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 オ 甲1の2に基づく進歩性欠如についてのまとめ 以上のとおりであるから、甲1の2に基づく進歩性欠如に関する請求人の主張に係る無効理由1には理由がない。 (3)甲1の3に基づく進歩性欠如についての検討 ア 本件訂正発明1 (ア)本件訂正発明1と甲1の3発明との対比 甲1の3発明の「抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)」と、本件訂正発明1の「アダリムマブ」は、抗体である点で共通する。 また、甲1の3発明の「水性医薬製剤」は、本件訂正発明1の「水性製剤」に相当する。 なお、甲1の3発明は、「グルタミン酸緩衝液」、「D-ソルビトール」及び「ポリソルベート80」を含むものであるが、本件訂正発明1は、「アダリムマブ及び水を含む」ものであって、例えば請求項1を間接的に引用する請求項33及び61においてさらにポリソルベート80やソルビトールを含むことが特定されるように、アダリムマブと水以外の成分を含むことを排除するものではないから、この点は相違点ではない。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 ・一致点 「抗体及び水を含む水性製剤。」である点 ・相違点1 抗体が、本件訂正発明1は「アダリムマブ」であるのに対し、甲1の3発明は「抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)」である点 ・相違点2 水性製剤に含まれる抗体の濃度が、本件訂正発明1は「50mg/mL以上200mg/mL以下」であるのに対し、甲1の3発明は「10又は20mg/mL」である点 ・相違点3 本件訂正発明1は、水性製剤が「2.5mS/cm未満の伝導度を有する」と特定しているのに対し、甲1の3発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点4 本件訂正発明1は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと特定しているのに対し、甲1の3発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~4の検討 a 相違点1 (a)甲1の3は、グルタミン酸緩衝液及び/又はクエン酸緩衝液中に、治療上有効な量の抗体を含み、pHが4.0~6.0である安定な水性医薬製剤に関する技術を開示するものであり(上記(3a))、この発明に含まれる抗体は、好ましくはIgGであり、より好ましくはHLA-DRに対するヒトモノクローナル抗体であること、CD40に対するヒトモノクローナル抗体も含まれることが記載されている(上記(3d))。 そこで、甲1の3発明の「抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)」に代えて「アダリムマブ」を採用することが想到容易といえるか検討する。 (b)甲1の3には、甲1の3発明の抗体以外にも、WO03/033538に記載の抗HLA-DR抗体(実施例1~3)及びWO02/088186に記載の抗CD40抗体(実施例5)を製剤化した実施例も記載されており、抗HSA抗体でも安定な製剤であることを確認した旨記載されているが(上記(3e))、これらの抗体以外に実際に安定な水性医薬製剤を得たことは示されておらず、これらの抗体はアダリムマブとも全く異なる抗体である。 そうすると、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体で安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったことからすると、甲1の3にいくつかの抗体について安定な水性医薬製剤を調製できたことが示されているからといって、アダリムマブでも安定な製剤が得られるということはできない。 またそもそも、甲1の3の記載から、抗体として特にアダリムマブを選択する理由もない。 したがって、「抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)」に代えて「アダリムマブ」を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (c)よって、相違点1は、当業者が容易になし得たことではない。 b 相違点2~4 (a)まず、相違点2について検討するに、甲1の3には、製剤中の例示的な抗体濃度として、約1mg/mLから約200mg/mLが記載されており(上記(3c))、抗HSA抗体については、抗体濃度1mg/mLから100mg/mLまで検討を行い、本発明で明らかになった方法は抗体濃度によらず成り立つことが明らかになっているとも記載されている(上記(3e))。 しかしながら、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体で安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であった。 そうすると、甲1の3発明は、10又は20mg/mLの濃度の抗体を含む水性医薬製剤であるところ、甲1の3において、製剤中の例示的な抗体濃度として約1mg/mLから約200mg/mLが記載されていることや、具体的なデータは伴わないが、抗HSA抗体では抗体濃度によらないと記載されているからといって、このことから直ちに、甲1の3発明の抗体とは異なるアダリムマブについても、安定な水性製剤が得られるとの合理的な成功への期待をもって、50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度の水性製剤とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (b)次に、相違点3について検討するに、甲1の3には、等張化剤として塩(塩化ナトリウム)と糖(ソルビトール)を比較した結果、熱安定性試験において糖類を用いた場合により安定である知見が得られたこと、その結果から、等張化剤は塩を含まないほうが安定性のために好適であることが記載され、また、甲1の3発明も塩を含まない溶液を用いて得られたものであるが(上記(3e))、得られた溶液の伝導度については記載されておらず、したがって、甲1の3発明の水性製剤の伝導度は不明である。 また、甲1の3は、グルタミン酸緩衝液及び/又はクエン酸緩衝液中に、治療上有効な量の抗体を含み、pHが4.0~6.0である安定な水性医薬製剤を得る技術を開示するものであり(上記(3a))、甲1の3発明は緩衝液としてグルタミン酸緩衝液を用いている。 そうすると、甲1の3では、グルタミン酸緩衝液及び/又はクエン酸緩衝液を用いることを必須の条件としているだけで、これら緩衝液による伝導度への影響は何ら考慮しておらず、安定な水性医薬製剤とするための条件として、伝導度を特定の値未満に調整すべきことについては何ら着目しない。 (c)また、相違点4について検討するに、甲1の3には、少なくとも低温(2℃から8℃)において1年間以上安定であることや、少なくとも40℃において1箇月間安定であると記載されている(上記(3b))。 しかしながら、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったことからすると、甲1の3の記載から直ちに、水性製剤中のアダリムマブの安定性を予測することはできない。 (d)ところで、甲3の3及び甲11の3によれば、甲1の3の実施例4に準じて抗体としてアダリムマブを用いて得られた水性製剤の伝導度は、0.7~0.8mS/cm程度であり、当該製剤を40℃で1ヶ月液体状態で保存したとき、98.9%が単量体であったとされる。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の3発明に準じた条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明1で特定する伝導度や単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の3の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2~3に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点4に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 (e)よって、相違点2~4は、当業者が容易になし得たことではない。 c 本件訂正発明1の効果についての検討 甲1の3発明は安定な水性医薬製剤に関する技術を開示するものであるが、水性医薬製剤の伝導度には何ら着目していない。そして、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であるのは、上述のとおりである。 