特許無効審判
2016-800099
美容器
- 審判番号
- 2016-800099
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2014-218573外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月09日
- 審決日
- 2018年01月05日
- 公報発行日
- 2018年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 ファイブスター
- 【請求人代理人】▲高▼山 嘉成
- 【請求人代理人】冨宅 恵
- 【被請求人】株式会社 MTG
- 【被請求人代理人】小林 徳夫
- 分類
- P1113.121-YAA(A61H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第6項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5702019号発明「美容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第5702019号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
平成23年11月16日 原出願(特願2011-250916号)
平成26年10月27日 本件特許出願
(特願2014-218573号)
平成27年 2月27日 特許権の設定登録
(特許第5702019号)
平成28年 8月 9日 本件無効審判請求
(無効2016-800099号)
平成28年10月24日 被請求人による上申書提出
平成28年12月26日 被請求人による訂正請求書提出
平成28年12月26日 被請求人による審判事件答弁書提出
平成29年 2月15日 請求人による審判事件弁駁書(以下「弁駁
書」という。)提出
平成29年 4月26日付け 審理事項通知書
平成29年 6月21日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成29年 6月23日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成29年 6月27日付け 審理事項通知書(2)
平成29年 7月 7日 請求人による口頭審理陳述要領書(2)提出
平成29年 7月 7日 被請求人による口頭審理陳述要領書(2)提
出
平成29年 7月 7日 第1回口頭審理
平成29年 7月 7日 請求人による上申書提出
平成29年 7月28日 被請求人による上申書提出
平成29年 8月 1日 審決の予告
平成29年10月10日 被請求人による訂正請求書提出
平成29年10月10日 被請求人による上申書(以下単に「上申書」
ということがある。)提出
平成29年11月18日 請求人による審判事件弁駁書(以下「弁駁書
(2)」という。)提出
平成29年12月20日 補正許否の決定
なお、平成28年12月26日付け訂正請求については、平成29年10月10日付け訂正請求がなされたため、特許法第134条の2第6項に規定により、取り下げられたものとみなされる。
第2 平成29年10月10日付け訂正請求について
1 訂正事項
本件特許請求の範囲及び明細書についての平成29年10月10日提出の訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(下線は訂正部分を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに、その前傾角度を不変にし、前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を40~120度としたことを特徴とする美容器。」という記載を、
「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに、その前傾角度を不変にし、前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし、前記回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする美容器。」と訂正する。
(2)訂正事項2
明細書段落【0007】の
「【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに、その前傾角度を不変にし、前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を40~120度としたことを特徴とする。」という記載を、
「【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに、その前傾角度を不変にし、前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし、前記回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする。」と訂正する。
2 訂正請求についての当審の判断
これら訂正事項1及び2の適法性について検討する。
(1)訂正事項1について
ア 訂正前の請求項1においては、(i)一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を40~120度とし、また、(ii)回転体と支持軸の支持態様について具体的な特定がなかったところ、訂正事項1により、(i)一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度と限定し、(ii)回転体が非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されていることを特定したものであるから、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ そして、訂正事項1の(i)「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度」に関しては、願書に添付した明細書の段落【0019】に、「一対のボール17の開き角度すなわち一対のボール支持軸15の開き角度βは、・・・特に好ましくは65~80度に設定される。」との記載がある。
また、訂正事項1の(ii)の「前記回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている」に関しては、願書に添付した図面(以下単に「本件図面」という。)の図1、図3~5及び図7から、ボール17は、ボール支持軸15に非貫通状態で支持されていることは明らかである。
したがって、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載された事項の範囲内といえるから、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ さらに、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、訂正後の特許請求の範囲と明細書との整合を図ろうとするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2が新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであることは、上記(1)イの訂正事項1に関する検討と同様である。
また、訂正事項2が本件明細書等に記載された事項の範囲内で行われ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。
(3)小括
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、これを認める。
第3 本件訂正発明
上記のとおり本件訂正が認められるところ、本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、本件訂正により訂正した特許請求の範囲及び明細書並びに本件図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに、その前傾角度を不変にし、前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし、前記回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする美容器。」
第4 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人の主張する請求の趣旨は、本件訂正発明についての特許を無効とする、との審決を求めるものである。
2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲1の1 米国特許第19696号明細書の写し
(以下、写しである旨の表記は省略する。)
甲1の2 米国特許第19696号明細書の翻訳文
甲1の3 米国特許第19696号明細書の角度測定図
甲2の1 米国特許第2011471号明細書
甲2の2 米国特許第2011471号明細書の翻訳文
甲2の3 米国特許第2011471号明細書の角度測定図
甲2の4 米国特許第2011471号明細書の回転体の対称図
甲3 特開平4-231957号公報
甲4 特開2009-142509号公報
甲5 登録実用新案第3159255号公報
甲6 特開2000-24065号公報
甲7 意匠登録第1424182号
甲8 「クロワッサン」第35巻第17号、株式会社マガジンハウス
(2011年9月10日発行)第26~27ページ
甲9 「Sweet」第9巻第11号通巻107号、株式会社宝島社
(2011年11月12日発行)、第300ページ
甲10 「Saita」第17巻第11号通巻278号、
株式会社セブン&アイ出版(2011年10月7日発行)
第57ページ
甲11 「グラマラス」第7巻第9号、株式会社講談社
(2011年9月1日発行)第108ページ
甲12の1 仏国特許出願公開第2891137号明細書
甲12の2 仏国特許出願公開第2891137号明細書の翻訳文
なお、各証拠は、「甲第1号証」を「甲1」のように略記した。
以上の証拠方法のうち、甲1の1ないし甲4は審判請求書に、甲5ないし甲11は弁駁書に、甲12の1及び甲12の2は弁駁書(2)に、それぞれ添付されたものである。
3 請求の理由の要点
請求の理由は、本件訂正が認められたこと及び請求人の主張の全趣旨を踏まえ、その要点は以下のとおりである(弁駁書(2)第4ページ)。
なお、本件訂正が認められたことに伴い、審決の予告第6ページに記載の無効理由1及び2は、取り下げられた(弁駁書(2)第4ページ)。
(1)無効理由3
本件訂正発明は、甲1の1、甲12の1及び甲4に記載された発明、並びに周知の技術事項に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由4
本件訂正発明は、甲1の1、甲12の1、甲4、及び甲7ないし11のいずれかに記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
4 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
(1)無効理由3及び無効理由4共通の主張について
(1-1)本件訂正発明について
本件訂正発明の数値範囲には、臨界的意義は存在しない。ゆえに、本件訂正発明の数値範囲は、設計事項としての数値範囲を限定しているにすぎない。その理由は、次のとおりである。