そうすると、甲1の3に、特定の抗体を含む製剤が安定であったことが記載されているとしても、このことから直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、特定の伝導度未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明1が奏する効果を予測し得るとはいえない。 また、本件特許明細書には、界面活性剤及び緩衝系などの賦形剤を用いることなく高濃度の安定な水性製剤を得ることができることが示されており(【0013】、実施例21、22)、安定な水性医薬製剤とするために、製剤のpHを4.0~6.0に維持する緩衝液を必須とする甲1の3から、緩衝液を用いることなく特定の伝導度未満とすることで安定な水性医薬製剤が得られることを予測し得るともいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1の3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件訂正発明29 (ア)本件訂正発明29と甲1の3発明との対比 甲1の3発明の「抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)」と、本件訂正発明1の「アダリムマブ」は、抗体である点で共通する。 また、甲1の3発明の「水性医薬際剤」は、本件訂正発明29の「水性製剤」に相当する。 なお、甲1の3発明が、「グルタミン酸緩衝液」、「D-ソルビトール」及び「ポリソルベート80」を含む点は、上記ア(ア)で検討したとおり相違点ではない。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 ・一致点 「抗体及び水を含む水性製剤であって、前記製剤のpHは5から7である、水性製剤。」である点 ・相違点1 抗体が、本件訂正発明1は「アダリムマブ」であるのに対し、甲1の3発明は「抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)」である点 ・相違点2 水性製剤に含まれる抗体の濃度が、本件訂正発明1は「50mg/mL以上200mg/mL以下」であるのに対し、甲1の3発明は「10又は20mg/mL」である点 ・相違点3 本件訂正発明29は、「前記水性製剤中のアダリムマブが4nm未満のDhを有し、ここで、前記Dhは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づくDhである」と特定しているのに対し、甲1の2発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点4 本件訂正発明1は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと特定しているのに対し、甲1の3発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~4の検討 a 相違点1 上記ア(イ)aで検討したのと同様の理由により、抗体(HD3,HD4,HD6,HD7,HD8,HD10,HD4G1,HD4G2Ser,HD4G4,HD8G1,HD8G1Ser,HD8G2,HD8G2Ser,HD8G4)に代えてアダリムマブを採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 b 相違点2~4 (a)相違点2及び4は、上記ア(イ)b(a)及び(c)で検討したのと同様である。 (b)相違点3 相違点3について検討するに、甲1の3には、甲1の3発明の抗体のDhについての記載はない。 ここで、本件特許明細書には、水性製剤中のタンパク質のDhはイオン性賦形剤(ヒスチジン、アルギニン、塩化ナトリウムなど)があるとその影響を受け、イオン性賦形剤がないものと比較して大きくなることが記載されている(【0142】~【0143】)。 それに対し、甲1の3には、製剤の安定性のために、塩化ナトリウムなどの等張化量の塩を含まないことは記載されているが(上記(3e))、pHを4.0~6.0に維持する緩衝液中に抗体を含むものとすることで安定な製剤を得る技術を開示するものであり(上記(3a)、(3b))、甲1の3発明は緩衝液としてグルタミン酸緩衝液を用いている。 そうすると、甲1の3発明には、水性製剤中のタンパク質のDhに影響があるとされる塩化ナトリウムは含まれていないものの、グルタミン酸緩衝液によるDhへの影響は何ら考慮しておらず、甲1の3は、安定な水性製剤とするための条件として、水性製剤中の抗体のDhを特定の値未満に調整すべきことについては何ら着目しないものである。 (c)ところで、甲3の3及び甲11の3によれば、甲1の3の実施例4に準じて抗体としてアダリムマブを用いて得られた水性製剤中のアダリムマブのDhは、Anton Paar社製落下球式測定計により測定した検体の粘度1.7568mPasを用い、Malvern社製Zetasizer Nano ZSを用いて測定したz-平均に基づく値が3nm前後であり、当該製剤を40℃で1ヶ月液体状態で保存したとき、98.9%が単量体であったとされる。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の3発明に準じた条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明29で特定するDhや単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の3の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2~3に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点4に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 (d)よって、相違点2~4は、当業者が容易になし得たことではない。 c 本件訂正発明29の効果についての検討 甲1の3発明は安定な水性医薬製剤に関する技術を開示するものであるが、水性医薬製剤中の抗体のDhには何ら着目していない。そして、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であるのは、上述のとおりである。 そうすると、甲1の3に、特定の抗体を含む製剤が安定であったことが記載されているとしても、このことから直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、水性製剤中のアダリムマブのDhを特定の値未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明29が奏する効果を予測し得るとはいえない。 また、本件特許明細書には、界面活性剤及び緩衝系などの賦形剤を用いることなく高濃度の安定な水性製剤を得ることができることが示されており(【0013】、実施例21、22)、安定な水性医薬製剤とするために、製剤のpHを4.0~6.0に維持する緩衝液を必須とする甲1の3から、緩衝液を用いることなく抗体のDhを特定の値未満とすることで安定な水性医薬製剤が得られることを予測し得るともいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明29は、甲1の3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 ウ 本件訂正発明25 (ア)本件訂正発明25と甲1の3発明との対比 本件訂正発明25と甲1の3発明とを対比すると、両発明は、上記イで検討した本件訂正発明29との対比における一致点及び相違点1~2、4と同じ一致点及び相違点1~2、4を有するとともに、以下の相違点3’を有する。 ・相違点3’ 本件訂正発明25は、「前記水性製剤中のアダリムマブは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく水力学的直径(Dh)を有し、前記水性製剤中のアダリムマブのDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく、前記緩衝化された溶液は、5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトールを含み、前記緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhは、前記水性製剤と同じ方法で測定される」と特定しているのに対し、甲1の2発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~2、4及び相違点3’の検討 a 相違点1~2、4は、上記イ(イ)a及びb(a)で検討したとおりである。 b 相違点3’は、水性製剤中のアダリムマブのDhについて、本件訂正発明29においては、4nm以下と特定されていたものを、同じ濃度とpHで、特定の緩衝化された溶液中のDhより少なくとも50%小さいと特定したものであるところ、上記イ(イ)b(b)で検討したとおり、甲1の3は、水性製剤中の抗体のDhを同じ濃度とpHで、特定の緩衝化された溶液中の抗体のDhより少なくとも50%小さいものとすべきことについて何ら着目しないものである。 c ところで、請求人は、甲3の3には、甲1の3の実施例4に準じて得られた水性製剤中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(2.948nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(2.408nm)と、甲4においてPBS中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(11.10nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(8.201nm)が記載されており、これら証拠に記載されている値から、Dhの相対値(%)を算出したところ、50%小さい値が導出されたことから(26.56%と29.36%)、甲1の3発明においてアダリムマブを採用した場合にも、本件訂正発明25で特定するDhの条件を満たすと主張する(請求書46頁の表)。 さらに、甲12には、本件訂正発明25で特定された緩衝液中のアダリムマブのDhについて、粘度実測値を用いて算出した値(9.366nm)及び粘度を1.9mPasに仮定して算出した値(9.840nm)が示されていることを踏まえ、特定された緩衝液との比較においても本件訂正発明25で特定するDhの条件を満たす旨主張する。 しかしながら、本件の出願後に、甲1の3発明と同じ条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明25で特定するDhや単量体の割合を満たすことが確認されたからといって、甲1の3の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2、3’に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点4に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるというはできない。 d よって、相違点1~2、4及び相違点3’は、当業者が容易になし得たことではない。 e 本件訂正発明25の効果についての検討 本件訂正発明29と同様に、甲1の3から直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、水性製剤中の抗体のDhを特定の値未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明25が奏する効果を予測し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明25は、甲1の3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 エ 本件訂正発明2~4、7、30~33、37~44、60~64 本件訂正発明2~4、7、30~33、37~41、60~64は、本件訂正発明1、25又は29を直接又は間接的に引用して、さらに限定した水性製剤に関する発明であり、本件訂正発明42、43又は44は、本件訂正発明1、25又は29の水性製剤を含む装置、又は製品に関する発明であるから、いずれも上記ア~ウと同様の理由により、甲1の3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 オ 甲1の3に基づく進歩性欠如についてのまとめ 以上のとおりであるから、甲1の3に基づく進歩性欠如に関する請求人の主張に係る無効理由1には理由がない。 (4)甲1の4に基づく進歩性欠如についての検討 ア 本件訂正発明1 (ア)本件訂正発明1と甲1の4発明との対比 甲1の4発明の「細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体」と、本件訂正発明1の「アダリムマブ」は、抗体である点で共通する。 また、甲1の4発明の「製剤」は、本件訂正発明1の「水性製剤」に相当する。 なお、甲1の4発明は、「グリシン、マルトース又は適切な添加剤」を含むものであるが、本件訂正発明1は、「アダリムマブ及び水を含む」ものであって、アダリムマブと水以外の成分を含むことを排除するものではないから、この点は相違点ではない。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 ・一致点 「抗体及び水を含む水性製剤。」である点 ・相違点1 抗体が、本件訂正発明1は「アダリムマブ」であるのに対し、甲1の4発明は「細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体」である点 ・相違点2 水性製剤に含まれる抗体の濃度が、本件訂正発明1は「50mg/mL以上200mg/mL以下」であるのに対し、甲1の4発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点3 本件訂正発明1は、水性製剤が「2.5mS/cm未満の伝導度を有する」と特定しているのに対し、甲1の4発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点4 本件訂正発明1は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと特定しているのに対し、甲1の4発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~4の検討 a 相違点1 (a)甲1の4は、ヒト血漿及び他の給源からの抗体(特にIgGタイプの)の精製のための改良法に関するものであり、出発時の分布に類似の抗体サブクラス分布をもつ非常に純粋な抗体調製物を得る技術を開示するものである(上記(4b))。 そこで、甲1の4発明の「細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体」に代えて「アダリムマブ」を採用することが想到容易といえるか検討する。 (b)甲1の4には、実施例2で精製した抗体について安定な製剤であったことが記載されているが(上記(4e))、モノクローナル抗体とあるだけで、どのようなモノクローナル抗体であるかは不明であり、アダリムマブとの関係も全く不明な抗体である。 そうすると、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体で安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったことからすると、甲1の4に安定な製剤を調製できたことが示されているからといって、アダリムマブでも安定な製剤が得られるということはできない。 またそもそも、甲1の4には、実施例においても具体的にどのようなモノクローナル抗体が得られたか示されておらず、細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体として特にアダリムマブを選択する理由もない。 したがって、「細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体」に代えて「アダリムマブ」を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (c)よって、相違点1は、当業者が容易になし得たことではない。 b 相違点2~4 (a)まず、相違点2について検討するに、甲1の4には、液状製剤では、精製IgGは濃縮されて、無菌濾過後に5%又は10%IgG(w/v)のいずれかを得ることが記載されている(上記(4d))。すなわち、50mg/mL又は100mg/mLの濃度とすることが記載されている。 しかしながら、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体で安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であった。 そうすると、甲1の4に、50又は100mg/mLの濃度の抗体を含む製剤を得ることが例示されているからといって、このことから直ちに、甲1の4発明のモノクローナル抗体と同じか異なるかも不明なアダリムマブについても、安定な水性製剤が得られるとの合理的な成功への期待をもって、50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度の水性製剤とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (b)次に、相違点3について検討するに、甲1の4には、純水に対するダイアフィルトレーションを行う際に伝導率を1.0mS/cm未満にしなければならないとは記載されているが、グリシン、マルトース又は他の適切な添加剤を用いてpH4.2に最終製剤化するものであるから、最終製剤の伝導度は不明である(上記(4e))。 