すなわち、本件訂正発明において、「回転体」の形状は何ら限定されていないから、本件訂正発明の「回転体」には、「真円状のボール」以外の形状(バルーン状、断面楕円形状、断面長円形状等)が含まれることとなる。
そして、回転体を「真円状のボール」以外の形状の「回転体」を用いた場合に、「前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度」と限定することで、格別の効果が生じるという記載は、本件明細書等には、一切開示されていない。このため、開き角度の限定には、格別の効果が生じる臨界的意義は存在せず、単に、開き角度を設計事項として、65~80度の範囲に限定したにすぎないと解釈される。
仮に、本件訂正発明の「回転体」が「真円状のボール」であると解釈したとしても、本件訂正発明における前傾角度として、90~110度の範囲を含む限り、開き角度を65~80度に限定したところで、官能試験の結果に、△の評価(10人中3人又は4人が良いと感じた場合)を含むことになる。また、前傾角度及び開き角度が該数値範囲にあっても、ボールの直径や間隔によっては、△の評価がなされている。
以上のとおり、本件訂正発明の数値範囲には、格別の効果を有さない美容器も含まれているから、その数値範囲に臨界的意義は存在しない。
(弁駁書(2)第4~6ページ)
(1-2)甲1-1発明、及び本件訂正発明との対比について
ア 甲1の1に記載された発明
甲1の1に記載された発明(以下「甲1-1発明」という。)は、審決の予告に記載された、以下のとおりのものである。
「ハンドルの先端部に一対の球形ローラを、相互間隔をおいてそれぞれ心棒の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
前記球形ローラの心棒の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度をほぼ90度にするとともに、
その前傾角度を不変にし、
前記一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角としたマッサージ器。」
(弁駁書(2)第6~7ページ)
イ 対比
審決の予告の記載を前提として、本件訂正発明と甲1-1発明とを対比すると、以下のとおりである。
<一致点>
「ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した器具において、
前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を特定の数値とするとともに、その前傾角度を不変にし、前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を特定の数値とした、器具。」
そして、本件訂正発明と甲1-1発明とは、少なくとも形式的には、以下の4点で相違する。
<相違点1-1>
本件訂正発明は、「前傾角度を90~110度の範囲内とする」のに対し、甲1-1発明は、「前傾角度をほぼ90度にする」点。
<相違点1-2>
本件訂正発明は、「回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている」のに対し、甲1-1発明は、球形ローラを心棒に回転可能に支持したものであるが、「非貫通状態で」支持するものか明らかではない点。
<相違点1-3>
本件訂正発明は、「美容器」であるのに対し、甲1-1発明は、「マッサージ器」である点。
<相違点1-4>
本件訂正発明は、「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」ているのに対し、甲1-1発明は、「一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角とした」点。
(弁駁書(2)第12~13ページ)
(1-3)甲12-1発明、及び本件訂正発明との対比について
ア 甲12の1に記載された発明
甲12の1には、以下の発明(以下「甲12-1発明」という。)が開示されている。
「ハンドル1の先端部に一対の球2を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
一対の球2の支持軸の軸線の開き角度を70~100°とする、マッサージ器。」
(弁駁書(2)第12ページ)
イ 対比
本件訂正発明と甲12-1発明とは、少なくとも、以下の点で一致するといえる。
<一致点>
「ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した器具において、
前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を特定の数値とした、器具。」
そして、本件訂正発明と甲12-1発明とは、少なくとも形式的には、以下の4点で相違する。
<相違点2-1>
本件訂正発明は、「前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を90~110度の範囲内とする」のに対し、甲12-1発明は、ハンドル1と支持軸との関係において、支持軸が前傾しているものか明らかでない点。
<相違点2-2>
本件訂正発明は、「回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている」のに対し、甲12-1発明は、球2を支持軸に回転可能に支持したものであるが、「非貫通状態で」支持するものか明らかではない点。
<相違点2-3>
本件訂正発明は、「美容器」であるのに対し、甲12-1発明は、「マッサージ器」である点。
<相違点2-4>
本件訂正発明は、「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」ているのに対し、甲12-1発明は、「一対の球2の支持軸の軸線の開き角度を70~100°とした」点。
(弁駁書(2)第16ページ)
(2)特に、無効理由3について
ア 甲1-1発明を主引用発明とする場合
(ア)相違点1-1について
審決の予告に記載のとおり、甲1-1発明の前傾角度の数値は、本件訂正発明の前傾角度の数値範囲と90度の点で一致し、相違点1-1は、実質的な相違点とはいえない。
(イ)相違点1-2について
審決の予告に記載のとおり、甲5ないし甲11に記載されているとおり、非貫通状態で支持されているボールないし回転体を用いるマッサージ器は、本件原出願の出願時に周知の技術事項であるといえる。
よって、甲1-1発明の球形ローラの支持態様につき、上記周知の技術事項を適用して、非貫通状態で支持するようにし、もって、相違点1-2に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易であるといえる。
(ウ)相違点1-3について
審決の予告に記載のとおり、甲1-1発明の「マッサージ器」を、甲4発明と同様に美容器の用途に用いることは、格別困難なことではない。
したがって、相違点1-3に係る本件訂正発明の発明特定事項は、当業者にとって容易である。
(エ)相違点1-4について
甲1-1発明と甲12-1発明とは、共に、ハンドルに対して、一対の支持軸を取り付け、各支持軸に対して、球体の回転体を回転可能に支持し、一対の回転体を回転させて肌を挟むことで、肌を摘み上げたり、押したりするという作用効果を生じさせているのは明らかである。
すなわち、甲1-1発明と甲12-1発明とは、その構造、機能及び作用効果において共通する発明であるといえる。よって、構造、機能及び作用効果が共通する甲12-1発明の支持軸と球体との関係を、甲1-1発明に転用することは、出願時、当業者にとって容易であるといえる。
甲12-1発明では、一対の球2の支持軸の軸線の開き角度を70~100°としており、70~100°の範囲のうち、どの範囲の開き角度を採用するかについては、甲12-1発明においては、適宜選択する事項にすぎない。例えば、甲12-1発明において、支持軸の軸線の開き角度を70~80°とすることを、当業者であれば適宜選択する。
したがって、開き角度が70~80°の範囲にある甲12-1発明を甲1-1発明に適用することは、出願時、当業者にとって容易であったといえる。開き角度が70~80°の範囲にある甲12-1発明を甲1-1発明に適用すると、本件訂正発明における開き角度65~80°の範囲に含まれる器具が得られることとなる。ゆえに、相違点1-4に係る本件訂正発明の発明特定事項は、出願時、当業者にとって容易に想到することができる事項であるといえる。
(弁駁書(2)第13~15ページ)
イ 甲12-1発明を主引用発明とする場合
(ア)相違点2-1について
甲12-1発明において、ハンドル1は、任意の形状とすることができると明記されており、ハンドル1は、ユーザが握るものであるとされている。したがって、甲12の1に接した当業者であれば、ハンドル1をマッサージがしやすいように握りやすい任意の形状にすればよいと考えるのは、当然である。
そして、甲12-1発明のハンドル1に対して、その構造、機能及び作用効果が共通する、甲1-1発明のハンドル10を適用すればよいと、当業者であれば、容易に考えることができる。
甲1-1発明では、ハンドル10の先端のヘッド11から心棒が出ており、甲12-1発明においても、ハンドル1の先端から支持軸が出ているという共通性から、甲12-1発明のハンドル1を甲1-1発明のハンドル10に置き換える際に、甲12-1発明の支持軸をハンドル10に取り付けるために、甲1-1発明のヘッド11を用いることに、格別の困難はない。
したがって、甲12-1発明に対して、甲1-1発明のハンドル10及びヘッド11を適用することは、出願時、当業者にとって容易であったといえる。結果、甲12-1発明に対して、甲1-1発明のハンドル10及びヘッド11を適用すれば、甲12-1発明の球2の支持軸は、ハンドルに対して、90度で前傾していることとなる。
(イ)相違点2-2について
上記相違点1-2と同様に、甲12-1発明の球2の支持態様につき、周知の技術事項を適用して、非貫通状態で支持するようにし、もって、相違点2-2に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。
(ウ)相違点2-3について
上記相違点1-3と同様に、相違点2-3に係る本件訂正発明の発明特定事項は、当業者にとって容易である。
(エ)相違点2-4について
本件訂正発明の支持軸の軸線の開き角度は、65~80°であるのに対して、甲12-1発明の支持軸の軸線の開き角度は、70~100°であり、甲12-1発明には、70~80°の開き角度が含まれている。よって、開き角度の数値範囲について、本件訂正発明と甲12-1発明とは、開き角度を70~80°とするという点で一致する。
したがって、相違点2-4は、実質的な相違点とはいえない。
(弁駁書(2)第17~18ページ)
(3)特に、無効理由4について(甲1-1発明及び甲12-1発明共通の主張)
ア 相違点1-2及び相違点2-2について
仮に、周知技術による容易想到性が否定されたとしても、甲7ないし甲11のいずれかに記載された発明に基づいて、容易想到である。
すなわち、被請求人による平成29年10月10日付け上申書によれば、支持軸の軸線の開き角度を65~80度とすることで、一対の支持軸は鋭角の範囲で位置することとなり、美容器の使用時に先端部分(貫通構成では支持軸等が露出している部分)が肌に接する可能性がある、とのことである。
そして、本件訂正発明では、非貫通状態とすることで、美容器の使用時に回転体の先端を肌に当てた状態で力を入れて回転体先端を肌に押し込み、回転体を肌に沈み込ませるようなマッサージが可能となる、とされている。
また、より大きな摘み上げ効果をもたらすことができ、本件訂正発明は、エステティシャンの手技を自宅で手軽に代替することができるものである、とされている。