また、甲1の4には、pHの調整は、酢酸、NaOH、又はHClを用いて行ったと記載されているとおり(上記(4c))、甲1の4は、安定な製剤とするための条件として、伝導度を特定の値未満に調整すべきことについては何ら着目しない。 (c)また、相違点4について検討するに、甲1の4には、グリシン、マルトース又は他の適切な添加剤を用いてpH4.2に最終製剤化することによって、5℃で2年間安定な液剤が達成できると記載されている(上記(4e))。 しかしながら、上記(1)ア(イ)a(c)で検討したとおり、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったことからすると、甲1の4の記載から直ちに、水性製剤中のアダリムマブの安定性を予測することはできない。 (d)ところで、請求人は、甲1の4は、純水で透析ろ過するものであるから、これをアダリムマブに適用して得られた製剤は、本件訂正発明1と同様のものである旨主張する(請求書39頁、平成29年11月24日付け上申書)。 しかしながら、甲1の4発明は、純水でダイアフィルトレーションを行った後で、グリシン、マルトース又は他の適切な添加剤を用いてpH4.2に最終製剤化するものであるから、これをアダリムマブに適用して得られた最終製剤が本件訂正発明1の水性製剤と同様のものであるということはできない。 そして、甲1の4発明の製剤を得るための途中の工程までの結果であれば、本件訂正発明1の水性製剤と同様のものであることが予測されるからといって、甲1の4の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2~3に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点4に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 (e)よって、相違点2~4は、当業者が容易になし得たことではない。 c 本件訂正発明1の効果についての検討 甲1の4発明は、モノクローナル抗体の精製過程での伝導率を特定するに過ぎず、最終製剤の伝導度を特定の値とすることには何ら着目しておらず、実施例2で安定であるとされた製剤の濃度も不明である。そして、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であるのは、上述のとおりである。 そうすると、甲1の4の記載から直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、特定の伝導度未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明1が奏する効果を予測し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1の4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件訂正発明29 (ア)本件訂正発明29と甲1の4発明との対比 甲1の4発明の「細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体」と、本件訂正発明29の「アダリムマブ」は、抗体である点で共通する。 また、甲1の4発明の「製剤」は、本件訂正発明29の「水性製剤」に相当する。 なお、甲1の4発明が、「グリシン、マルトース又は適切な添加剤」を含む点は、上記ア(ア)で検討したとおり相違点ではない。 したがって、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 ・一致点 「抗体及び水を含む水性製剤。」である点 ・相違点1 抗体が、本件訂正発明29は「アダリムマブ」であるのに対し、甲1の4発明は「細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体」である点 ・相違点2 水性製剤に含まれる抗体の濃度が、本件訂正発明29は「50mg/mL以上200mg/mL以下」であるのに対し、甲1の4発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点3 水性製剤のpHが、本件訂正発明29は「5から7」であるのに対し、甲1の4発明は「4.2」である点 ・相違点4 本件訂正発明29は、「前記水性製剤中のアダリムマブが4nm未満のDhを有し、ここで、前記Dhは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づくDhである」と特定しているのに対し、甲1の4発明は、そのような特定を有さない点 ・相違点5 本件訂正発明29は、水性製剤が「40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含」むと特定しているのに対し、甲1の4発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~5の検討 a 相違点1 上記ア(イ)aで検討したのと同様の理由により、細胞系増殖培地から精製されたモノクローナル抗体に代えてアダリムマブを採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 b 相違点2~5 (a)相違点2及び5は、上記ア(イ)b(a)及び(c)で検討したのと同様である。 (b)相違点3及び4は関連するのでまとめて検討するに、甲1の4には、甲1の4発明のモノクローナル抗体のDhについての記載はない。 一方、本件特許明細書には、水性製剤中のタンパク質のDhは、イオン性賦形剤(ヒスチジン、アルギニン、塩化ナトリウムなど)があるとその影響を受け、イオン性賦形剤がないものと比較して大きくなることが記載されている(【0142】~【0143】)。 それに対し、甲1の4発明は、純水に対するダイアフィルトレーションを行い、次いで精製された抗体を濃縮し、グリシン、マルトース又は他の適切な添加剤を用いてpH4.2の最終製剤としたものであって、pH4.2における製剤化によって、5℃で2年間安定な液剤を得る技術を開示するものであり(上記(4e))、pHを4.2以外のものとする理由はなく、しかも、pHの調整に酢酸、NaOH又はHClを用いることが記載されているとおり(上記(4c))、製剤中のタンパク質のDhに影響を与える添加剤の使用を許容するものであるから、製剤中のタンパク質のDhを特定の値未満に調整すべきことについて何ら着目しないものである。 (c)ところで、請求人は、甲1の4は、純水で透析ろ過するものであるから、これをアダリムマブに適用して得られた製剤は、本件訂正発明29と同様のものである旨主張する(請求書39頁、平成29年11月24日付け上申書)。 しかしながら、甲1の4発明は、純水でダイアフィルトレーションを行った後で、グリシン、マルトース又は他の適切な添加剤を用いてpH4.2に最終製剤化するものであるから、これをアダリムマブに適用して得られた最終製剤が本件訂正発明29の水性製剤と同様のものであるということはできない。 そして、甲1の4発明の製剤を得るための途中の工程までの結果であれば、本件訂正発明29の水性製剤と同様のものであることが予測されるからといって、甲1の4の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2~4に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点5に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 (d)よって、相違点2~5は、当業者が容易になし得たことではない。 c 本件訂正発明29の効果についての検討 甲1の4発明は、製剤中のモノクローナル抗体の濃度も不明であり、製剤のDhにも何ら着目しておらず、しかも、pH4.2の最終製剤が安定であることが示されているに過ぎない。そして、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であるのは、上述のとおりである。 そうすると、甲1の4の記載から直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、水性製剤中の抗体のDhを特定の値未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明29が奏する効果を予測し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明29は、甲1の4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 ウ 本件訂正発明25 (ア)本件訂正発明25と甲1の4発明との対比 本件訂正発明25と甲1の4発明とを対比すると、両発明は、上記イで検討した本件訂正発明29との対比における一致点及び相違点1~3、5と同じ一致点及び相違点1~3、5を有するとともに、以下の相違点4’を有する。 ・相違点4’ 本件訂正発明25は、「前記水性製剤中のアダリムマブは、粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく水力学的直径(Dh)を有し、前記水性製剤中のアダリムマブのDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さく、前記緩衝化された溶液は、5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトールを含み、前記緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhは、前記水性製剤と同じ方法で測定される」と特定しているのに対し、甲1の2発明は、そのような特定を有さない点 (イ)相違点1~3、5及び相違点4’の検討 a 相違点1~2、5は、上記イ(イ)a及びb(a)で検討したとおりである。 b 相違点4’は、水性製剤中のアダリムマブのDhについて、本件訂正発明29においては、4nm以下と特定されていたものを、同じ濃度とpHで、特定の緩衝化された溶液中のDhより少なくとも50%小さいと特定したものである。 そして、相違点3及び4’は関連するところ、上記イ(イ)b(b)で検討したとおり、甲1の4は、水性製剤のpHを4.2とするものであるから、水性製剤中の抗体のDhを同じ濃度とpHで、特定の緩衝化された溶液中の抗体のDhより少なくとも50%小さいものとすべきことについて何ら着目しないものである。 c ところで、請求人は、甲1の4は、純水で透析ろ過するものであるから、これをアダリムマブに適用して得られた製剤は、本件訂正発明25と同様のものである旨主張する(請求書39頁、平成29年11月24日付け上申書)。 しかしながら、甲1の4発明は、純水でダイアフィルトレーションを行った後で、グリシン、マルトース又は他の適切な添加剤を用いてpH4.2に最終製剤化するものであるから、これをアダリムマブに適用して得られた最終製剤が本件訂正発明25の水性製剤と同様のものであるということはできない。 そして、甲1の4発明の製剤を得るための途中の工程までの結果であれば、本件訂正発明25の水性製剤と同様のものであることが予測されるからといって、甲1の4の記載に基づいてアダリムマブを採用したうえで、相違点2~3及び4’に係る構成を採用することが容易であるとか、相違点5に係る構成を満たすものが得られることが予測可能であるということはできない。 d よって、相違点1~3、5及び相違点4’は、当業者が容易になし得たことではない。 e 本件訂正発明25の効果についての検討 本件訂正発明29と同様に、甲1の4から直ちに、アダリムマブを含む水性製剤について、水性製剤中の抗体のDhを特定の値未満とすることで高濃度でも安定な製剤が得られるという本件訂正発明25が奏する効果を予測し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明25は、甲1の4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 エ 本件訂正発明2~4、7、30~33、37~44、60~64 本件訂正発明2~4、7、30~33、37~41、60~64は、本件訂正発明1、25又は29を直接又は間接的に引用して、さらに限定した水性製剤に関する発明であり、本件訂正発明42、43又は44は、本件訂正発明1、25又は29の水性製剤を含む装置、又は製品に関する発明であるから、いずれも上記ア~ウと同様の理由により、甲1の4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 オ 甲1の4に基づく進歩性欠如についてのまとめ 以上のとおりであるから、甲1の4に基づく進歩性欠如に関する請求人の主張に係る無効理由1には理由がない。 (5)甲1の1~甲1の4に基づく進歩性欠如についての検討 ア ところで、請求人は、甲1の1~甲1の4のいずれかを主引例として、当該各引例と他の周知技術・技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものであり、進歩性要件を充足しないと主張しているが(請求書15頁6~12行、47頁16~19行、弁駁書45頁19~21行)、他方で、公知の医薬タンパク質であるアダリムマブの製剤の調製において、抗体一般に適用可能な甲1の1~甲1の4に記載されている、塩化ナトリウム等の強電解質が含まれていない透析ろ過工程を適用することは容易である旨、さらに、甲1の2及び甲1の3(上記(2f)、(3e))には、トレハロースやソルビトールが塩化ナトリウムよりも優れた安定化効果を示すことが記載されていることからも容易である旨を主張しているとも解されるので(請求書34頁8行~47頁15行)、念のため、以下この点についても検討する。 イ 請求人の上記主張は、要するに、甲1の1~甲1の4に記載されている製剤化技術を公知のアダリムマブの製剤化に適用することは容易であるという主張を、公知の医薬タンパク質であるアダリムマブを製剤化する際に甲1の1~甲1の4に記載の製剤化技術を適用するのは容易であると言い換えたに過ぎない。 そして、上記(1)~(4)で検討したとおり、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったことを踏まえると、50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度でアダリムマブ及び水を含む水性製剤として製剤化する際に、そのような製剤が安定な製剤となることを具体的に開示しない甲1の1~甲1の4について、合理的な成功への期待をもって、それらに記載されている製剤化技術を適用して、本件訂正発明の水性製剤を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 このことは、甲1の2や甲1の3に、特定の抗体の水性製剤の場合には、トレハロースやソルビトールが塩化ナトリウムより優れた安定化効果を示すことが記載されているとしても、同様である。 ウ また、請求人の上記主張は、抗体製剤の調製において透析ろ過を行うことは周知技術であるところ、甲1の1~甲1の4を挙げて示したとおり、塩化ナトリウム等の強電解質が含まれていない透析ろ過溶媒を用いることは周知技術であるから、公知のアダリムマブを製剤化する際にそのような周知技術を適用するのは容易であるということとも解される。 しかしながら、上記(1)~(4)で検討したとおり、甲1の1~甲1の4に記載されている透析ろ過工程は、それぞれ別の技術思想に基づき実施されているものであり、しかも、甲1の2及び甲1の3では、製剤に塩化ナトリウムなどの塩を含まないものが望ましいとする一方で、甲1の1及び甲1の4では、製剤化にあたり塩化ナトリウムなどの塩の添加を許容するものである。 そうすると、甲1の1~甲1の4の各実施例に示される製剤化において、使用された透析ろ過溶媒に塩化ナトリウム等の強電解質が含まれていなかったということだけから、塩化ナトリウム等の強電解質が含まれていない透析ろ過溶媒を用いることが周知技術であるということにはならない。請求人の主張は、その前提において失当である。 しかも、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったのだから、仮に、50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度でアダリムマブ及び水を含む水性製剤として製剤化する際に、塩化ナトリウム等の強電解質が含まれていない透析ろ過溶媒を用いることが周知技術であったとしても、合理的な成功への期待をもって、そのような周知技術を適用して、本件訂正発明の水性製剤を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 エ 以上のとおりであるから、甲1の1~甲1の4に基づく進歩性欠如に関する請求人の主張に係る無効理由1には理由がない。 (6)請求人の主張の検討 ア アダリムマブ製剤の調製に甲1の1~甲1の4の透析ろ過を適用するだけで、本件訂正発明の伝導度、Dh及び単量体の割合に関するパラメータを満たす抗体製剤が得られるとの主張(請求書38頁11行~47頁5行、弁駁書49頁1行~51頁16行) 請求人は、本件訂正発明は、50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度のアダリムマブ及び水を含む水性製剤であって、場合によって製剤のpHが5から7であることが特定されている以外、伝導度、Dh及び単量体の割合という特殊なパラメータなどにより特定される水性製剤であるところ、製剤中の抗体濃度及び製剤のpHについては、甲1の1~甲1の4においても開示されており(上記(1e)、(2e)、(2i)、(3c)、(4d))、伝導度、Dh及び単量体の割合に関しては、甲3の1~甲3の3及び甲11の1~甲11の3、甲12、請求書46頁の表に示したとおり、甲1の1~甲1の4の透析ろ過を適用するだけでこれを満たす製剤が得られる旨主張する。 