ところが、非貫通状態で支持されている一対のボールを用いている甲7ないし11のいずれかに記載された発明では、エステティシャンのハンド技術のように、肌を摘まみ上げるという点を開示している(特に、甲8及び9に記載)。
よって、エステティシャンの手技にように、より大きな肌の摘み上げ効果を期待する場合、甲7ないし11のいずれかの記載のように、非貫通状態で支持された回転体としてのボールを使用する構成とすることは、当業者にとって容易である。(弁駁書(2)第13~14、17ページ)
第5 被請求人の主張
1 要点
これに対し、被請求人は、以下の理由に基づき、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
(1)本件訂正発明の特徴について(無効理由3及び無効理由4共通)
ア 本件訂正発明は、支持軸の軸線の開き角度を65~80度としている。この数値範囲は、本件特許明細書で特に好ましい範囲として記載されており、美容器を使用した場合の肌に対する押圧効果と摘み上げ効果を良好に発現させることができる(段落【0019】)。
特に、本件特許明細書では、開き角度を65~80度とすることにより、10人中5~7人が好ましいと感じている(段落【0042】、表2)。
このため、本件訂正発明は、支持軸の開き角度をより好ましい範囲に限定したものであり、優れた作用効果を奏する点で臨界的意義を有するものである。
イ 本件訂正発明は、回転体が非貫通状態で支持軸に回転可能に支持されていることにより、回転体の先端から支持軸等が露出しておらず、支持軸の延長線上も回転体表面が位置することとなる。
この構成により、回転体の先端部分も肌に当てて使用することができるものである。
特に、本件訂正発明は、開き角度を65~80度の範囲と限定したため、一対の支持軸は鋭角の範囲で位置することとなり、美容器の使用時に先端部分(貫通構成では支持軸等が露出している部分)が肌に接する可能性も高くなる。
このような本件訂正発明においては、回転体先端が非貫通状態で支持軸に支持されているため、美容器の使用時に、回転体先端を肌に当てた状態で力を入れて肌に押し込み、回転体を肌に沈み込ませるようなマッサージを行うこともできる。肌に沈み込ませることにより、回転体と肌との接触面積が広がり、より大きな摘み上げ効果をもたらすことができる。
本件訂正発明の美容器は、エステティシャンの手技を自宅で手軽に代替することができるものであり、痩身効果、及び、より強い摘み上げ効果を期待して、回転体先端を肌に深く沈み込ませる使用に適した構成となっている。
これに対して、回転体が貫通状態の構成、すなわち、回転しない部分と回転する部分との境界部分が露出する構成では、該境界部分を肌に当てた際に境界部分が違和感や噛み込みを発生させるおそれがある。このため、使用者は相対回転が生じる回転先端側の境界部分を肌に当てることを無意識に躊躇し、境界部分を避けて回転する回転体部分だけでマッサージを行うこととなり、使用感及び操作性が低下する。
加えて、回転体と回転しない支持軸の境界が露出している構成では、回転体を肌に当ててマッサージ等を繰り返すと、境界部分に皮脂や化粧料等が入り込み、その結果、回転体の回転が円滑ではなくなったり、境界部分の見た目が悪くなったりするため、メンテナンスの必要が生じる。
本件訂正発明は、回転体が非貫通状態で支持軸に回転可能に支持される構成であるから、そのような問題は生じない。(上申書第2~4ページ)
(2)甲1発明、及び本件訂正発明との対比について(無効理由3及び無効理由4共通)
本件訂正発明に対応する甲1発明は、以下のとおりとすべきである。
「ハンドルの先端部に一対の球形ローラを、相互間隔をおいてそれぞれ心棒の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
前記球形ローラの心棒の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度をほぼ90度にするとともに、
その前傾角度を不変にし、
前記一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角とし、
前記球形ローラは貫通状態で前記心棒に支持されているマッサージ器。」(上申書第5ページ)
そして、本件訂正発明と甲1発明とを対比すると、両者の相違点は、以下のとおりとなる。(上申書第5ページ)
(相違点1)
本件訂正発明は、前傾角度を90~110度の範囲内とするのに対して、甲1発明は、ほぼ90度である点。
(相違点2)
本件訂正発明は、回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されているのに対して、甲1発明は、球形ローラは貫通状態で前記心棒に支持されている点。
(相違点3)
本件訂正発明は美容器であるのに対して、甲1発明はマッサージ器である点。
(相違点4)
本件訂正発明は、一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度としているのに対して、甲1発明は、一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角としている点。
(3)相違点の容易想到性について(特に、無効理由3に対して)
ア 相違点1について
甲1の1の「ほぼ90度」の「ほぼ」、「実質的に90度を超えない」の「実質的に・・・超えない」とは、文字どおり「おおよそ」であり、90度それ自体を意味するのではなく、甲1の1には、前傾角度を90度とする構成は開示されていない。
したがって、甲1発明は前傾角度を90度とするものではなく、また、甲1発明の前傾角度を90~110度の範囲として、相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易でない。
イ 相違点2について
仮に、非貫通状態で支持されているボールないし回転体を用いるマッサージ器が周知であったとしても、周知であることのみを理由として非貫通状態の構成を甲1発明に適用する動機付けが成立するわけではない。
甲1発明は、甲1の1の図2に示すように球形ローラ16に対して心棒14が貫通状態で支持しており、心棒14のヘッドは露出した状態となっているが、甲1発明ではこのような構成を採用したことにより何らかの問題が生じているかにつき記載等がないのであるから、心棒14の支持態様を甲1の1開示の構成から変更し、非貫通状態とする理由は全く存在しない。
以上のとおり、甲1の1には、4つの球形ローラ16、19を心棒が貫通状態で支持した態様しか開示されておらず、これを非貫通状態で支持する態様に変更する理由はないのであるから、そのような動機付けが存在しないことは明らかである。
したがって、甲1発明を、球形ローラが非貫通状態で心棒に支持されている相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易ではない。
ウ 相違点3について
甲4発明は、毛穴を開いて毛穴の奥の汚れを開口側に移動させるとともに毛穴を収縮させることにより、毛穴の汚れを押し出し、毛穴の汚れを除去するものである。
一方、甲1発明がそのような作用を生じさせるか否かについて、甲1の1には全く記載がなく不明であり、この点からも「美容」という点において甲1発明と甲4発明の作用が共通するとはいえない。
したがって、甲1発明を、相違点3に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易ではない。
エ 相違点4について
甲1の1では、実施形態及び図面において対となる心棒の間の角度は、90度であり、請求項1ないし3でも心棒の間の角度を積極的に「互いに対して(ほぼ)直角」と限定する一方で、90度以外に具体的な角度の開示はない。これら甲1の1の記載から、甲1発明では、対となる心棒14、17の間の角度は、「90度」であることが必須となる。
このため、甲1発明の心棒の間の角度を90度から他の角度に変更する動機付けは存在せず、甲1発明の心棒の開き角度を65~80度として、相違点4に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者にとって容易ではない。
(上申書第6~9ページ)
第6 無効理由についての当審の判断
1 各甲号証の記載内容
請求人が提出した証拠である、甲1の1ないし甲12の1には、以下の発明又は事項が記載されている。
(1)甲1の1
ア 甲1の1に記載された事項
甲1の1には、「MASSAGING DEVICE」(マッサージ器)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、括弧書きで示した日本語訳は、請求人が甲1の2として提出した甲1の1の和訳に準じて作成したものである。また、日本語訳の下線は理解の便のため付した。
(ア)「
」(第1ページ右欄第17~25行)
(図1は、本発明によって作製されたマッサージ及び鍛錬用器具の側部立面図である。
図2は、図1における上から見た端面図であり、断面における球形要素の1つ及びそれに関する設置を開示する当面の図である。
図3は、使用するために当てられた器具を示す、部品が省略された斜視図である。)
(イ)「
」(第1ページ右欄第26行~第2頁左欄第11行)
(図面及びそこにある参照数字に関して、器具は、操作者の手の中に保持されヘッド11を担持しているハンドル10で構成されるように作られた本体又は支持体を備える。示されるヘッド11は、それぞれ12及び13で示される4つの離間した突起又はつまみを含んでおり、これらは全て同じ面内にある。突起又はつまみ12、13は、ヘッド12の外周の周りに好ましくは等距離に離間され、本例ではハンドル10に対してほぼ直交するように配置されている。12で示される2つの突起又はつまみは、心棒14を受けるように配置され、この心棒は本例では、突起の中にねじ込まれるヘッド付きのねじボルトである。ローラ16が前記心棒上に回転可能に設置されることで、その面が密接に隣接する、すなわちローラの一方によって肉を引っ張り、他方のローラによって引っ張り込んだ肉に作用するように互いに対して十分に接近する。ローラは球状であり、好ましくはほぼ真球体であるが、それらはそこから変化する場合もある。本明細書に示されるように、ローラ16は、まさに球形の形態であり、弾性材料で作製される。ローラが、圧力に起因するローラのいかなる歪みにも関係なく心棒上を自由に回転することを可能にするために、金属製のブシュ又はハブ15がローラの弾性材料と心棒の間に介挿される。好ましくは、心棒14の間の角度はおおよそ90度である。他方の2つの突起又はつまみ13も、自由な回転を可能にするためにその間にブシュ又はハブ18が介挿された状態でローラ19が設置される心棒又はヘッド付きのねじボルト17を受けるために同様にねじ山が付けられる。各々のねじボルト14、17は、図2に非常にはっきりと示される仕方でその対応する突起又はつまみの中にねじ込まれており、ブシュ18の外側端部は、ねじボルト14のヘッドを受けるために拡大されたカップ形状である。前記ヘッド及びカップは共に、これもまた図2にはっきりと開示されるように球形要素16、19の外周内に配置される。)
(ウ)「
」(第2ページ左欄第75行~右欄第12行)
(明白なことには、肉に対して異なるセットの隣接する球形要素16及び19を押しつけることによって器具を利用することができる。球形要素16、19は、皮膚及び肉に対してマッサージ及び鍛錬作用を与え、滑らかかつ穏やかで効果的な仕方で肉の上を均一に転がりながら、それを揉む作用を達成するということに特に留意されたい。挟んだり収縮させたりする、ならびに伸ばしたり広げたりする作用は、望まれるならば、前記球形要素に加えられ皮膚及び肉に対向する圧力に応じて力強く行うこともできる。)
(エ)「
」(第2ページ右欄第13~22行)
(図2及び図3において、線Aは、器具の作用によって球形要素16の間に挟まれたり収縮させられたりする皮膚及び肉の一部を表しており、図2における線Bは、前記球形要素16によって伸ばしたり広げたりされた皮膚及び肉の一部を表している。図3において器具は、矢印によって示される大まかな方向に、またはより厳密に言うと図面の面に直交する方向に移動される。)
(オ)「
」(第2ページ右欄第39行~第3頁左欄第4行 特許請求の範囲)
(以下を本発明としてクレーム主張する。
1 支持ヘッドと、そこから突出するハンドルと、互いに対してほぼ直角にかつ前記ハンドルの軸に対してほぼ直角に前記ヘッドから突出する一対の心棒と、前記心棒に回転可能に設置された弾性材料の球形ローラとを組み合わせて有し、前記ローラが、その表面が実質的に接触しており、これにより前記ローラが押しつけられ皮膚に沿って移動される際、皮膚及び肉を挟む動作が行われるようなサイズであるマッサージ器。
2 ・・・訳文省略・・・
3 支持ヘッドと、そこから突出するハンドルと、互いに対して直角であり、実質的に90度を超えないように前記ヘッドから突出する一対の心棒と、前記心棒上に回転可能に設置された弾性材料の球形ローラであって、その表面が実質的に接触しており、これにより前記ローラが押しつけられ皮膚に沿って移動される際、皮膚及び肉を挟む動作が行われるようなサイズである球形ローラとを組み合わせて有するマッサージ器。)
イ 甲1の1記載の発明
(カ)上記記載事項(オ)によれば、「マッサージ器」は、支持ヘッドから突出する「ハンドル」及び「一対の心棒」と、心棒に回転可能に設置された「球形ローラ」とを有するところ、図1ないし図3に示される「器具」の態様をも踏まえれば、該「マッサージ器」は、“ハンドルの先端部に一対の球形ローラを、相互間隔をおいてそれぞれ心棒の軸線を中心に回転可能に支持した”ものということができる。
(キ)上記記載事項(オ)の「ハンドルの軸に対してほぼ直角に・・・突出する一対の心棒」の記載、及び、図1(側部立面図)を踏まえれば、側部立面図上において、一対の心棒の軸線がハンドルの軸に対してなす角度は「ほぼ90度」であると認められる。
(ク)図1(側部立面図)において、球形ローラが設けられている側をマッサージ器の「前」、ハンドルを把持する側(把持部)をマッサージ器の「後」とすれば、上記認定事項(キ)の「心棒の軸線」は、「ハンドルの軸」ないしは「ハンドルの把持部」に対して「前」の方向へ傾いている、すなわち「前傾」していることになる。そうすると、側部立面図上において、該「心棒の軸線」の「ハンドルの軸」に対してなす角度は、「前傾角度」と言い換えることができる。
(ケ)上記認定事項(ク)の「前傾角度」は、ハンドル、支持ヘッド、及び心棒の構成に照らせば、「不変」のものであると認められる。
(コ)上記記載事項(オ)の「互いに対して直角であ」る「一対の心棒」は、その軸線が「互いに対して直角」であると認められる。
そこで、上記記載事項ア(ア)ないし(オ)及び認定事項(カ)ないし(コ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件訂正発明に照らして整理すると、甲1の1には以下の発明が記載されていると認める(以下「甲1-1発明」という。)
「ハンドルの先端部に一対の球形ローラを、相互間隔をおいてそれぞれ心棒の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
前記球形ローラの心棒の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度をほぼ90度にするとともに、
その前傾角度を不変にし、
前記一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角とした
マッサージ器。」
(2)甲2の1
ア 甲2の1に記載された事項
甲2の1には、「BODY MASSAGING APPLIANCE」(ボディマッサージ器)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、括弧書きで示した日本語訳は、請求人が甲2の2として提出した甲2の1の和訳に準じて作成したものである。また、日本語訳の下線は理解の便のため付した。
(ア)「
」(第1ページ左欄第20~33行)
(図面において、
図1は、本発明を具現化する装置の全体的な斜視図である。
図2は、一部が端面図であり、一部が断面図である装置の図面である。
図3は、それとハンドルの接続部を示す軸方向の断面に対して一部が切り取られた装置の側部立面図である。
図4は、図2における4-4で示された面内の断面において得られる拡大された詳細な図である。
図5は、図3に示されるハンドル構造の詳細な斜視図である。
同様の部品は、複数の図面を通して同一の参照符号によって識別される。)
(イ)「
」(第1ページ左欄第34~54行)
(器具ヘッド6は好ましくは、図4に最適に示されるように、平坦な側面8を有する7における孔を提供するために芯を抜かれたダイカスト製品である。このような孔を切溝9が横断しており、その中でスピンドル11を調節するためのうね付きのナット10が作動する。
スピンドル11は、それぞれの孔の平らな面8に係合するために12において平らにされ、ナット10とのねじ山付きの接続部を収容するためにねじ山付きにされ、これによりスピンドルは、図2に見られるように上向きに突き出る場合、それぞれの孔7が交わる地点に向かってまたはこの地点から軸方向に調節することができる。スピンドルの平坦な側面12とそのそれぞれの孔の平坦な側面8との係合は、スプライン接続を形成し、これはスピンドルが回転するのを阻止し、適切なナット10が操作者によって操作された場合、それらを軸方向送り出すことを可能にする。実現される構成は、ローラ15が、図2に示される実線の位置と点線の位置の間でかなりの範囲の調節を介して移動され得るようなものである。)
(ウ)「
」(第1ページ左欄第54行~右欄第11行)
(ローラ15には、図2において16で示されるものなどスピンドル11上で自由に回転するブシュが備わっている。スピンドルの周りに係合しブシュ16に当接する17における割り座金が、ローラがスピンドル上をヘッド6に向かって移動し得る範囲を制限する。スピンドルの外側端部での18における小さい座金が、ブシュ16の端部内の凹部の中に配設され、圧縮ばね19のための隣接点を形成し、このばねがブシュに推力を及ぼし、ローラを通常は、ヘッド6に向かう移動のその末端の限界点に維持することになる。)
(エ)「
」(第1ページ右欄第12~22行)
(ヘッド6の鋳造において、ヘッドには、ハンドルソケット23上に形成されるつまみ22と相補的な凹部21を有する20における突起が備わっている。ねじ24は、ハンドルソケットの内部に着座したそのヘッドを有し、ヘッド6のつまみ22及び突起20を通過してソケットをヘッドに対して剛性にかつ非回転式に固定する。図3に示されるように木製又は任意の好適なハンドル25がソケット23内に係合され、下面からソケットを貫通してハンドルに進入する木製のねじ26によって保持される。)
(オ)「
」(第1ページ右欄第23~35行)
(ヘッド6とハンドル25の軸の間の角度によって、器具が身体に適切に当てるために正確な角度で保持されることを保証する。ヘッドにある孔7は、スピンドル11を互いを基準として適切な鋭角のところに保持する。この角度は、おおよそ50度である。部品がこのように角度をなすように関係付けられ支持される場合、ハンドル25に対する押す動作によってローラ15が身体の上を通過する際、ローラ15は、ローラの間に巻き込まれたまたは折り込まれた身体の皮膚を引っ張り上げ、このように噛み合っている皮膚に対して一定のマッサージ作用を行うことになる。)
(カ)「
」(第1ページ右欄第36~43行)
(皮膚がローラ15の間に引き込まれる際、ローラに対する反作用が起こり、それらをそれぞれのばね19の圧縮に対抗してそのそれぞれのスピンドル11上を外向きに移動させやすくなる。こういった動きは、スピンドルが角度をなすことによってローラを互いから引き離し、これによりマッサージ動作が激しくなり過ぎるのを阻止する。)
(キ)「
」(第1ページ右欄第44~53行)
(ローラ15は好ましくは、何らかの比較的弾性の材料、例えばゴムでできており、これは変形可能であるだけでなく、これによって噛み合った皮膚に対してかなりの摩擦によるねじりを及ぼすことも可能である。しかしながら、ここに開示される機械的な構成並びに手動及び自動で操作可能な調節を主に対象とする本発明の目的の範囲において、いずれの材料も使用されてよい。)
イ 甲2の1記載の発明
(ク)上記記載事項(イ)ないし(オ)の構成を備えた「ボディマッサージ器」は、図1ないし図3を参酌すれば、“ハンドル25の先端部に一対のローラ15を、相互間隔をおいてそれぞれスピンドル11の軸線を中心に回転可能に支持した”ものと認められる。
(ケ)上記記載事項(オ)の「ヘッド6とハンドル25の軸の間の角度によって、器具が身体に適切に当てるために正確な角度で保持される」及び図3の図示内容に照らせば、ローラ15のスピンドル11(の軸線)は、ハンドル25の軸に対して一定の角度をもって、ヘッド6に取り付けられているものと認められる。
(コ)上記認定事項(ケ)の「一定の角度」は“鋭角”であると認められる。その理由は、次のとおりである。
上記「ボディマッサージ器」の動作について、上記記載事項(オ)の「ハンドル25に対する押す動作によってローラ15が身体の上を通過する際、ローラ15は、ローラの間に巻き込まれたまたは折り込まれた身体の皮膚を引っ張り上げ」という記載がある。
ここで、一般的に、Y字状又はV字状に支持されている一対のローラを設けたマッサージ器にあっては、ハンドルの「押す動作」により、肌の揉み上げ(引っ張り上げ)作用を得るためには、ローラの支持軸と肌面の間の角度につき、側面視で鋭角にした状態において、ハンドル動作を行う必要があることは、技術常識である(下図参照)。
(無効2016-800086号で請求人が提出した口頭審理陳述要領書(平成29年2月6日付け)第27ページに掲載された図)
そうすると、側面視で図3の形態を有する甲2の1の「ボディマッサージ器」においては、かかる技術常識を踏まえると、ローラ15のスピンドル11の軸線のハンドル25の軸に対してなす角度は、“鋭角”であるとするのが合理的である。
(サ)図3(側部立面図)において、ローラ15が設けられている側をボディマッサージ器の「前」、ハンドル25を把持する側(把持部)をボディマッサージ器の「後」とすれば、上記認定事項(ケ)の「ローラ15のスピンドル11の軸線」は、「ハンドル25の軸」ないしは「ハンドル25の把持部」に対して「前」の方向へ傾いている、すなわち「前傾」していることになる。そうすると、側部立面図において、「ローラ15のスピンドル11の軸線」の「ハンドル25の軸」に対してなす角度は、「前傾角度」と言い換えることができる。
(シ)上記認定事項(サ)の「前傾角度」は、ハンドル25、ヘッド6、及びスピンドル11の構成等に照らせば、「不変」のものであると認められる。
上記記載事項ア(ア)ないし(キ)及び認定事項(ク)ないし(シ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件訂正発明に照らして整理すると、甲2の1には以下の発明が記載されていると認める(以下「甲2-1発明」という。)
「ハンドル25の先端部に一対のローラ15を、相互間隔をおいてそれぞれスピンドル11の軸線を中心に回転可能に支持したボディマッサージ器において、
前記ローラ15のスピンドル11の軸線をハンドル25の把持部に対して前傾させ、その前傾角度を鋭角にするとともに、
その前傾角度を不変にし、
一対のローラ15のスピンドル11の軸線の成す角度をおおよそ50度とした
ボディマッサージ器。」
(3)甲3