そこで検討するに、証拠(甲3の1~甲3の3及び甲11の1~甲11の3、甲12、請求書46頁の表)によれば、本件訂正発明の伝導度、Dh及び単量体の割合に関する条件を満たす製剤が得られているが、本件の出願後に、同じ条件でアダリムマブを用いて実験し、本件訂正発明で特定する伝導度、Dh及び単量体の割合に関する条件を満たすことが確認されたからといって、アダリムマブに着目したうえで、塩化ナトリウム等の強電解質を含まない透析ろ過溶媒で透析ろ過して製剤化することが容易であるということはできない。 請求人の上記主張は、甲1の1~甲1の4に記載の透析ろ過をアダリムマブの製剤化に適用するだけで本件訂正発明の条件を満たす製剤が得られるという後知恵に基づくものであって、採用の限りでない。 イ 甲1の1~甲1の4に伝導度、Dh及び単量体の割合に関する課題がなくても進歩性が否定されるとの主張(請求書56頁13行~57頁5行、弁駁書51頁17行~66頁最下行) 請求人は、抗体製剤について安定な製剤を取得しようとする課題があり、甲1の1~甲1の4には、透析ろ過により製剤化することで安定な抗体製剤が得られた成功例が記載されており(上記(1e)、(1f)、(2a)、(2c)、(3a)、(4e))、これに倣ってみる動機付けはある旨主張する。 しかしながら、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であったのだから、50mg/mL以上200mg/mL以下の濃度でアダリムマブ及び水を含む水性製剤として製剤化する際に、異なる抗体に対する個々の成功例から、合理的な成功への期待をもって、これらの技術を適用することが容易であるということはできない。 ウ 本件訂正発明は顕著な効果を奏するものではないとの主張(請求書68頁21行~70頁20行、弁駁書89頁5行~90頁15行) 請求人は、甲1の1~甲1の4においても、特定温度での保存で半年以上安定であることが記載されており、これらの効果は本件訂正発明の効果と同質の効果であるとともに、甲1の1~甲1の4から予測される範囲内のものである旨主張する。 しかしながら、上述のとおり、特定の抗体に安定な製剤が異なる抗体でも安定な製剤であると合理的に予測し得ないことや、抗体の安定性は濃度に影響を受けることは、本件特許の優先日当時の当業者における技術常識であることからすれば、特定の抗体製剤の安定性の評価から、直ちに本件訂正発明の効果が予測し得るとはいえない。 (7)無効理由1(進歩性欠如)の検討のまとめ 以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由1には、理由がない。 4 無効理由2(明確性要件違反)の検討 (1)明確性要件について 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであり、特許請求の範囲の記載に、発明に係る機能、特性、解決課題ないし作用効果との関係での技術的意味が示されているかどうかとは直接関係がない。 (2)本件訂正発明に係る明確性要件の充足の有無 ア 本件訂正発明29 これを本件訂正発明29についてみると、「水力学的直径(Dh)」について、本件訂正発明29には「粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく」との特定があり明確である。 したがって、本件訂正発明29の特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。 本件訂正発明29を直接又は間接的に引用する本件訂正発明30~33、37~44、60~64についても同様である。 イ 本件訂正発明25 本件訂正発明25おける「水力学的直径(Dh)」も、本件訂正発明29と同様に「粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度に基づくz-平均に基づく」との特定があり明確である。 また、「水性製剤中のアダリムマブのDhは、同じ濃度とpHで緩衝化された溶液中のアダリムマブのDhより少なくとも50%小さ」いとされているところ、「緩衝化された溶液」については「5.57mMのリン酸一ナトリウム、8.69mMのリン酸二ナトリウム、106.69mMの塩化ナトリウム、1.07mMのクエン酸ナトリウム、6.45mMクエン酸、66.68mMマニトールを含」むとの特定があり、「緩衝化された溶液中のアダリムマブのDh」については「水性製剤と同じ方法で測定される」との特定があり明確である。 したがって、本件訂正発明25の特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。 本件訂正発明25を直接又は間接的に引用する本件訂正発明31~33、37~44、60~64についても同様である。 ウ よって、本件訂正発明25、29~33、37~44、60~64は明確性要件を満たすものである。 (3)請求人の主張の検討 ア 請求人は、本件訂正発明25及び29における「粘度が200mPas以下では落下球粘度計、200mPasを超える場合にはキャピラリー粘度計を用いて測定した前記水性製剤の粘度」との記載は、落下球粘度計の測定結果とキャピラリー粘度計の測定結果が、200mPasにまたがる場合、どちらの値も用いることができ、あるいはどちらの値も用いることができず、Dhが明確に定まっているとはいえない旨、また、本件特許明細書【0364】に、粘度計の機種が異なれば粘度の測定値が大きく異なることが示されていることからも、Dhが明確に定まっているとはいえない旨を主張する(弁駁書92~94頁の6-2)。 しかしながら、本件特許明細書の【0479】に「落下球粘度計を使用した。200mPa*sより高い粘度は毛細管粘度計を用いて測定した。」(審決注:毛細管粘度計はキャピラリー粘度計と同義であると解される)とあるとおり、本件訂正発明25及び29の上記記載は、最初に落下球粘度計で測定し、200mPas以下であれば、落下球粘度計の粘度を用い、200mPasを超える場合には、キャピラリー粘度計を用いて測定した粘度を水性製剤の粘度として用いることを意味するものであることは明確である。 また、本件特許明細書【0364】に基づく主張については、その直前の【0361】に、いずれの粘度計もコーンプレート型粘度計であることが記載されているとおり、【0364】の記載は、落下球粘度計又はキャピラリー粘度計のいずれとも異なる粘度計に関する記載であるに過ぎない。 請求人の上記主張は採用できない。 イ 請求人は、本件訂正発明25は、「緩衝化された溶液」を特定の成分と濃度を有するものに規定しているが、水性製剤と同じpHとするために酸や塩基を添加する必要があるため成分の種類や濃度は変化し、比較対象となる「緩衝化された溶液」は一定に定まらないため不明確であり、加えて、追加した酸や塩基の種類によって「緩衝化された溶液」中のDhも異なるものとなり、比較対象のDhも定まらないのであるから「少なくとも50%小さい」との規定も不明確である旨主張する(弁駁書94~96頁の6-3)。 また、「緩衝化された溶液」は、特定の濃度の成分を「含み」と規定されているとおり、安定化剤などの他の成分が含まれていてもよいのか不明確である旨も主張する(口頭審理陳述要領書17頁の4-4)。 しかしながら、本件訂正発明25の記載からみて、水性製剤と比較する「緩衝化された溶液」は、特定の成分と濃度で特定された「緩衝化された溶液」そのものではなく、同じpHにするために酸や塩基を加えて作成されるものであることは明確であり、したがって、比較対象となるDhも明確であるから、請求人の主張する不備はない。 また、本件訂正発明25の「含み」との記載を捉えて、比較対象である「緩衝化された溶液」に安定化剤などが含まれるか否か不明確であるという主張は、「緩衝化された溶液」について独自の解釈を示すものであって採用できない。 (4)無効理由2(明確性要件違反)の検討のまとめ 以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由2には、理由がない。 5 無効理由3(サポート要件違反)の検討 (1)サポート要件について 特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている。 特許制度は、発明を公開させることを前提に、当該発明に特許を付与して、一定期間その発明を業として独占的、排他的に実施することを保障し、もって、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして、ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書及び特許請求の範囲は、本来、当該発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから、特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない。特許法第36条第6項第1号の規定するサポート要件が、特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは、発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると、公開されていない発明について独占的、排他的な権利が発生することになり、一般公衆からその自由利用の利益を奪い、ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ、上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。 そして、特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。 (2)本件訂正発明に係るサポート要件の充足の有無 これを本件訂正発明についてみると、本件特許明細書の記載から、上記1(2)イで述べたとおり、従来はタンパク質製剤中のタンパク質を安定に維持するためにイオン性賦形剤などが必要と考えられ、また、製剤中のタンパク質濃度が上昇するにつれてタンパク質の凝集などが増加するという問題があることも知られていたところ、本件訂正発明の水性製剤は、水性製剤中のアダリムマブが高い濃度で安定な水性製剤を提供することを解決課題とするものであり、長期の液体保存又は凍結/融解及び凍結乾燥などの他の処理工程の間に、高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたアダリムマブが溶解度及び安定性を維持するという知見に基づき、透析ろ過溶媒として水を用いた透析ろ過により、当初のアダリムマブ溶液と比べてイオン性賦形剤を減少させながらアダリムマブの濃度を増加させることで、上記課題の解決を図るものであることを、当業者は認識できるといえる。そして、イオン性賦形剤の量を減少させながら濃度を増加させた低伝導度製剤発明又は低Dh製剤発明が、高い濃度で安定な水性製剤であることは、本件特許明細書の実施例17、21及び22に示されている。 したがって、本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は、当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから、サポート要件を満たすものである。 (3)請求人の主張の検討 請求人は、本件訂正発明がサポート要件を満たさない理由について、第1の理由から第3の理由を挙げているので、以下それぞれについて検討する。 ア 第1の理由(低Dh製剤発明) (ア)請求人は、低Dh製剤発明に関して、本件特許明細書には、Dhが特定の数値範囲内であっても、本件訂正発明の解決課題である安定性に優れた抗体製剤の提供を達成できていないものも多く記載され、また、Dhの大小と抗体の安定性に相当程度の相関があるとも何ら見受けられないことから、Dhが特定の数値範囲内である抗体製剤であれば、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえないとして、第一(Dhと抗体製剤中の単量体の割合との関係)、第二(Dhと抗体製剤の濁度との関係)、第三(Dhと抗体製剤の乳白色との関係)、及び第四(Dhと抗体製剤の凍結/融解安定性との関係)に項を分けて主張する。 (イ)しかし、請求人の上記主張は採用できない。その理由は次のとおりである。 a 第一(Dhと抗体製剤中の単量体の割合との関係)の主張は、要するに、ピーク単量体に基づくDhによって規定され、あるいは、pHが4又は8である水性製剤について、安定な抗体製剤の提供を達成できないものが多く記載されていることなどを根拠に、本件訂正発明がサポート要件を満たさないというものであるが、このような主張の前提となる水性製剤は、z-平均に基づくDhによって規定され、pHが5~7である低Dh製剤発明とは関係がない。請求人の主張は、その前提において採用できない。 b 第二(Dhと抗体製剤の濁度との関係)の主張は、要するに、z-平均に基づくDhが4nm未満であることと濁度との関係に正の相関がみられないことから、z-平均に基づくDhを特定の数値範囲とすることで本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識することはできないというものである。 そこで検討するに、実施例17には、表30に水に対するDF(透析ろ過)前の緩衝液中のアダリムマブと、表31~37に水に対するDF後、所定濃度となるように水で希釈されたアダリムマブのz-平均に基づくDhと濁りのデータが記載されているところ(上記(ア-9))、これらのデータについて、アダリムマブ濃度が約100mg/mLで、製剤のpHが5から7であるものについてまとめると次のようになる。 すなわち、低Dh製剤発明についての、アダリムマブ濃度、pH及びDh(同じ濃度とpHの緩衝液中のアダリムマブよりも少なくとも50%小さいDh又は4nm未満のDh)の条件を満たすものは(表の右)、そうでないもの(表の左)と比較して濁度も低くなり、濁度の観点からみても安定であることが理解できる。 また、実施例17の表35には、低Dh製剤発明の数値範囲のうち濃度とpHが最も高いアダリムマブ濃度約200mg/mLでpH7の水性製剤について、濁度が19.3であることが示されているところ、この値は、これより低い濃度とpHである緩衝液中のアダリムマブ濃度100mg/mLでpH5のものの濁度28.5よりも低いことからすれば、このような水性製剤は安定であることも理解できる(上記(ア-9))。 よって、当業者であれば、低Dh製剤発明の水性製剤は、濁度の観点からも安定であると理解することができるから、請求人の主張は理由がない。 c 第三(Dhと抗体製剤の乳白色との関係)の主張は、要するに、本件特許明細書の「およそ80mg/mLの濃度において、アダリムマブ溶液はもはや乳白光がないことが明らかになった(乳白光は、大量の断片があるアダリムマブ溶液の既知の特徴である。)。」(上記(ア-8))との記載からすると、低Dh製剤発明の範囲内である50mg/mLの濃度では乳白色であったといえるから、Dhの値と乳白色でない抗体製剤であることには直接的な相関があるとはいえないというものである。 しかしながら、本件特許明細書の上記記載は水性製剤中のアダリムマブのDhについて言及するものではないから、上記記載をもって、低Dh製剤発明が安定でないということにはならない。 一方、本件特許明細書には、実施例21の表51に、低Dh製剤発明に該当する製剤の乳白色がわずかであったことが記載されており(上記(ア-10))、乳白光はアダリムマブ溶液に大量の断片があるとき観測されるものであるから、安定な水性製剤が得られていると当業者は理解できるといえる。 よって、請求人の主張は理由がない。 d 第四(Dhと抗体製剤の凍結/融解安定性との関係)の主張は、要するに、本件特許明細書の実施例27には、13C5.5(抗IL-13IgG1)が低Dh製剤であっても組成が異なれば同様の安定性を示さないことが記載されているという独自の解釈を示すものであるところ、アダリムマブとは異なる抗体が低Dh製剤であっても組成が異なれば同様の安定性を示さないことをもって、本件訂正発明が安定ではないことにはならない。 よって、請求人の主張は理由がない。 イ 第2の理由(低伝導度製剤発明) (ア)請求人は、低伝導度製剤発明に関して、本件特許明細書には、伝導度が特定の数値範囲内であることにより、本件訂正発明の解決課題である安定性に優れた抗体製剤の提供を達成できることを示す実験結果が記載されていないため、伝導度が特定の数値範囲内である抗体製剤であれば、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえず、さらに、本件特許明細書には、伝導度の数値範囲と抗体製剤の安定化の関係が理解できる記載がなく、また、本件特許明細書には、純水に対してDF/UF処理を行うことにより得られたアダリムマブ水性製剤の伝導度が約0.5~1.2mS/cm程度であったことが記載されているに過ぎないことから、伝導度が2.5mS/cm未満というパラメータで規定された発明特定事項を充足すれば、低伝導度製剤発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない旨主張する。 (イ)しかし、請求人の上記主張も採用できない。 