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「マッサージ装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
(ア)「【0005】本発明によれば前記したようなマッサージ装置は、各回転部材の軸線の方向間の斜角βを60°ないし170°とし、これ等の回転部材とたわみ性材料とくにエラストマー又は熱可塑性エラストマーで作り、前記各回転部材に、隆起した部分を設け、この隆起した部分に、皮膚に当てるのに適する接触端部を設け、これ等の接触端部を、前記回転部材の軸線方向に又その周辺方向に互いに間隔を置いて配置したことを特徴とする。
【0006】このような輪郭を持つ回転部材又はローラは、マッサージ作用中に横方向の揺動運動と、上下方向の揺動運動とを生ずる。本発明マッサージ装置は、非連続的で振動を伴うが皮膚の徐徐の排水を生ずる。」
(イ)「【0025】
【実施例】図1は本発明により皮膚にマッサージを施す、マッサージ装置の簡略化した線図的斜視図である。本発明マッサージ装置の支持体は、支持手段1を除いて図示してない。本発明マッサージ装置は、第1のローラ2及び第2のローラ3から成る2個の回転部材を備えている。各ローラ2,3は、互いに同じであり、それぞれ対応する軸線のまわりの回転により生成される直円筒の一般形状を持つ。ローラ2は軸線4を持つが、ローラ3は軸線5を持つ。各軸線4,5は本発明マッサージ装置の支持体(図示してない)に固定してある。支持体に支えたこれ等の軸線により、各ローラ2,3はその関連する軸線のまわりに自由に回転する。各軸線4,5は一般に同じ平面上にあり、これ等の軸線の仮想の延長は交差点10で交差する。各軸線4,5は、これ等が斜角βを挾む平面Sを形成する。角度βは60°ないし170°である。軸線4,5は、図19の場合(各回転部材が食い違い状の列に配置してある)のように同一平面上になくてもよい。図19の場合には、角度βは一方の平面内に位置し前記各軸線に平行な方向によりなす角度である。」
(ウ)「【0041】図3ないし図5は本発明マッサージ装置の第1の実施例を示す。図1の部品に類似の部品は図1の参照数字に200を加えて示してある。マッサージ装置200は、縦方向の対称面X-Xを備え、手でつかむことのできる取手220を備えている。取手220は、皮膚に当てるのに適する支持体面の突起により形成した止め手段201を備えている。このマッサージ装置には、各軸線204,205のまわりの回転により生成される円筒体202,203の形状を一般に持つローラの形の2個の回転部材を設けてある。各軸線204,205の仮想の延長は仮想の交差点210で交差する。これ等の軸線は120°に等しい角度β3を挾む。各ローラ202,203及び突起210はこのようにして、接触点又は支持点214,213,211を介してそれぞれ平面Pに接触するようになる。各軸線204,205は、平面Pに対し傾斜角αを挾む平面Sを定める。角度αはこの場合約15°である。
【0042】このマッサージ装置の作用は次の通りである。
【0043】このマッサージ装置は図4に示すようにして皮膚に押付ける。このようにして皮膚が基準面Pの代りになる。このマッサージ装置は、その取手220のより保持し皮膚上をこのマッサージ装置対称面X-Xに平行な方向に並進移動させる。このマッサージ装置を図4右方に向かい動かすときは、皮膚を押圧しわずかに皮膚内に入込む各ローラは、皮膚上をこすりながら転動し滑動する。こすりながらのこの滑動により、各ローラの大きい開口により定まる区域から各ローラの小さい開口により定まる出口区域に向かい付勢される皮膚のひだよせ作用が生ずる。さらに各ローラは皮膚上を転動してころがる。このマッサージ装置を他方向に動かすときは皮膚は同様なマッサージ作用を受けない。」
(エ)「【0048】図6は、ローラにより形成した2個の回転部材を持つ装置の第2の実施例を示す。図3と同様な部品は図3の参照数字に100を加えて示してある。このマッサージ装置300は、取手320と、皮膚に接触するようにした突起301を形成する止め手段とローラ302,303の形状の2個の回転部材とを備えている。
【0049】このマッサージ装置は縦方向対称面Y-Yを持つ。図3及び図6の2個の装置をそれぞれの各対称面X-X、Y-Yを互いに一致させることにより比較すると、図6の装置の各ローラ302,303は平面X-X又は平面Y-Yに直交する平面に対して図2のローラ202,203に対称である。
【0050】図6の装置の斜角β4は図3の装置の斜角β3に等しい。傾斜角αは示してないが、対称であるからこれ等の傾斜角は互いに等しい。このことは、図6の装置の各ローラが図3のローラの位置に対して対称である皮膚位置を占め、従って図6の装置の作用が図3の装置の作用に実質的に同じであることを示す。図6の装置の装置の転動/ひだよせの作用は左方に向かう移動により得られるが、図3の装置の場合には同じ転動/ひだよせの作用が右方に向かう移動により得られる。」
イ 甲3発明
上記記載事項(ア)ないし(エ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲3には、以下の発明が記載されていると認める(以下「甲3発明」という。)。
「縦方向対称面X-X又はY-Yと、取手220又は320とを備えており、各軸線のまわりを回転する一対のローラ202、203又は302、303を備えたマッサージ装置200又は300において、
前記各軸線の方向間の斜角βを60~170度にするとともに、
前記ローラ302、303を前記縦方向対称面X-X又はY-Yに直交する平面に対して、前記ローラ202、203に対称に配置し、該対称に配置された一対のローラについて実質的に同じマッサージ作用が得られる
マッサージ装置200又は300。」
(4)甲4
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「美肌ローラ」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
(ア)「【0010】
(第1の実施例)
図1は第1の実施形態の車両における美肌ローラを示す図である。また、図2は第1の実施形態の美肌ローラの側面図である。
【0011】
図1及び図2に示すように、本実施形態の美肌ローラは、柄10と、柄10の一端に一対のローラ20と、を備える。また、太陽電池30を備えていてもよい。
【0012】
図3は本実施形態の美肌ローラのローラ部分の拡大図である。図3に示すように、ローラ20の回転軸φ1、φ2が、柄10の長軸方向の中心線Xとそれぞれ鋭角θ1、θ2に設けられ、一対のローラ20の回転軸φ1、φ2のなす角が鈍角θ0に設けられる。」
(イ)「【0015】
次に、第1の実施例の作用を説明する。本実施形態の美肌ローラを肌に押し付け、図3に示す矢印Aの方向に押す。このとき肌は両脇に引っ張られ、毛穴が開く。これにより、毛穴の奥の汚れが毛穴の開口部に向けて移動する。
【0016】
さらに、本実施形態の美肌ローラを肌に押し付けたまま矢印Bの方向に引く。このとき、肌は一対のローラの間に挟み込まれ、毛穴は収縮する。これにより、毛穴の中の汚れが押し出される。
【0017】
この押し引きを繰り返すことにより、毛穴の奥の汚れまで効率的に除去することが可能となる。
・・・
【0020】
軽く押さえつけながらローラ20を回転させれば、適度な圧でリンパに働きかけ、顔および全身のリフトアップマッサージができる。引けばつまみ上げ、押せば押し広げるという2パターンの作用により、こり固まったセルライト、脂肪を柔らかくもみほぐす。これにより、セルライト、脂肪を低減させることが可能となる。
【0021】
以上述べたように、本実施形態の美肌ローラは一対のローラ20を角度をつけて柄10の一端に設けた。このため、ローラ20を肌に押し付けて押し引きすることにより、効率的に毛穴の汚れを除去することが可能となるという効果がある。」
イ 甲4発明
上記記載事項(ア)ないし(イ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲4には、以下の発明が記載されていると認める(以下「甲4発明」という。)。
「ハンドル10の先端部に一対のローラ20を、相互間隔をおいてそれぞれ回転軸φ1、φ2を中心に回転可能に支持した美肌ローラにおいて、
前記一対のローラ20の回転軸φ1、φ2のなす角度を鈍角とし、前記ローラ20を肌に押し付けて押し引きすることにより、肌をつまみ上げ押し広げるという作用により効率的に毛穴の汚れを除去する、美肌ローラ。」
(5)甲5
甲5には、「マグネット美容ローラ」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【0019】
以下、本考案の実施例について、具体的に説明する。本考案に係るマグネット美容ローラ1は、図1に示すように、柄本体部2と、ローラ部5とによって構成される。
【0020】
前記柄本体部2は、本実施例では亜鉛合金によって成形され、図2及び図3に示されるように、使用者によって保持される把持部3と、この把持部3から一方の側に角度αで、例えば手前側に傾斜すると共に、角度βで両側に広がるように延出するローラ保持部4とによって構成され、さらにローラ保持部4は、前記把持部3から分かれて延出する大径部4aと、その先端に一体に形成された小径部4bとによって構成される。この小径部4bには、下記するベアリング8が固着される。・・・」
(イ)図1ないし図4より、マグネット美容ローラ1の一対のローラ部5は、非貫通状態でローラ保持部4に支持されている点が看取できる。
(6)甲6
甲6には、「マッサージ具」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【0006】
【発明の実施の形態】図1のマッサージ具1は、回転軸体8と、その回転軸体8の両端に嵌着した弾性体であるマッサージ部2とその回転軸体8を支持する把持部4とから成る。上記の弾性体であるマッサージ部2は、左右2つの円柱体3、3から成るが、球体、或いは回転楕円体等を用いてもよい。2つの内側側面部3aが顎の輪郭を中心にして両側から顎の皮膚表面に当接するため、マッサージ効果のある部位、即ち顎の表情筋にマッサージを行える道具となる。」
(イ)図1及び2より、マッサージ具1の一対の円柱体3は、非貫通状態で回転軸体8の両端に支持されている点が看取できる。
(7)甲7
甲7は、「美容マッサージ器」に関する登録意匠公報であり、下に示す図面等を参酌すれば、非貫通状態で支持されている一対の回転可能な球が、本体の先端に取り付けられたマッサージ器が記載されているものと認められる。
(8)甲8
甲8は、株式会社マガジンハウスより発行された「クロワッサン」第35巻第17号の一部の写しであり、写真とともに以下の事項などが記載されている。
(ア)「プロのエステティシャンのハンド技術を取り入れたもので、先っぽの2つのボールが肌の上を転がり、ギュッとつまみながら引きあげる。」(第26ページ上から第3段の右から14~17行)
(イ)「頬やフェイスラインがギューンと上がるんですよ。友人にも勧めています」(第27ページ左上の写真の下)
(ウ)甲8の第26ページ右下の写真のように、非貫通状態で支持されている一対のボールが先端に取り付けられたマッサージ器が記載されている。
(9)甲9
甲9は、株式会社宝島社より発行された「Sweet」第9巻第11号通巻107号の一部の写しであり、第300ページ下には、「ルーヴルポーテ ソフィル・イー」という商品名の「美顔ローラー」の写真があり、該写真から、非貫通状態で支持されている一対のボールが先端に取り付けられたマッサージ器が看取できる。
(10)甲10
甲10は、株式会社セブン&アイ出版より発行された「Saita」第17巻第11号通巻278号の一部の写しであり、第57ページ右中央には、「ルーヴルポーテ ソフィール-e」という商品の写真があり、該写真から、非貫通状態で支持されている一対のボールが先端に取り付けられたマッサージ器が看取できる。