すなわち、上記(2)のとおり、低伝導度製剤発明は、高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたアダリムマブが安定性を維持するという知見に基づいたものであり、伝導度のみならず、濃度、安定性(単量体の割合)により特定された製剤に関するものである。 そして、本件特許明細書には、上記1(2)イ(ウ)のとおり、実施例21及び22に、非イオン性賦形剤を含有するものを含めて、低伝導度製剤発明の伝導度及び濃度を満たす異なる組成の水性製剤が40℃で1ヶ月後に95%以上が単量体であるアダリムマブを含むことも示されている。 したがって、純水以外を用いてDF/UF処理を行ったものであっても、低伝導度製剤発明の条件のうち安定性(単量体の割合)以外の条件を満たす製剤であれば、本件訂正発明の課題を解決できると当業者は認識するといえる。 また、伝導度と高濃度の抗体製剤の安定性の関係についても、【0012】~【0013】、【0127】などに記載されている(上記(ア-3)、(ア-5))。 ウ 第3の理由(低Dh製剤発明及び低伝導度製剤発明) (ア)請求人は、低Dh製剤発明及び低伝導度製剤発明に関して、概ね以下のとおり主張する。 A 本件特許明細書には、特定のアダリムマブ製剤を出発材料として、透析ろ過溶媒として純水を用い、所定の回数の体積交換を伴う透析ろ過を経て得られた抗体製剤しか記載されておらず、それ以外の例えば強電解質ではないイオン性賦形剤を含むようなものであっても、特定のパラメータ(Dh又は伝導度)を満たすものであれば、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されていない。 B 本件訂正発明の水性製剤が、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間、液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含むものと特定されていることは、本件訂正発明の解決課題を請求項に記載したものに過ぎず、そのような記載によってサポート要件が充足されることにはならない。 (イ)しかし、請求人の上記主張も採用できない。 a まず、上記Aの主張について検討するに、上記(2)のとおり、低Dh製剤発明及び低伝導度製剤発明は、高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたアダリムマブが安定性を維持するという知見に基づいたものであり、特定のパラメータ(Dh又は伝導度)のみならず、濃度、安定性(単量体の割合)、及びpH(低Dh製剤発明)により特定された製剤に関するものである。 そして、本件特許明細書には、上記1(2)イ(ウ)のとおり、実施例17、21及び22に、非イオン性賦形剤を含有するものを含めて、低Dh製剤発明又は低伝導度製剤発明の特定のパラメータ(Dh又は伝導度)、濃度、pH(低Dh製剤発明)を満たす異なる組成の水性製剤が複数示され、それらの製剤が40℃で1ヶ月後に95%以上が単量体であるアダリムマブを含むことも示されている。 したがって、純水以外を用いてDF/UF処理を行ったものであっても、低Dh製剤発明又は低伝導度製剤発明の条件のうち安定性(単量体の割合)以外の条件を満たす製剤であれば、本件訂正発明の課題を解決できると当業者は認識するといえる。 なお、請求人の提出した甲3の1~甲3の3及び甲11の1~甲11の3には、酢酸やグルタミン酸などの強電解質ではないイオン性賦形剤を含むものであっても、特定のパラメータ(Dh又は伝導度)、濃度及びpHの条件を満たす水性製剤が単量体の割合も満たす、すなわち安定であることが示されている。そうすると、本件特許明細書には直接的な記載はないものの、これら証拠は、強電解質ではないイオン性賦形剤を含むものであっても、低伝導度製剤発明及び低Dh製剤発明の条件のうち安定性(単量体の割合)以外の条件を満たすことで課題を解決し得る根拠の一つとなるといえる。 b 上記Aの主張に関連し、請求人は、本件特許明細書の実施例は、塩化ナトリウムのような強電解質のイオン性賦形剤を含み十分に精製されている安定な市販の製剤を出発材料として、純水に対して6体積交換する透析ろ過を行うことにより得られたアダリムマブ製剤か、その後さらに安定化剤を含めたものに限られており、実施例で確認された安定性は、出発材料から残存した賦形剤の影響を受けている可能性もあり、Dh又は伝導度の値と安定性との間に一定の関係がみられない旨も主張している。 しかしながら、実施例で確認された安定性が、残存した賦形剤の影響によると認めるに足りる証拠はなく、上記主張には根拠がない。そもそも、実施例のものは、純水に対して6体積交換を行い理論上は64倍に希釈されているといえるから、当業者であれば、残存する賦形剤はごく僅かであり、実施例で確認された安定性がそれらによると理解しないと解するのが自然である。 しかも、本件訂正発明は、上記(2)のとおり、高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたアダリムマブが安定性を維持するという知見に基づき、イオン性賦形剤の量を減少させながらアダリムマブの濃度を増加させることで課題の解決を図るものであり、透析ろ過により出発材料のイオン性賦形剤を減少させた製剤が、低Dh又は低伝導度となり、かつ安定な製剤となっていることからすると、出発材料の賦形剤、あるいは他の添加剤が含まれているか否かに係わらず、低Dh製剤発明又は低伝導度製剤発明の条件のうち安定性(単量体の割合)以外の条件を満たすことで安定な製剤となることが理解でき、Dh又は伝導度の値と安定性との間に一定の関係があることも当業者は理解できるといえる。 c さらに、請求人は、本件特許明細書の実施例17の表39(上記(ア-9))には、濃度50mg/mLでpH5のものについて、z-平均に基づくDhが32と極めて大きい値のものが示されているとおり、低Dh製剤発明は、本件特許明細書においてサポートされていない部分を含むことが明白である旨も主張している。 しかしながら、実施例17の表39及び40には、濃度約100mg/mLでpH5のものが安定な製剤であることが示され、実施例21の表51及び付表D(上記(ア-10)、(ア-12))には、濃度63mg/mLでpH5.44のものが安定な製剤であることが示されている。また、実施例17の表39から、同じpHの場合には、アダリムマブ濃度が高くなるにつれDhが小さくなる傾向や、同じアダリムマブ濃度の場合には、pHが小さくなるにつれDhが小さくなる傾向が理解できるから、低Dh製剤発明の条件であるDh、濃度、pHの範囲内のものが安定な製剤であることを当業者は理解できるといえる。 そして、本件訂正発明は、上記(2)のとおり、高い濃度においてさえ、水の中に製剤化されたアダリムマブが安定性を維持するという知見に基づき、イオン性賦形剤の量を減少させながらアダリムマブの濃度を増加させることで課題の解決を図るものであり、低Dh製剤発明が安定な製剤であることも示されていることから、低Dh製剤発明の条件全てを満たさないものが記載されているからといって、本件訂正発明が本件特許明細書に記載された発明でないということにはならない。 d 次に、上記Bの主張について検討するに、上記aのとおり、当業者は低Dh製剤発明及び低伝導度製剤発明が、特定のパラメータ(Dh又は伝導度)、濃度、pH(低Dh製剤発明)の条件を満たすことで安定性に優れた製剤であることを本件特許明細書の記載から理解できる。 そして、本件訂正発明は、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間、液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含むと特定することで、安定性に悪影響を及ぼす成分の含有を実質的に制限することを規定したものに過ぎない。 しかも、上記1(2)イ(ウ)のとおり、実施例17、21及び22から、低伝導度製剤発明及び低Dh製剤発明が、40℃で1ヶ月、又は、2から8℃で1年間、液体状態で保存したとき、少なくとも95%が単量体であるアダリムマブを含むことも理解できる。 (4)無効理由3(サポート要件違反)の検討のまとめ 以上のとおりであるから、請求人の主張に係る無効理由3には、理由がない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1~3はいずれも理由がないので、本件の請求項1~4、7、25、29~33、37~44、60~64に係る特許を無効とすることはできない。 また、本件の請求項6、26~28、34~36、45~47、49~59に係る特許についての本件審判の請求を却下する。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。

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2016-800123

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