(11)甲11
甲11は、株式会社講談社より発行された「グラマラス」第7巻第9号の一部の写しであり、第108ページ左中央には、「ルーヴルポーテ ソフィル-e」という商品の写真があり、該写真から、非貫通状態で支持されている一対のボールが先端に取り付けられたマッサージ器が看取できる。
(12)甲12の1
ア 甲12の1に記載された事項
甲12の1には、「APPAREIL DE MASSAGE MANUEL」(手動マッサージ器具)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
なお、括弧書きで示した日本語訳は、請求人が甲12の2として提出した甲12の1の和訳に準じて作成したものである。また、日本語訳の下線は理解の便のため付した。
(ア)「
」
(【54】発明の名称:手動マッサージ器具
【57】要約
1回のパスだけで身体をマッサージし、ドレナージュ(老廃物の排出を促進)し、揉むための器具である。
本発明は、引張方向に対して偏心した2個、3個、または4個の球(2)(3)を受容する軸が周囲に固定された、ハンドル(1)に関する。
ユーザが2個の球を皮膚に当て、器具を傾けながら引っ張ると、球が筋肉に沿って動きながら筋肉を吸入し、これによりドレナージュ作用を伴いながら長手方向の転がりたたきが実施される。押圧すると反対作用が生じ、皮膚を外側に引き伸ばす。
この器具は、家庭でリラックスするために、あるいはプロの治療用に効果的である。)
(イ)「
」
(発明の詳細な説明
本発明は、揉み、長手方向のたたき、およびドレナージュ作用を同じ動作で一緒に結合したマッサージ器具に関する。マッサージ師は、片手だけではこれを実施することはできない。
このマッサージ器具は、回転自在な球を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、任意の形状の中央ハンドルを含むことを特徴とする。
この器具は、マッサージする面に適合させるために、より大きな直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能であることを特徴とする。
この器具は、小さい直径を持つ球の2つの軸が70~100°に及ぶ角度をなし、大きい球の場合は90~140°をなすことを特徴とする。
ユーザがハンドル(1)を握り、これを傾けて2個の球(2)を皮膚(4)に当て、引張り力を及ぼすと、球が、進行方向に対して非垂直な軸で回転する。
その結果、球の対称な滑りが生じ、これらの球は、球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動く。
引っ張る代わりに押圧すると、球の滑りと皮膚に沿った動きとによって、皮膚が引き伸ばされる。
限定的ではなく例として、球の直径は、直径2~8cmに変えることが可能である。
同様に、ハンドルは、球、あるいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。
添付図は、器具の正面図である。図1は、器具の基本図であり、図2は、大型直径の2個の追加球(3)と皮膚4でのその作用とを示す変形実施形態である。3個の球を有する別の変形実施形態も同じ原理で動作可能である。)
(ウ)「
」
(【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在な球(2)を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、任意の形状の中央ハンドル(1)を含むことを特徴とするマッサージ用の器具。
【請求項2】
前記ハンドル(1)が、マッサージする面に適合させるために、より大きな直径を持つ1つまたは2つの追加球(3)を受容可能であることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項3】
小さい直径を持つ球の2つの軸が、70~100°に及ぶ角度をなし、大きい球の場合は90~140°をなすことを特徴とする請求項2に記載の器具。)
イ 甲12の1記載の発明
(エ)上記記載事項(ア)ないし(ウ)の「ハンドル(1)」は、「回転自在な球を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、任意の形状」のものである。そして、該「ハンドル(1)」のうち、球を受容する軸たる「支持軸」が固定されている部分は、ユーザが握る部分を除いた部分たる「先端部」に位置することは、技術常識に照らせば明らかである。
なお、甲12の1には、該「ハンドル(1)」の側面図が含まれておらず、その側面視の形状は不明であるため、「支持軸」が「ハンドル(1)」に対して前傾しているのか否かは不明である。
上記記載事項(ア)ないし(ウ)及び認定事項(エ)を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて、本件訂正発明に照らして整理すると、甲12の1には、以下の発明が記載されていると認める(以下「甲12-1発明」という。)。
「ハンドル1の先端部に一対の球2を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
一対の球2の支持軸の軸線の開き角度を70~100°とする、マッサージ器。」
2 無効理由3について
(1)甲1-1発明を主引用発明とする場合
ア 甲1-1発明
甲1-1発明は、上記1(1)イにて認定したとおりである。
イ 対比
本件訂正発明と甲1-1発明とを対比すると以下のとおりである。
甲1-1発明の「球形ローラ」が本件訂正発明の「回転体」に相当することは、その機能に照らして明らかであり、以下同様に「心棒」は「支持軸」に相当することも明らかである。
また、甲1-1発明の「マッサージ器」は、本件訂正発明の「美容器」と、少なくとも「器具」である点において共通する。
また、甲1-1発明の「前傾角度」は、上記1(1)イの認定事項(ク)のとおり、側部立面図にマッサージ器を投影したときの角度である。そして、本件訂正発明の「前傾角度」も正面図(本件図面の図3)に美容器を投影したときの角度であるから、両者は一致する。そうすると、甲1-1発明の「前傾角度をほぼ90度にする」は、「前傾角度を特定の値とする」限りにおいて、本件訂正発明の「前傾角度を90~110度の範囲内とする」と共通する。
さらに、甲1-1発明の「一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して」なす角度は、「前傾角度をほぼ90度にする」点を参酌すれば、実質的には、両心棒の軸線を含む面において該両心棒の軸線がなす角度に一致すると認められるから、本件訂正発明の「開き角度」に相当する。
そうすると、甲1-1発明の「一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角とした」は、「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を特定の数値とした」限りにおいて、本件訂正発明の「前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」と共通する。
したがって、本件訂正発明と甲1-1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した器具において、
前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を特定の数値とするとともに、その前傾角度を不変にし、前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を特定の数値とした、器具。」
そして、本件訂正発明と甲1-1発明とは、少なくとも形式的には、以下の4点で相違する。
<相違点1-1>
本件訂正発明は、「前傾角度を90~110度の範囲内とする」のに対し、甲1-1発明は、「前傾角度をほぼ90度にする」点。
<相違点1-2>
本件訂正発明は、「回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている」のに対し、甲1-1発明は、球形ローラを心棒に回転可能に支持したものであるが、「非貫通状態で」支持するものか明らかではない点。
<相違点1-3>
本件訂正発明は、「美容器」であるのに対し、甲1-1発明は、「マッサージ器」である点。
<相違点1-4>
本件訂正発明は、「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」ているのに対し、甲1-1発明は、「一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角とした」点。
ウ 相違点についての判断
(ア)本件訂正発明の技術的意義
上記相違点1-1ないし1-4の検討に先立って、当該各相違点に係る本件訂正発明の構成ないし発明特定事項の技術的意義について検討する。
(ア-1)本件訂正明細書の記載
まず、上記相違点1-1ないし1-4に係る本件訂正発明の構成ないし発明特定事項の技術的意義に関連する、本件訂正明細書の記載として、以下の記載がある。なお、下線部は、当審が付したものである。
「【背景技術】
【0002】
従来、この種の美容器が種々提案されており、例えば特許文献1には美肌ローラが開示されている。すなわち、この美肌ローラは、柄と、該柄の一端に設けられた一対のローラとを備え、ローラの回転軸が柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角をなすように設定されている。さらに、一対のローラの回転軸のなす角度が鈍角をなすように設定されている。そして、この美肌ローラの柄を手で把持してローラを肌に対して一方向に押し付けると肌は引っ張られて毛穴が開き、押し付けたまま逆方向に引っ張ると肌はローラ間に挟み込まれて毛穴が収縮する。従って、この美肌ローラによれば、効率よく毛穴の汚れを除去することができるとしている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来構成の美肌ローラでは、柄の中心線と両ローラの回転軸が一平面上にあることから(特許文献1の図2参照)、美肌ローラの柄を手で把持して両ローラを肌に押し当てたとき、肘を上げ、手先が肌側に向くように手首を曲げて柄を肌に対して直立させなければならない。このため、美肌ローラの操作性が悪い上に、手首角度により肌へのローラの作用状態が大きく変化するという問題があった。
【0005】
また、この美肌ローラの各ローラは楕円筒状に形成されていることから、ローラを一方向に押したとき、肌の広い部分が一様に押圧されることから、毛穴の開きが十分に得られない。さらに、ローラを逆方向に引いたときには、両ローラ間に位置する肌がローラの長さに相当する領域で引っ張られることから、両ローラによって強く挟み込まれ難い。その結果、毛穴の開きや収縮が十分に行われず、毛穴の汚れを綺麗に除去することができないという問題があった。加えて、ローラが楕円筒状に形成されているため、肌に線接触して肌に対する抵抗が大きく、動きがスムーズではなく、しかも移動方向が制限されやすい。従って、美肌ローラの操作性が悪いという問題があった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好な美容器を提供することにある。」
「【発明の効果】
【0008】
本発明の美容器によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の美容器においては、ハンドルの先端部に一対のボールが相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持され、ボールの軸線がハンドルの中心線に対して前傾して構成されている。すなわち、美容器の往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるようになっている。このため、ハンドルを把持して一対のボールを肌に当てるときに手首を曲げる必要がなく、手首を真直ぐにした状態で、美容器を往動させたときには肌を押圧することができるとともに、美容器を復動させたときには肌を摘み上げることができる。
【0009】
また、肌に接触する部分が筒状のローラではなく、真円状のボールで構成されていることから、ボールが肌に対して局部接触する。従って、ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに、肌に対するボールの動きをスムーズにでき、移動方向の自由度も高い。」
「【0018】
本実施形態の美容器10は、前述のように顔に適用できるほか、それ以外の首、腕、脚等の体(ボディ)にも適用することができる。
図3に示すように、美容器10の往復動作中にボール支持軸15の軸線が肌20面に対して一定角度を維持できるように、ボール支持軸15の軸線がハンドル11の中心線xに対して前傾するように構成されている。具体的には、前記ハンドル11の中心線(ハンドル11の最も厚い部分の外周接線zの間の角度を二分する線と平行な線)xに対するボール17の軸線yすなわちボール支持軸15の軸線yの側方投影角度αは、ボール17がハンドル11の中心線xに対し前傾して操作性を良好にするために、90~110度であることが好ましい。この側方投影角度αは93~100度であることがさらに好ましく、95~99度であることが最も好ましい。この側方投影角度αが90度より小さい場合及び110度より大きい場合には、ボール支持軸15の前傾角度が過小又は過大になり、ボール17を肌20に当てる際に肘を立てたり、下げたり、或いは手首を大きく曲げたりする必要があって、美容器10の操作性が悪くなるとともに、肌20面に対するボール支持軸15の角度の調節が難しくなる。」
「【0019】
図5に示すように、一対のボール17の開き角度すなわち一対のボール支持軸15の開き角度βは、ボール17の往復動作により肌20に対する押圧効果と摘み上げ効果を良好に発現させるために、好ましくは50~110度、さらに好ましくは50~90度、特に好ましくは65~80度に設定される。この開き角度βが50度を下回る場合には、肌20に対する摘み上げ効果が強く作用し過ぎる傾向があって好ましくない。その一方、開き角度βが110度を上回る場合には、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。」
「【0022】
次に、前記のように構成された実施形態の美容器10について作用を説明する。
さて、この美容器10の使用時には、図3に示すように、使用者がハンドル11を把持した状態で、ボール17の外周面を図3の二点鎖線に示す顔、腕等の肌20に押し当てて接触させながらハンドル11の基端から先端方向へ往動(図3の左方向)させると、ボール17がボール支持軸15を中心にして回転される。このとき、図3の二点鎖線に示すように、肌20にはボール17から押圧力が加えられる。ボール17を往動させた後、ボール17を元に戻すように復動させると、図4の二点鎖線に示すようにボール17間に位置する肌20がボール17の回転に伴って摘み上げられる。
【0023】
すなわち、図5に示すように、両ボール17が矢印P1方向に往動される場合、各ボール17は矢印P2方向に回転される。このため、肌20が押し広げられるようにして押圧される。一方、両ボール17が矢印Q1方向に復動される場合、各ボール17は矢印Q2方向に回転される。このため、両ボール17間に位置する肌20が巻き上げられるようにして摘み上げられる。なお、往動時において両ボール17が肌20を押圧することにより、その押圧力の反作用として両ボール17間の肌20が摘み上げられる。」
「【0024】
この場合、ボール支持軸15がハンドル11の中心線xに対して前傾しており、具体的にはハンドル11の中心線xに対するボール支持軸15の側方投影角度αが90~110度に設定されていることから、肘を上げたり、手首をあまり曲げたりすることなく美容器10の往復動作を行うことができる。しかも、ボール支持軸15の軸線yを肌20面に対して直角に近くなるように維持しながら操作を継続することができる。そのため、肌20に対してボール17を有効に押圧してマッサージ作用を効率良く発現することができる。
【0025】
また、肌20に接触する部分が従来の筒状のローラではなく、真円状のボール17で構成されていることから、ボール17が肌20に対してローラより狭い面積で接触する。そのため、ボール17は肌20の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用させることができると同時に、肌20に対してボール17の動きがスムーズで、移動方向も簡単に変えることができる。」
「【0029】
また、肌20に接触する部分が真円状のボール17で構成されていることから、肌20の所望箇所に押圧力や摘み上げ力を集中的に働かせることができるとともに、肌20に対するボール17の動きをスムーズにでき、かつ移動方向の自由度も高い。」
(ア-2)検討
a 発明の課題について
本件訂正明細書によれば、発明の課題として、以下の事項を看取することができる。
すなわち、従来構成の美肌ローラは、柄と、該柄の一端に設けられた一対のローラとを備え、一対のローラの回転軸のなす角度が鈍角をなすように設定されているものであるところ(段落【0002】)、従来構成の美肌ローラには、マッサージ効果が十分ではなく、美肌ローラの操作性が悪いという、2つの問題点があった。
前者の問題点とは、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果に関して、ローラを一方向に押したときには、肌の広い部分が一様に押圧され、毛穴の開きが十分に得られず、ローラを逆方向に引いたときには、両ローラによって強く挟み込まれ難く、その結果、毛穴の収縮が十分に行われない、というものである(段落【0005】)。
後者の問題点とは、柄を手で把持してローラを肌に押し当てたときに、肘を上げたり、手首を曲げたりする動作が必要であることに加えて、ローラの肌に対する抵抗が大きく、ローラの動きがスムーズではなく、移動方向が制限される、というものである(段落【0004】【0005】)。
そして、上記2つの問題点に着目して、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する美容器を提供することが、本件訂正発明が解決しようとする課題である(段落【0006】)。
b マッサージ効果について
本件訂正明細書によれば、マッサージ効果に関する課題解決手段として、次の2点を看取することができる。
(a)肌に接触するローラを(真円状の)ボールで構成すること、特に、肌に接触する部分をボールで構成すること。これにより、ボールは肌に局部接触して、押圧力や摘み上げ力を集中的に作用することができる(段落【0009】【0025】【0029】)。
(b)一対のボール支持軸の開き角度につき、ボールの往復動作により肌に対する押圧効果と摘み上げ効果を特に良好に発現させる、65~80度に設定すること(段落【0019】)。
ここで、上記(a)については、本件訂正明細書を踏まえると、次の点が認められる。
すなわち、肌の摘み上げ効果は、美容器の復動時におけるボールの回転作用に加えて、美容器の往動時における、肌に対するボールの押圧力の反作用により得られるものである(段落【0023】)。また、美容器の往動時には、ボール支持軸の軸線を肌面に対して直角に近くなるように維持しながら操作する(段落【0024】、図3)。
そうすると、肌の摘み上げ効果を十分に得るために、美容器の往動時に、肌に対してボールを強く押圧する、すなわち、ボールを肌に深く沈み込ませる使用態様が予定されているといえる。
そして、かかる使用態様において、ボール支持軸の軸線yを肌面に対して直角に近くなるように維持しながら操作すること、及び、上記(b)により、被請求人も同様に主張するように、一対のボール支持軸は鋭角の範囲で位置することとなり、ボールの先端部分が肌に接する可能性が高まること(上記第5の2(1)参照)を踏まえると、ボールの「肌に接触する部分」には、「ボール支持軸の軸線yが通過する部分」が含まれるものと認められる。
そうすると、上記(a)の「肌に接触するローラをボールで構成すること」には、ボールの外周面のうち「ボール支持軸の軸線yが通過する部分」をボールで構成することが含まれることとなり、当該構成は、ボールの外周面からボール支持軸を露出させない構成、すなわち、「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成と同義である。
c 操作性について
本件訂正明細書によれば、操作性に関する課題解決手段として、次の点を看取することができる。
(a)ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾して構成すること、特に、その前傾角度を90~110度の範囲内とすること(段落【0008】【0018】【0024】)。
(b)肌に接触するローラを(真円状の)ボールで構成すること、特に、肌に接触する部分をボールで構成すること。これにより、ボールは肌に局部接触して、肌に対するボールの動きをスムーズにでき、移動方向の自由度を高めることができる(段落【0009】【0025】【0029】)。
ここで、上記(b)の「肌に接触するローラをボールで構成すること」については、上記bで示した理由と同様の理由により、「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成が含まれるものと認められる。
また、かかる「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成については、技術常識を踏まえると、下記の理由により、操作性に関する課題を解決することができると考えることもできる。
すなわち、柄と該柄の一端に設けられた一対のローラとを備えた美肌ローラたる美容器において、ボール支持軸に対するボールの動きが回転方向のみであることを前提として、上記b(b)のとおり、一対のボール支持軸の開き角度を鋭角に設定すると、従来構成の美肌ローラのように、鈍角に設定した場合と比較して、美容器の往復動時にボール支持軸(ハンドル)からボールに作用する力のうち、ボールの回転方向(ボール支持軸と直交する方向)に作用する力の割合が減少し、逆に、ボール支持軸の軸線方向に作用する力の割合が増加する。後者の力は、ボールの回転抵抗の要因にもなり得る。
結果として、開き角度を鋭角に設定した場合には、鈍角に設定した場合と比較して、ボールの動きをスムーズにできず、上記(a)及び(b)による操作性の効果が減殺される可能性がある。
これに対して、一般的に、「支持軸が貫通状態のローラは、非貫通状態のローラと比べて、支持軸と交差する方向への指向性を有するものと解される」(無効2016-800094号確定審決「第6 無効理由についての当審の判断」「2 無効理由1について」「(3)相違点についての判断」「イ 相違点2についての検討」参照)ことを踏まえ、非貫通状態のボールを選択した場合には、貫通状態のボールと比べて、ボールの動きの自由度(特に、ボール支持軸と直交する方向以外の方向への動き)が相対的に高まることから、上記b(b)のとおり開き角度を鋭角に設定した場合においても、優れたマッサージ効果と良好な操作性を両立することができるものと認められる。
また、被請求人の主張(上記第5の2(1))のとおり、ボールが貫通状態の構成では、境界部分を肌に当てた際の違和感や皮膚や毛等の噛込みのおそれがあるため、境界部分を避けてマッサージを行わなければならず、操作性が低下する問題点が存在するが、「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成では、かかる操作性の問題は生じないものと認められる。
以上のとおり、「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成も、操作性に関する課題解決手段である。
d 本件訂正発明の技術的意義について
上記a~cの記載を踏まえると、本件訂正発明の技術的意義とは、(i)回転体(ボール)の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに、その前傾角度を不変にし、(ii)一対の回転体(ボール)の支持軸の軸線の開き角度を65~80度としした美容器において、(iii)マッサージ効果及び操作性の観点から、回転体(ボール)の先端部分を肌に局部接触させるとともに、貫通状態の回転体(ボール)に伴う操作性低下の問題を回避するために、「回転体は、非貫通状態で前記支持軸に支持され」た構成を採用することによって、肌に対する優れたマッサージ効果と良好な操作性を共に実現することにあると認められる。
(イ)相違点1-1ないし1-4の容易想到性の総合的検討
上記(ア-2)の検討を踏まえ、相違点1-1ないし1-4の容易想到性を総合的に検討する。
請求人が無効理由3について提出した証拠方法は、甲1の1、甲12の1、甲4、及び甲5ないし11である。
このうち、甲12の1には、相違点1-4に関連する事項(甲12-1発明)が、甲4には、相違点1-3に関連する事項(甲4発明)が、甲5ないし11には、相違点1-2に関連する事項が、それぞれ記載されている。
しかしながら、上記甲号証のいずれかに、相違点1-1ないし1-4に関連する事項が断片的に記載されているとしても、いずれの証拠にも、相違点1-1ないし1-4に係る本件訂正発明の構成ないし発明特定事項を総合的に示すものはない。
そして、相違点1-1、1-3及び1-4の構成ないし発明特定事項を含む本件訂正発明は、さらに、相違点1-2に係る「回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持され」た構成を備えることによって、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する、という格別の効果を奏するものである。
(ウ)請求人の主張について
請求人の主張(上記第4の4(2)ア)は、相違点1-1ないし1-4の各相違点について、個別に、容易想到である、又は、実質的な相違点ではない、とするものであって、相違点1-1ないし1-4の容易想到性を総合的な観点から主張するものではない。よって、請求人の主張は、採用することができない。
(エ)小括
よって、本件訂正発明は、甲1-1発明(主引用発明)、甲12-1発明、甲4発明、及び、甲5ないし11に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)甲12-1発明を主引用発明とする場合
ア 甲12-1発明
甲12-1発明は、上記1(12)イにて認定したとおりである。
イ 対比
本件訂正発明と甲12-1発明とを対比すると以下のとおりである。
甲12-1発明の「ハンドル1」が本件訂正発明の「ハンドル」に相当することは、その機能に照らして明らかであり、以下同様に「球2」は「回転体」に相当することも明らかである。
また、甲12-1発明の「マッサージ器」は、本件訂正発明の「美容器」と、少なくとも「器具」である点において共通する。
また、甲12-1発明の「一対の球2の支持軸の軸線の開き角度を70~100°とする」は、「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を特定の数値とした」限りにおいて、本件訂正発明の「前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」と共通する。
したがって、本件訂正発明と甲12-1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「ハンドルの先端部に一対の回転体を、相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した器具において、
前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を特定の数値とした、器具。」
そして、本件訂正発明と甲12-1発明とは、少なくとも形式的には、以下の4点で相違する。
<相違点2-1>
本件訂正発明は、「前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ、その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに、その前傾角度を不変に」するのに対し、甲12-1発明は、ハンドル1と支持軸との関係において、支持軸が前傾しているものか明らかでない点。
<相違点2-2>
本件訂正発明は、「回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている」のに対し、甲12-1発明は、球2を支持軸に回転可能に支持したものであるが、「非貫通状態で」支持するものか明らかではない点。
<相違点2-3>
本件訂正発明は、「美容器」であるのに対し、甲12-1発明は、「マッサージ器」である点。
<相違点2-4>
本件訂正発明は、「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」ているのに対し、甲12-1発明は、「一対の球2の支持軸の軸線の開き角度を70~100°とした」点。
ウ 相違点についての判断
(ア)本件訂正発明の技術的意義について
本件訂正発明の技術的意義については、上記(1)ウ(ア)に記載したとおりである。
(イ)相違点2-1ないし2-4の容易想到性の総合的検討
上記(ア)を踏まえ、相違点2-1ないし2-4の容易想到性を総合的に検討する。
上記(1)ウ(イ)の総合的検討から明らかなとおり、請求人が証拠方法として挙げる各甲号証のいずれにも、相違点2-1ないし2-4に係る本件訂正発明の構成ないし発明特定事項を総合的に示すものはない。
そして、相違点2-1、2-3及び2-4の構成ないし発明特定事項を含む本件訂正発明は、さらに、相違点2-2に係る「回転体は、非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持され」た構成を備えることによって、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する、という格別の効果を奏するものである。
(ウ)請求人の主張について
請求人の主張(上記第4の4(2)イ)は、相違点2-1ないし2-4の各相違点について、個別に、容易想到である、又は実質的な相違点ではない、とするものであって、相違点2-1ないし2-4の容易想到性を総合的な観点から主張するものではない。よって、請求人の主張は、採用することができない。
(エ)小括
よって、本件訂正発明は、甲12-1発明(主引用発明)、甲1-1発明、甲4発明、及び、甲5ないし11に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)無効理由3のまとめ
以上によれば、甲1-1発明及び甲12-1発明のいずれが主引用発明であっても、結論に変わりはなく、本件訂正発明は、甲1-1発明、甲12-1発明、甲4発明、及び、甲5ないし11に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、請求人の主張する無効理由3には理由がない。
3 無効理由4について
(1)甲1-1発明を主引用発明とする場合
ア 対比
本件訂正発明と甲1-1発明との対比については、上記2(1)イに記載したとおりである。
イ 相違点についての判断
(ア)本件訂正発明の技術的意義
本件訂正発明の技術的意義については、上記2(1)ウ(ア)に記載したとおりである。
(イ)相違点1-1ないし1-4の容易想到性の総合的検討
無効理由3と同様に、相違点1-1ないし1-4の容易想到性を総合的に検討する。
無効理由3と無効理由4とは、甲5ないし11に記載された周知の技術事項に基づき容易とするのか、甲7ないし11のいずれかに記載された発明に基づき容易とするのかの違いはあるものの、無効理由4の証拠方法において、無効理由3の証拠方法のほかに新たに追加されたものはない。
そして、無効理由3の証拠方法に、相違点1-1ないし1-4に係る本件訂正発明の構成を総合的に示すものはないことは、上記2(1)ウ(イ)に記載したとおりである。
そして、相違点1-1、1-3及び1-4の構成ないし発明特定事項を含む本件訂正発明は、さらに、相違点1-2に係る「回転体は、非貫通状態で回転体の支持軸に支持され」た構成を備えることによって、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する、という格別の効果を奏するものである。
(ウ)請求人の主張について
請求人の主張(上記第4の4(3)ア)は、特に、相違点1-2について、容易想到であるとするものであって、相違点1-1ないし1-4の容易想到性を総合的な観点から主張するものではない。よって、請求人の主張は、採用することができない。
(エ)まとめ
よって、本件訂正発明は、甲1-1発明(主引用発明)、甲12-1発明、甲4発明、及び、甲7ないし11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)甲12-1発明を主引用発明とする場合
ア 対比
本件訂正発明と甲12-1発明との対比については、上記2(2)イに記載したとおりである。
イ 相違点についての判断
(ア)本件訂正発明の技術的意義
本件訂正発明の技術的意義については、上記2(1)ウ(ア)に記載したとおりである。
(イ)相違点2-1ないし2-4の容易想到性の総合的検討
無効理由3と同様に、相違点2-1ないし2-4の容易想到性を総合的に検討する。
無効理由4の証拠方法において、無効理由3の証拠方法のほかに新たに追加されたものはない。
そして、無効理由3の証拠方法に、相違点2-1ないし2-4に係る本件訂正発明の構成ないし発明特定事項を総合的に示すものはないことは、上記2(2)ウ(イ)に記載したとおりである。
そして、相違点2-1、2-3及び2-4の構成ないし発明特定事項を含む本件訂正発明は、さらに、相違点2-2に係る「回転体は、非貫通状態で回転体の支持軸に支持され」た構成を備えることによって、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する、という格別の効果を奏するものである。
(ウ)小括
よって、本件訂正発明は、甲12-1発明(主引用発明)、甲1-1発明、甲4発明、及び、甲7ないし11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)無効理由4のまとめ
以上によれば、甲1-1発明、及び甲12-1発明のいずれが主引用発明であっても、結論に変わりはなく、本件訂正発明は、甲1-1発明、甲12-1発明、甲4発明、及び、甲7ないし11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、請求人の主張する無効理由4には理由がない。
4 まとめ
したがって、請求人の主張する無効理由3及び4並びに提出した証拠方法によって、本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-800099